説明

燃料ホースの製法

【課題】先端部の外側ゴム層が剥がれないようにすることができる燃料ホースの製法を提供する。
【解決手段】管状のフッ素系樹脂層12と、上記フッ素系樹脂層12の外周に積層される外側ゴム層13とを備えた燃料ホースの製法であって、押出成形によりフッ素系樹脂層12を形成した後、外側ゴム層13を押出成形するのに先立って、上記フッ素系樹脂層12の外周面を、アルゴン等の希ガス雰囲気中で大気圧式マイクロ波プラズマ処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系樹脂層とゴム層との積層構造を有する燃料ホースの製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の燃料ホース(燃料輸送用ホース)としては、燃料低透過性を向上させるために、その燃料ホースを構成する周壁(ゴム層)の中に、中間層として、燃料低透過性を有するフッ素系樹脂からなる樹脂層が形成されたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
すなわち、上記燃料ホースの構造は、内側ゴム層/フッ素系樹脂層/外側ゴム層が形成された3層構造となっており、そのホースの製法は、通常、押出成形により、内側の層から順に積層することにより行われる。
【特許文献1】特開2004−150457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、外側ゴム層は、押出成形時は温度が高く、その後、自然に冷却される。このとき、外側ゴム層は、押出成形後、温度が低下するにつれて、ホースの軸方向に収縮しようとする。しかも、外側ゴム層と、その内側のフッ素系樹脂層とは、接着力が弱い。これらのことから、ホースの先端部では、外側ゴム層がフッ素系樹脂層から剥がれ、先端にいくにつれて徐々に拡径した形状になる。先端部がこのような拡径した状態のままであると、その後の工程において、その先端部がフッ素系樹脂層と接着しなくなったり、外観不良になったりするという難点がある。そこで、その先端部をテープや紐等で縛り、最外層のゴム層の剥がれ(拡径)を防止するといったことが行われるが、このような作業は製造効率を妨げていることから、改善が求められている。
【0005】
また、製造されたホースを商品として出荷する際には、上記拡径した先端部は切断されるため、その先端部の材料コスト等が無駄になるという問題点もある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、先端部の外側ゴム層が剥がれないよう、その外側ゴム層とフッ素系樹脂層との接着力を高めることができる燃料ホースの製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の燃料ホースの製法は、管状のフッ素系樹脂層と、その外周に積層される外側ゴム層とを備えた燃料ホースの製法であって、押出成形によりフッ素系樹脂層を形成した後、外側ゴム層を押出成形するのに先立って、上記フッ素系樹脂層の外周面を、下記(A)に示すガス雰囲気中で大気圧式マイクロ波プラズマ処理するという構成をとる。
(A)ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)からなる群から選ばれた少なくとも一つの希ガス。
【0008】
すなわち、本発明の燃料ホースの製法は、外側ゴム層の押出成形に先立って、その内側のフッ素系樹脂層の外周面を、希ガス雰囲気中で大気圧式マイクロ波プラズマ処理している。これにより、その外周面を適正な改質面に形成することができ、さらに、たとえ上記処理が短時間の処理であっても、その処理面の水との接触角を顕著に下げることができる。そして、大気圧式マイクロ波プラズマ処理したフッ素系樹脂層の外周面には、高いタック性が得られるようになる。これは、上記処理面が大気にさらされ、水酸基やカルボキシル基等の官能基がつくことによるものと考えられる。このため、上記大気圧式マイクロ波プラズマ処理したフッ素系樹脂層の外周面に、外側ゴム層を押出成形すると、その外側ゴム層は、上記フッ素系樹脂層の外周面に強く接着する。その結果、外側ゴム層が冷却されホースの軸方向に収縮しようとしても、その先端部では、外側ゴム層はフッ素系樹脂層から剥がれず、拡径しないようになる。
【0009】
なお、従来から表面改質処理として行われているコロナ・アーク放電では、異常放電が多発することによるピンホール発生が生じやすく、さらに局所的な処理になりやすいといった難点がある。また、マイクロ波プラズマ処理を除く一般的なプラズマ処理、例えば、周波帯が13.56MHzほどの高周波(RF)電源によるRF真空プラズマ処理等では、減圧下での処理のため、ハンドリング(処理時の取り扱い)に難があったり、真空設備のため、設備コストが高い等の問題がある。さらに、プラズマジェットやアフターブロー等の市販大気圧プラズマ表面処理方式では、あまり層間接着力が高くない等の問題がある。そのため、上記フッ素系樹脂層の外周面にこのような処理を施しても、マイクロ波プラズマ処理ほど良好な表面改質効果は得られない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の燃料ホースの製法は、外側ゴム層の押出成形に先立って、その内側のフッ素系樹脂層の外周面を、希ガス雰囲気中で大気圧式マイクロ波プラズマ処理しているため、そのフッ素系樹脂層の外周面に、外側ゴム層を強い接着力で形成することができ、その外側ゴム層の先端部での剥がれ(拡径)を防止することができる。しかも、たとえ上記処理が短時間の処理であっても、上記処理による効果は充分得られるため、生産性の向上が図れる。その結果、ホースの製造効率が向上するとともに、製造されたホースの先端部を除去するという無駄をなくすことができる。
【0011】
特に、本発明の燃料ホースの製法によれば、相互の接着性に乏しい、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(THV)等のフッ素樹脂からなるフッ素系樹脂層と、その外周面に位置する外側ゴム層との接着を強固に行うことができる。
【0012】
また、上記マイクロ波プラズマが表面波プラズマであると、高密度なプラズマを幅広く、且つ、大面積に生成することができるため、大気圧式マイクロ波プラズマ処理したフッ素系樹脂層の外周面には、高い密着性(タック性)が発現するようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。但し、本発明は、これに限定されるものではない。
【0014】
本発明の燃料ホースの製法は、例えばつぎのようにして行われる。すなわち、まず、第1の押出機および第2の押出機により、内側ゴム層11とフッ素系樹脂層12とを連続してそれぞれ管状(円筒状)に押出成形し、2層構造〔内側が内側ゴム層11、外側がフッ素系樹脂層12(図1参照)〕のホース基体1aを作製する。ついで、そのホース基体1aを調尺切断した後、大気圧式マイクロ波プラズマ処理装置40(図3参照)内に導入し(バッチ処理)、そのホース基体1aを回転させながら、フッ素系樹脂層12の外周面を大気圧または大気圧近傍下でマイクロ波プラズマ処理する。そして、ホース基体1aを大気圧式マイクロ波プラズマ処理装置40から出した後、第3の押出機に導入し、フッ素系樹脂層12の外周面に管状の外側ゴム層13(図2参照)を押出成形する。このようにして、燃料ホース1を製造する。なお、内側ゴム層11を設けず、2層構造の燃料ホースとする場合、中空押出し成形により製造することも可能であるが、必要に応じ、その製造の際に、フッ素系樹脂層12内周側に樹脂製マンドレルを使用することもできる。
【0015】
本発明の燃料ホースの製法では、上記のような大気圧式マイクロ波プラズマ処理により、フッ素系樹脂層12の外周面が改質面に形成されるとともに、その処理面が大気にさらされ、水酸基やカルボキシル基等の官能基が付着することにより高いタック性が得られる(表面改質される)ようになる。そのため、上記大気圧式マイクロ波プラズマ処理されたフッ素系樹脂層12において、外側ゴム層13との接着力を強めることができるとともに、その外側ゴム層13の先端部での剥がれ(拡径)を防止することができる。
【0016】
すなわち、本発明の燃料ホースの製法の特徴は、上記フッ素系樹脂層12に対する大気圧式マイクロ波プラズマ処理にあり、その前工程および後工程で行われる、第1〜第3の押出機による押出成形は、従来より通常行われている方法で行われる。
【0017】
より詳しく説明すると、本発明の燃料ホースの製法に使用される上記大気圧式マイクロ波プラズマ処理装置40は、例えば、図3に示すような構造のものがあげられる。図3において、51は、石英,アルミナ等の誘電体(Oリング等によりシールされている)であり、42は誘電体板(石英板、アルミナ板等)であり、43は窓孔を備えた金属壁(例えば、図4に示すような、複数のスリット状窓孔5が設けられた金属板)であり、49は導波管である。上記導波管49は、図示のように、その一端がマイクロ波発振器に接続されており、他端が、真空排気するための排気口50となっている。そして、上記排気口50には、マイクロ波漏れ防止のための金属メッシュ52が設けられている。また、上記マイクロ波発振器は、図示のようにマイクロ波電源に接続されている。なお、上記マイクロ波発振器と導波管49との間には、必要に応じ、パワーモニター、アイソレータおよび整合器を、公知(マイクロ波電源メーカ推奨等)の構成及び配置で接続しても差し支えない(図示せず)。
【0018】
また、図3において、41は箱状の処理室であり、上記処理室41の一端(図3では左端)には、前記ホース基体1aを取り付けるためのシャフト44が設けられ、他端(図3では右端)にも同様に回転シャフト45が設けられている。そして、上記回転シャフト45は、ウィルソンシール46を介し、上記処理室41外部に設けられた可変速モータに接続されている。また、上記処理室41には、その処理室41内にガスを供給する供給口47(図の矢印方向にガスを供給)と、処理室41内のガスを排出する排出口48(図の矢印方向にガスを自然排気)とが形成されている。
【0019】
そして、上記大気圧式マイクロ波プラズマ処理装置40によるホース基体1a外周面(フッ素系樹脂層12の外周面)のマイクロ波プラズマ処理は、つぎのようにして行われる。すなわち、まず調尺切断した管状(円筒状)のホース基体1aを、図3に示すようにマイクロ波プラズマ照射装置に取り付ける。つぎに、ホース基体1aを可変速モータにより回転させながら、処理室41内で、高密度プラズマを発生させる。高密度プラズマは、排気口50からの真空排気によって導波管49内(誘電体51から排気口50まで)を減圧状態にするとともに、上記マイクロ波発振器から導波管49を伝って導入したマイクロ波を、上記金属壁43の窓孔を通して誘電体板42に入射させることにより、処理室41内に発生させることができる。このようにして、ホース基体1a外周面のマイクロ波プラズマ処理を行う。なお、上記のように導波管49内を減圧状態にするのは、導波管49内と処理室41内との圧力差により、導波管49内でプラズマが発生するのを防ぐためである。
【0020】
本発明では、上記のように大気圧式マイクロ波プラズマ処理することが特徴であり、このようにすることにより、たとえ上記処理が短時間の処理であっても、その処理面の水との接触角を顕著に下げることができる。そして、大気圧式マイクロ波プラズマ処理したフッ素系樹脂層の外周面には、高いタック性が得られるようになる。このような効果が得られる上記大気圧式マイクロ波プラズマ処理の処理時間は、好ましくは、1〜200秒であり、より好ましくは、再現性と経済性の観点から10〜100秒である。
【0021】
特に、図3に示す装置のように、上記マイクロ波プラズマが表面波プラズマであると、高密度なプラズマを幅広く、且つ、大面積に生成することができるため、大気圧式マイクロ波プラズマ処理したフッ素系樹脂層の外周面には、高い密着性(タック性)が発現するようになる。
【0022】
なお、上記大気圧式マイクロ波プラズマ処理は、周波数433MHz〜2.45GHzのマイクロ波により行うことが好ましく、より好ましくは、周波数846MHz、896MHz、915MHzもしくは2.45GHzのマイクロ波による処理である。すなわち、このような周波数のマイクロ波で処理を行うことにより、電波法の範囲内で、より良好に表面改質がなされるからである。
【0023】
上記大気圧式マイクロ波プラズマ処理に用いられるプラズマ発生用ガスとしては、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)の希ガスが用いられる。なかでも、経済性及び電離性の観点から、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)が好ましい。そして、これらプラズマ発生用ガスは、これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。なお、プラズマを安定させる目的等で、アセトン等の有機溶剤を気化混入させても良い。または必要に応じて、窒素(N2 )、水素(H2 )等を混入しても差し支えない。
【0024】
また、上記大気圧式マイクロ波プラズマ処理は、前記のように、上記処理室41の中で、調尺切断したホース基体1aを回転させながら行うと、より均一に処理を行うことができるようになるため、好ましい。
【0025】
なお、本発明の燃料ホースの製法に使用される大気圧式マイクロ波プラズマ処理装置の構造は、大気圧式マイクロ波プラズマ処理を行うことができるものであれば、図3に示すような構造のものに限定されるものではない。
【0026】
上記大気圧式マイクロ波プラズマ処理の対象となるフッ素系樹脂層12の材料としては、例えば、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(THV)、ビニリデンフルオライド樹脂(PVDF)、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。また、このフッ素系樹脂層12の厚みは、通常、20〜500μmの範囲に設定される。
【0027】
本発明の燃料ホースの製法によれば、相互の密着性(タック性)に乏しい、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(THV)等のフッ素樹脂からなるフッ素系樹脂層12であっても、その外周面に位置する外側ゴム層13との密着性(タック性)を強固に行うことができる。この要因をESCA(X線光電子分光分析装置)でフッ素系樹脂(ダイニオン社製のTHV815)層外周面に対する各処理後ごとのC1s結合エネルギー状況を化学分析することにより考察してみたところ、図5のグラフ図(C1s結合のCF結合を1とし、他のピークの増減をみたもの。CO結合が増えていれば、CF結合は減少したことになる。)に示すように、ブランク(未処理品)、減圧高周波(RF)プラズマ処理(20秒間のプラズマ処理)のときよりも、大気圧式マイクロ波プラズマ処理(20秒間の大気圧式プラズマ処理)したときのほうが、−C−O−結合,−C=O結合等が増えていることがわかった。これは、上記処理によりフッ素系樹脂層表面(外周面)のフッ素原子が放出され、代わりに、上記処理面が大気にさらされることに起因し、カルボキシル基や水酸基等の官能基がつくためと考えられる。そして、この官能基が、フッ素系樹脂層表面の親水性を高くし、上記層間接着性の向上に寄与するものと考えられる。なお、上記化学分析は、ESCA(例えば、アルバック・ファイ社製のESCA5600)以外にも、FT−IRによっても分析することができる。
【0028】
上記フッ素系樹脂層12の外周面に形成される外側ゴム層13の材料は、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR),NBRとポリ塩化ビニル(PVC)とをブレンドしたNBR−PVCブレンド材料,フッ素ゴム(FKM),アクリルゴム(ACM),ヒドリンゴム,エピクロルヒドリンゴム,エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM),天然ゴム(NR),ブタジエンゴム(BR),スチレン−ブタジエンゴム(SBR),ブチルゴム(IIR),ハロゲン化−IIR,クロロプレンゴム(CR),クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM),塩素化ポリエチレンゴム(CPE)等があげられる。特に、耐摩耗性,耐衝撃性,耐候性等に優れた上記NBR,NBR−PVCブレンド材料,ヒドリンゴム,CSM,CPE等が、燃料ホース用途において好ましい。また、この外側ゴム層13の厚みは、通常、0.2〜4mmの範囲に設定される。
【0029】
上記フッ素系樹脂層12の内周面に形成される内側ゴム層11の材料は、例えば、上記外側ゴム層13の形成材料と同じものである、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR),NBRとポリ塩化ビニル(PVC)とをブレンドしたNBR−PVCブレンド材料,フッ素ゴム(FKM),アクリルゴム(ACM),ヒドリンゴム,エピクロルヒドリンゴム,エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM),天然ゴム(NR),ブタジエンゴム(BR),スチレン−ブタジエンゴム(SBR),ブチルゴム(IIR),ハロゲン化−IIR,クロロプレンゴム(CR)等があげられる。特に、耐燃料性に優れた上記NBR,NBR−PVCブレンド材料,FKM等が、燃料ホース用途において好ましい。また、この内側ゴム層11の厚みは、通常、0.2〜4mmの範囲に設定される。
【0030】
なお、図2では、本発明の製法により得られる燃料ホース1を3層構造(内側ゴム層11/フッ素系樹脂層12/外側ゴム層13)としたが、先述のように、内側ゴム層11を設けず、2層構造の燃料ホースとしてもよい。また、上記外側ゴム層13の外周に、ポリエステル補強糸や炭素繊維を巻き付けてなる補強層,他のゴム層,フッ素系樹脂層等を形成してもよい。さらに、上記フッ素系樹脂層12を複数層積層し、各層の樹脂材料が異なるようにしてもよい。また、上記内側ゴム層11の内周に、他の層を形成してもよい。
【0031】
そして、上記燃料ホース1は、自動車や輸送機器(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)等に用いられる、ガソリン,アルコール混合ガソリン(ガソホール),アルコール,水素,軽油,ジメチルエーテル,ディーゼル,CNG(圧縮天然ガス),LPG(液化石油ガス)等の燃料輸送用ホースとして好適に用いられる。
【0032】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
下記のように、内側ゴム層,フッ素系樹脂層,外側ゴム層の各形成材料を用いて、上記実施の形態と同様にして、3層構造の燃料ホースを作製した。
【0034】
〔内側ゴム層の形成材料の調製〕
NBR(日本ゼオン社製、ニポールDN101)100重量部(以下、「部」と略す)と、SRF(東海カーボン社製、シーストS)50部と、可塑剤(旭電化社製、RS107)20部と、酸化亜鉛5部と、硫黄0.5部と、加硫促進剤であるノクセラーTET(大内新興社製)2.1部と、加硫促進剤であるノクセラーCZ(大内新興科学社製)1.5部とを加え、バンバリーとミキシングロールを用いて混練し、内側ゴム層の形成材料を調製した。
【0035】
〔フッ素系樹脂層の形成材料〕
フッ素樹脂(ダイニオン社製、THV−815)を準備した。
【0036】
〔外側ゴム層の形成材料の調製〕
NBR+PVC(日本ゼオン社製、ニポールDN508SCR)100部と、SRF(東海カーボン社製、シーストS)50部と、可塑剤(旭電化社製、RS107)30部と、酸化亜鉛5部と、硫黄0.5部と、加硫促進剤であるノクセラーTET(大内新興社製)2.1部と、加硫促進剤であるノクセラーCZ(大内新興科学社製)1.5部とを加え、バンバリーとミキシングロールを用いて混練し、外側ゴム層の形成材料を調製した。
【0037】
〔燃料ホースの作製〕
第1,2の押出機により、内側ゴム層(内径23mm、厚み2mm)とフッ素系樹脂層(厚み150μm)とを連続してそれぞれ管状(円筒状)に押出成形して、加熱加硫することにより、ホース基体を作製し、その後、これを長さ40cmに調尺切断した。このようにして得られたホース基体を、大気圧式マイクロ波プラズマ処理装置内に導入し、そのフッ素系樹脂層の外周面を大気圧式マイクロ波プラズマ処理した。この処理は、具体的には、図3に示すような大気圧式マイクロ波プラズマ処理装置により、ホース基体を回転(1回転/秒の速度で回転)させながら、アルゴンガス雰囲気下〔ガス流量:1. 35Pa・m3 /s(800SCCM)〕、気圧:1.013×105 Paで、周波数2.45GHzのマイクロ波(電源出力:800W)により、10秒間の表面処理(表面波プラズマによる処理。誘電体からホース基体までの距離:20mm)となるよう行った。その後、上記ホース基体を第3の押出機に導入し、フッ素系樹脂層の外周面に管状の外側ゴム層(厚み2mm)を押出成形した。そして、外側ゴム層を加熱加硫することにより、3層構造の燃料ホース(内径23mm、外径31mm)を製造した。
【0038】
〔比較例1、比較例2〕
上記実施例1における大気圧式マイクロ波プラズマ処理装置に代えて、1ノズルローテーションシステム(型式RD1004、ノズルはスタンダードノズル14°AGR123Aを使用)およびジェネレーター(型式FG1003−5)の構成からなる日本プラズマトリート社製の大気圧式プラズマ照射装置を使用した。そして、実施例1と同様のホース基体を、回転(2000回/分の速度で回転)させつつ、そのホース基体におけるフッ素系樹脂層の外周面に対し、40リットル/分の流量でガス(比較例1:アルゴンガス、比較例2:空気)を流しながら(気圧:1.013×105 Pa)、上記プラズマ照射装置によるプラズマ照射(マイクロ波照射ではない)を行い、表面処理した(電圧:260V,電流:6A,処理速度:5m/min,ホース基体までの照射距離:8mm)。その後、上記ホース基体の外周面に、実施例1と同様、外側ゴム層の押出成形を行い、加熱加硫することにより、3層構造の燃料ホースを製造した。
【0039】
上記実施例および比較例の燃料ホースの製法に関する、以下のような測定・評価を行った。そして、その結果を、下記の表1に併せて示した。
【0040】
〔タック性〕
外側ゴム層形成前のホース基体外周面(フッ素系樹脂層外周面)に対するプラズマ処理の時間を、10秒、20秒、40秒、60秒とした場合の、ホース基体外周面のタック性(N/cm)を、JIS−K6330に準拠して測定した。
【0041】
【表1】

【0042】
上記結果から、大気圧式マイクロ波プラズマ処理を行った実施例1では、プラズマ処理の時間が10秒であっても、充分なタック性が得られていることがわかる。そして、実施例1のホースでは、実際に、フッ素系樹脂層と外側ゴム層との間に、優れた層間接着力が得られた。
【0043】
これに対し、マイクロ波プラズマによるものでない通常の大気圧プラズマ処理を行った比較例1,2では、60秒間プラズマ処理を行った場合であっても、全くタック性を発現していないことがわかる。そのため、比較例1,2品ホースでは、外側ゴム層を被覆する際に、密着せず、剥がれてしまう問題が生じた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】内側ゴム層とフッ素系樹脂層とからなるホース基体を示す模式図である。
【図2】内側ゴム層とフッ素系樹脂層と外側ゴム層とからなる燃料ホースを示す模式図である。
【図3】大気圧式マイクロ波プラズマ処理装置を模式的に示す説明図である。
【図4】上記装置に用いられる、窓孔を備えた金属壁の一例を示す正面図である。
【図5】ESCA分析による、各処理後ごとのフッ素系樹脂層外周面のC1s結合エネルギー状況を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0045】
12 フッ素系樹脂層
13 外側ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のフッ素系樹脂層と、その外周に積層される外側ゴム層とを備えた燃料ホースの製法であって、押出成形によりフッ素系樹脂層を形成した後、外側ゴム層を押出成形するのに先立って、上記フッ素系樹脂層の外周面を、下記(A)に示すガス雰囲気中で大気圧式マイクロ波プラズマ処理することを特徴とする燃料ホースの製法。
(A)ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)からなる群から選ばれた少なくとも一つの希ガス。
【請求項2】
上記マイクロ波プラズマが、表面波プラズマである請求項1記載の燃料ホースの製法。
【請求項3】
上記フッ素系樹脂層外周面への大気圧式マイクロ波プラズマ処理が、上記フッ素系樹脂層を最外層とするホース基体を回転させながら行われる請求項1または2記載の燃料ホースの製法。
【請求項4】
上記外側ゴム層が、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムとポリ塩化ビニルのブレンド材料、またはヒドリンゴムからなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料ホースの製法。
【請求項5】
上記フッ素系樹脂層が、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体、またはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料ホースの製法。
【請求項6】
上記燃料ホースが、そのフッ素系樹脂層の内周に内側ゴム層を備えており、上記フッ素系樹脂層の形成が、上記内側ゴム層外周面への押出成形により行われる請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料ホースの製法。
【請求項7】
上記内側ゴム層が、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、またはアクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムとポリ塩化ビニルのブレンド材料からなる請求項6記載の燃料ホースの製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−234216(P2009−234216A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86650(P2008−86650)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】