説明

燃料噴射制御装置

【課題】燃料噴射弁の噴射量の異常を検出するとともに、指令噴射量に対し補正できない実噴射量のずれ量を高精度に算出する燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】燃料噴射制御装置は、仮診断200において、仮診断噴射の結果に基づいて算出した補正パルス幅210が、限界パルス幅220、222を超えているか否かを判定する。補正パルス幅210は、微少噴射量学習で学習した学習補正量212と、学習補正量212にさらに加えた補正量214との合計である。補正パルス幅210が限界パルス幅220、222を超えている場合、燃料噴射制御装置は、本診断230において、指令噴射量240と、限界パルス幅220、222で補正した駆動信号により燃料噴射弁が噴射した実噴射量242との差を、指令噴射量240と実噴射量242との噴射ずれ量(Qずれ量)250として算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の各気筒に燃料を噴射する燃料噴射弁の噴射量を診断する燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、排ガス規制の強化に対応するために、燃料噴射弁の噴射量を高精度に制御することが求められている。例えば、コモンレール式のディーゼルエンジンのように、1燃焼サイクルにおいて、エンジンの主なトルクを生成するメイン噴射の前に微少量のパイロット噴射を実施する場合には、噴射量の高精度な制御が特に重要である。そのため、燃料噴射弁の加工誤差および経時劣化に対する機械的改良が行われている。
【0003】
しかしながら、機械的な改良には限界があるので、特許文献1に開示されているように、噴射量を学習して噴射量を補正し、燃料噴射弁の噴射量を高精度に制御することが知られている。噴射量学習では、燃料噴射弁に対する指令噴射量と燃料噴射弁が実際に噴射する実噴射量との差に基づいて、燃料噴射弁に燃料噴射を指令する駆動信号の補正量を学習する。
【特許文献1】特開2005−36788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内燃機関の所定運転時間間隔毎、または車両の所定走行距離間隔毎に噴射量学習を実施する場合、次回の噴射量学習を実施するまでの間に燃料噴射弁の摺動不良または摩耗等が想定以上に進み、指令噴射量と実噴射量との差が所定範囲を超えて大きくなることがある。このような噴射量の異常は次回の噴射量学習を実施するまで検出できないので、規制値以上の有害成分が排ガス中に排出されるおそれがある。
【0005】
また、指令噴射量と実噴射量との差が所定範囲を超えて大きくなり、指令噴射量と実噴射量と差に基づいて補正される駆動信号の補正量が保証された補正限界範囲を超えた場合、指令噴射量に対し補正限界範囲まで駆動信号を補正したときの実噴射量のずれ量、すなわち指令噴射量に対し補正できない実噴射量のずれ量を駆動信号の補正量に基づいて高精度に算出することは困難である。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、燃料噴射弁の噴射量の異常を検出するとともに、指令噴射量に対し補正できない実噴射量のずれ量を高精度に算出する燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1から4に記載の発明によると、内燃機関の各気筒に燃料を噴射する燃料噴射弁に対して噴射量学習を実施する燃料噴射システムに適用され、燃料噴射弁の噴射量を診断する燃料噴射制御装置において、燃料噴射弁の噴射量を診断する診断条件が成立している場合、噴射指令手段が燃料噴射弁に診断噴射を指令し、燃料噴射弁に対する指令噴射量と実噴射量との差に基づいて燃料噴射弁に対する駆動信号を補正する補正量を補正量算出手段が算出する。そして、駆動信号に対する補正量が限界値を超えている場合、指令噴射量と、限界値で補正された駆動信号を出力して噴射指令手段が診断噴射を指令したときの実噴射量との差を噴射ずれ量算出手段が算出する。
【0008】
このように、噴射量学習を実施する燃料噴射システムにおいて、駆動信号に対する補正量が限界値を超えているかを判定することにより、噴射量学習以外のタイミングで噴射量の異常を検出できる。
【0009】
また、駆動信号の補正量が限界値を超えている場合に、駆動信号に対する補正量からではなく、限界値で補正された駆動信号により実際に診断噴射を実施し、指令噴射量と実噴射量との差を算出するので、指令噴射量に対し補正できない実噴射量のずれ量を高精度に算出できる。そして、算出された実噴射量のずれに基づいて、燃料噴射弁の噴射量の異常を高精度に診断できる。
【0010】
請求項3に記載の発明によると、診断条件判定手段は、内燃機関の始動から停止までの1サイクルにおいて、診断条件が成立しているか否かを少なくとも1回判定する。
これにより、内燃機関の運転中に診断条件が成立すれば、内燃機関の運転中に燃料噴射弁の噴射量を少なくとも1回診断できる。
【0011】
請求項4に記載の発明によると、診断条件判定手段は、内燃機関の運転状態が減速無噴射状態であることを診断条件として判定する。
内燃機関の運転状態が減速無噴射状態であれば、外乱の少ない運転状態において、指令噴射量と、限界値で補正された駆動信号により診断噴射を指令したときの実噴射量との差を高精度に算出できる。
【0012】
尚、本発明に備わる複数の手段の各機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、またはそれらの組み合わせにより実現される。また、これら複数の手段の各機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
[燃料噴射システム]
図1に、本実施形態の燃料噴射システム10を示す。燃料噴射システム10は、例えば、自動車用の4気筒のディーゼルエンジン(以下、単に「エンジン」ともいう。)2に燃料を噴射するためのものであり、燃料を加圧する高圧ポンプ20と、高圧ポンプ20から供給される高圧燃料を蓄えるコモンレール40と、コモンレール40から供給される高圧燃料をエンジン2の各気筒の燃焼室に噴射する燃料噴射弁50と、本システムを制御する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)60とを備える。
【0014】
フィードポンプ14は、燃料タンク12から吸い上げた燃料を吐出して高圧ポンプ20に供給する。調量弁16は、高圧ポンプ20の吸入側に設置されており、電流制御されることにより高圧ポンプ20が吸入行程で吸入する燃料吸入量を調量する。そして、燃料吸入量が調量されることにより、高圧ポンプ20の燃料吐出量が調量される。
【0015】
燃料供給ポンプとしての高圧ポンプ20は、フィードポンプ14が吐出する燃料を吸入弁30を介してシリンダ22内の加圧室24に吸入する。プランジャ26はカムシャフト28の回転に伴って往復移動し、加圧室24に吸入された燃料を加圧する。加圧室24で加圧された燃料は、吐出弁32からコモンレール40に供給される。
【0016】
コモンレール40は、高圧ポンプ20から供給された高圧燃料を目標レール圧に蓄圧する。圧力センサ42はコモンレール40内の燃料圧力(以下、コモンレール圧とも言う。)を検出してECU60に出力する。プレッシャリミッタ44は、コモンレール圧が予め設定された上限値を超えるとコモンレール40内の燃料を排出し、コモンレール圧が上限値を超えないように制限する。
【0017】
燃料噴射弁50は、エンジン2の気筒毎に搭載され、それぞれ高圧配管46を介してコモンレール40に接続されている。燃料噴射弁50は、電磁弁52とノズル54とを有している。電磁弁52は、コモンレール40の高圧燃料が印加される制御室から低圧側に通じる低圧通路(図示せず)を開閉して制御室の圧力を制御する。電磁弁52は、電磁弁52への通電オン時に低圧通路を開放し、通電オフ時に低圧通路を遮断する。
【0018】
ノズル54は噴孔を開閉するニードル(図示せず)を内蔵している。制御室の燃料圧力はニードルに噴孔を閉じる閉弁方向に加わる。したがって、電磁弁52への通電オンにより低圧通路が開放されて制御室の燃料圧力が低下すると、ニードルがノズル54内を上昇して開弁し噴孔を開くことによりコモンレール40から供給された高圧燃料が噴孔から噴射される。一方、電磁弁52の通電オフにより低圧通路が遮断されて、制御室の燃料圧力が上昇すると、ニードルがノズル54内を下降して閉弁し噴孔を閉じることにより噴射が遮断される。
【0019】
燃料噴射制御装置としてのECU60は、CPU、ROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力インタフェース等を中心とするマイクロコンピュータにて構成されている。そして、ECU60は、圧力センサ42、回転数センサ48、アクセル開度センサを含む各種センサから検出信号を取り込み、エンジン運転状態を制御する。例えば、ECU60は、高圧ポンプ20の燃料吸入量、燃料噴射弁50の燃料噴射量、燃料噴射時期、およびメイン噴射の前後にパイロット噴射、ポスト噴射等を実施する多段噴射のパターンを制御する。ECU60が燃料噴射弁50に燃料噴射を指令する駆動信号は、パルス幅で噴射量を制御するパルス信号である。パルス信号のパルス幅が長くなるにしたがい指令噴射量は増加する。
【0020】
燃料噴射システム10において、ECU60は、前述した燃料噴射弁50に対する通常の噴射制御に加え、図2に示すように、微少噴射量学習(微少Q学習)および噴射量診断を実施する。ECU60は、所定の走行距離間隔、例えば数百km〜数千kmの間隔で微少噴射量学習を実施する。ECU60は、特許文献1に開示されている微少噴射量学習のように、例えばパイロット噴射量に相当する指令噴射量と実噴射量との差に基づいて、指令噴射量に実噴射量が一致するように燃料噴射弁50に燃料噴射を指令する駆動信号の補正量(以下、学習補正量とも言う。)として、パルス信号の補正パルス幅を学習する。
【0021】
微少噴射量学習と微少噴射量学習との間で燃料噴射弁50に摺動不良または摩耗が生じても、前回の微少噴射量学習で学習した学習補正量で駆動信号を補正することにより指令噴射量に対する燃料噴射弁50の実噴射量のずれ量が所定の噴射量の範囲内になるのであれば、排ガス中に排出される有害成分は許容範囲内である。
【0022】
しかしながら、微少噴射量学習と微少噴射量学習との間で燃料噴射弁50に想定以上の摺動不良または摩耗が生じ、学習補正量で駆動信号を補正しても、指令噴射量に対して実噴射量が所定の範囲を超えて増加または減少することがある。この場合、微少噴射量学習だけでは、次回の微少噴射量学習まで噴射量異常を検出できない。
【0023】
そこで、本実施形態では、燃料噴射弁50に対し、微少噴射量学習以外のタイミングで噴射量診断を実施する。ROMまたはフラッシュメモリに記憶されている制御プログラムにより、燃料噴射弁50に噴射量診断を実施する燃料噴射制御装置としてECU60が機能する各手段について以下に説明する。
【0024】
(診断条件判定手段)
ECU60は、微少噴射量学習を実施するタイミング以外、すなわち図2において微少噴射量学習(微少Q学習)を未実施のタイミングにおいて、アクセルペダルがオフされエンジン2が減速無噴射運転状態になると、燃料噴射弁50に対して噴射量の診断を実施する診断条件が成立したと判断する。ECU60は、エンジン2が始動してから停止するまでの1サイクルにおいて少なくとも1回、噴射量診断の診断条件が成立しているか否かを判定する。これにより、エンジン2の運転中に診断条件が成立すれば、エンジン2の運転中に少なくとも1回噴射量診断を実施できる。
【0025】
減速無噴射運転状態において噴射量診断を実施することにより、外乱の少ない運転状態において、指令噴射量と、補正限界値で補正された駆動信号により診断噴射を指令したときの実噴射量との差である噴射ずれ量を高精度に算出できる。
【0026】
(調圧手段)
診断条件が成立すると、ECU60は、燃料噴射弁50の噴射量を診断する診断噴射を実施するために、高圧ポンプ20の吐出量を制御するか、あるいは燃料噴射弁50が燃料を噴射しない程度に燃料噴射弁50の制御室の燃料を低圧側に排出することにより、コモンレール圧を所定圧に調圧する。
【0027】
微少噴射量学習では、コモンレール圧の低圧から高圧までの作動圧力範囲を複数の圧力領域に分割し、コモンレール圧を全ての圧力領域毎に調圧して補正量を学習する。これに対し、噴射量診断では、噴射量の異常と異常程度とを診断できればよいので、全ての圧力領域のうちの所定の1個、あるいは低圧側および高圧側で各1個、計2個の圧力領域にコモンレール圧を調圧して診断噴射を実施する。
【0028】
(噴射指令手段)
診断条件が成立しコモンレール圧が診断噴射を実施するための所定圧に調圧されると、ECU60は、診断噴射を実施する指令噴射量を算出し、指令噴射量を噴射するための駆動信号の基本パルス幅を学習補正量で補正し、補正した駆動信号により燃料噴射弁50に仮診断の燃料噴射を指令する。
【0029】
そして、後述するように仮診断の噴射により燃料噴射弁50の実噴射量が指令噴射量に対して補正限界を超えている噴射量異常が検出されると、ECU60は、限界パルス幅で補正された駆動信号により、燃料噴射弁50に本診断の燃料噴射を指令する。
【0030】
(補正量算出手段)
ECU60は、仮診断噴射を実施したときのエンジン2の回転数変動量からエンジン2の発生トルクを算出する。エンジン2の発生トルクは噴射量に比例するので、発生トルクから実噴射量を算出できる。ECU60は、仮診断噴射を指令したときの指令噴射量と算出した実噴射量との差に基づき、指令噴射量に実噴射量が一致するように駆動信号のパルス幅を補正する補正パルス幅を算出する。指令噴射量に対して実噴射量が少ないときには、補正パルス幅は、駆動信号のパルス幅を大きくして噴射量を増加するために正の値になる。一方、指令噴射量に対して実噴射量が多いときには、補正パルス幅は、駆動信号のパルス幅を小さくして噴射量を低減するために負の値になる。
【0031】
(補正限界判定手段)
ECU60は、図3の仮診断200に示すように、仮診断噴射の結果に基づいて補正量算出手段が算出した補正パルス幅210が、補正が保証された補正限界値である補正上限値220または補正下限値222を超えているか否かを判定する。仮診断200において、学習補正量212と、学習補正量212にさらに加えた補正量214との合計が基本パルス信号に対する補正パルス幅210である。
【0032】
保証された限界パルス幅(補正上限値220または補正下限値222)を補正パルス幅210が超えている場合、ECU60は、保証された補正範囲では指令噴射量に一致するように実噴射量を補正できない噴射量異常を燃料噴射弁50が発生していると判断する。
【0033】
(噴射ずれ量算出手段)
ECU60は、補正パルス幅210が限界パルス幅220、222を超えている場合、図3の本診断230に示すように、駆動信号の基本パルス幅を限界値である限界パルス幅220、222で補正した駆動信号により燃料噴射弁50に本診断の燃料噴射を指令する。そして、指令噴射量240と、限界パルス幅220、222で補正した駆動信号により燃料噴射弁50が噴射した実噴射量242との差を、指令噴射量240に対し補正できない実噴射量242の噴射ずれ量(Qずれ量)250として算出する。この噴射ずれ量250が大きいほど、燃料噴射弁50の噴射量の異常程度は高い。
【0034】
(噴射量診断)
次に、燃料噴射弁50に対する噴射量診断を、図4〜図7に基づいて説明する。図4〜図6のフローチャートにおいて、「S」はステップを表している。図4〜図6のフローチャートが示す診断ルーチンは、前述した噴射量診断を実施する診断条件が成立したときに、所定のコモンレール圧において全気筒に対する噴射量診断が終了するまで繰り返し実行される。コモンレール圧の作動圧力範囲において低圧側および高圧側の各1個の圧力領域で噴射量診断を実施する場合は、低圧側と高圧側とに調圧されたコモンレール圧において、図4〜図6に示す診断ルーチンが全気筒に対してそれぞれ実行される。
【0035】
燃料噴射弁50の異常を最終的に診断するルーチンは、図4〜図6の診断ルーチンの結果に基づいて燃料噴射弁50の噴射量の異常を診断する。図4および図5のS310以降の処理は、指令噴射量に対して燃料噴射弁50の実噴射量のずれ量が補正できる範囲内にあるか否かを診断する仮診断処理であり、図6は、指令噴射量に対して補正限界まで補正したときの実噴射量のずれ量を算出する本診断処理である。図4のS300〜S308は仮診断および本診断で共通の処理である。
【0036】
(共通処理)
図4のS300においてECU60は、診断噴射の指令噴射量を算出し、前回の微少噴射量学習で学習した学習補正量(パルス幅)と、仮診断において算出した後述する第1パルス幅補正量とで駆動信号の基本パルス幅を補正し、燃料噴射弁50に指令噴射量の単発の診断噴射を指令する。S300において算出された指令噴射量は、例えばパイロット噴射量に相当する微少量であり、該当気筒に対する以下の仮診断および本診断が終了するまで同じ値である。
【0037】
仮診断の第1パルス幅補正量は、指令噴射量に実噴射量を一致させるように微少噴射量学習で学習した学習補正量を、指令噴射量に実噴射量との差に基づいてさらに補正する補正量である。第1パルス幅補正量の初期値は0である。
【0038】
仮診断の第1パルス幅補正量は、微少噴射量学習で学習した学習補正量と第1パルス幅補正量とを加算すると、補正が許可される正の上限値または負の下限値を超えることもある。これに対し、本診断の第1パルス幅補正量は、学習補正量と第1パルス幅補正量とを加算すると、補正が許可される正の上限値または負の下限値となる限界パルス幅に設定される。
【0039】
S302においてECU60は、第1噴射カウンタをカウントアップする。S304においてECU60は、前述したようにエンジン2の回転数変動量に基づいて発生トルクを算出し、発生トルクに基づいて実噴射量を算出する。S306においてECU60は、今回までに診断噴射した実噴射量の合計を第1噴射カウンタの値で除算し、実噴射量の平均を算出する。S308においてECU60は、診断を未実施か仮診断中であるかを診断コードに基づいて判定する。診断コードの初期値は0であり、ECU60は、診断コードが0であれば、仮診断をやり直す場合も含めて診断を未実施であり、今回が仮診断の1回目の診断噴射であると判定し、診断コードが1であれば、仮診断を実施中であり、今回が仮診断の連続する2回目以降の診断噴射であると判定する。また、ECU60は、診断コードが2であれば、本診断の実施中であると判定する。
【0040】
0〜2以外の診断コードの値は、噴射量診断の結果を表している。診断コードが3の場合は、指令噴射量に対して実噴射量のずれ量が補正可能な範囲内にあり、補正できないずれ量が0mm3/stであるか、あるいは補正限界を超えているが補正できないずれ量を算出できたことを表している。
【0041】
診断コードが4の場合は、仮診断において駆動信号を補正しても実噴射量が指令噴射量に近づかず、噴射量が発散する異常であることを表している。
診断コードが5の場合は、仮診断において該当気筒の噴射量を増加または低減する方向と、FCCBにおいて該当気筒の噴射量を増加または低減する方向とが一致せず異なっている相互監視異常であることを表している。
【0042】
診断を未実施か仮診断中であれば(S308:Yes)、ECU60はS310に処理を移行し、本診断中であれば(S308:No)、ECU60は図6のS370に処理を移行する。
【0043】
尚、ECU60は、以下に説明する仮診断と本診断とを気筒毎に連続して実行してもよいし、全気筒に対して仮診断を実行してから本診断を実行してもよい。
(仮診断1)
ECU60は、指令噴射量と、今回の診断噴射により燃料噴射弁50が噴射した実噴射量との差である噴射ずれ量を算出し(S310)、噴射ずれ量に基づいて指令噴射量に実噴射量を一致させるように駆動信号のパルス幅を補正するパルス幅補正量を算出し(S312)、仮診断において今回までの仮診断噴射において算出したパルス幅補正量の平均を算出する(S314)。指令噴射量に対して実噴射量が大きく噴射ずれ量が負になる場合、パルス幅補正量は、基本パルス幅と学習補正量とで規定される駆動信号のパルス幅を小さくして実噴射量を減少させるために負の値になる。一方、指令噴射量に対して実噴射量が小さく噴射ずれ量が正になる場合、パルス幅補正量は、駆動信号のパルス幅を大きくして実噴射量を増加させるために正の値になる。
【0044】
S316においてECU60は、S310で算出した噴射ずれ量が所定範囲外であるかを判定する。ここで、図7の(A)に示すように、S316において噴射ずれ量が連続して所定範囲内(OK領域)になるときには、S316において判定する所定範囲は狭くなっていく。仮診断中のS316において噴射ずれ量が所定範囲外(NG領域)になると、仮診断はやり直され、所定範囲は1回目の範囲に設定される。
【0045】
指令噴射量と今回の実噴射量との噴射ずれ量が所定範囲を超えると(S316:Yes)、ECU60はS318に処理を移行し、指令噴射量と今回の実噴射量との噴射ずれ量が所定範囲内であれば(S316:No)、ECU60は図5の340に処理を移行する。
【0046】
S318においてECU60は、第2噴射カウンタをカウントアップする。これは、噴射ずれ量が所定範囲を超え(S316:Yes)、仮診断がやり直しになった場合を含めて仮診断噴射の噴射回数をカウントすることにより、後述するS324において第2噴射カウンタが所定回数に達したときに、それ以上の仮診断噴射を禁止するためである。
【0047】
S320において、S314で算出したパルス幅補正量の平均を第1パルス幅補正量に加算する。そして、S322においてECU60は、指令噴射量と今回の実噴射量との噴射ずれ量が所定範囲を超えているので(S316:Yes)、1回目から仮診断噴射をやり直すために、第1噴射カウンタと、S306で算出した実噴射量の平均と、S314で算出したパルス幅補正量の平均と、診断コードとを0クリアする。また、ECU60は、前述したように、S316で判定する所定範囲を1回目の値に設定する。
【0048】
S324においてECU60は、第2噴射カウンタが所定回数になったかを判定する。第2噴射カウンタが所定回数になると(S324:Yes)、ECU60は、仮診断のやり直しも含めて仮診断噴射を連続して所定回数実施したと判断し、該当気筒においてこれ以上の仮診断噴射を禁止する。S326においてECU60は、図3に示すように、第1パルス幅補正量(図3ではQずれ補正量)が、学習補正量(図3では微少Q補正量)に加算すると駆動信号の補正が許可される限界パルス幅となるパルス幅の範囲内であるかを判定する。
【0049】
指令噴射量と今回の実噴射量との噴射ずれ量が所定範囲を超えており(S316:Yes)、第2噴射カウンタが所定回数になった(S324:Yes)にもかかわらず、第1パルス幅補正量が学習補正量に加算すると限界パルス幅となるパルス幅の範囲内であれば(S326:Yes)、ECU60は実噴射量が指令噴射量に近づかずに発散している異常であると判断し、診断コードに4(発散。図7の(B)参照。)を設定して本ルーチンを終了する(S328)。診断コードが4の場合、ECU60は、該当気筒に対する本診断を実施せず、他に仮診断を未実施の気筒が存在する場合には、他気筒に対する仮診断を実施する。
【0050】
第1パルス幅補正量が学習補正量に加算すると限界パルス幅となるパルス幅の範囲を超えている場合(S326:No)、ECU60は、適正な補正パルス幅の範囲内では指令噴射量と実噴射量との噴射ずれ量を所定範囲内にできないと判断する。そして、ECU60は、補正できない噴射ずれ量を算出する本診断を実行するために診断コードに2(本診断中。図7の(B)参照。)を設定する(S330)。診断コードに2を設定すると、S308において「No」と判定され、本診断が実施される。
【0051】
S332においてECU60は、第1噴射カウンタとS306において算出した実噴射量の平均値とをクリアする。S334においてECU60は、学習補正量に加算すると正の補正上限値または負の補正下限値である限界パルス幅になる補正量を第1パルス幅補正量として設定し、本ルーチンを終了する。
【0052】
(仮診断2)
前述したS316において指令噴射量と今回の実噴射量との噴射ずれ量が所定範囲内であれば(S316:No)、図5に示すS340においてECU60は、仮診断において噴射ずれ量が所定回数連続して所定範囲内であるかを判定する。
【0053】
噴射ずれ量が所定回数連続して所定範囲内になっていない場合(S340:No)、ECU60は、第2噴射カウンタをカウントアップし(S342)、診断コードに1(仮診断中)を設定して本ルーチンを終了する(S344)。
【0054】
噴射ずれ量が所定回数連続して所定範囲内であれば(S340:Yes)、ECU60は、第2噴射カウンタをクリアし(S346)、第2パルス幅補正量を算出する(S348)。第2パルス幅補正量は、駆動信号の基本パルス幅を、学習補正量と、S320で算出した第1パルス幅補正量とにより補正したときに、指令噴射量と実噴射量とのずれ量をS316およびS340で判定して許可している所定範囲よりもさらに小さくするために、学習補正量と第1パルス幅補正量とに加えて補正するパルス幅補正量である。
【0055】
S350においてECU60は、学習補正量と、第1パルス幅補正量と、S348で算出した第2パルス幅補正量とを加算して最終パルス幅補正量を算出する。そして、最終パルス幅補正量により該当気筒の噴射量を増加または低減する方向と、FCCBにおいて該当気筒の噴射量を増加または低減する方向とが一致するか否かを判定する。
【0056】
補正方向が一致せず異なっている場合(S352:No)、S354においてECU60は、FCCBの補正方向と噴射量診断の補正方向とが異なる相互監視異常であることを表すために診断コードに5(図7の(B)参照。)を設定して本ルーチンを終了する。
【0057】
補正方向が一致する場合(S352:Yes)、S356においてECU60は、最終パルス幅補正量が限界パルス幅の範囲内であるかを判定する。最終パルス幅補正量が限界パルス幅の範囲内であれば(S356:Yes)、ECU60は、補正により指令噴射量に実噴射量を一致させることができると判断し、補正できない噴射ずれ量に0mm3/stを設定し(S358)、診断コードに3(診断完了。図7の(B)参照。)を設定して本ルーチンを終了する(S360)。この場合、燃料噴射弁50の噴射量は正常であるから、ECU60は該当気筒の燃料噴射弁50に対して本診断を実施しない。
【0058】
最終パルス幅補正量が限界パルス幅の範囲を超えている場合(S356:No)、ECU60は、本診断が必要であると判断して診断コードに2(本診断中。図7の(B)参照。)を設定し(S362)、第1噴射カウンタと、図4のS306で算出した実噴射量の平均値とをクリアする(S364)。そして、S366においてECU60は、第1パルス幅補正量に、学習補正量に加算すると限界パルス幅となるパルス幅を設定して本ルーチンを終了する。
【0059】
(本診断)
図4のS300からS306において、限界パルス幅で補正された駆動信号により燃料噴射弁50に燃料噴射を指令して実噴射量を算出するとともに実噴射量の平均値を算出し、S308で診断未実施でもなく仮診断中でもなく本診断中であると判定すると(S308:No)、図6のS370においてECU60は、限界パルス幅で補正された駆動信号により所定回数の本診断噴射を実施したかを判定する。限界パルス幅で所定回数の本診断噴射を実施した場合(S370:Yes)、ECU60は、指令噴射量と、本診断において図4のS306で算出した実噴射量の平均値との差である噴射ずれ量を算出し(S372)、診断コードに3(診断完了。図7の(B)参照。)を設定して本ルーチンを終了する(S374)。
【0060】
本診断噴射の実施回数が所定回数に達していない場合(S370:No)、ECU60は、S376で診断コードに2(本診断中。図7の(B)参照。)を設定し、本ルーチンを終了する。
【0061】
以上の仮診断および本診断を実施した結果である診断コードと、診断コードが3の場合には噴射ずれ量の値とに基づいて、ECU60または他のECUの噴射量診断手段により、各気筒の燃料噴射弁50に対する最終的な噴射量診断が実施される。
【0062】
以上説明した本実施形態では、微少噴射量学習のインターバル中に燃料噴射弁50の噴射量診断を実施することにより、微少噴射量学習のインターバル中に噴射量異常が発生したことを検出できる。
【0063】
また、限界パルス幅で補正した駆動信号により本診断において燃料噴射弁50に診断噴射を指令し、実噴射量を算出するので、指令噴射量に対し補正できない実噴射量のずれ量を高精度に算出できる。
【0064】
これに対し、仮診断において、駆動信号に対する補正パルス幅が限界パルス幅を超えた場合に、限界パルス幅を超えた補正パルス幅に基づいて限界パルス幅で補正したときの実噴射量を推定することはできる。しかしながら、あくまでも補正パルス幅に基づいて推定した噴射量であり、実際に燃料を噴射しているわけではない。したがって、上記実施形態のように、実際に限界パルス幅で駆動信号を補正して診断噴射を実施し算出された実噴射量に比べ、精度は低くなる。
【0065】
また、噴射量診断は、噴射量の異常と、そのときの噴射ずれ量とを検出できればよいので、コモンレール圧の作動圧力範囲において複数に分割された圧力領域のうち所定の1個、または低圧側および高圧側の各1個、計2個の圧力領域で診断噴射を実施すればよい。したがって、コモンレール圧の作動圧力範囲の全領域で学習噴射を実施する微少噴射量学習に比べ、診断に要する噴射量を低減できる。
【0066】
[他の実施形態]
上記実施形態の図5のS352の判定において、最終パルス幅補正量により該当気筒の噴射量を増加または低減する方向と、FCCBにおいて該当気筒の噴射量を増加または低減する方向とが一致する場合(S352:Yes)、S350で算出された最終パルス幅補正量は、限界パルス幅の範囲内であるか否かに関わらず正しい補正量である。
【0067】
そこで、S352の判定において補正方向が一致すれば(S352:Yes)、最終パルス幅補正量が限界パルス幅の範囲内の場合には(S356:Yes)、S350で算出された最終パルス幅補正量を噴射量診断したコモンレール圧における該当気筒の学習補正量として設定し、最終パルス幅補正量が限界パルス幅の範囲を超えている場合には(S356:No)、限界パルス幅を噴射量診断したコモンレール圧における該当気筒の学習補正量として設定してもよい。
【0068】
上記実施形態では、診断条件判定手段、噴射指令手段、実噴射量算出手段、補正量算出手段、補正限界判定手段、噴射ずれ量算出手段の機能を、制御プログラムにより機能が特定されるECU60により実現している。これに対し、上記複数の手段の機能の少なくとも一部を、回路構成自体で機能が特定されるハードウェアで実現してもよい。
【0069】
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施形態による燃料噴射システムを示すブロック図。
【図2】微少噴射量学習のインターバル中の噴射量異常を示す説明図。
【図3】噴射量診断の仮診断および本診断を示す説明図。
【図4】噴射量診断を示すフローチャート。
【図5】噴射量診断を示すフローチャート。
【図6】噴射量診断を示すフローチャート。
【図7】(A)は噴射量の補正過程を示す説明図、(B)は診断結果を示す説明図。
【符号の説明】
【0071】
2:ディーゼルエンジン(内燃機関)、10:燃料噴射システム、20:高圧ポンプ(燃料供給ポンプ)、40:コモンレール、50:燃料噴射弁、60:ECU(燃料噴射制御装置、診断条件判定手段、噴射指令手段、実噴射量算出手段、補正量算出手段、補正限界判定手段、噴射ずれ量算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の各気筒に燃料を噴射する燃料噴射弁に対して噴射量学習を実施する燃料噴射システムに適用され、前記燃料噴射弁の噴射量を診断する燃料噴射制御装置において、
前記燃料噴射弁の噴射量を診断する診断条件が成立しているか否かを判定する診断条件判定手段と、
前記診断条件が成立している場合、駆動信号を出力して前記燃料噴射弁に診断噴射を指令する噴射指令手段と、
前記診断噴射を指令された前記燃料噴射弁が実際に噴射した実噴射量を算出する実噴射量算出手段と、
前記燃料噴射弁に対する前記診断噴射の指令噴射量と前記実噴射量との差に基づいて前記駆動信号を補正する補正量を算出する補正量算出手段と、
前記補正量が限界値を超えているか否かを判定する補正限界判定手段と、
前記補正量が限界値を超えていると前記補正限界判定手段が判定すると、前記指令噴射量と、前記限界値で補正された前記駆動信号を出力して前記噴射指令手段が前記診断噴射を指令したときの前記実噴射量との差を算出する噴射ずれ量算出手段と、
を備えることを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記駆動信号は前記燃料噴射弁の噴射量をパルス幅で制御するパルス信号であり、前記限界値で補正された前記駆動信号は、基本パルス幅を限界パルス幅で補正されたパルス信号であることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記診断条件判定手段は、前記内燃機関の始動から停止までの1サイクルにおいて、前記診断条件が成立しているか否かを少なくとも1回判定することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記診断条件判定手段は、前記内燃機関の運転状態が減速無噴射状態であることを前記診断条件として判定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−24846(P2010−24846A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183690(P2008−183690)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】