説明

真空吸着保持装置およびその方法

【課題】本発明は、材料や工程の追加を抑制しつつ、被吸着物をチャックステージに適切に真空吸着させることができる真空吸着保持装置および真空吸着保持方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明にかかる真空吸着保持装置は、被吸着物2を真空吸着により吸着面に吸着して保持させる、チャックステージ3と、被吸着物2に関する所定の情報を付与されることにより、所定の情報に応じて、チャックステージ3に吸着させるための真空度を自動的に制御する制御部15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空吸着保持装置およびその方法に関し、特に、真空吸着により被吸着物を吸着するチャックステージを備えた真空吸着保持装置およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体ウエハ、半導体チップといった対象の特性(特に電気的特性)を測定する試験を行う際、真空吸着により、被吸着物の設置面をチャックステージに吸着させて保持する真空吸着保持装置を用いる方法が一般的である。
【0003】
電気的特性を測定する場合、吸着される被吸着物の縦方向、つまり設置面の法線方向に電流を流す縦型構造の半導体においては、被吸着物の設置面を固定したチャックステージが測定電極のひとつとなる。
【0004】
そのため、被吸着物とチャックステージとの密着性が接触抵抗に影響し、ひいては測定する電気的特性に影響を与えることになる。
【0005】
しかしながら、接触抵抗を下げるために密着性を上げる、つまり真空吸着の真空度を上げて吸着性を上げることで、別の原因による不具合が生じる。
【0006】
チャックステージ上にゴミ等の異物が存在すると、異物の上に被吸着物が設置されることとなり、真空吸着により被吸着物の設置面を異物に強く押し付けることになる。
【0007】
この異物が大きい場合、チャックステージとの接触部、ならびに接触部近傍においてクラック等の欠陥が生じ、被吸着物を一部破損することになる。破損した被吸着物は不良としてカウントされる。
【0008】
異物の大きさが目視困難なレベル、例えば数10μm以下のような比較的小さい場合であっても、チャックステージとの接触部、あるいは接触部近傍において圧力による歪みが生じ、ピエゾ効果により漏れ電流が増加して、被吸着物は不良としてカウントされる。ただし、小さい異物の場合、異物を除去して歪みを解消した後に、再度電気的特性を測定すると、不良とならないことも知られている(特許文献1参照)。
【0009】
このように、接触抵抗を下げるために密着性を上げる、つまり真空吸着の真空度を上げて吸着性を上げることで、被吸着物の設置面を異物に対しより強く押し付けることになるため、不良率が増加するという不具合が生じる。
【0010】
そこで、チャックステージ上に存在する異物に起因した不良率増加の対策としては、被吸着物としての半導体基板の裏面(設置面)側に応力緩衝膜を追加し、真空吸着の真空度を上げた場合でも異物による応力を緩和する手法が開示されている(特許文献1参照)。
【0011】
また、被吸着物としての半導体基板の裏面(設置面)側に導電性および弾性を備えたシートを追加し、製造および評価工程後にそのシートを除去する手法が開示されている(特許文献2参照)。
【0012】
さらに、装置内に、異物を除去するための異物クリーニング機構を搭載する手法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−4739号公報
【特許文献2】特開2011−49337号公報
【特許文献3】特開2011−77077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1および特許文献2では、被吸着物の設置面に、異物に起因した応力を緩和する膜やシートを付加することで、不良率の低減を実現しているものの、全ての被吸着物に膜やシートを付加することが必要となることから、製造工程の増加、膜やシートといった材料追加によるコストアップといった問題があった。
【0015】
また、特許文献3に開示されているように、異物のクリーニング機構を装置内に搭載すれば不良率の低減を実現することはできるが、当該機構の搭載やクリーニング工程の追加が必要であるといった問題があった。
【0016】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、材料や工程の追加を抑制しつつ、被吸着物をチャックステージに適切に真空吸着させることができる真空吸着保持装置および真空吸着保持方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明にかかる真空吸着保持装置は、被吸着物を真空吸着により吸着面に吸着して保持させる、チャックステージと、前記被吸着物に関する所定の情報を付与されることにより、前記所定の情報に応じて、前記チャックステージに吸着させるための真空度を自動的に制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明にかかる真空吸着保持方法は、(a)被吸着物を、真空吸着によりチャックステージ吸着面に吸着して保持させる工程と、(b)前記被吸着物に関する所定の情報を付与されることにより、前記所定の情報に応じて、前記チャックステージに吸着させるための真空度を自動的に制御する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる真空吸着保持装置によれば、被吸着物を真空吸着により吸着面に吸着して保持させる、チャックステージと、前記被吸着物に関する所定の情報を付与されることにより、前記所定の情報に応じて、前記チャックステージに吸着させるための真空度を自動的に制御する制御部とを備えることにより、材料や工程の追加を抑制しつつ、被吸着物に関する所定の情報に応じた真空吸着が可能となる。
【0020】
本発明にかかる真空吸着保持方法によれば、(a)被吸着物を、真空吸着によりチャックステージ吸着面に吸着して保持させる工程と、(b)前記被吸着物に関する所定の情報を付与されることにより、前記所定の情報に応じて、前記チャックステージに吸着させるための真空度を自動的に制御する工程とを備えることにより、材料や工程の追加を抑制しつつ、被吸着物に関する所定の情報に応じた真空吸着が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】真空吸着保持装置の構成図である。
【図2】チャックステージの上面図である。
【図3】真空吸着保持装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】真空吸着保持装置の構成図である。
【図5】真空吸着保持装置の構成図である。
【図6】真空吸着保持装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施の形態1>
<構成>
図1、図2を用いて、本実施の形態1にかかる真空吸着保持装置について説明する。図1は真空吸着保持装置100の構成図であり、図2はチャックステージ3の上面図である。なお図1におけるチャックステージ3は、図2のAA断面図の概略である。
【0023】
図1に示すように、チャックステージ3吸着面に、被吸着物2が設置される。この被吸着物2としては、半導体ウエハや半導体チップ等を想定することができる。被吸着物2は、チャックステージ3吸着面に吸着されることにより固定され、所定の特性試験を受けることができる。本実施の形態では、特に電気的特性を測定する試験を受ける場合について説明する。ここで電気的特性とは、具体的には耐圧リークや電流密度等の特性をいう。
【0024】
チャックステージ3吸着面の被吸着物2と接触する部分には、例えば円状に吸着溝11が形成されており(図2参照)、さらに当該吸着溝11内には、吸着口13が所定の間隔で形成されている(図2参照)。吸着溝11は、図に示すように複数周形成されていてもよいし、単一周であってもよい。また、チャックステージ3吸着面において形成される形状も、円状に限られるものではない。被吸着物2は、吸着口13を介してチャックステージ3に吸着され、固定される。
【0025】
全ての吸着口13は吸着路12に繋がれ、吸着路12は第1真空経路8および第2真空経路9に分岐する。
【0026】
各真空経路には、圧力センサ10が設置され、それぞれの経路(第1真空経路8および第2真空経路9)内の真空度を示す内部真空度を測定することができる。第2真空経路9には、さらに第2レギュレータ7が設置され、第2真空経路9における内部真空度を調節できる構造となっている。
【0027】
分岐した真空経路は切替バルブ5において再び1つの真空経路となり、当該1つの真空経路において、第1レギュレータ6、さらには真空源4が設置される。第1レギュレータ6によって、真空源4による真空排気を調節できる。
【0028】
切替バルブ5は、第1真空経路8もしくは第2真空経路9に切り替える切替動作を制御部15によって制御され、制御部15は、入力部16において入力される、被吸着物2に関する所定の情報に基づいて切替バルブ5を制御する。
【0029】
被吸着物2に関する所定の情報とは、例えば製品の品種(構造種、品番、型番を含む)自体や、品種ごとに異なる被吸着物2の性質等を示す情報である。当該性質等とは、被吸着物2が吸着されることにより影響を受ける性質等であり、例えば接触抵抗依存度や歪み依存度が含まれる。
【0030】
当該所定の情報は、記憶部21(外部に備えられるものであってもよい)において記憶しておくことができる。この際、製品の品種の情報と、当該製品における性質等の情報を関連づけて記憶することができる。1つの品種に対し、複数の性質等の情報を関連づけて記憶することも可能である。このような場合に制御部15は、入力部16において試験対象となる被吸着物2の品種が入力された場合に対応する性質等の情報を参照し、切替バルブ5の制御に用いることができる。
【0031】
真空源4は、例えば真空吸着保持装置ごと、あるいは複数の真空吸着保持装置に対して設置された真空ポンプであり、真空吸着を行う際に真空排気を行うものである。なお真空源4は、工場内等に設置され、複数の装置や設備に対して一括して真空排気を行うものであってもよい。
【0032】
第1レギュレータ6においては、被吸着物2の真空吸着のための真空度を安定した値に設定する。特に工場内等に設置され、一括して真空排気を行う場合の真空源は出力変動が大きい場合があるため、第1レギュレータ6の設置が望ましい。
【0033】
第1真空経路8は、第1レギュレータ6のみによって、被吸着物2の真空吸着のための真空度を高く(圧力を低く)設定した経路であり、第1真空経路8における、経路の内部真空度を確認する圧力センサ10を介したのみで、チャックステージ3の吸着路12に接続される。
【0034】
第2レギュレータ7においては、被吸着物2の真空吸着のための真空度をさらに低い(圧力がさらに高い)値に設定する。第2レギュレータ7の機能によって、第2真空経路9の内部真空度は、第1真空経路8の内部真空度よりも低くなる。
【0035】
第2真空経路9は、第2レギュレータ7も加えて、被吸着物2の真空吸着のための真空度を低く設定した経路であり、第2真空経路9における、経路の内部真空度を確認する圧力センサ10を介し、チャックステージ3の吸着路12に接続される。
【0036】
<動作>
次に、実施の形態1に示す真空吸着保持装置100の動作手順について図3を参照して説明する。図3に示すのは、真空吸着保持装置100を用いて被吸着物2の電気的特性試験を行う場合の動作手順を示すものである。
【0037】
まず、真空吸着保持装置100の入力部16において、被吸着物2に関する所定の情報について入力する。具体的には、被吸着物2の性質である接触抵抗依存度を示すパラメータ、または当該性質と関連づけられた被吸着物2の品種自体を入力する(ステップS1)。また、被吸着物2に関する所定の情報に応じて、第1真空経路8における内部真空度(通常真空)、または第2真空経路9における内部真空度(低真空)に関するパラメータを読み込む。
【0038】
次に、被吸着物2を取り出し、チャックステージ3吸着面に搬送する(ステップS2)。被吸着物2は、例えば複数の半導体チップが形成された半導体ウエハや、半導体チップそのものが考えられるが、これに限るものではなく、真空吸着により固定する被吸着物であればよい。以下では半導体ウエハを例として挙げる。
【0039】
次に、被吸着物2としての半導体ウエハの設置面をチャックステージ3吸着面に吸着させる(ステップS3)。この際の真空度は、切替バルブ5を自動的に制御することにより、入力された被吸着物2に関する所定の情報に応じたものとする。
【0040】
所定の情報として接触抵抗依存度が直接的、または間接的に入力される場合、被吸着物2が高い接触抵抗依存度を有するなら、真空度を高く設定する必要があり、切替バルブ5を制御して第1真空経路8を吸着路12に接続させる。被吸着物2が低い接触抵抗依存度を有するなら、真空度を低く設定することができるので、切替バルブ5を制御して第2真空経路9を吸着路12に接続させる。
【0041】
具体的には、被吸着物2としてダイオードを用いる場合、接触抵抗依存度が低いため真空度を低く設定できる。
【0042】
真空度を低く設定できることで、歪みが緩和し空乏層の延びが正常化する。よって、歪みによる見かけのリーク不良が低下する。真空度を低く設定しているため接触抵抗は増加することになるが、十分小さいため、影響は小さい。
【0043】
被吸着物2としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いる場合には、接触抵抗依存度が高いため真空度を高く設定する。真空度を高く設定するので、接触抵抗の低下が見込める。
【0044】
なおここでは、ダイオードとIGBTとを比較して説明したが、必ずしもこのように区別されるものではなく、IGBTにおいてもその構造設計次第で、歪みによる影響が顕著となる場合もある。
【0045】
また、MOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)やその他の素子(半導体素子に限らない)に対しても適用可能である。
【0046】
次に、被吸着物2としての半導体ウエハに対し、電気的特性試験を実施する(ステップS4)。特性試験中は、被吸着物2に関する所定の情報に応じた真空度を維持する。
【0047】
次に、被吸着物2としての半導体ウエハに対する電気的特性試験が完了した後、真空吸着を解除する(ステップS5)。
【0048】
次に、被吸着物2としての半導体ウエハをチャックステージ3吸着面から取り出し、動作を終了する(ステップS6)。
【0049】
<効果>
本発明にかかる実施の形態によれば、真空吸着保持装置において、被吸着物2を真空吸着により吸着面に吸着して保持させる、チャックステージ3と、被吸着物2に関する所定の情報を付与されることにより、所定の情報に応じて、チャックステージ3に吸着させるための真空度を自動的に制御する制御部15とを備えることで、被吸着物2自身に対する対策や工程の追加を抑制しコストの低減、工程の簡略化を可能とつつ、被吸着物2に関する所定の情報に応じた真空吸着が可能となる。
【0050】
また、本発明にかかる実施の形態によれば、真空吸着保持装置において、制御部15が、被吸着物2の性質、すなわち、例えば被吸着物2のチャックステージ3吸着面との接触抵抗依存度に応じて、真空度を自動的に制御することで、材料や工程の追加を抑制しつつ、被吸着物2に関する所定の情報に応じた真空吸着が可能となる。
【0051】
例えば、被吸着物2に関する所定の情報である接触抵抗依存度が低い場合に、真空度を低く設定し、異物に起因した被吸着物に加わる歪みを抑制することができる。よって、被吸着物2の不良率を低減することができる。
【0052】
また、被吸着物2に関する所定の情報である接触抵抗依存度が高い場合には、真空度を高く設定し、接触抵抗を低下させることができる。よって、被吸着物2の不良率を低減することができる。
【0053】
また、本発明にかかる実施の形態によれば、真空吸着保持装置において、被吸着物2に関する所定の情報である品種と、当該被吸着物2に関する所定の情報である性質(例えば接触抵抗依存度)とを関連づけて記憶した、記憶部21をさらに備え、制御部15が、品種に対応する性質(例えば接触抵抗依存度)を記憶部21から参照し、それに応じて真空度を自動的に制御することで、品種の入力によって被吸着物2の性質が参照でき、当該性質に応じた真空吸着が可能となる。
【0054】
また、入力が簡略化されることで作業者の作業負担を軽減し、作業ミスを防止することができる。
【0055】
また、本発明にかかる実施の形態によれば、真空吸着保持装置において、チャックステージ3吸着面に、内部真空度が互いに異なる複数の経路である第1真空経路8および第2真空経路9に通じる吸着口13をさらに備え、制御部15が、被吸着物2に関する所定の情報に応じて吸着口13に通じる経路を第1真空経路8または第2真空経路9に切り替えることにより、真空度を自動的に制御することで、真空経路の選択により被吸着物2を吸着するための真空度を変更することができ、被吸着物2に関する所定の情報に応じた真空吸着が可能となる。よって例えば、異物に起因した電気的特性の見かけの不良を容易に抑制することができる。
【0056】
また、本発明にかかる実施の形態によれば、真空吸着保持方法において、(a)被吸着物2を、真空吸着によりチャックステージ3吸着面に吸着して保持させる工程と、(b)被吸着物2に関する所定の情報を付与されることにより、所定の情報に応じて、チャックステージ3に吸着させるための真空度を自動的に制御する工程とを備えることで、材料や工程の追加を抑制しコストの低減、工程の簡略化を可能とつつ、被吸着物2に関する所定の情報に応じた真空吸着が可能となる。
【0057】
<実施の形態2>
<構成>
本実施の形態2にかかる真空吸着保持装置の構成図を図4に示す。実施の形態1と同様の構成については、同符合を付し詳細な説明を省略する。
【0058】
図4に示すように真空吸着保持装置101では、吸着路12に接続される真空経路はひとつであり、実施の形態1におけるような分岐はない。
【0059】
ひとつの真空経路には、圧力センサ10が設置され、経路内の真空度を示す内部真空度を測定することができる。さらに第2レギュレータ7および第1レギュレータ6が設置され、真空源4により真空排気される経路の、内部真空度を調節できる構造となっている。
【0060】
第2レギュレータ7は、制御部20によって制御され、制御部20は、入力部16において入力される、被吸着物2に関する所定の情報に基づいて第2レギュレータ7を制御する。
【0061】
<動作>
次に、実施の形態2に示す真空吸着保持装置101の動作手順について説明する。
【0062】
実施の形態1における動作と同様のフローとなるが(図3参照)、制御部20における制御方法が異なる。
【0063】
すなわち、入力部16に被吸着物2の品種が入力されると、制御部20では、被吸着物2に関する所定の情報に応じて、第2レギュレータ7における設定真空度を自動的に制御する。
【0064】
経路中の内部真空度は、圧力センサ10における実測値を参照し、設定真空度に近づくように調節される。
【0065】
<効果>
本発明にかかる実施の形態によれば、真空吸着保持装置において、チャックステージ3吸着面に、1つの経路に通じる吸着口13をさらに備え、1つの経路において、当該経路の内部真空度を調節するレギュレータとしての第2レギュレータ7をさらに備え、制御部15が、被吸着物2に関する所定の情報に応じて第2レギュレータ7を制御することにより、真空度を自動的に制御することで、真空経路ごとに固定された内部真空度を選択する場合に比べ、自由度の高い内部真空度調節が可能となり、より被吸着物2に適した吸着のための真空度を実現することができる。
【0066】
<実施の形態3>
<構成>
本実施の形態3にかかる真空吸着保持装置の構成図を図5に示す。実施の形態1と同様の構成については、同符合を付し詳細な説明を省略する。
【0067】
図5に示すように真空吸着保持装置102では、吸着路12に接続される真空経路は3つに分岐しており、実施の形態1における図1に加えて、第3レギュレータ18および圧力センサ10を備えた第3真空経路19が、切替バルブ5に接続されている。なお、本実施の形態3では、真空経路が3つの場合を示しているが、さらに分岐数が増える場合であってもよい。
【0068】
さらに、切替バルブ5の切替動作を制御する制御部15に接続された、項目特性評価部17が備えられる。その他の構成については、図1と同様のため詳細な説明を省略する。
【0069】
<動作>
次に、実施の形態3に示す真空吸着保持装置102の動作手順について説明する。
【0070】
実施の形態1における動作と同様のフローとなるが(図3参照)、制御部15における制御方法が異なる。
【0071】
すなわち、図3のステップS3における、被吸着物2をチャックステージ3吸着面に吸着させるための真空度は、第3真空経路19を含めた3つの経路から選択するものとなる。よって、あらかじめ設定できる真空度の種類が増え、より適切な真空度を選択することができるようになる。真空度の設定は、例えば実施する試験項目に応じて行う。
【0072】
さらに、制御部15に接続された項目特性評価部17において、特性試験における試験項目ごとに、被吸着物2に関する所定の情報がその試験の結果に及ぼす影響の度合い(寄与度)について評価される。当該評価結果は制御部15に参照される。
【0073】
項目特性評価部17においては、各試験項目の実施条件等が記憶されており、被吸着物2に関する所定の情報をこれらと比較することで、上記評価を行う。同じ所定の情報でも、試験項目における実施条件で例えば測定値のスケーリングが異なることにより、測定値における影響の度合い(寄与度)も異なってくる。
【0074】
ここで(電気的)特性試験における試験項目とは、被吸着物2の順方向および逆方向の電圧測定、同電流の測定、耐圧リーク測定等の個々の測定項目をいう。
【0075】
制御部15では、上記の評価結果を参照して、被吸着物2を吸着するための真空度を切替バルブ5を切り替えて選択する。
【0076】
具体的には、被吸着物2としてダイオードを用いる場合、接触抵抗依存度が低いことを示す所定の情報が参照されても、どの程度真空度を下げた場合に、実施する試験項目における測定値に影響を与えるレベルとなるかまで評価する必要がある。当該評価を項目特性評価部17で行うことで、測定値に影響のない範囲で真空度を適切に調節することができる。
【0077】
例えば、ダイオードの定電流印加時の順方向電圧を測定する試験項目で、接触抵抗の測定値に対する影響が十分小さい範囲内で、真空度を低く設定することができる。
【0078】
被吸着物2としてIGBTを用いる場合には、接触抵抗依存度が高いことを示す所定の情報が参照されても、どの程度真空度を上げた場合に、発生するIGBTの歪みが測定値に影響を与えるレベルとなるかまで評価する必要がある。当該評価を項目特性評価部17で行うことで、測定値に影響のない範囲で真空度を適切に調節することができる。
【0079】
例えば、IGBTの電界強度を測定する場合を考える。半導体ウエハ厚を薄くすると歪み強度が低下し、電界強度が増加する。よって薄厚の半導体ウエハでは、IGBTであってもその歪みが問題になることがある。
【0080】
IGBTの電界強度を測定する試験項目で、IGBTの歪みの測定値に対する影響が十分小さい範囲内で、真空度を高く設定することができる。この場合、設置面にP型層が形成されていることで耐圧が低下(電界強度が低下)し、歪みによる電界強度の局所的な増加は緩和され、測定値に対する影響も抑制される。
【0081】
上記のようにして、被吸着物2に関する所定の情報を考慮しつつ、例えば、逆方向の耐圧リーク測定では、真空度を下げて実施したり、接触抵抗が影響する低電流密度の順方向測定では、真空度を上げて実施したりすることができる。
【0082】
<変形例>
本実施の形態3にかかる真空吸着保持装置の変形例を図6に示す。図4および図5と同様の構成については、同符合を付し詳細な説明を省略する。
【0083】
図6に示すように真空吸着保持装置103では、吸着路12に接続される真空経路はひとつであり、実施の形態1におけるような分岐はない。
【0084】
次に、真空吸着保持装置103の動作手順について説明する。
【0085】
実施の形態1における動作と同様のフローとなるが(図3参照)、制御部20における制御方法が異なる。
【0086】
すなわち、入力部16に被吸着物2の品種が入力されると、制御部20では、被吸着物2に関する所定の情報と、項目特性評価部17において特性試験における試験項目ごとに評価した評価結果とに応じて、第2レギュレータ7における設定真空度を自動的に制御する。項目特性評価部17においては、各試験項目の実施条件等が記憶されており、被吸着物2に関する所定の情報をこれらと比較することで、上記評価を行う。
【0087】
経路中の内部真空度は、圧力センサ10における実測値を参照し、設定真空度に近づくように調節される。
【0088】
<効果>
本発明にかかる実施の形態によれば、真空吸着保持装置において、被吸着物2に対する特性試験における、被吸着物2の所定の情報の寄与度を評価する評価部としての項目特性評価部17をさらに備え、制御部15が、項目特性評価部17における評価結果に応じて、真空度を自動的に制御することで、特性試験の試験項目によって真空吸着における真空度を制御できるため、さらに被吸着物2の不良率を低減することができる。
【0089】
また、真空経路の数を増やすことで、より自由度の高い真空度制御を可能とすることもできる。
【0090】
なお本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0091】
2 被吸着物、3 チャックステージ、4 真空源、5 切替バルブ、6 第1レギュレータ、7 第2レギュレータ、8 第1真空経路、9 第2真空経路、10 圧力センサ、11 吸着溝、12 吸着路、13 吸着口、15,20 制御部、16 入力部、17 項目特性評価部、18 第3レギュレータ、19 第3真空経路、21 記憶部、100〜103 真空吸着保持装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着物を真空吸着により吸着面に吸着して保持させる、チャックステージと、
前記被吸着物に関する所定の情報を付与されることにより、前記所定の情報に応じて、前記チャックステージに吸着させるための真空度を自動的に制御する制御部とを備えることを特徴とする、
真空吸着保持装置。
【請求項2】
前記制御部が、前記被吸着物に関する所定の情報である性質に応じて、前記真空度を自動的に制御することを特徴とする、
請求項1に記載の真空吸着保持装置。
【請求項3】
前記被吸着物に関する所定の情報である品種と、当該被吸着物に関する所定の情報である性質とを関連づけて記憶した、記憶部をさらに備え、
前記制御部が、前記品種に対応する前記性質を前記記憶部から参照し、それに応じて前記真空度を自動的に制御することを特徴とする、
請求項1または2に記載の真空吸着保持装置。
【請求項4】
前記被吸着物に対する特性試験における、前記被吸着物の前記所定の情報の寄与度を評価する評価部をさらに備え、
前記制御部が、前記評価部における評価結果に応じて、前記真空度を自動的に制御することを特徴とする、
請求項1〜3のいずれかに記載の真空吸着保持装置。
【請求項5】
前記チャックステージ吸着面に、内部真空度が互いに異なる複数の経路に通じる吸着口をさらに備え、
前記制御部が、前記被吸着物に関する所定の情報に応じて前記吸着口に通じる前記経路を切り替えることにより、前記真空度を自動的に制御することを特徴とする、
請求項1〜4のいずれかに記載の真空吸着保持装置。
【請求項6】
前記チャックステージ吸着面に、1つの経路に通じる吸着口をさらに備え、
前記1つの経路において、当該経路の内部真空度を調節するレギュレータをさらに備え、
前記制御部が、前記被吸着物に関する所定の情報に応じて前記レギュレータを制御することにより、前記真空度を自動的に制御することを特徴とする、
請求項1〜4のいずれかに記載の真空吸着保持装置。
【請求項7】
(a)被吸着物を、真空吸着によりチャックステージ吸着面に吸着して保持させる工程と、
(b)前記被吸着物に関する所定の情報を付与されることにより、前記所定の情報に応じて、前記チャックステージに吸着させるための真空度を自動的に制御する工程とを備えることを特徴とする、
真空吸着保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−89793(P2013−89793A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229519(P2011−229519)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】