説明

球帯状シール体及びその製造方法

【課題】相手材との摺動摩擦において、異常摩擦音の発生を極力防止し得る球帯状シール体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】球帯状シール体46は、円筒内面38、部分凸球面状面39並びに部分凸球面状面39の大径側及び小径側の環状端面40及び41により規定された球帯状基体42と、この球帯状基体42の部分凸球面状面39に一体的に形成されていると共に径方向に積層された複数の部分凸球面状中間層43と、複数の部分凸球面状中間層43のうちの最外側の部分凸球面状中間層43の部分凸球面状面44に一体的に形成された外層45とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車排気管の球面管継手に使用される球帯状シール体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンの排気ガスは、自動車エンジンの排気通路の一例を示す図21において、エンジンの各気筒(図示せず)で発生した排気ガスは、排気マニホールド触媒コンバータ600にまとめられ、排気管601及び排気管602を通じてサブマフラ603に送られ、このサブマフラ603を通過した排気ガスは、更に排気管604及び排気管605を介してマフラ(消音器)606へと送られ、このマフラ606を通じて大気中に放出される。
【0003】
これら排気管601及び602並びに604及び605や、サブマフラ603及びマフラ606等の排気系部材にあっては、エンジンのロール挙動及び振動などにより繰返し応力を受ける。とくに高速回転で高出力エンジンの場合は、排気系部材に加わる応力はかなり大きなものとなる。したがって、排気系部材は疲労破壊を招く虞があり、またエンジン振動が排気系部材を共振させ、室内静粛性を悪化させる場合もある。このような問題を解決するために、排気マニホールド触媒コンバータ600と排気管601との連結部607及び排気管604と排気管605との連結部608を排気管球面継手又は蛇腹式排気管継手等の振動吸収機構によって可動連結することにより、自動車エンジンのロール挙動及び振動などにより排気系部材に繰返し受ける応力が吸収され、当該排気系部材の疲労破壊等が防止されると共にエンジンの振動が排気系部材を共振させ車室内の静粛性を悪化させるという問題も解決されるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54−76759号公報
【特許文献2】国際公開第2009/078165号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した振動吸収機構の一例として、特許文献1に記載された排気管継手及び該継手に使用される排気シールが挙げられる。この特許文献1に記載された排気シールは、耐熱性を有し、相手材とのなじみ性に優れ、また衝撃強度も著しく改善されているという利点を有する反面、乾燥摩擦条件下の摩擦においては往々にして摩擦異音を発生するという欠点がある。この排気シールの欠点は、該排気シールを形成する耐熱材料(膨張黒鉛など)の静止摩擦係数と動摩擦係数との差が大きいこと及びこの耐熱材料からなる排気シールのすべり速度に対する摩擦抵抗が負性抵抗を示すこと等に起因するものと考えられる。
【0006】
上記排気シールの欠点を解決するものとして、特許文献2に記載された球帯状シール体がある。この特許文献2に記載された図22及び図23に示す球帯状シール体700は、円筒内面701、部分凸球面状面702並びに部分凸球面状面702の大径側及び小径側の環状端面703及び704により規定された球帯状基体705と、球帯状基体705に一体に形成された外層706とを備えており、球帯状基体705は、金網からなる補強材707と、補強材707の金網の網目を充填し、かつ補強材707と混在一体化されていると共に圧縮された膨張黒鉛を含む耐熱材708とを具備しており、外層706は、金網からなると共に圧縮された補強材709及び補強材709の金網の網目を充填し、かつ補強材709に密に圧着されていると共に当該補強材709からなる面710と面一であって当該面710と共に外層中間面711を形成する面712を有して圧縮された膨張黒鉛からなる耐熱材713を含み、かつ部分凸球面状面702に一体に形成された基層714と、該外層中間面711で基層714に一体に被着形成されている潤滑組成物のすべり層715とを具備しており、該外層706における補強材709と耐熱材713とで形成された基層714の外層中間面711には、該補強材709の面710が5〜35%の面積割合をもって点在しており、外層中間面711の表面粗さは、算術平均粗さRaで5〜30μmであり、外部に露出する外層706の表面716は、すべり層715の平滑な面717からなっている。
【0007】
上記球帯状シール体700では、基層714の外層中間面711における補強材709の面710が5〜35%の面積割合をもって点在しており、該外層中間面711には潤滑組成物のすべり層715が一体に被着形成されており、外部に露出する外層706の表面716は、すべり層715の平滑な面717から形成されているので、相手材との摺動摩擦においては、相手材表面に外層706の補強材709が局部的に摩擦することを回避できる結果、相手材表面の摺動摩擦による損傷や粗面化を極力防止することができるので、シール性の低下を防止でき、また相手材表面に形成された過度の潤滑被膜を掻き取る作用により、相手材表面に形成された適度の潤滑被膜を介しての摺動摩擦となることから異常摩擦音の発生を極力防止できる。
【0008】
特許文献2に記載された球帯状シール体は、上記利点を有するものであるが、球帯状シール体700に、例えばアイドリング時や信号待ちなどに生じる微小な揺動運動や軸方向の過大な入力が長期間連続して負荷された場合、相手材との摺動摩擦によって外層706のすべり層715が消失し、補強材709の面710と該補強材709の面710と面一の耐熱材713の面712とからなる外層中間面711に摺動摩擦が移行することによって、該外層中間面711の補強材709が摩滅する虞がある。この外層中間面711の補強材709が摩滅すると、外層中間面711の耐熱材713との摺動摩擦に移行し、前記特許文献1に記載された排気シールと同様、相手材との摺動摩擦面が耐熱材713のみの露出面からなり、前記特許文献1に記載された排気シールの欠点と同様の欠点である異常摩擦音を発生する虞がある。
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、相手材との摺動摩擦面となる外層を含む球帯状シール体の部分凸球面状面に着目し、金網からなる補強材とこの補強材の金網の網目を充填し、かつ補強材と混在一体化された膨張黒鉛を含む耐熱材からなると共に補強材が所定割合の面積率をもって露出する中間層を球帯状基体の部分凸球面状面に径方向一体的に、かつ多層に積層させた球帯状シール体は、相手材との摺動摩擦において、常に耐熱材の面と補強材の面とが混在して露出した平滑な混成面で摺動摩擦することになり、耐熱材及び補強材の夫々に負荷される荷重が低減される結果、微小な揺動運動や軸方向の過大な入力が長期間連続して負荷された場合においても、相手材を損傷させることなく異常摩擦音の発生を極力防止することができるとの知見を得た。
【0010】
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その目的とするところは、相手材との摺動摩擦において、異常摩擦音の発生を極力防止し得る球帯状シール体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
排気管球面継手に用いられる本発明の球帯状シール体は、円筒内面、部分凸球面状面並びに部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面により規定された球帯状基体と、この球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成されていると共に径方向に積層された複数の部分凸球面状中間層と、この複数の部分凸球面状中間層のうちの最外側の部分凸球面状中間層の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えており、球帯状基体は、線径が0.28〜0.32mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦4〜6mm、横3〜5mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材と混在一体化されていると共に圧縮された膨張黒鉛を含む球帯状基体用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この部分凸球面状中間層用の補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、30〜60%であり、外層は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの圧縮された編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とを具備しており、外層用の耐熱材及び固体潤滑剤は、圧縮されて外層用の補強材の編組金網の網目に充填されており、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での外層用の補強材からなる面の占有面積率は、30〜60%であることを特徴とする。
【0012】
本発明の球帯状シール体によれば、相手材との摺動摩擦面となる外層は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とが圧縮されて外層用の補強材の編組金網の網目に固体潤滑剤及び外層用の耐熱材が充填されてなり、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、外層の外表面での該外層用の補強材からなる面の占有面積率が30〜60%であるので、相手材との摺動摩擦において、外層用の耐熱材及び補強材の夫々に負荷される荷重が低減される結果、微小な揺動運動や軸方向の過大な入力が長期間連続して負荷された場合においても、相手材を損傷させることなく異常摩擦音の発生を極力防止することができる。
【0013】
そして、本発明の球帯状シール体によれば、この外層が相手材との摺動摩擦によって摩滅、消失して相手材と部分凸球面状中間層との摺動摩擦に移行しても、径方向に積層された複数の部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材の編組金網と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、30〜60%であるので、相手材とは常に部分凸球面状中間層用の補強材からなる面と部分凸球面状中間層用の耐熱材からなる面とが混在した露出した外表面で摺動し、部分凸球面状中間層用の耐熱材及び補強材の夫々に負荷される荷重が低減される結果、微小な揺動運動や軸方向の過大な入力が長期間連続して負荷された場合においても、相手材表面に摺動摩擦痕等の損傷を生じさせることが極めて少なく、損傷に起因する相手材表面の粗面化を極力防止でき、結果として、部分凸球面状中間層の部分凸球面状面と相手材との間のシール性の低下を極力防止できると共に異常摩擦音の発生を極力防止することができる。
【0014】
本発明の球帯状シール体において、その円筒内面は、球帯状基体用の耐熱材の膨張黒鉛からなる面であっても、球帯状基体用の補強材の編組金網からなる面であってもよい。
【0015】
とくに、球帯状シール体の球帯状基体の円筒内面が球帯状基体用の補強材の編組金網の面からなっていると、該球帯状シール体を排気管の外周面に嵌合固定する際、円筒内面と排気管の外面との間の摩擦が高められるので、当該球帯状シール体が排気管の外面に強固に固定される。
【0016】
本発明の球帯状シール体において、球帯状基体用、部分凸球面状中間層用及び外層用の各耐熱材は、膨張黒鉛に加えて、酸化抑制剤としての燐酸塩を1.0〜16.0質量%含んでいてもよく、またこれに更に燐酸を0.05〜5.0質量%を含んでいてもよい。
【0017】
酸化抑制剤としての燐酸塩又は燐酸塩及び燐酸と膨張黒鉛とを含む耐熱材は、球帯状シール体自体の耐熱性及び耐酸化消耗性を向上させることができ、球帯状シール体の高温領域での使用を好ましく可能とする。
【0018】
本発明の球帯状シール体において、潤滑組成物は、六方晶窒化硼素23〜57質量%、アルミナ水和物5〜15質量%及び四ふっ化エチレン樹脂33〜67質量%を含んでいるのが好ましい。
【0019】
斯かる球帯状シール体によれば、外層の外表面は、外層用の補強材の編組金網からなる面と六方晶窒化硼素23〜57質量%、アルミナ水和物5〜15質量%及び四ふっ化エチレン樹脂33〜67質量%からなる固体潤滑剤からなる面とが混在した平滑な混成面に形成されることになるので、該固体潤滑剤の外層の外表面からの脱落を回避し得、結果として相手材とは長期に渡って固体潤滑剤と外層用の補強材との混在した平滑な面で摺動するので、摩擦異常音の発生を極力防止することができる。
【0020】
円筒内面、部分凸球面状面並びに部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面により規定された球帯状基体と、この球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成されていると共に径方向に積層された複数の部分凸球面状中間層と、この複数の部分凸球面状中間層のうちの最外側の部分凸球面状中間層の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えていると共に排気管継手に用いられる本発明の球帯状シール体の製造方法は、(a)膨張黒鉛からなる膨張黒鉛シートを準備する工程と、(b)線径が0.28〜0.32mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦4〜6mm、横3〜5mmの帯状の編組金網を準備する工程と、(c)帯状の編組金網を膨張黒鉛シートに重ね合わせて重合体を形成した後、この重合体を円筒状に捲回して筒状基体を形成する工程と、(d)線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの円筒状の編組金網の二つの層間に膨張黒鉛からなる別の膨張黒鉛シートを挿入し、当該別の膨張黒鉛シートを挿入した円筒状の編組金網を該別の膨張黒鉛シートの厚さ方向に加圧して円筒状の編組金網を扁平状の編組金網にすると共に別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛を扁平状の編組金網の網目に充填し、かつ当該別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛と当該膨張黒鉛に混在一体化された扁平状の編組金網とからなると共に当該扁平状の編組金網からなる面と別の膨張黒鉛シ−トの膨張黒鉛からなる面とが混在した外表面での当該扁平状の編組金網からなる面の占有面積率が30〜60%である部分凸球面状中間層用シートを形成する工程と、(e)該部分凸球面状中間層用シートを前記筒状基体の外周面に少なくとも2回捲回して筒状母材を形成する工程と、(f)膨張黒鉛からなる更に別の膨張黒鉛シートを準備し、該更に別の膨張黒鉛シートの一方の表面に固体潤滑剤の被覆層を形成して複層シートを形成する工程と、(g)該複層シートを、別の円筒状の編組金網からなる二つの層間に挿入すると共に当該複層シートを二つの層間に挿入した別の円筒状の編組金網を当該複層シートの厚さ方向に加圧して別の円筒状の編組金網を別の扁平状の編組金網にすると共に複層シートの更に別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛と当該膨張黒鉛シートの一方の表面に形成された被覆層の固体潤滑剤とを別の扁平状の編組金網の網目に充填し、かつ当該更に別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛と当該被覆層の固体潤滑剤と当該膨張黒鉛及び固体潤滑剤に混在一体化された別の扁平状の編組金網とからなると共に当該別の扁平状の編組金網からなる面と更に別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛からなる面と当該更に別の膨張黒鉛シートの一方の面に形成された被覆層の固体潤滑剤からなる面とが混在した外表面での当該扁平状の編組金網からなる面の占有面積率が30〜60%である外層用シートを形成する工程と、(h)前記筒状母材の外周面に前記外層用シートを当該外層用シートの別の扁平状の編組金網からなる面と膨張黒鉛からなる面と固体潤滑剤からなる面とが混在した外表面を外側にして捲回し、予備円筒成形体を形成する工程と、(i)該予備円筒成形体を金型のコア外周面に挿入し、該コアを金型内に配置すると共に該金型内において予備円筒成形体をコア軸方向に圧縮成形する工程とを具備しており、球帯状基体は、線径が0.28〜0.32mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦4〜6mm、横3〜5mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材と混在一体化されていると共に圧縮された膨張黒鉛を含む球帯状基体用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この部分凸球面状中間層用の補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、30〜60%であり、外層は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの圧縮された編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とを具備しており、外層用の耐熱材及び固体潤滑剤は、圧縮されて外層用の補強材の金網の網目に充填されており、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での外層用の耐熱材からなる面の占有面積率は、30〜60%であることを特徴とする。
【0021】
本発明の球帯状シール体の製造方法によれば、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの円筒状の編組金網の二つの層間に膨張黒鉛からなる別の膨張黒鉛シートを挿入し、当該円筒状の編組金網を該別の膨張黒鉛シートの厚さ方向に加圧し、圧縮された別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛を扁平状にされた編組金網の網目に充填し、かつ当該別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛と当該膨張黒鉛に混在一体化されて扁平状の編組金網とからなると共に扁平状の編組金網からなる面と別の膨張黒鉛シ−トの膨張黒鉛からなる面とが混在した外表面での当該扁平状の編組金網からなる面の占有面積率が30〜60%である部分凸球面状中間層用シートを形成する。
【0022】
この部分凸球面状中間層用シートの少なくとも2回の捲回により形成された部分凸球面状中間層は、球帯状基体の部分凸球面状面に径方向に一体的に多層に積層されているので、本発明の製造方法による球帯状シール体では、相手材との摺動摩擦によって相手材との摺動面が部分凸球面状中間層に移行しても、相手材とは常に補強材としての圧縮された編組金網からなる面と耐熱材としての圧縮された膨張黒鉛からなる面とが混在した露出した部分凸球面状中間層の外表面で摺動し、部分凸球面状中間層の耐熱材及び補強材の夫々に負荷される荷重が低減される結果、微小な揺動運動や軸方向の過大な入力が長期間連続して負荷された場合においても、相手材表面に摺動摩擦痕等の損傷を生じさせることが極めて少なく、損傷に起因する相手材表面の粗面化を極力防止でき、結果として、部分凸球面状中間層の部分凸球面状面と相手材との間のシール性の低下を極力防止できると共に異常摩擦音の発生を極力防止することができる。
【0023】
本発明の球帯状シール体の製造方法において、各膨張黒鉛シートは、膨張黒鉛に加えて、酸化抑制剤としての燐酸塩を1.0〜16.0質量%を含んでいてもよく、またこれら更に燐酸を0.05〜5.0質量%を含んでいてもよい。
【0024】
外層となる更に別の膨張黒鉛シートの一方の表面の被覆層は、分散媒としての酸を含有する水にアルミナ水和物粒子を分散含有した水素イオン濃度(pH)が2〜3を呈するアルミナゾルに、六方晶窒化硼素粉末及び四ふっ化エチレン樹脂粉末を分散含有した水性ディスパージョンであって、六方晶窒化硼素粉末23〜57質量%と四ふっ化エチレン樹脂粉末33〜67質量%及びアルミナ水和物5〜15質量%とを含む潤滑組成物を固形分として30〜50質量%分散含有した水性ディスパージョンを当該一方の表面に刷毛塗り、ローラ塗りあるいはスプレー等の手段で適用して形成されてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、外層が相手材との摺動摩擦によって摩滅、消失して相手材と部分凸球面状中間層との摺動摩擦に移行しても、該部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とからなり、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、30〜60%であるので、相手材とは常に部分凸球面状中間層用の補強材からなる面と部分凸球面状中間層用の耐熱材からなる面とが混在した露出した外表面で摺動し、部分凸球面状中間層用の耐熱材及び補強材の夫々に負荷される荷重が低減される結果、微小な揺動運動や軸方向の過大な入力が長期間連続して負荷された場合においても、相手材表面に摺動摩擦痕等の損傷を生じさせることが極めて少なく、損傷に起因する相手材表面の粗面化を極力防止でき、結果として、部分凸球面状中間層の部分凸球面状面と相手材との間のシール性の低下を極力防止できると共に異常摩擦音の発生を極力防止することができる球帯状シール体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の球帯状シール体の実施の形態の一例の断面説明図である。
【図2】図2は、図1に示す球帯状シール体の部分拡大模式図である。
【図3】図3は、本発明の球帯状シール体の製造工程における編組金網の斜視説明図である。
【図4】図4は、本発明の球帯状シール体の製造工程における膨張黒鉛シートの斜視説明図である。
【図5】図5は、本発明の球帯状シール体の製造工程における編組金網の網目の平面説明図である。
【図6】図6は、本発明の球帯状シール体の製造工程における重合体の斜視説明図である。
【図7】図7は、本発明の球帯状シール体の製造工程における筒状基体の平面説明図である。
【図8】図8は、図7に示す筒状基体のVIII−VIII線矢視断面説明図である。
【図9】図9は、本発明の球帯状シール体の製造工程における部分凸球面状中間層用シートの製造工程の説明図である。
【図10】図10は、本発明の球帯状シール体の製造工程における部分凸球面状中間層用シートの製造工程の断面説明図である。
【図11】図11は、本発明の球帯状シール体の製造工程における部分凸球面状中間層用シートの断面説明図である。
【図12】図12は、本発明の球帯状シール体の製造工程における部分凸球面状中間層用シートの写真での平面説明図である。
【図13】図13は、本発明の球帯状シール体の製造工程における筒状母材の平面説明図である。
【図14】図14は、図13に示す筒状母材のIVX−IVX線矢視断面説明図である。
【図15】図15は、本発明の球帯状シール体の製造工程における被覆層を備えた複層シートの断面説明図である。
【図16】図16は、本発明の球帯状シール体の製造工程における外層用シートの製造工程の説明図である。
【図17】図17は、本発明の球帯状シール体の製造工程における外層用シートの断面説明図である。
【図18】図18は、本発明の球帯状シール体の製造工程における予備円筒成形体の平面説明図である。
【図19】図19は、本発明の球帯状シール体の製造工程における金型中に予備円筒成形体を配置した状態の断面説明図である。
【図20】図20は、本発明の球帯状シール体を組込んだ排気管球面継手の断面説明図である。
【図21】図21は、自動車エンジンの排気系の説明図である。
【図22】図22は、従来の球帯状シール体を示す断面説明図である。
【図23】図23は、図22に示す球帯状シール体の一部拡大断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に本発明を、図に示す実施の形態の例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に何等限定されない。
【0028】
本発明の球帯状シール体における構成材料及び球帯状シール体の製造方法について説明する。
【0029】
<膨張黒鉛シートI及びその製造方法>
濃度98%の濃硫酸を撹拌しながら、酸化剤として過酸化水素の60%水溶液を加え、これを反応液とする。この反応液を冷却して10℃の温度に保持し、該反応液に粒度30〜80メッシュの鱗片状天然黒鉛粉末を添加して所定時間反応を行う。反応後、吸引濾過して酸処理黒鉛粉末を分離し、該酸処理黒鉛粉末を水で撹拌して吸引濾過するという作業を2回繰り返し、酸処理黒鉛粉末から硫酸分を充分除去する。ついで、硫酸分を充分除去した酸処理黒鉛粉末を乾燥炉で所定時間乾燥し、これを酸処理黒鉛粉末とする。
【0030】
上記酸処理黒鉛粉末を、960〜1200℃の温度で1〜10秒間加熱(膨張)処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張させた膨張黒鉛粒子(膨張倍率240〜300倍)を形成する。この膨張黒鉛粒子を所望のロール隙間に調整した双ロール装置に供給してロール成形し、所望の厚さの膨張黒鉛シートIを作製する。
【0031】
<膨張黒鉛シートII及びその製造方法>
上記酸処理黒鉛粉末と同様の方法で得た酸処理黒鉛粉末を撹拌しながら、該酸処理黒鉛粉末に燐酸塩として、例えば濃度50%の第一燐酸アルミニウム〔Al(HPO〕水溶液をメタノールで希釈した溶液を噴霧状に配合し、均一に撹拌して湿潤性を有する混合物を作製する。この湿潤性を有する混合物を乾燥炉で所定時間乾燥する。ついで、乾燥した混合物を950〜1200℃の温度で1〜10秒間加熱(膨張)処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張させた膨張黒鉛粒子(膨張倍率240〜300倍)を形成する。この膨張処理工程において、第一燐酸アルミニウムは構造式中の水が脱離する。この膨張黒鉛粒子を所望のロール隙間に調整した双ロール装置に供給してロール成形し、所望の厚さの膨張黒鉛シートIIを作製する。
【0032】
<膨張黒鉛シートIII及びその製造方法>
上記酸処理黒鉛粉末と同様の方法で得た酸処理黒鉛粉末を撹拌しながら、該酸処理黒鉛粉末に燐酸塩として、例えば濃度50%の第一燐酸アルミニウム水溶液と、燐酸として、例えば濃度84%のオルト燐酸(HPO)水溶液をメタノールで希釈した溶液を噴霧状に配合し、均一に撹拌して湿潤性を有する混合物を作製する。この湿潤性を有する混合物を乾燥炉で所定時間乾燥する。ついで、乾燥した混合物を950〜1200℃の温度で1〜10秒間加熱(膨張)処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張させた膨張黒鉛粒子(膨張倍率240〜300倍)を形成する。この膨張処理工程において、第一燐酸アルミニウムは構造式中の水が脱離し、オルト燐酸は脱水反応を生じて五酸化燐を生成する。この膨張黒鉛粒子を所望のロール隙間に調整した双ロール装置に供給してロール成形し、所望の厚さの膨張黒鉛シートIIIを作製する。
【0033】
このようにして作製された膨張黒鉛シートIIIには、第一燐酸アルミニウムが1.0〜16.0質量%含有されているのが好ましく、膨張黒鉛シートIIIには、第一燐酸アルミニウムが1.0〜16.0質量%及び五酸化燐0.05〜5.0質量%含有されているのが好ましい。この燐酸塩又は燐酸塩及び五酸化燐を含有した膨張黒鉛は、膨張黒鉛自体の耐熱性が向上されると共に酸化抑制作用が付与されるため、例えば600℃ないし600℃を超える高温領域での使用を可能とする。ここで、燐酸塩としては、上記第一燐酸アルミニウムの他に、第一燐酸リチウム(LiHPO)、第二燐酸リチウム(LiHPO)、第一燐酸カルシウム〔Ca(HPO〕、第二燐酸カルシウム(CaHPO)、第二燐酸アルミニウム〔Al(HPO〕などを使用することができ、燐酸としては、上記オルト燐酸の他に、メタ燐酸(HPO)、ポリ燐酸などを使用することができる。
【0034】
上記膨張黒鉛シートI、膨張黒鉛シートII及び膨張黒鉛シートIIIにおいて、その密度は、1.0〜1.5Mg/m、好ましくは1.0〜1.2Mg/mで、その厚さは、0.30〜0.60mmであることが好適である。
【0035】
<編組金網について>
編組金網は、好適には、Fe系としてオーステナイト系のSUS304、SUS310S、SUS316、フェライト系のSUS430などのステンレス鋼線、Fe線(JISG3532)もしくはZnメッキFe線(JISG3547)又はCu系としてCu−Ni合金(白銅)線、Cu−Ni−Zn合金(洋白)線、黄銅線、ベリリウムCu線からなる金属細線を一本又は二本以上を使用して編んで形成される。
【0036】
球帯状基体用の編組金網には、線径が0.28〜0.32mmの金属細線が好適に使用され、該線径の金属細線で形成された編組金網の網目の目幅は、好適には、図5に示すように、縦4〜6mm、横3〜5mm程度である。また、部分凸球面状中間層用及び外層用の編組金網には、線径が0.10〜0.20mmの金属細線が好適に使用され、該線径の金属細線で形成された編組金網の網目の目幅は、好適には、図5に示すように、縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mm程度である。
【0037】
<固体潤滑剤について>
固体潤滑剤は、六方晶窒化硼素(以下「h−BN」と略称する)23〜57質量%、アルミナ水和物5〜15質量%及び四ふっ化エチレン樹脂(以下「PTFE」という)33〜67質量%を含む潤滑組成物を好ましい例として例示し得る。
【0038】
この固体潤滑剤は、製造過程においては、分散媒としての酸を含有する水にアルミナ水和物粒子を分散含有した水素イオン濃度(pH)が2〜3を呈するアルミナゾルに、h−BN粉末及びPTFE粉末を分散含有した水性ディスパージョンであって、h−BN粉末23〜57質量%とPTFE粉末33〜67質量%及びアルミナ水和物5〜15質量%とを含む潤滑組成物を固形分として30〜50質量%分散含有した水性ディスパージョンの形態で使用される。水性ディスパージョンを形成するh−BN粉末及びPTFE粉末は、可及的に微粉末であることが好ましく、これらには、平均粒径10μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下の微粉末が使用されて好適である。
【0039】
水性ディスパージョンにおけるアルミナゾルを形成するアルミナ水和物は、組成式Al・nHO(組成式中、0<n<3)で表わされる化合物である。該化合物において、nは、通常、0(零)を超えて3未満の数、好ましくは0.5〜2、さらに好ましくは0.7〜1.5程度である。アルミナ水和物としては、例えばベーマイト(Al・HO)やダイアスポア(Al・HO)などのアルミナ一水和物(水酸化酸化アルミニウム)、ギブサイト(Al・3HO)やバイヤライト(Al・3HO)などのアルミナ三水和物、擬ベーマイトなどが挙げられる。
【0040】
次に、上記した構成材料からなる球帯状シール体の製造方法について、図面に基づき説明する。
【0041】
(第一工程)図3に示すように、線径0.28〜0.32mmの金属細線を円筒状に編んで形成した網目の目幅が縦4〜6mm、横3〜5mm程度(図5参照)の円筒状の編組金網1をローラ2及び3間に通して加圧し所定の幅Dの帯状の編組金網4を作製し、編組金網4を所定の長さに切断した球帯状基体用の編組金網5を準備する。
【0042】
(第二工程)図4に示すように、編組金網5の幅Dに対して1.10×Dから2.1×Dの幅dを有すると共に編組金網5の長さLに対して1.30×Lから2.7×Lの長さlを有し、密度が1.0〜1.5Mg/m、好ましくは1.0〜1.2Mg/mで、厚さが0.30〜0.60mmの膨張黒鉛シート6(膨張黒鉛シートI、膨張黒鉛シートII及び膨張黒鉛シートIIIのうちの一つからなる)を準備する。
【0043】
(第三工程)後述する球帯状シール体46(図1参照)において、部分凸球面状面39の大径側の環状端面40及び小径側の環状端面41に全体的に膨張黒鉛シート6の膨張黒鉛が露出するようにすべく、図6に示すように、部分凸球面状面44の大径側の環状端面40となる編組金網5の幅方向の一方の端縁7から0.1×Dから0.3×Dだけ膨張黒鉛シート6が幅方向にはみ出すと共に端縁7から膨張黒鉛シート6の幅方向のはみ出し量δ1が部分凸球面状面44の小径側の環状端面41となる編組金網5の幅方向の他方の端縁8からのはみ出し量δ2よりも多くなるようにし、また編組金網5の長さ方向の一方の端縁9から1.3×Lから2.7×Lだけ膨張黒鉛シート6が長さ方向にはみ出すと共に編組金網5の長さ方向の他方の端縁10と当該端縁10に対応する膨張黒鉛シート6の長さ方向の端縁11を合致させて当該膨張黒鉛シート6と編組金網5とを互いに重ね合わせた重合体12を得る。
【0044】
(第四工程)重合体12を、図7に示すように、編組金網5を内側にしてうず巻き状であって膨張黒鉛シート6が3回多くなるように捲回して、内周側に編組金網5が露出し、外周側に膨張黒鉛シート6が露出した筒状基体13を形成する。膨張黒鉛シート6としては、筒状基体13における膨張黒鉛シート6の巻き回数が編組金網5の巻き回数よりも多くなるように、編組金網5の長さLに対して1.3×Lから2.7×Lの長さlを有したものが予め準備される。筒状基体13において、図8に示すように、膨張黒鉛シート6は、幅方向の一方の端縁側において編組金網5の一方の端縁7から幅方向にδ1だけはみ出しており、また膨張黒鉛シートの幅方向の他方の端縁側において編組金網5の他方の端縁8から幅方向にδ2だけはみ出している。
【0045】
(第五工程)線径が0.10〜0.20mmの金属細線を編み機(図示せず)で連続的に編んで得られる網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mm(図5参照)の部分凸球面状中間層用の円筒状の編組金網14の内部である二つの層間に、該編組金網14の直径(内径)の長さよりも小さい長さ(幅)に形成した膨張黒鉛シート6を連続的に挿入し、膨張黒鉛シート6を挿入した編組金網14をその挿入開始端から平滑な円筒状の外周面を有する円筒ローラ15及び16(図9参照)との間の隙間Δ1に供給して膨張黒鉛シート6の厚さ方向に加圧(図10及び図11参照)して扁平状の編組金網14aにし、扁平状の編組金網14aの網目に膨張黒鉛シート6の膨張黒鉛を充填すると共に外表面17で編組金網14aの一部が膨張黒鉛シート6の膨張黒鉛からなる面18と共に露出し、編組金網14aのその他の部分が膨張黒鉛シート6の膨張黒鉛に埋設するように互いに圧着して、外表面17での編組金網14aからなる面14bの占有面積率が30〜60%であると共に外表面17に編組金網14aからなる面14bと膨張黒鉛シート6の膨張黒鉛からなる面18とが混在している一方、編組金網14aの幅方向の両側に膨張黒鉛シート6の膨張黒鉛が充填されない部分19及び19を有する部分凸球面状中間層用シート20(図11参照)を作製する。
【0046】
ここで、外表面17での編組金網14aからなる面14bの占有面積率は、次のようにして決定するとよい。部分凸球面状中間層用シート20の平面(平面写真)を示す図12を参照して、(円筒状の編組金網14の周方向の網目の数の2分の1の数)×(部分凸球面状中間層用シート20の測定範囲(長さL及び幅D)の中に存在する編組金網14aの縦方向の目幅L’をもった網目の個数)×(当該目幅L’をもった一つの網目を形成する編組金網14aの金属細線の長さ)×(当該金属細線の直径)から測定範囲の面積(長さL×幅D=S0)中の金属細線部分の面積S1を算出し、この金属細線部分の面積S1の測定範囲の面積(長さL×幅D=S0)中に占める割合(S1/S0×100)を面14bの占有面積率とする。例えば、編組金網14の周方向の網目の数が56個、部分凸球面状中間層用シート20の測定範囲の長さLが20mm、部分凸球面状中間層用シート20の測定範囲の幅Dが39mm、編組金網14aの一つの網目の縦方向の目幅L’が2.01mm、当該一つの網目を形成する金属細線の長さが6.43mm、当該金属細線の直径が0.15mmとすると、測定範囲の面積S0は、780mm(=20mm×39mm)となり、測定範囲内の金属細線部分の面積は、56/2×(20/2.01)×6.43×0.15=28×9.95×6.43×0.15=268.7mmとなり、この金属細線部分の面積の単位面積中に占める割合は268.7/780×100=34.4%となる。したがって、この部分凸球面状中間層用シート20においては、外表面17での、編組金網14aからなる面14bの占有面積率は34.4%となる。なお、外表面17の複数の測定範囲において、部分凸球面状中間層用シート20における編組金網14aの縦方向の目幅L’及び目幅L’をもった一つの網目を形成する金属細線の長さをそれぞれマイクロスコープにて測定し、測定された値から計算により得られた各測定範囲の占有面積率の算術平均値から占有面積率を決定するとよい。
【0047】
部分凸球面状中間層用シート20において、外表面17での編組金網14aからなる面14bの占有面積率を30〜60%、好ましくは30〜45%とすることは、相手材との摺動摩擦によって外表面17で露出した編組金網14aからなる面14bに摩耗が生じ、摩耗量に応じて編組金網14aからなる面14bの占有面積率が漸次増加していくが、外表面17で露出する編組金網14aからなる面14bの占有面積率が30〜60%であれば、相手材との摺動摩擦において、膨張黒鉛シート6及び編組金網14aの夫々に負荷される荷重が低減される結果、微小な揺動運動や軸方向の過大な入力が長期間連続して負荷された場合においても、相手材を損傷させることなく異常摩擦音の発生を極力防止することができるという効果をもたらす。
【0048】
第五工程における円筒ローラ15及び16との間の隙間Δ1は、0.35〜0.60mmの範囲に設定されるのが好ましい。
【0049】
(第六工程)部分凸球面状中間層用シート20を、前記筒状基体13の外周面に少なくとも2回捲回して筒状母材21を作製する(図13及び図14参照)。
【0050】
(第七工程)
<外層用シート及びその製造方法>
解膠剤として作用する硝酸を含有した分散媒としての水にアルミナ水和物粒子を分散含有した水素イオン濃度(pH)が2〜3を呈するアルミナゾルに、h−BN粉末及びPTFE粉末を分散含有した水性ディスパージョンであって、h−BN23〜57質量%とPTFE33〜67質量%及びアルミナ水和物5〜15質量%とを含む潤滑組成物を固形分として30〜50質量%分散含有した水性ディスパージョンを準備する。
【0051】
前記膨張黒鉛シート6と同様の膨張黒鉛シート6を別途準備し、該膨張黒鉛シート6の一方の表面22に、h−BN23〜57質量%とPTFE33〜67質量%及びアルミナ水和物5〜15質量%とを含む潤滑組成物を固形分として30〜50質量%分散含有した水性ディスパージョンを刷毛塗り、ローラ塗りあるいはスプレー等の手段で適用し、これを乾燥させて潤滑組成物からなる固体潤滑剤の被覆層23を形成した複層シート24(図15参照)を作製する。
【0052】
前記部分凸球面状中間層用の円筒状の編組金網14と同様であって、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を円筒状に編んで形成した網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横1.0〜2.5mmの円筒状の編組金網14の内部である二つの層間に、該編組金網14の直径(内径)の長さよりも小さい長さ(幅)に形成した固体潤滑剤の被覆層23を備えた複層シート24を連続的に挿入(図9参照)し、複層シート24を挿入した編組金網14をその挿入開始端から平滑な外周面を有する一対の円筒ローラ15及び16間の隙間Δ1に供給して複層シート24の厚さ方向に加圧(図9、図16及び図17参照)して扁平状の編組金網14aにし、複層シート24と編組金網14aとを一体化し、編組金網14aの網目に複層シート24の膨張黒鉛シート6の膨張黒鉛と該膨張黒鉛シート6の表面22を被覆した被覆層23の固体潤滑剤とを充填して、外表面25で編組金網14aの一部が被覆層23の固体潤滑剤からなる面26と共に露出し、編組金網14aの他の部分が被覆層23の固体潤滑剤及び膨張黒鉛シートの6の膨張黒鉛に埋設するように互いに圧着して、外表面25での編組金網14aからなる面27の占有面積率が30〜60%であると共に外表面25に編組金網14aからなる面27と固体潤滑剤からなる面26とが混在して露出した外層用シート28(図17参照)を作製する。
【0053】
外層用シート28においても、外表面25での編組金網14aからなる面27の占有面積率を30〜60%、好ましくは30〜45%とすることは、相手材との摺動摩擦によって外表面25で露出した編組金網14aからなる面27に摩耗が生じ、摩耗量に応じて編組金網14aからなる面27の占有面積率が漸次増加していくが、外表面25で露出する編組金網14aからなる面27の占有面積率が30〜60%であれば、相手材との摺動摩擦において、膨張黒鉛シート6及び編組金網14aの夫々に負荷される荷重が低減される結果、微小な揺動運動や軸方向の過大な入力が長期間連続して負荷された場合においても、相手材を損傷させることなく異常摩擦音の発生を極力防止することができるという効果をもたらす。
【0054】
外表面25での編組金網14aからなる面27の占有面積率は、上記の外表面17での編組金網14aからなる面14bの占有面積率の決定と同様にして決定される。
【0055】
第七工程における円筒ローラ15及び16との間の隙間Δ1は、0.35〜0.60mmの範囲に設定されるのが好ましい。
【0056】
(第八工程)このようにして得た外層用シート28を、固体潤滑剤が露出する表面25を外側にして前記筒状母材21の外周面に巻き付け、予備円筒成形体29を作製する(図18参照)。
【0057】
(第九工程)内面に円筒内壁面30と円筒内壁面30に連なる部分凹球面状壁面31と部分凹球面状壁面31に連なる貫通孔32とを備え、貫通孔32に段付きコア33を嵌挿することによって内部に中空円筒部34と中空円筒部34に連なる球帯状中空部35とが形成された図19に示すような金型36を準備し、金型36の段付きコア33に予備円筒成形体29を挿入する。
【0058】
金型36の中空円筒部34及び球帯状中空部35に配された予備円筒成形体29をコア軸方向に98〜294N/mm(1〜3トン/cm)の圧力で圧縮成形し、図1及び図2に示すような、中央部の貫通孔37を規定する円筒内面38、部分凸球面状面39並びに部分凸球面状面39の大径側及び小径側の環状端面40及び41により規定された球帯状基体42と、球帯状基体42の部分凸球面状面39に一体的に形成されていると共に径方向に積層された複数の部分凸球面状中間層43と、該部分凸球面状中間層43のうちの最外側の部分凸球面状中間層43の部分凸球面状面44に一体的に形成された外層45とを備えた球帯状シール体46を作製する。
【0059】
球帯状シール体46において、図1及び図2に示すように、球帯状基体42は、線径が0.28〜0.32mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦4〜6mm、横3〜5mmの圧縮された編組金網5からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網5の網目を充填し、かつこの補強材の編組金網5と混在一体化されていると共に圧縮された膨張黒鉛シート6の膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層43の夫々は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの圧縮された編組金網14からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の編組金網14の網目を充填し、かつ編組金網14と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛シート6の膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層43の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材の圧縮された編組金網14からなる面の占有面積率は、30〜60%であり、外層45は、該部分凸球面状中間層用の編組金網14と同様の編組金網14からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、膨張黒鉛を含む膨張黒鉛シート6からなる外層用の耐熱材とが圧縮されて外層用の耐熱材の編組金網14の網目に固体潤滑剤及び外層用の耐熱材の膨張黒鉛シート6の膨張黒鉛が充填されてなり、外層45の球帯状の外表面47は、外層用の補強材の編組金網14からなる面27と固体潤滑剤からなる面26とが露出して混在した平滑な混成面48に形成されており、外層45の外表面47での外層45の補強材の編組金網14からなる面27の占有面積は、30〜60%である。
【0060】
球帯状シール体46は、図20に示す排気管球面継手に組込まれて使用される。すなわち、図20に示す排気管球面継手において、エンジン側に連結された上流側排気管100の外周面には、管端部101を残して上流側排気管100に一体に形成されたフランジ部102を含むフランジ200が立設されており、管端部101には、球帯状シール体46が貫通孔37を規定する円筒内面38において嵌合されており、大径側の環状端面40において球帯状シール体46がフランジ200のフランジ部102に当接されて着座せしめられており、上流側排気管100と対峙して配されていると共にマフラ側に連結された下流側排気管300には、凹球面部302と凹球面部302に連接されたフランジ部303とを一体に備えた径拡大部301が固着されており、凹球面部302の内面304が球帯状シール体46の外層45の外表面47における補強材の編組金網14からなる面27と固体潤滑剤からなる面26とが混在した平滑な混成面48に摺動自在に接している。
【0061】
図20に示す排気管球面継手において、一端がフランジ200に固定され、他端が径拡大部301のフランジ部303を挿通して配された一対のボルト400とボルト400の膨大頭部及びフランジ部303の間に配された一対のコイルバネ500とにより、下流側排気管300には、常時、上流側排気管100方向にバネ力が付勢されている。そして、排気管球面継手は、上、下流側排気管100、300に生じる相対角変位に対しては、球帯状シール体46の外層45のすべり面としての平滑な混成面48と下流側排気管300の端部に形成された径拡大部301の凹球面部302の内面304との摺接でこれを許容するように構成されている。
【実施例】
【0062】
次に、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に何等限定されない。
【0063】
実施例1
金属細線として線径0.28mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を一本使用して網目の目幅が縦5mm、横4mmの円筒状の編組金網を作製し、これを一対のローラ間に通して球帯状基体用の補強材としての帯状の編組金網を準備し、この帯状の編組金網と密度1.12Mg/m、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートIとを重ね合わせて重合体を形成し、内側に該帯状の編組金網を配置して、帯状の編組金網が二回、膨張黒鉛シートIが合計5回となるように重合体をうず巻状に捲回して最外周に膨張黒鉛シートIを配置した筒状基体を作製した。この筒状基体においては、膨張黒鉛シートIの幅方向の両端部はそれぞれ帯状の編組金網の幅方向に突出(はみ出し)している。
【0064】
金属細線として線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS316)を一本使用して網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mm(マイクロスコープにて測定)の部分凸球面状中間層用の補強材としての円筒状の編組金網を連続的に編むと共に該円筒状の編組金網の内部の二つの層間に前記膨張黒鉛シートIと同様の膨張黒鉛シートIを連続的に挿入し、該膨張黒鉛シートIの挿入開始端から該膨張黒鉛シートIを二つの層間に挿入した円筒状の編組金網を、一対の円筒ローラ間の隙間に供給して該膨張黒鉛シートIの厚さ方向に加圧して円筒状の編組金網を扁平状の編組金網にし、この扁平状の編組金網の網目に膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛を充填すると共に扁平状の編組金網の一部と膨張黒鉛シートの膨張黒鉛とが共に外表面に露出し、扁平状の編組金網の他の部分が膨張黒鉛シートIに埋設するように互いに圧着して、外表面での編組金網からなる面の占有面積率が34.5%であると共に編組金網の幅方向の両側に膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛が充填されない部分を有する部分凸球面状中間層用シートを作製した。
【0065】
該部分凸球面状中間層用シートを、前記筒状基体の外周面に2回捲回して筒状母材を形成した。
【0066】
前記膨張黒鉛シートIと同様の密度1.12Mg/m、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートIを別途準備する一方、解膠剤として作用する硝酸を含有した分散媒としての水にアルミナ水和物としてベーマイト(アルミナ一水和物:Al・HO)を分散含有した水素イオン濃度(pH)が2を呈するアルミナゾルを準備し、このアルミナゾルにh−BN粉末及びPTFE粉末を分散含有した水性ディスパージョンであって、h−BN45.0質量%とPTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%を含む潤滑組成物を固形分として50質量%分散含有した水性ディスパージョン(h−BN22.5質量%、PTFE25.0質量%及びベーマイト2.5質量%)を、該膨張黒鉛シートIの一方の表面にローラ塗りし、乾燥して該潤滑組成物からなる固体潤滑剤の被覆層(h−BN45.0質量%、PTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%)を膨張黒鉛シートの一方の表面に形成し、膨張黒鉛シートとこの膨張黒鉛シートの一方の表面を被覆した固体潤滑剤の被覆層とからなる複層シートを作製した。
【0067】
前記部分凸球面状中間層用の補強材となる編組金網と同様の線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS316)を一本使用して網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mmの円筒状の編組金網を連続的に編むと共に該円筒状の編組金網の内部の二つの層間に該複層シートを連続的に挿入し、該複層シートの挿入開始端から該複層シートを二つの層間に挿入した円筒状の編組金網を、一対の円筒ローラ間の隙間に供給して該複層シートの厚さ方向に加圧して円筒状の編組金網を扁平状の編組金網にし、複層シートと当該扁平状の編組金網とを一体化し、該編組金網の網目に複層シートの膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛を充填すると共に外表面に編組金網の一部と複層シートの被覆層の固体潤滑剤とが共に露出し、編組金網の他の部分が複層シートの被覆層及び膨張黒鉛シートに埋設するように互いに圧着して、外表面での編組金網からなる面の占有面積率が34.5%であると共に外表面に編組金網からなる面と被覆層の固体潤滑剤からなる面とが混在して露出した外層用シートを作製した。
【0068】
前記筒状母材の外周面に該外層用シートを、その固体潤滑剤が露出した側の面を外側にして捲回し、予備円筒成形体を作製した。
【0069】
この予備円筒成形体を図19に示す金型の段付きコアに挿入し、該予備円筒成形体を金型の中空部に配置した。
【0070】
金型の中空部に配した予備円筒成形体をコア軸方向に294N/mm(3トン/cm)の圧力で圧縮成形し、中央部の貫通孔を規定すると共に球帯状基体用の補強材としての帯状の編組金網が露出した円筒内面と部分凸球面状面と部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面とにより規定された球帯状基体と、球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成されていると共に径方向に積層された複数の部分凸球面状中間層と、該部分凸球面状中間層のうちの最外側の部分凸球面状中間層の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えた球帯状シール体を作製した。
【0071】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつこの補強材の編組金網と混在一体化されていると共に圧縮された膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ補強材と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、34.5%であり、外層は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mmの編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とが圧縮されて外層用の補強材の編組金網の網目に固体潤滑剤及び外層用の耐熱材が充填されてなり、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での外層用の補強材からなる面の占有面積率は、34.5%である。
【0072】
実施例2
前記実施例1と同様にして筒状基体を作製した。この筒状基体においては、膨張黒鉛シートIの幅方向の両端部はそれぞれ球帯状基体用の補強材となる帯状の編組金網の幅方向に突出(はみ出し)している。
【0073】
金属細線として線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS316)を一本使用して網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mm(マイクロスコープにて測定)の部分凸球面状中間層用の補強材としての円筒状の編組金網を連続的に編むと共に該円筒状の編組金網の内部の二つの層間に前記膨張黒鉛シートIと同様の膨張黒鉛シートIを連続的に挿入し、該膨張黒鉛シートIの挿入開始端から該膨張黒鉛シートIを挿入した円筒状の編組金網を、一対の円筒ローラ間の隙間に供給して該膨張黒鉛シートIの厚さ方向に加圧して円筒状の編組金網を扁平状の編組金網にし、この編組金網の網目に膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛を充填すると共に編組金網の一部と膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛とがと共に外表面に露出し、編組金網のその他の部分が膨張黒鉛シートIに埋設するように互いに圧着して、外表面での編組金網からなる面の占有面積率が42.1%であると共に編組金網の幅方向の両側に膨張黒鉛シート膨張黒鉛が充填されない部分を有する部分凸球面状中間層用シートを作製した。
【0074】
該部分凸球面状中間層用シートを、前記筒状基体の外周面に2回捲回して筒状母材を形成した。前記実施例1と同様にして、膨張黒鉛シートIの一方の表面に固体潤滑剤の被覆層(h−BN45.0質量%、PTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%)を形成した複層シートを作製した。
【0075】
前記部分凸球面状中間層用シートを形成する編組金網と同様の網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mmの円筒状の編組金網を連続的に編むと共に該円筒状の編組金網の内部の二つの層間に該複層シートを連続的に挿入し、該複層シートの挿入開始端から該複層シートを挿入した円筒状の編組金網を、一対の円筒ローラ間の隙間に供給して該複層シートの厚さ方向に加圧して円筒状の編組金網を扁平状の編組金網に変形し、複層シートと当該編組金網とを一体化し、該編組金網の網目に複層シートの膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛を充填すると共に外表面に編組金網の一部と複層シートの膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛とが共に露出し、編組金網の他の部分が複層シートの被覆層及び膨張黒鉛シートに埋設するように互いに圧着して、外表面での編組金網からなる面の占有面積率が42.1%であると共に外表面に編組金網からなる面と固体潤滑剤からなる面とが混在して露出した外層用シートを作製した。
【0076】
前記筒状母材の外周面に該外層用シートを、その固体潤滑剤が露出した側の面を外側にして捲回し、予備円筒成形体を作製し、以下実施例1と同様の方法で中央部の貫通孔を規定すると共に球帯状基体用の補強材としての帯状の編組金網が露出した円筒内面と部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面とにより規定された球帯状基体と、球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成されていると共に径方向に積層された複数の部分凸球面状中間層と、該部分凸球面状中間層のうちの最外側の部分凸球面状中間層の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えた球帯状シール体を作製した。
【0077】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつこの補強材の編組金網と混在一体化されていると共に圧縮された膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の円筒状の編組金網の網目を充填し、かつ補強材と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、42.1%であり、外層は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mmの編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とが圧縮されて外層用の補強材の編組金網の網目に固体潤滑剤及び外層用の耐熱材が充填されてなり、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での外層用の補強材からなる面の占有面積率は42.1%である。
【0078】
実施例3
前記実施例1において、各耐熱材としての膨張黒鉛シートに、第一燐酸アルミニウム4.0質量%及び膨張黒鉛を含む密度1.12Mg/m、厚さ0.4mmの膨張黒鉛シートIIを使用した以外は前記実施例1と同様の構成材料及び同様の方法で球帯状シール体を作製した。
【0079】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつこの補強材の編組金網と混在一体化されていると共に圧縮された第一燐酸アルミニウムと膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ補強材と混在一体化されて圧縮された第一燐酸アルミニウム及び膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、34.5%であり、外層は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mmの編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、第一燐酸アルミニウム及び膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とが圧縮されて外層用の補強材の編組金網の網目に固体潤滑剤及び外層用の耐熱材が充填されてなり、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での該外層用の補強材からなる面の占有面積率は、34.5%である。
【0080】
実施例4
前記実施例2において、各耐熱材としての膨張黒鉛シートに、五酸化燐1.0質量%、第一燐酸アルミニウム4.0質量%及び膨張黒鉛を含む密度1.12Mg/m、厚さ0.4mmの膨張黒鉛シートIIIを使用した以外は前記実施例2と同様の構成材料及び実施例1と同様の方法で球帯状シール体を作製した。
【0081】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつこの補強材の編組金網と混在一体化されていると共に圧縮された第一燐酸アルミニウム4.0重量%、五酸化燐1.0質量%及び膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の円筒状の編組金網の網目を充填し、かつ補強材と混在一体化されて圧縮された第一燐酸アルミニウム4.0重量%、五酸化燐1.0質量%及び膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、42.1%であり、外層は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mmの編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、第一燐酸アルミニウム4.0重量%、五酸化燐1.0質量%及び膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とが圧縮されて外層用の補強材の編組金網の網目に固体潤滑剤及び外層用の耐熱材が充填されなり、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での外層用の補強材からなる面の占有面積は、42.1%である。
【0082】
比較例1(特許文献2の実施例3相当)
金属細線として線径0.28mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を一本使用して網目の目幅が縦5mm、横4mmの円筒状の編組金網を作製し、これを一対のローラ間に通して帯状の編組金網とし、これを球帯状基体用の補強材とした。球帯状基体用の耐熱材となる膨張黒鉛シートに、密度1.12Mg/m、厚さ0.4mmの膨張黒鉛シートIを使用し、この膨張黒鉛シートIと該帯状の編組金網とを重ね合わせて重合体を形成し、内側に帯状の編組金網を配置して該重合体をうず巻き状に捲回して最外周に膨張黒鉛シートIを配した筒状母材を作製した。この筒状母材においては、膨張黒鉛シートIの幅方向の両端部はそれぞれ球帯状基体用の補強材となる帯状の編組金網の幅方向に突出(はみ出し)している。
【0083】
外層用の耐熱材として、密度0.3Mg/m、厚さ1.35mmの膨張黒鉛シートIを使用した。外層用の補強材として、線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を連続的に編んだ網目の目幅が縦3.5mm、横2.5mmの円筒状の編組金網を使用し、該円筒状の編組金網の内面に外層用の耐熱材となる膨張黒鉛シートIを連続的に挿入し、該膨張黒鉛シートIの挿入開始端から該膨張黒鉛シートIを挿入した円筒状の編組金網を、円筒ローラと外周面に軸方向に沿って複数個の環状凹溝を有するローラとの隙間(隙間Δ1は0.50mmとした。)に供給して該膨張黒鉛シートIの厚さ方向に加圧し、さらに別の一対の円筒ローラ間の隙間(隙間Δ2は0.45mmとした。)に供給し、加圧して扁平にされた編組金網の網目に膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛を密に充填すると共に該膨張黒鉛シートI中に編組金網が埋設するように膨張黒鉛シ−トと編組金網と互いに圧着して、膨張黒鉛シートIの面と編組金網からなる面とを面一にすると共に外表面で該編組金網からなる面と膨張黒鉛シートの膨張黒鉛からなる面とが点在して露出した外層用の複合シートを作製した。
【0084】
潤滑組成物として、前記実施例1と同様の水性ディスパージョン(h−BN45.0質量%とPTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%を含む潤滑組成物を固形分として50質量%分散含有した水性ディスパージョン(h−BN22.5質量%、PTFE25.0質量%及びベーマイト2.5質量%)を使用し、この水性ディスパージョンを、該複合シートの前記環状凹溝を有するローラによって加圧された側の表面にローラ塗りし、乾燥して該複合シートの一方の表面に潤滑組成物からなる固体潤滑剤の被覆層(h−BN45.0質量%とPTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%)を形成した外層用の複層シートを作製した。
【0085】
前記筒状母材の外周面に該外層用の複層シートをその被覆層を外側にして捲回し、予備円筒成形体を作製し、以下前記実施例1と同様の圧縮成形により、中央部の貫通孔を規定する円筒内面、部分凸球面状面並びに部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面により規定された球帯状基体と、球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えた球帯状シール体を作製した。
【0086】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、圧縮された膨張黒鉛を含む球帯状基体用の耐熱材と、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの圧縮された編組金網からなると共に球帯状基体用の耐熱材の圧縮された膨張黒鉛シートIに絡み合って当該膨張黒鉛シートIと構造的一体性を有する球帯状基体用の補強材とを具備しており、外層は、圧縮された編組金網からなる補強材と、該補強材の編組金網の網目を充填し、かつ補強材の編組金網の網目に充填されていると共に圧縮された膨張黒鉛シートIからなる耐熱材と、被覆層の固体潤滑剤とを具備しており、平滑な外層の外表面は、被覆層の固体潤滑剤からなっている(図22及び図23参照)。
【0087】
比較例2(特許文献2の実施例6相当)
前記比較例1と同様の球帯状基体用の補強材としての円筒状の編組金網を使用した。球帯状基体用の耐熱材としての膨張黒鉛シートに、第一燐酸アルミニウム4.0質量%及び膨張黒鉛を含む密度1.12Mg/m、厚さ0.4mmの膨張黒鉛シートIIを使用し、この膨張黒鉛シートIIと帯状の編組金網を重ね合わせて重合体を形成し、内側に帯状の編組金網を配置して重合体をうず巻き状に捲回して最外周に膨張黒鉛シートIIを配した筒状母材を作製した。この筒状母材においては、膨張黒鉛シートIIの幅方向の両端部はそれぞれ球帯状基体用の補強材となる帯状の編組金網の幅方向に突出(はみ出し)している。
【0088】
外層用の耐熱材としての膨張黒鉛シートに、第一燐酸アルミニウム4.0質量%及び膨張黒鉛を含む密度0.3Mg/m、厚さ1.35mmの膨張黒鉛シートIIを使用した。前記比較例1と同様の線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を使用して網目の目幅が縦3.5mm、横2.5mmの外層用の耐熱材としての円筒状の編組金網を連続的に編むと共に該円筒状の編組金網の内面に外層用の耐熱材としての膨張黒鉛シートIIを連続的に挿入し、以下前記比較例1と同様の方法で外層用の耐熱材の表面と外層用の補強材の表面とを面一に形成すると共に該補強材の表面と耐熱材の表面とが露出した外層用の複合シートを作製した。
【0089】
前記比較例1と同様にして、外層用の複合シートの一方の表面に固体潤滑剤の被覆層(h−BN45.0質量%とPTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%)を形成した外層用の複層シートを作製した。
【0090】
前記筒状母材の外周面に該外層用の複層シートをその被覆層を外側にして捲回し、予備円筒成形体を作製し、以下前記実施例1と同様の圧縮成形により、中央部の貫通孔を規定する円筒内面、部分凸球面状面並びに部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面により規定された球帯状基体と、球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えた球帯状シール体を作製した。
【0091】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、第一燐酸アルミニウム4.0重量%及び膨張黒鉛を含む圧縮された膨張黒鉛シートIIからなる耐熱材と、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの編組金網からなると共に圧縮された膨張黒鉛シートIIに絡み合って構造的一体性を有する球帯状基体用の補強材とを有しており、外層は、圧縮された編組金網からなる補強材と、該補強材の編組金網の網目を充填すると共に圧縮された膨張黒鉛シートIIからなる耐熱材と、被覆層の固体潤滑剤とを具備しており、平滑な外層の外表面は、被覆層の固体潤滑剤からなっている。
【0092】
比較例3(特許文献2の実施例8相当)
球帯状基体用の補強材として前記比較例1と同様の帯状の編組金網を使用した。球帯状基体用の耐熱材となる膨張黒鉛シートに、五酸化燐1.0質量%、第一燐酸アルミニウム4.0質量%及び膨張黒鉛を含む密度1.12Mg/m、厚さ0.4mmの膨張黒鉛シートIIIを使用し、この膨張黒鉛シートIIIと帯状の編組金網との重合体をうず巻き状に捲回して最外周に該膨張黒鉛シートIIIを配して筒状母材を作製した。この筒状母材においては、膨張黒鉛シートIIIの幅方向の両端部はそれぞれ球帯状基体用の補強材となる帯状の編組金網の幅方向に突出(はみ出し)している。
【0093】
外層用の耐熱材として、五酸化燐1.0質量%、第一燐酸アルミニウム4.0重量%及び膨張黒鉛を含む密度0.3Mg/m、厚さ1.35mmの膨張黒鉛シートIIIを使用した。外層用の補強材として、前記比較例1と同様の線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を連続的に編んだ網目の目幅が縦3.5mm、横2.5mmの円筒状の編組金網を使用し、該円筒状の編組金網の内面に外層用の耐熱材としての膨張黒鉛シートIIIを連続的に挿入し、以下前記比較例1と同様の方法で外層用の耐熱材としての膨張黒鉛シートIIIの五酸化燐1.0質量%、第一燐酸アルミニウム4.0重量%及び膨張黒鉛からなる面と外層用の補強材としての編組金網からなる面とを面一にすると共に外表面で該編組金網からなる面と膨張黒鉛シートIIIの五酸化燐1.0質量%、第一燐酸アルミニウム4.0重量%及び膨張黒鉛からなる面とが点在して露出した外層用の複合シートを作製した。
【0094】
前記比較例1と同様にして、外層用の複合シートの一方の表面に固体潤滑剤の被覆層(h−BN45.0質量%とPTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%)を形成した外層用の複層シートを作製した。
【0095】
前記筒状母材の外周面に該外層用の複層シートをその被覆層を外側にして捲回し、予備円筒成形体を作製し、以下前記実施例1と同様の圧縮成形により、中央部の貫通孔を規定する円筒内面、部分凸球面状面並びに部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面により規定された球帯状基体と、球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えた球帯状シール体を作製した。
【0096】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、第一燐酸アルミニウム4.0質量%、五酸化燐1.0質量%及び膨張黒鉛を含む圧縮された膨張黒鉛シートIIIからなる耐熱材と、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの編組金網からなると共に圧縮された膨張黒鉛シートIIIに絡み合って構造的一体性を有する球帯状基体用の補強材とを有しており、外層は、圧縮された編組金網からなる補強材と、該補強材の編組金網の網目を充填すると共に圧縮された膨張黒鉛シートIIIからなる耐熱材と、被覆層の潤滑剤とを具備しており、平滑に形成されている外層の外表面は、被覆層の固体潤滑剤からなっている。
【0097】
次に、上記した実施例1ないし実施例4及び比較例1ないし比較例4で得た球帯状シール体を図20に示す排気管球面継手に組み込み、摩擦異常音の発生の有無及びガス漏れ量(l/min)及び摩耗量について試験した結果を説明する。
【0098】
<摩擦異常音発生の有無の試験条件>
コイルバネによる押圧力(スプリングセットフォース):1177N
揺動角度:±3°
加振周波数:12Hz
温度(図20に示す凹球面部302の外表面温度):室温(25℃)〜500℃
試験回数:12サイクル(300万回)
相手材(図20に示す径拡大部301の材質):SUS304
【0099】
<試験方法と測定方法>
室温(25℃)において12Hzの加振周波数で±3°の揺動運動を1回として45,000回行ったのち、該揺動運動を継続しながら雰囲気温度を500℃の温度まで昇温(昇温中の揺動回数45,000回)し、500℃の温度に到達した時点で115,000回の揺動運動を行い、ついで該揺動運動を継続しながら雰囲気温度を室温まで降温(降温中の揺動回数45,000回)するという全揺動回数250,000回を1サイクルとして12サイクル(3,000,000回)行う。
【0100】
摩擦異常音の発生の有無の評価は、上記の(1)揺動回数50万回、(2)揺動回数100万回、(3)揺動回数150万回、(4)揺動回数200万回、(5)揺動回数250万回及び(6)揺動回数300万回の時点で、次の判定レベルにて行った。
【0101】
<摩擦異常音の判定レベル>
記号:0 摩擦異常音の発生なし。
記号:0.5 集音パイプで摩擦異常音の発生を確認できる。
記号:1 排気管球面継手の摺動部位から約0.2m離れた位置で摩擦異常音の発 生を確認できる。
記号:1.5 排気管球面継手の摺動部位から約0.5m離れた位置で摩擦異常音の発 生を確認できる。
記号:2 排気管球面継手の摺動部位から約1m離れた位置で摩擦異常音の発生を 確認できる。
記号:2.5 排気管球面継手の摺動部位から約2m離れた位置で摩擦異常音の発生を 確認できる。
記号:3 排気管球面継手の摺動部位から約3m離れた位置で摩擦異常音の発生を 確認できる。
記号:3.5 排気管球面継手の摺動部位から約5m離れた位置で摩擦異常音の発生を 確認できる。
記号:4 排気管球面継手の摺動部位から約10m離れた位置で摩擦異常音の発生 を確認できる。
記号:4.5 排気管球面継手の摺動部位から約15m離れた位置で摩擦異常音の発生 を確認できる。
記号:5 排気管球面継手の摺動部位から約20m離れた位置で摩擦異常音の発生 を確認できる。
以上の判定レベルの総合判定において、記号:0から記号:2.5までを摩擦異常音の発生なし(合格)と判定し、記号3から記号5までを摩擦異常音の発生あり(不合格)とした。
【0102】
また、上記試験条件における試験回数300万回終了後の各実施例1ないし実施例4及び比較例1ないし比較例3からなる球帯状シール体の外層の摩耗量を測定した。
【0103】
<ガス漏れ量の試験条件>
コイルバネによる押圧力(スプリングセットフォース):588N
揺動角度:±3°
加振周波数(揺動速度):1.6Hz
温度(図20に示す凹球面部302の外表面温度):室温(25℃)〜500℃
揺動回数:300万回
相手材(図20に示す径拡大部301の材質):SUS304
【0104】
<試験方法>
室温において1.6Hzの加振周波数で±3°の揺動運動を継続しながら温度を500℃まで昇温し、その温度を保持した状態で揺動運動を継続し、揺動回数が100万回、200万回及び300万回に到達した時点でのガス漏れ量について測定した。
【0105】
<ガス漏れ量の測定方法>
図20に示す排気管球面継手の上流側排気管100の開口部を閉塞し、下流側排気管200側から、49kPa(0.5kgf/cm)の圧力で乾燥空気を流入し、継手部分(球帯状シール体46の面47と径拡大部301との摺接部、球帯状シール体46の円筒内面38と上流側排気管100の管端部101との嵌合部及び環状端面40と上流側排気管100に立設されたフランジ部102との当接部)からのガス漏れ量を流量計にて、(1)試験初期(開始前)、(2)揺動回数4サイクル(100万回)、(3)揺動回数8サイクル(200万回)及び(4)揺動回数12サイクル(300万回)後の静止中立状態及び加振状態でのガス漏れ量を測定した。
【0106】
表1及び表2は上記試験結果を示す。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
上記表2の摩耗量において、実施例1ないし実施例4からなる球帯状シール体の揺動回数300万回後の外層の表面状態は最外層の金網からなる補強材が摩滅し、その下層に位置する二層目の補強材が露出していたのに対し、比較例1ないし比較例3からなる球帯状シール体の外層は、揺動回数125万回で最外層の金網からなる補強材が摩滅し、その下層に位置する膨張黒鉛を含む耐熱材が露出していた。表中の摩耗量の*印は、揺動回数125万回終了時点の摩耗量である。
【0110】
表1及び表2に示す試験結果から、実施例1ないし実施例4からなる球帯状シール体は、摩擦異常音の評価において、比較例1ないし比較例3からなる球帯状シール体よりも優れていることがわかる。比較例1ないし比較例3からなる球帯状シール体に摩擦異常音が発生したのは、表2に示す摩耗量の試験結果から、揺動回数125万回終了後において、摺動摩擦面に膨張黒鉛を含む耐熱材のみが露出した面になっており、相手材とはこの露出した耐熱材との摺動摩擦に移行したためと推察される。
【0111】
以上のように、本発明の球帯状シール体によれば、外層が相手材との摺動摩擦によって摩滅、消失して、相手材との摺動が部分凸球面状中間層に移行しても、該部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、30〜60%であるので、相手材とは常に部分凸球面状中間層用の補強材からなる面と部分凸球面状中間層用の耐熱材からなる面とが混在した外表面で摺動し、部分凸球面状中間層用の耐熱材及び補強材の夫々に負荷される荷重が低減される結果、微小な揺動運動や軸方向の過大な入力が長期間連続して負荷された場合においても、相手材表面に摺動摩擦痕等の損傷を生じさせることが極めて少なく、損傷に起因する相手材表面の粗面化を極力防止でき、結果として、部分凸球面状中間層の部分凸球面状面と相手材との間のシール性の低下を極力防止できると共に異常摩擦音の発生を極力防止することができる球帯状シール体及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0112】
4、5 14、14a 編組金網

6 膨張黒鉛シート
12 重合体
13 筒状基体

20 部分凸球面状中間層用シート
21 筒状母材
23 被覆層
24 複層シート
28 外層用シート
29 予備円筒成形体
36 金型
38 円筒内面
39 部分凸球面状面
40 環状端面
41 環状端面
42 球帯状基体
43 部分凸球面状中間層
44 部分凸球面状面
45 外層
46 球帯状シール体
47 外表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒内面、部分凸球面状面並びに部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面により規定された球帯状基体と、この球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成されていると共に径方向に積層された複数の部分凸球面状中間層と、この複数の部分凸球面状中間層のうちの最外側の部分凸球面状中間層の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えていると共に排気管継手に用いられる球帯状シール体であって、
球帯状基体は、線径が0.28〜0.32mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦4〜6mm、横3〜5mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材と混在一体化されていると共に圧縮された膨張黒鉛を含む球帯状基体用の耐熱材とを具備しており、
部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この部分凸球面状中間層用の補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、30〜60%であり、
外層は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの圧縮された編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とを具備しており、外層用の耐熱材及び固体潤滑剤は、圧縮されて外層用の補強材の編組金網の網目に充填されており、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での外層用の補強材からなる面の占有面積率は、30〜60%であることを特徴とする球帯状シール体。
【請求項2】
潤滑組成物は、六方晶窒化硼素23〜57質量%、アルミナ水和物5〜15質量%及び四ふっ化エチレン樹脂33〜67質量%を含んでいる請求項1に記載の球帯状シール体。
【請求項3】
球帯状基体用、部分凸球面状中間層用及び外層用の耐熱材の夫々は、膨張黒鉛に加えて、燐酸塩1.0〜16.0質量%を更に含んでいる請求項1又は2に記載の球帯状シール体。
【請求項4】
球帯状基体用、部分凸球面状中間層用及び外層用の耐熱材の夫々は、更に燐酸0.05〜5.0質量%含んでいる請求項3に記載の球帯状シール体。
【請求項5】
円筒内面、部分凸球面状面並びに部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面により規定された球帯状基体と、この球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成されていると共に径方向に積層された複数の部分凸球面状中間層と、この複数の部分凸球面状中間層のうちの最外側の部分凸球面状中間層の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えていると共に排気管継手に用いられる球帯状シール体の製造方法であって、
(a)膨張黒鉛からなる膨張黒鉛シートを準備する工程と、
(b)線径が0.28〜0.32mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦4〜6mm、横3〜5mmの帯状の編組金網を準備する工程と、
(c)帯状の編組金網を膨張黒鉛シートに重ね合わせて重合体を形成した後、この重合体を円筒状に捲回して筒状基体を形成する工程と、
(d)線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの円筒状の編組金網の二つの層間に膨張黒鉛からなる別の膨張黒鉛シートを挿入し、当該別の膨張黒鉛シートを挿入した円筒状の編組金網を該別の膨張黒鉛シートの厚さ方向に加圧して円筒状の編組金網を扁平状の編組金網にすると共に別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛を扁平状の編組金網の網目に充填し、かつ当該別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛と当該膨張黒鉛に混在一体化された扁平状の編組金網とからなると共に当該扁平状の編組金網からなる面と別の膨張黒鉛シ−トの膨張黒鉛からなる面とが混在した外表面での扁平状の編組金網からなる面の占有面積率が30〜60%である部分凸球面状中間層用シートを形成する工程と、
(e)該部分凸球面状中間層用シートを前記筒状基体の外周面に少なくとも2回捲回して筒状母材を形成する工程と、
(f)膨張黒鉛からなる更に別の膨張黒鉛シートを準備し、該更に別の膨張黒鉛シートの一方の表面に固体潤滑剤の被覆層を形成して複層シートを形成する工程と、
(g)該複層シートを、別の円筒状の編組金網からなる二つの層間に挿入すると共に当該複層シートを二つの層間に挿入した別の円筒状の編組金網を当該複層シートの厚さ方向に加圧して別の円筒状の編組金網を別の扁平状の編組金網にすると共に複層シートの更に別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛と当該膨張黒鉛シートの一方の表面に形成された被覆層の固体潤滑剤とを別の扁平状の編組金網の網目に充填し、かつ当該更に別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛と当該被覆層の固体潤滑剤と当該膨張黒鉛及び固体潤滑剤に混在一体化された別の扁平状の編組金網とからなると共に当該別の扁平状の編組金網からなる面と更に別の膨張黒鉛シートの膨張黒鉛からなる面と当該更に別の膨張黒鉛シートの一方の面に形成された被覆層の固体潤滑剤からなる面とが混在した外表面での当該扁平状の編組金網からなる面の占有面積率が30〜60%である外層用シートを形成する工程と、
(h)前記筒状母材の外周面に前記外層用シートを当該外層用シートの別の帯状の編組金網からなる面と膨張黒鉛からなる面と固体潤滑剤からなる面とが混在した外表面を外側にして捲回し、予備円筒成形体を形成する工程と、
(i)該予備円筒成形体を金型のコア外周面に挿入し、該コアを金型内に配置すると共に該金型内において予備円筒成形体をコア軸方向に圧縮成形する工程とを具備しており、
球帯状基体は、線径が0.28〜0.32mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦4〜6mm、横3〜5mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材と混在一体化されていると共に圧縮された膨張黒鉛を含む球帯状基体用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この部分凸球面状中間層用の補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、30〜60%であり、外層は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの圧縮された編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とを具備しており、外層用の耐熱材及び固体潤滑剤は、圧縮されて外層用の補強材の金網の網目に充填されており、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での外層用の耐熱材からなる面の占有面積率は、30〜60%であることを特徴とする球帯状シール体の製造方法。
【請求項6】
分散媒としての酸を含有する水にアルミナ水和物粒子を分散含有した水素イオン濃度(pH)が2〜3を呈するアルミナゾルに、六方晶窒化硼素粉末及び四ふっ化エチレン樹脂粉末を分散含有した水性ディスパージョンであって、六方晶窒化硼素粉末23〜57質量%と四ふっ化エチレン樹脂粉末33〜67質量%及びアルミナ水和物5〜15質量%とを含む潤滑組成物を固形分として30〜50質量%分散含有した水性ディスパージョンを更に別の膨張黒鉛シートの一方の表面に適用して当該一方の表面に固体潤滑剤の該被覆層を形成して該複層シートを形成する請求項5に記載の球帯状シール体の製造方法。
【請求項7】
各膨張黒鉛シートは、膨張黒鉛に加えて、燐酸塩1.0〜16.0質量%を含んでいる請求項5又は6に記載の球帯状シール体の製造方法。
【請求項8】
各膨張黒鉛シートは、更に燐酸0.05〜5.0質量%含んでいる請求項7に記載の球帯状シール体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−219980(P2012−219980A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89153(P2011−89153)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】