説明

異常診断装置および方法ならびにプログラム

【課題】 移動体に対するセンサの取り付け位置の制約を無くし、診断に関する信頼性の向上をはかる。
【解決手段】 移動体内の任意の位置にマイクや振動センサ等から成るセンサ1を設置し、車両異常診断装置3を構成するコンピュータ(演算処理装置)が、移動体内における音を取り込み、独立成分分析を行って音の分離と音源位置の特定を行うこととした。また、センサ1の設置位置近傍以外における診断部品の場所を特定し、移動体内の任意の場所における信号強度を推定して乗り心地や騒音に対する警告を行うこととした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体(車両、鉄道車両、航空機等)の任意の位置に設置されたセンサを介して音源の位置を特定し、移動体の診断部位の異常診断を行う、異常診断装置および方法ならびにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクアレイは、車両、鉄道車両、航空機といった静粛性が要求される空間に車室内音源探査用として広く使用されている。また、マイクアレイは、工場騒音、道路交通騒音等の環境騒音モニタリングのための屋外騒音探査、マンション等における室内異音探査にも使用されている。
前記したマイクアレイは、従来、特定の方向のみの探査しかできなかった。ところが、最近では3次元方向の探査を可能とするマイクアレイが出現し、前後左右上下の全方位から到来する音に対して音源探査が可能になった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、鉄道車両等では、台車のトランスミッションの軸受けやギアボックス内の軸受け、あるいは車両を指示する軸受け等を分解することなく欠陥を検出可能にするための診断装置の出現が望まれている。このため、センサを用いて軸受けから発生する音波の周波数分析を行い、標準仕様が規定されるルールDB(データベース)を用いて異常診断を行う方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−304589号公報(段落0011、図1)
【特許文献2】特開2004−198384号公報(段落0006、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記したマイクアレイをセンサとして移動体に設置することは、マイクアレイが持つ大きさおよび要求されるハードウェア規模から困難であり、また、診断のためには、センサの設置位置と、例えば、軸受け等診断対象部品との間の距離や角度といった情報が必要になり、必要な情報量が増加する。特に、マイクアレイの設置位置については制約があり、移動体へのマイクアレイの設置による診断は現実的でない。
一方、マイクをセンサとして単独で使用することも考えられるが、この場合、マイクは診断対象部品の近傍に設置することが要求され、また、エンジン等、診断対象部品によっては近傍に設置することさえできないものもある。更に、マイクを単独で使用した場合、外部ノイズの混入により、異常診断を行う際の信頼性の面でも問題があった。
【0005】
本発明は、前記した事情に鑑みてなされたものであり、移動体に対するセンサの取り付け位置の制約を無くし、異常診断に関する信頼性の向上を図る、異常診断装置および方法ならびにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決するために本発明は、移動体内の任意の位置にセンサを設置し、異常診断装置を構成するコンピュータ(演算処理装置)が、移動体内におけるセンサからの信号を取り込み、独立成分分析を行って信号の分離を行い、音源の位置の特定を行うこととした。なお、ここで、「音源の位置の特定」とは、音源が診断部位のいずれに対応するかを特定することをいう。また、外部から移動体内における診断部位を指定し、その指定した診断部位における音源の信号強度を推定してその場所における乗り心地や騒音に対する警告を行うこととした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特性の異なる信号を分離抽出する信号処理手法である独立成分分析を用いて信号源の特定を行うため、移動体に対するセンサの取り付け位置の制約が無くなり、また、独立成分分析により外部ノイズがキャンセルされるため、診断に関する信頼性の向上がはかれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明実施形態に係る異常診断装置の内部構成を示すブロック図である。本発明実施形態において、異常診断装置は、車両内、もしくは診断サービスを提供するプロバイダが管理するセンタに設置されるものとする。このため、以降、異常診断装置を車両異常診断装置3として説明する。
車両異常診断装置3は、CPU(Central Processing Unit)11を制御中枢とし、主メモリ12、フラッシュメモリ13、ハードディスク装置14(HDD:Hard Disk Drive)、入出力ポート15(PIO:Parallel Input Output)、入出力制御装置16(IOC:Input Output Controller)が、アドレス、データ、コントロールのための複数本のラインで構成されるシステムバス17に共通接続され、構成される。
【0009】
CPU11は、主メモリ12に記録されたプログラムを逐次読み出し実行することにより、HDD14、PIO15、IOC16を制御し、後記する本発明実施形態の車両異常診断装置が持つ各機能を実現する。
また、フラッシュメモリ13には、BIOS(Basic Input Output System)や係数等半固定的なデータがあらかじめ記録されている。また、HDD14には、主メモリ12に常駐しない後記するテーブル、データベース等が割付けられ、ここに各種データが格納される。また、PIO15には、後記するマイク等のセンサ1や低周期センサ2等のセンサ類が接続されており、ここでセンサ類によって計測された信号が取り込まれるようになっている。また、IOC16には、LCD(Liquid Crystal Display)4と、キーボード(KB5)が接続され、前者はCPU11による処理結果(本発明実施形態では警告表示)を表示し、後者は、ユーザによって入力されるデータを取り込む構成になっている。LCD4ならびにKB5は、独立してもよいし、あるいはタッチパネルのように一体型であってもよい。
【0010】
なお、本発明実施形態において、センサ類を、車両における任意の位置(例えば、後部座席シート)に取り付けられたマイクや振動センサ類から成るセンサ1と、低周期センサ2とを区別して示した理由は、前者は音源が示す音波のような高周波を含む広い範囲の周波数を検知するのに対して後者は車速パルス等比較的低い周波数を検知し、前者のみが音源位置特定のために用いられるためである。但し、いずれも計測される信号は、PIO15を介してCPU11に取り込まれる。従って、請求項における演算処理手段は実施形態におけるCPU11をいい、請求項における入力手段は実施形態におけるPIO15をいい、請求項における記憶装置は実施形態における主メモリ12またはHDD14をいい、請求項における報知手段は、実施形態におけるLCD4をいうものとする。
なお、低周期センサ2により取り込まれる信号(データ)の中には、CAN(車内LAN:Control Area Network)やGPS(Global Positioning System)を介して取り込まれる、車速、方位、エンジン回転速度、アクセル開度、ブレーキ踏み圧、操舵角、A/F(Air/Fuel)比、燃料噴射量等の各データがある。以下、センサ1はマイク(Mic1,Mic2,Mic3)として説明する。
【0011】
図2は、本発明実施形態における車両異常診断装置の内部構成を機能展開して示したブロック図である。
図2に示されるように、車両異常診断装置3は、機能的には、独立成分分析部31と、独立信号周波数変換部32と、周波数同定部33と、周波数診断部34と、センサ配置テーブル35と、センサ強度マッチング部36と、信号強度推定部37と、信号強度診断部38と、ルールDB50とで構成される。
【0012】
独立成分分析部31は、センサ1によって計測される信号の独立成分分析を行い、独立事象信号に分離して独立信号周波数変換部32に供給する。また、独立成分分析部31は、後記する混合係数テーブル360を生成してセンサ強度マッチング部36に供給する。
ここで、独立成分分析とは、マイクによって集音した複数の音源の音が重畳された状態から、音源毎に、特性の異なる音響成分を分離抽出する周知の信号処理手法であり、本発明実施形態では、時間遅れを考慮した独立成分分析である、Blind Deconvolution手法を用いることとした。このBlind Deconvolution手法についての詳細は、「Cichocki and Amari, Adaptive Blind Signal and Image Processing, Wiley, pp.335-421」に開示されている。
【0013】
独立成分分析部31により出力される分離信号(以下、独立事象信号という)は、独立信号周波数変換部32に供給され、ここで周波数に変換された信号は、周波数同定部33ならびに周波数診断部34に供給される。周波数同定部33は、独立信号周波数変換部32により周波数変換された信号を同定(本発明実施形態ではフーリエ変換)して診断の対象となる周波数を抽出する。
また、周波数診断部34で周波数解析された結果に基づきルールDB50を比較参照して得られる診断結果は、外部接続される警告表示部4(LCD4)に表示される。
なお、ルールDB50には、あらかじめ異常発生時の音に関する周波数データが格納されているものとする。
【0014】
一方、センサ強度マッチング部36には、独立成分分析部31により生成される混合係数テーブル360の他に、センサ配置テーブル35に格納されたデータが供給されている。センサ配置テーブル35には、マイク設置場所と診断部位との間の距離に関するデータが設定されており、あらかじめHDD14に格納されている。混合係数テーブル360およびセンサ配置テーブル35は、図5にそのデータ構造の一例が示されている。詳細は後記する。
【0015】
センサ強度マッチング部36で、センサ配置テーブル35に記録されたデータと独立成分分析部31により生成される混合係数テーブル360との比較が行われる。ここで算出される音源の位置に関するデータは、信号強度推定部37へ供給される。
信号強度推定部37は、前記したセンサ強度マッチング部36で算出される音源の位置データを用い、KB5を介してユーザによって入力される診断部位における信号強度の推定のための演算を行う。ここで推定された信号強度に関するデータは、信号強度診断部38に供給され、ここで信号強度に関する閾値データとの比較がなされ、その結果によっては外部接続される警告表示部4(LCD4)に警告を意図する表示を行う。なお、警告表示部4による警告は、前記した表示の他に、ビープ音で代替してもよい。また、信号強度の閾値データは、図1に示すHDD14に記憶されている。
【0016】
図3は、本発明実施形態に係る車両異常診断装置の動作を説明するために引用したフローチャートである。
以下、図3に示すフローチャートを参照しながら、図1、図2に示す本発明実施形態に係る異常診断装置の動作について詳細に説明する。
【0017】
図3において、車両異常診断装置3は、まず、センサ1、ここでは複数のマイクにより計測されたセンサ計測信号を時系列で取込む(S31)。続いて、独立成分分析部31において時系列信号の独立成分分析が行われ(S32)、分離抽出された独立事象信号を独立信号周波数変換部32へ、そして、生成される混合係数テーブル360をセンサ強度マッチング部36へ供給する。
【0018】
独立成分分析部31は、混合係数テーブル360を生成するにあたり、まず、分離され、抽出された独立事象信号からシステム同定を行う。「システム同定」とは、システム(系)に対する入力と出力の波形を周知の方法により数学モデル化し、実際の出力とモデル出力との比較を行うことにより最適な入力設計を行い、実際の入力データとの比較と数学モデルを含む集合の決定を行うことである。本発明実施形態においては、前記した比較のために伝達関数を用いている。なお、前記したシステム同定については、「システム同定−部分空間方からのアプローチ」、片山徹著、朝倉書店、pp.203−206に詳細に記されている。
本発明実施形態では、Blind Deconvolution手法により分離された信号を入力とし、センサ1によって計測される信号を出力とする伝達関数G(z)の位相を求め、それを周波数で微分することにより入力から出力への群遅延を求める。そして、対象周波数の平均値を遅延時間とし、その周期を算出することにより、それぞれの音源とマイクとの間の距離を求めて混合係数テーブル360を作成する(S33)。
【0019】
詳細には、伝達関数G(z)の周波数ωjでの位相をφiとすれば、φiは、以下の演算式(1)で表現される。
【0020】
【数1】

【0021】
そのときの群遅延は、−(dφi/dωi)であるため、求めるべき遅延時間tは、以下の演算式(2)により算出される。
【0022】
【数2】

【0023】
但し、min、maxは、それぞれ、対象となる周波数の最小値と最大値、T=min−maxである。
【0024】
図4は、マイク取り付け者によって記憶装置に登録されるセンサ配置テーブル35と、独立成分分析部31により生成される混合係数テーブル360のデータ構造の一例を示す図である。
センサ強度マッチング部36は、混合係数テーブル360と、各診断部位からマイクまでの距離が設定されたセンサ配置テーブル35とのマッチング(比較)による対応付けを行う(S34)。ここでは、対応付けがなされるまでS34の処理が繰り返し実行され、ここで音源の位置が特定され、そして、音源と診断部位との対応付けがなされると(S34、“≒”)、S35へ進む。
【0025】
図4に示されるように、センサ配置テーブル35の縦方向にはセンサ1として設置されるマイク(Mic1〜Mic3)が、横方向にはエンジン(Engine)、ステア(Stare)、タイヤ(Tire)等の診断部位が示され、マイク(Mic1、Mic2、Mic3)毎に、そのマイクと診断部位との距離(例えば、マイク1とエンジンとの間の距離はl1eである)が示されている。
また、混合係数テーブル360の縦方向には、センサ1として設置されるマイク(Mic1、Mic2、Mic3)が、横方向には音源(Sound1〜Sound3)が示され、マイク毎に、そのマイクと音源との距離(例えば、マイク1とサウンド1との間の距離はl11である)が示されている。
【0026】
センサ強度マッチング部36は、センサ配置テーブル35と混合係数テーブル360に設定されたそれぞれの距離データを比較して両者の対応付けを行う。そして、その結果として音源位置の特定を行う。ここで、音源位置の特定とは、各音源に診断部位を対応付けることをいう。
具体的には、センサ強度マッチング部36は、マイク(Mic1〜Mic3)毎に、マイクの位置を中心とし、混合係数テーブル360に設定された距離(l11,l12,l31)を半径とする球を描く処理を実行し、それぞれの球が重なり合う交点を求める(GPS:Global Positioning System測位の原理を利用)。この交点が音源の座標になる。同様に、センサ配置テーブル35を参照し、マイク(Mic1〜Mic3)毎に、マイクの位置を中心に、登録された既知の距離(l1e,l2e,l3e)を半径とする球を描く処理を実行し、それぞれの球が重なり合う交点により、Engine、Stare…の診断部位の座標を求める。そして、各音源に対し、それぞれの音源から見て最も近くに位置する診断部位を対応付ける。これがセンサ強度マッチングのためのアルゴリズムである。前記した処理により、各音源が診断部位のいずれに対応するのか判断することができる。
なお、音源が、Engine、Stare…の診断部位から所定距離以上離れていることが確認された場合、センサ強度マッチング部36は、音源の位置は特定できなかったと判断する。所定距離に関するデータは、HDD14に記憶されている。
【0027】
一方、信号強度推定部37は、前記したセンサ強度マッチング部36で特定された音源に関し、信号強度を推定するための演算を行う(S35)。具体的には、各音源の信号強度を合成することにより、車内の任意の場所における騒音や振動パワーの推定を行うものである。
ここでは、前記により音源が特定され、ユーザが、例えば、KB5を操作し、あるいはLCD4に表示された診断部位を指定したとする。このとき、信号強度推定部37は、以下の処理を実行する。
【0028】
図5(a)(b)は、診断部位の信号強度を推定する動作を説明するために引用した図である。
図5(a)の各音源(Sound 1〜Sound n)における信号強度をPi[W/m2]、各音源(Sound 1〜Sound n)から診断部位(例えばEngine)までの距離をli(l1〜ln)とすれば、診断部位の信号強度P[W/m2]は以下の演算式(3)により求められる。
【0029】
【数3】

【0030】
このことにより、Pi[W/m2]を図5(b)の各音源(Sound 1〜Sound n)の信号強度、Piを診断部位(Engine、Stare…)の信号強度、lijを診断部位iから音源j迄の距離とした場合、複数の音源(Sound 1〜Sound n)および複数の診断部位(Engine、Stare…)が存在するときの推定信号強度は、以下の連立一次方程式(4)を解くことにより求めることができる。
【0031】
【数4】

【0032】
一方、独立成分分析部31から独立事象信号を受信した独立信号周波数変換部32では、分離信号の周波数変換が実行され、その信号は、周波数同定部33に供給される。周波数同定部33では、フーリエ変換を行って診断の対象となる周波数を抽出し、その周波数を周波数診断部34へ供給している。
周波数診断部34では、独立成分分析部31により分離され、独立信号周波数変換部32により変換された信号、あるいは低周期センサ2によって計測された信号の中から、前記した周波数同定部33によって抽出された診断対象となる周波数のみを取り込み、ルールDB50と比較することによって異常診断を行う。ルールDB50にはあらかじめ異音に関する周波数データが格納されており、このため、周波数診断部34は、ルールDB50に格納された周波数と前記取り込まれた周波数が一致した場合に異常と診断し、警告表示部4による異常表示を行う。なお、ルールDB50は、HDD14に格納されている。
【0033】
信号強度推定部37で演算された信号強度に関するデータは、信号強度診断部38に供給される。信号強度診断部38は、ユーザにより指定される診断部位の信号強度と、あらかじめ定義される閾値(HDD14に記憶されている)との比較を行い、信号強度が閾値を超えた場合、警告表示部4に警告表示を行わせる。
また、周波数診断部34も前記したように周波数診断を行い(S36)異常音の診断も行う。ここで異常が認められた場合は(S37、“NG”)、警告表示部4を介して、例えば、「エンジン音不良により停止」等の警告表示を行い(S38)、ユーザに通知することができる。正常の場合(S37、“Yes”)はそのまま処理を終了する。なお、警告表示はビープ音等により代替してもよい。
なお、異常が検知された場合は警告表示を行ってユーザに通知する他に、設計にフィードバックして改善のために次の設計に反映させることもできる。
【0034】
ここで、minimal fuel問題を適用した場合の動作について簡単に説明する。CPU11が、独立成分分析により分離された信号の数が所定数を超えたと判断したとき、CPU11は、minimal fuel問題を適用し、新たに認知された信号(新信号)に基づく音源の位置の特定が行なわれる。音源の位置の特定は前記した独立成分分析から信号強度推定に至る処理を実行することにより実現される。ここで、音源の位置が特定できなかった場合、前記した新信号は、あらかじめ登録した診断部位以外から発生した音であると判断して警告表示部4を介し突発事象として警告する。
なお、Minimal fuel問題は、信号解析手法の一つであり、例えば、「Cichocki and Amari, Adaptive Blind Signal and Image Processing, Wiley, pp.81-86」にその詳細が開示されている。
【0035】
図6は本発明実施形態に係る異常診断方法を説明するために引用した図である。図6において、まず、工場やディーラ等において車両の任意の位置にセンサ1を取り付ける。ここではセンサ1として取り付けられるマイクにより計測された信号は、マイク毎、時系列で車両に設置された端末に取り込まれる(S401)。
なお、センサ取付け者は、マイク設置状況(マイクと車両の各診断部位との距離の関係)について、事前にセンサ配置テーブル35に登録しておく(S402)。そして、ディーラに設置されたコンピュータ(車両異常診断装置3)を用い、独立成分分析により、取り込まれた信号を独立事象信号に分離するための計算を行う(S403)。そして、センサ設置箇所と車両の診断部位との距離が記録されたセンサ配置テーブル35を参照して混合係数テーブル360との比較を行って(S404)、分離された信号が示す独立事象波形と診断部位との対応付けを行い音源の位置を特定する(S405)。
【0036】
次に、分離された信号の強度を合成してユーザによって指定される診断部位の信号強度を推定し(S406)、また、分離された信号とルールDB50に格納された周波数データとの比較により周波数診断を行う(S407)。ここで異常が検知された場合は警告表示を行いユーザに通知する。また、異常の内容を設計にフィードバックすることにより、改善のために次の設計に反映させることができる。なお、ここでは、車両に搭載される端末とディーラに設置される異常診断装置とは別コンポーネントとして例示したが、車両に搭載される端末に診断装置が持つ機能を取込んでもよい。
【0037】
図7は、本発明の他の実施形態を説明するために引用した図である。本発明実施形態によれば、道路管理センタ20に設置されるサーバ(図示せず)に本発明の診断装置としての機能を盛り込み、移動通信網を介して車両10に取り付けられたセンサ(GPS、振動センサ)による計測データを取り込み、各種サービスをオンライン提供することができる。
例えば、サーバは、(a)センサを介して路面の振動情報を取込み、(b)ヒヤリハット警告と同等のサービスを提供し、(c)路面状況をアナウンスすると共に、(d)運転者に限界ブレーキやハンドルに関する警告を行う。また、「エンジン音不良のため緊急停止して下さい」、「突発事象発生!荷崩れをチェックして下さい」等のメッセージにより、運転者への注意喚起も可能である。
【0038】
なお、図7において、路面DBには振動情報を生成するために必要な路面の状況データが格納され、また、携帯電話30はインターネット接続環境を内蔵し、車両10に搭載される端末と道路管理センタ20に設置されたサーバとの交信ツールとして用いられる。車両に搭載された端末がこの機能を持つ場合、携帯電話は不要である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明実施形態に係る異常診断装置の内部構成を示すブロック図である。
【図2】本発明実施形態における異常診断装置の内部構成を機能展開して示したブロック図である。
【図3】本発明実施形態に係る異常診断装置の動作を説明するために引用したフローチャートである。
【図4】本発明実施形態に係る異常診断装置のセンサ配置テーブルと混合係数テーブルのデータ構造の一例を示す図である。
【図5】本発明実施形態に係る異常診断装置の動作を説明するために引用した図である。
【図6】本発明実施形態に係る異常診断方法を説明するために引用した図である。
【図7】本発明の他の実施形態を説明するために引用した図である。
【符号の説明】
【0040】
1 センサ
2 低周期センサ
3 車両異常診断装置
4 LCD(警告表示部)
11 CPU(演算処理手段)
12 主メモリ(記憶装置)
11 PIO(入力ポート)
31 独立成分分析部
32 独立信号周波数変換部
33 周波数同定部
34 周波数診断部
35 センサ配置テーブル
36 センサ強度マッチング部
37 信号強度推定部
38 信号強度診断部
50 ルールDB
360 混合係数テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の任意の位置に設置されたセンサを介して音源の位置を特定し、前記移動体の診断部位の異常診断を行う異常診断装置であって、
前記センサによって計測される信号を取り込む入力手段と、
前記取り込まれた信号の独立成分分析により分離された信号に対してシステム同定を行い、前記システム同定の結果生成される伝達関数の位相の遅延時間を算出し、前記遅延時間によって求められる前記音源の位置から前記センサまでの距離と、あらかじめ記憶装置に格納された前記診断部位から前記センサまでの距離との比較を行い、前記音源の位置を特定する演算処理手段と、
を具備することを特徴とする異常診断装置。
【請求項2】
前記演算処理手段は、
前記位置が特定された音源の信号強度と、外部から指定される診断部位から前記音源までの距離とに基づき前記診断部位における信号強度を算出し、前記算出した信号強度と、警告表示のためにあらかじめ定義された信号強度の閾値との比較を行い、前記診断部位の異常診断を実行することを特徴とする請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
前記演算処理手段は、
前記分離された信号を周波数に変換し、前記記憶装置にあらかじめ格納された異常発生時における周波数データと比較し、前記診断部位の異常診断を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記異常診断の結果を報知する報知手段を更に具備することを特徴とする請求項2または3に記載の異常診断装置。
【請求項5】
前記演算処理手段は、
前記独立成分分析により分離された信号の数が所定数を超えたと判断したときに、minimal fuel問題を適用して前記認知した信号の独立成分分析を再度行い、前記認知した信号が示す音源の位置の特定を行うことを特徴とする請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項6】
移動体の任意の位置に設置されたセンサを介して音源の位置を特定し、前記移動体の診断部位の異常診断を行う異常診断方法であって、
異常診断装置を構成する演算処理装置は、
前記センサによって計測される信号を取り込む第1のステップと、
前記取り込まれた信号の独立成分分析により分離された信号のシステム同定を行い、前記システム同定の結果生成される伝達関数の位相の遅延時間を算出し、前記遅延時間によって求められる前記音源の位置から前記センサまでの距離と、あらかじめ記憶装置に登録される前記診断部位から前記センサまでの距離との比較を行い、前記音源の位置を特定する第2のステップと、
を実行することを特徴とする異常診断方法。
【請求項7】
移動体の任意の位置に設置されたセンサを介して音源の位置を特定し、前記移動体の診断部位の異常診断を行う異常診断方法であって、
異常診断装置を構成する演算処理装置は、
前記センサによって計測される信号を取り込む第1のステップと、
前記取り込まれた信号の独立成分分析により分離された信号のシステム同定を行い、前記システム同定の結果生成される伝達関数の位相の遅延時間を算出し、前記遅延時間によって求められる前記音源の位置から前記センサまでの距離と、あらかじめ記憶装置に登録される前記診断部位から前記センサまでの距離との比較を行い、前記音源の位置を特定する第2のステップと、
前記位置が特定された音源の信号強度と、外部から指定される前記診断部位から前記音源までの距離とに基づき、前記診断部位における信号強度を算出し、前記算出した信号強度と、警告表示のためにあらかじめ定義された信号強度の閾値との比較を行う第3のステップと、
前記分離された信号を周波数に変換し、前記周波数を前記記憶装置にあらかじめ格納された異常発生時における周波数データと比較する第4のステップと、
前記それぞれの比較により異常診断の結果を報知する第5のステップと、
を実行することを特徴とする異常診断方法。
【請求項8】
前記第2のステップは、
前記センサの位置を中心に、前記求められた音源の位置と前記センサとの間の距離を半径とする球を描く処理を実行し、それぞれの球が重なり合う前記音源の座標を求めるステップと、
前記センサの位置を中心に、前記記憶装置に格納された、前記診断部位から前記センサまでの距離を半径とする球を描く処理を実行し、それぞれの球が重なり合う前記診断部位の座標を求めるサブステップと、
前記求められた音源の座標のそれぞれに対し、最も近くに位置する前記診断部位の座標を対応付けるサブステップと、
を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の異常診断方法。
【請求項9】
移動体の任意の位置に設置されたセンサを介して音源の位置を特定し、前記移動体の診断部位の異常診断を行う異常診断装置に用いられるプログラムであって、
前記センサによって計測される信号を取り込む第1の処理と、
前記取り込まれた信号の独立成分分析により分離された信号のシステム同定を行い、前記システム同定の結果生成される伝達関数の位相の遅延時間を算出し、前記遅延時間によって求められる前記音源の位置から前記センサまでの距離と、あらかじめ記憶装置に登録される前記診断部位から前記センサまでの距離との比較を行い、前記音源の位置を特定する第2の処理と、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項10】
前記第2の処理は、
前記センサの位置を中心に、前記求められた音源の位置と前記センサとの間の距離を半径とする球を描く処理を実行し、それぞれの球が重なり合う前記音源の座標を求める処理と、
前記センサの位置を中心に、前記記憶装置に格納された、前記診断部位から前記センサまでの距離を半径とする球を描く処理を実行し、それぞれの球が重なり合う前記診断部位の座標を求める処理と、
前記求められた音源の座標のそれぞれに対し、最も近くに位置する前記診断部位の座標を対応付ける処理と、
を含むことを特徴とする請求項9に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−208075(P2006−208075A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17933(P2005−17933)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】