説明

現像装置及びこれを用いた画像形成装置、現像剤担持体及びその製法

【課題】二成分現像剤を担持搬送する現像剤担持体の周面に着目し、長期的に安定した周面を得るようにした現像装置及びこれを用いた画像形成装置、現像剤担持体及びその製法を提供する。
【解決手段】像担持体1に対向配置される現像剤担持体2を有し、この現像剤担持体2にてトナー及びキャリアが含まれる二成分現像剤(現像剤)を担持搬送する現像装置において、現像剤担持体2は、周面に現像剤が担持可能な微小粗面3を形成し、この微小粗面3の表面凸部3a平滑面4とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタ等の画像形成装置に用いられる現像装置に係り、特に、トナー及びキャリアを含む二成分現像剤が使用される現像装置及びこれを用いた画像形成装置、二成分現像剤が担持可能な現像剤担持体及びその製法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真方式等の画像形成装置で用いられる現像装置としてトナー及びキャリアが含まれる二成分現像剤(現像剤)を用いる二成分現像方式では、現像前の現像剤担持体上の現像剤を所定の層厚に規制するために現像剤担持体と所定のギャップを介した位置に層厚規制部材が配置される。
このような層厚規制部材を用いると、層厚規制部材の現像剤搬送方向上流側近傍では層厚規制部材のギャップを現像剤の全量が通過できずに現像剤の溜まりが形成されるようになる。そのため、この溜まった現像剤の影響によってこの部位で現像剤が現像剤担持体とスリップし易くなり、現像剤担持体の周面を摩耗して現像剤担持体の表面形状が変化するようになる。その結果、現像剤担持体によって搬送される現像剤搬送量が変化するようになったり、スリップによって現像剤自体の劣化を起こすようになり、長期に亘る安定した画像の維持を図ることが困難となっていた。
【0003】
このような現像剤の溜まりを低減するために、通常、現像剤のキャリアの磁力や層厚規制位置での磁力(磁界)を調整することで、現像剤搬送量の経時的な安定化を図る対策がなされている。
一方、近年の高画質化への要請のため、現像剤担持体と層厚規制部材とのギャップを通過し易く、現像剤の長寿命化が可能な球形キャリアを用いる提案もなされている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−24406号公報(実施例)
【特許文献2】特開2001−296735号公報(発明の実施の形態、表1)
【特許文献3】特開2000−231257号公報(発明の実施の形態、表2)
【特許文献4】特開平10−90995号公報(実施例、表1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的に球形キャリアとしては磁性体と樹脂とが分散された構成であり、そのため、通常の不定形のフェライトキャリアを用いたものに比べ、低磁力となり易いこともあって、球形キャリアを用いた現像剤は現像剤担持体での現像剤搬送力がフェライトキャリアを用いたものに比べ低下するようになる。したがって、層厚規制部材の上流側での現像剤の溜まりが一層発生し易くなり、現像剤担持体の摩耗や現像剤の劣化も起こり易くなる。その結果、現像剤担持体による現像剤搬送量も経時的に変化し、画質の安定性を損なうという技術的課題がある。
【0006】
本発明は、このような技術的課題を解決するためのものであり、二成分現像剤を担持搬送する現像剤担持体の周面に着目し、長期的に安定した周面を得るようにした現像装置及びこれを用いた画像形成装置、現像剤担持体及びその製法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような現像剤担持体の周面に着目した技術としては、特許文献2〜4に記載されたようなものが知られている。特許文献2には、中心線平均粗さRaが1.0〜2.0μmで凹凸ピッチ3.8μm以下のSRlrが101%以下の周面を持つ現像剤担持体が記されている。また、特許文献3,4には大きい凹凸と小さい凹凸を設け、大きい凹凸のRaと小さい凹凸のSRlrとが夫々規定された周面を持つ現像剤担持体が記されている。
【0008】
しかしながら、これらの特許文献に記載された現像剤担持体は、いずれも一成分現像剤を使用する際の課題を解決するためになされたものであり、二成分現像剤を想定したものではない。また、特許文献2では現像剤担持体の周面を化学めっき、化成処理又は樹脂皮膜によって構成するものが示され、一方、特許文献3,4では樹脂皮膜で構成するものが示されているに過ぎず、その主眼もトナー付着防止にある。そのため、二成分現像剤を使用する際の現像剤と現像剤担持体との摺動に着眼したものでもない。
【0009】
本件発明者らは、二成分現像剤(現像剤)を搬送するための適正な現像剤担持体の周面について鋭意検討した結果、現像剤担持体の周面に現像剤が搬送可能な凹部を形成するための粗面化を行った場合、その凹部周辺には尖鋭な凸部(表面凸部)が形成され易く、現像剤の溜まりによってこの表面凸部の摩耗が急速に行われ、現像剤搬送量の経時的安定性を損なうようになるとの知見を得て、本件発明を見出すに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、図1に示すように、像担持体1に対向配置される現像剤担持体2を有し、この現像剤担持体2にてトナー及びキャリアが含まれる二成分現像剤(現像剤)を担持搬送する現像装置において、現像剤担持体2は、周面に現像剤が担持可能な微小粗面3を形成し、この微小粗面3の表面凸部3aを平滑面4としたことを特徴とするものである。尚、平滑面4としては、微小粗面3の表面凸部3aを除去したり、反対に表面凸部3aを覆ったりできるものであれば特に限定されず、各種研磨方法や各種めっき方法を採用することが可能である。
【0011】
このような技術的手段において、現像剤担持体2としてはトナー及びキャリアが含まれる二成分現像剤(現像剤)を担持搬送できるものであればよく、代表的態様としては回転可能な非磁性スリーブの内部に固定配置された磁界発生手段を備えた構成が挙げられる。また、現像剤担持体2と像担持体1とは、その互いの回動方向は対向部位で同方向(With方向)でもあってもよいし、反対方向(Against方向)であってもよい。
【0012】
そして、本発明では、現像剤担持体2の周面に対し、現像剤が担持可能な微小粗面3が形成され、この微小粗面3の表面凸部3aを平滑面4とすることで、長期に亘って安定的な現像剤搬送性を確保することができるようになる。すなわち、微小粗面3を形成すると夫々の微小粗面3の凹部周辺には尖鋭的な凸部が形成され易くなり、そのまま現像剤の担持搬送を繰り返すと、この表面凸部3aが現像剤によって摩耗され、徐々に現像剤担持体2の周面形状が変化するようになる。そのため、現像剤担持体2による現像剤搬送量が経時的に変化するようになり、画質の安定性を損なうようにもなる。これに対し、本発明では、微小粗面3の表面凸部3aを平滑面4とすることで現像剤のスリップによって現像剤担持体2が摩耗してもその変形量が小さく抑えられ、長期に亘って安定した周面が得られるようになり、現像剤搬送量を安定化させることができるようになる。
【0013】
また、本発明の具体的態様としては、現像剤担持体2は、その周面がJIS B0601−1982による中心線平均粗さRaが1.6μm以上であり、かつ、粗さ曲線の有効線長さSRlrが103%以下の表面形状に設定されることが好ましい。
ここで、中心線平均粗さRaと粗さ曲線の有効線長さSRlrについて図2を基に説明する。同図において、評価長さlの範囲内の粗さ曲線f(x)が図のようになっているとすると、中心線平均粗さRaは図の斜線部面積の平均値で表される(図中(1)式に相当する)。一方、粗さ曲線の有効線長さSRlrは、3.8μmより長い各周波数成分をカットオフし、得られた粗さ曲線f(x)の全長を評価長さ(測定区間長)lで除した値を%表示したもので表される(図中(2)式に相当する)。
【0014】
本発明では、Raが1.6μm以上、かつ、SRlrが103%以下となるようにすることで、現像剤担持体2の周面に微小粗面3を残しながら、エッジ部3aを平滑面4にすることができ、現像剤のスリップによっても長期に亘って安定な周面を実現できるようになる。
更に、本発明では、微小粗面3のRaの上限は4μmとすることが好ましく、Raがこれより大きいと、現像剤が現像剤担持体2上で一層スリップを生じ易くなり、周面の摩耗や現像剤自体の劣化が生じる虞があり、現像剤搬送量の安定化を損なう可能性がある。尚、Raを大きくすると、SRlr自体も大きくなる傾向にあることは云うまでもない。
【0015】
そして、本発明に用いられる現像剤のキャリアは、磁性体と結着樹脂とが分散混合された構成を有するものであることが好ましく、このような分散混合されたキャリアは球形度の高いキャリアであったり、磁化特性の低いキャリアであり、本発明はこのようなキャリアを用いた現像剤を使用する際に特に好適である。尚、磁性体と結着樹脂とが分散混合された構成を有するものとは、磁性体と樹脂を分散混合し粉砕分級したもの、重合法によって作製したもの、ポーラスな磁性体に樹脂を含浸させたもの等が挙げられる。また、磁性体と結着樹脂とを混合分散することで磁性キャリア単独のものに比べ磁化も小さくなる。
【0016】
また、キャリアは重合法によって作製され且つ形状係数SF−2が115以下のものとすることが好ましい。形状係数が大きくなると、層厚規制部材のギャップでの現像剤への抵抗が大きくなりすぎたり、キャリア相互の衝突が増えることでトナーの劣化が早まるようになったりするようになる。形状係数SF−2はキャリア粒子の投影像の周囲長をLとし、キャリア粒子径の投影面積をSとしたときに、次の式によって算出される。
SF−2=(L2/S)×{100/(4π)}
尚、高画質化を図る観点から、キャリアの平均粒径は50μm以下とすることが好ましい。
【0017】
更に、キャリアとしては、磁場10/4π(A/m)(1000Oe)における磁化の強さが3.2π〜8.4π×10−2Wb/m(80〜210emu/cm)の低磁力のものであることが好ましく、このような低磁力のキャリアを使用すると、現像剤を現像剤担持体2側に引き付ける作用が弱くなる分現像剤のスリップを起こし易くなるが、現像剤担持体2の周面が摩耗の変化に強くなっていることから、長期に亘って安定な現像剤搬送量を維持することができるようになる。磁化の強さがこれより大きいと現像剤による現像剤担持体2の周面の摩耗が増えるようになり、一方、これより小さいと現像剤担持体2による現像剤の搬送性を損なうようになる。
【0018】
そして、本発明は、上述した現像装置に限られるものではなく、これらの現像装置を用いた画像形成装置をも対象とし、この場合、静電潜像が担持される像担持体1と上述した現像装置とを備えるようにすればよい。
また、本発明は、現像剤担持体2も対象とし、この場合、像担持体1に対向配置され且つトナー及びキャリアが含まれる二成分現像剤(現像剤)を担持搬送可能な現像剤担持体2であって、周面に現像剤が担持可能な微小粗面3を形成し、この微小粗面3の表面凸部3aを平滑面4としたことを特徴とする。
【0019】
更に、本発明は、上述した現像剤担持体2を作製する製法をも対象とするものであり、この場合、像担持体1に対向配置され且つトナー及びキャリアが含まれる二成分現像剤(現像剤)を担持搬送可能な現像剤担持体2を作製する現像剤担持体2の製法であって、現像剤担持体2周面に現像剤が担持可能な微小粗面3を形成する粗面化処理工程と、この粗面化処理工程にて形成された微小粗面3を損なわない状態で微小粗面3の表面凸部3aを平滑化する平滑化処理工程を行うことを特徴とする。
【0020】
ここで、粗面化処理としては現像剤担持体2の周面を粗面化できるものであればよく、代表的にはブラスト処理やケミカルエッチング処理が挙げられるが、周面にランダムな微小粗面3を容易に形成する観点からはブラスト処理(砥粒を液体に混ぜて吹き付けて加工する液体ホーニングも含む)が好適である。
また、粗面化処理は、ブラスト処理にて一旦中心線平均粗さRaが少し大きくなるように微小粗面3を形成し、その後平滑化処理を行うようにすれば、平滑化処理時に粗面化処理にて形成された微小粗面3を損なわない状態を保つことができるようになる。
【0021】
一方、平滑化処理は、例えばバフによるバフ研磨、研磨粒子による研磨、電界研磨、めっき付与等の方法が挙げられる。更に、平滑化処理としては、微小粗面3を損なわずにエッジ部3aを平滑化する観点からバフ研磨が好ましく、また、表面凸部3aを覆う観点から非磁性の金属めっき層を形成することが好ましい。平滑化処理としてめっき層を施すことで、現像剤担持体2周面の摩耗量を低減するようにして表面性を維持したり、逆に、摩耗がされ易いめっき層を形成して研磨されても下地によって摩耗が進まないようになり、安定した現像剤搬送性が確保されるようになる。尚、具体的には、硬質めっきとしてはニッケルめっきやクロムめっき等が挙げられ、軟質めっきとしては光沢銅めっき等が挙げられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、二成分現像剤を担持搬送する現像剤担持体を用いた現像装置において、現像剤担持体は、周面に現像剤が担持可能な微小粗面を形成し、この微小粗面の表面凸部を平滑面としたので、現像剤担持体上の現像剤搬送量を長期に亘って安定させることができる現像装置を実現できる。
また、このような現像装置を用いることで、長期に亘って安定した画質が維持できる画像形成装置を実現できる。
更に、周面に二成分現像剤が担持可能な微小粗面を形成し、この微小粗面の表面凸部を平滑面としたので、長期に亘って安定した現像剤の搬送性が確保される現像剤担持体を実現できる。
更にまた、現像剤担持体周面に現像剤が担持可能な微小粗面を形成する粗面化処理工程と、この粗面化処理工程にて形成された微小粗面を損なわない状態で微小粗面の表面凸部を平滑化する平滑化処理工程を行うようにしたので、長期に亘って二成分現像剤が安定して担持搬送可能な現像剤担持体を作製する製法が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図3は、本発明が適用された現像装置を含む画像形成装置の実施の形態を示す。同図において、符号21は、矢印方向に回転し、表面に有機光導電層等からなる感光層を含む像担持体としての感光体であり、この感光体21は帯電ロール等の帯電器22によって帯電され、レーザ書込装置等の露光器23によって静電潜像が書き込まれる。この書き込まれた静電潜像は、感光体21の光の当たった部分の表面電位が低下し、光の当たっていない高電位部分とのコントラストによる電位画像として形成される。
【0024】
また、感光体21に対向して配置される現像装置30は、現像ハウジング31内に着色粒子であるトナーとトナーを担持して搬送するキャリアが含まれる二成分現像剤(現像剤)が収容され、現像剤担持体としての現像ロール32に現像剤を担持させ、この現像ロール32に図示外のバイアス電源からの現像バイアスを印加することで、現像ロール32側を静電潜像の高電位部と低電位部との中間電位に保持し、感光体21上の静電潜像の画像部を現像剤中の帯電されたトナーにて現像するようにしたものである。
【0025】
更に、感光体21の周囲には転写器24が設けられ、この転写器24は、例えば感光体21に圧接配置される転写ロールにて構成され、図示外のバイアス電源によって感光体21上のトナー像が引き付けられる方向の転写バイアスが印加されることで、感光体21上のトナー像を記録材26に転写させるようにしたものである。また、感光体21上に残留したトナーは、例えばドクターブレード式のクリーナー25によって除去される。
【0026】
更にまた、本実施の形態では、感光体21上のトナー像が転写された記録材26は、定着器50に搬送され、この定着器50により記録材26上のトナー像が定着される。定着器50としては、例えばヒートロール方式が採用され、加熱ロール51と加圧ロール52とを有し、この加熱ロール51と加圧ロール52との間に記録材26を通過させることによりトナー像が記録材26に定着されるようになっている。
【0027】
本実施の形態における現像装置30は、図4に示すように、感光体21に向かって開口する現像ハウジング31を有し、この現像ハウジング31の開口に面して現像ロール32を配設し、現像ハウジング31の開口下縁には現像ロール32表面の現像剤の層厚を規制する層厚規制部材としてのトリマ33を設けたものとなっている。本実施の形態における現像ロール32は、表面形状が調整された周面を持った回転可能な非磁性の現像スリーブ32aを有し、その内部に複数の磁極(本例ではS1,N1,S2,S3,N2磁極)を固定的に配設した磁石ロール32bを備えたものとなっている。磁石ロール32bの磁極は、感光体21と対向する位置に現像磁極としてS1磁極を配置し、その現像剤搬送方向下流側には搬送磁極としてのN1磁極、反発磁極としてのS2,S3磁極(S3磁極はピックアップ磁極としても働く)を配置し、トリマ33と対向する位置にトリマ磁極としてのN2磁極を配置したものである。尚、磁極の数や配置はこれに限られるものではなく、適宜選定するようにすればよい。
【0028】
また、現像ロール32の背後には、現像ハウジング31の一部で構成される仕切壁31aを挟んで、現像剤を撹拌搬送可能な2個のオーガー34(34a,34b)が設けられ、例えば現像ロール32側のオーガーを主として現像ロール32に現像剤を供給するサプライオーガー34aとし、仕切壁31aの背後のオーガーは主として現像剤の混合撹拌を行うアドミクスオーガー34bとなっている。
【0029】
次に、本実施の形態の現像スリーブ32aについて詳細に説明する。
本実施の形態の現像スリーブ32aは、アルミ合金やステンレス合金等の金属パイプ表面に、ブラスト材を吹き付けて粗面化するブラスト処理を行い、中心線平均粗さRaが所定の値となるように加工する。その後、バフ研磨を行い、中心線平均粗さRaが1.6μm以上、かつ、粗さ曲線の有効線長さSRlrが103%以下となる周面を形成するようにしている。
ブラスト処理に使用するブラスト材としては、ガラス系、セラミックス系、金属系、樹脂系メディア等限定されないが、所望の表面粗さ(凹凸面)を得る観点から所定の粒度の球形粒子を使用することが好ましい。また、バフ研磨としては、アルミナ等の研磨粒子を併用するようにしても差し支えない。
【0030】
図5(a)は、本実施の形態における現像スリーブ32aの表面近傍の断面模式図を示すものであり、加工前(周面は二点鎖線で示す)の現像スリーブ32aにブラスト処理を施すと、左図のようにスリーブ周面には複数の凹部が重なったり離間した形の微小粗面(図中実線で示す)が形成される。このとき、この形成された微小粗面には、その凹部の周囲に尖鋭な形状を呈する凸部が形成された状態となっている。その後、研磨処理(本例ではバフ研磨)を行うと、特に表面凸部が多く研磨されて右図に示すように、表面凸部が滑らかな曲線部を形成するようになる。そして、このような現像スリーブ32aが使用される。
更に、本実施の形態で使用する現像剤のキャリアとしては、重合法によって作製された形状係数SF−2が110の所謂球形キャリアを用いた。また、このときのキャリアの磁化の強さは4π×10−2Wb/m(100emu/cm)であった。
【0031】
次に、本実施の形態における画像形成装置の作動を、現像装置30を中心に説明する。
図4において、アドミクスオーガー34b及びサプライオーガー34aによって所定の帯電が付与された現像剤は、現像ロール32のピックアップ磁極のS3磁極の作用によって現像ロール32上(具体的には現像スリーブ32a上)に導かれる。現像スリーブ32a上に導かれた現像剤は、現像スリーブ32aの回転並びにS3磁極とトリマ磁極のN2磁極の間の磁界によって現像スリーブ32a上を搬送される。
そして、トリマ33の部位では、N2磁極の作用によって十分穂立ちがなされた現像剤がトリマ33と現像スリーブ32aとの間隙であるトリマギャップによって所定の層厚に規制され、この規制された層厚の現像剤が感光体21と現像ロール32との対向領域である現像領域に搬送され、この現像領域にて現像剤中のトナーが感光体21上の静電潜像を顕像化するようになる。
【0032】
現像を終えた現像剤は、現像スリーブ32aの回転に伴ってそのままN1磁極、S2磁極と搬送され、その後S2磁極とS3磁極とで構成される反発磁界の作用によって現像スリーブ32aからピックオフされる。このピックオフされた現像剤は、オーガー34に戻され、オーガー34によって撹拌が繰り返された後、再度現像に供するようになる。
【0033】
このような現像装置30の作動にあって、トリマ33の上流側近傍ではトリマギャップによって規制された現像剤が溜まり易くなる。
すなわち、現像剤のキャリアが球形のため、また、低磁力のために、特にこの部位では、現像剤を現像スリーブ32a側へ保持しようとする力(現像剤保持力)が弱いため、現像スリーブ32aによる現像剤搬送力が低下し、一層溜まりを形成するようになる。結果的に、現像剤が搬送される速度が現像スリーブ32aの周速より遅くなることで、現像剤が現像スリーブ32a表面でスリップを起こすようになる。
【0034】
通常、現像スリーブ32aの表面で現像剤がスリップするようになると、スリーブ表面の摩耗が促進され、表面の粗さが低下するようになり、結果的に現像スリーブ32aによる現像剤搬送量が減少するようになる。このことは、特にブラスト処理のみを行ったようなスリーブ表面では、図5(a)の左図に示すように、ブラスト処理によって形成された凹部の周辺(表面側)に尖鋭な凸部が形成され、現像剤のスリップによってこの表面凸部が急速に摩耗されるようになる。そのため、現像剤搬送量は急激に低下するようになる。そして、この表面凸部が摩耗した後はスリーブ表面の全体的な摩耗が徐々に進むようになり、現像剤搬送量の変化は緩やかになる。したがって、特に表面凸部が摩耗するまでの初期的な変動が大きく、このとき現像剤搬送量の大幅な低下を来すようになり、画像濃度の低下等の画像欠陥が発生するようになる。尚、このとき、スリーブ表面のSRlrも摩耗によって急激に低下する方向に向かう。
【0035】
一方、本実施の形態の現像スリーブ32aは、その表面をブラスト処理した後に更にバフ研磨を行うことで、ブラスト処理によって発生する表面凸部を図5(a)の右図に示すように始めから除去するようにしたので、現像剤のスリップによるスリーブ表面の摩耗が抑えられるようになり、現像剤搬送量の変化が小さく抑えられるようになる。
更に、本実施の形態では、ブラスト処理によるスリーブ表面のRaを1.6μm以上とし、SRlrを103%以下としたことで、スリーブ表面の凹部も浅くでき、かつ、凹部を稠密に配置しすぎないようにでき、現像剤のスリップによるスリーブ表面の摩耗を低減することができ、長期に亘って安定した現像剤搬送量を維持できるようになる。そのため、長期に亘って安定した画像形成が行えるようになる。
【0036】
本実施の形態では、現像スリーブ32aの表面に対しブラスト処理を行った後に研磨処理としてバフ研磨を行う方式を示したが、RaとSRlrが所定の値になるようにできれば、研磨粒子による研磨、電解研磨等の他の研磨方法を用いるようにしてもよい。
更に、本実施の形態では粗面化処理としてブラスト処理を行った後に平滑化処理として研磨処理を行う方式を示したが、平滑化処理として研磨処理の代わりにめっき処理を行うようにしてもよい。
【0037】
図5(b)は、めっき処理の一例として光沢銅めっきを行った場合の現像スリーブ32aの断面を示すもので、左図がブラスト処理を行った状態の形状であり、右図はめっき処理を行った状態を示している。
この場合、現像スリーブ32aの表面が所定のRaになるようにブラスト処理を行い、適宜下地処理を行った後に光沢銅めっきを行う。すると、ブラスト処理によって発生したエッジ部を覆うようにめっき皮膜が形成され、ブラスト処理後のRaやSRlrの値から共に小さくなった値の表面形状が形成されるようになる。特に、めっき皮膜としてこのような軟質めっき皮膜を使用した場合には、硬質めっき皮膜を使用する場合に比べ皮膜自体の耐摩耗性は低下するが、初期的な搬送性の変化はめっき皮膜による平滑化処理によって防止することができ、一方、経時的な搬送性の変化はめっき皮膜が削られた後に出てくる素地の粗さで維持することが可能になる。また、このような安価なめっき皮膜を使用することで、現像スリーブ32aとしての部品の耐久性とコストとの関係でコストパフォーマンスの選択肢を拡げることもできるようになる。
【0038】
また、めっき皮膜としては、上述した光沢銅めっきに限らず、硬質めっき皮膜として例えば光沢ニッケルめっき皮膜を形成するようにしても差し支えない。めっき皮膜として硬質膜を使用するようにすれば、平滑化処理がなされると共に現像剤のスリップによる摩耗量を低減することも可能になり、長期に亘って安定した表面を維持することができるようになる。更に、より耐久性を必要とする場合には、光沢ニッケル皮膜の表面に例えばクロムめっき皮膜等のより高い硬度のめっき皮膜を施すようにすればよい。尚、これらに用いられる皮膜は、非磁性の特性を必要とすることから、各種添加剤等の調整がなされていることは云うまでもない。
【0039】
以上のように、本実施の形態では、現像スリーブ32aの表面を粗面化処理としてブラスト処理を行った後に平滑化処理として研磨処理やめっき処理を行って、スリーブ表面の中心線平均粗さRa及び粗さ曲線の有効線長さSRlrを所定の値に設定するようにしたので、現像剤のキャリアとして球形キャリアを使用したにも拘わらず、長期に亘って安定した現像剤搬送量を維持することができるようになる。
尚、本実施の形態の画像形成装置は、単色のものを示したが、このような現像装置30を複数用いて、例えばフルカラーの画像形成装置に適用できることは云うまでもない。
【実施例】
【0040】
◎実施例1
本実施例は、表面形状の異なる2種の現像スリーブにて重合キャリアの現像剤を使用したときに、現像スリーブ上の現像剤量MOS(Mass on Sleeve)がどう変化するかを評価確認したものである。尚、比較のために、従来の組合せ(従来のフェライトキャリアの現像剤と従来の現像スリーブの組合せ)も評価した。
使用した現像スリーブとしては、本発明のように、ブラスト処理を行った後にバフ研磨を行い、Ra1.6μm以上、SRlr103%以下となるように調整したものとした。更に、ブラスト処理(Raが5μm、SRlrが108%のもの)のみを行ったものを比較(従来の現像スリーブ)とした。
テストは、通常の画像面積率約5%の出力を行い、適宜現像スリーブ上の現像剤量を計測することで、MOSの変化を測定した。
【0041】
結果は、図6に示すように、重合キャリア(重合CA)を用いたものでは、現像スリーブによってMOSの変化の様子が大きく異なることが判明し、従来の現像スリーブ(従来スリーブ)では、プリント初期から急激にMOSが低下するようになり、約20万枚では飽和してくるようになることが判明した。これに対し、本件の現像スリーブ(本スリーブ)では、30万枚の出力を行っても大きな変化がないことが確認された。
一方、従来のフェライトキャリアの現像剤(従来現像剤)と従来スリーブとの組合せでは、徐々にMOSの低下が生じることが判明した。
このことから、重合キャリアを使用することで、従来の現像剤を使用するときよりも現像スリーブの表面摩耗が大きくなり、現像剤が現像スリーブ上を激しくスリップしていることが窺える。また、MOSの変化は初期の80%程度を合格ラインと考えると、重合キャリアを使用した場合、従来スリーブでは約5万枚しか出力できないものが、本スリーブでは30万枚出力しても問題がないことが確認され、本件の有効性が改めて確認された。尚、従来の組合せでは、約23万枚であり、これよりも長期に亘って安定であることも判明した。
【0042】
◎実施例2
本実施例は、現像スリーブのRa及びSRlrに着目し、現像剤として重合キャリアを使用したもので出力を繰り返したときの現像スリーブの維持性を評価確認したものである。
維持性としては、実施例1同様にプリント出力を重ね、30万枚の出力を行うまでに適宜MOSを測定し、MOSの初期との変化が80%を下回るかどうかで判断し、下回る場合にはNGとした。
結果は、図7に示すようになった。ここで、○印はOKレベルのもの、×印はNGレベルのものを示しており、また、●印は、現像スリーブにブラスト処理を行ったのみのもののRaとSRlrの実測値を参考として示したものである。
【0043】
この結果によれば、現像スリーブの表面のRaが1.6μm以上であり、かつ、SRlrが103%以下であれば、安定したMOSを維持できることが判明し、本件の有効性が確認された。また、Raが4μmを超えると、NGとなる可能性が高いことも確認された。
更に、本件発明者らは、使用する現像剤について詳細に検討を重ね、キャリアの形状係数SF−2が115以下であれば上述と同様の結果が得られることを確認した。また、キャリアの磁化の強さについても、3.2π〜8.4π×10−2Wb/m(80〜210emu/cm)であれば、同様の効果が得られることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る現像装置の概要を示す説明図である。
【図2】中心線平均粗さRa及び粗さ曲線の有効線長さSRlrを示す説明図である。
【図3】本発明が適用された画像形成装置の実施の形態を示す説明図である。
【図4】実施の形態の現像装置を示す説明図である。
【図5】実施の形態の現像スリーブの表面近傍の断面模式図であり、(a)は平滑化処理としてバフ研磨をしたもの、(b)はめっき皮膜を施したものである。
【図6】実施例1の結果を示すグラフである。
【図7】実施例2の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
1…像担持体,2…現像剤担持体,3…微小粗面,3a…表面凸部,4…平滑面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体に対向配置される現像剤担持体を有し、この現像剤担持体にてトナー及びキャリアが含まれる二成分現像剤を担持搬送する現像装置において、
現像剤担持体は、周面に現像剤が担持可能な微小粗面を形成し、この微小粗面の表面凸部を平滑面としたことを特徴とする現像装置。
【請求項2】
請求項1記載の現像装置において、
現像剤担持体は、その周面がJIS B0601−1982による中心線平均粗さRaが1.6μm以上であり、かつ、粗さ曲線の有効線長さSRlrが103%以下の表面形状に設定されることを特徴とする現像装置。
【請求項3】
請求項2記載の現像装置において、
現像剤担持体は、微小粗面のRaが4μm以下に設定されることを特徴とする現像装置。
【請求項4】
請求項1記載の現像装置において、
現像剤のキャリアは、磁性体と結着樹脂とが分散混合された構成を有するものであることを特徴とする現像装置。
【請求項5】
請求項4記載の現像装置において、
キャリアは、重合法によって作製され且つ形状係数SF−2が115以下のものであることを特徴とする現像装置。
【請求項6】
請求項5記載の現像装置において、
キャリアは、磁場10/4π(A/m)(1000Oe)における磁化の強さが3.2π〜8.4π×10−2Wb/m(80〜210emu/cm)の低磁力のものであることを特徴とする現像装置。
【請求項7】
静電潜像が担持される像担持体と、
請求項1乃至6のいずれかに記載の現像装置とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
像担持体に対向配置され且つトナー及びキャリアが含まれる二成分現像剤を担持搬送可能な現像剤担持体であって、
周面に現像剤が担持可能な微小粗面を形成し、この微小粗面の表面凸部を平滑面としたことを特徴とする現像剤担持体。
【請求項9】
像担持体に対向配置され且つトナー及びキャリアが含まれる二成分現像剤を担持搬送可能な現像剤担持体を作製する現像剤担持体の製法であって、
現像剤担持体周面に現像剤が担持可能な微小粗面を形成する粗面化処理工程と、
この粗面化処理工程にて形成された微小粗面を損なわない状態で微小粗面の表面凸部を平滑化する平滑化処理工程を行うことを特徴とする現像剤担持体の製法。
【請求項10】
請求項9記載の現像剤担持体の製法において、
平滑化処理は、非磁性の金属めっき層を形成するものであることを特徴とする現像剤担持体の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−40400(P2008−40400A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217985(P2006−217985)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】