説明

燃料噴射制御装置

【課題】気体燃料噴射弁が管状部材を介して吸気管に接続されている場合でも、高精度な気体燃料噴射制御を実現する。
【解決手段】管状部材を介して吸気管と接続された気体燃料噴射弁4を制御する燃料噴射制御装置であって、気体燃料噴射量の算出タイミングが到来する毎に、前記管状部材の容積及び前記吸気管の内部圧力に基づいて前記管状部材の気体燃料滞留量を算出し、前回噴射時の気体燃料滞留量及び今回噴射時の気体燃料滞留量に基づいて今回噴射時の気体燃料噴射量を算出し、その算出結果に応じて前記気体燃料噴射弁4を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ガス燃料供給管内のガス燃料の絶対圧及び温度と、各ガス燃料噴射弁のそれぞれに対応して予め設定されている状態量算出係数とに基づいて、各ガス燃料噴射弁から噴射されるときのガス燃料の絶対圧および温度を算出し、その算出結果を基にガス燃料噴射弁毎の燃料噴射量を算出する技術が開示されている。
このように、ガス燃料を単一エンジンに供給するシステムでは、ガス燃料噴射弁の燃料噴射口が吸気管内に露出するようにガス燃料噴射弁を吸気管に装着し、ガス燃料噴射弁から吸気管内へガス燃料を直接噴射する構成が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−87771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガソリン燃料とガス燃料とを選択的に単一エンジンに供給するバイフューエルシステムでは、ガス燃料噴射弁が吸気管から離れた位置に設置され、ガス燃料噴射弁と吸気管とがホース等で接続される場合もある。この場合、ガス燃料噴射弁からシリンダ要求燃料量のガス燃料を噴射しても、ホース内に滞留しているガス燃料の影響を受けて、実際にシリンダ内に供給される燃料量はシリンダ要求燃料量とは異なるものとなる。
例えば、加速時にはシリンダ内に供給される燃料量がシリンダ要求燃料量よりも減ってリーン化が発生し、減速時にはシリンダ内に供給される燃料量がシリンダ要求燃料量よりも増えてリッチ化が発生するため、排ガス悪化や加速性の悪化を招く可能性がある。
【0005】
また、ホース内に滞留しているガス燃料が噴射タイミング以外のタイミングで吸気管内に流出し、同じシリンダの次の噴射タイミングで、シリンダ内に供給される燃料量がシリンダ要求燃料量よりも増えてリッチ化が発生する可能性がある。
さらに、各シリンダに対する吸気管の取付位置によって各ホースの長さが異なるため、ホース内に滞留しているガス燃料が他シリンダの噴射タイミングやそれ以外のタイミングで吸気管内に流出してしまうと、シリンダ要求燃料量に対して実際の燃料供給量を正確に制御することが困難となる。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、気体燃料噴射弁が管状部材を介して吸気管に接続されている場合でも、高精度な気体燃料噴射制御を実現可能な燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、燃料噴射制御装置に係る第1の解決手段として、管状部材を介して吸気管と接続された気体燃料噴射弁を制御する燃料噴射制御装置であって、気体燃料噴射量の算出タイミングが到来する毎に、前記管状部材の容積及び前記吸気管の内部圧力に基づいて前記管状部材の気体燃料滞留量を算出し、前回噴射時の気体燃料滞留量及び今回噴射時の気体燃料滞留量に基づいて今回噴射時の気体燃料噴射量を算出し、その算出結果に応じて前記気体燃料噴射弁を制御することを特徴とする。
【0008】
また、本発明では、燃料噴射制御装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記管状部材の容積Vh、前記吸気管の内部圧力Pintake、大気圧力Patm、気体燃料密度ρgas、及びエンジン運転条件に応じた滞留補正係数Kgashからなる下記(1)式に基づいて、前記管状部材の気体燃料滞留量Thを算出することを特徴とする。
Th=Vh×Pintake/Patm×ρgas×Kgash ・・・(1)
【0009】
また、本発明では、燃料噴射制御装置に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記今回噴射時の気体燃料滞留量Th、前記前回噴射時の気体燃料滞留量Thz、及び気筒要求燃料量Tinjbからなる下記(2)式に基づいて、前記今回噴射時の気体燃料噴射量Tinjを算出することを特徴とする。
Tinj=Tinjb+Th−Thz ・・・(2)
【0010】
また、本発明では、燃料噴射制御装置に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれか1つの解決手段において、複数の気筒のそれぞれに対応して、前記管状部材を介して吸気管と接続された気体燃料噴射弁が配置されている場合、各気筒毎に、前記管状部材の気体燃料滞留量を算出し、前回噴射時の気体燃料滞留量及び今回噴射時の気体燃料滞留量に基づいて今回噴射時の気体燃料噴射量を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、気体燃料噴射量の算出タイミングが到来する毎に、管状部材の容積及び吸気管の内部圧力に基づいて管状部材の気体燃料滞留量を算出し、前回噴射時の気体燃料滞留量及び今回噴射時の気体燃料滞留量に基づいて今回噴射時の気体燃料噴射量を算出し、その算出結果に応じて前記気体燃料噴射弁を制御するので、気体燃料噴射弁が管状部材を介して吸気管に接続されている場合でも、高精度な気体燃料噴射制御を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係るバイフューエルシステムの概略構成図である。
【図2】各燃料ホース5a〜5dにガス燃料が滞留する様子を示す図である。
【図3】(a)は2nd−ECU9が、各シリンダ1a〜1dのそれぞれについて、ガス燃料噴射量の算出タイミングが到来する毎に実行するガス燃料噴射制御のメインルーチンを表し、(b)〜(d)はメインルーチン内の各処理のサブルーチンを表すフローチャートである。
【図4】図3に従って算出したガス燃料噴射量Tinj(図中の補正有り噴射実行量)と、従来手法で算出したガス燃料噴射量(図中の補正無し噴射実行量)と、シリンダ要求燃料噴射量Tinjbと、吸気圧力Pintakeとの時間的な対応関係を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るバイフューエルシステムの概略構成図である。この図1において、符号1は例えば直列4気筒エンジンのシリンダブロックである。このシリンダブロック1は、直列に配置された4つのシリンダ(第1シリンダ1a、第2シリンダ1b、第3シリンダ1c及び第4シリンダ1d)を備えている。
【0014】
符号2はシリンダブロック1に装着されて外部から取り込んだ空気を4つのシリンダ1a〜1dの各々に分配するインテークマニホールドである。このインテークマニホールド2は、一端が4つの吸気管(第1吸気管2a、第2吸気管2b、第3吸気管2c及び第4吸気管2d)に分岐して各シリンダ1a〜1dと接続されており、他端に設けられた空気導入口2eから導入された空気が各吸気管2a〜2dを介して各シリンダ1a〜1dに分配される構成となっている。
【0015】
符号3はガス燃料分配器、符号4aは第1ガスインジェクタ、符号4bは第2ガスインジェクタ、符号4cは第3ガスインジェクタ、符号4dは第4ガスインジェクタ、符号5aは第1燃料ホース、符号5bは第2燃料ホース、符号5cは第3燃料ホース、符号5dは第4燃料ホースである。
【0016】
ガス燃料分配器3は、不図示のガス燃料タンクから遮断弁、レギュレータ及びフィルタ等を経由して供給されるガス燃料を各ガスインジェクタ4a〜4dに分配するものである。各ガスインジェクタ4a〜4dは、それぞれ各吸気管2a〜2dから離れた位置に設置されたガス燃料噴射弁(例えばソレノイドバルブ等)であり、それぞれ燃料噴射口と連通する各燃料ホース5a〜5d(管状部材)を介して各吸気管2a〜2dと接続されている。
【0017】
つまり、第1ガスインジェクタ4aから噴射されたガス燃料は第1燃料ホース5aを介して第1吸気管2a内に供給され、第2ガスインジェクタ4bから噴射されたガス燃料は第2燃料ホース5bを介して第2吸気管2b内に供給され、第3ガスインジェクタ4cから噴射されたガス燃料は第3燃料ホース5cを介して第3吸気管2c内に供給され、第4ガスインジェクタ4dから噴射されたガス燃料は第4燃料ホース5dを介して第4吸気管2d内に供給される。なお、シリンダブロック1に対する各吸気管2a〜2dの取付位置によって各燃料ホース5a〜5dの長さは異なる。
【0018】
符号6aは第1ガソリンインジェクタ、符号6bは第2ガソリンインジェクタ、符号6cは第3ガソリンインジェクタ、符号6dは第4ガソリンインジェクタ、符号7はガソリン燃料分配管である。ガソリン燃料分配管7は、不図示のガソリン燃料タンクから供給されるガソリン燃料を各ガソリンインジェクタ6a〜6dに分配するものである。各ガソリンインジェクタ6a〜6dは、それぞれ燃料噴射口が各シリンダ1a〜1dの燃焼室内に露出するように設置されたガソリン燃料噴射弁(例えばソレノイドバルブ等)である。
【0019】
つまり、第1ガソリンインジェクタ6aから噴射されたガソリン燃料は第1シリンダ1aの燃焼室内に直接供給され、第2ガソリンインジェクタ6bから噴射されたガソリン燃料は第2シリンダ1bの燃焼室内に直接供給され、第3ガソリンインジェクタ6cから噴射されたガソリン燃料は第3シリンダ1cの燃焼室内に直接供給され、第4ガソリンインジェクタ6dから噴射されたガソリン燃料は第4シリンダ1dの燃焼室内に直接供給される。なお、各ガソリンインジェクタ6a〜6dを、それぞれ燃料噴射口が各吸気管2a〜2dの内部に露出するように設置しても良い。
【0020】
符号8は1st−ECU(Electronic Control Unit)、符号9は2nd−ECU、符号10は燃料切替スイッチである。1st−ECU8は、エンジン状態を検出する各種センサ(図示省略)から入力される各種センサ信号に基づいて、ガソリン燃料噴射量及びガソリン燃料噴射タイミングを算出し、その算出結果に応じてガソリンインジェクタ通電用パルス信号を生成して2nd−ECU9へ出力する。
具体的には、ガソリン燃料噴射量に応じてガソリンインジェクタ通電用パルス信号のパルス幅が設定され、ガソリン燃料噴射タイミングに応じてガソリンインジェクタ通電用パルス信号の立上がりタイミングが設定される。
【0021】
1st−ECU8に入力される各種センサ信号には、少なくとも、クランク軸が一定角度回転する時間を1周期とするクランクパルス信号、ピストンが上死点(TDC)に到達する時間を1周期とするTDCパルス信号、吸気温度を示す吸気温度信号、吸気圧力を示す吸気圧力信号、冷却水温を示す冷却水温信号などが含まれている。
1st−ECU8は、クランクパルス信号からエンジン回転数を算出し、エンジン回転数及び吸気温度(冷却水温でも良い)を基にガソリン燃料噴射量を算出し、さらに当該ガソリン燃料噴射量からガソリン燃料噴射タイミング(ガソリン燃料を噴射すべきクランク軸角度)を算出する。なお、これらガソリン燃料噴射量及びガソリン燃料噴射タイミングの算出手法は従来と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0022】
2nd−ECU9(燃料噴射制御装置)は、エンジン状態を検出する各種センサから入力される各種センサ信号と、1st−ECU8から入力されるガソリンインジェクタ通電用パルス信号と、不図示の燃料圧力センサから入力されるガス燃料圧力信号と、不図示の燃料温度センサから入力されるガス燃料温度信号と、燃料切替スイッチ10から入力される燃料選択信号とに基づいて、各ガスインジェクタ4a〜4d及び各ガソリンインジェクタ6a〜6dの通電制御を行う。
【0023】
具体的には、2nd−ECU9は、燃料切替スイッチ10から入力される燃料選択信号を基にガソリン燃料が選択されていることを検知した場合、ガソリン燃料噴射モードとなり、1st−ECU8から入力されるガソリンインジェクタ通電用パルス信号と同一のパルス幅、立上がりタイミングを有するパルス信号、すなわちガソリンインジェクタ通電用パルス信号PLを各ガソリンインジェクタ6a〜6dへ出力する。
【0024】
また、2nd−ECU9は、燃料切替スイッチ10から入力される燃料選択信号を基にガス燃料が選択されていることを検知した場合、ガス燃料噴射モードとなり、ガス燃料圧力信号、ガス燃料温度信号及び1st−ECU8から入力されるガソリンインジェクタ通電用パルス信号に基づいてガスインジェクタ通電用パルス信号PGを生成して各ガスインジェクタ4a〜4dに出力する。なお、このガス燃料噴射モード時の動作についての詳細は後述する。
【0025】
燃料切替スイッチ10は、手動操作による燃料切替えを可能とするスイッチであり、そのスイッチの状態、つまりエンジンで使用する燃料としてガソリン燃料が選択されているのか、ガス燃料が選択されているのかを示す燃料選択信号を2nd−ECU9に出力する。
【0026】
次に、上記のように構成されたバイフューエルシステムの動作、特に本実施形態の特徴である2nd−ECU9のガス燃料噴射モード時の動作について説明する。
既に述べたように、各ガスインジェクタ4a〜4dと各吸気管2a〜2dとが各燃料ホース5a〜5dで接続される場合、各ガスインジェクタ4a〜4dからシリンダ要求燃料量のガス燃料を噴射しても、各燃料ホース5a〜5d内に滞留しているガス燃料の影響を受けて、実際に各シリンダ1a〜1d内に供給される燃料量はシリンダ要求燃料量とは異なるものとなる。
【0027】
例えば、第1ガスインジェクタ4aに着目すると、加速時には、スロットルバルブが開いて第1吸気管2aの内部圧力(吸気圧力)が正圧側に変化するため、第1燃料ホース5aの内部圧力より第1吸気管2aの内部圧力の方が大きくなる。この状態で、第1ガスインジェクタ4aからガス燃料を噴射すると、第1燃料ホース5a内の燃料密度が大きくなって第1燃料ホース5a内に滞留する燃料量(ガス燃料滞留量)が増加する一方、第1吸気管2a内に流出する燃料量はシリンダ要求燃料量よりも減ってリーン化が発生する(図2(a)〜(c)参照)。
【0028】
また、減速時には、スロットルバルブが閉じて第1吸気管2aの内部圧力(吸気圧力)が負圧側に変化するため、第1燃料ホース5aの内部圧力より第1吸気管2aの内部圧力の方が小さくなる。この状態で、第1ガスインジェクタ4aからガス燃料を噴射すると、第1燃料ホース5a内の燃料密度が小さくなって第1燃料ホース5a内のガス燃料滞留量が減少する一方、第1吸気管2a内に流出する燃料量はシリンダ要求燃料量よりも増えてリッチ化が発生する(図2(d)〜(f)参照)。
【0029】
このような現象に対し、本実施形態では、ガス燃料噴射量の算出タイミングが到来する毎に、各燃料ホース5a〜5dのホース容積と各吸気管2a〜2dの内部圧力(吸気圧力)から、各燃料ホース5a〜5dのガス燃料滞留量を算出し、前回噴射時のガス燃料滞留量と今回噴射時のガス燃料滞留量から今回噴射時のガス燃料噴射量を算出することにより、高精度なガス燃料噴射制御を実現するものである。
【0030】
具体的には、2nd−ECU9は、ガス燃料噴射モード時において、図3に示すフローチャートに従ってガス燃料噴射制御を行う。図3(a)は2nd−ECU9が、ガス燃料噴射量の算出タイミングが到来する毎に実行するガス燃料噴射制御のメインルーチンを表し、図3(b)〜(d)はメインルーチン内の各処理のサブルーチンを表している。
【0031】
図3(a)に示すように、2nd−ECU9は、ガス燃料噴射量の算出タイミングが到来すると、まず、シリンダ要求燃料量を算出する(ステップS1)。具体的には、2nd−ECU9は、各種センサ信号から得られたエンジン回転数及び吸気温度(冷却水温でも良い)を基にガソリン燃料噴射量を算出し、当該ガソリン燃料噴射量にガス燃料補正係数を乗算することでシリンダ要求噴射量を算出する。なお、2nd−ECU9は、ガス燃料補正テーブルを検索することで、ガス燃料圧力及びガス燃料温度に応じたガス燃料補正係数を取得する。
【0032】
以下では、上記ステップS1において、第1シリンダ1aについて算出されたシリンダ要求燃料量をTinjb[1]で表し、第2シリンダ1bについて算出されたシリンダ要求燃料量をTinjb[2]で表し、第3シリンダ1cについて算出されたシリンダ要求燃料量をTinjb[3]で表し、第4シリンダ1dについて算出されたシリンダ要求燃料量をTinjb[4]で表すものとする。
【0033】
続いて、2nd−ECU9は、図3(b)に示すサブルーチンに従って、今回噴射時のガス燃料滞留量を算出する(ステップS2)。具体的には、2nd−ECU9は、図3(b)に示すように、初期値が「0」にセットされた制御変数Cylをインクリメントし(ステップS2a)、燃料カット状態或いはエンジンストップ状態か否かを判定する(ステップS2b)。
【0034】
2nd−ECU9は、上記ステップS2bにて「No」の場合、ホース容積Vh[Cyl]、吸気圧力Pintake、大気圧力Patm、ガス燃料密度ρgas、及びエンジン運転条件に応じた滞留補正係数Kgashからなる下記(3)式に基づいて、今回噴射時のガス燃料滞留量Th[Cyl]を算出する(ステップS2c)。
Th[Cyl]=Vh[Cyl]×Pintake/Patm×ρgas×Kgash ・・・(3)
【0035】
上記(3)式において、ホース容積Vh[Cyl]は、Cyl番目の燃料ホースの容積を示しており、ガス燃料滞留量Th[Cyl]は、Cyl番目の燃料ホースのガス燃料滞留量を示している。つまり、例えば制御変数Cylが「1」の場合、ホース容積Vh[1]は第1燃料ホース5aの容積を示し、ガス燃料滞留量Th[1]は、第1燃料ホース5aのガス燃料滞留量を示すことになる。これらホース容積Vh[Cyl]は、各燃料ホース5a〜5dの長さや内径から予め計算によって求められている固定値である。
【0036】
また、上記(3)式において、吸気圧力Pintakeは、吸気圧センサから得られた検出値であり、大気圧力Patm及びガス燃料密度ρgasは予め設定された固定値である。また、滞留補正係数Kgashは、エンジン回転数や負荷状態等のエンジン運転条件に応じて予めテーブルデータとして設定された固定値である。つまり、2nd−ECU9は、滞留補正係数テーブルを検索することで、各種センサ信号から得られるエンジン回転数や負荷状態等に応じた滞留補正係数Kgashを取得する。
【0037】
一方、2nd−ECU9は、上記ステップS2bにて「Yes」の場合、今回噴射時のガス燃料滞留量Vh[Cyl]として予め決定されている初期値を設定し(ステップS2d)、さらに、前回噴射時のガス燃料滞留量Vhz[Cyl]として予め決定されている初期値を設定する(ステップS2e)。
【0038】
2nd−ECU9は、上記ステップS2c或いはステップS2eの実行後、ループエンドが否か、つまり制御変数Cylがシリンダ数(ここでは「4」)と一致したか否かを判定し(ステップS2f)、「No」の場合(Cyl<4の場合)、ステップS2aの処理に戻る一方、「Yes」の場合(Cyl=4の場合)、本サブルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0039】
このような図3(b)のサブルーチンに従って、2nd−ECU9は、第1燃料ホース5aの今回噴射時のガス燃料滞留量Th[1]、第2燃料ホース5bの今回噴射時のガス燃料滞留量Th[2]、第3燃料ホース5cの今回噴射時のガス燃料滞留量Th[3]、第4燃料ホース5dの今回噴射時のガス燃料滞留量Th[4]を算出する。
【0040】
2nd−ECU9は、上述した図3(b)のサブルーチンの終了後、図3(a)のメインルーチンに戻り、ガス燃料の実行噴射量、つまり今回噴射時のガス燃料噴射量を算出する(ステップS3)。具体的には、2nd−ECU9は、図3(c)のサブルーチンに従って、初期値が「0」にセットされた制御変数Cylをインクリメントし(ステップS3a)、今回噴射時のガス燃料滞留量Th[Cyl]、前回噴射時のガス燃料滞留量Thz[Cyl]、及びシリンダ要求燃料量Tinjb[Cyl]からなる下記(4)式に基づいて、今回噴射時のガス燃料噴射量Tinj[Cyl]を算出する(ステップS3b)。
Tinj[Cyl]=Tinjb[Cyl]+Th[Cyl]−Thz[Cyl] ・・・(4)
【0041】
そして、2nd−ECU9は、上記ステップS3bの実行後、ループエンドが否か、つまり制御変数Cylがシリンダ数(ここでは「4」)と一致したか否かを判定し(ステップS3c)、「No」の場合(Cyl<4の場合)、ステップS3aの処理に戻る一方、「Yes」の場合(Cyl=4の場合)、本サブルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0042】
このような図3(c)のサブルーチンに従って、2nd−ECU9は、第1シリンダ1aに対する今回噴射時のガス燃料噴射量Tinj[1]、第2シリンダ1bに対する今回噴射時のガス燃料噴射量Tinj[2]、第3シリンダ1cに対する今回噴射時のガス燃料噴射量Tinj[3]、第4シリンダ1dに対する今回噴射時のガス燃料噴射量Tinj[4]を算出する。
【0043】
2nd−ECU9は、上述した図3(c)のサブルーチンの終了後、図3(a)のメインルーチンに戻り、ガス燃料噴射を実行する(ステップS4)。具体的には、2nd−ECU9は、1st−ECU8から入力される第1シリンダ1aに対応するガソリンインジェクタ通電用パルス信号の立上りタイミング(つまり燃料噴射タイミング)に同期して、ガス燃料噴射量Tinj[1]に応じたパルス幅を有するガスインジェクタ通電用パルス信号PGを第1ガスインジェクタ4aへ出力する。
【0044】
また、2nd−ECU9は、第2シリンダ1bに対応するガソリンインジェクタ通電用パルス信号の立上りタイミングに同期して、ガス燃料噴射量Tinj[2]に応じたパルス幅を有するガスインジェクタ通電用パルス信号PGを第2ガスインジェクタ4bへ出力する。
また、2nd−ECU9は、第3シリンダ1cに対応するガソリンインジェクタ通電用パルス信号の立上りタイミングに同期して、ガス燃料噴射量Tinj[3]に応じたパルス幅を有するガスインジェクタ通電用パルス信号PGを第3ガスインジェクタ4cへ出力する。
また、2nd−ECU9は、第4シリンダ1dに対応するガソリンインジェクタ通電用パルス信号の立上りタイミングに同期して、ガス燃料噴射量Tinj[4]に応じたパルス幅を有するガスインジェクタ通電用パルス信号PGを第4ガスインジェクタ4dへ出力する。
【0045】
最後に、2nd−ECU9は、図3(d)に示すサブルーチンに従って、前回噴射時のガス燃料滞留量Thz[Cyl]の更新処理を行った後、本メインルーチンを終了する(ステップS5)。具体的には、2nd−ECU9は、図3(d)に示すように、燃料噴射を実行したシリンダの番号を制御変数Cylにセットし(ステップS5a)、さらに、今回噴射時のガス燃料滞留量Th[Cyl]を前回噴射時のガス燃料滞留量Thz[Cyl]としてセットする(ステップS5b)。
【0046】
図4は、2nd−ECU9が、図3に従って算出したガス燃料噴射量Tinj(図中の補正有り噴射実行量)と、従来手法で算出したガス燃料噴射量(図中の補正無し噴射実行量)と、シリンダ要求燃料噴射量Tinjbと、吸気圧力Pintakeとの時間的な対応関係を示すタイミングチャートである。
【0047】
この図4からわかるように、加速時(吸気圧力Pintakeの上昇時)には、シリンダ要求燃料噴射量Tinjbからの不足燃料分を補うように、ガス燃料噴射量Tinjが増量されるため、実際にシリンダに供給される燃料量はシリンダ要求燃料噴射量Tinjbにほぼ一致することになる。一方、減速時(吸気圧力Pintakeの下降時)には、シリンダ要求燃料噴射量Tinjbからの過剰燃料分を補うように、ガス燃料噴射量Tinjが減量されるため、実際にシリンダに供給される燃料量はシリンダ要求燃料噴射量Tinjbにほぼ一致することになる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、ガス燃料噴射量の算出タイミングが到来する毎に、各燃料ホース5a〜5dのホース容積と各吸気管2a〜2dの内部圧力(吸気圧力)から、各燃料ホース5a〜5dのガス燃料滞留量を算出し、前回噴射時のガス燃料滞留量と今回噴射時のガス燃料滞留量から今回噴射時のガス燃料噴射量を算出し、その算出結果に応じて各ガスインジェクタ4a〜4dを制御するので、各ガスインジェクタ4a〜4dが各燃料ホース5a〜5dを介して各吸気管2a〜2dに接続されている場合でも、高精度なガス燃料噴射制御を実現することができる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、この実施形態はあくまで一例であって本発明の趣旨を逸脱しない範囲において実施形態の細部を種々変更可能であることは勿論である。
例えば、上記実施形態では、1st−ECU8と2nd−ECU9とを別個に備えたバイフューエルシステムを例示したが、これら2つのECUの機能を1つのECUに統合するような構成を採用しても良い。
また、上記実施形態では、バイフューエルシステムを例示して説明したが、本発明はこれに限定されず、ガス燃料のみを単一エンジンに供給するモノフューエルシステムであっても、管状部材を介して吸気管と接続された気体燃料噴射弁が設けられているようなシステムであれば、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…シリンダブロック、1a…第1シリンダ、1b…第2シリンダ、1c…第3シリンダ、1d…第4シリンダ、2…インテークマニホールド、2a…第1吸気管、2b…第2吸気管、2c…第3吸気管、2d…第4吸気管、4a…第1ガスインジェクタ、4b…第2ガスインジェクタ、4c…第3ガスインジェクタ、4d…第4ガスインジェクタ、5a…第1燃料ホース、5b…第2燃料ホース、5c…第3燃料ホース、5d…第4燃料ホース、9…2nd−ECU(燃料噴射制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状部材を介して吸気管と接続された気体燃料噴射弁を制御する燃料噴射制御装置であって、
気体燃料噴射量の算出タイミングが到来する毎に、前記管状部材の容積及び前記吸気管の内部圧力に基づいて前記管状部材の気体燃料滞留量を算出し、前回噴射時の気体燃料滞留量及び今回噴射時の気体燃料滞留量に基づいて今回噴射時の気体燃料噴射量を算出し、その算出結果に応じて前記気体燃料噴射弁を制御することを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記管状部材の容積Vh、前記吸気管の内部圧力Pintake、大気圧力Patm、気体燃料密度ρgas、及びエンジン運転条件に応じた滞留補正係数Kgashからなる下記(1)式に基づいて、前記管状部材の気体燃料滞留量Thを算出することを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
Th=Vh×Pintake/Patm×ρgas×Kgash ・・・(1)
【請求項3】
前記今回噴射時の気体燃料滞留量Th、前記前回噴射時の気体燃料滞留量Thz、及び気筒要求燃料量Tinjbからなる下記(2)式に基づいて、前記今回噴射時の気体燃料噴射量Tinjを算出することを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
Tinj=Tinjb+Th−Thz ・・・(2)
【請求項4】
複数の気筒のそれぞれに対応して、前記管状部材を介して吸気管と接続された気体燃料噴射弁が配置されている場合、各気筒毎に、前記管状部材の気体燃料滞留量を算出し、前回噴射時の気体燃料滞留量及び今回噴射時の気体燃料滞留量に基づいて今回噴射時の気体燃料噴射量を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−211524(P2012−211524A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76678(P2011−76678)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】