説明

画像形成装置用軸受部材

【課題】 支持すべき軸の回転精度を高めて異音の発生を抑制した画像形成装置用軸受部材を提供する。
【解決手段】 電鋳加工で形成される電鋳部3をインサート部品として軸受部材2の樹脂部4を射出成形し、かつ電鋳部3の内周面3aでピックアップローラ34の軸34aを回転自在に支持するための軸受面を構成した。同様に、電鋳加工で形成される電鋳部13をインサート部品として軸受部材12の樹脂部14を射出成形し、かつ電鋳部13の内周面13aで分離ローラ35の軸35aを回転自在に支持するための軸受面を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば複写機(デジタルPPC、カラーPPC等)、プリンタ(カラーLBP、カラーLED、インクジェットプリンタ等)、ファクシミリ、あるいはこれらの複合機等の画像形成装置に装備されるロール状回転体を支持する軸受部材に関する。
【背景技術】
【0002】
上記画像形成装置には、例えば露光によりその外周面に静電潜像を形成する感光ドラムや、感光ドラムに電気的作用で現像剤を付着させ、かかる静電潜像を現像する現像装置のローラ(現像ローラ)、現像した画像をシートに転写するための転写ローラ、および転写された画像を出力紙に定着させる定着ローラ等の他、給紙カセット等のシート収容部に収容されたシートをピックアップするピックアップローラや、ピックアップされたシートを感光ドラムや転写ローラの回転にタイミングを合わせて両部材間に供給するレジストローラ等、多数のロール状回転体が装備される。
【0003】
これらロール状回転体は、画像形成装置本体の側(固定側)に装着された軸受部材によって回転自在に支持されると共に、他の駆動軸と動力伝達手段(ギアなど)を介して連結され、駆動軸の駆動回転に伴って回転するように構成される場合が多い(例えば、特許文献1を参照)。この際、使用される軸受としては、例えば滑り軸受が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開平8−123194号公報
【特許文献2】特開平7−125860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、使用環境の改善やユーザーの使用満足度等を反映して、上記画像形成装置の静音化に対する要求が高まっている。この要求を受けて、画像形成装置の各構成部品、例えばシートの給排紙プロセスに関与するロール状回転体を支持する軸受にも、使用時の振動を抑える観点から、高い回転精度が要求される。
【0005】
しかしながら、従来の軸受(例えば滑り軸受など)では、軸受面となる内周面の高精度加工が困難であることから今以上に回転精度を向上させることは難しい。また、現状の軸受面精度を考慮すると、軸受隙間を設計の段階で大きく取らざるを得ない。これでは、ロール状回転体の回転時、ロール状回転体の回転軸が軸受部材との間で軸振れを生じ、駆動軸との軸間距離が一定しない。そのため、例えば両軸を連結するギアの噛み合わせが悪化し、ギアの鳴きなど異音を生じる可能性がある。
【0006】
また、シートの給排紙プロセスに関与するロール状回転体は、普通紙や厚紙などを接触搬送することも多く、その場合にはどうしても紙粉等の発生が避けられない。そのため、軸受隙間の大きさによっては、紙粉が軸受隙間に入り込み、軸受面の摩耗を引き起こす可能性がある。この種の摩耗は回転精度の低下を招く恐れがあり好ましくない。
【0007】
本発明の課題は、支持すべき軸の回転精度を高めて異音の発生を抑制した画像形成装置用軸受部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、シート収容部からピックアップしたシートを画像形成部に供給するシートの給紙プロセス、あるいは画像形成部により表面に画像を形成したシートを排紙するシートの排紙プロセスに関与するロール状回転体を支持するものであって、電鋳加工で形成した電鋳部の内周面で、ロール状回転体を支持するための軸受面を構成したことを特徴とする画像形成装置用軸受部材を提供する。
【0009】
上述のように、本発明は、軸受部材の、ロール状回転体を支持するための軸受面を、電鋳加工で形成した電鋳部の内周面で構成したことを特徴とするものである。ここで電鋳加工は、マスター表面に金属イオンを電着(電解析出)させて金属層を形成する技術であり、電鋳加工の特性上、電鋳部の内面にマスターの表面形状が非常に微細なレベルまで高精度に転写される。そのため、マスターの表面精度を高め、かつ電鋳部の内周面を軸受面として使用すれば、特段の後加工を施すことなく、高い面精度を有する軸受面を低コストに得ることができ、これにより、支持すべきロール状回転体との間で高い回転精度を得ることができる。従って、ロール状回転体とこれを支持する軸受部材との間で振動を低減し、異音の発生を抑制することができる。また、ロール状回転体の回転軸がギアを介して駆動軸と連結される場合には、駆動軸との間の軸間距離が一定に保たれ、両軸間で良好なギアの噛み合い状態が得られるので、かかるギアの鳴きが低減される。
【0010】
また、上記構成によれば、予めロール状回転体の外周面との間の隙間(軸受隙間)が小さくなるように、軸受部材(軸受面)の内径寸法を設定することができるので、シートとの摺動摩擦に伴い発生する紙粉が軸受隙間に入り込むのを可及的に回避することができる。従って、紙粉の混入に伴う軸受面の摩耗を抑えて、上記ロール状回転体による給排紙を長期に亘って円滑に行うことができる。
【0011】
電鋳部の内周面で構成される軸受面と、これに対向するロール状回転体の外周面との間の直径隙間は5μm以下であることが好ましく、2μm以下であればより好ましい。本発明に係る電鋳加工であれば、軸受面となる電鋳部の内周面を高精度に仕上げることができるので、上記直径隙間が5μm以下であっても高い回転精度を得ることができる。また、直径隙間(軸受隙間)が上記範囲内であれば、シートとロール状回転体との摺動摩擦により発生する紙粉などが直径隙間に侵入するのを確実に防止することができる。
【0012】
上記構成の軸受部材は、シートの給排紙プロセスに係るローラ用の軸受として使用でき、ロール状回転体が、例えばシート収容部からシートをピックアップするピックアップローラである場合に、ピックアップローラ用の軸受部材として好適に使用することができる。
【0013】
また、ロール状回転体が、例えば画像形成部によりシート上に形成される画像の位置決めを行うためのレジストローラである場合には、上記軸受部材を、レジストローラ用の軸受部材として好適に使用することができる。
【0014】
以上説明した画像形成装置用軸受部材は、この軸受部材およびロール状回転体を備えた画像形成装置用軸受ユニットとして好適に使用可能である。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、支持すべき軸の回転精度を高めて異音の発生を抑制した画像形成装置用軸受部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の画像形成プロセスおよびシートの給排紙プロセスを概念的に示す図である。同図において、20はレーザ露光式4連タンデムの画像形成部を示し、例えばレーザプリンタ等の画像形成装置に組込まれて使用される。この画像形成部20は、複数(4つ)の感光ドラム21と、各感光ドラム21の周囲に配置される複数の現像装置22と、現像装置22よりも下流側に配置される転写電極23、および定着部24とを主に備えている。また、同図において、25は画像形成部20にシート26を供給する給紙部を、27は画像形成部20により表面に画像を形成したシート26を装置外部に排出する排紙部をそれぞれ示す。
【0018】
まず、画像形成部20について詳述する。4つの感光ドラム21は、複数の支持ローラ28によって支持される転写ベルト29の長手方向に沿って並列配置される。各感光ドラム21の周囲には、感光ドラム21の外周面を帯電する帯電電極30が設けられ、帯電電極30の回転方向下流側には、入力画像情報を色分解して得た複数の単色信号を色毎に各感光ドラム21にレーザ露光して静電潜像を形成する露光装置31が設けられる。さらに露光装置31の回転方向下流側には、上記各色からなる現像剤(トナー)で現像を行う現像ローラ32、および現像ローラ32を備えた現像装置22が配置され、その下流側には転写電極23が配置される。もちろん、転写電極23に代えて、例えば図示は省略するが、電圧印加手段を備えた転写ローラを使用することもできる。
【0019】
図示しない画像入力手段により電子画像が入力されると、矢印方向に回転する感光ドラム21の外周面が、帯電電極30によって一定電圧に帯電される。次いで各感光ドラム21に露光装置31から入力画像を色分解した各色{イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(BK)}のレーザ光が照射され、各色ごとの静電潜像が感光ドラム21の表面にそれぞれ形成される。この静電潜像に現像装置22の現像ローラ32により逆極性の電荷を有する各色トナーを付着することで感光ドラム21上に各可視像(現像画像)が形成される。
【0020】
次に、給紙部25について詳述する。給紙部25は、シート収容部33と、シート収容部33の上端側に位置するピックアップローラ34と、ピックアップローラ34の下流側に配置される一対の分離ローラ35、35と、搬送ローラ36、36、およびレジストローラ37、37とで構成される。
【0021】
ピックアップローラ34によりシート収容部33から送り出された1又は複数枚のシート26は、分離ローラ35、35によって1枚に分離される。分離されたシート26は、搬送ローラ36、36によって搬送路38a、38b内を搬送され、下流側に位置するレジストローラ37、37に案内される。そして、停止した状態のレジストローラ37、37の挟持部(二ップ部ともいう)にシート26の先端を突き当てて姿勢を整えた後、感光ドラム21や転写ベルト29とタイミングを合わせてレジストローラ37、37を回転させることで、シート26が転写ベルト29上に静電吸着された状態で送り出され、図中矢印の方向に搬送される。
【0022】
転写ベルト29に吸着されたシート26は、転写ベルト29の移動により,各感光ドラム21と転写電極23との対向箇所(転写部)に順次搬送され、感光ドラム21上の可視像が、転写電極23の逆極性電圧の負荷によりシート26上に転写される。その後、図示しない分離電極によって転写ベルト29との静電吸着状態を解除したシート26が定着部24に搬送され、定着ローラ39および加圧ローラ40による加熱および加圧によりトナー画像がシート表面に定着する。これにより、シート26上に、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの4色の可視像を重ね合わせたカラー電子写真が得られる。この後、シート26は定着部24の下流側に位置する排紙部27に搬送され、排紙部27に備えた排紙ローラ41、41によって画像形成装置の外部に排出される。
【0023】
以下、本発明に係る(画像形成装置用)軸受部材を給紙部25に備えられたピックアップローラ34の回転支持に使用した場合の軸受機構について説明する。
【0024】
図2は、ピックアップローラ34および一方(図1中上側)の分離ローラ35に係る駆動機構を概略的に示す一部断面図である。同図において、ピックアップローラ34の軸34aは、その軸方向中央にロール部34bを有し、かつ軸方向両端を軸受部材2、2の内周に挿入している。同様に、一方の分離ローラ35の軸35aは、その軸方向中央にロール部35bを有し、かつ軸方向両端を軸受部材12、12の内周に挿入している。一端側(上側)の軸受部材2、12は何れも第1の固定側部材42に固定され、他端側(下側)の2軸受部材2、12は何れも第2の固定側部材43に固定される。
【0025】
ピックアップローラ34の軸34aの両端側にはギア44a、ギア44bがそれぞれ装着される。一端側(図2中上側)のギア44aは、軸34aと平行に配置された駆動軸45のギア46と噛合しており、他端側のギア44bは、同様に軸35aの他端側(図2中下側)に装着されたギア47と噛合している。そして、図示しない駆動源(モータなど)の駆動により駆動軸45を回転させることで、駆動軸45からの回転力がギア46、44aを介して軸34aに伝達され、これにより、ピックアップローラ34が軸受部材2、2により回転自在に支持される。また、軸34aの他端側に装着したギア44bとこれに噛合するギア47を介して、一方の分離ローラ35の軸35aに回転力が伝達され、これにより、分離ローラ35が軸受部材12、12により回転自在に支持される。この場合、軸受部材2と、軸受部材2によって回転自在に支持される軸34aを有するピックアップローラ34とで軸受ユニット1が構成される。また、軸受部材12と、軸受部材12によって回転自在に支持される軸35aを有する分離ローラ35とで軸受ユニット11が構成される。
【0026】
軸受部材2は、図2に示すように、電鋳部3、および電鋳部3をインサート部品としてモールドした樹脂部4とを備えたものであり、例えば以下の工程を経て製造される。なお、以下では軸受部材2の製造工程について述べるが、軸受部材12についても同様の工程を経て製造することが可能である。
【0027】
軸受部材2は、電鋳加工で使用するマスター軸5の外表面を絶縁性材料でマスキングする工程、マスキングを施したマスター軸5に電鋳加工を行って電鋳部3を形成する工程、電鋳部3およびマスター軸5をインサート部品として軸受部材2の型成形(インサート成形)を行う工程、電鋳部3とマスター軸5とを分離する工程とを順に経て製造される。
【0028】
電鋳部3の成形母体となるマスター軸5は、例えばステンレス鋼で断面輪郭真円状に、かつ軸方向で均一径に形成される。マスター軸5の材料としては、ステンレス鋼以外にも、例えばクロム系合金やニッケル系合金など、マスキング性、導電性、耐薬品性を有するものであれば金属、非金属を問わず任意に選択可能である。
【0029】
マスター軸5は、むく軸(中実軸)の他、中空軸あるいは中空部に樹脂を充填した中実軸であってもよい。また、マスター軸5の外周面精度は、軸受面となる電鋳部3の内周面3aの面精度を直接左右するので、なるべく高精度に仕上げておくことが望ましい。
【0030】
マスター軸5の外表面には、図3に示すように、電鋳部3の形成予定領域を除き、マスキングが施される。マスキング部6形成用の被覆材としては、絶縁性、および電解質溶液に対する耐食性を有する材料が選択使用される。
【0031】
電鋳加工は、NiやCu等の金属イオンを含んだ電解質溶液にマスター軸5を浸漬し、電解質溶液に通電して目的の金属をマスター軸5の外表面のうち、マスキング部6を除く領域(外周面5aの露出領域)に電解析出させることにより行われる。電解質溶液には、PTFEやカーボンなどの摺動材、あるいはサッカリン等の応力緩和材を必要に応じて含有させることも可能である。この実施形態では、PTFE粒子を摺動材として電解質溶液中に含有させたものを使用している。析出金属の種類は、軸受の軸受面に求められる硬度、あるいは潤滑油に対する耐性(耐油性)など、必要とされる特性に応じて適宜選択される。
【0032】
以上の工程を経ることにより、図4に示すように、マスター軸5外周のマスキング部6以外の領域に薄肉円筒状の電鋳部3を形成した電鋳軸7が製作される。この場合、析出形成された電鋳部3中には上述のPTFE粒子が分散し、その一部が軸受面となる内周面3a上に存在している。なお、電鋳部3の厚みは、これが薄すぎると軸受面(内周面3a)の耐久性低下等につながり、厚すぎるとマスター軸5からの剥離性が低下する可能性があるので、求められる軸受性能や軸受サイズ、用途等に応じて最適な厚み、例えば5μm〜200μmの範囲に設定される。
【0033】
上記工程を経て製作された電鋳軸7は、軸受部材2をインサート成形する成形型内にインサート部品として供給配置される。
【0034】
図5は、軸受部材2のインサート成形工程を概念的に示すもので、可動型8、および固定型9からなる金型には、ランナ10aおよびゲート10bと、キャビティ10cとが設けられる。ゲート10bは、この実施形態では、点状ゲートであり、成形金型(固定型9)の、成形すべき樹脂部4の軸方向一端面に対応する位置に、かつ円周方向等間隔に複数箇所(例えば3箇所)形成される。
【0035】
上記構成の金型において、電鋳軸7を位置決め配置した状態で可動型8を固定型9に接近させて型締めする。次に、型締めした状態で、スプール(図示は省略する)、ランナ10a、およびゲート10bを介してキャビティ10c内に溶融樹脂Pを射出・充填し、樹脂部4を電鋳軸7と一体に成形する。
【0036】
樹脂材料としては、例えば液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)等の結晶性樹脂、あるいは、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)等の非晶性樹脂がベース樹脂として使用可能である。また、この他にも、例えば電磁ノイズを防止する観点から、カーボンファイバー、SUS粉末などに代表される導電性充填剤を上記樹脂に配合したものが使用可能である。もちろんこれらは一例にすぎず、軸受の用途や使用環境に適合した樹脂材料が任意に選択可能である。例えば、樹脂部4の強度向上や寸法安定性を狙って強化材(形状は問わない)を上記樹脂に配合したものを使用することもできる。
【0037】
型開き後、マスター軸5と電鋳部3、および樹脂部4とが一体となった成形品を金型8、9から脱型する。この成形品は、その後の分離工程において電鋳部3と樹脂部4とからなる軸受部材2(図2を参照)と、マスター軸5とに分離される。
【0038】
分離工程では、例えばマスター軸5あるいは電鋳部3に衝撃を加えることで、電鋳部3の内周面3aをマスター軸5の外周面5aから剥離させる。これにより、マスター軸5が軸受部材2(電鋳部3)から引抜かれ、完成品としての軸受部材2が得られる。
【0039】
なお、電鋳部3の分離手段としては、上記手段以外に、例えば電鋳部3とマスター軸5とを加熱(又は冷却)し、両者間に熱膨張量差を生じさせることによる方法、あるいは両手段(衝撃と加熱)を併用する手段等が使用可能である。
【0040】
上述の如く形成された軸受部材2を、図2に示す第1の固定側部材42に固定し、固定した軸受部材2の内周に、引抜いたマスター軸5とは別体の軸34aを挿入することで、図2に示す軸受ユニット1が完成する。また、同様にして形成した軸受部材12を第1の固定側部材42に固定し、固定した軸受部材12の内周に、軸35aを挿入することで、図2に示す軸受ユニット11が完成する。第2の固定側部材43に固定した軸受部材2、12についても同様に、軸受ユニット1、11が形成される。
【0041】
このように、軸受部材2を構成する電鋳部3は、マスター軸5の外周面5aに電解質溶液中の金属イオンを電着(電解析出)させることで形成され、また電鋳部3の内周面3aは、電鋳加工の特性上、マスター軸5の外周面5a形状がミクロンオーダーで高精度に転写される面となる。そのため、外周面5aの面精度を高めたマスター軸5を使用すれば、特に面精度を高めるための後加工を施すことなく、高い面精度を有する内周面(軸受面)3aを低コストに得ることができる。同様の理由で、軸受部材12における電鋳部13の内周面13aについても、高精度かつ低コストに形成可能である。
【0042】
そのため、かかる内周面3a、13aを軸受部材2、12の軸受面としてそれぞれ使用すれば、軸34a、35aの外周面との間で高い回転精度を得ることができる。また、高い軸受面精度を有する軸受部材2であれば、軸34aとの間の直径隙間(ラジアル軸受隙間)が極力小さくなるように、内周面(軸受面)3a、13aの径寸法を設定することができる。これにより、使用時の軸振れを低減し、またピックアップローラ34とこれにギア44a、46を介して連結される駆動軸45との軸間距離を一定に保つことができる。従って、ギア44a、46の間で良好な噛み合いを維持してこれらギア44a、46の鳴きを低減することが可能となる。
【0043】
特に、ピックアップローラ34であれば、シート収容部33からシート26をピックアップする際、そのトルク特性が重要となるが、上述のように、回転精度を高めた軸受部材2を使用することで、使用時におけるトルク変動を最小限に抑えて、シート26のピックアップを確実かつ円滑に行うことが可能となる。
【0044】
また、この実施形態では、ピックアップローラ34だけでなく分離ローラ35用の軸受にも電鋳部13を備えた軸受部材12を使用しているので、使用時における分離ローラ35の振動を抑えることができる。また、分離ローラ35のギア47と、これに噛合するピックアップローラ34のギア44bとの噛み合いが良好に保たれ、かかるギア47、44bの鳴きを低減することができる。
【0045】
また、上述のように、軸受部材2の軸受面(電鋳部3の内周面3a)と、軸34aの外周面との間の直径隙間(ラジアル軸受隙間)を極力小さくすることにより、これらローラ34、35との摺動に伴い発生する紙粉が上記隙間に侵入するのを極力抑えて、軸受内部における摩耗を最小限に留めることができる。具体的には、通常、紙粉径が50μm以上であることから、上記ラジアル軸受隙間が直径隙間で5μm以下となるように電鋳部3の内径寸法を設定することで、より確実に紙粉をはじめとするダストの侵入を抑止することができる。
【0046】
また、この実施形態では、電鋳部3の電鋳加工に、PTFE粒子を含有させた電解質溶液を使用したので、完成品としての電鋳部3の内周面3a上には、PTFE粒子が分散した状態となる。そのため、軸34aとの間の摩擦特性、および耐摩耗特性を改善することができ、かかる画像形成装置の経年使用に伴う回転精度の劣化を最小限に留めることができる。
【0047】
また、この実施形態では、軸受部材2を、電鋳部3をインサート部品とする型成形で形成したことに特徴がある。この構成によれば、インサート部品となる電鋳部3の厚みを、その内周面3aが軸受面として機能し得る限りにおいて極力薄くすることができるため、電鋳部3を除く他のモールド部(ここでは樹脂部4)のサイズを調整することで軸受ユニット1全体を従来品に比べて小型化することができる。
【0048】
また、電鋳部3をインサート部品として一体に型成形することで、電鋳部3と樹脂部4との組立て工程が簡略化でき、また両部材3、4間の組立て精度を高めた軸受部材2を得ることができる。
【0049】
また、軸受部材2の、電鋳部3を除く箇所を全て樹脂部4で形成することで、軸受部材2の材料コストを大幅に低減することが可能となる。
【0050】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は係る実施形態に限定されることなく他の形態にも適用可能である。
【0051】
本発明に係る軸受部材2は、電鋳部3を除く外径側の大部分を樹脂や金属のモールド部で構成しているので、例えば図2に示す第1の固定側部材42を軸受部材2、12のモールド部(同図では樹脂部4、14)と同材料で一体に成形することも可能である。もちろん、第2の固定側部材43についても同様に軸受部材2、12と一体化可能である。この場合、例えば図示は省略するが、樹脂部4、14、および第1の固定側部材42を、電鋳部3、13をインサート部品として樹脂で一体成形することで、軸受部材2、12および固定側部材42の形成と、これら軸受部材2、12と固定側部材42との組立てとが一度の工程で済むため、作業工程を簡略化できる。
【0052】
また、以上の実施形態では、ピックアップローラ34、および分離ローラ35用の軸受に本発明を適用した場合を例示したが、本発明は、これに限らず、画像形成装置の給排紙プロセスに関与する他のロール状回転体、例えば画像形成部20によりシート26上に形成されるトナー画像の位置決めを行うためのレジストローラ37、37を回転支持する軸受にも適用することができる。
【0053】
この場合、図示は省略するが、レジストローラ37の軸受面を電鋳加工で形成した電鋳部の内周面で構成することで、上記実施形態と同様に、回転精度の向上が図られ、異音の抑制や、軸受隙間への紙粉の侵入防止が可能となる。また、レジストローラ37は、画像形成部20によるシート26上への画像形成位置を制御するものであるから、その回転精度が重要となるが、上述のように回転精度を高めることで、かかる画像の位置決めを高精度に行うことが可能となる。
【0054】
もちろん、本発明は、レジストローラ37以外にも、例えば、給紙部25に備えられ、ピックアップされたシート26をレジストローラ37、37に搬送する搬送ローラ36、36や、排紙部27に備えられ、トナー画像を形成したシート26を装置外に排出する排紙ローラ41、41等、画像形成装置の給排紙プロセスに関与するロール状回転体である限り、これらロール状回転体を支持する軸受に広く適用することができる。
【0055】
また、本発明に係る軸受部材2について、以上の実施形態では、軸受面を、電鋳部3の真円状内周面3aで形成し、軸34aとの間に軸方向径一定のラジアル軸受隙間を形成した、いわゆる真円軸受を説明したが、これ以外の形態を採ることも可能である。
【0056】
モーメント耐力の向上、およびロストルクの低減等を狙って、例えば図示は省略するが、
電鋳部3の内周面3aで、軸方向に離隔する複数の軸受面を形成し、かつこれら軸受面間に位置し、内径寸法が軸受面より大きい中逃げ部を形成したものを挙げることができる。
【0057】
また、上記真円軸受以外の軸受として、例えば図示は省略するが、電鋳部3の内周面3aとこれに対向する軸34aの外周面との軸受隙間に、流体の動圧作用を生じるための動圧発生部を設けた、いわゆる動圧軸受を構成することもできる。
【0058】
具体的には、内周面3aあるいは軸34aの外周面の何れか一方に、複数の軸方向溝を形成した、いわゆるステップ軸受を構成することができる。
【0059】
あるいは、内周面3aと軸34aの外周面の何れか一方に、円周方向に連続して複数の円弧面を配列し、径方向に対向する他方の面との間に、くさび状の径方向隙間(軸受隙間)を形成した、いわゆる多円弧軸受を構成することができる。
【0060】
あるいは、内周面3aと軸34aの外周面の何れか一方に、複数の傾斜溝(いわゆる動圧溝)をへリングボーン形状に配列した動圧軸受を構成することができる。
【0061】
何れにしても、軸受隙間に流体を充満させて使用する場合には、軸受内部の流体(潤滑油等)が軸受外部に漏れ出さないための構成、例えばラジアル軸受隙間を構成する電鋳部3の軸方向端で、流体を内部に保持するためのシール空間を形成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の画像形成プロセスおよび給排紙プロセスを概念的に示す断面図である。
【図2】ピックアップローラ用軸受ユニットを含む駆動機構の概略図である。
【図3】非導電性マスキング部を形成したマスター軸の斜視図である。
【図4】電鋳部を形成した電鋳軸の斜視図である。
【図5】樹脂部の射出成形工程を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1、11 軸受ユニット
2、12 軸受部材
3、13 電鋳部
3a、13a 内周面(軸受面)
4、14 樹脂部
5 マスター軸
10c キャビティ
20 画像形成部
21 感光ドラム
22 現像装置
23 転写電極
24 定着部
25 給紙部
26 シート
27 排紙部
34 ピックアップローラ
35 分離ローラ
36 搬送ローラ
37 レジストローラ
41 排紙ローラ
44a、44b、46、47 ギア
45 駆動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート収容部からピックアップしたシートを画像形成部に供給するシートの給紙プロセス、あるいは画像形成部により表面に画像を形成したシートを排紙するシートの排紙プロセスに関与するロール状回転体を支持する画像形成装置用軸受部材であって、
電鋳加工で形成した電鋳部の内周面で、ロール状回転体を支持するための軸受面を構成したことを特徴とする画像形成装置用軸受部材。
【請求項2】
電鋳部の内周面で構成される軸受面と、これに対向するロール状回転体の外周面との間の直径隙間が5μm以下である請求項1記載の画像形成装置用軸受部材。
【請求項3】
ロール状回転体が、シート収容部からシートをピックアップするピックアップローラである請求項1記載の画像形成装置用軸受部材。
【請求項4】
ロール状回転体が、画像形成部によりシート上に形成される画像の位置決めを行うためのレジストローラである請求項1記載の画像形成装置用軸受部材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか記載の画像形成装置用軸受部材、およびロール状回転体を備えた画像形成装置用軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−72207(P2007−72207A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259756(P2005−259756)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】