説明

燃料ポンプの支持構造

【課題】合成樹脂製のシリンダヘッドカバーに対して、燃料ポンプを強固に支持することができる燃料ポンプの支持構造を提供する。
【解決手段】合成樹脂製のシリンダヘッドカバー11に燃料ポンプ16を支持する。燃料ポンプ16のケース19は取付座21を有する。取付座21をシリンダヘッドカバー11に埋設して、その取付座21の少なくとも一箇所を、シリンダヘッドカバー11に突出形成された壁部13に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンに燃料を供給するための燃料ポンプを、合成樹脂製のシリンダヘッドカバーに支持するようにした燃料ポンプの支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の燃料ポンプの支持構造としては、例えば特許文献1に開示されるような構成が提案されている。この従来構成においては、アルミニウム合金等の金属よりなるシリンダヘッドカバーに取付孔が形成され、その取付孔を貫通した状態の燃料ポンプがブラケット及びインシュレータを介してシリンダヘッドカバーに支持されている。そして、前記ブラケット上からインシュレータを貫通して、シリンダヘッドカバーのネジ孔に複数のボルトが螺合されることにより、燃料ポンプがシリンダヘッドカバーに固定されている。このように組み付けられた状態で、燃料ポンプの下端のリフタがシリンダヘッドカバー内のカムに接触され、そのカムの回転にともないリフタを介してプランジャが往復運動されることにより、燃料ポンプ内のポンプ部が作動されて、燃料が燃焼室に向かって圧送される。
【特許文献1】特開2004−353543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、昨今では軽量化や材料コスト低減等を図るために、シリンダヘッドカバーを合成樹脂により形成することが多くなってきている。この合成樹脂よりなるシリンダヘッドカバーに対して、前述した従来の支持構成により燃料ポンプを支持した場合、以下の問題がある。すなわち、燃料ポンプには前記カムから上方に向かって高い圧力が加えられるが、前記特許文献1の燃料ポンプの支持構造を合成樹脂製のシリンダヘッドカバーに適用しただけの構成では、シリンダヘッドカバーの燃料ポンプを支持する部分が前記の高い圧力に耐えられずに破損するおそれがあった。
【0004】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、合成樹脂製のシリンダヘッドカバーに対して、燃料ポンプを強固に支持することができる燃料ポンプの支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】

上記の目的を達成するために、この発明は、合成樹脂製のシリンダヘッドカバーに燃料ポンプを支持するための支持構造において、前記燃料ポンプを支持する取付座を前記シリンダヘッドカバーの壁部に埋設固定したことを特徴としている。

従って、この発明によれば、シリンダヘッドカバーの壁部に対する燃料ポンプのケースの固定構造により、シリンダヘッドカバーに対する燃料ポンプの支持構造を強固にすることができる。よって、シリンダヘッドカバーにおける燃料ポンプの支持部分が破損するおそれを防止することができる。しかも、ブローバイガス処理室等の既存の壁部を利用できるため、専用部品は不要であり、エンジンの軽量化、ひいては車両の軽量化に寄与できる。

前記の構成において、前記燃料ポンプのケースを、取付座を介してシリンダヘッドカバーの壁部に埋設固定することが好ましい。

また、前記の構成において、前記壁部はブローバイガス処理室の壁部より構成するとよい。このように構成した場合には、シリンダヘッドカバー上に固定用の専用の壁部を形成する必要がない。
【0006】
さらに、前記壁部をオイル供給口の壁部とすることが好ましい。このように構成した場合にも、シリンダヘッドカバー上に固定用の専用の壁部を形成する必要がない。

さらに、前記の構成において、前記燃料ポンプのケースを、取付座を介してシリンダヘッドカバーに支持し、その取付座の外周に形成したフランジ部をシリンダヘッドカバーの壁部に埋設固定することが好ましい。

加えて、前記の構成において、前記フランジ部には、シリンダヘッドカバーを構成する合成樹脂が充填される孔部を形成することが強度維持上好ましい。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、この発明によれば、合成樹脂製のシリンダヘッドカバーに対して、燃料ポンプを強固に支持することができて、シリンダヘッドカバーの破損を防止できるとともに、エンジンの軽量化に寄与できるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、この発明の一実施形態を、図1〜図4の図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、エンジンにおけるシリンダヘッドカバー11は、ポリアミド系樹脂等の耐熱性合成樹脂により形成されている。シリンダヘッドカバー11の頂壁の一部には、ブローバイガス処理室12が突出形成されている。このブローバイガス処理室12には、その内部に複数の障壁(図示しない)により蛇行通路が形成され、蛇行通路内を移動するブローバイガスを障壁に衝突させて、ブローバイガスからエンジンオイルを分離処理するようになっている。このブローバイガス処理室12の壁部により、シリンダヘッドカバー11の頂壁より外側に突出する壁部13が構成されている。
【0009】
シリンダヘッドカバー11内には図2に示すエンジンのシリンダブロック31に支持したカム軸14が設けられ、そのカム軸14上には燃料圧送用のカム15が設けられている。なお、このカム軸14上には、エンジンの燃焼室のバルブを開閉するための動弁カム(図示しない)が設けられている。

図1に示すように、前記シリンダヘッドカバー11には、エンジンに高圧燃料を供給するための燃料ポンプ16が、ブローバイガス処理室12の壁部13の一辺に隣接する状態で支持されている。燃料ポンプ16の下端部には、前記カム15に接触可能なリフタ17、及びそのリフタ17により往復運動されるプランジャ18が設けられている。そして、カム15の回転にともないリフタ17を介してプランジャ18が往復運動されることにより、燃料ポンプ16内に設けられた図示しないポンプ部が作動されて、燃料が前記燃焼室に向けて圧送される。
【0010】
次に、前記シリンダヘッドカバー11に対する燃料ポンプ16の支持構造について説明する。
図1,図3及び図4に示すように、前記燃料ポンプ16のケース19は、そのケース19より広い投影面積の金属製の取付座21を備えている。取付座21の中央部には、ケース19を貫通させるための透孔22が形成されている。取付座21の透孔22の外側部には、一対のボルト挿通孔23が形成されている。取付座21の外周には、フランジ部24が突出形成されている。フランジ部24には、孔部としての複数の貫通孔25が間隔をおいて形成されている。
【0011】
図1に示すように、前記燃料ポンプ16のケース19の取付座21は、合成樹脂によるシリンダヘッドカバー11の成形時に、そのシリンダヘッドカバー11の頂壁内にフランジ部24を埋設した状態で一体に形成されている。この場合、図1に示すように、取付座21のフランジ部24の一箇所が、シリンダヘッドカバー11におけるブローバイガス処理室12の壁部13の基端(付け根部)位置の内部に埋設固定されている。また、このシリンダヘッドカバー11の成形時には、取付座21のフランジ部24上の各貫通孔25内に合成樹脂が流入して固化されることにより、取付座21とシリンダヘッドカバー11とが強固に結合されている。
【0012】
そして、図1に示すように、シリンダヘッドカバー11に埋設された取付座21の透孔22に、燃料ポンプ16のケース19が貫通されることにより、そのケース19のフランジ部20が合成樹脂製のインシュレータ26を介して取付座21の外面に接合されている。この状態で、ケース19のフランジ部20上から、取付座21の各ボルト挿通孔23に一対のボルト27が挿通されるとともに、それらのボルト27にナット28が螺合されている。これによって、燃料ポンプ16がシリンダヘッドカバー11に対して固定されている。
【0013】
さて、車両の走行時には、路面等からの振動や衝撃がシリンダヘッドカバー11に対して伝えられる。この場合、シリンダヘッドカバー11は燃料ポンプ16のケース19より大きな取付座21を介して広い面積でシリンダヘッドカバー11に固定され、しかも、ブローバイガス処理室12の立ち上がった壁部13の位置に固定されているため、燃料ポンプ16が重いものであっても、充分な固定強度を確保でき、燃料ポンプ16は支持された状態を維持する。そして、エンジンの回転にともない、カム15が一方向に連続回転され、そのカム15のリフト量の変化に従ってリフタ17が昇降動作されて、燃料ポンプ16が燃料圧送のためにポンプ動作される。このとき、燃焼室に対する燃料噴射が可能なように、燃料圧送には高い圧力が必要となる。このため、リフタ17は高い接触圧でカム15に接触されている。従って、燃料ポンプ16には、カム15によって強い押し上げ力が断続的に作用する。この場合、燃料ポンプ16は、取付座21を介して広い面積で、かつブローバイガス処理室12の立ち上がった壁部13の位置においてシリンダヘッドカバー11に支持されているため、シリンダヘッドカバー11が破損したりすること防止できる。
【0014】
従って、この実施形態においては、以下の効果がある。
(1) この実施形態では、燃料ポンプ16のケース19が、そのケース19より広い投影面積を有する金属製の取付座21を介してシリンダヘッドカバー11に支持されている。従って、燃料ポンプ16をシリンダヘッドカバー11に、強固に固定できて、カム15から与えられる圧力に抗することができて、シリンダヘッドカバー11の破損を防止できる。

(2) この実施形態では、燃料ポンプ16の取付座21がシリンダヘッドカバー11内に埋設されて、その取付座21がシリンダヘッドカバー11に突出形成された壁部13の位置に埋設されている。このため、燃料ポンプ16に高い圧力が作用した場合でも、その圧力をシリンダヘッドカバー11の壁部13で受けることができる。よって、合成樹脂製のシリンダヘッドカバー11に対して、燃料ポンプ16をさらに強固に支持することができて、シリンダヘッドカバー11における燃料ポンプ16の支持部分が破損するおそれを防止することができる。
【0015】
(3) この実施形態においては、シリンダヘッドカバー11の前記壁部13がブローバイガス処理室12の壁部13より構成されている。このため、シリンダヘッドカバー11上に固定用の専用の壁部を形成する必要はない。従って、シリンダヘッドカバー11を成形するための成形型として、複雑な形状のものを用いる必要がなく、成形型の構成を簡素化できる。しかも、ブローバイガス処理室12の壁部13の壁部が利用されているため、シリンダヘッドカバー11の軽量化に寄与できる。
【0016】
(4) 取付座21のフランジ部24に、シリンダヘッドカバー11を構成する合成樹脂が充填される貫通孔25が形成されているため、この貫通孔25に流入される合成樹脂により、燃料ポンプ16の支持強度がさらに向上する。
【0017】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 図5に示すように、取付座21を埋設するための壁部をオイル供給口の周壁32とすること。すなわち、シリンダヘッドカバー11には壁部としてのオイル供給口の周壁32が形成され、その周壁32の上端開口には栓33が設けられる。このように構成しても、前記実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0018】
・ 前記実施形態においては、取付座21の一部を壁部13に埋設したが、壁部13を取付座21が包囲されるように形成して、取付座21の外周全体あるいは大部分を壁部13に埋設すること。このようにすれば、燃料ポンプ16の支持強度がさらにアップする。
【0019】
・ 取付座21を埋設するための壁部を、ブローバイガス処理室12の壁部13やオイル供給口の周壁32以外の壁部、例えば、エンジンのクランクロッドからカム軸14への回転の伝達経路を覆うケース部の突出した壁部とすること。
【0020】
・ 前記実施形態において、取付座21の各ボルト挿通孔23に代えてネジ孔を形成し、ボルト27を19のフランジ部20上から、取付座21のネジ孔に螺合させるように構成すること。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一実施形態の燃料ポンプの支持構造を示す要部断面図。
【図2】図1の燃料ポンプの支持構造の全体を示す要部斜視図。
【図3】同支持構造における燃料ポンプの取付座を示す平面図。
【図4】取付座の埋設状態を示す断面図。
【図5】変更例を示す燃料ポンプの支持構造の要部断面図。
【符号の説明】
【0022】
11…シリンダヘッドカバー、12…ブローバイガス処理室、13…壁部、16…燃料ポンプ、19…ケース、20…フランジ部、21…取付座、23…ボルト挿通孔、24…フランジ部、27…ボルト、28…ナット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製のシリンダヘッドカバーに燃料ポンプを支持するための支持構造において、
前記燃料ポンプを支持する取付座を前記シリンダヘッドカバーの壁部に埋設固定したことを特徴とする燃料ポンプの支持構造。
【請求項2】
前記燃料ポンプのケースを、取付座を介してシリンダヘッドカバーの壁部に埋設固定した請求項1に記載の燃料ポンプの支持構造。
【請求項3】
前記壁部はブローバイガス処理室の壁部である請求項1または2に記載の燃料ポンプの支持構造。
【請求項4】
前記壁部はオイル供給口の壁部である請求項1または2に記載の燃料ポンプの支持構造。
【請求項5】
前記燃料ポンプのケースを、取付座を介してシリンダヘッドカバーに支持し、その取付座の外周に形成したフランジ部をシリンダヘッドカバーの壁部に埋設固定した請求項1に記載の燃料ポンプの支持構造。
【請求項6】
前記フランジ部には、シリンダヘッドカバーを構成する合成樹脂が充填される孔部を形成したことを特徴とする請求項5に記載の燃料ポンプの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−138729(P2010−138729A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313634(P2008−313634)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】