発光デバイス、発光デバイスの製造方法および発光デバイス素材の加工装置
【課題】サファイア層内から光線が効率よく出射される発光デバイスを提供する。
【解決手段】サファイア層2に発光層3が積層された発光デバイスにおいて、サファイア層の断面形状を、内角が鈍角である多角形状(例えば正六角形状)とし、内部の光線の反射角度が保存されにくく、少ない反射回数で側面を透過するように構成する。
【解決手段】サファイア層2に発光層3が積層された発光デバイスにおいて、サファイア層の断面形状を、内角が鈍角である多角形状(例えば正六角形状)とし、内部の光線の反射角度が保存されにくく、少ない反射回数で側面を透過するように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイのバックライトやLED表示器等に使用される発光ダイオード等の発光デバイスに関し、また、この種の発光デバイスを製造するにあたって好適な方法および加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)等の発光デバイスとして、サファイア層の表面に発光層が積層されたものが提供されている(特許文献1)。このような発光デバイスは、親基板であるサファイア基板の表面に発光層が積層されてなる発光デバイス素材を、サファイア基板に設定された分割予定ラインに沿って切断して分割することにより、一枚の発光デバイス素材から多数を得るといった方法で製造されている。
【0003】
従来、上記サファイア基板のような基板を分割予定ラインに沿って切断し、分割する方法として、分割予定ラインに沿ってパルスレーザ光線を照射してレーザ加工溝を形成し、このレーザ加工溝に外力を与えることにより基板を割断するといった方法が知られている(特許文献2)。また、透過性を有するパルスレーザ光線を基板の内部に集光点を合わせて照射して、内部に分割予定ラインに沿った変質層を連続的に形成し、この変質層で強度が低下した分割予定ラインに外力を与えることによって基板を割断する方法も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−56203号公報
【特許文献2】特開平10−305420号公報
【特許文献3】特許3408805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サファイア層の表面に発光層が積層された構造の発光デバイスにおいては、発光層で発光する光線がサファイア層に放射され、その光線がサファイア層から空気中に出射される。ところで、サファイアの屈折率はかなり大きく、これに起因して次のような問題が起こっていた。すなわち、発光層からサファイア層に出射された光線がサファイア層とサファイア層に隣接する層(例えば空気)との界面を透過するには、該界面の法線に対して所定の角度(サファイアと空気の界面である場合は34.5°)より小さい角度で界面に入射する必要があり、これより大きい角度で界面に入射した光線はサファイア層から出射されずにサファイア層中に閉じ込められてしまい、効率よくサファイア層から光線が出射されないという問題である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、サファイア層内から光線が効率よく出射される発光デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発光デバイスは、サファイア層と、該サファイア層に積層されて該サファイア層に光線を放射する発光層とを有する発光デバイスであって、前記サファイア層は、前記発光層に対する反対側の面である裏面と、該裏面から該発光層に至る側面とを有しており、前記裏面は、内角が鈍角である多角形状に形成されていることを特徴としている。
【0008】
本発明の発光デバイスにおけるサファイア層は、多角形状をなす裏面の複数の各辺から発光層に至る複数の側面で囲繞された構成である。このため、サファイア層内において1つの側面(サファイア層に隣接する層との界面)に対する光線の入射角度が該側面を透過しない角度であっても、反射した後の次に入射する側面、あるいはその次に入射する側面では、該側面を透過可能な角度になりやすい。その結果、サファイア層内から出射する光線の量が多くなる。
【0009】
本発明の発光デバイスにおいては、サファイア層の裏面の形状が、内角120°である正六角形であることを好ましい形態としている。
【0010】
次に、本発明の発光デバイスの製造方法は、上記のサファイア層の形状が内角120°である正六角形の発光デバイスを好適に製造する方法であって、サファイア基板の一の面に発光層が積層されており、該サファイア基板に設定された、第1の方向に間欠的に延びる複数の第1分割予定ラインと第2の方向に間欠的に延びる複数の第2分割予定ラインと第3の方向に間欠的に延びる複数の第3分割予定ラインとにより、正六角形をなす複数の発光デバイス領域がハニカム状に区画された発光デバイス素材を、前記サファイア基板の、前記一の面とは反対側の他の面を露出させた状態で保持手段に保持する保持工程と、前記サファイア基板を透過する波長のレーザ光線を該サファイア基板の内部に集光点を合わせて照射することにより該サファイア基板の内部に変質層を形成するレーザ加工を、前記第1分割予定ラインに対して行う第1のレーザ加工工程と、前記レーザ加工を、前記第2分割予定ラインに対して行う第2のレーザ加工工程と、前記レーザ加工を、前記第3分割予定ラインに対して行う第3のレーザ加工工程と、前記レーザ加工により前記変質層が形成された前記発光デバイス素材の前記第1分割予定ライン、前記第2分割予定ラインおよび前記第3分割予定ラインに外力を与えることにより、全ての該分割予定ラインを割断して該発光デバイス素材を複数の前記発光デバイスに分割する分割工程とを含むことを特徴としている。
【0011】
また、本発明の発光デバイスの加工装置は、上記本発明の製造方法に係る発光デバイス素材にレーザ加工を好適に施すものであって、サファイア基板の一の面に発光層が積層されており、該サファイア基板の該一の面とは反対側の他の面に設定された、第1の方向に間欠的に延びる複数の第1分割予定ラインと第2の方向に間欠的に延びる複数の第2分割予定ラインと第3の方向に間欠的に延びる複数の第3分割予定ラインとにより、正六角形をなす複数の発光デバイス領域がハニカム状に区画された発光デバイス素材を、前記サファイア基板の前記他の面を露出させた状態で保持する保持面を有する保持手段と、該保持手段を回転駆動する回転駆動手段と、前記保持手段に対向配置され、該保持手段に保持された前記発光デバイス素材における前記サファイア基板を透過する波長のレーザ光線を該サファイア基板に照射するレーザ光線照射手段と、前記保持手段と前記レーザ光線照射手段とを、前記保持面と平行な方向に相対移動させて、前記レーザ光線を、該保持面に保持された前記サファイア基板に対して走査させるレーザ光線走査手段とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サファイア層内から光線が効率よく出射される発光デバイスを提供することができるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の発光デバイスを模式的に示す(a)斜視図、(b)側面図、(c)平面図である。
【図2】一実施形態の発光デバイスのサファイア層内を光線が透過する状態を模式的に示す断面図である。
【図3】従来の発光デバイスのサファイア層内で光線が保存される状態を模式的に示す断面図である。
【図4】エスケープコーンを説明するための図であって、一般的な発光デバイスを模式的に示す斜視図である。
【図5】(a)多数の正六角形状の発光デバイスを含む発光デバイス素材の平面図、(b)多数の正五角形状の発光デバイスを含む発光デバイス素材の平面図である。
【図6】本発明の一実施形態の製造方法で多数の正六角形状の発光デバイスが得られる発光デバイス素材の断面図である。
【図7】発光デバイス素材の表面拡大図であって、1つの発光デバイス領域を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るレーザ加工装置の斜視図である。
【図9】レーザ加工装置に供給するために発光デバイス素材を粘着テープを介してフレームに支持させた状態を示す斜視図である。
【図10】レーザ光線の照射によってサファイア層の内部に変質層を分割予定ラインに沿って間欠的に形成している様子を示す断面図である。
【図11】サファイア基板に形成された3方向に延びる多数の分割予定ラインに順次レーザ光線を照射して変質層を形成する過程を(a)〜(c)の順に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
(1)発光デバイス
(1−1)発光デバイスの構成
図1は、一実施形態の発光デバイス1を示している((a)斜視図、(b)側面図、(c)平面図)。この発光デバイス1は、サファイア層2の表面(図1(a),(b)では下側の面)2aに発光層3が積層された構成である。
【0015】
図1(c)に示すように、一実施形態の発光デバイス1は、サファイア層2と発光層3の積層方向から見た平面視が内角120°の正六角形である。すなわち、サファイア層2の断面形状は正六角形であり、このサファイア層2の表面2aに、同一の正六角形の断面形状を有する発光層3が積層されている。換言すると、サファイア層2の表面2aおよび裏面2bは同一寸法の正六角形に形成されており、これら表面2aと裏面2bとの間に、裏面2bの6つの各辺2cから発光層3に至る6つの長方形状の側面2d(図2で2d−1〜6)がそれぞれ形成されている。
【0016】
本実施形態の発光デバイス1によれば、発光層3が発光することにより、発光層3から放射される光線がサファイア層2内を透過して、裏面2bおよび各側面2dからサファイア層2の外(例えば空気中)に出射する。
【0017】
発光層3は、この種のものとして一般周知のものであって、例えばバンドギャップ層、または量子井戸で構成されるが、これに限定されるものではなく、その材料は、III−V族、またはII−VI族の元素より構成された化合物、例えば、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化ガリウム(GaN)、ガリウム砒素(GaAs)、窒化ガリウムインジウム(GaInN)、窒化アルミガリウム(AlGaN)、セレン化亜鉛(ZnSe)、亜鉛ドープの窒化インジウムガリウム(InGaN:Zn)、アルミニウムインジウムガリウムリン(AlInGaP)、またはガリウムリン(GaP)のいずれかを含む発光素子により構成される。これら材料のいずれかを含む発光素子としては、上記発光ダイオードやEL(Electro Luminescence)素子等が挙げられる。
【0018】
(1−2)発光デバイスの作用効果
図2に示すように、本実施形態ではサファイア層2の断面形状が、内角θ1が120°の正六角形であることにより、サファイア層2内からの光線の出射量が多くなる。その理由を述べると、図3は断面形状(裏面形状)が正方形であるサファイア層2Bを示しており、このサファイア層2B内で光線Lが側面2dに入射した場合において、光線Lが側面2d、すなわちサファイア層2と例えば空気との界面を透過して空気中に出射することが可能な臨界角度θは、両者の屈折率に基づき約34.5°と比較的小さい。この臨界角度θ内の角度で光線Lが側面2dに入射すれば光線Lは側面2dを透過するが、臨界角度θ以上の角度で側面2dに入射した光線Lは反射する。そして、場合によっては反射角度が保存され、反射を繰り返していずれはサファイア層2内で消光する。
【0019】
しかしながら、図2に示す本実施形態のサファイア層2にあっては、断面形状が正六角形であるため、1つの側面2d−1に臨界角度θ以上の角度で入射して反射した光線L1は、次に入射する側面2d−3に対しては臨界角度θ内の角度で入射し、この側面2d−3を透過する。また、側面2d−1に対し異なる位置において臨界角度θ以上で入射して反射した光線L2は、隣接する側面2d−2に入射するが反射し、さらに隣接する側面2d−3に入射しても反射するが、次に入射する側面2d−5に対しては臨界角度θ内の角度で入射したため、この側面2d−5を透過する。
【0020】
本実施形態の発光デバイス1によれば、上記のようにサファイア層2内において1つの側面2dに対する光線の入射角度が側面2dを透過せず反射が保存される角度であっても、反射した後の次に入射する側面2d、あるいはその次に入射する側面2dでは入射角度が透過可能な角度になりやすい。したがって、反射角度が保存されることが少なくなる。その結果、サファイア層2内から出射する光線の量が多くなり、サファイア層2内から効率よく光線Lが出射する。換言すると、図4に示すように(図4は、図3に示したような四角形状の発光デバイスを示している)ある発光点L0から発せられた光線がサファイア層2Bから出射するには、図中Eで示すエスケープコーンと一般に呼ばれている範囲を進行する必要がある。このエスケープコーンEは、発光点L0から発せられた光線がサファイア層2Bとサファイア層2Bに隣接する層との界面を透過し得る範囲を指しており、本発明は、サファイア層の断面形状が、内角が鈍角である多角形状であることにより、このエスケープコーンEを広げることができると考えられる。
【0021】
さて、上記発光デバイス1は、サファイア層2に分割される親基板であるサファイア基板の表面に多数の発光層3の領域が積層された発光デバイス素材を、発光層3の領域、すなわち発光デバイス領域ごとに切断、分割することにより得られる。図5(a)は、上記の平面視正六角形の発光デバイス1となる発光デバイス領域1Aが多数形成された発光デバイス素材5を示しており、発光デバイス1は、発光デバイス領域1Aを区画する正六角形状の分割予定ライン9を切断することにより個片化されて得られる。
【0022】
なお、本発明の発光デバイスは正六角形状に限定はされず、正五角形状、正八角形状等の、内角が鈍角である多角形状のものを含む。例えば図5(b)は、多数の正五角形状の発光デバイス領域1Bが分割予定ライン9で区画された発光デバイス素材5Bを示しており、分割予定ライン9を切断することにより、多数の平面視正五角形の発光デバイスが得られる。
【0023】
(2)発光デバイスの製造方法およびレーザ加工装置
続いて、図1に示した平面視正六角形の発光デバイス1を製造するにあたって好適な本発明の一実施形態に係る製造方法およびレーザ加工装置を説明する。一実施形態の製造方法は、図5(a)に示す発光デバイス素材5から多数の発光デバイス1を得るものとする。
【0024】
(2−1)発光デバイス素材
発光デバイス素材5は、図6に示すように、円板状のサファイア基板6の表面(一の面)6a全面に発光層7が積層されたもので、図5(a)に示すように、発光デバイス1に対応した多数の正六角形状の発光デバイス領域1Aがハニカム状に区画されている。1つの発光デバイス領域1Aは、図7に示すように、矢印Aで示す第1の方向に延びる一対の第1分割予定ライン9Aと、矢印Bで示す第2の方向に延びる一対の第2分割予定ライン9Bと、矢印Cで示す第3の方向に延びる一対の第3分割予定ライン9Cとで囲繞された正六角形の領域である。各分割予定ライン9A,9B,9Cは、その延長上に直線的に、かつ、間欠的に多数が形成されており、1つの直線上に位置する分割予定ライン9A(9B,9C)の端部間に、1つの発光デバイス領域1Aが形成されている。
【0025】
発光デバイス素材5から多数の発光デバイス1を得る一実施形態の製造方法は、まず、図8に示すレーザ加工装置20により、サファイアに対して透過性を有するパルスレーザ光線を、発光デバイス素材5のサファイア基板6内に集光点を合わせた状態で各分割予定ライン9A,9B,9Cに沿って照射することにより、分割予定ライン9A,9B,9Cに沿った変質層をサファイア基板6内に形成する。そして、この変質層で強度が低下した分割予定ライン9A,9B,9Cに外力を与えて割断し、発光デバイス素材5を多数の発光デバイス1に分割するといった方法である。なお、変質層の形成は、例えば、波長が1064nmのフェムト秒レーザーをNA0.8以上のレンズで集光して多光子吸収を起こすレーザ光線により行う。
【0026】
なお、ここで言う変質層とは、密度、屈折率、機械的強度、あるいはその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域を言う。例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等が挙げられ、さらにこれらの単独状態、または混在状態を含むものとされる。
【0027】
発光デバイス素材5は、図9に示すように、環状のフレーム11の内側の開口部11aに粘着テープ12を介して支持された状態で、レーザ加工装置20に供給される。フレーム11は、ステンレス等の剛性を有する金属板からなるものである。粘着テープ12は、合成樹脂シート等からなる基材の片面に粘着層が形成されたもので、粘着層を介してフレーム11の裏面に開口部11aを覆って貼着されている。発光デバイス素材5は、フレーム11の開口部11aに同心状に配置され、発光層7側が粘着テープ12の粘着層に貼着される。発光デバイス素材5は、フレーム11を取り扱うことにより搬送される。
【0028】
(2−2)レーザ加工装置の構成
以下、図8を参照して、発光デバイス素材5にレーザ光線を照射するレーザ加工装置20を説明する。図8の符号21は基台であり、この基台21上には、XY移動テーブル22が、水平なX軸方向およびY軸方向に移動自在に設けられている。このXY移動テーブル22には、発光デバイス素材5を保持するチャックテーブル(保持手段、レーザ光線走査手段)51が設置されている。チャックテーブル51の上方には、チャックテーブル51に保持された発光デバイス素材5に向けてレーザ光線を照射するレーザ光線照射手段60のレーザ光線照射部62が、チャックテーブル51に対向する状態に配設されている。
【0029】
XY移動テーブル22は、基台21上にX軸方向に移動自在に設けられたX軸ベース30と、このX軸ベース30上にY軸方向に移動自在に設けられたY軸ベース40との組み合わせで構成されている。X軸ベース30は、基台21上に固定されたX軸方向に延びる一対の平行なガイドレール31に摺動自在に取り付けられており、モータ32でボールねじ33を作動させるX軸駆動機構34によってX軸方向に移動させられる。一方、Y軸ベース40は、X軸ベース30上に固定されたY軸方向に延びる一対の平行なガイドレール41に摺動自在に取り付けられており、モータ42でボールねじ43を作動させるY軸駆動機構44によってY軸方向に移動させられる。
【0030】
Y軸ベース40の上面には、円筒状のチャックベース50が固定されており、このチャックベース50の上に、チャックテーブル51がZ軸方向(上下方向)を回転軸として回転自在に支持されている。チャックテーブル51は、真空吸引作用によりワーク(この場合は発光デバイス素材5)を吸着して保持する一般周知の真空チャック式のものである。チャックテーブル51は、チャックベース50内に収容された図示せぬ回転駆動手段によって一方向または両方向に回転駆動されるようになっている。チャックテーブル51の周囲には、上記フレーム5を着脱自在に保持する一対のクランプ52が、互いに180°離れた位置に配設されている。これらクランプ52は、チャックベース50に取り付けられている。
【0031】
XY移動テーブル22においては、X軸ベース30がX軸方向に移動する時が、レーザ光線照射を分割予定ライン9A,9B,9Cに沿って照射する加工送りとされる。そして、Y軸ベース40がY軸方向に移動することにより、レーザ光線を照射する対象の分割予定ラインを切り替える割り出しがなされる。なお、加工送り方向と割り出し方向は、この逆、つまり、Y軸方向が加工送り方向、X軸方向が割り出し方向に設定されてもよく、限定はされない。
【0032】
上記レーザ光線照射手段60を説明する。レーザ光線照射手段60は、チャックテーブル51の上方に向かってY軸方向に延びる直方体状のケーシング61を有しており、このケーシング61の先端に、上記レーザ光線照射部62が設けられている。ケーシング61は、基台21に立設されたコラム23に、鉛直方向(Z軸方向)に沿って上下動可能に設けられており、コラム23内に収容された図示せぬ上下駆動手段によって上下動させられる。
【0033】
ケーシング61内には、レーザ光線照射手段60の構成要素として、パルスレーザ光線発振器、このパルスレーザ光線発振器が発振したレーザ光線の出力(パルスエネルギー)を調整するレーザ光線出力調整器等が収容されている。レーザ光線照射手段60によれば、サファイア基板6を透過可能なパルスレーザ光線が、レーザ光線照射部62から下方に向けて照射されるようになっている。レーザ光線照射部62は、レーザ光線発振器で発振されたレーザ光線を下方に向けて方向転換させるミラーや、このミラーによって方向転換されたレーザ光線を集光するレンズ等を備えている。
【0034】
レーザ光線照射手段60のケーシング61の先端であってレーザ光線照射部62の近傍には、撮像手段70が配設されている。この撮像手段70は、レーザ光線照射部62から発光デバイス素材5に照射されるレーザ光線の照射領域を撮像して検出するものであり、チャックテーブル51に保持された発光デバイス素材5を照明する照明手段や光学系、該光学系で捕らえられた像を撮像するCCD等からなる撮像素子等を備えている。この撮像手段70で撮像された画像情報は、制御手段80に供給されるようになっている。制御手段80は、撮像手段70から供給された画像情報に基づき、上記チャックテーブル51の回転、X軸駆動機構34によるX軸ベース30の移動(加工送り)、Y軸駆動機構44によるY軸ベース40の移動(割り出し)、レーザ光線照射手段50によるレーザ光線照射といった動作を適宜に制御する。
【0035】
(2−3)レーザ加工装置の動作
次に、上記レーザ加工装置20によって発光デバイス素材5のサファイア基板6にレーザ加工を施す動作例を説明する。当該動作は、制御手段80によって自動制御されるものであり、本発明の製造方法を含む。
【0036】
本実施形態のレーザ加工は、サファイア基板6を透過する波長のパルスレーザ光線を、サファイア基板6の内部に集光点を合わせ、第1〜第3分割予定ライン9A,9B,9Cに沿って照射することにより、サファイア基板6の内部に第1〜第3分割予定ライン9A,9B,9Cに沿った変質層を形成するものである。ここでは、第1分割予定ライン9A、第2分割予定ライン9B、第3分割予定ライン9Cの順でレーザ加工するものとする。
【0037】
(2−3−1)発光デバイス素材の保持工程
はじめに、チャックテーブル51を真空運転し、図9に示したように粘着テープ12を介してフレーム11に支持された発光デバイス素材5を、サファイア基板6を上側に配した状態として、チャックテーブル51に載置する。これにより発光デバイス素材5は、図10に示すように、粘着テープ12を介して発光層7側がチャックテーブル51に真空吸引作用で吸着、保持される。また、フレーム11をクランプ52によって保持する。
【0038】
次いで、XY移動テーブル22を適宜にX軸方向およびY軸方向に移動させてサファイア基板6を撮像手段70の直下に移動させ、サファイア基板6の表面6aを撮像手段70で撮像する。制御手段80は、撮像されたサファイア基板6の表面6aの第1〜第3分割予定ライン9A,9B,9Cに基づき、チャックテーブル51を回転させて最初にレーザ光線を照射する第1分割予定ライン9Aを加工送り方向(X軸方向)と平行に設定するアライメント作業を行う。すなわち、第1分割予定ライン9Aを加工送り方向と平行に設定する。
【0039】
(2−3−2)第1のレーザ加工工程
X軸ベース30をX軸方向に移動させて、発光デバイス素材5をレーザ光線照射部62の下方からX軸方向に外れた準備位置に位置付ける。また、Y軸ベース40を割り出し方向(Y軸方向)に移動させて、1本の第1分割予定ライン9AのY軸方向位置をレーザ光線照射部62から照射されるレーザ光線の焦点に合致させる割り出しを行う。さらに、ケーシング61の上下位置を調整して、レーザ光線照射部62から照射されるレーザ光線の焦点をサファイア基板6内の所定深さ位置に定める。
【0040】
続いて、発光デバイス素材5がレーザ光線照射部62に向かう方向にX軸ベース30を移動させる加工送りを行いながら、レーザ光線照射のON・OFFを繰り返すことにより、割り出されたX軸方向に間欠的に延びている第1分割予定ライン9Aのみにレーザ光線を照射する。図10に示すように、レーザ光線LBが照射されることにより、サファイア基板6の内部には、強度が低下した変質層Pが第1分割予定ライン9Aに沿って形成される。同図で矢印F1はチャックテーブル51の移動方向であり、したがって矢印F2はレーザ光線LBの走査方向である加工送り方向である。
【0041】
次に、Y軸ベース40を割り出し方向に移動させて、先にレーザ加工を施した第1分割予定ライン9Aに隣接する第1分割予定ライン9AのY軸方向位置をレーザ光線の焦点に合致させる割り出しを行う。続いて、発光デバイス素材5を加工送りしながら、上記と同様にしてレーザ光線照射のON・OFFを繰り返すことにより、割り出されたX軸方向に間欠的に延びている第1分割予定ライン9Aのみにレーザ光線を照射する。
【0042】
このように、第1分割予定ライン9Aにレーザ光線を間欠的に照射して変質層Pを間欠的に形成する加工送りと、Y軸方向のレーザ光線照射位置を定める割り出しを交互に繰り返し行い、図11(a)に示すように全ての第1分割予定ライン9Aにレーザ光線を走査させて、第1分割予定ライン9Aに沿った間欠的な変質層Pを形成する。なお、図11(a)において矢印F2−Aは、第1のレーザ加工工程におけるレーザ光線の走査方向を示している。
【0043】
(2−3−3)第2のレーザ加工工程
全ての第1分割予定ライン9Aに変質層Pを形成したら、次に、第2分割予定ライン9Bにレーザ光線を照射する第2のレーザ加工工程に移る。それには、チャックテーブル51を一方向に120°回転させて第2分割予定ライン9BをX軸方向と平行に設定する。そして、チャックテーブル51をX軸方向に移動させて加工送りしながらのレーザ光線の間欠的な照射と、チャックテーブル51をY軸方向に移動させる割り出しを交互に繰り返して、図11(b)に示すように全ての第2分割予定ライン9Bにレーザ光線を走査させて(矢印F2−B方向)、サファイア基板6内に第2分割予定ライン9Bに沿った間欠的な変質層Pを形成する。
【0044】
(2−3−4)第3のレーザ加工工程
次に、最後に残った第3分割予定ライン9Cにレーザ光線を照射する第3のレーザ加工工程を行う。それには、チャックテーブル51をさらに上記一方向に120°回転させ、第3分割予定ライン9CをX軸方向と平行に設定する。この後は、上記第2のレーザ加工工程と同様の動作を行って、図11(c)に示すように全ての第3分割予定ライン9Cにレーザ光線を走査させて(矢印F2−C方向)、サファイア基板6内に第3分割予定ライン9Cに沿った間欠的な変質層を形成する。
【0045】
(2−3−5)分割工程
以上によって第1〜第3分割予定ライン9A,9B,9Cに変質層Pが形成され、したがってサファイア基板6の1つ1つの正六角形状の発光デバイス領域1Aは、変質層Pに囲繞された状態となっている。本実施形態では、次に、変質層Pが形成された全ての分割予定ライン9A〜9Cに外力を与え、発光デバイス素材5を全ての該分割予定ライン9A〜9Cに沿って割断する。これにより、各発光デバイス領域1Aは発光デバイス1に個片化される。すなわち、発光デバイス素材5は多数の図1に示した発光デバイス1に分割される。
【0046】
各分割予定ライン9A〜9Cに外力を与える方法としては、粘着テープ12を全体的に径方向外方に引っ張って拡張するといった方法が好適に採用される。この方法は、例えば特開2007−27250号公報や特開2008−140874号公報等に開示される拡張装置を用いて実施することが可能である。
【0047】
(2−4)上記製造方法の優位性
上記のようにしてレーザ加工装置20により発光デバイス素材5から多数の正六角形状の発光デバイス1を得る方法によれば、次のような優位な点がある。
【0048】
まず、第1〜第3分割予定ライン9A〜9Cに沿ってレーザ光線を照射してサファイア基板6内に変質層Pを形成するにあたり、各分割予定ライン9A〜9Cごとにレーザ光線照射の工程を分け、各工程ではレーザ光線の走査をチャックテーブル51の回転動作を交えることなく直線的、かつ、間欠的に行っている。このため、レーザ光線を例えばジグザグ状に走査させる機構は必要なく、また、XY移動テーブル22を複雑にX・Y軸方向に移動させる動作も必要ない。したがって、チャックテーブル51のX軸方向への移動とレーザ光線のON・OFFといったシンプルな動作で、最終的に全ての発光デバイス領域1Aを囲む正六角形状の分割予定ライン9A〜9Cに変質層Pを確実に形成することができる。
【0049】
なお、多光子吸収を起こすことができずにサファイアを透過する波長のレーザ光線の照射では、レーザ光線がサファイアを透過してしまい加工ができない場合があるため、サファイアの裏面上でレーザ光線の照射をON・OFFして間欠的な変質層を形成するには不向きである。この点、本発明においてはレーザ加工を多光子吸収による加工とすることにより、サファイアを透過する波長のレーザ光線の照射であってもサファイア基板に対し上記変質層Pのような弱部を間欠的に形成するといった加工を的確に実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…発光デバイス
1A,1B…発光デバイス領域
2…サファイア層
2a…サファイア層の表面
2b…サファイア層の裏面
2d…サファイア層の側面
3…発光層
5…発光デバイス素材
6…サファイア基板
6a…サファイア基板の表面(一の面)
6b…サファイア基板の裏面(他の面)
9A…第1分割予定ライン
9B…第2分割予定ライン
9C…第3分割予定ライン
20…レーザ加工装置
51…チャックテーブル(保持手段、レーザ光線走査手段)
60…レーザ光線照射手段
80…制御手段
A…第1の方向
B…第2の方向
C…第3の方向
LB…レーザ光線
P…変質層
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイのバックライトやLED表示器等に使用される発光ダイオード等の発光デバイスに関し、また、この種の発光デバイスを製造するにあたって好適な方法および加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)等の発光デバイスとして、サファイア層の表面に発光層が積層されたものが提供されている(特許文献1)。このような発光デバイスは、親基板であるサファイア基板の表面に発光層が積層されてなる発光デバイス素材を、サファイア基板に設定された分割予定ラインに沿って切断して分割することにより、一枚の発光デバイス素材から多数を得るといった方法で製造されている。
【0003】
従来、上記サファイア基板のような基板を分割予定ラインに沿って切断し、分割する方法として、分割予定ラインに沿ってパルスレーザ光線を照射してレーザ加工溝を形成し、このレーザ加工溝に外力を与えることにより基板を割断するといった方法が知られている(特許文献2)。また、透過性を有するパルスレーザ光線を基板の内部に集光点を合わせて照射して、内部に分割予定ラインに沿った変質層を連続的に形成し、この変質層で強度が低下した分割予定ラインに外力を与えることによって基板を割断する方法も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−56203号公報
【特許文献2】特開平10−305420号公報
【特許文献3】特許3408805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サファイア層の表面に発光層が積層された構造の発光デバイスにおいては、発光層で発光する光線がサファイア層に放射され、その光線がサファイア層から空気中に出射される。ところで、サファイアの屈折率はかなり大きく、これに起因して次のような問題が起こっていた。すなわち、発光層からサファイア層に出射された光線がサファイア層とサファイア層に隣接する層(例えば空気)との界面を透過するには、該界面の法線に対して所定の角度(サファイアと空気の界面である場合は34.5°)より小さい角度で界面に入射する必要があり、これより大きい角度で界面に入射した光線はサファイア層から出射されずにサファイア層中に閉じ込められてしまい、効率よくサファイア層から光線が出射されないという問題である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、サファイア層内から光線が効率よく出射される発光デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発光デバイスは、サファイア層と、該サファイア層に積層されて該サファイア層に光線を放射する発光層とを有する発光デバイスであって、前記サファイア層は、前記発光層に対する反対側の面である裏面と、該裏面から該発光層に至る側面とを有しており、前記裏面は、内角が鈍角である多角形状に形成されていることを特徴としている。
【0008】
本発明の発光デバイスにおけるサファイア層は、多角形状をなす裏面の複数の各辺から発光層に至る複数の側面で囲繞された構成である。このため、サファイア層内において1つの側面(サファイア層に隣接する層との界面)に対する光線の入射角度が該側面を透過しない角度であっても、反射した後の次に入射する側面、あるいはその次に入射する側面では、該側面を透過可能な角度になりやすい。その結果、サファイア層内から出射する光線の量が多くなる。
【0009】
本発明の発光デバイスにおいては、サファイア層の裏面の形状が、内角120°である正六角形であることを好ましい形態としている。
【0010】
次に、本発明の発光デバイスの製造方法は、上記のサファイア層の形状が内角120°である正六角形の発光デバイスを好適に製造する方法であって、サファイア基板の一の面に発光層が積層されており、該サファイア基板に設定された、第1の方向に間欠的に延びる複数の第1分割予定ラインと第2の方向に間欠的に延びる複数の第2分割予定ラインと第3の方向に間欠的に延びる複数の第3分割予定ラインとにより、正六角形をなす複数の発光デバイス領域がハニカム状に区画された発光デバイス素材を、前記サファイア基板の、前記一の面とは反対側の他の面を露出させた状態で保持手段に保持する保持工程と、前記サファイア基板を透過する波長のレーザ光線を該サファイア基板の内部に集光点を合わせて照射することにより該サファイア基板の内部に変質層を形成するレーザ加工を、前記第1分割予定ラインに対して行う第1のレーザ加工工程と、前記レーザ加工を、前記第2分割予定ラインに対して行う第2のレーザ加工工程と、前記レーザ加工を、前記第3分割予定ラインに対して行う第3のレーザ加工工程と、前記レーザ加工により前記変質層が形成された前記発光デバイス素材の前記第1分割予定ライン、前記第2分割予定ラインおよび前記第3分割予定ラインに外力を与えることにより、全ての該分割予定ラインを割断して該発光デバイス素材を複数の前記発光デバイスに分割する分割工程とを含むことを特徴としている。
【0011】
また、本発明の発光デバイスの加工装置は、上記本発明の製造方法に係る発光デバイス素材にレーザ加工を好適に施すものであって、サファイア基板の一の面に発光層が積層されており、該サファイア基板の該一の面とは反対側の他の面に設定された、第1の方向に間欠的に延びる複数の第1分割予定ラインと第2の方向に間欠的に延びる複数の第2分割予定ラインと第3の方向に間欠的に延びる複数の第3分割予定ラインとにより、正六角形をなす複数の発光デバイス領域がハニカム状に区画された発光デバイス素材を、前記サファイア基板の前記他の面を露出させた状態で保持する保持面を有する保持手段と、該保持手段を回転駆動する回転駆動手段と、前記保持手段に対向配置され、該保持手段に保持された前記発光デバイス素材における前記サファイア基板を透過する波長のレーザ光線を該サファイア基板に照射するレーザ光線照射手段と、前記保持手段と前記レーザ光線照射手段とを、前記保持面と平行な方向に相対移動させて、前記レーザ光線を、該保持面に保持された前記サファイア基板に対して走査させるレーザ光線走査手段とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サファイア層内から光線が効率よく出射される発光デバイスを提供することができるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の発光デバイスを模式的に示す(a)斜視図、(b)側面図、(c)平面図である。
【図2】一実施形態の発光デバイスのサファイア層内を光線が透過する状態を模式的に示す断面図である。
【図3】従来の発光デバイスのサファイア層内で光線が保存される状態を模式的に示す断面図である。
【図4】エスケープコーンを説明するための図であって、一般的な発光デバイスを模式的に示す斜視図である。
【図5】(a)多数の正六角形状の発光デバイスを含む発光デバイス素材の平面図、(b)多数の正五角形状の発光デバイスを含む発光デバイス素材の平面図である。
【図6】本発明の一実施形態の製造方法で多数の正六角形状の発光デバイスが得られる発光デバイス素材の断面図である。
【図7】発光デバイス素材の表面拡大図であって、1つの発光デバイス領域を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るレーザ加工装置の斜視図である。
【図9】レーザ加工装置に供給するために発光デバイス素材を粘着テープを介してフレームに支持させた状態を示す斜視図である。
【図10】レーザ光線の照射によってサファイア層の内部に変質層を分割予定ラインに沿って間欠的に形成している様子を示す断面図である。
【図11】サファイア基板に形成された3方向に延びる多数の分割予定ラインに順次レーザ光線を照射して変質層を形成する過程を(a)〜(c)の順に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
(1)発光デバイス
(1−1)発光デバイスの構成
図1は、一実施形態の発光デバイス1を示している((a)斜視図、(b)側面図、(c)平面図)。この発光デバイス1は、サファイア層2の表面(図1(a),(b)では下側の面)2aに発光層3が積層された構成である。
【0015】
図1(c)に示すように、一実施形態の発光デバイス1は、サファイア層2と発光層3の積層方向から見た平面視が内角120°の正六角形である。すなわち、サファイア層2の断面形状は正六角形であり、このサファイア層2の表面2aに、同一の正六角形の断面形状を有する発光層3が積層されている。換言すると、サファイア層2の表面2aおよび裏面2bは同一寸法の正六角形に形成されており、これら表面2aと裏面2bとの間に、裏面2bの6つの各辺2cから発光層3に至る6つの長方形状の側面2d(図2で2d−1〜6)がそれぞれ形成されている。
【0016】
本実施形態の発光デバイス1によれば、発光層3が発光することにより、発光層3から放射される光線がサファイア層2内を透過して、裏面2bおよび各側面2dからサファイア層2の外(例えば空気中)に出射する。
【0017】
発光層3は、この種のものとして一般周知のものであって、例えばバンドギャップ層、または量子井戸で構成されるが、これに限定されるものではなく、その材料は、III−V族、またはII−VI族の元素より構成された化合物、例えば、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化ガリウム(GaN)、ガリウム砒素(GaAs)、窒化ガリウムインジウム(GaInN)、窒化アルミガリウム(AlGaN)、セレン化亜鉛(ZnSe)、亜鉛ドープの窒化インジウムガリウム(InGaN:Zn)、アルミニウムインジウムガリウムリン(AlInGaP)、またはガリウムリン(GaP)のいずれかを含む発光素子により構成される。これら材料のいずれかを含む発光素子としては、上記発光ダイオードやEL(Electro Luminescence)素子等が挙げられる。
【0018】
(1−2)発光デバイスの作用効果
図2に示すように、本実施形態ではサファイア層2の断面形状が、内角θ1が120°の正六角形であることにより、サファイア層2内からの光線の出射量が多くなる。その理由を述べると、図3は断面形状(裏面形状)が正方形であるサファイア層2Bを示しており、このサファイア層2B内で光線Lが側面2dに入射した場合において、光線Lが側面2d、すなわちサファイア層2と例えば空気との界面を透過して空気中に出射することが可能な臨界角度θは、両者の屈折率に基づき約34.5°と比較的小さい。この臨界角度θ内の角度で光線Lが側面2dに入射すれば光線Lは側面2dを透過するが、臨界角度θ以上の角度で側面2dに入射した光線Lは反射する。そして、場合によっては反射角度が保存され、反射を繰り返していずれはサファイア層2内で消光する。
【0019】
しかしながら、図2に示す本実施形態のサファイア層2にあっては、断面形状が正六角形であるため、1つの側面2d−1に臨界角度θ以上の角度で入射して反射した光線L1は、次に入射する側面2d−3に対しては臨界角度θ内の角度で入射し、この側面2d−3を透過する。また、側面2d−1に対し異なる位置において臨界角度θ以上で入射して反射した光線L2は、隣接する側面2d−2に入射するが反射し、さらに隣接する側面2d−3に入射しても反射するが、次に入射する側面2d−5に対しては臨界角度θ内の角度で入射したため、この側面2d−5を透過する。
【0020】
本実施形態の発光デバイス1によれば、上記のようにサファイア層2内において1つの側面2dに対する光線の入射角度が側面2dを透過せず反射が保存される角度であっても、反射した後の次に入射する側面2d、あるいはその次に入射する側面2dでは入射角度が透過可能な角度になりやすい。したがって、反射角度が保存されることが少なくなる。その結果、サファイア層2内から出射する光線の量が多くなり、サファイア層2内から効率よく光線Lが出射する。換言すると、図4に示すように(図4は、図3に示したような四角形状の発光デバイスを示している)ある発光点L0から発せられた光線がサファイア層2Bから出射するには、図中Eで示すエスケープコーンと一般に呼ばれている範囲を進行する必要がある。このエスケープコーンEは、発光点L0から発せられた光線がサファイア層2Bとサファイア層2Bに隣接する層との界面を透過し得る範囲を指しており、本発明は、サファイア層の断面形状が、内角が鈍角である多角形状であることにより、このエスケープコーンEを広げることができると考えられる。
【0021】
さて、上記発光デバイス1は、サファイア層2に分割される親基板であるサファイア基板の表面に多数の発光層3の領域が積層された発光デバイス素材を、発光層3の領域、すなわち発光デバイス領域ごとに切断、分割することにより得られる。図5(a)は、上記の平面視正六角形の発光デバイス1となる発光デバイス領域1Aが多数形成された発光デバイス素材5を示しており、発光デバイス1は、発光デバイス領域1Aを区画する正六角形状の分割予定ライン9を切断することにより個片化されて得られる。
【0022】
なお、本発明の発光デバイスは正六角形状に限定はされず、正五角形状、正八角形状等の、内角が鈍角である多角形状のものを含む。例えば図5(b)は、多数の正五角形状の発光デバイス領域1Bが分割予定ライン9で区画された発光デバイス素材5Bを示しており、分割予定ライン9を切断することにより、多数の平面視正五角形の発光デバイスが得られる。
【0023】
(2)発光デバイスの製造方法およびレーザ加工装置
続いて、図1に示した平面視正六角形の発光デバイス1を製造するにあたって好適な本発明の一実施形態に係る製造方法およびレーザ加工装置を説明する。一実施形態の製造方法は、図5(a)に示す発光デバイス素材5から多数の発光デバイス1を得るものとする。
【0024】
(2−1)発光デバイス素材
発光デバイス素材5は、図6に示すように、円板状のサファイア基板6の表面(一の面)6a全面に発光層7が積層されたもので、図5(a)に示すように、発光デバイス1に対応した多数の正六角形状の発光デバイス領域1Aがハニカム状に区画されている。1つの発光デバイス領域1Aは、図7に示すように、矢印Aで示す第1の方向に延びる一対の第1分割予定ライン9Aと、矢印Bで示す第2の方向に延びる一対の第2分割予定ライン9Bと、矢印Cで示す第3の方向に延びる一対の第3分割予定ライン9Cとで囲繞された正六角形の領域である。各分割予定ライン9A,9B,9Cは、その延長上に直線的に、かつ、間欠的に多数が形成されており、1つの直線上に位置する分割予定ライン9A(9B,9C)の端部間に、1つの発光デバイス領域1Aが形成されている。
【0025】
発光デバイス素材5から多数の発光デバイス1を得る一実施形態の製造方法は、まず、図8に示すレーザ加工装置20により、サファイアに対して透過性を有するパルスレーザ光線を、発光デバイス素材5のサファイア基板6内に集光点を合わせた状態で各分割予定ライン9A,9B,9Cに沿って照射することにより、分割予定ライン9A,9B,9Cに沿った変質層をサファイア基板6内に形成する。そして、この変質層で強度が低下した分割予定ライン9A,9B,9Cに外力を与えて割断し、発光デバイス素材5を多数の発光デバイス1に分割するといった方法である。なお、変質層の形成は、例えば、波長が1064nmのフェムト秒レーザーをNA0.8以上のレンズで集光して多光子吸収を起こすレーザ光線により行う。
【0026】
なお、ここで言う変質層とは、密度、屈折率、機械的強度、あるいはその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域を言う。例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等が挙げられ、さらにこれらの単独状態、または混在状態を含むものとされる。
【0027】
発光デバイス素材5は、図9に示すように、環状のフレーム11の内側の開口部11aに粘着テープ12を介して支持された状態で、レーザ加工装置20に供給される。フレーム11は、ステンレス等の剛性を有する金属板からなるものである。粘着テープ12は、合成樹脂シート等からなる基材の片面に粘着層が形成されたもので、粘着層を介してフレーム11の裏面に開口部11aを覆って貼着されている。発光デバイス素材5は、フレーム11の開口部11aに同心状に配置され、発光層7側が粘着テープ12の粘着層に貼着される。発光デバイス素材5は、フレーム11を取り扱うことにより搬送される。
【0028】
(2−2)レーザ加工装置の構成
以下、図8を参照して、発光デバイス素材5にレーザ光線を照射するレーザ加工装置20を説明する。図8の符号21は基台であり、この基台21上には、XY移動テーブル22が、水平なX軸方向およびY軸方向に移動自在に設けられている。このXY移動テーブル22には、発光デバイス素材5を保持するチャックテーブル(保持手段、レーザ光線走査手段)51が設置されている。チャックテーブル51の上方には、チャックテーブル51に保持された発光デバイス素材5に向けてレーザ光線を照射するレーザ光線照射手段60のレーザ光線照射部62が、チャックテーブル51に対向する状態に配設されている。
【0029】
XY移動テーブル22は、基台21上にX軸方向に移動自在に設けられたX軸ベース30と、このX軸ベース30上にY軸方向に移動自在に設けられたY軸ベース40との組み合わせで構成されている。X軸ベース30は、基台21上に固定されたX軸方向に延びる一対の平行なガイドレール31に摺動自在に取り付けられており、モータ32でボールねじ33を作動させるX軸駆動機構34によってX軸方向に移動させられる。一方、Y軸ベース40は、X軸ベース30上に固定されたY軸方向に延びる一対の平行なガイドレール41に摺動自在に取り付けられており、モータ42でボールねじ43を作動させるY軸駆動機構44によってY軸方向に移動させられる。
【0030】
Y軸ベース40の上面には、円筒状のチャックベース50が固定されており、このチャックベース50の上に、チャックテーブル51がZ軸方向(上下方向)を回転軸として回転自在に支持されている。チャックテーブル51は、真空吸引作用によりワーク(この場合は発光デバイス素材5)を吸着して保持する一般周知の真空チャック式のものである。チャックテーブル51は、チャックベース50内に収容された図示せぬ回転駆動手段によって一方向または両方向に回転駆動されるようになっている。チャックテーブル51の周囲には、上記フレーム5を着脱自在に保持する一対のクランプ52が、互いに180°離れた位置に配設されている。これらクランプ52は、チャックベース50に取り付けられている。
【0031】
XY移動テーブル22においては、X軸ベース30がX軸方向に移動する時が、レーザ光線照射を分割予定ライン9A,9B,9Cに沿って照射する加工送りとされる。そして、Y軸ベース40がY軸方向に移動することにより、レーザ光線を照射する対象の分割予定ラインを切り替える割り出しがなされる。なお、加工送り方向と割り出し方向は、この逆、つまり、Y軸方向が加工送り方向、X軸方向が割り出し方向に設定されてもよく、限定はされない。
【0032】
上記レーザ光線照射手段60を説明する。レーザ光線照射手段60は、チャックテーブル51の上方に向かってY軸方向に延びる直方体状のケーシング61を有しており、このケーシング61の先端に、上記レーザ光線照射部62が設けられている。ケーシング61は、基台21に立設されたコラム23に、鉛直方向(Z軸方向)に沿って上下動可能に設けられており、コラム23内に収容された図示せぬ上下駆動手段によって上下動させられる。
【0033】
ケーシング61内には、レーザ光線照射手段60の構成要素として、パルスレーザ光線発振器、このパルスレーザ光線発振器が発振したレーザ光線の出力(パルスエネルギー)を調整するレーザ光線出力調整器等が収容されている。レーザ光線照射手段60によれば、サファイア基板6を透過可能なパルスレーザ光線が、レーザ光線照射部62から下方に向けて照射されるようになっている。レーザ光線照射部62は、レーザ光線発振器で発振されたレーザ光線を下方に向けて方向転換させるミラーや、このミラーによって方向転換されたレーザ光線を集光するレンズ等を備えている。
【0034】
レーザ光線照射手段60のケーシング61の先端であってレーザ光線照射部62の近傍には、撮像手段70が配設されている。この撮像手段70は、レーザ光線照射部62から発光デバイス素材5に照射されるレーザ光線の照射領域を撮像して検出するものであり、チャックテーブル51に保持された発光デバイス素材5を照明する照明手段や光学系、該光学系で捕らえられた像を撮像するCCD等からなる撮像素子等を備えている。この撮像手段70で撮像された画像情報は、制御手段80に供給されるようになっている。制御手段80は、撮像手段70から供給された画像情報に基づき、上記チャックテーブル51の回転、X軸駆動機構34によるX軸ベース30の移動(加工送り)、Y軸駆動機構44によるY軸ベース40の移動(割り出し)、レーザ光線照射手段50によるレーザ光線照射といった動作を適宜に制御する。
【0035】
(2−3)レーザ加工装置の動作
次に、上記レーザ加工装置20によって発光デバイス素材5のサファイア基板6にレーザ加工を施す動作例を説明する。当該動作は、制御手段80によって自動制御されるものであり、本発明の製造方法を含む。
【0036】
本実施形態のレーザ加工は、サファイア基板6を透過する波長のパルスレーザ光線を、サファイア基板6の内部に集光点を合わせ、第1〜第3分割予定ライン9A,9B,9Cに沿って照射することにより、サファイア基板6の内部に第1〜第3分割予定ライン9A,9B,9Cに沿った変質層を形成するものである。ここでは、第1分割予定ライン9A、第2分割予定ライン9B、第3分割予定ライン9Cの順でレーザ加工するものとする。
【0037】
(2−3−1)発光デバイス素材の保持工程
はじめに、チャックテーブル51を真空運転し、図9に示したように粘着テープ12を介してフレーム11に支持された発光デバイス素材5を、サファイア基板6を上側に配した状態として、チャックテーブル51に載置する。これにより発光デバイス素材5は、図10に示すように、粘着テープ12を介して発光層7側がチャックテーブル51に真空吸引作用で吸着、保持される。また、フレーム11をクランプ52によって保持する。
【0038】
次いで、XY移動テーブル22を適宜にX軸方向およびY軸方向に移動させてサファイア基板6を撮像手段70の直下に移動させ、サファイア基板6の表面6aを撮像手段70で撮像する。制御手段80は、撮像されたサファイア基板6の表面6aの第1〜第3分割予定ライン9A,9B,9Cに基づき、チャックテーブル51を回転させて最初にレーザ光線を照射する第1分割予定ライン9Aを加工送り方向(X軸方向)と平行に設定するアライメント作業を行う。すなわち、第1分割予定ライン9Aを加工送り方向と平行に設定する。
【0039】
(2−3−2)第1のレーザ加工工程
X軸ベース30をX軸方向に移動させて、発光デバイス素材5をレーザ光線照射部62の下方からX軸方向に外れた準備位置に位置付ける。また、Y軸ベース40を割り出し方向(Y軸方向)に移動させて、1本の第1分割予定ライン9AのY軸方向位置をレーザ光線照射部62から照射されるレーザ光線の焦点に合致させる割り出しを行う。さらに、ケーシング61の上下位置を調整して、レーザ光線照射部62から照射されるレーザ光線の焦点をサファイア基板6内の所定深さ位置に定める。
【0040】
続いて、発光デバイス素材5がレーザ光線照射部62に向かう方向にX軸ベース30を移動させる加工送りを行いながら、レーザ光線照射のON・OFFを繰り返すことにより、割り出されたX軸方向に間欠的に延びている第1分割予定ライン9Aのみにレーザ光線を照射する。図10に示すように、レーザ光線LBが照射されることにより、サファイア基板6の内部には、強度が低下した変質層Pが第1分割予定ライン9Aに沿って形成される。同図で矢印F1はチャックテーブル51の移動方向であり、したがって矢印F2はレーザ光線LBの走査方向である加工送り方向である。
【0041】
次に、Y軸ベース40を割り出し方向に移動させて、先にレーザ加工を施した第1分割予定ライン9Aに隣接する第1分割予定ライン9AのY軸方向位置をレーザ光線の焦点に合致させる割り出しを行う。続いて、発光デバイス素材5を加工送りしながら、上記と同様にしてレーザ光線照射のON・OFFを繰り返すことにより、割り出されたX軸方向に間欠的に延びている第1分割予定ライン9Aのみにレーザ光線を照射する。
【0042】
このように、第1分割予定ライン9Aにレーザ光線を間欠的に照射して変質層Pを間欠的に形成する加工送りと、Y軸方向のレーザ光線照射位置を定める割り出しを交互に繰り返し行い、図11(a)に示すように全ての第1分割予定ライン9Aにレーザ光線を走査させて、第1分割予定ライン9Aに沿った間欠的な変質層Pを形成する。なお、図11(a)において矢印F2−Aは、第1のレーザ加工工程におけるレーザ光線の走査方向を示している。
【0043】
(2−3−3)第2のレーザ加工工程
全ての第1分割予定ライン9Aに変質層Pを形成したら、次に、第2分割予定ライン9Bにレーザ光線を照射する第2のレーザ加工工程に移る。それには、チャックテーブル51を一方向に120°回転させて第2分割予定ライン9BをX軸方向と平行に設定する。そして、チャックテーブル51をX軸方向に移動させて加工送りしながらのレーザ光線の間欠的な照射と、チャックテーブル51をY軸方向に移動させる割り出しを交互に繰り返して、図11(b)に示すように全ての第2分割予定ライン9Bにレーザ光線を走査させて(矢印F2−B方向)、サファイア基板6内に第2分割予定ライン9Bに沿った間欠的な変質層Pを形成する。
【0044】
(2−3−4)第3のレーザ加工工程
次に、最後に残った第3分割予定ライン9Cにレーザ光線を照射する第3のレーザ加工工程を行う。それには、チャックテーブル51をさらに上記一方向に120°回転させ、第3分割予定ライン9CをX軸方向と平行に設定する。この後は、上記第2のレーザ加工工程と同様の動作を行って、図11(c)に示すように全ての第3分割予定ライン9Cにレーザ光線を走査させて(矢印F2−C方向)、サファイア基板6内に第3分割予定ライン9Cに沿った間欠的な変質層を形成する。
【0045】
(2−3−5)分割工程
以上によって第1〜第3分割予定ライン9A,9B,9Cに変質層Pが形成され、したがってサファイア基板6の1つ1つの正六角形状の発光デバイス領域1Aは、変質層Pに囲繞された状態となっている。本実施形態では、次に、変質層Pが形成された全ての分割予定ライン9A〜9Cに外力を与え、発光デバイス素材5を全ての該分割予定ライン9A〜9Cに沿って割断する。これにより、各発光デバイス領域1Aは発光デバイス1に個片化される。すなわち、発光デバイス素材5は多数の図1に示した発光デバイス1に分割される。
【0046】
各分割予定ライン9A〜9Cに外力を与える方法としては、粘着テープ12を全体的に径方向外方に引っ張って拡張するといった方法が好適に採用される。この方法は、例えば特開2007−27250号公報や特開2008−140874号公報等に開示される拡張装置を用いて実施することが可能である。
【0047】
(2−4)上記製造方法の優位性
上記のようにしてレーザ加工装置20により発光デバイス素材5から多数の正六角形状の発光デバイス1を得る方法によれば、次のような優位な点がある。
【0048】
まず、第1〜第3分割予定ライン9A〜9Cに沿ってレーザ光線を照射してサファイア基板6内に変質層Pを形成するにあたり、各分割予定ライン9A〜9Cごとにレーザ光線照射の工程を分け、各工程ではレーザ光線の走査をチャックテーブル51の回転動作を交えることなく直線的、かつ、間欠的に行っている。このため、レーザ光線を例えばジグザグ状に走査させる機構は必要なく、また、XY移動テーブル22を複雑にX・Y軸方向に移動させる動作も必要ない。したがって、チャックテーブル51のX軸方向への移動とレーザ光線のON・OFFといったシンプルな動作で、最終的に全ての発光デバイス領域1Aを囲む正六角形状の分割予定ライン9A〜9Cに変質層Pを確実に形成することができる。
【0049】
なお、多光子吸収を起こすことができずにサファイアを透過する波長のレーザ光線の照射では、レーザ光線がサファイアを透過してしまい加工ができない場合があるため、サファイアの裏面上でレーザ光線の照射をON・OFFして間欠的な変質層を形成するには不向きである。この点、本発明においてはレーザ加工を多光子吸収による加工とすることにより、サファイアを透過する波長のレーザ光線の照射であってもサファイア基板に対し上記変質層Pのような弱部を間欠的に形成するといった加工を的確に実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…発光デバイス
1A,1B…発光デバイス領域
2…サファイア層
2a…サファイア層の表面
2b…サファイア層の裏面
2d…サファイア層の側面
3…発光層
5…発光デバイス素材
6…サファイア基板
6a…サファイア基板の表面(一の面)
6b…サファイア基板の裏面(他の面)
9A…第1分割予定ライン
9B…第2分割予定ライン
9C…第3分割予定ライン
20…レーザ加工装置
51…チャックテーブル(保持手段、レーザ光線走査手段)
60…レーザ光線照射手段
80…制御手段
A…第1の方向
B…第2の方向
C…第3の方向
LB…レーザ光線
P…変質層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア層と、該サファイア層に積層されて該サファイア層に光線を放射する発光層とを有する発光デバイスであって、
前記サファイア層は、前記発光層に対する反対側の面である裏面と、該裏面から該発光層に至る側面とを有しており、
前記裏面は、内角が鈍角である多角形状に形成されていることを特徴とする発光デバイス。
【請求項2】
前記裏面の形状が、内角120°である正六角形であることを特徴とする請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の発光デバイスを製造する方法であって、
サファイア基板の一の面に発光層が積層されており、該サファイア基板に設定された、第1の方向に間欠的に延びる複数の第1分割予定ラインと第2の方向に間欠的に延びる複数の第2分割予定ラインと第3の方向に間欠的に延びる複数の第3分割予定ラインとにより、正六角形をなす複数の発光デバイス領域がハニカム状に区画された発光デバイス素材を、前記サファイア基板の、前記一の面とは反対側の他の面を露出させた状態で保持手段に保持する保持工程と、
前記サファイア基板を透過する波長のレーザ光線を該サファイア基板の内部に集光点を合わせて照射することにより該サファイア基板の内部に変質層を形成するレーザ加工を、前記第1分割予定ラインに対して行う第1のレーザ加工工程と、
前記レーザ加工を、前記第2分割予定ラインに対して行う第2のレーザ加工工程と、
前記レーザ加工を、前記第3分割予定ラインに対して行う第3のレーザ加工工程と、
前記レーザ加工により前記変質層が形成された前記発光デバイス素材の前記第1分割予定ライン、前記第2分割予定ラインおよび前記第3分割予定ラインに外力を与えることにより、全ての該分割予定ラインを割断して該発光デバイス素材を複数の前記発光デバイスに分割する分割工程と
を含むことを特徴とする発光デバイスの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の発光デバイス素材を加工する装置であって、
サファイア基板の一の面に発光層が積層されており、該サファイア基板の該一の面とは反対側の他の面に設定された、第1の方向に間欠的に延びる複数の第1分割予定ラインと第2の方向に間欠的に延びる複数の第2分割予定ラインと第3の方向に間欠的に延びる複数の第3分割予定ラインとにより、正六角形をなす複数の発光デバイス領域がハニカム状に区画された発光デバイス素材を、前記サファイア基板の前記他の面を露出させた状態で保持する保持面を有する保持手段と、
該保持手段を回転駆動する回転駆動手段と、
前記保持手段に対向配置され、該保持手段に保持された前記発光デバイス素材における前記サファイア基板を透過する波長のレーザ光線を該サファイア基板に照射するレーザ光線照射手段と、
前記保持手段と前記レーザ光線照射手段とを、前記保持面と平行な方向に相対移動させて、前記レーザ光線を、該保持面に保持された前記サファイア基板に対して走査させるレーザ光線走査手段と
を備えることを特徴とする発光デバイス素材の加工装置。
【請求項1】
サファイア層と、該サファイア層に積層されて該サファイア層に光線を放射する発光層とを有する発光デバイスであって、
前記サファイア層は、前記発光層に対する反対側の面である裏面と、該裏面から該発光層に至る側面とを有しており、
前記裏面は、内角が鈍角である多角形状に形成されていることを特徴とする発光デバイス。
【請求項2】
前記裏面の形状が、内角120°である正六角形であることを特徴とする請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の発光デバイスを製造する方法であって、
サファイア基板の一の面に発光層が積層されており、該サファイア基板に設定された、第1の方向に間欠的に延びる複数の第1分割予定ラインと第2の方向に間欠的に延びる複数の第2分割予定ラインと第3の方向に間欠的に延びる複数の第3分割予定ラインとにより、正六角形をなす複数の発光デバイス領域がハニカム状に区画された発光デバイス素材を、前記サファイア基板の、前記一の面とは反対側の他の面を露出させた状態で保持手段に保持する保持工程と、
前記サファイア基板を透過する波長のレーザ光線を該サファイア基板の内部に集光点を合わせて照射することにより該サファイア基板の内部に変質層を形成するレーザ加工を、前記第1分割予定ラインに対して行う第1のレーザ加工工程と、
前記レーザ加工を、前記第2分割予定ラインに対して行う第2のレーザ加工工程と、
前記レーザ加工を、前記第3分割予定ラインに対して行う第3のレーザ加工工程と、
前記レーザ加工により前記変質層が形成された前記発光デバイス素材の前記第1分割予定ライン、前記第2分割予定ラインおよび前記第3分割予定ラインに外力を与えることにより、全ての該分割予定ラインを割断して該発光デバイス素材を複数の前記発光デバイスに分割する分割工程と
を含むことを特徴とする発光デバイスの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の発光デバイス素材を加工する装置であって、
サファイア基板の一の面に発光層が積層されており、該サファイア基板の該一の面とは反対側の他の面に設定された、第1の方向に間欠的に延びる複数の第1分割予定ラインと第2の方向に間欠的に延びる複数の第2分割予定ラインと第3の方向に間欠的に延びる複数の第3分割予定ラインとにより、正六角形をなす複数の発光デバイス領域がハニカム状に区画された発光デバイス素材を、前記サファイア基板の前記他の面を露出させた状態で保持する保持面を有する保持手段と、
該保持手段を回転駆動する回転駆動手段と、
前記保持手段に対向配置され、該保持手段に保持された前記発光デバイス素材における前記サファイア基板を透過する波長のレーザ光線を該サファイア基板に照射するレーザ光線照射手段と、
前記保持手段と前記レーザ光線照射手段とを、前記保持面と平行な方向に相対移動させて、前記レーザ光線を、該保持面に保持された前記サファイア基板に対して走査させるレーザ光線走査手段と
を備えることを特徴とする発光デバイス素材の加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−124323(P2011−124323A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279391(P2009−279391)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】
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