説明

真空蒸着システムのためのインジェクター

【課題】蒸発した材料の堆積の均一性、特にインジェクターの軸に沿っての均一性を改善することにある。
【解決手段】 本発明は、真空蒸着システムのためのインジェクターに関し、該インジェクターは、真空蒸発源からの蒸発した材料を受けるのに適したインジェクション・ダクト、および蒸発した材料を真空蒸着室内に放射するための複数のノズルを備えたディフューザーを備えており、各ノズルは、前記インジェクション・ダクトを前記蒸着室に連結するのに適したチャンネルを備えている。本発明によれば、前記ディフューザーは、空間的に変化があるノズル配置を有している。本発明はまた、インジェクターを較正する方法、インジェクターのディフューザーを製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着システムのためのインジェクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
公知の真空蒸着システムは、大サイズ基板またはパネルに亘って薄膜構造を製造するために使用される。例えば、このようなシステムは、例えばCIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレン)太陽電池またはOLED(有機発光デバイス)ダイオードの蒸着に使用される。真空蒸着システムは、通常、真空蒸着室に連結された蒸発源を備えている。蒸発源は、材料を蒸発または昇華させ、気相状態で真空蒸着室に移送する。特に、この真空蒸発源は、水平型トップダウンまたはボトムアップ・ラインシステムにおけるガラス基板のセレン化のためのセレンの蒸発に使用される。真空蒸着室は、蒸発した材料により被覆されるべき基板を受け、したがって、パネルを作るのに適している。異なった室形状は、室内に配置された単一基板または複数基板上への堆積を可能とする。基板は、ガラスシートのような硬質のものとしたり、金属シートやプラスティックシートのような可撓性のものとすることができる。基板が可撓性ものであるとき、この真空蒸着システムは、ロール−ロール処理に適合できる。
【0003】
公知の真空蒸着システムは、また、蒸発源に接続され、基板の前面に配置されたインジェクターを備えている。このインジェクターは、蒸発した材料を、開口またはノズルを介して大面積に亘って放射可能である。インジェクターの形状は、被覆されるべき基板のサイズおよび形状による。大面積矩形平坦基板のために、インジェクターは、長手方向に延びるインジェクターダクトを備える。従来技術のインジェクターは、等間隔で配置され、長手方向軸に沿って配列された複数の同一のノズルを備えている。インジェクターダクトの長さは、少なくとも基板の長さまたは幅の大きさである。
【0004】
図1は、蒸着システムと基板(1)を模式的に示した平面図である。この蒸着システムは、蒸発源(2)を備え、この蒸発源(2)はインジェクター(3)に接続されている。真空蒸着室は示されていない。長手方向インジェクター(3)は、該インジェクター(3)の長手方向軸(X)に対して直角な方向(Y)において、インジェクター(3)と基板(1)の間での相対的な移動を行わさせる機械的装置との組み合わせにおいて使用される。蒸着中、基板(1)またはインジェクター(3)は、インジェクター(3)の長手方向軸(X)に直交する方向(Y)に沿って移動する。この構造は、全基板表面に亘っての蒸発した材料の蒸着を可能とする。
【0005】
図2は、図1に示された蒸着システムの縦断面図を模式的に示す。この蒸着システムは、真空蒸着室(5)内のインジェクター(3)のダクトに連結された蒸発源(2)を備えている。このインジェクターは、その長手方向軸に沿って延びるディフューザー(4)を備えている。蒸着材料により被覆すべき基板(1)は、真空蒸着室(5)内に配置されている。トップダウン構造においては、インジェクター(3)は、蒸着層で覆うべき基板(1)の上方に位置し、インジェクター(3)と基板(1)の間の間隔は50mm内外である。しかし、蒸発されるべき材料および予想される蒸着量によれば、インジェクターと基板の間の間隔は、変えることができる。基板(1)は、同一平面上であって、インジェクター(3)の長手方向軸(X)に平行なローラー(6a,6b)上に配置される。長手方向インジェクター(3)は、蒸発源(2)からの蒸発した材料を前記インジェクターの一端の入口開口(図示せず)を介して受ける。ディフューザー(4)は、前記蒸発した材料を該ディフューザーの長さに沿って基板(1)上に放射する。
【0006】
薄膜蒸着プロセス、例えば半導体、平板ディスプレー、有機発光デバイス、太陽電池の製造にとって最も重要なことは、蒸着の均一性である。しかしながら、基板の表面を横切って高い均一性の蒸着を得ることは、従来技術の真空蒸着システムを使用することの困難性、特に、基板サイズが大きくなりがちであるということにとどまる。特に、ディフューザーに平行な長手方向軸Xに沿う蒸着の均一性を得ることは、後に詳述するいくつかのパラメーターを考慮すると困難である。
【0007】
また、いくらかの蒸発した材料は、基板上に蒸着せず、むしろ蒸着室内に放射し、最後にはこの蒸着室の壁上に堆積される。特に、ディフューザーの先端部分において放射した材料の大部分がロスとなると信じられている。従って、従来技術の蒸着システムにおける蒸発された材料の放射が、材料の重要なロスを導く。現在、平均蒸着量の限度は、約85%である。
【0008】
また、真空蒸着システムにおいて使用されるセレンまたは硫黄のような蒸発した材料は、腐食する。ディフューザーは、これらの材料で腐食される。この腐食の結果、ノズルの形状が変えられ、これにより、時間とともに、放射パターンが変えられる。したがって、従来技術のディフューザーはまた、長期にわたる放射プロファイルの反復性の問題を呈する。
【0009】
加えて、蒸着プロセス中、蒸発した材料の一部が、ノズルの内面上で腐敗する。この腐敗した材料は、ノズルの出口開口を閉塞する。真空蒸着装置における単一のノズル開口の閉塞は、基板上に堆積される材料の厚さおよび/または組成の均一性を損なう。この場合、ノズルの洗浄が必要となる。
【0010】
また、同一の蒸着装置を、異なるタイプの応用のために、または種々の寸法を持つ異なった基板のために使用することができる。応用によっては、時々、ディフューザーは、最適な数のノズル出口開口を有する他のディフューザー、最適なノズル位置、構造および/または処理量を有する他のディフューザーと交換する必要がある。
【0011】
このディフューザーの洗浄または交換作業は、通常、真空蒸着装置の停止を必要とする。しかしながら、各処理工程の停止時間は、製造コストの引き上げをもたらす。したがって、各処理ツールの停止時間は、厳密に制御され、そして最小にされなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的の一つは、蒸発した材料の蒸着の均一性、特にインジェクターの軸に沿っての均一性を改善することにある。この蒸着の均一性は、最も厚い最高値Thmaxと最も薄い最低値Thminの間で変動する蒸着された層の厚さで相対的に決定され、次の式に比例する:
(Thmax−Thmin)/(Thmax+Thmin
この均一性は、可能な限り高くなければならない。
【0013】
本発明の他の目的は、蒸着システムの堆積量を増大することにある。
本発明の他の目的は、蒸着プロセスの長期にわたる反復性の改善にある。
本発明の他の副次的な目的は、ディフューザーの洗浄または交換のために必要な真空蒸着装置の停止を減らすことにある。
本発明の他の副次的な目的は、異なった応用のために真空蒸着装置のディフューザーの汎用性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明は、真空蒸着システムのためのインジェクターを提供し、該インジェクターは、真空蒸発源からの蒸発された材料を受けるのに適したインジェクション・ダクト、および蒸発された材料を真空蒸着室内に放射するための複数のノズルを備えたディフューザーを備えており、各ノズルは、前記インジェクション・ダクトを前記蒸着室に連結するのに適したチャンネルを備えている。本発明によれば、前記ディフューザーは、空間的に変化があるノズル配置を有している。
【0015】
本発明の種々のアスペクトによれば、空間的に変化するノズル配置は、以下を示す:
− 前記ディフューザーは、異なったチャンネル構造を有する少なくとも2つのノズルを備えている、
および/または
− 前記ディフューザーは、長手方向軸に沿って配列された少なくとも3つのノズルを備え、2つの隣り合ったノズルの間の間隔が異なっている。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記ノズルの少なくとも一つは、少なくとも一つの取り外し可能なディフューザー挿入体を備え、前記ディフューザーは、ディフューザー挿入体受け手段、および前記受け手段に装着されるのに適した取付手段を備える前記ディフューザー挿入体を備える。
【0017】
本発明の好ましい実施形態の異なったアスペクトによれば:
− 前記ディフューザー挿入体は、少なくとも前記インジェクション・ダクトの内側に現れるチャンネルの一端における入口開口、および少なくとも前記インジェクション・ダクトの外側に現れるチャンネルの他端における出口開口を備えており;
− 前記ディフューザーは、ノズルを閉鎖するのに適した少なくとも一つのディフューザー挿入体を備え;
− 前記ディフューザー受け手段は雌ネジを備えており、そして前記ディフューザー挿入体取付手段は前記ディフューザー雌ネジに係合される雄ネジを備え;
− 前記ディフューザー受け手段は雄ネジを備えており、そして前記ディフューザー挿入体取付手段は前記ディフューザー雄ネジに係合される雌ネジを備えている。
【0018】
本発明はまた、真空蒸発源、インジェクターおよび真空蒸着室を備えた真空蒸着システムに関し、前記インジェクターは、真空蒸発源からの蒸発した材料を受けるのに適したインジェクション・ダクトを備え、またディフューザーは、前記蒸発した材料を蒸着室内に放射する複数のノズルを備え、各ノズルは、前記インジェクション・ダクトを前記蒸着室に接続するのに適したチャンネルを備えており、ここで、前記ディフューザーは、空間的に異なったノズル配置を有している。
【0019】
本発明はまた、インジェクターを較正する方法に関し、この方法は、次のステップを備える;
(a)初期配置に従い長手方向軸に沿って配列された複数のノズルを備えるディフューザーを配列し;
(b)前記初期配置にあるディフューザーを用いて、蒸発した材料を基板上へ蒸着し;
(c)前記蒸着された材料の均一性プロファイルを測定し;
(d)蒸着された材料の非均一性を減じるため、前記測定した均一性プロファイルの関数として前記ノズルの空間配置を変更する。
【0020】
前記方法は、均一性プロファイルが満足の行くものとなるまで、ステップ(b)〜(d)を反復して実行することができる。有利には、ステップ(b)〜(d)の反復は、±7%またはそれより良好な所定の均一性が得られるまで、実行される。
前記ノズルの空間的配置の変更は以下を含む;
− 少なくとも一つのノズルチャンネルの構造の変更、
または
− 二つのチャンネル間のピッチの変更。
【0021】
好ましい変形によれば、前記ノズルの少なくとも一つが、少なくとも一つの取り外し可能なディフューザー挿入体を備え、そして前記ノズルの空間的配置の変更は、取り外し可能なディフューザー挿入体の、他の取り外し可能なディフューザー挿入体での交換により成り立つ。
【0022】
有利には、本発明の方法の好ましい実施形態によれば、前記ノズルのそれぞれは、上記された一つの取り外し可能なディフューザー挿入体を備え、これにより、前記ノズルの空間的配置変更は、容易になり、取り外し可能なディフューザー挿入体を、他の取り外し可能なディフューザー挿入体で交換するだけで成り立つ。
【0023】
本発明はまた、真空蒸着システムのためのインジェクターのためのディフューザーを製造する方法に関し、この方法は、次のステップを備える;
(e)真空蒸着システムのためのインジェクターを製造し、前記インジェクターは、長手方向軸に沿って配列された少なくとも複数のディフューザー挿入体受け手段を備えるディフューザーを備え、
(f)前記ディフューザーの前記受け手段に係合されるのに適した取付手段を備える取り外し可能なディフューザー挿入体を製造し;
(g)前記取り外し可能なディフューザー挿入体を前記ディフューザーに組み込む。
【0024】
本発明のさらに他のアスペクトは、真空蒸着システムのためのインジェクターのためのディフューザーを製造する方法に関し、この方法は、次のステップを備える;
(h)インジェクション・ダクトおよび長手方向軸に沿って配列された少なくとも複数のディフューザー挿入体受け手段を備えるディフューザーを備えるインジェクターを準備し;
(i)放射流モデルを用い、ディフューザー挿入体の放射プロファイルをモデリングし;
(j)前記ディフューザーの長手方向軸に沿う各挿入体のそれぞれの位置の関数として一組の複数の挿入体の放射プロファイルを補正し;
(k)望ましい放射プロファイルをモデル化された一組のディフューザー挿入体の放射プロファイルと比較し;
(l)望ましい放射プロファイルに該当するディフューザー挿入体配置を決定し;
(m)前記ディフューザーの前記受け手段に係合されるのに適した取付手段を備えるディフューザー挿入体を、該当する受け手段に挿入する。
【0025】
本発明は、特に、CIGS型太陽電池のセレン化ステップを実行する真空蒸着システムに適用される。
【0026】
本発明はまた、以下の記述において開示され、単独でまたはいかなる可能な技術的組み合わせに従って考慮される特徴に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
この記述は、単に限定しない説明の目的のために与えられるものであり、添付された図面を参照すると、より良く理解されるであろう。
【図1】蒸着システムと蒸発した材料により被覆されるべき基板の模式的な平面図である;
【図2】図1の蒸着システムの長手方向断面に沿う模式的な側面図である;
【図3】インジェクターの長手方向軸に沿う基板上の位置の関数としての蒸着層の厚みの測定値を示す;
【図4】蒸着システムと被覆されるべき基板の模式的な底面図である;
【図5A】および
【図5B】異なったチャンネル構造を有する異なったノズルを模式的に示す;
【図6】本発明の実施形態によるディフューザーに取り付けられたディフューザー挿入体を模式的に示す;
【図7】本発明の実施形態による、被覆されるべき基板に関しての挿入体の位置配列を示す;
【図8】本発明の実施形態によるインジェクターを模式的に示す部分破断図である;
【図9】本発明の実施形態による取り外し可能なディフューザー挿入体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図3は、図1および図2に示されたような従来技術の真空蒸着システムにより得られた蒸着層の均一性プロファイルを示す。更に正確には、図3の均一性プロファイルは、ガラス製基板(1)上の位置の関数としてのセレン層の厚さをインジェクター(3)の長手方向軸Xに沿って測定することによって得られる。ガラス製基板(1)の全体的な寸法は、60×40cmである。位置X=0は、インジェクター(3)の入口開口(3a)に面した基板の縁に相当する。位置X=60cmは、インジェクター(3)の対向端(3b)に面した基板の縁に相当する。幾つかの観察が図3の均一性プロファイルから導き出される。第1に、蒸着されたセレンの厚さは、基板の2つの縁、すなわち、それぞれ位置X=0および位置X=60cmで同様(2.3μm内外)である。しかしながら、この蒸着は、基板を横切って明らかに非均一である。このプロファイルは、基板の中央(X〜30cm)で局地的にピーク厚を示し、そして中心から離れた箇所で2つの局所的最小値を示す。さらに、このプロファイルは、基板の中心を通る軸Yに関して対称ではない。非均一性は、最小厚、最大厚および平均厚の間の統計的な差違をもたらす。厚さにおける非均一性は、図3において約±8.9%になる。
【0029】
図4は、本発明の実施形態による蒸着システムおよび基板(1)を模式的に示した平面図である。蒸発源(2)は、連結管(8)および連結フランジ(9)を介してインジェクター(3)に連結されている。インジェクター(3)は、長手方向軸に沿って延びるディフューザー(4)を備えている。蒸着材料により被覆されるべき基板(1)は、真空蒸着室(5)内に配置されている。真空蒸着室は、幅2Vを有している。ディフューザー(4)は、長さWを有している。基板(1)は、幅Dを有している。ディフューザーの長さWは、基板幅Dよりわずかに長い。真空蒸着室の幅2Vは、ディフューザー(4)の長さWより長い。ある形態においては、処理量を上げるため、真空蒸着室内に幾つかの基板を並べて配置することができる。例えば、単一のディフューザー(4)からの蒸発した蒸着材料を同時に受けるために、D/2の幅を有する2つの基板を互いに隣接して配置することができる。
【0030】
蒸着システムは、図4に示されている。蒸発源(2)は、材料を、その材料の蒸発温度または昇華温度以上で蒸発または昇華させる。セレンの温度は、350℃内外である。インジェクター(3)は、蒸発した材料がインジェクターの内側に凝集することを防止するため加熱される。できるなら、蒸着室(5)の壁も加熱する。したがって、基板(1)は、インジェクター(3)からの熱放射および蒸着室(5)の他のいかなる高温部分からの熱放射を受ける。しかしながら、基板が受ける熱放射は、基板の表面を横切って均一には分布されていない。この不均一な加熱は、基板温度における空間的変動をもたらす。基板温度における非均一性は測定可能である。基板上において測定された温度は、通常、蒸着室の中心を通り、長手方向軸Xに対して直角な軸Yに対して対称ではない。その結果、蒸発した材料は、比較的温度が低い場所に凝集する傾向があり、一方で、温度が高い場所に蒸着した材料は、より容易に再拡散または再蒸発しがちである。
【0031】
他のアスペクトは、図4に示したインジェクター(3)の構造に関する。インジェクション・ダクトは、その長手方向軸の一端(3a)における入口開口から蒸発された材料を受ける。しかしながら、材料の流れは、インジェクター(3)の入口開口(3a)から対向端(3b)に向かっての圧力低下により、インジェクターの軸に沿って一定ではない。
【0032】
換言すると、インジェクター構造に関係する基板温度の空間的変化は、インジェクターの長手方向軸に沿う基板(1)上の蒸発した材料の非均一な堆積をもたらす。したがって、図3に示された厚さのプロファイルは、非対称放射と非対称な基板温度の複合的な影響によるものと思われる。
【0033】
本発明のアスペクトによれば、ディフューザー(4)は、基板上に蒸着された材料の厚さの非均一性を減じるため、異なった構造のノズルおよび/またはインジェクターの長手方向軸に沿う空間的に非均一な構造のノズルを備えている。さらに正確には、ディフューザー(4)は、異なったチャンネル構造を有する少なくとも2つのノズル、または長手方向軸に沿って配列され、隣り合った2つのノズルの間の間隔が異なった少なくとも3つのノズルを備えている。
【0034】
図5Aは、本発明の実施形態によるディフューザー(4)を模式的に示した長手方向断面図である。インジェクター(3)の形状は、環状断面と長手方向軸Xを備えた中空シリンダーである。ディフューザー(4)は、インジェクター本体に組み入れられることが出来る。ディフューザー(4)は、別個の機械的部品とし、インジェクター(3)の本体における開口に対して取り付けられるようにしても良い。ディフューザー(4)は、長手方向軸(X)に沿って配列された複数のノズル(9a,9b,・・・・,9j)を備えている。各ノズル(9a,9b,・・・・,9j)は、通常、チャンネル(13)を備えており、入口開口(11)はインジェクション・ダクトの内部に現れており、出口開口(12)はインジェクション・ダクトの外部に現れている。従来技術のディフューザーは、通常、長手方向軸に沿って同一構造のノズルを隣り合うノズルが一定のピッチとなるようにして周期的に配列したものである。
【0035】
本発明の実施形態によれば、ディフューザーの異なったノズルは、構造上の異なった特徴を有する。図5Aは、異なったタイプの挿入体を、ノズルを構成するようにディフューザー受け手段に挿入した状態で模式的に示した。例えば、挿入体およびノズル(9a)ならびに挿入体およびノズル(9b)は、直線状チャンネル、一つの入口開口および一つの出口開口を有している。しかしながら、ノズル(9b)のチャンネルの直径は、ノズル(9a)のチャンネルの直径より大きい。従って、ノズル(9b)は、ノズル(9a)より大きな放射流を生成する。異なったノズルは、異なった出口開口サイズ、および/またはチャンネル、入口開口および/または出口開口の異なった形状を有していてもよい。一つの挿入体およびノズル(9a)は、円形水平断面を持つ円柱状チャンネルを有し;他の挿入体およびノズル(9k)は、そのチャンネルが円錐状になっていてもよい。一つのノズルは、その入口開口および/または出口開口が斜めになっていてもよい。ディフューザー(4)は、異なった長さのチャンネルを有する異なったノズルを備えていてもよい。
【0036】
他の挿入体およびノズル(9f)は、単一の入口開口を複数の出口開口に連結するチャンネルを備えている。反対に、他のノズルは、複数の入口開口を単一の出口開口に連結するチャンネルを備えていてもよい。他のノズルは、複数のチャンネルを備えていてもよく、このとき、各チャンネルは、一つまたは複数の開口に連結している。実施形態によれば、挿入体およびノズル(9i)は、長手方向軸Xに直交する中心軸を有する円柱状チャンネルを備え、そして前記ノズルは複数の横方向出口開口を備えている。他の実施形態によれば、別の挿入体およびノズル(9d、9g)は、長手方向軸に対して角度をなしている異なったチャンネル軸を有するチャンネルを備えている。特別な実施形態においては、チャンネル軸の角度は、ディフューザーの長手方向軸に沿うノズル位置の関数として変動する。例えば、ディフューザー(4)の両端におけるノズル(9d、9e、9g、および9h)は、蒸着室の中心に向かって傾いていてもよい。
【0037】
図5Bは、ディフューザー受け手段に挿入された他のタイプのノズル(9m)を模式的に示している。ノズル(9m)は、直線状チャンネル、放射状入口開口および出口開口を備えている。
【0038】
異なったノズル構造を持つディフューザー構造は、蒸着材料の非均一性を減じるため、ディフューザーを通る蒸発した材料の流れを変更することができる。このディフューザー構造は、温度における非均一性および/または蒸発された材料の流れにおける非均一性を補償することができる。ノズルの構成および配置はまた、蒸着室の壁(5)上に堆積される材料のロスを減じることができる。
【0039】
本発明の他のアスペクトによれば、隣り合ったノズルの間の間隔は均一ではない。そのため、ディフューザーはノズル位置の間の間隔を予め決定したものとして製造することができる。好ましい実施形態によれば、ディフューザーは等間隔のノズル位置を持つが、いくつかのノズルは閉鎖される。エンドキャップを持つ独特な挿入体(9c)は、ノズルの局所的な閉鎖を可能にするために使用され得る。図7は、基板およびディフューザー構造を示す平面図である。ディフューザーは、ディフューザーの長さ方向に沿って配置された数十のノズルを備えている。各ノズルは、黒い四角により表されているか、2つの異なるノズル構造を持つノズルに該当する円盤によって表されている。矢印は、基板の縁の近傍の蒸発した材料の蒸着を変更するため閉鎖される個別のエンドキャップノズルを示す。
【0040】
本発明の好ましい実施形態は、図8および9を参照して以下説明される。図8は、ディフューザー(4)を持つインジェクター(3)を部分的に切り欠いて模式的に示している。インジェクター(3)は、円形断面を持つ円筒であるインジェクション・ダクトを備えている。ディフューザー(4)は、複数の貫通孔(14)を備えている。好ましくは、各孔(14)は、ネジ付き部を備えている。この実施形態によれば、ディフューザーは、各孔(14)に装着された取り外し可能なディフューザー挿入体(9)を備えている。ディフューザー挿入体(9)が孔(14)内に挿入されたとき、それはノズルを構成する。
【0041】
図9は、本発明の好ましい実施形態による取り外し可能なディフューザー挿入体(9)の斜視図を示す。ディフューザー挿入体(9)はおおよそ円筒形形状を有する。ディフューザー挿入体(9)は、複数の入口開口(11a,11b,11c)を出口開口(12)に接続する内部チャンネル(13)を備えている。ディフューザー挿入体(9)は、雄ネジ(15)を備えている。ディフューザー挿入体は、一般的なレンチを用いて前記ディフューザー挿入体をディフューザー孔(14)にねじ込むための六角形フランジ状のヘッドを備えている。従って、挿入体(9)は、ディフューザー(4)に対して容易に挿入され、そして取り外され得る。同一のネジ付き孔(14)を持つディフューザー(4)は、図5A−5Bを参照して上で詳細に説明した種々の構造的特徴を有するディフューザー挿入体を受けるのに適している。
【0042】
蒸発した材料がディフューザー挿入体(9)の腐食を引き起こした場合には、前記腐食されたディフューザー挿入体は、新しいディフューザー挿入体で容易に交換される。このディフューザー挿入体(9)の交換は、ディフューザー(4)またはインジェクター(3)全体の交換より安価ですむ。
【0043】
図5Aに示された特別なディフューザー挿入体(9c)は、エンドキャップを備えており、従って、いかなる蒸発した材料の放射も妨げられる。このエンドキャップ挿入体は、ディフューザー孔(14)を閉鎖するためのプラグとして機能する。この複数のエンドキャップ挿入体は、いくつかのディフューザー孔に差し込まれ得る(チャンネルが通常開放しているディフューザー挿入体が他のディフューザー孔に挿入されている間に)。従って、ディフューザーを通って蒸発した材料の空間的な分布は、厳密に制御され得る。例えば、図3に示されているような蒸着プロファイルを生じる蒸着システムにおいては、蒸着厚における局所的ピークを減じるため、ディフューザーの中心、両端近傍におけるエンドキャップ挿入体を閉鎖してもよい。このエンドキャップ挿入体はまた、基板の実寸法に対しての機能しているディフューザーの長さを調整するために使用できる。これは、標準ディフューザーの製造、および前記ディフューザーを各応用のために特注することを可能にする。
【0044】
図6に示されたディフューザー挿入体の代替実施形態によれば、ディフューザー(4)は、ディフューザー挿入体を受ける雄ネジ部を備え、そしてディフューザー挿入体(9k’)は雌ネジ部を備える。
【0045】
本発明の他の実施形態によれば、ディフューザー挿入体の空間的配置は、前記ディフューザー(4)の長手方向軸に沿って様々である。例えば、ノズルは、予想される局所的な放射流の関数として変動する密集状態を背景にして実施され、開口の高い密集状態はより高い放射流に相当する。特別な実施形態によれば、エンドキャップディフューザー挿入体が、チャンネルが開放した隣接するディフューザー挿入体の間のピッチを変更するために使用され得る。
【0046】
本発明のアスペクトによれば、ディフューザーは、インジェクターとは別の、ディフューザー挿入体の予め定められた空間的配置を持つ機械部品である。好ましくは、インジェクターは、クロムメッキされたまたは電解研磨されたステンレススチールで作られている。ディフューザー挿入体は、高温で蒸発した材料による腐食に持ちこたえられる材料で作られている。ディフューザー挿入体は、好ましくはグラファイトまたはセラミックで作られている。
【0047】
本発明の他のアスペクトは、インジェクターの較正方法に関するものである。第1のステップにおいて、ディフューザーは、初期配置、例えば同一のノズルまたはディフューザー挿入体の一定ピッチに従って配置される。基板上における蒸発した材料の堆積は、この初期配置のディフューザーを用いて行われる。次に、蒸着材料の均一性プロファイルが測定される。測定された非均一性に基づき、一つまたはいくつかのディフューザー挿入体が、他のノズルおよび/またはディフューザー挿入体またはエンドキャップディフューザー挿入体で交換される。必要ならば、堆積および測定のステップは、満足の均一性が得られるまで繰り返される。例えば、非均一性の最大値を規定する数値は、作動条件を決定するために使用できる。標準非均一性は、ディフューザー挿入体の交換が必要になったときに、長時間にわたっての蒸着条件の反復性を制御し、および決定するために使用することができる。
【0048】
本発明のさらに他のアスペクトは、ディフューザーの製造方法に関する。第1のステップにおいて、ディフューザー挿入体の放射プロファイルが、放射流モデルを用いてモデル化される。第2のステップにおいて、複数個からなる一組の挿入体の放射プロファイルは、前記ディフューザー(4)の長手方向軸に沿う各挿入体のそれぞれの位置の関数として補正される。他のステップにおいては、望ましい放射プロファイルは一組の挿入体のモデル化された放射プロファイルと比較される。
【0049】
本発明は、薄膜CIGS太陽電池のためのセレン層の蒸着方法に適用される。インジェクターは、特にカドミウム、テルル、亜鉛、リンまたはマグネシウムのような他の化学元素または材料の蒸着に使用できる。
【0050】
本発明は、インジェクター(3)の長手方向軸に沿って蒸着された材料の均一性を改善することができる。
本発明を用いれば、同一の蒸着装置を、異なるタイプの応用のため、あるいは種々の寸法を持った異なる基板のために使用できる。
【0051】
応用によって、ディフューザーおよび/またはディフューザー挿入体は、ノズル出口開口数、位置および/または処理量を最適にするため、交換することができる。ディフューザー挿入体の交換は迅速に行え、従って、真空蒸着装置の停止時間を最小に保つことができる。
本発明は、長期間にわたる、真空蒸着装置により蒸着される材料の均一性の反復性を改善する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空蒸着システムのためのインジェクター(3)であって、該インジェクターは、
・真空蒸発源(2)から蒸発した材料を受けるのに適したインジェクション・ダクト、および
・前記蒸発した材料を真空蒸着室(5)内に放射するための複数のノズルを備えたディフューザー(4)を備え、
各ノズルが、前記インジェクション・ダクトを前記蒸着室(5)に連結するのに適したチャンネル(13)を備えているインジェクター(3)において、
前記ディフューザーが、空間的に変化があるノズル配置を有していることを特徴とするインジェクター(3)。
【請求項2】
前記ディフューザーが、異なったチャンネル構造を有する少なくとも2つのノズルを備えている請求項1のインジェクター(3)。
【請求項3】
前記ディフューザーが、長手方向軸に沿って配列された少なくとも3つのノズルを備え、2つの隣り合ったノズルの間の間隔が異なっている請求項1または2のインジェクター(3)。
【請求項4】
前記ノズルの少なくとも一つが、少なくとも一つの取り外し可能なディフューザー挿入体(9)を備え、前記ディフューザー(4)は、ディフューザー挿入体受け手段、および前記受け手段に装着されるのに適した取付手段(15)を備える前記ディフューザー挿入体(9)を備えている請求項1〜3のいずれかのインジェクター(3)。
【請求項5】
前記ディフューザー挿入体(9)が、前記インジェクション・ダクトの内側に現れるチャンネルの一端における少なくとも一つの入口開口(11,11a,11b,11c)、および前記インジェクション・ダクトの外側に現れるチャンネルの他端における少なくとも一つの出口開口(12)を備えている請求項4のインジェクター(3)。
【請求項6】
前記ディフューザーが、ノズルを閉鎖するのに適した少なくとも一つのディフューザー挿入体(9c)を備えた請求項4のインジェクター(3)。
【請求項7】
前記ディフューザー(3)受け手段が雌ネジを備えており、そして前記ディフューザー挿入体(9)取付手段が前記ディフューザー雌ネジに係合される雄ネジ(15)を備えている請求項4〜6のいずれかのインジェクター(3)。
【請求項8】
前記ディフューザー(3)受け手段が雄ネジを備えており、そして前記ディフューザー挿入体(9)取付手段が前記ディフューザー雄ネジに係合される雌ネジを備えている請求項4〜6のいずれかのインジェクター(3)。
【請求項9】
真空蒸着源、請求項1〜8のいずれかのインジェクターおよび真空蒸着室を備えている真空蒸着システム。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかのインジェクターを較正する方法において、
(a)初期配置に従い長手方向軸に沿って配列された複数のノズルを備えるディフューザーを配列するステップ;
(b)前記初期配置にあるディフューザーを用いて、蒸発した材料を基板上へ蒸着するステップ;
(c)前記蒸着された材料の均一性プロファイルを測定するステップ;および
(d)蒸着された材料の非均一性を減じるため、前記測定した均一性プロファイルの関数として前記ノズルの空間配置を変更するステップ
を備えている方法。
【請求項11】
前記ステップ(b)〜(d)を反復して実行する請求項10の方法。
【請求項12】
前記ノズルの少なくとも一つが、少なくとも一つの取り外し可能なディフューザー挿入体を備え、そして前記ノズルの空間的配置の変更は、取り外し可能なディフューザー挿入体の、他の取り外し可能なディフューザー挿入体での交換により成り立つ請求項10または11の方法。
【請求項13】
真空蒸着システムのための、請求項1〜8のいずれかのインジェクターのためのディフューザーを製造する方法であって、
(e)真空蒸着システムのためのインジェクターを製造するステップ、ここで、前記インジェクターは、長手方向軸に沿って配列された少なくとも複数のディフューザー挿入体受け手段を備えるディフューザーを備え、
(f)前記ディフューザーの前記受け手段に係合されるのに適した取付手段を備える取り外し可能なディフューザー挿入体を製造するステップ;および
(g)前記取り外し可能なディフューザー挿入体を前記ディフューザーに組み込むステップ
を備えている方法。
【請求項14】
真空蒸着システムのためのインジェクターのためのディフューザーを製造する方法であって、
(h)インジェクション・ダクトおよび長手方向軸に沿って配列された少なくとも複数のディフューザー挿入体受け手段を備えるディフューザーを備えるインジェクターを準備するステップ;
(i)放射流モデルを用い、ディフューザー挿入体の放射プロファイルをモデリングするステップ;
(j)前記ディフューザーの長手方向軸に沿う各挿入体のそれぞれの位置の関数として一組の複数の挿入体の放射プロファイルを補正するステップ;
(k)望ましい放射プロファイルをモデル化された一組のディフューザー挿入体の放射プロファイルと比較するステップ;
(l)望ましい放射プロファイルに該当するディフューザー挿入体配置を決定するステップ;および
(m)前記ディフューザーの前記受け手段に係合されるのに適した取付手段を備えるディフューザー挿入体を、該当する受け手段に挿入するステップ
を備えている方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−241285(P2012−241285A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−112170(P2012−112170)
【出願日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【出願人】(511312698)
【Fターム(参考)】