説明

燃料組成検出方法及びエンジン燃焼制御装置

【課題】燃料中の酸素含有官能基の含有量をエンジン駆動とリアルタイムで測定できるようにし、それによってエンジンにおける燃焼を最適に制御する。
【解決手段】液体燃料に周波数が数10GHz〜数THzの電磁波を照射し、液体燃料に含まれる酸素含有官能基による電磁波吸収率を測定することで、液体燃料中の酸素含有官能基の含有量を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに供給される燃料の組成を検出する方法と、その検出値に応じてエンジンの燃焼条件を制御するエンジン燃焼制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用燃料として用いられているガソリンあるいは軽油は、各種分子量の炭化水素(HC)の混合物であり、原油の産地、精製法などによって組成が変動する。また燃料組成によって燃焼状況が異なり、排ガス中のHC量が大きく変動する場合がある。
【0003】
例えば低分子量HCが多い軽質燃料は蒸発し易く、高分子量HCが多い重質燃料は蒸発しにくい。そのため重質燃料に対応した燃料供給量で軽質燃料を燃焼した場合には、実際に燃焼に使用される燃料量が過剰になり、排ガス中のHC量が増加してしまう。そこで例えば特開2000−064878号公報には、燃料性状センサを用いて燃料が軽質であるか重質であるかを検出し、燃焼性状に応じて燃料供給量を制御する内燃機関の制御装置が提案されている。
【0004】
同公報には、燃料性状センサとして、燃焼後に発生した燃焼イオンの量を検出し、重質燃料の時には大きな値を出力し、軽質燃料の時には小さな値を出力するセンサが記載されている。
【0005】
また近年、バイオ燃料であるアルコールを混合した燃料が用いられているが、アルコールの混合量に応じて蒸発温度が異なり、アルコールの混合量が多いほど90%蒸留温度(T90)が低下する。すると燃料噴射弁の噴口部の温度をT90以下に調整することが困難となり、噴口部へのデポジット付着量が増加して燃料噴射量が減少するという問題が発生する。
【0006】
そこで特開2005−232997号公報には、燃料中のアルコール濃度を検出し、その検出値に応じて燃料噴射圧を増大させるようにした燃料噴射制御方法が提案されている。この方法によれば、燃料噴射弁の噴口部にデポジットが付着するのを抑制できる。同公報には、アルコール濃度を検出する手段として、静電容量式のアルコール濃度センサを用いることが記載されている。
【特許文献1】特開2000−064878号公報
【特許文献2】特開2005−232997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、地球温暖化抑制の一手段として、植物由来のバイオ燃料の使用が益々増大している。ところがバイオ燃料には、アルコール以外にオレイン酸などの脂肪酸が含まれる場合があり、これらをアルコール濃度センサなどで検出することは困難である。またアルコールにしても、酸化によって水酸基がアルデヒド基あるいはカルボキシル基に変化すると、これをアルコール濃度センサで検出することはできない。
【0008】
またバイオ燃料は、化石燃料には含まれない分子内酸素を含有し、給油から日数が経過すると燃料タンク内で酸化が始まり、燃料性状が変化する。しかし従来のエンジン燃焼制御装置では、刻々と変化する燃料性状に対応することは困難であった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、燃料中の酸素含有官能基の含有量をエンジン駆動とリアルタイムで測定できるようにし、それによってエンジンにおける燃焼を最適に制御できるようにすることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の燃料組成検出方法の特徴は、液体燃料に周波数が数10GHz〜数THzの電磁波を照射し、液体燃料に含まれる酸素含有官能基による電磁波吸収率を測定することで、液体燃料中の酸素含有官能基の含有量を推定することにある。
【0011】
また本発明のエンジン燃焼制御装置の特徴は、液体燃料に周波数が数10GHz〜数THzの電磁波を照射する照射装置と、液体燃料を透過した電磁波を受光する受光装置と、液体燃料が燃焼されるエンジンの燃焼条件を可変する燃焼可変装置と、燃焼可変装置を制御する制御装置と、を備え、
制御装置は、受光装置の信号から液体燃料に含まれる酸素含有官能基による電磁波吸収率を測定して液体燃料中の酸素含有官能基の含有量を推定し、推定された酸素含有官能基の含有量に基づいて燃焼可変装置を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の燃料組成検出方法及びエンジン燃焼制御装置では、液体燃料に周波数が数10GHz〜数THzの電磁波(以下、テラヘルツ波という)を照射している。テラヘルツ波は、電波と光の両方の性質を併せ持ち、直進性と透過性の両方を兼ね備えている。また赤外線の範疇にも含まれ、赤外分光分析と同様に周波数を走査して燃料に照射することで、各種官能基に対応する吸収スペクトルが得られる。赤外線では炭素数が8〜16以上の有機物に対する感度が低いのに対し、テラヘルツ波ではオレイン酸(炭素数:18)などの高分子量物質に対する感度が高く、精度良い検出が可能となる。
【0013】
そして本発明のエンジン燃焼制御装置によれば、燃料中の酸素含有官能基の含有量を精度高く検出でき、その値に応じて燃料噴射量、燃料噴射時期、あるいはEGR率などを制御できる。したがって供給される燃料の性状に応じてエンジンの燃焼を最適に制御することができ、排ガス中のHC量の低減、燃費の低減、高効率燃焼などの効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、周波数が数10GHz〜数THzのテラヘルツ波が用いられる。水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基などの酸素含有官能基のそれぞれの指紋スペクトルがテラヘルツ領域にあるので、各々の基を明確に分離して検出することが可能である。周波数がこの範囲より低くなると酸素含有官能基の検出精度が低下する。また周波数がこの範囲より高くなると、液体燃料を透過しにくくなり、やはり検出精度が低下する。
【0015】
液体燃料としては、バイオ燃料が混合されたガソリン、バイオ燃料が混合された軽油、バイオ燃料が混合されたケロシンなどが例示される。
【0016】
酸素含有官能基としては、水酸基、アルデヒド基、エーテル基、カルボキシル基などが例示される。
【0017】
液体燃料にテラヘルツ波を照射する場合、一種の酸素含有官能基の有無を測定するだけであれば、単一波長のテラヘルツ波を照射すればよい。しかし酸素含有官能基の含有量を推定する必要があること、またバイオ燃料に含まれる酸素含有官能基は多様であることから、複数種の波長のテラヘルツ波を照射して測定することが好ましく、周波数を変化させて走査しながら吸収スペクトルを測定するのが望ましい。そして基準となる物質固有の吸収スペクトルとの比較から、酸素含有官能基の量を推定することができる。
【0018】
本発明のエンジン燃焼制御装置は、テラヘルツ波を照射する照射装置と、液体燃料を透過したテラヘルツ波を受光する受光装置と、エンジンの燃焼条件を可変する燃焼可変装置と、燃焼可変装置を制御する制御装置と、を備えている。
【0019】
テラヘルツ波を照射する照射装置としては、フェムト秒レーザー、半導体レーザー、レーザープラズマなどを用いてテラヘルツ波を発生する装置、マグネトロンなどを用いることができる。また受光装置としては、光伝導スイッチ、焦電素子、EO検出法、ショットキーバリアーダイオードなどを用いることができる。
【0020】
照射装置及び受光装置は、液体燃料を挟むように配置される。例えば燃料タンクの互いに対向する側壁に、液体燃料を挟むように互いに対向するように配置することができる。あるいはコモンレールや燃料配管にテラヘルツ波を透過可能な一対の窓部を互いに対向するように設け、その窓部の外側に照射装置及び受光装置をそれぞれ配置してもよい。なお照射装置と受光装置との間に存在する液体燃料の量が多いほど検出精度が向上するので、照射装置と受光装置との距離を長くとることができる燃料タンクに設けることが望ましい。
【0021】
エンジンの燃焼条件を可変する燃焼可変装置としては、燃料噴射装置、EGR装置などが例示される。そして制御装置は燃焼可変装置を制御するものであり、自動車であればECUを用いることが望ましい。
【0022】
制御装置は、受光装置の信号から液体燃料に含まれる酸素含有官能基による電磁波吸収率を測定して液体燃料中の酸素含有官能基の含有量を推定し、酸素含有官能基の含有量に基づいて燃焼可変装置を制御する。
【0023】
例えば燃焼可変装置が燃料噴射装置であれば、酸素含有官能基の含有量が所定値より多い場合には燃料噴射量を所定値より多くし、酸素含有官能基の含有量が所定値より少ない場合には燃料噴射量を所定値より少なくするように制御する。あるいは酸素含有官能基の含有量が所定値より多い場合には燃料噴射間隔を所定値より短くし、酸素含有官能基の含有量が所定値より少ない場合には燃料噴射間隔を所定値より長くするように制御する。このように制御することで、エンジンの燃焼が最適化され、排ガス中のHC量の低減、高効率燃焼などの効果が得られる。
【0024】
また燃焼可変装置がEGR装置であれば、酸素含有官能基の含有量が所定値より多い場合には燃焼し易くスモークが減少するので、EGR量を所定値より多くする。このように制御することで、燃費を低減することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0026】
(実施例1)
図1に本実施例のエンジン燃焼制御装置の構成を示す。燃料タンク1にはバイオ燃料とガソリンとの混合燃料10が入れられている。燃料タンク1内の混合燃料10は、コモンレールポンプ2を介してコモンレール3に畜圧され、コモンレール3からエンジン4に設けられているインジェクタ5に供給される。インジェクタ5は、ECU100からの信号によって制御されるインジェクタドライバ50によって駆動され、エンジン4のシリンダ内へ混合燃料10を間欠的に噴射する。
【0027】
燃料タンク1の左右側壁には、テラヘルツ波を発振する発信器6と、発信器6から発振され混合燃料10を透過したテラヘルツ波を受光する受信器7とが配置されている。発信器6はECU100によって制御され、受信器7からの信号はECU100に入力されている。
【0028】
図2に、ECU100の制御内容を示す。エンジン4が始動されることで処理が開始される。先ずステップ101において、ECU100はテラヘルツ波を発信器6から発振させ、周波数0.3THz〜3THzの範囲で走査させる。ステップ102では、受信器7の信号から、混合燃料10中に含まれる水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基の吸収率と、ガソリン由来の基準吸収率とを算出する。
【0029】
もし手動計算で行うなら、受信器7の信号から図3に示すような吸収スペクトルを作成する。この吸収スペクトルでは、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、ガソリン由来の基のそれぞれが固有の周波数でピークを示すので、ベースラインからのピーク高さがそれぞれの吸収率となる。
【0030】
そしてステップ103において、ガソリン由来の基準吸収率と測定された各吸収率とから、混合燃料10中の水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基の含有量をそれぞれ推定する。
【0031】
ステップ104では、各基の含有量から混合燃料10中の含酸素割合を各基の含有濃度の関数として演算する。
【0032】
すなわち図4に示すように、酸素含有官能基の割合が増えるにつれて混合燃料10中の含酸素割合が増加するが、その程度は酸素含有官能基の種類によって異なる。しかし酸素含有官能基の種類と含酸素割合の増加度との関係が予めわかっているので、混合燃料10中の含酸素割合は各官能基の含有濃度の関数として表される。
【0033】
ステップ105では、図5に示すようにエンジンマップのデータを参照し、含酸素割合の値から燃料噴射量が決定され、その決定値に基づいて、ステップ106においてECU100はインジェクタドライバ50を駆動する。
【0034】
ステップ107では、インジェクタドライバ50の駆動時間から現実の燃料噴射量が算出され、燃料噴射量が決定値に達していない場合には、処理はステップ106へ戻る。燃料噴射量が決定値に達すると、インジェクタドライバ50の駆動が停止された後、処理はステップ108に進み、エンジン4の停止の有無がチェックされる。エンジン4がまだ駆動されているなら、処理はステップ101へ戻る。
【0035】
すなわち本実施例のエンジン燃焼制御装置によれば、エンジン4が駆動されている間は混合燃料10の性状が常に調査され、エンジン4に供給される混合燃料10中に含まれる酸素含有官能基の含有量に応じて燃料噴射量が適切に調整されるので、エンジン4は常に最適な燃焼となる。したがって、排ガス中のHC量の低減、高効率燃焼などの効果が得られる。
【0036】
(実施例2)
本実施例のエンジン燃焼制御装置では、図6に示すようにエンジン4はEGR8を備え、ECU100はインジェクタドライバ50を制御すると共にEGR8によるEGR率も制御している。他の構成は実施例1と同様である。
【0037】
本実施例では、ステップ105、106の内容が異なること以外は実施例1と同様に制御される。すなわち図7に示すステップ105では、含酸素割合の値から燃料噴射量が決定されるとともに、図8に示すようにマップのデータが参照され、含酸素割合の値からEGR率が決定される。
【0038】
そしてステップ106では、インジェクタドライバ50の駆動が制御されるとともに、決定されたEGR率となるようにEGR8が制御される。
【0039】
したがって本実施例のエンジン燃焼制御装置によれば、実施例1の効果に加えて、EGR率を最適に制御できるので燃費が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の燃料組成検出方法は、エンジン燃焼制御装置に用いられるばかりでなく、燃料中のバイオ燃料の濃度を検出したり、バイオ燃料の酸化度合いを検出したりする場合にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例に係るエンジン燃焼制御装置のブロック図である。
【図2】本発明の一実施例に係るエンジン燃焼制御装置における制御内容を示すフローチャートである。
【図3】テラヘルツ波の吸収スペクトルの一例を示す線図である。
【図4】燃料中の含酸素割合と各酸素含有官能基の割合との関係を示すグラフである。
【図5】燃料中の含酸素割合と燃料噴射量との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の第2の実施例に係るエンジン燃焼制御装置のブロック図である。
【図7】本発明の第2の実施例に係るエンジン燃焼制御装置における制御内容を示すフローチャートである。
【図8】燃料中の含酸素割合とEGR率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1:燃料タンク 2:コモンレールポンプ 3:コモンレール
4:エンジン 5:インジェクタ 6:発信器(照射装置)
7:受信器(受光装置) 8:EGR 10:混合燃料
50:インジェクタドライバ 100: ECU(制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料に周波数が数10GHz〜数THzの電磁波を照射し、該液体燃料に含まれる酸素含有官能基による電磁波吸収率を測定することで、該液体燃料中の該酸素含有官能基の含有量を推定することを特徴とする燃料組成検出方法。
【請求項2】
液体燃料に周波数が数10GHz〜数THzの電磁波を照射する照射装置と、該液体燃料を透過した該電磁波を受光する受光装置と、該液体燃料が燃焼されるエンジンの燃焼条件を可変する燃焼可変装置と、該燃焼可変装置を制御する制御装置と、を備え、
該制御装置は、該受光装置の信号から該液体燃料に含まれる酸素含有官能基による電磁波吸収率を測定して該液体燃料中の該酸素含有官能基の含有量を推定し、推定された該酸素含有官能基の含有量に基づいて該燃焼可変装置を制御することを特徴とするエンジン燃焼制御装置。
【請求項3】
前記燃焼可変装置は燃料噴射装置であり、前記制御装置は前記酸素含有官能基の含有量に基づいて燃料噴射量及び燃料噴射間隔の少なくとも一方を制御する請求項2に記載のエンジン燃焼制御装置。
【請求項4】
前記燃焼可変装置はEGR装置であり、前記制御装置は前記酸素含有官能基の含有量に基づいてEGR率を制御する請求項2に記載のエンジン燃焼制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−60463(P2010−60463A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227420(P2008−227420)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】