説明

生物医学的装置用ポリシロキサンプレポリマー

生物医学的装置を製造するのに有用なポリシロキサンプレポリマーは、式(I):M(*Dii*PS)x*Dii*M(式中、各Mは独立して重合性のエチレン系不飽和ラジカルであり、各Diiは独立してジイソシアネートのジラジカル残基であり、各PSは独立してポリシロキサン-ジオール又は-ジアミンのジラジカル残基であり、各*は独立して-NH-CO-NH-、-NH-COO-又は-OCO-NH-であり、及びxは少なくとも2である)で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学的装置、特に、コンタクトレンズ、眼内レンズ及び眼科移植体などの眼科装置を製造するのに有用なポリシロキサンプレポリマーに関する。また本発明は、これらプレポリマーから製造されるコポリマー、特にヒドロゲルコポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは、コンタクトレンズなどの眼科装置を含む各種生物医学的装置を製造するのに望ましいクラスの代表的な材料である。ヒドロゲルは、平衡状態で水を含有する水和架橋ポリマー系である。ヒドロゲル製レンズは、望ましい生体適合性と快適性を提供する。シリコーンヒドロゲルは、既知のクラスのヒドロゲルであり、シリコーン含有物質を含有していることが特徴である。一般に、シリコーン含有モノマーは、架橋剤として機能するシリコーン含有モノマー又は親水性モノマー(架橋剤は複数の重合性官能基を有するモノマーと定義されている)とともに、親水性モノマーと、フリーラジカル重合反応で共重合する。なお別の架橋剤も利用できる。非シリコーンヒドロゲルを超えるシリコーンヒドロゲルの利点は、シリコーンヒドロゲルが一般に、シリコーン含有モノマーを含んでいるため、酸素透過率が高いことである。
【0003】
尿素結合又はウレタン結合を有する各種のポリシロキサンベースプレポリマーは、シリコーンヒドロゲル用に可能性のあるシリコーン含有モノマーとして開示されている。これらの各種プレポリマーは、その製造法及びその物理的特性/性質が異なっていてもよく、したがって、ヒドロゲルコポリマー用の他のモノマーと結合したとき多様な挙動を示すことができる。
【0004】
一クラスのウレタン-又は尿素-含有ポリシロキサンプレポリマーとしては、メタクリル酸イソシアナトエチル(IEM)などのイソシアネート基を有するエチレン系不飽和モノマーでエンドキャップされたポリシロキサン-ジオール又はポリシロキサン-ジアミンがある。例えば、IEMを、ヒドロキシを末端基とするポリジメチルシロキサンと反応させることによってプレポリマーが製造される。一般に、このクラスのプレポリマーは、親水性モノマーに対して、ウレタン結合なしの特に高分子量の対応するプレポリマーと類似の相溶性を示す。また一般に、これらプレポリマーは、室温で液体である。かようなプレポリマーの例は、米国特許第4,605,712号(Muellerら)に見られる。
【0005】
第二クラスのウレタン含有ポリシロキサンプレポリマーは、ジイソシアネートを利用してウレタン結合をつくる。一般に、これらのプレポリマーは、2モルのジイソシアネートを、ヒドロキシを末端基とするポリジメチルシロキサンと反応させ続いてメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)でエンドキャップすることによって製造される。このクラスは、ポリシロキサンの分子量によって、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)などの親水性モノマーとの相溶性がわずかに改善される。また一般に、このクラスは室温で液体である。かようなプレポリマーの例は、米国特許第4,136,250号(Muellerら)に見られる。
【0006】
米国特許第5,034,461号(Laiら)には、各種のポリシロキサン含有のウレタンもしくは尿素プレポリマーが開示されている。一般に、これらのプレポリマーは、短鎖のジオール、ヒドロキシを末端基とするポリジメチルシロキサン及びジイソシアネートから誘導され、その結果、その構造はセグメント化ポリウレタンエラストマー(segmented polyurethane elastomer)に類似しており、これらプレポリマーはイソシアネートと反応させたHEMAなどの重合性のエチレン系不飽和ラジカルでエンドキャップされる。これらのプレポリマーは、親水性コモノマーと共重合させて、コンタクトレンズの材料又は他の生物医学的装置の用途として有用なシリコーンヒドロゲルコポリマーを製造できる。米国特許第5,034,461号の好ましいプレポリマーは、柔軟なポリシロキサンセグメント(この特許の式中、Aで表されている)及び強力で硬いセグメント(この特許の式中、*D*G*D*で表されている)で構成され、重合性のエチレン系不飽和ラジカルでエンドキャップされている。
【0007】
本発明のポリシロキサン含有プレポリマーは、米国特許第4,136,250号又は同第4,605,712号と比べてポリシロキサンの分子量当たりより多くの極性のウレタン結合又は尿素結合を含み、かつそのポリシロキサンの柔軟なセグメントは、米国特許第4,605,712号の場合の一つのウレタン/尿素結合の代わりに二つのウレタン/尿素結合を提供するジイソシアネートを通じて重合性の基に結合し、その結果、親水性のモノマーとより相溶性になっている。
【0008】
本発明のポリシロキサン含有プレポリマーは、米国特許第5,034,461号の好ましいプレポリマーより比較的弱い硬いセグメントを含んでいる。これがいくつかの利点をもたらすことが分かったのである。第一に、本発明のプレポリマーは、室温で粘度が低い傾向があり、事実、液体であるので、米国特許第5,034,461号に開示されているような強くて硬いセグメントだけを含有するプレポリマーと比べて、生物医学的装置を注入成形する際に加工しやすくなる。第二に、この配列は、シリコーン含量の高いプレポリマーを形成することができるので、米国特許第4,126,205号又は同第4,605,712号に開示されているプレポリマーに比較して高い酸素透過率を有するコポリマーを製造できる。これらの特許に開示されているプレポリマーは、多量のポリシロキサンを使用すると、注入成形するためモノマー混合物を混合するとき不相溶性になることが多い。第三に、場合によっては、高い酸素透過率を提供するコポリマーを高いモジュラス無しで得ることができる。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、生物医学的装置を製造するのに有用なポリシロキサンプレポリマーを提供するものである。本発明のプレポリマーは、一般式:
M(*Dii*PS)x*Dii*M (I)
(式中、各Mは独立して重合性のエチレン系不飽和ラジカルであり、
各Diiは独立してジイソシアネートのジラジカル残基であり、
各PSは独立してポリシロキサン-ジオール又は-ジアミンのジラジカル残基であり、
*は独立して-NH-CO-NH-、-NH-COO-又は-OCO-NH-であり、及び
xは少なくとも2である)
で表される。
【0010】
本発明はさらに、前記プレポリマーとコモノマーを含むモノマー混合物の重合生成物であるコポリマーを提供するものである。一つの好ましいコモノマーは親水性のモノマーでありそしてもう一つの好ましいコモノマーは単官能のシリコーン含有モノマーである。好ましいコポリマーは、プレポリマーと親水性コモノマーを含有するモノマー混合物の水和重合生成物であるヒドロゲルである。特に好ましいのは、含水率が少なくとも20質量%、モジュラスが100g/mm2以下及び/又は酸素透過率が少なくとも100バーラー(barrer)であるヒドロゲルコポリマーである。
【0011】
本発明はさらに、前記コポリマーで構成された生物医学的装置、特に、コンタクトレンズ又は眼内レンズなどの眼科装置を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のプレポリマーは、下記式:
M(*Dii*PS)x*Dii*M (I)
(式中、各Mは独立して重合性のエチレン系不飽和ラジカルであり、
各Diiは独立してジイソシアネートのジラジカル残基であり、
各PSは独立してポリシロキサン-ジオール又はポリシロキサン-ジアミンのジラジカル残基であり、
*は独立して-NH-CO-NH-、-NH-COO-又は-OCO-NH-であり、及び
xは少なくとも2である)
で表される。
【0013】
一般に、式(I)の*Dii*PSブロックは、比較的弱い硬いセグメント(*Dii*で表される)と柔軟なセグメント(PSで表される)で構成されていることが特徴といえる。
【0014】
本発明のプレポリマーは、式(I)中にPSで表される、ポリシロキサンを含有する柔軟なセグメントを含んでいる。さらに詳細に述べると、このポリシロキサン含有セグメントは、下記式:
【化1】

(式中、各Aはヒドロキシルラジカル又はアミノラジカルであり、
各Rは独立して、1-10個の炭素原子を有するアルキレン基から選択され、これら炭素原子の間に、エーテル結合、ウレタン結合又はウレイド結合を含んでいてもよく、
各R’は独立して、水素、又は1-20個の炭素原子を含みその炭素原子の間にエーテル結合を含んでいてもよい一価の炭化水素ラジカルもしくはハロゲンで置換された一価の炭化水素ラジカルから選択され、及び
aは少なくとも1である)
で表される、ヒドロキシラジカル又はアミノラジカルでエンドキャップされたポリシロキサンから誘導される。
【0015】
好ましいRラジカルは、エーテルラジカルで随意選択的に置換されたアルキレンである。好ましいR’としては、アルキル基類、フェニル基類、フッ素で置換されたアルキル基類とアルケニル基類、随意選択的に置換されたエーテル基類がある。特に好ましいR’ラジカルとしては、メチルなどのアルキル;又は随意選択的にエーテル結合を含むフルオロアルキル例えば-CH2-CH2-CH2-O-CH2-(CF2)z-H(式中、zは1-6である)がある。
【0016】
aは、好ましくは約10-約100であり、より好ましくは約15-約60である。PSのMnは1000-8000の範囲内であり、より好ましくは2000-6000の範囲内である。
【0017】
各種のポリシロキサン-ジオール及びポリシロキサンジアミンが市販されている。さらに、ポリシロキサンの代表的な合成法を実施例で提供する。
【0018】
上記ポリシロキサン含有セグメントは、ポリシロキサン含有セグメントのヒドロキシ官能基又はアミノ官能基と反応するジイソシアネートを通じて連結されている。一般に、どのようなジイソシアネートでも利用できる。これらジイソシアネートは、脂肪族又は芳香族でもよく、脂肪族又は芳香族の部分に好ましくは6-30個の炭素原子を有するアルキル、アルキルシクロアルキル、シクロアルキル、アルキル芳香族及び芳香族のジイソシアネートがある。具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレン4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,3-ビス-(4,4’-イソシアナトメチル)シクロヘキサン、及びシクロヘキサンジイソシアネートがある。
【0019】
式(I)中、xは少なくとも2であり、より好ましくは少なくとも3である。
【0020】
これらプレポリマーは、両末端を、式(I)中にMで表されている重合性のエチレン系不飽和ラジカルでエンドキャップされる。代表的なMラジカルは、下記式:
【化2】

(式中、R23は水素又はメチルであり、
各R24は、水素、1-6個の炭素原子を有するアルキルラジカル又は-CO-Y-R26ラジカル(式中、Yは-O-、-S-又は-NH-である)であり、
R25は1-10個の炭素原子を有する二価のアルキレンラジカルであり、
R26は1-12個の炭素原子を有するアルキルラジカルであり、
Qは-CO、-OCO-又は-COO-を意味し、
Xは-O-又は-NH-を意味し、
Arは6-30個の炭素原子を有する芳香族のラジカルを意味し、bは0-6であり、cは0又は1であり、dは0又は1であり、及びeは0又は1である)
で表すことができる。
【0021】
Mラジカルを形成する適切なエンドキャッピング前駆体としては、ヒドロキシを末端基とする(メタ)アクリレート例えば2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート及び3-ヒドロキシプロピルメタクリレート;アミノを末端基とする(メタ)アクリレート例えばt-ブチルアミノエチルメタクリレート及びアミノエチルメタクリレート;並びに(メタ)アクリル酸がある。なお用語「(メタ)」は本願で使用する場合、任意のメチル置換基を意味する。したがって、「(メタ)アクリレート)」のような用語は、メタアクリレート又はアクリレートを意味し、そして用語「(メタ)アクリル酸」はメタクリル酸又はアクリル酸を意味する。
【0022】
本発明のプレポリマーを生成する代表的な反応式は下記のとおりである。
第一に、ジイソシアネートをポリシロキサン-ジオールと反応させる。
【0023】
(n+1)OCN-Dii-NCO+nHO-PS-OH→OCN-(Dii*PS)x*Dii-NCO
【0024】
この反応式において、*はウレタンラジカル-NH-COO-又は-OCO-NH-を示す。一般に、この反応は、ジブチル錫ジラウレートなどの触媒の存在下、塩化メチレンなどの溶媒中、還流しながら実施する。
【0025】
最後に、この生成物を重合性のエチレン系不飽和ラジカルでエンドキャップする。
【0026】
OCN-(Dii*PS)n*Dii-NCO+2M-OH→M(*Dii*PS)n*Dii*M
【0027】
上記反応式において、ポリシロキサン-ジオールとジイソシアネートが反応してウレタンラジカル(-NH-COO-又は-OCO-NH-)が生成する。あるいは、ポリシロキサン-ジアミンとジイソシアネートが反応すれば尿素ラジカル(NH-CO-NH-)が生成する。ウレタンポリマー又は尿素ポリマーを製造する他の方法は当該技術分野で知られており、代表的な合成法は実施例の項で例示する。
【0028】
本発明のコポリマーは、本発明のプレポリマーを、一種又は二種以上のコモノマーと共重合させることによって製造される。本発明のプレポリマーは、重合性のエチレン系不飽和ラジカルでエンドキャップされているので、フリーラジカル重合反応で重合させることができる。本発明で採用されるモノマー混合物は、通常のレンズ形成モノマー又は装置形成モノマーを含有している。なお、用語「モノマー」もしくは「モノマーの」及び類似の用語は、本願で使用する場合、フリーラジカル重合反応で重合できる分子量が比較的低い化合物、並びに「プレポリマー」、「マクロモノマー」及び類縁用語で呼称される高分子量の化合物を意味する。コポリマーには、主題のプレポリマーが、モノマー混合物中に5-95質量%含有され好ましくは20−70質量%含有されている。
【0029】
例えばより親水性のコポリマーを得たいか又はヒドロゲルコポリマーを製造したい場合、親水性コモノマーを、主題のプレポリマーを含有する最初のモノマー混合物に含有させればよい。代表的な親水性コモノマーとしては、不飽和カルボン酸類例えばメタクリル酸及びアクリル酸;(メタ)アクリルで置換されたアルコール類例えば2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート及びグリセリルメタクリレート;ビニルラクタム類例えばN-ビニルピロリドン;並びに(メタ)アクリルアミド類例えばメタアクリルアミド及びN,N-ジメチルアクリルアミドがある。ヒドロゲルは、水を吸収して平衡状態で保持できる架橋ポリマー系である。ヒドロゲルのコポリマーの場合は、モノマー混合物中に、少なくとも一種の親水性モノマーが、20-60質量%含有され、好ましくは25-50質量%含有されている。
【0030】
もう一つのクラスのレンズ形成モノマー又は装置形成モノマーはシリコーン含有モノマーである。換言すると、例えば酸素透過率の高いコポリマーを得たい場合は、主題のプレポリマーに加えて別のシリコーン含有コモノマーを最初のモノマー混合物中に含有させればよい。
【0031】
一つの適切なクラスのシリコーン含有モノマーとしては、下記式(IV):
【化3】

(式中、Xは-COO-、-CONR4-、-OCOO-又は-OCONR4-(各式中、R4はH又は低級アルキルである)であり;R3は水素又はメチルを意味し;hは1-10であり;並びに各R2は独立して低級アルキルラジカルもしくはハロゲン化アルキルラジカル、フェニルラジカル又は式-Si(R5)3(式中、各R5は独立して低級アルキルラジカル又はフェニルラジカルである)で表されるラジカルを意味する)で表される既知のかさ高の単官能ポリシロキサニルアルキルモノマーがある。かようなかさ高のモノマーとしては、具体的にのべると、メタクリルオキシプロピル トリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)、ペンタメチルジシロキサニルメチルメタクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)メタクリルオキシプロピルシラン、メチルジ(トリメチルシロキシ)メタクリルオキシメチルシラン、3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルビニルカルバメート及び3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルビニルカルボネートがある。
【0032】
各種の二官能及び多官能のシリコーン含有モノマーは、当該技術分野で知られており、必要に応じてコモノマーとして使用できる。前記モノマー混合物は、主題のプレポリマーに加えて、シリコーンモノマーを0-50質量%、好ましくは5-30質量%含有していてもよい。
【0033】
シリコーンヒドロゲルの場合、モノマー混合物は架橋用モノマーを含有している。なお、架橋用モノマーは、複数の重合性官能基を有するモノマーと定義される。主題のプレポリマーは、両末端を重合性ラジカルでエンドキャップされているので、架橋剤として機能する。最初のモノマー混合物中には、随意選択的に、補助の架橋用モノマーを添加してもよい。代表的な架橋用モノマーとしては、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、グリコールジメタクリレートのビニルカルボネート誘導体及び1-エチレンメタクリレート、2-ビニルカーボネートがある。補助架橋剤を利用するとき、このモノマー材料は、モノマー混合物中に、0.1-20質量%、より好ましくは0.2-10質量%含有されていてもよい。
【0034】
眼内レンズの場合、モノマー混合物はさらに、生成するコポリマーの屈折力を増大するモノマーを含有させてもよい。かようなモノマーの例は、芳香族の(メタ)アクリレート類、例えばフェニル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートである。
【0035】
最初のモノマー混合物に有機希釈剤を含有させてもよい。用語「有機希釈剤」には、本願で使用する場合、最初の混合物中の成分と実質的に反応しない有機化合物が含まれ、有機希釈剤は、最初の混合物中のモノマー成分の不相溶性を最小限にするため使用することが多い。代表的な有機希釈剤としては、一価のアルコール類、例えばC2-C10の一価アルコール類;ジオール類、例えばエチレングリコール;ポリオール類、例えばグリセリン;エーテル類、例えばヂエチレングリコールモノエチルエーテル;ケトン類、例えばメチルエチルケトン;エステル類、例えばヘプタン酸メチル;及び炭化水素類、例えばトルエンがある。
【0036】
レンズなどの生物医学的装置を製造する際は、モノマー混合物を、型に充填し次いで加熱し及び/又は紫外線などの光線を照射して、型の中のモノマー混合物を硬化させすなわちフリーラジカル重合させる。コンタクトレンズなどの生物医学的装置を製造する際にモノマー混合物を硬化させる各種の方法が知られており、スピンキャスティング法(spincasting)とスタティックキャスティング法(static casting)がある。スピンキャスティング法は、モノマー混合物を型に充填し次いでそのモノマー混合物を光に暴露しながら制御された方法で型を回転させて行われる。スタティックキャスティング法は、所望の製品の形状を提供する型キャビティを形成する二つの型部分の間に、モノマー混合物を充填し次いでそのモノマー混合物を熱及び/又は光に暴露して硬化させて行われる。コンタクトレンズの場合、一方の型部分がレンズの前面を形成するように成形され及びもう一方の型部分がレンズの後面を形成するように成形されている。モノマー混合物を型の中で硬化させた後、必要に応じて、所望の最終形態を有するコンタクトレンズ又は製品を提供するため、機械加工を行うことができる。かような方法は、米国特許第3,408,429号、第3,660,545号、第4,113,224号、第4,197,266号、第5,271,875号及び第5,260,000号に記載されている。なお、これら特許の開示事項は本願に援用するものである。さらに、モノマー混合物は、ロッド又はボタンの形状に成形し次いで旋盤加工を行って所望の形状例えばレンズ型の製品にすることができる。
【0037】
主題のプレポリマーの好ましい一用途はヒドロゲル製コンタクトレンズである。コンタクトレンズの用途の場合、ヒドロゲルのコポリマーは、十分水和されたとき、含水量が、重量分析法で測定して少なくとも20質量%であることが好ましい。
【0038】
また、場合によっては、ヒドロゲルコポリマーは、引張りモジュラスが100g/mm2を超えない方が好ましい。モジュラスは、ASTM D-1708aに従ってInstron(Model 4502)測定器で測定できるが、この規格では、ヒドロゲルコポリマー製フィルムの試料はホウ酸緩衝食塩水に浸漬される。フィルム試料の適切な大きさは、ゲージ長が22mmで幅が4.75mmであり、試料はさらに、Instron測定器のクランプで試料を把持するため末端がdogbone形であり、そして厚さが200±50μmである。
【0039】
ヒドロゲルコポリマーは、酸素透過率が好ましくは少なくとも100バーラーであり、より好ましくは少なくとも150バーラーである。酸素透過率(DKと呼称されることもある)は以下の手順で測定される。シリコーンヒドロゲルの酸素透過率は、その末端の中央の円形で金製のカソード及びそのカソードから絶縁された銀製アノードを備えたプローブを有する02 Permeometer Model 201T instrument(Createch、米国カリフォルニア州オールバニー所在)を使って、ポーラログラフ法(ANSI Z80.20-1998)で測定する。中央の厚さが150-600μmの範囲内の3種類の予め検査されたピンホールのない平坦なシリコーンヒドロゲルフィルムの試料でのみ測定した。フィルム試料の中央の厚さは、Rehder ET-1電子厚さゲージを使って測定できる。一般に、フィルム試料は円板形である。リン酸緩衝食塩水(PBS)を循環させて35±0.2℃に平衡させた浴に浸漬したフィルム試料とプローブで測定を行う。プローブとフィルム試料をPBS浴中に浸漬する前に、フィルム試料を、平衡化PBSで予め湿潤させたカソードの上に置いて心を合わせて、カソードとフィルム試料の間に気泡のないこと又は過剰のPBSが存在することを保証し、次いでフィルム試料を取り付けキャップでプローブに固定して、プローブのカソード部分をフィルム試料とのみ接触させる。シリコーンヒドロゲルのフィルムの場合は、例えば円板形のテフロン(登録商標)ポリマー膜を、プローブカソードとフィルム試料の間に使用することが有用であることが多い。この場合、まずテフロン(登録商標)膜を予め湿潤させたカソードの上に置き、次いでフィルム試料をテフロン(登録商標)膜の上において、テフロン(登録商標)膜又はフィルム試料の下に気泡のないこと又は過剰のPBSが存在することを保証する。測定結果を集めたならば、相関係数値(R2)が0.97以上のデータのみDK値を計算するのに入力すべきである。R2値が上記条件を満たす、一つの厚さ当たり少なくとも二つの測定値を得る。既知の回帰分析法を利用して、酸素透過率(DK)を、少なくとも3種の厚さを有するフィルム試料から計算する。PBS以外の溶液で水和されたフィルム試料はどれもまず純水に浸漬し次いで少なくとも24時間平衡させ、次にPHBに浸漬して少なくとも12時間平衡させる。前記測定器は定期的に清掃しかつ定期的にGPR標準を使って校正する。William J.Benjamjn,et al.,The Oxygen Permeability of Reference Materials,Optom Vis Sc 7(12s):95(1997)によって確立されたレポジトリー値(repository value)の±8.8%を計算することによって、上限と下限を確定する。なおこの文献の開示事項は全体を本願に援用するものである。
【0040】
【表1】

【0041】
以下の諸実施例は本発明の好ましい各種実施態様を例示する。
【実施例】
【0042】
実施例1
α,ω-ビス(4-ヒドロキシブチル)ポリジメチルシロキサン(Mn約3600)の製造
1台の還流冷却器を備えた2Lの三つ口丸底フラスコに、51.26gの1,3-ビスヒドロキシブチルテトラメチルジシロキサン、863gのジメトキシヂメチルシラン、126gの蒸留水及び14.7mlの濃塩酸を充填した。その混合物を60℃で1時間加熱した。次いでメタノールを5時間にわたって留去した。次に、279mlの蒸留水と279mLの濃HClを添加し次いで内容物を100℃で3時間還流した。次に粗生成物を水性層から分離した。次いで600mLのジエチルエーテルと400mLの蒸留水を添加し、次にその溶液を、400mlの重炭酸ナトリウム溶液(0.5%)で2回抽出し、次に洗浄水が中性pHになるまで蒸留水で抽出した。次いで生成物を、メタノール/水混合物(406g/118g)中にゆっくり添加した。底部の有機層を分離しジエチルエーテルを添加し次に硫酸マグネシウムで乾燥した。次いでエーテルを室温にて減圧下で除去し、そして残渣をさらに80℃にて減圧(0.77-mm torr)でストリッピングを行った。最終生成物を得た。滴定法で測定した分子量(Mn)は3598であった。
【0043】
実施例2
実施例1のPDMSを使って行うα,ω-ポリジメチルシロキサンプレポリマーの製造
乾燥した500mL三つ口丸底フラスコを、窒素注入管と還流冷却器に接続した。このフラスコに、イソホロンジイソシアネート(9.188g,41.333mmol)(IPDI);実施例1由来のα,ω-ビス(4-ヒドロキシブチル)-ポリジメチルシロキサン(114.68g, 31.873mmol)(PDMS);ジブチル錫ジラウレート(0.327g);及び塩化メチレン(180mL)をすべて一度に添加した。内容物を還流した。一夜経過した後、イソシアネートの量が22%まで減少したことを滴定法で確認した。内容物を周囲温度まで冷ました。次に、1,1’-ビ-2-ナフトール(0.0144g)とメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(2.915g, 22.399mmol)を添加し、次いでイソシアネートのピーク2267cm-1が生成物のIRスペクトルから消えるまで、周囲温度で攪拌した。次いで溶媒を減圧で除き生成物を得た(126g)。このプレポリマーは、理論的にPDMSを3ブロック(x約3)含有していた。
【0044】
実施例3
実施例1のPDMSを使って行うα,ω-ポリジメチルシロキサンプレポリマーの製造
PDMS:IDPIのモル比を4:5にすること以外、実施例2の全手順に従って実施した。149.6gのプレポリマーを得た。このプレポリマーは、理論的に、4ブロックのPDMSを含有していた(x約4)。
【0045】
実施例4
実施例1のPDMSを使って行うα,ω-ポリジメチルシロキサンプレポリマーの製造
PDMS:IDPIのモル比を5:6にすること以外、実施例2の全手順に従って実施した。159.9gのプレポリマーを得た。このプレポリマーは、理論的に、5ブロックのPDMSを含有していた(x約5)。
【0046】
実施例5-14
コポリマー
表1と2に質量比率で列挙した下記の成分すなわち実施例2、3及び4のプレポリマー;
メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS);N,N-ヂメチルアクリルアミド(DMA);メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA);N-ビニルピロリドン(NVP);及び/又はメタクリルオキシエチルビニルカーボネート(HemaVC)を混合することによってモノマー混合物を調製した。さらに、各モノマー混合物に、tintとしての1,4-ビス(2-メタクリルアミドエチルアミノ)アントラキノン(150ppm);希釈剤としてのヘキサノール(10質量部);及びDarocur(商標)UV抑制剤(Ciba Specialty Chemical,米国ニューヨーク州アードズリー所在)(0.5重量%)を含有させた。
【0047】
そのモノマー混合物を、シランで処理したガラス板の間に流延し、次いで紫外線で1時間硬化させた。各モノマー混合物を3組のガラス板の間に流延したが、各組のガラス板は厚さが異なるテフロン(登録商標)(商標)ポリマーのフィルムを挟んで隔てたので、各モノマー混合物に対してフィルムの厚さが約200、400及び600μmの3組のフィルム試料を得た。硬化させたフィルムを次に一夜イソプロパノールで抽出し、続いて脱イオン(DI)水で水和し、DI水中で4時間煮沸し次いでホウ酸緩衝食塩水又はリン酸緩衝食塩水中で飽和させてヒドロゲルフィルムを得た。含水量は重量分析法で測定した。機械的試験は、先に考察したASTM D-1708aに従ってホウ酸緩衝食塩水中で実施した。DK(又はバレル)単位で報告した酸素透過率は、先に考察した、3種の厚さを有する許容できるフィルムを使って、35℃のリン酸緩衝食塩水中で測定した。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
実施例10、11及び13で調製したモノマー混合物は、濁っていたのでフィルムを流延しなかった。これらの実施例のプレポリマーは極性が低いので、このことは、極性の小さいプレポリマーは親水性モノマーとの相溶性が低いことを示唆している。すべてのヒドロゲルフィルムは光学的に透明であった。
【0051】
本発明の各種の好ましい実施態様を説明してきたが、当業者は、前記特許請求の範囲に記載したように、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、本発明は各種の変形、付加及び変更を実施できることは分かるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
M(*Dii*PS)x*Dii*M (I)
(式中、各Mは独立して重合性のエチレン系不飽和ラジカルであり、
各Diiは独立してジイソシアネートのジラジカル残基であり、
各PSは独立してポリシロキサン-ジオール又は-ポリシロキサン-ジアミンのジラジカル残基であり、
*は独立して-NH-CO-NH-、-NH-COO-又は-OCO-NH-であり、及び
xは少なくとも2である)
で表されるプレポリマー。
【請求項2】
各Diiが独立して、脂肪族又は芳香族の部分に6〜30個の炭素原子を有する脂肪族又は芳香族のジイソシアネートのジラジカル残基である請求項1に記載のプレポリマー。
【請求項3】
各Diiが、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレン4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,3-ビス-(4,4’-イソシアナトメチル)シクロヘキサン、及びシクロヘキサンジイソシアネートからなる群から選択されるジイソシアネートのジラジカル残基である請求項2に記載のプレポリマー。
【請求項4】
各PSが、独立して、下記式:
【化1】

(式中、各Aはヒドロキシルラジカル又はアミノラジカルであり、
各Rは独立して、1-10個の炭素原子を含むアルキレン基から選択され、これら炭素原子の間に、エーテル結合、ウレタン結合又はウレイド結合を含んでいてもよく、
各R’は独立して、水素、又は1-20個の炭素原子を含みその炭素原子の間にエーテル結合を含んでいてもよい一価の炭化水素ラジカルもしくはハロゲンで置換された一価の炭化水素ラジカルから選択され、及び
aは少なくとも1である)
で表されるポリシロキサンのジラジカル残基である請求項1に記載のプレポリマー。
【請求項5】
各Rがアルキレンであり、そして各R’が独立して、随意選択的にエーテル結合を含有するアルキル又はフルオロアルキルである請求項4に記載のプレポリマー。
【請求項6】
PSのMnが1000から8000までの範囲内にある請求項5に記載のプレポリマー。
【請求項7】
xが少なくとも3である請求項1に記載のプレポリマー。
【請求項8】
各Mが独立して、下記式:
【化2】

(式中、R23は水素又はメチルであり、
各R24は、水素、1-6個の炭素原子を有するアルキルラジカル又は-CO-Y-R26ラジカル(式中、Yは-O-、-S-又は-NH-である)であり、
R25は1-10個の炭素原子を有する二価のアルキレンラジカルであり、
R26は1-12個の炭素原子を有するアルキルラジカルであり、
Qは-CO、-OCO-又は-COO-であり、
Xは-O-又は-NH-であり、
Arは6-30個の炭素原子を有する芳香族ラジカルであり、
bは0-6であり、cは0又は1であり、dは0又は1であり、及びeは0又は1である)
で表される重合性エチレン系不飽和ラジカルである請求項1に記載のプレポリマー。
【請求項9】
各Mは2-エチレンメタクリレートであり、
各Diiはイソホロンジイソシアネートのジラジカル残基であり、
各PSはMnが少なくとも2000のポリジメチルシロキサン-ジオールのジラジカル残基であり、及び
*は-NH-COO-又は-OCO-NH-である
請求項1に記載のプレポリマー。
【請求項10】
請求項1に記載のプレポリマー及びコモノマーを含有するモノマー混合物の重合生成物であるコポリマー。
【請求項11】
モノマー混合物が親水性コモノマーを含有する請求項10に記載のコポリマー。
【請求項12】
モノマー混合物が、不飽和カルボン酸類、(メタ)アクリル置換アルコール類、ビニルラクタム類及び(メタ)アクリルアミド類からなる群から選択される少なくとも一種の親水性モノマーを含有している請求項11に記載のコポリマー。
【請求項13】
モノマー混合物が、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、グリセリルメタクリレート、N-ビニルピロリドン、メタクリルアミド及びN,N-ジメチルアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも一種の親水性モノマーを含有している請求項12に記載のコポリマー。
【請求項14】
モノマー混合物がさらに、単官能シリコーン含有モノマーを含有している請求項11に記載のコポリマー。
【請求項15】
モノマー混合物がさらに、メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを含有している請求項14に記載のコポリマー。
【請求項16】
請求項1に記載のプレポリマー及び親水性コモノマーを含有するモノマー混合物の水和された重合生成物であるヒドロゲルコポリマー。
【請求項17】
含水量が少なくとも20質量%である請求項16に記載のヒドロゲルコポリマー。
【請求項18】
モジュラスが100g/mm2を超えない請求項16に記載のヒドロゲルコポリマー。
【請求項19】
酸素透過率が少なくとも100バーラーである請求項18に記載のヒドロゲルコポリマー。
【請求項20】
酸素透過率が少なくとも100バーラーである請求項16に記載のヒドロゲルコポリマー。
【請求項21】
酸素透過率が少なくとも150バーラーである請求項20に記載のヒドロゲルコポリマー。
【請求項22】
含水量が少なくとも20質量%であり、モジュラスが100g/mm2を超えず、及び酸素透過率が少なくとも150バーラーである請求項16に記載のヒドロゲルコポリマー。
【請求項23】
請求項16に記載のヒドロゲルコポリマーで構成されている生物医学的装置。
【請求項24】
請求項16に記載のヒドロゲルコポリマーで構成されている眼科装置。
【請求項25】
コンタクトレンズ又は眼内レンズである請求項24に記載の眼科装置。

【公表番号】特表2008−525615(P2008−525615A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549366(P2007−549366)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/041540
【国際公開番号】WO2006/071388
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(506076640)ボーシュ アンド ローム インコーポレイティド (99)
【Fターム(参考)】