説明

燐酸資源原料の製造方法

【課題】 燐を含有する製鋼スラグ中の燐を回収・濃化して、燐含有量の高い燐酸資源原料を安価に且つ効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】 燐を含有する製鋼スラグを、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて還元することにより、前記製鋼スラグ中の鉄酸化物及び燐酸化物が還元されて得られる、燐を0.5質量%以上含有する燐含有溶銑に対し、供給する酸素源の40体積%以上の酸素源を酸素ガスとして上吹きランスを介して溶銑に吹き付けて供給するとともに、供給する石灰源の純CaO換算の40質量%以上を前記上吹きランスを介して搬送用ガスとともに溶銑に吹き付けて供給し、石灰源の滓化促進剤としてフッ素源を使用することなく、酸素源及び石灰源を供給して脱燐処理を施し、生成される脱燐スラグ中の燐酸濃度を10質量%以上に濃縮させ、該脱燐スラグを回収して燐酸資源原料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程において発生する製鋼スラグ中の燐を回収・濃化して、燐含有量の高い燐酸資源原料を製造する方法に関し、詳しくは、燐を含有する製鋼スラグに還元処理を実施した際に得られる、高濃度の燐を含有する溶銑に脱燐処理を施し、この脱燐処理で生成される脱燐スラグの燐含有量を、燐酸資源原料として活用可能なレベルに安定して高める方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燐鉱石の枯渇問題や、中国、米国などによる燐鉱石の囲い込みのため、燐資源が高騰しており、鉄鋼プロセスにおいて発生する製鋼スラグ中の燐が貴重な燐資源として見直されている。しかしながら、高炉から出銑される溶銑中の燐濃度は0.1質量%程度であるため、従来の一般的な溶銑の予備脱燐処理や溶銑の脱炭精錬で生成される製鋼スラグ中の燐酸(P25)濃度は高々5質量%程度であり、燐酸資源としての活用先はほとんどない。そのため、これらの製鋼スラグは、路盤材などの土木用材料として使用され、スラグ中の燐は回収されていない。尚、予備脱燐処理とは、溶銑を転炉などにて脱炭精錬する前に、予め溶銑中の燐を除去する処理のことである。
【0003】
また、近年、環境対策及び省資源の観点から、製鋼スラグのリサイクル使用を含めて、製鋼スラグの発生量を削減することが急務となっている。例えば、製鋼スラグを、造滓剤用の石灰源として鉄鉱石の焼結工程にリサイクルする試みもあるが、製鋼スラグ中の燐が高炉で還元されて、高炉から出銑される溶銑の燐濃度が増加するという問題がある。そこで、製鋼スラグから燐を除去する方法、或いは製鋼スラグから燐を回収する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、燐酸化物を含有する溶融または半溶融状態の製錬スラグに炭材を添加し、次いで減圧下において、酸素を上吹きし、炭材を燃焼させて製錬スラグを昇温し、炭材中の炭素により製錬スラグ中の燐酸化物を還元しながら、還元された燐を気化脱燐することにより、製錬スラグ中の燐を除去する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、予備脱燐処理を行った後に生成された予備脱燐スラグを容器に装入し、炭材を添加して前記予備脱燐スラグ中の燐酸化物を還元して除去する脱燐スラグの再生処理方法において、前記容器には加熱手段を設け、該容器内の処理温度を1450℃以上、1700℃未満に保持して、前記予備脱燐スラグに対する前記炭材の重量比を0.02〜0.3とし、予備脱燐スラグ中の燐を溶銑側に回収し、予備脱燐スラグを再生する技術が開示されている。
【0006】
また更に、特許文献3には、アルカリ金属炭酸塩を主成分とする造滓剤を用いた、溶銑または溶鋼の脱燐処理で生成する脱燐スラグを、水及び炭酸ガスで処理してアルカリ金属リン酸塩を含む抽出液を得て、該抽出液にカルシウム化合物を添加して、燐を燐酸カルシウムとして析出させて分離回収する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−316519号公報
【特許文献2】特開2002−69526号公報
【特許文献3】特開昭56−22613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題点がある。
【0009】
即ち、特許文献1では、減圧処理が必要であり、設備費が高く、また、製錬スラグは、燐が気化脱燐により除去されてリサイクル可能となるが、気化脱燐した燐は回収されておらず、燐資源の確保という観点からは効果的なリサイクル方法とはいえない。
【0010】
特許文献2は、予備脱燐スラグ中の燐を溶銑側に回収する工程までは開示しているものの、その後、溶銑中に回収・濃化した燐をどのように処理するかについては言及していない。
【0011】
また、特許文献3は、湿式処理であり、湿式処理の場合、処理に必要な薬品が高価であるのみならず、大掛かりな処理設備が必要であり、設備費及び運転費ともに高価となる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、予備脱燐スラグや脱炭精錬スラグなどの燐を含有する製鋼スラグ中の燐を回収・濃化して、燐含有量の高い燐酸資源原料を安価に且つ効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための第1の発明に係る燐酸資源原料の製造方法は、製鋼精錬プロセスにおいて発生した燐を含有する製鋼スラグを、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて還元することにより、前記製鋼スラグ中の鉄酸化物及び燐酸化物が還元されて得られる、燐を0.5質量%以上含有する燐含有溶銑に対し、供給する酸素源の40体積%以上の酸素源を酸素ガスとして上吹きランスを介して溶銑に吹き付けて供給するとともに、供給する石灰源の純CaO換算の40質量%以上を前記上吹きランスを介して搬送用ガスとともに溶銑に吹き付けて供給し、前記石灰源の滓化促進剤としてフッ素源を使用することなく、酸素源及び石灰源を供給して脱燐処理を施し、生成される脱燐スラグ中の燐酸濃度を10質量%以上に濃縮させ、該脱燐スラグを回収して燐酸資源原料とすることを特徴とするものである。
【0014】
第2の発明に係る燐酸資源原料の製造方法は、第1の発明において、前記製鋼スラグ中の鉄酸化物及び燐酸化物が還元されて得られる、燐を0.5質量%以上含有する燐含有溶銑と、高炉から出銑される高炉溶銑とを、混合後の溶銑の燐濃度が0.5質量%以上2.0質量%以下となるように調整して混合し、その後、混合した溶銑に前記脱燐処理を施すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、予備脱燐スラグや脱炭精錬スラグのような、製鋼精錬プロセスにおいて発生した燐を含有する製鋼スラグを還元して得られる、燐を0.5質量%以上含有する燐含有溶銑に対して、供給する酸素源の40体積%以上の酸素源を酸素ガスとして上吹きランスを介して溶銑に吹き付けて供給するとともに、供給する石灰源の純CaO換算の40質量%以上を前記上吹きランスを介して溶銑に吹き付けて供給して脱燐処理を施すので、脱燐反応が促進され、この脱燐処理により生成される脱燐スラグの燐酸濃度は10質量%以上に濃縮されて、この脱燐スラグを燐酸資源原料として有効活用することが可能となる。また、脱燐スラグにはフッ素が含有されないので、水溶性の燐酸が確保され、燐酸肥料としても有効活用することができる。また更に、製鉄所の既設の設備で対処できるので、安価に且つ効率的に燐酸資源原料を製造することが実現される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明者らは、溶銑の予備脱燐処理時に発生する予備脱燐スラグや、通常溶銑或いは予備脱燐処理されていても予備脱燐処理後の燐濃度が製品の燐濃度レベルに比較して高い脱燐溶銑を使用した転炉脱炭精錬時に発生する脱炭精錬スラグ(「転炉スラグ」ともいう)などの燐を含有する製鋼スラグ(以下「燐含有製鋼スラグ」とも記す)から燐を回収する方法について研究・検討した。その結果、先ず、燐含有製鋼スラグを還元して高濃度の燐を含有する鉄または溶銑を生成させ、次いで、この鉄または溶銑から燐を分離回収する方法を見出した。以下に、研究・検討結果を説明する。
【0018】
燐含有製鋼スラグには、燐(P)はP25なる酸化物で含有されており、また、一般的に製鋼スラグはCaO及びSiO2を主成分としており、燐は、カルシウム(Ca)及び珪素(Si)に比較して酸素との親和力が弱いことから、燐含有製鋼スラグを、炭素、珪素、アルミニウムなどで還元すれば、燐含有製鋼スラグ中のP25は容易に還元されることが分かった。この場合、燐含有製鋼スラグには、鉄が、FeOやFe23の形態(以下、まとめて「FexO」と記す)の酸化物で含有されており、これらの鉄酸化物は酸素との親和力が燐と同等であるので、燐含有製鋼スラグを、炭素、珪素、アルミニウムなどで還元すると、同時に製鋼スラグ中のFexOが還元されることが分かった。これらの還元剤のなかでも、安価であることから特に炭素を用いることが経済的にも好ましい。
【0019】
還元処理における還元剤の添加量は、燐含有製鋼スラグ中の鉄酸化物、燐酸化物、マンガン酸化物を還元するために必要な化学量論以上あれば十分であること、つまり、還元当量が1以上であれば十分であることが分かった。還元剤添加量の上限としては、還元当量が3を超えてもスラグの還元率に大きな変化が見られなかったことから、還元当量の上限を3とすることが経済的にも望ましい。
【0020】
製鋼プロセスで発生する燐含有製鋼スラグとしては、溶銑の予備脱燐処理時に発生する予備脱燐スラグと、溶銑の転炉脱炭精錬時に発生する脱炭精錬スラグとが大半を占める。この予備脱燐スラグと脱炭精錬スラグとを、各々単独で還元処理してもよく、また、これらを混合したものを還元処理しても構わない。各製鉄所における予備脱燐スラグの発生量と脱炭精錬スラグの発生量とを考慮し、最適な混合比率を選択することもできる。
【0021】
また還元処理においては、その処理温度が比較的重要な因子であることも分かった。製鋼スラグ中の鉄酸化物及び燐酸化物は処理温度が1200℃以上であれば、固体状態でも還元反応が進行することが分かった。但し、製鋼スラグ中の鉄酸化物及び燐酸化物を完全に還元して回収することを図る場合には、製鋼スラグを溶融状態にすることが好ましい。例えば、最も高融点である脱炭精錬スラグの単独還元処理においては、製鋼スラグを溶融状態にするには1650℃程度を必要とする。即ち、還元温度として、1200℃以上1650℃以下の範囲とすれば、問題なく還元処理ができることが分かった。
【0022】
更なる実験により、還元により生成した鉄が溶融状態であれば、溶融鉄とスラグとは容易に分離し、また、この溶融鉄に、生成した燐が溶解することで、燐の製鋼スラグからの分離も迅速化することが分かった。これは、燐は鉄中への溶解度が高く、還元により生成した燐は、還元により生成した鉄に迅速に溶解するからである。
【0023】
製鋼スラグ及び還元により生成する鉄を溶融状態とする場合には、溶融スラグと溶融鉄とは2相に分離するので、例えば、掻き出し機などを用いて溶融スラグを処理容器から排出することで、両者を分離することができる。一方、製鋼スラグ及び生成する鉄が固体状態または半溶融状態のときには、還元後、生成した鉄を内部に有する製鋼スラグを破砕し、その後、磁力選別を施すことで両者を分離することができる。還元処理後の製鋼スラグは、燐含有量が低いので、例えば、石灰源として焼結工程などにリサイクルすることは、経済的にも環境的にも非常に好ましいことである。
【0024】
製鋼スラグ及び還元により生成する鉄を溶融状態とする場合には、生成される溶融鉄の融点が低いほど、溶融鉄とスラグとの分離が促進されることから、生成される溶融鉄に炭素を溶解させ、溶融鉄として溶銑を生成させることが好ましいことも分かった。具体的には、炭素濃度が3質量%以上になると、溶銑の液相線温度が1300℃以下となることから、溶銑の炭素濃度を3質量%以上確保することが好ましいことが分かった。生成される溶融鉄に炭素を溶解させるには、炭素を還元剤として使用する、または、珪素やアルミニウムなどを還元剤とする場合には、炭素を製鋼スラグと共存させることにより、生成する溶融鉄は浸炭して自ずと燐を高濃度で含有する溶銑となる。尚、この燐を高濃度で含有する溶銑を、高炉から出銑される高炉溶銑と区別するために、以下、「高燐溶銑」と呼ぶ。
【0025】
還元処理を行うための処理容器としては、上述した処理温度での還元処理に耐えうるものであればどのようなものでも構わない。具体的には、ロータリーキルン内に製鋼スラグと還元剤とを装入し、バーナーで燃焼加熱して還元処理を行う方法や、アーク溶解炉内に製鋼スラグと還元剤とを装入し、アーク加熱して還元処理を行う方法や、或いは、転炉や溶銑鍋などの処理容器内に製鋼スラグと還元剤とを装入し、酸素ガスで燃焼加熱しながら還元処理を行う方法などが挙げられる。
【0026】
また、予め高炉溶銑をアーク溶解炉や処理容器に装入し、高炉溶銑を燐含有製鋼スラグと共存させた状態で還元処理を行うことも可能である。この場合には、温度が高く溶融状態の溶銑が予め存在するので、燐の製鋼スラグからの分離が促進される。但し、高炉溶銑の装入量が多くなると、高燐溶銑の燐濃度が低くなるので、高燐溶銑の燐濃度が0.5質量%以上を確保できる範囲で、高炉溶銑を装入する必要がある。高燐溶銑の燐濃度が0.5質量%未満の場合は、後述するように、高燐溶銑の脱燐処理で生成される脱燐スラグの燐酸濃度が安定して10質量%を確保できなくなり、燐酸資源原料として利用できなくなる恐れがある。
【0027】
次いで、還元処理により得られた高燐溶銑からの燐の分離・回収について説明する。
【0028】
前述した予備脱燐スラグや脱炭精錬スラグを還元処理した結果、還元後の高燐溶銑には、燐が0.5〜7.5質量%程度含有されることが分かった。これは、燐含有製鋼スラグ中の燐及び鉄の質量比(P/Fe)が0.005〜0.075であることに基づく。
【0029】
本発明者らは、この高燐溶銑に対して脱燐処理を施すことで、この脱燐処理で生成される脱燐スラグに燐が濃化され、得られる脱燐スラグを燐酸資源原料として活用できると考えた。このとき、脱燐スラグにフッ素が存在すると、フッ素が燐酸(P25)及び石灰(CaO)と結合して安定的なアパタイトを形成し、燐酸の水溶性が阻害され、脱燐スラグを燐酸肥料用原料として利用したとき、燐酸の十分な水溶性が確保できないことから好ましくなく、従って、不可避的に混入されるフッ素以外には、フッ素源を使用せずに、脱燐処理する必要のあることが分かった。また、脱燐スラグを燐酸肥料として使用する場合には、燐酸肥料(脱燐スラグ)からフッ素が溶出し、土壌環境基準に対してフッ素溶出値が問題となる恐れがあり、この観点からも、本発明においてはフッ素源を使用しないこととした。
【0030】
そこで、現在、高炉溶銑の予備脱燐処理に使用されている脱燐処理設備を用い、高燐溶銑に対して脱燐処理を施した。先ず、上吹きランスから吹き付け供給する酸素ガス(「気体酸素源」という)及びホッパーから上置き添加する鉄鉱石などの酸化鉄(「固体酸素源」という)を酸素源とし、ホッパーから上置き添加する塊状の生石灰を石灰源として脱燐処理を施した。尚、現在の高炉溶銑の予備脱燐処理は、酸素ガスまたは鉄鉱石などの酸化鉄を酸素源とし、この酸素源で溶銑中の燐を酸化して燐酸となし、この燐酸を生石灰などの石灰源により形成される溶融状態の精錬剤(スラグ)が吸収することで進行する。燐を吸収した脱燐処理後の精錬剤が脱燐スラグであり、石灰源の滓化(溶融化)を促進させるために、CaF2などのフッ素源を添加することもある。この場合、酸素源を脱燐剤、石灰源を脱燐精錬剤と称することもある。
【0031】
しかしながら、上記の脱燐方法では、十分な脱燐反応は得られず、脱燐処理により生成される脱燐スラグの燐酸濃度は10質量%未満であった。処理容器上から、生成される脱燐スラグの様子を観察すると、生成する脱燐スラグはほとんど固体状態であった。
【0032】
これについて、本発明者らは以下のように考えた。つまり、高燐溶銑を脱燐処理する場合には、生成される脱燐スラグの組成は、ほぼトリカルシウムフォスフェート(3CaO・P25)となる。このトリカルシウムフォスフェートは、1250〜1400℃の溶銑の温度範囲においては固体であるため、脱燐スラグがほぼ固相となり、溶銑表面を覆ってしまい、脱燐反応が促進されず、停滞したものと考えられた。
【0033】
この結果を踏まえ、石灰源の滓化を促進させるべく、上吹きランスから酸素ガスを吹き付けるとともに、上吹きランスから石灰源を搬送用ガスとともに吹き付けて供給する脱燐処理試験を行った。種々の試験から、供給する全酸素量のうちの40体積%以上を上吹きランスからの酸素ガスとし、且つ、供給する石灰源のうちの純CaO換算の40質量%以上を、上吹きランスから噴射される酸素ガス噴流の溶銑浴面での衝突位置(この位置を「火点」という)に、搬送用ガスともに上吹きランスから溶銑に吹き付けることで、脱燐反応が停滞することなく進行し、生成する脱燐スラグの燐酸濃度が10質量%以上になることを確認した。また、得られた燐酸濃度が10質量%以上の脱燐スラグは農業用燐酸肥料や化学工業用燐酸の資源原料として利用可能なことを確認した。
【0034】
ここで、「供給する全酸素量のうちの40体積%以上を上吹きランスからの酸素ガスとする」とは、「供給する酸素源のうちの固体酸素源は酸素ガスに換算して全酸素量の体積を求め、そのうちの40体積%以上を上吹きランスから酸素ガスとして供給する」という意味である。また、「供給する石灰源のうちの純CaO換算の40質量%以上」とは、石灰源には生石灰、石灰石、ドロマイトなど種々の種類があり、「供給する石灰源をCaO純分に換算し、CaO純分の40質量%以上の石灰源」という意味である。
【0035】
上記のようにして脱燐処理することで、脱燐反応が停滞することなく進行する理由は、上吹きランスから供給される酸素ガス及び石灰源の比率が高く、上吹きランスから供給される酸素ガスにより形成される、所謂「火点」の領域近傍で脱燐反応を起こすことができ、固相の脱燐スラグが溶銑表面を覆い尽くす現象が軽減されるためと考えられる。石灰源の搬送用ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどの非酸化性ガス、及び、空気や酸素ガスなどの酸化性ガスの双方を使用することができるが、設備の保守が容易であることから、一般的には、非酸化性ガスが用いられる。
【0036】
脱燐処理前の高燐溶銑の燐濃度が高すぎる場合、具体的には2.0質量%を超える場合には、上記の脱燐処理を実施しても脱燐処理後の溶銑中燐濃度は高炉溶銑に比較して依然として高く、このままの状態では、低燐鋼種用の鉄源としての適用は困難であり、高燐鋼種用に限定されてしまう。従って、高燐溶銑の燐濃度が2.0質量%を超える場合には、高燐溶銑に高炉溶銑を混合し、混合後の溶銑(「混合溶銑」と定義する)の燐濃度を0.5〜2.0質量%の範囲に調整することが好ましい。
【0037】
脱燐処理前の高燐溶銑或いは混合溶銑の燐濃度が0.5〜2.0質量%の範囲である場合には、脱燐処理後の溶銑中燐濃度は高炉溶銑と同等またはそれ以下であることを本発明者らは確認している。尚、燐濃度が0.5質量%未満の溶銑を脱燐処理した場合は、生成する脱燐スラグの燐酸濃度は安定して10質量%を確保できなくなるので、この観点からも高燐溶銑の燐濃度は0.5質量%を確保する必要がある。
【0038】
本発明は、上記検討結果に基づいてなされたものであり、本発明は、製鋼精錬プロセスにおいて発生した燐を含有する製鋼スラグを、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて還元することにより、前記製鋼スラグ中の鉄酸化物及び燐酸化物が還元されて得られる、燐を0.5質量%以上含有する燐含有溶銑に対し、供給する酸素源の40体積%以上の酸素源を酸素ガスとして上吹きランスを介して溶銑に吹き付けて供給するとともに、供給する石灰源の純CaO換算の40質量%以上を前記上吹きランスを介して搬送用ガスとともに溶銑に吹き付けて供給し、前記石灰源の滓化促進剤としてフッ素源を使用することなく、酸素源及び石灰源を供給して脱燐処理を施し、生成される脱燐スラグ中の燐酸濃度を10質量%以上に濃縮させ、該脱燐スラグを回収して燐酸資源原料とすることを特徴とする。
【0039】
上記構成の本発明によれば、溶銑の予備脱燐スラグや溶銑の脱炭精錬スラグのような、製鋼精錬プロセスにおいて発生した燐を含有する製鋼スラグを還元して得られる、燐を0.5質量%以上含有する高燐溶銑に対して酸素源及び石灰源を添加して脱燐処理を施すので、この脱燐処理後に生成される脱燐スラグの燐酸濃度は10質量%以上に濃縮されて、この脱燐スラグを燐酸資源原料として有効活用することが可能となる。
【実施例1】
【0040】
予備脱燐スラグと脱炭精錬スラグとを3相交流式のアーク溶解炉に装入し、更に還元剤としてコークスを装入し、アークを発生させて、予備脱燐スラグ、脱炭精錬スラグ及びコークスを加熱し、これら製鋼スラグの還元処理を実施した。この還元処理により得られた150トンの高燐溶銑を溶銑鍋に装入し、この高燐溶銑に処理条件を変えて種々の脱燐処理を実施した。また、比較のために、高炉溶銑に対しても同様の脱燐処理を実施した。
【0041】
使用した脱燐処理設備は、上吹きランスを有しており、この上吹きランスから、酸素ガスを供給できるとともに、窒素ガスなどを搬送用ガスとして生石灰粉を酸素ガスによる火点位置に吹き付けることができる装置である。また、鉄鉱石や焼結鉱粉などの固体酸素源及び塊状の生石灰を上置き添加するための、ホッパー、シュートなどからなる供給装置も備えている。また更に、溶銑を攪拌するためのインジェクションランスも備えており、このインジェクションランスから必要に応じて攪拌用ガスとともに生石灰粉などを吹き込むことも可能な設備である。
【0042】
脱燐処理前の高燐溶銑の炭素濃度は、3.0〜5.0質量%であり、脱燐処理後の溶銑温度は1250〜1400℃に調整した。酸素源の使用原単位は、酸素ガス換算でおよそ15Nm3/t−溶銑であり、生石灰の原単位はCaO純分でおよそ35kg/t−溶銑であった。但し、高炉溶銑の脱燐処理(比較例1)では、生石灰の原単位はCaO純分で15kg/t−溶銑とした。表1に脱燐処理条件及び処理結果を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
高炉溶銑を使用した比較例1では、脱燐処理条件は本発明の範囲内であるものの、溶銑の含有する燐の絶対値が少なく、脱燐スラグの燐酸(P25)の濃度は10質量%未満となった。
【0045】
また、脱燐処理条件が本発明の範囲外である比較例2〜16では、燐を0.5質量%以上含有する高燐溶銑を脱燐処理したにも拘らず、脱燐スラグの燐酸濃度は10質量%未満となった。比較例2〜16においては、脱燐スラグがほぼ固体状態であり、溶銑浴面を覆ってしまい、脱燐反応が停滞した。
【0046】
これに対して、脱燐処理条件が本発明の範囲内である本発明例1〜15では、脱燐反応は停滞することなく進行し、脱燐スラグの燐酸濃度は何れも10質量%以上であった。これは、比較例2〜16と異なり、上吹きランスから供給される酸素ガス及び生石灰が多く、上吹きランスからの酸素ガス噴流によって形成される溶銑浴面の火点近傍で脱燐反応を起こすことができ、固体状態の脱燐スラグが溶銑浴面を覆ってしまう現象を軽減できたためである。
【0047】
本発明例1〜15で得られた脱燐スラグは、燐酸肥料や化学工業用燐酸の資源原料として使用可能であった。
【実施例2】
【0048】
予備脱燐スラグと脱炭精錬スラグとを混合した製鋼スラグを3相交流式のアーク溶解炉にてコークスにより還元処理して得られた高燐溶銑に高炉溶銑を混合し、混合後の混合溶銑の燐濃度を0.5〜2.0質量%の範囲に調整した。その後、この燐濃度を調整した混合溶銑に、脱燐処理条件を本発明の範囲内として、脱燐処理を実施した(本発明例16〜23)。
【0049】
混合前の高炉溶銑の炭素濃度は4〜5質量%、高燐溶銑の炭素濃度は3.0〜5.0質量%であり、脱燐処理後の溶銑温度は1250〜1400℃に調整した。酸素源の使用原単位は、酸素ガス換算でおよそ15Nm3/t−溶銑であり、生石灰の原単位はCaO純分でおよそ35kg/t−溶銑であった。表2に脱燐処理条件及び処理結果を示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示すように、還元処理により得られた高燐溶銑と、高炉溶銑とを混合した混合溶銑の燐濃度を0.5〜2.0質量%に調整し、この混合溶銑に本発明の範囲の脱燐処理を施すことで、脱燐処理後の溶銑中燐濃度は高炉溶銑と同程度或いはそれ以下に低減することが分かった。脱燐処理後の混合溶銑の隣濃度が高炉溶銑と同等になれば、脱燐処理後の混合溶銑は、製鋼工程において何ら問題なく低燐鋼種用の鉄源として適用可能である。
【0052】
また、本発明例16〜23においても、脱燐処理後の脱燐スラグは10質量%以上の燐酸(P25)を含有しており、燐酸資源原料として問題なく活用可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼精錬プロセスにおいて発生した燐を含有する製鋼スラグを、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて還元することにより、前記製鋼スラグ中の鉄酸化物及び燐酸化物が還元されて得られる、燐を0.5質量%以上含有する燐含有溶銑に対し、供給する酸素源の40体積%以上の酸素源を酸素ガスとして上吹きランスを介して溶銑に吹き付けて供給するとともに、供給する石灰源の純CaO換算の40質量%以上を前記上吹きランスを介して搬送用ガスとともに溶銑に吹き付けて供給し、前記石灰源の滓化促進剤としてフッ素源を使用することなく、酸素源及び石灰源を供給して脱燐処理を施し、生成される脱燐スラグ中の燐酸濃度を10質量%以上に濃縮させ、該脱燐スラグを回収して燐酸資源原料とすることを特徴とする、燐酸資源原料の製造方法。
【請求項2】
前記製鋼スラグ中の鉄酸化物及び燐酸化物が還元されて得られる、燐を0.5質量%以上含有する燐含有溶銑と、高炉から出銑される高炉溶銑とを、混合後の溶銑の燐濃度が0.5質量%以上2.0質量%以下となるように調整して混合し、その後、混合した溶銑に前記脱燐処理を施すことを特徴とする、請求項1に記載の燐酸資源原料の製造方法。

【公開番号】特開2010−189670(P2010−189670A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32265(P2009−32265)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】