説明

熱成形品の製造方法及び食品用容器

【課題】ポリスチレン系樹脂発泡層に対する靱性付与に有効な熱成形品の製造方法を提供し、ひいては、切粉の発生が抑制され、優れた強度を有する食品用容器を提供することを課題としている。
【解決手段】ポリスチレン系樹脂発泡層を有する樹脂シートを熱成形して熱成形品を作製する熱成形品の製造方法であって、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂とを10:90〜50:50の質量割合で含有する混合樹脂をブタンを含む発泡剤で発泡させてなるポリスチレン系樹脂発泡層を有する前記樹脂シートを用いて、前記ポリスチレン系樹脂発泡層で形成されている箇所にブタンを1.5質量%以上含有する熱成形品を作製することを特徴としている熱成形品の製造方法などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形品の製造方法及び食品用容器に関し、より詳しくは、樹脂シートを熱成形する熱成形品の製造方法、及び、このような製造方法によって作製される食品用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂シートを熱成形して食品用容器などの熱成形品を製造することが広く行われており、この種の熱成形品の形成材料となる前記樹脂シートとしては、樹脂フィルム、樹脂発泡シート、及び、該樹脂発泡シートに前記樹脂フィルムをラミネートした積層シートなどが採用されている。
この内、積層シートは、食品用容器において広く用いられており、例えば、即席麺を収容させた丼容器のようにある程度の強度が求められるような用途においては、樹脂発泡シートのように樹脂発泡層単独の構成を有する樹脂シートでは所望の強度を得ることが難しいことから樹脂発泡シートの一面に樹脂フィルムをラミネートした積層シートを用い、前記樹脂フィルム側が外側になるように熱成形が行われたりしている。
また、即席ヤキソバ用の容器などにおいては、箸先で麺を攪拌して調理する際に容器が破損しないように内表面側にある程度の強度が求められており、樹脂フィルムで形成されたフィルム層が内側になるように前記積層シートを熱成形することが行われている。
【0003】
この種の積層シートを構成する樹脂発泡シートとしては、ポリオレフィン系樹脂を主材料とするものやポリスチレン系樹脂を主材料とするものが知られている。
この内、ポリスチレン系樹脂発泡シートは、ポリオレフィン系樹脂発泡シートに比べて比較的硬質で優れた強度を有しており、しかも、下記特許文献1に記載されているように、その形成材料であるポリスチレン系樹脂組成物にポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させることで耐熱性の向上を図ることが容易であることから食品用容器の形成材料として広く用いられている。
【0004】
ところで、ポリスチレン系樹脂発泡シートを熱成形して食品用容器を作製する方法としては、前記食品用容器の形状が多数配列された成形型を利用してポリスチレン系樹脂発泡シートに複数の容器形状を形成させた後で、当該容器形状の外周部に沿って切断して個々の容器を取り出すような方法が広く採用されている。
ここで、ポリスチレン系樹脂は、前記のように比較的硬質であるために、例えば、ポリスチレン系樹脂発泡シートを熱成形した熱成形品においては、その切断端面において切粉を発生させ易いという問題を有している。
また、同様の理由によって、ポリスチレン系樹脂発泡シートを熱成形した熱成形品は、急激な変形が加えられた際に割れを生じ易いという問題を有している。
【0005】
この種の問題は、例えば、ポリスチレン系樹脂発泡シートの両面にポリオレフィン系樹脂フィルムをラミネートした積層シートを熱成形した熱成形品でも同様に生じうるものである。
例えば、ポリスチレン系樹脂発泡シートの両面に樹脂フィルムがラミネートされた樹脂シートを熱成形した場合であっても、ポリスチレン系樹脂発泡層が切断端面において露出している場合には、この端面部から切粉が発生されることには変わりがなく、又、前記樹脂フィルムによる補強効果を期待することができるもののポリスチレン系樹脂発泡層が変形に対して割れを生じ易いことにも変わりがない。
すなわち、この種の問題は、ポリスチレン系樹脂発泡層単独の樹脂発泡シートであっても、ポリスチレン系樹脂発泡層にフィルム層を積層した積層シートであっても、ポリスチレン系樹脂発泡層を有する樹脂シートを熱成形した熱成形品に共通する問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−094919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂シートを熱成形してなる熱成形品の中でも食品用容器においては、端面から切粉が発生すると収容する食品にこの切粉を混入させるおそれがあり、又、容器に割れが生じると収容している食品を外部環境から十分に遮断できずに衛生上の問題を生じさせるおそれを有する。
したがって、上記のような問題は、特に、食品用容器において、その解決が強く求められているものである。
【0008】
上記のような問題に対して、ポリスチレン系樹脂発泡層の形成材料に対してこれまで以上の靱性を付与させることで切粉の発生防止を図ることが考えられる。
しかし、従来、このような検討が十分なされておらず、その解決手段も確立されてはいない。
【0009】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、ポリスチレン系樹脂発泡層に対する靱性付与に有効な熱成形品の製造方法を提供し、ひいては、切粉の発生が抑制され、優れた強度を有する食品用容器を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ポリスチレン系樹脂発泡層の形成材料に所定の割合でポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させるとともに熱成形後に所定の割合でブタンを残存させることで当該ポリスチレン系樹脂発泡層によって構成されている箇所に優れた靱性を付与しうることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、熱成形品の製造方法に係る本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡層を有する樹脂シートを熱成形して熱成形品を作製する熱成形品の製造方法であって、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂とを10:90〜50:50の質量割合で含有する混合樹脂をブタンを含む発泡剤で発泡させてなるポリスチレン系樹脂発泡層を有する前記樹脂シートを用いて、前記ポリスチレン系樹脂発泡層で形成されている箇所にブタンを1.5質量%以上含有する熱成形品を作製することを特徴としている。
【0012】
また、食品用容器に係る本発明は、上記のような熱成形品の製造方法によって製造されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱成形品の製造方法によれば、ポリスチレン系樹脂発泡層に所定の割合でポリフェニレンエーテル系樹脂が含有されているとともに熱成形後に所定の割合でブタンが残存していることから当該ポリスチレン系樹脂発泡層によって構成されている箇所に優れた靱性が付与されうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ポリスチレン系樹脂発泡シートの断面構造を示す図。
【図2】熱成形品の形成に利用される積層シートの断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態においては、熱成形品の原材料となる樹脂シートとしてポリスチレン系樹脂発泡層を有する積層シートを用いる。
より詳しくは、ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面に樹脂フィルムがラミネートされて前記ポリスチレン系樹脂発泡シートからなるポリスチレン系樹脂発泡層とともに前記樹脂フィルムからなるフィルム層を有する前記樹脂シートを用いて熱成形品を作製する。
【0016】
なお、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートとしては、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂とを10:90〜50:50の質量割合で含有する混合樹脂をブタンを含む発泡剤で発泡させてなるポリスチレン系樹脂発泡シートを用いることが、切粉が発生し難く、変形によって割れ難い熱成形品を形成させる上において重要である。
また、切粉が発生し難く、変形によって割れ難い熱成形品を形成させる上において、前記ポリスチレン系樹脂発泡層で形成されている箇所にブタンを1.5質量%以上含有する熱成形品を作製することが重要である。
【0017】
まず、このような熱成形品を形成させるための積層シートについて、図を参照しつつ以下に説明する。
図1は、熱成形に用いる積層シートのポリスチレン系樹脂発泡層を構成させるためのポリスチレン系樹脂発泡シート(以下、単に「発泡シート」ともいう)の断面構造を模式的に示した断面図であり、図2は、該発泡シート10xに樹脂フィルムをラミネートした前記積層シート1の断面図である。
【0018】
この図2における符号20は、前記発泡シート10xの一面に樹脂フィルムがラミネートされて形成されたフィルム層を表している。
このように、本実施形態においては、熱成形品を作製するための前記樹脂シート1として、ポリスチレン系樹脂発泡層10とフィルム層20との2層構造を有する積層シートが採用されている。
【0019】
前記発泡シート10xの形成材料として用いられるポリスチレン系樹脂としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレンなどのスチレン系単量体の単独重合体、又は、前記スチレン系単量体と他の単量体との共重合体等を用いることができる。
なかでも、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂との相溶性の観点からは、所謂汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)などとして知られているスチレン単独重合体が好適に用いられ得る。
【0020】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、通常、次の一般式で表されるものを採用することができる。
【化1】

【0021】
ここでR1及びR2は、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、nは重合度を表す正の整数である。
例示すれば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジクロルフェニレン−1,4−エーテル)等が本実施形態において用いられ得る。
また、重合度nは、通常10〜5000の範囲内である。
【0022】
このポリフェニレンエーテル系樹脂は発泡シート10xに靱性を付与するための重要な成分であり、該発泡シート10xを用いて熱成形品が形成されることにより、該発泡シート10xで形成されている箇所から切粉が発生したりすることを抑制できるとともに、熱成形品にも優れた靱性が発揮されることになる。
【0023】
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、耐熱性の向上にも有効な成分であり、汎用ポリスチレン樹脂を発泡させてなる発泡シートのビカット軟化温度(JIS K7206 B法、50℃/h)が一般に102℃程度であるのに対して、上記のようにポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂とが質量で10:90〜50:50(ポリフェニレンエーテル系樹脂:ポリスチレン系樹脂)の割合で含有されることによって、通常、発泡シート10xのビカット軟化温度を110〜155℃の範囲に向上させることができる。
【0024】
なお、単にポリスチレン系樹脂組成物が用いられてなる製品に耐熱性を付与することを目的とする場合には、スチレンホモポリマーよりもビカット軟化温度の高いスチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−マレイミド共重合体、ポリパラメチルスチレン樹脂などのコポリマーをその形成材料に採用することも可能ではあるが、本実施形態においては、前記コポリマーを用いる場合に比べて優れた靱性を発泡シート10xに備えさせるべく上記のようにポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂とが所定の割合で混合された混合樹脂を発泡シート10xの形成材料としている。
【0025】
ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂との質量割合を上記のように10:90〜50:50(ポリフェニレンエーテル系樹脂:ポリスチレン系樹脂)としているのは、上記範囲未満の含有量でポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させたのでは、ポリフェニレンエーテル系樹脂の添加効果が十分に発揮されないおそれを有し、逆に上記範囲を超えてポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させても、それ以上にポリフェニレンエーテル系樹脂の添加効果が発揮されないおそれを有するためである。
また、一般的にはポリフェニレンエーテル系樹脂は、ポリスチレン系樹脂に比べて高価であるために上記範囲を超えてポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させると材料コストの観点においても問題を生じさせるおそれを有する。
【0026】
先にも述べたように、本実施形態の熱成形品の製造方法は、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂とを含有する混合樹脂を、ブタンを含む発泡剤で発泡させた発泡シート10xの一面に樹脂フィルムをラミネートした積層シート1を用いて熱成形品を作製し、当該発泡シート10x(積層シートにおけるポリスチレン系樹脂発泡層10)で形成されている箇所にブタンを1.5質量%以上含有させた状態で熱成形品を作製するものである。
このように発泡シート10xに相当する部分にブタンを含有させることで、ブタンが可塑剤的に機能して上記ポリフェニレンエーテル系樹脂の添加効果に加えてさらなる靱性向上を図ることができる。
なお、このポリスチレン系樹脂発泡層10によって形成されている箇所におけるブタンの含有量が1.5質量%未満の場合には、さらなる靱性の向上効果を期待することが難しくなり、熱成形品からの切粉の発生や変形に伴う熱成形品の割れを、十分抑制させることが困難になるおそれを有する。
したがって、切粉の発生や、熱成形品の割れをより確実に防止させうる点において、該熱成形品のポリスチレン系樹脂発泡層におけるブタン含有量は、1.6質量%以上であることが好ましい。
【0027】
熱成形品に上記のような形でブタンを含有させるには、例えば、前記発泡シート10xとして、ブタンを1.5質量%以上含有する発泡シートを用いて積層シート1を形成させるとともに該積層シート1のポリスチレン系樹脂発泡層10におけるブタンの含有量が1.5質量%以上のまま維持されるように熱成形を実施させる方法が挙げられる。
【0028】
なお、ポリスチレン系樹脂発泡シートは、一般的には押出発泡によって連続生産されており、このような製造方法においては、ポリスチレン系樹脂発泡シートに過度の含有量でブタンを含有させることは困難であり、通常、熱成形に用いられる段階におけるブタンの含有量は1.5質量%〜3.5質量%程度となる。
【0029】
そのため、ポリスチレン系樹脂発泡シートに含有させるブタンの上限値は、通常、3.5質量%であり、前記ポリスチレン系樹脂発泡層10で形成された箇所に1.5質量%以上のブタンを含有させて熱成形品を得るには前記ポリスチレン系樹脂発泡シートからのブタンの散逸を極力防止することが好ましい。
その点において、本実施形態のごとく樹脂フィルムをラミネートした積層シート1の状態で熱成形を実施する方法は、発泡シート10x単体を熱成形する場合に比べて少なくとも樹脂フィルムをラミネートした面から熱成形時にブタンが散逸されることを防止することができ、熱成形品のポリスチレン系樹脂発泡層におけるブタン含有量をより確実に1.5質量%以上とさせることができる方法であるといえる。
【0030】
上記理由から、この発泡シート10xにラミネートする樹脂フィルムとしては、汎用の樹脂フィルムの中で、ある程度ブタンに対するガスバリア性を有しているものを選択して用いることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、延伸ポリプロピレン樹脂フィルム、及び、無延伸ポリプロピレン樹脂フィルムの内のいずれかの樹脂フィルムを選択することが好ましい。
なお、樹脂フィルムは、単層フィルムである必要はなく、複数の樹脂フィルムが積層一体化された樹脂フィルムであってもよい。
通常、これらの樹脂フィルムは、5μm〜100μmの厚みのものを採用することができる。
【0031】
また、発泡シート10xの両表面部を厚み方向中央部よりも低発泡にさせ、“表面スキン層”などと呼ばれる密度の高い部分を両表面部に形成させることでブタンのさらなる散逸防止を図ることも可能である。
すなわち、熱成形に用いられるポリスチレン系樹脂発泡シートは、通常、厚みが1mm〜3.5mm程度であり、全体の見掛け密度が0.06g/cm3〜0.20g/cm3程度であるが、両表面部の平均密度を全体の平均密度よりも高い状態にすることが好ましい。
なお、表面部の平均密度は、絶対値としてある程度以上でなければ、単に全体の平均密度よりも高いだけでは、ブタンの散逸防止に効果的なものとならないおそれを有する。
したがって、本実施形態の発泡シート10xとしては、具体的には、両表面から厚み方向0.2mm深さまで(図1中“A”、“B”部)の平均密度が0.10g/cm3以上の発泡シートを採用することが好ましい。
さらには、この表面スキン層の表層気泡膜厚(発泡シートの表面を形成している気泡膜の厚み)が所定以上の厚みを有していることが好ましく、具体的には7μm以上の表層気泡膜厚を有していることが好ましい。
【0032】
このような表面スキン層を有する発泡シート10xは、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び、発泡剤としてのブタンを含む樹脂組成物からなる溶融混練物を押出発泡してシート化するのに際して押出直後の発泡シートの両面側に冷却風を吹き付けて押出後の表面近傍における気泡の成長を抑制させる方法によって作製可能である。
具体的には、当該発泡シートの形成材料を示差走査熱量分析(DSC)して観察されるガラス転移温度をTg(℃)としたときに、サーキュラーダイなどの押出発泡用の金型に押出機から供給する溶融混練物の温度が、(Tg+45℃)〜(Tg+75℃)の範囲内となるように押出発泡を実施し、作製される発泡シート1m2あたりに0.01m3〜0.15m3となる風量で、室温〜40℃程度の冷却エアを押出直後の発泡シートに吹付けて冷却することで発泡シートの表面に先のような表面スキン層を形成させることができる。
なお、この金型に供給する溶融混練物の温度は、一般的な押出ラインにおいて押出機と金型の間に設置されているヘッド部のブレーカー穴での温度測定によって求めることができる。
【0033】
また、先のような表面スキン層は、押出に利用する金型の温度によっても調整が可能である。
例えば、上記のように樹脂温度が、(Tg+45℃)〜(Tg+75℃)の範囲内の温度となるように押出発泡を実施し、且つ、溶融混練物が吐出される吐出口から押出機側に水平方向に100〜150mm後退した位置における樹脂流路から15mm離れた位置での金型温度を(樹脂温度−50℃)〜(樹脂温度)の範囲内の温度にすることで先のような表面スキン層をより確実に発泡シートに形成させ得る。
【0034】
また、上記のような温度条件での押出や前記冷却風での冷却は、押出時のブタンの散逸防止にも有効であり、発泡シートにおけるブタンの含有量を上記冷却を行わない場合に比べて向上させ得る。
なお、発泡剤としては、溶融樹脂中における拡散速度と発泡への寄与との関係からノルマルブタンとイソブタンの2種類のブタンを適宜選択して用いることができ、発泡シート10xの気泡の状態の調整とブタンの含有量の調整とを図り得る点においては、これらを混合した混合ブタンを発泡剤として用いることが好ましい。
【0035】
また、発泡シート10xからのブタンの散逸防止を図る上においては単に上記のような表面スキン層を設けるのみならず、連続気泡の形成を抑制させることが重要である。
すなわち、本実施形態における前記発泡シート10xとしては、連続気泡率が15%未満であることが好ましい。
【0036】
この発泡シート10xの連続気泡率については、気泡調整剤を利用するなどして調整することができ、具体的には、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び、発泡剤としてのブタンを含む樹脂組成物に、さらに、気泡調整剤を含有させ、この気泡調整剤の種類や量によって調整することができる。
【0037】
なお、本実施形態においては、発泡剤をブタンのみに限定するものではなく、プロパン、ペンタンなどの他の脂肪族炭化水素とブタンとを併用しても良く、炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、カルシウムアジド、ナトリウムアジド、ホウ水素化ナトリウム等の無機系分解型発泡剤や、アゾジカルボンアミド、アゾビスホルムアミド、アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾアミノベンゼン、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジド、p−トルエンスルホニルセミカルバジド、トリヒドラジノトリアジン、バリウムアゾジカルボキシレート等の有機系分解型発泡剤といった前記気泡調整剤としても機能するような分解型発泡剤をブタンに併用させることもできる。
【0038】
また、前記気泡調整剤としては、例えば、タルク、マイカ、シリカ、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ガラスビーズなどの無機化合物粒子、ポリテトラフルオロエチレン、などの有機化合物粒子などが挙げられる。
【0039】
このようにして、本実施形態に係る熱成形品の製造方法においては、樹脂フィルムをラミネートする方法、発泡シートに所定の表面スキン層を形成させる方法、並びに、連続気泡率を所定以下に調整する方法の内の1つ以上の方法を採用して、熱成形品の出発材料となる発泡シート10xに含有させたブタンをより多く熱成形品にまで保持させるようにすることが好ましく、熱成形品における前記ブタンの含有量が、樹脂シートにおける前記ブタンの含有量の0.8倍以上1.0倍以下となるようにすることが好ましい。
【0040】
なお、樹脂シートにおける前記ブタンの含有量と熱成形品における前記ブタンの含有量との割合については、前記樹脂シートが発泡シートである場合には、単純にそれぞれのブタン含有量を比較すればよいが、前記樹脂シートが積層シートである場合には、厳密には、ポリスチレン系樹脂発泡層の部分のみを単離して比較する必要がある。
ただし、発泡シートにラミネートする樹脂フィムルには、通常、ブタンが含有されておらず、又、ポリスチレン系樹脂発泡層に含まれていたブタンが積層シートを熱成形した際にフィルム層側に移行することは殆どなく、移行したとしても無視できる程度に微量であることから前記樹脂シートとして積層シートを用いる場合でも、積層シートと熱成形品とのそれぞれのブタン含有量を比較することでその割合が上記のように0.8倍〜1.0倍の範囲内であるかどうかを確認することができる。
【0041】
なお、表面スキン層の密度や、発泡シート(ポリスチレン系樹脂発泡層)の連続気泡率、熱成形品のポリスチレン系樹脂発泡層や発泡シートにおけるブタンの含有量については、実施例において記載する測定方法によって測定することができる。
【0042】
本実施形態においては、発泡シート10xに含有されているブタンが熱成形品に加工されるまでに散逸することを抑制し得る点において熱成形する樹脂シートとして上記のような積層シート1を例示しているが、これに代えて、発泡シート10xの両面に樹脂フィルムをラミネートした積層シートも採用が可能なものである。
【0043】
その場合には、一面側と他面側とで樹脂フィルムの種類や厚みが異なっていてもよく、発泡シート10xに対するラミネート方法も一面側と他面側とで異なっていてもよい。
例えば、一面側に延伸、又は、無延伸のポリプロピレン樹脂フィルムをドライラミネートして他面側にポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを接着剤を介してラミネートさせてもよい。
【0044】
また、例えば、共押出しによって複数のポリスチレン系樹脂発泡層が積層された発泡シートに樹脂フィルムをラミネートした積層シートも採用可能であり、逆に、前記発泡シート10xそのものを熱成形品の原材料となる樹脂シートとして採用することも可能である。
すなわち、ポリスチレン系樹脂発泡層単独の樹脂シートや、複数のポリスチレン系樹脂発泡層を有する樹脂シートを用いる場合であっても、ポリフェニレンエーテル系樹脂とブタンとを所定の割合で含有しているポリスチレン系樹脂発泡層が熱成形品に形成されていることに変わりがなく、このポリスチレン系樹脂発泡層の靱性向上が図られるという本発明の効果が発揮される点においては、上記例示の積層シート1を用いた場合と同じである。
【0045】
さらに、本発明においては、樹脂シートの形成材料を上記例示のもののみに限定するものではなく、着色剤や各種薬剤を本発明の効果が著しく損なわれない範囲において樹脂シートの形成材料として適宜使用可能なものである。
例えば、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂は、特有の臭気を有していることから、製造する熱成形品が食品用容器のような場合においては、前記発泡シートの形成材料として消臭剤を採用することが好ましく、ゼオライト系やリン酸ジルコニウム系の無機物粒子を消臭剤として含有させることが好ましい。
【0046】
このリン酸ジルコニウム系の無機物粒子は、ポリフェニレンエーテル系樹脂に由来する臭気の発生を防止する効果に優れているため、前記発泡シートの形成材料に採用することで、臭気によって使用者に不快感を与えるおそれを低減させることができる。
また、リン酸ジルコニウム系の無機物粒子は、発泡シートを押出発泡によって作製する際や、該発泡シート或いは該発泡シートが用いられてなる積層シートを熱成形する際においても臭気の発生を防止することができることから、熱成形品の使用者のみならず熱成形品の製造作業者に対しても不快感を与えるおそれを低減させ得るものである。
【0047】
なお、本実施形態に係る熱成形品の製造方法においては、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形といった従来公知の熱成形方法を採用することができ、上記のような樹脂シートを上記のような熱成形方法に供して食品用容器などの熱成形品を作製することができる。
このとき、樹脂シートとして、図1に例示したような発泡シート10xを採用する場合には、食品用容器全体に占めるブタンの含有量が1.5質量%以上になるように熱成形を実施することが靱性に優れた食品用容器を得る上で重要である。
また、前記樹脂シートとして、図2に例示したような積層シート1を採用する場合には、食品用容器の内、ポリスチレン系樹脂発泡層10で占められている部分におけるブタンの含有量が1.5質量%以上になるように熱成形を実施することが靱性に優れた食品用容器を得る上で重要である。
【0048】
このことについてさらに詳述すると、一般的な熱成形品は、成形品の形状が多数配列された成形型を利用して樹脂シートに複数の製品形状を形成させた後で、トムソン刃型などによって、前記製品形状の外周部に沿って切断して個々の製品を取り出すような方法で製造されている。
そして、例えば、食品用トレーや、トレー部と蓋体部とが連設されてなるフードパック等と呼ばれる食品用容器などにおいては、複数の製品を棒状に積み重ねた積層体を、複数本ひと纏りに梱包して容器メーカーから消費地に搬送されたりしている。
【0049】
ここで、一般的なポリスチレン系樹脂シートは、比較的硬質であるために、例えば、前記トムソン刃型による打抜きに際してトムソン刃の側面と容器の切断端面とが擦れ合って細かな切粉が発生したり、あるいは、先程のような状態で搬送されるのに際して棒状の積層体を構成している食品用容器が、隣接する積層体を構成している食品用容器と搬送の振動によって端縁同士が擦れ合う状態となって細かな切粉が発生する場合がある。
【0050】
その一方で、本実施形態に係る熱成形品の製造方法で作製される食品用容器においては、ポリスチレン系樹脂発泡層の形成材料にポリフェニレンエーテル系樹脂が含有されて樹脂の粘り強さが一般的なポリスチレン系樹脂に比べて向上されている上に、ポリスチレン系樹脂発泡層にブタンが所定量以上に含有されていることでブタンによる可塑化作用が当該ポリスチレン系樹脂発泡層に機能して細かな切粉がより一層発生し難い状態となっている。
同様の理由から、本実施形態に係る熱成形品の製造方法で作製される食品用容器は、一般的なポリスチレン系樹脂シートが熱成形されてなる食品用容器において割れを生じるような急激な変形を加えた場合であっても、その変形に追従して当該食品用容器に割れが生じることが抑制される。
以上、説明したように、本実施形態に係る熱成形品の製造方法によれば、ポリスチレン系樹脂発泡層の靱性が、従来の製造方法に比べて向上されることによって、切粉の発生が抑制され、優れた強度を有する食品用容器を提供することができる。
【0051】
なお、本実施形態の熱成形品の製造方法によって得られる食品用容器は、優れた強度を有するとともに、ポリスチレン系樹脂発泡層の形成材料としてポリフェニレンエーテル系樹脂を含有していることから耐熱性においても優れている。
したがって、前記食品用容器としては、その使用態様を限定するものではないが、例えば、収容している食品を電子レンジで加熱するためのレンジアップ容器などが好適な態様として挙げられる。
【0052】
ここでは、本発明の効果がより顕著に発揮される点において熱成形品として食品用容器を例示しているが、本発明の熱成形品の製造方法においては、製造する熱成形品を食品用容器に限定するものではない。
【実施例】
【0053】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
(予備実験)
以下に、樹脂成分がポリスチレン系樹脂のみのポリスチレン系樹脂発泡シートと、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させたポリスチレン系樹脂組成物で作製したポリスチレン系樹脂発泡シートとにおいて割れ難さを評価した事例を示す。
【0055】
(シート1)
ポリスチレン樹脂(DIC社製GPPS(スチレン単独重合体)、商品名「XC−515」)70質量%、及び、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)とポリスチレン樹脂(PS)との混合樹脂(サビック社製、商品名「ノリルEFN4230」、PPE/PS=70/30)30質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、気泡調整剤マスターバッチ(ポリスチレン樹脂ベース、タルク40質量%含有)を1質量部と、消臭成分として東亜合成社製のリン酸ジルコニウム系消臭剤(商品名「ケスモンNS−10」)を0.5質量部含有する樹脂組成物を押出し発泡して、厚み2.0mm、目付け180g/m2のポリスチレン系樹脂発泡シート(シート1)を作製した。
【0056】
(シート2)
GPPS、PPE、及び、消臭成分を含む樹脂組成物に代えてアクリル系モノマーとスチレンモノマーとの共重合体(耐熱性ポリスチレン)を押出し発泡してシート1と同じ厚みで同じ目付けのポリスチレン系樹脂発泡シート(シート2)を作製した。
【0057】
(シート3)
GPPS、PPE、及び、消臭成分を含む樹脂組成物に代えてGPPSのみを押出し発泡してシート1と同じ厚みで同じ目付けのポリスチレン系樹脂発泡シート(シート3)を作製した。
【0058】
(耐熱性評価:示差走査熱量測定)
上記シートから6.5±0.5mgのサンプルを採取し、JIS K7121に基づいて示差走査熱量測定を実施した(使用装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、示差走査熱量計装置、型名「DSC6220」)。
その結果、シート1、シート2のサンプルにおいては、JIS K7121 9.3(1)に記載の「中間点ガラス転移温度(Tmg)」が120℃付近に観察され、シート3のサンプルでは、106℃に観察された。
【0059】
(靱性評価:ダイナタップ衝撃試験)
上記シート1〜3から、100×100mmのテストピースを採取して、該テストピースに対して、ASTM D3763に基づくダイナタップ衝撃試験を実施した(使用装置:General Research Corp.社製、ダイナタップ衝撃試験装置、型名「GRC8250」)。
その結果、シート2のテストピースについては、最大点変位3.2mm、最大荷重29Nという結果となり、シート3のテストピースについては、最大点変位4.0mm、最大荷重36Nという結果となった。
一方でシート1のテストピースについては、最大点変位4.4mm、最大荷重42Nという結果となった。
このことからもシート1は、ポリフェニレンエーテル系樹脂が含有されることによって変位と荷重が大きな、割れ難い状態となっていることがわかる。
【0060】
(評価)
次いで、熱成形品について各種の評価を行った事例を示す。
まず、発泡シート、積層シート、並びに、熱成形品に対する評価方法について説明する。
【0061】
(ブタン含有量)
試料10〜20mgを20ml専用ガラスバイアルに精秤密封し、パーキンスエルマー社製ヘッドスペースサンプラー「TurboMatrixHS40」にセットし、160℃で20分間加熱後、パーキンスエルマー社製ガスクロマトグラフ「Clarus500GC」(検出器:FID)を用いてMHE法にて定量した。
ヘッドスペースサンプラーにおける測定条件は、ニードル温度160℃、試料導入時間0.08分、トランスファーライン温度180℃とした。ガスクロマトグラフにおける測定条件は、カラムをJ&W社製DB−1(0.25mmφ×60m、膜厚1μm、カラム温度:50℃で6分間、40℃/分で270℃まで昇温、270℃で1分間)、キャリアガスをヘリウム(導入条件:18psiで10分間、0.5psi/分で24psiまで増量)、注入口温度を200℃、検出器温度を250℃、レンジ=20、Att=1とした。
【0062】
(表面から0.2mm深さまでの平均密度)
発泡シートの両表面から0.2mm深さの位置でスライスして、そのスライス片の平均密度をJIS K 7222:2005「発泡プラスチック及びゴム−見掛け密度の求め方」に基づいて測定した。
【0063】
(表層気泡膜厚)
発泡シートの任意の位置でシート幅方向(押出方向と直交する方向)に切断し、その切断面を、日立製作所製の走査型電子顕微鏡、型名「S−3000N」を使って200倍の倍率で写真撮影し、発泡シート表面を形成している気泡膜の厚みを任意の10ヶ所で測定しその平均値を表層気泡膜厚とした。
【0064】
(連続気泡率)
なお、発泡シートの連続気泡率は、ASTM D−2856−87に準拠して1−1/2−1気圧法にて測定した。
具体的には、発泡シートを一辺25mmの平面正方形状に切断し、この切断片を厚み方向に複数枚重ね合わせて厚みが約25mmの試験片を作製した。
この要領で5個の試験片を作製し、各試験片の連続気泡率を空気比較式比重計(東京サイエンス社製 商品名「1000型」)を用いて、1−1/2−1気圧法により測定し、その相加平均値を発泡シートの連続気泡率とした。
【0065】
(実施例1)
ポリスチレン系樹脂(DIC社製(GPPS)、商品名「XC−515」)を70質量%、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)とポリスチレン系樹脂(PS)との混合品(サビック社製、商品名「ノリルEFN4230」、PPE/PS=70/30(質量比))を30質量%の割合で含む混合樹脂100質量部に対して発泡剤(混合ブタン:イソブタン(i−ブタン)/ノルマルブタン(n−ブタン)=68/32)を3.5質量部の割合で含む樹脂組成物を押出発泡して厚み1.80mm、目付け150g/m2のポリスチレン系樹脂発泡シートを作製した。
このとき、押出直後の発泡シートの表面を風冷して表面から0.2mm深さまでの平均密度が0.13g/cm3、表層気泡膜厚が16μm、連続気泡率8.5%の発泡シートを作製した。
【0066】
この発泡シートの片面(作製する容器の内側となる面)に接着剤を介してポリスチレン樹脂フィルムと無延伸ポリプロピレン樹脂フィルムとが貼り合わされてなる3層構成を有するドライラミフィルム(ポリスチレン樹脂フィルム層/接着剤層/無延伸ポリプロピレン樹脂フィルム層=15μm/2μm/30μm、total:47μm(CPPS))をドライラミネートし、更に反対面(作製する容器の外側となる面)に弱延伸PSフィルム(CPSフィルム20μ)を熱ラミネートして積層シートを作製した。
そして、この積層シートを熱成形して食品用容器を形成させた。
具体的には、発泡シートの押出し方向(MD方向)が長手方向となるようにして、165mm×115mmの長方形の開口を有するとともに110mm×70mmの長方形の底面を有する深さ40mmの角形トレーを形成させた。
なお、前記熱成形は、発泡シートの製造時期に対して2ヶ月を超過する時期において実施した。
得られた食品用容器におけるi−ブタン含有量は、1.65質量%であり、n−ブタン含有量は、0.39質量%であった。
すなわち、容器のブタン含有量は、2.04質量%であった。
【0067】
ここで、ポリスチレン系樹脂発泡層についてのブタン含有量は測定しなかったが、少なくとも、ドライラミフィルム等にブタンは含有されていないことからポリスチレン系樹脂発泡層におけるブタン含有量は容器全体に占めるブタン含有量(2.04質量%)以上であることがわかる。
また、熱成形前の積層シートについて同様にブタン含有量を測定して、この容器のブタン含有量と比較したところ該積層シートのブタン含有量に対する容器のブタン含有量が約103%となっていることがわかった。
なお、本来、100%を超えることは考えられないため、3%分は測定誤差であると見られる。
すなわち、誤差を勘案しても、積層シート時点で存在していたブタンが略完全に残存していることがわかった。
【0068】
(実施例2)
ドライラミフィルムのラミネートを一面側のみとしたこと以外は、実施例1と同様に容器を作製した。
この実施例2の容器におけるi−ブタン含有量は、1.41質量%であり、n−ブタン含有量は、0.38質量%(合計ブタン含有量:1.79質量%)であった。
また、熱成形前の積層シートに対する容器のブタン含有量は、約89%であった。
この実施例2の結果と、先の実施例1の結果とを勘案すると、発泡シートの両面を樹脂フィルムでラミネートした方がブタンの散逸防止に有利であることがわかる。
【0069】
(比較例1)
表面にラミネートが施されておらず、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含んでいない、一般的なポリスチレン系樹脂発泡シート(目付け105g/m2)を用いて同様に容器を形成させた。
この容器には、ブタンが2.44質量%含有されていたが、実施例1、2で得られた容器に比べて割れ易く、切粉が発生しやすいものであった。
このことからも、ブタンの含有量のみならず、ポリフェニレンエーテル系樹脂を所定量存在させることが割れ難く、切粉の発生が抑制された熱成形品を形成させる上で重要であることがわかる。
【0070】
(容器の評価:「割れ」の発生、及び、「切粉」の発生状況)
各実施例、比較例において、作製した角型トレーをそれぞれ40個用意し、その内20個を長手方向(MD方向)に向けて開口部の長さが30mm短くなる(165mm⇒135mm)ように圧縮し、残りの20個については、短手方向(TD方向)に向けて開口部の長さが30mm短くなる(115mm⇒85mm)ように圧縮し、開口縁部における「割れ」の発生状況を評価した。
この割れの発生率が10%以上のものを「×」判定とし、10%未満のものを「○」と判定した。
また、成型品100個の内外面に切粉が付着しているかどうかを確認する方法によって「切粉」の発生状況を評価した。
得られた結果に基づいて、切粉の見られる成形品が0個であった場合(切粉の付着が全ての成形品において見られなかった場合)を「○」、1個以上でも切粉の見られる成形品があった場合を「×」と判定した。
結果を、下記表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
(実施例3)
ドライラミフィルムをラミネートせずに単なる発泡シートを用いたこと以外は、実施例1と同様に容器を作製し、同様に評価した。
この実施例3の容器におけるi−ブタン含有量は、1.21質量%であり、n−ブタン含有量は、0.33質量%(合計ブタン含有量:1.54質量%)であった。
また、熱成形前の発泡シートに対する容器のブタン含有量は、約80%であった。
この実施例3の結果からも発泡シートを樹脂フィルムでラミネートした方がブタンの散逸防止に有利であることがわかる。
【0073】
(実施例4〜6)
ポリスチレン系樹脂(商品名「XC−515」)と混合樹脂(商品名「ノリルEFN4230」、PPE/PS=70/30)との比率を70:30に代えて80:20とし全体に占めるポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量を約14質量%としたこと以外は、実施例1〜3と同様に発泡シート(積層シート)を作製し、実施例1〜3と同様に容器を作製し、同様に評価した。
ただし、ドライラミフィルムをラミネートした積層シートを用いている場合においては、ブタンの含有量の測定直前においてフィルムを剥離し、ポリスチレン系樹脂発泡層のみの状態で測定した。
結果、実施例1と同様に、両面にドライラミフィルムをラミネートした積層シートを用いた実施例4では、容器のポリスチレン系樹脂発泡層におけるi−ブタン含有量は、1.72質量%であり、n−ブタン含有量は、0.43質量%(合計ブタン含有量:2.15質量%)であった。
また、熱成形前の積層シートのポリスチレン系樹脂発泡層におけるブタン含有量に対するこの容器のブタン含有量は、約96%であった。
また、実施例2と同様に、片面にドライラミフィルムをラミネートした積層シートを用いた実施例5では、容器のポリスチレン系樹脂発泡層におけるi−ブタン含有量は、1.51質量%であり、n−ブタン含有量は、0.44質量%(合計ブタン含有量:1.95質量%)であった。
また、熱成形前の積層シートのポリスチレン系樹脂発泡層におけるブタン含有量に対するこの容器のブタン含有量は、約87%であった。
さらに、実施例3と同様に、発泡シートそのものを用いた実施例6では、容器におけるi−ブタン含有量は、1.47質量%であり、n−ブタン含有量は、0.34質量%(合計ブタン含有量:1.81質量%)であった。
また、熱成形前の発泡シートにおけるブタン含有量に対するこの容器のブタン含有量は、約81%であった。
【0074】
(比較例2〜4)
ポリスチレン系樹脂(商品名「XC−515」)と混合樹脂(商品名「ノリルEFN4230」、PPE/PS=70/30)との比率を70:30に代えて90:10とし全体に占めるポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量を約7質量%としたこと以外は、実施例1〜3と同様に発泡シート(積層シート)を作製し、実施例1〜3と同様に容器を作製した。
実施例1と同様に、両面にドライラミフィルムをラミネートした積層シートを用いた比較例2では、容器のポリスチレン系樹脂発泡層におけるi−ブタン含有量は、1.81質量%であり、n−ブタン含有量は、0.45質量%(合計ブタン含有量:2.26質量%)であった。
また、熱成形前の積層シートのポリスチレン系樹脂発泡層におけるブタン含有量に対するこの容器のブタン含有量は、約97%であった。
また、実施例2と同様に、片面にドライラミフィルムをラミネートした積層シートを用いた比較例3では、容器のポリスチレン系樹脂発泡層におけるi−ブタン含有量は、1.67質量%であり、n−ブタン含有量は、0.39質量%(合計ブタン含有量:2.06質量%)であった。
また、熱成形前の積層シートのポリスチレン系樹脂発泡層におけるブタン含有量に対する容器のブタン含有量は、約88%であった。
さらに、実施例3と同様に、発泡シートそのものを用いた比較例4では、容器におけるi−ブタン含有量は、1.47質量%であり、n−ブタン含有量は、0.39質量%(合計ブタン含有量:1.86質量%)であった。
また、熱成形前の発泡シートにおけるブタン含有量に対するこの容器のブタン含有量は、約80%であった。
【0075】
(比較例5〜7)
実施例1〜3と同様に、ポリスチレン系樹脂(商品名「XC−515 」)と混合樹脂(商品名「ノリルEFN4230」、PPE/PS=70/30)とを70:30の比率で含有する発泡シート、および、該発泡シートにドライラミフィルムをラミネートした積層シートを用いて実施例1〜3と同様に、容器を作製した。
なお、この比較例5〜7では、押出直後のシート表面冷却風量を下げ、注入ガス量を調整することにより、実施例1〜3において用いた積層シートや発泡シートに比べてブタンの含有量が少ない積層シートや発泡シートを用いて容器を作製した。
実施例1と同様に、両面にドライラミフィルムをラミネートした積層シートを用いた比較例5では、容器のポリスチレン系樹脂発泡層におけるi−ブタン含有量は、1.30質量%であり、n−ブタン含有量は、0.18質量%(合計ブタン含有量:1.48質量%)であった。
また、熱成形前の積層シートのポリスチレン系樹脂発泡層におけるブタン含有量に対するこの容器のブタン含有量は、約90%であった。
また、実施例2と同様に、片面にドライラミフィルムをラミネートした積層シートを用いた比較例6では、容器のポリスチレン系樹脂発泡層におけるi−ブタン含有量は、1.29質量%であり、n−ブタン含有量は、0.11質量%(合計ブタン含有量:1.40質量%)であった。
また、熱成形前の積層シートのポリスチレン系樹脂発泡層におけるブタン含有量に対する容器のブタン含有量は、約82%であった。
さらに、実施例3と同様に、発泡シートそのものを用いた比較例7では、容器におけるi−ブタン含有量は、1.07質量%であり、n−ブタン含有量は、0.19質量%(合計ブタン含有量:1.26質量%)であった。
また、熱成形前の発泡シートにおけるブタン含有量に対するこの容器のブタン含有量は、約75%であった。
【0076】
(比較例8)
この比較例8では、両面にドライラミフィルムをラミネートした積層シートを用い容器を作製した。
この比較例8の容器のポリスチレン系樹脂発泡層におけるi−ブタン含有量は、1.25質量%であり、n−ブタン含有量は、0.22質量%(合計ブタン含有量:1.47質量%)であった。
また、熱成形前の積層シートのポリスチレン系樹脂発泡層におけるブタン含有量に対するこの容器のブタン含有量は、約78%であった。
これらの評価結果を、下記表2、3に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
以上のことからも、ポリスチレン系樹脂との合計に占める割合が10質量%以上となるようにポリフェニレンエーテル系樹脂を含有するポリスチレン系樹脂発泡層にブタンを1.5質量%以上含有させることで切粉の発生を抑制させることができ、優れた強度を食品用容器等に付与し得ることがわかる。
即ち、本発明によれば、前記ポリスチレン系樹脂発泡層に対する靱性付与に有効な熱成形品の製造方法が提供されるとともに、優れた強度を有し、且つ、切粉の発生が抑制された食品用容器が提供されることがわかる。
【0080】
(参考実験)
ポリフェニレンエーテル系樹脂を含むポリスチレン系樹脂組成物と、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まないポリスチレン系樹脂組成物とを共押出して、実施例1における発泡シートに相当する層と比較例1における発泡シートに相当する層の2層構成の発泡シートを作製した。
実施例1、2と同様に、この発泡シートに対して両面フィルムラミネートした積層シートと片面のみにドライラミネートを施した積層シートを作製し、実施例1、2と同様に熱成形品を作製した。
【0081】
結果、両面ラミネート品のブタン含有量が2.34質量%(i−ブタン:1.99質量%で、n−ブタン:0.35質量%)で、片面ラミネート品のブタン含有量が2.31質量%(i−ブタン:1.93質量%で、n−ブタン:0.38質量%)となっており、両面ラミネートしたものの方が、熱成形品に多くのブタンが含有されていることがわかった。
【0082】
また、発泡シートの作製から熱成形までの時期を約1ヶ月にして同様の比較を実施したが、やはり、両面ラミネート品のブタン含有量が2.57質量%(i−ブタン:1.98質量%で、n−ブタン:0.59質量%)で、片面ラミネート品のブタン含有量が2.44質量%(i−ブタン:1.90質量%で、n−ブタン:0.54質量%)となっており、両面ラミネートしたものの方が熱成形品に多くのブタンが含有されていることがわかった。
【符号の説明】
【0083】
1:積層シート(樹脂シート)、10:ポリスチレン系樹脂発泡層、10x:ポリスチレン系樹脂発泡シート、20:フィルム層、A,B:表面スキン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂発泡層を有する樹脂シートを熱成形して熱成形品を作製する熱成形品の製造方法であって、
ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂とを10:90〜50:50の質量割合で含有する混合樹脂をブタンを含む発泡剤で発泡させてなるポリスチレン系樹脂発泡層を有する前記樹脂シートを用いて、前記ポリスチレン系樹脂発泡層で形成されている箇所にブタンを1.5質量%以上含有する熱成形品を作製することを特徴とする熱成形品の製造方法。
【請求項2】
熱成形品における前記ブタンの含有量が、樹脂シートにおける前記ブタンの含有量の0.8倍以上1.0倍以下となるように前記熱成形を実施する請求項1記載の熱成形品の製造方法。
【請求項3】
ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂とを10:90〜50:50の質量割合で含有する混合樹脂をブタンを含む発泡剤ともに押出発泡させてなるポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に樹脂フィルムがラミネートされて前記ポリスチレン系樹脂発泡層とともに前記樹脂フィルムからなるフィルム層を有する前記樹脂シートを熱成形する請求項1又は2記載の熱成形品の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、延伸ポリプロピレン樹脂フィルム、及び、無延伸ポリプロピレン樹脂フィルムの内のいずれかである請求項3記載の熱成形品の製造方法。
【請求項5】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートの両表面部における平均密度が当該ポリスチレン系樹脂発泡シート全体の平均密度よりも高く、両表面から厚み方向0.2mm深さまでの平均密度が0.10g/cm3以上であり、且つ、表層気泡膜厚が7μm以上である請求項3又は4記載の熱成形品の製造方法。
【請求項6】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートの連続気泡率が15%未満である請求項3乃至5のいずれか1項に記載の熱成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の熱成形品の製造方法によって作製されたことを特徴とする食品用容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−66575(P2012−66575A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160137(P2011−160137)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【特許番号】特許第4848476号(P4848476)
【特許公報発行日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】