説明

熱硬化性樹脂組成物、熱硬化性接着シート及び熱硬化性接着シートの製造方法

【課題】 紫外線照射等をすることなく、加熱加圧成形時における未反応のエポキシ樹脂等のしみ出し性が良好である熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むアクリル共重合体と、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂用の硬化剤とを含有し、硬化剤が有機酸ジヒドラジドを含み、1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンにより、アクリル共重合体のエポキシ基部分が、部分的に架橋されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル共重合体と、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂用の硬化剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物、熱硬化性接着シート及び熱硬化性接着シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuits 以下、「FPC」という。)用途に使用される接着材には、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂の硬化剤との混合物を硬化成分として、剥離強度の改良や可撓性を付与するために、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR:Nitril-Butadiene Rubber)(以下、「NBR」という。)等が配合される。このNBRとしては、良好な半田耐熱性を得るために、エポキシ樹脂と架橋可能なカルボキシル基とを含有する樹脂系組成物が広く用いられている(特許文献1を参照)。
【0003】
FPC用途に使用される接着組成物は、多量のエポキシ樹脂を含有するため、加熱加圧成形時に未反応のエポキシ樹脂等が多量にしみ出してしまい、カバーレイや補強板等に設けられた穴開け部を塞いでしまう問題があった。
【0004】
特許文献2には、紫外線(UV)硬化樹脂を接着組成物に含有させ、穴開け部に紫外線を照射して硬化させることで、接着組成物が穴開け部からしみ出すのを防止する方法が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献2に記載された技術では、紫外線照射の工程が追加されるため、この紫外線照射の工程のための設備投資や、保管時に紫外線を避けるための特殊な保管状態が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04−370996号公報
【特許文献2】特開昭62−85941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、紫外線照射等をすることなく、加熱加圧成形時における未反応のエポキシ樹脂等のしみ出し性が良好である熱硬化性樹脂組成物、熱硬化性接着シート及び熱硬化性接着シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むアクリル共重合体と、エポキシ樹脂と、該エポキシ樹脂用の硬化剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンにより、前記アクリル共重合体のエポキシ基部分が部分的に架橋されている。
【0009】
本発明に係る熱硬化性接着シートは、基材フィルム上に、前記熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が形成されてなる。
【0010】
本発明に係る熱硬化性接着シートの製造方法は、有機溶媒に溶解したエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むアクリル共重合体と、1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンとを混合し、該アクリル共重合体のエポキシ基部分を、該液状のポリアミン又はポリアミドアミンによって部分的に架橋させる架橋工程と、前記エポキシ基部分が架橋されたアクリル共重合体を含む有機溶媒に、エポキシ樹脂と、有機酸ジヒドラジドを含む該エポキシ樹脂用の硬化剤とを溶解させることにより、熱硬化性接着層形成用塗料を調製する調製工程と、前記熱硬化性接着層形成用塗料を基材フィルム上に塗布し、乾燥することにより、熱硬化性接着層を形成する熱硬化性接着層形成工程とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンにより、アクリル共重合体のエポキシ基部分が部分的に架橋されるため、加熱加圧成形時における未反応のエポキシ樹脂等のしみ出し性を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】試験片の作製方法を説明するための工程図である。
【図2】しみ出し性の測定方法に用いるビク型の一例を模式的に示す平面図である。
【図3】しみ出し性測定用の試験片の一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した熱硬化性樹脂組成物、熱硬化性接着シート及び熱硬化性接着シートの製造方法の具体的な実施の形態の一例について、図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.熱硬化性樹脂組成物
1−1.アクリル共重合体
1−2.エポキシ樹脂
1−3.硬化剤
1−4.1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミン
2.熱硬化性樹脂組成物の製造方法
3.熱硬化性接着シート
4.熱硬化性接着シートの製造方法
5.他の実施の形態
6.実施例
【0014】
<1.熱硬化性樹脂組成物>
本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むアクリル共重合体と、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂用の硬化剤とを含有する。
【0015】
<1−1.アクリル共重合体>
アクリル共重合体は、フィルム成形時に成膜性をもたせ、硬化物に可撓性、強靭性を付与するためのものである。アクリル共重合体は、例えば、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、アクリロニトリルモノマーと、エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとを共重合させたものである。
【0016】
<エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー>
エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、エポキシ樹脂用硬化剤と反応し、熱硬化性樹脂組成物の硬化物に3次元架橋構造を形成するために用いられる。3次元架橋構造が形成されると、硬化物の耐湿性及び耐熱性が向上する。例えば、熱硬化性樹脂組成物の硬化物でフレキシブルプリント配線板に接着固定された補強樹脂シートからなる補強フレキシブルプリント配線板を260℃以上でのはんだ処理(例えば、はんだリフロー処理)を行った場合でも、その接着固定部に吸湿を原因とする膨れ現象が発生することを防止することができる。
【0017】
このようなエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、電子部品分野に適用されている従来のアクリル系熱硬化性接着剤で使用されているものから適宜選択して使用することができる。例えば、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、グリシジルアクリレート(GA)、グリシジルメタクリレート(以下、「GMA」という)が挙げられる。これらのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの中では、安全性、市場での入手が容易である観点から、GMAを使用することが好ましい。なお、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
アクリル共重合体を調整する際に使用する全モノマーにおけるエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの量は、少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると剥離強度が低下する傾向があるため、3〜15質量%とするのが好ましい。
【0019】
<アクリロニトリルモノマー>
アクリロニトリルモノマーは、耐熱性を向上させるために用いられる。例えば、アクリルニトリルモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。アクリロニトリルモノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
アクリル共重合体を調整する際に使用する全モノマーにおけるアクリルニトリルモノマーの量は、少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると溶剤に溶解し難くなるため、好ましくは20〜35質量%、より好ましくは25〜30質量%である。
【0021】
<エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー>
エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、電子部品分野に適用されている従来のアクリル系熱硬化性接着剤で使用されているものから適宜選択して使用することができる。エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート(MA)、エチルアクリレート(EA)、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、i−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、i−ノニルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、i−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、i−ノニルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、i−ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。これらのエポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの中では、ブチルアクリレート、エチルアクリレートを用いるのが好ましい。これらエポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
アクリル共重合体を調整する際に使用する全モノマーにおけるエポキシ樹脂非含有モノマーの量は、少なすぎると基本特性が低下し、多すぎると耐熱性が低下する傾向があるので、60〜75質量%、より好ましくは65〜70質量%である。
【0023】
<重量平均分子量>
アクリル共重合体は、重量平均分子量が小さすぎると、剥離強度及び耐熱性が低下し、重量平均分子量が大きすぎると、溶液粘度が上がり塗布性が悪化する傾向がある。そこで、アクリル共重合体の重量平均分子量は、50万〜70万、より好ましくは、55万〜65万とするのが好ましい。
【0024】
<1−2.エポキシ樹脂>
熱硬化性樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂は、3次元網目構造を形成し、接着性を良好にするために用いられる。
【0025】
エポキシ樹脂としては、電子部品分野に適用されている従来のエポキシ樹脂系熱硬化性接着剤で使用されている液状又は固体状のエポキシ樹脂から適宜選択して使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ポリアルキレンポリオール(ネオポンチルグリコール等)ポリグリシジエーテル、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルヘキシルメチル)アジペート等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
エポキシ樹脂の使用量は、少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると接着性が低下する傾向があるため、アクリル共重合体100質量部に対して、好ましくは5〜30質量部であり、より好ましくは5〜20質量部である。
【0027】
<1−3.硬化剤>
熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂の硬化剤として、有機酸ジヒドラジドを含んでいる。硬化剤として有機酸ジヒドラジドを用いることにより、常温で固体ある熱硬化性樹脂組成物の常温保管性を向上させることができる。
【0028】
有機酸ジヒドラジドは、平均粒径が0.5〜15μmであり、均一に分散されていることが好ましい。有機酸ジヒドラジドの平均粒径が0.5μm未満であると、熱硬化性樹脂組成物の塗布のための有機溶剤を使用した場合に、有機酸ジヒドラジド粒子が溶解する可能性が高まり、常温保管性が低下するおそれがある。有機酸ジヒドラジドの平均粒径が15μmより大きいと、熱硬化性樹脂組成物の塗布性が低下し、粒度が大きいためアクリルポリマーやエポキシ樹脂との溶融時に十分に混合できなくなるおそれがある。
【0029】
有機酸ジヒドラジドとしては、エポキシ樹脂の硬化剤として従来から使用されている有機酸ジヒドラジドの中から適宜選択することができる。例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、ヘキサデカンジホラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’−ビスベンゼンヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、アミキュアVDH、アミキュアUDH(商品名、味の素(株)製)、クエン酸トリヒドラジド、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド等が挙げられる。有機酸ジヒドラジドは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これら有機酸ジヒドラジドの中では、比較的低融点であり、硬化性のバランスに優れ、入手が容易である観点から、アジピン酸ジヒドラジド又は7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジドを使用することが好ましい。
【0030】
硬化剤は、使用量が少なすぎると、未反応のエポキシ基が残り、架橋が十分ではないため、耐熱性、接着性が低下してしまう。また、硬化剤の使用量が多すぎると、過剰の硬化剤が未反応のまま残るため、耐熱性、接着性が低下してしまう傾向がある。そこで、硬化剤の使用量は、アクリル共重合体及びエポキシ樹脂の合計100質量部に対して、2〜15質量部とするのが好ましい。
【0031】
<1−4.1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミン>
熱硬化性樹脂組成物は、1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンによって、アクリル共重合体のエポキシ基部分が、部分的に架橋されている。このように、熱硬化性樹脂組成物におけるアクリル共重合体のエポキシ基を部分的に架橋することにより、熱硬化性樹脂組成物のしみ出し性を調整して、加熱加圧成形時における未反応のエポキシ樹脂等のしみ出し性を良好にすることができる。ここで、しみ出し性が良好とは、例えば、加熱加圧成形時における未反応のエポキシ樹脂のしみ出し量が少ないことをいう。1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有するポリアミン又はポリアミドアミンは、エポキシ樹脂と常温で硬化する観点から、液状のものが好ましい。
【0032】
1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンとしては、例えば、脂肪族ポリアミンである鎖状脂肪族ポリアミン、環状脂肪族ポリアミン等が挙げられる。鎖状脂肪族ポリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンポリアミン、テトラエチレンペンタミン、トリエチレンテトラミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミンが挙げられる。環状脂肪族ポリアミンとしては、例えば、メンセンジアミン、イソホロンジアミンが挙げられる。ここで、3級アミノ基を有するポリアミン又はポリアミドアミンは、架橋する際の反応速度を制御するのが困難であり、更にエポキシ樹脂に対してアニオン重合型硬化剤として働くことによりエポキシ樹脂自体の重合が起きるため、架橋量をコントロールするのが困難という理由から、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物に使用するのは好ましくない。
【0033】
本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、好ましくは、アクリル共重合体のエポキシ基部分の1%以上、より好ましくは、アクリル共重合体のエポキシ基部分の3〜12%が、1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンによって架橋されている。アクリル共重合体において架橋されたエポキシ基部分が1%未満の場合には、加熱加圧成形時における未反応のエポキシ樹脂等のしみ出し性が、十分に良好な状態とはならない。また、アクリル共重合体において架橋されたエポキシ基部分が12%より多い場合には、しみ出し性については問題ないものの、硬化反応が進行しすぎてしまい、常温保管性が不良となってしまう。なお、エポキシ基が架橋された割合は、厳密に測定することは困難であるが、例えば、DSC(Differential Scanning Calorimetry)測定の発熱量を観察することで、およその割合を算出することができる。
【0034】
このように、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、アクリル共重合体のエポキシ基部分の3〜12%が、1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有するポリアミン又はポリアミドアミンによって架橋されていることが特に好ましい。これにより、接着剤のしみ出し量を調整し、加熱加圧成形時における未反応のエポキシ樹脂等のしみ出し性を良好にするとともに、長期に亘って良好なフィルムの常温保管性を示すことができる。
【0035】
また、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、硬化剤として有機酸ジヒドラジドを含むことにより、常温保存安定性に優れ、冷蔵庫等の設備が不要となり、運搬、保管等の取り扱いを非常に容易にすることができる。
【0036】
さらに、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、優れた接着強度を有するため、ポリイミドフィルム、金属板に対して高い接着性を維持することができる。また、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、吸湿はんだ耐熱性に優れているため、例えば、夏場などの高湿度下でも、実装時の耐無鉛はんだリフロー性を良好とすることができる。
【0037】
<2.熱硬化性樹脂組成物の製造方法>
本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、アクリル共重合体と、エポキシ樹脂と、硬化剤と、1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンとを、常法により均一に混合することにより調整することができる。熱硬化性樹脂組成物の形態としては、例えば、ペースト、フィルム、分散液状が挙げられる。
【0038】
熱硬化性樹脂組成物は、例えば次の方法により製造することができる。有機溶剤に溶解したアクリル共重合体と、1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンとを攪拌機で混合しながら反応させる。混合後、この有機溶剤に、エポキシ樹脂及び硬化剤を所定量投入して、熱硬化性樹脂組成物となる接着剤溶液を作製することができる。
【0039】
<3.熱硬化性接着シート>
熱硬化性接着シートは、例えば、基材フィルム(剥離基材)上に上述した熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が形成されてなるものである。基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。熱硬化性接着シートは、保管性や使用時のハンドリング性等の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等に必要に応じてシリコーン等で剥離処理した基材フィルムに、熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が10〜50μmの厚さで成形されていることが好ましい。
【0040】
<4.熱硬化性接着シートの製造方法>
熱硬化性接着シートは、例えば次の方法により製造することができる。熱硬化性接着シートの製造方法は、アクリル共重合体のエポキシ基部分の1〜15%を、液状のポリアミン又はポリアミドアミンによって架橋させる架橋工程と、熱硬化性接着層形成用の塗料を調製する調製工程と、熱硬化性接着層を形成する熱硬化性接着層形成工程とを含む。
【0041】
架橋工程では、有機溶媒に溶解したエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むアクリル共重合体と、1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンとを混合する。これにより、アクリル共重合体のエポキシ基部分を、液状のポリアミン又はポリアミドアミンによって部分的に架橋させる。アクリル共重合体及び液状のポリアミン又はポリアミドアミンとしては、上述した化合物を用いることができる。
【0042】
調製工程では、有機溶剤に応じた粘度となるように熱硬化性樹脂組成物を投入し、硬化剤を有機溶剤中に分散させ、アクリル共重合体及びエポキシ樹脂を有機溶剤中に溶解させることにより、熱硬化性接着層形成用塗料を調製する。有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、トルエン等を用いることができる。調製工程では、全有機酸ジヒドラジド粒子の70質量%が、室温下で熱硬化性接着層形成用塗料中に固体粒子として分散していることが好ましい。これにより、熱硬化性接着シートの常温保管性を高めることができる。
【0043】
熱硬化性接着層形成工程では、調製工程で調整した熱硬化性接着層形成用塗料を、乾燥厚が10〜50μmとなるように基材フィルム上にバーコーター、ロールコーター等で塗布し、常法により乾燥させ熱硬化性接着層を形成する。これにより、熱硬化性接着層シートを得ることができる。
【0044】
上述した熱硬化性樹脂組成物及び熱硬化性接着シートは、例えば、電子部品分野に好ましく適用することができる。特に、熱硬化性接着シートは、フレキシブルプリント配線板の端子部等と、その裏打ちするためのポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ガラスエポキシ、ステンレス、アルミニウム等の厚さ50μm〜2mmの補強用樹脂シートとを接着固定するために好ましく適用できる。これにより、フレキシブルプリント配線板の端子部と補強用樹脂シートとが、本実施の形態に係る硬化性接着層シートの基材フィルムを除いた熱硬化性接着層の熱硬化物で接着固定されてなる補強フレキシブルプリント配線板を得ることができる。
【0045】
<5.他の実施の形態>
本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、上述した成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて有機酸ジヒドラジドの溶解を促進させない金属不活性剤、消泡剤、防錆剤、分散剤等の公知の添加材が配合されていてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記の実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0047】
(材料)
・アクリル共重合体
ブチルアクリレート(BA)、エチルアクリレート(EA」、アクリロニトリル(AN)、グリシジルメタクリレート(GMA)
【0048】
・エポキシ樹脂
JER828、JER1001
【0049】
・硬化剤
4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド(UDH)
【0050】
・1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミン
トリエチレンテトラミン及びその変性物の混合物
【0051】
・カルボキシル基含有NBR
ニポール1072J
【0052】
(熱硬化接着層形成用塗料の調製)
表1に示すモノマーからなるアクリル共重合体を用意した。有機溶剤に溶解したアクリル共重合体と、トリエチレンテトラミン及びその変性物の混合物とを、表1の組成になるように計りとり、攪拌機で混合しながら2時間反応させ、アクリル共重合体のエポキシ基部分をトリエチレンテトラミン及びその変性物の混合物によって部分的に架橋させた。混合後、エポキシ樹脂、硬化剤を所定量投入し、表1の組成となる熱硬化性接着層形成用塗料(接着剤溶液)を作製した。なお、比較例1では、トリエチレンテトラミン及びその変性物の混合物を混合しなかった。
【0053】
(熱硬化性接着シートの作製)
得られた熱硬化性接着層形成用塗料を、剥離処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、50〜130℃の乾燥炉中で乾燥し、35μm厚の熱硬化性接着層を形成することにより、熱硬化性接着シートを作製した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1において、「BA」は、ブチルアクリレート、「EA」は、エチルアクリレート、「AN」は、アクリロニトリル、「GMA」は、グリシジルメタクリレート、「DDS」は、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、「UDH」は、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジドを示す。また、表1において、アクリル共重合体、エポキシ樹脂、硬化剤、1級又は2級の液状アミン及びカルボキシル基含有NBRの添加量の単位は、それぞれ質量部である。
【0056】
表1において、「1級又は2級の液状アミンの実配合量」とは、実際に添加したトリエチレンテトラミン及びその変性物の量(質量部)を示す。
【0057】
表1において、「アクリルゴム中のエポキシ基の架橋割合」とは、アクリル共重合体のエポキシ基部分が、トリエチレンテトラミン及びその変性物の混合物によって架橋されている割合(%)を示す。
【0058】
(しみ出し性評価)
しみ出し性の評価は、次のようにして行った。図1(A)に示すように、35μmにフィルム化した熱硬化性接着層1の表面に、軽剥離タイプの剥離フィルム(以下、「軽面側フィルム」という)2と、重剥離タイプの剥離フィルム(以下、「重面側フィルム」という)3とが設けられたダブルセパレート(両面剥離)タイプに加工した接着シート4を準備した。図1(B)に示すように、接着シート4の軽面側フィルム2を剥し、図1(C)に示すように175μmのポリイミドフィルム5に、100℃、1m/min、5kg/cmの条件でラミネートした。図1(D)及び図1(E)に示すように、ポリイミドフィルム5にラミネートした接着シート4を、図2に示すビク型6を用いて、接着シート4をポリイミドフィルム5側から打抜いた。図1(F)に示すように、ポリイミドフィルム5側から打抜いた接着シート4のサンプルの重面側フィルム3を剥がし、銅7とポリイミドフィルム8とからなるCCL(copper clad laminate)9をラミネートした。これにより、試験片10を作製した。試験片10は、図1(G)及び図3に示すように、短辺が50mm、長辺が100mmであり、試験片10の短手方向(厚さ方向)に、直径10mm、直径5mm及び直径3mmのしみ出し性の測定用の穴が形成されている。
【0059】
しみ出し性は、試験片10を170℃、2MPa、1分の条件でプレスし、プレス後の打抜き断面からの熱硬化性接着層1のしみだし量を、光学顕微鏡により測定した。しみ出し性の測定結果を表1に示す。表1において、しみ出し性が「○」とは、試験片10に設けられた穴からしみ出した熱硬化性接着層1のはみ出し幅が50〜100μmであることを示す。しみ出し性が「△」とは、試験片10に設けられた穴からしみ出した熱硬化性接着層1のはみ出し幅が100〜200μmであることを示す。しみ出し性が「×」とは、しみ出した熱硬化性接着層1のはみ出し幅が200μm以上であることを示す。
【0060】
(剥離強度の評価)
剥離強度の評価は、次のようにして行った。得られた直後の熱硬化性接着性シートを所定の大きさの短冊(5cm×10cm)にカットし、その熱硬化性接着層を、175μmのポリイミドフィルム(175AH、カネカ(株)製)に80℃に設定したラミネータで仮貼りした後、基材フィルムを取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、同じ大きさの50μm厚のポリイミドフィルム(200H、デュポン社製)を上から重ね合わせ、170℃で2.0MPaの圧力で60秒間加熱加圧した後、140℃のオーブン中に60分間保持した。
【0061】
また、短冊(5cm×10cm)にカットした熱硬化性接着シートの熱硬化性接着層を0.5mmのSUS304板又は厚さ1mmのガラスエポキシ板に押し当てて仮貼りした後、基材フィルムを取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、短冊状の厚さ50μmのポリイミドフィルム(5cm×10cm)を上から重ね合わせ、170℃で2.0MPaの圧力で60秒間加熱加圧した後、140℃のオーブン中に60分間保持した。
【0062】
オーブン中での保持後、ポリイミドフィルムに対し、剥離速度50mm/minで90度剥離試験を行い、引き剥がすのに要した力を測定した。測定結果を表1に示す。剥離強度は、実用上10N/cmであることが望まれている。
【0063】
(吸湿リフロー半田耐熱性試験)
吸湿リフロー半田耐熱性試験は、次のようにして行った。短冊(2cm×2cm)にカットした熱硬化性接着性シートの熱硬化性接着層を、175μm厚のポリイミドフィルム(アピカル175AH、カネカ(株)製)に80℃に設定したラミネータで仮貼りした。熱硬化性接着性シートから剥離基材を取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、同じ大きさの厚さ50μm厚のポリイミドフィルム(カプトン200H、デュポン社製)を上から重ね合わせ、170℃で2.0MPaの圧力で60秒間加熱加圧した後、140℃のオーブン中で60分間保持した。加熱硬化した試験片を40℃、90RHの湿熱オーブンで96時間放置した。
【0064】
湿熱処理直後の試験片をトップ温度260℃−30秒に設定したリフロー炉を通過させ、通過後の試験片に膨れ、剥がれ等の外観異常がないかを目視観察した。観察結果を表1に示す。表1において、吸湿リフロー半田耐熱性が「A」とは、外観に全く問題がなかった場合を示す。吸湿リフロー半田耐熱性が「C」とは、試験片に発泡による膨れが観察された場合を示す。
【0065】
(常温保管性について)
常温保管性は、次のようにして評価した。表1において、常温保管性が「○」とは、剥離強度の値が初期と比較して低下率が30%以内、且つ、吸湿半田リフロー性の変化がないことを示す。また、常温保管性が「×」とは、剥離強度の値が初期と比較して低下率が30%以上、又は、吸湿半田リフロー性が変化した場合を示す。
【0066】
実施例1〜実施例5で得られた熱硬化性接着シートは、アクリル共重合体のエポキシ基部分の0.5〜18%が、トリエチレンテトラミン及びその変性物の混合物によって架橋されている。そのため、実施例1〜実施例5で得られた熱硬化性接着シートは、加熱加圧成形時における未反応のエポキシ樹脂等のしみ出し性が良好であった。
【0067】
特に、実施例3〜実施例5で得られた熱硬化性接着シートは、熱硬化性接着層に有機酸ジヒドラジドを含み、アクリル共重合体のエポキシ基部分の3〜12%がトリエチレンテトラミン及びその変性物の混合物によって架橋されている。そのため、実施例3〜実施例5で得られた熱硬化性接着シートは、加熱加圧成形時における未反応のエポキシ樹脂等のしみ出し性、フィルムの常温保管性、剥離強度、吸湿リフロー半田耐熱性試験の評価が全て良好であった。
【0068】
比較例1で得られた熱硬化性接着シートは、熱硬化性接着層に有機酸ジヒドラジドを含んでおらず、アクリル共重合体のエポキシ基部分が1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンによって架橋されていない。そのため、比較例1で得られた熱硬化性接着シートは、加熱加圧成形時における未反応のエポキシ樹脂等のしみ出し性、フィルムの常温保管性、剥離強度、吸湿リフロー半田耐熱性試験の評価が全て良好でなかった。
【符号の説明】
【0069】
1 熱硬化性接着層、2 軽面側フィルム、3 重面側フィルム、4 接着シート、5 ポリイミドフィルム、6 ビク型、7 銅、8 ポリイミドフィルム、9 CCL、10 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むアクリル共重合体と、エポキシ樹脂と、該エポキシ樹脂用の硬化剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンにより、前記アクリル共重合体のエポキシ基部分が、部分的に架橋されている熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリル共重合体のエポキシ基部分の1%以上が、前記1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンによって架橋されている請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記アクリル共重合体のエポキシ基部分の3〜12%が、前記1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンによって架橋されている請求項2記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化剤は、有機酸ジヒドラジドを含む請求項3記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの配合比率は、前記アクリル共重合体の3〜15質量%である請求項4記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記有機酸ジヒドラジドは、平均粒径が0.5〜15μmであり、均一に分散されている請求項4又は5記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
基材フィルム上に、請求項1乃至6のうちいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が形成されている熱硬化性接着シート。
【請求項8】
有機溶媒に溶解したエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むアクリル共重合体と、1級アミノ基及び2級アミノ基の少なくとも一方を有する液状のポリアミン又はポリアミドアミンとを混合し、該アクリル共重合体のエポキシ基部分を、該液状のポリアミン又はポリアミドアミンによって部分的に架橋させる架橋工程と、
前記エポキシ基部分が架橋されたアクリル共重合体を含む有機溶媒に、エポキシ樹脂と、有機酸ジヒドラジドを含む該エポキシ樹脂用の硬化剤とを溶解させることにより、熱硬化性接着層形成用塗料を調製する調製工程と、
前記熱硬化性接着層形成用塗料を基材フィルム上に塗布し、乾燥することにより、熱硬化性接着層を形成する熱硬化性接着層形成工程と
を有する熱硬化性接着シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−116957(P2012−116957A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268081(P2010−268081)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】