説明

画像形成装置及び画像処理装置

【課題】露光装置に用いるレンズアレイに起因して生じる露光強度のムラを補償する技術を提供する。
【解決手段】本発明の画像形成装置は、第1のビット数で量子化された画像データに応じて複数の発光素子から発光した光をレンズアレイにおける対応するレンズで感光体に結像させることで、当該感光体を露光する露光ユニットを備える。画像形成装置は、露光ユニットによる露光の際に、画像データに対して、感光体に生じる露光強度のムラを補償するための補償用データを適用する。補償用データは、感光体に生じる露光ムラを測定した際の基準値に対する、当該測定によって得られた測定値の変化に対応するデータを、第1のビット数よりも大きい第2のビット数で量子化し、かつ、量子化後のデータをデルタシグマ変調処理によって第1のビット数で再量子化することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置及び画像処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機等の電子写真方式の画像形成装置において用いられる露光装置として、ライン状に配置した複数の発光素子と、ライン状に配置したレンズアレイから成る光学結像系とを備える露光装置が実用化されている。露光装置は、一般に、複数の発光素子の発光量を、画像信号に応じて段階的に制御するとともに、当該発光素子から発光した露光光を、レンズアレイにより感光体の表面に結像させることにより、当該感光体の表面を露光する。
【0003】
このような露光装置による露光によって感光体に形成された静電潜像には、画素間の発光量のばらつきやレンズの光学伝達特性等に起因して、露光ムラ(濃度ムラ)が起こり得る。この露光ムラを低減するため、例えば特許文献1では、露光ムラに応じて生成した補正用データを予め記憶装置に格納しておき、露光用の画像データに当該補正用データを適用することによって、各発光素子による発光量のゲインを調整している。
【0004】
露光装置に用いられるレンズアレイとしては、一般に、正立像がレンズ単体で得られ、かつ、レンズ間の均一性に依存して小型化が可能な屈折率分布型レンズが用いられる。屈折率分布型レンズは、入射光線をレンズ内で蛇行させて結像させる光学特性に起因して、入射瞳に加え、当該入射瞳内で作用する最大視野角に依存して、光の伝達が制限される。具体的には、屈折率分布型レンズは、像面照度がレンズ軸上からの距離に対して略逆二乗特性で急激に低下し、最大視野角の像面位置において照度がゼロとなる視野範囲を有する。このため、屈折率分布型レンズは、コサイン4乗特性で緩やかに光量が低下する通常のレンズと比較して、周辺光量の低下による光量変動幅が大きいという特徴を有している。
【0005】
このような屈折率分布型レンズを露光装置のレンズアレイに用いた場合、その周辺光量の低下に伴う光量変動幅の増大が露光ムラの主要因となり得る。さらに、この露光ムラの程度が大きい場合、露光装置による露光後の階調再現性が劣化し得る。露光装置の階調再現性は、発光素子の発光量に対応するデジタル値の量子化ステップ数によるダイナミックレンジから、露光ムラの補償量に対応するレンジを差し引いたダイナミックレンジによって規定される。発光素子の発光量に対応するデジタル値の量子化ステップ数は、一般に、生産コストや生産時のハードウェアの精度等を考慮して、8ビット程度に制限される。8ビット程度の量子化ビット数で、画像データの階調情報に対応したダイナミックレンジを確保するためには、露光ムラを事前に低減させておくことで、露光ムラの補償量に対応するレンジを低減する必要がある。
【0006】
屈折率分布型レンズにおける上述の周辺光量特性に依存して生じる露光ムラを低減する手法として、例えば、露光装置のレンズアレイとして複列のレンズアレイを用いる手法が知られている。図9では、露光装置のレンズアレイとして、単列のレンズアレイ901と複列のレンズアレイ902とをそれぞれ用いた場合の照度特性の違いについて示している。同図に示すようにレンズアレイを複列とすることによって、各レンズの結像面における視野範囲の重なり率を高められる。その結果、当該結像面における周辺光量の低下及び照度のムラが軽減され、露光ムラも低減されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−111823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の従来技術には、以下のような問題がある。露光装置に複列のレンズアレイを設けるためには、単列のレンズを使用する場合と比較してレンズの使用量が倍増するだけでなく、レンズの中心が光軸からずれた位置となることに起因して軸外収差等を確保することが困難となり得る。このため、限られた所定の量子化ビット数で露光強度を制御する露光装置において、露光強度のムラを低減するためにレンズアレイを複列のレンズアレイで構成すると、生産コストが増大してしまう問題がある。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、所定の量子化ビット数で露光強度を制御する露光装置において、レンズアレイの構成に依存せず、露光強度のムラを補償する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、例えば、画像形成装置として実現できる。画像形成装置は、像担持体を備え、像担持体に形成された静電潜像を現像剤で現像して記録材に転写することで、当該記録材に画像を形成する画像形成装置であって、第1のビット数で量子化された画像データに応じた光量で発光する、ライン状に配置した複数の発光素子と、ライン状に配置した複数のレンズから成るレンズアレイとを備え、複数の発光素子から発光した光をレンズアレイにおける対応するレンズで像担持体に結像させることで、像担持体を露光する露光手段と、露光手段が露光する際に像担持体に生じる露光強度の露光ムラを補償するための、画像データに対して適用すべき補償用データを格納した記憶手段と、記憶手段に格納された補償用データを画像データに適用することで、露光ムラを補償する補償手段と、を備え、補償用データは、像担持体に生じる露光ムラを測定した際の基準値に対する、当該測定によって得られた測定値の変化に対応するデータを、第1のビット数よりも大きい第2のビット数で量子化し、かつ、当該量子化されたデータを、デルタシグマ変調処理によって第1のビット数で再量子化したデータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所定の量子化ビット数で露光強度を制御する露光装置において、レンズアレイの構成に依存せず、露光強度のムラを補償する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係る、露光ムラの補償処理に関連する信号処理のブロック図である。
【図2】露光ムラの補償処理に関連する信号処理の概念を周波数スペクトルを用いて示す概念図である。
【図3】第1の実施形態に係る、露光ムラの補償処理に関する計算機シミュレーション結果を示す図である。
【図4】第1の実施形態に係る、露光ムラの補償処理に関する計算機シミュレーション結果を示す図である。
【図5】第2の実施形態に係る、露光ムラの補償処理に関連する信号処理のブロック図である。
【図6】第3の実施形態に係る、露光ムラの補償処理に関連する信号処理のブロック図である。
【図7】第4の実施形態に係る、露光ムラの補償処理に関連する信号処理のブロック図である。
【図8】露光装置のレンズアレイにおけるレンズピッチと視感度特性との関係を示す図である。
【図9】屈折率分布型レンズにおける視野範囲の重なり率と照度特性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0014】
[第1の実施形態]
まず、図1を参照して、露光ムラの補償処理に関連する信号処理について説明する。図1において、露光ユニット(露光装置)101は、補償値書込みユニット102に接続されている。本実施形態において、補償値書込みユニット102は、露光装置に接続され、かつ、当該露光装置が露光する際に露光対象である感光体117に生じる露光強度の露光ムラを補償するための補償値(補償用データ)を生成する画像処理装置を構成する。補償値書込みユニット102において生成された補償値は、最終的に露光ユニット101内の補償値メモリ104に書き込まれ、露光の際に画像データに対して適用される。
【0015】
本実施形態は、補償値書込みユニット102において、CCD128から出力された露光ムラの測定値に基づいて生成した補償値の再量子化に、デルタシグマ変調器119による2次のデルタシグマ変調処理を用いることを特徴としている。
を実現する。
【0016】
図1において、ブロック間の配線に付された数値は、当該配線を介して伝送されるデジタルデータの量子化ビット数(ビット幅)を示しており、当該配線を介して1クロックごとに伝送される情報量を示す。また、数値が付されていない配線では、アナログ量、又は任意の量子化ビット数のデジタル量のデータが伝送される。露光ユニット101は、補償器103、発光素子アレイ109、光学系114、及び画素カウンタ118を備える。
【0017】
(露光ユニット101)
露光ユニット101は、入力された画像信号に含まれる画像データに対して、後述するように補償器103で露光ムラの補償を行う。露光ユニット101は、露光ムラの補償後の画像データに基づいて、発光素子アレイ109の発光量を段階的に制御する。ここで段階的に制御するとは画像データに応じた発光量で発光させるということである。発光素子アレイ109は、ライン状に配置した複数の発光素子(発光デバイス)を備え、光学系114を介して露光対象である感光体117に対して発光する。露光ユニット101において、光学系114は、発光素子アレイ109に含まれる複数の発光素子から発光された入射光を、対応するレンズで感光体117上に結像させる結像光学系である。このように、露光ユニット101は、発光素子アレイ109と光学系114とによって、画像データに基づいて感光体117を露光する。
【0018】
補償器103は、露光ユニット101による露光時に、画素カウンタ118の出力タイミングに合わせて補償値メモリ104から、露光用の画像データに対する露光ムラの補償用データである補償値(8ビット)を順次読み出して、乗算器105に入力する。より具体的には、水平同期信号107が、水平同期信号発生器131で生成され、画素カウンタ118に入力される。すると、画素カウンタ118のカウント動作が開始され、現在の画像信号の画素位置に対応するカウント値が画素カウンタ118から補償値メモリ104に読み出しアドレスとして入力される。そして、補償値メモリ104は、入力された画素カウンタの値に応じた補償値104を順次読み出す。乗算器105は、画像信号106に含まれる画像データ(8ビット)に対して補償値メモリ104からの補償値を乗算することで、当該画像データに対する露光ムラの補償を行う。露光ムラの補償後の当該画像データは、次段の発光素子アレイ109に入力される。本実施形態では、画像データ及び当該画像データに対して最終的に適用される補償値は、何れも8ビットのデジタル値で表現され、これは第1のビット数に相当する。
【0019】
発光素子アレイ109に入力された、露光ムラの補償済みの画像データは、まず、発光素子アレイ109内のDAコンバータ(DAC)110に入力される。ここで、図1に示すように、本実施形態においてDAコンバータへの入力のビット数は8ビットであり、これは発光量制御の精度に依存している。DAコンバータ110には、前段の乗算器105におけるデジタル演算結果として得られる16ビットのうち、有効な上位8ビットのデータのみが入力される。DAコンバータ110は、発光制御量に対応するアナログ量のデータをサンプルホールド回路111に出力する。
【0020】
サンプルホールド回路111は、感光体117に対する露光走査における1ライン区間の発光量データに対応するアナログ量を保持する。また、ここでのサンプルホールド回路111はDAC110の出力に応じた、112に入力するパルス幅のデューティ比を制御できる。尚、サンプルホールド回路111で扱うアナログ量は、1ライン区間で各発光デバイスが発光するときに、積分光量を線形制御できる物理量であればよい。アナログ量としては、例えば、電圧、電流、電力等である。尚、積分光量とは、例えばパルス幅のデューティ制御による時間積分のことを指す。露光ユニット101は、このような物理量に対して発光量が局所的に非線形であっても、当該発光量に対してガンマ補正を施すことで線形変換を行えばよい。
【0021】
本実施形態において、発光素子アレイ109に含まれる発光デバイス(図示せず)は有機EL素子とし、当該発光素子に関する発光制御については、定電圧によるパルス幅点燈制御とした。かかる制御によれば、発光デバイスが電圧又は電流の物理量に対して非線形性な発光特性を有していても、点燈時における光量に対応する物理量を固定とすることで、入力すべきパルス幅のデューティ比を用いた線形制御が可能である。これにより、ガンマ補正のためのテーブル演算等を行う規模の大きい回路を露光ユニット101内に設けることなく、簡易な三角波パルス幅変調回路を用いて発光量の制御を実現できる。
【0022】
発光素子アレイ109では、サンプルホールド回路111からの出力に基づく光量で発光デバイスが感光体117に対して露光光を発光する。当該露光光は、ライン状に配置された複数のレンズから成るレンズアレイを備える光学系114を通過して感光体117に照射されることで、感光体117に結像される。このようにして、露光ユニット101は画像データに基づいて感光体117を露光して、感光体117上に当該画像データに基づく静電潜像を形成する。
【0023】
ここで、図1に示す発光系ノイズ113は、発光素子アレイ109において生じる発光素子固有の、画素ごとの発光効率のバラツキに対応する露光ムラ成分(ノイズ成分)を、乗算器112とともにモデル化して表示したものである。かかるノイズ成分は、発光素子アレイ109における発光量(のゲイン)に対して乗法的に重畳される。また、図1に示す光学系ノイズ116は、光学系114に含まれるレンズアレイ固有の伝達効率のムラに対応する露光ムラ成分(ノイズ成分)を、乗算器115とともにモデル化して表示したものである。かかるノイズ成分は、発光素子アレイ109における発光量に対して乗法的に重畳され、レンズアレイにおけるレンズピッチ(レンズ周期)に応じて周期的に表れる。なお、発光系ノイズ113及び光学系ノイズ116は、それぞれ第1の露光ムラ成分及び第2の露光ムラ成分に相当する。
【0024】
これらの発光素子アレイ109及び光学系114においてそれぞれ生じる露光ムラ成分(ノイズ成分)を低減するために、補償器103は、補償値書込みユニット102によって求められた補償値を画像データに対して適用する。ここで、発光素子アレイ109及び光学系114においてそれぞれ生じるノイズ成分を合成した、露光ユニット101において生じるノイズ成分を「露光系ノイズ」と称することとする。補償器103は、この露光系ノイズと補償値との積が1となるように(打ち消し合うように)、画像データ(発光量のゲイン)に対して補償値を乗算することで、露光ムラを補償する。その結果、露光ユニット101による露光によって感光体117上に形成される静電潜像には、補償器103における補償後に残留するノイズ成分が、露光強度の露光ムラとして表れる。
【0025】
本実施形態では、このような露光ムラの残留成分が、低周波数領域において低減されるように、露光ムラを補償するための補償値に対して、空間方向のデルタシグマ変調処理を適用することによって、所定の量子化ビット数で量子化する。具体的には、以下で説明する補償値書込みユニット102において、2次のデルタシグマ変調器を使用して、32ビットの量子化ビット数で量子化されている補償値を、8ビットの量子化ビット数の値に量子化(再量子化)する。この32ビットの量子化ビット数は、第2のビット数に相当する。尚、第1のビット数に対して8ビット、第2のビット数に対して32ビットの場合を例に説明を行うが、第1のビット数は第2のビット数よりも小さいことが要点であり、何れも特定のビット数に限定されない。
【0026】
(補償値書込みユニット102)
補償値書込みユニット102は、補償値生成器120及びデルタシグマ変調器119を用いて、露光ユニット101固有の露光ムラを補償するために、画像データに対して適用すべき補償値を算出する。更に、補償値書込みユニット102は、算出した補償値を露光ユニット101内の補償値メモリ104に書き込む。また書き込む際に、各補償値が、発光素子アレイの一端から何番目の発光素子(画素)に対応するかを対応づけて書き込む。なお、補償値メモリ104は、不揮発性の記憶装置である。本実施形態では、補償値の算出及び算出した補償値の書込みの処理は、製品出荷時に行われている場合を想定している。ただし、第4の実施形態で説明するように、当該処理は、製品の動作時に更新されてもよい。
【0027】
基準画像信号発生器130は、露光ユニット101が、露光の際の基準となる露光量(基準露光量)で発光するための画像データを発生させ、当該画像データを画像信号106として露光ユニット101へ送る(図1に示す除算器126で用いるnに対応)。基準露光量は、例えば、各画素について100%の露光量に相当する。この基準露光量は、CCD128における露光ムラの測定、及び補償値の生成における基準値となる。補償値を生成する際、露光ユニット101は、全ての発光素子を基準露光量で均一に発光させて、感光体117に光を照射する。感光体117上の結像位置に近接した位置には、CCD128が配置されている。CCD128は、感光体117からの反射光を検出して、検出したレベルに応じた信号をADコンバータ127に出力する。CCD128は、光学系114のレンズアレイに含まれる複数のレンズが配置された空間方向に沿って、感光体117に生じる露光強度の露光ムラを測定して、その測定値を出力する。なお、CCD128は、サンプルクロック発生器129からのクロックに合わせて当該信号を出力する。尚、サンプルクロック発生器129からのクロック出力は、水平同期信号発生器131からの水平同期信号107の入力をトリガーとする。サンプルクロック発生器129からのクロックは、ピクセルクロック発生器132のクロックを流用しても良い。
【0028】
補償値生成器120では、CCD128から出力された測定値に基づいて、露光ムラの補償のための補償値を生成する。当該補償値は、CCD128による測定における基準値に対する、当該測定によって得られた測定値の変化に対応するデータを、32ビット(第2のビット数)で量子化したデータ(量子化データ)として生成される。本実施形態では、当該量子化した補償値を、ADコンバータ127及び除算器126が生成する。ADコンバータ127は、CCD128からの測定値を、ピクセルクロック発生器132からのクロックを用いて、画素単位で32ビットのデジタル値に量子化し、得られた値を除算器126へ出力する。
【0029】
ピクセルクロック発生器132は、レンズアレイのレンズピッチに対応する周期に対して半分以下で、かつ、非整数倍の一定のサンプリング周期でサンプリングを行うための画素クロックを発生させる。即ち、ピクセルクロック発生器132は、空間方向における、レンズアレイに含まれる複数のレンズの中心間の各ピッチにおいて、少なくとも2回のサンプリングを行うための画素クロックを発生させる。ピクセルクロック発生器132は、発生させた画素クロックを、補償値生成器120及びデルタシグマ変調器119へ出力する。補償値生成器120は、ピクセルクロック発生器132から送られる画素クロックによる周期で、CCD128からの測定値をサンプリングした値を用いて、32ビットの補償値を生成する。また、デルタシグマ変調器119では、ピクセルクロック発生器132から送られる画素クロックによる周期で、デルタシグマ変調処理を実行する。
【0030】
ADコンバータ127によって画素単位で32ビットの精度のデジタル値に量子化された、露光ムラを含むデータを用いて、除算器126において露光ムラの補償値(量子化データ)が生成される。除算器126は、入力されたデジタルデータの逆数を算出することで、32ビットの量子化ビット数の補償値を得るとともに、得られた補償値をデルタシグマ変調器119に出力する。ここで、図1に示す除算器126の被除数nは、露光ムラの補償値の基準値であり、上述の基準露光値(100%)で露光するための発光量に相当する。このように、ADコンバータ127及び除算器126は、露光ムラの測定値と基準値との比を32ビットで量子化した補償値(量子化データ)を生成して、それをデルタシグマ変調器119に出力する。尚、本実施形態では、基準値に対する測定値の変化に対応するデータを、露光ムラの測定値と基準値との比として算出する場合について説明したが、当該データは他の方法により算出されてもよい。例えば、当該データは、基準値に対する測定値の差分を用いて算出されてもよい。即ち、補償値露光ムラを測定する際に基準とした基準値に対して、実際の測定値がどの程度変化しているかを示すデータを用いて、当該変化を補償するように、画像データに適用すべき補償値を生成すればよい。
【0031】
デルタシグマ変調器119に入力された32ビットのデジタルデータ(量子化データ)は、それぞれ32ビット幅を有する加算器133、離散積分器123、加算器134、及び離散積分器122を介して処理された後、再量子化器121に入力される。再量子化器121では、入力された32ビット(第2のビット数)のデジタルデータから、上位8ビットのみを抽出することで、当該デジタルデータを8ビット(第1のビット数)のデジタルデータに再量子化して出力する。再量子化器121からの出力データは、最終的な8ビットの補償用データとして補償値メモリ104に書き込まれるとともに、デルタシグマ変調器119内において、レジスタから成る遅延器124へフィードバックされる。1サンプル分遅延された8ビットのデジタルデータは、定数倍バッファ125へ入力される。定数倍バッファ125の定数mは、8ビットのデータを32ビットのデータに変換するための係数であり、本実施形態ではm=2(32-8)である。即ち、定数倍バッファ125は、32ビットのデータ幅に対して、8ビットのデータ幅を上位ビットから順に割り当てて、それよりも下位ビットをゼロで埋めたデータを出力する。
【0032】
定数倍バッファ125からの32ビットのフィードバック・データは、加算器133及び加算器134に対して与えられる。加算器134は、補償値生成器120から出力されたデータを、フィードバック・データで減算する。また、加算器133は、離散積分器123から出力されたデータを、当該フィードバック・データで減算する。デルタシグマ変調器119は、このような処理を行うことにより、z領域表現で、信号伝達関数が1となり、量子化ノイズの伝達関数が(1−z-12となる回路構成を実現している。
【0033】
デルタシグマ変調器119における量子化ノイズの伝達関数(1−z-12に対応する周波数特性は、(2sin(πf))4である。即ち、デルタシグマ変調器119は、周波数が低いほど量子化ノイズを低減するため、量子化ノイズに対してハイパスフィルタとして機能する。さらに、デルタシグマ変調器119は、図2を用いて後述するように、比較的低い空間周波数、即ち、レンズアレイに含まれる複数のレンズのピッチに対応する空間周波数の露光ムラを低減する周波数特性を有する。上述のような回路構成を有するデルタシグマ変調器119によって変調された(再量子化された)、8ビットの補償値において、低周波数領域におけるノイズが低減され、かつ、人間の目につきやすい空間周波数における露光ムラのレベルが低減される。その結果、補償値書込みユニット102において生成された補償値を、露光ユニット101が露光用の画像データに適用することで、露光ムラの補償精度が向上することになる。
【0034】
図2は、上述した露光ムラの補償処理に関連する信号処理の概念を周波数スペクトルを用いて示す概念図であり、図2の201は、比較例として示す信号処理プロセスに対応し、図2の211は、本実施形態における信号処理プロセスに対応する。当該比較例は、露光ムラの補償処理において、本実施形態のようにデルタシグマ変調を用いて補償値の量子化を行うことはなく、所定の量子化ビット数(例えば、8ビット)で通常の量子化を行う場合を示している。即ち、当該比較例では、除算器126で得られる、露光ムラを含む発光量データの逆数を、補償器103においてそのまま補償値として使用する。
【0035】
図2に示すように、比較例と本実施形態との何れの場合においても、露光用に露光ユニット101に入力された画像データ205、215に対して、補償器103において補償値206、216が乗算される。その結果得られた値(発光量のゲイン)を用いて感光体117に対して露光する際に、その露光量に対して、発光素子アレイ109及び光学系114において上述のように露光ムラ207、217がノイズ成分として乗法的に付加される。最終的な補償後の露光量208、218は、図2に示すように、これらの積としてモデル化され得る。
【0036】
図2では、上記の各ブロックの上部には、空間周波数を横軸として、各信号の周波数スペクトルを概念的に示している。図2の各周波数スペクトルにおいて、202は、露光ユニット101における露光の際に生じる露光ムラの許容レベルを表したものであり、図8に示す視感度特性の逆数をグラフ化したものである。これは、露光ムラの許容レベルに相当する強度を基準値として示したものである。また、図2の201及び211では、光学系114のレンズアレイのレンズピッチに対応する比較的低い空間周波数の露光ムラが生じる場合を示している。
【0037】
図2の比較例(201)では、上述のようにして生成される補償値に対する量子化を行っているため、当該補償値にはその量子化誤差に起因した量子化ノイズ203が生じる。この量子化は空間方向における各画素のデータについて独立に行われるため、量子化ノイズは白色ノイズとなる。この為、量子化ノイズ203は、その周波数特性として、周波数方向においてフラットな強度の伝達関数を有する。この比較例において生成された補償値を用いた露光ムラの補償処理によれば、低減可能な露光ムラの限度は、量子化ステップ数に依存した量子化ノイズによって規定される。従って、量子化ビット数が少なく、図2の201に示すように、量子化ノイズのレベルが比較的高い場合、補償後の露光量に残留する露光ムラを、許容レベル以下に低減することができない場合が起こり得る。
【0038】
これに対して、本実施形態(211)では、測定した露光ムラ成分から(大きい量子化ビット数の)補償値を生成し、当該補償値を再量子化して最終的な補償値を生成する処理に、デルタシグマ変調を用いる。例えば、32ビットのビット数で生成した補償値に対して、デルタシグマ変調を施して、8ビットに量子化して、最終的な補償値を生成する。デルタシグマ変調を用いた量子化は、空間方向における各画素のデータについて一体として処理されるため、量子化誤差に起因した量子化ノイズは、図2の213に示すようにシェーピングされる。即ち、量子化ノイズ213の周波数特性は、低周波数領域におけるノイズレベルが低く抑えられ、そのノイズ成分が高周波数領域に押しやられた特性となる。
【0039】
図2の219は、デルタシグマ変調が施された補償値を用いて露光ムラの補償を行った場合、補償後の量子化ノイズ213のスペクトルは、露光ムラの存在する空間周波数において、そのレベルを許容レベル以下に低減することを示している。同様に、デルタシグマ変調によるノイズシェーピングによって、露光ムラが存在する低い空間周波数において、そのレベルが許容レベル212よりも低いレベルに低減され、基準値に対して十分なマージンが生じている。即ち、当該露光ムラは人間の目にはつきにくいレベルにまで低減されている。
【0040】
次に、本実施形態の有効性を確認するために行った計算機シミュレーションの結果について、図3及び図4を用いて説明する。図3は、露光ムラの補償後に残留する露光ムラの周波数スペクトルを示しており、(a)は上述の比較例(デルタシグマ変調を使用しない例)に対応し、(b)は、本実施形態のようにデルタシグマ変調を使用して補償値を生成する場合に対応する。図3において、横軸は光学系114のレンズピッチ(0.5mm)に対応する空間周波数で正規化した空間周波数であり、縦軸は露光ムラの2乗振幅(電力)を表している。図4は、計算機シミュレーションにより得られた、空間位置と露光強度及び補償値との関係を示す。図4の横軸は、光学系114のレンズピッチ(0.5mm)で正規化した空間位置を表す。また、図4において、グラフ410の縦軸は、基準画像の画素値を100%として、当該画素値で露光した場合の露光強度で正規化した露光強度を、グラフ420の縦軸は、補償値をそれぞれ表している。
【0041】
図4の401は、露光ムラの補償を行わない場合の露光強度を示しており、当該露光強度には空間位置に応じた露光ムラが生じていることがわかる。これに対して、402に示す、本実施形態に係る補償値の生成処理によって生成された補償値を適用して露光ムラの補償を行うと、403に示す露光強度となる。このように、本実施形態に係る処理により生成された補償値を用いて露光ムラの補償を行うことによって、露光強度は空間位置に依存せず一定となり、露光ムラが低減されることがわかる。
【0042】
次に、図3の302は、図2の202、212と同様、図8に示す視感度特性の逆数をグラフ化したものであり、露光ムラの許容レベルに相当する電力を基準値として示したものである。基準値302と比較して露光ムラの電力が小さければ小さいほど、当該基準値に対するマージンが大きいことを表す。このマージンが小さいほど、補償処理後に残留する露光ムラが人間の目につきやすい特性を有することになる。
【0043】
図3(a)に示すように、上記の比較例による補償値の生成処理で生成された補償値を適用した場合には、レンズピッチに対応する空間周波数(=1)と、(その整数倍の空間周波数の)高調波成分とに、露光ムラが残留することがわかる。特に、301に示すように、レンズピッチに対応する空間周波数に、当該レンズピッチに依存した露光ムラ成分が残留し、基準値302に対する当該露光ムラ成分のマージンがほとんどないことがわかる。
【0044】
一方で、図3(b)に示すように、本実施形態に係る補償値の生成処理で生成された補償値を適用した場合、レンズピッチに対応する空間周波数(=1)の露光ムラ成分とその高調波成分が、図3(a)の場合と比較して、大幅に低減されていることがわかる。また、この露光ムラ成分は、303に示すように、高い空間周波数の領域へ押しやられていることがわかる。これは、本実施形態で用いたデルタシグマ変調によるノイズシェーピング機能に起因している。その結果、レンズアレイの単列化に関連して比較的低い空間周波数となり得る、レンズピッチに対応する空間周波数において生じる露光ムラを、許容レベルに対して十分なマージンが得られるように、低減することが可能である。
【0045】
以上説明したように、本実施形態では、露光ムラを補償するための補償値を生成する際、CCD128から出力された露光ムラの測定値に基づいて生成した補償値の再量子化に、デルタシグマ変調器119による2次のデルタシグマ変調処理を用いる。本実施形態によれば、所定の量子化ビット数で露光強度を制御する露光装置において、露光装置に用いるレンズアレイの構成に依存せず、露光強度のムラを補償することが可能になる。特に、人間の目の視感度特性におけるピークに対応する空間周波数の近傍において、露光装置に用いるレンズアレイに起因して生じる露光強度のムラを十分に低減することが可能になる。
【0046】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、露光ムラの原因となるノイズ成分として、発光素子アレイ109で生じる発光系ノイズと、光学系114で生じる光学系ノイズとが合成されたノイズに基づいて生成された補償値に対して、デルタシグマ変調を施している。これに対して、第2の実施形態では、光学系114で生じる光学系ノイズに基づいて生成された補償値に対してのみ、デルタシグマ変調を施すことを特徴としている。
【0047】
具体的には、画像データに基づいて発光素子アレイ109から発光する際、発光系ノイズ(第1の露光ムラ成分)と光学系ノイズ(第2の露光ムラ成分)とを別々に検出する。また、検出した発光系ノイズに基づいて生成した補償値(第2の量子化データ)に対してのみデルタシグマ変調を施す。一方で、検出した光学系ノイズに基づいて生成した補償値(第1の量子化データ)に対しては、デルタシグマ変調は施さない。さらに、それらの補償値を用いた露光ムラの補償を画像データに別々に適用して、発光量ゲインを調整する。このような処理によって、光学系ノイズによる露光ムラの補償精度をさらに向上させる。
【0048】
以下では、図5を参照して、第2の実施形態における露光ムラの補償処理に関連する信号処理について説明する。なお、説明の簡略化するため、第1の実施形態における構成(図1)と共通する部分については、同一の参照番号を付し、その説明を省略する。なお、図5において、露光ユニット(露光装置)501は、補償値書込みユニット502及び補償値生成器520に接続されている。本実施形態において、補償値書込みユニット502及び補償値生成器520は、露光装置に接続され、かつ、当該露光装置が露光する際に露光対象である感光体117に生じる露光強度の露光ムラを補償するための補償値(補償用データ)を生成する画像処理装置を構成する。
【0049】
本実施形態で、露光ユニット501は、発光素子アレイ109から発光した光をCCD528で検出可能なように構成されている。これにより、発光素子アレイ109のみに起因する、画素間のばらつきに相当する発光系ノイズを、CCD528を用いて測定可能である。CCD528は、露光ムラの測定値として、発光系ノイズ(第1の露光ムラ成分)についての測定値(第1の測定値)を出力する。補償値生成器520は、基準信号発生器531で発生させたクロックに合わせて画素単位で、発光素子アレイ109において生じる発光系ノイズ113による露光ムラを補償するための32ビットの補償値(第1の量子化データ)を当該測定値に基づいて算出する。補償値生成器520は、算出した補償値を、32ビットから8ビットに低減した補償値(第1の補償用データ)を、露光ユニット501内に設けられた補償値メモリ504へ書き込む。
【0050】
単体光学系514は、光学系114を露光ユニット501に組み込まない状態の単体の光学系である。光学系114において生じる光学系ノイズ116を、発光系ノイズ113とは独立に測定するため、本実施形態では、均一光源517からの像を、補償値書込みユニット502のCCD128で測定する。CCD128は、露光ムラの測定値として、光学系ノイズ(第2の露光ムラ成分)についての測定値(第2の測定値)を出力する。補償値生成器120は、CCD128で測定された光学系ノイズに基づいて、当該光学系ノイズによる露光ムラを補償するための32ビットの補償値(第2の量子化データ)を、第1の実施形態と同様の手順で生成する。さらに、生成された補償値に対して、デルタシグマ変調器119が、デルタシグマ変調処理(再量子化)を行って、最終的な8ビットの補償値(第2の補償用データ)を生成して、生成したデータを補償値メモリ104へ書き込む。
【0051】
補償器103は、入力された露光用の画像データに対して、2項乗算器505において露光ムラの補償値を適用する。具体的には、補償値メモリ104、504にそれぞれ格納された補償値を、画像データに対して別々に適用(乗算)して発光量ゲインを調整することによって、露光ムラを補償する。このように、本実施形態では、補償値生成器520及び補償値生成器120で生成した補償値を、補償器103で別々に画像データに対して適用している。しかしながら、第3の実施形態で説明するように、補償値生成器520及び補償値生成器120で生成した補償値については、例えば補償値書込みユニット502で予め合成して、合成後の補償値を補償値メモリ104に書き込んでもよい。
【0052】
本実施形態では、発光素子アレイにおいて画素間の発光量のばらつきによって生じる露光ムラに対する補償値を、デルタシグマ変調を適用することなく生成する。その一方で、光学系のレンズピッチに応じて生じる露光ムラに対する補償値については、第1の実施形態と同様、デルタシグマ変調を適用する。これにより、光学系に起因した露光ムラを低減し、許容レベルに対するマージンを大きくすることが可能になる一方で、発光素子アレイで生じる画素間の発光量のばらつきに起因した露光ムラにも適切に対処できるため、露光ムラの補償精度がさらに向上する。
【0053】
[第3の実施形態]
第1及び第2の実施形態では、デルタシグマ変調器として、2次のデルタシグマ変調処理を行う変調器を用いている。第3の実施形態では、露光ムラの補償精度のさらなる向上のために、デルタシグマ変調器として、4次のデルタシグマ変調処理を行う変調器を用いる。さらに、当該変調処理によって生じる信号遅延を補正する処理を行うことで、発光系ノイズと光学系ノイズとのそれぞれに対応した補償値間で、空間方向に位相のずれが生じることを防止する。
【0054】
以下では、図6を参照して、第3の実施形態における露光ムラの補償処理に関連する信号処理について説明する。説明の簡略化するため、第1及び第2実施形態における構成(図1及び図5)と共通する部分については、同一の参照番号を付し、その説明を省略する。なお、第2の実施形態と同様に、本実施形態においても、発光系ノイズと光学系ノイズとを独立に測定して、それぞれに対応する補償値を生成する。ただし、図6では、まず、1パス目で発光系ノイズによる露光ムラの測定を行った後に、光学系114を組み込んだ状態で、2パス目の光学系ノイズによる露光ムラの測定を行う例について示している。なお、図6において、600に含まれる構成は、画像処理装置の構成に相当する。
【0055】
図6では、補償値生成器520で生成された、発光系ノイズによる露光ムラに対する補償値と、補償値生成器120及びデルタシグマ変調器619で生成された光学系による露光ムラに対する補償値とが合成されて、補償値メモリ104に書き込まれる。具体的には、それぞれ生成された補償値は、乗算器605で乗算されて合成される。
【0056】
本実施形態では、補償値書込みユニット602は、4次のデルタシグマ変調器619を備え、補償値の再量子化によって生じる量子化ノイズ621に対して、4次の伝達関数623を適用する。これにより、量子化ノイズ621を低減するとともに、併せて、光学系114で生じる光学系ノイズを当該伝達関数により低減することによって、再量子化後の補償値の精度を向上させる。なお、図6では、量子化ノイズ621及び伝達関数623をモデル表示している。
【0057】
発光系ノイズによる露光ムラに対する補償値を生成する補償値生成器520からの32ビットの出力は、補償値メモリ604に一時的に格納された後、量子化分離器625へ送られる。量子化分離器625は、2パス目の光学系ノイズによる露光ムラの測定に際し、補償値メモリ604からの補償値の上位8ビットを抽出し、乗算器634へ送る。乗算器634において、当該8ビットの値が基準発光量データに乗算されることで、発光系ノイズが補償された発光量データが生成される。この発光量データに基づいて発光素子アレイ109で発光して、2パス目の光学系ノイズによる露光ムラの測定を行う。また、量子化分離器625は、補償値メモリ604からのデータの上位8ビットを1に変更し、上記のように打ち切った下位24ビットと合わせた32ビットの量子化誤差補償用データを生成する。さらに、量子化分離器625は、乗算器635によって、生成したデータと、光学系ノイズの測定値とを乗算することによって、発光系ノイズに対する補償値に含まれた量子化誤差をキャンセルする。
【0058】
補償値生成器120で生成された、光学系ノイズに対する補償値は、デルタシグマ変調器619へ入力され、4次のデルタシグマ変調処理が施される。ここで、622は、信号伝達関数を表し、4次のデルタシグマ変調器619を安定して動作させるために必要な遅延量を補償値の信号に与える。デルタシグマ変調器619において再量子化された補償値は、乗算器605に送られる。
【0059】
一方で、量子化分離器625は、補償値メモリ604からの補償値における上位8ビットを抽出して、それを遅延調整レジスタ624へ送る。遅延調整レジスタ624は、当該レジスタ内の補償値が、補償値書込みユニット602のデルタシグマ変調器619からの補償値と、空間的な位相を合わせて乗算器605で乗算されるタイミングで、データを出力する。最終的に、乗算器605における乗算後のデータが、補償値メモリ104に書き込まれ、上述の実施形態と同様、露光ムラの補償処理に用いられる。
【0060】
本実施形態によれば、遅延調整レジスタ624において、発光系ノイズに対する補償値の出力タイミングを調整することで、当該補償値と、4次のデルタシグマ変調が施された光学系ノイズに対する補償値との空間方向における位相を調整することが可能になる。その結果、両ノイズの空間方向の位相のずれが生じることを防止しつつ、4次のデルタシグマ変調により光学系ノイズによってさらに露光ムラを低減し、露光ムラの補償精度をさらに高めることが可能になる。
【0061】
[第4の実施形態]
第1乃至第3の実施形態では、露光ユニット(露光装置)による露光の際に生じる露光ムラに対する補償値を、デルタシグマ変調器を適用して生成し、それを露光ユニット内のメモリ(補償値メモリ104、504)に書き込む補償値書込みユニットを備える画像処理装置について説明した。また、これらの実施形態では、基本的に、製品の出荷時に、露光ユニットに適した補償値を生成して、露光ユニット内のメモリに予め書き込んでおく場合を想定していた。第4の実施形態では、実際に当該露光ユニットを画像形成装置本体に設けた場合に、その動作の開始後、露光ユニット内の発光素子アレイによる発光特性の変化に追従するように、補償値を更新する形態について説明する。
【0062】
以下では、図7を参照して、第4の実施形態に係る画像形成装置における露光ムラの補償処理に関連する信号処理について説明する。なお、説明の簡略化するため、第1の実施形態に示した構成(図1)と共通する部分については、同一の参照番号を付し、その説明を省略する。なお、図6において、703に含まれる構成は、画像処理装置の構成に相当する。
【0063】
画像形成装置700は、露光ユニット(露光装置)101と、画像処理装置703と、感光体(像担持体)117とを備える。露光ユニット101は、第1の実施形態と同様、内部に補償器103、発光素子アレイ109、及び光学系114を備える。また、画像形成装置700は、発光素子アレイ109による露光ムラを検出及び測定するためのCCD128を備えた補償値生成器120を備える。CCD128は、発光素子アレイ109から発光した光が感光体117上に照射された後に、その反射光を検出する。画像形成装置700は、露光ユニット101を用いて画像データに応じて感光体117を露光することで、感光体117に静電潜像を形成する。さらに、画像形成装置700は、当該静電潜像を、単色又は多色の現像剤(トナー)で現像して記録材(用紙)に転写することで、当該記録材に画像形成を行う。
【0064】
画像形成装置700は、露光ムラの測定値から補償値生成器120によって生成された補償値に対してデルタシグマ変調処理を施すデルタシグマ変調器119をさらに備える。また、補償値メモリ701には、光学系114における光学系ノイズによる露光ムラの測定値が、予め格納されている。補償値レジスタ704は、プリント(画像形成)の開始前に測定された、発光素子アレイ109の露光ムラに対する補償値が格納されている。実際のプリントを開始する際には、補償値レジスタ704内の補償値が読み出され、乗算器702に送られる。
【0065】
乗算器702は、補償値メモリ701からの光学系ノイズに対する補償値と、補償値レジスタ704からの光学系ノイズに対する補償値とを乗算し、乗算結果をデルタシグマ変調器119に出力する。デルタシグマ変調器119に対する入力は32ビットのデータであり、デルタシグマ変調器119は当該データに対してデルタシグマ変調を施して、8ビットに再量子化するとともに、露光ムラの補償精度を、上述の実施形態と同様、向上させる。
【0066】
本実施形態によれば、画像形成装置は、発光素子アレイ109において生じる露光ムラに対する補償値を、プリント前に生成しておき、実際のプリントを開始する際に、光学系114において生じる露光ムラに対する補償値と合成する。さらに、画像形成装置は、プリント時には、合成後の最新の補償値に基づいて、露光ムラの補償処理を行って、感光体117に対する露光を行う。これにより、発光素子アレイ109による発光量の時間的な変化にも追従して、露光ムラの補償処理を行うことが可能になる。
【0067】
なお、スキャナユニットを備えた画像形成装置の場合には、所定のパターンをプリントされた記録材を当該スキャナユニットで読み取って得たデータに基づいて、上述の露光ムラに対する補償値の生成を行ってもよい。
【0068】
[その他の実施形態]
第4の実施形態では、画像形成装置700が、露光ユニット101と感光体117と画像処理装置703とを備え、露光ユニット101内の不揮発性の記憶装置(補償値メモリ104)の補償値を、露光ムラの測定値に応じて更新する場合について説明した。しかし、本発明は、画像形成装置700が画像処理装置703を備えない場合にも適用できる。
【0069】
この場合、画像形成装置700は、補償値メモリ104内に予め書き込まれた補償値を更新しない。また、補償器103は、補償値メモリ104に格納された、固定の補償値を読み出して画像データに適用することによって、露光ムラを補償する。尚、図7では、補償値が格納された補償値メモリ104が露光ユニット101に設けられた場合を示しているが、補償値メモリ104は、露光ユニット101以外の、画像形成装置700内の何れかの部分に設けられていてもよい。
【0070】
画像形成装置700は、補償器103で補償値による補償処理を適用した画像データを用いて、露光ユニット101により感光体117を露光する。さらに、画像形成装置700は、感光体117に形成された静電潜像をトナーで現像して、用紙に転写することで、用紙に画像を形成する。なお、補償値メモリ104に予め格納される補償値は、上述の第1乃至第3の実施形態で説明した画像処理装置において実行される処理と同様の処理に従って、生成することができる。このような画像形成装置においても、上述の実施形態と同様、所定の量子化ビット数で露光強度を制御する露光装置で露光する際に、露光装置に用いるレンズアレイの構成に依存せず、露光強度のムラを補償することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体を備え、前記像担持体に形成された静電潜像を現像剤で現像して記録材に転写することで、当該記録材に画像を形成する画像形成装置であって、
第1のビット数で量子化された画像データに応じた光量で発光する、ライン状に配置した複数の発光素子と、ライン状に配置した複数のレンズから成るレンズアレイとを備え、前記複数の発光素子から発光した光を前記レンズアレイにおける対応するレンズで前記像担持体に結像させることで、前記像担持体を露光する露光手段と、
前記露光手段が露光する際に前記像担持体に生じる露光強度の露光ムラを補償するための、前記画像データに対して適用すべき補償用データを格納した記憶手段と、
前記記憶手段に格納された前記補償用データを前記画像データに適用することで、前記露光ムラを補償する補償手段と、
を備え、
前記補償用データは、
前記像担持体に生じる前記露光ムラを測定した際の基準値に対する、当該測定によって得られた測定値の変化に対応するデータを、前記第1のビット数よりも大きい第2のビット数で量子化し、かつ、当該量子化されたデータを、デルタシグマ変調処理によって前記第1のビット数で再量子化したデータであること
を特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
第1のビット数で量子化された画像データに応じた光量で発光する、ライン状に配置した複数の発光素子と、ライン状に配置した複数のレンズから成るレンズアレイとを備え、前記複数の発光素子から発光した光を前記レンズアレイにおける対応するレンズで露光対象に結像させることで、当該露光対象を露光する露光装置に接続され、かつ、前記露光装置が露光する際に前記露光対象に生じる露光強度の露光ムラを補償するために前記画像データに対して適用すべき補償用データを生成する画像処理装置であって、
前記露光装置によって露光された前記露光対象に生じる露光ムラを測定する測定手段と、
前記測定手段による測定における基準値に対する、当該測定によって得られた測定値の変化に対応するデータを、前記第1のビット数よりも大きい第2のビット数で量子化した量子化データを生成する生成手段と、
前記生成手段によって生成された前記第2のビット数の前記量子化データに対してデルタシグマ変調処理を適用して、前記第1のビット数で再量子化した前記補償用データを出力する変調手段と
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
前記測定手段は、前記レンズアレイに含まれる前記複数のレンズが配置された空間方向に沿って、前記露光対象に生じる露光ムラを測定し、
前記生成手段は、前記測定手段によって得られた測定値を、前記空間方向に沿って所定の周期でサンプリングした値を用いて、前記第2のビット数の前記量子化データを生成し、
前記変調手段は、前記所定の周期で、前記第2のビット数の前記量子化データに対してデルタシグマ変調処理を適用して、前記第1のビット数の前記補償用データを出力し、
前記所定の周期は、前記空間方向における前記複数のレンズの中心間のそれぞれのピッチにおいて少なくとも2回のサンプリングを前記生成手段が行うように、定められた周期であること
を特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記変調手段は、
前記生成手段によって生成された前記量子化データを前記第2のビット数から前記第1のビット数へ再量子化する際に生じる量子化ノイズについて周波数が低いほど当該量子化ノイズを低減し、かつ、前記レンズアレイについての前記ピッチに対応する空間周波数の露光ムラを低減する周波数特性を有することを特徴とする請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記測定手段は、前記露光装置によって露光された前記露光対象に生じる露光ムラの測定値として、前記複数の発光素子に起因した第1の露光ムラ成分についての第1の測定値と、前記レンズアレイに起因した第2の露光ムラ成分についての第2の測定値とをそれぞれ出力し、
前記生成手段は、前記第1の測定値に基づいて、前記第1の露光ムラ成分に対する前記第2のビット数の第1の量子化データを生成するとともに、前記第2の測定値に基づいて、前記第2の露光ムラ成分に対する前記第2のビット数の第2の量子化データを生成し、
前記変調手段は、前記第2のビット数の前記第2の量子化データに対して前記デルタシグマ変調処理を適用して、前記第1のビット数で再量子化した第2の補償用データを出力し、
前記画像処理装置は、
前記第1の量子化データの量子化ビット数を前記第2のビット数から前記第1のビット数に低減して得た第1の補償用データと、前記変調手段によって出力された前記第1のビット数の前記第2の補償用データとを合成して、前記第1のビット数の前記補償用データを出力する合成手段をさらに備えることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記変調手段は、前記第2の量子化データに対して4次のデルタシグマ変調処理を適用して、前記第1のビット数で再量子化した前記第2の補償用データを出力し、
前記合成手段は、
前記4次のデルタシグマ変調処理に伴う遅延を補償するように、前記第1の補償用データと前記第2の補償用データとの空間方向の位相を合わせて合成すること
を特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
画像形成装置であって、
請求項2乃至6の何れか1項に記載の画像処理装置と、
前記画像処理装置に接続された露光装置と、
前記露光装置による露光対象としての像担持体とを備え、
前記露光装置が前記画像データに応じて前記像担持体を露光することで前記像担持体に形成された静電潜像を、現像剤で現像して記録材に転写することで当該記録材に画像形成を行い、
前記画像処理装置は、前記記録材への画像形成を開始する際に、前記画像データに対して適用すべき前記補償用データを生成し、
前記露光装置は、前記画像処理装置によって生成された前記補償用データを前記画像データに適用することで、前記像担持体に生じる露光ムラを補償することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−133224(P2012−133224A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286645(P2010−286645)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】