説明

直線運動装置

【課題】転動体保持部材の強度を向上することで、高速・高加減速運転が連続的に行われる環境下において用いられた場合においても寿命の向上を図ることが可能な直線運動装置を提供する。
【解決手段】直線運動装置1は、外面に転動体転動溝4を有する内方部材2と、内面に転動体転動溝5を有する外方部材3と、転動体転動溝4と転動体転動溝5との間に転動自在に配置される複数の転動体7と、隣り合う転動体間7に介装される転動体保持部材10とを備え、転動体保持部材10は、両側面のうち一方に転動体7を保持する凹面13を有する1対の保持部11と、両保持部11の両側面のうち他方間に介在される緩衝部12とを一体に備え、保持部11は硬質樹脂により形成され、緩衝部12は軟質樹脂により形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアガイド、ボールスプライン、ボールねじ等の直線運動装置に関し、特に、隣り合う転動体間に介装される転動体保持部材を備えることで、高速・高加減速運転を行う環境下における搬送及び精密位置決めに用いることが可能な直線運動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直線運動装置においては、転動体同士の摩擦を防止することにより直線運動装置の作動の円滑化を図るべく、隣合う転動体間に転動体保持部材を介装することが行われている。
そして、かかる転動体保持部材を備えた直線運動装置の発明として、例えば図4及び図5に記載のボールねじ装置40が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図4に示すボールねじ装置40は、外周面に螺旋状のねじ溝41を有するねじ軸42と、内周面にねじ溝41に対向する螺旋状のねじ溝43を有するナット44と、ナット44のねじ溝43とねじ軸42のねじ溝41との間に転動自在に配置された転動体45と、各転動体45間に介装されたスペーサ46(図4において図示せず)とを備えている。また、スペーサ46は、図5に示すように、両側面に転動体45を保持する球面状の保持凹面47が形成された円盤状の基体48と、円盤状に形成された基体48の外周面を覆う外周部材49とを備え、基体48及び外周部材49のうち一方又は両方を自己潤滑性材料によって形成して基体48側と外周部材49側とで潤滑剤量を選択可能に形成されている。
【0004】
そして、ボールねじ装置40によれば、スペーサ46の基体48側では転動体45との摺接および衝突を考慮して潤滑剤量を選択することができると共に、外周部材49側では両ねじ溝41,43により形成される負荷軌道内との摺接および衝突を考慮して潤滑剤量を選択することができるため、スペーサ46と負荷軌道内又は転動体45との摩擦を抑えることが可能となるとともに、負荷軌道内での衝突によるスペーサ46の破損を回避することを可能としている。
【特許文献1】特開2004−150588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、一般的に、ボールねじ装置40等の直線運動装置の作動時においては、負荷軌道内に備えられる転動体45は、図6(a)に示すように、同一方向に回転することとなる。そして、ボールねじ装置40等の直線運動装置が高速・高加減速運転が連続的に行われる環境において用いられる場合、隣合う転動体45間に備えられるスペーサ46には、図6(b)に示すように、スペーサ46の各側面に接触する転動体45の回転により、スペーサ46の両側面において逆方向のせん断力が作用することとなる。また、スペーサ46は、ねじ軸42及びナット44の形状精度によっては、スペーサ46の両側に配置される転動体45から過大な圧縮加重及び衝撃加重が加わることとなる。
【0006】
したがって、ボールねじ装置40においては、スペーサ46の転動体45を保持する両保持凹面47間において同一の素材により形成されているため、高速・高加減速運転が連続的に行われる環境において用いると、スペーサ46を形成するの樹脂の強度を向上させたとしても、スペーサ46の両保持凹面47間に割れが生じることとなり、ボールねじ装置40の寿命が短くなるという問題がある。
本発明は上記した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、転動体保持部材の強度を向上することで、高速・高加減速運転が連続的に行われる環境下において用いられた場合においても寿命の向上を図ることが可能な直線運動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1に係る直線運動装置は、外面に転動体転動溝を有する内方部材と、前記内方部材の外側に配置され、内面に前記内方部材の転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有する外方部材と、前記内方部材の転動体転動溝と前記外方部材の転動体転動溝との間に転動自在に配置される複数の転動体と、隣り合う前記転動体間に介装される転動体保持部材とを備えてなる直線運動装置であって、
前記転動体保持部材は、両側面のうち一方に前記転動体を保持する凹面を有する1対の保持部と、前記両保持部の前記両側面のうち他方間に介在される緩衝部とを一体に備え、
前記保持部は硬質樹脂により形成され、前記緩衝部は軟質樹脂により形成されることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のうち請求項2に係る直線運動装置は、請求項1記載の直線運動装置において、前記硬質樹脂は、テーバー磨耗試験による磨耗量が20mg/103回以下の樹脂が用いられ、
前記軟質樹脂は、引張り破断伸びが100%以上の樹脂が用いられることを特徴とする。
ここで、前記テーバー磨耗試験は、ASTM D−1044,CS−17によるものをいい、前記引張り破断伸びは、ASTM D638,23℃によるものをいう。
さらに、本発明のうち請求項3に係る直線運動装置は、請求項1又は2記載の直線運動装置において、前記硬質樹脂は、カーボン・ナノ・ファイバーを含有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願請求項1又は2に係る直線運動装置によれば、転動体保持部材は、両側面のうち一方に前記転動体を保持する凹面を有する1対の保持部と、前記両保持部の前記両側面のうち他方間に介在される緩衝部とを一体に備え、前記保持部は硬質樹脂により形成され、前記緩衝部は軟質樹脂により形成される構成により、転動体保持部材において、転動体を保持する保持部の磨耗等を防止するとともに、転動体保持部材の両側面に作用するせん断力並びに圧縮加重及び衝撃加重を緩衝部により吸収することで、転動体保持部材の強度を向上することができ、高速・高加減速運転が連続的に行われる環境下における直線運動装置の寿命の向上を図ることが可能となる。
【0010】
また、本願請求項3に係る直線運動装置によれば、請求項1又は2記載の直線運動装置において、前記硬質樹脂は、カーボン・ナノ・ファイバーを含有している構成により、転動体保持部材において、保持部の耐磨耗性、耐温度性及び機械的性質を向上することができ、高速・高加減速運転が連続的に行われる環境下における直線運動装置の寿命をさらに向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る直線運動装置を図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係るボールねじの概略構成図である。図2は負荷軌道に備えられる転動体及びスペーサの詳細図である。図3はスペーサの断面図である。
なお、本発明に係る直線運動装置は、ボールねじ、リニアガイド、ボールスプライン等に構成可能であり、本実施形態においては、本発明に係る直線運動装置をボールねじとして構成した場合を例にして説明する。
【0012】
ボールねじ(直線運動装置)1は、図1に示すように、直線状に延びるねじ軸(内方部材)2と、ねじ軸2が嵌挿されるナット(外方部材)3と、ねじ軸2とナット3との間に配設される複数の転動体7と、各転動体7間に配設される複数のスペーサ(転動体保持部材)10とを備えている。
ねじ軸2は、円柱状に形成されており、外周面に螺旋状の転動体転動溝4が形成されている。
【0013】
ナット3は、円筒状に形成されており、内周面に、ねじ軸2の嵌挿時においてねじ軸2の転動体転動溝4と対向する螺旋状の転動体転動溝5が形成されている。また、ナット3の各端面には、ねじ軸2に付着した切削粉や研削粉等の異物がねじ軸2とナット3との間に入り込むことを防止するシール部材6が設けられている。
各転動体7は、鋼、セラミックス等により形成された球体が用いられている。
【0014】
各スペーサ10は、図2及び図3に示すように、転動体7の直径より若干小さい直径の円板状に形成されており、1対の保持部11と、両保持部11間に介装される緩衝部12とを備えている。
各保持部11は、硬質樹脂により略円盤状に形成され、保持部11の両側面のうち一方には、転動体7を保持する球面状に形成された凹面13が、転動体7の曲率半径より若干大きい曲率半径により形成されており、保持部11の両側面のうち他方には、緩衝部12との接続面14が形成されている。ここで、保持部11を形成する硬質樹脂としては、テーバー磨耗試験(ASTM D−1044,CS−17)による磨耗量が20mg/103回以下の樹脂を用いることが好ましく、例えば、変性PPE、POM、PC、PBT、ナイロン等を用いることが好ましい。また、硬質樹脂をベースとして、カーボン・ナノ・ファイバーを添加して含有させることにより、転動体7を保持する保持部11の耐磨耗性、耐温度性及び機械的性質を向上することができ、高速・高加減速運転が連続的に行われる環境下におけるボールねじ1の寿命をさらに向上させることが可能となる。
【0015】
緩衝部12は、軟質樹脂により略円盤状に形成されている。ここで、緩衝部12を形成する軟質樹脂としては、引張り破断伸び(ASTM D638,23℃)が100%以上の樹脂が用いられることが好ましく、例えば、PBT、PC等を用いることが好ましい。
そして、スペーサ10は、一対の保持部11と緩衝部12とを、両保持部11の接続面14間に緩衝部12を介装して一体に接着することにより形成されている。
【0016】
また、ボールねじ1は、ねじ軸2にナット3を嵌挿した状態で、転動体転動溝4と転動体転動溝5との間に複数の転動体7を転動自在に配設するとともに、隣合う転動体7間に転動体保持部材10を介装することにより組み立てられる。この場合において、ナット3の外周面には、両転動体転動溝4,5により形成される負荷軌道に連通する循環チューブ16が設けられており、循環チューブ16により、両転動体転動溝4,5により形成される負荷軌道内を転動する転動体7を無限循環させることを可能としている。
【0017】
ここで、ボールねじ1の組立てにおいては、負荷軌道内において隙間を生ずることなく転動体7及びスペーサ10が配設されることが好ましい。一方、ボールねじ1によれば、スペーサ10の緩衝部12が転動体7の軌道長変化を吸収するため、ボールねじ1の組立て時において、各転動体7間に生じる隙間を容易に調整することが可能となる。
次に、ボールねじ1の作用について説明する。
【0018】
ボールねじ1は、ねじ軸2とナット3とが組み合わされた状態において、ねじ軸2又はナット3の回転運動に伴って、転動体7が転動体転動溝4,5により形成される負荷起動内を転動することにより、ねじ軸2とナット3とが軸方向へ相対的に移動可能となっている。また、この場合において、各転動体7間にスペーサ10を介装することにより、転動体7同士が接触せず、転動体7間の距離が一定に保たれ、ボールねじ1の作動の円滑化が図られるとともに、ボールねじ1の作動時における転動体7同士の衝突による騒音の発生を防止することが可能となる。
【0019】
ここで、上述したように、ボールねじ1の作動時においては、両転動体転動溝4,5により形成される負荷軌道内に備えられる転動体7は、図6(a)に示すように、同一方向に回転することとなる。
そして、ボールねじ1が高速・高加減速運転が連続的に行われる環境において用いられる場合、隣合う転動体7間に備えられるスペーサ10には、図6(b)に示すように、スペーサ10の各凹面13に接触する転動体7の回転により、スペーサ10の両保持部11において逆方向のせん断力が作用するとともに、各保持部11において転動体7から圧縮加重及び衝撃加重が作用することとなる。
【0020】
ここで、スペーサ10においては、転動体7を保持する保持部11が硬質樹脂により形成されているため、転動体7と保持部11との接触による保持部11の磨耗等を防止することが可能となる。
また、スペーサ10においては、両保持部11の接続面14間に介装された緩衝部12が軟質樹脂により形成されているため、各保持部11において作用した上記せん断力並びに圧縮加重及び衝撃加重は、緩衝部12により吸収されることとなり、スペーサ10に割れが生じることを防止することが可能となる。
【0021】
このように、ボールねじ1によれば、スペーサ10の強度を向上することができ、高速・高加減速運転が連続的に行われる環境下におけるボールねじ1の寿命の向上を図ることが可能となる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態においては、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、本発明の実施形態においては、本発明に係る直線運動装置をボールねじとして構成しているが、リニアガイド、ボールスプライン、その他の直線運動装置として構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るボールねじの概略構成図である。
【図2】負荷軌道に備えられる転動体及びスペーサの詳細図である。
【図3】スペーサの断面図である。
【図4】特許文献1に係るボールねじ装置の構成図である。
【図5】特許文献1に係るスペーサの断面図である。
【図6】負荷軌道内に備えられる転動体及びスペーサの状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ボールねじ
2 ねじ軸
3 ナット
4 転動体転動溝
5 転動体転動溝
6 シール部材
7 転動体
10 スペーサ
11 保持部
12 緩衝部
13 凹面
14 接続面
16 循環チューブ
40 ボールねじ装置
41 ねじ溝
42 ねじ軸
43 ねじ溝
44 ナット
45 転動体
46 スペーサ
47 保持凹面
48 基体
49 外周部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に転動体転動溝を有する内方部材と、前記内方部材の外側に配置され、内面に前記内方部材の転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有する外方部材と、前記内方部材の転動体転動溝と前記外方部材の転動体転動溝との間に転動自在に配置される複数の転動体と、隣り合う前記転動体間に介装される転動体保持部材とを備えてなる直線運動装置であって、
前記転動体保持部材は、両側面のうち一方に前記転動体を保持する凹面を有する1対の保持部と、前記両保持部の前記両側面のうち他方間に介在される緩衝部とを一体に備え、
前記保持部は硬質樹脂により形成され、前記緩衝部は軟質樹脂により形成されることを特徴とする直線運動装置。
【請求項2】
前記硬質樹脂は、テーバー磨耗試験による磨耗量が20mg/103回以下の樹脂が用いられ、
前記軟質樹脂は、引張り破断伸びが100%以上の樹脂が用いられることを特徴とする請求項1記載の直線運動装置。
【請求項3】
前記硬質樹脂は、カーボン・ナノ・ファイバーを含有していることを特徴とする請求項1又は2記載の直線運動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−321815(P2007−321815A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150373(P2006−150373)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】