説明

無線通信システム、無線通信装置、IPルータ装置、及び交通信号制御機

【課題】装置間が無線通信で結ばれている場合に、当該無線通信区間が妨害波によって通信障害を引き起こすリスクを小さくする無線通信システムを提供することを目的とする。
【解決手段】交通管制システムでは、路上に設置された交通信号制御機3や光ビーコン4等と交通管制センターに設置された中央装置8との間で機器状態や制御に関する通信データをやりとりしている。前記通信データを第一無線通信装置1が第二無線通信装置2に対して送信する場合、第一無線通信装置1は、無線通信経路A〜Cのノイズ特性等を監視して、通信可能な通信速度の平均値や最小値等を取得する。また、前記通信データの属性を取得し、前記属性に応じた優先度を優先度テーブル142から取得する。そして、前記取得した通信速度の平均値等及び優先度に基づいて適切な無線通信経路を選択して送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路上に設置された複数の装置間において通信を行うための無線通信システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
交通管制システムでは、設置工事の低価格化やメンテナンスの容易化を目的として、無線通信によってネットワークを構築することが検討されており、交通管制システム用端末装置間の通信に無線通信装置を適用する例が増えている。
【0003】
無線通信の技術として、例えば、特許文献1には、マルチリンク方法により、複数の無線回線(無線通信経路)を使って無線通信を行う技術が紹介されている。
マルチリンク方法とは、2つの装置間で無線による通信を行う場合に、同じ通信方式を採用する複数の無線回線を使用し、通信データを各無線回線に分割して同時に送信することで、通信を高速化する方法である。
【0004】
また、近年の交通管制システムでは、いわゆるOSI参照モデルのネットワーク層(第3層)にインターネットプロトコル(以下、IPという。)を用いたネットワークシステムが普及してきており、第3層にIP、第5〜7層にDatex−ASNを採用したUD伝送方式が規格化されている。
なお、UD形伝送方式の通信フォーマットや手順の詳細等は、社団法人新交通管理システム協会(以下、UTMS協会)から発行されている規格書に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−174770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記マルチリンク方法では、使用する複数の無線回線は同一の周波数帯を使用し、同じ通信方式を採用している。このため、妨害波による干渉を受けた場合、全ての無線回線が同時に使用できなくなる可能性が高い。
また、仮に、前記複数の無線回線がそれぞれ異なる通信方式(通信手順)を採用している場合であっても、周波数帯が同一であれば、同じように妨害波によって全ての無線回線が同時に使用できなくなる。
【0007】
そこで、本発明は、妨害波による通信障害のリスクを小さくする無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無線通信システムは、道路上に設置された第一無線通信装置及び第二無線通信装置を含み、前記第一無線通信装置及び第二無線通信装置の間には、第一無線通信経路及び第二無線通信経路を含む少なくとも2つの無線通信経路が存在し、前記第一無線通信経路及び第二無線通信経路に採用される通信方式は、互いに異なる周波数帯を用いる(請求項1)。
【0009】
この発明によれば、妨害波等の干渉によって、1つの無線通信経路が通信不可能な状態に陥った場合であっても、周波数帯の異なる他の無線通信経路を利用して通信を継続することができる。
なお、2つの装置間で無線通信をする場合に、前記2つの装置のそれぞれが対応する無線通信用のメディアを有しており、当該メディア1対の間に形成される無線による通信を無線通信経路とする。すなわち、前記2つの装置間に3つの無線通信経路がある場合、前記2つの装置は、それぞれ3つの対応する無線通信用のメディアを有する。
この場合、前記各メディアがアンテナ部分を共用するように構成されていても良い。すなわち異なる無線通信経路の電波を同一のアンテナで受け、当該アンテナから各メディアが各無線通信経路用の電波をそれぞれ取り出すようにしても良い。
【0010】
また、ここにいう「互いに異なる周波数帯」とは、無線による通信状態が異なる程度に周波数帯が離隔していることを意味し、原則として、無線信号の波長を基準にして周波数帯を区別する。すなわち、超長波帯(周波数3〜30kHz、波長10〜100km)、長波帯(周波数30〜300kHz、波長1〜10km)、中波帯(周波数300kHz〜3MHz、波長100m〜1km)、短波帯(周波数3〜30MHz、波長10〜100m)、超短波帯(周波数30〜300MHz、波長1〜10m)、極超短波帯(周波数3000MHz〜3GHz、波長10cm〜1m)、マイクロ波帯(周波数3〜30GHz、波長1〜10cm)、ミリ波帯(周波数30〜300GHz、波長1mm〜1cm)、サブミリ波帯(周波数300GHz〜3THz、波長0.1〜1mm)などというように分類することができる。なお、無線装置間の距離が長い場合には、無線信号の減衰が大きいため波長の違いが小さくても無線による通信状態が大きく異なる場合がある。無線信号の最も基本的な自由空間における伝搬損失は、波長の2乗に比例して増えるためである。よって、適用されるシステムの構成やアプリケーションに応じて、上記分類をさらに細かく規定することもできる。例えば、上記極超短波帯のうち周波数の高い領域を準マイクロ波帯(周波数1〜3GHz)と分類することやマイクロ波帯うち周波数の高い領域を準ミリ波帯(周波数10〜30GHz)と分類することもできる。
なお、前記分類の細かさや程度は、通信方式の占有帯域幅の広さや空中線電力の大きさによって変更することができる。
【0011】
また、本発明の前記第一無線通信装置は、前記第二無線通信装置との間に形成された複数の無線通信経路の無線環境状態を取得する無線環境状態取得手段を備え、前記第一無線通信装置が前記第二無線通信装置宛に通信データを送信する場合に、取得した前記無線環境状態に基づいて、前記複数の無線通信経路のうち少なくとも1つを選択して送信することが好ましい(請求項2)。
【0012】
また、前記無線環境状態は、希望波受信レベル、妨害波受信レベル、ノイズレベル、直達波レベル、及びマルチパス波レベルのうち少なくとも1つであり、前記第一無線通信装置は、前記無線環境状態に基づいて、前記複数の無線通信経路の通信速度を取得する通信速度取得手段を有し、取得した前記複数の無線通信経路の通信速度の所定時間内における平均値、最大値、最小値及び標準偏差のうち少なくとも1つに基づいて、前記複数の無線通信経路のうち少なくとも1つを選択して送信すると良い(請求項3)。
【0013】
これらの発明によれば、複数存在する無線通信経路の無線環境状態を取得して、前記無線環境状態に基づいて、適切な無線通信経路を選択できるようになる。また、前記無線環境状態から得られる通信速度の平均値等に基づいて経路を選択することで、通信ネットワークを管理する者の意図に従ってきめ細かく経路選択をさせることが可能となる。
【0014】
また、前記各無線通信経路の通信方式のうち少なくとも1つを直交周波数多重方式にすると良い(請求項4)。
【0015】
直交周波数多重方式では、ある周波数帯を複数のサブキャリアに分割してデータの送受信を行うことができるため、例えば、ある周波数帯の無線環境状態が悪化した場合でも、その周波数帯の中でも無線環境状態が比較的良好な領域のサブキャリアを活用して通信を継続することが可能となる。
【0016】
また、例えば、2つある無線通信経路のいずれにおいても直交周波数多重方式を採用し、双方の無線通信経路を同時に使用しており、そのうちの一方の無線通信経路において例えば3本のサブキャリアを使ってデータを送信していた場合、無線環境状態の悪化に応じて当該データ送信を他方の無線通信経路に振り替える際、当該他方の無線通信経路のサブキャリアのうち未使用の3本を割り当てるようにすることができる。
このようにすることで、他方の無線通信経路で行われていた既存のデータ送受信処理に一切影響を与えることなく、無線通信経路を振り替えることが可能となり大変有用である。
【0017】
また、前記第一無線通信装置は、前記通信データの属性を取得する属性取得手段を有し、前記第一無線通信装置が前記第二無線通信装置宛に通信データを送信する場合に、取得した前記属性に基づいて、前記複数の無線通信経路のうち少なくとも1つを選択することも可能である(請求項5)。
【0018】
この場合、前記第一無線通信装置は、属性毎に優先度を設定した優先度テーブルを有し、前記第一無線通信装置が前記第二無線通信装置宛に通信データを送信する場合に、取得した前記属性の優先度に応じて、前記複数の無線通信経路のうち少なくとも1つを選択して送信することが好ましい(請求項6)。
【0019】
また、前記属性は、通信データの通信プロトコルの種類を示すプロトコル種別、通信データの種類を示すデータ種別、通信データの送信元装置の種類を示す送信元装置種別、通信データの送信先装置の種類を示す送信先装置種別、通信データが応答を要求するものであるか否かを示す応答要求有無、通信データを受信した受信手段を示す受信手段識別番号、通信データを送信する送信手段を示す送信手段識別番号、通信データの送信元IPアドレス、通信データの送信元ポート番号、通信データの送信先IPアドレス、及び通信データの送信先ポート番号のうち少なくとも1つとすることができる(請求項7)。
【0020】
これらの発明によれば、データ種別や送信元装置種別といった通信データの属性に応じて複数存在する無線通信経路を使い分けることができる。この場合、属性に優先度を付与して、当該優先度に応じて経路を選択することもできる。また、前記無線通信状態等と優先度の双方に基づいて、各通信データの送信経路を選択することもでき、この場合、さらに適切な経路選択が可能となる。
【0021】
また、本発明の無線通信装置は、前記無線通信システムに用いられる第一無線通信装置である(請求項8)。
【0022】
また、本発明の路上IPルータ装置は、前記第一無線通信装置を内蔵している(請求項9)。
【0023】
また、本発明の交通信号制御機は、前記第一無線通信装置を内蔵している(請求項10)。
【0024】
また、本発明の車両感知器は、前記第一無線通信装置を内蔵している(請求項11)。
【0025】
これらの発明によれば、通信ネットワークの無線通信区間に前記第一無線通信装置を適用し、無線環境状態の良好な無線通信経路を選択して通信できるため、通信障害のリスクを低下させることができる。
また、路上IPルータ装置や交通信号制御機に前記無線通信装置を内蔵することで、設置工事が容易化され、美観にも優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る無線通信システムを含む交通管制システムの全体構成の一例を示す図である。
【0027】
交通管制センターに設置された中央装置8は、路上に設置された交通信号制御機3、光ビーコン4、及び車番読取装置5との間で、各装置の機器状態に関する情報や、各装置に対する制御方法に関する指示等に関する通信データを送受信している。
これらの通信データは、中央ルータ7、有線通信回線、端末ルータ6、第二無線通信装置2、及び第一無線通信装置1を介してやりとりされる。
【0028】
この場合、第一無線通信装置1と第二無線通信装置2には、それぞれ無線通信用のアンテナ1A〜1Cや2A〜2Cが備えられており、各アンテナ間に無線通信経路A、B及びCが形成され、前記通信データが送受信される。
そして、これらの無線通信経路A、B及びCでは、それぞれ異なる周波数帯fa、fb、及びfcを用いた通信方式が採用されている。
なお、前記無線通信経路A〜Cには、無線通信を中継する中継局が設けられていても良い。
【0029】
図2は、第一無線通信装置1の機能構成の一例を示すブロック図である。
端末通信手段101は、交通信号制御機3、光ビーコン4、及び車番読取装置5との間で通信データを送受信する。
この場合、受信した通信データについては、無線選択手段131の選択した無線通信手段A〜Cのうち少なくとも1つによって第二無線通信装置2に送信される。
なお、上記送信に当たっては、通信データを2つに分割して、それぞれを無線通信手段A及びBが送信しても良い。
【0030】
交通信号制御機3の送受信する情報としては、交通信号制御機3が所定の期間において動作した履歴を表す信号制御実行情報や、中央装置8が交通信号制御機3に対して送信する信号灯色の表示に関する指示である信号制御指令情報等がある。
また、光ビーコン4の送受信する情報としては、光ビーコン4が車両から受信した後中央装置8に対して送信する車両情報や、中央装置8が光ビーコン4を介して車両に提供するVICS情報(渋滞情報や旅行時間情報等)等がある。
また、車番読取装置5の送受信する情報としては、車番読取装置5の読み取った車番の情報等がある。
【0031】
まず、無線選択手段131が無線通信手段を選択する手順について説明する。
無線環境状態取得手段111は、無線通信手段A〜Cのそれぞれの希望波受信レベル、妨害波受信レベル、ノイズレベル、直達波レベル、及びマルチパス波レベルを常時監視している。そして、これらに基づいて、ノイズ特性であるC/N値、希望波と妨害波のレベルの比であるD/U値、及びキャリアセンスによるキャリアの有無を随時算出する。
そして、これらに基づいて、通信速度取得手段121は、リンクアダプテーション等により、無線通信経路A〜Cが送信及び受信可能な通信速度を取得する。
また、得られた前記通信速度は、第二無線通信装置2に送信される。
なお、上記通信速度は、第二無線通信装置2等の他の装置が計測した値を別途通信によって取得する方法でも良い。
【0032】
前記取得した通信速度については、路上の天候、交通状況や時間帯等に応じて変動するため、所定時間毎に所定の期間における、平均値、最大値、最小値、及び標準偏差をそれぞれ算出してメモリ等の記憶部(図示せず)に記憶しておき、これらの値に基づいて、各無線通信経路の品質等を判断する。
【0033】
例えば、ある時間において、無線通信経路Aの通信速度の平均値が100kbps、無線通信経路Bの通信速度の平均値が10kbps、及び無線通信経路Cの通信速度の平均値が1kbpsであって、送信すべき通信データのサイズが100キロビットある場合、各無線通信経路を使用した場合の通信所要時間は、Aが1秒、Bが10秒、Cが100秒と算出される。
【0034】
この場合、前記通信データの送信タイムアウト時間が5秒とすると、無線選択手段131はタイムアウト時間内に通信可能な無線通信手段Aを選択し、無線通信経路Aを通じて第二無線通信装置宛に前記通信データを送信する。
なお、この場合、通信に使用しない無線通信手段B及びCの通信用モジュールをスリープモードやパワーセーブモードで動作させ、省電力化するようにしても良い。
【0035】
また、例えば、送信すべき通信データのサイズが110キロビットでかつ送信タイムアウト時間が1秒の場合、無線選択手段131は、無線通信手段Aに100キロビット、無線通信手段Bに10キロビットのデータをそれぞれ振り分けて送信させることで、タイムアウト時間内に通信データを送信することもできる。
【0036】
以上のように、複数の無線通信経路について、それぞれの通信速度を取得し、送信すべき通信データのデータ量や送信条件等から、通信に使用する無線通信手段を選択して送信することが可能となる。
【0037】
例えば、無線通信手段Aが特定小電力の規格である400MHz帯を使用する特定小電力通信方式、無線通信手段Bが2.4GHz帯を使用する無線LAN方式、及び無線通信手段Cが5GHz帯を使用する無線LAN方式の場合、同じ場所で2.4GHz帯のbluetooth方式による通信が行われていると、当該bluetooth方式による干渉の影響を受けて、無線通信手段Bの無線環境状態が悪化し、通信速度が低下もしくは通信不可能な状態となる。
この場合、2.4GHz帯の無線通信経路を複数使用するマルチリンクでは、全ての無線通信経路が前記干渉の影響を受けるため、通信の継続が困難となるが、本発明では、無線通信手段B以外のAやCを用いて通信を継続することが可能であり、大変有用である。
すなわち、異なる周波数帯の無線通信経路を複数確保することで、通信障害のリスクを分散し、耐環境性に優れた無線通信を実現することが可能となる。
【0038】
本発明は、第1の実施形態に示すような交通管制システムに適用した場合、とりわけ交通信号制御機の通信を行う場合には極めて効果的である。
都市部の幹線道路に沿って設置された複数の交通信号制御機は、中央装置によって集中的に制御されており、隣り合う交差点の信号機が系統的に連携して動作するようにリアルタイム制御されている。
そのため、妨害波の影響を受けて、特定の交通信号制御機と中央装置間の通信が途切れた場合には、当該交通信号制御機のみが制御の対象外となってしまうため、前記系統的な動作が行われず、都市部の幹線道路で重大な交通渋滞を招く恐れがある。
本発明によれば、複数の異なる周波数帯による無線通信経路を確保できるため、交通信号制御機の通信が途切れるリスクを低下させることができ、上記系統的な動作を確実なものとすることができる。
【0039】
(第2の実施形態)
図3は、第1の実施形態とは異なる第一無線通信装置1の機能構成の一例を示すブロック図である。
第1の実施形態との違いは、属性取得手段141と、優先度テーブル142を備えている点である。
【0040】
端末通信手段101、無線環境状態取得手段111、通信速度取得手段121、及び無線通信手段A〜Cの動作については第1の実施形態と同じである。
第2の実施形態では、属性取得手段141が、端末通信手段101によって受信された通信データの属性を取得し、前記属性を基に優先度テーブル142から当該通信データの優先度を取得する。
【0041】
前記属性は、通信データの通信プロトコルの種類を示すプロトコル種別、通信データの種類を示すデータ種別、通信データの送信元装置の種類を示す送信元装置種別、通信データの送信先装置の種類を示す送信先装置種別、通信データが応答を要求するものであるか否かを示す応答要求有無、通信データを受信した受信手段を示す受信手段識別番号、通信データを送信する送信手段を示す送信手段識別番号、通信データの送信元IPアドレス、通信データの送信元ポート番号、通信データの送信先IPアドレス、及び通信データの送信先ポート番号のうち少なくとも1つである。
【0042】
ここでは、属性として、通信データの種類を示すデータ種別を取得する場合について説明する。
データ種別とは、例えば、当該通信データがエンドアプリケーションメッセージかそれ以外のデータかを指し、エンドアプリケーションメッセージの場合には、さらに信号制御実行情報や車両情報等といった当該メッセージの種類を指す。
なお、データ種別は、当該通信データが信号制御に関連するデータであるのか、VICSに関連するデータであるのか、といった情報のカテゴリを示す種類であっても良い。
【0043】
通常、エンドアプリケーションメッセージのうちどの種類のデータであるかについては、当該通信データに格納されているメッセージIDによって識別可能である。
メッセージIDとは、複数のノード番号の組み合わせによって表現される通信データの種類を識別するための情報であり、データの種類毎に固有の前記ノード番号の組み合わせが割り当てられている。
メッセージIDは、通信データのうちメッセージIDが格納されたフィールドを参照する方法によって取得できる。なお、上記メッセージIDの詳細については、UTMS協会から発行されている規格書に記載されている。
【0044】
例えば、第一無線通信装置1が交通信号制御機3から信号制御実行情報を受信した場合、属性取得手段141は、受信した通信データの属性として「信号制御実行情報」を取得した後、当該属性に応じた優先度を優先度テーブル142(図4参照)から取得する。この場合、取得される前記通信データの優先度は「高」となる。
【0045】
一方、第1の実施形態と同様に、通信速度取得手段121は各無線通信経路の通信速度の平均値と最小値を取得する。
例えば、取得される無線通信経路Aの平均値が100kbpsで最小値が0kbps、無線通信経路Bの通信速度の平均値が10kbpsで最小値が8kbps、及び無線通信経路Cの通信速度の平均値が1kbpsで最小値が0kbpsであったとする。
【0046】
この場合、無線選択手段131は以下のように判断する。無線通信経路Aは通信速度の平均値は高いが、通信不可能となる場合(最小値0)があり、一方、無線通信経路Bの通信速度の平均値はAに比べて低いが、通信不可能となる場合がなく、無線通信経路Cは、いずれの点でもAやBに劣る。
すなわち、無線選択手段131は、無線通信経路として、B、A、Cの順位を割り当てる。
【0047】
上記の場合、無線選択手段131は優先度「高」の通信データであるため、最も順位の高い無線通信経路Bを選択して確実に送信すべきであると判断し、無線通信手段Bを選択して前記信号制御実行情報を送信する。
【0048】
また、例えば、前記通信速度が同じ条件で、優先度「標準」の車両情報を受信した場合には、順位が2番の無線通信手段Aを選択し、優先度「低」の圧縮画像情報を受信した場合には、順位が3番の無線通信手段Cを選択し、優先度の高い他の通信データが無線通信手段AやBを使用できるようにする。
【0049】
以上のように、第2の実施形態に示す第一無線通信装置1は、無線の通信速度と通信データの優先度の双方に基づいて、適切な無線通信経路を選択して送信することができ、さらに有用である。
このようにすることで、優先的かつ確実に送受信されるべき通信データをピックアップして、当該通信データが相手装置に到達する確率を高めることが可能となる。
【0050】
なお、前記順位の決定に当たっては、例えば、各無線通信経路の通信品質の安定性を重視して、通信速度の標準偏差や最大値と最小値の差に基づいて前記順位を決定する方法でも良いし、ワーストケースにおける情報到達の確実性を重視して、通信速度の最小値のみに基づいて前記順位を決定する方法でも良い。また、平均値や標準偏差等に所定の重みを付与して合算した値を指標として用いて、当該指標値に基づいて前記順位を決定する方法でも良く、設置される地点等に応じて、前記重みを変更するようにしても良い。
【0051】
本発明を第1の実施形態に示すような交通管制システムに適用した場合、とりわけ交通信号制御機と、光ビーコンや車番読取装置等の交通信号制御機以外の装置が同一の無線装置を使って通信する場合には極めて効果的である。
無線通信の品質が十分とは言えない無線通信環境で通信データをやりとりする場合であっても、交通信号制御機に関する通信データを他の装置のデータよりも優先的に送受信することができるようになるためである。
すなわち、本発明によれば、交通信号制御機の通信データが欠落するリスクを低下させることができ、前述のような系統的な動作を確実なものとすることができる。
【0052】
なお、第2の実施形態では、通信データの属性としてデータ種別を採用した例を示したが、例えば、送信元の装置種別が交通信号制御機かそれ以外の装置かという属性に応じて、同様の方法で無線通信経路の選択を行っても良い。また、通信プロトコルの種類に応じて、例えばDatex−ASNの通信データを他のプロトコル(例えば、TelnetやHTTP等)よりも優先しても良いし、送信相手先装置からの応答を要する通信データを優先するようにしても良い。
【0053】
また、これらの属性を複数組み合わせて優先度を対応付けるように優先度テーブルを定義しても良い。
例えば、通信プロトコルがDatex−ASNでかつ送信先の装置種別が交通信号制御機であれば、最も優先度を高くし、逆に、通信プロトコルがDatex−ASN以外でかつ送信先の装置種別が交通信号制御機以外であれば、優先度を最も低く設定するようにしても良い。
【0054】
また、第2の実施形態では、無線の通信速度と通信データの優先度の双方に基づいて、適切な無線通信経路を選択する方法を示したが、通信速度に関係なく無線通信手段に予め1〜3の順番を与えておき、優先度の高い通信データは1番の無線通信手段を使って通信させ、優先度の低い通信データは3番の無線通信手段を使って通信させるという方法を用いても良い。
無線通信手段の通信速度や品質の変動が少ない場合には、上記のような方法であっても同様の効果が得られる。また、交通量の多い時間帯と少ない時間帯で無線通信の品質に差があるような場合であれば、時間帯に応じて前記順番を入れ替えるようにしても良い。
【0055】
なお、優先度テーブル142や前記順番等については、第一無線通信装置1の保持するROM等の記憶部(図示せず)に記憶させておくが、これらは外部から書換え可能としておくと大変便利である。
例えば、第一無線通信装置1に接続される端末装置の種類や無線通信の環境が変動した場合や、第一無線通信装置1を他の地点に移設した場合等には、それに応じて優先度等を書き換えて使用することができるようになる。
また、これらの値は第一無線通信装置1の設置地点に出向しなくても、交通管制センターから遠隔で書き換えられるようになっていれば、なお一層便利である。
【0056】
また、第一無線通信装置1が、優先度「高」の信号制御実行情報と、優先度「低」の圧縮画像情報を同時に受信した場合に、通信可能な無線通信経路が1つしかない上に通信速度が小さいといった事情がある場合には、信号制御実行情報を優先して送信すると共に、圧縮画像情報は破棄するようにしても良い。
すなわち、明らかにタイムアウト時間等の所定の条件を満足するように送信することが不可能な優先度の低い通信データについては破棄するようにして、他の優先度の高い通信データが確実に相手装置に到達するようにすることができる。
なお、この場合、通信データを破棄した旨を、送信元装置や送信先装置に通知するようにしても良い。そうすることで、前記破棄した旨を受信した送信元装置は、当該通信データを所定期間後に再送するといったことができるようになり有用である。
【0057】
また、第1及び第2の実施形態に示した第一無線通信装置1を交通信号制御機3、光ビーコン4等の車両感知器や端末ルータ(IPルータ)等に内蔵するとさらに有用である。
路上に設置する装置が複数ある場合、これらの装置を1つの筐体にまとめて搭載することで、設置工事が容易化され低価格化できるとともに、美観にも優れたものとなる。
【0058】
なお、1つの無線通信手段に、複数の異なる通信方式に対応したソフトウェアをダウンロードして切り替えて動作させるソフトウェア無線技術も存在するが、この場合、当該複数の通信方式を、互いに異なる周波数帯を用いる方式としておけば、妨害波による干渉を回避することができる。
ただし、前記ソフトウェア無線技術では、通信方式の切替えに当たって、妨害を受けていることを検出するための所要時間、及びソフトウェアをダウンロードするオーバヘッド時間を要するため、通信効率が低下するという問題があると共に、同時に複数の異なる周波数帯を使って通信することができない。
本発明では、異なる複数の周波数帯の無線環境状態を常時監視して、前記状態等に応じて無駄なく適切な通信経路を選択することができる点、及び同時に複数の周波数帯を使って通信できる点において有利である。
【0059】
また、実施形態に示した無線通信経路A〜Cが互いに近い周波数帯となっている場合であっても、異なる周波数帯として本発明を適用することができる。前記各無線通信経路A〜Cの無線環境状態が悪化する時間帯、割合やその特徴が所定以上異なるのであれば、その都度、適切な無線通信経路を選択してデータを送受信することが可能だからである。
例えば、無線通信経路Aが1.2GHz帯、Bが2.4GHz帯、Cが2.5GHz帯といったように非常に近接する周波数帯であり、Aは比較的時間帯に関係なく安定した通信が可能であるが、Bは昼間の時間帯に、Cは夜間に無線環境状態が悪化するといった場合には、本発明により無線通信経路を切り替えて使用することで、耐環境性に優れた無線通信を実現することが可能となる。
【0060】
また、各無線通信経路の占有帯域幅の広さや空中線電力の大きさが異なる場合には、これらの特徴に基づいて無線通信経路を切り替えて使用することもできる。例えば、Aの占有帯域幅が20MHzで空中線電力が10mWで、Bの占有帯域幅が5MHzで空中線電力が100mWの場合、両者の周波数利用効率が同等であるとすると、Aは高速伝送性、Bは回線マージンによる高信頼性という異なる性質を有するため、AとBの無線環境状態の変化には差異が生じる。よって各無線通信経路の性質に応じて無線通信経路を切り替えて使用することで、耐環境性に優れた無線通信を実現することが可能となる。
【0061】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る無線通信システムを含む交通管制システムの全体構成の一例を示す図である。
【図2】第一無線通信装置1の機能ブロック構成の一例を示す図である。
【図3】第一無線通信装置1の機能ブロック構成の一例を示す図である。
【図4】優先度テーブルの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 第一無線通信装置
2 第二無線通信装置
1A〜1C、2A〜2C 無線通信用アンテナ
3 交通信号制御機
4 光ビーコン
5 車番読取装置
6 端末ルータ
7 中央ルータ
8 中央装置
101 端末通信手段
111 無線環境状態取得手段
121 通信速度取得手段
131 無線選択手段
141 属性取得手段
142 優先度テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上に設置された第一無線通信装置及び第二無線通信装置を含む無線通信システムであって、
前記第一無線通信装置及び第二無線通信装置の間には、第一無線通信経路及び第二無線通信経路を含む少なくとも2つの無線通信経路が存在し、
前記第一無線通信経路及び第二無線通信経路に採用される通信方式は、互いに異なる周波数帯を用いることを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記第一無線通信装置は、
前記第二無線通信装置との間に形成された複数の無線通信経路の無線環境状態を取得する無線環境状態取得手段を備え、
前記第一無線通信装置が前記第二無線通信装置宛に通信データを送信する場合に、取得した前記無線環境状態に基づいて、前記複数の無線通信経路のうち少なくとも1つを選択して送信すること
を特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記無線環境状態は、
希望波受信レベル、妨害波受信レベル、ノイズレベル、直達波レベル、及びマルチパス波レベルのうち少なくとも1つであり、
前記第一無線通信装置は、
前記無線環境状態に基づいて、前記複数の無線通信経路の通信速度を取得する通信速度取得手段を有し、
取得した前記複数の無線通信経路の通信速度の所定時間内における平均値、最大値、最小値及び標準偏差のうち少なくとも1つに基づいて、前記複数の無線通信経路のうち少なくとも1つを選択して送信すること
を特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記各無線通信経路の通信方式のうち少なくとも1つは直交周波数多重方式であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記第一無線通信装置は、
前記通信データの属性を取得する属性取得手段を有し、
前記第一無線通信装置が前記第二無線通信装置宛に通信データを送信する場合に、取得した前記属性に基づいて、前記複数の無線通信経路のうち少なくとも1つを選択すること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記第一無線通信装置は、
属性毎に優先度を設定した優先度テーブルを有し、
前記第一無線通信装置が前記第二無線通信装置宛に通信データを送信する場合に、取得した前記属性の優先度に応じて、前記複数の無線通信経路のうち少なくとも1つを選択して送信すること
を特徴とする請求項5に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記属性は、通信データの通信プロトコルの種類を示すプロトコル種別、通信データの種類を示すデータ種別、通信データの送信元装置の種類を示す送信元装置種別、通信データの送信先装置の種類を示す送信先装置種別、通信データが応答を要求するものであるか否かを示す応答要求有無、通信データを受信した受信手段を示す受信手段識別番号、通信データを送信する送信手段を示す送信手段識別番号、通信データの送信元IPアドレス、通信データの送信元ポート番号、通信データの送信先IPアドレス、及び通信データの送信先ポート番号のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする請求項5又は6に記載の無線通信システム。
【請求項8】
請求項1乃至7に記載のいずれかに記載の無線通信システムに用いられることを特徴とする無線通信装置。
【請求項9】
請求項8に記載の第一無線通信装置を内蔵した路上IPルータ装置。
【請求項10】
請求項8に記載の第一無線通信装置を内蔵した交通信号制御機。
【請求項11】
請求項8に記載の第一無線通信装置を内蔵した車両感知器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−205765(P2008−205765A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38907(P2007−38907)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
2.Bluetooth
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】