燃料噴射制御装置
【課題】スロットルバルブの実開度が目標開度に対してオーバーまたはアンダーシュートする場合でも、加速時の燃料噴射量を適切に制御できる燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】スロットルグリップ26の操作状態を検知して、スロットルバルブ28をアクチュエータ31で制御するTBWシステムを備えると共に、スロットルバルブ28の開度Fを検知してインジェクタ29を制御するようにした燃料噴射制御装置において、スロットルバルブ開度センサ31の出力に応じて自動二輪車1の加速状態を検知して燃料の増量補正を実行する際に、スロットルバルブ開度センサ31の出力とスロットルグリップ26の操作状態とに基づいて増量補正値を決定する。自動二輪車1の加速状態が検知された場合であっても、スロットルグリップ26が開き方向に駆動中でない場合には、増量補正値を徐々に減衰させる減衰状態、または、増量補正値をゼロとする中止状態とする。
【解決手段】スロットルグリップ26の操作状態を検知して、スロットルバルブ28をアクチュエータ31で制御するTBWシステムを備えると共に、スロットルバルブ28の開度Fを検知してインジェクタ29を制御するようにした燃料噴射制御装置において、スロットルバルブ開度センサ31の出力に応じて自動二輪車1の加速状態を検知して燃料の増量補正を実行する際に、スロットルバルブ開度センサ31の出力とスロットルグリップ26の操作状態とに基づいて増量補正値を決定する。自動二輪車1の加速状態が検知された場合であっても、スロットルグリップ26が開き方向に駆動中でない場合には、増量補正値を徐々に減衰させる減衰状態、または、増量補正値をゼロとする中止状態とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射制御装置に係り、特に、スロットルバルブをアクチュエータで駆動するスロットル装置に対応した燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の走行状態に応じた燃料噴射を実行するために、各種センサによって車両の加速状態および減速状態を検知するようにした内燃機関の燃料噴射制御装置が知られている。しかしながら、このような各種センサからの出力には、種々の要因によりオーバーシュートまたはアンダーシュートが発生することがあり、これにより、車両の加速状態および減速状態の判定が難しくなることがあった。
【0003】
特許文献1には、内燃機関の吸気管内に設けられた圧力センサの出力に基づいて車両の加減速状態を判断するようにした燃料噴射装置において、スロットル装置を所定開度まで素早く開操作するような加速時に、圧力センサ値のオーバーシュートにより減速状態と判定されてしまったり、一方、スロットル装置を素早く全閉状態にするような減速時に、圧力センサ値のアンダーシュートにより加速状態と判定されてしまうことを防止するため、加減速の終了時に、加減速状態を判定する基準値を変更するようにした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2849322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、運転者によるスロットル装置(スロットルグリップやスロットルペダル等)の操作に応じて、電動モータ等のアクチュエータでスロットルバルブを駆動するTBW(スロットル・バイ・ワイヤ)システムでは、アクチュエータおよびスロットル装置に含まれるギヤやスプリング等の機械的特性により、スロットルバルブの目標開度(以下、目標THバルブ開度)に対して、実際のスロットルバルブ開度(以下、実THバルブ開度)がオーバーシュートおよびアンダーシュートする可能性がある。
【0006】
具体的には、スロットル装置を素早く開操作してその開度を維持するといった加速操作時に、実THバルブ開度が、目標THバルブ開度に対して一旦オーバーシュートしてからアンダーシュートする可能性があるが、このとき、実THバルブ開度に応じて車両の加減速状態を判定して燃料噴射量を制御するシステムでは、スロットル装置が所定開度で維持されているにもかかわらず加速または減速状態であると判定されて、燃料噴射量が減量および増量されてしまう可能性があった。
【0007】
特許文献1に記載された技術では、目標THバルブ開度に対する実THバルブ開度が、機械的特性に起因してオーバーシュートおよびアンダーシュートすることへの対処は考慮されていなかった。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、アクチュエータで駆動するスロットルバルブの実開度が、目標開度に対してオーバーシュートおよびアンダーシュートする場合でも、加速時の燃料噴射量を適切に制御できる燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、スロットル操作手段(26)の操作状態を検知して、エンジン(14)の吸気系に備えられるスロットルバルブ(28)をアクチュエータ(31)で制御するTBWシステムを備えると共に、前記スロットルバルブ(28)の開度(F)を検知して燃料噴射量を決定するようにした車両(1)の燃料噴射制御装置において、前記スロットル操作手段(26)の操作状態を検知するスロットル操作状態検知手段(27)と、前記スロットルバルブ(28)の開度(F)を検知するスロットルバルブ開度検知手段(31)と、前記エンジン(14)に設けられた燃料噴射弁(29)の燃料噴射を制御する燃料噴射量制御手段(48)とを具備し、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じて前記車両(1)の加速状態を検知して燃料の増量補正を実行する際に、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力と前記スロットル操作手段(26)の操作状態とに基づいて増量補正値を決定する点に第1の特徴がある。
【0010】
また、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記車両(1)の加速状態が検知された場合に、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中でない場合には、前記増量補正値を徐々に減衰させる減衰状態、または、前記増量補正値をゼロとする中止状態とするように設定されている点に第2の特徴がある。
【0011】
また、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記車両(1)の加速状態が検知されていない場合に、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、前記増量補正値をそのまま保つ保持状態とする点に第3の特徴がある。
【0012】
また、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記エンジン(14)の回転数および変速機(60)のギヤポジションに基づいて前記スロットルバルブ(28)の目標スロットルバルブ開度(E)を導出し、前記車両(1)の加速状態が検知され、かつ前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、前記目標スロットルバルブ開度(E)と所定の保持判定値(H)とを比較し、前記目標スロットルバルブ開度(E)が前記保持判定値(H)より小さいと、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値の更新処理を継続する継続状態とするように設定されている点に第4の特徴がある。
【0013】
また、前記目標スロットルバルブ開度(E)が前記保持判定値(H)以上であると、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値をそのまま保持する保持状態とするように設定されている点に第5の特徴がある。
【0014】
また、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記スロットル操作手段(26)の開度変化量(ΔTHG)に基づいて前記スロットル操作手段(26)の操作状態を判定し、前記開度変化量(ΔTHG)が所定の開き側しきい値(ΔTHGO)以上である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向であると判定し、前記開度変化量(ΔTHG)が前記所定の開き側しきい値(ΔTHGO)未満であり、かつ所定の閉め側しきい値(ΔTHGC)以上である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が停止中であると判定し、前記開度変化量(ΔTHG)が所定の閉め側しきい値(ΔTHGC)未満である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定し、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が停止中の場合には、前記増量補正値を徐々に減少させる減衰状態とし、一方、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定されると、前記増量補正値をゼロとする中止状態とする点に第6の特徴がある。
【0015】
また、前記減衰状態では、第1段目の減衰度合を用いて前記加速増量値を減少させ、前記加速増量値が所定値になると、第2段目の減衰度合を用いて前記加速増量値がゼロになるまで減少させる点に第7の特徴がある。
【0016】
また、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)によって検知されるスロットルバルブ開度変化量(ΔTH)が所定値以上であると、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値の更新処理を継続する継続状態とする点に第8の特徴がある。
【0017】
さらに、前記保持判定値(H)は、変速機(60)のギヤ段数およびエンジン(14)の回転数に応じて予め規定されるデータマップによって導出される点に第9の特徴がある。
【発明の効果】
【0018】
第1の特徴によれば、スロットル操作手段の操作状態を検知するスロットル操作状態検知手段と、スロットルバルブの開度を検知するスロットルバルブ開度検知手段と、エンジンに設けられた燃料噴射弁の燃料噴射を制御する燃料噴射量制御手段とを具備し、燃料噴射量制御手段は、スロットルバルブ開度検知手段の出力に応じて車両の加速状態を検知して燃料の増量補正を実行する際に、スロットルバルブ開度検知手段の出力とスロットル操作手段の操作状態とに基づいて増量補正値を決定するので、TBWシステムを適用するスロットル装置において、目標スロットルバルブ開度に対する実スロットルバルブ開度にオーバーシュートやアンダーシュートが発生した場合でも、その時のスロットル操作手段(スロットルグリップ等)の操作状態を考慮して加速補正のための燃料噴射量を設定することとなり、オーバーシュートおよびアンダーシュートの発生に関わらず、運転者によるスロットル操作手段の開操作に応じた燃料噴射量の補正が可能となり、エンジンのフィーリングが運転者の操作とアンマッチに感じることがなく良好な燃料噴射補正を実行することができる。
【0019】
第2の特徴によれば、燃料噴射量制御手段は、車両の加速状態が検知された場合に、スロットル操作手段の操作状態が開き方向に駆動中でない場合には、増量補正値を徐々に減衰させる減衰状態、または、増量補正値をゼロとする中止状態とするように設定されているので、目標スロットルバルブ開度に対する実スロットルバルブ開度がアンダーシュート後に上昇することによって、実スロットルバルブ開度に基づく加速判定が「加速状態」と判定されてしまう場合でも、燃料噴射量が増量されてしまうことがなく、スロットル操作手段の操作状態に応じた適切な燃料噴射制御を実行することができる。
【0020】
第3の特徴によれば、燃料噴射量制御手段は、車両の加速状態が検知されていない場合に、スロットル操作手段の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、増量補正値をそのまま保つ保持状態とするので、目標スロットルバルブ開度に対する実スロットルバルブ開度がオーバーシュート後に下降することによって、実スロットルバルブ開度に基づく加速判定が「加速状態でない」と判定されてしまう場合でも、燃料噴射量が減衰状態や中止状態とされてしまうことがなく、スロットル操作手段の操作状態に応じた適切な燃料噴射制御を実行することができる。
【0021】
第4の特徴によれば、燃料噴射量制御手段は、エンジンの回転数および変速機のギヤポジションに基づいてスロットルバルブの目標スロットルバルブ開度を導出し、車両の加速状態が検知され、かつスロットル操作手段の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、目標スロットルバルブ開度と所定の保持判定値とを比較し、目標スロットルバルブ開度が保持判定値より小さいと、スロットルバルブ開度検知手段の出力に応じた増量補正値の更新処理を継続する継続状態とするように設定されているので、スロットルバルブ開度に基づく加速判定が「加速状態」であり、かつスロットル操作手段が開き方向に駆動中である場合に、目標スロットル開度と所定の保持判定値との比較を行うことによって、加速補正値の更新処理を実行するか否かを判定することが可能となる。
【0022】
第5の特徴によれば、目標スロットルバルブ開度が保持判定値以上であると、スロットルバルブ開度検知手段の出力に応じた増量補正値をそのまま保持する保持状態とするように設定されているので、スロットルバルブ開度に基づく加速判定が加速状態であり、かつスロットル操作手段が開き方向に駆動中である場合に、目標スロットル開度と所定の保持判定値との比較を行うことによって、加速補正値の更新を継続するかまたは保持状態とするか否かを判定することが可能となる。これにより、加速時の増量補正値をより細かく設定することが可能となる。
【0023】
第6の特徴によれば、燃料噴射量制御手段は、スロットル操作手段の開度変化量に基づいてスロットル操作手段の操作状態を判定し、開度変化量が所定の開き側しきい値以上である場合には、スロットル操作手段の操作状態が開き方向であると判定し、開度変化量が所定の開き側しきい値未満であり、かつ所定の閉め側しきい値以上である場合には、スロットル操作手段の操作状態が停止中であると判定し、開度変化量が所定の閉め側しきい値未満である場合には、スロットル操作手段の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定し、スロットル操作手段の操作状態が停止中の場合には、増量補正値を徐々に減少させる減衰状態とし、一方、スロットル操作手段の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定されると、増量補正値をゼロとする中止状態とするので、スロットル操作手段の操作状態の判定を容易にすると共に、この操作状態に応じて適切な増量補正値を設定することが可能となる。
【0024】
第7の特徴によれば、減衰状態では、第1段目の減衰度合を用いて加速増量値を減少させ、加速増量値が所定値になると、第2段目の減衰度合を用いて加速増量値がゼロになるまで減少させるので、加速増量値の減衰処理をスムーズに実行することができる。
【0025】
第8の特徴によれば、燃料噴射量制御手段は、スロットルバルブ開度検知手段によって検知されるスロットルバルブ開度変化量が所定値以上であると、スロットルバルブ開度検知手段の出力に応じた増量補正値の更新処理を継続する継続状態とするので、スロットルバルブが開き方向である場合でも、さらに開度変化量が所定値を超えた場合でなければ加速補正値の更新を行わないように設定することができる。
【0026】
第9の特徴によれば、保持判定値は、変速機のギヤ段数およびエンジンの回転数に応じて予め規定されるデータマップによって導出されるので、ギヤ段数およびエンジン回転数に応じた保持判定値の細かい設定が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料噴射制御装置を適用した自動二輪車の側面図である。
【図2】スロットルバイワイヤ機構の構成を示すブロック図である。
【図3】車両速度制限装置および周辺機器の構成を示すブロック図である。
【図4】乗員が加速操作を行った場合の燃料噴射制御の流れを示すタイムチャートである。
【図5】THバルブの作動状態およびTHグリップの操作状態と加速補正状態との関係を示す一覧表である。
【図6】スロットルグリップ操作状態判断処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】加速補正処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】ツキ加速補正処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】ツキ加速補正、パーシャル加速補正、スナップ加速補正のすべてに共通する加速制御のサブフローである。
【図10】ツキ加速補正時の特別補正量算出処理の手順を示すサブフローである。
【図11】加速補正量減衰処理の手順を示すサブフローである。
【図12】パーシャル加速補正処理の手順を示すフローチャートである。
【図13】スナップ加速補正処理の手順を示すフローチャートである。
【図14】変速機のギヤ段数およびエンジン回転数に応じた保持判定値のデータマップである。
【図15】従来例において、乗員による加速操作が行われた場合の燃料噴射制御の流れを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る燃料噴射制御装置を適用した自動二輪車1の側面図である。メインフレーム2の前端部に設けられたヘッドパイプ3には、不図示のステアリングステムが回動自在に軸支されている。該ステアリングステムには、前輪WFを回転可能に軸支する左右一対のフロントフォーク4が取り付けられており、前輪WFは、フロントフォーク4の上端に取り付けられた左右一対のハンドルバー5により操舵可能とされている。
【0029】
メインフレーム2の後方下部には、駆動輪としての後輪WRを回転可能に軸支するスイングアーム12が、ピボット軸10によって揺動自在に軸支されている。スイングアーム12とメインフレーム2との間には、リンク機構を介して互いを連結するリヤクッション11が配設されている。
【0030】
ピボット軸10の前方かつメインフレーム2の下方には、エンジン14が配設されている。エンジン14の内部には、例えば、6段の多段変速機60が収納されている。エンジン14の上部には、燃料噴射装置およびスロットルボディを含む吸気管21が取り付けられており、その上部には、エアクリーナボックス13が接続されている。エンジン14の前方側には、該エンジン14の燃焼ガスを車体後端部に配設されたマフラ16に導く排気管15が取り付けられている。
【0031】
ヘッドパイプ3の前方側には、フロントカウル6が配設されており、前輪WFの上方には、フロントフェンダ20が配設されている。メインフレーム2の上部には、燃料タンク7が配設されている。メインフレーム2から後方上方に延出するシートフレーム17には、シート8およびシートカウル9が取り付けられている。シート8の下方には、バッテリ19および本発明に係る燃料噴射制御装置を含むECU40が配設されている。
【0032】
図2は、スロットルバイワイヤ機構の構成を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。点火プラグ36を備える内燃機関としてのエンジン14には、ピストン37を支持するコンロッド38が連結されるクランクシャフト39、複数のギヤ対を支持して変速機60を構成するメインシャフト61およびカウンタシャフト62が備えられている。エンジン回転数センサ34は、クランクシャフト39に近接してクランクシャフト39の回転数を検知する。変速機60の変速段数を検知するギヤポジションセンサ33は、シフトドラム等の変速機構の作動状態を検知するためにカウンタシャフト62の近傍に設けられている。
【0033】
吸気管21には、その通路面積を変更するスロットルバルブ28、吸気圧センサ35および燃料噴射弁(インジェクタ)29が設けられている。本実施形態に係るスロットル装置には、各種センサ出力に基づき、アクチュエータとしてのスロットルバルブモータ30によってスロットルバルブ28を駆動するスロットルバイワイヤ(TBW)機構が適用されている。
【0034】
車幅方向右側のハンドルバー5に取り付けられ、乗員が回動操作するスロットルグリップ26の回動角度は、スイッチボックス25内のスロットルグリップ開度センサ27によって検知されてECU40に伝達される。ECU40は、スロットルグリップ26の回動角度のほか、各種センサの出力信号に基づいてスロットルバルブモータ30を駆動する。スロットルバルブ28の回動角度は、スロットルバルブ開度センサ31で検知されてECU40に伝達される。ECU40は、各センサ出力に基づいて、燃料噴射制御、スロットルバルブ駆動制御および点火プラグの点火制御を実行する。
【0035】
図3は、本実施形態に係るECU40およびその周辺機器の構成を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。ECU40には、燃料噴射量制御手段48、スロットルバルブ開度変化率算出手段49、目標スロットルバルブ開度導出手段46、スロットルバルブ駆動部47、グリップ回転速度変化率算出手段44、速度偏差算出手段41、加速度算出手段42および最高速度リミッタ開度算出手段43が含まれる。
【0036】
目標スロットルバルブ開度導出手段46には、スロットルグリップ開度センサ(スロットル操作状態検知手段)27、ギヤポジションセンサ33、エンジン回転数センサ34、スロットルバルブ開度センサ31の出力信号がそれぞれ入力される。目標スロットルバルブ開度導出手段46に含まれる三次元マップ46aは、スロットルグリップ開度およびエンジン回転数から目標スロットルバルブ開度(以下、目標THバルブ開度Eと示すこともある)を導出するデータマップであり、本実施形態では、変速機60のギヤ段数に対応した数(例えば、変速機60が6段なら6つ)のマップが用意されている。また、グリップ回転速度変化率算出手段44は、乗員が操作するスロットルグリップ26の回転速度の変化率(ΔTHG)を算出する。
【0037】
スロットルバルブ駆動部47は、目標スロットルバルブ開度導出手段46で導出された目標THバルブ開度Eに基づいてスロットルバルブモータ30を駆動する。なお、最高速度リミッタ開度算出手段43は、目標THバルブ開度Eにかかわらず、車速が予め設定された最高速度を超えないようにする最高速度リミッタとしてスロットルバルブ駆動部47を駆動制限するように構成されている。
【0038】
燃料噴射弁(インジェクタ)29による燃料噴射量は、燃料噴射量制御手段48によって決定される。燃料噴射量制御手段48には、スロットルバルブ開度センサ31、スロットルバルブ開度変化率算出手段49、目標スロットルバルブ開度導出手段46、エンジン回転数センサ34、吸気圧センサ35、ギヤポジションセンサ33、スロットルグリップ開度センサ27、車速センサ32の出力信号がそれぞれ入力される。燃料噴射量制御手段48は、主に、スロットルバルブ開度センサ31で検知された実際のスロットルバルブ28の開度に応じて燃料噴射量を決定する。
【0039】
ここで、TBWシステムを用いたスロットル装置では、スロットルバルブモータ30の内部やスロットルバルブ28への動力伝達機構に含まれるギヤやスプリング等の機械的特性により、目標スロットルバルブ開度導出手段46で算出された目標THバルブ開度Eに対して、実際のスロットルバルブ開度(以下、実THバルブ開度Fと示すこともある)がオーバーシュートおよびアンダーシュートする可能性がある。このオーバーシュートおよびアンダーシュートが燃料噴射制御に与える影響を、図15を用いて説明する。
【0040】
図15は、従来例において、乗員による加速操作が行われた場合の燃料噴射制御の流れを示すタイムチャートである。このタイムチャートは、上から、TH(スロットル)グリップ開度に応じた加速状態、THグリップ開度およびTHバルブ開度、THバルブ開度の変化量、加速補正量(加速補正燃料噴射量)、加速補正状態をそれぞれ示している。なお、THバルブ開度の表記は、破線で示す目標THバルブ開度Eと、実線で示す実THバルブ開度Fとからなる。
【0041】
このグラフでは、時刻t1においてTHグリップ26の開動作が開始され、素早く所定開度θgまで開かれた状態を示している。このとき、破線で示す目標THバルブ開度Eは、THグリップ開度Gと共に上昇した後、所定開度θbで一定となる。
【0042】
しかしながら、スロットルバルブモータ30によって駆動されるスロットルバルブ28の実THバルブ開度Fは、目標THバルブ開度Eの立ち上がりから少し遅れて立ち上がった後、アクチュエータおよびスロットル装置に含まれるギヤやスプリング等の機械的特性によって所定開度θbを上回るオーバーシュートを生じ、続いて、所定開度θbを下回るアンダーシュートを生じる。
【0043】
ここで、加速動作に対応して燃料噴射量を増加させる加速補正制御では、実THバルブ開度Fに応じて加速補正量を決定するのが一般的である。具体的には、実THバルブ開度Fが増加した場合は加速状態にあるとして増量補正を実行し、実THバルブ開度Fが定常状態に移行したり減少した場合は、加速状態ではなくなったとして、増量補正を減衰または中止するように設定される。このような燃料噴射制御装置において、実THバルブ開度Fにオーバーシュートおよびアンダーシュートが生じると、以下のような現象が生じる。
【0044】
この図での例では、実THバルブ開度Fがオーバーシュートした後に下降する際に、車両が減速状態になったと判定されてしまう。これにより、時刻t10から開始していた加速補正が、時刻t11において加速補正量を徐々に減少させる「減衰」に移行し、さらに、時刻t12で加速補正量をゼロにする「中止」に移行してしまう。続いて、アンダーシュートした後に実THバルブ開度Fが上昇する際には、車両が加速状態にあると判定されてしまい、時刻t13〜t14間では再び「加速」による加速増量補正が実行されることとなる。
【0045】
この現象によれば、THグリップ26を所定開度θgまで素早く開いたことに対応して速やかに増量補正が実行されるものの、その後、THグリップ26を所定開度θgに維持しているにもかかわらず燃料噴射量が減量および増量されてしまうことで、乗員のスロットル操作とアンマッチな乗車フィーリングが発生する可能性がある。
【0046】
これに対し、本発明に係る燃料噴射制御装置は、実THバルブ開度Fに加えてTHグリップ26の操作状態を考慮することで、実THバルブ開度Fに生じるオーバーシュートおよびアンダーシュートの影響を受けずに加速補正制御を実行できる点に特徴がある。
【0047】
図4は、本発明に係る燃料噴射装置において、乗員が加速操作を行った場合の燃料噴射制御の流れを示すタイムチャートである。このタイムチャートでも、図15と同様に、時刻t1において乗員によるTHグリップ26の開動作が開始され、素早く所定開度θgまで開かれている。そして、実THバルブ開度Fは、目標THバルブ開度Eから少し遅れて立ち上がった後、所定開度θbを超えるオーバーシュートを生じ、これに続いて、所定開度θbを下回るアンダーシュートを生じている。
【0048】
このとき、時刻t20で開始される加速補正は、実THバルブ開度Fが時刻t21から開始されるオーバーシュートの後に下降に転じても、時刻t21〜22の期間で加速補正量がそのまま「保持」されるように設定されている。さらに、時刻t22からは加速補正を「減衰」に切り替え、その後、実THバルブ開度Fがアンダーシュートした後に上昇に転じても「加速」に転じることはなく、時刻t23まで徐々に加速補正量を減衰させて一連の制御を終了する。上記したように、本発明に係る燃料噴射装置によれば、図15に示した従来例のように、THグリップ開度Gが一定にもかかわらず加速補正量が増減してしまうという現象が生じることがない。
【0049】
図5は、THバルブ28の作動状態およびTHグリップ26の操作状態と加速補正状態との関係を示す一覧表である。加速補正状態には、加速補正量をそのまま保持する「保持」と、加速補正量の演算処理を継続する「継続」と、加速補正量を徐々に減衰させる「減衰」と、加速補正量をゼロにする「中止」とが設定されている。
【0050】
THバルブ28の作動状態は、THバルブ開度センサ31で検知される実THバルブ開度Fに基づいて、「THバルブが開き方向に駆動中」であるか「THバルブが停止中または閉じ方向に駆動中」であるかの2パターンで判断される。
【0051】
一方、THグリップ26の操作状態は、「THグリップが開き方向(THグリップ状態=2)」、「THグリップが停止中(THグリップ状態=1)」、「THグリップが閉じ方向または全閉(THグリップ状態=0)」の3パターンで判断される。
【0052】
そして、THバルブ28の作動状態が「THバルブが開き方向に駆動中」である場合の加速補正状態は、THグリップ状態=2であると「保持」に設定され、THグリップ状態=1であると「減衰」に設定され、THグリップ状態=0であると「中止」にそれぞれ設定されることとなる。
【0053】
上記した設定によれば、実THバルブ開度Fが、オーバーシュート後の下降によって「THバルブが停止中または閉じ方向に駆動中」である場合でも、THグリップ26が開いていれば加速補正状態は「保持」または「減衰」となる。これにより、乗員がスロットルを開いているにもかかわらず加速補正が「中止」されてしまうことがなく、スロットル操作と加速補正との間にアンマッチな動作が生じることを防ぐことができる。
【0054】
一方、THバルブ28の作動状態が「THバルブが開き方向に駆動中」である場合の加速補正状態は、THグリップ状態=2であると「保持」または「継続」に設定され、THグリップ状態=1であると「減衰」に設定され、THグリップ状態=0であると「中止」にそれぞれ設定される。
【0055】
ここで、THグリップ状態=2である場合には、目標THバルブ開度Eによる条件判断に基づいて「保持」または「継続」のいずれかが選択される。すなわち、THグリップ状態=2でかつ目標THバルブ開度Eが保持判定値H以上であると「保持」に設定され、一方、THグリップ状態=2でかつ目標THバルブ開度Eが保持判定値H未満であると「継続」に設定される。この保持判定値Hとは、変速機60(図1参照)のギヤ段数およびエンジン回転数に応じた目標THバルブ開度Eの上限値であり、予め実験等で規定されたデータマップ(図14参照)から導出されるものである。
【0056】
上記したような設定によれば、実THバルブ開度Fがアンダーシュート後の上昇によって「THバルブが開き方向に駆動中」状態であっても、THグリップ26が一定開度で停止中であったり閉じ方向にある場合には「減衰」または「中止」とされる。これにより、乗員がスロットルを閉じているにもかかわらず加速補正が「保持」または「継続」となることがなくなり、スロットル操作と加速補正との間にアンマッチな動作が生じることを防ぐことができる。以下、図6ないし13のフローチャートを参照して、上記した燃料噴射制御の手順の詳細を説明する。
【0057】
図6は、スロットルグリップ操作状態判断処理の手順を示すフローチャートである。このフローチャートでは、図5の一覧表に示した「THグリップの操作状態」において、THグリップ26が、開き方向(THグリップ状態=2)、停止中(THグリップ状態=1)、閉じ方向または全閉(THグリップ状態=0)のいずれであるかが判断される。
【0058】
ステップS1では、スロットルグリップ開度センサ(以下、THグリップ開度センサと示すこともある)31のデータバッファリング処理が実行される。ステップS2では、THグリップ開度センサ31がフェールしているか否かが判定され、否定判定されるとステップS3へ進む。ステップS3では、THグリップ開度センサ31の基準値を今回検知した値に設定して、ステップS4に進む。
【0059】
なお、ステップS2で肯定判定される、すなわち、THグリップ開度センサ31がフェールしていると判定されると、ステップS5に進んで、THグリップ開度センサ31の基準値をフェール前の最新のバックアップ値に設定して、ステップS4に進む。
【0060】
ステップS4では、THグリップ開度センサ31のデータバッファリング処理が完了したか否かが判定され、肯定判定されるとステップS6に進む。ステップS6では、THグリップ開度センサ31のフェール対処済であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS8に進んで、THグリップ開度Gの変化量ΔTHGが算出される。この変化量ΔTHGは、ECU40のグリップ回転速度変化率算出手段44によって算出される。
【0061】
ステップS9では、THグリップ26が全閉か否かが判定され、否定判定されるとステップS10に進む。一方、ステップS9で肯定判定されると、ステップS14に進んで、THグリップ状態=0として一連の制御を終了する。
【0062】
なお、ステップS4で否定判定されると、ステップS7に進み、バッファリング処理の完了を検知する所定時間カウンタをインクリメントすると共にTHグリップ状態=0として、一連の制御を終了する。また、ステップS6で肯定判定されると、ステップS15に進んで、THグリップ開度Gの変化量ΔTHG=0に設定すると共に、THグリップ状態=0として、一連の制御を終了する。
【0063】
ステップS10では、ステップS8で算出されたΔTHGが開き側しきい値ΔTHGO以上であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS11へ進んで、THグリップ状態=2であると判定される。一方、ステップS10で否定判定されると、ステップS12に進んで、ΔTHGが閉め側しきい値ΔTHGC以上であるか否かが判定される。また、ステップS12で肯定判定されると、ステップS13へ進んで、THグリップ状態=1であると判定される。そして、ステップS12で否定判定されると、ステップS14に進んで、THグリップ状態=0であると判定されて、一連の制御を終了する。
【0064】
図7は、加速補正処理の手順を示すフローチャートである。本実施形態に係る燃料噴射制御装置には、パーシャル加速補正、ツキ加速補正、スナップ加速補正からなる3種の加速補正制御が設定されている。パーシャル加速補正とは、THバルブ28がある程度開いている状態(パーシャル)からの加速時に実行されるもので、燃料増量は中程度とされる。また、ツキ加速補正とは、THバルブが全閉または一旦閉じてから開かれる加速時に実行されるもので、乗員の加速意思に素早く追従させる(ツキをよくする)ために燃料増量は大きめとされる。そして、スナップ加速補正とは、エンジン負荷が小さい、例えば、空吹かし(スナップ)時に実行されるもので、燃料増量は少なめとされる。
【0065】
まず、ステップS20では、加速増量補正が許可されているか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS21へ進む。ステップS21では、付加噴射中であるか否かが判定される。この付加噴射とは、燃料噴射量の通常の演算タイミングより後のタイミングで加速状態が検知された際に、通常の演算タイミングに対応した燃料噴射が終了してから追加で実行される燃料噴射のことである。この付加噴射は、通常の演算タイミングと同期しないので、非同期の加速補正とも呼ばれる。なお、ステップS21で肯定判定されると、通常の噴射タイミングにおける加速補正が実行不能であるとして、そのまま一連の制御を終了する。
【0066】
ステップS22では、THバルブ28が開き方向に駆動中であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS23に進む。なお、ステップS22の判定は、図5に示したTHバルブの作動状態が、2パターンのうちのいずれであるかの判定に相当する。次に、ステップS23では、パーシャル加速補正の実行条件が成立したか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS24でパーシャル加速補正フラグが1に設定される。また、ステップS23で否定判定されると、ステップS26でツキ加速補正の実行条件が成立したか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS27でツキ加速補正フラグが1に設定される。さらに、ステップS26で否定判定されると、ステップS28でスナップ加速補正の実行条件が成立したか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS29でスナップ加速補正フラグが1に設定される。ステップS28で否定判定されると、いずれの加速補正条件も成立しないとして、そのままステップS25に進む。
【0067】
ステップS25では、変速機60のギヤポジション(ギヤ段数)およびエンジン回転数に基づいて、目標スロットルバルブ開度導出手段46に含まれる三次元マップ46a(図3参照)から目標THバルブ開度Eが導出される。続くステップS30では、パーシャル加速補正中であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS31に進んでパーシャル加速補正制御が継続実行される。
【0068】
ステップS30で否定判定されると、ステップS32へ進み、ツキ加速補正中であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS33においてツキ加速補正制御が継続実行される。さらに、ステップS32で否定判定されると、ステップS34に進み、スナップ加速補正中であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS35に進んで、スナップ加速補正制御が継続実行される。
【0069】
なお、ステップS20,S22で否定判定されると、それぞれステップS36に進んで、各フラグの初期化が実行されて一連の制御を終了する。また、ステップS34で否定判定される、すなわち、いずれの加速補正も実行されていないと判定されると、そのまま一連の制御を終了する。
【0070】
図8は、ツキ加速補正処理の手順を示すフローチャートである。前記したように、ツキ加速補正は、THバルブ28が全閉または一旦閉じられてから開かれる加速時に素早くエンジン回転数を高めるためのものであり、本実施形態では、スロットル操作に対する反応(ツキ)を高めるための「特別補正量による4回噴射」と共に実行される。まず、ステップS40では、ツキ加速補正時の特別補正量が算出される。ここで、図10に示したツキ加速補正時の特別補正量算出処理の手順を示すサブフローを参照する。
【0071】
図10のサブフローのステップS50では、特別補正量による4回噴射補正を実行中であるか否かが判定される。ステップS50で肯定判定されると、ステップS51に進んで、噴射回数カウンタがインクリメントされる。続くステップS52では、特別補正量による噴射回数が4回以下であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS53に進んで、次回の特別噴射で適用される特別補正量データが選択される。
【0072】
続くステップS54では、4回噴射補正後の減衰データの選択が実行される。そして、ステップS55では、4回噴射補正が完了したか否かが判定され、否定判定されるとそのまま図8のメインフローに戻る。
【0073】
なお、ステップS50で否定判定されると、そのまま図8のメインフローに戻る。また、ステップS52で否定判定される、または、ステップS55で肯定判定される、すなわち、特別補正量による4回噴射補正が完了したと判定されると、それぞれステップS56に進んで、特別補正量に関する各フラグをリセットし、図8のメインフローに戻る。
【0074】
図8のメインフローに戻って、ステップS41では、エンジン回転数に基づいて、予め定められたデータマップ(不図示)からツキ加速補正係数が導出される。ステップS42では、実THバルブ開度Fの変化量であるΔTHに基づいて、ツキ加速補正量がデータマップ(不図示)から導出される。なお、実THバルブ開度Fの変化量ΔTHは、ECU40のスロットルバルブ開度変化率算出手段49(図3参照)によって算出される。
【0075】
続くステップS43では、図10のサブフローで決定された特別補正量による4回噴射補正が実行中であるか否かが算出される。ステップS43で肯定判定されると、ステップS44に進んで、THグリップ状態=2であるか否かが判定される。ステップS44で肯定判定されると、ステップS45に進み、ステップS42で導出されたツキ加速補正量が特別補正量を超えているか否かが判定される。
【0076】
ステップS45で肯定判定される、すなわち、特別補正量よりツキ加速補正量の方が大きいと判定されると、ステップS46に進む。ステップS46では、特別補正量による4回噴射補正を実行する必要がないとしてこれを不実施とすると共に、ツキ加速補正量によるツキ加速補正を実行して、ステップS47に進む。なお、ステップS43,44,45で否定判定されると、それぞれ、そのままステップS47に進む。
【0077】
ステップS47では、4回噴射補正が実行中であるか否かが判定され、否定判定されると、図9に示すサブフローAに進む。ここで、図9を参照する。
【0078】
図9は、ツキ加速補正、パーシャル加速補正、スナップ加速補正のすべてに共通する加速制御のサブフローAである。ステップS100では、THグリップ状態=2であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS101に進む。ステップS101では、エンジン回転数が加速補正実施上限以下であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS102に進む。ステップS102では、THバルブが開き方向に駆動中であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS103に進む。
【0079】
ステップS103では、THバルブ開度の変化量ΔTHが加速補正実施判定値以上であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS104に進む。ステップS104では、目標THバルブ開度Eが保持判定値H以上であるか否かが判定される。前記したように、この保持判定値Hは、変速機のギヤ段数およびエンジン回転数に応じたTHバルブ開度Eの上限値であり、図14に示すデータマップから導出される。
【0080】
ステップS104で否定判定されると、ステップS105に進み、ΔTHに基づいて加速補正量をマップから導出する制御を継続する「継続判定」が下される。この「継続」状態は、図5に示した加速補正状態の(1)に相当する。
【0081】
一方、ステップS102,103で否定判定される、または、S104で肯定判定されると、それぞれステップS107に進んで、加速補正量を保持する「保持判定」が下される。このうち、ステップS104で肯定判定されて「保持」状態に移行した状態は、図5に示した加速補正状態の(2)に相当し、ステップS102で否定判定されて「保持」状態に移行した状態は、図5に示した加速補正状態の(5)に相当する。
【0082】
ステップS100で否定判定されると、ステップS106に進んで、THグリップ状態=1であるか否かが判定される。ステップS106で肯定判定されると、ステップS108に進んで、加速補正量を減衰させる「減衰判定」が下される。この「減衰」状態は、図5に示した加速補正状態の(3),(6)に相当する。続くステップS109では、加速補正量減衰処理が実行される。なお、ステップS101で否定判定される、すなわち、エンジン回転数が加速補正実施上限を超えていると判定された場合も、ステップS108に進んで「減衰判定」が下される。また、ステップS109の加速補正量減衰処理の詳細は後述する。
【0083】
一方、ステップS106で否定判定されると、ステップS110に進んで、加速補正を中止する「中止判定」が下される。この「中止」状態は、図5に示した加速補正状態の(4),(7)に相当する。
【0084】
続いて、ステップS105で継続判定が下された後は、ステップS111〜S117において、減衰処理における減衰量の決定および複数気筒エンジンにおける全気筒補正量の平均化処理が実行される。まず、ステップS111では、気筒間補正係数がマップ(不図示)により検索される。ステップS112では、減衰処理引去り待ちカウンタ初期値をエンジン回転数に基づくマップ(不図示)検索値に設定する。ステップS113では、減衰処理1段目引去り量(減衰度合)が選択され、ステップS114では、減衰処理2段目引去り量(減衰度合)が選択される。
【0085】
続くステップS115では、減衰処理1,2段目しきい値が選択される。ステップS116では、前回の全気筒補正量が今回の全気筒補正量を超えているか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS117に進み、前回の全気筒補正量と今回の全気筒補正量との平均化処理が実行される。ステップS116で否定判定されると、そのまま図8のメインフローに戻る。
【0086】
ここで、ステップS109の加速補正量減衰処理を説明するため、図11に示すサブフローを参照する。図11のステップS60では、全気筒補正量が第1,2段目しきい値を超えているか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS61に進む。ステップS61では、全気筒補正量を、全気筒補正量−第1段目引去り量として設定する。ステップS62では、全気筒補正量が1,2段目しきい値以下であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS63に進み、全気筒補正量を第1,2段目しきい値に設定し、ステップS64に進む。
【0087】
なお、ステップS60で否定判定されると、ステップS68において、全気筒減衰処理の引去り待ちカウンタ=0になったか否かが判定される。ステップS68で肯定判定されると、ステップS69に進んで、引去り待ちカウンタを初期値(例えば、5)にすると共に、全気筒補正量を全気筒補正量−第2段目引去り量に設定して、ステップS64に進む。一方、ステップS68で否定判定されると、ステップS70でカウンタのデクリメントを実行し、ステップS64に進む。このような減衰処理によれば、第1段目引去り量(減衰量)および第2段目引去り量(減衰量)を適用してスムーズな減衰処理が可能となる。
【0088】
ステップS64では、全気筒の減衰処理が完了したか否かが判定される。ステップS64で肯定判定されると、ステップS65に進んで加速補正量の設定値がリセットされる。次に、ステップS66では、加速補正再起動禁止タイマが満了したか否かが判定され、肯定判定されるとステップS67に進んで加速補正フラグ=0に設定し、図10のメインフローに戻る。なお、加速補正再起動禁止タイマの設定によれば、先の加速補正の実行中に新たな加速補正が実行されることを防ぐことが可能となる。一方、ステップS64,66で否定判定されると、そのまま図9のフローに戻る。
【0089】
図9のサブフローAにおいて、ステップS109の加速補正量減衰処理を経過すると、図8の「ツキ加速補正処理」のメインフローに戻って、一連の制御を終了する。また、図8のステップS47で肯定判定されると、ステップS48で特別噴射量の設定が実行されて、一連の制御を終了する。
【0090】
図12は、パーシャル加速補正処理の手順を示すフローチャートである。また、図13は、スナップ加速補正処理の手順を示すフローチャートである。パーシャル加速補正処理では、ステップS80において、エンジン回転数に基づいてパーシャル加速補正係数をマップ(不図示)から導出し、図9に示したサブフローAに進む。そして、サブフローAの制御を終了すると、図12のメインフローに戻って一連の制御を終了する。また、スナップ加速補正処理も同様に、ステップS90においてスナップ加速補正係数をマップ(不図示)から導出し、図9に示したサブフローAに進んで、一連の制御を終了する。
【0091】
図8,12,13で示したように、3種の加速補正(ツキ加速補正、パーシャル加速補正、スナップ加速補正)は、ツキ加速補正に特別補正量による4回噴射制御が設けられる以外は、それぞれ燃料噴射量の補正係数が異なるのみとされる。
【0092】
上記したように、本発明に係る燃料噴射制御装置によれば、スロットルバルブ開度に応じて車両の加速状態を検知して燃料の増量補正を実行する際に、スロットルバルブ開度センサの出力のみならずスロットルグリップの操作状態を考慮するようにしたので、TBWシステムを適用するスロットル装置において、目標スロットルバルブ開度に対する実スロットルバルブ開度にオーバーシュートやアンダーシュートが発生した場合でも、運転者によるスロットルグリップ操作に応じた燃料噴射量の補正が可能となり、エンジンのフィーリングが運転者の操作とアンマッチに感じることがなく良好な燃料噴射補正を実行することができる。
【0093】
より具体的には、アクチュエータで駆動されるスロットルバルブの実開度が目標開度に対してオーバーシュートおよびアンダーシュートする場合において、オーバーシュート後に実開度が下降する際にも、スロットルグリップが開いていれば加速補正が「保持」されるので、スロットルグリップを開いているにもかかわらず加速補正が「減衰」や「中止」とならないように設定することができる。また、アンダーシュート後に実開度が上昇する際にも、スロットルグリップが所定開度を維持していれば加速補正が「減衰」されるので、スロットルグリップを停止しているにもかかわらず加速補正が「保持」にならないように設定することができ、乗員のスロットル操作に応じた加速補正制御が実行可能となる。
【0094】
なお、車両の形態、スロットルバルブ開度センサおよびスロットルグリップ開度センサの構造や配置、目標スロットルバルブ開度導出手段の三次元マップや保持判定値マップ等の形態、3種の加速補正制御にそれぞれ設定される加速補正係数の大きさ、加速補正値の減衰処理の手順、ツキ加速補正時の特別補正量の設定等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、加速補正制御は、ツキ加速補正、パーシャル加速補正、スナップ加速補正の3種を適用することに限られず、このうちの2種を適用したり、4種以上の加速補正を設けるようにしてもよい。本発明に係る燃料噴射制御装置は、自動二輪車に限られず、鞍乗型三輪車等の各種車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0095】
1…自動二輪車(車両)、14…エンジン、26…スロットルグリップ(スロットル操作手段)、27…スロットルグリップ開度センサ(スロットル操作状態検知手段)、28…スロットルバルブ、29…燃料噴射弁、30…スロットルバルブモータ、31…スロットルバルブ開度センサ(スロットルバルブ開度検知手段)、32…車速センサ、33…ギヤポジションセンサ、40…ECU、44…グリップ回転速度変化率算出手段、46…目標スロットルバルブ開度導出手段、46a…三次元マップ、47…スロットルバルブ駆動部、48…燃料噴射量制御手段、60…変速機、E…目標スロットルバルブ開度、F…実スロットルバルブ開度(開度)、G…スロットルグリップ開度、H…保持判定値
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射制御装置に係り、特に、スロットルバルブをアクチュエータで駆動するスロットル装置に対応した燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の走行状態に応じた燃料噴射を実行するために、各種センサによって車両の加速状態および減速状態を検知するようにした内燃機関の燃料噴射制御装置が知られている。しかしながら、このような各種センサからの出力には、種々の要因によりオーバーシュートまたはアンダーシュートが発生することがあり、これにより、車両の加速状態および減速状態の判定が難しくなることがあった。
【0003】
特許文献1には、内燃機関の吸気管内に設けられた圧力センサの出力に基づいて車両の加減速状態を判断するようにした燃料噴射装置において、スロットル装置を所定開度まで素早く開操作するような加速時に、圧力センサ値のオーバーシュートにより減速状態と判定されてしまったり、一方、スロットル装置を素早く全閉状態にするような減速時に、圧力センサ値のアンダーシュートにより加速状態と判定されてしまうことを防止するため、加減速の終了時に、加減速状態を判定する基準値を変更するようにした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2849322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、運転者によるスロットル装置(スロットルグリップやスロットルペダル等)の操作に応じて、電動モータ等のアクチュエータでスロットルバルブを駆動するTBW(スロットル・バイ・ワイヤ)システムでは、アクチュエータおよびスロットル装置に含まれるギヤやスプリング等の機械的特性により、スロットルバルブの目標開度(以下、目標THバルブ開度)に対して、実際のスロットルバルブ開度(以下、実THバルブ開度)がオーバーシュートおよびアンダーシュートする可能性がある。
【0006】
具体的には、スロットル装置を素早く開操作してその開度を維持するといった加速操作時に、実THバルブ開度が、目標THバルブ開度に対して一旦オーバーシュートしてからアンダーシュートする可能性があるが、このとき、実THバルブ開度に応じて車両の加減速状態を判定して燃料噴射量を制御するシステムでは、スロットル装置が所定開度で維持されているにもかかわらず加速または減速状態であると判定されて、燃料噴射量が減量および増量されてしまう可能性があった。
【0007】
特許文献1に記載された技術では、目標THバルブ開度に対する実THバルブ開度が、機械的特性に起因してオーバーシュートおよびアンダーシュートすることへの対処は考慮されていなかった。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、アクチュエータで駆動するスロットルバルブの実開度が、目標開度に対してオーバーシュートおよびアンダーシュートする場合でも、加速時の燃料噴射量を適切に制御できる燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、スロットル操作手段(26)の操作状態を検知して、エンジン(14)の吸気系に備えられるスロットルバルブ(28)をアクチュエータ(31)で制御するTBWシステムを備えると共に、前記スロットルバルブ(28)の開度(F)を検知して燃料噴射量を決定するようにした車両(1)の燃料噴射制御装置において、前記スロットル操作手段(26)の操作状態を検知するスロットル操作状態検知手段(27)と、前記スロットルバルブ(28)の開度(F)を検知するスロットルバルブ開度検知手段(31)と、前記エンジン(14)に設けられた燃料噴射弁(29)の燃料噴射を制御する燃料噴射量制御手段(48)とを具備し、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じて前記車両(1)の加速状態を検知して燃料の増量補正を実行する際に、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力と前記スロットル操作手段(26)の操作状態とに基づいて増量補正値を決定する点に第1の特徴がある。
【0010】
また、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記車両(1)の加速状態が検知された場合に、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中でない場合には、前記増量補正値を徐々に減衰させる減衰状態、または、前記増量補正値をゼロとする中止状態とするように設定されている点に第2の特徴がある。
【0011】
また、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記車両(1)の加速状態が検知されていない場合に、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、前記増量補正値をそのまま保つ保持状態とする点に第3の特徴がある。
【0012】
また、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記エンジン(14)の回転数および変速機(60)のギヤポジションに基づいて前記スロットルバルブ(28)の目標スロットルバルブ開度(E)を導出し、前記車両(1)の加速状態が検知され、かつ前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、前記目標スロットルバルブ開度(E)と所定の保持判定値(H)とを比較し、前記目標スロットルバルブ開度(E)が前記保持判定値(H)より小さいと、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値の更新処理を継続する継続状態とするように設定されている点に第4の特徴がある。
【0013】
また、前記目標スロットルバルブ開度(E)が前記保持判定値(H)以上であると、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値をそのまま保持する保持状態とするように設定されている点に第5の特徴がある。
【0014】
また、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記スロットル操作手段(26)の開度変化量(ΔTHG)に基づいて前記スロットル操作手段(26)の操作状態を判定し、前記開度変化量(ΔTHG)が所定の開き側しきい値(ΔTHGO)以上である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向であると判定し、前記開度変化量(ΔTHG)が前記所定の開き側しきい値(ΔTHGO)未満であり、かつ所定の閉め側しきい値(ΔTHGC)以上である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が停止中であると判定し、前記開度変化量(ΔTHG)が所定の閉め側しきい値(ΔTHGC)未満である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定し、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が停止中の場合には、前記増量補正値を徐々に減少させる減衰状態とし、一方、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定されると、前記増量補正値をゼロとする中止状態とする点に第6の特徴がある。
【0015】
また、前記減衰状態では、第1段目の減衰度合を用いて前記加速増量値を減少させ、前記加速増量値が所定値になると、第2段目の減衰度合を用いて前記加速増量値がゼロになるまで減少させる点に第7の特徴がある。
【0016】
また、前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)によって検知されるスロットルバルブ開度変化量(ΔTH)が所定値以上であると、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値の更新処理を継続する継続状態とする点に第8の特徴がある。
【0017】
さらに、前記保持判定値(H)は、変速機(60)のギヤ段数およびエンジン(14)の回転数に応じて予め規定されるデータマップによって導出される点に第9の特徴がある。
【発明の効果】
【0018】
第1の特徴によれば、スロットル操作手段の操作状態を検知するスロットル操作状態検知手段と、スロットルバルブの開度を検知するスロットルバルブ開度検知手段と、エンジンに設けられた燃料噴射弁の燃料噴射を制御する燃料噴射量制御手段とを具備し、燃料噴射量制御手段は、スロットルバルブ開度検知手段の出力に応じて車両の加速状態を検知して燃料の増量補正を実行する際に、スロットルバルブ開度検知手段の出力とスロットル操作手段の操作状態とに基づいて増量補正値を決定するので、TBWシステムを適用するスロットル装置において、目標スロットルバルブ開度に対する実スロットルバルブ開度にオーバーシュートやアンダーシュートが発生した場合でも、その時のスロットル操作手段(スロットルグリップ等)の操作状態を考慮して加速補正のための燃料噴射量を設定することとなり、オーバーシュートおよびアンダーシュートの発生に関わらず、運転者によるスロットル操作手段の開操作に応じた燃料噴射量の補正が可能となり、エンジンのフィーリングが運転者の操作とアンマッチに感じることがなく良好な燃料噴射補正を実行することができる。
【0019】
第2の特徴によれば、燃料噴射量制御手段は、車両の加速状態が検知された場合に、スロットル操作手段の操作状態が開き方向に駆動中でない場合には、増量補正値を徐々に減衰させる減衰状態、または、増量補正値をゼロとする中止状態とするように設定されているので、目標スロットルバルブ開度に対する実スロットルバルブ開度がアンダーシュート後に上昇することによって、実スロットルバルブ開度に基づく加速判定が「加速状態」と判定されてしまう場合でも、燃料噴射量が増量されてしまうことがなく、スロットル操作手段の操作状態に応じた適切な燃料噴射制御を実行することができる。
【0020】
第3の特徴によれば、燃料噴射量制御手段は、車両の加速状態が検知されていない場合に、スロットル操作手段の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、増量補正値をそのまま保つ保持状態とするので、目標スロットルバルブ開度に対する実スロットルバルブ開度がオーバーシュート後に下降することによって、実スロットルバルブ開度に基づく加速判定が「加速状態でない」と判定されてしまう場合でも、燃料噴射量が減衰状態や中止状態とされてしまうことがなく、スロットル操作手段の操作状態に応じた適切な燃料噴射制御を実行することができる。
【0021】
第4の特徴によれば、燃料噴射量制御手段は、エンジンの回転数および変速機のギヤポジションに基づいてスロットルバルブの目標スロットルバルブ開度を導出し、車両の加速状態が検知され、かつスロットル操作手段の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、目標スロットルバルブ開度と所定の保持判定値とを比較し、目標スロットルバルブ開度が保持判定値より小さいと、スロットルバルブ開度検知手段の出力に応じた増量補正値の更新処理を継続する継続状態とするように設定されているので、スロットルバルブ開度に基づく加速判定が「加速状態」であり、かつスロットル操作手段が開き方向に駆動中である場合に、目標スロットル開度と所定の保持判定値との比較を行うことによって、加速補正値の更新処理を実行するか否かを判定することが可能となる。
【0022】
第5の特徴によれば、目標スロットルバルブ開度が保持判定値以上であると、スロットルバルブ開度検知手段の出力に応じた増量補正値をそのまま保持する保持状態とするように設定されているので、スロットルバルブ開度に基づく加速判定が加速状態であり、かつスロットル操作手段が開き方向に駆動中である場合に、目標スロットル開度と所定の保持判定値との比較を行うことによって、加速補正値の更新を継続するかまたは保持状態とするか否かを判定することが可能となる。これにより、加速時の増量補正値をより細かく設定することが可能となる。
【0023】
第6の特徴によれば、燃料噴射量制御手段は、スロットル操作手段の開度変化量に基づいてスロットル操作手段の操作状態を判定し、開度変化量が所定の開き側しきい値以上である場合には、スロットル操作手段の操作状態が開き方向であると判定し、開度変化量が所定の開き側しきい値未満であり、かつ所定の閉め側しきい値以上である場合には、スロットル操作手段の操作状態が停止中であると判定し、開度変化量が所定の閉め側しきい値未満である場合には、スロットル操作手段の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定し、スロットル操作手段の操作状態が停止中の場合には、増量補正値を徐々に減少させる減衰状態とし、一方、スロットル操作手段の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定されると、増量補正値をゼロとする中止状態とするので、スロットル操作手段の操作状態の判定を容易にすると共に、この操作状態に応じて適切な増量補正値を設定することが可能となる。
【0024】
第7の特徴によれば、減衰状態では、第1段目の減衰度合を用いて加速増量値を減少させ、加速増量値が所定値になると、第2段目の減衰度合を用いて加速増量値がゼロになるまで減少させるので、加速増量値の減衰処理をスムーズに実行することができる。
【0025】
第8の特徴によれば、燃料噴射量制御手段は、スロットルバルブ開度検知手段によって検知されるスロットルバルブ開度変化量が所定値以上であると、スロットルバルブ開度検知手段の出力に応じた増量補正値の更新処理を継続する継続状態とするので、スロットルバルブが開き方向である場合でも、さらに開度変化量が所定値を超えた場合でなければ加速補正値の更新を行わないように設定することができる。
【0026】
第9の特徴によれば、保持判定値は、変速機のギヤ段数およびエンジンの回転数に応じて予め規定されるデータマップによって導出されるので、ギヤ段数およびエンジン回転数に応じた保持判定値の細かい設定が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料噴射制御装置を適用した自動二輪車の側面図である。
【図2】スロットルバイワイヤ機構の構成を示すブロック図である。
【図3】車両速度制限装置および周辺機器の構成を示すブロック図である。
【図4】乗員が加速操作を行った場合の燃料噴射制御の流れを示すタイムチャートである。
【図5】THバルブの作動状態およびTHグリップの操作状態と加速補正状態との関係を示す一覧表である。
【図6】スロットルグリップ操作状態判断処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】加速補正処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】ツキ加速補正処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】ツキ加速補正、パーシャル加速補正、スナップ加速補正のすべてに共通する加速制御のサブフローである。
【図10】ツキ加速補正時の特別補正量算出処理の手順を示すサブフローである。
【図11】加速補正量減衰処理の手順を示すサブフローである。
【図12】パーシャル加速補正処理の手順を示すフローチャートである。
【図13】スナップ加速補正処理の手順を示すフローチャートである。
【図14】変速機のギヤ段数およびエンジン回転数に応じた保持判定値のデータマップである。
【図15】従来例において、乗員による加速操作が行われた場合の燃料噴射制御の流れを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る燃料噴射制御装置を適用した自動二輪車1の側面図である。メインフレーム2の前端部に設けられたヘッドパイプ3には、不図示のステアリングステムが回動自在に軸支されている。該ステアリングステムには、前輪WFを回転可能に軸支する左右一対のフロントフォーク4が取り付けられており、前輪WFは、フロントフォーク4の上端に取り付けられた左右一対のハンドルバー5により操舵可能とされている。
【0029】
メインフレーム2の後方下部には、駆動輪としての後輪WRを回転可能に軸支するスイングアーム12が、ピボット軸10によって揺動自在に軸支されている。スイングアーム12とメインフレーム2との間には、リンク機構を介して互いを連結するリヤクッション11が配設されている。
【0030】
ピボット軸10の前方かつメインフレーム2の下方には、エンジン14が配設されている。エンジン14の内部には、例えば、6段の多段変速機60が収納されている。エンジン14の上部には、燃料噴射装置およびスロットルボディを含む吸気管21が取り付けられており、その上部には、エアクリーナボックス13が接続されている。エンジン14の前方側には、該エンジン14の燃焼ガスを車体後端部に配設されたマフラ16に導く排気管15が取り付けられている。
【0031】
ヘッドパイプ3の前方側には、フロントカウル6が配設されており、前輪WFの上方には、フロントフェンダ20が配設されている。メインフレーム2の上部には、燃料タンク7が配設されている。メインフレーム2から後方上方に延出するシートフレーム17には、シート8およびシートカウル9が取り付けられている。シート8の下方には、バッテリ19および本発明に係る燃料噴射制御装置を含むECU40が配設されている。
【0032】
図2は、スロットルバイワイヤ機構の構成を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。点火プラグ36を備える内燃機関としてのエンジン14には、ピストン37を支持するコンロッド38が連結されるクランクシャフト39、複数のギヤ対を支持して変速機60を構成するメインシャフト61およびカウンタシャフト62が備えられている。エンジン回転数センサ34は、クランクシャフト39に近接してクランクシャフト39の回転数を検知する。変速機60の変速段数を検知するギヤポジションセンサ33は、シフトドラム等の変速機構の作動状態を検知するためにカウンタシャフト62の近傍に設けられている。
【0033】
吸気管21には、その通路面積を変更するスロットルバルブ28、吸気圧センサ35および燃料噴射弁(インジェクタ)29が設けられている。本実施形態に係るスロットル装置には、各種センサ出力に基づき、アクチュエータとしてのスロットルバルブモータ30によってスロットルバルブ28を駆動するスロットルバイワイヤ(TBW)機構が適用されている。
【0034】
車幅方向右側のハンドルバー5に取り付けられ、乗員が回動操作するスロットルグリップ26の回動角度は、スイッチボックス25内のスロットルグリップ開度センサ27によって検知されてECU40に伝達される。ECU40は、スロットルグリップ26の回動角度のほか、各種センサの出力信号に基づいてスロットルバルブモータ30を駆動する。スロットルバルブ28の回動角度は、スロットルバルブ開度センサ31で検知されてECU40に伝達される。ECU40は、各センサ出力に基づいて、燃料噴射制御、スロットルバルブ駆動制御および点火プラグの点火制御を実行する。
【0035】
図3は、本実施形態に係るECU40およびその周辺機器の構成を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。ECU40には、燃料噴射量制御手段48、スロットルバルブ開度変化率算出手段49、目標スロットルバルブ開度導出手段46、スロットルバルブ駆動部47、グリップ回転速度変化率算出手段44、速度偏差算出手段41、加速度算出手段42および最高速度リミッタ開度算出手段43が含まれる。
【0036】
目標スロットルバルブ開度導出手段46には、スロットルグリップ開度センサ(スロットル操作状態検知手段)27、ギヤポジションセンサ33、エンジン回転数センサ34、スロットルバルブ開度センサ31の出力信号がそれぞれ入力される。目標スロットルバルブ開度導出手段46に含まれる三次元マップ46aは、スロットルグリップ開度およびエンジン回転数から目標スロットルバルブ開度(以下、目標THバルブ開度Eと示すこともある)を導出するデータマップであり、本実施形態では、変速機60のギヤ段数に対応した数(例えば、変速機60が6段なら6つ)のマップが用意されている。また、グリップ回転速度変化率算出手段44は、乗員が操作するスロットルグリップ26の回転速度の変化率(ΔTHG)を算出する。
【0037】
スロットルバルブ駆動部47は、目標スロットルバルブ開度導出手段46で導出された目標THバルブ開度Eに基づいてスロットルバルブモータ30を駆動する。なお、最高速度リミッタ開度算出手段43は、目標THバルブ開度Eにかかわらず、車速が予め設定された最高速度を超えないようにする最高速度リミッタとしてスロットルバルブ駆動部47を駆動制限するように構成されている。
【0038】
燃料噴射弁(インジェクタ)29による燃料噴射量は、燃料噴射量制御手段48によって決定される。燃料噴射量制御手段48には、スロットルバルブ開度センサ31、スロットルバルブ開度変化率算出手段49、目標スロットルバルブ開度導出手段46、エンジン回転数センサ34、吸気圧センサ35、ギヤポジションセンサ33、スロットルグリップ開度センサ27、車速センサ32の出力信号がそれぞれ入力される。燃料噴射量制御手段48は、主に、スロットルバルブ開度センサ31で検知された実際のスロットルバルブ28の開度に応じて燃料噴射量を決定する。
【0039】
ここで、TBWシステムを用いたスロットル装置では、スロットルバルブモータ30の内部やスロットルバルブ28への動力伝達機構に含まれるギヤやスプリング等の機械的特性により、目標スロットルバルブ開度導出手段46で算出された目標THバルブ開度Eに対して、実際のスロットルバルブ開度(以下、実THバルブ開度Fと示すこともある)がオーバーシュートおよびアンダーシュートする可能性がある。このオーバーシュートおよびアンダーシュートが燃料噴射制御に与える影響を、図15を用いて説明する。
【0040】
図15は、従来例において、乗員による加速操作が行われた場合の燃料噴射制御の流れを示すタイムチャートである。このタイムチャートは、上から、TH(スロットル)グリップ開度に応じた加速状態、THグリップ開度およびTHバルブ開度、THバルブ開度の変化量、加速補正量(加速補正燃料噴射量)、加速補正状態をそれぞれ示している。なお、THバルブ開度の表記は、破線で示す目標THバルブ開度Eと、実線で示す実THバルブ開度Fとからなる。
【0041】
このグラフでは、時刻t1においてTHグリップ26の開動作が開始され、素早く所定開度θgまで開かれた状態を示している。このとき、破線で示す目標THバルブ開度Eは、THグリップ開度Gと共に上昇した後、所定開度θbで一定となる。
【0042】
しかしながら、スロットルバルブモータ30によって駆動されるスロットルバルブ28の実THバルブ開度Fは、目標THバルブ開度Eの立ち上がりから少し遅れて立ち上がった後、アクチュエータおよびスロットル装置に含まれるギヤやスプリング等の機械的特性によって所定開度θbを上回るオーバーシュートを生じ、続いて、所定開度θbを下回るアンダーシュートを生じる。
【0043】
ここで、加速動作に対応して燃料噴射量を増加させる加速補正制御では、実THバルブ開度Fに応じて加速補正量を決定するのが一般的である。具体的には、実THバルブ開度Fが増加した場合は加速状態にあるとして増量補正を実行し、実THバルブ開度Fが定常状態に移行したり減少した場合は、加速状態ではなくなったとして、増量補正を減衰または中止するように設定される。このような燃料噴射制御装置において、実THバルブ開度Fにオーバーシュートおよびアンダーシュートが生じると、以下のような現象が生じる。
【0044】
この図での例では、実THバルブ開度Fがオーバーシュートした後に下降する際に、車両が減速状態になったと判定されてしまう。これにより、時刻t10から開始していた加速補正が、時刻t11において加速補正量を徐々に減少させる「減衰」に移行し、さらに、時刻t12で加速補正量をゼロにする「中止」に移行してしまう。続いて、アンダーシュートした後に実THバルブ開度Fが上昇する際には、車両が加速状態にあると判定されてしまい、時刻t13〜t14間では再び「加速」による加速増量補正が実行されることとなる。
【0045】
この現象によれば、THグリップ26を所定開度θgまで素早く開いたことに対応して速やかに増量補正が実行されるものの、その後、THグリップ26を所定開度θgに維持しているにもかかわらず燃料噴射量が減量および増量されてしまうことで、乗員のスロットル操作とアンマッチな乗車フィーリングが発生する可能性がある。
【0046】
これに対し、本発明に係る燃料噴射制御装置は、実THバルブ開度Fに加えてTHグリップ26の操作状態を考慮することで、実THバルブ開度Fに生じるオーバーシュートおよびアンダーシュートの影響を受けずに加速補正制御を実行できる点に特徴がある。
【0047】
図4は、本発明に係る燃料噴射装置において、乗員が加速操作を行った場合の燃料噴射制御の流れを示すタイムチャートである。このタイムチャートでも、図15と同様に、時刻t1において乗員によるTHグリップ26の開動作が開始され、素早く所定開度θgまで開かれている。そして、実THバルブ開度Fは、目標THバルブ開度Eから少し遅れて立ち上がった後、所定開度θbを超えるオーバーシュートを生じ、これに続いて、所定開度θbを下回るアンダーシュートを生じている。
【0048】
このとき、時刻t20で開始される加速補正は、実THバルブ開度Fが時刻t21から開始されるオーバーシュートの後に下降に転じても、時刻t21〜22の期間で加速補正量がそのまま「保持」されるように設定されている。さらに、時刻t22からは加速補正を「減衰」に切り替え、その後、実THバルブ開度Fがアンダーシュートした後に上昇に転じても「加速」に転じることはなく、時刻t23まで徐々に加速補正量を減衰させて一連の制御を終了する。上記したように、本発明に係る燃料噴射装置によれば、図15に示した従来例のように、THグリップ開度Gが一定にもかかわらず加速補正量が増減してしまうという現象が生じることがない。
【0049】
図5は、THバルブ28の作動状態およびTHグリップ26の操作状態と加速補正状態との関係を示す一覧表である。加速補正状態には、加速補正量をそのまま保持する「保持」と、加速補正量の演算処理を継続する「継続」と、加速補正量を徐々に減衰させる「減衰」と、加速補正量をゼロにする「中止」とが設定されている。
【0050】
THバルブ28の作動状態は、THバルブ開度センサ31で検知される実THバルブ開度Fに基づいて、「THバルブが開き方向に駆動中」であるか「THバルブが停止中または閉じ方向に駆動中」であるかの2パターンで判断される。
【0051】
一方、THグリップ26の操作状態は、「THグリップが開き方向(THグリップ状態=2)」、「THグリップが停止中(THグリップ状態=1)」、「THグリップが閉じ方向または全閉(THグリップ状態=0)」の3パターンで判断される。
【0052】
そして、THバルブ28の作動状態が「THバルブが開き方向に駆動中」である場合の加速補正状態は、THグリップ状態=2であると「保持」に設定され、THグリップ状態=1であると「減衰」に設定され、THグリップ状態=0であると「中止」にそれぞれ設定されることとなる。
【0053】
上記した設定によれば、実THバルブ開度Fが、オーバーシュート後の下降によって「THバルブが停止中または閉じ方向に駆動中」である場合でも、THグリップ26が開いていれば加速補正状態は「保持」または「減衰」となる。これにより、乗員がスロットルを開いているにもかかわらず加速補正が「中止」されてしまうことがなく、スロットル操作と加速補正との間にアンマッチな動作が生じることを防ぐことができる。
【0054】
一方、THバルブ28の作動状態が「THバルブが開き方向に駆動中」である場合の加速補正状態は、THグリップ状態=2であると「保持」または「継続」に設定され、THグリップ状態=1であると「減衰」に設定され、THグリップ状態=0であると「中止」にそれぞれ設定される。
【0055】
ここで、THグリップ状態=2である場合には、目標THバルブ開度Eによる条件判断に基づいて「保持」または「継続」のいずれかが選択される。すなわち、THグリップ状態=2でかつ目標THバルブ開度Eが保持判定値H以上であると「保持」に設定され、一方、THグリップ状態=2でかつ目標THバルブ開度Eが保持判定値H未満であると「継続」に設定される。この保持判定値Hとは、変速機60(図1参照)のギヤ段数およびエンジン回転数に応じた目標THバルブ開度Eの上限値であり、予め実験等で規定されたデータマップ(図14参照)から導出されるものである。
【0056】
上記したような設定によれば、実THバルブ開度Fがアンダーシュート後の上昇によって「THバルブが開き方向に駆動中」状態であっても、THグリップ26が一定開度で停止中であったり閉じ方向にある場合には「減衰」または「中止」とされる。これにより、乗員がスロットルを閉じているにもかかわらず加速補正が「保持」または「継続」となることがなくなり、スロットル操作と加速補正との間にアンマッチな動作が生じることを防ぐことができる。以下、図6ないし13のフローチャートを参照して、上記した燃料噴射制御の手順の詳細を説明する。
【0057】
図6は、スロットルグリップ操作状態判断処理の手順を示すフローチャートである。このフローチャートでは、図5の一覧表に示した「THグリップの操作状態」において、THグリップ26が、開き方向(THグリップ状態=2)、停止中(THグリップ状態=1)、閉じ方向または全閉(THグリップ状態=0)のいずれであるかが判断される。
【0058】
ステップS1では、スロットルグリップ開度センサ(以下、THグリップ開度センサと示すこともある)31のデータバッファリング処理が実行される。ステップS2では、THグリップ開度センサ31がフェールしているか否かが判定され、否定判定されるとステップS3へ進む。ステップS3では、THグリップ開度センサ31の基準値を今回検知した値に設定して、ステップS4に進む。
【0059】
なお、ステップS2で肯定判定される、すなわち、THグリップ開度センサ31がフェールしていると判定されると、ステップS5に進んで、THグリップ開度センサ31の基準値をフェール前の最新のバックアップ値に設定して、ステップS4に進む。
【0060】
ステップS4では、THグリップ開度センサ31のデータバッファリング処理が完了したか否かが判定され、肯定判定されるとステップS6に進む。ステップS6では、THグリップ開度センサ31のフェール対処済であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS8に進んで、THグリップ開度Gの変化量ΔTHGが算出される。この変化量ΔTHGは、ECU40のグリップ回転速度変化率算出手段44によって算出される。
【0061】
ステップS9では、THグリップ26が全閉か否かが判定され、否定判定されるとステップS10に進む。一方、ステップS9で肯定判定されると、ステップS14に進んで、THグリップ状態=0として一連の制御を終了する。
【0062】
なお、ステップS4で否定判定されると、ステップS7に進み、バッファリング処理の完了を検知する所定時間カウンタをインクリメントすると共にTHグリップ状態=0として、一連の制御を終了する。また、ステップS6で肯定判定されると、ステップS15に進んで、THグリップ開度Gの変化量ΔTHG=0に設定すると共に、THグリップ状態=0として、一連の制御を終了する。
【0063】
ステップS10では、ステップS8で算出されたΔTHGが開き側しきい値ΔTHGO以上であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS11へ進んで、THグリップ状態=2であると判定される。一方、ステップS10で否定判定されると、ステップS12に進んで、ΔTHGが閉め側しきい値ΔTHGC以上であるか否かが判定される。また、ステップS12で肯定判定されると、ステップS13へ進んで、THグリップ状態=1であると判定される。そして、ステップS12で否定判定されると、ステップS14に進んで、THグリップ状態=0であると判定されて、一連の制御を終了する。
【0064】
図7は、加速補正処理の手順を示すフローチャートである。本実施形態に係る燃料噴射制御装置には、パーシャル加速補正、ツキ加速補正、スナップ加速補正からなる3種の加速補正制御が設定されている。パーシャル加速補正とは、THバルブ28がある程度開いている状態(パーシャル)からの加速時に実行されるもので、燃料増量は中程度とされる。また、ツキ加速補正とは、THバルブが全閉または一旦閉じてから開かれる加速時に実行されるもので、乗員の加速意思に素早く追従させる(ツキをよくする)ために燃料増量は大きめとされる。そして、スナップ加速補正とは、エンジン負荷が小さい、例えば、空吹かし(スナップ)時に実行されるもので、燃料増量は少なめとされる。
【0065】
まず、ステップS20では、加速増量補正が許可されているか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS21へ進む。ステップS21では、付加噴射中であるか否かが判定される。この付加噴射とは、燃料噴射量の通常の演算タイミングより後のタイミングで加速状態が検知された際に、通常の演算タイミングに対応した燃料噴射が終了してから追加で実行される燃料噴射のことである。この付加噴射は、通常の演算タイミングと同期しないので、非同期の加速補正とも呼ばれる。なお、ステップS21で肯定判定されると、通常の噴射タイミングにおける加速補正が実行不能であるとして、そのまま一連の制御を終了する。
【0066】
ステップS22では、THバルブ28が開き方向に駆動中であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS23に進む。なお、ステップS22の判定は、図5に示したTHバルブの作動状態が、2パターンのうちのいずれであるかの判定に相当する。次に、ステップS23では、パーシャル加速補正の実行条件が成立したか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS24でパーシャル加速補正フラグが1に設定される。また、ステップS23で否定判定されると、ステップS26でツキ加速補正の実行条件が成立したか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS27でツキ加速補正フラグが1に設定される。さらに、ステップS26で否定判定されると、ステップS28でスナップ加速補正の実行条件が成立したか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS29でスナップ加速補正フラグが1に設定される。ステップS28で否定判定されると、いずれの加速補正条件も成立しないとして、そのままステップS25に進む。
【0067】
ステップS25では、変速機60のギヤポジション(ギヤ段数)およびエンジン回転数に基づいて、目標スロットルバルブ開度導出手段46に含まれる三次元マップ46a(図3参照)から目標THバルブ開度Eが導出される。続くステップS30では、パーシャル加速補正中であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS31に進んでパーシャル加速補正制御が継続実行される。
【0068】
ステップS30で否定判定されると、ステップS32へ進み、ツキ加速補正中であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS33においてツキ加速補正制御が継続実行される。さらに、ステップS32で否定判定されると、ステップS34に進み、スナップ加速補正中であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS35に進んで、スナップ加速補正制御が継続実行される。
【0069】
なお、ステップS20,S22で否定判定されると、それぞれステップS36に進んで、各フラグの初期化が実行されて一連の制御を終了する。また、ステップS34で否定判定される、すなわち、いずれの加速補正も実行されていないと判定されると、そのまま一連の制御を終了する。
【0070】
図8は、ツキ加速補正処理の手順を示すフローチャートである。前記したように、ツキ加速補正は、THバルブ28が全閉または一旦閉じられてから開かれる加速時に素早くエンジン回転数を高めるためのものであり、本実施形態では、スロットル操作に対する反応(ツキ)を高めるための「特別補正量による4回噴射」と共に実行される。まず、ステップS40では、ツキ加速補正時の特別補正量が算出される。ここで、図10に示したツキ加速補正時の特別補正量算出処理の手順を示すサブフローを参照する。
【0071】
図10のサブフローのステップS50では、特別補正量による4回噴射補正を実行中であるか否かが判定される。ステップS50で肯定判定されると、ステップS51に進んで、噴射回数カウンタがインクリメントされる。続くステップS52では、特別補正量による噴射回数が4回以下であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS53に進んで、次回の特別噴射で適用される特別補正量データが選択される。
【0072】
続くステップS54では、4回噴射補正後の減衰データの選択が実行される。そして、ステップS55では、4回噴射補正が完了したか否かが判定され、否定判定されるとそのまま図8のメインフローに戻る。
【0073】
なお、ステップS50で否定判定されると、そのまま図8のメインフローに戻る。また、ステップS52で否定判定される、または、ステップS55で肯定判定される、すなわち、特別補正量による4回噴射補正が完了したと判定されると、それぞれステップS56に進んで、特別補正量に関する各フラグをリセットし、図8のメインフローに戻る。
【0074】
図8のメインフローに戻って、ステップS41では、エンジン回転数に基づいて、予め定められたデータマップ(不図示)からツキ加速補正係数が導出される。ステップS42では、実THバルブ開度Fの変化量であるΔTHに基づいて、ツキ加速補正量がデータマップ(不図示)から導出される。なお、実THバルブ開度Fの変化量ΔTHは、ECU40のスロットルバルブ開度変化率算出手段49(図3参照)によって算出される。
【0075】
続くステップS43では、図10のサブフローで決定された特別補正量による4回噴射補正が実行中であるか否かが算出される。ステップS43で肯定判定されると、ステップS44に進んで、THグリップ状態=2であるか否かが判定される。ステップS44で肯定判定されると、ステップS45に進み、ステップS42で導出されたツキ加速補正量が特別補正量を超えているか否かが判定される。
【0076】
ステップS45で肯定判定される、すなわち、特別補正量よりツキ加速補正量の方が大きいと判定されると、ステップS46に進む。ステップS46では、特別補正量による4回噴射補正を実行する必要がないとしてこれを不実施とすると共に、ツキ加速補正量によるツキ加速補正を実行して、ステップS47に進む。なお、ステップS43,44,45で否定判定されると、それぞれ、そのままステップS47に進む。
【0077】
ステップS47では、4回噴射補正が実行中であるか否かが判定され、否定判定されると、図9に示すサブフローAに進む。ここで、図9を参照する。
【0078】
図9は、ツキ加速補正、パーシャル加速補正、スナップ加速補正のすべてに共通する加速制御のサブフローAである。ステップS100では、THグリップ状態=2であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS101に進む。ステップS101では、エンジン回転数が加速補正実施上限以下であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS102に進む。ステップS102では、THバルブが開き方向に駆動中であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS103に進む。
【0079】
ステップS103では、THバルブ開度の変化量ΔTHが加速補正実施判定値以上であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS104に進む。ステップS104では、目標THバルブ開度Eが保持判定値H以上であるか否かが判定される。前記したように、この保持判定値Hは、変速機のギヤ段数およびエンジン回転数に応じたTHバルブ開度Eの上限値であり、図14に示すデータマップから導出される。
【0080】
ステップS104で否定判定されると、ステップS105に進み、ΔTHに基づいて加速補正量をマップから導出する制御を継続する「継続判定」が下される。この「継続」状態は、図5に示した加速補正状態の(1)に相当する。
【0081】
一方、ステップS102,103で否定判定される、または、S104で肯定判定されると、それぞれステップS107に進んで、加速補正量を保持する「保持判定」が下される。このうち、ステップS104で肯定判定されて「保持」状態に移行した状態は、図5に示した加速補正状態の(2)に相当し、ステップS102で否定判定されて「保持」状態に移行した状態は、図5に示した加速補正状態の(5)に相当する。
【0082】
ステップS100で否定判定されると、ステップS106に進んで、THグリップ状態=1であるか否かが判定される。ステップS106で肯定判定されると、ステップS108に進んで、加速補正量を減衰させる「減衰判定」が下される。この「減衰」状態は、図5に示した加速補正状態の(3),(6)に相当する。続くステップS109では、加速補正量減衰処理が実行される。なお、ステップS101で否定判定される、すなわち、エンジン回転数が加速補正実施上限を超えていると判定された場合も、ステップS108に進んで「減衰判定」が下される。また、ステップS109の加速補正量減衰処理の詳細は後述する。
【0083】
一方、ステップS106で否定判定されると、ステップS110に進んで、加速補正を中止する「中止判定」が下される。この「中止」状態は、図5に示した加速補正状態の(4),(7)に相当する。
【0084】
続いて、ステップS105で継続判定が下された後は、ステップS111〜S117において、減衰処理における減衰量の決定および複数気筒エンジンにおける全気筒補正量の平均化処理が実行される。まず、ステップS111では、気筒間補正係数がマップ(不図示)により検索される。ステップS112では、減衰処理引去り待ちカウンタ初期値をエンジン回転数に基づくマップ(不図示)検索値に設定する。ステップS113では、減衰処理1段目引去り量(減衰度合)が選択され、ステップS114では、減衰処理2段目引去り量(減衰度合)が選択される。
【0085】
続くステップS115では、減衰処理1,2段目しきい値が選択される。ステップS116では、前回の全気筒補正量が今回の全気筒補正量を超えているか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS117に進み、前回の全気筒補正量と今回の全気筒補正量との平均化処理が実行される。ステップS116で否定判定されると、そのまま図8のメインフローに戻る。
【0086】
ここで、ステップS109の加速補正量減衰処理を説明するため、図11に示すサブフローを参照する。図11のステップS60では、全気筒補正量が第1,2段目しきい値を超えているか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS61に進む。ステップS61では、全気筒補正量を、全気筒補正量−第1段目引去り量として設定する。ステップS62では、全気筒補正量が1,2段目しきい値以下であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS63に進み、全気筒補正量を第1,2段目しきい値に設定し、ステップS64に進む。
【0087】
なお、ステップS60で否定判定されると、ステップS68において、全気筒減衰処理の引去り待ちカウンタ=0になったか否かが判定される。ステップS68で肯定判定されると、ステップS69に進んで、引去り待ちカウンタを初期値(例えば、5)にすると共に、全気筒補正量を全気筒補正量−第2段目引去り量に設定して、ステップS64に進む。一方、ステップS68で否定判定されると、ステップS70でカウンタのデクリメントを実行し、ステップS64に進む。このような減衰処理によれば、第1段目引去り量(減衰量)および第2段目引去り量(減衰量)を適用してスムーズな減衰処理が可能となる。
【0088】
ステップS64では、全気筒の減衰処理が完了したか否かが判定される。ステップS64で肯定判定されると、ステップS65に進んで加速補正量の設定値がリセットされる。次に、ステップS66では、加速補正再起動禁止タイマが満了したか否かが判定され、肯定判定されるとステップS67に進んで加速補正フラグ=0に設定し、図10のメインフローに戻る。なお、加速補正再起動禁止タイマの設定によれば、先の加速補正の実行中に新たな加速補正が実行されることを防ぐことが可能となる。一方、ステップS64,66で否定判定されると、そのまま図9のフローに戻る。
【0089】
図9のサブフローAにおいて、ステップS109の加速補正量減衰処理を経過すると、図8の「ツキ加速補正処理」のメインフローに戻って、一連の制御を終了する。また、図8のステップS47で肯定判定されると、ステップS48で特別噴射量の設定が実行されて、一連の制御を終了する。
【0090】
図12は、パーシャル加速補正処理の手順を示すフローチャートである。また、図13は、スナップ加速補正処理の手順を示すフローチャートである。パーシャル加速補正処理では、ステップS80において、エンジン回転数に基づいてパーシャル加速補正係数をマップ(不図示)から導出し、図9に示したサブフローAに進む。そして、サブフローAの制御を終了すると、図12のメインフローに戻って一連の制御を終了する。また、スナップ加速補正処理も同様に、ステップS90においてスナップ加速補正係数をマップ(不図示)から導出し、図9に示したサブフローAに進んで、一連の制御を終了する。
【0091】
図8,12,13で示したように、3種の加速補正(ツキ加速補正、パーシャル加速補正、スナップ加速補正)は、ツキ加速補正に特別補正量による4回噴射制御が設けられる以外は、それぞれ燃料噴射量の補正係数が異なるのみとされる。
【0092】
上記したように、本発明に係る燃料噴射制御装置によれば、スロットルバルブ開度に応じて車両の加速状態を検知して燃料の増量補正を実行する際に、スロットルバルブ開度センサの出力のみならずスロットルグリップの操作状態を考慮するようにしたので、TBWシステムを適用するスロットル装置において、目標スロットルバルブ開度に対する実スロットルバルブ開度にオーバーシュートやアンダーシュートが発生した場合でも、運転者によるスロットルグリップ操作に応じた燃料噴射量の補正が可能となり、エンジンのフィーリングが運転者の操作とアンマッチに感じることがなく良好な燃料噴射補正を実行することができる。
【0093】
より具体的には、アクチュエータで駆動されるスロットルバルブの実開度が目標開度に対してオーバーシュートおよびアンダーシュートする場合において、オーバーシュート後に実開度が下降する際にも、スロットルグリップが開いていれば加速補正が「保持」されるので、スロットルグリップを開いているにもかかわらず加速補正が「減衰」や「中止」とならないように設定することができる。また、アンダーシュート後に実開度が上昇する際にも、スロットルグリップが所定開度を維持していれば加速補正が「減衰」されるので、スロットルグリップを停止しているにもかかわらず加速補正が「保持」にならないように設定することができ、乗員のスロットル操作に応じた加速補正制御が実行可能となる。
【0094】
なお、車両の形態、スロットルバルブ開度センサおよびスロットルグリップ開度センサの構造や配置、目標スロットルバルブ開度導出手段の三次元マップや保持判定値マップ等の形態、3種の加速補正制御にそれぞれ設定される加速補正係数の大きさ、加速補正値の減衰処理の手順、ツキ加速補正時の特別補正量の設定等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、加速補正制御は、ツキ加速補正、パーシャル加速補正、スナップ加速補正の3種を適用することに限られず、このうちの2種を適用したり、4種以上の加速補正を設けるようにしてもよい。本発明に係る燃料噴射制御装置は、自動二輪車に限られず、鞍乗型三輪車等の各種車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0095】
1…自動二輪車(車両)、14…エンジン、26…スロットルグリップ(スロットル操作手段)、27…スロットルグリップ開度センサ(スロットル操作状態検知手段)、28…スロットルバルブ、29…燃料噴射弁、30…スロットルバルブモータ、31…スロットルバルブ開度センサ(スロットルバルブ開度検知手段)、32…車速センサ、33…ギヤポジションセンサ、40…ECU、44…グリップ回転速度変化率算出手段、46…目標スロットルバルブ開度導出手段、46a…三次元マップ、47…スロットルバルブ駆動部、48…燃料噴射量制御手段、60…変速機、E…目標スロットルバルブ開度、F…実スロットルバルブ開度(開度)、G…スロットルグリップ開度、H…保持判定値
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットル操作手段(26)の操作状態を検知して、エンジン(14)の吸気系に備えられるスロットルバルブ(28)をアクチュエータ(31)で制御するTBWシステムを備えると共に、前記スロットルバルブ(28)の開度(F)を検知して燃料噴射量を決定するようにした車両(1)の燃料噴射制御装置において、
前記スロットル操作手段(26)の操作状態を検知するスロットル操作状態検知手段(27)と、
前記スロットルバルブ(28)の開度(F)を検知するスロットルバルブ開度検知手段(31)と、
前記エンジン(14)に設けられた燃料噴射弁(29)の燃料噴射を制御する燃料噴射量制御手段(48)とを具備し、
前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じて前記車両(1)の加速状態を検知して燃料の増量補正を実行する際に、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力と前記スロットル操作手段(26)の操作状態とに基づいて増量補正値を決定することを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記車両(1)の加速状態が検知された場合に、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中でない場合には、前記増量補正値を徐々に減衰させる減衰状態、または、前記増量補正値をゼロとする中止状態とするように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記車両(1)の加速状態が検知されていない場合に、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、前記増量補正値をそのまま保つ保持状態とするように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記燃料噴射量制御手段(48)は、
前記エンジン(14)の回転数および変速機(60)のギヤポジションに基づいて前記スロットルバルブ(28)の目標スロットルバルブ開度を導出し、
前記車両(1)の加速状態が検知され、かつ前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、前記目標スロットルバルブ開度(E)と所定の保持判定値(H)とを比較し、
前記目標スロットルバルブ開度(E)が前記保持判定値(H)より小さいと、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値の更新処理を継続する継続状態とするように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記目標スロットルバルブ開度(E)が前記保持判定値(H)以上であると、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値をそのまま保持する保持状態とするように設定されていることを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記燃料噴射量制御手段(48)は、
前記スロットル操作手段(26)の開度変化量(ΔTHG)に基づいて前記スロットル操作手段(26)の操作状態を判定し、
前記開度変化量(ΔTHG)が所定の開き側しきい値(ΔTHGO)以上である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向であると判定し、
前記開度変化量(ΔTHG)が前記所定の開き側しきい値(ΔTHGO)未満であり、かつ所定の閉め側しきい値(ΔTHGC)以上である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が停止中であると判定し、
前記開度変化量(ΔTHG)が所定の閉め側しきい値(ΔTHGC)未満である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定し、
前記スロットル操作手段(26)の操作状態が停止中の場合には、前記増量補正値を徐々に減少させる減衰状態とし、一方、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定されると、前記増量補正値をゼロとする中止状態とすることを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記減衰状態では、第1段目の減衰度合を用いて前記加速増量値を減少させ、前記加速増量値が所定値になると、第2段目の減衰度合を用いて前記加速増量値がゼロになるまで減少させることを特徴とする請求項6に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項8】
前記燃料噴射量制御手段(48)は、
前記スロットルバルブ開度検知手段(31)によって検知されるスロットルバルブ開度変化量(ΔTH)が所定値以上であると、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値の更新処理を継続する継続状態とすることを特徴とする請求項3または4に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項9】
前記保持判定値(H)は、変速機(60)のギヤ段数およびエンジン(14)の回転数に応じて予め規定されるデータマップによって導出されることを特徴とする請求項5に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項1】
スロットル操作手段(26)の操作状態を検知して、エンジン(14)の吸気系に備えられるスロットルバルブ(28)をアクチュエータ(31)で制御するTBWシステムを備えると共に、前記スロットルバルブ(28)の開度(F)を検知して燃料噴射量を決定するようにした車両(1)の燃料噴射制御装置において、
前記スロットル操作手段(26)の操作状態を検知するスロットル操作状態検知手段(27)と、
前記スロットルバルブ(28)の開度(F)を検知するスロットルバルブ開度検知手段(31)と、
前記エンジン(14)に設けられた燃料噴射弁(29)の燃料噴射を制御する燃料噴射量制御手段(48)とを具備し、
前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じて前記車両(1)の加速状態を検知して燃料の増量補正を実行する際に、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力と前記スロットル操作手段(26)の操作状態とに基づいて増量補正値を決定することを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記車両(1)の加速状態が検知された場合に、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中でない場合には、前記増量補正値を徐々に減衰させる減衰状態、または、前記増量補正値をゼロとする中止状態とするように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記燃料噴射量制御手段(48)は、前記車両(1)の加速状態が検知されていない場合に、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、前記増量補正値をそのまま保つ保持状態とするように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記燃料噴射量制御手段(48)は、
前記エンジン(14)の回転数および変速機(60)のギヤポジションに基づいて前記スロットルバルブ(28)の目標スロットルバルブ開度を導出し、
前記車両(1)の加速状態が検知され、かつ前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向に駆動中である場合には、前記目標スロットルバルブ開度(E)と所定の保持判定値(H)とを比較し、
前記目標スロットルバルブ開度(E)が前記保持判定値(H)より小さいと、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値の更新処理を継続する継続状態とするように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記目標スロットルバルブ開度(E)が前記保持判定値(H)以上であると、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値をそのまま保持する保持状態とするように設定されていることを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記燃料噴射量制御手段(48)は、
前記スロットル操作手段(26)の開度変化量(ΔTHG)に基づいて前記スロットル操作手段(26)の操作状態を判定し、
前記開度変化量(ΔTHG)が所定の開き側しきい値(ΔTHGO)以上である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が開き方向であると判定し、
前記開度変化量(ΔTHG)が前記所定の開き側しきい値(ΔTHGO)未満であり、かつ所定の閉め側しきい値(ΔTHGC)以上である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が停止中であると判定し、
前記開度変化量(ΔTHG)が所定の閉め側しきい値(ΔTHGC)未満である場合には、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定し、
前記スロットル操作手段(26)の操作状態が停止中の場合には、前記増量補正値を徐々に減少させる減衰状態とし、一方、前記スロットル操作手段(26)の操作状態が閉じ方向または全閉であると判定されると、前記増量補正値をゼロとする中止状態とすることを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記減衰状態では、第1段目の減衰度合を用いて前記加速増量値を減少させ、前記加速増量値が所定値になると、第2段目の減衰度合を用いて前記加速増量値がゼロになるまで減少させることを特徴とする請求項6に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項8】
前記燃料噴射量制御手段(48)は、
前記スロットルバルブ開度検知手段(31)によって検知されるスロットルバルブ開度変化量(ΔTH)が所定値以上であると、前記スロットルバルブ開度検知手段(31)の出力に応じた前記増量補正値の更新処理を継続する継続状態とすることを特徴とする請求項3または4に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項9】
前記保持判定値(H)は、変速機(60)のギヤ段数およびエンジン(14)の回転数に応じて予め規定されるデータマップによって導出されることを特徴とする請求項5に記載の燃料噴射制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−21458(P2012−21458A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159710(P2010−159710)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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