説明

無電解置換めっきにより銅薄膜を形成しためっき物

【課題】ダマシン銅配線等おける無電解銅めっきでシード層を形成した際の、成膜均一性、および密着性を、単体の金属上に無電解銅めっきを行った場合と比較して向上させ、さらに、銅シード層の成膜に先立つバリア層と触媒金属層との二つの層形成の煩雑さを解消して、超微細配線の形成が可能な、薄くかつ均一な膜厚でシード層を成膜しためっき物を提供することを目的とする。
【解決手段】基材上に、無電解めっき液に含まれる銅イオンと置換めっきが可能でかつ銅に対してバリア性を持つ金属Bと、銅に対してバリア性を持つ金属Aからなる銅拡散防止用バリア合金薄膜が形成され、該銅拡散防止用バリア合金薄膜が、前記金属Aを15原子%以上、35原子%以下とする組成であり、その上に無電解置換めっきにより銅薄膜が形成されたことを特徴とするめっき物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解置換めっきにより銅薄膜を形成しためっき物に関する。
特にULSI超微細銅配線(ダマシン銅配線)を形成する際のシード層として、無電解置換めっきにより銅薄膜を形成しためっき物に関する。
【背景技術】
【0002】
ULSI微細銅配線(ダマシン銅配線)の銅の成膜方法として、無電解銅めっき法は現行のスパッタリング法、電気銅めっき法に替わるものとして期待されている。
従来、半導体ウェハーのような鏡面上に無電解銅めっきを行った場合、析出しためっき膜に十分な密着性を得るのは困難であった。また、めっきの反応性が低く、基板全面に均一なめっきを行うことも困難であった。従来は、例えば、窒化タンタルなどのバリアメタル層上に無電解めっき法で銅シード層を形成する場合、めっきを均一に形成することが難しく密着力が十分でないという問題があった。
【0003】
本発明者らは、既に、無電解銅めっき液に添加剤として重量平均分子量(Mw)の小さい水溶性窒素含有ポリマーを加え、一方被めっき物の基板にはめっき液浸漬前に触媒金属を付着させるか、あるいは触媒金属を予め最表面に成膜した後、めっき液に浸漬させて該触媒金属上に窒素原子を介してポリマーを吸着させることにより、めっきの析出速度が抑制され、かつ結晶が非常に微細化して膜厚15nm以下の均一な薄膜がウェハーのような鏡面上に形成可能となることを見出した(特許文献1)。また、本発明者らは、前記発明の実施例において、触媒金属を予め最表面に成膜した後、めっき液に浸漬させて該触媒金属上に窒素原子を介してポリマーを吸着させることにより、めっきの析出速度が抑制され、かつ結晶が非常に微細化して膜厚6nm以下の均一な薄膜がウェハーのような鏡面上に形成可能となることを示した。
【0004】
このような方法、すなわちダマシン銅配線形成において、触媒金属を成膜した後に無電解めっきにより銅シード層を設ける場合は、銅拡散防止のためのバリア層が触媒金属層とは別に予め形成されていることが必要であり、従って、銅シード層を成膜する前にバリア層と触媒金属層の二層もの層を形成することになるため、膜厚を厚くできない超微細配線では実工程への適用が困難であるという問題が判明した。
【特許文献1】特願2007−064348号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、無電解銅めっきでシード層を形成した際の成膜均一性、および密着性を、単体の金属上に無電解銅めっきを行った場合と比較して向上させ、さらに、銅シード層の成膜に先立つ前記二つの層形成の煩雑さを解消して、超微細配線の形成が可能な、薄くかつ均一な膜厚でシード層を成膜しためっき物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、無電解めっき液に含まれる銅イオンと置換めっきが可能でかつ銅に対してバリア性をもつ金属Bと、銅に対してバリア性を持つ金属Aからなる合金薄膜とすることにより、この上に銅置換めっきを行った際の成膜均一性、及び密着性が、単体の金属上に銅置換めっきを行った場合と比較して向上し、さらに銅シード層成膜に先立つ前記二つの層形成の煩雑さを解消できることを見出し本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)基材上に、無電解めっき液に含まれる銅イオンと置換めっきが可能でかつ銅に対してバリア性を持つ金属Bと、銅に対してバリア性を持つ金属Aからなる銅拡散防止用バリア合金薄膜が形成され、該銅拡散防止用バリア合金薄膜が、前記金属Aを15原子%以上、35原子%以下とする組成であり、その上に無電解置換めっきにより銅薄膜が形成されたことを特徴とするめっき物。
(2)前記金属Bが、タングステンまたはモリブデンであり、金属Bがタングステンの場合、前記金属Aが、タンタル、モリブデン、ニオブから選ばれる少なくとも1種の金属であり、金属Bがモリブデンの場合、前記金属Aが、タンタル、タングステン、ニオブから選ばれる少なくとも1種の金属であることを特徴とする前記(1)記載のめっき物。
(3)前記無電解置換めっきにより形成された銅薄膜が膜厚10nm以下で、抵抗率10μΩ・cm以下であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載のめっき物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基材上に、無電解めっき液に含まれる銅イオンと置換めっきが可能でかつ銅に対してバリア性を持つ金属Bと、銅に対してバリア性を持つ金属Aからなり、特定の組成を有する銅拡散防止用バリア合金薄膜を形成し、その上に無電解置換めっきにより銅薄膜を形成することにより、単体の金属上に銅置換めっきを行った場合と比較して、銅薄膜の成膜均一性、密着性を向上することができる。また、銅拡散防止用バリア合金薄膜とその上の無電解銅めっき層との界面においては実質的に酸素を含まない状態とすることができ、銅薄膜の抵抗を下げることができる。
さらに、前記合金薄膜は、ダマシン銅配線形成における、バリア層と触媒金属層との二層を形成する煩雑さを解消でき、さらに薄膜化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、基材上に、無電解めっき液に含まれる銅イオンと置換めっきが可能でかつ銅に対してバリア性を持つ金属Bと、銅に対してバリア性を持つ金属Aからなり、特定の組成を有する銅拡散防止用バリア合金薄膜が形成され、その上に無電解置換めっきにより銅薄膜が形成されためっき物に関する。
【0010】
無電解めっき液に含まれる銅イオンと置換めっきが可能でかつ銅に対してバリア性を持つ金属Bとしては、タングステンとモリブデンが挙げられ、これらの金属のいずれかを使用するが、中でもタングステンが好ましい。
【0011】
銅に対してバリア性を持つ金属Aとしては、タンタル、タングステン、モリブデン、ニオブ等が挙げられる。前記金属Bがタングステンである場合は、銅に対してバリア性を持つ金属Aとしては、タンタル、モリブデン、ニオブ等のタングステン以外の金属とし、また、金属Bがモリブデンである場合は、金属Aとしてはタンタル、タングステン、ニオブ等のモリブデン以外の金属とする。前記金属Aと金属Bとの合金薄膜とすることにより、その上に無電解銅めっきをおこなった際に、単体の金属上に銅置換めっきを行った場合と比較して、成膜均一性、及び密着性が向上する。
【0012】
無電解めっき液に含まれる銅イオンと置換めっきが可能でかつ銅に対してバリア性を持つ金属Bと、銅に対してバリア性を持つ金属Aの銅拡散防止用バリア合金薄膜における組成は、金属Aの組成比は15原子%以上、35原子%以下が望ましく、25原子%以下がより望ましい。金属Aが15原子%より少なくなると、置換めっきが激しくなって銅の析出が不均一になり、銅膜の密着性が低下する。また、35原子%より多くなると、金属Aの酸化度合いが大きくなり、無電解銅めっき後も酸素が界面に残り、銅めっき膜の抵抗や密着性に悪影響を及ぼす。
尚、前記合金薄膜がタングステンとモリブデンの合金薄膜である場合は、いずれかの金属の組成比が上記範囲内であれば良い。
【0013】
前記合金薄膜は、前記金属Aと金属Bを含むスパッタリング合金ターゲットを用いて、基材上にスパッタリングで形成することが好ましい。前記組成の合金薄膜は、所望の合金薄膜の組成と略同一組成の金属Aと金属Bを含むスパッタリングターゲットにより形成することができる。
合金薄膜の膜厚は3〜20nmであることが好ましく、より好ましくは5〜15nmである。
【0014】
本発明において合金薄膜を形成する基材としては、半導体ウェハーが好ましく、酸処理、アルカリ処理、界面活性剤処理、超音波洗浄あるいはこれらを組み合わせた処理を実施することで、基材のクリーニング、濡れ性向上を図ることができる。
【0015】
無電解置換めっきで形成される銅薄膜は、無電解めっき液に含まれる銅イオンと金属Bとの置換反応により、無電解めっき液に含まれる銅イオンが金属として析出して形成される。
本発明において、置換めっきにより、銅薄膜が形成されることにより、前記合金薄膜の表面の酸化物が置換めっきの過程で除かれる。また上記の作用により、前記合金薄膜と銅薄膜との界面の酸素濃度をオージェ電子分光法(AES)にて分析したところ1原子%以下(検出限界以下)とすることができる。界面に酸素が存在する場合には、配線の抵抗が上がったり、バリア機能が落ちる等の悪影響がある。
また、その結果、銅薄膜の厚みを10nm以下でかつ抵抗率10μΩ・cm以下とすることができる。シード層の膜厚を薄くすることにより、線幅が数十nmレベルのダマシン銅配線への適用が可能となる。
【0016】
本発明における銅拡散防止用バリア合金薄膜を用いて無電解置換めっきを行う際に用いる無電解銅めっき方法としては、一般的な方法を用いることができる。同様に使用する銅めっき液も一般的な無電解銅めっき液を用いることができる。
無電解銅めっき液は、通常、銅イオン、銅イオンの錯化剤、還元剤、およびpH調整剤等を含んでいる。
【0017】
無電解銅めっき液の還元剤としては、ホルマリンの人体や環境への悪影響を考え、グリオキシル酸を用いることが好ましい。
グリオキシル酸の濃度は、めっき液中0.005〜0.5mol/Lが好ましく、0.01〜0.2mol/Lがより好ましい。濃度が0.005mol/L未満であるとめっき反応が起こらず、0.5mol/Lを超えるとめっき液が不安定になり分解する。
【0018】
本発明において無電解銅めっき液の銅イオン源としては、一般的に用いられている銅イオン源すべてを用いることができ、例えば、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅等が挙げられる。また、銅イオンの錯化剤としても、一般的に用いられている錯化剤すべてを用いることができ、例えば、エチレンジアミン四酢酸、酒石酸等が挙げられる。
その他の添加剤として、めっき液に一般的に用いられている添加剤、例えば2,2’−ビピリジル、ポリエチレングリコール、フェロシアン化カリウム等を用いることができる。
【0019】
また、本発明における無電解銅めっき液は、pH10〜14で用いることが好ましく、pH12〜13で用いることがより好ましい。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等一般的に用いられているものを用いることができるが、半導体用途でナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を避けたい場合には、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いるとよい。
また、本発明における無電解銅めっき液は、浴温40〜90℃で使用するのが、浴安定性および銅の析出速度の点から好ましい。
【0020】
本発明において無電解銅めっき液を用いてめっきを行う場合、被めっき材をめっき浴中に浸漬する。被めっき材は、前記のような合金薄膜を成膜したものである。
本発明の無電解置換めっきにより作製した銅薄膜の厚さは、3〜10nmがより好ましい。
【0021】
本発明の無電解置換めっきにより作製された銅薄膜は、めっき膜が薄く、膜厚が均一となる。したがってダマシン銅配線用シード層として用いた場合、配線幅が100nm以下の微細なビア・トレンチ内にも膜厚の均一な薄膜シード層形成が可能であり、その結果ボイド・シーム等の欠陥の発生しない半導体ウェハーが得られる。
【0022】
本発明のめっき物は、無電解めっきにより形成された銅薄膜上に、さらに、配線部をめっきにより設けることができる。めっきは、電気めっき又は無電解めっきを用いることができる。
配線部は銅又は銅を主成分とする合金であることが好ましく、銅がより好ましい。電気銅めっき液は、一般にダマシン銅配線埋め込み用に使用されている組成であればよく、特に限定されないが、例えば主成分として硫酸銅及び硫酸、微量成分として塩素、ポリエチレングリコール、二硫化ビス(3−スルホプロピル)二ナトリウム、ヤヌスグリーンなどを含んだ液を用いることができる。また、埋め込みに使用する無電解銅めっき液としては、例えば特開2005−038086号公報に記載の銅配線埋め込み用めっき液を用いることができる。
【0023】
本発明のめっき物は、基材上に形成した前記特定の合金薄膜を有し、その上に無電解置換めっきにより形成したシード層として作用する銅薄膜を有する。前記特定の合金薄膜は既に述べているように置換めっきが可能でバリア機能を有する単一の層とすることができるので、触媒金属層と通常膜厚が数十nmとなるバリア層との二層の形成を要しない。このように本発明のめっき物においては、合金薄膜を置換めっきが可能でバリア機能を有する単一の層とすることができ、該シード層として作用する金属薄膜の膜厚が10nm以下であるので、この金属薄膜上に常法により配線部となる金属めっきすることにより、線幅が数十nmレベルのダマシン銅配線への適用が可能な半導体素子とすることができる。加えて、前記シード層として作用する金属薄膜の抵抗率が10μΩ・cm以下とすることができ、その後の電気めっき初期の均一成膜が容易となる。
【実施例】
【0024】
次に本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1
半導体基板上に、無電解めっきに含まれる銅イオンと置換めっきが可能でかつ銅に対してバリア性を持つ金属としてタングステン、銅に対してバリア性を持つ金属としてタンタルからなるスパッタリング合金ターゲットを用いて膜厚10nmの合金薄膜を作製し、その合金膜上に無電解めっき法により銅めっき薄膜を形成した。前記スパッタリング合金ターゲットを用いて形成されたこの合金薄膜の組成、および無電解めっきにより形成された銅めっき薄膜の膜厚を表1に示す。
尚、無電解めっきによる銅膜の形成は、以下の組成のめっき液を用いて、pH12.5(調整剤:水酸化カリウム)、50℃×30〜40秒の条件で実施した。
めっき液組成
硫酸銅 0.02mol/L
エチレンジアミン四酢酸塩 0.21mol/L
グリオキシル酸 0.03mol/L
2、2’−ビピリジル 20mg/L
得られた銅めっき薄膜の膜厚、穴径10nm以上の孔の有無、抵抗率、合金薄膜中への銅の拡散の有無、銅めっき薄膜と合金薄膜の界面の酸化状態(酸素量)、銅めっき薄膜の密着性について評価した。膜厚は断面TEM観察により確認した。孔の有無は、表面SEM観察により確認した。抵抗率は、4端針法によるシート抵抗測定、および断面TEM観察による膜厚測定結果より算出した。銅の拡散の有無および界面の酸化状態は、AESデプスプロファイル測定により判定した。銅めっき薄膜の密着性は、セロハンテープ(CT24、ニチバン製)を使用したテープ剥離試験を実施し、指の腹でめっき面に密着させた後、テープを剥がして膜の剥離の有無を確認した。評価は、○:めっき膜の剥離無、×:めっき膜の剥離有とした。結果を表1にまとめた。
【0025】
また、線幅90nm、アスペクト比4のトレンチパターン付き半導体基板に対し、前記のスパッタ合金薄膜、及び無電解銅めっき薄膜を成膜後、それをシード層として電気銅めっきで配線の埋め込みを行った。
なお、電気めっきによる配線の埋め込みは、以下の組成のめっき液を用いて25℃×60秒、電気密度1A/dm2で実施した。
硫酸銅 0.25mol/L
硫酸 1.8mol/L
塩酸 10mmol/L
微量添加剤(ポリエチレングリコール、二硫化ビス(3−スルホプロピル)二ナトリ
ウム、ヤヌスグリーン)
得られた銅めっき膜の断面TEM観察により、線幅90nmトレンチ部の埋め込み性を評価した。ボイド・シームの有無を判定し、○:ボイド・シーム無、×:ボイド・シーム有とした。
結果を表1に示す。
【0026】
実施例2〜3、比較例1〜3
実施例1における合金薄膜の組成を表1記載のように変えた以外は実施例1と同様にして合金薄膜を作製し、無電解めっきを行い、評価した。
結果を表1に示す。
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、無電解めっき液に含まれる銅イオンと置換めっきが可能でかつ銅に対してバリア性を持つ金属Bと、銅に対してバリア性を持つ金属Aからなる銅拡散防止用バリア合金薄膜が形成され、該銅拡散防止用バリア合金薄膜が、前記金属Aを15原子%以上、35原子%以下とする組成であり、その上に無電解置換めっきにより銅薄膜が形成されたことを特徴とするめっき物。
【請求項2】
前記金属Bが、タングステンまたはモリブデンであり、金属Bがタングステンの場合、前記金属Aが、タンタル、モリブデン、ニオブから選ばれる少なくとも1種の金属であり、金属Bがモリブデンの場合、前記金属Aが、タンタル、タングステン、ニオブから選ばれる少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項1記載のめっき物。
【請求項3】
前記無電解置換めっきにより形成された銅薄膜が膜厚10nm以下で、抵抗率10μΩ・cm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のめっき物。

【公開番号】特開2010−37622(P2010−37622A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203931(P2008−203931)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】