説明

真空蒸着装置

【課題】タール状物質などの有害物質を含む化学合成物質の生成を排気側にて安価な構成にて抑制し得るガス排出手段を有する真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】基板Kを水平に配置し得るとともにその上方に当該基板を加熱する加熱装置21を有し且つ下方に原料ガスGを導入し得るガス供給口5が設けられた加熱室13を有して基板の下面に蒸着材料を蒸着させ得る熱CVD装置であって、上記加熱室に、ガス供給口5からの原料ガスを基板の下面に案内し得るガス案内用ダクト体24を設け、このガス案内用ダクト体の上端面と基板下面との間に隙間δを形成するとともに、基板の上方に当該基板の高さ位置を維持する基板高さ維持部材25を設け、上記加熱室の上壁部に真空ポンプ27を有するガス排出装置23を接続したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカーボンナノチューブの形成設備に設けられる真空蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CVD装置、ごみ焼却炉、内燃機関などの高温ガスの化学反応を利用する装置において排ガスが放出されるが、その排気過程で、タール、ダイオキシン、窒素酸化物などの有害物質を含む化学合成物質が発生する。
【0003】
例えば、排ガス中の有害物質を除去する方法としては、触媒により有害物質を分解する方法、フィルターにより有害物質を除去する方法、また排ガスに水噴霧などを行い急冷することにより有害物質が生成する温度領域を短時間で通過させる方法などがある。
【0004】
温度領域を短時間で通過させる方法として、具体的には、カーボンナノチューブなどのカーボンナノ構造物を製造する際に、タール状物質の生成温度領域(300〜600℃)の範囲に入らないように、300℃以下に予熱した反応ガス(アセチレン)を一気に600℃以上の反応室に送り込むようにした技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3962773号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、触媒を用いる場合には、触媒は貴金属で高価であるとともに資源に限りがあるという問題があり、フィルターを用いる場合には、フィルターに付着した有害物質を再処理する必要があるとともにその清掃や交換作業が必要になるという問題がある。
【0007】
さらに、上述した特許文献1においては、温度の調整により反応室内でのタール状物質の生成を抑制する方法が開示されているが、温度の調整を行うのに装置が高くつくという問題があり、できれば、排気側でタール状物質の生成を抑制するのが望ましい。
【0008】
例えば、排気側において、タール状物質の生成を抑制しようとすると、排気側で温度制御を行う必要があり、装置の製造コストが高くつくという問題がある。
そこで、本発明は、タール状物質などの有害物質を含む化学合成物質の生成を排気側にて安価な構成にて抑制し得るガス排出装置を有する真空蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る真空蒸着装置は、基板を水平に配置し得るとともにその上方に当該基板を加熱する加熱部材を有し且つ下方に原料ガスを導入し得るガス供給部が設けられた加熱室を有して基板の下面に蒸着材料を蒸着させ得る真空蒸着装置であって、
上記加熱室に、上記ガス供給部からの原料ガスを基板の下面に案内し得るガス案内体を設け、
このガス案内体の上端面と基板下面との間に隙間を形成するとともに、基板の上方に当該基板の高さ位置を維持する基板高さ維持部材を設け、
上記加熱室の上壁部に真空ポンプを有するガス排出手段を接続したものである。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る真空蒸着装置は、基板を水平に配置し得るとともにその上方に当該基板を加熱する加熱部材を有し且つ下方に原料ガスを導入し得るガス供給部が設けられた加熱室を有して基板の下面に蒸着材料を蒸着させ得る真空蒸着装置であって、
基板を水平に配置し得るとともにその上方に当該基板を加熱する加熱部材を有し且つ下方に原料ガスを導入し得るガス供給部が設けられた加熱室を有して基板の下面に蒸着材料を蒸着させ得る真空蒸着装置であって、
上記加熱室に、上記ガス供給部からの原料ガスを基板の下面に案内し得るガス案内体を設け、
このガス案内体の上端面と基板下面との間に隙間を形成するとともに、基板の上方に当該基板の浮き上がりを防止する基板浮上防止部材を配置し、
上記加熱室の上壁部に真空ポンプを有するガス排出手段を接続したものである。
【0011】
さらに、本発明の請求項3に係る真空蒸着装置は、請求項1または請求項2に記載の真空蒸着装置における加熱室がカーボンナノチューブの形成設備における熱化学気相蒸着用としたものである。
【発明の効果】
【0012】
上記構成によると、加熱室内のガスを真空ポンプにより排出する際に、基板とガス案内体との隙間からガスが吸引されるので、排気側のガスが希薄状態となり、ガス中に浮遊している分子同士の衝突が減少して高分子化が抑制される。例えば、ガス中に炭化水素ガスが含まれている場合には、炭素分子の高分子化が抑制され、したがってタール状物質の生成が抑制されることになる。すなわち、安価な構成で、排気側でのタール状物質などの有害物質を含む化学合成物質の生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に係る熱CVD装置の概略構成を示す模式的斜視図である。
【図2】同実施例1に係る熱CVD装置の要部を示す模式的斜視図である。
【図3】同熱CVD装置の加熱室内の要部を示す模式的側面図である。
【図4】本発明の実施例2に係る熱CVD装置の要部を示す模式的斜視図である。
【図5】同熱CVD装置の加熱室内の要部を示す模式的側面図である。
【図6】本発明の実施例3に係る熱CVD装置の要部を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る真空蒸着装置について説明する。
この真空蒸着装置を概略的に説明すると、基板を水平に配置し得るとともにその上方に当該基板を加熱する加熱部材を有し且つ下方に原料ガスを導入し得るガス供給部が設けられた加熱室を有して基板の下面に蒸着材料を蒸着させ得る真空蒸着装置であって、上記加熱室に、上記ガス供給部からの原料ガスを基板の下面に案内し得るガス案内体を設け、このガス案内体の上端面と基板下面との間に隙間を形成するとともに、基板の上方に当該基板の高さ位置を維持する基板高さ維持部材を設け、または基板の上方に当該基板の浮き上がりを防止する基板浮上防止部材を配置し、上記加熱室の上壁部に真空ポンプを有するガス排出手段を接続したものである。
【0015】
以下、この真空蒸着装置を具体的に示した実施例1〜実施例3を図面に基づき説明する。
【実施例1】
【0016】
この実施例1に係る真空蒸着装置は、カーボンナノチューブの形成設備におけるカーボンナノチューブ形成用の熱CVD装置(熱化学気相蒸着装置)として設けられるもので、以下、熱CVD装置と称して説明する。
【0017】
また、ここでは、カーボンナノチューブを形成する基板として、ステンレス製の薄鋼板、すなわちステンレス鋼板(薄板材の一例であり、例えば箔材の場合は20〜300μm程度の厚さのものが用いられ、ステンレス箔ということもできる。また、板材である場合には、300μm〜数mm程度の厚さのものが用いられる。)を用いた場合で、しかも、このステンレス鋼板としては、所定幅で長いもの、つまり帯状のものを用いた場合について説明する。したがって、このステンレス鋼板はロールに巻き付けられており、カーボンナノチューブの形成に際しては、このロールから引き出されて連続的にカーボンナノチューブが形成されるとともに、このカーボンナノチューブが形成されたステンレス鋼板は、やはり、ロールに巻き取るようにされている。すなわち、一方の巻出しロールからステンレス鋼板を引き出し、この引き出されたステンレス鋼板の表面にカーボンナノチューブを形成した後、このカーボンナノチューブが形成されたステンレス鋼板を他方の巻取りロールに巻き取るようにされている。
【0018】
以下、上述した帯状のステンレス鋼板(以下、主として、基板と称す)の表面に、カーボンナノチューブを形成するための熱CVD装置について説明する。
この熱CVD装置には、図1に示すように、炉本体2内にカーボンナノチューブを形成するための細長い処理用空間部が設けられて成る加熱炉1が具備されており、この炉本体2内に設けられた処理用空間部は、所定間隔おきに配置された区画壁3により、複数の、例えば5つの部屋に区画されて(仕切られて)いる。
【0019】
この炉本体2内には、ステンレス鋼板つまり基板Kが巻き取られた巻出しロール16が配置される基板供給室11と、この巻出しロール16から引き出された基板Kを導きその表面に前処理を施すための前処理室12と、この前処理室12で前処理が施された基板Kを導きその表面にカーボンナノチューブを形成するための加熱室13と、この加熱室13でカーボンナノチューブが形成された基板Kを導き後処理を施すための後処理室14と、この後処理室14で後処理が施された基板Kを巻き取るための巻取りロール17が配置された基板回収室(製品回収室ということもできる)15とが具備されている。なお、上記各ロール16,17の回転軸心は水平方向にされており、したがって加熱室13内に引き込まれる(案内される)基板Kは水平面内を移動するとともに、基板Kの表面にカーボンナノチューブを形成するようにされている。
【0020】
上記前処理室12では、基板Kの表面、特にカーボンナノチューブを形成する表面(カーボンナノチューブの生成面であり、後述するが、ここでは下面である)の洗浄、不動態膜の塗布、カーボンナノチューブ生成用の触媒微粒子、具体的には、鉄の微粒子(金属微粒子)の塗布が行われる。洗浄については、アルカリ洗浄、UVオゾン洗浄が用いられる。また、不動態膜の塗布方法としては、ロールコータ、LPDが用いられる。触媒微粒子の塗布方法としては、スパッタ、真空蒸着、ロールコータなどが用いられる。
【0021】
また、後処理室14では、基板Kの冷却と、基板Kの表面、すなわち下面に形成されたカーボンナノチューブの検査とが行われる。
そして、基板回収室15では、基板Kの上面(裏面)に保護フィルムが貼り付けられ、この保護フィルムが貼り付けられたステンレス鋼板である基板Kが巻取りロール17に巻き取られる。なお、基板Kの上面に保護フィルムを貼り付けるようにしているのは、基板Kを巻き取った際に、その外側に巻き取られる基板Kに形成されたカーボンナノチューブを保護するためである。
【0022】
上述したように、炉本体2内には、区画壁3により5つの部屋が形成されており、当然ながら、各区画壁3には、基板Kを通過させ得る連通用開口部(スリットともいう)3aがそれぞれ形成されている。
【0023】
ところで、上記加熱室13においては、熱CVD法(熱化学気相蒸着法)により、カーボンナノチューブが形成(生成)されるが、当然ながら、内部はガス排出装置(ガス排出手段の一例で、後述する)により所定の真空度(負圧状態)に維持されるとともに、カーボンナノチューブの生成用ガスつまり原料ガス(例えば、アセチレン、メタン、ブタンなどの低級炭化水素ガスが用いられる)Gが供給されており、またこの原料ガスGが隣接する部屋に漏れないように考慮されている。例えば、加熱室13においては、ヘリウムガスなどの不活性ガスNと一緒に原料ガスGが下方から供給されるとともに上方から排出される(引き抜かれる)。この加熱室13以外の部屋、すなわち基板供給室11、前処理室12、後処理室14および製品回収室15についても、ヘリウムガスなどの不活性ガスNが下方から供給されるとともに上方から排出されて、不要なガスが入り込まないようにされている。なお、加熱室13の前後壁には、加熱室13と前処理室12、加熱室13と後処理室14とを密封遮断するために、基板であるステンレス鋼板を上下から挟むようにした上下一対のナイフ型板体からなるゲートバルブ18,19がそれぞれ設けられている。
【0024】
ここで、加熱室13の構成について、加熱装置およびガス排出装置とともに詳しく説明する。
図1および図2に示すように、この加熱室13の底壁部2aの中心位置には、蒸着材料であるカーボンを含む原料ガスGを導入する筒状のガス供給口(ガス供給部)5が設けられるとともに、上記加熱室13内の上方位置(基板の上方位置)には当該加熱室13内を加熱するための複数本の円柱形状(または棒状)の発熱体22よりなる加熱装置21が設けられ、さらに上壁部2bに設けられた筒状のガス排出口(ガス排出部)6には、加熱室13内を所定の真空度にするためのガス排出装置23が接続されている。
【0025】
また、加熱室13の底壁部2aと基板Kとの間には、原料ガスGを基板Kの被蒸着面である下面に導くための側面視がホッパー形状(逆台形状)のガス案内用ダクト体(ガス案内体の一例)24が設けられているとともに、図3に示すように、このガス案内用ダクト体24の上端面と基板Kの下面との間は所定高さの隙間δが形成されている。そして、この隙間δの高さを維持するために、加熱室13内には、基板Kの上面に接触して当該基板Kの高さ位置を維持する板状の基板高さ維持部材(基板押え部材ともいえる)25が例えば保持具(図示せず)により取り付けられている。なお、図示しないが、上記ガス案内用ダクト体24内に原料ガスGを拡散させるための邪魔板を配置してもよく、またこのガス案内用ダクト体24の上端開口部に原料ガスGの整流を行うパンチングメタルなどの整流板を配置してもよい。
【0026】
上記発熱体22としては非金属の抵抗発熱体が用いられ、具体的には、炭化ケイ素、ケイ化モリブデン、ランタンクロマイト、ジルコニア、黒鉛などが用いられる。
上記ガス排出装置23は、上壁部2bのガス排出口6に接続されたガス排出管26と、このガス排出管26の途中に設けられて加熱室13内のガスを吸引して所定の真空度に維持するための真空ポンプ27とから構成されている。
【0027】
なお、加熱室13を形成する炉本体2の内壁面には所定厚さの断熱材4が貼り付けられている。
ここで、前処理室12での工程について説明する。
【0028】
この前処理室12内では、基板Kが洗浄された後、シリカ、アルミナなどの不動態膜が塗布され、さらにこの不動態膜の上面に、金属例えば鉄(Fe)の触媒微粒子が塗布される。勿論、図示しないが、この前処理室12内には、基板Kの洗浄手段、不動態膜の塗布手段、および金属例えば鉄(Fe)の触媒微粒子の塗布手段が設けられている。
【0029】
ところで、上述したように、基板Kとして、厚さが20〜300μm以下に圧延加工されてコイル状に巻き取られた薄いステンレス鋼板(ステンレス箔でもある)が用いられており、このような基板Kには、コイルの巻き方向に引張りの残留応力が存在するため、触媒の微粒化および熱CVD時に、残留応力の解放により、基板Kに反りが発生する。このような反りの発生を防止するために、コイル巻き方向で張力を付加する機構、具体的には、巻出しロールと巻取りロールとの間で張力を発生させて(例えば、両ロールの回転トルクを異ならせることにより張力を発生させる。具体的には、一方のモータで引っ張り、他方のモータにブレーキ機能を発揮させればよい。)基板Kを引っ張るようにしてもよい。また、巻取りロール側に錘を設けて引っ張るようにしてもよい。
【0030】
そして、上記加熱炉1にて熱CVD法が行われる際には、真空ポンプ27により加熱室13内が所定の真空度下に、つまり所定圧力下に維持される。特に、ガス案内用ダクト体24内の反応側空間部aが所定圧力に維持される。この圧力値としては、数千Pa〜大気圧の範囲に維持される。例えば、5000Pa〜20000Paに維持される。
【0031】
このとき、隙間δによる絞り効果(つまり、オリフィスの作用)により、加熱室13内の排出側空間部b内の圧力が1000Pa程度まで低下される。
なお、隙間δの寸法は、装置の大きさに応じて異なるが、要するに、反応側空間部aと排出側空間部bとの差圧が1000Pa程度となるような値に設定される。
【0032】
また、上記加熱室13以外の他の処理室、すなわち基板供給室11、前処理室12、後処理室14および製品回収室15については詳しくは説明しなかったが、これら各室11,12,14,15についても圧力を制御した状態にされるとともに、加熱室13に空気などのカーボンナノチューブの形成に悪影響を及ぼすガスが流入するのを防止するために、図1に示すように、それぞれの底壁部2aにはヘリウムガスなどの不活性ガスを供給するためのガス供給口5′が設けられるとともに、上壁部2bには筒状のガス排出口6′が設けられて不活性ガスを排出するようにしている。また、これら他の処理室内の圧力は、圧力の制御は真空ポンプとの間に配置された自動圧力調節弁(図示せず)により加熱室13と同じ圧力となるように制御される。
【0033】
なお、図1は熱CVD装置の概略構成を示し、その内部が分かるように、手前側の側壁部および断熱材4については省略している。
次に、上記熱CVD装置によるカーボンナノチューブの形成方法について説明する。
【0034】
まず、巻出しロール16から基板Kを引き出し、前処理室12、加熱室13および後処理室14における各区画壁3の連通用開口部3aを挿通させ、その先端を巻取りロール17に巻き取らせる。このとき、基板Kには張力が付与されて真っ直ぐな水平面となるようにされている。
【0035】
そして、前処理室12内では基板Kの洗浄が行われた後、不動態膜が上下面全体に亘って塗布され、この不動態膜の表面に鉄の微粒子が塗布(付着)される。なお、この触媒微粒子は、カーボンナノチューブの形成面(生成面)に塗布される。
【0036】
この前処理が済むと、基板Kは所定長さ分だけ、つまりカーボンナノチューブが形成される長さ分だけ、巻取りロール17により巻き取られる。したがって、前処理室12で前処理が行われた部分が、順次、加熱室13内のガス案内用ダクト体24の上方に移動される。
【0037】
そして、加熱装置21、すなわち発熱体22により、基板Kの温度を所定温度例えば700〜800℃に加熱するとともに、断熱材4により加熱室13の外壁温度が80℃またはそれ以下(好ましくは、50℃以下)となるようにする。
【0038】
上記温度になると、ガス供給口5より原料ガスGとしてアセチレンガス(C)を供給して所定の反応を行わせることにより、基板K下面に、カーボンナノチューブを生成(成長)させる。
【0039】
所定時間が経過して所定高さのカーボンナノチューブが得られると、同じく、所定長さだけ移動されて、このカーボンナノチューブが形成された基板Kが後処理室14内に移動される。
【0040】
この後処理室14内では、基板Kの冷却と検査とが行われる。
この後処理が済むと、基板Kは製品回収室15内に移動されて、その上面に保護フィルムが貼り付けられるとともに、巻取りロール17に巻き取られる。すなわち、カーボンナノチューブが形成された基板Kが製品として回収されることになる。なお、カーボンナノチューブが形成された基板Kが全て巻取りロール17に巻き取られると、外部に取り出されることになる。
【0041】
ここで、ガス排出装置23の作用について詳しく説明する。
熱CVD時において、加熱室13内のガスは真空ポンプ27により外部に排出されて、当該加熱室13内が所定の真空度に維持されることになるが、ガス案内用ダクト体24の上端面と基板Kの下面との間は所定の隙間δに設定されているため、ガス案内用ダクト体24の内部つまり反応側空間部aから外側の排出側空間部bに入るガス量は絞られることになる。したがって、排出されるガスはこの隙間δを介して加熱室13内に引き込まれ、加熱室13内の排気側空間部bおよびガス排出管26側の圧力は、ガス案内用ダクト体24内の反応側空間部aの圧力よりも低い値、例えば1000Pa程度に維持される。
【0042】
なお、基板Kの下面には吸引されるガスにより上向きの力が作用するが、基板高さ維持部材25により基板Kの浮き上がりが防止されて、隙間δが維持されている。
したがって、隙間δよりも下流の排気側空間部bおよびガス排出管26内では、ガスはガス案内用ダクト体24内の反応側空間部aよりも稀薄状態になっている。すなわち、原料ガスGは隙間δを通過して排気側空間部bに入り希薄状態となるため、ガス中に浮遊している異物同士つまり炭素分子同士の衝突が減少して炭化分子の高分子化または重合反応が抑制されるので、タールの生成が抑制される。
【0043】
このように、加熱室13内のガスを真空ポンプ27により排出する際に、基板Kの下面のガス案内用ダクト体24内の反応側空間部aから、隙間δを介して、稀薄状態の排気側空間部bに導くようにしたので、ガス中に含まれる炭素分子の高分子化が抑制される。すなわち、安価な構成で、排気部でのタール状物質の生成を抑制することができる。
【0044】
言い換えれば、熱CVD反応を高圧力で実施した場合、つまり、多くの原料ガスを供給した場合でも、タールの生成が抑制され、したがって多くの原料ガスの供給(高生産性)とタール生成の抑制とを両立させることができる。
【0045】
また、タールの生成が抑制されるため、真空ポンプの寿命およびメンテナンス期間を延ばし得るとともに、フィルターなどの省略も可能となる。
【実施例2】
【0046】
次に、本発明の実施例2に係る真空蒸着装置である熱CVD装置を図4および図5に基づき説明する。
上述した実施例1においては、基板の浮き上がりを防止するのに、基板高さ維持部材を加熱室内に保持具などにより取り付けるように、つまり固定するように説明したが、本実施例2においては、加熱室内に固定するのではなく、図4および図5に示すように、基板Kの上面に吸引されるガスによる上向きの力に対向し得る重さの板状の基板浮上防止部材25′を具備したものである。なお、基板浮上防止部材25′は、熱CVDを行う度に、加熱室13内の基板Kの上面に載置されるように構成されている。例えば、基板浮上防止部材25′を基板K上で昇降具(図示せず)により昇降自在に保持しておき、熱CVD時に基板Kの上面に載置し、基板Kの移動時には上方に持ち上げられる。なお、その他の構成は、実施例1と同様であるため、図面には同一番号を付してその説明を省略する。
【0047】
勿論、本実施例2の構成においても、上述した実施例1の構成と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0048】
次に、本発明の実施例3に係る真空蒸着装置である熱CVD装置を図6に基づき説明する。
上述した実施例1においては、加熱室の排気側空間部内のガスを真空ポンプにより排出するように説明したが、ガス案内用ダクト体内の排気側空間部についても、真空ポンプにより排出するようにしてもよい。
【0049】
以下、この構成を上述した実施例1に適用したものを、実施例3として説明する。なお、本実施例3においては、ガス排出装置以外の部分については、実施例1と同じ構成であるため、ここでは、ガス排出装置に着目して説明するとともに、実施例1と同一の構成部材には、同一の部材番号を付してその説明を省略する。
【0050】
すなわち、図6に示すように、このガス排出装置51は、一端側が加熱室13の上壁部2bに設けられたガス排出口6に接続されるとともに他端側に真空ポンプ27が設けられたガス排出管52と、このガス排出管52の途中に一端側から順番に設けられた冷却器(例えば、冷却室内に熱交換用のラジエータが配置されたもの)53および三方切替弁54と、一端側がガス案内用ダクト体24内に接続(開口)されるとともに他端側がガス排出管52の三方切替弁54に接続されて上記冷却器53をバイパスして反応側空間部a内のガスを直接ガス排出管52に導くためのバイパス経路としての第1連通管55と、同じく一端側がガス案内用ダクト体24内に接続(開口)されるとともに途中に水素透過膜を有する水素導出部材56および開閉弁57が設けられ且つ他端側がガス排出管52の三方切替弁54よりも下流側に接続された第2連通管58とから構成されている。
【0051】
この構成において、熱CVD時に加熱室13内のガスを排出する場合、真空ポンプ27を駆動させるとともに、三方切替弁54を介してガスを排出すればよい。このとき、加熱室13の排気側空間部b内のガスは稀薄状態つまり減圧状態となり、タールの生成が抑制される。なお、ガス排出管52に導かれたガスは冷却器53で冷却された後、外部に排出される。
【0052】
ところで、加熱室13内を所定の真空度にする場合、特にガス案内用ダクト体24内のガスを排出する場合、三方切替弁54によりガス排出経路を第1連通管55側に切り替えれば、迅速に所定の真空度にすることができる。
【0053】
また、熱CVD時において、開閉弁57を開いて排ガスを水素導出部材56に導き、蒸着により発生した水素ガスだけを排出すれば、水素の増加によるアセチレンガスの分解効率の低下を防止することができる。
【0054】
本実施例3の構成によると、実施例1で説明した効果に加えて、熱CVD時におけるガスの排気作業の迅速化を図り得るとともに、ガスの反応効率の向上を図ることができる。
なお、上述した実施例3においては、ガス排出装置を実施例1に適用した場合について説明したが、実施例2に適用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 加熱炉
2 炉本体
5 ガス供給口
6 ガス排出部
13 加熱室
21 加熱装置
23 ガス排出装置
24 ガス案内用ダクト体
25 基板高さ維持部材
25′ 基板浮上防止部材
26 ガス排出管
27 真空ポンプ
51 ガス排出装置
52 ガス排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を水平に配置し得るとともにその上方に当該基板を加熱する加熱部材を有し且つ下方に原料ガスを導入し得るガス供給部が設けられた加熱室を有して基板の下面に蒸着材料を蒸着させ得る真空蒸着装置であって、
上記加熱室に、上記ガス供給部からの原料ガスを基板の下面に案内し得るガス案内体を設け、
このガス案内体の上端面と基板下面との間に隙間を形成するとともに、基板の上方に当該基板の高さ位置を維持する基板高さ維持部材を設け、
上記加熱室の上壁部に真空ポンプを有するガス排出手段を接続したことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
基板を水平に配置し得るとともにその上方に当該基板を加熱する加熱部材を有し且つ下方に原料ガスを導入し得るガス供給部が設けられた加熱室を有して基板の下面に蒸着材料を蒸着させ得る真空蒸着装置であって、
上記加熱室に、上記ガス供給部からの原料ガスを基板の下面に案内し得るガス案内体を設け、
このガス案内体の上端面と基板下面との間に隙間を形成するとともに、基板の上方に当該基板の浮き上がりを防止する基板浮上防止部材を配置し、
上記加熱室の上壁部に真空ポンプを有するガス排出手段を接続したことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項3】
加熱室がカーボンナノチューブの形成設備における熱化学気相蒸着用であることを特徴とする請求項1または2に記載の真空蒸着装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−136761(P2012−136761A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291415(P2010−291415)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】