説明

熱遮蔽被覆構造体を製造する方法

【課題】基板表面に熱遮蔽被覆構造体10を製造する。
【解決手段】プラズマ・トーチ4を有する作業室2を準備し、プラズマ・ガスをプラズマ・トーチ4を介して導入し加熱によりプラズマ・ジェット5を形成し、プラズマ・ジェット5を作業室内に導入された基板3の表面に方向付ける。熱遮蔽被覆を製造するために、プラズマ・トーチ4と基板3との間に電圧を印加してアークを発生させ、基板表面をアークによって清浄化し、アークによる清浄化の後で基板3を作業室内に留め、0.02μm〜2μmの厚さを有する酸化物層11を清浄化された基板表面上に形成し、熱遮蔽被覆12をプラズマ溶射プロセスによって付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載された基板表面上に熱遮蔽被覆構造体を製造する方法、及びこの方法を使用して製造された基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱、高温ガス腐食および浸食の影響によって高温ひずみに曝される部品を保護するために、熱遮蔽被覆が機械及び処理工程において使用される。機械及び処理工程での効率の増大は、しばしば処理温度の上昇によってのみ可能であり、その結果、曝される部品をそれに応じて保護しなければならない。従って、高温の処理温度の影響からタービン・ブレードを保護するため、及び点検間隔または耐用年数を長くするために、航空機エンジン及び定置型ガス・タービンのタービン・ブレードには、例えば単層又は多層の熱遮蔽被覆システムを設けることが通常行われる。
【0003】
熱遮蔽被覆システムは、用途に応じて1つ又は複数の層、例えば、遮蔽層、特に拡散防止層、付着促進層、高温ガス腐食保護層、保護層、熱遮蔽被覆、及び/又はカバー層を含むことがある。上記のタービン・ブレードの例では、通常は基板をNi合金又はCo合金から製造する。タービン・ブレードに付着される熱遮蔽被覆システムは、例えば、下から上へと順に下記の層を含むことができる。
例えば、NiAl相若しくはNiCr相又は合金から成る金属製の遮蔽層。
高温ガス腐食保護層としても働き、例えば、少なくとも部分的に金属アルミナイド又はMCrAlY合金(Mは、Fe、Ni若しくはCoの金属のうちの1つ、又はNi及びCoの組み合わせを表す)から製造できる金属製の付着促進層。
例えば、主にAl又は他の酸化物から成る酸化物セラミック保護層。
例えば、安定化した酸化ジルコニウムから成る酸化物セラミック熱遮蔽被覆。
例えば、安定化した酸化ジルコニウム又はSiOから成る酸化物セラミック平滑化層又はカバー層。
【0004】
下記にその製造を説明する熱遮蔽被覆構造体は、少なくとも1つの酸化物セラミック保護層及び少なくとも1つの酸化物セラミック熱遮蔽被覆を含む。この熱遮蔽被覆構造体を、上記のタービン・ブレードの例におけるように、金属製の付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層で形成することができる金属製の基板表面に付着させる。
【0005】
米国特許第5,238,752号には、金属製の基板表面に付けられる熱遮蔽被覆構造体の製造が記載されている。基板自体はNi合金又はCo合金から構成されるが、他方で、金属製の基板表面に、Niアルミナイド又はPtアルミナイドから成る25μm〜125μm厚の付着促進層を形成する。0.03μm〜3μm厚でAlから成る酸化物セラミック保護層をこの基板表面上に形成し、125μm〜725μm厚でZrO及び6%〜20%Yから成る酸化物セラミック熱遮蔽被覆を電子ビーム物理的気相成長法(EB−PVD)によって引き続き堆積させる。EB−PVDプロセスでは、熱遮蔽被覆用に堆積させようとする物質、例えば、8%Yを有するZrを、高真空中で電子ビームによって気相にし、被覆しようとする構成部品上にこの気相から凝結させる。プロセス・パラメータを適切な方法で選択すると、柱状微細構造が得られる。
【0006】
米国特許第5,238,752号に記載された熱遮蔽被覆構造体の製造は、EB−PVDによる熱遮蔽被覆の堆積のための設備経費が比較的高いこと、及びEB−PVDが熱遮蔽被覆の見通し線外(NLOS)にはどんな膜形成もできないという欠点を有する、だが一方では、例えば、端部の裏側に配置され且つプラズマ・トーチから見えない基板の部分をも被覆することが、低圧プラズマ溶射(LPPS)を用いれば可能である。
【0007】
熱遮蔽被覆を、LPPS薄膜プロセスによっても柱状構造に製造することができることが、WO03/087422A1により知られている。WO03/087422A1に記載されたプラズマ溶射プロセスでは、被覆しようとする材料を、プラズマ・ジェットにより金属製の基板の表面上に溶射する。この点において、プラズマ中に被覆材料を注入して焦点のない粉末ジェットとし、1kPa(10mbar)よりも低いプロセス圧力において部分的に又は完全にそこで溶融させる。この目的のために、被覆材料の重量で少なくとも5%の実質的な部分が気相へと変化するように、十分に大きな比エンタルピーを有するプラズマを発生させる。異方性構造を有する層が、被覆材料を用いて基板に付着される。この層では、異方性微細構造を形成する細長い小体が、基板表面に大部分が垂直に立って配列され、その小体が低材料遷移領域によって互いに分離され、その結果柱状構造を形成する。
【0008】
このように、プラズマ溶射プロセスが、通常は100kPaのプラズマ・トーチの室内の圧力と、10kPaよりも低い作業室内の圧力との圧力差によって生じる広いプラズマ・ジェットを使用するので、柱状構造を有する熱遮蔽被覆を製造するためのWO03/087422A1に記載されたプラズマ溶射プロセスが、LPPS薄膜プロセスに関連して述べられる。しかし、記載されたプロセスを使用して形成された熱遮蔽被覆は、1mm厚まで又はそれよりも厚くすることができるので、用語「薄膜」によっては事実上カバーされない。そこで、記載された方法を、下記ではプラズマ溶射物理的気相成長法プロセス、又は省略形でPS−PVDと呼ぶ。
【0009】
変更されたプロセスに従って製造された熱遮蔽被覆構造体を使用すると、WO03/087422A1により製造された熱遮蔽被覆を含む熱遮蔽被覆システムの耐熱サイクル性を向上できることを、出願人は見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,238,752号明細書
【特許文献2】国際公開第03/087422号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、プラズマ溶射プロセスによって製造された熱遮蔽被覆を有する熱遮蔽被覆システムの耐熱サイクル性を向上させることができる熱遮蔽被覆構造体を基板表面上に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に規定された方法による本発明によって、この目的が達成される。
【0013】
基板表面上に熱遮蔽被覆構造体を製造する本発明による方法では、プラズマ・トーチを有する作業室を準備し、プラズマ・ガスをプラズマ・トーチから導入し、気体放電及び/又は電磁誘導及び/又はマイクロ波によって加熱してプラズマ・ジェットを形成し、プラズマ・ジェットを作業室内に導入された基板の表面に向ける。この熱遮蔽被覆構造体を製造する方法では、プラズマ・トーチと基板との間にアークを発生させるために、プラズマ・トーチと基板との間に電圧を印加し、基板表面をアークによって清浄化し、基板をアークによる清浄化の後で作業室内に留める。0.02μm〜5μm又は0.02μm〜2μmの厚さを有する酸化物層を、このようにして清浄化された基板表面上に形成し、さらに少なくとも1つの熱遮蔽被覆をプラズマ溶射プロセスによって付着させる。基板は、熱遮蔽被覆構造体の製造中に、通常は全プロセスの期間中に作業室内に留めることが有利である。
【0014】
基板及び/又は基板表面は、通常は金属であり、基板表面に、例えば、付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層、例えばNiAl、NiPtAl若しくはPtAl、又はMCrAlY型合金などの金属アルミナイドの層が形成できる。ここでは、M=Fe、Co、Ni又はNiCoである。必要であれば、付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層を、プラズマ溶射プロセスによって又は別の適切なプロセスによって熱遮蔽被覆構造体形成の前に基板表面に付着させることができる。
【0015】
有利な具体例では、作業室内の雰囲気の組成及び/又は圧力を、熱遮蔽被覆構造体の製造中に監視及び/又は制御する。有利な具体例の変形例では、基板表面のアークによる清浄化中の作業室内の圧力を、1kPaよりも低くする。
【0016】
別の有利な具体例の変形例では、作業室が、酸化物層の形成中に酸素又は酸素を含有するガスを含む。酸化物層は、基板表面を例えばプロセス・ジェットによって加熱することにより、例えば熱的に形成することができる。
【0017】
酸化物層を、PS−PVDによって又は化学プロセスによって、例えばプラズマ溶射化学的気相成長法(PS−CVD)によって形成することもできる。その場合、作業室内の圧力は通常は1kPaよりも低くし、必要に応じて少なくとも1つの反応性成分を固体及び/又は液体及び/又はガス状の形でプラズマ・ジェットに注入する。
【0018】
形成された酸化物層が、3%よりも小さな又は1%よりも小さな気孔率を有することが有利であり、及び/又は90%よりも多く又は95%よりも多くが、熱的に安定な酸化物から、即ち、基板の使用条件下で熱的に安定であるα−Alなどの酸化物から形成される。
【0019】
別の有利な具体例では、少なくとも1つの熱遮蔽被覆を、セラミック材料から製造する。セラミック材料は、例えば、酸化ジルコニウム、特にイットリウム、セリウム、スカンジウム、ジスプロシウム若しくはガドリニウムにより安定化された酸化ジルコニウムから構成され、及び/又は酸化ジルコニウム、特に、イットリウム、セリウム、スカンジウム、ジスプロシウム若しくはガドリニウムにより安定化された酸化ジルコニウムを含有する。
【0020】
有利な具体例の変形例では、少なくとも1つの熱遮蔽被覆を、50kPaよりも高い作業室内の圧力で熱プラズマ溶射によって、及び/又は5kPa〜50kPaの作業室内の圧力で低圧プラズマ溶射(LPPS)によって付着させる。
【0021】
別の有利な具体例の変形例では、少なくとも1つの熱遮蔽被覆を、5kPaよりも低い、通常は1kPaよりも低い作業室内の圧力でプラズマ溶射物理的気相成長法(PS−PVD)によって付着させる。例えば、セラミック材料はプラズマに注入され、非焦点化された粉末ジェットを形成する。柱状構造を有する熱遮蔽被覆のために、例えば、重量で少なくとも15%又は少なくとも20%が気相へと変わるように、セラミック材料をプラズマ・ジェット中で少なくとも部分的に蒸発させることが有利である。
【0022】
別の有利な実施例では、プラズマ・ジェットの方向及び/又は基板からのプラズマ・トーチの距離を制御する。このようにして、プラズマ・ジェットを、例えば、基板表面の清浄化において及び/又は基板表面の加熱において及び/又は少なくとも1つの熱遮蔽被覆の膜形成において、基板表面の全域にわたり導くことができる。
【0023】
本発明は、上記の方法を使用して又は上記の具体例及び変形例のうちのいずれかを使用して製造された基板をさらに含む。
【0024】
本発明による熱遮蔽被覆構造体を製造する方法は、アークによる基板表面の清浄化の結果、汚染物及び自然に形成された自然酸化物層などの酸化物層を完全に除去することができ、酸化物層を、制御した条件下で清浄化した基板表面上にその後で形成できるという利点を有する。このようにして、WO03/087422A1によって製造された熱遮蔽被覆で可能なものよりも、基板表面への熱遮蔽被覆構造体のより優れた結合を実現することができる。本発明により製造された熱遮蔽被覆を使用する作業の際に金属酸化物の成長を遅くすること、及び熱層構造を使用する全体の熱遮蔽被覆システムの耐熱サイクル性の向上を実現することがさらに可能である。
【0025】
上記の具体例及び変形例は、単に例として記載されている。別の有利な実施例を、従属請求項及び図面から知ることができる。その上に、記載又は図示された実施例及び変形例から個々の構成を新たな実施例を形成するために、本発明の枠組みの中で互いに組み合わせることも可能である。
【0026】
本発明を、実施例及び図面を参照して下記により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による熱遮蔽被覆を製造するためのプラズマ・コーティング設備の一例の図。
【図2】本発明により製造した熱遮蔽被覆構造体を有する熱遮蔽被覆システムの一例の図。
【図3】任意の所望の金属製の基板上に本発明により製造した熱遮蔽被覆構造体の一例の図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明による熱遮蔽被覆構造体を製造するためのプラズマ・コーティング設備の例を示す。プラズマ・コーティング設備1は、プラズマ・ジェット5を発生させるためのプラズマ・トーチ4を有する作業室2、作業室内の圧力を設定するために作業室2に接続された図1には示されていない制御されたポンプ装置、および基板3を保持するための基板ホルダ8を備える。例えば、DCプラズマ・トーチとして構成することができるプラズマ・トーチ4は、熱遮蔽被覆を柱状構造で製造することができるように、十分に大きいエンタルピーを有するプラズマを発生させるために、少なくとも60kW、80kW又は100kWの供給電力を有することが有利である。作業室2内の圧力は、2Pa〜100kPa又は5Pa〜20kPaに便宜上設定可能である。必要に応じて、プラズマ・コーティング設備1は、固体、液体及び/又はガス状の形でプラズマ中又はプラズマ・ジェット中に1つ又は複数の構成成分を注入するための1つ又は複数の注入装置を追加で備えることができる。
【0029】
プラズマ・トーチを、電源、例えばDCプラズマ・トーチ用の直流電源、及び/又は冷却装置に、及び/又はプラズマ・ガス供給部に、並びに、場合により液体用および/若しくはガス状の反応性成分用の供給部に、及び/又は溶射粉末若しくは懸濁材用の搬送装置に通常は接続する。プロセス・ガス又はプラズマ・ガスは、例えばアルゴン、窒素、ヘリウム、水素、又は窒素及び/若しくは水素を含むArとHeの混合物を含むことができる。或いは、これらのガスのうちの1つ又は複数から構成できる。
【0030】
有利な実施例の変形例では、基板ホルダ8を、予備室から外へ密封樋管9を介して作業室2内に基板を動かすための変位可能な棒ホルダとして構成する。棒ホルダを、必要な場合には、処理及び/又は被覆処理中に、追加で基板を回転させることができるようにする。
【0031】
別の有利な実施変形例では、プラズマ・コーティング設備1は、図1には示してないプラズマ・トーチ4用の制御された調節装置を追加で含み、プラズマ・ジェット5の方向及び/又は基板3からのプラズマ・トーチまでの距離を、例えば、0.2m〜2m又は0.3m〜1.2mの範囲に制御する。場合により、枢動運動7を実行するために、1つ又は複数の枢動軸を調節装置に設けることができる。基板3の異なる領域の上方にプラズマ・トーチ4を配置するために、調節装置は、さらに追加の直線調節軸6.1、6.2をも含むことができる。プラズマ・トーチの直線運動及び枢動運動は、例えば全表面にわたり一様に基板を予備加熱するため又は基板表面上で一様な層厚さ及び/又は層品質を実現するために、基板処理及び基板被覆の制御を可能にする。
【0032】
基板表面上に熱遮蔽被覆構造体を製造する本発明による方法の実施例を、図1、図2および図3を参照して下記に説明する。本方法では、プラズマ・トーチ4を有する作業室2が準備され、プラズマ・ガスがプラズマ・トーチを介して導入され、気体放電及び/又は電磁誘導及び/又はマイクロ波によって加熱されたプラズマ・ジェット5が形成され、プラズマ・ジェット5が、作業室2に導入された基板3の表面上に向けられる。本方法では、電圧が、プラズマ・トーチと基板との間にアークを発生させるためにプラズマ・トーチ4と基板3との間に印加され、基板表面がアークによって清浄化され、基板が、アークによる清浄化の後で作業室内に留められる。0.02μm〜5μm又は0.02μm〜2μmの厚さを有する酸化物層11が、このようにして清浄化された基板表面上に形成され、次のステップでは、少なくとも1つの熱遮蔽被覆12が、プラズマ溶射プロセスによって付着される。基板3は、熱遮蔽被覆構造体の製造中に作業室2内に留まることが有利である。
【0033】
典型的な実施例の変形例では、基板3及び/又は基板表面は金属製である。基板を、例えばNi合金又はCo合金から成るタービン・ブレードとすることができ、基板表面を、付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層3’、例えば、NiAl、NiPitAl若しくはPtAlなどの金属アルミナイド又はMCrAlY型の合金によって通常は形成する。ここで、MはFe、Co、Ni又はNi及びCoの組み合わせである。必要に応じて、それに加えて、遮蔽層を、基板3と付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層3’(図2及び図3には図示せず)との間に設けることができる。遮蔽層は金属から構成されることが有利である。例えば、NiAl又はNiCrを含むことができる。
【0034】
遮蔽層及び/又は付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層の膜形成を、望まれる場合には、熱遮蔽被覆構造体を製造する方法の枠組みの中で行うことができる。有利な実施例では、遮蔽層及び/又は付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層を、例えば、プラズマ溶射プロセスによって又は別の適切なプロセスによって基板表面に付着させ、熱遮蔽被覆形成を続け、上記のように、こうして形成された基板表面をアークによって清浄化し、アークによる清浄化の後で作業室2から基板3を取り出さずに、通常は0.02μm〜5μm又は0.02μm〜2μmの厚さを有する酸化物層11を、このようにして清浄化された基板表面上に形成し、次のステップでは、少なくとも1つの熱遮蔽被覆12を、プラズマ溶射プロセスによって付着させる。
【0035】
別の有利な実施例では、作業室2内の雰囲気の組成及び/又は圧力を、熱遮蔽被覆構造体10の製造中に監視及び/又は制御する。有利な実施例の変形例では、基板表面のアークによる清浄化中の作業室内の圧力は、1kPa又は200Paよりも低くする。
【0036】
別の有利な実施例の変形例では、作業室2は、酸化物層11の形成中に酸素又は酸素含有ガスを含む。酸化物層11を、例えば、熱的に形成することができ、基板表面を、例えば、プラズマ・ジェット5によって並びに/又はC放射及び/又は電磁誘導によって加熱する。
【0037】
酸化物層11を熱的に形成する場合には、基板表面温度及び/又は作業室内の圧力及び/又は作業室内のO分圧を、下記のように選択することが有利である。
基板表面の温度を、1040℃〜1120℃、又は1070℃〜1110℃にすることができる。
作業室内の圧力を、10Pa〜2kPa、又は50Pa〜500Paにすることができる。
作業室内のO分圧を、ケース毎に0.1Pa〜20Pa、又は1Pa〜10Paとすることができる。
【0038】
酸化物層11の形成中に、プラズマ・ジェット5によって基板表面を完全に又は部分的に加熱する場合には、典型的な応用例ではプラズマ・ガス及びOガスの全流量が、60NLPM〜240NLMP、又は100NLMP〜180NLMPになり、Oガス流量が、1NLPM〜20NLPM、又は2NLMP〜10NLMPになり、Oガスは通常はプラズマ・ガスとは別に供給される。
【0039】
酸化物層11をPS−PVDによって又は化学プロセスによって、例えば、PS−CVDによっても形成することができる。作業室内の圧力は、通常は1kPaよりも下、例えば、20Pa〜200Paであり、必要なときには、少なくとも1つの反応性成分を、固体及び/又は液体及び/又はガス状の形で、プラズマ中及び/又はプラズマ・ジェット中に注入する。
【0040】
形成された酸化物層は、3%よりも小さい又は1%よりも小さな気孔率を有し、及び/又は90%よりも多く又は95%よりも多くが、熱的に安定な酸化物から構成されることが有利である。特に、90%よりも多く又は95%よりも多くがα−Alである。有利な実施例変形例では、形成された酸化物層は、90%〜99%のα−Al又は94%〜98%のα−Alから構成され、酸化物層のα−Al含有量を、例えば、微細断面の分析により決定することが可能である。
【0041】
別の有利な実施例では、少なくとも1つの熱遮蔽被覆12を、セラミック材料から、例えば、酸化物セラミック材料から又は酸化物セラミック成分を含有する材料から製造する。酸化物セラミック材料は、例えば、希土類元素により安定化されたジルコニウム酸化物である。安定剤として使用する物質を、希土類元素、例えば、イットリウム、セリウム、スカンジウム、ジスプロシウム又はガドリニウムの酸化物の形でジルコニウム酸化物に添加する。イットリウム酸化物の場合では、割合は、通常は重量で5〜20%になる。
【0042】
有利な実施例変形例では、少なくとも1つの熱遮蔽被覆12を、50kPaよりも高い作業室内の圧力で熱プラズマ溶射によって及び/又は5kPa〜50kPaの作業室内の圧力で低圧プラズマ溶射(LPPS)によって付着させる。
【0043】
さらなる有利な実施例の変形例では、少なくとも1つの熱遮蔽被覆12を、5kPaよりも低い、通常は1kPaよりも低い作業室内の圧力でプラズマ溶射物理的気相成長法(PS−PVD)によって付着させ、セラミック材料を、例えば、プラズマ中へと注入して、粉末ジェットを非焦点化させることができる。柱状構造を有する熱遮蔽被覆を形成するために、例えば、重量で少なくとも15%又は少なくとも20%を気相に変えるように、セラミック材料を、プラズマ・ジェット中で少なくとも部分的に蒸発させることが有利である。熱遮蔽被覆12を、この点において、複数の層を堆積させることによって形成することができる。熱遮蔽被覆12の全体の層厚さは、通常は50μm〜2000μmの値、好ましくは少なくとも100μmの値を有する。
【0044】
プラズマ・トーチ4は、熱遮蔽被覆12を付着させるために必要であり、例えばDCプラズマ・トーチとして構成することができ、柱状構造を有する熱遮蔽被覆をPS−PVDによって製造できるように十分に大きな比エンタルピーを有するプラズマを発生させるために、少なくとも60kW、80kW又は100kWの供給電力を有することが有利である。
【0045】
PS−PVDプロセス中にプラズマを非焦点化することによって、所望の柱状構造を有する層をもたらす蒸気のクラウド及び粒子に粉末ジェットを変換するように、粉末状の出発材料は、非常に細かな粒でなければならない。出発材料のサイズ分布は、実質的な部分が1μm〜50μm、好ましくは3μm〜25μmの範囲にあることが有利である。
【0046】
別の有利な実施例では、プラズマ・ジェットの方向及び/又は基板からのプラズマ・トーチの距離を制御する。従って、一様な処理又は被覆を実現するために、プラズマ・ジェットを、例えば、基板表面の清浄化において及び/又は基板表面の加熱において及び/又は酸化物層の形成及び/又は少なくとも1つの熱遮蔽層の膜形成において基板表面の全域にわたり導くことができる。
【0047】
使用するプラズマ溶射プロセスとは無関係に、事前設定した温度範囲で上記の実施例及び変形例において説明した層の付着及び/又は形成を実行するために、追加の熱源を使用することが有利な場合がある。温度を、通常は800℃〜1300℃の範囲に、有利には1000℃超の温度範囲に事前設定する。赤外線放射器、例えば、カーボン放射器、及び/又はプラズマ・ジェット及び/又はプラズマ及び/又は誘導ヒータを、例えば、追加の熱源として使用できる。この点において、熱源の熱供給量及び/又は被覆しようとする基板の温度を、必要に応じて制御又は調整できる。
【0048】
上記の実施例及び変形例で説明した層の膜付及び/又は膜形成の前に、層の付着を改善するために、基板3及び/又は基板表面を通常は予備加熱する。基板の予備加熱を、プラズマ・ジェットにより行うことができ、予備加熱のために被覆用粉末や反応性成分のいずれも含まないプラズマ・ジェット5を、ピボット運動により基板の全域にわたって導く。
【0049】
図2及び図3は、本発明により製造された熱遮蔽被覆構造体を有する熱遮蔽被覆システムの実施例をそれぞれ示す。基板3及び/又は基板表面は、通常は金属製であり、図2に示したように、基板表面を、例えば付着促進層によって及び/又は高温ガス腐食保護層3’、例えばNiAl、NiPtAl若しくはPtAlなどの金属アルミナイド又はMCrAlY型の合金によって形成することができる。ここで、MはFe、Co、Ni又はNi及びCoの組み合わせである。必要であれば、遮蔽層を、基板3と付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層3’(図2及び図3には図示せず)との間に設けることができる。遮蔽層を、金属製のものとして構成し、例えば、NAl又はNiCrから構成することが有利である。遮蔽層は、通常は1μm〜20μmの厚さを有し、付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層3’は、通常は50μm〜500μmの厚さを有する。
【0050】
遮蔽層及び/又は付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層の形成を、望まれる場合には、熱遮蔽被覆構造体を製造する方法の枠組みの範囲内で行うことができる。有利な実施例では、遮蔽層及び/又は付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層を、例えば、プラズマ溶射プロセスによって又は別の適切なプロセスによって基板表面に付着させ、熱遮蔽被覆の形成を続け、上記のように、こうして形成した基板表面を、アークによって清浄化し、アークによる清浄化の後で作業室2から基板3を取り出さずに、通常は0.02μm〜5μm又は0.02μm〜2μmの厚さを有する酸化物層11を、このようにして清浄化した基板表面上に形成し、その後のステップで、少なくとも1つの熱遮蔽被覆12を、プラズマ溶射プロセスによって付着させる。
【0051】
必要であれば、ここで図2及び図3に示す平滑化層を、追加で熱遮蔽被覆12に付着させることができる。平滑化層は、例えば、ZrO又はSiOなどの酸化物セラミック材料から構成することができ、通常は0.2μm〜50μm、好ましくは1μm〜20μmの厚さを有することができる。平滑化層を、例えば、固体や、液体及び/又はガス状の形でプラズマ中に又はプラズマ・ジェット中に1つ又は複数の構成成分を注入するPS−PVDによって付着させることが有利である。
【0052】
基板表面上に熱遮蔽被覆構造体を製造する方法の個々のステップを、プロセス中に作業室2から基板3を取り出さずに単一の作業サイクルで実行することが好ましい。
【0053】
本発明は、上記の方法を使用して、又は上記の実施例及び変形例のうちの1つを使用して製造された基板をさらに含む。
【0054】
基板表面上に熱遮蔽被覆構造体を製造する上に説明した方法並びに関連する実施例及び変形例は、全体の熱遮蔽被覆システムの耐熱サイクル性の向上を実現することができる結果、高品質酸化物層、例えばα−Al層を、清浄化した基板表面上に形成することができるという利点を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法であって、
プラズマ・トーチ(4)を有する作業室(2)を準備する段階と、
プラズマ・ガスを前記プラズマ・トーチ(4)から導入し、気体放電及び/又は電磁誘導及び/又はマイクロ波によって加熱して、プラズマ・ジェット(5)を形成する段階と、
前記プラズマ・ジェット(5)を、前記作業室内に導入された基板(3)の前記基板表面に方向付ける段階とを有する前記方法において、
前記プラズマ・トーチ(4)と前記基板(3)との間にアークを発生させるために前記プラズマ・トーチ(4)と前記基板(3)との間に電圧を印加して、前記基板表面を前記アークによって清浄化する段階と、
前記基板(3)を、前記アークによる清浄化の後で前記作業室内に留め、清浄化された前記基板表面に0.02μm〜5μm、とりわけ0.02μm〜2μmの厚さを有する酸化物層(11)を形成する段階と、
さらに、少なくとも1つの熱遮蔽被覆(12)を、プラズマ溶射プロセスによって付着させる段階とを特徴とする、熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項2】
前記基板表面に、付着促進層及び/又は高温ガス腐食保護層、とりわけMCrAlY型の合金又は金属アルミナイドの層を形成し、ここでMはFe、Co、Ni又はNiCoである、請求項1に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項3】
前記基板(3)を、前記熱遮蔽被覆構造体の製造中に前記作業室(2)内に留める、請求項1又は請求項2に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項4】
前記作業室内の雰囲気の組成及び/又は圧力を、前記熱遮蔽被覆構造体の製造中に監視及び/又は制御する、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項5】
前記作業室(2)内の圧力を、前記基板表面の前記アークによる洗浄中に1kPaよりも低くする、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項6】
前記作業室(2)が、前記酸化物層(11)の形成中に酸素又は酸素を含有するガスを含む、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項7】
前記酸化物層(11)を熱的に形成する、とりわけ前記基板表面を前記プラズマ・ジェットによって加熱することにより形成する、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項8】
前記酸化物層(11)を、前記作業室内の圧力が1kPaよりも低い間に、PS−PVD又はPS−CVDによって形成する、とりわけ少なくとも1つの反応性成分を、液体又はガス状の形態で前記プラズマ・ジェット(5)に注入する、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項9】
形成された前記酸化物層(11)が、3%よりも小さな、とりわけ1%よりも小さな気孔率を有し、及び/又は形成された前記酸化物層(11)の90%よりも多く又は95%よりも多くが、熱的に安定な酸化物から形成され、とりわけ90%よりも多く又は95%よりも多くがα−Alから形成される、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの熱遮蔽被覆をセラミック材料から製造する、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項11】
前記熱遮蔽被覆の前記セラミック材料が、安定化酸化ジルコニウムから、とりわけイットリウム、セリウム、スカンジウム、ジスプロシウム若しくはガドリニウムにより安定化された酸化ジルコニウムから構成され、及び/又は安定化酸化ジルコニウム、とりわけ成分としてイットリウム、セリウム、スカンジウム、ジスプロシウム若しくはガドリニウムにより安定化された酸化ジルコニウムを含有する、請求項10に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項12】
少なくとも1つの熱遮蔽被覆を、50kPaよりも高い前記作業室内の圧力で熱プラズマ溶射によって、及び/又は5kPa〜50kPaの前記作業室内の圧力で低圧プラズマ溶射によって付着させる、請求項10又は請求項11に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項13】
少なくとも1つの熱遮蔽被覆を、5kPaよりも低い又は1kPaよりも低い前記作業室内の圧力でプラズマ溶射物理的気相成長法(PS−PVD)によって付着させる、請求項10又は請求項11に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項14】
前記セラミック材料を、柱状構造を有する熱遮蔽被覆体(12)を形成するために前記プラズマ・ジェット中で少なくとも部分的に蒸発させる、請求項13に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法。
【請求項15】
請求項1から請求項14までのいずれか一項に記載された熱遮蔽被覆構造体(10)を製造する方法により製造された基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82519(P2012−82519A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−222582(P2011−222582)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(500063790)ズルツァー・メットコ・アクチェンゲゼルシャフト (30)
【氏名又は名称原語表記】Sulzer Metco AG
【Fターム(参考)】