説明

燃料ポンプの制御装置

【課題】高圧燃料ポンプの吐出不良に起因するデリバリパイプの燃圧制御性の低下を好適に抑制することのできる燃料ポンプの制御装置を提供する。
【解決手段】燃料噴射弁52からの燃料噴射を停止させる燃料カット制御の実行中であると判断される状況下において、デリバリパイプ50の目標燃圧を、燃圧センサ51によって検出されるデリバリパイプ50の燃圧(実燃圧)に設定する。さらに、高圧燃料ポンプ16内の燃温が規定温度以上であると判断されて且つ、実燃圧が規定圧を上回ると判断された場合、電磁ソレノイド28への通電を強制的に停止させる強制通電停止処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を高圧状態で蓄圧可能な蓄圧容器と、前記蓄圧容器から供給される燃料を内燃機関の燃焼室に直接噴射供給する燃料噴射弁と、燃料タンクからの燃料を前記蓄圧容器に吐出供給する燃料ポンプと、前記蓄圧容器の燃圧を検出する燃圧検出手段とを備える内燃機関の燃料噴射システムに適用される燃料ポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、下記特許文献1に見られるように、蓄圧容器の燃圧を検出する燃圧センサの検出値(実燃圧)をその目標値に制御すべく、燃料ポンプの有する電子制御式のアクチュエータを通電操作するものが知られている。こうした制御は、内燃機関の燃焼状態の改善を図るために行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−32323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の減速時等において、燃料噴射弁からの燃料噴射を停止させる燃料カット制御が行われることがある。燃料カット制御が行われると、蓄圧容器から燃焼室への燃料供給が停止されることから、実燃圧を目標値に制御するために要求される燃料ポンプの吐出量が減少する傾向にある。燃料ポンプの吐出量が減少すると、燃料ポンプに汲み上げられた燃料が燃料ポンプ内に留まる時間が長くなり、燃料ポンプ内において燃料が周囲から加熱される時間が長くなる。燃料の加熱時間が長くなると、燃料ポンプ内の燃温が高くなり、燃料ポンプ内において燃料の気泡化(ベーパ化)が生じ得る。
【0005】
ここで、その後燃料カット制御が解除されて燃料ポンプの吐出指令がなされる状況下において、燃料ポンプ内において燃料の気泡化が生じていると、燃料ポンプの吐出量が過度に減少する等、燃料ポンプの吐出量を適切に調節することができなくなるおそれがある。この場合、燃料カット制御の解除後、実燃圧を目標値まで速やかに上昇させることができなくなる等、実燃圧の制御性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、蓄圧容器の燃圧制御性の低下を好適に抑制することのできる燃料ポンプの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、燃料を高圧状態で蓄圧可能な蓄圧容器と、前記蓄圧容器から供給される燃料を内燃機関の燃焼室に直接噴射供給する燃料噴射弁と、燃料タンクからの燃料を前記蓄圧容器に吐出供給する燃料ポンプと、前記蓄圧容器の燃圧を検出する燃圧検出手段とを備える内燃機関の燃料噴射システムに適用され、前記燃料ポンプは、電子制御式のアクチュエータを備え、該アクチュエータに通電されることを条件として前記蓄圧容器に燃料を吐出供給するものであり、前記燃圧検出手段によって検出される燃圧をその目標値に制御すべく、前記アクチュエータを通電操作する操作手段と、前記燃料ポンプ内の燃温が規定温度以上になって且つ、前記燃料噴射弁からの燃料噴射を停止させる燃料カット制御が実行中であることに基づき、前記アクチュエータへの通電を強制的に停止させる強制通電停止手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
燃料ポンプから燃料を吐出させるべくアクチュエータに通電すると通常、燃料ポンプ内の燃温が上昇する。これは、アクチュエータへの通電によってアクチュエータが発熱したり、燃料ポンプ内において燃料が圧縮されたりすること等によるものである。そして、燃料ポンプ内の燃温が高くなると、燃料カット制御の実行中において燃料ポンプ内の燃料の気泡化が促進され得る。
【0010】
ここで、上記発明では、燃料ポンプ内の燃温が規定温度以上になって且つ、燃料カット制御が実行中であることに基づき、アクチュエータへの通電を強制的に停止させる。このため、燃料ポンプ内の燃温が高い状況下であって且つ、燃料カット制御が実行されて燃料ポンプ内の燃料の滞留時間が長くなる状況下において(換言すれば、燃料の気泡化が生じる蓋然性の高い状況において)、燃料ポンプ内の燃料が加熱されることを抑制することができる。これにより、燃料ポンプ内における燃料の気泡化の発生を抑制することができ、ひいては蓄圧容器の燃圧制御性の低下を好適に抑制することができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記強制通電停止手段は、前記燃料ポンプ内の燃温が前記規定温度未満になることに基づき、前記アクチュエータへの強制的な通電の停止を行わないことを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記強制通電停止手段によって前記アクチュエータへの通電が強制的に停止される状況下において、前記燃圧検出手段によって検出される燃圧が規定圧以下になると判断された場合、前記アクチュエータへの強制的な通電の停止を解除して該アクチュエータへの通電を再開させる通電再開手段と、前記通電再開手段によって前記アクチュエータへの通電を再開させるに際し、前記目標値を前記規定圧以上の値に設定する手段とを更に備えることを特徴とする。
【0013】
アクチュエータへの通電が強制的に停止されると、燃料ポンプから蓄圧容器へと燃料が供給されない。このような状況下において、燃料噴射弁から燃焼室への微少な燃料リーク等によって蓄圧容器の燃圧が漸減することがある。蓄圧容器の燃圧の漸減が継続されると、蓄圧容器の燃圧が過度に低くなり、蓄圧容器内において燃料の気泡化が生じるおそれがある。
【0014】
この点、上記発明では、実燃圧が規定圧以下になると判断された場合、アクチュエータへの強制的な通電の停止を解除してアクチュエータへの通電を再開させる。この際、上記目標値を規定圧以上の値に設定する。すなわち、蓄圧容器の燃圧を規定圧以上の燃圧にすべく燃料ポンプを駆動させる。これにより、蓄圧容器の燃圧が過度に低くなることを回避することができ、ひいては蓄圧容器内において燃料の気泡化が生じることを抑制することができる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記操作手段は、前記燃圧検出手段によって検出される燃圧と前記目標値との偏差に応じた値の積分演算値を算出する積分項算出手段を備え、前記検出される燃圧を前記目標値にフィードバック制御すべく、前記積分演算値に基づき前記アクチュエータを通電操作するものであり、前記強制通電停止手段によって前記アクチュエータへの通電が強制的に停止される期間において、前記積分演算値の絶対値の増大を抑制する積分項増大抑制手段を更に備えることを特徴とする。
【0016】
アクチュエータへの通電が強制的に停止されて燃料ポンプの吐出量が0になると、例えば燃料噴射弁から燃焼室への微少な燃料リーク等によって蓄圧容器の燃圧が漸減し、燃圧検出手段によって検出される燃圧(実燃圧)と目標値との偏差が生じうる。この場合、実燃圧を目標値にフィードバック制御するための積分演算値の絶対値が増大することがある。ここで、積分演算値の絶対値が増大する状況において、アクチュエータへの通電が再開されると、燃料ポンプの吐出量が過度に多くなることによって、実燃圧が目標値を大きく上回るいわゆるオーバーシュートが発生したり、燃料ポンプの吐出量が過度に少なくなることによって、実燃圧が目標値を大きく下回るいわゆるアンダーシュートが発生したりする等、実燃圧の制御性が過度に低下するおそれがある。
【0017】
この点、上記発明では、積分項増大抑制手段を備えることで、燃料カット制御の実行中における積分演算値の絶対値の増大を抑制する。このため、アクチュエータへの通電の開始によって燃料ポンプの吐出が開始される場合における蓄圧容器の燃圧制御性の低下を好適に抑制することができる。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記積分項算出手段は、前記燃料カット制御の実行中において前記積分演算値の算出を継続するものであり、前記積分項増大抑制手段は、前記燃料カット制御の実行中において、前記燃圧検出手段によって検出される燃圧を前記目標値に設定することを特徴とする。
【0019】
上記発明では、燃料カット制御の実行中においても、実燃圧を目標値にフィードバック制御するための積分演算値を算出している。そして、上記発明では、燃料カット制御の実行中において、実燃圧を目標値に設定する。これにより、燃料カット制御の実行中における上記偏差を極めて小さい値(例えば0)とすることができ、積分演算値の増大を抑制することができる。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記積分項算出手段は、前記燃料カット制御の実行中において前記積分演算値の算出を継続するものであり、前記積分項増大抑制手段は、前記燃料カット制御が実行される場合の前記積分演算値の算出において、前記操作手段によって前記アクチュエータに通電される場合よりも都度の前記偏差に応じた値を強制的に小さくすることを特徴とする。
【0021】
上記発明では、燃料カット制御の実行中においても、実燃圧を目標値にフィードバック制御するための積分演算値を算出している。そして、上記発明では、燃料カット制御が実行される場合の積分演算値の算出において、上記態様にて都度の上記偏差に応じた値を強制的に小さくする。これにより、燃料カット制御の実行中における積分演算値の増大を抑制することができる。
【0022】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記燃料ポンプは、前記内燃機関を動力供給源とする機関駆動式のものであることを特徴とする。
【0023】
機関駆動式の燃料ポンプは通常、内燃機関付近に配置される傾向にある。このため、内燃機関にて発生した熱が燃料ポンプ内の燃料に伝達されやすく、燃料ポンプ内において燃料の気泡化が生じやすい。このため、上記発明は、燃料ポンプ内の燃料の加熱を抑制できる強制通電停止手段を備えるメリットが大きい。
【0024】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記燃料ポンプを高圧燃料ポンプとし、前記燃料噴射システムには、前記燃料タンクの燃料を汲み上げて前記高圧燃料ポンプに吐出供給する低圧燃料ポンプが更に備えられ、前記高圧燃料ポンプは、前記低圧燃料ポンプによって汲み上げられた燃料を前記蓄圧容器に吐出供給するものであって且つ、前記高圧燃料ポンプの駆動軸の回転によって吸入及び吐出を繰り返すとともに、燃料の吸入口と燃料を加圧するポンプ室とを連通及び遮断する常開式の弁体を備えるものであり、前記弁体は、前記アクチュエータへの通電によって閉弁されるものであり、前記操作手段は、前記燃圧検出手段によって検出される燃圧をその目標値に制御すべく、前記アクチュエータへの通電時期の操作によって前記高圧燃料ポンプの吐出量を調節することを特徴とする。
【0025】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記燃料ポンプに供給される燃圧が高いほど、前記規定温度を高く設定する設定手段を更に備えることを特徴とする。
【0026】
燃料ポンプに供給される燃圧が高くなると、燃料ポンプ内において燃料の気泡化が生じる燃温が高くなる傾向にある。この点に鑑み、上記発明では、燃料ポンプに供給される燃圧が高いほど、規定温度を高く設定する。このため、燃料ポンプ内の燃料の気泡化が生じやすい状況を的確に把握して、アクチュエータへの通電を強制的に停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる燃圧制御処理の手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態にかかる燃圧制御処理の一例を示すタイムチャート。
【図4】同実施形態にかかる燃圧制御処理の一例を示すタイムチャート。
【図5】第2の実施形態にかかる燃圧制御処理の手順を示すフローチャート。
【図6】同実施形態にかかる燃圧制御処理の一例を示すタイムチャート。
【図7】同実施形態にかかる燃圧制御処理の一例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる燃料ポンプの制御装置を筒内噴射式ガソリンエンジンの蓄圧式燃料噴射システムに適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0030】
図示されるように、燃料タンク10内の燃料は、低圧通路12を介してフィードポンプ14により汲み上げられる。フィードポンプ14は、燃料タンク10から汲み上げられた燃料を高圧燃料ポンプ16に吐出供給する電動式のポンプである。本実施形態では、フィードポンプ14として、自身の有する図示しないレギュレータによって高圧燃料ポンプ16への吐出圧(フィード圧)を連続的に可変設定可能なものを想定している。
【0031】
高圧燃料ポンプ16は、シリンダ18、シリンダ18内で往復動するプランジャ20、シリンダ18の内周壁面とプランジャ20とによって区画形成されるポンプ室22、フィードポンプ14から供給された燃料を吸入する吸入口24とポンプ室22とを連通又は遮断する吸入弁26、この吸入弁26を電磁駆動するアクチュエータ(電磁ソレノイド28)、及びポンプ室22と燃料を吐出する吐出口30との間に設けられた吐出弁32を備えて構成されるプランジャポンプである。
【0032】
詳しくは、高圧燃料ポンプ16は、エンジンのシリンダヘッド付近に配置されている。また、高圧燃料ポンプ16の有する上記吸入弁26は、電磁ソレノイド28が通電されない場合には開弁状態とされ、電磁ソレノイド28が通電される場合には閉弁状態とされるノーマリーオープンタイプの弁体である。
【0033】
このように構成される高圧燃料ポンプ16において、プランジャ20は、高圧燃料ポンプ16の駆動軸34に連結されたポンプカム36によって駆動される。詳しくは、駆動軸34は、エンジンのシリンダヘッド付近に配置される吸気側又は排気側のカム軸38に機械的に連結されるものであり、カム軸38と同期して回転する。カム軸38は、エンジンの出力軸(クランク軸40)から供給される回転エネルギにより回転するものであり、クランク軸40に対して所定(例えば1/2)の速度比で回転する。また、ポンプカム36は、駆動軸34とこのカムの外周との距離が変化する形状(ポンプカムプロフィール)を有している。これにより、駆動軸34の回転に同期してプランジャ20がシリンダ18内を往復動することとなる。そして、プランジャ20の下降によってポンプ室22内の容積が大きくなる期間が高圧燃料ポンプ16の吸入行程となり、プランジャ20の上昇によってポンプ室22内の容積が小さくなる期間が高圧燃料ポンプ16の吐出行程となる。
【0034】
詳しくは、高圧燃料ポンプ16の吸入行程において、吸入弁26を開弁状態とすることで、吸入口24を介してポンプ室22内にフィードポンプ14からの燃料が吸入される。その後、プランジャ20が上昇することでポンプ室22内の容積が小さくされるに際し、電磁ソレノイド28への通電によって吸入弁26を閉弁状態とすることで、ポンプ室22内の燃料が加圧される。そして、ポンプ室22内の圧力が吐出弁32の開弁圧を上回ると、ポンプ室22内の燃料が吐出弁32を介して吐出口30から吐出される吐出行程となる。ここでは、上記吐出行程における吸入弁26の閉弁タイミングが早いほど、高圧燃料ポンプ16の吐出量が多くなる。
【0035】
ちなみに、高圧燃料ポンプ16には、このポンプに吸入される燃料の温度を検出する燃温センサ42が設けられている。
【0036】
また、高圧燃料ポンプ16には、吐出口30とポンプ室22とを接続する通路44と、リリーフ弁46とが設けられている。リリーフ弁46は、上記通路44上に設けられ、例えば電磁ソレノイド28への通電の停止指令がなされているにもかかわらず通電を停止できない異常が生じる場合に、高圧燃料ポンプ16の吐出圧を過度に上昇させないことを目的として設けられる部材である。詳しくは、リリーフ弁46は、高圧燃料ポンプ16の吐出圧(高圧燃料ポンプ16の吐出口30の燃圧)がリリーフ弁46の開弁圧を上回る場合に開弁し、吐出口30側からポンプ室22側へと燃料を戻す機能を有する。なお、リリーフ弁46の開弁圧は、高圧燃料ポンプ16等の信頼性の低下を回避する観点から設定される。
【0037】
高圧燃料ポンプ16から吐出される燃料は、高圧通路48を介して蓄圧容器(デリバリパイプ50)に供給される。デリバリパイプ50は、高圧燃料ポンプ16から吐出供給される燃料を高圧状態で蓄えるものであり、エンジンの各気筒の燃料噴射弁52に高圧燃料を供給する。なお、デリバリパイプ50には、デリバリパイプ50内の燃圧(実燃圧)を検出する燃圧センサ51が設けられている。
【0038】
燃料噴射弁52は、その噴孔52aがエンジンの燃焼室54に突出するようにして配置されるものであり、燃焼室54に直接燃料を噴射供給する。詳しくは、燃料噴射弁52は、通電によって作動するノズルニードル56、及びボディ58等からなり、ボディ58には、上記噴孔52aが形成されている。燃料噴射弁52への通電によってノズルニードル56がボディ58に形成される弁座から離間して噴孔52aを開放することで(燃料噴射弁52が開弁状態となることで)、噴孔52aから燃料が噴射される。一方、燃料噴射弁52への通電の停止によってノズルニードル56が弁座に接して噴孔52aを塞ぐことで(燃料噴射弁52が閉弁状態となることで)、噴孔52aからの燃料噴射が停止される。
【0039】
燃料噴射弁52から噴射される燃料と、図示しない吸気バルブを介して燃焼室54へと導入される吸気との混合気は、燃焼室54に突出するようにして配置される点火プラグ60の火花放電によって着火され燃焼に供される。
【0040】
クランク軸40付近には、クランク軸40の回転角度を検出するクランク角度センサ62が設けられている。一方、カム軸38付近には、カム軸38の回転角度を検出するカム角度センサ64が設けられている。
【0041】
電子制御装置(ECU66)は、蓄圧式燃料噴射システムの各種制御に必要な各種アクチュエータを操作する制御装置である。ECU66は、燃焼室54に供給される吸気量を検出するエアフローメータ68や、エンジンを冷却するための冷却水の温度(冷却水温)を検出する水温センサ70、燃温センサ42、燃圧センサ51、クランク角度センサ62、更にはカム角度センサ64等の検出信号を逐次入力する。ECU66は、これらの入力信号に基づき、燃料噴射弁52による燃料噴射制御処理や、フィードポンプ14の通電処理、更には高圧燃料ポンプ16による燃圧制御処理を行う。
【0042】
上記燃料噴射制御処理は、クランク角度センサ62によって検出されるエンジン回転速度及びエアフローメータ68によって検出される吸気量(エンジン負荷)等に基づき、燃料噴射弁52の要求噴射量を算出し、算出された要求噴射量、及び燃圧センサ51によって検出される実燃圧等に基づき、燃料噴射弁52を通電操作する処理である。これにより、燃料噴射弁52から上記要求噴射量に応じた量の燃料が噴射される。なお、燃料噴射制御処理として、燃料噴射弁52からの燃料噴射を停止させる燃料カット制御処理も行う。
【0043】
上記フィードポンプ14の通電処理は、フィード圧をその目標値に制御する処理である。ここで、フィード圧は、燃温センサ42によって検出される高圧燃料ポンプ16内の燃温が高くなるほど高く設定される。これは、フィードポンプ14の燃料供給先である高圧燃料ポンプ16内において燃料の気泡化(べーパ化)が生じることを抑制するための設定である。つまり、燃圧が高くなるほど、燃料の気泡化が生じる燃温が高くなる傾向にある。このため、上記設定により、高圧燃料ポンプ16内における燃料の気泡化を抑制する。なお、本実施形態では、燃料カット制御の実行中においてもフィードポンプ14の駆動が継続される。また、ECU66は、フィードポンプ14の有する図示しない燃圧センサの検出値に基づきフィード圧を把握する処理を行う。
【0044】
上記燃圧制御処理は、実燃圧PFをその目標値(目標燃圧PFREQ)に制御すべく、電磁ソレノイド28を通電操作する処理である。
【0045】
この処理について詳述すると、まず、エンジン回転速度及び吸気量に基づき、デリバリパイプ50内の目標燃圧PFREQを算出する。
【0046】
次に、実燃圧PFを上記目標燃圧PFREQにフィードバック制御するために要する高圧燃料ポンプ16の吐出量(FB操作量)を算出する。本実施形態では、実燃圧PFと上記目標燃圧PFREQとの偏差ΔPに基づくPI制御(比例積分制御)によりFB操作量を算出する。具体的には、下式(e1)に示すように、目標燃圧PFREQから実燃圧PFを減算した値として算出される上記偏差ΔPに比例ゲインKpを乗算した値である比例項と、都度の上記偏差ΔP及び積分ゲインKiの乗算値の積分演算値である積分項との加算値としてFB操作量を算出する。
FB操作量=Kp×ΔP+∫(Ki×ΔP)dt …(e1)
続いて、上記目標燃圧PFREQの変化量ΔPFREQを算出し、実燃圧PFを上記目標燃圧の変化量ΔPFREQだけ変化させるために要する燃料量を算出すべく、上記目標燃圧の変化量ΔPFREQを燃料量に換算する。この換算は、高圧燃料ポンプ16からデリバリパイプ50までの間の燃料通路の容積と、デリバリパイプ50の容積との和Vで、燃料の体積膨張係数Eを除算した値「E/V」を、上記目標燃圧の変化量ΔPFREQに乗算することで行う。
【0047】
そして、燃料噴射弁52の要求噴射量と、上記換算された燃料量との和として要求される高圧燃料ポンプ16の吐出量(FF操作量)を算出する。
【0048】
そして、上記FB操作量及びFF操作量との加算値として、高圧燃料ポンプ16に対する最終的な要求吐出量(指令吐出量)を算出する。そして、クランク角度センサ62の出力値と、上記指令吐出量とに基づき、電磁ソレノイド28への通電時期(通電開始タイミングから通電終了タイミングまでの期間)を算出する。そして、算出された上記通電時期に基づき電磁ソレノイド28へ通電信号を出力することで、高圧燃料ポンプ16から上記指令吐出量に応じた量の燃料が吐出される。これにより、実燃圧PFが目標燃圧PFREQに制御される。
【0049】
次に、本実施形態にかかる強制通電停止処理について説明する。
【0050】
この処理は、燃料カット制御が実行中であることを条件として、電磁ソレノイド28への通電を停止させる処理である。この処理は、デリバリパイプ50内の燃圧制御性の低下を抑制するための処理である。つまり、燃料カット制御が行われ、例えば、高圧燃料ポンプ16の吐出量が低下したり、吐出量が0になったりすると、高圧燃料ポンプ16に汲み上げられた燃料がこのポンプ内に留まる時間が長くなり、高圧燃料ポンプ16内の燃料が周囲から加熱される時間が長くなる。ここで、高圧燃料ポンプ16内の燃料は、通電によって発熱する電磁ソレノイド28、潤滑用にカム軸38(ポンプカム36)に供給されるエンジンオイル、及び往復動によって摩擦熱を発生するプランジャ20,シリンダ18等を熱源として加熱され、このポンプ内の燃温が上昇する。なお、ポンプ室22で燃料自身が圧縮されることによっても燃温が上昇する。
【0051】
高圧燃料ポンプ16内の燃料の加熱によって高圧燃料ポンプ16内の燃温が高くなると、高圧燃料ポンプ16内において燃料の気泡化が生じ得る。詳しくは、高圧燃料ポンプ16内のうち吸入弁26よりも燃料上流側において気泡化が生じ得る。
【0052】
特に、本実施形態では、高圧燃料ポンプ16の動力供給源がエンジンであるため、このポンプがカム軸38とともにエンジンヘッド付近に配置されていることから、エンジンからの伝熱が多い傾向にある。このため、高圧燃料ポンプ16内の燃料の加熱度合いが大きくなりやすく、気泡化の発生が顕著となる懸念がある。
【0053】
燃料の気泡化が生じると、発生した気泡がポンプ室22に導入されてプランジャ20にて圧縮されること等に起因して、高圧燃料ポンプ16の吐出量が低下し、デリバリパイプ50内の燃圧の上昇度合いが低下するおそれがある。特に、ポンプ室22が気泡で満たされる場合には、高圧燃料ポンプ16から燃料を吐出できず、リリーフ弁46を介してデリバリパイプ50側からポンプ室22側へと微少な燃料がリークすること等によって、デリバリパイプ50内の燃圧がフィード圧まで低下することも懸念される。これらの場合、燃料カット制御の解除後において、実燃圧を目標燃圧まで速やかに上昇させることができなくなり、燃焼状態を良好なものとすることができなくなるおそれがある。そしてこの場合、所望のエンジン出力を得ることができなかったり、排気特性が悪化したりするおそれがある。
【0054】
このため、上記強制通電停止処理を行うことで、電磁ソレノイド28の発熱等を抑制し、高圧燃料ポンプ16内の燃料の加熱を抑制する。これにより、高圧燃料ポンプ16内における燃料の気泡化の発生の抑制を図る。
【0055】
図2に、本実施形態にかかる強制通電停止処理を含む燃圧制御処理の手順を示す。この処理は、ECU66によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0056】
この一連の処理では、まずステップS10において、燃料カット制御の実行中であるか否かを判断する。なお、本実施形態では、燃料カット制御の実行中において、燃料カット制御が解除された場合等に備えて、高圧燃料ポンプ16の上記指令吐出量の演算を継続している。
【0057】
ステップS10において肯定判断された場合には、ステップS12に進み、目標燃圧PFREQを実燃圧PFに設定する。この処理は、後述するステップS20の処理によって電磁ソレノイド28への通電が停止された後、電磁ソレノイド28への通電が再開される場合において、デリバリパイプ50内の燃圧制御性の低下を回避するための処理である。以下、この処理について説明する。
【0058】
電磁ソレノイド28への通電が停止されて高圧燃料ポンプ16の吐出量が0になると、デリバリパイプ50内の燃圧が漸減することとなる。これは、燃料噴射弁52のノズルニードル56及び弁座の隙間を介して燃焼室54へと微少な燃料がリークしたり、吐出弁32やリリーフ弁46を介して高圧燃料ポンプ16の吐出口30側からポンプ室22側へと微少な燃料がリークしたりすること等によるものである。なお、デリバリパイプ50内の燃圧が高いほど、上記リーク量が多くなる傾向にある。
【0059】
デリバリパイプ50内の燃圧の漸減が継続されると、実燃圧PFが目標燃圧PFREQよりも低い状態が継続され、上記偏差ΔPが大きくなることがある。上記偏差ΔPが大きくなる状況が継続されると、FB操作量のうち積分項が増大することなる。ここで、積分項が増大する状況下、電磁ソレノイド28への通電が再開されると、高圧燃料ポンプ16の指令吐出量が過度に大きくなることによって、実燃圧PFが目標燃圧PFREQを大きく上回るいわゆるオーバーシュートが発生する等、デリバリパイプ50内の燃圧制御性が低下するおそれがある。このため、本ステップの処理を行うことで、上記偏差ΔPを極めて小さい値(0)として積分項の増大を抑制し、上記燃圧制御性の低下を抑制する。
【0060】
なお、デリバリパイプ50内からの上記リーク量が少ない場合、燃料カット制御中の電磁ソレノイド28への通電の停止によってデリバリパイプ50内の燃圧がしばらく漸増することがある。これは、デリバリパイプ50内の燃料の滞留によって燃料が加熱されることによるものである。ここで、デリバリパイプ50内の燃圧の漸増によって目標燃圧PFREQよりも実燃圧PFが高い状態が継続されるならば、上記偏差ΔPが0を下回って小さくなり、積分項が0を下回って小さくなることがある。この場合、電磁ソレノイド28への通電が再開されると、高圧燃料ポンプ16の指令吐出量が過度に少なくなることに起因して、実燃圧PFが目標燃圧PFREQを大きく下回るいわゆるアンダーシュートが発生するおそれもある。
【0061】
続くステップS14では、フィード圧PLに基づき規定温度T1を可変設定する。ここで、規定温度T1を、フィード圧PLが高いほど高く設定する。この設定は、上述したように、燃圧が高いほど、燃料の気泡化が生じる温度が高くなることに基づくものである。なお、上記規定温度T1は、例えば、フィード圧PLと関係付けられたマップや数式を用いて設定すればよい。
【0062】
続くステップS16では、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teが規定温度T1以上であるか否かを判断する。この処理は、高圧燃料ポンプ16内において燃料の気泡化が生じる蓋然性が高い状況であるか否かを判断するための処理である。
【0063】
ステップS16において肯定判断された場合には、ステップS18に進み、実燃圧PFが規定圧Pαよりも高いか否かを判断する。ここで、規定圧Pαは、例えば、フィード圧PLよりも高い圧力であって且つ、デリバリパイプ50内において燃料の気泡化が生じると想定される圧力よりもやや高い圧力に設定される。この処理は、デリバリパイプ50内において燃料の気泡化が生じる蓋然性が高い状況であるか否かを判断するためのものである。なお、上記規定圧Pαは、例えば、デリバリパイプ50内の燃温が高いほど高く設定すればよい。
【0064】
ステップS18において実燃圧PFが規定圧Pαよりも高いと判断された場合には、ステップS20に進み、電磁ソレノイド28への通電を強制的に停止させる強制通電停止処理を行う。
【0065】
一方、上記ステップS18において否定判断された場合には、ステップS22に進み、目標燃圧PFREQを規定圧Pαに設定する。そして、ステップS24では、電磁ソレノイド28への強制的な通電の停止を解除して、電磁ソレノイド28への通電を再開させる。これら処理は、高圧燃料ポンプ16からの燃料吐出を開始することによってデリバリパイプ50内の燃圧を規定圧Pαに維持することで、デリバリパイプ50内における燃料の気泡化の発生を抑制するための処理である。
【0066】
ステップS20、S24の処理が完了した場合や、上記ステップS10、S16において否定判断された場合には、ステップS26に進み、FF操作量及びFB操作量の加算値として高圧燃料ポンプ16の指令吐出量を算出する。ここで、上記ステップS12や上記ステップS22の処理を経由する場合、都度の上記偏差ΔPが極めて小さい値(0)になることから、積分項の増大が抑制される。
【0067】
ちなみに、燃料カット制御が解除されたと判断された場合、目標燃圧PFREQが、エンジン回転速度及び吸気量等に基づき設定される。
【0068】
なお、ステップS26の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0069】
図3及び図4に、本実施形態にかかる燃圧制御処理の一例を示す。
【0070】
まず、図3に、燃料カット制御の実行前に、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teが規定温度T1以上になる場合の一例を示す。詳しくは、図3(a)に、燃料カット制御の実行の有無の推移を示し、図3(b)に、高圧燃料ポンプ16の駆動状態の推移を示し、図3(c)に、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teの推移を示し、図3(d)に、実燃圧PF,目標燃圧PFREQの推移を示す。なお、図示される例は、時刻t2まで車両が登坂走行をすべくエンジンが高負荷で運転された後、時刻t2から車両が下り坂を走行する状況下において燃料カット制御が実行される場合を示している。
【0071】
図示されるように、時刻t1において高圧燃料ポンプ16内の燃温Teが規定温度T1以上になると判断される。そしてその後、時刻t2において、実燃圧PFが規定圧Pαを上回ると判断される状況下、燃料カット制御が開始されたと判断される。これにより、強制通電停止処理によって電磁ソレノイド28への通電が停止されて高圧燃料ポンプ16の吐出量が0になり、また、目標燃圧PFREQが実燃圧PFに設定される。
【0072】
なお、時刻t2の直後、実燃圧PFが、一旦低下した後に上昇し、再び低下する挙動となるのは、高圧燃料ポンプ16の吐出量が0となって実燃圧PFが一旦低下するものの、その後デリバリパイプ50内の燃料の加熱によってデリバリパイプ50内の燃圧が高くなり、燃料噴射弁52のノズルニードル56及び弁座の隙間等からの微少燃料リークによって燃圧が低下するためである。
【0073】
そしてその後、時刻t3までにおいて、実燃圧PFが漸減する状況下、目標燃圧PFREQが実燃圧PFに設定されることから、上記偏差ΔPが極めて小さい値(0)となり、FB操作量の積分項の増大を回避することができる。
【0074】
そして、実燃圧PFが規定圧Pα以下になると判断される時刻t3において、目標燃圧PFREQが規定圧Pαに設定されて且つ、電磁ソレノイド28への通電が再開される。
【0075】
続いて、図4に、燃料カット制御の開始後に、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teが規定温度T1以上になる場合における燃圧制御処理の一例を示す。詳しくは、図4(a)〜図4(d)は,先の図3(a)〜図3(d)に対応している。
【0076】
図示されるように、時刻t1において燃料カット制御が開始されることで、目標燃圧PFREQが実燃圧PFに設定される。そしてその後、時刻t2において、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teが規定温度T1以上になると判断されることで、強制通電停止処理によって電磁ソレノイド28への通電が強制的に停止される。
【0077】
その後、実燃圧PFが漸減し、実燃圧PFが規定圧Pα以下になると判断される時刻t3において、目標燃圧PFREQが規定圧Pαに設定されて且つ、電磁ソレノイド28への通電が再開される。
【0078】
このように、本実施形態では、燃料カット制御の実行中等であると判断された場合、電磁ソレノイド28への通電を強制的に停止させる強制通電停止処理を行うことで、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teの上昇を抑制し、高圧燃料ポンプ16内において燃料の気泡化の発生を抑制することができる。
【0079】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0080】
(1)燃料カット制御の実行中であって且つ高圧燃料ポンプ16内の燃温Teが規定温度T1以上になると判断された場合、電磁ソレノイド28への通電を強制的に停止させる強制通電停止処理を行った。このため、電磁ソレノイド28の発熱を含む高圧燃料ポンプ16自身の発熱によって高圧燃料ポンプ16内の燃料が加熱されることを抑制することができる。これにより、燃料の気泡化の発生を抑制することができ、ひいてはデリバリパイプ50の燃圧制御性の低下を好適に抑制することができる。
【0081】
さらに、フィード圧PLが高いほど、上記規定温度T1を高く設定した。これにより、高圧燃料ポンプ16内において燃料の気泡化が生じる蓋然性の高い状況であるか否かを的確に把握して電磁ソレノイド28への通電を停止させることができる。
【0082】
(2)燃料カット制御が実行される期間において、目標燃圧PFREQを実燃圧PFに設定した。これにより、電磁ソレノイド28への通電が再開された場合において、積分項の増大に起因したデリバリパイプ50の燃圧制御性の低下を好適に抑制することができる。
【0083】
(3)強制通電停止処理によって電磁ソレノイド28への強制的な通電が停止されていると判断される状況下、実燃圧PFが規定圧Pα以下になると判断された場合、目標燃圧PFREQを規定圧Pαに設定した。また、上記強制的な通電の停止を解除して電磁ソレノイド28への通電を再開させた。これにより、デリバリパイプ50内における燃料の気泡化の発生を抑制することができる。
【0084】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0085】
本実施形態では、燃料カット制御が実行中であると判断される状況下において、目標燃圧PFREQを実燃圧PF設定することに代えて、FB操作量の積分項の算出において、積分ゲインKiを極めて小さい値に設定することで、積分項の増大を抑制する。
【0086】
図5に、本実施形態にかかる強制通電停止処理を含む燃圧制御処理の手順を示す。この処理は、ECU66によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図5において、先の図2に示した処理と同一の処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0087】
この一連の処理では、ステップS10において肯定判断された場合には、ステップS28において、積分ゲインKiを極めて小さい値に設定する。詳しくは、積分ゲインKiを、例えば、電磁ソレノイド28に通電される場合(燃料カット制御前のエンジン運転中)の値(例えば1)よりも小さい固定値(例えば、0.00001)に設定する。この処理は、上記第1の実施形態のステップS12の処理と同様に、電磁ソレノイド28への通電が強制的に停止された後、電磁ソレノイド28への通電が再開される場合において、積分項の増大に起因してデリバリパイプ50内の燃圧制御性が低下するのを回避するための処理である。
【0088】
続くステップS14の処理の後、ステップS16において肯定判断されて且つ、ステップS18において否定判断された場合には、ステップS30に進む。ステップS30では、上記ステップS28の処理の設定を解除し、通常時(燃料カット制御前)の積分ゲインKiを用いた積分項の算出に戻る。なお、本ステップにおいては、先の図2のステップS22の処理と同様に、目標燃圧PFREQを上記規定圧Pαに設定する。その後、ステップS24に進む。
【0089】
なお、ステップS26の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0090】
図6及び図7に、本実施形態にかかる燃圧制御処理の一例を示す。
【0091】
まず、図6に、燃料カット制御の実行前に、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teが規定温度T1以上になる場合の一例を示す。詳しくは、図6(c)に、積分ゲインKiの推移を示し、図6(a),図6(b),図6(d)及び図6(e)は、先の図3(a)〜図3(d)に対応している。なお、図中、車両の走行状況としては、先の図3と同一である。
【0092】
図示されるように、時刻t1において高圧燃料ポンプ16内の燃温Teが規定温度T1以上になると判断される。そしてその後、時刻t2において、実燃圧PFが規定圧Pαを上回ると判断される状況下、燃料カット制御が開始されたと判断される。これにより、強制通電停止処理が開始され、また、積分ゲインKiが極めて小さい固定値に設定される。
【0093】
その後、時刻t3までにおいて、実燃圧PFが漸減する状況下、積分ゲインKiが極めて小さい固定値に設定されることから、積分項の増大を抑制することができる。
【0094】
そして、実燃圧PFが規定圧Pα以下になると判断される時刻t3において、目標燃圧PFREQが規定圧Pαに設定されるとともに、通常時の積分ゲインKiを用いた積分項の算出に戻る。そして、電磁ソレノイド28への通電が再開される。
【0095】
続いて、図7に、燃料カット制御の開始後に、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teが規定温度T1以上になる場合における燃圧制御処理の一例を示す。詳しくは、図7(a)〜図7(e)は,先の図6(a)〜図6(e)に対応している。
【0096】
図示されるように、時刻t1において燃料カット制御が開始されることで、積分ゲインKiが極めて小さい固定値に設定される。そしてその後、時刻t2において、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teが規定温度T1以上になると判断されることで、強制通電停止処理によって電磁ソレノイド28への通電が強制的に停止される。
【0097】
その後、実燃圧PFが漸減し、実燃圧PFが規定圧Pα以下になると判断される時刻t3において、目標燃圧PFREQが規定圧Pαに設定されるとともに、通常時の積分ゲインKiを用いた積分項の算出に戻り、電磁ソレノイド28への通電が再開される。
【0098】
このように、本実施形態では、積分項の算出において、積分ゲインKiを極めて小さい固定値に設定することで、積分項の増大に起因したデリバリパイプ50の燃圧制御性の低下を抑制することができる。
【0099】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0100】
・燃料カット制御の実行中における積分演算値の増大を抑制する手法としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、燃料カット制御の実行中において、フィードバック制御を停止(FB操作量の算出を停止)させる手法を採用してもよい。
【0101】
・フィードポンプ14としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、フィード圧PLを段階的(例えばN段階:Nは2以上の整数)に可変設定可能なものとしてもよい。また、フィードポンプ14としては、フィード圧PLを可変設定可能なものに限らず、フィード圧PLを固定値とするものであってもよい。
【0102】
・上記各実施形態では、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teを直接検出したがこれに限らない。例えば、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teを、水温センサ70の検出値や、エンジンオイルの温度、エンジンルームの温度等に基づき推定してもよい。これは、冷却水温や、エンジンオイルの温度、エンジンルームの温度が高いほど、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teが高くなる傾向にあることに基づくものである。また、高圧燃料ポンプ16内の燃温Teに代えて、この温度と相関を有するパラメータの値(例えば、冷却水温やエンジンオイルの温度)を用いて、例えば先の図2のステップS16の処理を行ってもよい。
【0103】
・電磁ソレノイド28への通電を再開させる場合における目標燃圧PFREQの設定手法としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、目標燃圧PFREQを、上記規定圧Pαよりも高い値に設定してもよい。ただし、電磁ソレノイド28への通電再開タイミングにおいて目標燃圧PFREQを急に高くすると、積分項が増大することでデリバリパイプ50の燃圧制御性の低下が懸念される。このため、例えば、目標燃圧PFREQを、電磁ソレノイド28への通電再開タイミングから、上記規定圧Pαよりも高い値に向かって漸増させる制御ロジックを採用してもよい。
【0104】
・上記第1の実施形態では、燃料カット制御が実行中であると判断された場合、目標燃圧PFREQを実燃圧PFに設定したがこれに限らない。例えば、強制通電停止処理によって電磁ソレノイド28への通電が停止されたと判断された場合、目標燃圧PFREQを実燃圧PFに設定してもよい。この場合であっても、積分項の増大を抑制することはできる。
【0105】
・FB操作量の算出手法としては、上記第1の実施形態に例示したものに限らない。例えば、FB操作量を、上記偏差ΔPに基づくPID制御(比例積分微分制御)によって算出してもよい。
【0106】
・アクチュエータとしては、通電によって発熱するものに限らず、通電による発熱量が少なかったり、通電による発熱が無かったりするアクチュエータであってもよい。この場合であっても、上記強制通電停止処理が有効である。つまり、例えば燃料カット制御が解除された場合等に備えて実燃圧を所定圧に維持すべく、燃料カット制御の実行中であっても高圧燃料ポンプ16を駆動させる制御ロジックが採用されることがある。この制御は、リリーフ弁46を介してデリバリパイプ50側からポンプ室22側への微少燃料リーク等によって低下する実燃圧を補償するためのものである。
【0107】
ここで、上記制御を採用する場合、燃料カット制御前(通常時)の燃圧制御処理による高圧燃料ポンプ16の吐出量と比較して、燃料カット制御の実行中における高圧燃料ポンプ16の吐出量が少なくなる傾向にあることから、このポンプ内の燃温が上昇して気泡化が生じるおそれがある。このため、燃料ポンプ内の燃温が規定温度以上となって且つ燃料カット制御が実行される状況下、アクチュエータへの強制的な通電の停止によって、高圧燃料ポンプ16内の燃料の圧縮に伴う燃温の上昇を抑制することで、燃料の気泡化の発生を抑制することが期待できる。
【0108】
・内燃機関の燃料噴射システムとしては、筒内噴射式ガソリン機関のような火花点火式内燃機関を備えるシステムに限らない。例えば、ディーゼル機関等の圧縮着火式内燃機関を備えるシステム(コモンレール式燃料噴射システム)であってもよい。この場合であっても、コモンレールに燃料を吐出供給する燃料ポンプ(例えばプランジャ式の高圧燃料ポンプ)の吐出量を調節すべく、この燃料ポンプの有するアクチュエータへの通電によってアクチュエータ等が発熱し、これによって燃料ポンプ内の燃料が加熱され、燃料の気泡化が生じるおそれがあるなら、本願発明の適用が有効である。
【0109】
・高圧燃料ポンプとしては、機関駆動式のものに限らず、例えば電動式のもの(電動ポンプ)であってもよい。
【0110】
・本願発明が適用される燃料噴射システムとしては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、デリバリパイプ50と燃料タンク10とを接続するリターン通路、及びリターン通路上に設けられて且つデリバリパイプ50の燃圧が所定以上になる場合に開弁する弁体を更に備える構成としてもよい。この場合、電磁ソレノイド28への通電の停止によってデリバリパイプ50の燃圧が漸減する要因に、上記弁体からの微少燃料リークが含まれ得る。なお、上記弁体は、デリバリパイプ50の燃圧が過度に上昇してデリバリパイプ50等の信頼性が低下するのを回避するための部材である。
【符号の説明】
【0111】
10…燃料タンク、14…フィードポンプ、16…高圧燃料ポンプ、28…電磁ソレノイド、50…デリバリパイプ、51…燃圧センサ、52…燃料噴射弁、66…ECU(燃料ポンプの制御装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を高圧状態で蓄圧可能な蓄圧容器と、前記蓄圧容器から供給される燃料を内燃機関の燃焼室に直接噴射供給する燃料噴射弁と、燃料タンクからの燃料を前記蓄圧容器に吐出供給する燃料ポンプと、前記蓄圧容器の燃圧を検出する燃圧検出手段とを備える内燃機関の燃料噴射システムに適用され、
前記燃料ポンプは、電子制御式のアクチュエータを備え、該アクチュエータに通電されることを条件として前記蓄圧容器に燃料を吐出供給するものであり、
前記燃圧検出手段によって検出される燃圧をその目標値に制御すべく、前記アクチュエータを通電操作する操作手段と、
前記燃料ポンプ内の燃温が規定温度以上になって且つ、前記燃料噴射弁からの燃料噴射を停止させる燃料カット制御が実行中であることに基づき、前記アクチュエータへの通電を強制的に停止させる強制通電停止手段とを備えることを特徴とする燃料ポンプの制御装置。
【請求項2】
前記強制通電停止手段は、前記燃料ポンプ内の燃温が前記規定温度未満になることに基づき、前記アクチュエータへの強制的な通電の停止を行わないことを特徴とする請求項1記載の燃料ポンプの制御装置。
【請求項3】
前記強制通電停止手段によって前記アクチュエータへの通電が強制的に停止される状況下において、前記燃圧検出手段によって検出される燃圧が規定圧以下になると判断された場合、前記アクチュエータへの強制的な通電の停止を解除して該アクチュエータへの通電を再開させる通電再開手段と、
前記通電再開手段によって前記アクチュエータへの通電を再開させるに際し、前記目標値を前記規定圧以上の値に設定する手段とを更に備えることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料ポンプの制御装置。
【請求項4】
前記操作手段は、前記燃圧検出手段によって検出される燃圧と前記目標値との偏差に応じた値の積分演算値を算出する積分項算出手段を備え、前記検出される燃圧を前記目標値にフィードバック制御すべく、前記積分演算値に基づき前記アクチュエータを通電操作するものであり、
前記強制通電停止手段によって前記アクチュエータへの通電が強制的に停止される期間において、前記積分演算値の絶対値の増大を抑制する積分項増大抑制手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料ポンプの制御装置。
【請求項5】
前記積分項算出手段は、前記燃料カット制御の実行中において前記積分演算値の算出を継続するものであり、
前記積分項増大抑制手段は、前記燃料カット制御の実行中において、前記燃圧検出手段によって検出される燃圧を前記目標値に設定することを特徴とする請求項4記載の燃料ポンプの制御装置。
【請求項6】
前記積分項算出手段は、前記燃料カット制御の実行中において前記積分演算値の算出を継続するものであり、
前記積分項増大抑制手段は、前記燃料カット制御が実行される場合の前記積分演算値の算出において、前記操作手段によって前記アクチュエータに通電される場合よりも都度の前記偏差に応じた値を強制的に小さくすることを特徴とする請求項4記載の燃料ポンプの制御装置。
【請求項7】
前記燃料ポンプは、前記内燃機関を動力供給源とする機関駆動式のものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料ポンプの制御装置。
【請求項8】
前記燃料ポンプを高圧燃料ポンプとし、
前記燃料噴射システムには、前記燃料タンクの燃料を汲み上げて前記高圧燃料ポンプに吐出供給する低圧燃料ポンプが更に備えられ、
前記高圧燃料ポンプは、前記低圧燃料ポンプによって汲み上げられた燃料を前記蓄圧容器に吐出供給するものであって且つ、前記高圧燃料ポンプの駆動軸の回転によって吸入及び吐出を繰り返すとともに、燃料の吸入口と燃料を加圧するポンプ室とを連通及び遮断する常開式の弁体を備えるものであり、
前記弁体は、前記アクチュエータへの通電によって閉弁されるものであり、
前記操作手段は、前記燃圧検出手段によって検出される燃圧をその目標値に制御すべく、前記アクチュエータへの通電時期の操作によって前記高圧燃料ポンプの吐出量を調節することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料ポンプの制御装置。
【請求項9】
前記燃料ポンプに供給される燃圧が高いほど、前記規定温度を高く設定する設定手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料ポンプの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−2309(P2013−2309A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131487(P2011−131487)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】