説明

燃料電池二輪車

【課題】簡単な構造で燃料電池の冷却を可能にすると共に、燃料電池内への異物の侵入を防止した燃料電池二輪車を提供するにある。
【解決手段】水素ガス等の燃料ガスを貯蔵する燃料ボンベ31と、この燃料ガスの供給を受けて発電する空冷式の燃料電池32とを備え、この燃料電池32によって発電された電力でモータ34を駆動して走行する燃料電池二輪車1において、燃料電池32を車体フレーム2前端のヘッドパイプ3と車体フレーム2後部の運転シート20との間に、この運転シート20と略同じ高さで配設したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両は、主要なコンポーネントとして燃料のガス(例えば水素ガス)を貯蔵する燃料ボンベと、この燃料ガスの供給を受けて発電する燃料電池と、バッテリ等の二次電池と、車両の原動機としてのモータおよび燃料電池をそれぞれ制御する制御装置を備えている。
【0003】
燃料電池は、燃料と空気が反応して発電する際に熱を発生させるため、専用の冷却装置を備えたものが多い。スクータ型の燃料電池二輪車の場合、車体カバーで覆われた車体内部はスペースにゆとりがあるので、一般には水冷式の冷却装置を備えている。(例えば特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開2007−83953号公報
【特許文献2】特開2007−118666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水冷式の冷却装置の場合、ポンプやラジエター、配管等の部品が必要となり、重量やコストが嵩むと共に、構造も複雑化してしまう。
【0005】
特に、スクータ型の燃料電池二輪車とは異なるスポーツ指向型の燃料電池二輪車の場合、配置スペースに余裕はなく、重量の増加はスポーツ性を損なわせてしまう。
【0006】
そこで、空冷式の冷却装置を採用することも考えられるが、スクータ型の燃料電池二輪車の場合、その独特の車体構造から、燃料電池は車体の低い位置に搭載する例が多く、その場合、冷却風の導入口から跳ね水や泥などが燃料電池内に浸入する懸念があった。
【0007】
本発明は上述した事情を考慮してなされたもので、簡単な構造で燃料電池の冷却を可能にすると共に、燃料電池内への異物の侵入を防止した燃料電池二輪車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る燃料電池二輪車は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、水素ガス等の燃料ガスを貯蔵する燃料ボンベと、この燃料ガスの供給を受けて発電する空冷式の燃料電池とを備え、この燃料電池によって発電された電力でモータを駆動して走行する燃料電池二輪車において、上記燃料電池を車体フレーム前端のヘッドパイプと車体フレーム後部の運転シートとの間に、この運転シートと略同じ高さで配設したものである。
【0009】
また、上述した課題を解決するために、請求項2に記載したように、上記燃料電池の周囲をカウリングで覆うと共に、このカウリングの側面に外気導入口を開口し、この外気導入口の長さを上記燃料電池の長さと略同じにしたものである。
【0010】
さらに、上述した課題を解決するために、請求項3に記載したように、上記燃料電池の上面にフィルタを、上記燃料電池の下面に冷却装置を構成する冷却ファンをそれぞれ配設し、上記外気導入口よりも高い位置に上記フィルタを配設して上記燃料電池の上面から下面に向かって空気を導入するように構成したものである。
【0011】
そして、上述した課題を解決するために、請求項4に記載したように、上記燃料電池を前傾状態で配設したものである。
【0012】
そしてまた、上述した課題を解決するために、請求項5に記載したように、上記燃料電池の下方に上記燃料ボンベを配設し、上記燃料電池を冷却する上記冷却ファンの排気孔を上記燃料ボンベに向けて開口させたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る燃料電池二輪車によれば、簡単な構造で跳ね水や泥、雨水などの燃料電池内への浸入が防止できると共に、空気の燃料との反応性や燃料電池の冷却性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、この発明を適用した燃料電池二輪車の一例を示す左側面図である。図1に示すように、この燃料電池二輪車1は車体フレーム2を有する。この燃料電池二輪車1の車体フレーム2は、主にヘッドパイプ3と、ダウンフレーム部材4と、ピボットブラケット部材5と、メインフレーム部材6と、シートフレーム部材7とから構成される。また、車体フレーム2はカウリング8によって覆われる。カウリング8は、主に車体フレーム2を上方から覆うアッパーカウリング9と、車体フレーム2の前下部を覆うアンダーカウリング10とを備える。
【0016】
車体フレーム2の最前部に設けられたヘッドパイプ3にはステアリング機構11が設けられる。このステアリング機構11には、前輪12を回動自在に支持し、フロントクッションユニット(図示せず)を装備する左右一対のフロントフォーク13やハンドルバー14、フロントフェンダ15等が設けられ、ハンドルバー14により前輪12が左右に回動自在に操舵される。
【0017】
図2は、カウリング8を取り外した状態の、燃料電池二輪車1の左側面図である。図1および図2に示すように、車体フレーム2前部に設けられたヘッドパイプ3の後面からはダウンフレーム部材4が下方の前輪12後ろ側に向かって延設される。また、車体フレーム2後部には左右一対のピボットブラケット部材5が後上方に延びるように設けられる。
【0018】
さらに、ヘッドパイプ3の後面からはピボットブラケット部材5の前下端部に向かって左右一対のメインフレーム部材6が車両側面視後斜め下方に向かって直線状に延設される。そして、前端をダウンフレーム部材4の下部に連結し、後端をピボットブラケット部材5の上端部で支持した左右一対のシートフレーム部材7が、メインフレーム部材6の略中間部でX字状に交差して車両の前後方向に延設される。
【0019】
ピボットブラケット部材5にはその下部にスイングピボット部16が設けられ、このスイングピボット部16にリヤスイングアーム17の前端がスイング自在に枢着されると共に、リヤクッションユニット18を介して車体フレーム2に弾性的に支持される。そして、このリヤスイングアーム17の後端に後輪19が回動自在に軸支される。また、ピボットブラケット部材5上方には運転シート20が設けられる。
【0020】
この燃料電池二輪車1は、図3に示すシステム構成図に示すように、主要なコンポーネントとして燃料ガスである高圧の水素ガスを貯蔵する燃料ボンベ31と、この燃料ガスの供給および酸化剤である酸素を含んだ空気の供給を受けて発電する燃料電池32と、燃料電池32の出力を補助するバッテリ等の二次電池33と、燃料電池32および車両の原動機としての後述するモータ34をそれぞれ制御するシステム制御装置35とを備えて構成される。
【0021】
上記主要コンポーネントは、前輪12を操舵可能に支持する、車体フレーム2前端のヘッドパイプ3と、後輪19の上方に配置された、車体フレーム2後部に支持される運転シート20との間の車体フレーム2に囲まれた空間内に、少なくともこれら燃料電池32、燃料ボンベ31および二次電池33の三者が略上下に重なる状態で配設支持される。
【0022】
具体的には、燃料ボンベ31を中央部に、上側に燃料電池32を、下側に二次電池33をそれぞれ配設し、燃料ボンベ31を上記左右一対のシートフレーム部材7とメインフレーム部材6との交差点にこれらの間に重なるよう、また燃料ボンベ31の長手方向がシートフレーム部材7の長手方向に沿うように燃料ボンベ31が前傾した状態で配設される。
【0023】
また、燃料ボンベ31はその前後が前カバー36および後カバー37により前後から挟まれるように保持される。また、燃料ボンベ31の中間部分は例えば左右のシートフレーム部材7間に架設されたステー38(またはブラケット)によって下方より保持される。
【0024】
一方、燃料電池32は、車体フレーム2前端のヘッドパイプ3と運転シート20との間に、運転シート20と略同じ高さで、且つ前傾状態で配設される。
【0025】
そして、燃料ボンベ31と燃料電池32との間には、燃料漏れ時に燃料系統を遮断する水素遮断弁39(図3参照)や水素の供給圧力を調整するためのレギュレータ(圧力調整弁)(図示せず)、水素の充填口(図示せず)が配設され、燃料供給配管40によって接続されると共に、供給される水素の圧力および温度を測定するための圧力センサ41、温度センサ42等(図3参照)も備えられる。
【0026】
上記システム制御装置35は、主に燃料電池32の発電電力を電力変換制御する電力制御装置43と、電力制御装置43および二次電池33からの電力を12V電源に変換して各部品に供給する電力変換分配装置44と、電力変換分配装置44より供給される直流電力を三相交流電力に変換してモータ34を駆動制御するモータコントローラ45と、モータコントローラ45より供給される電力によって駆動されるモータ34と、これらを統括して制御する車両コントローラ46とから構成され、各装置は電線47によって接続される。
【0027】
モータ34で発生した駆動力は図示しない変速機を介して駆動輪である後輪19に伝達される。また、モータコントローラ45は上述したモータ34の駆動制御に加え、車両の減速時に発生するモータ34の負のトルクを電力に変換する回生制御を行い、この回生によって発生する電力を二次電池33に蓄える。
【0028】
車両コントローラ46は、燃料電池32を含むシステム制御および車両制御を行う装置であり、例えば運転者の加速意思を伝えるためのスロットルセンサ48(図3参照)をはじめ、上記水素の圧力センサ41および温度センサ42、燃料漏れを検出する水素センサ49等のセンサ類や、上記水素遮断弁39も車両コントローラ46に接続される。そして、各センサ類を介して読み込まれた情報に応じてシステム制御および車両制御が行われる。
【0029】
そして、燃料電池32、電力制御装置43、電力変換分配装置44、車両コントローラ46および水素センサ49はその周囲がアッパーカウリング9によって上方から覆われると共に、モータコントローラ45および二次電池33はアンダーカウリング10内に配置される。
【0030】
後輪19を駆動する車両の原動機としてのモータ34は上記リヤスイングアーム17に一体的に取り付けられてユニットスイング式スイングアームを形成する。また、システム制御装置35を構成する電力制御装置43、電力変換分配装置44および車両コントローラ46は燃料ボンベ31の上側に配置される燃料電池32の近傍、例えば電力制御装置43は燃料電池32の後方、電力変換分配装置44および車両コントローラ46は燃料電池32の上方にそれぞれ配設される一方、モータコントローラ45および二次電池33は燃料ボンベ31の下側に、例えばモータコントローラ45を前側、二次電池33を後側に縦列配置される。このとき、二次電池33は燃料ボンベ31の傾斜に合わせて前傾した状態で配設される。なお、水素センサ49は主要コンポーネントの最上部位に配設される。
【0031】
図4は、図1のIV−IV線に沿う断面図である。図1および図4に示すように、前記アッパーカウリング9の側面には燃料電池32に酸化剤である酸素を含んだ空気を供給するためのメッシュ状の外気導入口50が開口される。この外気導入口50は燃料電池32の長さと略同じ長さを有する。また、燃料電池32の上面には空気中の不純物を濾過するフィルタ52が配設される。さらに、このフィルタ52はこの外気導入口50よりも高い位置に配設される。そして、外気導入口50直上のアッパーカウリング9は外方に張出すように形成される。
【0032】
図5は、燃料電池32の斜視図である。図4および図5に示すように、本願発明に適用される燃料電池32は空冷式の冷却装置51を備える。この冷却装置51は電動式の冷却ファン53を備え、この冷却ファン53は燃料電池32の下面、すなわち燃料ボンベ31の上方に配設される。
【0033】
そして、冷却ファン53は、燃料電池32の上方から取り入れられた、燃料と反応させるための空気を燃料電池32の下方に導くことにより燃料電池32を冷却すると共に、冷却ファン53に付属する排気ダクト54の排気孔55が燃料ボンベ31に向けて開口され、それにより、燃料電池32を冷却した後の暖かい排風が燃料ボンベ31に向かって排出されるように構成される。
【0034】
なお、アンダーカウリング10にも詳細には図示しないが、モータコントローラ45冷却用の冷却風を取り込む他の外気導入口が形成される。
【0035】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0036】
燃料電池32を車体フレーム2前端のヘッドパイプ3と運転シート20との間に、運転シート20と略同じ高さで、且つ前傾状態で配設したことにより、跳ね水や泥などが燃料電池32内に浸入する懸念がなくなると共に、燃料電池32を水平に配置した場合と比べて車両の前方から受けるラム圧をより有効に利用でき、燃料電池32に対してスムーズな吸気が可能となる。その結果、燃料との反応性や燃料電池32の冷却性が向上する。
【0037】
また、燃料電池32を高く配置することにより、燃料電池32を覆うカウリング9の側面に外気導入口50を開口することが可能となり、直接的な空気の吸気が行える。さらに、この外気導入口50の長さを燃料電池32の長さと略同じにしたことにより、外気導入口50からの空気の進入が燃料電池32の上面に対して一定に制御される。その結果、燃料との反応性や燃料電池32の冷却性が向上し、ある特定部位の急激な温度上昇が回避できて燃料電池32の性能を高く維持できる。
【0038】
一方、燃料電池32の上面にフィルタ52を、下面に冷却装置51を構成する冷却ファン53を配設し、外気導入口50よりも高い位置にフィルタ52を配設して燃料電池32の上面から下面に向かって空気を導入するようにしたことにより、仮に外気導入口50から砂や石等の異物が進入してもフィルタ52に直接的な影響を及ぼさない。また、外気導入口50直上のアッパーカウリング9を外方に張出すように形成すれば、外気導入口50に上方から雨水が浸入することも防げる。
【0039】
ところで、燃料ボンベ31は燃料の消費に伴って温度が低下し(気化冷却)、燃料の安定供給に支障を起こす虞があるが、燃料電池32の下方に燃料ボンベ31を配設し、燃料電池32を冷却する冷却ファン53の排気孔55を燃料ボンベ31に向けて開口させて燃料電池32を冷却した後の暖かい排風が燃料ボンベ31に向かって排出されるように構成することにより、燃料ボンベ31の温度低下が防止され、燃料を安定して供給できる。
【0040】
なお、詳細には図示しないが、外気導入口50はスリット状でもメッシュ状でも同様の効果を期待できる。特に、外気導入口50をメッシュ状とした場合、フィルタ52の前段である程度の大きさの、異物の侵入を防ぐことができる。また、燃料との反応および燃料電池32の冷却に必要な空気量に応じて外気導入口50の大きさや形状を自由に設定することも可能である。そして、本実施形態では本願発明をスポーツ指向型の燃料電池二輪車に適用した例を示したが、電動の車椅子等の小型移動体にも適用は可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る燃料電池二輪車の一実施形態を示す図。
【図2】カウリングを取り外した状態の、自動二輪車の左側面図。
【図3】燃料電池二輪車のシステム構成図。
【図4】図1のIV−IV線に沿う断面図。
【図5】燃料電池の斜視図。
【符号の説明】
【0042】
1 燃料電池二輪車
2 車体フレーム
3 ヘッドパイプ
8 カウリング
9 アッパーカウリング
20 運転シート
31 燃料ボンベ
32 燃料電池
34 モータ
50 外気導入口
51 冷却装置
52 フィルタ
53 冷却ファン
55 冷却ファンの排気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス等の燃料ガスを貯蔵する燃料ボンベと、この燃料ガスの供給を受けて発電する空冷式の燃料電池とを備え、この燃料電池によって発電された電力でモータを駆動して走行する燃料電池二輪車において、上記燃料電池を車体フレーム前端のヘッドパイプと車体フレーム後部の運転シートとの間に、この運転シートと略同じ高さで配設したことを特徴とする燃料電池二輪車。
【請求項2】
上記燃料電池の周囲をカウリングで覆うと共に、このカウリングの側面に外気導入口を開口し、この外気導入口の長さを上記燃料電池の長さと略同じにした請求項1記載の燃料電池二輪車。
【請求項3】
上記燃料電池の上面にフィルタを、上記燃料電池の下面に冷却装置を構成する冷却ファンをそれぞれ配設し、上記外気導入口よりも高い位置に上記フィルタを配設して上記燃料電池の上面から下面に向かって空気を導入するように構成した請求項2記載の燃料電池二輪車。
【請求項4】
上記燃料電池を前傾状態で配設した請求項1、2または3記載の燃料電池二輪車。
【請求項5】
上記燃料電池の下方に上記燃料ボンベを配設し、上記燃料電池を冷却する上記冷却ファンの排気孔を上記燃料ボンベに向けて開口させた請求項3または4記載の燃料電池二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−78623(P2009−78623A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247766(P2007−247766)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】