説明

燃料容器および燃料パイプ

【課題】 本発明は、燃料バリヤ性および層間剥離の無い機械的特性に優れた燃料容器および燃料パイプを提供することを目的とする。
【解決手段】 基材樹脂である熱可塑性樹脂Aと、副樹脂である熱可塑性樹脂Bとを、それぞれ別々の押出機で溶融し、溶融状態のまま熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bをスタティックミキサ経由で成形して得た多層構造の層を主として含む燃料容器および燃料パイプであって、前記多層構造の層において前記熱可塑性樹脂Aを含有するX層と熱可塑性樹脂Bを含有するY層とが厚み方向に少なくとも3層以上積層されたことを特徴とする燃料容器および燃料パイプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料バリヤ性および層間剥離の無い機械的特性に優れた燃料容器および燃料パイプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、自動車等車両の燃料タンクなどのように、その軽量化および成形加工の容易化を計るべくプラスチック製の成形体が提案され実用化されつつある。プラスチック製燃料タンクは、ポリエチレン製単層型が普及しているが、比較的高い透過性を有する欠点がある。これに対し、従来、ポリエチレン製タンクにスルホン処理(例えば、特許文献1参照)や、フロン処理によりバリヤ性を向上させる方法(例えば、特許文献2参照)や、ポリエチレンにナイロン等のバリヤ性を有する物質を混入させる方法(例えば、特許文献3参照)、また、一方では、多層構造体にし、バリヤ層にナイロンやエチレンビニルアルコール共重合体などのバリヤ性樹脂を用い、その両側に接着材層を介して高密度ポリエチレン層を設けた3種5層構造(例えば、特許文献4、5参照)が提案されているが、バリア層との密着性が悪かったり機械的強度が劣ったりする傾向にある。
【0003】
更には、近年の環境汚染に対する規制強化の中で、大気汚染防止の観点から、さらには、ガソリンの消費節約、オクタン価改良のために米国中心に使用されているメタノール、MTBE(メチル・ターシャル・ブチル・エーテル)等をブレンドしたガソリン(以下ガスホールと略記することがある)やガソリンタンクの使用時に実際上避けることのできない水分混入に対して、タンク全体からのガソリン透過量が増大すると言う欠点を有しており、これらの欠点の改良が望まれている。
【0004】
これを改良する手段として、上記方法が提案されているが、ポリエチレンとナイロンなどのバリヤ性樹脂との積層体では、高価な装置を用いなければならず、さらに生産性が悪いなどの問題がある。また、ポリエチレンにナイロンを混合して同時に溶融押し出しし、ポリエチレン層中にナイロンを不連続に分散する方法では、ガスホールに対するバリヤ性が不足し、ポリエチレン単層にスルホン処理や、フッ素処理する方法では、ガスホールに対するバリヤ性の不足や、ガソリン中の水分により透過性が増大する問題があり解決が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特公昭46−23914号公報
【特許文献2】特公昭47−21877号公報
【特許文献3】特開平4−296331号公報
【特許文献4】特開2001−97053号公報
【特許文献5】特開2004−352985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述の事情に鑑み、燃料バリヤ性および層間剥離の無い機械的特性に優れた燃料容器および燃料パイプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、本発明を完成するに到った。即ち、本発明の燃料容器および燃料パイプは、基材樹脂である熱可塑性樹脂Aと、副樹脂である熱可塑性樹脂Bとを、それぞれ別々の押出機で溶融し、溶融状態のまま熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bをスタティックミキサ経由で成形して得た多層構造の層を主として含む燃料容器および燃料パイプであって、前記多層構造の層において前記熱可塑性樹脂Aを含有するX層と熱可塑性樹脂Bを含有するY層とが厚み方向に少なくとも3層以上積層されたことを特徴とする燃料容器および燃料パイプである。
【0008】
この場合において、熱可塑性樹脂Bの、フィルム厚み20μm換算値のガソリン透過量が10g/m・day以下であることができる。なお、ガソリン透過量の測定方法は、測定法の項において説明する。
【0009】
この場合において、熱可塑性樹脂Aが、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂のいずれか一種であることができる。
【0010】
この場合において、最外層が熱可塑性樹脂Aであることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の燃料容器および燃料パイプは、燃料バリヤ性および層間剥離がなく機械的特性に優れており、特に自動車等車両の燃料容器および燃料パイプとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の燃料容器および燃料パイプの実施の形態を具体的に説明する。
(熱可塑性樹脂A)
燃料容器および燃料パイプの基材樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体などのポリエチレン樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体(炭素数4〜20のα−オレフィン)などのポリプロピレン樹脂、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独またはその共重合体、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン7、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46及びこれらの共重合体等のポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられる。上記の中でも、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリスチレンが好ましく用いられる。
【0013】
ポリエチレン樹脂としては、エチレン単独あるいはエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンから選ばれた1種または2種以上のコモノマーとを重合させた重合体が挙げられる。α−オレフィンの代表例としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、及び1−エイコセンなどが挙げられる。
【0014】
また、ポリエチレン樹脂としては、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、不飽和エポキシ化合物等のビニル化合物との共重合体等も挙げられる。
【0015】
また、本発明に係るポリエチレン樹脂の、JIS K7210による190℃での荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)は、0.01〜5g/10min、好ましくは0.05〜3g/10min、より好ましくは0.1〜1g/minの範囲である。MFRの値が前記範囲にある場合は、樹脂の流動性は優れ、また、成形加工性も優れたものとなる。
【0016】
また、本発明に係るポリエチレン樹脂の密度は、0.93g/cm 以上であることが好ましい。耐ストレスクラック性を良好にするためには、樹脂の密度は低くすることが有効であるが、本発明に係る樹脂組成物においては、密度が0.93g/cm 未満である場合、燃料容器等の剛性が不足し使用に耐えない。
【0017】
本発明に係るポリプロピレン樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと、エチレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1等の炭素数2〜20程度の他のα−オレフィンや、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン等のビニル化合物との共重合体、あるいはヘキサジエン、オクタジエン、デカジエン、ジシクロペンタジエン等のジエンとの共重合体等が挙げられる。
【0018】
また、本発明に係るポリプロピレン樹脂の、JIS K7210による230℃での荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)は、0.01〜5g/10minの範囲である。MFRの値が前記範囲にある場合は、樹脂の流動性は優れ、また、成形加工性も優れたものとなる。
【0019】
熱可塑性樹脂Aと、副樹脂である熱可塑性樹脂Bとの密着性を向上させるため、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂を不飽和カルボン酸またはその誘導体によって変性することが好ましい。
【0020】
ポリプロピレンおよびポリエチレンを変性するための変性剤である不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンド−ビシクロ(2,2,1)ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(ナジック酸)、メチル−エンドシス−ビシクロ(2,2,1)ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(メチルナジック酸)等が例示できる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、上記の酸のハライド、アミド、イミド、酸無水物、エステル等の反応性誘導体が挙げられる。具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエート等が例示できる。これらの中で、不飽和ジカルボン酸又は不飽和ジカルボン酸無水物が好適に用いられる。特にマレイン酸、ナジック酸、またこれらの酸無水物が好ましく、更には、ラジカル発生剤を添加することが好ましく、ラジカル発生剤としては、公知の有機過酸化物又はジアゾ化合物が用いられ得る。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジブチルパーオキシヘキシン−3、アゾビスイソブチロニトリル等を例示することができる。ラジカル発生剤の使用量は、変性される樹脂に対して0.02重量%以上、好ましくは0.02〜0.5重量%である。変性する装置としては、従来の公知の装置を用いることができる。例えば、撹拌翼付き反応装置、一軸或いは二軸スクリュー押出機、バンバリ−ミキサー、ニーダーミキシングロール等の混練装置を、単独或いは組み合わせて使用することができる。加熱混合の温度は、ポリプロピレンの融点以上とすることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂等の芳香族ポリエステル樹脂及びその共重合樹脂などを挙げることが出来る。
前記の熱可塑性ポリエステル樹脂の中では、機械的特性、経済性の面からポリエチレンテレフタレート樹脂が最も好まし。ポリエチレンテレフタレート樹脂としては、好ましくはエチレンテレフタレート単位を70モル%以上、さらに好ましくは、エチレンテレフタレート単位を85モル%以上、特に好ましくはエチレンテレフタレート単位を95モル%以上含むことが望ましい。
【0022】
これらの熱可塑性ポリエステル樹脂に共重合できるジカルボン酸としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸、ナフタレンー2,6−ジカルボン酸、ジフェニール−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びその機能的誘導体、p−オキシ安息香酸、オキシカプロン酸等のオキシ酸及びその機能的誘導体、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその機能的誘導体、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸及びその機能的誘導体などが挙げられ、これらの共重合量は30モル%以下、好ましくは15モル%以下、最も好ましくは5モル%以下である。
【0023】
これらの熱可塑性ポリエステル樹脂に共重合できるグリコールとしては、ジエチレングリコール、1,3−トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、2−メチルー1,3−プロパンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ダイマーグリコール等の脂肪族グリコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、2,5−ノルボルナンジメチロール等の脂環族グリコール、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリアルキレングリコールなどが挙げられ、これらの共重合量は30モル%以下、好ましくは15モル%以下、最も好ましくは5モル%以下である。
【0024】
さらに、本発明に係る熱可塑性ポリエステル樹脂が共重合体である場合に使用される共重合成分としての多官能化合物としては、酸成分として、トリメリット酸、ピロメリット酸等を挙げることができ、グリコール成分としてグリセリン、ペンタエリスリトールを挙げることができる。以上の共重合成分の使用量は、ポリエステルが実質的に線状を維持する程度でなければならない。また、単官能化合物、例えば安息香酸、ナフトエ酸等を共重合させてもよい。
【0025】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステル樹脂の極限粘度は、0.45〜1.30デシリットル/グラム、好ましくは0.50〜1.20デシリットル/グラム、さらに好ましくは0.60〜0.90デシリットル/グラムの範囲である。極限粘度が0.45デシリットル/グラム未満では、得られた燃料容器等の機械的特性が悪い。極限粘度の値が前記範囲にある場合は、樹脂の流動性は優れ、また、成形加工性も優れたものとなる。
【0026】
これらの中でも、ポリチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレンが好ましく、高密度ポリエチレン、特に密度が0.93g/cm以上の高密度ポリエチレンがより好ましい。
【0027】
本発明の燃料容器および燃料パイプに用いられる前記の熱可塑性樹脂Aには、必要に応じてその他の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、耐熱安定剤、耐侯安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、有機過酸化物、界面活性剤、防曇剤、流滴剤、核剤、顔料、染料、シリカ、タルク、マイカ、カーボン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属ステアレート、セルロースパウダー等の無機あるいは、有機の添加剤、充填剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加しても良い。特に熱劣化を防止するため、フェノール系、ヒンダードフェノール系、リン系及びイオウ系等の耐熱安定剤、組成物の粘度を調整するため、ジアルキルパーオキサイド系及びジアシルパーオキサイド系等の有機過酸化物、触媒の活性を失活させるため、カルシウムステアレート、ジンクステアレート等の金属ステアレート、燃料容器等の着色のため、酸化チタン、フタロシアニンブルー等の顔料が好適に用いられる。
【0028】
これらの有機系あるいは無機系の添加剤や充填剤を添加する方法としては、公知な種々の方法、例えば、ヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー及びバンバリーミキサー等で溶融混練し、造粒あるいは粉砕する方法か、もしくは事前に溶融混練せずにドライブレンド品又はオートフィーダーによるブレンド方法を用いることができる。
【0029】
(熱可塑性樹脂B)
燃料容器および燃料パイプの副樹脂としては、フィルム厚み20μm換算値のガソリン透過量が10g/m・day以下である熱可塑性樹脂が好ましく用いられ、特に、脂肪族ポリアミド樹脂、部分芳香族ポリアミド樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂のいずれか一種から選択することができる。このようにガソリン透過量が10g/m・day以下の熱可塑性樹脂Bを用いて得られた燃料容器および燃料パイプは、耐ガソリンバリヤの点で非常に有益である。
【0030】
本発明に用いられる脂肪族ポリアミドとしては、εーカプロラクタム、エナントラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム類からの開環重合により得られるポリアミド、ω-アミノヘプタン酸、ωーアミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類の重縮合により得られるポリアミド、ジアミンとジカルボン酸とのナイロン塩の重縮合により得られるポリアミド、更には、上記記載の各種ラクタム、アミノカルボン酸、ジアミンとジカルボン酸とのナイロン塩とを適宜混合したものを共重縮合して得られるポリアミド共重合体が挙げられる。ジアミンの具体例としてはエチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、1,3ービスアミノメチルシクロヘキサン等の脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン等が挙げられる。ジカルボン酸の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等の脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0031】
また、ポリアミド系ブロック共重合体も本発明のポリアミド組成物の構成成分として用いることが好ましい。前記の脂肪族ポリアミドと共に使用することも可能である。ポリアミド系ブロック共重合体は、ポリアミド成分によって構成されるハードセグメントとポリオキシアルキレングリコール成分によって構成されるソフトセグメントからなるポリアミド系ブロック共重合体であり、ハードセグメントのポリアミド成分は、ε―カプロラクタム、ω−アミノ脂肪酸カルボン酸、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸、又は脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸よりなる群から選択され、具体的には、ε−カプロラクタムの如きラクタム、アミノヘプタン酸の如き脂肪族ジアミン、アジピン酸の如き脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸を例示することができる。また、上記ポリアミド系ブロック共重合体のソフトセグメントを構成するポリオキシアルキレングリコールは、例えば、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシ−1,2−プロピレングリコール等が挙げられる。
【0032】
具体的には、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン46及びこれらの共重合体、混合物などの脂肪族ポリアミドが挙げられる。好ましい脂肪族ポリアミドは、ナイロン6及びナイロン66、ナイロン12である。
本発明で使用される脂肪族ポリアミドの相対粘度は、1.7〜5.5、好ましくは1.9〜5.0の範囲にあることが好ましい。相対粘度が1.7未満の場合は、脂肪族ポリアミドの分子量が低く、フィルム等の成形品とした場合必要な機械的強度を示さず、また、溶融粘度が低いために成形の際不都合を生じる。相対粘度が5.5を越える場合は、脂肪族ポリアミドの溶融粘度が高く、成形の際成形機に負担がかかりすぎ混合が難かしいため好ましくない。
【0033】
また、本発明に係る部分芳香族ポリアミドは、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンとから誘導される単位を主構成単位とするポリアミド、または芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから誘導される単位を主構成単位とするポリアミドである。
【0034】
本発明に係る部分芳香族ポリアミドを構成する芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニ−ル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸及びその機能的誘導体等が挙げられる。
本発明に係る部分芳香族ポリアミドを構成する脂肪族ジカルボン酸成分としては、直鎖状の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、さらに炭素数4〜12のアルキレン基を有する直鎖状脂肪族ジカルボン酸が特に好ましい。このような直鎖状脂肪族ジカルボン酸の例としては、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン酸、ウンデカジオン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸およびこれらの機能的誘導体などを挙げることができる。
【0035】
本発明に係る部分芳香族ポリアミドを構成する芳香族ジアミン成分としては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラ−ビス−(2−アミノエチル)ベンゼンなどが挙げられる。
本発明に係る部分芳香族ポリアミドを構成する脂肪族ジアミン成分としては、炭素数2〜12の脂肪族ジアミンあるいはその機能的誘導体である。脂肪族ジアミンは直鎖状の脂肪族ジアミンであっても分岐を有する鎖状の脂肪族ジアミンであってもよい。このような直鎖状の脂肪族ジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、1−メチルエチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0036】
また本発明に係る部分芳香族ポリアミドを構成するジカルボン酸成分として、上記のような芳香族ジカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸以外に脂環族ジカルボン酸を使用することもできる。脂環族ジカルボン酸としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
また本発明に係る部分芳香族ポリアミドを構成するジアミン成分として、上記のような芳香族ジアミンや脂肪族ジアミン以外に脂環族ジアミンを使用することもできる。脂環族ジアミンとしては、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4,4’−アミノヘキシル)メタン等の脂環族ジアミンが挙げられる。
【0037】
前記のジアミン及び、ジカルボン酸以外にも、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸等も共重合成分として使用できる。とりわけ、ε−カプロラクタムの使用が望ましい。
【0038】
本発明に係る部分芳香族ポリアミドの好ましい例としては、メタキシリレンジアミン、もしくはメタキシリレンジアミンと全量の30%以下のパラキシリレンジアミンを含む混合キシリレンジアミンと脂肪族ジカルボン酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に少なくとも20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、特に好ましくは40モル%以上含有するメタキシリレン基含有ポリアミドである。
【0039】
また本発明に係る部分芳香族ポリアミドは、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3塩基以上の多価カルボン酸から誘導される構成単位を実質的に線状である範囲内で含有していてもよい。
【0040】
これらポリアミドの例としては、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンセバカミド、ポリメタキシリレンスペラミド等のような単独重合体、及びメタキシリレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアジパミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンピペラミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアゼラミド共重合体、メタキシリレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸/ε−カプロラクタム共重合体、メタキシリレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸/ω―アミノカプロン酸共重合体等が挙げられる。
【0041】
また本発明に係る部分芳香族ポリアミドの好ましいその他の例としては、脂肪族ジアミンとテレフタル酸またはイソフタル酸から選ばれた少なくとも一種の酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に少なくとも20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、特に好ましくは40モル%以上含有するポリアミドである。
これらポリアミドの例としては、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/イソフタル酸共重合体、ポリノナメチレンテレフタルアミド、ポリノナメチレンイソフタルアミド、ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/イソフタル酸共重合体、ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸共重合体等が挙げられる。
【0042】
また本発明に係る部分芳香族ポリアミドの好ましいその他の例としては、脂肪族ジアミンとテレフタル酸またはイソフタル酸から選ばれた少なくとも一種の酸以外に、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸等を共重合成分として使用して得た、脂肪族ジアミンとテレフタル酸またはイソフタル酸から選ばれた少なくとも一種の酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に少なくとも20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、特に好ましくは40モル%以上含有するポリアミドである。
これらポリアミドの例としては、ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム共重合体、ヘキサメチレンジアミン/イソフタル酸/ε−カプロラクタム共重合体、ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸/ε−カプロラクタム共重合体等が挙げられる。
【0043】
本発明に係るエチレンビニルアルコール共重合樹脂は、エチレンとビニルエステルからなる共重合体(EVOH)をアルカリ触媒等を用いてケン化して得られる。ビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステルも使用できる。また、本発明の目的が阻害されない範囲で、他の共単量体、例えば、プロピレン、ブチレン、あるいは(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸又はそのエステル、およびN−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドン、ビニルシラン化合物を共重合することも出来る。
【0044】
本発明に係るエチレンビニルアルコール共重合樹脂のエチレン含量は、5〜60モル%、10〜55モル%であり、好適には15〜50モル%、より好適には20〜50モル%である。エチレン含有量が5モル%未満では、高湿度下での燃料バリヤ性が低下し溶融成形性も悪化する。またエチレン含有量が60モル%を超えると充分な燃料バリヤ性が得られない。
【0045】
また、本発明に係るエチレンビニルアルコール共重合樹脂のビニルエステル成分のケン化度は90%以上であり、好適には95%以上、より好適には98%以上である。ケン化度が90%未満では、高湿度時の燃料バリヤ性が低下するだけでなく、エチレンビニルアルコール共重合樹脂の熱安定性が悪化し、成形物にゲルが発生しやすくなる。
【0046】
また、エチレンビニルアルコール系樹脂、特にEVOHには、本発明の目的が阻害されない範囲で他の単量体を少量共重合することもできる。共重合できる単量体の例としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、その塩、その部分または完全エステル、そのニトリル、そのアミド、その無水物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;ビニルピロリドン類などが挙げられる。
【0047】
なかでも、EVOHに共重合成分としてビニルシラン化合物0.0002〜0.2モル%を含有する場合は、共押出成形する際の熱可塑性樹脂(B)との溶融粘性の整合性が改善され、均質な成形体の製造が可能である。ここで、ビニルシラン系化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等が挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0048】
また、EVOHには、溶融粘性、熱安定性、相溶性、着色改良などのために、ホウ素化合物、アルカリ金属塩やリン酸化合物を含有させることが好ましい。
【0049】
本発明に用いる部分芳香族ポリアミド樹脂の250℃、剪断速度100/秒の条件で測定した溶融粘度は、100〜10000Pa・sであることが本発明の燃料容器および燃料パイプが多層構造を保持するためには必要な条件である。100Pa・s未満では副樹脂である部分芳香族ポリアミド樹脂が層状にならないので燃料容器および燃料パイプのバリヤ性が向上しない。また、10000Pa・sを超えると、溶融粘度が高くなりすぎ成形時に充分な流動性が得られず高速成形性に劣り、燃料容器等の色調や外観も悪くなり問題である。
【0050】
また、本発明に用いるエチレンビニルアルコール共重合樹脂のメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下、JIS K7210に基づく)は0.01〜100g/10分、より好適には0.05〜50g/10分、さらに好適には0.1〜10g/10分である。100g/10分未満では副樹脂であるエチレンビニルアルコール共重合樹脂が層状にならないので燃料容器および燃料パイプのバリヤ性が向上しない。また、0.01g/10分を超えると、溶融粘度が高くなりすぎ成形時に充分な流動性が得られず高速成形性に劣り、燃料容器等の色調や外観も悪くなり問題である。
【0051】
本発明に用いられる前記の副樹脂には、例えば、熱安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー、他の樹脂などを本発明の目的が阻害されない範囲で使用することができる。添加方法としては前記熱可塑性樹脂Aで記載した方法を用いることが出来る。
【0052】
(燃料容器および燃料パイプ)
本発明の燃料容器および燃料パイプは、基材樹脂である熱可塑性樹脂Aを含有するX層と副樹脂である熱可塑性樹脂Bを含有するY層とが厚み方向に少なくとも3層以上積層された多層構造を有する。
燃料容器および燃料パイプの厚み方向の層数は、好ましくは10層以上、さらに好ましくは100層以上である。層数の上限値は100万層であり、これを超える層数にしてもガソリン透過性の向上は出来ない。
【0053】
また、燃料容器および燃料パイプ中の熱可塑性樹脂Aの含有量は用いる樹脂Aの種類により異なるが、価格、バリヤ特性、機械的特性などを考慮して、99〜53重量%、好ましくは95〜55重量%、さらに好ましくは90〜58重量%、80〜60重量%である。熱可塑性樹脂Aの含有量が99重量%を超えると燃料容器および燃料パイプのガソリン透過性が基材樹脂のガソリン透過性とあまり変わらなくなり効果がなくなる。また、53重量%未満では機械的強度の悪化や価格の高騰などになり実用性に乏しくなるので好ましくない。
【0054】
燃料容器および燃料パイプの作製方法としては、射出成形の他、押出成形法、あらかじめ作成したシートを熱成形する方法などが挙げられる。
以下には、例として押出成形法による本発明の燃料容器の製法を説明する。
【0055】
基材樹脂である熱可塑性樹脂A(以下、樹脂成分Aと略称する)および副樹脂である熱可塑性樹脂B(以下、樹脂成分Bと略称する)を、それぞれ異なる押出機A1およびB1に投入し、溶融する。溶融温度は、各樹脂成分にとって劣化や変質を起こさないものであれば構わない。ひとつの指標として、結晶性を示す樹脂成分の場合は、融点+(5℃〜30℃)、非晶性の樹脂成分の場合は軟化温度+(20℃〜150℃)である。
【0056】
溶融した樹脂成分Aおよび樹脂成分Bは、溶融状態のまま、スタティックミキサに導かれ、樹脂成分Aを含有するX層と樹脂成分Bを含有するY層の積層体が形成される。溶融した樹脂成分Aおよび樹脂成分Bのスタティックミキサへの投入を容易にするために、スタティックミキサの前にフィードブロックを設置し、フィードブロックで一度樹脂成分Aおよび樹脂成分Bを合流させてから、スタティックミキサに導いてもよい。
【0057】
本発明におけるスタティックミキサとは、配管内に、横長の長方形の板をその短辺同士のなす角(捩り角)が45度〜270度となるように捩じ曲げた形状のエレメントを、隣接するエレメントの短辺同士が交差するように交互に配列させた配管内混合装置のことである。1つのエレメントを溶融樹脂が通過する時、樹脂が2層に分割されると共に、各樹脂層に、エレメントの旋回方向とは逆方向への捩れが生じる。さらに、次のエレメントを通過すると、同様に樹脂の分割と捩れが生じ、4層に分割される。従って、樹脂成分Aと樹脂成分Bとを1層ずつ積層した状態で、スタティックミキサに導入すると、理論上は、最初のエレメントの短辺が積層面に水平であれば、n個のエレメントを通過すると2n層に、最初のエレメントの短辺が積層面に垂直であれば2n+1層になるが、実際には、流路径と長さ、エレメントの捩り角、捩り勾配、樹脂の吐出量、各樹脂の粘度や表面張力などの溶融特性の影響で変化することもあり、連続した層にはならない場合がある。出来るだけ連続した層を多くするには使用する樹脂の溶融粘度や押出条件を適正化することが好ましい。
【0058】
スタティックミキサのエレメントのL/D(配管長/配管の内径)比は、1.0〜3.0の範囲が好ましく、1.4〜2.0の範囲がより好ましい。L/D比が1.0より小さいと樹脂の分割効率が悪くなり、3.0を超えるとミキサ内を通過する樹脂の滞留時間が長くなるため実用的ではない。
【0059】
スタティックミキサのエレメントの捩り角は、45度以上とする。捩り角が45度未満では樹脂層のねじりが不充分となるからである。捩り角は、90度以上がより好ましく、135度以上がさらに好ましい。捩り角の上限は315度がよい。315度を超えると過度のねじりによって、均一な積層構造が得られない。捩り角は270度以下が好ましく、215度以下がより好ましい。なお、均一な積層構造が得られないというのは、樹脂成分Bが球状や楕円状などの層状でない状態に分散された構造になることをいう。
【0060】
また、スタティックミキサの配管側面を樹脂の進行方向に切断して展開した場合の、配管内壁とエレメントとのつなぎ目をたどる直線と、樹脂の進行方向とがなす角度、つまりエレメントの捩り勾配は、27度以上が好ましい。この捩り勾配が27度未満では樹脂層の捩り効果が少なく、樹脂に充分なねじりを与えるためにはL/D比を大きくしなければならないため、実用的ではない。捩り勾配は38度以上がより好ましく、42度以上がさらに好ましい。一方、捩り勾配が65度を超える場合は、樹脂の乱流が激しくなるため、積層構造が乱れるため好ましくない。捩り勾配は54度以下がより好ましく、50度以下がさらに好ましい。
【0061】
スタティックミキサのエレメントの好ましい形状は、樹脂の吐出量や溶融特性に応じて適宜選択することができ、また、スタティックミキサを通過する樹脂の溶融特性の変化に対応して、形状の異なる複数のエレメントを組み合わせて用いることもできる。最も好ましいエレメントは、L/D=1.5、捩り角180度、捩り勾配46度のものである。
【0062】
スタティックミキサのエレメントの配列は、エレメントの捩れ方向が、右旋回、左旋回、右旋回となるように、交互に方向を変えることが好ましい。均一な積層構造が得られるためである。また、隣接するエレメントを直角に交わるように配列することも、均一な積層構造が得られるためには好ましい。
【0063】
スタティックミキサのエレメント数は、4以上が好ましく、より好ましくは6以上であり、さらに好ましくは8以上である。一方、当該エレメント数が大きくなりすぎると、積層構造の乱れが生じ、球状構造になりやすくなるため、当該エレメント数を24以下とすることが好ましく、18以下とすることがより好ましく、14以下とすることがさらに好ましい。
【0064】
上記で説明したスタティックミキサの構造は1つの典型であり、本発明の目的を逸脱しない範囲で形状や配置を変更したり、また、スタティックミキサの前後や、そのエレメント間に別の装置を配置することも、もちろん可能である。例えば、樹脂配管よりも小径のスタティックミキサを配管内に2列以上並列させてもよい。樹脂成分Aと樹脂成分Bとをスタティックミキサを通過させて積層した積層樹脂に、さらに、別の樹脂を合流させて積層させることもできる。
【0065】
また、フィードブロックを複数用いて、3層以上に積層した積層樹脂を、スタティックミキサに導いてさらに多層化することもできる。この場合には、フィードブロックでの積層数の分だけ、スタティックミキサのエレメント数を少なくすることができ、フィードブロックによる積層数は10層以内とすることが好ましい。
【0066】
スタティックミキサの温度としては、樹脂成分が結晶性を示す場合には、融点+(5℃〜30℃)、非晶性を示す場合には、軟化温度+(20℃〜150℃)に設定するのがよく、最も好ましくは、溶融温度として採用した温度と同じ温度に設定する。
この積層体を溶融状態のまま、押出成形用ダイスに供給し、燃料容器を成形する。
【0067】
また、前記積層構造において、最外層は、X層またはY層のいずれであってもよい。
また、最外層が熱可塑性樹脂Aであり、内層が熱可塑性樹脂Aを含有するX層と熱可塑性樹脂Bを含有するY層とが厚み方向において積層されており、積層された層数が3層以上の構成であってもよい。
【0068】
以上のようにして得られた燃料容器および燃料パイプは、層間剥離がないために落下衝撃強度が不足することがなく、バリヤ性および耐衝撃性に優れているため、燃料、特に含酸素ガソリンのバリヤ性が求められる自動車、オートバイ、船舶、航空機、農業用機器等に搭載された燃料用容器、これらの燃料容器に燃料を補給するための携帯用容器や一時保管容器およびこれらの燃料容器に付随した燃料用パイプとして、特に、自動車用ガソリン容器やガソリンパイプとして有用である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、主な特性値の測定法を以下に説明する。
【0070】
(1)溶融粘度
東洋精機(株)製のキャピログラフを用いて(D=0.5mm、L=5mmのノズル)、剪断速度100/秒で測定した。
但し、測定温度は、
Ny6及びNy−MXD6系樹脂=250℃、
EVAL=210℃
【0071】
(2)熱可塑性樹脂Bのガソリンバリヤ性試験
JIS−Z 0208に準じてカップ法(40℃、65%RH)で測定した。モデルガソリンとしては、トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10(容量%)を用いた。
【0072】
(3)燃料容器の器壁の層数
燃料容器の器壁の層数は、透過型電子顕微鏡を用いて観察して求めた。まず、燃料容器のほぼ中央から断面が全て含まれるように切片を切り取り、これをエポキシ樹脂中に包埋した。用いたエポキシ樹脂としては、ルアベック812、ルアベックNMA(以上ナカライテスク社製)、DMP30(TAAB社製)をそれぞれ100:89:3の割合で良く混合したものを用いた。次に、サンプルを上述の混合樹脂中に包埋後、温度60℃に調整したオーブン中で16時間放置し、樹脂を硬化せしめ包埋ブロックを得た。
得られた包埋ブロックを、日製産業製ウルトラカットNに取り付け超薄切片を作成した。まず、ガラスナイフを用いてキャップの観察に供したい部分の断面がレジン表面に現れるまでトリミングを実施した。次に、ダイアモンドナイフ(住友電工製スミナイフSK2045)を用いて超薄切片を切りだした。切りだした切片はメッシュ上に回収した後、室温で四酸化ルテニウム蒸気中に30分間静置して染色し、薄くカーボン蒸着を施した。
電子顕微鏡観察は、日本電子製JEM−2010を加速電圧200kV、4万倍の条件で実施した。得られた像はイメージングプレート(フジ写真フィルム製FDL UR−V)上に記録した。イメージングプレート上に記録した信号をデジタルルミノグラフィー(日本電子製PixsysTEM)を用いて読み出し、ウインドウズ(登録商標)パソコン上にデジタルの画像情報として記録し、確認される層の数を数えた。なお、層数は、燃料容器の器壁からの超薄膜切片の電子顕微鏡写真の中央の100μm幅の視野中に存在する層状に存在する層の数を数え、これを層数とした。この操作を10回繰り返し、層数の平均値を求めた。
【0073】
(4)容器のガソリンバリヤ性試験
ブロー成形によって得られた容器にモデルガソリン(注1)を20ml注ぎ込み、完全に漏れないように口栓部に金属製スクリューキャップを取付け、防爆型恒温恒湿槽(40℃、65%RH)中に6週間放置し、重量の経時変化を測定した。(各ガソリンn=10にて測定し、平均値を表1に表示。)
(注1)
バリヤ性1=モデルガソリン1:トルエン/イソオクタン=50/50(容量%)
バリヤ性2=モデルカソリン2:トルエン/イソオクタン/メタノール=42.5/42.5/15(容量%)
バリヤ性3=モデルカソリン3:トルエン/イソオクタン/MTBE=42.5/42.5/15(容量%)
(MTBE:メチルターシャリーブチルエーテル)
【0074】
(5)落下試験A
ブロー成形によって得られた容器に水を充填し、コンクリート上に落下させ、破損する高さを求めた。(n=20)
【0075】
(6)落下試験B
ブロー成形によって得られた容器に水を充填し、5mの高さからコンクリート上に落下させ、容器中央部の器壁を目視で観察し、以下のように評価した。
◎ : 変化なし
× : 層間剥離が発生
【0076】
(使用したポリエチレン樹脂(PE))
三井化学(株)製ハイゼックス HZ8200Bを使用した。
MFR=0.17g/10分(210℃、2.16kg荷重)、密度=0.96g/cm である。
【0077】
(使用した部分芳香族ポリアミド樹脂=Ny−MXD6)
試験に使用した部分芳香族ポリアミドの特性を表1に示す。
Ny−MXD6(a)は、メタキシリレンジアミンとアジピン酸の約80重量%以上の濃度の水溶液を用いて、原料調合工程、アミド化反応工程、初期重縮合反応工程および後期重縮合反応工程から構成される回分式重縮合反応装置によって、製造時間約120分間以内で重縮合時間を適宜変更して得たものである。リン原子含有化合物として次亜リン酸ナトリウムを添加した(P残存量=200ppm、Na含有量=440ppm)。なお、ナトリウム量としては次亜リン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムのナトリウム原子の合計量としてリン原子の約3倍モルになるようにした。
【0078】
(使用したエチレンビニールアルコール共重合樹脂(EVAL))
(株)クラレのエバール、F101を用いた。
【0079】
(使用したポリカプロアミド(Ny6))
東洋紡績(株)製の溶融粘度5000Pa・sのNy6を用いた。
【0080】
【表1】

【0081】
(実施例1)
ポリエチレン樹脂チップを押出機Aに投入し、250℃で溶融した。一方で、Ny−MXD6(a)チップBを押出機Bに投入し、260℃で溶融した。両押出機で溶融した樹脂を、樹脂比率がA/B=60/40(質量比)となるように、260℃のフィードブロックに導き、さらに、260℃のスタティックミキサ(ノリタケカンパニー製、12エレメント、内径38.4mm、1エレメントのL/D=1.5、1エレメントの捩り角180度、捩り勾配46度)にて積層化した。次いで260℃の貯めに導き、これを射出成形し、容量350ml、口栓部直径約25mmの中空多層成形体容器を得た。
結果を表2に示す。結果は問題なかった。
【0082】
(実施例2)
スタティックミキサのエレメント数を変更する以外は実施例1と同様にして中空多層成形体容器を成形した。
結果を表2に示す。結果は問題なかった。
【0083】
(実施例3)
樹脂比率を表2のように変更する以外は実施例1と同様にして中空多層成形体容器を成形した。
結果を表2に示す。結果は問題なかった。
【0084】
(実施例4)
樹脂比率を表2のように変更する以外は実施例1と同様にして中空多層成形体容器を成形した。
結果を表2に示す。結果は問題なかった。
【0085】
(実施例5)
EVAL樹脂を用いる以外は実施例1と同様にして中空多層成形体容器を成形した。
結果を表2に示す。結果は問題なかった。
【0086】
(実施例6)
Ny6樹脂を用いる以外は実施例1と同様にして中空多層成形体容器を成形した。
結果を表2に示す。結果は問題なかった。
【0087】
(実施例7)
三井化学(株)製ハイゼックス HZ8200B 100部、無水マレイン酸 0.3部、2,5−ジメチル−2,5ジブチルパーオキシヘキシン−3(商品名:パーヘキシン25B、日本油脂製) 0.2部 230℃のニーダーミキシングロールの混練装置を用いて反応させ、変性ポリエチレンチップを試作した。
MFR=4.8g/10分(210℃、2.16kg荷重)、密度=0.98g/cm であった。
変性ポリエチレン樹脂チップを押出機Aに投入し、250℃で溶融した。一方で、Ny−MXD6(a)チップBを押出機Bに投入し、260℃で溶融した。両押出機で溶融した樹脂を、樹脂比率がA/B=60/40(質量比)となるように、260℃のフィードブロックに導き、さらに、260℃のスタティックミキサ(ノリタケカンパニー製、12エレメント、内径38.4mm、1エレメントのL/D=1.5、1エレメントの捩り角180度、捩り勾配46度)にて積層化した。次いで260℃の貯めに導き、これを射出成形し、容量350ml、口栓部直径約25mmの中空多層成形体容器を得た。
【0088】
(比較例1)
ポリエチレン樹脂チップ単独を単一の押出機Cに投入して260℃で溶融し、スタティックミキサを使用せずに、実施例1と同様にして中空多層成形体容器を成形した。
結果を表2に示す。ガソリン透過量が多く問題であった。
【0089】
(比較例2)
Ny6を用い、スタティックミキサのエレメント数を変更する以外は実施例1と同様にして中空多層成形体容器を成形した。
結果を表2に示す。落下試験では層間剥離が生じ、また、ガソリン透過量も多く問題であった。
【0090】
(比較例3)
ポリプロピレン樹脂チップとNy−MXD6(a)チップとを単一の押出機Cに60/40の比率で投入して260℃で溶融し、スタティックミキサを使用せずに260℃のダイスに導入し、実施例1と同様にして中空多層成形体容器を成形した。
結果を表2に示す。落下試験では層間剥離が生じ、また、ガソリン透過量も多く問題であった。
【0091】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の燃料容器および燃料パイプは、自動車等車両用の燃料容器および燃料パイプとして好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂である熱可塑性樹脂Aと、副樹脂である熱可塑性樹脂Bとを、それぞれ別々の押出機で溶融し、溶融状態のまま熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bをスタティックミキサ経由で成形して得た多層構造の層を主として含む燃料容器であって、前記多層構造の層において前記熱可塑性樹脂Aを含有するX層と熱可塑性樹脂Bを含有するY層とが厚み方向に少なくとも3層以上積層されたことを特徴とする燃料容器。
【請求項2】
熱可塑性樹脂Bの、フィルム厚み20μm換算値のガソリン透過量が10g/m・day以下であることを特徴とする請求項1に記載の燃料容器。
【請求項3】
熱可塑性樹脂Aが、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂のいずれか一種であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の燃料容器。
【請求項4】
最外層が熱可塑性樹脂Aであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料容器。
【請求項5】
基材樹脂である熱可塑性樹脂Aと、副樹脂である熱可塑性樹脂Bとを、それぞれ別々の押出機で溶融し、溶融状態のまま熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bをスタティックミキサ経由で成形して得た多層構造の層を主として含む燃料パイプであって、前記多層構造の層において前記熱可塑性樹脂Aを含有するX層と熱可塑性樹脂Bを含有するY層とが厚み方向に少なくとも3層以上積層されたことを特徴とする燃料パイプ。
【請求項6】
熱可塑性樹脂Bの、フィルム厚み20μm換算値のガソリン透過量が10g/m・day以下であることを特徴とする請求項5に記載の燃料パイプ。
【請求項7】
熱可塑性樹脂Aが、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂のいずれか一種であることを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載の燃料パイプ。
【請求項8】
最外層が熱可塑性樹脂Aであることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の燃料パイプ。


【公開番号】特開2008−296919(P2008−296919A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141647(P2007−141647)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】