説明

生化学反応用チップ及びその作製方法

【課題】流路内の抗体の生理活性を失活させることなく、かつ、受光部の光学的特性を変化させることなく、2枚の樹脂基板を貼り付ける。
【解決手段】第1樹脂基板1と、第1樹脂基板1に貼り付けられる第2樹脂基板2とを備えている。第1樹脂基板1は、平板状であり、第2樹脂基板2との貼り付け面1bに形成された流路11を備えている。第2樹脂基板2は、流路11に対向する位置に設けられ、外部から照射された光Lを受光面21aで屈折させて流路11に導くプリズム(受光部の一例)21を備えている。第2樹脂基板2は、プリズム21をx方向で挟んで一対設けられた接合代23と、プリズム21及び接合代23間に設けられた貫通溝24とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚の樹脂基板を貼り付けて構成される生化学反応用チップ及びその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術を利用して製造されたマイクロリアクターやマイクロアナリシスシステム等のマイクロ化された生化学反応用チップが知られている。このような生化学反応用チップは、内部に微細流路を備え、微細流路内で核酸やタンパク質等の分析及び合成等を行うことができ、微量化学物質の迅速な分析や医薬品のハイスループットスクリーニングへの応用が期待されている。生化学反応用チップをマイクロ化する利点としては、サンプルや試薬の使用量が軽減する、廃液の排出量が軽減する、省スペースで持ち運び可能である、及び安価である等が挙げられる。
【0003】
生化学反応用チップは、微細流路が形成された基板と、微細流路を封止する基板との2枚の基板を貼り付けることで構成される。従来、生化学反応用チップの基板の材料としては、主にガラスが用いられてきた。しかしながら、生化学反応用チップをガラスで構成すると、大量生産ができずコストが嵩む。
【0004】
生化学反応用チップをプラスチックで構成した場合、ガラスの場合と同様、射出成形によって生化学反応用チップが製造される。射出成形では、金型内へ溶融した熱可塑性プラスチック材料が導入され、金型が冷却されて樹脂が硬化されて樹脂基板が製造される。そのため、効率よく大量の樹脂基板を製造することができ、生化学反応用チップを安価に提供することができる。これにより、生化学反応用チップを、使用後、使い捨てが可能なディスポーザルチップとして使用することができる。
【0005】
その後、射出成形された2枚の樹脂基板は貼り付けられて生化学用反応チップが作製される。樹脂基板を貼り付ける手法としては、熱融着、レーザ溶着、UV接着剤等の手法が知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、図6に示すように2枚以上の板状の樹脂基板の接合方法であって、少なくとも1枚の樹脂基板の接合面の一部に突起部3を形成し、接合の際に突起部3を変形させて両樹脂基板を貼り付ける手法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、図7に示すように光源32からの光を筐体37の上面に配置したプリズム34に入射させ、プリズム34の上側に配置された金属薄膜部33で反射させ、反射された光を筐体37の底面に配置された検出器35で受光させる表面プラズモン共鳴測定装置が開示されている。そして、特許文献2では、熱源となる光源32及び検出器35と、プリズム34及び金属薄膜部33との間に断熱板36を配置し、光源32からの熱が金属薄膜部33に伝達するのを低減させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−258508号公報
【特許文献2】特開2009−264744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、一方の樹脂基板に抗体を載置して両樹脂基板を当接させた後、熱、レーザ、又はUV光等を両樹脂基板に付与して生化学反応用チップを作製した場合、熱、レーザ、又はUV光等により抗体の生理活性が失活する虞がある。特に、流路の近傍に、熱、レーザ、又はUV光等を照射すると、抗体の生理活性が失活する可能性が極めて大きくなってしまう。そのため、流路の近傍に、熱、レーザ、又はUV光を照射することは好ましくない。
【0010】
また、生化学反応用チップをSPFSセンサとして用いる場合、生化学反応用チップの受光部に、熱、レーザ、又はUV光が照射されると、受光部の光学特性に影響を及ぼしてしまうため好ましくない。一方、樹脂基板を貼り付けた後に流路内に抗体を流し込む手法も考えられるが、この手法では作製効率が悪くコストが嵩んでしまう。
【0011】
また、特許文献1では、流路2の外周の全域に設けられた突起部3に熱又はレーザを付与することで両樹脂基板が貼り合わされているため、熱又はレーザが流路内の抗体に伝わり、抗体の生理活性を失活させるという問題がある。また、特許文献1では、熱又はレーザが流路2の近傍に付与されるため、樹脂基板に歪みが発生し、樹脂基板の光学特性を変化させるという問題がある。また、特許文献1では、両樹脂基板が突起部3を介して局所的に貼り付けられるため、寸法精度の安定性確保が困難であるという問題がある。
【0012】
また、特許文献2の技術は、表面プラズモン共鳴測定装置において、光源32及び検出器35の熱が試料Sに伝達することを防止するものであり、生化学反応用チップの作製時に生化学反応用チップを貼り合わせるために照射される光による熱が試料Sに伝達することを防止するものではない。
【0013】
本発明の目的は、流路内の抗体の生理活性を失活させることなく、かつ、受光部の光学的特性を変化させることなく、2枚の樹脂基板を貼り付けることができる生化学反応用チップ及びその作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明による生化学反応用チップは、第1樹脂基板と、前記第1樹脂基板に貼り付けられる第2樹脂基板とを備える生化学反応用チップであって、前記第1樹脂基板は、前記第2樹脂基板との貼り付け面に形成された流路を備え、前記第2樹脂基板は、前記流路に対向する位置に設けられ、外部から照射された光を前記流路に導く受光部を備え、前記第1樹脂基板又は第2樹脂基板は、前記流路から離間する位置に配置され、他方の樹脂基板の貼り付け面に当接する接合代と、前記流路と前記接合代との間に形成された断熱部とを備えている。
【0015】
この構成によれば、第1樹脂基板の貼り付け面に流路が形成されているため、第1樹脂基板と第2樹脂基板とが貼り付けられると、流路は第2樹脂基板の貼り付け面によって封止される。そして、外部からの光を流路に導く受光部が流路と対向する位置に設けられている。
【0016】
ここで、第1樹脂基板又は第2樹脂基板には、流路から離間する位置に他方の基板の貼り付け面と当接する接合代が設けられている。そのため、流路内に抗体が収納されるように第1樹脂基板に第2樹脂基板を当接させた後、接合代に、熱、UV光、レーザ等の溶着エネルギーを付与して両樹脂基板を貼り付けても、溶着エネルギーによる熱が流路内の抗体に伝わることを防止することができる。その結果、第1及び第2樹脂基板の貼り付け時に流路内の抗体が失活することを防止することができる。
【0017】
更に、受光部は流路と対向する位置に設けられている。そのため、受光部に溶着エネルギーが付与されないように、接合代にのみ溶着エネルギーを付与して第1及び第2樹脂基板を貼り付けることができる。その結果、受光部の光学的特性を変化させることなく、第1及び第2樹脂基板を貼り付けることができる。
【0018】
更に、第1又は第2樹脂基板には、流路と接合代との間に断熱部が設けられている。そのため、接合代に付与される溶着エネルギーによる熱が流路に伝達されることが防止され、流路内の抗体が失活することを防止することができる。
【0019】
(2)前記断熱部は、貫通溝であることが好ましい。この構成によれば、第1又は第2樹脂基板に貫通溝を形成するという簡便な加工を施すことで、断熱部を構成することができる。
【0020】
(3)前記断熱部は、放熱部材であることが好ましい。この構成によれば、第1又は第2樹脂基板において放熱部材が設けられているため、接合代に付与される溶着エネルギーによる熱が流路に伝達されることが確実に防止され、抗体の失活をより確実に防止することができる。
【0021】
(4)前記第1及び第2樹脂基板は、前記接合代に前記第1及び前記第2樹脂基板を溶着させるための溶着エネルギーを付与する溶着手法を用いて貼り付けられることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、第1及び第2樹脂基板は、接合代に溶着エネルギーが付与されて貼り付けられる。ここで、接合代は、流路と離間する位置に設けられているため、この溶着エネルギーによる熱が流路内に収納された抗体に伝わることが防止され、抗体の失活を防止することができる。また、受光部も流路と対向する位置に設けられているため、この溶着エネルギーが受光部に伝わることを防止することができる。
【0023】
(5)前記溶着手法は、熱溶着、レーザ溶着、又はUV接着であることが好ましい。この構成によれば、熱溶着、レーザ溶着、又はUV溶着によって第1及び第2樹脂基板が貼り付けられるため、両樹脂基板を強固に貼り付けることができる。
【0024】
(6)前記第1樹脂基板は、流路の外周の全域に設けられた弾性部材を更に備えることが好ましい。この構成によれば、流路に液体を流した場合に、この液体が流路から漏れることを防止することができる。
【0025】
(7)本発明による生化学反応用チップの作製方法は、第1樹脂基板と、前記第1樹脂基板に貼り付けられる第2樹脂基板とを備える生化学反応用チップの作製方法であって、前記第1樹脂基板は、前記第2樹脂基板との貼り付け面に形成された流路を備え、前記第2樹脂基板は、前記流路に対向して設けられ、外部から照射された光を前記流路に導く受光部を備え、前記第1樹脂基板又は第2樹脂基板は、前記流路から離間して配置され、他方の樹脂基板の貼り付け面に当接する接合代と、前記流路と前記接合代との間に形成された断熱部とを備え、前記第2樹脂基板において、前記流路と対向する位置に抗体を固定するステップと、前記流路内に前記抗体が収納されるように前記第1樹脂基板と前記第2樹脂基板とを当接させるステップと、前記接合代に溶着エネルギーを付与して前記第1樹脂基板と前記第2樹脂基板とを接着するステップとを備えている。
【0026】
この構成によれば、流路と対向する位置に抗体が貼り付けられ、流路内に抗体が収納されるように第1及び第2樹脂基板が当接され、接合代に溶着エネルギーが付与されて第1及び第2樹脂基板が貼り付けられる。
【0027】
ここで、接合代は、受光部及び流路から離間した位置に設けられているため、接合代に溶着エネルギー付与してもこの溶着エネルギーが流路内の抗体及び受光部に付与されることを防止することができる。また、接合代と流路との間に断熱部が設けられているため、溶着エネルギーの熱が流路に伝達することが防止される。その結果、抗体の失活を防止することができ、かつ、受光部の光学特性の変化を防止することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、流路内の抗体の生理活性を失活させることなく、かつ、受光部の光学的特性を変化させることなく、2枚の樹脂基板を貼り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態1による生化学反応用チップの構成図を示している。
【図2】本発明の実施の形態1によるチップに対する比較例のチップの構成図を示している。
【図3】本発明の実施の形態2によるチップの構成図を示している。
【図4】本発明の実施の形態3によるチップの構成図を示している。
【図5】本発明の実施の形態4によるチップの断面構成図を示している。
【図6】特許文献1の樹脂基板の接合方法を示した図である。
【図7】特許文献2による表面プラズモン共鳴測定装置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1による生化学反応用チップの構成図を示し、(A)は(B)のA−A方向断面図であり、(B)は上面図である。なお、図1(A)において、xは左右方向を示し、zは高さ方向を示し、yは前後方向を示している。なお、これらのx,y,zの符号の関係は、他の図でも同一である。
【0031】
図1に示す生化学反応用チップ(以下、「チップ」と記述する。)は、例えば、表面プラズモン共鳴センサの検出素子として用いられる。表面プラズモン共鳴センサは、SPFS(Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy:表面プラズモン電界増強蛍光分光法)を利用したセンサである。
【0032】
具体的には、プリズム21にp偏光の光Lを照射すると、プリズム21の上面21bに形成された金薄膜4で表面プラズモン共鳴が起こり、増強された電場が発生する。この電場が、抗体3により捕捉された蛍光染色された検出対象物を発光させる。そして、発光した光が光電子像倍管などのセンサで検出され、検出対象物が検出される。
【0033】
ここで、表面プラズモン共鳴により生じた電場は増強されているため、流路11に流れる検体中に僅かな量の検出物質しか含まれていない場合であっても、検出物質を検出することができる。
【0034】
図1に示すように、チップは、第1樹脂基板1と、第1樹脂基板1に貼り付けられる第2樹脂基板2とを備えている。第1樹脂基板1は、平板状であり、第2樹脂基板2との貼り付け面1bに形成された流路11を備えている。流路11は、x方向を長手方向とする有底の溝であり、y方向に例えば3個で配列されている。なお、流路11の個数は3個に限定されず、1個、2個、4個、5個以上としてもよい。
【0035】
流路11の上面11aには一対の溝12が形成されている。溝12は、z方向を長手方向とし、一端が流路11の上面11aに連通し、他端が第1樹脂基板1の上面1aを連通している。そして、一方の溝12は、外部から流入される血液や体液等の検体を含む液体を流路11に導き、他方の溝12は流路11から液体を回収する。
【0036】
第2樹脂基板2は、流路11に対向する位置に設けられ、外部から照射された光Lを受光面21aで屈折させて流路11に導くプリズム(受光部の一例)21を備えている。ここで、プリズム21は、x−z平面の断面形状がz軸に対して左右対称な台形状であり、y方向を長手方向としている。そして、プリズム21の2枚の側面が光Lの受光面21aとなっている。また、プリズム21の上面21bは、第1樹脂基板1との貼り付け面2aとなり、かつ、流路11の下面となっている。なお、図1では、プリズム21のx−z断面の形状を台形状としたが、これに限定されず、三角形状としてもよい。
【0037】
プリズム21の上面21bには、金薄膜4が形成されている。金薄膜4のz方向の厚さである膜厚は、例えば100nmである。金薄膜4は例えばスパッタ法や蒸着法を用いてプリズム21の上面21bのほぼ全域に形成されている。
【0038】
第2樹脂基板2は、x方向においてプリズム21を挟んで左右一対設けられ、プリズム21から離間して設けられた接合代23を備えている。接合代23の上面23bは第1樹脂基板1との貼り付け面2aとなっており、第1樹脂基板1の貼り付け面1bに当接する。また、接合代23は、y方向を長手方向とし、平板状であり、下面23aがx−y平面と平行である。また、接合代23は、プリズム21と一体形成されている。金薄膜4には、流路11内に収納されるようにパターニングされた抗体3が固相化して固定されている。
【0039】
なお、第1樹脂基板1及び第2樹脂基板2は、例えばCOP(シクロオレフィンポリマー)により構成され、射出成形によって製造される。本実施の形態では、COPとして、例えば日本ゼオン社製のZEONEXE48R(登録商標)が採用されている。ここで、第1樹脂基板1及び第2樹脂基板2は、溶融した樹脂を金型に導入した後、金型を冷却して樹脂を硬化する射出成形により製造される。これにより図1に示す第2樹脂基板2が完成する。その後、射出成形された第1樹脂基板1は、微細加工によって溝12、流路11が形成され、図1に示す第1樹脂基板1が完成する。
【0040】
なお、第1樹脂基板1及び第2樹脂基板2の材料としては、COPに限定されず、熱可塑性プラスチックを採用してもよい。この場合も射出成形により第1樹脂基板1及び第2樹脂基板2を製造することができる。つまり、射出成形可能な樹脂であればどのような材料を第1及び第2樹脂基板1及び2の材料として採用してもよい。
【0041】
第2樹脂基板2には貫通溝24(断熱部の一例)が設けられている。貫通溝24は流路11を挟むようにして一対存在し、接合代23と流路11との間に設けられている。具体的には、貫通溝24は、y方向を長手方向とする細長い形状を有し、接合代23の上面23bと下面23aとを連通させている。また、貫通溝24のy方向の両端は、第1樹脂基板1の側面1cと連通していない。
【0042】
したがって、接合代23にレーザEを照射した場合、接合代23で発生した熱は、貫通溝24で遮られ、流路11に伝達されない。これにより、流路11内の抗体3の加熱が防止され、抗体3の失活を防止することができる。
【0043】
次に、第1樹脂基板1及び第2樹脂基板2を貼り付けて、チップを作製する作製方法について説明する。
【0044】
まず、第2樹脂基板2の金薄膜4上に、抗体3が固定される。この場合、抗体3は流路11に収まるようにパターニングされて固相化されて金薄膜4上に固定される。固相化の手順は、まず、反応溶液を金薄膜4上に浸し、金薄膜4の表面に化学反応を生じさせ、下地層を形成する。次に、下地層を洗浄した後、下地層の上に抗体3を置き、化学反応により金薄膜4に抗体3を固定する。次に、抗体3が固定された金薄膜4を洗浄する。以上により、抗体3が金薄膜4に固定される。
【0045】
ここで、抗体3を固定する手法としては、物理的吸着法、化学的結合法、又は高分子担体法を採用してもよい。物理的吸着法は、抗体3と金薄膜4との間で生じる静電相互作用やファンデルワールスカ等の物理的相互作用により抗体3と金薄膜4とを吸着する手法である。
【0046】
化学的結合法は、抗体3を金薄膜4に化学的結合力で固定化させる手法である。この手法では、金メルカプチド結合によって抗体3を金薄膜4に固定化させる。
【0047】
高分子担体法は、金薄膜4上に高分子担体を、例えば金メルカプチド結合によって固定化し、この高分子担体に抗体3を結合させる手法である。
【0048】
但し、固相化した抗体3を金薄膜4に固定させる手法は、物理的吸着法、化学的結合法、又は高分子担体法よりも、抗体3を金薄膜4に強固に固定させることが可能であるため、この手法を採用することが好ましい。なお、抗体3はタンパク質の一種であり、本実施の形態では、抗体3以外のタンパク質を固相化して固定してもよい。
【0049】
次に、抗体3が流路11に収納されるように第1樹脂基板1の貼り付け面1bと第2樹脂基板2の貼り付け面2aとを当接させる。
【0050】
次に、接合代23に第1及び第2樹脂基板1及び2を溶着させるための溶着エネルギーを付与する溶着手法を用いて接合代23が貼り付けられる。ここで、溶着手法としては、レーザ溶着を採用することができる。この場合、レーザEをz方向の下側から接合代23に向けて照射すると、接合代23は、局所的に加熱及び加圧され、上面23bが第1樹脂基板1の貼り付け面1bと溶着する。その結果、第1樹脂基板1と第2樹脂基板2とが貼り付けられる。なお、金薄膜4は、プリズム21の上面21bにのみ形成され、接合代23には形成されていない。そのため、接合代23にレーザを照射しても、金薄膜4にはレーザが照射されず、金薄膜4の保護が図られている。
【0051】
なお、溶着手法としては、レーザ溶着に限定されず、熱溶着、UV溶着、超音波溶着等の樹脂同士を接合することができる手法であれば、どのような手法を採用してもよい。
【0052】
次に、本チップの比較例のチップについて説明する。図2は、本発明の実施の形態1によるチップに対する比較例のチップの構成図を示し、(A)は(B)のA−A断面図であり、(B)は上面図である。
【0053】
図2に示す比較例のチップにおいて、第1樹脂基板1は、図1の第1樹脂基板1と同一構成であるため、説明を省略する。第2樹脂基板20は、全体が台形プリズムとなっている。つまり、第2樹脂基板20は、図1のチップのように接合代23が設けられていない。
【0054】
ここで、比較例のチップでは、流路11のx方向の左側と右側との領域D1に向けて下側からレーザEが照射されて第1樹脂基板1と第2樹脂基板20とが貼り付けられることになる。しかしながら、第2樹脂基板20の受光面20aは、領域D1に対向する位置に設けられている。したがって、領域D1に向けてレーザEを照射すると、このレーザEが受光面20aを通過して領域D1に侵入する。そのため、レーザEによって受光面20aに歪みが発生したり、第2樹脂基板20の屈折率が変化したりして、第2樹脂基板20の光学特性が変化する可能性がある。
【0055】
そして、第2樹脂基板20の光学特性が変化すると、比較例のチップを表面プラズモン共鳴センサの検出素子として用いた場合、光Lを照射した際に散乱光が多発して検出対象物を精度良く検出することができなくなる。
【0056】
また、レーザEが受光面20aで屈折して流路11に収納された抗体3を照射する可能性もある。その結果、抗体3を失活させるおそれがある。
【0057】
一方、本チップでは、図1に示すようにx方向において流路11を挟んで接合代23が設けられている。そのため、接合代23にレーザEを付与しても、このレーザEがプリズム21には当たらないため、プリズム21の光学特性が変化することを防止することができる。更に、本チップでは、接合代23にレーザEが照射されるため、流路11に収納された抗体3にレーザEが照射されず、抗体3の失活を防止することができる。更に、接合代23は、上面23b及び下面23aがx−y平面と平行であるため、z方向の下側からレーザEが照射されても、レーザEを大きく屈折させて流路11へと導く可能性が低く、抗体3の失活を防止することができる。
【0058】
更に、本チップでは、図1に示すように、プリズム21と接合代23との間に貫通溝24が設けられている。そのため、接合代23に照射されるレーザEの熱がプリズム21を介して流路11に伝達されることが防止される。その結果、抗体3の失活をより確実に防止することができる。
【0059】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2によるチップの構成図を示し、(A)は(B)のA−A方向断面図であり、(B)は上面図である。なお、本実施の形態において、実施の形態1と同一のものは説明を省略する。本チップは、断熱部として、貫通溝24に代えて、放熱部材25を採用したことを特徴としている。
【0060】
放熱部材25は、貫通溝24と同様、流路11を挟むようにして一対存在し、接合代23と流路11との間に設けられている。具体的には、放熱部材25は、y方向を長手方向とする細長い形状を有し、接合代23の上面23bと下面23aと連なっている。また、貫通溝24のy方向の両端は、第1樹脂基板1の側面1cと連通していない。
【0061】
放熱部材25としては、熱伝導率が少なくとも第1及び第2樹脂基板1及び2の材料であるCOP、つまり、樹脂よりも高い材料であればどのような材料を採用してもよい。具体的には、放熱部材25としては、金属やカーボンを採用すればよい。金属としては、例えば熱伝導率が236W/m・Kのアルミニウム(Al)が挙げられ、カーボンとしては、熱伝導率が3000〜5000W/m・Kのカーボンナノチューブが挙げられる。但し、これは一例であり、熱伝導率が樹脂より高ければアルミニウム以外の金属を採用してもよいし、カーボンナノチューブ以外のカーボンを採用してもよい。
【0062】
このように本チップによれば、接合代23とプリズム21との間に放熱部材25を設けたため、接合代23に照射されるレーザEの熱がプリズム21を介して流路11に伝達することが防止され、抗体3の失活をより確実に防止することができる。
【0063】
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3によるチップの構成図を示し、(A)は(B)のA−A断面図を示し、(B)は上面図を示している。実施の形態3によるチップは、流路11に弾性部材13を取り付けたことを特徴としている。なお、本実施の形態において実施の形態1,2と同一のものは説明を省略する。
【0064】
弾性部材13は、流路11の外周全体に沿って設けられ、断面が例えば円形であり、断面の直径が流路11のz方向の高さと同じ又は少し長い。よって、弾性部材13は、プリズム21の上面21bによってz方向の上側に押され、流路11の側壁を密閉し、流路11の側壁から液体が漏れることを防止することができる。つまり、弾性部材13は、パッキンとして機能する。ここで、弾性部材13としては、例えば、ゴムを採用することができる。
【0065】
(実施の形態4)
図5は、本発明の実施の形態4によるチップの断面構成図を示している。実施の形態4によるチップは、第1樹脂基板1に接合代15を設けたことを特徴としている。なお、本実施の形態において、実施の形態1〜3と同一のものは説明を省略する。図5に示すように、接合代15は、x方向において流路11を挟むようにして左右一対設けられ、流路11から離間して設けられている。
【0066】
ここで、第1樹脂基板1において、接合代15以外の中心部分を本体部16と記述する。つまり、接合代15は、x方向において本体部16から左右に伸びた平板状の形状を有している。接合代15のz方向における高さは、本体部16のz方向における高さよりも低い。接合代15の下面15aは、本体部16の下面16aとは連なっており、第1樹脂基板1の貼り付け面1bを構成している。
【0067】
接合代15と本体部16との境界付近には貫通溝14が設けられている。貫通溝14は、接合代15の上面15bと下面15aとを連通させる。これにより、レーザEが照射されることで接合代15に生じた熱が流路11に伝達されることが防止され、流路11内の抗体3の失活を防止することができる。
【0068】
本体部16の下面16aには流路11が設けられている。流路11のx方向の長さは、本体部16のx方向の長さより少し短い。また、流路11は、実施の形態1〜3と同様、x方向を長手方向とし、y方向に3個配列されている。但し、これは一例であり、実施の形態1〜3と同様、流路11の個数を3個以外の個数にしてもよい。溝12は、本体部16の上面16bと流路11の上面とを連通させている。
【0069】
第2樹脂基板2は、y方向を長手方向とし、z−x平面の断面形状が三角形の形状を有し、全体がプリズム21となっている。プリズム21の2枚の側面は、受光面21aである。受光面21aは外部から照射された光Lを屈折させて流路11に導く。
【0070】
左側の受光面21aは、第2樹脂基板2の貼り付け面2bの左端から伸び、右側の受光面21aは、貼り付け面2bの右端から伸びている。そのため、第2樹脂基板2において接合代15と対向する領域S1は、レーザEによって光学特性が変化する虞がある。
【0071】
したがって、本チップでは、光Lを領域S1以外の第2樹脂基板2の中央部に照射することが好ましい。これにより、光学特性が変化した虞のある領域S1を避けて光Lが流路11へと導かれ、検出対象物を精度よく検出することができる。
【0072】
このように、第2樹脂基板2の中央部に光Lを照射して、流路11に光Lを導くには、第2樹脂基板2を屈折率が高い材料で構成すればよい。
【0073】
なお、図5では、プリズム21としてx−z平面の断面形状が三角形状のものを採用したが、これに限定されず、実施の形態1〜3と同様、x−z平面における断面形状が台形状のプリズム21を採用してもよい。但し、台形状のプリズム21では、受光面21aの領域が小さくなり、光Lを照射することができる領域が小さくなってしまう。したがって、本実施の形態では、台形状のプリズム21よりは三角形状のプリズム21を採用することが好ましい。
【0074】
なお、実施の形態4では、断熱部として貫通溝14を採用したが、これに限定されず、実施の形態2と同様、放熱部材を採用してもよい。図5において放熱部材を配置する場合、貫通溝14が設けられている領域に放熱部材を配置すればよい。これによっても、抗体3の失活をより確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 第1樹脂基板
2 第2樹脂基板
3 抗体
4 金薄膜
11 流路
12 溝
13 弾性部材
14 貫通溝
15 接合代
21 プリズム
21a 受光面
23 接合代
24 貫通溝
E レーザ
L 光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂基板と、前記第1樹脂基板に貼り付けられる第2樹脂基板とを備える生化学反応用チップであって、
前記第1樹脂基板は、前記第2樹脂基板との貼り付け面に形成された流路を備え、
前記第2樹脂基板は、前記流路に対向する位置に設けられ、外部から照射された光を前記流路に導く受光部を備え、
前記第1樹脂基板又は第2樹脂基板は、
前記流路から離間する位置に配置され、他方の樹脂基板の貼り付け面に当接する接合代と、
前記流路と前記接合代との間に形成された断熱部とを備える生化学反応用チップ。
【請求項2】
前記断熱部は、貫通溝である請求項1記載の生化学反応用チップ。
【請求項3】
前記断熱部は、放熱部材である請求項1記載の生化学反応用チップ。
【請求項4】
前記第1及び第2樹脂基板は、前記接合代に前記第1及び前記第2樹脂基板を溶着させるための溶着エネルギーを付与する溶着手法を用いて貼り付けられる請求項1〜3のいずれかに記載の生化学反応用チップ。
【請求項5】
前記溶着手法は、熱溶着、レーザ溶着、又はUV接着である請求項4記載の生化学反応用チップ。
【請求項6】
前記第1樹脂基板は、流路の外周の全域に設けられた弾性部材を更に備える請求項1〜5のいずれかに記載の生化学反応用チップ。
【請求項7】
第1樹脂基板と、前記第1樹脂基板に貼り付けられる第2樹脂基板とを備える生化学反応用チップの作製方法であって、
前記第1樹脂基板は、前記第2樹脂基板との貼り付け面に形成された流路を備え、
前記第2樹脂基板は、前記流路に対向して設けられ、外部から照射された光を前記流路に導く受光部を備え、
前記第1樹脂基板又は第2樹脂基板は、前記流路から離間して配置され、他方の樹脂基板の貼り付け面に当接する接合代と、前記流路と前記接合代との間に形成された断熱部とを備え、
前記第2樹脂基板において、前記流路と対向する位置に抗体を固定するステップと、
前記流路内に前記抗体が収納されるように前記第1樹脂基板と前記第2樹脂基板とを当接させるステップと、
前記接合代に溶着エネルギーを付与して前記第1樹脂基板と前記第2樹脂基板とを接着するステップとを備える生化学反応用チップの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−58053(P2012−58053A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200684(P2010−200684)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】