説明

発光ダイオード素子及びその製造方法並びに単結晶SiC材料及びその製造方法

【課題】同じ組み合わせのドナー性不純物及びアクセプタ性不純物であっても、光の波長域を変化させたり、波長域を拡げることのできる発光ダイオード素子及びその製造方法並びに単結晶SiC材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】発光ダイオード素子1において、半導体発光部と、ドナー性不純物及びアクセプタ性不純物が添加された単結晶SiCからなり、ポーラス状態が連続的に変化するポーラス領域24を含み、半導体発光部の光により励起されるとドナー・アクセプタ・ペア発光により可視光を発するSiC部2と、を有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード素子及びその製造方法並びに単結晶SiC材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体のpn接合による発光素子として、LED(発光ダイオード)が広く実用化され、主に、光伝送、表示及び特殊照明用途に用いられている。近年、窒化物半導体と蛍光体を用いた白色LEDも実用化され、今後は一般照明用途への展開が大いに期待されている。しかし、白色LEDにおいては、エネルギー変換効率が既存の蛍光灯と比較して不十分のため、一般照明用途に対しては大幅な効率改善が必要である。さらに、高演色性、低コスト且つ大光束のLEDの実現のためには多くの課題が残されている。
【0003】
現在市販されている白色LEDとして、リードフレームに実装された青色発光ダイオード素子と、この青色発光ダイオード素子に被せられYAG:Ceからなる黄色蛍光体層と、これらを覆いエポキシ樹脂等の透明材料からなるモールドレンズと、を備えたものが知られている。この白色LEDでは、青色発光ダイオード素子から青色光が放出されると、黄色蛍光体を通り抜ける際に青色光の一部が黄色光に変換される。青色と黄色は互いに補色の関係にあることから、青色光と黄色光が交じり合うと白色光となる。
【0004】
さらに、蛍光体を利用することなく、単独で白色光を生成する発光ダイオード素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この発光ダイオード素子では、B及びNをドープした第1SiC層と、Al及びNをドープした第2SiC層を有する蛍光SiC基板が用いられ、多重量子井戸活性層から近紫外光が放出される。近紫外光は、第1SiC層及び第2SiC層にて吸収され、第1SiC層にて緑色から赤色の可視光に、第2SiC層にて青色から赤色の可視光にそれぞれ変換される。この結果、蛍光SiC基板から演色性が高く太陽光に近い白色光が放出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4153455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の発光ダイオード素子では、同じ組み合わせのドナー性不純物及びアクセプタ性不純物を含むSiCからは、所定の波長域の光が発せられる。同じ組み合わせのドナー性不純物及びアクセプタ性不純物であっても、光の波長域を変化させたり、波長域を拡げることができれば、蛍光基板や発光素子の設計が容易となるし、例えば、特許文献1の素子において2つのSiC層のうち一方を省略することも可能となる。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、同じ組み合わせのドナー性不純物及びアクセプタ性不純物であっても、光の波長域を変化させたり、波長域を拡げることのできる発光ダイオード素子及びその製造方法並びに単結晶SiC材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明では、半導体発光部と、ドナー性不純物及びアクセプタ性不純物が添加された単結晶SiCからなり、ポーラス状態が連続的に変化するポーラス領域を含み、前記半導体発光部の光により励起されるとドナー・アクセプタ・ペア発光により可視光を発するSiC部と、を有する発光ダイオード素子が提供される。
【0009】
上記発光ダイオード素子において、前記SiC部は、バルク領域を含むことが好ましい。
【0010】
上記発光ダイオード素子において、前記単結晶SiCは6H型であることが好ましい。
【0011】
上記発光ダイオード素子において、前記ドナー性不純物はNであり、前記アクセプタ性不純物はBであることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記発光ダイオード素子の製造方法であって、ドナー性不純物及びアクセプタ性不純物が添加されたバルク状の単結晶SiCへ通電可能な電極を形成する電極形成工程と、前記電極と通電可能な単結晶SiCに部分的にマスクを形成するマスク形成工程と、前記マスクが形成された単結晶SiCに対して陽極酸化を行って前記ポーラス領域を形成する陽極酸化工程と、を含む発光ダイオード素子の製造方法が提供される。
【0013】
さらに、本発明は、ドナー性不純物及びアクセプタ性不純物が添加され、ポーラス状態が連続的に変化するポーラス領域を含み、所定の光により励起されるとドナー・アクセプタ・ペア発光により可視光を発する単結晶SiC材料が提供される。
【0014】
上記単結晶SiC材料において、バルク領域を含むことが好ましい。
【0015】
上記単結晶SiC材料において、6H型であることが好ましい。
【0016】
上記単結晶SiC材料において、前記ドナー性不純物はNであり、前記アクセプタ性不純物はBであることが好ましい。
【0017】
さらにまた、本発明では、上記単結晶SiC材料の製造方法であって、ドナー性不純物及びアクセプタ性不純物が添加されたバルク状の単結晶SiCに電極を形成する電極形成工程と、前記電極が形成された単結晶SiCに部分的にマスクを形成するマスク形成工程と、前記マスクが形成された単結晶SiCに対して陽極酸化を行って前記ポーラス領域を形成する陽極酸化工程と、を含む単結晶SiC材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、同じ組み合わせのドナー性不純物及びアクセプタ性不純物であっても、光の波長域を変化させたり、波長域を拡げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態を示す発光ダイオード素子の模式断面図である。
【図2】図2は、SiC基板の模式断面図であり、(a)は一面にオーミック電極が形成された状態を示し、(b)は他面にマスクが形成された状態を示す。
【図3】図3は、SiC基板をポーラス化する陽極酸化装置の説明図である。
【図4】図4は、ポーラス領域が形成されたSiC基板の模式断面図であり、(a)はマスク及び電極の除去前を示し、(b)はマスク及び電極の除去後を示す。
【図5】図5は、作製したポーラス領域の断面の電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、SiC基板のポーラス領域の拡大説明図である。
【図7】図7は、変形例を示し、半導体層上に電極が形成されたバルク状のSiC基板の模式断面図である。
【図8】図8は、変形例を示し、ポーラス領域が形成されたSiC基板の模式断面図である。
【図9】図9は、本発明の一実施形態を示す発光ダイオード素子の模式断面図である。
【図10】図10は、試料体1の発光波長と発光強度を示すグラフである。
【図11】図11は、試料体2の発光波長と発光強度を示すグラフである。
【図12】図12は、試料体3の発光波長と発光強度を示すグラフである。
【図13】図13は、試料体4の発光波長と発光強度を示すグラフである。
【図14】図14は、試料体5の発光波長と発光強度を示すグラフである。
【図15】図15は、試料体6の発光波長と発光強度を示すグラフである。
【図16】図16は、ドナー・アクセプタ・ペア発光を説明するための図であり、(a)はバルク結晶中の状態を示し、(b)はポーラス結晶中の状態を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1から図5は本発明の一実施形態を示すものであり、図1は発光ダイオード素子の模式断面図である。
【0021】
図1に示すように、発光ダイオード素子1は、SiC基板2と、SiC基板2上に形成される窒化物半導体層と、を備えている。半導体発光部としての窒化物半導体層は、熱膨張係数が5.6×10−6/℃であり、バッファ層4、n型層6、多重量子井戸活性層8、電子ブロック層10、p型クラッド層12、p型コンタクト層14をSiC基板2側からこの順に有している。p型コンタクト層14上にはp側電極16が形成され、SiC基板2の裏面側にn側電極18が形成されている。
【0022】
SiC部としてのSiC基板2は、単結晶6H型SiCからなり、熱膨張係数が4.2×10−6/℃である。SiC基板2は、ドナー性不純物としてのN及びアクセプタ性不純物としてのBが添加されたバルク状の単結晶6H型SiCからなるバルク領域22と、N及びBが添加されたポーラス状の単結晶6H型SiCからなるポーラス領域24と、を有している。ポーラス領域24は、領域内にてポーラス状態が連続的に変化しており、具体的には空洞径が連続的に変化している。尚、ここでいうバルク状とは、内部にて他の物質との界面が存在しない状態または界面が存在したとしても物性値の変化が無視できる程度の状態をいう。また、ここでいうポーラス状とは、多孔質状に形成されて内部にて雰囲気との界面が存在する状態をいう。
【0023】
バルク領域22は、紫外光により励起されると、ドナー・アクセプタ・ペア発光により、おおよそ黄色から橙色の可視光を発する。バルク領域22は、例えば、500nm〜650nmにピークを有する500nm〜750nmの波長の光を発する。本実施形態においては、バルク領域22は、ピーク波長が580nmの光を発するよう調整されている。バルク領域22におけるB及びNのドーピング濃度は、1015/cm〜1019/cmである。ここで、バルク領域22は、408nm以下の光により励起可能である。
【0024】
ポーラス領域24は、紫外光により励起されると、ドナー・アクセプタ・ペア発光により、おおよそ青色から緑色の可視光を発する。ポーラス領域24は、例えば、390nm〜500nmにピークを有する380nm〜700nmの波長の光を発する。本実施形態においては、ポーラス領域24は、ピーク波長が450nmの光を発するよう調整されている。ポーラス領域24におけるB及びNのドーピング濃度は、1015/cm〜1019/cmである。ポーラス領域24は、表面が保護膜により覆われており、雰囲気に直接的に曝されないようになっている。本実施形態においては、保護膜は窒化物により構成されている。
【0025】
バッファ層4は、SiC基板2上に形成され、AlNで構成されている。本実施形態においては、バッファ層4は、後述するn型層6等よりも低温にて成長されている。n型層6は、バッファ層4上に形成され、n−GaNで構成されている。
【0026】
多重量子井戸活性層8は、n型層6上に形成され、GalnN/GaNで構成され、電子及び正孔の注入により例えば励起光を発する。本実施形態においては、多重量子井戸活性層8は、Ga0.95ln0.05N/GaNからなり、発光のピーク波長は385nmである。尚、多重量子井戸活性層8におけるピーク波長は任意に変更することができる。
【0027】
電子ブロック層10は、多重量子井戸活性層8上に形成され、p―AIGaNで構成されている。p型クラッド層12は、電子ブロック層10上に形成され、p−AlGaNで構成されている。p型コンタクト層14は、p型クラッド層12上に形成され、p−GaNで構成されている。
【0028】
バッファ層4からp型コンタクト層14までは、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長により形成される。尚、第1導電型層、活性層及び第2導電型層を少なくとも含み、第1導電型層及び第2導電型層に電圧が印加されると、電子及び正孔の再結合により活性層にて光が発せられるものであれば、窒化物半導体層の層構成は任意である。
【0029】
p側電極16は、p型コンタクト層14上に形成され、例えばNi/Auからなり、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。n側電極18は、SiC基板2に形成され、例えばTi/Al/Ti/Auからなり、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。
【0030】
次いで、図2から図4を参照して発光ダイオード素子1の製造方法について説明する。図2はSiC基板の模式断面図であり、(a)は一面にオーミック電極が形成された状態を示し、(b)は他面にマスクが形成された状態を示す。
【0031】
まず、昇華法によりB及びNがドープされたバルク状の単結晶6H型SiCを生成し、バルク領域22からなるSiC基板2を作製する(バルクSiC準備工程)。尚、SiC結晶のB及びNのドーピング濃度は、結晶成長時の雰囲気ガス中への不純物ガスの添加および原料粉末への不純物元素またはその化合物の添加により制御することができる。SiC基板2の厚さは任意であるが、例えば250μmである。尚、このSiC基板2は、昇華法のバルク成長により30mm程度のバルク結晶を作製しておき、外周研削、スライス、表面研削、表面研磨等の工程を経て作製されている。
【0032】
そして、図2(a)に示すように、SiC基板2の一面にオーミック電極201を形成する(電極形成工程)。本実施形態においては、オーミック電極201は、Niからなり、スパッタ法により堆積した後、熱処理が施される。オーミック電極201の厚さは任意であるが、例えば100nmであり、例えば1000℃程度で熱処理される。ここで、SiC基板2の(0001)Si面側にポーラス領域24を形成する場合、オーミック電極201をC面に形成することとなる。尚、C面側にポーラス領域24を形成する場合は、オーミック電極201をSi面に形成すればよい。
【0033】
次いで、図2(b)に示すように、SiC基板2の他面に部分的にマスク222を形成する(マスク形成工程)。本実施形態においては、マスク222は、絶縁体からなり、ストライプ状の開口222aを有し、フォトリソグラフィ技術を用いて形成される。マスク222の材料は任意であるが、例えばフォトレジストを用いることができる。また、本実施形態においては、複数の開口222aがストライプ状に形成されている。ストライプ状のマスク222及び開口222aの幅は任意であるが、例えばマスク222の幅を100μm〜200μmとし、開口222aの幅を10μm〜100μmとすることができる。尚、開口222aの形状も任意であり、ポーラス領域24の平面視形状に対応して形成すればよい。
【0034】
図3はSiC基板をポーラス化する陽極酸化装置の説明図である。
図3に示すように、陽極酸化装置200は、SiC基板2が載置されるステンレス板202と、ステンレス板202の上方に配置されSiC基板2の直上に形成された開口204を有する容器206と、容器206の内部に配置される白金ワイヤ208と、SiC基板2及び白金ワイヤ208に電圧を印加する直流電源210と、を備えている。容器206は、耐フッ酸性シート212を介してステンレス板202の上に設けられ、内部が溶液214で満たされている。また、容器206は、内部へ紫外光218を入射可能な開口216が上部に形成されている。容器206には、例えばポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。
【0035】
本実施形態においては、溶液214は、フッ化水素酸を純水で希釈したフッ化水素酸水溶液で、酸化補助剤としての過硫酸カリウムが任意に加えられたものである。フッ化水素酸の濃度は任意であるが、例えば質量濃度で3%〜10%とすることができる。フッ化水素酸の溶媒として、水以外にエタノール等を用いることもできる。また、過硫酸カリウムを加えるか否かは任意であるし、加える場合の濃度も任意であるが、例えば0.1mol/l未満とすることができる。過硫酸カリウムは、SiC結晶の化学的酸化反応を促進する働きを持っていることから、陽極酸化にてポーラス領域24の形成を促進することができる。尚、酸化補助剤として、過硫酸カリウム以外に、硫酸、硝酸等を用いることができる。
【0036】
この陽極酸化装置200にて、バルク領域22が溶液214と接触する状態で、直流電源210によりオーミック電極201にプラスの電圧を印加して、SiC基板2と白金ワイヤ208の間に電流を流す。電流が流れ始めると、SiC基板2の表面から内部へ向かって、下記の化学反応が進行する。
【0037】
SiC+6OH→SiO+CO+2HO+2H+8e・・・(1)
SiO+6F+2H→HSiF+2HO+4e・・・(2)
【0038】
SiCは酸化反応によりSiOとCOに変化し、SiOはさらにフッ素イオンによって水溶性のHSiFに変化して溶液に融解する。COは気体であることから、そのまま気化によって消失する。この反応は、SiC原子結合の比較的弱い方向へ進行し、SiC基板102の表面に対して所定角度だけ傾いた方向に空洞が形成される。
【0039】
図4はポーラス領域が形成されたSiC基板の模式断面図であり、(a)はマスク及び電極の除去前を示し、(b)はマスク及び電極の除去後を示す。図5は作製したポーラス領域の断面の電子顕微鏡写真である。
図4(a)に示すように、陽極酸化反応により、マスク222の開口222aを通じて、バルク領域22の表面側からポーラス領域24が形成されていく(陽極酸化工程)。必要なポーラス領域24の形成が終わったら、図4(b)に示すように、マスク222及びオーミック電極201を除去する。図5に示すように、実際に得られたポーラス領域24においては、比較的規則性のある空洞が断面を横切っていることがわかる。ここで、SiC基板2の(0001)Si側面にて反応が進行する場合は、表面に対して54度傾いた方向に空洞が形成される。
【0040】
図6はSiC基板のポーラス領域の拡大説明図である。
本実施形態においては、バルク領域22の一部がマスク222により覆われており、陽極酸化反応時にFイオン及びOHイオンがマスク222表面からバルク領域22の露出部分へ向かって拡散するため、バルク領域22の露出部分におけるマスク222のエッジ付近で最も反応が早くなり、エッジから遠ざかるほど反応が遅くなる。この結果、図6に示すように、空洞径のサイズが水平方向で異なるポーラス領域24が形成される。
【0041】
また、過硫酸カリウムを付加することにより、上式(1)の反応が促進され、ポーラス領域24における空洞の数を多くすることができる。これにより、残留してポーラス領域24を構成する結晶の平均サイズを小さくすることができる。
【0042】
本実施形態においては、ポーラス領域24を形成した後、SiC基板2の熱処理を行う(熱処理工程)。具体的には、水素雰囲気中にて1000℃〜1400℃で熱処理を行うことにより、ポーラス領域24の結晶表面に過剰に析出しているCを除去する。
【0043】
また、本実施形態においては、ポーラス領域24の熱処理を行った後、保護膜の形成を行う(保護膜形成工程)。具体的には、アンモニア雰囲気中にて1000℃〜1400℃で熱処理を行うことにより、清浄な結晶の表面上にSiの保護膜を形成する。これにより、ポーラス領域24の表面準位を安定的に低減させることができる。
【0044】
このようにして、ポーラス領域24を有するSiC基板2が作製される。この後、SiC基板2にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる。本実施形態においては、例えば有機金属化合物気相成長法によってAlNからなるバッファ層4を成長させた後、n−GaNからなるn型層6、多重量子井戸活性層8、電子ブロック層10、p型クラッド層12及びp型コンタクト層14を成長させる。窒化物半導体層を形成した後、各電極16,18を形成し、ダイシングにより複数の発光ダイオード素子1に分割することにより、発光ダイオード素子1が製造される。ここで、図4(b)に示すSiC基板2は、発光ダイオード素子1の基板とせずに、蛍光体板として利用することも可能である。
【0045】
以上のように構成された発光ダイオード素子1は、p側電極16とn側電極18に電圧を印加すると、多重量子井戸活性層8から紫外光が放射状に発せられる。多重量子井戸活性層8から発せられる紫外光のうち、p側電極16へ向かうものについては、大部分がp側電極16にて反射してSiC基板2へ向かう。従って、多重量子井戸活性層8から発せられた光は、殆どがSiC基板2へ向かうこととなる。
【0046】
SiC基板2へ入射した紫外光は、ポーラス領域24にて青色から緑色の第1可視光に変換され、残りがバルク領域22にて黄色から橙色の第2可視光に変換される。これらの光は、SiC基板2から外部へ放出され、太陽光に似た演色性の高い白色光を得ることができる。例えば、ポーラス領域24にて450nmにピーク波長を有する第1可視光を発し、バルク領域22にて580nmにピーク波長を有する第2可視光を発するようにすると、可視光域のほぼ全てをカバーする純白色の発光ダイオード素子1を実現することができる。
【0047】
このように、本実施形態の発光ダイオード素子1によれば、ポーラス領域24を設けたことにより、6H型SiCにAlをドープすることなく、B及びNがドープされたバルク状の6H型SiCの発光波長域よりも短波長側の発光を得ることができる。従って、SiC基板2にドープする元素をB及びNのみとし、SiC基板2の作製を簡単容易に行うことができ、SiC基板2の作製コスト、ひいては発光ダイオード素子1の製造コストを低減することができる。
【0048】
特に、ポーラス領域24にて形成される空洞径が水平方向で異なっていることから、ポーラス領域24におけるSiCの結晶サイズにばらつきをもたせることができる。これにより、ほぼ同じ空洞径が形成されたポーラス領域と比較して、発せられる光の波長域を大きくすることができる。このように、ポーラス領域24にて連続的に空洞径が変化するようにしたので、同じ組み合わせのドナー性不純物及びアクセプタ性不純物であっても、光の波長域を変化させたり、波長域を拡げることができる。
【0049】
また、ポーラス領域24はバルク領域22と比べて強度的に不利であるが、SiC基板2の他面側にポーラス領域24とバルク領域22とを併存させることにより、SiC基板2の全体としての強度低下を抑制することができる。さらに、SiC基板2の一面側は全面的にバルク領域22となっているので、他面側にポーラス領域24が形成されていても、SiC基板2への曲げ方向等の負荷に的確に抗することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、ポーラス領域24が作製されたSiC基板2を、水素雰囲気中で熱処理を行った後、アンモニア雰囲気中で熱処理を行い、ポーラス領域24の表面に保護膜を形成したので、表面準位密度を大幅に低減することができる。これにより、ポーラス領域24において、表面再結合による非発光再結合の割合が増大し、ドナー・アクセプタ・ペアの再結合確率が低下して発光強度が低下することを防止することができる。ポーラス領域24においては、ポーラス化により結晶の平均サイズが小さくなればなるほど、表面再結合による非発光再結合の割合が増大するため、保護膜による効果が大きくなる。このように、ポーラス領域24に保護膜を形成する本実施形態は、ドナー・アクセプタ・ペア発光において、SiCのポーラス化により生じる新規な課題を解決したものといえる。
【0051】
尚、前記実施形態においては、SiC基板2のポーラス領域24を形成してから、SiC基板2上に半導体層を積層するものを示したが、SiC基板2上に半導体層を積層した後にポーラス領域24を形成するようにしてもよい。例えば、図7に示すように、バルク領域22からなるSiC基板2を作製し、SiC基板2上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させ、p側電極16を形成してしまう。そして、前記実施形態のオーミック電極201の代わりにp側電極16を利用してSiC基板2の陽極酸化を行うことにより、図8に示すように、SiC基板2にポーラス領域24を形成するようにしてもよい。さらには、SiC基板2にオーミック電極201を形成せず、電極として機能する導体基板を貼り付けて陽極酸化を行うようにしてもよい。要は、電極形成工程にて、単結晶SiCと通電可能な電極が形成されればよい。そして、導体基板上に半導体層を形成して発光ダイオード素子とすることもできる。
【0052】
また、前記実施形態においては、昇華再結晶によりバルク状のSiC基板2を得るものを示したが、CVD法等によりSiC基板2を得るようにしてもよい。また、SiCのポーラス化を陽極酸化により行うものを示したが、ポーラス化の方法は任意であり、例えば気相エッチングにより行ってもよい。
【0053】
また、前記実施形態においては、ポーラス化したSiCを発光ダイオード素子1の基板として用いるものを示したが、光源と別個の蛍光体として利用することもできる。B及びNを添加したポーラス状の単結晶6H型SiCは、粉末状として利用してもよいし、波長変換用の蛍光板として利用することもできる。また、ポーラス化したSiCは、可視光のみならず紫外光を発するものとして利用することも可能である。
【0054】
また、前記実施形態においては、ポーラス化したSiCを発光ダイオード素子1の基板として用いるものを示したが、光源と別個の蛍光体として利用することもできる。B及びNを添加したポーラス状の単結晶6H型SiCは、粉末状として利用してもよいし、波長変換用の蛍光板として利用することもできる。また、ポーラス化したSiCは、可視光のみならず紫外光を発するものとして利用することも可能である。
【0055】
また、前記実施形態においては、ドナー性不純物としてNと用い、アクセプタ性不純物としてBを用いたものを示したが、他の不純物を用いてもよいことは勿論である。また、単結晶SiCとして6H型を用いたものを示したが、4H型、15R型等を用いることもできる。
【0056】
また、前記実施形態においては、縦型(上下導通型)の発光ダイオード1を示したが、例えば図9に示すように、横型の発光ダイオード1としてもよいことは勿論である。さらに、白色光を発する発光ダイオード素子1を示したが、例えば、ポーラス領域24のみからなるSiC基板2として例えば緑色光を発する発光ダイオード素子としてもよい。この場合も、ポーラス領域24内の空洞径が連続的に変化するようにし、発光波長域が大きくなるようにするとよい。
【0057】
また、ポーラス領域24の保護膜が窒化物であるものを示したが、他の材料であってもよく、例えば酸窒化物により構成することもできるし、熱処理工程、保護膜形成工程等の具体的条件も適宜に変更可能であることは勿論である。
【0058】
次に、図10から図15を参照して、B及びNを添加したポーラス状の単結晶6H型SiCの実施例について説明する。
昇華法によりB及びNがドーピングされた単結晶6H型SiCを作製し、陽極酸化によりポーラス化した試料体1〜6を作製した。試料体1については、SiC中のB及びNの濃度をともに1×1019とし、試料体2〜6については、Bの濃度を3×1018とし、Nの濃度を5×1018とした。
【0059】
[試料体1]
図10は、試料体1の発光波長と発光強度を示すグラフである。試料体1では、陽極酸化にあたり、SiC基板2にストライプ状のマスク222を形成した。具体的に、マスク222の開口222aの幅が40μm、マスク222自体の幅が160μmとなるようにし、フッ化水素酸水溶液は質量濃度で5%として、発光波長及び発光強度のデータを取得した。ここで、電流密度10mA/cm、通電時間120分の条件により行った。また、陽極酸化に続いて、水素雰囲気中にて1300℃で10分間熱処理を行った後、アンモニア雰囲気中にて1300℃で5分間熱処理を行い、ポーラスSiCの表面上にSiの保護膜を形成した。
【0060】
発光波長及び発光強度の取得は、励起光として325nmのHe−Cdレーザを用い、8mW(ビーム径1mm)の条件で、室温にて行った。尚、図10中には、比較例としてポーラス化前のSiC基板の発光波長及び発光強度を示している。図10に示すように、試料体1のピーク波長は391nmであり、ポーラス化前のピーク波長である611nmよりも短波長の発光が観測された。また、試料体1の発光波長の半値幅は、ポーラスSiCの空洞径をほぼ一定とした試料体2〜6に対して拡大した。
【0061】
[試料体2]
図11は、試料体2の発光波長と発光強度を示すグラフである。発光波長及び発光強度の取得は、励起光として325nmのHe−Cdレーザを用い、8mW(ビーム径1mm)の条件で、室温にて行った。尚、図11中には、比較例としてポーラス化前のバルクSiCの発光波長及び発光強度を示している。
試料体2は、SiC基板2上にマスク222を形成せず、フッ化水素酸水溶液に過硫酸カリウムを加えず(すなわち0mol/l)に作製した。また。陽極酸化にあたり、フッ化水素酸水溶液は質量濃度で5%とし、電流密度を2mA/cm、通電時間を120分とした。尚、熱処理や保護膜の形成は行っていない。図11に示すように、試料体2のピーク波長は491nmであり、ポーラス化前のピーク波長である578nmよりも短波長の発光が観測された。尚、発光強度は、ポーラス化により下がっている。
【0062】
[試料体3]
図12は、試料体3の発光波長と発光強度を示すグラフである。ここで、発光波長及び発光強度の取得は、励起光として325nmのHe−Cdレーザを用い、8mW(ビーム径1mm)の条件で、室温にて行った。尚、図12中には、比較例としてポーラス化前のバルクSiCの発光波長及び発光強度を示している。
試料体3は、SiC基板2上にマスク222を形成せず、5質量%のフッ化水素酸水溶液に0.01mol/lの濃度の過硫酸カリウムを加えて作製した。また、陽極酸化にあたり、電流密度を2mA/cm、通電時間を120分とした。尚、熱処理や保護膜の形成は行っていない。図12に示すように、試料体3のピーク波長は449nmであり、ポーラス化前のピーク波長である580nmよりも短波長の発光が観測された。試料体3においても、僅かではあるが、発光強度がポーラス化により下がっている。
【0063】
[試料体4]
図13は、試料体4の発光波長と発光強度を示すグラフである。ここで、発光波長及び発光強度の取得は、励起光として325nmのHe−Cdレーザを用い、8mW(ビーム径1mm)の条件で、室温にて行った。尚、図13中には、比較例としてポーラス化前のバルクSiCの発光波長及び発光強度を示している。
試料体4は、SiC基板2上にマスク222を形成せず、5質量%のフッ化水素酸水溶液に0.02mol/lの濃度の過硫酸カリウムを加えて作製した。また、陽極酸化にあたり、電流密度を2mA/cm、通電時間を120分とした。尚、熱処理や保護膜の形成は行っていない。図13に示すように、試料体4のピーク波長は407nmであり、ポーラス化前のピーク波長である583nmよりも短波長の発光が観測された。試料体4においては、発光強度は、ポーラス化により上がっている。
【0064】
[試料体5]
図14は、試料体5の発光波長と発光強度を示すグラフである。ここで、発光波長及び発光強度の取得は、励起光として325nmのHe−Cdレーザを用い、8mW(ビーム径1mm)の条件で、室温にて行った。尚、図14中には、比較例としてポーラス化前のバルクSiCの発光波長及び発光強度を示している。
試料体5は、SiC基板2上にマスク222を形成せず、5質量%のフッ化水素酸水溶液に0.03mol/lの濃度の過硫酸カリウムを加えて作製した。また、陽極酸化にあたり、電流密度を2mA/cm、通電時間を120分とした。尚、熱処理や保護膜の形成は行っていない。図14に示すように、試料体5のピーク波長は394nmであり、ポーラス化前のピーク波長である582nmよりも短波長の発光が観測された。試料体5においては、発光強度は、ポーラス化により大幅に上がっている。
【0065】
[試料体6]
図15は、試料体6の発光波長と発光強度を示すグラフである。ここで、発光波長及び発光強度の取得は、励起光として325nmのHe−Cdレーザを用い、8mW(ビーム径1mm)の条件で、室温にて行った。尚、図15中には、比較例としてポーラス化前のバルクSiCの発光波長及び発光強度を示している。
試料体6は、試料体2に対して、水素雰囲気中にて1300℃で10分間熱処理を行った後、アンモニア雰囲気中にて1300℃で5分間熱処理を行い、ポーラスSiCの表面上にSiの保護膜を形成した。これにより、図15に示すように、発光強度が大幅に増大した。
過硫酸カリウムの濃度を低くすると、表面再結合が支配的であり発光効率が比較的高くはならないが、熱処理を施して表面再結合の原因となっている表面準位の低減を図ることができた。
【0066】
図16は、ドナー・アクセプタ・ペア発光を説明するための図であり、(a)はバルク結晶中の状態を示し、(b)はポーラス結晶中の状態を示す。
ドナー・アクセプタ・ペアの再結合による遷移エネルギーEDAは、一般に、
DA=E−(E+E)+e/εRDA
で表される。ここで、Eは結晶のバンドギャップエネルギー、Eはドナーのイオン化エネルギー、Eはアクセプタのイオン化エネルギー、eは電子電荷、εは誘電率、RDAは平均的なドナー・アクセプタ間距離である。結晶サイズが小さくなることにより、一般に知られているとおりEが大きくなる。また、ドナー、アクセプタ間の実際の距離は不変であるが、ドナーに捕獲された電子や、アクセプタに捕獲された正孔は、各々の不純物を中心にボーア半径を持つ軌道を周回しているため、図16(b)に示すようにその軌道は結晶サイズ縮小の影響を受ける。
【0067】
バルク結晶の場合には、図16(a)に示すように、ドナーに捕獲された電子とアクセプタに捕獲された正孔はともに各々の不純物を中心に球状の軌道を描いて周回している。そして、電子と正孔の軌道の重なりがドナー・アクセプタ・ペアの再結合確率に比例する。
一方、ポーラス結晶では、図16(b)に示すように、結晶が部分的に消失するために、ドナーに捕獲された電子とアクセプタに捕獲された正孔が球状を維持できなくなり、不純物が重心からずれた楕円球状の軌道となる。その結果、両者の軌道の重なりが大きくなり、再結合確率が増加する。そして、ポーラス化前においては上式のRDAはR1DAであったところ、ポーラス化によりRDAは、実質的にはR1DAより小さなR2DAとなる。これにより、ポーラス化によって遷移エネルギーは一層大きくなる。試料体1〜6の実験結果は、このような理論的背景によって引き起こされていると思われる。
【符号の説明】
【0068】
1 発光ダイオード素子
2 SiC基板
4 バッファ層
6 n型層
8 多重量子井戸活性層
10 電子ブロック層
12 p型クラッド層
14 p型コンタクト層
16 p側電極
18 n側電極
22 バルク領域
24 ポーラス領域
200 陽極酸化装置
202 ステンレス板
204 開口
206 容器
208 白金ワイヤ
210 直流電源
212 耐フッ酸性シート
214 溶液
216 開口
218 紫外光
222 マスク
222a 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光部と、
ドナー性不純物及びアクセプタ性不純物が添加された単結晶SiCからなり、ポーラス状態が連続的に変化するポーラス領域を含み、前記半導体発光部の光により励起されるとドナー・アクセプタ・ペア発光により可視光を発するSiC部と、を有する発光ダイオード素子。
【請求項2】
前記SiC部は、バルク領域を含む請求項1に記載の発光ダイオード素子。
【請求項3】
前記単結晶SiCは6H型である請求項2に記載の発光ダイオード素子。
【請求項4】
前記ドナー性不純物はNであり、
前記アクセプタ性不純物はBである請求項3に記載の発光ダイオード素子。
【請求項5】
請求項4に記載の発光ダイオード素子の製造方法であって、
ドナー性不純物及びアクセプタ性不純物が添加されたバルク状の単結晶SiCへ通電可能な電極を形成する電極形成工程と、
前記電極と通電可能な単結晶SiCに部分的にマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクが形成された単結晶SiCに対して陽極酸化を行って前記ポーラス領域を形成する陽極酸化工程と、を含む発光ダイオード素子の製造方法。
【請求項6】
ドナー性不純物及びアクセプタ性不純物が添加され、
ポーラス状態が連続的に変化するポーラス領域を含み、
所定の光により励起されるとドナー・アクセプタ・ペア発光により可視光を発する単結晶SiC材料。
【請求項7】
バルク領域を含む請求項6に記載の単結晶SiC材料。
【請求項8】
6H型である請求項7に記載の単結晶SiC材料。
【請求項9】
前記ドナー性不純物はNであり、
前記アクセプタ性不純物はBである請求項8に記載の単結晶SiC材料。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか1項に記載の単結晶SiC材料の製造方法であって、
ドナー性不純物及びアクセプタ性不純物が添加されたバルク状の単結晶SiCに電極を形成する電極形成工程と、
前記電極が形成された単結晶SiCに部分的にマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクが形成された単結晶SiCに対して陽極酸化を行って前記ポーラス領域を形成する陽極酸化工程と、を含む単結晶SiC材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−38944(P2012−38944A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178196(P2010−178196)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年6月17日掲載 http://iccg16.tipc.cn/ http://210.72.154.189/Prelim_Abstract_Display.php? EID=1269
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】