説明

熱輸送装置、電子機器及び熱輸送装置の製造方法

【課題】大型化することなく高い放熱効果が得られるヒートスプレッダ、このヒートスプレッダを備えた電子機器及び製造が容易かつ安価で、信頼性を向上させることができるヒートスプレッダの製造方法を提供すること。
【解決手段】カーボンナノチューブからなる蒸発部7は、その蒸発面72に溝74が設けられている。溝74は、周方向溝部75と径方向溝部76により構成されている。周方向溝部75は、蒸発面72の中点Oを中心とした同心円状に形成されており、径方向溝部76は、中点Oを通過するように放射状に形成されている。溝74はV字形状の断面を有する。溝74の底部77は蒸発部7内に位置する。溝74の幅は好ましくは40μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の熱源に熱的に接続される熱輸送装置、この熱輸送装置を備えた電子機器及び熱輸送装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の熱源、例えばPC(Personal Computer)のCPU(Central Processing Unit)に熱的に接続され、熱源の熱を吸収して輸送する装置として、ヒートスプレッダ、ヒートパイプ及びCPL(Capillary Pumped Loop)等の熱輸送装置が使われている。例えばヒートスプレッダは、例えば銅板等からなるソリッド型の金属ヒートスプレッダや最近では蒸発部及び作動流体を有するものが提案されている。同様に、ヒートパイプ及びCPLも、蒸発部及び作動流体を有する。
【0003】
ところで、ナノ材料例えばカーボンナノチューブは熱伝導性が高く、蒸発現象の促進に寄与することが知られている。このようなカーボンナノチューブを利用した熱輸送装置の一つとしてのヒートパイプが特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されたたヒートパイプは、パイプの内壁に設けられたカーボンナノチューブ層がウィックを構成している。
【0004】
【特許文献1】米国特許第7213637号(第3欄66行目〜第4欄12行目、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、作動流体に接触する蒸発部の表面積が大きいほど蒸発を促進させることが知られている。特許文献1に記載されたカーボンナノチューブ層からなるウィックにおいて、熱を拡散させる効率を高めるためには、カーボンナノチューブ層からなるウィックの面積を大きくすればよい。しかし、この主の熱輸送装置が実装される電子機器は、放熱効率を高めることが要求される一方で、更なる小型化の要請が強い。従って、この主の熱輸送装置において、ウィックの面積を大きくすることは小型化の要請に反する。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、大型化することなく高い放熱効率が得られる熱輸送装置及びこの熱輸送装置を備えた電子機器を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、製造が容易で、信頼性の高い熱輸送装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る熱輸送装置は、蒸発部と、流路と、凝縮部と、作動流体とを具備する。蒸発部は、ナノ材料からなり、表面にV字形状の溝を有する。流路は、前記蒸発部と連通する。凝縮部は、前記流路を介して前記蒸発部と連通する。作動流体は、前記蒸発部で液相から気相に蒸発し、前記凝縮部で気相から液相に凝縮する。
【0009】
本発明によれば、熱源が蒸発部に熱的に接続され、液相の作動流体は蒸発部で気相に蒸発し、この気相の作動流体は凝縮部で液相に凝縮する。熱輸送装置内でこの相変化が繰り返される。蒸発部は表面に溝を有するため、表面処理をしないときと比較して、作動流体に接触する表面積が増加する。液相の作動流体はこの溝を毛細管力により流通し、その結果、溝全域に作動流体が行き渡る。
【0010】
蒸発部はナノ材料からなる。ナノ材料は、例えばカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブは例えば金属ヒートスプレッダの典型的な金属材料である銅のおよそ10倍の高熱伝導特性を持つ。従って、カーボンナノチューブからなる蒸発部を設けることで、主に金属材料から構成される熱輸送装置と比較して、極めて高い熱伝達効率が得られる。
【0011】
蒸発部の表面にはV字形状の溝が形成されている。一般に、溝内の液相の作動流体はメニスカス周辺部に薄液膜領域を有する。V字形状の溝は、例えばU字形状や凹形状の溝と比べて、メニスカス周辺部の薄液膜領域が大きい。蒸発部からの熱は、薄液膜領域において、薄液膜領域以外の作動流体の熱伝達率より高い熱伝達率で伝達される。このため、薄液膜領域における蒸発効率は、薄液膜領域以外の作動流体の蒸発効率より高い。従って、大きな薄液膜領域を可能にするV字形状の溝は、U字形状や凹形状の溝と比べて熱伝達率が高く、蒸発効率も高い。
【0012】
本発明によれば、高熱伝導効率を有するカーボンナノチューブ等のナノ材料に高蒸発効率を実現するV字形状の溝を設けて蒸発部を構成することで、熱輸送装置を大型化することなく、極めて高い放熱効率を実現することができる。
【0013】
本発明において、前記V字形状の溝の底角2θ(10≦2θ≦130)と、幅aとの関係は、a≦11×2θ+50かつa≧0.3×2θ+1である。
【0014】
本発明によれば、V字形状の溝において、底角が大きく、メニスカス面が最も上昇している位置における作動流体の幅すなわち溝の幅が小さく、作動流体の溝壁面に対する接触角が小さいとき、良好な蒸発効率が得られる。溝の幅aを溝の底角2θ(10≦2θ≦130)に対してa≦11×2θ+50かつa≧0.3×2θ+1に形成することで蒸発効率が急激に上昇する。
【0015】
本発明において、前記溝は、前記蒸発部の表面に同心状及び放射状に設けられていてもよいし、螺旋状及び放射状に設けられていてもよい。
【0016】
本発明によれば、この溝の形状により、液相の作動流体が蒸発部の表面の周方向及び径方向に流通可能となる。すなわち、作動流体が満遍なく溝を流通できる。従って、毛細管力による液相の作動流体の流通を更に効率よく行うことができる。
【0017】
本発明において、前記蒸発部の裏面と前記溝の底部との距離が1μm以上としてもよい。
【0018】
本発明によれば、蒸発部の裏面と溝の底部との間に1μm以上の厚さを保つので、蒸発部は1μm以上の厚さを有する途切れがなく一体的な領域を有する。熱源からの熱がこの領域を伝播するので、蒸発部全体で良好な熱伝導性が得られる。更に、溝を形成する際、基板等が傷つくおそれがない。更に、傷ついた箇所を流通して冷媒が侵入することがないため、剥離等のおそれがない。
【0019】
本発明において、前記蒸発部の表面は親水性を有してもよい。
【0020】
本発明によれば、例えばカーボンナノチューブは疎水性であるため、作動流体として純水を用いる場合、親水化することで、作動流体の接触角を小さくすることができる。接触角を小さくすることで、作動流体の薄液膜領域を増加させることができる。薄液膜領域が大きいほど作動流体は蒸発しやすくなるため、蒸発効率が向上する。
【0021】
本発明に係る電子機器は、熱源と、熱輸送装置とを有する。前記熱輸送装置は、蒸発部と、流路と、凝縮部と、作動流体とを具備する。蒸発部は、ナノ材料からなり、表面にV字形状の溝を有する。流路は、前記蒸発部と連通する。凝縮部は、前記流路を介して前記蒸発部と連通する。作動流体は、前記蒸発部で液相から気相に蒸発し、前記凝縮部で気相から液相に凝縮する。
【0022】
本発明の電子機器によれば、液相の作動流体は蒸発部で気相に蒸発し、この気相の作動流体は凝縮部で液相に凝縮する。熱輸送装置内でこの相変化が繰り返される。蒸発部は表面に溝を有するため、表面処理をしないときと比較して、作動流体に接触する表面積が増加する。液相の作動流体はこの溝を毛細管力により流通し、その結果、溝全域に作動流体が行き渡る。
【0023】
この熱輸送装置の蒸発部はナノ材料からなる。ナノ材料は、例えばカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブは例えば、金属ヒートスプレッダの典型的な金属材料である銅のおよそ10倍の高熱伝導特性を持つ。従って、カーボンナノチューブからなる蒸発部を設けることで、主に金属材料から構成される熱輸送装置と比較して、極めて高い熱伝達効率が得られる。
【0024】
この熱輸送装置の蒸発部の表面にはV字形状の溝が形成されている。一般に、溝内の液相の作動流体はメニスカス周辺部に薄液膜領域を有する。V字形状の溝は、例えばU字形状や凹形状の溝と比べて、メニスカス周辺部の薄液膜領域が大きい。蒸発部からの熱は、薄液膜領域において、薄液膜領域以外の作動流体の熱伝達率より高い熱伝達率で伝達される。このため、薄液膜領域における蒸発効率は、薄液膜領域以外の作動流体の蒸発効率より高い。従って、大きな薄液膜領域を可能にするV字形状の溝は、U字形状や凹形状の溝と比べて熱伝達率が高く、蒸発効率も高い。
【0025】
この熱輸送装置によれば、高熱伝導効率を有するカーボンナノチューブ等のナノ材料に高蒸発効率を実現するV字形状の溝を設けて蒸発部を構成することで、熱輸送装置を大型化することなく、極めて高い放熱効率を実現することができる。
【0026】
本発明では、熱源がこの熱輸送装置の蒸発部に熱的に接続されるため、熱輸送装置が熱源の熱を効率よく拡散することができる。
【0027】
本発明に係る熱輸送装置の製造方法は、蒸発部を構成する基板上に触媒層を形成し、前記触媒層上にナノ材料層を形成し、バイト加工及びプレス加工のいずれか一方を用いて前記ナノ材料層上にV字形状の溝を形成する。
【0028】
本発明によれば、ナノ材料層を形成する。例えば、カーボンナノチューブを密集して生成させることでカーボンナノチューブ層を形成する。カーボンナノチューブ層を1つの材料と見なし、バイト加工を行う。具体的には、密集して生成しているカーボンナノチューブをバイトで少しずつ倒すようにしてミクロンオーダーの形状を形成することができる。この加工方法は、金属等の基板を切削するよりも容易であり、またエッヂングよりも安価にできる上、良好な微細加工性が得られる。バイト加工を行う場合、下地層としての触媒層よりも硬度が低いバイトを使用してもよい。それにより、加工時に触媒層、基板及びバイト自体を傷つけることがなく、傷や剥がれのない蒸発部を実現することができる。プレス加工を行う場合も、金型等が触媒層を構成する金属よりも硬度が低い素材で構成してもよい。それにより、加工時に触媒層、基板及びバイト自体を傷つけることがなく、傷や剥がれのない蒸発部を実現することができる。
【0029】
本発明において、前記溝の底部と前記触媒層との距離が1μm以上となるように前記ナノ材料層上にV字形状の溝を形成してもよい。
【0030】
本発明によれば、溝の底部と触媒層との間に1μm以上の厚さを保つので、蒸発部は1μm以上の厚さを有する途切れがなく一体的な領域を有する。熱源からの熱がこの領域を伝播するので、蒸発部全体で良好な熱伝導性が得られる。また、溝を形成する際、触媒層等が傷つくおそれがない。更に、傷ついた箇所を流通して冷媒が侵入することがないため、剥離等のおそれがない。
【0031】
本発明において、ナノ材料層の表面に親水化処理を行ってもよい。
【0032】
本発明によれば、カーボンナノチューブは疎水性であるため、例えば作動流体として純水を用いる場合、親水化処理を行うことで、作動流体の接触角を小さくすることができる。接触角を小さくすることで、作動流体の薄液膜領域を増加させることができる。薄液膜領域が大きいほど作動流体は蒸発しやすくなるため、蒸発効率が向上する。
【0033】
本発明の別の観点に係る熱輸送装置の製造方法は、蒸発部を構成する基板上に触媒層を形成し、触媒層が設けられた基板と型との間に反応気相を流すことで、表面にV字形状の溝を有するナノ材料層を形成する。
【0034】
本発明によれば、切削等を行う必要が無いため、下地層としての触媒層及び基板を傷つけるおそれが低減する。
【0035】
本発明において、ナノ材料層の表面に親水化処理を行ってもよい。
【0036】
本発明によれば、ナノ材料は例えばカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブは疎水性であるため、例えば作動流体として純水を用いる場合、親水化処理を行うことで、作動流体の接触角を小さくすることができる。接触角を小さくすることで、作動流体の薄液膜領域を増加させることができる。薄液膜領域が大きいほど作動流体は蒸発しやすくなるため、蒸発効率が向上する。
【0037】
本発明の別の観点に係る熱輸送装置の製造方法は、蒸発部を構成する基板にV字形状の溝を形成し、前記基板上に触媒層を形成し、前記触媒層上にナノ材料層を形成する。
【0038】
本発明によれば、上記と同様に、基板等を傷つけるおそれが低減する。
【0039】
本発明において、ナノ材料層の表面に親水化処理を行ってもよい。
【0040】
本発明によれば、ナノ材料は例えばカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブは疎水性であるため、例えば作動流体として純水を用いる場合、親水化処理を行うことで、作動流体の接触角を小さくすることができる。接触角を小さくすることで、作動流体の薄液膜領域を増加させることができる。薄液膜領域が大きいほど作動流体は蒸発しやすくなるため、蒸発効率が向上する。
【発明の効果】
【0041】
以上のように、本発明の熱輸送装置によれば、大型化することなく高い放熱効率が得られる。
【0042】
本発明の熱輸送装置の製造方法によれば、製造が容易かつ安価で、信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。以下の実施形態では、熱輸送装置としてヒートスプレッダを一例に挙げて説明する。
【0044】
<第1の実施形態>
[ヒートスプレッダの構造]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るヒートスプレッダに熱源が接続された状態を示す側面図である。図2は、図1に示したヒートスプレッダを示す平面図である。図3は、図2に示したA−A線断面から見たヒートスプレッダを示す断面図である。図4は、図3に示したB−B線断面から見たヒートスプレッダを示す断面図である。
【0045】
図1〜図4に示すように、ヒートスプレッダ1は、コンテナ2と、図示しない冷媒(作動流体)と、この冷媒の流路6と、蒸発部7とを有する。
【0046】
図1に示すように、コンテナ2は、受熱側としての受熱板4と、受熱板4と対向して設けられた放熱側としての放熱板3と、受熱板4と放熱板3とを気密に接合する側壁5とを備えている。受熱板4は、コンテナ2の外壁面に相当する受熱面41と、放熱板3に対向する蒸発面42とを有する。受熱面41には熱源50が熱的に接続されている。熱的に接続とは、直接接続される場合の他に、例えば熱伝導体を介して接続される場合なども含まれる。熱源50としては、例えばCPUや抵抗等の電子部品、あるいは、その他の発熱するデバイスが挙げられる。
【0047】
図3に示すように、コンテナ2の内部空間は、主に流路6を構成する。この流路6は、図示しない冷媒の流路である。
【0048】
受熱板4には、下地層8が設けられている。この下地層8の上には蒸発部7が設けられている。
【0049】
図4に示すように、蒸発部7は平面略円形を有し、受熱板4の蒸発面42の略中央に位置している。
【0050】
なお、本明細書において、「受熱側」は受熱板4のみを指すものではなく、コンテナ2の内部空間の受熱板4付近の領域を含めてよい。「受熱側」を示す領域は、熱源50の熱量等により多少シフトする場合がある。同様に、「放熱側」も放熱板3のみを指すものではなく、コンテナ2の内部空間の放熱板3付近の領域を含めてよい。なお、このコンテナ2の内部空間の放熱板3付近の領域を、「凝縮部」と呼ぶことがある。
【0051】
図2に示すように、ヒートスプレッダ1は平面略正方形状を有する。しかし、これに限られず、任意の形状でよい。ヒートスプレッダ1の一辺の長さeは、例えば30〜50mmである。図1に示すように、ヒートスプレッダ1は、例えば側面略長方形状を有する。ヒートスプレッダ1の高さhは、例えば2〜5mmである。上述したヒートスプレッダ1のサイズは、ヒートスプレッダ1に熱的に接続される熱源50がPCのCPUであることを想定したものである。ヒートスプレッダ1のサイズは熱源50の大きさに応じて適宜決めればよい。例えばヒートスプレッダ1に熱的に接続される熱源50が大型ディスプレイ等の熱源である場合、eは例えば2600mm程度とすればよい。
【0052】
ヒートスプレッダ1のサイズは、冷媒が流通して適切に凝縮できるような値に設定される。ヒートスプレッダ1の動作温度範囲は、およそ−40℃〜+200℃が想定されている。ヒートスプレッダ1の吸熱密度は、典型的には8W/mm以下である。
【0053】
放熱板3、受熱板4及び側壁5は、例えば金属材料からなる。その金属材料としては、銅、ステンレス、またはアルミニウムが挙げられるが、これらに限られない。金属の他に、カーボン等の高熱伝導性の材料でもよい。放熱板3、受熱板4及び側壁5の全てが異なる材料で構成されていてもよいし、これらのうち2つが同じ材料で構成されていてもよいし、全てが同じ材料で構成されていてもよい。放熱板3、受熱板4及び側壁5はろう付け、すなわち溶着により接合されてもよいし、材料によっては接着剤を用いて接合されてもよい。
【0054】
下地層8は、蒸発部7を形成するための触媒層であり、例えば金属材料からなる。その金属材料としては、アルミニウムやチタンが挙げられるが、これらに限られない。また、例えば放熱板3を構成する材料が触媒となり得る場合には、下地層8は設けなくてもよい。
【0055】
冷媒としては、例えば純水、エタノール、メタノール及びイソプロピルアルコール等のアルコール類、フロン系、代替フロン系、フッ素系、アンモニア、アセトン等が用いられる。しかし、これらに限られない。
【0056】
蒸発部7は、カーボンナノチューブからなる。カーボンナノチューブは例えば金属ヒートスプレッダの典型的な金属材料である銅のおよそ10倍の高熱伝導特性を持つ。従って、カーボンナノチューブにより蒸発部7を構成することで、主に金属材料から構成されるヒートスプレッダと比較して、極めて高い熱伝達効率が得られる。カーボンナノチューブは疎水性である。そのため、例えば、蒸発部7がカーボンナノチューブで構成され、冷媒が純水である場合、蒸発部7の少なくとも蒸発面72が親水化される。
【0057】
なお、図3では、説明を分かりやすくするため、コンテナ2に対する蒸発部7のスケール比を大きくするなど、実際の形状から変更して描いている。
【0058】
図4の例では、蒸発部7は平面略円形を有し、受熱板4の蒸発面42の略中央に位置しているが、蒸発部7の平面形状は任意であり、略楕円形、略多角形などでもよい。蒸発部7の直径は、例えば30mm程度であるが、これに限られない。蒸発部7の厚さは、例えば10〜50μm、典型的には20μm程度である。蒸発部7のサイズは、熱源50から発せられる熱量に応じて適宜変更可能である。受熱板4の蒸発面42に対する蒸発部7の設置位置も略中央に限られず、任意の位置でよい。受熱板4の蒸発面42に対する蒸発部7の大きさ比は図示したものに限られず、任意でよい。
【0059】
[蒸発部の構造]
図5は、図3に示した蒸発部7を蒸発面72側から見た平面模式図である。図6は、蒸発部7の斜視図である。図7は、図5に示したC−C線断面から見た蒸発部7を示す断面図である。図8は、図6に示したD−D線断面から見た蒸発部7の一部を示す断面拡大斜視図である。
【0060】
図5〜図8に示すように、蒸発部7は、その表面に設けられた蒸発面72と、蒸発面72の裏面に設けられた受熱面71と、側面73とを備えている。側面73は、例えば蒸発面72及び受熱面71に対して垂直に設けられているが、これに限られない。蒸発面72には溝74が設けられている。溝74は、周方向溝部75と径方向溝部76により構成されている。周方向溝部75は、蒸発面72の中点Oを中心とした同心円状に形成されている。径方向溝部76は、中点Oを通過するように放射状に形成されている。なお、同心円及び放射線の数は図示された例に限定されない。
【0061】
溝74の形状は上記した例に限定されず、冷媒が満遍なく溝74を流通できる任意の形状でよい。例えば、周方向溝部75は中点Oを中心とした同心多角形状、同心楕円状及び螺旋状等に形成されてもよい。あるいは、溝74を周方向及び径方向に形成するのではなく、例えば略格子状に形成してもよい。これらの場合も、同心多角形の数、同心楕円の数、螺旋の巻き数及び格子線の数等は限定されない。
【0062】
上記した溝74の形状により、液冷媒が蒸発部7の蒸発面72の周方向及び径方向に流通可能となる。すなわち、液冷媒が満遍なく溝74を流通できる。従って、毛細管力による液冷媒の流通を効率よく行うことができる。
【0063】
なお、図5〜図8の例では、図を分かりやすくするため、蒸発部7に対する溝74のスケール比を変更するなど、実際の形状から変更して描いている。
【0064】
図9は、蒸発部7を下地層8を介して受熱板4に設けたときに、溝74をその長手方向に対して垂直な断面から見た局部断面図である。溝74はV字形状の断面を有する。すなわち、溝74は底部77及び壁面78を備える。底部77はV字形の頂部に相当する。
【0065】
底部77と下地層8との距離lは、例えば1μm以上である。なお、図示は省略するが、下地層8を設けない場合も、底部77と蒸発面42との距離は、例えば1μm以上である。
【0066】
溝74の底部77と受熱面71との間に1μm以上の厚さを保つことで、蒸発部7は1μm以上の厚さを有する途切れの無い一体的な領域(下部領域79)を有する。熱がこの下部領域を伝播することで、蒸発部7全体で良好な熱伝導性が得られる。更に、後に説明する蒸発面72に溝74を形成する際、下地層8、受熱板4及び加工工具自体が傷つくおそれがない。傷ついた下地層8を通って受熱板4と下地層8との間に冷媒が侵入することがないため、下地層8全体が剥離するおそれがない。
【0067】
溝74の深さは、例えば2〜800μm、典型的には30μmである。溝74の深さは、液冷媒に適切な毛細管力が働くような値に設定される。溝74のV字形状の幅は、例えば10〜100μm程度に形成可能である。このV字形は、底部77に相当する頂部を通過する垂線に対して左右対称であるが、左右対称でなくてもよい。
【0068】
溝74内の液冷媒はメニスカス周辺部に液膜の薄い領域(後述する薄液膜領域F。図10を参照。)を有する。V字形状の溝74は、例えばU字形状や凹形状の溝と比べて、メニスカス周辺部の薄液膜領域Fが大きい。蒸発部7からの熱は、薄液膜領域Fにおいて、薄液膜領域F以外の作動流体の熱伝達率より高い熱伝達率で伝達される。このため、薄液膜領域Fにおける蒸発効率は、薄液膜領域F以外の液冷媒の蒸発効率より高い。従って、大きな薄液膜領域Fを可能にするV字形状の溝74は、U字形状や凹形状の溝と比べて熱伝達率が高く、蒸発効率も高い。
【0069】
[V字の詳細な構造]
次に、溝74のV字形について検討する。この溝74のV字形は、毛細管力と冷媒との圧力損失の差ΔP、毛管長κ−1及び過熱度Tにより決定する。
【0070】
なお、V字形の底角2θは、10°≦2θ≦130°とする。2θ<10°とするとV字加工を作成することが困難であり、作成したとしても蒸気冷媒が液冷媒表面から抜けにくくなるためである。また、2θ>130°とすると熱の広がり抵抗が大きくなってしまうためである。
【0071】
まず、圧力損失の差ΔPについて検討する。ここで、液冷媒を毛細管力で流通させるためには、圧力損失の差ΔP>0とすればよい。
【0072】
ヒートスプレッダ1において、冷媒が循環するためには流路抵抗などの圧力損失の和よりも大きな毛細管力が必要である。下記の式(1)は、この圧力関係式を表す。
【0073】
ΔPcap≧ΔP+ΔP+ΔP・・・(1)
【0074】
ここで、ΔPcapは毛細管力、ΔPはウィックの圧力損失、ΔPは液相の圧力損失、ΔPは気相の圧力損失を示す。
【0075】
気相の圧力損失を無視できるような気相流路であると仮定すると、下記の式(2)が成り立つ。
【0076】
ΔPcap≧ΔP+ΔP・・・(2)
【0077】
そこで、圧力損失の差ΔPは下記の式(3)のように求められる。
【0078】
ΔP=ΔPcap−(ΔP+ΔP)・・・(3)
【0079】
図11は、溝74を示す模式図である。
【0080】
図11において、Mは溝74内の液冷媒の表面であり、メニスカス面を示す。aは溝74の開口幅であり、溝74内の液冷媒の幅と実質的に等しい。αは、溝74内の液冷媒の壁面78に対する接触角を示す。2θは上述のようにV字形の底角を示す。ここで、毛細管力ΔPcapは下記の式(4)で表される。
【0081】
ΔPcap=2δcos(θ+α)/a・・・(4)
【0082】
接触角αは小さいほど、毛細管力ΔPcapは大きくなる。蒸発部7の少なくとも蒸発面72は親水化されるので、接触角αは0に近づくので、α=0と仮定する。表面張力δは、純水の100°における値を一定として計算する。流路抵抗(圧力損失)は、以下の数式により求められる。
【0083】
【数1】

【0084】
【数2】

【0085】
【数3】

【0086】
【数4】

【0087】
【数5】

【0088】
【数6】

【0089】
【表1】

【0090】
図12は、底角2θを変化させた場合における圧力損失の差ΔPの溝幅aに対する依存性を示すグラフである。圧力損失の差ΔPが大きいほど液冷媒が流通しやすいので、溝幅aはおよそ40μm以下に形成するのがよい。
図13は、圧力損失の差ΔP=0としたときの、溝幅aの底角2θに対する依存性を示すグラフである。上述のように、圧力損失の差ΔPが大きいと液冷媒は流通しやすい。図中、ΔP≧0を示すのは、グラフの左側であり、例えば破線楕円により示される領域である。
【0091】
次に、毛管長κ−1について検討する。毛管長κ−1は、一般に2mm程度とされる。毛管長κ−1は、以下の数式で表される。
【0092】
【数7】

【0093】
毛管長κ−1よりもメニスカス半径が短い範囲では、重力は無視してよい。すなわち、毛管長κ−1が支配的な熱輸送装置を実現できる領域である。毛管長κ−1をおよそ2mmとした場合、メニスカス半径はおよそ2mm以下とすればよい。図34に、メニスカス半径が2mm以下となる範囲を示す。
【0094】
次に、過熱度Tについて検討する。過熱度Tは、T≦100が有用である。
図10は、図9に示す溝74がその内部に液冷媒を有した状態を示す模式図である。本実施形態においては底部77を通過する垂線に対してV字形状を有する溝74が左右対称であるため、溝74の底部77を通過する垂線から右半分を示す。
【0095】
X軸は水平方向、すなわち溝74の幅方向を示す。Y軸は垂直方向、すなわち溝74の深さ方向を示す。原点は底部77を示す。θは溝74の底角2θの1/2である。原点から角度θをもって伸びる直線は溝74の壁面78を示す。この壁面78は、下記の式(5)で表される。
【0096】
y=(1/tanθ)x・・・(5)
【0097】
Rは溝74内の液冷媒を示す。Mは円弧であり、液冷媒Rの表面を示す。液冷媒Rの表面Mはメニスカス面となっている。aは溝74の開口幅である。tは溝74内の液冷媒の深さであって、最も蒸発面72に近い位置から底部77までの深さを示す。tは溝74の深さと実質的に等しい。sは式(5)で表される壁面78上の任意の点(X1,Y1)と(a/2,t)との距離を示す。ここで、0<X1<a/2であり、0<Y1<tである。点線は、式(5)で表される壁面78に直交する直線であって、下記の式(6)で表される。
【0098】
=(−tanθ)x+(1/tanθ+tanθ)x・・・(6)
【0099】
式(2)と円弧Mとの交点を(X2,Y2)とする。ここで、0<X2<a/2であり、0<Y2<tである。uは、(X1,Y1)と(X2,Y2)との距離である。Fは、(X1,Y1)、(X2,Y2)及び円弧mと式(5)との交点からなる略三角形領域であり、薄液膜領域を示す。
【0100】
ここで、過熱度を図9に示す一次元のモデルに基いて、100℃以下を示すV字形状を見積もる。溝74のV字形状で底面(基板)の温度Tがどのように変わるかを見るため、ここでは飽和温度(すなわち相変化を起す温度)を0℃と仮定して飽和温度の影響を受けない条件にする。
【0101】
熱伝導率λと蒸発熱伝達率hとを以下のように仮定する。
【0102】
【数8】

【0103】
【数9】

【0104】
【表2】

【0105】
上記の式より底面(基板)の温度Tが求められる。図35に、底角2θを変化させた場合における過熱度Tの溝幅aに対する依存性を示す。
過熱度T≦100を有用と考え、図36に、T=100を示す溝幅aの底角2θに対する依存性を示す。上述のように、T≦100が有用であり、図中、T≦100を示すのは、グラフの右側であり、例えば破線により示される領域である。
図37は、以上に示した毛細管力と冷媒との圧力損失の差ΔP、毛管長κ−1及び過熱度Tの条件から導かれる溝74のV形状を示すグラフである。具体的には、図37は、図13、図34及び図36に示すグラフを合成した図である。図37より、V字形は破線で示される領域に相当する形状であればよく、このV字形の範囲は、前記V字形状の溝の底角2θ(10≦2θ≦130)と、幅aとの関係において、a≦11×2θ+50かつa≧0.3×2θ+1である。
【0106】
[ヒートスプレッダの動作]
以上のように構成されたヒートスプレッダ1の動作について説明する。図14は、その動作を説明するための模式図である。
【0107】
熱源50が熱を発生すると、この熱を受熱板4が受ける。そうすると、受熱側における蒸発部7の溝74において毛細管力により液冷媒が流通する(矢印A)。この液冷媒は受熱板4及び蒸発部7で、とりわけ蒸発部7で蒸発し、気相の冷媒(以下、蒸気冷媒とする)となる。蒸気冷媒の一部は、溝74内で流通するが、蒸気冷媒のほとんどは、放熱側に向かうように流路6を流通する(矢印B)。蒸気冷媒が流路6を流通することで熱が拡散し、凝縮部において蒸気冷媒が凝縮し、液相に戻る(矢印C)。これにより主に放熱板3から熱が放出される(矢印D)。液冷媒は受熱側に戻る(矢印E)。このような動作が繰り返されることにより、熱源50の熱がヒートスプレッダ1により移動する。
【0108】
図14で矢印A〜Eで示した各動作の領域は、ある程度の目安あるいは基準を示すものである。熱源50の熱量等によりそれらの各動作領域が多少シフトする場合があるので、各動作が領域ごとに明確に分けられるわけではない。
【0109】
なお、ヒートスプレッダ1の放熱板3の表面には、図示しないヒートシンク等の放熱のための部材が熱的に接続される場合がある。この場合、ヒートスプレッダ1により拡散させられた熱がヒートシンクに伝達され、ヒートシンクから放熱される。
【0110】
以上のように、本実施形態のヒートスプレッダ1によれば、蒸発部7の溝74内の液冷媒はメニスカス周辺部に薄液膜領域Fを有する。本実施形態では、溝74はV字形状であり、V字形状の溝は、例えばU字形状や凹形状の溝と比べて、メニスカス周辺部の薄液膜領域Fが大きい。薄液膜領域Fにおける熱伝達率は、薄液膜領域F以外の作動流体の熱伝達率より高く、このため、薄液膜領域Fにおける蒸発効率は、薄液膜領域F以外の作動流体の蒸発効率より高い。従って、大きな薄液膜領域Fを有するV字形状の溝74は、U字形状や凹形状の溝と比べて熱伝達率が高く、蒸発効率も高い。本発明では、上記構成を有する蒸発部7により高い蒸発効率が得られるので、ヒートスプレッダ1を大型化することなく高い放熱効率が得られる。
【0111】
[熱輸送装置の変形例]
ここで、熱輸送装置の変形例について説明する。これ以降の説明では、ヒートスプレッダ1の部材や機能等について同様のものは同様の参照符号を付した上で説明を簡略化または省略し、異なる点を中心に説明する。
【0112】
図38は、熱輸送装置の変形例としてのヒートパイプを示す断面図である。図39は、図38に示すヒートパイプに設けられるナノ材料層を示す斜視図である。図40は、図38に示すヒートパイプの動作を説明するための模式図である。図41は、熱輸送装置の別の変形例としてのCPLを示す断面図である。図42は、図41に示すCPLの動作を説明するための模式図である。
【0113】
図38に示すように、ヒートパイプ1aは、コンテナ2aと、図示しない冷媒(作動流体)とを有する。コンテナ2aの外壁面の一部の領域には、熱源50が熱的に接続され、この領域は受熱部4aとして機能する。コンテナ2aの受熱部4aと対向する領域は、放熱部3aとして機能する。コンテナ2aの内周面には、下地層8aが設けられている。この下地層8aにはナノ材料層7aが設けられる。ナノ材料層7aの表面には、例えば図39に示すように長尺状の溝74aが形成されている。具体的には、それぞれの溝74aが受熱部4aと放熱部3aとを連通するようにナノ材料層7aが設けられる。ナノ材料層7aの受熱部4aに対応する領域は、蒸発部7a1として機能する。ナノ材料層7aの蒸発部7a1を除く領域は、冷媒の液相流路7a2として機能する。コンテナ2aの内部空間の液相流路7a2に対応する領域は、冷媒の気相流路6aとして機能する。
【0114】
図40に示すように、熱源50が熱を発生すると、この熱を受熱部4aが受ける。そうすると、受熱側における蒸発部7a1の溝74aにおいて毛細管力により液冷媒が流通する(矢印Aa)。この液冷媒は蒸発部7a1で蒸発し、蒸気冷媒となる。蒸気冷媒の一部は、溝74a内で流通するが、蒸気冷媒のほとんどは、放熱側に向かうように気相流路6aを流通する(矢印Ba)。蒸気冷媒が気相流路6aを流通することで熱が移動し、蒸気冷媒が凝縮し、液相に戻る(矢印Ca)。これにより主に放熱部3aから熱が放出される(矢印Da)。液冷媒は毛細管力により液相流路7a2を流通し、受熱側に戻る(矢印Ea)。このような動作が繰り返されることにより、ヒートスプレッダ1と同様に、熱源50の熱がヒートパイプ1aにより移動する。
【0115】
図41に示すように、CPL1bは、複数のコンテナ2b1と、2bcと、図示しない冷媒(作動流体)と、複数の管部材6b1、6b2と、蒸発部7bとを有する。コンテナ2b1は、受熱部4bを構成する。コンテナ2b2は、放熱部3bを構成する。管部材6b1、6b2は、それぞれコンテナ2b1、2b2に半田または溶接等により接続される。これにより管部材6b1、6b2は、それぞれコンテナ2b1、2b2を気密に連結することで流路を構成し、受熱部4bと放熱部3bとの間で冷媒を流通させる。具体的には、管部材6b1は気相流路6b3を構成し、管部材6b2は液相流路6b4を構成する。なお、図示しないが、管部材6b2の内壁面に、例えば図39に示すナノ材料層7aを、溝74aが受熱部4bと放熱部3bとを連通するように設けてもよい。コンテナ2b1には、下地層8bが設けられている。この下地層8bの上には蒸発部7と同様の、表面に溝を有する蒸発部7bが設けられている。受熱部4bには熱源50が熱的に接続される。
【0116】
図42に示すように、熱源50が熱を発生すると、この熱を受熱部4bが受ける。そうすると、受熱側における蒸発部7bの溝において毛細管力により液冷媒が流通する(矢印Ab)。この液冷媒は蒸発部7bで蒸発し、蒸気冷媒となる。蒸気冷媒の一部は、溝内で流通するが、蒸気冷媒のほとんどは、放熱側に向かうように気相流路6b3を流通する(矢印Bb)。蒸気冷媒が気相流路6b3を流通することで熱が移動し、蒸気冷媒が凝縮し、液相に戻る(矢印Cb)。これにより主に放熱部3bから熱が放出される(矢印Db)。液冷媒は液相流路6b4を流通し、受熱側に戻る(矢印Eb)。このような動作が繰り返されることにより、ヒートスプレッダ1と同様に、熱源50の熱がCPL1bにより移動する。
【0117】
[ヒートスプレッダの製造方法]
図1等に示すヒートスプレッダ1の説明に戻る。ヒートスプレッダ1の製造方法の一実施形態について説明する。図15は、ヒートスプレッダ1の製造方法を示すフローチャートである。
【0118】
受熱板4の蒸発面42に下地層8を形成する(ステップ101)。下地層8はカーボンナノチューブを生成するための触媒層である。
【0119】
次に、下地層8にカーボンナノチューブを密集して生成することで、カーボンナノチューブ層を形成する(ステップ102)。カーボンナノチューブはプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相蒸着)や熱CVDにより触媒層上に生成することができるが、この方法に限られない。蒸発面42には必要に応じて適当な表面処理が行われていてもよい。放熱板3の受熱板4と対向する面も同様である。
【0120】
次に、カーボンナノチューブ層の表面に、図16に示す加工工具(バイト)でV字形状を有する溝を形成する(ステップ103)。例えば、周方向溝部75を形成する場合はバイトを円弧状に走らせればよい。これにより、蒸発面72に溝74を有する蒸発部7が形成される。一般に、ミクロンオーダーの形状を有するカーボンナノチューブを機械加工して微細な構造体を作成することは難しく、通常はエッヂングを用いる。それに対し、本発明者の見地によれば、密集して生成しているカーボンナノチューブを1つの材料(カーボンナノチューブ層)とみなし、カーボンナノチューブを少しずつ倒すようにすることで、ミクロンオーダーの形状を形成することができる。この加工方法は、金属等の基板を切削するよりも容易であり、またエッヂングよりも安価にできる上、良好な微細加工性が得られる。バイトは下地層8を構成する金属よりも硬度が低い素材で構成されてもよい。それにより、加工時に下地層8、受熱板4及びバイト自体を傷つけることがなく、下地層8と溝74の底部77との距離lを1μm以上に保つことが可能となる。これにより、傷や剥がれのない蒸発部7を実現することができる。破れた下地層を通って受熱板4と下地層8との間に冷媒が侵入することがないため、下地層8全体が剥離するおそれがない。金型によるプレス成型などで溝74を形成してもよい。この場合も同様の趣旨により、金型が下地層8を構成する金属よりも硬度が低い素材で構成されてもよい。
【0121】
所望のV字形状の溝が精密加工された型と触媒層としての下地層8を設けた受熱板4との間に反応気相を流すことで、表面に溝74を有する蒸発部7を形成してもよい。この方法によれば、切削等を行う必要がないため、下地層8及び受熱板4を傷つけるおそれが更に低減する。なお、この方法は熱CVDに限られる。
【0122】
受熱板4にV字形状の溝を形成し、受熱板4上に対応するV字形状の溝を有する触媒層としての下地層8を形成し、下地層8上に対応するV字形状の溝を有するカーボンナノチューブ層を形成してもよい。ここでも切削等を行う必要が無いため、下地層8及び受熱板4を傷つけるおそれが更に低減する。
【0123】
次に、蒸発面72に親水化処理を行う(ステップ104)。例えば冷媒に純水を用いる場合、カーボンナノチューブは疎水性であるため、親水化することで、冷媒液面の、溝74の壁面78に対する接触角を小さくすることができる。接触角を小さくすることで、冷媒の薄液膜領域を大きくすることができる。薄液膜領域が大きいほど冷媒は蒸発しやすくなり、蒸発効率が向上する。親水化処理としては、例えば蒸発面72をショウ酸等の酸で処理し、カルボキシル基を生成することで親水化してもよいし、紫外線照射により親水化してもよい。親水化処理を行うかどうかは、使用する冷媒に応じてその都度決めればよい。使用する冷媒が純水でない場合は、親水化処理を行わなくてもよい。
【0124】
次に、受熱板4に側壁5を介して放熱板3を液密に接合し(ステップ105)、コンテナ2を構成する。接合時には、各部材の精密な位置合わせが行われる。
【0125】
次に、コンテナ2内に冷媒を注入し、封止する(ステップ106)。図17は、コンテナ2内への冷媒の注入方法を順に示した模式図である。受熱板4は、注入口45及び注入路46を備えている。
【0126】
図17(A)に示すように、例えば注入口45及び注入路46を介して流路6内が減圧され、注入口45及び注入路46を介して図示しないディスペンサにより冷媒が内部流路に注入される。
【0127】
図17(B)に示すように、押圧領域47が押圧されて注入路46が塞がれる(仮封止)。別の注入路46及び注入口45を介して流路6内が減圧され、その流路6内が目標圧になった時点で、図17(B)に示すように、押圧領域47が押圧されて注入路46が塞がれる(仮封止)。
【0128】
図17(C)に示すように、押圧領域47よりも注入口45に近い側において、注入路46が例えばレーザ溶接により塞がれる(本封止)。これにより、ヒートスプレッダ1の内部が密閉される。このように、コンテナ2内に冷媒を注入し、封止することで、ヒートスプレッダ1が完成する。
【0129】
次に、受熱板4に熱源50を実装する(ステップ107)。熱源50がCPUの場合、この工程は、例えばはんだ付け等のリフロー工程により行われる。
【0130】
リフロー工程と、ヒートスプレッダ1の製造工程とは、別の場所(例えば別の工場など)で行われる場合もある。したがって、リフロー後に作動流体が注入される場合、例えばヒートスプレッダ1を工場間を往復させる必要があり、それによるコスト、作業者の労力、時間、あるいは工場間往復の際に発生するパーティクルの問題等がある。図15に示す製造方法によれば、ヒートスプレッダ1が完成された後にリフローすることが可能となり、上記問題を解決することができる。
【0131】
本実施形態のヒートスプレッダの製造方法によれば、バイト加工やプレス加工で溝74を形成する。この加工方法は、金属等の基板を切削するよりも容易であり、またエッヂングよりも安価にできる上、良好な微細加工性が得られる。バイトや金型は下地層8を構成する金属よりも硬度が低い素材で構成されるため、加工時に下地層8、受熱板4及びバイトや金型自体を傷つけることがなく、下地層8と溝74の底部77との距離lを1μm以上に保つことが可能となる。これにより、傷や剥がれのない蒸発部7を実現することができる。破れた下地層を通って受熱板4と下地層8との間に冷媒が侵入することがないため、下地層8全体が剥離するおそれがない。また、反応気相を流す方法や受熱板4にV字形状の溝を形成する方法でも切削等を行う必要が無いため、下地層8及び受熱板4を傷つけるおそれが更に低減する。従って、製造が容易かつ安価で、信頼性を向上させることができる。
【0132】
<第2の実施形態>
[ヒートスプレッダの構造]
本発明の第2の実施形態について説明する。
【0133】
図18は、本発明の第2の実施形態に係るヒートスプレッダに熱源が接続された状態を示す側面図である。図19は、図18に示したヒートスプレッダの分解斜視図である。
【0134】
図18及び図19に示すように、ヒートスプレッダ100は、コンテナ9と、図示しない冷媒の流路を構成する複数の流路板材600と、蒸発部700とを有し、内部に図示しない冷媒を有する。
【0135】
コンテナ9は、受熱側としての受熱板500と、受熱板500と対向して設けられた放熱側としての放熱板200と、後述する流路板材600のフレーム部607とを備えている。受熱板500の受熱面501には熱源50が熱的に接続されている。本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、「受熱側」は受熱板500のみを指すものではなく、コンテナ9内部の受熱板500付近の領域を含めてよい。同様に、「放熱側」も放熱板200のみを指すものではなく、コンテナ9内部の放熱板200付近の領域を含めてよい。
【0136】
流路を構成する複数の流路板材600は、受熱板500と放熱板200との間で積層されている。図19に示すように、複数の流路板材600は、例えば液冷媒を、毛細管力により流通させることが可能な流路を構成する複数の毛細管板材(第1の板材、流路構造体、第1の構成部材)400を含む。複数の流路板材600は、主に蒸気冷媒を流通させる気相流路の一部を構成する複数の気相板材300(第2の板材、第2の構成部材)とを含む。
【0137】
蒸発部700は、第1の実施形態の蒸発部7と同一のものであり、具体的には、カーボンナノチューブからなり、蒸発面72にV字形状の溝74を有しており、溝74の幅は溝の幅aとした時に溝の底角2θ(10≦2θ≦130)に対してa≦11×2θ+50かつa≧0.3×2θ+1であることが好ましい。なお、第1の実施形態で説明した蒸発部7及び溝74の構造、サイズ、性質等は、全て本実施形態の蒸発部700に適応される。蒸発部700は、受熱板500の蒸発面及び毛細管板材400の気相板材300側の面に設けられている。典型的には、蒸発部700はそれぞれの部材の略中央に設けられるが、これに限られない。蒸発部700は全ての毛細管板材400に設けられていてもよいし、一部に設けられていてもよい。
【0138】
毛細管板材400の枚数は、例えば10〜30枚、典型的には20枚である。しかし、受熱板500に熱的に接続される熱源50から発せられる熱量等に応じて、毛細管板材400の枚数は適宜変更可能であり、10〜30枚に限られない。気相板材300の枚数は、例えば1〜20枚、典型的には8枚である。気相板材300についても、毛細管板材400と同様の趣旨で、枚数は適宜変更可能であり、1〜20枚に限られない。
【0139】
図20は、ヒートスプレッダ100の一部を示す断面図である。説明を分かりやすくするため、例えば毛細管板材400及び気相板材300が、それぞれ4枚ずつ(401〜404、301〜304)設けられている例を示している。
【0140】
図20において、下から順に受熱板500、複数の毛細管板材400(以下、毛細管板材群410という。)、複数の気相板材300(以下、気相板材群310という。)、放熱板200が積層されている。毛細管板材群410のうち、最も下部にある毛細管板材404が受熱板500に接合され、最も上部にある毛細管板材401が、最も下部にある気相板材304に接合されている。最も上部にある気相板材301が、放熱板200に接合されている。
【0141】
以降の説明では、毛細管板材401〜404のうち、その構成が同じ部分については、任意の1枚の毛細管板材400について説明し、その場合、「毛細管板材400」と呼ぶ。同様に、気相板材301〜304のうち任意の1枚の気相板材300について説明するときは、「気相板材300」と呼ぶ。
【0142】
図21は、受熱板500の内側の一部を示す斜視図である。受熱板500の内側509には複数の溝505が形成されている。溝505の深さは、例えば10〜50μm、典型的には20μm程度である。溝505の深さは、液冷媒に適切な毛細管力が働くような値に設定される。
【0143】
複数の溝505が形成されることにより、各溝505の間には複数のリブ506が形成される。このようなリブが形成されることについては、後述する毛細管板材400、気相板材300及び放熱板200についても同様である。
【0144】
溝505の形状は凹形状が例示されているが、V字形状及びU字形状等、任意の形状でよい。溝は、冷媒が適切に流通できるように設計されればよい。このことは後述する溝405、205についても同様である。蒸発効率の観点からは、溝505は溝74のようにV字形状を有してもよい。しかし、受熱板500に設置された蒸発部700が受熱板500と比べて極めて高い蒸発効率を有するため、溝505は必ずしもV字形状にしなくてもよい。後述する溝405、205は凹形状であるため、製造効率の観点からは、溝505はむしろ凹形状でよい。
【0145】
例えば、受熱板500上の蒸発部700が設けられる領域(以下、設置領域という。)には複数の溝505及びリブ506が形成されていない。設置領域の深さは、溝505の深さと同じであり、平面視形状は、受熱面71と同じである。蒸発部700の高さは、典型的には溝505の深さと同じである。すなわち、蒸発部700は受熱板500の設置領域に隙間無く設置される。典型的には、受熱板500の蒸発部700が設けられていない領域の高さは、蒸発部700が設置されている領域の高さと等しい。このような設置領域が形成され、蒸発部700が設置されることは、後述する毛細管板材400についても同様である。
【0146】
受熱板500には、図示しない冷媒の注入路及び注入口が形成されている。この注入路及び注入口は、放熱板200に形成されていてもよい。
【0147】
図22は、例えば2枚積層された毛細管板材400の一部を示す斜視図である。図23は、毛細管板材群410の一部を示す平面図であり、図24は、図23におけるE−E線断面図である。図25は、毛細管板材400の全体を示す平面図である。図23、24は、図を分かりやすくするため、蒸発部700が設けられていない領域を示している。同様の趣旨で、図25は、蒸発部700の設置領域が設けられていない毛細管板材400を示している。
【0148】
毛細管板材400の表面には複数の溝(第1の溝)405が形成される。溝405の深さは、例えば10〜50μm、典型的には20μm程度である。溝405の深さは、液冷媒に適切な毛細管力が働くような値に設定される。
【0149】
なお、図25に示した毛細管板材400では、図を分かりやすくするため、毛細管板材400全体の大きさに対して、溝405等のスケールを大きくして描いている。後で説明する図27及び図28も同様の趣旨である。
【0150】
毛細管板材401〜404は、各層の溝405がそれぞれ直交する方向に延びるように、X−Y平面で90度ずつ回転させて積層されている。毛細管板材400の溝405を構成する壁面430(図23、図24参照)には、毛細管板材400を貫通する複数の開口408が、溝405の長手方向(例えば図23においてX方向)に沿って配置されている。この溝405を構成する壁面430は、リブの側面431及び床面432によって構成されており、このうち床面432にその複数の開口408が形成されている。
【0151】
例えば毛細管板材401及びこれに隣接する毛細管板材402に着目する。毛細管板材401の溝405と毛細管板材402の溝405とが、毛細管板材401の開口408を介して連通するように、毛細管板材401及び402とが相対的に配置されて接合されている。
【0152】
すなわち、毛細管板材402のリブ406が毛細管板材401の開口408を塞がないように、かつ、毛細管板材401の裏面と毛細管板材402のリブ406とが接合されるように、毛細管板材401及び402が相対的に配置されて接合されている。他の毛細管板材402と403、毛細管板材403と404のそれぞれの相対的な位置についても同様である。
【0153】
これらの開口408は、受熱板500で受けた熱により蒸発した蒸気冷媒が流通する気相流路の一部として機能する。
【0154】
これらの各層の開口408は、各流路板材600が積層される方向(Z方向)に並ぶように、つまり、それらの開口面が互いに対面するように配置されている。これにより、蒸気冷媒がZ方向に並んだ開口408を介して流通するときの流路抵抗が小さくなり、熱効率が向上する。しかしながら、必ずしも開口408はZ方向で並ぶように配置されていなくてもよく、ある1つの層の開口408とそれと隣接する層の開口408が多少Y方向またはX方向にずれて配置されていてもよい。
【0155】
再び毛細管板材401及びこれに隣接する毛細管板材402に着目する。図24に示すように、毛細管板材402の溝405を構成する壁面430と、この壁面430の床面432に対面する、毛細管板材401の裏面側である天井面433とで囲まれる領域が、主に液冷媒の毛細管力による流路として機能する。ただし、床面432及び天井面433には、開口408が設けられているので、Z方向に開口408によって貫かれる領域は、蒸気冷媒の流路として機能する。
【0156】
さらに詳しく説明すると、特に壁面430の、側面431と床面432の境界、及び、側面431と天井面433との境界において、液冷媒に毛細管力が最も強く働く。その結果、液冷媒は、図6に示すように、開口408を避けた領域440を流通することになる。なお、「壁面」の概念には、側面431及び床面432だけでなく、天井面433も含まれてもよい。
【0157】
例えば、毛細管板材401の各溝405が、第1の流路層として機能する場合、それに隣接する毛細管板材402の各溝405が、第2の流路層として機能する。
【0158】
図23に示すように、溝405の幅bは100〜200μmであり、リブ406の幅cは50〜100μmであり、開口408の直径dは50〜100μmである。しかし、これらの範囲に限られず、熱源50の熱量等に応じて適宜変更可能である。
【0159】
開口408の形状は、典型的には円形であるが、楕円、長穴、あるいは多角形等、どのような形状であってもよい。
【0160】
図26は、例えば2枚積層された気相板材300の一部を示す斜視図である。図26では、主に気相板材301及び302に着目して説明する。
【0161】
気相板材300は、典型的には2種類の板材で構成される。図27は、気相板材301の全体を示す平面図である。図11は、気相板材302の全体を示す平面図である。気相板材301及び302に共通する構成としては、Z方向に貫通する複数の溝(第2の溝)305を有する点である。溝305の深さは、50〜150μm、典型的には100μm程度とされるが、この範囲に限られない。溝305の深さは、蒸気冷媒が流通して適切に凝縮できるような値に設定される。
【0162】
1枚の気相板材300が複数の溝305を有することで、複数のリブ306が形成される。図9に示すように、気相板材301の溝305が延びる方向と、その気相板材301に隣接する気相板材302の溝305が延びる方向とが直交するように、気相板材301及び302がX−Y平面内で90度回転方向にずれて配置されている。気相板材303及び304も同様の構成を有しており、気相板材301〜304が順に90度ずつずれて配置されている。
【0163】
気相板材301〜304の溝305は、主に蒸気冷媒が流通する領域であり、これらの溝305は、気相流路の一部としての凝縮領域として機能する。
【0164】
図28に示すように、気相板材302は、その溝305が形成される領域の周囲に、凝縮して液体となった液冷媒が、毛細管板材400の溝405に戻るためのリターン孔308(リターン流路)が形成される領域を有している。気相板材301はリターン孔308を有しておらず、気相板材302のリターン孔308に対応する、Z方向の隣接する位置では、気相板材301の溝305が存在する。
【0165】
リターン孔308の直径は、50〜150μm程度に設定されているが、この範囲に限られず、適宜変更可能である。リターン孔308の直径は、蒸気冷媒が凝縮して液冷媒になるときに、その液冷媒に毛細管力が働くような値に設定される。
【0166】
このように、リターン孔308を有しない気相板材301と、それを有する気相板材302とが1ペアとされ、本実施形態では、典型的には、その1ペアが複数ペア積層される。すなわち、図20では、気相板材301及び303が、リターン孔308を有しない板材であり、気相板材302及び304が、リターン孔308を有する板材である。
【0167】
リターン孔308が形成される領域の幅は、5〜10mm程度であるが、この範囲に限られず、適宜変更可能である。
【0168】
なお、リターン孔308を有していない複数の気相板材301のみが積層されて、気相板材群310が構成されていてもよいし、リターン孔308を有する複数の気相板材302のみが積層されて、気相板材群310が構成されていてもよい。あるいは、放熱板200に近い側に配置された気相板材300は、リターン孔308を有しない複数の気相板材301であり、毛細管板材400に近い側に配置された気相板材300は、リターン孔308を有する複数の気相板材302であってもよい。あるいは、複数の気相板材301及び複数の気相板材302が順番がランダムに積層されていてもよい。
【0169】
例えば、気相板材302の各溝305が、第1の流路層として機能する場合、それに隣接する気相板材302の各溝305が、第2の流路層として機能する。
【0170】
図20に示すように、放熱板200は、受熱板500と同様に、内側に複数の溝205を有する。複数の溝205は、気相板材300の溝305と同様な機能を有し、それと同様なサイズで形成されればよい。
【0171】
受熱板500、毛細管板材群410、気相板材群310及び放熱板200のそれぞれのリブ506、406、306及び206により、Z方向で柱構造(破線630で囲まれる部分)が形成されるように、受熱板500、毛細管板材群410、気相板材群310及び放熱板200が積層されている。このように、複数の柱構造630が形成される。受熱板500、毛細管板材群410及び蒸発部700も柱構造を形成する。これにより、外部からヒートスプレッダ100に加えられる圧縮応力に耐え得る強度を確保することができる。
【0172】
これら受熱板500、毛細管板材群410、気相板材群310、放熱板200及び蒸発部700が、拡散接合により接合されることにより、後述するようにヒートスプレッダ100の内部から発生する引っ張り応力にも耐え得る強度が得られる。
【0173】
以上のように構成された、各溝505、405、305、205、開口408、冷媒の注入路等は、典型的にはフォトリソグラフィ及びエッチング等のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により形成される。しかし、レーザ加工等、他の加工方法により形成されてもよい。
【0174】
図19、図25、図27、図28に示すように、受熱板500、流路板材600及び放熱板200は、それぞれ溝505、405、305及び205が形成されていないフレーム部507、607及び207をそれぞれ有している。すなわち、気相板材300はフレーム部307を有し、毛細管板材400はフレーム部407を有している。これらフレーム部507、407、307及び207が接合される。すなわち、受熱板500、放熱板200、及びフレーム部407及び307により、ヒートスプレッダ100のコンテナ9が形成される。
【0175】
例えば図25に示すように、フレーム部507、407、307及び207の幅fは数mmであるが、適宜変更可能である。これらの幅fは、コンテナとしての強度、ヒートスプレッダ100のX−Y平面内で占める流路部分の割合、または、熱源50の熱量等に応じて適切な値に設定される。
【0176】
受熱板500、複数の流路板材600及び放熱板200は、ろう付け、すなわち溶着により接合されてもよいし、材料によっては接着剤を用いて接合されてもよい。あるいは、上記した拡散接合により接合されてもよい。複数の毛細管板材400同士の接合、複数の気相板材300同士の接合及び受熱板500、複数の毛細管板材400及び蒸発部700の接合についても同様に行えばよい。
【0177】
[ヒートスプレッダの動作]
以上のように構成されたヒートスプレッダ100の動作について説明する。
【0178】
熱源50が熱を発生すると、この熱を受熱板500が受ける。そうすると、毛細管板材群410の溝405及び蒸発部700の溝74において毛細管力により集められた液冷媒が蒸発する。蒸気冷媒の一部は、溝405及び溝74内で流通するが、蒸気冷媒のほとんどは、開口408を介して放熱板200側に向かうように流通し、気相板材群310の溝305を流通する。蒸気冷媒がそれらの溝305を流通することで熱が拡散し、蒸気冷媒が凝縮する。これにより主に放熱板200から熱を放出する。凝縮した蒸気冷媒は、毛細管力により、リターン孔308を介して毛細管板材群410の溝405及び蒸発部700の溝74に戻る。このような動作が繰り返されることにより、熱源50の熱がヒートスプレッダ100により移動する。
【0179】
以上のように、本実施形態に係るヒートスプレッダ100は、気相及び液相の作動流体が混在してしまうことを前提とし、それらの流通方向を制御する、という考え方に基いて考え出されたデバイスである。
【0180】
すなわち、液冷媒は、X−Y平面内に設けられた複数の溝405及び溝74を流通し、一方、蒸気冷媒のほとんどが流路抵抗の小さい開口408を介して、Z方向に流通する。蒸発部700には開口が設けられていないため、溝74内での液冷媒の流通及び蒸発を、積極的かつ活発に行うことができる。溝405を流通する液冷媒は、主に壁面430の側面431中心に集められるので、蒸気冷媒が液冷媒の流通を阻害することを防止できる。これにより、相変化による熱効率を向上させ、熱抵抗を低減することができる。
【0181】
<第3の実施形態>
図29は、本発明の第3の実施形態に係るヒートスプレッダを示す模式的な断面図である。図30は、図29に示したヒートスプレッダの平面図である。
【0182】
受熱板500には、例えば冷媒の2つの注入口526と、これらにそれぞれ連通する2つの注入路527が形成されている。2つの板材のうちの一方に溝(注入路527のための溝)及び開口(注入口526のための開口)が形成された後、これら2つの板材が接合されて受熱板500が形成されることで、これらの注入路527や注入口526が形成される。注入路527は、毛細管板材400の溝405に連通している。注入口526及び注入路527はそれぞれ1つずつであってもよい。なお、図30の斜線部分は、流路板材600による冷媒の流路が形成される部分を示している。
【0183】
注入路527は、例えば直線状に形成され、その直線上の所定の領域が、注入路527に圧力をかけて注入路527を塞ぐための押圧領域540となる。押圧領域540とは、すなわちカシメ領域である。ヒートスプレッダ150の内部、つまり流路板材600が配置される領域には、このカシメ領域に対応する位置で、受熱板500から放熱板200にかけてZ方向に柱部603が形成されている。
【0184】
この柱部603は、受熱板500、毛細管板材400、気相板材300及び放熱板200にそれぞれ形成された円柱状のリブ同士が積層されることにより形成されればよい。この柱部603の幅(あるいは直径)は、流路板材600により構成される流路(以下、内部流路という。)が、そのカシメ時の押圧力により塞がれない程度の幅に適宜設定される。
【0185】
上記ヒートスプレッダ150への冷媒の注入方法は、図17に示した方法と同様に行えばよい。
【0186】
ここで、押圧領域に対応する位置に柱部603を備えるようにすれば、内部流路が、カシメ時に押圧力によりつぶされて塞がれてしまうといったことを防止できる。
【0187】
注入路527に対応する位置に、内部流路が形成されないようにヒートスプレッダ150が構成されることも考えられる。すなわち、内部流路に対応しない位置に専用の押圧領域540が設けられていてもよい。しかし、このような専用の押圧領域540に対応する位置には内部流路がないため、その専用の押圧領域540に対応する位置は熱拡散の機能が低い領域となる。
【0188】
本実施形態に係るヒートスプレッダ150によれば、柱部603の周囲には内部流路が配置されるため、実質的にヒートスプレッダ150の全面において、熱拡散の効率を高めることができる。
【0189】
[ヒートスプレッダの製造方法]
上記ヒートスプレッダ150(またはヒートスプレッダ100)の製造方法の一実施形態について説明する。図31は、その製造方法を示すフローチャートである。
【0190】
複数の板材が用意され、これらの板材に溝505、405、305、205、開口408等が形成される(ステップ201)。これにより、受熱板500、複数の流路板材600及び放熱板200が形成される。
【0191】
受熱板500と放熱板200との間に複数の流路板材600が挟まれるように、受熱板500、毛細管板材400、気相板材300及び放熱板200が積層される。受熱板500及び毛細管板材400の設置領域には蒸発部700が設置されている。これらの部材は拡散接合される(ステップ202)。積層時には、各板の精密な位置合わせが行われる。拡散接合時は金属結合がなされるので、ヒートスプレッダ150の強度または剛性を高めることができる。
【0192】
図17(A)〜17(C)に示したように、冷媒が内部流路に注入され、封止される(ステップ203)。これにより、ヒートスプレッダ150が完成する。
【0193】
受熱板500に熱源50が実装される(ステップ204)。この工程を、例えばはんだ付け等のリフロー工程により行う場合、受熱板500やヒートスプレッダ150全体が、230〜240℃と高温になる。このような環境では、冷媒の蒸発により内部圧力が増すが、ステップ102では拡散接合が行われるため、その内部圧力による引っ張り応力に耐え得る強度や剛性を確保することができる。
【0194】
図32は、上記ヒートスプレッダ100または150のリブの他の実施形態を示す模式図である。この図32では、例えば複数の毛細管板材400のリブ416が、複数の円柱部417を有している。これら複数の円柱部417同士のピッチ、その数、円柱部417の大きさ等は適宜設定可能である。円柱形状に限られず、楕円、角形、またはその他の形状であってもよい。
【0195】
これらの複数の毛細管板材400の円柱部417同士がZ方向で重なり合って接合されるように、複数の毛細管板材400同士が接合される。このことは、受熱板500と毛細管板材400の接合、毛細管板材400と気相板材300との接合、または、気相板材300と放熱板200との接合に関しても同様である。
【0196】
このような構成によれば、内部流路に影響を与えずに接合面積を増やし、ヒートスプレッダ150に対する外部からの圧縮応力や、内部からの引っ張り応力に対する強度または剛性を高めることができる。
【0197】
図33は、上記ヒートスプレッダ1(100、150)を備えた電子機器として、デスクトップ型のPCを示す斜視図である。PC20の筐体21内には、回路基板22が配置され、例えば回路基板22には熱源としてのCPU23が搭載されている。このCPU23にヒートスプレッダ1(100、150)が熱的に接続され、ヒートスプレッダ1(100、150)には図示しないヒートシンクが熱的に接続される。
【0198】
本発明に係る実施形態は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態が考えられる。
【0199】
ヒートスプレッダ1(100、150)の平面形状は四角形あるいは正方形とした。しかし、その平面形状は、円形、楕円形、多角形、あるいは他の任意の形状であってもよい。
【0200】
各溝74、505、405、305、205、壁面430、リブ506、406、306及び206、フレーム部507、407、306及び207等の形状等は、適宜変更可能である。
【0201】
図33の電子機器としてデスクトップ型のPCを例に挙げた。しかし、これに限られず、電子機器としては、PDA(Personal Digital Assistance)、電子辞書、カメラ、ディスプレイ装置、オーディオ/ビジュアル機器、プロジェクタ、携帯電話、ゲーム機器、カーナビゲーション機器、ロボット機器、レーザ発生装置、その他の電化製品等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るヒートスプレッダに熱源が接続された状態を示す側面図である。
【図2】図1に示したヒートスプレッダを示す平面図である。
【図3】図2に示したA−A線断面から見たヒートスプレッダを示す断面図である。
【図4】図3に示したB−B線断面から見たヒートスプレッダを示す断面図である。
【図5】図3に示した蒸発部を蒸発面側から見た平面模式図である。
【図6】図3に示した蒸発部の斜視図である。
【図7】図5に示したC−C線断面から見た蒸発部を示す断面図である。
【図8】図6に示したD−D線断面から見た蒸発部の一部を示す断面拡大斜視図である。
【図9】蒸発部を下地層を介して受熱板に設けたときに、溝をその長手方向に対して垂直な断面から見た局部断面図である。
【図10】図9に示す溝がその内部に液冷媒を有した状態を示す模式図である。
【図11】溝を示す模式図である。
【図12】底角2θを変化させた場合における圧力損失の差ΔPの溝幅aに対する依存性を示すグラフである。
【図13】圧力損失の差ΔP=0としたときの、溝幅aの底角2θに対する依存性を示すグラフである。
【図14】ヒートスプレッダの動作を説明するための模式図である。
【図15】ヒートスプレッダの製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図16】バイトを示す部分斜視図である。
【図17】コンテナ内に冷媒を注入し、封止する方法を順に示した模式図である。
【図18】本発明の第2の実施形態に係るヒートスプレッダに熱源が接続された状態を示す側面図である。
【図19】図18に示したヒートスプレッダの分解斜視図である。
【図20】図18に示したヒートスプレッダの一部を示す断面図である。
【図21】受熱板の内側の一部を示す斜視図である。
【図22】2枚積層された毛細管板材の一部を示す斜視図である。
【図23】毛細管板材群の一部を示す平面図である。
【図24】図23におけるE−E線断面図である。
【図25】毛細管板材の全体を示す平面図である。
【図26】2枚積層された気相板材の一部を示す斜視図である。
【図27】気相板材の全体を示す平面図である。
【図28】図27に示した気相板材とペアとなる気相板材の全体を示す平面図である。
【図29】本発明の第3の実施形態に係るヒートスプレッダを示す模式的な断面図である。
【図30】図29に示したヒートスプレッダの平面図である。
【図31】ヒートスプレッダの製造方法の他の実施形態を示すフローチャートである。
【図32】ヒートスプレッダのリブの他の実施形態を示す模式図である。
【図33】ヒートスプレッダを備えた電子機器として、デスクトップ型のPCを示す斜視図である。
【図34】メニスカス半径が2mm以下となる範囲を示すグラフである。
【図35】底角2θを変化させた場合における過熱度Tの溝幅aに対する依存性を示すグラフである。
【図36】T=100を示す溝幅aの底角2θに対する依存性を示すグラフである。
【図37】毛細管力と冷媒との圧力損失の差ΔP、毛管長κ−1及び過熱度Tの条件から導かれる溝74のV形状を示すグラフである。
【図38】熱輸送装置の変形例としてのヒートパイプを示す断面図である。
【図39】図38に示すヒートパイプに設けられるナノ材料層を示す斜視図である。
【図40】図38に示すヒートパイプの動作を説明するための模式図である。
【図41】熱輸送装置の別の変形例としてのCPLを示す断面図である。
【図42】図41に示すCPLの動作を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0203】
1、100、150…ヒートスプレッダ
2、9…コンテナ
3、200…放熱板
4、500…受熱板
5…側壁
6…流路
7、700…蒸発部
8…下地層
45、526…注入口
46、527…注入路
47…押圧領域
50…熱源
74、205、305、405、505…溝
75…周方向溝部
76…径方向溝部
77…底部
78、430…壁面
79…下部領域
206、306、406、416、506…リブ
207、307、407、507、607…フレーム部
300、301、302、303、304…気相板材
308…リターン孔
400、401、402、403、404…毛細管板材
408…開口
603…柱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ材料からなり、表面にV字形状の溝を有する蒸発部と、
前記蒸発部と連通する流路と、
前記流路を介して前記蒸発部と連通する凝縮部と、
前記蒸発部で液相から気相に蒸発し、前記凝縮部で気相から液相に凝縮する作動流体と
を具備する熱輸送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱輸送装置であって、
前記V字形状の溝の底角2θ(10≦2θ≦130)と、幅aとの関係は、a≦11×2θ+50かつa≧0.3×2θ+1である
熱輸送装置。
【請求項3】
請求項1に記載の熱輸送装置であって、
前記溝は、前記蒸発部の表面に同心状及び放射状に設けられている
熱輸送装置。
【請求項4】
請求項1に記載の熱輸送装置であって、
前記溝は、前記蒸発部の表面に螺旋状及び放射状に設けられている
熱輸送装置。
【請求項5】
請求項1に記載の熱輸送装置であって、
前記蒸発部の裏面と前記溝の底部との距離が1μm以上である
熱輸送装置。
【請求項6】
請求項1に記載の熱輸送装置であって、
前記蒸発部の表面は親水性を有する
熱輸送装置。
【請求項7】
熱源と、
ナノ材料からなり、表面にV字形状の溝を有する蒸発部と、前記蒸発部と連通する流路と、前記流路を介して前記蒸発部と連通する凝縮部と、前記蒸発部で液相から気相に蒸発し、前記凝縮部で気相から液相に凝縮する作動流体とを有する熱輸送装置と
を具備する電子機器。
【請求項8】
蒸発部を構成する基板上に触媒層を形成し、
前記触媒層上にナノ材料層を形成し、
バイト加工及びプレス加工のいずれか一方を用いて前記ナノ材料層上にV字形状の溝を形成する
熱輸送装置の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の熱輸送装置の製造方法であって、
前記溝の底部と前記触媒層との距離が1μm以上となるように前記ナノ材料層上にV字形状の溝を形成する
熱輸送装置の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の熱輸送装置の製造方法であって、
前記ナノ材料層の表面に親水化処理を行う
熱輸送装置の製造方法。
【請求項11】
蒸発部を構成する基板上に触媒層を形成し、
触媒層が設けられた基板と型との間に反応気相を流すことで、表面にV字形状の溝を有するナノ材料層を形成する
熱輸送装置の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の熱輸送装置の製造方法であって、
前記ナノ材料層の表面に親水化処理を行う
熱輸送装置の製造方法。
【請求項13】
蒸発部を構成する基板にV字形状の溝を形成し、
前記基板上に触媒層を形成し、
前記触媒層上にナノ材料層を形成する
熱輸送装置の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の熱輸送装置の製造方法であって、
前記ナノ材料層の表面に親水化処理を行う
熱輸送装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【公開番号】特開2010−121867(P2010−121867A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296626(P2008−296626)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】