説明

直動軸受装置及びそれ用いた加振試験装置

【課題】温度変化によるバラツキを減じ、軸受性能を安定させる。
【解決手段】溝部2を具えた案内レール3と、前記溝部2を転動しかつ潤滑剤が塗布された複数の転動体6を循環移動可能に具えることにより前記案内レール3に沿って直動自在な移動体4とを有する直動軸受装置1であって前記案内レール3の温度を調節する温度調整具10を具えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化による摩擦抵抗の変化を最小限に抑え、ひいては軸受性能を安定させ得る直動軸受装置及びそれを用いた加振試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溝部を具えた案内レールと、前記溝部を転動しかつ粘性を有する潤滑剤が塗布された複数の転動体を循環移動可能に具えることにより前記案内レールに沿って直動自在な移動体とを有する直動軸受装置が知られている(例えば下記特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−182546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、潤滑材は、温度によってその粘性が変化しやすい。とりわけ冬場などの低温雰囲気下には、潤滑剤の粘性が大きくなって転動体の転がり抵抗が増加し、ひいては直動軸受装置の軸受性能が変化するという問題がある。特に、このような直動軸受装置を使用した各種の試験装置等にあっては、軸受性能が変化すると、それが測定誤差となって現れるため好ましくない。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、前記案内レールの温度を調節する前記温度調整具を具えることを基本として、例えば案内レールを暖めることにより低温雰囲気下においても潤滑材の粘性の増加を抑え、ひいては、軸受性能を安定させ得る直動軸受装置及びそれを用いた加振試験装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、溝部を具えた案内レールと、前記溝部を転動しかつ潤滑剤が塗布された複数の転動体を循環移動可能に具えることにより前記案内レールに沿って直動自在な移動体とを有する直動軸受装置であって、前記案内レールの温度を調節する温度調整具を具えることを特徴とする。
【0007】
また請求項2記載の発明は、前記温度調整具は、前記案内レールと熱伝導可能に設けられた流路と、該流路を流れる熱媒とを含む請求項1記載の直動軸受装置である。
【0008】
また請求項3記載の発明は、前記流路は、前記案内レールの内部を該案内レールの長手方向と平行にのびる請求項2記載の直動軸受装置である。
【0009】
また請求項4記載の発明は、供試体が載置される載置台と、この載置台に置かれた供試体をその上面から押圧する第1の油圧シリンダを有する押圧具と、前記載置台を水平方向に移動させる第2の油圧シリンダを有する水平移動具とを具え、 前記押圧具により押圧された載置台上の供試体に水平方向の振動を加える加振試験装置であって、前記押圧具又は載置台が、前記請求項1に記載された直動軸受装置を介して、固定部材にスライド自在に固着されていることを特徴とする加振試験装置である。
【0010】
また請求項5記載の発明は、供試体が載置される載置台と、この載置台に置かれた供試体をその上面から押圧する第1の油圧シリンダを有する押圧具と、前記載置台を水平方向に移動させる第2の油圧シリンダとを具え、 前記押圧具により押圧された載置台上の供試体に水平方向の振動を加える加振試験装置であって、前記押圧具又は載置台が、前記請求項2又は3に記載された直動軸受装置を介して、固定部材にスライド自在に固着されるとともに、前記熱媒が前記第1又は第2の油圧シリンダの作動油であることを特徴とする加振試験装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の直動軸受装置は、温度調整具によって案内レールの温度が調整される。従って、案内レールに接触する潤滑材の温度を直接的に又は転動体を介して間接的に調整できる。よって、例えば案内レールを暖めることにより、潤滑剤の粘性の増加を抑え、軸受性能を安定させることができる。
【0012】
また、請求項4ないし5記載の加振試験装置に、前記直動軸受装置を用いることによって、測定結果にばらつきが少なくなり、ひいては正確な測定が可能となる。
【0013】
さらに、請求項5記載の加振試験装置では、摩擦によって油圧シリンダの作動油の温度が上昇するので、この作動油を熱媒として案内レールと熱伝導可能に配された流路に流すことにより、案内レールを容易に暖めることができる。従って、特別な熱源を準備することなく、これまで捨てられていた作動油の熱エネルギーを有効に利用して、直動軸受装置の軸受性能を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には本実施形態の直動軸受装置1の正面図、図2にはそのA−A視断面図、図3には図2のB−B視断面図が示される。本実施形態の直動軸受装置1は、溝部2を具えた案内レール3と、該案内レール3に沿って直動自在な移動体4とを有する。
【0015】
前記案内レール3は、本実施形態では直線状でのびる棒状をなすとともに、断面が略矩形状で構成される。該案内レール3には、金属材料、とりわけステンレス鋼などが好適に利用される。該案内レール3は、床面GL等の固定部材にボルト等を用いて移動不能に固着される。
【0016】
図2に示されるように、本実施形態の案内レール3には、その両側面及び上面に、左右対称に合計4条の溝部2が設けられる。各溝部2は、平滑な表面を有しかつ案内レール3の長手方向に沿ってのびている。溝部2の断面形状は種々のものが採用されるが、本実施形態では溝底に向かって幅が減じられた断面略三角形状で形成される。
【0017】
前記移動体4は、ケース本体5と、前記案内レール3の溝部2を転動する転動体としての複数のボール6とを具える。
【0018】
本実施形態において、前記ケース本体5は、案内レール3に跨るよう断面が下解放の略コ字状で構成される。また、ケース本体5は、図1及び図3に示されるように、その長さ方向の主要部をなす中間部分5Aと、該中間部分5Aの両端に固着された端部分5Bとの3部材を含んで構成される。さらに、ケース本体5には、前記複数のボール6を循環移動可能に収容する移動通路G1、G2が設けられる。
【0019】
前記移動通路G1は、図3に示されるように、前記中間部分5Aの案内レール3側を向く内面に該案内レール3に沿ってのびるとともに、向き合う溝部2との間でボール6を保持しうる内溝部7と、該中間部分5Aを貫通しかつ案内レール3と平行にのびる外溝部8と、前記端部分5Bに設けられるとともに、前記内溝部7と前記外溝部とを継ぐ滑らかに湾曲した円弧溝部9とを含む実質的な環状で構成される。なお、詳細は図示していないが、移動通路G2も移動通路G1と同様の構成を具える。
【0020】
前記転動体は、本実施形態では鋼からなるボール6が用いられるが、これに限定されるものではない。また、ボール6には、移動通路G1、G2及び案内レール3の溝部2と接触する際の摩擦を軽減するために、粘性を有する潤滑剤(潤滑グリース)が塗布されている。該潤滑剤は、温度による粘性変化が改善されてはいるが、依然として低温雰囲気下では粘性が増す一方、高温雰囲気下では粘性が小さくなる特性を持っている。
【0021】
以上のように構成された直動軸受装置1は、移動体4に任意の向きの水平方向の負荷が作用した場合、複数のボール6が移動通路G1、G2内を循環移動しながら溝部2を転動することにより、非常に小さな抵抗で移動体4が案内レール3に沿って滑らかに直動できる。
【0022】
本発明の直動軸受装置1では、さらに温度調整具10が設けられる。本実施形態の温度調整具10は、案内レール3に熱伝導可能に設けられた流路11と、該流路11を流れる熱媒12とを含んで構成される。従って、流路11に熱媒12を流すことにより、その熱エネルギーを案内レール3に伝えてその温度を変えることができる。なお、熱媒には、液体又は気体など各種の流体が使用できる。
【0023】
本実施形態において、前記流路11は、案内レール3の内部を該案内レールの長手方向と平行にのびており、好ましくは前記溝部2の最も近くをのびる第1の流路11aと、この第1の流路11aよりも溝部2から遠い位置(本実施形態では第1の流路11aの下方)をのびる第2の流路11bとを含むものが望ましい。本実施形態では、第1の流路11a及び第2の流路11bがそれぞれ案内レール3の両側に一対で設けられている。各流路11a、11bは、いずれも案内レール3に穿設された貫通孔によって形成されているが、例えば別途管路などを内蔵させても良く、さらには案内レール3と接触して管路を併設しても良い。
【0024】
また、図1に模式的に示されるように、流路11には、熱媒12を循環させるポンプPと、熱媒と熱交換を行いうる熱交換手段Eとが接続される。
【0025】
前記ポンプPから送給される熱媒12は、案内レール3の一端側3aから第1の流路11aを流れ、案内レール3の他端側3bに設けられたエルボ管13を介して再び第2の流路11bへと送られ前記とは逆向きに流れる。さらに、熱媒12は、案内レール3の一端側3aから熱交換器Eを経て再びポンプPに戻る。
【0026】
以上のように構成された本実施形態の直動軸受装置1の作用について述べる。例えば、低温雰囲気下で直動軸受装置1が使用される場合、熱交換器Eにて加熱された熱媒12がポンプPによって第1の流路11aに流される。これにより、案内レール3が内部から暖められる。また、案内レール3に伝えられた熱エネルギーは、溝部2から直接的に又はボール6を介して潤滑剤を加温する。これにより、低温雰囲気下においても、潤滑剤の粘性が過度に大きくなるのを防止できる。
【0027】
なお、高温雰囲気下で直動軸受装置1が使用される場合、熱交換器Eにて冷やされた熱媒を前記と同様に循環させれば良い。これにより、案内レール3の溝部2を介して潤滑剤を冷却し、潤滑剤の粘性が過度に小さくなるのを防止できる。
【0028】
以上のように、本実施形態の直動軸受装置1は、雰囲気温度に拘わらず軸受性能を安定させることが可能になる。また、本実施形態では、ポンプPから案内レール3に送給される熱媒12は、平行にのびる第1及び第2の流路11a及び11bで往復するように案内レール3の内部を流れるのでその熱エネルギーを十分に案内レール3に熱伝導させ得る。さらに、熱媒12は、先に溝部2に最も近い側に設けられている第1の流路11aを流れる。このため、熱媒12の熱エネルギーは、潤滑剤が付着している溝部2側により効果的に熱伝導され、前記溝部2を効率良く暖め得る。なお、図示していないが、直動軸受装置1が使用される雰囲気温度又は案内レール3自体の温度を検知するセンサーを設け、それに基づいて、案内レール3を予め定めた温度となるように前記熱交換器E及び/又はポンプPを駆動制御しても良いのは言うまでもない。
【0029】
図4及び図5には、本実施形態の直動軸受装置1を利用した加振試験装置20が示される。該加振試験装置20は、床面GL等に固定されかつ縦枠M1及び横枠M2を有する側面視が略L字状のフレーム枠Mと、供試体mが載置されるとともに前記フレーム枠Mの横枠M2に上述の直動軸受装置1を介して水平方向にスライド自在に支持された載置台21と、この載置台21に置かれた供試体mの上面に当接しかつ前記フレーム枠Mの縦枠M1に上述の直動軸受装置1を介して垂直方向にスライド自在に支持された押圧具23と、該押圧具23とボールジョイント等の継手を介して接続された押圧具23を垂直下方に加圧する第1の油圧シリンダ22と、前記載置台21を水平方向に移動させる第2の油圧シリンダ24とを含んで構成されたいわゆる2軸式の試験装置である。なお、第1の油圧シリンダ22は、別途サイドウォール部フレームM3で支持されている。
【0030】
このような加振試験装置20は、載置台21と押圧具23との間で加圧保持された供試体mに、例えば周期的な水平方向の繰り返し負荷を加えることができる。このような試験装置は、例えば地震の横揺れを再現でき、供試体mの振動特性やせん断耐久性などを評価するのに役立つ。従って、前記供試体mには、例えば免震ゴムや、基礎とその上に置かれた構造物とを疑似化した複合体などが使用される。
【0031】
本実施形態の加振試験装置20では、載置台21及び押圧具23が、いずれも上述の直動軸受装置1を介して固定部材たるフレーム枠Mにスライド自在に固着されるとともに、前記熱媒12には前記第1及び第2の油圧シリンダ22、24の作動油が用いられる。油圧シリンダを駆動させるための作動油は、ポンプPとの摩擦、流動抵抗、シリンダ内での圧縮による内部摩擦等によって高温(例えば60℃程度)に上昇する場合がある。従って、このような作動油Oを熱媒12として案内レール3の流路11に流すことにより、案内レール3を効果的に暖め、低温環境下で使用される直動軸受装置1の潤滑剤の粘性の増加を確実に抑制することができる。
【0032】
図6には、載置台21を支持する直動軸受装置1に作用する作動油Oの油圧回路図の一例が示される。タンクTから吸い上げられた熱媒12として作動油Oは、ポートA又はポートBに切り替えられた切替弁V2を得て第2の油圧シリンダ24に送給される。他方、第2の油圧シリンダ24から排出される作動油Oは、管路26を通って案内レール3の前記第1の流路11a、エルボ管13及び第2の流路11bに送給される。これにより、案内レール3が作動油Oによって加熱される。特に油圧シリンダのピストンロッドを駆動させた戻り側の作動油Oは高温になりやすいので、この作動油Oを案内レール3に循環させることにより、効果的に案内レール3を加熱できる。また、本実施形態の直動軸受装置1は、作動油Oを冷却する点でも好ましい。
【0033】
なお、案内レール3を流れた作動油Oは、管路27を通ってタンクTへと戻される。なお、図示してないが、押圧具23をスライド自在に支持する直動軸受装置1についても同様に作動油Oを循環させることができるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】直動軸受装置の側面図である。
【図2】そのA−A視断面図である。
【図3】図2のB−B視断面図である。
【図4】本実施形態の直動軸受装置が用いられた加振試験装置の側面図である。
【図5】その正面図である。
【図6】加振試験装置の作動油の流れを示す回路図である。
【符号の説明】
【0035】
1 直動軸受装置
2 溝部
3 案内レール
4 移動体
6 ボール
10 温度調整具
11 流路
11a 第1の流路
11b 第2の流路
12 熱媒
20 加振試験装置
21 載置台
22 第1の油圧シリンダ
23 押圧具
24 第2の油圧シリンダ
m 供試体
GL 固定部材
O 作動油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝部を具えた案内レールと、前記溝部を転動しかつ潤滑剤が塗布された複数の転動体を循環移動可能に具えることにより前記案内レールに沿って直動自在な移動体とを有する直動軸受装置であって、
前記案内レールの温度を調節する温度調整具を具えることを特徴とする直動軸受装置。
【請求項2】
前記温度調整具は、前記案内レールと熱伝導可能に設けられた流路と、該流路を流れる熱媒とを含む請求項1記載の直動軸受装置。
【請求項3】
前記流路は、前記案内レールの内部を該案内レールの長手方向と平行にのびる請求項2記載の直動軸受装置。
【請求項4】
供試体が載置される載置台と、この載置台に置かれた供試体をその上面から押圧する第1の油圧シリンダを有する押圧具と、前記載置台を水平方向に移動させる第2の油圧シリンダを有する水平移動具とを具え、
前記押圧具により押圧された載置台上の供試体に水平方向の振動を加える加振試験装置であって、
前記押圧具又は載置台が、前記請求項1に記載された直動軸受装置を介して、固定部材にスライド自在に固着されていることを特徴とする加振試験装置。
【請求項5】
供試体が載置される載置台と、この載置台に置かれた供試体をその上面から押圧する第1の油圧シリンダを有する押圧具と、前記載置台を水平方向に移動させる第2の油圧シリンダとを具え、
前記押圧具により押圧された載置台上の供試体に水平方向の振動を加える加振試験装置であって、
前記押圧具又は載置台が、前記請求項2又は3に記載された直動軸受装置を介して、固定部材にスライド自在に固着されるとともに、前記熱媒が前記第1又は第2の油圧シリンダの作動油であることを特徴とする加振試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−8206(P2009−8206A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171740(P2007−171740)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【Fターム(参考)】