説明

直動軸受及びリテーナ

【課題】 直動軸受として、ローラが斜行したときの軸の直動に対するリテーナの摩擦抵抗を軽減できるものを提供する。また、リテーナとして、案内空間でのリテーナの屈曲に伴うローラ装填孔の口開き現象を抑制できるものを提供する。
【解決手段】 直動軸受は、ローラ3の走行通路25、案内空間27及びリターン通路26からなる循環経路が形成され、この循環経路に環状のリテーナ6に保持された多数のローラ3が充填された筒2において、上記循環経路を形成するための凹溝20を筒2の軸線方向に2段(多段)に設ける。
リテーナ6は、ローラ3を装填する矩形状のローラ装填孔62を貫通形成したローラ保持部61を有し、多数並設したローラ保持部61の両端部のそれぞれを、左右に配置する環状ベルト60a,60bに結合させて無端ベルト状に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸と、この軸を貫通させた筒と、これらの間に介在させた多数のローラとを具備する直動軸受及びこの直動軸受に用いられるリテーナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の直動軸受として、図12に示すように、軸101を貫通させた筒102には、ローラ3の走行通路120、案内空間140及びリターン通路122からなる循環経路が形成され、上記循環経路に多数のローラ3が充填されたものがある(特許文献1、特許文献2)。上記循環経路は、筒102のほぼ全長にわたって形成されている。また、この循環経路における各ローラ3は、環状のリテーナ139によって保持されている。このリテーナ139としては、例えば、ローラ保持ベルトによって構成される(特許文献1の図5)。すなわち、図13に示すように、リテーナ139としてのローラ保持ベルトは、その幅方向にローラ3を装填するための矩形状のローラ装填孔138が形成され、ローラ装填孔138の前後部にローラ3を抱き込む弾性舌片127が形成されたものである。
そして、上記リテーナ139に保持されたローラ3は、軸101と筒102との間に予圧状態で挟持され、軸101と筒102とを進み対偶させるとこれらローラ3が転動して進むので、軸101が円滑に直動される。
【0003】
【特許文献1】特開2002−349563号公報
【特許文献2】特開2002−250340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記直動軸受における各ローラ3は、軸101の直動に伴って必ずしもまっすぐ進むとは限らず、時にはわずかに傾斜して斜行することがある。このローラ3の斜行現象が起こると、上記リテーナ139の側面部が循環経路における筒102の構成壁に押し当てられながら進むこととなり、ローラ3の転動や軸101の直動に対して抵抗となる。特に、上記直動軸受においては、循環経路が筒102のほぼ全長にわたって形成されているため、上記の抵抗はかなり大きなものとなり、円滑な軸101の直動に支障を来たすおそれがあった。
【0005】
一方、上記リテーナ139は、循環経路の案内空間140において屈曲されるため、その屈曲による引張り力がローラ装填孔138にも作用し口開きを起こさせる(図13参照)。そのため、案内空間140においてリテーナ139のローラ装填孔138が口開き現象を起こすことで、リテーナ139によるローラ3の保持が不安定になるおそれがあった。仮に、上記案内空間140がローラ3に対してフリーな状態(非接触)にあれば、リテーナ139からローラ3が脱落することにもなり兼ねない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ローラが斜行したときの軸の直動に対するリテーナの摩擦抵抗を軽減することができる直動軸受を提供することを課題とする。
【0007】
また、本発明は、直動軸受に用いられるリテーナとして、案内空間でのリテーナの屈曲に伴うローラ装填孔の口開き現象を抑制することができるリテーナを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)直動軸受
本発明に係る直動軸受は、軸と、この軸を貫通させた筒と、これらの間に介在させた多数のローラとを具備し、筒には、ローラの走行通路、案内空間及びリターン通路からなる循環経路が形成され、環状のリテーナに保持された多数のローラが上記循環経路に充填された直動軸受において、上記循環経路が筒の軸線方向に多段に設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
これにより、ローラを保持するリテーナの長さを短くすることができる。従って、ローラの斜行によってリテーナが走行通路等の構成壁に押し当てられても短い距離で済むから、ローラが斜行したときの軸の直動に対するリテーナの摩擦抵抗を軽減することができる。
【0010】
また、上記筒には、上記循環経路を形成するための凹溝が設けられており、上記凹溝は、深さ方向の中間に他の領域よりも幅広のガイドピン収容部が形成されており、上記ガイドピン収容部にガイドピンが収容されて、凹溝内は、ガイドピンによって仕切られて、凹溝の入口側にはローラの走行通路が形成され、凹溝の奥側にはローラのリターン通路が形成され、ガイドピンの上下には走行通路とリターン通路との間でローラの送り込みを可能とする案内空間が形成されるように構成してもよい。
【0011】
これにより、走行通路を臨むガイドピンの側面がガイド面となって上記軸の外周面と対面される。このガイドピンのガイド面と軸の外周面との距離を適宜設定することで、走行通路に進入するローラに所定の予圧を与えることができ、軸の直動精度を高精度にすることができる。
このように、筒におけるローラのガイド面を筒とは別部材のガイドピンによって構成することで、ガイド面を仕上げるために筒の内周面を研磨加工するよりもガイドピンを研磨加工する方が容易となる。従って、直動軸受を構成する筒を容易に且つ低コストに製造することができる。
【0012】
また、上記ガイドピンは、上下両端部が大きなR曲面による鋭角に形成されていてもよい。
これにより、案内空間と走行通路との間の空間である走行通路の入口が広く確保され、案内空間から走行通路へ至るローラの突入がスムーズに行われる。従って、軸の昇降移動や昇降移動方向の切替わりが滑らかに行われる。
【0013】
また、上記ガイドピンは、上下端面が平面状にカットされて平面に形成されていてもよい。
これにより、ガイドピンの上下端部全体を曲面仕上げする場合に比べて、平面を研磨等することでガイドピンの上下幅寸法を容易に高精度に仕上げることができる。
【0014】
(2)リテーナ
本発明に係るリテーナは、軸と、この軸を貫通させた筒と、これらの間に介在させた多数のローラとを具備する直動軸受に用いられるリテーナであって、筒には、ローラの走行通路、案内空間及びリターン通路からなる循環経路が形成され、上記循環経路に充填される多数のローラを保持する環状のリテーナにおいて、ローラを装填する矩形状のローラ装填孔を貫通形成したローラ保持部を有し、多数並設した上記ローラ保持部の両端部のそれぞれを、左右に配置する環状ベルトに結合させて無端ベルト状に構成したことを特徴とするものである。
【0015】
このように、各ローラ保持部は、その一部分(両端部)において環状ベルトと結合されているだけなので、案内空間での環状ベルトの屈曲による引張り力がローラ保持部の両端部に伝わっても、ローラ装填孔にあまり影響を与えない。従って、案内空間でリテーナが屈曲されても、ローラ装填孔の外側の開口部での口開き現象を抑制することができ、リテーナの屈曲によるローラの脱落を抑えることができる。
【0016】
また、上記環状ベルトには、ローラ保持部の中央部方向に突出させたシート状のベロが形成されており、上記ベロは、隣合うローラ保持部の間に配置されてその幅方向の両端部がローラ装填孔に達して突出する大きさに設定されていてもよい。
これにより、ローラ装填孔に保持されたローラは、このベロの端部によっても受け留められる。従って、このベロもローラ装填孔からのローラの脱落防止に寄与している。
【0017】
また、本リテーナは、上記ローラ保持部の真ん中から左右に分割された半割りに形成されていてもよい。
これにより、無端ベルト状のリテーナを成形金型から容易に取り出すことができ、多くの分割金型を揃える必要もない。従って、リテーナを簡易な成形金型で容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の直動軸受によれば、ローラを保持するリテーナの長さを短くすることができるので、ローラが斜行したときの軸の直動に対するリテーナの摩擦抵抗を軽減することができる。従って、すべてのローラが循環経路で円滑に移動し、軸の直動が円滑に行える。
【0019】
また、本発明のリテーナによれば、案内空間での環状ベルトの屈曲による引張り力がローラ装填孔にほとんど影響を与えない。従って、案内空間でリテーナが屈曲されても、ローラ装填孔の外側の開口部での口開き現象を抑制することができ、リテーナの屈曲によるローラの脱落を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0021】
(直動軸受の概略構成)
図1に示すように、実施の形態の直動軸受は、軸1と、この軸1を貫通させた筒2と、これらの間に介在させた多数の円柱状のローラ3とを具備する。この実施の形態では、例えば、軸1は、固定ベッドに直立されるガイド軸1であり、このガイド軸1に外嵌されて所定ストローク昇降する筒2は、昇降テーブルに取り付けられるものである。
【0022】
(軸1の構成)
上記軸1は、丸棒の外周面において軸線に平行な平面が周方向に等間隔に6つ形成されたものである。この軸1の平面がローラ3を接触状態に転動させる走行平面11となる。
【0023】
(筒2の構成)
上記筒2は、円筒形に形成されており、内周面が軸1を挿通可能な大きさに設定されている。内周面には、軸1の走行平面11と対向する6箇所において軸線方向の上下に1つずつ凹溝20が形成されている。これら凹溝20には、無端ベルト状のリテーナ6に保持された多数のローラ3が横向き姿勢となって配置されている。これにより、ローラ3を保持するリテーナ6の長さを短くすることができる。従って、ローラ3の斜行によってリテーナ6が凹溝20の側壁に押し当てられても短い距離で済むから、ローラ3が斜行したときの軸1の昇降移動に対するリテーナ6の摩擦抵抗を軽減することができる。
【0024】
なお、上記筒2は、凹溝20を二分するように1つの筒本体21と上下2つの筒蓋体22A,22Bとに分割されたものをボルト4によって組み合わせて構成されている。これにより、上記凹溝20を加工するのに、筒2が一体物であれば筒2の内周面から切削、研磨等の加工を行う必要があり加工し難いが、このような分割物であれば筒本体21や筒蓋体22A,22Bの合せ面から容易に切削、研磨等の加工を行うことができる。従って、筒2の上記凹溝20の加工が容易となり、筒2自体の製造が容易となる。
【0025】
また、筒2の内周面には、全周にわたって環状溝23が形成されている。この環状溝23は、上下の凹溝20間に配置されている。そして、この環状溝23には、潤滑剤を含浸させた環状のフエルトfが装填されている。これにより、フエルトfが軸1の外周面に接触して軸1に潤滑剤を塗布し、ローラ3の焼き付きを防止し直動軸受の耐久性を向上させる。
【0026】
図2から図4に示すように、凹溝20は、深さ方向(筒2の半径方向)の中間に他の領域よりも幅広のガイドピン収容部24が形成されており、このガイドピン収容部24に偏平ブロック状のガイドピン5が収容される。これにより、凹溝20内は、ガイドピン5によって仕切られて、凹溝20の入口側にはローラ3の走行通路25が形成されると共に、凹溝20の奥側にはローラ3のリターン通路26が形成される。また、ガイドピン5の上下端と凹溝20の上下壁面との間には、走行通路25とリターン通路26との間でローラ3の送り込みを可能とする案内空間27が形成される(図4参照)。この案内空間27は、ローラ3直径よりも大きめに設定されている。
【0027】
そして、ガイドピン5に多数のローラ3を保持したリテーナ6を外装させて(図5参照)、このガイドピン5を凹溝20のガイドピン収容部24に収容させる。これにより、上記ローラ3は、走行通路25、案内空間27及びリターン通路26からなる循環経路に横向き姿勢で多数充填される。この直動軸受では、すべてのローラ3がリテーナ6によって互いに接触しない状態で連結配列されているから、ローラ3同士が接触することなく同期的に上記循環経路を移動する。
【0028】
また、走行通路25を臨むガイドピン5の側面(平面)がガイド面51となって上記軸1の走行平面11と対面される。このガイドピン5のガイド面51と軸1の走行平面11との距離を適宜設定することで、走行通路25に進入するローラ3に所定の予圧を与えることができ、これにより、軸1の直動精度を高精度にすることができる。
【0029】
このように、筒2におけるローラ3のガイド面51を筒2とは別部材のガイドピン5によって構成することで、ガイド面51を仕上げるために筒2の内周面を研磨加工するよりもガイドピン5を研磨加工する方が容易となる。従って、直動軸受を構成する筒2を容易に且つ低コストに製造することができる。
【0030】
また、ガイドピン5は、ガイドピン収容部24において両端部が保持されているだけなので(図2及び図3参照)、ある程度の弾性力を持って走行通路25のローラ3を軸1の走行平面11に押圧することができる。すなわち、ローラ3を強く圧縮することがない。従って、走行通路25を転動するローラ3に対して大きな転がり抵抗をかけることがない。また、ガイドピン5の弾性的な接触により、走行通路25を転動するローラ3に対して大きな圧縮力(負荷)をかけることなく必要な予圧を付与することができる。
【0031】
また、図4に示すように、ガイドピン5の上下の両端部は、大きなR曲面52による鋭角に形成されている。これにより、案内空間27と走行通路25との間の空間である走行通路25の入口が広く確保され、案内空間27から走行通路25へ至るローラ3の突入がスムーズに行われる。従って、軸1の昇降移動や昇降移動方向の切替わりが滑らかに行われる。
【0032】
また、図4に示すように、ガイドピン5の上下の端面は、平面状にカットされて平面53となっている。これにより、ガイドピン5の上下端部全体を曲面仕上げする場合に比べて、平面53を研磨等することでガイドピン5の上下幅寸法を容易に高精度に仕上げることができる。
【0033】
走行通路25の横幅は、図3に示すように、リテーナ6の幅よりもやや大きめに設定されている。これにより、ローラ3の走行中にリテーナ6の端部が走行通路25の側面に接触して抵抗となるのを防ぐことができる。
【0034】
一方、リターン通路26の横幅は、図3に示すように、リテーナ6の幅と略等しい大きさに設定されている。これにより、リターン通路26内においてリテーナ6の横幅方向への移動が規制される。従って、リターン通路26内をローラ3が走行する間にリテーナ6の傾きが矯正されて平行に揃えられる。
【0035】
また、リターン通路26の深さ(筒2の半径方向の長さ)は、図3及び図4に示すように、ローラ3の直径よりも大きく設定されている。そして、リテーナ6の内径寸法は、ガイドピン5の外周寸法よりも大きく設定されており、リテーナ6は、ガイドピン5の外周部に余裕を持って外装されている。これにより、リターン通路26内においては、リテーナ6によって保持されるローラ3が浮いた状態となって移動される(図4参照)。従って、リターン通路26内を通るローラ3は、大きな抵抗を受けずに移動され、また、ローラ3がリターン通路26の内壁に接触して騒音を発することもない。
【0036】
図5及び図6に示すように、リテーナ6は、多数並設したローラ保持部61を環状ベルト60a,60bの外周面に結合させて無端ベルト状に構成したものである。この環状ベルト60a,60bは、楕円柱状体のローラ保持部61の両端部にそれぞれ配置されている。ローラ保持部61には、楕円柱状体の長径側面に矩形状のローラ装填孔62が貫通形成されている。このローラ装填孔62に円柱状のローラ3が装填される(図5参照)。ローラ装填孔62は、断面が円弧状に形成されており、ローラ装填孔62の長手方向の開口端部が弾性舌片63となる(図8参照)。これにより、ローラ装填孔62にはローラ3が回転自在に且つ脱落阻止状態に保持される。
【0037】
また、このローラ装填孔62によって、ローラ3は直径方向の真ん中部分が保持されており、直径方向の両端部分となるローラ外周部の一部がローラ装填孔62から突出されている(図4参照)。これにより、リテーナ6に保持されたローラ3は、走行通路25においてガイドピン5のガイド面51と軸1の走行平面11とに接触状態となる。
【0038】
また、環状ベルト60a,60bには、図6に示すように、ローラ保持部61の中央部方向に突出させたシート状のベロ64が形成されている。ベロ64は、ローラ保持部61とは非接着となっている。このベロ64は、隣合うローラ保持部61の間に配置され、その幅方向の両端部がローラ装填孔62に達してやや突出する大きさに設定されている。これにより、ローラ装填孔62に保持されたローラ3は、このベロ64の端部によっても受け留められる。従って、このベロ64もローラ装填孔62からのローラ3の脱落防止に寄与している。
【0039】
なお、このベロ64は、ローラ保持部61の全長にわたって設けられてもよいが、図6に示する本例のものは、ローラ保持部61の両端部分にかかる程度に設けられている。これにより、ベロ64の接触によるローラ3の回転の抵抗が抑えられる。また、上記ベロ64は、ローラ保持部61と非接着に形成されているが、ベロ64の突出長さ(ローラ保持部61の中央部方向への長さ)が短く形成され、リテーナ6の屈曲性にあまり影響しない程度であれば、ローラ保持部61と接着して形成されていてもよい。
【0040】
また、リテーナ6は、案内空間27において屈曲されるため(図4参照)、ローラ保持部61を形成する環状ベルト60a,60bも同様に屈曲し、その屈曲による引張り力がローラ保持部61にも伝わることとなる。ところが、上記リテーナ6において環状ベルト60a,60bは、図6に示すように、ローラ保持部61の両端部に連結されているだけなので、案内空間27での環状ベルト60a,60bの屈曲による引張り力がローラ保持部61の両端部に伝わっても、ローラ装填孔62にあまり影響を与えない。従って、案内空間27でリテーナ6が屈曲されても、ローラ装填孔62の外側の開口部での口開き現象を抑制することができ、リテーナ6の屈曲によるローラ3の脱落を抑えることができる。
【0041】
リテーナ6は、図7及び図8に示すように、半割りに形成されている。すなわち、リテーナ6は、ローラ保持部61の真ん中から左右に分割された2つのリテーナ分割体6A,6Bを組み合わせて構成されている(図6参照)。そして、ローラ保持部61の分割端面には、2つのリテーナ分割体6A,6Bを組み合わせるときに係合される係合突起65と係合孔66が交互に設けられている。このように、リテーナ6が半割りに分割されることで、無端ベルト状のリテーナ6を成形金型から容易に取り出すことができ、多くの分割金型を揃える必要もない。従って、リテーナ6を簡易な成形金型で容易に製造することができる。なお、分割したリテーナ6を組み合わせるに際して、超音波溶着、接着等にて接合するようにしてもよい。
【0042】
上記直動軸受は、例えば、次のようにして組み立てられる。
まず、半割状態の一方のリテーナ分割体6Aの各ローラ保持部61にローラ3を差し込む(図7参照)。すべてのローラ保持部61にローラ3を差し込むと、この一方のリテーナ分割体6Aに対して、もう一方の半割状態のリテーナ分割体6Bを被せて合体させる。すると、ローラ3を保持したリテーナ6が構成される。そして、ローラ3を保持させたリテーナ6をガイドピン5に外装させる。このようなリテーナ6を外装させたガイドピン5を予め必要数用意する。
次に、筒本体21の一方の開放側の各ガイドピン収容部24に、上記リテーナ6を外装したガイドピン5を差し込む。この開放側のすべてのガイドピン収容部24に上記ガイドピン5を差し込むと、筒蓋体22Aを被せてボルト4を締め付ける。筒本体21の他方の開放側も同様にガイドピン5を収容させて筒蓋体22Bを取付ける。以上で筒2の組付けが完了する。この後、この筒2内に軸1を通すと、ローラ3が軸1の走行平面11と筒2のガイド面51との間に予圧状態に介在された状態となった直動軸受が完成する。
【0043】
以上のように、本実施の形態による直動軸受によれば、ローラ3を充填する凹溝20を上下2段に配置することで、ローラ3を保持するリテーナ6の長さを短くすることができる。これにより、ローラ3が斜行したときリテーナ6が凹溝20の構成壁に擦れて摩擦抵抗となるのを軽減することができる。従って、すべてのローラ3が循環経路(走行通路25,案内空間27,リターン通路26)で円滑に移動し、軸1の直動が円滑に行える。
【0044】
また、上記リテーナ6によれば、案内空間27での環状ベルト60a,60bの屈曲による引張り力がローラ装填孔62にほとんど影響を与えない。従って、案内空間27でリテーナ6が屈曲されても、ローラ装填孔62の外側の開口部での口開き現象を抑制することができ、リテーナ6の屈曲によるローラ3の脱落を防ぐことができる。
【0045】
なお、本発明は、上記実施の形態による直動軸受のみに限定されず、例えば、以下のような変更が可能である。
【0046】
図9に示すように、筒2Aの筒本体21を、凹溝20を分割するように3つの分割体21a,21b,21cから構成するようにしてもよく、さらに3つ以上のいくつかの分割体で構成するようにしてもよい。
【0047】
図10に示すように、筒2Bにおいて、筒2Bのほぼ全長にわたった1つの長尺凹溝28を形成し、そして、上下に1つずつ凹溝20Aが形成されるようにH型スペーサ部材Sを長尺凹溝28の中間部に配置させるように構成してもよい。
これにより、筒本体21における長尺凹溝28をワイヤーカットによって容易に加工形成することができ、筒2Bの製造が更に容易となる。
【0048】
図11に示すように、筒2の凹溝20’において、走行通路25の側壁部を筒2の半径方向に薄肉にして薄肉側壁部250とし、この薄肉側壁部250を筒2の半径方向に弾性変形可能に構成してもよい。これにより、ガイドピン収容部24内のガイドピン5に対して筒2の半径方向に弾性力が付与され、走行通路25内で転動するローラ3に対する予圧調整がなされる。例えば、軸1に対して側方から負荷がかかったときでも、周方向に配置された各ローラ3への予圧が上記薄肉側壁部250の弾性によって調整される。従って、軸1の直動精度を高くに維持し、軸1の円滑な移動を確保することができる。
なお、図11に示すように、さらにガイドピン収容部24の側壁も円弧状に削った円弧側壁240とすることで、上記薄肉側壁部250によるガイドピン5への弾性作用を補強するとともに、薄肉側壁部250の強度を確保することができる。
【0049】
また、上記凹溝20は、上下方向に2つ形成するが、上下方向に3つ以上の多数形成してもよい。
また、上記直動軸受では、ローラ3の走行箇所を6面とするが、3面以上の多面としてもよい。
また、上記ローラ3は、単純な円柱状のものとするが、中央が円弧状に窪んだ鼓型ローラとしてもよい。これにより、円柱状の軸を具備する直動軸受に適用可能となる。
さらに、上記筒2は、昇降テーブルに取り付けるとするが、筒2を固定して、軸1をネジ軸とネジ対偶する直動軸部としてもよい。この場合は、軸1が例えば直動アクチェータの出力軸として構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態による直動軸受の概略構成を示す一部切り欠きの側面図である。
【図2】直動軸受の一部切り欠きの平面図である。
【図3】筒における凹溝を示す拡大断面図である。
【図4】筒における凹溝でのローラの充填状態を示す拡大断面図である。
【図5】ガイドピンにローラを保持したリテーナを外装させた状態を示す斜視図である。
【図6】リテーナの概略構成を示す斜視図である。
【図7】半割りしたリテーナの一方を示す斜視図である。
【図8】半割したリテーナの概略構成を示し、同図(a)は外側から見た平面図であり、同図(b)は側面図であり、同図(c)は他方の半割のリテーナが組合される内側から見た平面図である。
【図9】筒の他の例を示す一部切り欠いた側面図である。
【図10】筒の他の例を示す一部切り欠いた側面図である。
【図11】筒における凹溝の他の例を示す拡大断面図である。
【図12】従来の直動軸受の概略構成を示す一部切り欠きの側面図である。
【図13】従来の直動軸受におけるリテーナの概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 軸
2 筒
3 ローラ
4 ボルト
5 ガイドピン
6 リテーナ
6A,6B リテーナ分割体
11 走行平面
21 筒本体
22A,22B 筒蓋体
20 凹溝
23 環状溝
25 走行通路
26 リターン通路
27 案内空間
28 長尺凹溝
51 ガイド面
61 ローラ保持部
62 ローラ装填孔
63 弾性舌片
64 ベロ
60a,60b 環状ベルト
F フエルト
S H型スペーサ部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、この軸を貫通させた筒と、これらの間に介在させた多数のローラとを具備し、筒には、ローラの走行通路、案内空間及びリターン通路からなる循環経路が形成され、環状のリテーナに保持された多数のローラが上記循環経路に充填された直動軸受において、
上記循環経路が筒の軸線方向に多段に設けられていることを特徴とする直動軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の直動軸受において、
上記筒には、上記循環経路を形成するための凹溝が設けられており、
上記凹溝は、深さ方向の中間に他の領域よりも幅広のガイドピン収容部が形成されており、
上記ガイドピン収容部にガイドピンが収容されて、凹溝内は、ガイドピンによって仕切られて、凹溝の入口側にはローラの走行通路が形成され、凹溝の奥側にはローラのリターン通路が形成され、ガイドピンの上下には走行通路とリターン通路との間でローラの送り込みを可能とする案内空間が形成されるように構成している直動軸受。
【請求項3】
請求項2に記載の直動軸受において、
上記ガイドピンは、上下両端部が大きなR曲面による鋭角に形成されている直動軸受。
【請求項4】
請求項2又は3のいずれかに記載の直動軸受において、
上記ガイドピンは、上下端面が平面状にカットされて平面に形成されている直動軸受。
【請求項5】
軸と、この軸を貫通させた筒と、これらの間に介在させた多数のローラとを具備する直動軸受に用いられるリテーナであって、筒には、ローラの走行通路、案内空間及びリターン通路からなる循環経路が形成され、上記循環経路に充填される多数のローラを保持する環状のリテーナにおいて、
ローラを装填する矩形状のローラ装填孔を貫通形成したローラ保持部を有し、
多数並設した上記ローラ保持部の両端部のそれぞれを、左右に配置する環状ベルトに結合させて無端ベルト状に構成したことを特徴とするリテーナ。
【請求項6】
請求項5に記載のリテーナにおいて、
上記環状ベルトには、ローラ保持部の中央部方向に突出させたシート状のベロが形成されており、
上記ベロは、隣合うローラ保持部の間に配置されてその幅方向の両端部がローラ装填孔に達して突出する大きさに設定されているリテーナ。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のリテーナにおいて、
本リテーナは、上記ローラ保持部の真ん中から左右に分割された半割りに形成されているリテーナ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−2879(P2007−2879A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181239(P2005−181239)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000100838)アイセル株式会社 (62)
【Fターム(参考)】