説明

異常値判定装置、測位装置、及びプログラム

【課題】GPS情報とINS情報とを統合して測位を行う場合に、GPS情報の異常値を精度良く判定する。
【解決手段】区間幅決定部22で、速度情報の累積誤差と擬似距離誤差との差が所定範囲の値となるように、INS情報とGPS情報とを統合する区間幅を決定する。区間幅内の各時刻で観測された速度情報及び擬似距離を、N点観測値記憶部24に記憶する。初期値設定部26で、N点観測値記憶部24に記憶されたINS情報に基づいて方位角及び移動ベクトルの初期値を設定し、最適解推定部28で、観測値(ρ,Δx)から推定初期値からの変位で表される状態(dx,Cb,dθ)を推定する方程式を立て、最小二乗法により推定初期値を更新しながら収束するまで繰り返して状態を推定し、収束したときの状態及び推定初期値から測位解を推定する。異常値判定部30は、測位解と擬似距離から得られる位置との残差γが閾値を超える擬似距離を異常値と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常値判定装置、測位装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GPS装置からのGPS速度データ及びGPS位置データを用いたハイブリッド計算により、姿勢角、速度、方位角、及び位置を算出し、誤差の少ない自立制御を行う自立制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、GPS受信機から入力された速度及び加速度から算出された姿勢角及び方位角と、INSで測定された姿勢角及び方位角とに基づいて、チルトと方位角に関する観測値を算出して、他の位置や速度の観測値と共にカルマンフィルタに入力し、位置や速度と共に、姿勢角や方位角の推定誤差を算出するハイブリッド航法装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2のハイブリッド航法装置では、得られた推定誤差を加算器に入力し、姿勢角及び方位角の推定誤差を用いて、INSから直接入力された姿勢角及び方位角を補正して出力している。
【0004】
また、GPS装置単体でマルチパスを検出し排除する技術(例えば、非特許文献1参照)や、軌跡及びその絶対方位が既知で正確であると仮定して、疑似距離の外れ値を検出する技術(例えば、非特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−359002号公報
【特許文献2】特開2004−239643号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Position and velocity reliability testing in degraded GPS signal environments Pattern Recognition and Machine Learning
【非特許文献2】Precise Localization using Tightly Coupled Integration based on Trajectory estimated from GPS Doppler
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2のカルマンフィルタによる統合手法は、マルチパスによる外れ値の影響を受け、推定精度が悪化する、という問題がある。
【0008】
また、非特許文献1の技術では、都市部などで外れ値の割合が大きくなると、推定に失敗する、という問題がある。
【0009】
また、非特許文献2の技術では、正確であると仮定した軌跡が間違っている場合には、推定に失敗し、また、軌跡の算出精度以上の推定精度を出せない、という問題がある。
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、GPS情報とINS情報とを統合して測位を行う場合に、GPS情報の異常値を精度良く判定することができる異常値判定装置、精度良く判定された異常値を除外して最適な測位解を推定する測位装置、及びこれらのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の異常値判定装置は、移動体に搭載されたGPS受信機により受信した情報に基づいて得られる擬似距離、及び前記移動体に搭載された慣性航法装置で検出された速度情報に基づいて得られる前記移動体の移動ベクトルを取得する取得手段と、前記速度情報の各時刻における誤差を所定時間にわたって累積した前記移動ベクトルの累積誤差と、前記擬似距離の誤差との差が所定範囲内の値になるように、前記所定時間を決定する決定手段と、前記決定手段により決定された所定時間内の各時刻で取得された前記擬似距離により得られる位置、及び前記移動ベクトルにより得られる位置に基づいて、前記移動体の各時刻における位置を推定する推定手段と、前記推定手段により推定された各時刻における位置と前記擬似距離との残差に基づいて、各時刻における前記擬似距離が異常か否かを判定する判定手段と、を含んで構成されている。
【0012】
本発明の異常値判定装置によれば、取得手段が、移動体に搭載されたGPS受信機により受信した情報に基づいて得られる擬似距離、及び移動体に搭載された慣性航法装置で検出された速度情報に基づいて得られる移動体の移動ベクトルを取得する。そして、決定手段が、速度情報の各時刻における誤差を所定時間にわたって累積した移動ベクトルの累積誤差と、擬似距離の誤差との差が所定範囲内の値になるように、所定時間を決定し、推定手段が、決定手段により決定された所定時間内の各時刻で取得された擬似距離により得られる位置、及び移動ベクトルにより得られる位置に基づいて、移動体の各時刻における位置を推定する。そして、判定手段が、推定手段により推定された各時刻における位置と擬似距離との残差に基づいて、各時刻における擬似距離が異常か否かを判定する。
【0013】
このように、速度情報の累積誤差と擬似距離誤差との差が所定範囲内の値となるように所定時間を決定し、この所定時間内の各時刻における速度情報及び擬似距離に基づいて移動体の位置を推定し、推定した位置と擬似距離との残差に基づいて、擬似距離の異常を判定するため、INS情報の累積誤差がGPS情報の誤差と釣り合う範囲に収まり、GPS情報とINS情報とを統合して測位を行う場合に、GPS情報の異常値を精度良く判定することができる。
【0014】
また、前記決定手段は、地域毎に予め定めた擬似距離の誤差を記録したマップと、前記移動体の各時刻における位置とに基づいて、前記擬似距離の誤差を取得することができる。擬似距離誤差は、周辺建物の高さ等に影響されるため、予め周辺建物の高さに基づいた擬似距離を求めて、地域毎にマップとして記録しておくことができる。
【0015】
また、前記推定手段は、前記移動体の位置を推定する際に、前記決定手段により決定した所定時間内において、最も離れた2つの時刻各々で取得された擬似距離から得られる位置に基づいて、前記移動ベクトルの方位角を推定することができる。上記のように所定時間を決定するため、2つの時刻間の距離を十分確保でき、方位角の推定も精度良く行うことができる。
【0016】
また、前記決定手段は、前記所定時間内に3時刻以上の観測点が含まれるように、前記所定時間を決定することができる。所定時間が長くなるほど、所定時間内の観測点は多くなり、推定された位置と擬似距離との残差を用いた異常値の判定が行い易くなる。
【0017】
また、本発明の測位装置は、前記推定手段において、上記異常値判定装置により異常であると判定された擬似距離を排除して、前記移動体の各時刻における位置を推定する。精度良く判定された擬似距離の異常値を排除することで、位置の推定も精度良く行うことができる。
【0018】
また、本発明の異常値判定プログラムは、コンピュータを、上記異常値判定装置を構成する各手段として機能させるためのプログラムである。
【0019】
また、本発明の測位プログラムは、コンピュータを、上記測位装置を構成する各手段として機能させるためのプログラムである。
【0020】
なお、本発明のプログラムを記憶する記憶媒体は、特に限定されず、ハードディスクであってもよいし、ROMであってもよい。また、CD−ROMやDVDディスク、光磁気ディスクやICカードであってもよい。更にまた、該プログラムを、ネットワークに接続されたサーバ等からダウンロードするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の異常値判定装置及びプログラムによれば、速度情報の累積誤差と擬似距離誤差との差が所定範囲内の値となるように所定時間を決定し、この所定時間内の各時刻における速度情報及び擬似距離に基づいて移動体の位置を推定し、推定した位置とGPS情報との残差に基づいて、擬似距離の異常を判定するため、INS情報の累積誤差がGPS情報の誤差と釣り合う範囲に収まり、GPS情報とINS情報とを統合して測位を行う場合に、GPS情報の異常値を精度良く判定することができる、という効果が得られる。
【0022】
また、本発明の測位装置及びプログラムによれば、精度良く判定された擬似距離の異常値を排除することで、位置の推定も精度良く行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態に係る車載測位装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図2】区間幅決定の原理を説明するための図である。
【図3】区間幅の決定を説明するための図である。
【図4】区間幅の決定の具体例を説明するための図である。
【図5】INS情報に基づく移動ベクトルを示す図である。
【図6】観測値の観測状況を示すイメージ図である。
【図7】本実施の形態に係る車載測位装置のコンピュータにおける測位処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図8】観測値の観測状況の他の例を示すイメージ図である。
【図9】観測値の観測状況の他の例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、車両に搭載されて受信位置(自車両の位置)を測定する車載測位装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態に係る車載測位装置10は、自車両の速度等の運動を検出してINS情報を出力するINS(慣性航法)装置12と、GPS衛星からの電波を受信してGPS情報を出力するGPS装置14と、INS装置12及びGPS装置14からの出力に基づいて、測位推定を実行するコンピュータ16とを備えている。
【0026】
INS装置12は、自車両の速度を検出するセンサを含んで構成されており、INS情報として、自車両の速度情報を出力する。
【0027】
GPS装置14は、GPS情報として、複数のGPS衛星から受信した受信信号に基づいて算出された疑似距離を出力する。
【0028】
コンピュータ16は、CPU、後述する測位処理ルーチンを実現するためのプログラムを記憶したROM、データを一時的に記憶するRAM、及びHDD等の記憶装置を含んで構成されている。
【0029】
このコンピュータ16を以下で説明する測位処理ルーチンに従って機能ブロックで表すと、図1に示すように、地域別にGPS装置14が出力する疑似距離の誤差を記録したGPS誤差マップ20と、INS情報とGPS情報とを統合して測位解を推定する際の区間幅を決定する区間幅決定部22と、決定された区間幅内のN点のINS情報及びGPS情報(以下、これらを観測値ともいう)を記憶するN点観測値記憶部24と、INS情報に基づいて、区間内の移動ベクトル及び方位角の初期値を設定する初期値設定部26と、INS情報とGPS情報とを統合して、最適な測位解を推定する最適解推定部28と、推定された測位解に基づいて、GPS情報が異常か否かを判定する異常値判定部30と、を含んだ構成で表すことができる。
【0030】
GPS誤差マップ20は、周辺の建物の高さ等に基づいて、予め求められたGPSの疑似距離誤差を、地域毎に埋め込んだマップである。疑似距離誤差は、GPS装置14による測位の際の測位誤差と同じオーダーの値となる。
【0031】
区間幅決定部22は、INS情報とGPS情報とを統合して測位解を推定する際の区間幅として、INS情報の誤差とGPS情報の誤差とが対応するように区間幅を決定する。
【0032】
ここで、区間幅決定の原理について説明する。図2(a)に示すように、INS情報により得られる移動ベクトル(軌跡)は、初期値に対する変位の累積で算出されるため、区間幅が長くなるほど、INS装置12の誤差が累積されて、正しい軌跡からの累積誤差が大きくなる。このように累積誤差が大きくなったINS情報による軌跡を用いて、GPSの観測値が異常か否かを判定すると、適切な判定が行えない場合がある。例えば、同図(a)中Aで示すGPS情報は、正しい走行軌跡からの残差は小さいものの、INS情報に基づく軌跡との残差は大きいため、異常値であると判定される。一方、図中Bで示すGPS情報は、正しい走行軌跡からの残差は大きいものの、INS情報に基づく軌跡との残差は小さいため、異常値とは判定されない。このように、区間幅が長すぎると、マルチパスの影響によるGPSの異常観測値を排除しきれない。一方、同図(b)に示すように、区間幅内の両端のGPSの観測値に基づいて方位角を推定する場合に、区間幅が狭すぎると、方位角の推定精度が低くなる。そのため、INS情報の累積誤差がGPS情報の誤差と釣り合う範囲であって、方位角の推定に十分な距離が確保できるように、区間幅を決定することが必要となる。
【0033】
また、区間幅が狭く、区間幅内のGPSの観測値が2点しかない場合には、θを求める最小限の情報しかないため、INS情報による残差は発生しにくい。一方、区間幅が広く、区間幅内に3点以上のGPSの観測値が存在する場合には、これらの全点にフィットする最適解は存在しないため、最適解とGPS観測値との間に残差が発生する。すなわち、区間幅内のGPSの観測値が3点以上の場合には、GPSの観測値の異常を判定し易い。
【0034】
そこで、区間幅決定部22は、INS装置12の計測精度、及びGPS装置14の計測精度に基づいて、INS情報の累積誤差とGPS情報の誤差とが釣り合う区間幅を算出する。具体的には、図3に示すように、装置構成により予め既知のINS装置12の計測精度、及びINS装置12により計測可能な速度履歴から求まる所定距離移動した際のINS情報の累積誤差と、GPS誤差マップ20に記憶されたその地域での疑似距離誤差とが一致するように定めた時の所定距離(または、この所定距離移動するのに要する所定時間)を区間幅とすることができる。なお、INS情報の累積誤差と擬似距離誤差とが一致するようにとは、完全一致する場合に限定されず、INS情報の累積誤差と擬似距離誤差との差が所定範囲内の値となればよい。
【0035】
例えば、図4に示すように、O点からA点までの距離をL、A点での疑似距離誤差をΔρm、INS装置12による速度計測誤差をΔvm/sとし、OA間を自車両がVm/sで等速運動していた場合、OA間を移動するのに要する時間tは下記(1)式で求まる。
【0036】
t=L/V ・・・(1)
この時間tにおけるINS装置12により検出される速度の累積誤差は、Δv×tとなり、この速度の累積誤差と、A点での疑似距離誤差との一致は、下記(2)式で表わされる。
【0037】
Δv×t=Δρ ・・・(2)
そして、(1)式及び(2)式から、下記(3)式のように、Lが求まり、これを区間幅とすることができる。
【0038】
L=t×V=Δρ/Δv×V ・・・(3)
N点観測値記憶部24には、区間幅決定部22で決定された区間幅内の各時刻におけるN点の観測値が記憶される。
【0039】
初期値設定部26は、方位角の初期値θを設定し、N点観測値記憶部24に記憶されたINS情報に基づいて、区間幅内における各時刻間の移動ベクトルの初期値を算出する。例えば、図5に示すように、区間幅Nにおける観測値が時刻t〜tの4点の場合には、方位角の初期値θと、時刻tで観測された速度から、時刻t〜t間の移動ベクトルの初期値Δx12を算出する。同様にΔx23及びΔx34を算出する。
【0040】
最適解推定部28は、GPS単独測位等で、区間幅内の各時刻の位置xの推定初期値を設定し、衛星の方角を求め、デザイン行列Hを生成し、観測値(ρ,Δx)から、状態(dx,Cb,dθ)を推定する方程式を立てる。なお、ρは擬似距離、Cbはクロックバイアス誤差、dxは初期値xからの変位、dθは初期値θからの変位である。また、Δxは、時刻t〜t+1間の移動ベクトルである。
【0041】
具体的には、図6に示すような観測状況において、まず、観測値、状態、推定初期値を下記のようにおく。
【0042】
【数1】

【0043】
ここで、Eは東西方向、Nは南北方向、Uは高さを示し、ある固定基準座標xbaseからの相対座標系を表す。従って、(x,x,x)は、xbaseから東にx、北にx、上にx移動した点を表す。
【0044】
また、初期値と真値とのずれは、下記(4)式のように表わされる。
【0045】
【数2】

【0046】
また、GPS情報に基づく観測方程式は、下記(5)式となる。
【0047】
【数3】

【0048】
また、INS情報に基づく観測方程式は、下記(6)式となる。
【0049】
【数4】

【0050】
そして、(5)式及び(6)式を、下記(7)式に示すように、行列式に書き下す。
【0051】
【数5】

【0052】
次に、(7)式を下記(8)式のように変形し、最小二乗法により状態を求める。
【0053】
【数6】

【0054】
ここで、Qは疑似距離誤差及びINS情報の誤差から求めた観測値の共分散行列である。推定初期値xasm及びθasmを更新し、収束するまで上記(7)式の方程式を立てる処理から繰り返す。収束した時点での状態及び推定初期値に基づいて、測位解を推定する。区間幅が十分な長さの距離を確保できていれば、区間幅に比べてGPSの擬似距離誤差は無視できる大きさになるため、精度良くθを推定することができる。
【0055】
異常値判定部30は、区間幅内の時刻tにおける観測値と、最適解推定部28により求めた時刻tにおける状態とに基づいて、下記(9)式により、時刻tにおけるGPS情報の残差γを算出する。算出した残差γと予め定めた閾値γthとを比較することにより、時刻tにおけるGPS情報が異常値か否かを判定する。
【0056】
【数7】

【0057】
また異常値判定部30は、異常と判定された観測値の情報を最適解推定部28に出力し、最適解推定部28では、異常と判定された観測値を排除して、再度測位解を推定して、最終的な最適測位解として出力する。
【0058】
次に、図7を参照して、本実施の形態の車載測位装置10において実行される測位処理ルーチンについて説明する。
【0059】
ステップ100で、時刻tにおける自車両の位置に対応する擬似距離誤差を、GPS誤差マップ20から取得する。時刻tにおける自車両の位置は、前ルーチンにより推定された位置を用いることができる。例えば、図4の例で、O点からA点までの距離を区間幅L、GPS誤差マップ20から取得した疑似距離誤差aが5m、INS装置12による速度計測誤差Δvが0.08m/sで、OA間を自車両が8m/s(V)で等速運動していた場合、上記(3)式から、区間幅Lが500mと求まる。なお、GPS誤差マップ20から取得した擬似距離誤差は、O点における擬似距離誤差であるが、ここでは、A点における擬似距離誤差も同様であるとみなして処理している。
【0060】
次に、ステップ102で、上記ステップ100で決定された区間幅内の各時刻におけるN点の観測値を、N点観測値記憶部24に記憶する。例えば、区間幅L内で、時刻t〜tの4点で観測が行われていた場合には、各時刻で検出された4つの速度情報、及び各時刻で取得された4つの擬似距離が記憶される。なお、区間幅決定の起点となった時刻tの観測値は含まれない。
【0061】
次に、ステップ104で、方位角の初期値θを設定し、N点観測値記憶部24に記憶されたINS情報に基づいて、区間幅内における各時刻間の移動ベクトルの初期値を算出する。
【0062】
次に、ステップ106で、GPS単独測位等で、区間幅内の各時刻の位置xの推定初期値を設定し、衛星の方角を求め、デザイン行列Hを生成し、観測値y=(ρ,Δx)から、状態(dx,Cb,dθ)を推定する方程式((7)式)を立てる。次に、ステップ108で、(7)式を(8)式のように変形し、最小二乗法により状態を求める。
【0063】
次に、ステップ110で、上記ステップ108で求めた状態が収束したか否かを判定する。状態が収束していない場合には、ステップ112へ移行し、推定初期値xasm及びθasm、並びにCbを更新して、ステップ106へ戻る。状態が収束した場合には、ステップ114へ移行し、GPS情報が異常値か否かを判定済みかを判定する。異常値を判定済みの場合には、ステップ122へ移行し、まだ、異常値の判定を行っていない場合には、ステップ116へ移行する。
【0064】
ステップ116では、上記ステップ108で求めた状態を用いて、(9)式に従って、時刻tにおけるGPS情報の残差γを算出する。そして、区間幅内の各時刻におけるGPS情報の残差γを、予め定めた閾値γthと比較し、γ>γthとなるGPS情報を異常であると判定する。
【0065】
次に、ステップ118で、上記ステップ116の判定で、区間幅内のGPS情報のうち、異常であると判定されたものが存在するか否かを判定する。異常であると判定されたGPS情報が存在する場合には、ステップ120へ移行して、異常であると判定されたGPS情報を排除して、ステップ106へ戻る。異常であると判定されたGPS情報が存在しない場合には、ステップ122へ移行する。
【0066】
ステップ122では、上記ステップ108で求めた状態、及び上記ステップ112で設定した推定初期値に基づいて、最適測位解を推定して出力し、処理を終了する。
【0067】
以上説明したように、本実施の形態の車載測位装置によれば、INS情報の累積誤差とGPS情報の誤差との差が所定範囲内の値となるように区間幅を決定し、この区間幅内のINS情報とGPS情報とを統合して測位解を推定し、この測位解とGPS情報との残差で異常値を判定するため、INS情報の累積誤差がGPS情報の誤差と釣り合う範囲に収まり、マルチパスによるGPS情報の異常値を精度良く判定することができる。また、区間幅として十分な距離が確保できるため、方位角の推定も精度良く行うことができる。
【0068】
また、このように精度良く判定された異常値を排除して、再度最適測位解を推定するため、精度良く測位解を推定することができる。
【0069】
なお、上記実施の形態では、図6に示すように、単独測位により得られるGPS情報を用いる場合について説明したが、この場合に限定されない。
【0070】
例えば、図8に示すような基準局及び基準衛星を用いた観測状況において、各時刻tの擬似距離2重差をGPS情報として用いてもよい。この場合、観測値及び状態は下記の通りとなる。なお、推定初期値は、上記実施の形態の場合と同様である。
【0071】
【数8】

【0072】
なお、ρは基準衛星による擬似距離であり、基準衛星は、電波を受信したGPS衛星のうち、仰角が最も高いGPS衛星とすることができる。
【0073】
また、GPS情報に基づく観測方程式は、下記(10)式となる。なお、初期値と真値とのずれは、上記(4)式と同様であり、INS情報に基づく観測方程式は、上記(6)式と同様である。
【0074】
【数9】

【0075】
そして、(10)式及び(6)式を、下記(11)式に示すように、行列式に書き下すことで、観測値から状態を求める方程式が得られる。
【0076】
【数10】

【0077】
次に、(11)式を下記(12)式のように変形し、最小二乗法により状態を求める。
【0078】
【数11】

【0079】
このように、GPS情報として、擬似距離の2重差を用いた場合には、最適解を推定する際の変数Cbを削除することができる。また、測位解に対するGPS情報の残差γについても、下記(13)式に示すように、Cbを削除することができる。
【0080】
【数12】

【0081】
また、例えば、図9に示すような基準局及び基準衛星を用いた観測状況において、各時刻tの擬似距離及び位相の2重差をGPS情報として用いてもよい。この場合、観測値及び状態は下記の通りとなる。なお、推定初期値は、上記実施の形態の場合と同様である。
【0082】
【数13】

【0083】
なお、Nは衛星までの距離/波長で現される値である。
【0084】
また、GPS情報に基づく観測方程式は、下記(14)式となる。なお、初期値と真値とのずれは、上記(4)式と同様であり、INS情報に基づく観測方程式は、上記(6)式と同様である。
【0085】
【数14】

【0086】
そして、(14)式及び(6)式を、下記(15)式に示すように、行列式に書き下すことで、観測値から状態を求める方程式が得られる。
【0087】
【数15】

【0088】
次に、(15)式を下記(16)式のように変形し、最小二乗法により状態を求める。
【0089】
【数16】

【0090】
また、上記実施の形態では、GPS誤差マップを用いて擬似距離誤差を取得する場合について説明したが、レーザレーダ等により周辺建物の高さを検出し、この検出値に基づいて時刻毎に擬似距離誤差を算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0091】
10 車載測位装置
12 INS装置
14 GPS装置
16 コンピュータ
20 GPS誤差マップ
22 区間幅決定部
24 N点観測値記憶部
26 初期値設定部
28 最適解推定部
30 異常値判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載されたGPS受信機により受信した情報に基づいて得られる擬似距離、及び前記移動体に搭載された慣性航法装置で検出された速度情報に基づいて得られる前記移動体の移動ベクトルを取得する取得手段と、
前記速度情報の各時刻における誤差を所定時間にわたって累積した前記移動ベクトルの累積誤差と、前記擬似距離の誤差との差が所定範囲内の値になるように、前記所定時間を決定する決定手段と、
前記決定手段により決定された所定時間内の各時刻で取得された前記擬似距離により得られる位置、及び前記移動ベクトルにより得られる位置に基づいて、前記移動体の各時刻における位置を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定された各時刻における位置と前記擬似距離との残差に基づいて、各時刻における前記擬似距離が異常か否かを判定する判定手段と、
を含む異常値判定装置。
【請求項2】
前記決定手段は、地域毎に予め定めた擬似距離の誤差を記録したマップと、前記移動体の各時刻における位置とに基づいて、前記擬似距離の誤差を取得する請求項1記載の異常値判定装置。
【請求項3】
前記推定手段は、前記移動体の位置を推定する際に、前記決定手段により決定した所定時間内において、最も離れた2つの時刻各々で取得された擬似距離から得られる位置に基づいて、前記移動ベクトルの方位角を推定する請求項1または請求項2記載の異常値判定装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記所定時間内に3時刻以上の観測点が含まれるように、前記所定時間を決定する請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の異常値判定装置。
【請求項5】
前記推定手段は、請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の異常値判定装置により異常であると判定された擬似距離を排除して、前記移動体の各時刻における位置を推定する測位装置。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の異常値判定装置を構成する各手段として機能させるための異常値判定プログラム。
【請求項7】
コンピュータを、請求項5記載の測位装置を構成する各手段として機能させるための測位プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−207919(P2012−207919A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71323(P2011−71323)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】