説明

燃料遮断弁

【課題】燃料タンクと外部とを接続する接続通路のフロートの浮沈に伴う開閉の信頼性を高める。
【解決手段】外部に繋がる接続通路26の開閉をもたらすフロート40は、インナーフロート70をアウターフロート50の収容室52に収容して構成されている。アウターフロート50はその内部に突出片54を備え、インナーフロート70は下端側にスプリングSのスプリング収容室72を備え、突出片54が入り込む凹状スリット78をスプリング収容室72に達するまで形成している。これにより、アウターフロート50の突出片54は、インナーフロート70の側のスプリング収容室72の内部にまで入り込んでこのスプリング収容室72に干渉している。よって、スプリングSは、接続通路26の開閉に関与するシール部材56を有するアウターフロート50に、突出片54を経て付勢力を直接及ぼす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンクと外部とを連通遮断する燃料遮断弁に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の燃料遮断弁は、燃料タンクの上部に装着されており、ケーシングの弁室にフロートを浮沈可能に収容して備え、燃料タンクと外部(キャニスタ)とを接続する接続通路をフロートの弁部にて開閉している。つまり、フロートは、ケーシングの弁室内の燃料液位により増減する浮力を受けるので、この浮力を受けて弁室内で上昇し、その有する弁部にて接続通路を閉じる。こうして、燃料遮断弁は燃料の外部への流出を防止している。
【0003】
一般に、こうした燃料遮断弁は、その構成材であるケーシングおよびフロートを樹脂成型品としているので、フロート形状精度向上、或いは生産性向上の上から、フロートをアウターフロートとインナーフロートのツーピース部品とすることが行われている(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2007−30806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献では、フロートの上昇を助力するフロートの付勢力をインナーフロートで受ける態様と、アウターフロートで受ける態様が提案されている。アウターフロートでスプリング付勢力を受ける態様では、その付勢力を弁部を有するアウターフロートに直に及ぼすので、弁部による接続通路開閉の信頼性は高まる。しかしながら、アウターフロートにインナーフロート収容用の陥没孔を設けてアウターフロートとインナーフロートとの間隙にスプリングを収容し、スプリングをアウターフロートの陥没孔段部で受けていることから、新たな問題点が指摘されるに至った。
【0006】
燃料遮断弁を搭載した車両では、加減速やカーブ走行或いは悪路走行等に伴って燃料遮断弁に振動や傾斜を及ぼす。こうした振動や傾斜によりスプリングに上記した隙間においてずれが生じると、スプリングが上記した陥没孔段部から外れてしまうことも起き得る。このようにスプリングが陥没孔段部から外れると、スプリングが陥没孔に噛み込んだりスプリングの当たりが不均一となることから、スプリングの付勢力でアウターフロートを傾けてしまい、フロート上昇時の弁部による接続通路開閉の信頼性が低下する。こうした事態は、スプリングを収容する上記した隙間を広げて陥没孔段部を広くすることで回避可能であるが、この隙間は燃料からの浮力を受ける作用をなさないことから、この隙間を不用意に広くできない。よって、スプリングが上記した陥没孔段部から外れてしまうような事態を回避できないことが有り得、フロートの浮沈に伴う接続通路開閉の信頼性の向上が求められるに至った。
【0007】
本発明は、上記した課題を踏まえ、フロートの浮沈に伴う接続通路開閉の信頼性を高めることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0009】
[適用:燃料遮断弁]
燃料タンクの上部に装着され、燃料タンクと外部とを接続する接続通路を開閉することで燃料タンクと外部とを連通遮断する燃料遮断弁であって、
前記燃料タンクと前記接続通路とを連通する弁室を形成するケーシングと、
前記弁室に収容され、該弁室内の燃料液位により増減する浮力を受けて浮沈し前記接続通路を開閉する弁部を有するフロートと、
該フロートに閉弁方向の力を付勢するスプリングと、
前記ケーシングの下端に設置され、前記スプリングを下端側で支える底蓋とを備え、
前記フロートは、
前記接続通路を開閉する前記弁部と、下方に開放した収容室と、該収容室の天井壁から下端に向けて突出した突出片とを備えるカップ形状のアウターフロートと、
前記収容室に収容されて前記アウターフロートと一体となり、前記スプリングをスプリング内外の内外周壁で取り囲んで収容する環状のスプリング収容室と、前記アウターフロートの前記突出片が前記スプリング収容室の天井壁からスプリング収容室内部まで入り込むよう前記スプリング収容室の天井側に形成された突出片挿入凹部とを有するインナーフロートとを備え、
該インナーフロートの前記スプリング収容室に収容された前記スプリングは、前記アウターフロートの前記突出片の下端に前記付勢力を及ぼす
ことを要旨とする。
【0010】
上記構成の燃料遮断弁では、燃料遮断弁を用いた燃料タンクに燃料が供給されて燃料タンクの所定液位に達すると、弁室内に流入した燃料により、フロートが浮力により上昇する。フロートの上昇により、弁部が接続通路を閉じることで、燃料タンクを外部に対して遮断し、燃料タンクから外部へ燃料が流出するのを防止する。このフロート上昇の際には、スプリングもフロートに付勢力を及ぼすので、速やかにフロートの上昇が起こり、接続通路の閉鎖の応答性が高まる。その一方、弁室内の燃料液位が低下するとフロートに作用する浮力は低減するが、フロートにはスプリングの付勢力が作用しているので、フロートの降下は液位低下に遅延して起きる。これにより、接続通路の解放は、燃料液位が十分下がってから起きるので、燃料の不用意な流出を防止できる。
【0011】
フロートは、アウターフロートおよびインナーフロートからなる複数の部材で構成され、インナーフロートは、アウターフロートの収容室に収容されて一体となり、上記したように接続通路開閉を起こすフロートとなる。そして、アウターフロートの収容室にインナーフロートを収容した状態では、アウターフロートの突出片は、インナーフロートの突出片挿入凹部にスプリング収容室の天井壁側から入り込み、インナーフロートのスプリング収容室の内部まで達する。これにより、アウターフロートの突出片は、その下端をスプリング収容室の内部において当該収容室の内外周壁に干渉させる。その上で、この環状のスプリング収容室に収容されたスプリングは、アウターフロートの突出片の下端に付勢力を及ぼしている。よって、スプリングの付勢力を、弁部を有するアウターフロートに直に及ぶようにして、弁部による接続通路開閉の信頼性を高めることができる。しかも、スプリングの収容室は環状であることから、燃料液位に応じて作用する浮力を不用意に小さくしないようにできる。加えて、スプリングはインナーフロートのスプリング収容室に収容されて内外周壁で取り囲まれていることから、スプリングの傾きは内外周壁にて制限される。そして、仮にスプリングが傾いたとしても、その傾いたスプリングは、スプリング収容室の内外周壁に干渉して当該収容室内部に入り込んだアウターフロートの突出片下端に確実に付勢力を及ぼす。これらの結果、上記構成の燃料遮断弁によれば、フロートの浮沈に伴う接続通路の開閉を高い信頼性で実行できる。
【0012】
上記した燃料遮断弁は、次のような態様とすることができる。例えば、アウターフロートの突出片を、前記収容室の天井壁において円周上等ピッチで複数設け、インナーフロートの突出片挿入凹部を、複数の突出片に合わせて前記スプリング収容室の天井壁において円周上等ピッチで複数設けるようにできる。こうすれば、スプリングの付勢力は、円周上等ピッチの突出片下端からアウターフロートに及ぶので、付勢力の及び方が円周上でほぼ等分となることから、不用意なアウターフロートの傾きを抑制できる。
【0013】
また、前記突出片を、前記収容室のセンター方向に延びて前記天井壁から前記収容室の内周壁に掛けてリブ状に形成するようにできる。こうすれば、アウターフロートを突出片で補強できるので、薄肉化を図ることができる。
【0014】
これらの場合、前記インナーフロートを、前記アウターフロートより小さい比重の材料から形成するようにできる。こうすれば、フロートに作用する浮力とスプリングの付勢力との合力からインナーフロートの自重を差し引いた力が増すので、フロートの上昇が速やかとなり、迅速な接続通路閉塞を図ることができる。また、燃料液位低下の際のスプリングの付勢力による接続通路解放もより遅延するので、燃料自体の流出回避の上からも望ましい。
【0015】
一般に、軽比重の樹脂材料は、車両燃料であるガソリンに対する膨潤が大きくなるので、スプリング上端をインナーフロートのスプリング収容室の天井壁で受けていると、ケーシングが有する接続通路開閉箇所からスプリング上端までの隔たりと接続通路からこれを閉鎖する弁部までの隔たりとが、ケーシングとインナーフロートの膨潤程度差で変わってくる。ところが、上記態様の燃料遮断弁では、スプリング上端をアウターフロートの突出片下端で受けているので、アウターフロートをケーシングと同じ材料とすれば、ケーシングが有する接続通路開閉箇所からスプリング上端までの隔たりと接続通路からこれを閉鎖する弁部までの隔たりとを維持できる。よって、フロート浮沈に伴う接続通路の開閉の再現性や信頼性が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。図1は本発明の実施例としての燃料遮断弁10の全体構成を概略的に分解して示す説明図、図2は組み付け状態における燃料遮断弁10を図1における2−2線にて破断して示す断面端面図、図3は燃料遮断弁10の要部の一部を拡大して示す説明図、図4は燃料遮断弁10を図2における4−4線にて破断して示す断面図、図5は同じく燃料遮断弁10を図2における5−5線にて破断して示す断面図である。
【0017】
図示するように、燃料遮断弁10は燃料タンクFTの上部に装着される。燃料タンクFTは、その表面がポリエチレンを含む複合樹脂材料から形成されており、そのタンク上壁FTaの取付穴FTbを燃料遮断弁10の装着孔とする。取付穴FTbへの装着に当たり、燃料遮断弁10は、上蓋20の下端部21をタンク上壁FTaに熱溶着され、後述のケーシング30を燃料タンクFTの内部に位置させる。燃料遮断弁10は、車両の傾斜時や揺動時に燃料タンクFT内の燃料がキャニスタへの流出を規制するものである。
【0018】
燃料遮断弁10は、タンク外に位置する上蓋20と、ケーシング30と、フロート40と、スプリングSと、底蓋90とを備え、上蓋20の下端にケーシング30を嵌合して固定し、ケーシング30の下端に底蓋90を装着させている。本実施例では、スプリングSを除く上記の構成材を樹脂成型品として備える。
【0019】
上蓋20は、図示しないキャニスタからの配管の接続管部22を側方に突出して備え、接続管部22の内部から上蓋20の下方に至るまでを蓋側通路24とする。この蓋側通路24は、上蓋20のほぼ中央位置の接続通路26を経て、後述のケーシング30の弁室33と連通する。よって、接続通路26は、燃料タンクFT、詳しくはタンク内部と外部のキャニスタとを接続する。
【0020】
ケーシング30は、下端が解放された筒状体とされ、ケーシング天井壁31の中央に接続通路26を有し、当該通路下端縁側を環状に隆起したリップ部32とし、ケーシング天井壁31の下方空間を弁室33とする。弁室33は、燃料タンクFTの内部と接続通路26とを連通する。この他、ケーシング30は、天井壁側の周壁に小径の通気口34を備え、周壁下端側には、底蓋90の装着爪が入り込む係合窓35を等ピッチで4個備える。また、ケーシング30の周壁下端は、底蓋90の嵌合する際の補強のため、隣り合う係合窓35の間に掛けて厚肉部36とされている。
【0021】
フロート40は、ケーシング30の弁室33に収容され、当該弁室内の燃料液位により増減する浮力を受けて浮沈し、上記した接続通路26を開閉する。そして、このフロート40は、アウターフロート50とインナーフロート70とを備え、アウターフロート50にインナーフロート70を収容して構成されている。アウターフロート50は、開口側が下方に向いた有底のカップ形状の本体51と、下方に開口した収容室52と、この収容室52の天井壁53から下端に向けて突出した突出片54と、天井壁53の上方に突出したシール装着座55と、ゴム製のシール部材56とを備える。突出片54は、収容室52のセンター方向に延びて天井壁53から収容室52の内周壁(即ち、本体51の内周壁)に掛けてリブ状とされており、収容室52の天井壁53から等円周ピッチで4箇所に形成されている。
【0022】
シール装着座55は、図3に示すように、中央が陥没して形成されているので、このシール装着座55に装着されたシール部材56は、その中央部を撓み変形可能とする。よって、後述するようにアウターフロート50が上昇すると、シール部材56は、接続通路26の周囲のリップ部32に押し当たる際に撓み変形するので、接続通路26をより確実に閉鎖する。また、シール部材56は、アウターフロート50の降下によりリップ部32から離れて接続通路26を解放するので、接続通路26を開閉する弁部として機能する。なお、シール装着座55には切欠55aが形成されているので、シール部材56の下方のエアはこの切欠55aから抜け出ることから、シール部材56は、支障なく撓み変形する。
【0023】
この他、アウターフロート50は、本体51の外周壁の周囲に複数の凸条57を備え、本体51の下端側にインナーフロート70の係合爪が入り込む係合窓58を等ピッチで2個備える。本体51の外周壁の凸条57は、アウターフロート50がケーシング30の弁室33において浮沈する際の案内として機能する。
【0024】
インナーフロート70は、中央に貫通孔71を備えた円柱状をなし、この貫通孔71の周囲にスプリング収容室72を備える。このスプリング収容室72は、環状に形成されており、その外周壁74と内周壁76で取り囲んでスプリングSを収容する。また、インナーフロート70は、その下端外周壁に係合爪77を等ピッチで2個備え、アウターフロート50の収容室52に収容されて係合爪77がアウターフロート50の係合窓58に係合することで、アウターフロート50と一体となる。
【0025】
更に、インナーフロート70は、図1に示すように、フロート頂上面側から下方側に形成された凹状スリット78を備える。この凹状スリット78は、フロート頂上面において等円周ピッチで4箇所形成され、この形成ピッチは、アウターフロート50における突出片54の形成ピッチと同じである。凹状スリット78は、突出片54の幅より広く、突出片54のセンター側端面54Sよりも更にセンター寄りの奥行きで形成されている。また、凹状スリット78は、図2に示すように、スプリング収容室72の天井壁より低い位置まで、フロート頂上面から形成されている。このため、インナーフロート70をアウターフロート50の収容室52に収容すると、アウターフロート50のそれぞれの突出片54は、インナーフロート70のそれぞれの凹状スリット78にフロート頂上面の側から入り込み、スプリング収容室72の内部まで達する。よって、突出片54の下端面54Dは、スプリング収容室72の天井壁より低い位置に位置し、凹状スリット78により切り欠かれたスプリング収容室72の開口端と対向することになる。そして、スプリングSは、後述の底蓋90の装着の際にスプリング収容室72に収容されるので、アウターフロート50が有するそれぞれの突出片54の下端面54Dに当接して、フロート40に閉弁方向の付勢力を、突出片54にその下端の側から直接及ぼす。
【0026】
こうした突出片54と凹状スリット78の関係、およびスプリング収容室72を含めた関係を断面で説明すると、スプリング収容室72の天井壁より上方で断面視した図4に示すように、アウターフロート50のそれぞれの突出片54は、インナーフロート70のそれぞれの凹状スリット78に入り込んでいる。スプリング収容室72の天井壁より下方で断面視した図5に示すように、それぞれの凹状スリット78は、スプリング収容室72の内周壁76よりもセンター寄りまで形成されている。そして、この凹状スリット78に入り込んだそれぞれの突出片54は、そのセンター側端面54Sをスプリング収容室72の内周壁76よりもセンター寄りに位置させて、環状のスプリング収容室72と干渉することになる。つまり、スプリング収容室72と干渉する箇所において、スプリングSはその付勢力を突出片54に直接及ぼすことになる。
【0027】
底蓋90は、外周縁に等円周ピッチで4箇所の係合爪92を備え、それぞれの係合爪をケーシング30の係合窓35に係合させて、ケーシング30の下端に装着される。これにより、ケーシング30の弁室33はその下端が塞がれて、フロート40の浮沈領域の下端が底蓋90で定まる。また、底蓋90は、弁室33への燃料流出入を図るため、その底面に、中央貫通孔94とその周囲の複数の小径の貫通孔96と係合爪92の基部の異形形状の貫通孔98とを備え、中央貫通孔94の周囲を隆起したスプリング受座99とする。
【0028】
上記の構成材から燃料遮断弁10を得るには、まず、アウターフロート50にインナーフロート70を収容して両フロートを一体とさせ、フロート40を形成する。次いで、上蓋20が装着済みのケーシング30の弁室33にフロート40を収容した上で、インナーフロート70のスプリング収容室72にスプリングSを収容して底蓋90をケーシング30の下端に装着する。こうして得られた燃料遮断弁10では、スプリングSは、底蓋90のスプリング受座99にて下端側で支えられてその付勢力をアウターフロート50に突出片54を介して直接、常時及ぼす。
【0029】
以上説明したように、本実施例の燃料遮断弁10では、燃料タンクFTに燃料が供給されて燃料液位が所定液位に達すると、弁室33の内部に、底蓋90の中央貫通孔94等の貫通孔から流入した燃料により、フロート40は浮力を受けて上昇する。フロート40の上昇により、その頂上のシール部材56が接続通路26の周囲のリップ部32に当接する。これにより、接続通路26は閉鎖されるので、燃料遮断弁10は、燃料タンクFTを外部(キャニスタ)に対して遮断し、燃料タンクFTから外部への燃料流出を防止する。このフロート上昇の際には、スプリングSもフロート40に付勢力を及ぼすので、フロート40は速やかに上昇して、接続通路26を高い応答性で閉鎖できる。しかも、本実施例では、アウターフロート50のシール装着座55にシール部材56を撓み変形可能に装着したので、シール部材56により高い信頼性で接続通路26を閉鎖できる。
【0030】
燃料の消費が進み弁室33から燃料が流出して燃料液位が下がると、液位低下の分だけフロート40に作用する浮力は低減する。フロート40にはスプリングSの付勢力が上記したように常時作用しているので、フロート40の降下は、燃料液位の低下に遅延して起きる。これにより、接続通路26の解放は、燃料液位が十分下がってから起きるので、燃料タンクFTから外部への不用意な燃料流出を防止でき、接続通路26の解放後には、燃料蒸気を接続通路26から外部のキャニスタに送ることができる。
【0031】
上記した接続通路26の開閉をもたらすフロート40は、インナーフロート70をアウターフロート50の収容室52に収容して構成され、アウターフロート50の突出片54は、既述したようにインナーフロート70の側のスプリング収容室72の内部にまで入り込んでこのスプリング収容室72、詳しくはスプリングSを取り囲む外周壁74と内周壁76とに干渉している。よって、スプリングSは、接続通路26の開閉に関与するシール部材56を有するアウターフロート50に、突出片54を経て付勢力を直接及ぼすので、アウターフロート50が有するシール部材56による接続通路26の開閉を高い信頼性で行うことができる。しかも、スプリングSを収容するスプリング収容室72は環状であることから、スプリング収容室72よりセンター側の部位にて燃料液位に応じた浮力を受けるようにできるので、浮力を不用意に小さくしないようにできる。加えて、スプリングSはインナーフロート70のスプリング収容室72に収容されてその外周壁74と内周壁76とで取り囲まれていることから、スプリングSの傾きはこの内外周壁にて制限される。そして、仮にスプリングSが傾いたとしても、その傾いたスプリングSは、スプリング収容室72の内外周壁に既述したように干渉してこのスプリング収容室72に入り込んだアウターフロート50の突出片54の下端に確実に付勢力を及ぼす。これらの結果、本実施例の燃料遮断弁10によれば、フロート40の浮沈に伴う接続通路26の開閉の信頼性を高めることができる。
【0032】
また、本実施例の燃料遮断弁10では、アウターフロート50の突出片54を、収容室52の天井壁53において円周上等ピッチで4箇所設け、インナーフロート70の凹状スリット78についても、突出片54に適合させて円周上等ピッチで設けた。よって、スプリングSは、その付勢力を、円周上等ピッチの突出片54の下端からアウターフロート50に円周上でほぼ等分に及ぼすので、不用意なアウターフロート50の傾き、延いてはこのフロート傾きによるフロート浮沈の障害を高い実効性で抑制できる。このことは、フロート40の浮沈に伴う接続通路26の開閉の信頼性向上に寄与する。
【0033】
加えて、本実施例では、図2に示すように、突出片54を、収容室52のセンター方向に延びてこの収容室52の天井壁53から本体51の内周壁に掛けてリブ状に形成した。よって、アウターフロート50を突出片54で補強できるので、アウターフロート50の薄肉化を図ることができる。
【0034】
また、本実施例では、スプリングSを除くケーシング30やアウターフロート50、インナーフロート70等の構成材を樹脂成型品とするに当たり、ケーシング30とアウターフロート50については、ガソリンに対する膨潤の程度が小さいポリアセタール樹脂(POM)を用いて形成し、インナーフロート70については、POMよりもガソリンに対する膨潤程度は大きいもののPOMより軽比重のポリアミド樹脂(PA12)を用いて形成した。よって、フロート40に作用する浮力とスプリングSの付勢力との合力からインナーフロート70の自重を差し引いた力が増すので、フロート40の上昇が速やかとなり、接続通路26を迅速に閉塞できる。つまり、接続通路26を燃料液位に応じた高い応答性で閉塞して、燃料の外部流出を速やかに回避できる。燃料液位低下の際にあっても、スプリングSの付勢力による接続通路26の解放をより遅延できるので、燃料自体の流出回避の上からも望ましい。
【0035】
本実施例の燃料遮断弁10では、シール部材56を有するアウターフロート50にその突出片54の下端を介してスプリング付勢力を及ぼすようにしたので、シール部材56の上面と下端面54Dとの距離VLは、一定である。しかも、アウターフロート50とケーシング30とを同じPOMにて形成したので、同じ材料のアウターフロート50とケーシング30とは燃料に浸漬した際に同じ程度の膨潤を起こす。この結果、インナーフロート70が燃料浸漬に伴い大きく膨潤を起こしたとしても、これに影響されることなく上記の距離VLとシール部材56の上面と26までの隔たりは維持される。よって、アウターフロート50とこれより軽比重のインナーフロート70とを一体としたフロート40の浮沈に伴う接続通路26の開閉の再現性や信頼性を高めることができる。
【0036】
次に、他の実施例の燃料遮断弁10Aについて説明する。この燃料遮断弁10Aでは、アウターフロート50における突出片54とこれに適合してインナーフロート70に形成した凹状スリット78が相違する。図6は図1相当図であり他の実施例の燃料遮断弁10Aの全体構成を概略的に分解して示す説明図、図7は図4相当図であり燃料遮断弁10Aをスプリング収容室の天井壁より上方で断面視した断面図、図8は図5相当図であり燃料遮断弁10Aをスプリング収容室の天井壁より下方で断面視した断面図である。
【0037】
この燃料遮断弁10Aでは、上蓋20とケーシング30と底蓋90は既述した燃料遮断弁10と同一であり、アウターフロート50Aは、外観は同じであるもののその内部の突出片54Aが相違し、インナーフロート70Aは、内部のスプリング収容室72については同じであるものの凹状スリット78Aが相違する。つまり、図7と図8に示すように、アウターフロート50Aは、本体51において、その天井壁53から二つの突出片54Aをブリッジ状に突出して備える。この突出片54Aにあっても、インナーフロート70Aが有するスプリング収容室72の内部に入り込むよう形成されており、それぞれの突出片54Aは、図8に示すように、スプリング収容室72と干渉する。その一方、インナーフロート70Aは、図6に示すように、アウターフロート50Aの上記の突出片54Aが入り込む二筋の凹状スリット78Aを切り欠いて備える。この凹状スリット78Aは、突出片54Aの幅より広く形成され、フロート天井壁からスプリング収容室72に達する深さで形成されている。
【0038】
上記した燃料遮断弁10Aにあっても、インナーフロート70のスプリング収容室72に収容されたスプリングSは、図8に示すスプリング収容室72と凹状スリット78Aとの干渉箇所において、その付勢力をアウターフロート50Aに突出片54Aを介して直接及ぼす。よって、燃料遮断弁10Aによっても、上記した効果を奏することができる。
【0039】
以上、本発明の実施の形態を実施例にて説明したが、本発明は上記した実施例や変形例の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例としての燃料遮断弁10の全体構成を概略的に分解して示す説明図である。
【図2】組み付け状態における燃料遮断弁10を図1における2−2線にて破断して示す断面端面図である。
【図3】燃料遮断弁10の要部の一部を拡大して示す説明図である。
【図4】燃料遮断弁10を図2における4−4線にて破断して示す断面図である。
【図5】同じく燃料遮断弁10を図2における5−5線にて破断して示す断面図である。
【図6】図1相当図であり他の実施例の燃料遮断弁10Aの全体構成を概略的に分解して示す説明図である。
【図7】図4相当図であり燃料遮断弁10Aをスプリング収容室の天井壁より上方で断面視した断面図である。
【図8】図5相当図であり燃料遮断弁10Aをスプリング収容室の天井壁より下方で断面視した断面図である。
【符号の説明】
【0041】
10、10A…燃料遮断弁
20…上蓋
21…下端部
22…接続管部
24…蓋側通路
26…接続通路
30…ケーシング
31…ケーシング天井壁
32…リップ部
33…弁室
34…通気口
35…係合窓
36…厚肉部
40…フロート
50、50A…アウターフロート
51…本体
52…収容室
53…天井壁
54、54A…突出片
54D…下端面
54S…センター側端面
55…シール装着座
55a…切欠
56…シール部材
57…凸条
58…係合窓
70、70A…インナーフロート
71…貫通孔
72…スプリング収容室
74…外周壁
76…内周壁
77…係合爪
78、78A…凹状スリット
90…底蓋
92…係合爪
94…中央貫通孔
96…貫通孔
98…貫通孔
99…スプリング受座
S…スプリング
FT…燃料タンク
FTa…タンク上壁
FTb…取付穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクの上部に装着され、燃料タンクと外部とを接続する接続通路を開閉することで燃料タンクと外部とを連通遮断する燃料遮断弁であって、
前記燃料タンクと前記接続通路とを連通する弁室を形成するケーシングと、
前記弁室に収容され、該弁室内の燃料液位により増減する浮力を受けて浮沈し前記接続通路を開閉する弁部を有するフロートと、
該フロートに閉弁方向の力を付勢するスプリングと、
前記ケーシングの下端に設置され、前記スプリングを下端側で支える底蓋とを備え、
前記フロートは、
前記接続通路を開閉する前記弁部と、下方に開放した収容室と、該収容室の天井壁から下端に向けて突出した突出片とを備えるカップ形状のアウターフロートと、
前記収容室に収容されて前記アウターフロートと一体となり、前記スプリングをスプリング内外の内外周壁で取り囲んで収容する環状のスプリング収容室と、前記アウターフロートの前記突出片が前記スプリング収容室の天井壁からスプリング収容室内部まで入り込むよう前記スプリング収容室の天井側に形成された突出片挿入凹部とを有するインナーフロートとを備え、
該インナーフロートの前記スプリング収容室に収容された前記スプリングは、前記アウターフロートの前記突出片の下端に前記付勢力を及ぼす
燃料遮断弁。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料遮断弁であって、
前記アウターフロートは、前記突出片を、前記収容室の天井壁において円周上等ピッチで複数備え、
前記インナーフロートは、複数の前記突出片に合わせて前記突出片挿入凹部を前記スプリング収容室の天井壁において円周上等ピッチで複数備える
燃料遮断弁。
【請求項3】
前記突出片は、前記収容室のセンター方向に延びて前記天井壁から前記収容室の内周壁に掛けてリブ状に形成されている請求項1または請求項2に記載の燃料遮断弁。
【請求項4】
前記インナーフロートは、前記アウターフロートより小さい比重の材料から形成されている請求項1ないし請求項3いずれかに記載の燃料遮断弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−227032(P2009−227032A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73404(P2008−73404)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】