説明

白色発光装置、照明装置および照明方法

【課題】Raが80以上であるLED照明装置に好ましく適用することのできる、発光効率の改善された白色光源を提供することを解題とする。
【解決手段】各々が蛍光体変換型の半導体白色発光素子である第1素子および第2素子を有し、該第1素子が放出する第1白色光および該第2素子が放出する第2白色光を含む混合光である白色光を放出する白色発光装置において、該第1素子は、青色光を発するInGaN系LEDチップと、青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体とを組み合せて構成され、該第1素子の平均演色評価数をRa1、該第2素子の平均演色評価数をRa2、該白色発光装置の平均演色評価数をRa3としたとき、
60≦Ra1≦70、かつ
85≦Ra2<100、かつ
80≦Ra3<Ra2である、ことを特徴とする白色発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明装置の光源に適した白色発光装置、とりわけ、蛍光体変換型の半導体白色発光素子を含む白色発光装置に関する。本発明は、また、かかる白色発光装置を用いた照明装置に関する。本発明は、また、かかる白色発光装置を用いた照明方法に関する。
【0002】
本発明および本明細書においては、光色の黒体輻射軌跡からの偏差Duvが−20〜+20の範囲に含まれる光を、白色光と呼ぶものとする。Duv(=1000duv)の定義はJIS Z 8725:1999「光源の分布温度及び色温度・相関色温度測定方法」による。
【背景技術】
【0003】
昨今、白熱電球や蛍光ランプを光源に用いた従来の照明装置から、半導体発光素子である発光ダイオード(LED)を光源に用いたLED照明装置への置き換えが急速に進んでいる。LED照明装置として主流となっているのは、紫外から緑色にかけての波長域に発光ピーク波長を有するLEDチップと、該LEDチップからの放射を所定の可視光に変換する蛍光体とから構成される、蛍光体変換型の半導体白色発光素子である白色LEDを、白色光の発生源に用いたものである。
【0004】
照明用光源にとって重要な性質のひとつは演色性である。1986年にCIE(国際照明委員会)は蛍光ランプが具備すべき演色性の指針を公表しており、その指針によれば、使用される場所に応じた好ましい平均演色評価数(Ra)は、一般作業を行う工場では60以上80未満、住宅、ホテル、レストラン、店舗、オフィス、学校、病院、精密作業を行う工場などでは80以上90未満、臨床検査を行う場所、美術館などでは90以上とされている。
【0005】
一般に、光源の演色性と発光効率との間にはトレードオフがあり、白色LEDのような半導体白色発光素子も例外ではない。現状で最も発光効率の高い半導体白色発光素子は、青色光を発するLEDチップと青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体とを組み合わせて構成された白色LEDであるが、この白色LEDのRaは80に達しない。つまり、住宅、店舗、オフィスなどの照明に使用する光源に望まれる演色性の最低水準(80≦Ra)を充たしていない(特許文献1)。Raの改善された半導体白色発光素子は、青色光を発するLEDチップと、青色光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、青色光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合わせることにより得られている(特許文献2)。
【0006】
LED照明装置は、光源に色温度の異なる2種類の半導体白色発光素子を用いることにより、調色機能を備えたものとすることができる。そのような2種類の半導体白色発光素子をひとつのパッケージに収めた白色LEDが開発されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−077979号公報
【特許文献2】特開2006−049553号公報
【特許文献3】特開2009−231525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
青色光を発するLEDチップと、青色光を吸収して緑色光を発する蛍光体(緑色蛍光体
)と、青色光を吸収して赤色光を発する蛍光体(赤色蛍光体)とを組み合せて構成される半導体白色発光素子は、Raを80以上とすることができるため、住宅、ホテル、レストラン、店舗、オフィス、学校、病院、精密作業を行う工場のような場所の照明に用いる光源として好適といえる。しかし、このタイプの半導体白色発光素子では、緑色蛍光体の発する光の一部が赤色蛍光体に吸収されるために、効率が低くなるという問題がある。
【0009】
上記事情の下、本発明の主たる目的は、Raが80以上であるLED照明装置に好ましく適用することのできる、発光効率の改善された白色光源を提供することである。また、本発明の目的には、該白色光源を用いた照明装置を提供することも含まれる。更に、本発明の目的には、Raが80以上の照明装置の使用が望まれる場所で好ましく採用することのできる、半導体白色発光素子を用いた効率の高い照明方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
青色光を発するLEDチップと青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体とを組み合わせて構成された半導体白色発光素子は、演色性が良くないことから、これを用いてRaが80以上の照明装置を作ることはできないものと考えられていた。しかし、本発明者等が実験したところ、このような半導体白色発光素子が発する光が演色性の高い半導体白色発光素子の発する光に混合される白色発光装置は、Raが80以上の照明装置の光源として使用可能な、良好な演色性を示すものとなり得ることが判明した。本発明は、かかる知見に基づき完成されたものであり、その一実施形態として提供される白色発光装置は次の構成を有する:
各々が蛍光体変換型の半導体白色発光素子である第1素子および第2素子を有し、該第1素子が放出する第1白色光および該第2素子が放出する第2白色光を含む混合光である白色光を放出する白色発光装置において、該第1素子は、青色光を発するInGaN系LEDチップと、青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体とを組み合せて構成され、該第1素子の平均演色評価数をRa1、該第2素子の平均演色評価数をRa2、該白色発光装置の平均演色評価数をRa3としたとき、60≦Ra1≦70、かつ85≦Ra2<100、かつ80≦Ra3<Ra2である、ことを特徴とする白色発光装置。
【0011】
この白色発光装置は、高演色の半導体白色発光素子である第2素子の明るさを、高効率の半導体白色発光素子である第1素子が補うことにより、住宅、ホテル、レストラン、店舗、オフィス、学校、病院、精密作業を行う工場のような場所の照明のための光源に求められる演色性の水準を充たしながら、発光効率が改善されたものとなっている。
【0012】
第1素子は、放出する第1白色光の相関色温度T1(K)を5000≦T1≦7000とすると視感効率(luminous efficiency)が特に高くなり、好ましい。
【0013】
この白色発光装置は、第1白色光と第2白色光の相関色温度を異ならせることにより、調色機能を備えたLED照明装置の光源としても使用可能なものとなる。その場合、第1白色光の相関色温度T1(K)と第2白色光の相関色温度T2(K)の差が大きい程、調色可能な色温度のレンジを広くすることができる。3000≦T1−T2であれば、相関色温度にして1000K以上のレンジで調色が可能なLED照明装置を、この白色発光装置を光源に用いて作ることが可能となる。
【0014】
この白色発光装置は、発光効率の改善を優先して、平均演色評価数Ra3を90以下に抑えることができる。
【0015】
この白色発光装置において、青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体の好適例は、Ce3+を付活剤としガーネット型酸化物結晶またはランタンケイ素窒化物結晶を母体とする蛍光体を含む。
【0016】
この白色発光装置における第2素子の好適例は、青色光を発するInGaN系LEDチップと、青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体と、青色光を吸収して赤色光を発する、Mn4+で付活されたフッ化物錯体蛍光体とを組み合せて構成された半導体白色発光素子である。
【0017】
この白色発光装置における第2素子の他の好適例は、青色光を発するInGaN系LEDチップと、青色光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、青色光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された半導体白色発光素子である。
【0018】
この白色発光装置における第2素子の更に他の好適例は、紫色光を発するInGaN系LEDチップと、紫色光を吸収して青色光を発する蛍光体と、紫色光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、紫色光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された半導体白色発光素子である。
【0019】
この白色発光装置における第2素子の更に他の好適例は、近紫外光を発するInGaN系LEDチップと、近紫外光を吸収して青色光を発する蛍光体と、近紫外光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、近紫外光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された半導体白色発光素子である。
【0020】
この白色発光装置を光源に用いた照明装置も、また、本発明の一実施形態に含まれる。
【0021】
本発明は、更に、その一実施形態として、次の照明方法を提供するものである:
各々が蛍光体変換型の半導体白色発光素子である第1素子および第2素子を有し、該第1素子が放出する第1白色光および該第2素子が放出する第2白色光を含む混合光である白色光を放出する白色発光装置を用いた照明方法において、該第1素子は、青色光を発するInGaN系LEDチップと青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体とを組み合せて構成され、該第1素子の平均演色評価数をRa1、該第2素子の平均演色評価数をRa2、該白色発光装置の平均演色評価数をRa3としたとき、60≦Ra1≦70、かつ、85≦Ra2<100であり、Ra3が80を下回らない範囲で該白色光に含まれる該第1白色光と該第2白色光の強度比を調節する、ことを特徴とする照明方法。
【0022】
この照明方法で使用される白色発光装置は、高演色の半導体白色発光素子である第2素子の明るさを、高効率の半導体白色発光素子である第1素子が補っている。この照明方法は、平均演色評価数が80以上の照明装置を用いることが望まれる住宅、ホテル、レストラン、店舗、オフィス、学校、病院、精密作業を行う工場のような場所の照明に好ましく使用できる。
【0023】
この照明方法において、第1白色光の相関色温度をT1(K)としたとき、好ましくは、5000≦T1≦7000である。
【0024】
この照明方法において、第2白色光の相関色温度をT2(K)としたとき、3000≦T1−T2とすれば、相関色温度にして1000K以上のレンジで調色が可能となる。レンジ内のいずれの色温度においても白色発光装置の平均演色評価数が80以上であることは、この白色発光装置を光源とする照明の下で色の恒常性をつかさどるヒトの視覚システムが正常に機能するために(つまり、照明色が変わっても同じ物の色が同じであると知覚されるために)重要である。
【0025】
この照明方法において、青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体の好適例は、Ce3+を付活剤としガーネット型酸化物結晶またはランタンケイ素窒化物結晶を母体とする蛍光体
を含む。
【0026】
この照明方法における第2素子の好適例は、青色光を発するInGaN系LEDチップと、青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体と、青色光を吸収して赤色光を発する、Mn4+で付活されたフッ化物錯体蛍光体とを組み合せて構成された半導体白色発光素子である。
【0027】
この照明方法における第2素子の他の好適例は、青色光を発するInGaN系LEDチップと、青色光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、青色光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された半導体白色発光素子である。
【0028】
この照明方法における第2素子の更に他の好適例は、紫色光を発するInGaN系LEDチップと、紫色光を吸収して青色光を発する蛍光体と、紫色光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、紫色光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された半導体白色発光素子である。
【0029】
この照明方法における第2素子の更に他の好適例は、近紫外光を発するInGaN系LEDチップと、近紫外光を吸収して青色光を発する蛍光体と、近紫外光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、近紫外光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された半導体白色発光素子である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の実施形態に係る上記の白色発光装置を用いることにより、Raが80以上の、発光効率の改善されたLED照明装置を作ることができる。また、本発明の実施形態に係る上記の照明装置は、80以上のRaと改善された発光効率を有するものとなる。更に、本発明の実施形態に係る上記の照明方法によれば、Raが80以上の照明装置の使用が望まれる場所の照明を高効率化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1A】本発明の実施形態に係る白色LEDの斜視図である。
【図1B】図1Aに示す白色LEDにおいてLEDチップがリード電極にどのように接続されているかを示す平面図である。
【図1C】図1A及び図1Bに示す白色LEDの回路構成を示す図である。
【図2】図1に示す白色LEDの断面図である。
【図3】図3(a)は本発明の実施形態に係る発光モジュールの斜視図であり、図3(b)は該発光モジュールにおける白色LEDの配置について簡略に示す図である。
【図4】図3に示す発光モジュールの回路構成を示す図である。
【図5】図3に示す発光モジュールに搭載された白色LEDへの電流印加パターンの一例を示す図である。
【図6】半導体白色発光素子の構造例を示す断面図である。
【図7】シミュレーションにより得た混合光のスペクトルである。
【図8】シミュレーションにより得た混合光のスペクトルである。
【図9】シミュレーションにより得た混合光のスペクトルである。
【図10】シミュレーションにより得た混合光のスペクトルである。
【図11】シミュレーションにより得た混合光のスペクトルである。
【図12】色度図(CIE 1931)である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の白色発光装置は、白色照明に適した光、すなわち、光色の黒体輻射軌跡からの偏差Duvが−20〜+20の範囲、好ましくは−6.0〜+6.0の範囲に入る光を発
生させることを目的としている。
【0033】
本発明の白色発光装置は、LEDチップと、該LEDチップからの放射を所定の可視光に変換する蛍光体とを組み合せて構成された、半導体白色発光素子を備えるものである。この半導体白色発光素子において、該LEDチップと該蛍光体の光学的な結合の形態に限定はなく、白色光生成系が構成されさえすれば、両者の間は単に透明な媒体(空気を含む)で充たされているだけであってもよいし、あるいは、レンズ、光ファイバ、導光板、反射鏡などの光学素子が両者の間に介在していてもよい。蛍光体の形態にも特に限定はなく、パウダー状であってもよいし、セラミック組織中に蛍光体相を含有する発光セラミックであってもよい。パウダー状の蛍光体は適宜な方法により固定化して使用される。固定化の方法に限定はないが、好ましくは、高分子材料またはガラスからなる透明な固体マトリックス中に蛍光体粒子を分散させるか、あるいは、適宜な部材の表面に電着その他の方法で蛍光体粒子を層状に堆積させる。
【0034】
本発明の白色発光装置が備える半導体白色発光素子は、汎用の白色LEDと同様の構造を有するものであってもよい。すなわち、1個または複数個のLEDチップを、砲弾型パッケージ、SMD型パッケージなどのパッケージにマウントし、蛍光体を添加した透光性封止材で封止した構造である。
【0035】
また、本発明の白色発光装置が備える半導体白色発光素子は、いわゆるチップ・オン・ボード型ユニットのように、回路基板上にパッケージを介さずにLEDチップが直接マウントされた構造を有するものであってもよい。その場合、蛍光体は、LEDチップが発する光が照射される位置に、適宜な方法で配置される。例えば、分散された蛍光体パウダーを含む透光性のシリコーン樹脂組成物が、LEDチップの表面に塗布される。あるいは、蛍光体パウダーが、電着などの方法によって、LEDチップの表面に堆積される。あるいは、別途工程で準備された、蛍光体を含有する透光性のシートが、LEDチップの上部に設置される。このシートは、蛍光体相を含む発光セラミックからなるシートであってもよいし、蛍光体パウダーを分散させた透光性の樹脂組成物からなるフィルムであってもよい。このフィルムは、樹脂、ガラス等からなる透明板の表面に積層されたものであってもよい。
【0036】
本発明の白色発光装置が備える半導体白色発光素子において、白色光生成系を構成するLEDチップは好ましくはInGaN系LEDチップである。InGaN系LEDは、窒化ガリウム系半導体(InGaAlN)を用いて形成されたダブルヘテロpn接合型の発光構造を有し、電子と正孔の発光再結合の場である活性層にInGaNを用いた発光ダイオード素子であり、通常、InGaN量子井戸層を含むMQW活性層を、それぞれがGaNまたはAlGaNからなるp型層とn型層とで挟んだ構造を有する。
【0037】
現在のところ、InGaN系LEDは、近紫外から青色にかけての波長域に発光ピークを有する発光ダイオード素子の中で最も高い発光効率を有する。公知の事実として、InGaN系LEDは発光ピーク波長を410〜430nmの範囲としたときに発光効率が最大となり、発光ピーク波長をこの範囲から離すにつれて効率が低下する傾向を示す。その一方で、視感度は430nmよりも長波長側では波長の増加とともに急激に上昇する。また、多くの青色蛍光体の励起効率は紫外〜近紫外領域において高く、波長405nmよりも長波長側では波長の増加とともに急激に低下する。従って、青色光の発生源として用いるInGaN系LEDチップの発光ピーク波長は好ましくは440〜460nmであり、青色蛍光体の励起源として用いるInGaN系LEDチップの発光ピーク波長は好ましくは405〜420nmである。
【0038】
本発明の白色発光装置が備える半導体白色発光素子に好適な蛍光体については次に説明
する通りである。
【0039】
〔赤色蛍光体〕
赤色蛍光体(赤色光を発する蛍光体)は、その発光色が、図12に示すxy色度図(CIE1931)における「RED」、「REDDISH ORANGE」または「ORANGE」に区分される蛍光体である。赤色蛍光体の主発光ピーク波長は通常570nm以上、好ましくは580nm以上、特に好ましくは610nm以上であり、また、通常700nm以下、好ましくは680nm以下、特に好ましくは660nm以下である。また、主発光ピークの半値幅は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、特に好ましくは30nm以上であり、また通常120nm以下、好ましくは110nm以下、特に好ましくは100nm以下である。
【0040】
LEDチップを用いて励起可能な公知の赤色蛍光体を任意に用いることができるが、好適例としては、Eu2+を付活剤とし、アルカリ土類ケイ窒化物、αサイアロンまたはアルカリ土類ケイ酸塩からなる結晶を母体とする赤色蛍光体が挙げられる。この種の赤色蛍光体は、通常、紫外から青色にかけてのいずれの波長の光でも励起可能である。母体結晶が窒素を含むものは、特に優れた耐久性および耐熱性を有する。アルカリ土類ケイ窒化物結晶を母体とするものの具体例には、(Ca,Sr,Ba)AlSiN3:Eu、(Ca,Sr,Ba)2Si58:Eu、SrAlSi47:Eu、(CaAlSiN31-x(Si(3n+2)/4nO)x:Euなどがある。アルカリ土類ケイ酸塩結晶を母体とするものの具体例には、(Sr,Ba)3SiO5:Euなどがある。
【0041】
赤色蛍光体の他の好適例は、Mn4+を付活剤とし、アルカリ金属、アミンまたはアルカリ土類金属のフッ化物錯体塩を母体結晶とする、Mn4+付活フッ化物錯体蛍光体である。母体結晶を形成するフッ化物錯体には、配位中心が3価金属(B、Al、Ga、In、Y、Sc、ランタノイド)のもの、4価金属(Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Re、Hf)のもの、5価金属(V、P、Nb、Ta)のものがあり、その周りに配位するフッ素原子の数は5〜7である。この蛍光体は、米国特許第3576756号公報、米国特許公開2006/0169998号公報、米国特許公開2007/0205712号公報などに開示されており、青色LEDチップを励起源として用いる場合に適しているが、青色蛍光体が発する光を用いても励起可能である。
【0042】
好ましいMn4+付活フッ化物錯体蛍光体は、アルカリ金属のヘキサフルオロ錯体塩を母体結晶とするA2MF6:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、NH4から選ばれる一種以上;MはGe、Si、Sn、Ti、Zrから選ばれる一種以上)である。中でも特に好ましいのは、AがK(カリウム)またはNa(ナトリウム)から選ばれる1種以上で、MがSi(ケイ素)またはTi(チタン)であるもの、例えば、K2SiF6:Mn、K2Si1-xNaxAlx6:Mn、K2TiF6:Mnなどである。
【0043】
2Si1-xNaxAlx6:Mnは上記特許文献には開示されていないが、原料化合物としてK2SiF6、A3AlF6、NaF、KF、K2MnF6、KMnO4、K2MnCl6などを用い、これらを所定の割合でフッ化水素酸中に添加して攪拌下に溶解させて反応させ、その後、蛍光体の貧溶媒を添加して、蛍光体を析出させる方法により製造することができる。この方法は、特許文献1に記載の方法と同様にして行ってもよいが、更に、貧溶媒の添加速度を遅くすることにより、より粒子径の大きな高輝度のものを得ることができる。
【0044】
この方法でK2Si1-xNaxAlx6:Mnを製造する場合に採用し得る、原料化合物の組み合わせを以下に例示する。
1)K2SiF6とK2NaAlF6とK2MnF6との組み合わせ。
2)K2SiF6とK3AlF6とNaFとK2MnF6との組み合わせ。
3)K2SiF6とK3AlF6とNa3AlF6とK2MnF6との組み合わせ。
4)K2SiF6とKFとNa3AlF6とK2MnF6との組み合わせ。
5)K2SiF6とK2NaAlF6とKMnO4との組み合わせ。
6)K2SiF6とK3AlF6とNaFとKMnO4との組み合わせ。
7)K2SiF6とK3AlF6とNa3AlF6とKMnO4
8)K2SiF6とKFとNa3AlF6とKMnO4との組み合わせ。
9)K2SiF6とK2MnCl6との組み合わせ。
10)K2SiF6とK3AlF6とNaFとK2MnCl6との組み合わせ。
11)K2SiF6とK3AlF6とNa3AlF6とK2MnCl6との組み合わせ。
【0045】
Mn4+付活フッ化物錯体蛍光体は、発光バンドが極めて狭く、主発光ピーク波長(通常、620〜640nm)よりも長波長の光、つまり、視感度が極めて低い深赤色光を殆ど放出しないという特徴を有している。さらに、それだけでなく、波長490nm以上の光を殆ど吸収しない、つまり、黄色蛍光体または緑色蛍光体が発する光を実質的に吸収しないという特徴を有している。従って、この種の赤色蛍光体の使用は、半導体白色発光素子の発光効率を向上させるうえで極めて有用である。
【0046】
〔黄色蛍光体〕
黄色蛍光体(黄色光を発する蛍光体)とは、その発光色が、図12に示すxy色度図(CIE 1931)における「YELLOW GREEN」、「GREENISH YELLOW」、「YELLOW」または「YELLOWISH ORANGE」に区分される蛍光体である。黄色蛍光体の主発光ピーク波長は通常530nm以上、好ましくは540nm以上、特に好ましくは550nm以上であり、また、通常620nm以下、好ましくは600nm以下、特に好ましくは580nm以下である。
【0047】
LEDチップを用いて励起可能な公知の黄色蛍光体を任意に用いることができるが、好適例としては、Ce3+を付活剤とし、ガーネット型酸化物結晶を母体とする蛍光体、例えば、(Y,Gd)3Al512:Ce、Tb3Al512:Ceなどが挙げられる。他の好ましい黄色蛍光体には、Ce3+を付活剤とし、ランタンケイ素窒化物結晶を母体とする蛍光体、例えば、La3Si611:Ce、Ca1.5xLa3-xSi611:Ceなどがある。これらの黄色蛍光体は、青色LEDチップを励起源として用いる場合に適しているが、青色蛍光体が発する光を用いても励起可能である。黄色蛍光体の更に他の好適例としては、Eu2+を付活剤とし、αサイアロンまたはアルカリ土類ケイ酸塩からなる結晶を母体とする蛍光体が挙げられる。この種の蛍光体は紫外から青色にかけてのいずれの波長の光でも励起可能である。
【0048】
〔緑色蛍光体〕
緑色蛍光体(緑色光を発する蛍光体)とは、その発光色が、図12に示すxy色度図(CIE 1931)における「GREEN」または「YELLOWISH GREEN」に区分される蛍光体である。緑色蛍光体の主発光ピーク波長は通常500nm以上、好ましくは510nm以上、特に好ましくは520nm以上であり、また、通常580nm以下、好ましくは570nm以下、特に好ましくは560nm以下である。また、主発光ピークの半値幅は通常1nm以上、好ましくは10nm以上、特に好ましくは30nm以上であり、また、通常120nm以下、好ましくは90nm以下、特に好ましくは60nm以下である。
【0049】
LEDチップを用いて励起可能な公知の緑色蛍光体を任意に用いることができるが、好適例としては、Eu2+、Ce3+などを付活剤として含むものが挙げられる。Eu2+を付活剤とする好適な緑色蛍光体は、アルカリ土類ケイ酸塩、アルカリ土類ケイ酸窒化物または
サイアロンからなる結晶を母体とする緑色蛍光体である。この種の緑色蛍光体は、通常、紫外から青色にかけてのいずれの波長の光でも励起可能である。アルカリ土類ケイ酸塩結晶を母体とするものの具体例には、(Ba,Ca,Sr,Mg)2SiO4:Eu、(Ba,Sr,Ca)2(Mg,Zn)Si27:Euなどがある。アルカリ土類ケイ酸窒化物結晶を母体とするものの具体例には、(Ba,Ca,Sr)3Si6122:Eu、(Ba,Ca,Sr)3Si694:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si222:Euなどがある。サイアロン結晶を母体とするものの具体例には、βサイアロン:Eu、Sr3Si13Al3221:Eu、Sr5Al5Si21235:Euなどがある。
【0050】
Ce3+を付活剤とする好適な緑色蛍光体としては、ガーネット型酸化物結晶を母体とする緑色蛍光体、例えばCa3(Sc,Mg)2Si312:Ceや、アルカリ土類金属スカンジウム酸塩結晶を母体とする緑色蛍光体、例えばCaSc24:Ceがある。この種の緑色蛍光体は、青色LEDチップを励起源として用いる場合に適している。
【0051】
〔青色蛍光体〕
青色蛍光体(青色光を発する蛍光体)とは、その発光色が、図12に示すxy色度図(CIE 1931)における「PURPULISH BLUE」、「BLUE」または「GREENISH BLUE」に区分される蛍光体である。青色蛍光体の主発光ピーク波長は通常430nm以上、好ましくは440nm以上であり、また、通常500nm以下、好ましくは480nm以下、特に好ましくは460nm以下である。また、主発光ピークの半値幅が通常1nm以上、好ましくは10nm以上、特に好ましくは30nm以上で有り、また通常100nm以下、好ましくは80nm以下、特に好ましくは70nm以下である。
【0052】
LEDチップにより励起可能な公知の青色蛍光体を任意に用いることができるが、好適例としては、Eu2+を付活剤とし、アルカリ土類アルミン酸塩またはアルカリ土類ハロリン酸塩からなる結晶を母体とする青色蛍光体、例えば、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu、(Ca,Sr,Ba)5(PO43Cl:Euなどが挙げられる。中でも好ましいものとして、発光効率が高く、かつ、ブロードな発光バンドを有する、BaMgAl1017:EuおよびSr5-yBay(PO43Cl:Eu(0<y<5)が挙げられる。白色半導体発光装置の演色性を高めるためには、ブロードな発光バンドを有する青色蛍光体を用いることが有効である。
【0053】
次に、本発明の好適な実施形態に係る白色発光装置について、適宜図面を参照しつつ説明する。
【0054】
図1Aは、照明用の発光モジュール30(後述する図3を参照。)に搭載される白色LED8の斜視図であり、図1Bは、図1Aに示す白色LED8においてLEDチップ3A、3Bがリード電極20A、20Bにどのように接続されているかを示す平面図である。また、図1Cは、図1A及び図1Bに示す白色LED8の回路構成を示す図である。更に、図2は、図1Aに示す白色LED8を、リード電極20A、20Bを含む面で切断した場合の断面図である。
【0055】
図1Aに示すように、白色LED8は、2つのカップを有するパッケージ1を含んで構成されている。該パッケージ1は、絶縁基板2と、その表面にパターニングされたリード電極20A、20B(図1Aには表示せず)と、絶縁基板2の上に接合された環状の枠体10と、第1カップ12Aと第2カップ12Bとを隔てる間仕切り11とを有している。
【0056】
絶縁基板2はプリント基板用の材料であり、アルミナ基板、金属ベース基板、ガラスエポキシ基板などが好ましく例示される。リード電極20A、20Bはプリント基板の導体
パターン形成技術を用いて形成されている。
【0057】
枠体10および間仕切り11は、LEDチップ3A、3Bが放射する光および後述する蛍光部14A、14Bで生じる光を透過させないように、少なくともその表面が、これらの光の波長における反射率の高い材料を用いて形成されている。好ましい材料としては、アルミナなどの白色セラミック、白色樹脂(白色顔料の添加により白色を呈す樹脂)、Ag、Al、Pt、Rh、Niなどの銀白色を呈す金属(合金を含む)が例示される。枠体10と間仕切り11は接着剤を用いて絶縁基板2上に固定されている。枠体10と間仕切り11は一体成形することもできる。
【0058】
第1カップ12A、第2カップ12Bには、LEDチップ3A、3Bがそれぞれ4個ずつ実装されている。各カップ内の4個のLEDチップは同種であり、図1Bに示すようにリード電極によって並列に接続されている。LEDチップ3A、3Bは、それぞれリード電極20A、20Bを通して電力供給を受け、発光する。
【0059】
LEDチップ3A、3Bは、それぞれ、発光ピーク波長を約450nmに有する、青色光を発するInGaN系LEDチップである。
【0060】
図2に示すように、第1カップ12A、第2カップ12Bには、それぞれ、蛍光部14A、14Bが、LEDチップ3A、3Bを覆って設けられている。蛍光部14A、14Bは、それぞれ、LEDチップ3A、3Bからの放射を所定波長の可視光に変換する蛍光体を含有している。蛍光部14A、14Bは、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、低融点ガラスなど、LEDチップの封止保護用に適した透光性材料中に蛍光体を分散させた組成物により形成することができる。
【0061】
第1カップ12A内では、LEDチップ3Aと蛍光部14Aとが、相関色温度Tcp1の第1白色光を生成する第1半導体白色発光素子を構成している。第2カップ12B内では、LEDチップ3Bと蛍光部14Bとが、相関色温度Tcp2の第2白色光を生成する第2半導体白色発光素子を構成している。換言すれば、白色LED8においては、LEDチップ3Aと蛍光部14Aで構成される第1半導体白色発光素子と、LEDチップ3Bと蛍光部14Bで構成される第2半導体白色発光素子とが、2つのカップを有するパッケージ1を用いることによって一体化されている。
【0062】
蛍光部14Aは、LEDチップ3Aが発する青色光を吸収して黄色光を発する黄色蛍光体を含有している。黄色蛍光体の種類は、第1半導体白色発光素子の平均演色評価数Raが60以上70以下となるように選択される。一般的に、この黄色蛍光体の発光バンドが広いほど、第1半導体白色発光素子のRaの値は高くなり、反対に、該発光バンドが狭くなるほど、該値は低くなる。
【0063】
第1半導体白色発光素子の視感効率(luminous efficiency)を最大化するために、第1白色光の相関色温度Tcp1が5000〜7000Kとなるよう、蛍光部14Aへの黄色蛍光体の添加量を制御することが望ましい。Tcp1をこの範囲より低くしたときには、波長変換に伴うストークス損失が大きくなる傾向が生じる。Tcp1をこの範囲より高くしたときには、第1白色光に含まれる、視感度の高い波長を有する成分が少なくなる。
【0064】
蛍光部14Bは、LEDチップ3Bが発する青色光を吸収して緑色光を発する緑色蛍光体と、LEDチップ3Bが発する青色光を吸収して赤色光を発する赤色蛍光体と、含有している。赤色蛍光体および緑色蛍光体の種類は、第2半導体白色発光素子の平均演色評価数Raが85以上となるように選択される。例えば、(Ba,Ca,Sr,Mg)2SiO4:Eu、(Ba,Ca,Sr)3Si6122:Eu、βサイアロン:Eu、Ca3
Sc,Mg)2Si312:CeおよびCaSc24:Ceから選ばれる緑色蛍光体と、(Ca,Sr,Ba)AlSiN3:Eu、SrAlSi47:Eu、およびCa1-xAl1-xSi1+x3-xx:Euから選ばれる主発光ピーク波長を625〜650nmの範囲に有する赤色蛍光体を用いることにより、第2半導体白色発光素子のRa値を85以上とすることができる。LEDチップ3Bとして近紫外または紫色の光を発するInGaN系LEDチップを使用するとともに、蛍光部14Bに緑色蛍光体および赤色蛍光体に加えて青色蛍光体を含有させると、第2半導体白色発光素子のRa値をより容易に85以上とすることができる。
【0065】
また、LEDチップ3Bとして青色光を発するInGaN系LEDチップを用いる場合に、蛍光部14Bに黄色蛍光体および赤色蛍光体を含有させることによっても、第2半導体白色発光素子のRaを85以上とすることができる。この場合、赤色蛍光体には、発光ピーク波長を645〜660nmに有する(Ca,Sr,Ba)AlSiN3:Euを使用するか、または、K2SiF6:Mn、K2Si1-xNaxAlx6:Mn、K2TiF6:MnのようなMn4+付活フッ化物錯体蛍光体を使用することが好ましい。
【0066】
蛍光体を用いた波長変換にはストークス損失と呼ばれる損失が必然的に伴うので、発光効率を考慮すると、LEDチップ3Bには青色光を発するものを用いることが望ましい。なぜなら、LEDチップが発する光の一部を白色光の成分として利用できるので、蛍光体を用いて発生させる光を減らすことができるからである。
【0067】
第1半導体白色発光素子と第2半導体白色発光素子を同時に点灯させると、第1白色光と第2白色光が混合した白色の合成光が、白色LED8から放出される。この合成光の相関色温度は、第1半導体白色発光素子と第2半導体白色発光素子のそれぞれに供給する電力の比率を変化させることにより、Tcp1とTcp2との間で変化させることができる。なお、上記にいう「同時に点灯させる」とは、ヒトの視覚で同時と感じられるように点灯させることを意味する。
【0068】
上記合成光に含まれる第1白色光の比率を高くするに従って、白色LED8の演色性は低くなり、発光効率は高くなる。従って、この比率を適度に低くしたとき、白色LED8のRaは80以上となる。
【0069】
Tcp1とTcp2との差を3000K以上(3000≦Tcp1−Tcp2)とすると、白色LED8のRaを80以上に保ちつつ、白色LED8が放出する合成光の相関色温度を1000K以上の範囲にわたって可変とすることができる。例えば、Tcp1を6500K、Tcp2を3000Kとしたとき、光源の演色性を80以上に保ったまま、相関色温度を3000〜4500Kの範囲で可変とすることができる。
【0070】
図3は、白色LED8を複数搭載した発光モジュールの構成例を示す図であり、図3(a)は発光モジュールの斜視図、図3(b)は、図3(a)に示す発光モジュール上の5台の白色LEDの配置状態を模式的に示す平面図である。図3(b)に示すように、5台の白色LED8は、円盤状の回路基板31の中心点を中心とする円周上に等角配置されている。それぞれの白色LED8から放出される光がムラなく混合されるようにするための構成については、特許文献3(特開2009−231525号公報)などを参照することができる。
【0071】
発光モジュール30においては、各白色LED8が第1カップ12A内に有するLEDチップ群(並列に接続された4個のLEDチップ3Aからなる)の間が配線層34により直列に結線され、各白色LED8が第2カップ12B内に有するLEDチップ群(並列に接続された4個のLEDチップ3Bからなる)の間が配線層35により直列に結線されて
いる。この回路構成を示したものが図4である。このように同種の半導体白色発光素子に含まれるLEDチップ群の間を直列に結線することで、第1半導体白色発光素子および第2半導体白色発光素子のそれぞれに供給する電力を別個に制御することができる。
【0072】
図5は発光モジュール30に搭載された白色LED8に対する電流印加パターンの一例を示す図であり、図5(a)は各白色LED8の第1カップ12A内に配置されるLEDチップ3Aに供給される電流と時間との関係を示しており、図5(b)は各白色LED8の第2カップ12B内に配置されるLEDチップ3Bに供給される電流と時間との関係を示している。この例のように、各LEDチップ3に矩形状の電流を印加する場合、LEDチップ3Aに電流を流す時間とLEDチップ3Bに電流を流す時間との比率を変えることによって、第1半導体白色発光素子と第2半導体白色発光素子に供給する電力の比率を変えることができるので、発光モジュール30の平均演色評価数を簡便に80以上に制御することができる。
【0073】
発光モジュール30の変形実施形態として、図1Aに示す2カップ型のパッケージ1を用いて第1半導体白色発光素子と第2半導体白色発光素子を一体化した白色LED8を用いる代わりに、通常の1カップ型のパッケージを用いてそれぞれ形成された、相関色温度Tcp1の白色LED(第1半導体白色発光素子)と、相関色温度Tcp2の白色LED(第2半導体白色発光素子)を、それぞれ回路基板31上に搭載することもできる。
【0074】
発光モジュール30の他の変形実施形態では、回路基板の配線層をLEDチップの実装に適したパターンに形成して、LEDチップを回路基板上に直接実装するチップ・オン・ボード型の構成を採用することもできる。図6は、そのようなチップ・オン・ボード型の発光モジュールにおける半導体白色発光素子の構造例を示す部分的な断面図であり、回路基板(金属基板2A、配線層20C、20Dおよび絶縁層2Dを有する)上に直接実装されたLEDチップ3を、蛍光体を分散させた組成物からなる蛍光部14が覆っている。LEDチップ3と配線層20Cとの間は、ハンダや銀ペーストのような導電性接着剤により接続されている。LEDチップ3と配線層20Dとの間は金線6により接続されている。
【0075】
他の変形実施形態では、蛍光体含有組成物を板状に成形したものを蛍光部とし、該蛍光部をLEDチップの表面から離れた位置に、LEDチップが発する光が照射されるように配置することもできる。
【0076】
<実験例>
以下では、本発明者等が行った実験(シミュレーションを含む)の結果について述べる。この実験では、いくつかの白色LEDを実際に作製してそれぞれの発光スペクトルを測定した後、その発光スペクトルを用いたシミュレーションによって、演色性の異なる白色LEDの光が混合された合成光を放出する白色発光装置の演色性を調べるという方法を用いた。
【0077】
実際に作製した白色LEDサンプルの一覧を下記表1に示す。各サンプルは、発光ピーク波長を450±3nmの範囲内に有する350μm角のInGaN系青色LEDチップ1個を3528SMD型PPA樹脂パッケージに実装し、蛍光体を分散させたシリコーン樹脂で封止することにより作製した。表1において、Tcp(相関色温度)、Duv(光色の黒体輻射軌跡からの偏差)、Ra(平均演色評価数。CRIともいう)は、印加電流を20mAとして測定した発光スペクトルに基づいて算出したものである。また、変換効率は、印加電流20mAのときのLEDチップの発光出力当たりの白色LEDの光束である。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に略称で示した蛍光体の構造式と発光ピーク波長を表2に示す。発光ピーク波長は、発光ピーク波長の欄に括弧書きで記された波長で励起したときの値である。
【0080】
【表2】

【0081】
表1に示す結果から分かることとして、同じ蛍光体を使用した相関色温度の高い白色LEDと相関色温度の低いLEDとを比較すると、前者の方が後者よりも変換効率が高いということが挙げられる(H1とL1、H2とL2、H3とL3のそれぞれの比較より)。また、相関色温度が略同じである白色LED同士を比較すると、一部の例外を除いて、演色性が高いもの程、変換効率が低いということが挙げられる。
【0082】
最も高い変換効率を示したのは、YAG:Ce系の黄色蛍光体を用いたサンプルH4であった。このサンプルH4は、6500Kという比較的高い相関色温度を有しており、表1に示す白色LEDの中では平均演色評価数Raが2番目に低い。演色性が高い(Ra=91)にもかかわらず、例外的に変換効率にも優れていたのは、Mn4+付活フッ化物錯体蛍光体であるKSNAFを用いたサンプルL5である。このサンプルL5の変換効率は、赤色蛍光体としてKSNAFに代えてSCASNを用いたことを除いてサンプルL5と同様に作製した相関色温度約2700Kの白色LED(Ra=75)の変換効率と同等であった。
【0083】
2種の白色LEDを組み合せることにより得られる白色発光装置の発光特性を、次のよ
うにしてシミュレートした。まず、一方の白色LEDとしてサンプルH4を、他方の白色LEDとしてサンプルL1、L2、L3、L4およびL5の中からひとつを選び、それぞれの発光スペクトル(印加電流20mAで測定したもの)を光束が等しくなるように規格化したうえで、n:(10−n)という比率で足し合わせることにより合成スペクトルを作成した(H4の発光スペクトルの混合比はn/10となる)。そして、作成した合成スペクトルに対応するCIE色度座標値(x,y)、相関色温度Tcp、Duv、平均演色評価数Raを計算により求めた。なお、上記比率におけるnを0から10の範囲で1ずつ変化させることにより、2つの白色LEDの光の混合比を変化させることを模擬した。
【0084】
ここで、2つの発光スペクトルを光束が等しくなるように規格化するとは、下記数式(1)により決定される光束Φが等しくなるように、その2つの発光スペクトル(下記数式(1)中の分光放射束Φe)の強度の絶対値を定めることを意味する。
【0085】
【数1】

【0086】
ここで、
Φ:光束[lm]
m:最大視感度[lm/W]
Vλ:明所視標準比視感度
Φe:分光放射束[W/nm]
λ:波長[nm]、である。
【0087】
上記シミュレーションの結果を下記表3〜表7に示す。また、H4−L1、H4−L2、H4−L3、H4−L4およびH4−L5の各組合せについて上記シミュレーションにより得た混合光のスペクトルを図7〜図11にそれぞれ示す。なお、表3〜7における「H4混合比」は、H4の発光スペクトルの混合比、すなわち上記nを0から10の範囲で1ずつ変化させたときの「n/10」を示す。
【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
【表6】

【0092】
【表7】

【0093】
H4−L1(表3)、H4−L2(表4)、H4−L3(表5)およびH4−L5(表7)の各組合せ、すなわち、相関色温度が低い方の白色LEDが88以上のRaを有する組合せでは、白色LEDサンプルH4の発光スペクトルの混合比が0.5以下のとき(H4−L5では0.6以下のとき)、混合光を放出する白色発光装置のRaのシミュレーション値が80を超えた。
【0094】
一方、H4−L4(表6)の組合せ、すなわち、相関色温度が高い方の白色LEDがRa=69、相関色温度が低い方の白色LEDがRa=63という組合せにおいては、白色LEDサンプルH4の発光スペクトルの混合比が0.9から0.1までのいずれの場合においても、混合光を放出する白色発光装置のRaのシミュレーション値が71を超えるこ
とはなかった。
【0095】
興味深い事実は、混合光を発する白色発光装置の演色性が、当該混合光の生成に関与する可視発光体の数とは無関係だということである。例えば、H4−L2の場合、LEDチップ(青色発光体)、YAG(黄色発光体)、CSMS(緑色発光体)およびSCASN(赤色発光体)が混合光の生成に関与しているので、その数は4である。それに対し、H4−L5では、混合光の生成に関与している可視発光体はLEDチップ(青色発光体)、YAG(黄色発光体)およびKSNAF(赤色発光体)であり、その数は3である。しかし、H4−L2の組み合わせにより得られる白色発光装置と、H4−L5の組み合わせにより得られる白色発光装置との間で、演色性に特段の優劣は見出されない。しかも、SCASNはKSNAFに比べてはるかにブロードな主発光ピークを有していることを考慮すると、半導体白色発光素子を用いた白色発光装置において、発光スペクトルの形状を連続的とすることが演色性を改善するうえで好ましいという従来の常識は、必ずしも正しくないように見える。
【符号の説明】
【0096】
1・・・・パッケージ
2・・・・絶縁基板
3A、3B・・・・LEDチップ
8・・・・白色LED
10・・・・枠体
11・・・・間仕切り
12A・・・・第1カップ
12B・・・・第2カップ
14A、14B・・・・蛍光部
20A、20B・・・・リード電極
30・・・・発光モジュール
31・・・・回路基板
34、35・・・・配線層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が蛍光体変換型の半導体白色発光素子である第1素子および第2素子を有し、該第1素子が放出する第1白色光および該第2素子が放出する第2白色光を含む混合光である白色光を放出する白色発光装置において、
該第1素子は、青色光を発するInGaN系LEDチップと、青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体とを組み合せて構成され、
該第1素子の平均演色評価数をRa1、該第2素子の平均演色評価数をRa2、該白色発光装置の平均演色評価数をRa3としたとき、
60≦Ra1≦70、かつ
85≦Ra2<100、かつ
80≦Ra3<Ra2である、
ことを特徴とする白色発光装置。
【請求項2】
前記第1白色光の相関色温度をT1(K)としたとき、5000≦T1≦7000である、請求項1に記載の白色発光装置。
【請求項3】
前記第2白色光の相関色温度をT2(K)としたとき、3000≦T1−T2である、請求項2に記載の白色発光装置。
【請求項4】
80≦Ra3≦90である、請求項1〜3のいずれかに記載の白色発光装置。
【請求項5】
前記蛍光体が、Ce3+を付活剤としガーネット型酸化物結晶またはランタンケイ素窒化物結晶を母体とする蛍光体から選ばれる1種以上の蛍光体を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の白色発光装置。
【請求項6】
前記第2素子が、青色光を発するInGaN系LEDチップと、青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体と、青色光を吸収して赤色光を発する、Mn4+で付活されたフッ化物錯体蛍光体とを組み合せて構成された、請求項1〜5のいずれか一項に記載の白色発光装置。
【請求項7】
前記第2素子が、青色光を発するInGaN系LEDチップと、青色光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、青色光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された、請求項1〜5のいずれか一項に記載の白色発光装置。
【請求項8】
前記第2素子が、紫色光を発するInGaN系LEDチップと、紫色光を吸収して青色光を発する蛍光体と、紫色光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、紫色光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された、請求項1〜5のいずれか一項に記載の白色発光装置。
【請求項9】
前記第2素子が、近紫外光を発するInGaN系LEDチップと、近紫外光を吸収して青色光を発する蛍光体と、近紫外光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、近紫外光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された、請求項1〜5のいずれか一項に記載の白色発光装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の白色発光装置を光源に用いた照明装置。
【請求項11】
各々が蛍光体変換型の半導体白色発光素子である第1素子および第2素子を有し、該第1素子が放出する第1白色光および該第2素子が放出する第2白色光を含む混合光である白色光を放出する白色発光装置を用いた照明方法において、
該第1素子は、青色光を発するInGaN系LEDチップと青色光を吸収して黄色光を発
する蛍光体とを組み合せて構成され、
該第1素子の平均演色評価数をRa1、該第2素子の平均演色評価数をRa2、該白色発光装置の平均演色評価数をRa3としたとき、
60≦Ra1≦70、かつ、85≦Ra2<100であり、
Ra3が80を下回らない範囲で該白色光に含まれる該第1白色光と該第2白色光の強度比を調節する、
ことを特徴とする照明方法。
【請求項12】
前記第1白色光の相関色温度をT1(K)としたとき、5000≦T1≦7000である、請求項11に記載の照明方法。
【請求項13】
前記第2白色光の相関色温度をT2(K)としたとき、3000≦T1−T2である、請求項11または12に記載の照明方法。
【請求項14】
前記蛍光体が、Ce3+を付活剤としガーネット型酸化物結晶またはランタンケイ素窒化物結晶を母体とする蛍光体から選ばれる1種以上の蛍光体を含む、請求項11〜13のいずれか一項に記載の照明方法。
【請求項15】
前記第2素子が、青色光を発するInGaN系LEDチップと、青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体と、青色光を吸収して赤色光を発する、Mn4+で付活されたフッ化物錯体蛍光体とを組み合せて構成された、請求項11〜14のいずれか一項に記載の照明方法。
【請求項16】
前記第2素子が、青色光を発するInGaN系LEDチップと、青色光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、青色光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された、請求項11〜14のいずれか一項に記載の照明方法。
【請求項17】
前記第2素子が、紫色光を発するInGaN系LEDチップと、紫色光を吸収して青色光を発する蛍光体と、紫色光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、紫色光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された、請求項11〜14のいずれか一項に記載の照明方法。
【請求項18】
前記第2素子が、近紫外光を発するInGaN系LEDチップと、近紫外光を吸収して青色光を発する蛍光体と、近紫外光を吸収して緑色光を発する蛍光体と、近紫外光を吸収して赤色光を発する蛍光体とを組み合せて構成された、請求項11〜14のいずれか一項に記載の照明方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図12】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−176276(P2011−176276A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227974(P2010−227974)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】