説明

環縫いミシンを転用した被裁断生地の連続裁断方法および連続裁断装置

【課題】環縫いミシンにおける針棒に突設した鉤針に代えて裁断針を突設し、被裁断生地を趣向有る繊細な切断パターンで美しく連続裁断すること。
【解決手段】環縫いミシンにおける上昇時回転可能な昇降針棒1の下部に突設した裁断針3の下降前に下降し、その上昇後に上昇する生地押さえ用ニップル8を裁断針3の周囲に備え、その刃先2が貫通後抜去可能な位置に被裁断生地4を水平送り可能に張設し、前記ニップル8を生地面に弾接させた状態で裁断針3を下降させて傾斜刃先2の凹部2Bに生地4を寄せ集めつつ斜め押し切り後、裁断針3の上昇後にニップル8を上昇させて生地4を所望方向に水平送りし、その方向に裁断針3の傾斜刃先2を向け、前記ニップル8により生地4を再び押さえた状態で裁断針3を下降させて生地4を前記のように切断するという被裁断生地の部分裁断動作を前記生地送り直後毎に順次繰り返すことで被裁断生地4を連続して裁断可能となした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環縫いミシンを転用した被裁断生地の連続裁断方法および連続裁断装置に係り、特に環縫いミシンにおける昇降針棒のに突設したループ縫い用鉤針に代えて、傾斜刃先を下部に有する裁断針を突設することで、被裁断生地を趣向有る繊細な切断パターンで美しく連続裁断可能とした被裁断生地の連続裁断方法と連続裁断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の環縫いミシンとしては、例えば下記の特許文献1に記載のように、上昇時回転可能な昇降鉤針でステッチ毎にループ縫い糸を形成する環縫いミシンに、鉤針の上下ストロークにおける上死点を変更できる切り変え機構を備え、この切り変え機構を所定のデータに基づいて制御することで、上記ループ縫い糸の高さをステッチ毎に変更可能にした環縫いミシンが周知である。
【特許文献1】特開平11−1861号公報
【0003】
また、布地やシートまたはその積層物などの被裁断生地の切断装置としては、例えば下記の特許文献2および特許文献3に記載のように、切断すべき被裁断生地を支える軟質材料製のベッドと、このベッド上の被裁断生地を切断する日本刀状のカッターとを互いに関連させて二つの座標軸方向に移動させる機構を備え、前記日本刀状カッターは、前記被裁断生地を切断する間、被裁断生地を貫通し、前記ベッドに貫入するようにした被裁断生地の切断装置も周知である。
【特許文献2】特公昭51−45113号公報
【特許文献3】特公平07−41574号公報
【0004】
さらに、下記の特許文献4に記載のもののように、布地の経糸と緯糸とをそれぞれ個別に二本の非回転切断刄の単一傾斜刃先で順次押し切りすることで、上記布地にステッチ縫い模様形状の孔明けを行う装置も周知である。
【特許文献4】特開平09−217261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記各従来例のうち、特許文献1に記載の従来例は、上昇時回転可能な鉤針で布生地や皮生地などにステッチ毎に縫い糸ループを形成しようとする環縫いミシンだから、布生地や皮生地などを環縫いして部分的にループ糸の高さが異なる立体的なアップリケを上記生地に形成することができても、布生地や皮生地などの被裁断生地を裁断できないという本質的かつ、大きな問題点が有る。
【0006】
また、特許文献2と特許文献3の各従来例における前記日本刀状カッターの刃は、その先端が斜めの全体的に横向き垂直刃であり、前記被裁断生地を切断する間は被裁断生地を貫通し、垂直刃を前記ベッドに貫入したまま、被裁断生地を強引に横向き切断する装置であるから、日本刀状カッターの垂直刃では被裁断生地を厚さ方向に斜め押し切りてきず、切れ味鋭く美しい切断や孔明けができないし、特に各従来例におけるカッターの刃は、その切損防止の観点から、ある程度以下には細くできないので、その刃幅以下の緻密な形状の切断や孔明けもできないという本質的かつ、大きな問題点が有る。
【0007】
さらに、特許文献4に記載の従来例における布地の孔明け装置は、布地の経糸と緯糸とをそれぞれ個別に平縫いミシンの針棒に突設した二本の非回転切断刄の単一傾斜刃先で順次押し切りするもので、布地を切断したり孔を明けたりするには、上記経糸と緯糸との切断作業を一回ずつ計二回繰り返す必要があるし、二本の非回転切断刄は共に単一傾斜刃先の片傾斜刄板であるので、布地の上記各糸が単一傾斜刃先から外部に逃げ易く切り残しが発生するため、布地の切断や孔明け作業性が極めて悪い上に、特に丸孔明けやカーブ切りに当たっては、経糸と緯糸との絡みや毛羽立ちも多く発生し、美しい丸孔明けやカーブ切断ができないという本質的かつ、大きな問題点が有る。
【0008】
この発明は、上記各問題点を除去するために、環縫いミシンにおける針棒に突設したループ縫い用鉤針に代えて、傾斜刃先を下部に有する裁断針を針棒に突設することで、被裁断生地を趣向有る繊細な切断パターンで美しく連続裁断することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記本発明の目的は、環縫いミシンにおける上昇時回転可能な昇降針棒の下端に突設したループ縫い用鉤針に代えて、この鉤針とほぼ同大で先細偏平の弯凹または逆V状の傾斜刃先を有する裁断針を前記針棒の下端に突設し、この裁断針の下降前に下降し、その上昇後に上昇する生地押さえ用ニップルを裁断針の周囲に昇降可能に備え、前記裁断針の昇降に伴いその刃先が貫通後抜去可能な位置に被裁断生地を前記裁断針の刃先幅以下の送りピッチで水平送り可能に張設し、前記ニップルを生地面に弾接させた状態で裁断針を下降させることで、その刃先凹部に被裁断生地を寄せ集めつつ前記傾斜刃先で生地を斜め押し切り後、裁断針の上昇後にニップルを上昇させて生地を所望方向に水平送りし、この送り方向に裁断針の傾斜刃先を向け、前記ニップルにより生地を押さえた状態で裁断針を下降させて生地を所望方向に切断するという一連の部分裁断動作を前記生地送り直後毎に順次繰り返すことで、被裁断生地を連続して裁断可能としたことで達成できた。
【発明の効果】
【0010】
この発明における請求項1と請求項2および請求項6と請求項7の各発明によれば、一般的な環縫いミシンにおけるループ縫い用鉤針に代えて、この鉤針とほぼ同大で先細偏平の弯凹または逆V字状の傾斜刃先を下部に有する裁断針を前記針棒の下端に突設する一方、この裁断針の下降前に下降し、その上昇後に上昇する生地押さえ用ニップルを裁断針の周囲に昇降可能に備え、上記ニップルを生地面に弾接させた状態で裁断針を下降させることで、その刃先幅内の被裁断生地を刃先凹部に寄せ集めつつ、その生地面をニップルで弾圧しながら前記傾斜刃先で厚さ方向に残らず斜め押し切りでき、切断後もニップルを生地面に弾接させた状態で裁断針を上昇させるので、被裁断生地に対する傾斜刃先の抜去時における被裁断生地の浮上や位置ずれなどの無用な生地妄動を確実に防止できたという優れた効果が有る。
【0011】
したがって前記各発明によれば、裁断針を切断済の生地から抜去する時に被裁断生地の浮上や位置ずれなどの無用な生地妄動が無い状態で、次の斜め押し切り動作を前記生地送り直後毎に順次繰り返し得るので、被裁断生地を上記刃先幅以下の繊細緻密な曲折形状に容易かつ、趣向有る繊細な切断パターンで美しく連続裁断したり孔明けできるし、本発明刃先、前述したような従来の環縫いミシンのヘッド部分を大幅に改造せずに、被裁断生地を趣向有る繊細な切断パターンで美しく連続裁断できる連続裁断方法および連続裁断装置を安価に多量提供できるという効果も有る。
【0012】
この発明における請求項3の発明では、前記諸効果に加えて、被裁断生地を架台上に水平可動設置した周知の可動刺繍枠に水平張設し、この可動刺繍枠を予めプログラム化した切断パターン情報に従って周知の手段で駆動制御可能にしたことで、被裁断生地を前記切断パターン情報に基づいて自動的に趣向有る繊細な切断パターンで美しく連続裁断したり孔明けできるという効果を付加できた。
【0013】
この発明における請求項4と請求項5の各発明では、前記諸効果に加えて、前記裁断針の昇降に伴いその傾斜刃先が貫通後抜去可能に被裁断生地を可動設置するに当たり、この生地を傾斜刃先が貫通後抜去できる程度の剛性シートを挟んで生地の切断部分に透孔を有する剛性板に仮定着することで、被裁断生地に対する傾斜刃先の抜去時における被裁断生地の浮上や位置ずれを一層確実に防止できたという効果を付加できた。
【0014】
この発明における請求項8と請求項9の各発明では、前記回転筒の下部外周面またはこの外周面に被せたニップル付きの保持筒を軸受筒体に昇降・回転可能に挿通したことで、裁断針とニップルの横方向への妄動を一層確実に阻止できたので、裁断針の傾斜刃先による被裁断生地の押し切り時や裁断針の抜去時における被裁断生地の浮上や位置ずれなどの無用な生地妄動を一層確実に阻止できるという効果を付加できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態例を説明するに当たり、先ず本発明の大略的な基本形態をその動作と共に大雑把に説明すると、図1・図2のような周知の環縫いミシンのヘッド部分における上昇時回転可能な昇降針棒1の下部に突設したループ縫い用鉤針に代えて、この鉤針とほぼ同大先細偏平で図3のような逆U字状または逆V字状の傾斜刃先2を有する裁断針3を前記針棒1の下部に図1のように突設し、この裁断針の下降前に後述する手段により下降し、その上昇後に上昇する生地押さえ用ニップル8を裁断針の周囲に保持筒9を介して図1・図2・図4のように昇降可能に備える。
【0016】
次いで、前記裁断針3の昇降に伴いその傾斜刃先2が貫通後抜去可能な位置に被裁断生地4を可動刺繍枠などの周知手段で図1・図2のように上下不動に水平配置し、この生地を裁断針3の上昇時にその傾斜刃先2の各刃先尖端2Aの間隔以下の送りピッチで手動その他周知の生地送り手段により水平送り可能に張設し、前記針棒1をその上昇時に手動その他前記特許文献1に記載のような周知の針棒間歇回転手段により所定角度ずつ回転させることで、前記傾斜刃先2が生地送り方向に向くように構成する。
【0017】
その後、前記ニップル8を図4のように先に下降させてその下端を被裁断生地面に弾接させて生地面を押さえた状態で、裁断針3を針棒1と共に手動その他前記特許文献1のような針棒昇降手段により、図5のように下降させることで、その刃先尖端2Aの間隔内の被裁断生地4を刃先凹部2Bに寄せ集めつつ、図6のように傾斜刃先2で生地4を厚さ方向に残らず斜め押し切りできる。
【0018】
次いで、押し切り済の上記生地面から裁断針3を図7・図8の実線のように先に上昇させた後、ニップル8を後から図1のように上昇させることで、裁断針の上昇による被裁断生地4の浮上や位置ずれを阻止でき、このニップル8の上昇後に生地4を周知の手段で所望方向に水平送りし、この送り方向に裁断針3の傾斜刃先2を前述したように向け、前記ニップル8を下降させてその下端により生地4を図4のように再び押さえる。
【0019】
上記押さえ状態で裁断針3を図5のように再び下降させれば、被裁断生地4を図6のように所望方向に切断でき、その後ニップル8で生地4を押さえた状態で裁断針3を図7のように生地から抜去することで、裁断針の上昇による被裁断生地の浮上や位置ずれを阻止するという一連の被裁断生地の部分切断動作を毎秒1〜5回程度の生地送り直後毎に順次多数回繰り返すことで、被裁断生地4を同図6のように連続して美しく裁断できた。
【0020】
次に、本発明を実施するための最良の具体的形態例をその動作と共に説明するが、先ず前記裁断針3を針棒1と共に所定角度ずつ回転させる手段と、裁断針を針棒1と共に昇降駆動する手段としては、前記特許文献1における環縫いミシンと同様の構成を援用できるが、此処でなお、これら各手段と、本発明における肝心な生地押さえ用ニップルを裁断針の下降前に下降させ、その上昇後に上昇させる手段との各例を以下順番に説明する。
【0021】
前記各手段の内、昇降針棒1の上昇時にこの針棒1を所定角度ずつ回転させる手段としては、環縫いミシンにおけるミシンフレームFに固定したミシンアーム5に対して針棒1を図1のように備えるに当たり、アーム5の前寄り中間部にベアリングBで上下不動に縦向き枢支した回転筒6に針棒1を遊挿し、この回転筒6の上部に形成した拡径部6A内に針棒1の上部外周面に固定した係合筒7を同軸的に収容すると共に、その外周面に形成した縦のキー溝7Aに上記回転筒6の拡径部6Aにねじ止めしたキー6Bを係合させる。
【0022】
次いで、上記回転筒6の上下中間部に固定した平ギヤG1をミシンアーム5に固定した周知のステッピングモータMの原動ギヤG2に噛合させ、針棒1の上昇時における上記モータMの間歇回転力で回転筒6をその軸線を中心に所定角度ずつ間歇回転させることで、そのキー6Bにキー溝7Aが係合した前記係合筒7を介し、針棒1の昇降動作を妨げずに裁断針3を針棒1と共に同一角度ずつ間歇的に回転駆動可能に構成する。
【0023】
一方、前記回転筒6の下部外周面には、図1のように下部にニップル8を有するニップル保持筒9を昇降可能に被せ、その下部における裁断針3の周囲に上記ニップル8をその取付け部8Aで止めねじnにより高さ調節可能に備えると共に、上記ニップル保持筒9は、ミシンアーム5の下部に止めねじnで固定した軸受筒体10に昇降・回転可能に挿通して回転筒6を初めとして、針棒1や裁断針3の横方向への妄動を阻止可能に構成する。
【0024】
また、上記保持筒9の上部拡径部9Aに止めねじnで固定したキー9Bを回転筒6の縦のキー溝6Cに係合させることで、この回転筒6に対して保持筒9が昇降可能に、かつ回転筒6と共に回転可能に軸支する一方、前記ニップル8で裁断針3の下降前に生地4を押さえると共に、上記ニップル8で裁断針3の横方向への妄動を阻止できるように構成するのであるが、保持筒9を回転筒6と共に回転させなくても良い場合には、上記キー9Bと、このキーに係合させる回転筒6の下部縦のキー溝6Cとはそれぞれ不要となる。
【0025】
次に、針棒1を昇降駆動する手段としては、前記係合筒7の上部に図1のように形成した環状溝7Bに第一昇降駆動リング11を空転可能に係合させ、このリング11に突設した第一昇降部材12の下部外側面に図2のように下向き突設した昇降案内用縦筒12Aを前記回転筒6の脇に立設固定した縦軸14に昇降可能に軸支し、上記縦筒12Aの上面を同図2のように緩衝用スプリングSで常に下向きに弾圧することで、上記昇降駆動リング11を介して回転筒6と針棒1とを常には図5のように下降傾向にバイアスする。
【0026】
そして、上記第一昇降部材12の垂直内側面に図1・図2のように枢支用段付きねじnで回動可能に結合した結合片12Bの下部に、ほぼ「L字状」の第一回動片13の下端を図1のように枢支用段付きねじnで回動可能に結合枢支すると共に、その折曲部付近の枢支部13Bを図1のようにミシンアーム5の固定枢軸5Aに枢支し、上記回動片13の上端部に備えたカムフォロワ13Aをミシン主軸15に軸着した第一カム板16のカム溝16Aに係合させ、上記ミシン主軸15の回転力で上記カム板16が回転すると、そのカム溝16Aに対応して上記回動片13がその枢支部13Bを支点として図1・図4・図5・図7・図1の順序で前記スプリングSを伸縮させながら往復回動するように構成する。
【0027】
上記往復回動する回動片13の下向き回動力と、針棒1や係合筒7に関連した部材の重力と、スプリングSの下向き弾撥力とで縦筒12A・第一昇降部材12・駆動リング11を順次に経て前記係合筒を針棒1と共に下降させ得る一方、上記回動片13の上向き回動力で今度は、上記スプリングSをその弾撥力に抗して圧縮させながら第一昇降部材12・縦筒12A・駆動リング11を順次に経て上記下降済針棒1を上昇可能に構成でき、針棒1の上昇時に限り前記ステッピングモータMの間歇回転させることで、前述したように針棒1を回転筒6により所定角度ずつ回転駆動させ得るように構成できた。
【0028】
次に、本発明における肝心な前記生地押さえ用ニップル8を裁断針3の下降前に図4のように下降させ、この下降済ニップル8を裁断針3の上昇後に図2・図7のように上昇させる手段について詳細に説明すると、前記縦軸14の中間部に図2・図8のように縦長コ字状の昇降片17をその上下の各片で昇降可能に軸支し、この昇降片17の上部に枢支用段付きねじnで回動可能に結合片17Aを結合枢支し、その上端に図8のようにほぼ「L字状」の第二回動片18の下端を枢支用段付きねじnで回動可能に結合枢支する。
【0029】
次いで、上記第二回動片18の折曲部付近の枢支部18Bを図8のようにミシンアーム5の固定枢軸5Aに枢支し、この回動片18の上端部に備えたカムフォロワ18Aを前記ミシン主軸15に軸着した第二カム板19のカム溝19Aに同図8のように係合させることで、上記ミシン主軸15の回転力で第二カム板19が回転すると、そのカム溝19Aに対応して第二回動片18がその枢支部18Bを支点として図8における実線と鎖線とで示す範囲内で往復回動するように構成する。
【0030】
また前記縦軸14の下部に図2のように遊挿した逆ユ字状の第二昇降部材20の上片20Aと下片20Bとの間にスペーサ20Cとニップル弾圧用スプリングSoとを遊挿介在させ、スペーサ20Cの下面とスプリングSoの上端との間に前記昇降片17の下片17Bを図2・図8のように昇降可能に介入する一方、第二昇降部材20の下片20Bに横向き突設した第二昇降駆動リング21を前記保持筒9の上部拡径部9Aに形成した環状溝9Cに空転可能に係合させ、第二昇降部材20の上片20Aの上面には、図8のように緩衝用スプリングSを弾接させる。
【0031】
そして、前記往復回動する第二回動片18の下向き回動力と緩衝用スプリングSの弾撥力とで前記昇降片17を下降させると、その下片17Bで弾圧スプリングSoを加圧しながら前記第二昇降駆動リング21を介して保持筒9をニップル8と共に図8の鎖線のように弾力的に下降させえるから、このニップル8の下端を図4のように被裁断生地4の上面に上記弾圧スプリングSoの弾力で弾接させて生地押さえができる一方、第二回動片18が図8の実線のように上向きに回動すると、今度は、上記スプリングSの弾撥力に抗して第二昇降部材20が上昇し、第二昇降駆動リング21を介し保持筒9を図1・図7図8のようにニップル8と共に上昇させ得るように構成できた。
【0032】
ただし、前記生地押さえ用ニップル8を裁断針3の下降前に下降させ、この下降済ニップルを裁断針3の上昇後に上昇させるためには、前記第一および第二の各カム板16・19の各カム溝16A・19Aの形状を前記各図のように設定したり、前記各カム板16・19を用いる代わりに、第一および第二の各回動片13・18または第一および第二の各昇降部材12・20をそれぞれ直接に周知の足踏み昇降部材や電磁プランジャなど他の昇降駆動手段で、ニップル8を裁断針3の下降前に下降させ、その上昇後にニップル8を上昇させるタイミングで裁断針3とニップル8とをそれぞれ昇降駆動させてもよい。
【0033】
本発明の被裁断生地の連続裁断装置は、以上のような裁断針3を下端に有する針棒1を昇降駆動する手段と、昇降針棒1をその上昇時に所定角度ずつ回転させる手段と、生地押さえ用ニップル8を裁断針3の下降前に下降し、その上昇後に上昇すさせる手段とを用いることで、前記第一カム板16のカム溝16Aに係合した第一回動片13の回動力または前記他の昇降駆動手段により、図3のような刃先凹部2Bを有する裁断針3を針棒1と共に前記各図のように昇降できる。
【0034】
そして、裁断針3の傾斜刃先2が貫通後抜去可能な位置に水平方向に可動設置した被裁断生地4を前記裁断針3の図1・図2のような上昇時にその刃先尖端2Aの間隔以下の送りピッチで手動または自動的に水平方向に送った直後、前記ステッピングモータMの間歇回転力で回転筒6を介して前記針棒1を所定角度ずつ間歇回転駆動することで、裁断針3の傾斜刃先2を生地送り方向に向けることができる。
【0035】
その後、前記ニップル8を生地4の上面に図4のように先に弾接させて生地押さえをした状態で、第一回動片13の回動力または前記他の昇降駆動手段により、裁断針3を針棒1と共に図5のように下降させることで、その刃先尖端2Aの間隔内の被裁断生地4を刃先凹部2Bに寄せ集めつつ、傾斜刃先2で被裁断生地を厚さ方向に図6に示す拡大図のように残らず斜め押し切りして生地切断部分4Aを形成できる。
【0036】
次いで、前記ニップル8を図5のように生地4の上面に弾接させたまま、生地押さえを継続した状態で、裁断針3を第一回動片13の回動力または前記他の昇降駆動手段により、図7のように上昇させ、上記押し切り済の生地から裁断針3を抜去した後、ニップル8を図1・図2・図8実線のように第二回動片20の回動力または前記他の昇降駆動手段により上昇させることで、裁断針の上昇による被裁断生地の浮上や位置ずれを阻止するという一連の部分裁断動作を毎秒1〜5回程度の生地送り直後毎に順次多数回繰り返すことで、被裁断生地4を図6のように連続して美しく裁断でき、趣向有る繊細な切断孔などを形成できた。
【実施例】
【0037】
前記一連の部分裁断動作が毎秒1回程度の低速裁断動作であれば、前記緩衝用スプリングSを省略しても連続裁断動作を支障無く実行できると共に、本発明は、前記各特許文献と同様な架台上に周知手段で可動設置した周知の自動刺繍枠などの自動枠に前記被裁断生地4を周知手段で水平張設し、上記自動枠と裁断針3とニップル8とを周知手段により予めプログラム化した切断パターン情報に従ってそれぞれ駆動制御することで、被裁断生地4を自動的に連続裁断して趣向有る繊細な切断孔などを形成できた。
【0038】
また、前記裁断針3の昇降に伴いその傾斜刃先2が貫通後抜去可能に被裁断生地4を可動設置するに当り、この生地4を上記傾斜刃先2が貫通後抜去できる程度の剛性シートを挟んで生地4の切断部分に透孔を有する剛性板に仮接着テープなどで仮定着することで、被裁断生地4に対する傾斜刃先2の抜去時における生地4の浮上や位置ずれを一層良好に防止できる。
【0039】
さらに、上記剛性板を被裁断生地4と共に前記可動刺繍枠に平設すれば、被裁断生地4を連続して自動裁断する際の被裁断生地4に対する傾斜刃先2の抜去時における被裁断生地4の浮上や位置ずれを一層良好に防止できた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
前記被裁断生地4としては、各種繊維製の布地を初めとして、皮革生地や軟質プラスチックシートなど、裁断針が貫通後抜去可能なすべての生地素材を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態例を示す縦断側面面
【図2】本発明の実施形態例を示す立面図
【図3】本発明における裁断針の一例を示す斜視図
【図4】図1と状態を異にする縦断側面面
【図5】図4と状態を異にする縦断側面面
【図6】本発明による被裁断生地の切断例を示す説明図
【図7】図5と状態を異にする縦断側面面
【図8】本発明におけるニップルの昇降制御例を示す縦断側面面
【符号の説明】
【0042】
1─針棒
2─傾斜刃先 2A─刃先尖端 2B…刃先凹部
3…裁断針
4…被裁断生地 4A…生地の切断部分
5…ミシンアーム 5A…固定枢軸
6…回転筒 6A…拡径部 6B…キー 6C…下部キー溝
7…係合筒 7A…キー 7B…環状溝
8…ニップル
9…ニップル保持筒 9A…拡径部 9B…キー 9C…環状溝
10…軸受筒体
11,21…駆動リング
12,20…昇降部材 12A案内用縦筒
12B,17A…結合片
13,18…回動片 13A,18A…カムフォロワ
13B,18B…枢支部
14…縦軸
15…ミシン主軸
16,19…カム板 16A,19A…カム溝
17…昇降片
20A…昇降部材の上片 20B…下片 20C…スペーサ
M…ステッピングモータ G1,G2…平ギヤ
n…止めねじ F…ミシンフレーム
B…ベアリング S…緩衝用スプリング
So…ニップル弾圧用スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環縫いミシンにおける上昇時回転可能な昇降針棒の下端に突設したループ縫い用鉤針に代えて、この鉤針とほぼ同大で先細偏平の弯凹傾斜刃先を有する裁断針を前記針棒の下端に突設し、この裁断針の下降前に下降し、その上昇後に上昇する生地押さえ用ニップルを裁断針の周囲に昇降可能に備え、前記裁断針の昇降に伴いその刃先が貫通後抜去可能な位置に被裁断生地を前記裁断針の刃先幅以下の送りピッチで水平送り可能に張設し、前記ニップルを生地面に弾接させた状態で裁断針を下降させることで、その刃先凹部に被裁断生地を寄せ集めつつ前記傾斜刃先で生地を斜め押し切り後、裁断針の上昇後にニップルを上昇させて生地を所望方向に水平送りし、この送り方向に裁断針の傾斜刃先を向け、前記ニップルにより生地を押さえた状態で裁断針を下降させて生地を所望方向に切断するという一連の部分裁断動作を前記生地送り直後毎に順次繰り返すことで、被裁断生地を連続して裁断可能となした環縫いミシンを転用した被裁断生地の連続裁断方法。
【請求項2】
環縫いミシンにおける上昇時回転可能な昇降針棒の下端に突設したループ縫い用鉤針に代えて、この鉤針とほぼ同大先細偏平で逆V字状の傾斜刃先を有する裁断針を前記針棒の下端に突設し、この裁断針の下降前に下降し、その上昇後に上昇する生地押さえ用ニップルを裁断針の周囲に昇降可能に備え、前記裁断針の昇降に伴いその刃先が貫通後抜去可能な位置に被裁断生地を前記裁断針の刃先幅以下の送りピッチで水平送り可能に張設し、前記ニップルを生地面に弾接させた後裁断針を下降させることで、その刃先凹部に被裁断生地を寄せ集めつつ前記傾斜刃先で生地を斜め押し切り後、裁断針の上昇後にニップルを上昇させて生地を所望方向に水平送りし、この送り方向に裁断針の傾斜刃先を向け、前記ニップルにより生地を押さえた状態で裁断針を下降させて生地を所望方向に切断するという一連の部分裁断動作を前記生地送り直後毎に順次繰り返すことで、被裁断生地を連続して裁断可能となした環縫いミシンを転用した被裁断生地の連続裁断方法。
【請求項3】
前記被裁断生地を架台上に可動設置した可動刺繍枠に水平張設し、この可動刺繍枠および前記裁断針の上昇後にニップルそれぞれ予めプログラム化した切断パターン情報に従って順次に駆動制御することで、被裁断生地を連続して裁断可能とした請求項1または請求項2に記載の環縫いミシンを転用した被裁断生地の連続裁断方法。
【請求項4】
前記裁断針の昇降に伴いその傾斜刃先が貫通後抜去可能に被裁断生地を水平送り可能に張設するに当たり、この生地を前記傾斜刃先が貫通後抜去できる程度の剛性シートを挟んで生地の切断部分に透孔を有する剛性板に仮定着することで、被裁断生地に対する傾斜刃先の抜去時における被裁断生地の浮上を防止した請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載の環縫いミシンを転用した被裁断生地の連続裁断方法。
【請求項5】
前記裁断針の昇降に伴いその傾斜刃先が貫通後抜去可能に被裁断生地を水平送り可能に張設するに当たり、この生地を前記傾斜刃先が貫通後抜去できる程度の剛性シートを挟んで生地の切断部分に透孔を有する剛性板に仮定着し、この剛性板を前記可動刺繍枠に平設することで、被裁断生地に対する傾斜刃先の抜去時における被裁断生地の浮上を防止した請求項4に記載の環縫いミシンを転用した被裁断生地の連続裁断方法。
【請求項6】
環縫いミシンにおける上昇時回転可能な昇降針棒の下端に突設したループ縫い用鉤針に代えて、この鉤針とほぼ同大で先細偏平の弯凹傾斜刃先を有する裁断針を前記針棒の下端に突設し、この裁断針の下降前に下降し、その上昇後に上昇する生地押さえ用ニップルを裁断針の周囲に昇降可能に備え、前記裁断針の昇降に伴いその刃先が貫通後抜去可能な位置に被裁断生地を前記裁断針の刃先幅以下の送りピッチで水平送り可能に張設してなり、前記ニップルを生地面に弾接させて裁断針を下降させることで、その刃先凹部に被裁断生地を寄せ集めつつ前記傾斜刃先で生地を斜め押し切り後、裁断針の上昇後にニップルを上昇させて生地を所望方向に水平送りし、この送り方向に裁断針の傾斜刃先を向け、前記ニップルにより生地を押さえた状態で裁断針を下降させて生地を所望方向に切断するという一連の部分裁断動作を前記生地送り直後毎に順次繰り返すことで、被裁断生地を連続して裁断可能となした環縫いミシンを転用した被裁断生地の連続裁断装置。
【請求項7】
環縫いミシンにおける上昇時回転可能な昇降針棒の下端に突設したループ縫い用鉤針に代えて、この鉤針とほぼ同大先細偏平で逆V字状の傾斜刃先を有する裁断針を前記針棒の下端に突設し、この裁断針の下降前に下降し、その上昇後に上昇する生地押さえ用ニップルを裁断針の周囲に昇降可能に備え、前記裁断針の昇降に伴いその刃先が貫通後抜去可能な位置に被裁断生地を前記裁断針の刃先幅以下の送りピッチで水平送り可能に張設してなり、前記ニップルを生地面に弾接させた後裁断針を下降させることで、その刃先凹部に被裁断生地を寄せ集めつつ前記傾斜刃先で生地を斜め押し切り後、裁断針の上昇後にニップルを上昇させて生地を所望方向に水平送りし、この送り方向に裁断針の傾斜刃先を向け、前記ニップルにより生地を押さえて裁断針を下降させて生地を所望方向に切断するという一連の部分裁断動作を前記生地送り直後毎に順次繰り返すことで、被裁断生地を連続して裁断可能となした環縫いミシンを転用した被裁断生地の連続裁断装置。
【請求項8】
前記回転筒の下部外周面をミシンアームの下部に固定した軸受筒体に昇降・回転可能に挿通して針棒と裁断針との妄動をより一層良好に阻止した請求項6または請求項7に記載の環縫いミシンを転用した被裁断生地の連続裁断装置。
【請求項9】
前記回転筒の下部外周面にニップルを下端に備えた保持筒を被せ、この保持筒をミシンアームの下部に固定した軸受筒体に昇降・回転可能に挿通して裁断針とニップルとの妄動を阻止することで、裁断針の上昇時における生地送りを妨げずに、裁断針の抜去時における生地の浮上や切断開始位置ずれを前記ニップルで阻止した請求項6から請求項8までに記載の環縫いミシンを転用した被裁断生地の連続裁断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−291407(P2006−291407A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115486(P2005−115486)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(392004428)
【Fターム(参考)】