説明

無線通信装置及び電力増幅器制御方法

【課題】時分割複信方式の無線送受信装置において、簡易な方法で電力増幅器の高速でのオン/オフの切り替え制御を実現して送信部側から受信部側への電流のリークを効果的に抑制することにより、電流のリークによる干渉を防止し、また、電力効率を改善する。
【解決手段】時分割複信方式による無線通信装置1において、送信信号生成手段13は送信信号を生成する。電力増幅手段16は、生成された送信信号を増幅する。制御信号生成手段19は、電力増幅手段16のドレイン電圧を制御するためのドレイン電圧制御信号及び電力増幅手段16のゲート電圧を制御するためのゲート電圧制御信号を生成する。スイッチ部18は、ドレイン電圧制御信号にしたがって、受信時においては、電力増幅手段16のドレイン電源をオフに切り替える。また、電力増幅手段16は、ゲート電圧制御信号にしたがって、受信時においては送信時よりも高いゲート電圧を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力増幅器を制御する技術に関し、特に、時分割複信方式の無線送受信装置において用いられる電力増幅器を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
時分割複信(Time Division Duplex、以下TDDと略記)方式においては、通信経路を時間軸で分割し、送信と受信とを高速で切り替え、周波数帯域については送信機と受信機との間で共用する。図8(a)及び図8(b)に示すように、アンテナの直下に切り替えスイッチやサーキュレータを設置し、送信と受信とを切り替えて通信を行っている。
【0003】
TDD方式によれば、送信と受信とで周波数帯域を共用するため、送受信機内で送信部と受信部との間でアイソレーションが十分に確保されていることが必要となる。アイソレーションが十分でない場合は、送信信号が受信部側にリークし、低雑音増幅器を飽和させる等の問題が生じる。例えば、送受信切り替えスイッチを備えた構成の場合は伝送レートが高速化するにつれて、送受信の切り替え時間が短くなる。そして、送受信の切り替え時間が短くなるに伴い、アイソレーションを確保するのが難しくなる。
【0004】
アイソレーションの確保のため、送信時には送信部の電力増幅器をオンに、受信部の低雑音増幅器をオフとし、受信時には送信部の電力増幅器をオフに、受信部の低雑音増幅器をオンにすることが望ましい。これは、電力効率を向上させる観点からも必要なことと考えられる。
【0005】
ここで、電界効果トランジスタによる電力増幅器を仮定する。この場合、電力増幅器については、ドレインに流れる電流が大きいため、ドレインに印加する電圧をスイッチでオフにしても、過渡応答のため、電流値はすぐにはゼロにならない。このため、雑音を含む残留信号が受信側にリークし、受信性能を劣化させる可能性がある。
【0006】
そこで、かかる問題を解決するための電力増幅器のオン/オフを制御する技術として、例えば、受信回路内の高周波増幅用トランジスタのエミッタ部にエミッタ抵抗とともにスイッチング素子を設け、受信時には能動状態に、送信時には受動状態に駆動することにより、高周波増幅用トランジスタをオン/オフする技術について提供されている(例えば、特許文献1)。
【0007】
電力増幅器のオン/オフを制御する他の技術として、例えば、送信用の電力増幅器と受信用の電力増幅器とを備え、受信時には制御電圧により送信用の電力増幅器をオフにし、受信用の電力増幅器をオンにする。そして、送信時には制御電圧により受信用の電力増幅器をオフにし、送信用の電力増幅器をオンにする技術について提供されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−74321号公報
【特許文献2】特開平4−373317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特開平9−74321号公報や特開平4−373317号公報に記載されている方法は、いずれも、TDD方式において送信信号が受信部側にリークするのを抑えるために送信部側の電力増幅器のスイッチのオン/オフを切り替えている。しかし、上記のとおり、電力増幅器のドレインを流れる電流が大きいため、スイッチング回路により電力増幅器のオン/オフを高速で切り替えることは容易ではない。
【0010】
本発明は、時分割複信方式の無線送受信装置において、簡易な方法で電力増幅器の高速でのオン/オフの切り替え制御を実現することにより、送信部側から受信部側への電流のリークを効果的に抑制することにより、電流のリークによる干渉を防止し、また、電力効率を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、アンテナと、該アンテナを介して送出すべき送信信号を生成する送信部と、該アンテナを介して受信した信号を復調する受信部と、送信時には該送信部と該アンテナとを接続させ、受信時には該受信部と該アンテナとを接続させる送受切り替え部とを備えた、時分割複信方式による無線通信装置であって、前記送信部は、前記送信信号を生成する送信信号生成手段と、前記送信信号生成手段において生成された送信信号を増幅する電力増幅手段と、前記電力増幅手段のドレイン電圧を制御するためのドレイン電圧制御信号及び該電力増幅手段のゲート電圧を制御するためのゲート電圧制御信号を生成する制御信号生成手段と、前記ドレイン電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては、前記電力増幅手段のドレイン電源をオフに切り替える切り替え手段と、を備え、前記電力増幅手段は、前記ゲート電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては送信時よりも高いゲート電圧が設定される構成とする。
【0012】
この無線通信装置は、時分割複信方式の受信時においては、送信部の電力増幅手段(電力増幅器)のドレイン電源をオフに切り替えるとともに、ゲート電圧の値を、送信時におけるそれよりも高く設定する。受信時において送信時よりも高い値のゲート電圧値を設定することで、受信時により確実に電力増幅手段をオフに切り替え、送信部側から受信部側への電流のリークを防止しつつ、高速での電力増幅手段のオン/オフの切り替えを実現可能とする。
【0013】
あるいは、アンテナと、該アンテナを介して送出すべき送信信号を生成する送信部と、該アンテナを介して受信した信号を復調する受信部と、送信時には該送信部と該アンテナとを接続させ、受信時には該受信部と該アンテナとを接続させる送受切り替え部とを備えた、時分割複信方式による無線通信装置であって、前記送信部は、前記送信信号を生成する送信信号生成手段と、前記送信信号生成手段において生成された送信信号を増幅する多段構成の電力増幅手段と、前記電力増幅手段のそれぞれについてドレイン電圧を制御するためのドレイン電圧制御信号を生成する制御信号生成手段と、前記ドレイン電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては、前記多段構成の電力増幅手段のうち少なくとも前記アンテナから最も近い位置に設けられる電力増幅手段については、ドレイン電源をオフに切り替える切り替え手段と、を備え、時分割複信方式の受信時にドレイン電源をオフに切り替えた電力増幅手段については、前記アンテナから最も遠い電力増幅手段のドレイン電源が時分割複信方式の受信から送信に切り替わるタイミングでオンに切り替わるよう、該アンテナに近い位置に設けられている電力増幅手段から順にドレイン電源をオンに切り替えてゆく構成とする。
【0014】
この無線通信装置は、多段構成の電力増幅手段のうち少なくともアンテナに最も近い電力増幅手段については、時分割複信方式の受信時にはドレイン電源をオフに切り替えることにより、送信部側から受信部側へのリークを防止する。更に、受信時にオフに切り替えたドレイン電源をオンに切り替えるときは、アンテナから最も遠い位置の電力増幅手段から順にオンに切り替えてゆき、アンテナに最も近い位置の電力増幅手段のドレイン電源をオンに切り替えるタイミングを、受信から送信に切り替わるタイミングと一致させる。電力増幅手段ごとの容量に応じてオンに切り替えるタイミングを変えることにより電力増幅手段ごとの立ち上がりのタイミングを一致させつつ、アンテナに最も近い電力増幅手段については送受切り替えのタイミングでオンに切り替えることで、送信部側から受信部側への電流のリークを防止し、高速での電力増幅手段のオン/オフの切り替えを実現可能とする。
【0015】
なお、前記制御信号生成手段は、前記電力増幅手段のゲート電圧を制御するためのゲート電圧制御信号を更に生成し、前記電力増幅手段は、前記ゲート電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては送信時よりも高いゲート電圧が設定される構成としてもよい。受信時に送信時よりも高いゲート電圧値を設定することで、より確実に電力増幅手段をオフに切り替え、これにより、高速での電力増幅手段のオン/オフの切り替えを実現できる。
【発明の効果】
【0016】
開示の無線通信装置によれば、高速での電力増幅手段のオン/オフの切り替えが可能となり、送信部側から受信部側への電流のリークを効果的に抑制することができる。受信部側への電流のリークを抑制することにより、電流のリークによる干渉を防止し、また、電力効率の改善に資する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態に係る無線送受信機の構成図である。
【図2】送受信タイムチャート及び電力増幅器のドレイン電圧、ゲート電圧の関係を示す図である。
【図3】電力増幅器のA級動作を説明する図である。
【図4】電力増幅器のAB級動作を説明する図である。
【図5】電力増幅器のB級動作及びC級動作を説明する図である。
【図6】第2の実施形態に係る無線送受信機の構成図である。
【図7】送受信タイムチャート及び電力増幅器のドレイン電圧の関係を示す図である。
【図8】従来の時分割複信方式における送受切り替え方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、第1の実施形態に係る無線送受信機の構成図である。図1に示す無線送受信機1は、TDD方式の端末装置に備えられる無線送受信機であって、アンテナ11、送受切り替えスイッチ部12、送信部2及び受信部3を含んで構成される。
【0019】
送信部2は、送信信号生成部13、DA変換部14、変調部15、電力増幅器16及び電力増幅器制御部4から構成される。
送信部2の構成のうち、アンテナ11は、無線送受信機1から送信される基地局や通信相手の端末装置宛の信号を、無線ネットワークに送出し、また、基地局や通信相手の端末装置から送信された信号を受信する。
【0020】
送受切り替えスイッチ部12は、送受信のタイムチャートにしたがって、アンテナ11の接続先を送信部2及び受信部3に切り替える。具体的には、スイッチ部12としては、送受信切り替えスイッチやサーキュレータが用いられる。
【0021】
送信信号生成部13は、端末装置から送出すべき上り送信信号を生成する。DA変換部14は、送信信号生成部13において生成された送信信号をアナログ信号に変換する。変調部15は、DA変換部14から入力された信号に応じて変調処理を行い、変調波を生成する。電力増幅器16は、電界効果トランジスタを用いた電力増幅器から構成され、変調部15において生成された変調波を増幅させる。増幅された変調波は、アンテナ11を介して送出される。
【0022】
電力増幅器制御部4は、電源部17、スイッチ部18、制御信号生成部19及び制御信号DA変換部20を含んで構成され、送信部2の電力増幅器16の制御を行う。
電源部17は、電力増幅器16のドレイン電源に電力を供給する。スイッチ部18は、電源部17から電力増幅器16に供給される電力のオン/オフを切り替える。制御信号生成部19は、電力増幅器16を制御するための制御信号を生成する。制御信号DA変換部20は、制御信号生成部19から入力された信号をアナログ信号に変換し、スイッチ部18及び電力増幅器16に与える。
【0023】
受信部3は、低雑音増幅器21、復調部22、AD変換部23及び受信信号処理部24を含んで構成される。
低雑音増幅器21は、アンテナ11を介して受信した信号の増幅を行う。復調部22は、低雑音増幅器21において増幅された信号について復調処理を行い、被変調波から情報信号を取り出す。AD変換部23は、復調部22において取り出した情報信号をデジタル信号に変換する。受信信号処理部24は、AD変換部23から入力されたデジタル信号から所望のデータを取り出して、図1においては不図示の上位の制御回路等に与える等の処理を行う。
【0024】
電力増幅器制御部4は、送信信号生成部13における送信信号生成処理と同期させて制御信号を生成し、電力増幅器16のドレイン電圧値Vd及びゲート電圧値Vgを、送受信タイムチャートにしたがって制御する。次に、図2を参照して、電力増幅器制御部4において電力増幅器16を制御する具体的な方法について説明する。
【0025】
図2は、送受信タイムチャート及び電力増幅器16のドレイン電圧、ゲート電圧の関係を示す図である。図の右方向に時間軸をとり、図2においては、「Tx」は送信時間であり、「Rx」は受信時間である。
【0026】
送信時間内、すなわち送信信号が出力されている期間内においては、ドレイン電源をオンにする。そして、制御信号に含まれるドレイン電圧値Vdに設定する。このとき、ゲート電圧値Vgについては、VGAに設定する。受信時間内の送信信号の出力がない期間については、電力増幅器16をオフに切り替えるため、ドレイン電圧の値を「0」に設定するとともに、ゲート電圧値Vgを、送信時間におけるゲート電圧値VGAよりも高い値VGCに設定する。
【0027】
ここで、送信時間Txゲート電圧値VGAは、電力増幅器16がA級動作するときのゲート電圧値であり、受信時間Rxにおけるゲート電圧値VGCは、電力増幅器16がC級動作するときのゲート電圧値である。
【0028】
図3から図5は、ゲートバイアスを制御したときの電力増幅器16の動作を説明する図である。これらの図面を参照して、バイアス方式による電力増幅器16の動作について説明する。
【0029】
図3は、電力増幅器16のA級動作を説明する図である。このうち、上段については、左から順に、ドレイン電流とゲート電圧との関係、ドレイン電流とドレイン電圧との関係、ドレイン電流の流通角を説明する図である。図3の下段には、それぞれ上段に示すゲート電圧及びドレイン電圧の時間変化を示す。
【0030】
電力増幅器16がA級動作する場合のゲート電圧Vgは、図3上段の中図に示すように、ドレイン電流は最大値「Imax」、最小値「0」の正弦波状となるように設定される。このとき、図3上段の右図に示すように、ドレイン電流の流通角は360°(2π)である。すなわち、電力増幅器16に常に電流が流れている状態であり、入力された送信信号の全てを増幅する。
【0031】
図4は、電力増幅器16のAB級動作を説明する図である。図3と同様に、上段については左から順に、ドレイン電流とゲート電圧との関係、ドレイン電流とドレイン電圧との関係、ドレイン電流の流通角を説明する図である。図4の下段には、それぞれ上段に示すゲート電圧及びドレイン電圧の時間変化を示す。
【0032】
上記のA級動作をする電力増幅器16について、ゲートバイアスを深くすることにより得られる、流通角が360°(2π)未満であるときの状態を、AB級動作という。
図5(a)及び図5(b)は、それぞれB級動作及びC級動作をする電力増幅器16のドレイン電流波形の例を示す図である。図4に示すAB級動作をする電力増幅器16について更にゲートバイアスを変化させて深くしてゆき、流通角が180°(π)となるときの状態が、図5(a)に示すB級動作である。流通角が180°未満のときの状態が、図5(b)に示すC級動作である。
【0033】
図5(b)に示すように、C級動作をする電力増幅器16は、流通角のほとんどの部分で電流が流れていない。すなわち、C級動作をするようにゲート電圧VGCを設定することで、電力増幅器16を迅速にオフ状態に切り替えることができるようになる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る無線送受信機1によれば、送信部2の電力増幅器16については、TDD方式の受信時にはドレイン電源をオフに切り替えるとともに、ゲート電圧をC級動作の電圧値VGCに設定する。送信時のA級動作のゲート電圧値VGAよりも高い値を受信時に設定することで、アンテナ11を送信部2側から受信部3側に切り替えたときに、電力増幅器16は迅速にオフ状態となり、過渡応答によるドレイン電流が受信部3側にリークすることを防止することができる。電力増幅器16のドレイン電流が受信部3側にリークすることを防止することにより、電流のリークによる干渉を防止し、引いては、電力効率の改善に資する。
【0035】
なお、上記の実施形態のとおり、受信時のゲート電圧としてC級動作のゲート電圧を設定するのが好ましいが、これには限らない。例えばD級動作のゲート電圧を設定することとしてもよい。
【0036】
図6は、第2の実施形態に係る無線送受信機の構成図である。上記の第1の実施形態に係る無線送受信機1の構成と比較して、異なる点を中心に説明する。
本実施形態に係る無線送受信機1においては、電力増幅器16が多段構成(図6においては3段構成)を備えている。そして、スイッチ部18が各電力増幅器16のオン/オフを切り替え可能に設けられている。ここでは、送信信号生成部13に近い方の電力増幅器16から順に、電力増幅器16A、16B及び16Cとする。電力増幅器16A、16B及び16Cに対応するスイッチ部18を、それぞれスイッチ18A、18B及び18Cとする。
【0037】
制御信号生成部19は、電力増幅器16A、16B及び16Cをそれぞれ制御するための制御信号を生成する。具体的には、各電力増幅器16A、16B及び16Cのドレイン電源のオン/オフを切り替えるための制御信号及び送信時と受信時とで異なるゲート電圧値を設定するための制御信号を生成する。
【0038】
本実施形態においては、送信時にドレイン電源をオンに切り替えるタイミングが電力増幅器ごとに設定されている点で、上記の実施形態と異なる。図7を参照して具体的に説明する。
【0039】
図7は、送受信タイムチャート及び電力増幅器16A、16B及び16Cのドレイン電圧の関係を示す図である。図2と同様に、図の右方向に時間軸をとり、送信時間Tx及び受信時間はRxを示す。
【0040】
図7においては、3台の電力増幅器16のうち、アンテナ11に最も近い電力増幅器16Cからドレイン電源をオンに切り替えてゆき、最もアンテナ11から遠い電力増幅器16Aのドレイン電源が送信時間Txの開始のタイミングにはオンに切り替わるように、順次切り替えを行ってゆく。
【0041】
一般に、送信部2においては、送信アンテナ付近の出力電力が最も大きくなる。このため、最終段の電力増幅器16すなわち電力増幅器16Cの容量が最も大きくなる。すなわち、電力増幅器16Cは他の電力増幅器16A及び16Bと比較してドレイン電流量が大きい。このため、電力増幅器16Cについてオン/オフの切り替えを行ったとき、その立ち上がりと立ち下がりの時間に差が生じることとなる。
【0042】
しかし、本実施形態においては、上記のとおり、多段構成の電力増幅器16についてドレイン電源をオンに切り替えるタイミングをずらして容量の比較的大きい電力増幅器16C及び16B、すなわち立ち上がりの遅い電力増幅器については送受切り替えタイミングよりも前にオンに切り替えておく。最もアンテナ11から遠い電力増幅器16A(のドレイン電源)については、送受切り替えタイミングでオンに切り替える。電力増幅器16C及び16Bの立ち上がりタイミングを調整することで、多段構成の電力増幅器16の立ち上がりのタイミングを一致させることができる。
【0043】
電力増幅器16B及び16Cについては受信時間Rxの間からオン状態となっていることになるが、電力増幅器16Aについてもオン状態にならなければ送信信号がこれらの電力増幅器に伝達されることはない。このため、受信部3側に与える影響は小さく抑えられる。
【0044】
他方、送信時間Txから受信時間Rxに切り替わるときは、送受切り替えのタイミングで全ての電力増幅器16のドレイン電源をオフに切り替える。比較的容量の大きい電力増幅器16Bや電力増幅器16Cについては、過渡応答が残るため、できるだけ早急にオフにする必要がある。しかし、多段構成の電力増幅器16のうち1台の電力増幅器、図7の例では電力増幅器16Aについてオフ状態になれば、高周波信号自体は出力されない。このため、電力増幅器16Bや電力増幅器16Cの受信部3側に与える影響は小さく抑えられる。
【0045】
ところで、電力の効率化及び受信部3側に与える影響を最小限に抑える、という観点からすると、図7に示す例のように、全ての電力増幅器16を受信時間Rxにおいてはオフに切り替えるのが好ましい。しかし、ドレイン電源のオン/オフの切り替え方法については、上記の方法に限らない。
【0046】
ここで、アンテナ11に最も近い電力増幅器16Cについては受信時間Rxにオン状態のままにしておくと、残留信号が受信部3側において増幅され、受信部3に影響を及ぼすおそれがある。このため、電力増幅器16Cのドレイン電源については送受切り替えタイミングでオフにする必要がある。そこで、例えば、他の電力増幅器16A及び16Bについては、一方あるいは双方の電力増幅器のドレイン電源をオンのままにしておく構成とすることができる。
【0047】
以上のことから、各電力増幅器16A、16B及び16Cのドレイン電源の制御の組み合わせは、以下のとおりである。
(1)全ての電力増幅器についてドレイン電源のオン/オフを制御する。
(2)電力増幅器16C、16Bについてはドレイン電源をオン/オフ制御をし、電力増幅器16Aのドレイン電源については常にオン状態とする。
(3)電力増幅器16C、16Aについてはドレイン電源をオン/オフ制御をし、電力増幅器16Bのドレイン電源については常にオン状態とする。
(4)電力増幅器16Cについてのみドレイン電源をオン/オフ制御をし、電力増幅器16A及び16Bについては常にオン状態とする。
【0048】
多段構成の電力増幅器16の一部についてオン/オフを切り替える構成とすることで、制御線やDA変換部14からの出力数を削減することができ、電力増幅器制御部4の構成を簡素化することが可能となる。
【0049】
なお、図7においては送受信タイムチャート及びドレイン電圧のみを示し、ゲート電圧については記載していないが、上記の第1の実施形態に係る電力増幅器の制御方法と同様に、ドレイン電源のオン/オフの切り替えを行う電力増幅器16について、送信時にはA級動作のゲート電圧値VGAに、受信時にはC級動作のゲート電圧値VGC(>VGA)に切り替える構成としてもよい。送信時と受信時とで異なるゲート電圧を設定する場合は、全ての電力増幅器16について等しいゲート電圧値VGA及びVGCを設定する構成としてもよいし、電力増幅器16ごとに異なる値を設定する構成としてもよい。これらのうちいずれの構成をとる場合であっても、上記の第1の実施形態に係る構成の無線送受信機において電力増幅器の制御方法を実施した場合と同様の効果を得ることができる。
【0050】
また、上記においては電界効果トランジスタを用いた電力増幅器16を仮定して説明しているが、これには限らない。例えばバイポーラトランジスタを用いた電力増幅器についても、上記の第1及び第2の実施形態に係る電力増幅器の制御方法を採用することにより、同様の効果を得ることができる。
【0051】
以上説明したように、上記の実施形態に係る無線送受信機1によれば、送信部2に電力増幅器制御部4を備え、電力増幅器制御部4は、電力増幅器16のゲート電圧及びドレイン電圧の制御を行う。ドレイン電圧については、送受切り替えタイミングでオン/オフの切り替えを行うことで、受信時には電力増幅器16をオフ状態とする。更に、ゲート電圧については、無線送受信機1の送受切り替えタイミングに応じて異なる電圧値を設定する。受信時にはC級動作のゲート電圧値を設定することにより、流通角のほとんどの部分で電流が流れないこととなり、電力増幅器16を高速にオフに切り替えることが可能となる。これにより、送受を切り替えたときに、送信部2側から受信部3側への電流のリークを抑制することに資する。受信部3側への電流のリークを抑制することにより、電流のリークによる干渉を防止し、また、電力効率を改善することができる。
【0052】
更には、送受信切り替えタイミングで電力増幅器16のオン/オフ切り替え動作が実現できると、アンテナ11直下のスイッチ部12をホットスイッチさせずに済む、すなわち、高周波信号を入力させながらスイッチ部12のオン/オフ切り替え動作を行わずに済む、という効果が得られる。スイッチ部12に例えばRF−MEMS(Radio Frequency-Micro Electro Mechanical Systems)スイッチを用いた場合に特にこのような効果が期待できる。
【0053】
(付記1)
アンテナと、該アンテナを介して送出すべき送信信号を生成する送信部と、該アンテナを介して受信した信号を復調する受信部と、送信時には該送信部と該アンテナとを接続させ、受信時には該受信部と該アンテナとを接続させる送受切り替え部とを備えた、時分割複信方式による無線通信装置であって、
前記送信部は、
前記送信信号を生成する送信信号生成手段と、
前記送信信号生成手段において生成された送信信号を増幅する電力増幅手段と、
前記電力増幅手段のドレイン電圧を制御するためのドレイン電圧制御信号及び該電力増幅手段のゲート電圧を制御するためのゲート電圧制御信号を生成する制御信号生成手段と、
前記ドレイン電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては、前記電力増幅手段のドレイン電源をオフに切り替える切り替え手段と、
を備え、
前記電力増幅手段は、前記ゲート電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては送信時よりも高いゲート電圧が設定される
ことを特徴とする無線通信装置。
(付記2)
アンテナと、該アンテナを介して送出すべき送信信号を生成する送信部と、該アンテナを介して受信した信号を復調する受信部と、送信時には該送信部と該アンテナとを接続させ、受信時には該受信部と該アンテナとを接続させる送受切り替え部とを備えた、時分割複信方式による無線通信装置であって、
前記送信部は、
前記送信信号を生成する送信信号生成手段と、
前記送信信号生成手段において生成された送信信号を増幅する多段構成の電力増幅手段と、
前記電力増幅手段のそれぞれについてドレイン電圧を制御するためのドレイン電圧制御信号を生成する制御信号生成手段と、
前記ドレイン電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては、前記多段構成の電力増幅手段のうち少なくとも前記アンテナから最も近い位置に設けられる電力増幅手段については、ドレイン電源をオフに切り替える切り替え手段と、
を備え、
時分割複信方式の受信時にドレイン電源をオフに切り替えた電力増幅手段については、前記アンテナから最も遠い電力増幅手段のドレイン電源が時分割複信方式の受信から送信に切り替わるタイミングでオンに切り替わるよう、該アンテナに近い位置に設けられている電力増幅手段から順にドレイン電源をオンに切り替えてゆく
ことを特徴とする無線通信装置。
(付記3)
前記制御信号生成手段は、前記電力増幅手段のゲート電圧を制御するためのゲート電圧制御信号を更に生成し、
前記電力増幅手段は、前記ゲート電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては送信時よりも高いゲート電圧が設定される
ことを特徴とする付記2記載の無線通信装置。
(付記4)
時分割複信方式の受信時においては、前記電力増幅手段がC級動作をするゲート電圧が設定される
ことを特徴とする付記1または3のいずれか1つに記載の無線通信装置。
(付記5)
電力増幅器を制御するための電力増幅器制御方法であって、
前記電力増幅器のドレイン電圧を制御するためのドレイン電圧制御信号及び該電力増幅器のゲート電圧を制御するためのゲート電圧制御信号を生成し、
前記ドレイン電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては前記電力増幅器のドレイン電源オフに切り替えるとともに、前記ゲート電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては送信時よりも高いゲート電圧を設定する
処理を備えたことを特徴とする電力増幅器制御方法。
(付記6)
電力増幅器を制御するための電力増幅器制御装置であって、
前記電力増幅器のドレイン電圧を制御するためのドレイン電圧制御信号及び該電力増幅器のゲート電圧を制御するためのゲート電圧制御信号を生成する制御信号生成手段と、
前記ドレイン電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては前記電力増幅器のドレイン電源オフに切り替える切り替え手段と、
を備え、
前記電力増幅器は、前記ゲート電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の受信時においては送信時よりも高いゲート電圧が設定される
ことを特徴とする電力増幅器制御装置。
【符号の説明】
【0054】
1 無線送受信機
2 送信部
3 受信部
4 電力増幅器制御部
11 アンテナ
12 送受切り替えスイッチ部
13 送信信号生成部
14 DA変換部
15 変調部
16、16A、16B、16C 電力増幅器
17 電源部
18、18A、18B、18C スイッチ部
19 制御信号生成部
20 制御信号DA変換部
21 低雑音増幅器
22 復調部
23 AD変換部
24 受信信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナと、該アンテナを介して送出すべき送信信号を生成する送信部と、該アンテナを介して受信した信号を復調する受信部と、送信時には該送信部と該アンテナとを接続させ、受信時には該受信部と該アンテナとを接続させる送受切り替え部とを備えた、時分割複信方式による無線通信装置であって、
前記送信部は、
前記送信信号を生成する送信信号生成手段と、
前記送信信号生成手段において生成された送信信号を増幅する多段構成の電力増幅手段と、
前記電力増幅手段のそれぞれについてドレイン電圧を制御するためのドレイン電圧制御信号を生成する制御信号生成手段と、
前記ドレイン電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の送信から受信に切り替わるタイミングで、前記多段構成の電力増幅手段のうち少なくとも前記アンテナから最も近い位置に設けられる電力増幅手段については、ドレイン電源をオフに切り替える切り替え手段と、
を備え、
時分割複信方式の送信から受信に切り替わるタイミングでドレイン電源をオフに切り替えた電力増幅手段については、前記アンテナから最も遠い電力増幅手段のドレイン電源が時分割複信方式の受信から送信に切り替わるタイミングでオンに切り替わるよう、該アンテナに近い位置に設けられている電力増幅手段から順にドレイン電源をオンに切り替えてゆく
ことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
時分割複信方式の受信時においては、前記電力増幅手段がC級動作をするゲート電圧が設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
無線通信装置に備えられた多段構成の電力増幅器を制御するための電力増幅器制御方法であって、
前記多段構成の電力増幅器それぞれのドレイン電圧を制御するためのドレイン電圧制御信号を生成し、
前記ドレイン電圧制御信号にしたがって、時分割複信方式の送信から受信に切り替わるタイミングで、前記多段構成の電力増幅器のうち少なくとも前記無線通信装置のアンテナから最も近い位置に設けられる電力増幅器については、ドレイン電源をオフに切り替え、
時分割複信方式の送信から受信に切り替わるタイミングでドレイン電源をオフに切り替えた電力増幅器については、前記アンテナから最も遠い電力増幅器のドレイン電源が時分割複信方式の受信から送信に切り替わるタイミングでオンに切り替わるよう、前記アンテナに近い位置に設けられている電力増幅器から順にドレイン電源をオンに切り替えてゆく
処理を備えることを特徴とする電力増幅器制御方法。
【請求項4】
時分割複信方式の受信時においては、前記電力増幅器がC級動作をするゲート電圧が設定されるように、前記多段構成の電力増幅器それぞれのゲート電圧を制御するためのゲート電圧制御信号を生成する
処理をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の電力増幅器制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−120230(P2012−120230A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−17222(P2012−17222)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【分割の表示】特願2007−308095(P2007−308095)の分割
【原出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人情報通信研究機構、「超高速ギガビット無線LANの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】