説明

発振器及び発振器用の弾性表面波素子

【課題】小型で且つ広い温度範囲に亘って安定した周波数信号が得られる発振器及びこの発振器用の弾性表面波素子を提供すること。
【解決手段】共通の圧電基板1上に第1の共振子2及び第2の共振子3を配置すると共に、第2の共振子3から出力される信号を温度補償用の信号として用いるために、これら第1の共振子2及び第2の共振子3の夫々の共振周波数f1、f2を互いに異なる値に設定する。具体的には、第1の共振子2におけるIDT電極12の周期長λ1と、第2の共振子3におけるIDT電極12の周期長λ2とを互いに異なる値に設定すると共に、これらIDT電極12の膜厚t1、t2を互いに異なる寸法に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設定周波数信号を出力する発振器及びこの発振器に用いられる弾性表面波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子(水晶振動子)は、基準周波数(設定周波数)信号を出力する発振源として、発振器に広く使用されている。このような発振器の一つとして、出力信号の安定性を高めるため、例えば温度センサ及びヒータを備えた恒温槽内に水晶振動子を収納することにより、周囲の温度の影響を抑えるように構成された温度制御水晶発振器(OCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillator)が知られている。
【0003】
ここで、近年の電子機器の小型化及び高周波数化に伴って、発振器についても小型化が要求されている。そのため、水晶振動子を用いた発振器に代えて、SAW(Surface Acoustic Wave)を利用した発振器が検討されている。具体的には、圧電基板上に例えば1ポート型のSAW共振子を形成して、この共振子を発振器に適用しようとしている。しかし、SAWを利用した共振子であっても、温度安定性を得ようとすると、依然として恒温槽が必要となり、従って小型化は困難である。また、恒温槽を用いると、ヒータへの給電が必要であり、更にヒータによる共振子への入熱効率もそれ程良くないので、発振器の省電力化も困難である。更にまた、恒温槽用の温度センサが共振子に対して離間して配置されるので、共振子は、基準周波数信号を出力できる温度とは異なる温度となっているおそれもある。
【0004】
特許文献1には、既述の水晶振動子を2つ並べると共にこれら水晶振動子の一方を温度検出用のセンサとして利用することにより、恒温槽を用いずに小型の発振器を構成した技術について記載されている。また、特許文献2、3には、共通の基板上に複数の弾性表面波素子(共振器)M1、M2を配置すると共に、これら弾性表面波素子のうち一方に対して他方が傾斜するように配置して、各々の弾性表面波素子に対して並列に信号の入出力を行う技術について記載されている。しかしながら、これら特許文献1〜3には、温度安定性に優れた小型の発振器については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−108170
【特許文献2】特開昭53−145595(第9図)
【特許文献3】特開2004−274696(図15)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型で且つ広い温度範囲に亘って安定した周波数信号が得られる発振器及びこの発振器用の弾性表面波素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発振器は、
圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備えた第1の共振子と、
前記圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備え、前記第1の共振子とは共振周波数が異なる値に設定された第2の共振子と、
前記第1の共振子及び前記第2の共振子に夫々接続される第1の発振回路及び第2の発振回路と、
前記第1の発振回路の出力信号の周波数及び前記第2の発振回路の出力信号の周波数の少なくとも一方は、温度検出のために用いられることを特徴とする。
【0008】
前記発振器は、以下のように構成しても良い。
前記第2の発振回路の出力信号の周波数に対応する信号を温度検出信号として用いるか、あるいは前記第1の発振回路の出力信号の周波数及び前記第2の発振回路の出力信号の周波数の差分に対応する信号を温度検出信号として用い、前記温度検出信号に基づいて前記第1の発振周波数の温度変動分を補償する構成。
発振器は、恒温槽付き発振器として構成され、
前記第2の発振回路の出力信号の周波数に対応する信号を温度検出信号として用いるか、あるいは前記第1の発振回路の出力信号の周波数及び前記第2の発振回路の出力信号の周波数の差分に対応する信号を温度検出信号として用い、前記温度検出信号に基づいて前記恒温槽の加熱源の供給電力を制御する構成。
前記第1の共振子及び前記第2の共振子は、各々のIDT電極における電極指の周期長が互いに異なる値に設定されている構成。前記第1の共振子及び前記第2の共振子は、各々のIDT電極における電極指の膜厚が互いに異なる寸法に設定されている構成。前記第1の共振子及び前記第2の共振子は、前記圧電基板上における弾性表面波の伝搬方向が互いに異なる向きとなるように、これら第1の共振子及び第2の共振子のうち一方の共振子に対して他方の共振子が傾斜して配置されている構成。
【0009】
また、本発明の発振器は、
圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備えた第1の共振子と、
前記圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備え、前記第1の共振子とは共振周波数が異なる値に設定された第2の共振子と、
前記第1の共振子及び前記第2の共振子に夫々接続される第1の発振回路及び第2の発振回路と、
前記第1の発振回路の出力信号の周波数及び前記第2の発振回路の出力信号の周波数の差分を検出する周波数差検出部と、を備え、
この周波数差検出部にて得られた周波数差に対応する周波数の発振出力を得るように構成されたことを特徴とする。
【0010】
本発明の弾性表面波素子は、
圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備えた第1の共振子と、
前記圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備え、前記第1の共振子とは共振周波数が異なる値に設定された第2の共振子と、
前記圧電基板上に形成され、前記第1の共振子を第1の発振回路に接続するための第1の信号ポートと、
前記圧電基板上に形成され、前記第2の共振子を第2の発振回路に接続するために、前記第1の信号ポートとは独立して設けられた第2の信号ポートと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、共通の圧電基板上に第1の共振子及び第2の共振子を配置すると共に、これら第1の共振子及び第2の共振子の互いの共振周波数をずらしている。そのため、これら第1の共振子及び第2の共振子に夫々接続される第1の発振回路及び前記第2の発振回路の出力信号の少なくとも一方を温度検出のために用いることにより、広い温度範囲に亘って安定した周波数信号を出力できる小型の発振器及び弾性表面波素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の弾性表面波素子の一例を示す平面図である。
【図2】前記弾性表面波素子を示す縦断面図である。
【図3】前記弾性表面波素子の周波数特性を示す模式図である。
【図4】前記弾性表面波素子の周波数特性の温度変化を示す模式図である。
【図5】前記弾性表面波素子が適用される本発明の発振器の一例を概略的に示す回路図である。
【図6】前記弾性表面波素子の他の例を示す平面図である。
【図7】前記発振器の他の例を概略的に示す回路図である。
【図8】前記発振器の別の例を概略的に示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の発振器に用いられる弾性表面波素子の実施の形態の一例について、図1及び図2を参照して説明する。この弾性表面波素子は、図1に示すように、共通の圧電基板1上に各々配置された2つのSAW共振子2、3を備えており、以下に説明するように、これらSAW共振子2、3における各々の共振周波数が互いに異なる値となるように構成されている。この例では、圧電基板1は、STカット板である水晶により構成されている。図1において、圧電基板1上における弾性波(弾性表面波)の伝搬方向を左右方向、弾性波の伝搬方向に直交する方向を前後方向と呼ぶと、SAW共振子2及びSAW共振子3は、圧電基板1上において夫々手前側及び奥側に配置されている。以下の説明において、これらSAW共振子2及びSAW共振子3について、便宜上夫々「第1の共振子」及び「第2の共振子」と呼ぶこととする。
【0014】
第1の共振子2は、IDT(Inter Digital Transducer)電極12と、このIDT電極12の左右両側に各々配置された反射器13、13とを備えている。IDT電極12は、左右方向に各々伸びると共に互いに平行となるように形成された一対のバスバー14、14と、これらバスバー14、14の一方側から他方側に向かって交互に交差するように櫛歯状に配置された複数の電極指15とを備えている。この例では、互いに隣接して伸びる2本の電極指15、15が左右方向に周期的に配置されており、これら2本の電極指15、15の幅寸法及び電極指15、15間の離間寸法からなる周期長λ1は、例えば4.3μm程度となっている。
【0015】
一対のバスバー14、14のうち例えば手前側のバスバー14には、圧電基板1の端部領域から伸びる引き出し電極16の一端側が接続されており、この引き出し電極16の他端側は、前記端部領域に形成された第1の信号ポート21aに接続されている。また、奥側のバスバー14は、同様に引き出し電極16を介して、圧電基板1の端部側に形成された第1の信号ポート21bに接続されている。
【0016】
反射器13、13は、一対のグレーティングバスバー17、17及びこれらグレーティングバスバー17、17同士を互いに接続するように配置された複数のグレーティング電極指18を各々備えている。グレーティング電極指18についても、既述の周期長λ1となるように配置されている。また、図2に示すように、これらIDT電極12及び反射器13、13の膜厚t1は、例えば0.14μmとなっている。従って、この第1の共振子2の共振周波数f1は、例えば315MHzとなっている。尚、図2は、図1におけるA−A線にて圧電基板1を切断した縦断面図を示している。
【0017】
第2の共振子3は、第1の共振子2と同様に、IDT電極12及びこのIDT電極12の左右両側に各々配置された反射器13、13を備えている。この第2の共振子3におけるIDT電極12の奥側のバスバー14は、引き出し電極16を介して、圧電基板1の端部側に設けられた第2の信号ポート22aに接続されている。また、第2の共振子3におけるIDT電極12の手前側のバスバー14は、同様に引き出し電極16を介して、圧電基板1の端部側に設けられた第2の信号ポート22bに接続されている。従って、これら第2の信号ポート22a、22bは、第1の信号ポート21a、21bとは独立して(導通しないように)設けられている。後述の発振回路23(24)は、例えば図示しないワイヤなどを介して信号ポート21a、21b(22a、22b)に接続される。
【0018】
第2の共振子3では、電極指15やグレーティング電極指18の周期長λ2は、第1の共振子2における周期長λ1とは異なる寸法例えば4.5μmとなっている。また、第2の共振子3におけるIDT電極12の膜厚t2は、第1の共振子2における膜厚t1とは異なる寸法例えば0.15μmとなっている。従って、第2の共振子3の共振周波数f2は、図3に示すように、例えば300MHz(≠f1)となっている。この時、共通の圧電基板1上に2つの第1の共振子2及び第2の共振子3を形成していることから、これら共振子2、3の置かれる雰囲気の温度がほぼ揃う。そのため、図4に示すように、これら共振子2、3の各々の温度特性(温度変化に対して共振周波数が変化する度合い)についても互いに揃う。尚、図3及び図4は、各々の共振子2、3の特性を模式的に示している。
【0019】
次に、このような弾性表面波素子の製造方法について、リフトオフ技術を用いた場合を例に挙げて簡単に説明する。始めに、圧電基板1上に例えばアルミニウム(Al)などからなる金属膜を成膜し、続いてレジストマスクを介してドライエッチングを行うフォトリソグラフィ法により、例えば第2の共振子3を形成する。そして、この第2の共振子3を覆うように、別のレジストマスクを圧電基板1上に成膜すると共に、露光処理及び現像処理により、第1の共振子2、引き出し電極16及び信号ポート21、22に対応する領域が開口するように前記別のレジストマスクに開口部を形成する。その後、例えばアルミニウムの蒸着により前記開口部に金属膜を埋め込み、続いて圧電基板1を有機溶剤やアルカリ水溶液などに浸漬して、レジストマスクを当該レジストマスクの上方の不要な金属膜と共に除去することにより、既述の図1に示す弾性表面波素子が形成される。
【0020】
この時、リフトオフ技術に代えてエッチングを利用して弾性表面波素子を製造する場合には、始めにフォトリソグラフィ法により互いに同じ膜厚となるように共振子2、3を形成する。続いて、例えば第2の共振子3を覆うと共に第1の共振子2が露出するようにレジストマスクを形成し、その後第1の共振子2の膜厚t1が既述の寸法となるように、エッチング液により当該第1の共振子2をウエットエッチングする。
【0021】
続いて、以上説明した弾性表面波素子を備えた発振器の一例について、図5を参照して説明する。この発振器(TCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillator)は、外部に設定周波数fの信号を出力するための回路であり、TCXOの外部の温度変化に依らずに、あるいは外部の温度変化の影響を抑えて、この設定周波数fを出力できるように構成されている。この設定周波数fは、基準温度T例えば29℃において、基準電圧Vを以下に説明する第1の発振回路23に印加した時に得られる出力周波数である。
【0022】
第1の共振子2には、第1の信号ポート21a、21bを介して第1の発振回路23が接続されており、第2の共振子3には、同様に第2の信号ポート22a、22bを介して、当該第2の共振子3を温度センサーとして用いるための第2の発振回路24が接続されている。そして、これら発振回路23、24間には、第2の発振回路24から入力される温度補償用の周波数信号に基づいて既述の弾性表面波素子の温度を推定し、この温度において第1の発振回路23にて設定周波数fが得られる制御電圧V(V=V−ΔV)を演算するための制御電圧供給部41が信号出力部として設けられている。図5中42は、第2の発振回路24に制御電圧V10が入力される入力端であり、43は発振器の出力端である。また、図5中44はバリキャップダイオードである。
【0023】
具体的には、制御電圧供給部41は、第2の発振回路24から入力される周波数信号から周波数fを計測するための例えば周波数カウンターなどからなる周波数検出部45と、この周波数検出部45において計測した周波数fに基づいて温度Tを推定する温度推定部46と、温度推定部46において推定した温度Tに基づいて補償電圧ΔVを演算するための補償電圧演算部47と、補償電圧演算部47にて演算された補償電圧ΔVを基準電圧Vから減算した制御電圧Vを第1の発振回路23に出力するための混合器48と、を備えている。温度推定部46には、以下の(1)式に示す第2の発振回路24の周波数温度特性(例えば3次関数)が記憶されており、この温度特性と第2の発振回路24の発振周波数fとに基づいて、弾性表面波素子の温度が求められる。
f=f10{1+α(T−T10)3+β(T−T10)+γ} ・・・(1)
【0024】
また、補償電圧演算部47は、第1の発振回路23の温度特性である例えば3次関数発生器を備えており、以下の(2)〜(4)式及び温度Tに基づいて、補償電圧ΔVを求めるように構成されている。
ΔV=V(Δf/f) ・・・(2)
Δf/f=α(T−T)3+β(T−T)+γ ・・・(3)
ΔV=V{α(T−T)3+β(T−T)+γ}・・・・(4)
α、β、γ及びα、β、γは夫々第1の発振回路23及び第2の発振回路24に固有の定数であり、温度や基準電圧を種々変えて出力周波数を測定することにより求められる。尚、Δf=f−fであり、またf10は第2の発振回路24において基準温度T10にて基準電圧V10を印加した時に得られる出力周波数である。
【0025】
この発振器において入力端42に制御電圧V10を入力すると、第2の発振回路24では、弾性表面波素子の温度Tに基づいて、既述の式(1)で求められる発振周波数fにおいて基本波の厚み滑り振動で発振する。この発振周波数fは、既述のように周波数検出部45を介して温度推定部46に入力され、この温度推定部46において弾性表面波素子の温度Tが推定される。そして、補償電圧演算部47では、温度推定部46にて得られた温度Tに基づいて補償電圧ΔVが演算され、混合器48を介して制御電圧Vが第1の発振回路23に印加される。第1の発振回路23では、弾性表面波素子の温度T及び制御電圧Vに応じた発振周波数f、即ち設定周波数fにおいて厚み滑り振動で振動する。つまり、温度Tでは、第1の発振回路23は、基準温度Tとの差分(T−T)だけ、当該第1の発振回路23の周波数温度特性の3次関数に沿って発振周波数fが設定周波数fからずれようとする。しかし、設定周波数fが得られる制御電圧Vを第1の発振回路23に印加していることから、即ち前記差分に対応する分だけ基準電圧Vよりも低い(あるいは高い)制御電圧Vを印加していることから、当該差分を相殺した出力周波数(設定周波数f)が得られる。
【0026】
上述の実施の形態によれば、共通の圧電基板1上に第1の共振子2及び第2の共振子3を配置すると共に、第2の共振子3の共振周波数(出力信号)を温度補償用の信号として用いるために、共振子2、3の共振周波数を互いにずらしている。そのため、これら共振子2、3では温度差がなくなるか、あるいは極めて小さくなるので、広い温度範囲に亘って安定した周波数信号を出力できる。そして、温度補償を行うにあたり、既述の恒温槽を用いていないことから、更には水晶基板の上下両面に電極膜を形成した水晶振動子よりも小型化が可能なSAW共振子(第1の共振子2及び第2の共振子3)を用いていることから、小型の発振器及び弾性表面波素子を得ることができる。また、このように小型の発振器を構成していることから、更には既述のように恒温槽を用いていないことから、省電力性に優れた共振器を得ることができる。
【0027】
この時、第1の共振子2及び第2の共振子3間において周期長λ1、λ2及び膜厚t1、t2を互いに異なる値としたが、共振周波数f1、f2を互いに異なる値に設定するにあたって、周期長λ及び膜厚tの少なくとも一方だけを変えるようにしても良い。また、膜厚tについて、共振子2、3間において反射器13の膜厚を揃えると共に、夫々のIDT電極12の膜厚だけを変えても良いし、あるいはIDT電極12の電極指15の膜厚だけを互いに変えても良い。更に、周期長λについて、共振子2、3間において各々の反射器13、13の周期長λを揃えると共に、IDT電極12の周期長λだけを互いに変えるようにしても良い。
【0028】
次に、弾性表面波素子の他の例について、図6を参照して説明する。この例では、第1の共振子2及び第2の共振子3は、周期長λ及び膜厚tが互いに揃うように形成されると共に、共振周波数f1、f2が互いにずれるように、一方の共振子2(3)に対して他方の共振子3(2)が傾斜するように配置されている。具体的には、各々の共振子2、3においてバスバー14に沿って伸びる直線(電極指15の向きに対して直交する直線)に夫々「L1」及び「L2」を付すと、これら直線L1及び直線L2のなす角度θは、例えば45°となっている。尚、図6において、図1と同じ構成の部位については同じ符号を付して説明を省略している。
【0029】
即ち、第1の共振子2は、前記直線L1が圧電基板1の結晶軸におけるX軸方向(圧電基板1の左右方向)と平行になるように形成されている。そして、第2の共振子3は、直線L2が圧電基板1のX軸に対して45°傾斜するように配置されている。従って、第1の共振子2及び第2の共振子3では、弾性波が夫々直線L1及び直線L2に沿うように伝搬するので、第1の共振子2及び第2の共振子3において弾性波の伝搬速度が互いに異なる速度となる。即ち、第2の共振子3の周期長λ2について、弾性波から見た時に、第1の共振子2の周期長λ1よりも長く形成していると言える。そのため、これら第1の共振子2及び第2の共振子3では、夫々の共振周波数f1、f2が互いに異なる値となる。この弾性表面波素子においても、既述の図5の発振器が構成され、同様の効果が得られる。
【0030】
図6における角度θとしては、どのような角度であっても良く、具体的には0°<θ<180°(θ≠90°)であっても良い。また、第1の共振子2について、直線L1が圧電基板1のX軸に対して傾斜するように配置しても良く、この場合には直線L1、L2が夫々圧電基板1のY軸(X軸に直交する軸)に対して傾斜すると共に角度θ≠0°(180°)となるように構成しても良い。即ち、各々の共振子2、3は、弾性波が伝搬するように配置される。
【0031】
また、図6のように第1の共振子2に対して第2の共振子3を傾斜させて配置すると共に、図1のようにこれら共振子2、3において周期長λや膜厚tを互いにずらしても良い。更に、共振周波数f1、f2を互いに異なる値に設定するにあたって、周期長λ、膜厚t及び傾斜角度θを調整することに代えて、あるいはこれら周期長λ、膜厚t及び傾斜角度θと共に、IDT電極12における電極指15の交差長(一方のバスバー14から伸びる電極指15と当該電極指15に隣接して他方のバスバー14から伸びる電極指15とが交差する寸法)を共振子2、3間で互いに変えるようにしても良い。
【0032】
この時、共通の水晶基板に2つの水晶振動子を形成し、これら水晶振動子の一方を温度補償用として用いた場合(既述の特許文献1)には、これら水晶振動子の間で共振周波数をずらそうとすると、水晶基板の上下両面に形成される電極膜の膜厚や大きさ(表面積)を調整する手法を採らざるを得ない。一方、共振子2、3を用いた場合には、以上説明したように、膜厚tだけでなく、周期長λ及び傾斜角度θについても互いの共振周波数f1、f2を互いに異なる値に設定するにあたってのいわばパラメータとして利用できる。従って、共振子2、3の各々の共振周波数f1、f2について、容易に互いに異なる寸法に設定できる。言い換えると、共振子2、3を用いることにより、各々の共振周波数f1、f2を互いに異なる値に設定するにあたってのパラメータの調整幅を広く取ることができる。
以上の共振子2(3)としては、一つのIDT電極12を挟むように一対の反射器13、13を配置した構成を採ったが、これら反射器13、13間に複数のIDT電極12を配置しても良い。
【0033】
以下に、本発明の発振器の他の例について説明する。図7は、第1の発振回路23及び第2の発振回路24における各々の出力信号の差分を取るために、これら発振回路23、24に混合器48を周波数差検出部として接続した例を示している。即ち、共振子2、3では周波数温度特性が揃っていることから、発振回路23、24から出力される周波数信号の差分(f1−f2)は、外部の温度変化ではほとんど変化しないので、当該差分を設定周波数fとして利用しても良い。図7中25は、前記周波数信号の差分を逓倍するための逓倍回路である。
【0034】
また、図8(a)は、共振子2、3における夫々の共振周波数f1、f2の差分に対応する信号((f1−f2)/f1)を温度センサとして利用した例を示している。即ち、前記差分は、外部の温度変化ではほとんど変化しないが、極めて微視的に見ると、外部の温度変化に伴ってごく僅かに変化する。そこで、図8(a)では、前記差分に基づいて外部の温度を検出して、この検出結果を用いて周波数シンセサイザ50の温度補償を行っている。
【0035】
具体的には、第1の発振回路23は、周波数シンセサイザ50における後述のDDS(Direct Digital Synthesizer)に対して駆動用のクロック信号を供給するために、当該周波数シンセサイザ50に接続されている。また、発振回路23、24には、発振周波数f1、f2の差分に対応する信号((f2−f1)/f1)を検出するための差分検出部51が接続されており、この差分検出部51には、温度補償量を求めるための補償量演算部52が接続されている。
【0036】
環境温度と(f2−f2)/f1との関係、及び環境温度と混合器53に入力する設定値に対する補償値との関係は、いずれも事前に分かっていることから、補償量演算部52には、(f2−f1)/f1と補償値との関係を示す関係データあるいは関係式が記憶され、このため補償量演算部52から温度に応じた補償値が出力される。即ち、既述のDDSの駆動用のクロック信号として第1の発振回路23の出力信号を用いているので、このDDSから出力される信号は、弾性表面波素子の温度変化に応じて、設定値に対応する値からずれようとするが、このずれ分が補償される。
【0037】
この周波数シンセサイザ50では、混合器53の入力値に対応するリファレンスクロック信号をDDS(Direct Digital Synthesizer)から出力すると共に、このリファレンス信号をPLL(Phase Lockd Loop)回路の位相比較部の一方の入力端に入力する。こうしてリファレンス信号の周波数に対応した周波数信号が出力される。
【0038】
図8(b)は、本発明の弾性表面波素子を恒温槽(図示せず)付きの発振器に適用した例を示している。弾性表面波素子(共振子2、3の形成された圧電基板1)は、加熱源であるヒータ31の設けられた恒温槽内に設置されている。第1の発振回路23は、図8(a)と同様に周波数シンセサイザ50に接続されている。図8(b)中32は、ヒータ31の制御回路であり、この制御回路32に差分検出部51が接続されている。制御回路32には、共振周波数の差分と温度との相関データが記憶されており、この相関データに基づいてヒータ31への供給電力を調整できるように構成されている。
【0039】
このような構成の発振器の場合には、共振子2、3では、外部の温度に応じた共振周波数で各々発振して、差分検出部51においてこれら共振周波数の差分が算出される。制御回路32では、前記差分に応じてヒータ31の温度が調整される。従って、第1の発振回路23から周波数シンセサイザ50に出力されるDDSの駆動用のクロック信号は、外部の温度の影響が小さく抑えられる。そのため、既述のように周波数シンセサイザ50に対して設定値を入力すると、リファレンス信号の周波数に対応した周波数信号が温度の影響をほとんど受けずに出力される。この発振器では、共振子2、3の共振周波数の差分を用いてヒータ31の出力を調整しているので、極めて安定したクロック信号を得ることができる。
【0040】
周波数シンセサイザ50を用いる場合においても、既述の図5と同様に、第2の共振子3の共振周波数f2を温度センサとして用いても良い。即ち、図8(a)の場合には、共振周波数f2に基づいて温度が算出されると共に補償量が設定される。そして、DDSの駆動用として用いられる第1の発振回路23の出力信号が外部の温度変化によって変動することを相殺するために、混合器53に入力される設定値に前記補償量が加算される。また、図8(b)の場合には、第2の発振回路24に制御回路32が接続されて、この制御回路32において、共振周波数f2に基づいて外部の温度が算出されると共に、ヒータ31への供給電力が調整される。従って、既述の例と同様に、DDSに対して、温度変化に依らずに、あるいは温度の影響をほとんど受けずに、第1の発振回路23の出力信号が当該DDSの駆動用のクロック信号として供給される。
また、図8(a)及び図8(b)において、DDSの駆動用のクロック信号として、温度センサとして用いる共振子2、3とは別に、圧電基板1に第3の共振子を設けておき、第1の発振回路23から出力される出力信号に代えて、この第3の共振子から第3の発振回路(いずれも図示せず)を介して出力される出力信号を用いても良い。
【符号の説明】
【0041】
1 圧電基板
2 第1の共振子
3 第2の共振子
21 第1の信号ポート
22 第2の信号ポート
23 第1の発振回路
24 第2の発振回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備えた第1の共振子と、
前記圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備え、前記第1の共振子とは共振周波数が異なる値に設定された第2の共振子と、
前記第1の共振子及び前記第2の共振子に夫々接続される第1の発振回路及び第2の発振回路と、
前記第1の発振回路の出力信号の周波数及び前記第2の発振回路の出力信号の周波数の少なくとも一方は、温度検出のために用いられることを特徴とする発振器。
【請求項2】
前記第2の発振回路の出力信号の周波数に対応する信号を温度検出信号として用いるか、あるいは前記第1の発振回路の出力信号の周波数及び前記第2の発振回路の出力信号の周波数の差分に対応する信号を温度検出信号として用い、前記温度検出信号に基づいて前記第1の発振周波数の温度変動分を補償するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
発振器は、恒温槽付き発振器として構成され、
前記第2の発振回路の出力信号の周波数に対応する信号を温度検出信号として用いるか、あるいは前記第1の発振回路の出力信号の周波数及び前記第2の発振回路の出力信号の周波数の差分に対応する信号を温度検出信号として用い、前記温度検出信号に基づいて前記恒温槽の加熱源の供給電力を制御することを特徴とする請求項1に記載の発振器。
【請求項4】
前記第1の共振子及び前記第2の共振子は、各々のIDT電極における電極指の周期長が互いに異なる値に設定されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の発振器。
【請求項5】
前記第1の共振子及び前記第2の共振子は、各々のIDT電極における電極指の膜厚が互いに異なる寸法に設定されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の発振器。
【請求項6】
前記第1の共振子及び前記第2の共振子は、前記圧電基板上における弾性表面波の伝搬方向が互いに異なる向きとなるように、これら第1の共振子及び第2の共振子のうち一方の共振子に対して他方の共振子が傾斜して配置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の発振器。
【請求項7】
圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備えた第1の共振子と、
前記圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備え、前記第1の共振子とは共振周波数が異なる値に設定された第2の共振子と、
前記第1の共振子及び前記第2の共振子に夫々接続される第1の発振回路及び第2の発振回路と、
前記第1の発振回路の出力信号の周波数及び前記第2の発振回路の出力信号の周波数の差分を検出する周波数差検出部と、を備え、
この周波数差検出部にて得られた周波数差に対応する周波数の発振出力を得るように構成されたことを特徴とする発振器。
【請求項8】
圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備えた第1の共振子と、
前記圧電基板上に形成され、IDT電極及び、このIDT電極における弾性表面波の伝搬方向の一方側及び他方側に各々配置された反射器を備え、前記第1の共振子とは共振周波数が異なる値に設定された第2の共振子と、
前記圧電基板上に形成され、前記第1の共振子を第1の発振回路に接続するための第1の信号ポートと、
前記圧電基板上に形成され、前記第2の共振子を第2の発振回路に接続するために、前記第1の信号ポートとは独立して設けられた第2の信号ポートと、を備えたことを特徴とする弾性表面波素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−115496(P2013−115496A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257797(P2011−257797)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】