説明

生活習慣病予防・改善用の油脂加工組成物

本発明は、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を含有し、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用することができ、インスリン抵抗性の改善、並びに、内臓脂肪型肥満、2型糖尿病、高脂血症、高血圧症などの生活習慣病の予防及び/又は改善に有効である油脂加工組成物を提供する。 本発明の油脂加工組成物は、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を油脂、特に中鎖脂肪酸トリグリセリド及び/又は部分グリセリドに溶解させることによって、該化合物の安定性を向上させ、また、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などへの加工性も向上させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などに使用することができる生活習慣病予防及び/又は改善用の油脂加工組成物に関する。
【背景技術】
栄養過多や運動不足などの生活習慣の悪化による生活習慣病は大きな社会問題になっている。ここでの生活習慣病としては、内臓脂肪型肥満、2型糖尿病、高脂血症、高血圧症などが挙げられ、やがて動脈硬化症へと悪化していくマルチプル・リスク・ファクター症候群である。そこで、これらの生活習慣病を予防及び/又は改善する効果を有する組成物が望まれており、その組成物の形態は、日常的に摂取できる健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などが望まれている。
マルチプル・リスク・ファクター症候群は、ReavenによるシンドロームX(Diabetes,37,1595〜1607,1988)、Kaplanによる死の四重奏(Archives of Internal Medicine,149,1514〜1520,1989)、DeFronzoによるインスリン抵抗性症候群(Diabetes Care,14,173〜194,1991)、松澤による内臓脂肪症候群(Diabetes/Metabolism Reviews,13,3〜13,1997)と同じ病態概念であると考えられ、これら症候群に共通する原因因子はインスリン抵抗性であると考えられている。
近年、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ(peroxisome proliferator−activated receptor γ:PPARγ)のリガンドであるトログリタゾン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾンなどのチアゾリジン誘導体の研究により、これらの薬剤は2型糖尿病患者において、インスリン抵抗性を改善し、血糖低下作用を示すことが明らかにされており、インスリン抵抗性改善薬・2型糖尿病治療薬として臨床応用されている。さらに、これらのチアゾリジン誘導体は、皮下脂肪を増加させるが内臓脂肪を低減させること、血中遊離脂肪酸低下作用、血圧低下作用、抗炎症作用などを示すことが明らかにされている(Martens,F.M,,et al,Drugs,62,1463〜1480,2002)。すなわち、PPARγリガンド活性を有する化合物は、インスリン抵抗性を改善し、内臓脂肪型肥満、2型糖尿病、高脂血症、高血圧症などの生活習慣病の予防及び/又は改善に有効である。
甘草はマメ科カンゾウ属(Glycyrrhiza属)の植物であり、食用や医薬用(生薬)として利用されており、主な品種としてグリキルリーザ・グラブラ(Glycyrrhiza glabra)、G.ウラレンシス(G.uralensis)、G.インフラータ(G.inflata)などが挙げられる。いずれの品種にも親水性成分であるグリチルリチン(グリチルリチン酸)は含まれているが、疎水性成分のフラボノイドは品種によって特異的な化合物が含まれている。この品種特異的なフラボノイドは、甘草の品種同定に利用されることもある。
甘草から得られる抽出物のうち、甘草フラボノイドを多く含み、グリチルリチン含量が極微量である甘草疎水性抽出物は、マルチプル・リスク・ファクター症候群の予防及び/又は改善に有用であることが見出されている(WO02/47699)。さらに最新の研究において、甘草疎水性抽出物にPPARγリガンド活性があり、その活性成分はフラボノイド、特にプレニルフラボノイドであることが見出されている(WO03/037316)。中でもG.ウラレンシス由来の抽出物のPPARγリガンド活性が高いこと、その抽出物に含まれるプレニルフラボノイドであるグリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDが高い活性を有する成分であることも見出されている(WO03/037316)。なお、デヒドログリアスペリンDはWO03/037316において新規に見出された化合物である。
一方、甘草疎水性フラボノイドは、水にほとんど溶解せず、また、有機溶媒抽出物のままでは固結し易く、着色の進行も早いなど、経時的変化が著しいという性質があるため、利用し難い。それを解決するために、甘草疎水性フラボノイドを中鎖脂肪酸トリグリセリドに溶解し、その甘草疎水性フラボノイド製剤を酸化防止剤、抗菌剤、酵素阻害剤、着色料、抗腫瘍剤、抗アレルギー剤、抗ウイルス剤等として利用している(特許2794433号)。しかし、特許2794433号では、化合物の限定がなく、また、生活習慣病の予防及び/又は改善剤としての利用も知られていない。
発明の要約
上記に鑑み、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDは、PPARγリガンド活性を有しており、インスリン抵抗性を改善し、内臓脂肪型肥満、2型糖尿病、高脂血症、高血圧症などの生活習慣病の予防及び/又は改善に有効である。しかし、該化合物は、水への溶解性や安定性が良くないことから、飲食品や医薬品などへの利用が困難であるという欠点があった。よって、本発明は、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を含有し、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用することができる生活習慣病予防及び/又は改善用の組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を行った結果、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDをある種の油脂に特異的に溶解することができ、その油脂への溶解によってこれら化合物の安定性が向上し、また、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などへの加工性も向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有することを特徴とする、生活習慣病予防及び/又は改善用の油脂加工組成物、並びに、インスリン抵抗性改善用の油脂加工組成物に関する。
また、本発明は、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有する組成物を用いた、生活習慣病を予防及び/又は改善する方法、インスリン抵抗性を改善する方法、高血糖を予防及び/又は改善する方法、並びに、腹腔内脂肪を減少させる方法に関する。
発明の詳細な開示
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明の生活習慣病予防及び/又は改善用の油脂加工組成物は、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有することを特徴としている。
また、本発明のインスリン抵抗性改善用の油脂加工組成物は、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有することを特徴としている。
本発明の油脂加工組成物は、該化合物の中でも、デヒドログリアスペリンDを含み、かつグリシクマリン、グリシリン及びデヒドログリアスペリンCからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を含むことが好ましい。さらに、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDを含み、かつグリシクマリン又はグリシリンのいずれかを含むことがより好ましい。とりわけ、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDをすべて含むのが最も好ましい。該化合物は、トログリタゾンやピオグリタゾンなどのチアゾリジン誘導体と同様に、PPARγリガンド活性を有していることから、インスリン抵抗性の改善、並びに、内臓脂肪型肥満、2型糖尿病、高脂血症、高血圧症などの生活習慣病の予防及び/又は改善に有効である。
本発明で使用されるグリシクマリン(glycycoumarin)及びグリシリン(glycyrin)は、3−アリルクマリン(3−arylcoumarin)に分類されるフラボノイドであり、下記一般式(1)で表される化合物である。

〔式中、R=Hである場合はグリシクマリン、R=CHである場合はグリシリンである。〕
本発明で使用されるデヒドログリアスペリンC(dehydroglyasperin C)及びデヒドログリアスペリンD(dehydroglyasperin D)は、イソフラブ−3−エン(isoflav−3−ene)に分類されるフラボノイドであり、下記一般式(2)で表される化合物である。

〔式中、R=Hである場合はデヒドログリアスペリンC、R=CHである場合はデヒドログリアスペリンDである。〕
グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDは、甘草の中でもグリキルリーザ・ウラレンシス(Glycyrrhiza uralensis)に特異的に含まれている成分であり、他品種にはほとんど含まれていない。ただし、G.ウラレンシスと他品種との雑種においては含まれる場合もある。該化合物は、ODS(シリカゲル担体にオクタデシルシリル基を化学結合した充填剤)などの逆相カラムを用いた高速液体カラムクロマトグラフィー(HPLC)分析により、他のフラボノイド成分と分離して検出、定量することができる。
本発明において、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDを得る方法は、特に限定されないが、G.ウラレンシス種の甘草より得ることができる。該化合物を甘草から得る場合、その方法は特に限定されないが、エタノール、酢酸エチル、アセトンなどの有機溶媒による抽出等が挙げられる。上記抽出で得られる甘草疎水性抽出物に該化合物は含まれ、抽出物のまま使用してもよいが、さらにカラム処理、脱臭処理、脱色処理などにより粗精製又は精製したものを使用してもよい。勿論、該化合物は、その他植物等の天然由来のもの、化学合成のもの、あるいは培養細胞などにより生合成したもののいずれも本発明において使用することができる。また、該化合物は、精製したものを使用することができるが、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などとして不適当な不純物を含有しない限り粗精製したものを使用することもできる。
本発明で使用される油脂としては、グリセリン脂肪酸エステルを挙げることができる。グリセリン脂肪酸エステルとしては、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含むグリセリン脂肪酸エステル、及び/又は、部分グリセリドを含むグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。この場合、中鎖脂肪酸トリグリセリド、部分グリセリドの何れかが、グリセリン脂肪酸エステル全体の50重量%以上を占めることが好ましく、70重量%以上を占めることが特に好ましい。また、中鎖脂肪酸トリグリセリド50重量%、部分グリセリド50重量%を含むグリセリン脂肪酸エステルも用いることができる。
ここでの中鎖脂肪酸トリグリセリドは、炭素原子数6〜12の脂肪酸を構成脂肪酸とするものである。その脂肪酸の構成比率は特に限定されないが、炭素原子数8〜10の脂肪酸の構成比率は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。とりわけ、20℃での比重が0.94〜0.96、20℃での粘度が23〜28cPの中鎖脂肪酸トリグリセリドがさらに好ましい。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、天然由来のものやエステル交換などにより調製したものなど、いずれも使用することができる。
ここでの部分グリセリドとは、ジグリセリド(1,2−ジアシルグリセロール、1,3−ジアシルグリセロール)又はモノグリセリド(1−モノアシルグリセロール、2−モノアシルグリセロール)である。部分グリセリドとしては、いずれを用いても良いし、両者が混合されたものを用いても良いが、加工性の観点からジグリセリドが好ましい。また、部分グリセリドは、天然由来のものやエステル交換などにより調製したものなど、いずれも使用することができる。なお、部分グリセリドとしては、構成脂肪酸の炭素原子数が6〜24であるものが好ましい。
さらに、本発明で使用される部分グリセリドは、中鎖脂肪酸の部分グリセリドを用いることもできる。
本発明において、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDを油脂に溶解する方法は、特に限定されず、通常の撹拌、混合などの操作により実施できる。該化合物を含む抽出物、あるいは該化合物の粗精製品を用いる場合、該化合物以外の不純物が含まれているため、撹拌、混合などの操作により該化合物を油脂に溶解した後に、濾過、遠心分離などの操作により油脂に不溶な不純物を除去することが望ましい。該化合物の精製品を用いる場合、容易に均一な溶液を得ることができる。また、該化合物を含む抽出物、あるいは該化合物の粗精製品を用いる場合、予めエタノールなどの有機溶媒に溶解し、その溶液と油脂を混合した後に、有機溶媒を留去する方法を用いることもできる。
一般に、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDは、粉末状態では40℃以上において不安定であり、エタノールなどの有機溶媒での溶液状態では25℃以上において不安定である。しかし、該化合物を本発明で使用される油脂に溶解した状態では25℃以上においても安定である。
本発明の生活習慣病予防及び/又は改善用の油脂加工組成物は、生活習慣病のなかでも内臓脂肪型肥満、2型糖尿病、高脂血症及び高血圧症からなる群より選ばれた少なくとも1つの疾患に好ましく用いることができ、内臓脂肪型肥満及び/又は2型糖尿病により好ましく用いることができる。より具体的には、高血糖の予防及び/又は改善、腹腔内脂肪の減少に好ましく用いることができる。
本発明の生活習慣病予防及び/又は改善用の油脂加工組成物、並びに、インスリン抵抗性改善用の油脂加工組成物は、その形態は特に限定されず、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用することができる。例えば、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂をそのまま単独で、調理用、ソフトカプセル製剤用、ローション用などとして利用することができる。また、油性の対象物と自由に混和することができるため、目的に応じて他の油脂と混合して物性を調整することが可能である。この場合、他の油脂は食用又は医薬用であることが好ましく、その種類及び使用量は製品に要求される個々の物性や使用温度域などの諸条件を考慮して決定され、その種類及び使用量を調整することにより稠度や融点などの特性をコントロールすることができる。他の油脂としては、例えば、コーン油、ナタネ油、ハイエルシンナタネ油、大豆油、オリーブ油、紅花油、綿実油、ヒマワリ油、米糠油、パーム油、パーム核油などの植物油;魚油、牛脂、豚脂、乳脂、卵黄油などの動物油;これらを原料として分別、水添、エステル交換などを行った油脂、これらの混合油等を使用することができる。
このようにして得られる本発明の油脂加工組成物は、サラダ油やフライ油などの液状油脂、マーガリンやショートニングなどの可塑性油脂としての利用や、油中水型エマルジョン、水中油型エマルジョン等へ利用することができる。また、これらを原材料にして製造される飲食用の油脂加工組成物として、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;乳飲料、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、半片などの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;パン、ハム、スープ、各種レトルト食品、各種冷凍食品などが例示され、ペットフードや家畜飼料などへも利用することができる。
さらに、栄養強化を目的として、ビタミンA、D、Eなどの各種ビタミン類を添加、併用してもよいし、呈味剤としての各種塩類、各種香料、乳関連物質、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、発酵乳、乳脂肪などを添加、併用してもよい。また、上記以外の原材料として、通常の油中水型エマルジョン、水中油型エマルジョン等に使用される酸化防止剤、着色剤などを全て使用することができる。
本発明の生活習慣病予防及び/又は改善用の油脂加工組成物、並びに、インスリン抵抗性改善用の油脂加工組成物におけるグリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDの含量は、該化合物の生活習慣病予防及び/又は改善の効果を発揮するためには、該化合物の総量として好ましくは成人一人一日当たり0.01〜100mg/kg体重、より好ましくは0.1〜10mg/kg体重を摂取できる量を油脂加工組成物中に含んでいることが望ましい。
また、本発明の生活習慣病を予防及び/又は改善する方法、インスリン抵抗性を改善する方法、高血糖を予防及び/又は改善する方法、並びに、腹腔内脂肪を減少させる方法は、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有する上記組成物を用いることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
西北産甘草(G.ウラレンシス)300kgからエタノール抽出(1840Lのエタノールに浸し、35〜45℃、遮光条件下で2時間抽出する操作を2度繰り返し)、得られた抽出液を併せて、次いで濃縮、晶析、濾別、乾燥、粉砕により甘草疎水性抽出物13.46kgを得た。
上記の甘草疎水性抽出物20gと中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)であるアクターM−2(理研ビタミン株式会社:脂肪酸組成はC8:C10=99:1)180gを混合し、約60℃に保温しながら約1時間攪拌した。その後、遠心分離により不溶分を除去し、オイル層をMCT溶液(189.4g)として得た。
得られたMCT溶液をHPLC用メタノールにて100倍希釈し、下記の条件にてHPLC分析した結果、MCT溶液1g当たりグリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDをそれぞれ2.0mg、1.4mg、6.8mg、5.5mg含んでいた。
HPLC分析条件
分析カラムにはJ’sphere ODS−H80,4.6×250mm(ワイエムシィ社製)をカラム温度40℃で用いた。移動相は、10mMリン酸水溶液に対してアセトニトリルの比率を分析開始から15分まで35%で一定とし、15分以降65分後に70%となるように一定比率で上昇させ、65分から70分まで70%で一定とするグラジェント条件で、流速1ml/分とした。注入量は20μlとし、検出波長は350nmとした。保持時間は、グリシクマリンが33.5分、デヒドログリアスペリンCが38.0分、グリシリンが49.2分、デヒドログリアスペリンDが56.5分であった。
前記のMCT溶液をそれぞれ4℃、25℃、40℃にて4週間保存し、1週間毎にグリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDの含量を定量した。保存安定性は、保存開始時のそれぞれの含量を100%とし、保存後/保存開始時の含量の比で表した。
4℃保存の結果を表1に、25℃保存の結果を表2に、40℃保存の結果を表3に示す。なお、表中の化合物1はグリシクマリン、化合物2はグリシリン、化合物3はデヒドログリアスペリンC、化合物4はデヒドログリアスペリンDを表す。
(比較例1)
実施例1で用いた甘草疎水性抽出物をアクターM−2の代わりにエタノールに溶解して100mg/mlのエタノール溶液を得た。このエタノール溶液をHPLC用メタノールにて100倍希釈し、HPLC分析した結果、エタノール溶液1ml当たりグリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDをそれぞれ2.4mg、1.6mg、7.4mg、5.8mg含んでいた。
このエタノール溶液を用い、実施例1と同様に保存安定性試験を行った。その結果を表1〜表3に示す。



4℃保存においては、化合物1〜4はいずれもMCT溶液とエタノール溶液で安定であった。25℃保存においては、化合物1〜4はいずれもMCT溶液で安定であるのに対し、エタノール溶液では特に化合物3が不安定であった。40℃保存においては、化合物1〜4はいずれもMCT溶液で安定であるのに対し、エタノール溶液では特に化合物3及び4が不安定であった。
これらの結果から、エタノール溶液では化合物3及び4は25〜40℃保存で不安定であるが、MCT溶液では保存温度にかかわらず化合物1〜4のいずれも安定であることが示された。
(実施例2)糖尿病予防作用
2型糖尿病モデル動物であるKK−Ayマウス(雌、6週齢)を3群(各群5匹)に分けA群、B群、C群とし、表4に示す飼料をそれぞれ自由摂取にて4週間与えた。なお、基本飼料には、カゼイン20重量%、コーンスターチ49.948重量%、シュークロース10重量%、セルロースパウダー5重量%、AIN−93ミネラル混合3.5重量%、AIN−93ビタミン混合1重量%、重酒石酸コリン0.25重量%、第三ブチルヒドロキノン0.002重量%及びL−シスチン0.3重量%の組成(合計90重量%)である粉末精製飼料(AIN−93G改変、オリエンタル酵母株式会社)を用い、また、MCTにはアクターM−2(理研ビタミン株式会社)を用いた。
給餌期間中1週間毎にマウス尾静脈より少量採血し、簡易式血糖測定器グルテストエース(株式会社三和化学研究所)を用いて、血糖値を測定した。その結果を表5に示す。


A群では、経時的にマウスの血糖値が上昇し、糖尿病の発症が認められた。B群では、A群と同様にマウスの血糖値が上昇して糖尿病の発症が認められ、MCTの影響は認められなかった。一方、C群では、A群及びB群と比較してマウスの血糖値の上昇が有意に抑制され、実施例1のMCT溶液による糖尿病予防作用が認められた。
この結果から、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDを含むMCT溶液は、糖尿病の予防に有効であることが示された。
(実施例3)内臓脂肪低減作用
C57BL/6Jマウス(雌、8週齢)に高脂肪・高糖分食を自由摂取にて8週間与え、食餌性の肥満状態にした。なお、高脂肪・高糖分食には、カゼイン25重量%、コーンスターチ14.869重量%、シュークロース20重量%、大豆油2重量%、ラード14重量%、牛脂14重量%、セルロースパウダー5重量%、AIN−93ミネラル混合3.5重量%、AIN−93ビタミン混合1重量%、重酒石酸コリン0.25重量%、第三ブチルヒドロキノン0.006重量%及びL−シスチン0.375重量%の組成である半固形化精製飼料(オリエンタル酵母株式会社)を用いた。
その後マウスを3群(各群5匹)に分けA群、B群、C群とした。A群にはCE−2飼料(日本クレア株式会社)を、B群にはMCTを3重量%添加したCE−2飼料を、C群には実施例1のMCT溶液を3重量%添加したCE−2飼料を、それぞれ自由摂取にて4週間与えた。なお、MCTにはアクターM−2(理研ビタミン株式会社)を用いた。一晩絶食したマウスをエーテル麻酔下で開腹し、腹大動脈から採血して屠殺した後、腸間膜脂肪、腎臓周辺脂肪、子宮周辺脂肪を摘出し、重量を測定した。なお、腸間膜脂肪重量、腎臓周辺脂肪重量、子宮周辺脂肪重量の和を腹腔内脂肪重量とした。その結果を表6に示す。

摂餌量及び体重は、A群、B群、C群において差が認められなかった。B群では、A群に比し、腸間膜脂肪重量、腎臓周辺脂肪重量、子宮周辺脂肪重量及び腹腔内脂肪重量に差は認められず、MCTの影響は認められなかった。一方、C群では、A群及びB群に比して腸間膜脂肪重量が有意差はないが明らかに減少し、腎臓周辺脂肪重量、子宮周辺脂肪重量及び腹腔内脂肪重量が有意に減少した。すなわち、高脂肪・高糖分食の摂取によって蓄積した内臓脂肪が、実施例1のMCT溶液を含有する飼料を摂取することにより低減することが認められた。
この結果から、グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDを含むMCT溶液は、内臓脂肪の低減に有効であることが示された。
(実施例4)ソフトカプセル剤の製造
実施例1のMCT溶液を、ロータリー式ソフトカプセル製造装置を用いてゼラチン皮膜に圧入し、内容量350mgのソフトカプセル剤を得た。
(実施例5)マーガリンの製造
硬化綿実油(商品名:スノーライト、鐘淵化学工業株式会社)80重量部、実施例1のMCT溶液20重量部、無塩バター(四つ葉乳業株式会社)10重量部に、グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMS、理研ビタミン株式会社)0.2重量部、レシチン0.2重量部を添加し、60℃に加熱溶解し油相を調製した。
調製された油相84.9重量部に撹拌しながら水15.1重量部を添加し、20分間乳化を行った後、コンビネーターで冷却捏和してマーガリンを得た。
(実施例6)濃縮乳の製造
実施例1のMCT溶液10重量部を70℃に加温溶解後、レシチン0.1重量部及びポリグリセリン脂肪酸エステル0.1重量部を順次溶解して油相を調製した。
脱脂粉乳25重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.1重量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1重量部を60℃の水64.6重量部に溶解して水相を調製した。
調製した水相と油相を予備乳化した後、超高温瞬間(UHT)殺菌機にて145℃で4秒間殺菌した。次いで真空冷却した後、均質化機により10MPaの圧力で均質化し、更に10℃までプレート冷却して加工用濃縮乳を得た。
(実施例7)マヨネーズの製造
醸造酢10重量部、食塩1重量部、砂糖0.6重量部、マスタード粉末0.2重量部、グルタミン酸ナトリウム0.2重量部を混合器の中に加え、15〜20℃下で攪拌・混合し水相を調製した。その後、米白絞油68重量部、実施例1のMCT溶液10重量部に卵黄10重量部を加え、攪拌乳化して得た乳化液(10〜15℃)を少しずつ加えながら15〜20℃下で攪拌し、予備乳化した。次いで、コロイドミルを用いて仕上げ乳化を行いマヨネーズを得た。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用することができる油脂加工組成物を得ることができる。本発明の油脂加工組成物は、インスリン抵抗性の改善、並びに、内臓脂肪型肥満、2型糖尿病、高脂血症、高血圧症などの生活習慣病の予防及び/又は改善に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有することを特徴とする生活習慣病予防及び/又は改善用の油脂加工組成物。
【請求項2】
グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有することを特徴とするインスリン抵抗性改善用の油脂加工組成物。
【請求項3】
グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を、その総量として成人一人一日当たり0.01〜100mg/kg体重を摂取できる量を含むことを特徴とする請求の範囲第1又は2項記載の油脂加工組成物。
【請求項4】
油脂が中鎖脂肪酸トリグリセリド及び/または部分グリセリドを含むグリセリン脂肪酸エステルである、請求の範囲第1〜3項のいずれか1項記載の油脂加工組成物。
【請求項5】
油脂が中鎖脂肪酸トリグリセリドを50重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルである、請求の範囲第4項記載の油脂加工組成物。
【請求項6】
油脂が部分グリセリドを50重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルである、請求の範囲第4項記載の油脂加工組成物。
【請求項7】
生活習慣病が内臓脂肪型肥満、2型糖尿病、高脂血症及び高血圧症からなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求の範囲第1項記載の油脂加工組成物。
【請求項8】
生活習慣病が内臓脂肪型肥満及び/又は2型糖尿病である、請求の範囲第1項記載の油脂加工組成物。
【請求項9】
飲食用である請求の範囲第1〜8項のいずれか1項記載の油脂加工組成物。
【請求項10】
医薬用である請求の範囲第1〜8項のいずれか1項記載の油脂加工組成物。
【請求項11】
グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物が、グリキルリーザ・ウラレンシス(Glycyrrhiza uralensis)由来である請求の範囲第1〜10項のいずれか1項記載の油脂加工組成物。
【請求項12】
グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有する組成物を用いて生活習慣病を予防及び/又は改善する方法。
【請求項13】
グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有する組成物を用いてインスリン抵抗性を改善する方法。
【請求項14】
グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有する組成物を用いて高血糖を予防及び/又は改善する方法。
【請求項15】
グリシクマリン、グリシリン、デヒドログリアスペリンC及びデヒドログリアスペリンDからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を溶解している油脂を含有する組成物を用いて腹腔内脂肪を減少させる方法。

【国際公開番号】WO2004/064830
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508126(P2005−508126)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000599
【国際出願日】平成16年1月23日(2004.1.23)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】