説明

硬質脆性板のくり貫き加工方法及び装置

【課題】ガラス板などの硬質脆性板に板厚方向に貫通する丸孔、長孔、溝孔などのくり貫き加工において、加工時に生ずる大きな欠けや割れを可及的に防止すると共に、寸法や形状の異なる丸孔や溝孔を加工することが可能な方法及び装置を提供する。
【解決手段】くり貫き砥石は、先端に硬質脆性板を板厚方向に研削してゆく先端面を備えた円筒形の砥石で、加工しようとする丸孔ないし溝幅より小径の砥石である。制御器は、ワーク軸の回転角をθ又はΔθ、砥石台の移動量をxとして、少なくとも以下の関係を保持して制御する溝孔加工手段を備えている。x=(A+R−r)/cosθ、x=CcosΔθ+(R−r)cosφ、但し、sinφ=CsinΔθ/(R−r)、及び、x=(A−R+r)/cosθ。上式中、Rは、溝孔の溝幅の1/2、rは、くり貫き砥石の半径(r<R)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガラス板その他の硬質脆性板に回転砥石で板厚方向に貫通する丸孔、長孔、溝孔(溝のような細長い孔)などのくり貫き孔を加工する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話をはじめとして、表示パネルを備えた携帯型の各種の小型の電子装置が提供されている。この種の電子装置の表示パネルは、ガラス基板に画素(表示要素)を配置したものが多く用いられている。更に、表示パネルの周囲に、マイク、スピーカー、カメラなどを配置することも行われている。この種の電子装置は、機能と共に、小型軽量であることと、製品デザインとが、商品価値を大きく左右する。従来は矩形形状の表示パネルが一般的であったが、電子装置の軽量化とデザイン上の要請から、種々の形状の表示パネルや、溝孔をくり貫き加工(板を厚さ方向に貫通する加工)した表示パネルが要求され、そのような表示パネルを能率よく加工でき、かつデザインの変更に伴う形状変更にも容易に対応できる加工機械が要求されるようになってきている。
【0003】
図8は、携帯電話の表示パネル4の一例を示した平面図で、角丸四辺形の外周の辺の一箇所に凹所46が設けられ、板を貫通する丸孔45と溝孔43とが設けられている。このような表示パネルの加工において、従来は、丸孔45及び溝孔43を加工するのにそれぞれ専用の工具が用いられていた。すなわち、丸孔45は孔の直径に応じた直径と公転半径とを備えた砥石で加工し、溝孔43は溝幅に等しい直径を備えた砥石で加工するというように、その直径や溝幅に応じて専用の工具が用いられていた。
【0004】
なお、丸孔45の加工においては、加工する孔の直径より小径の回転砥石を用い、当該砥石の回転中心を公転軸から砥石半径より短い距離だけ偏心させ、砥石を自転及び公転させながら、加工することが、例えば特許文献1、2に提案されている。すなわち、半径rの回転砥石をその砥石中心軸回りに自転させながら、この砥石中心軸からeだけ偏心した位置に設定した公転軸回りに公転させて加工することにより、半径がr+eの丸孔を加工するというものである。更に特許文献2には、上記のような自転と公転を伴う砥石での丸孔の加工において、砥石の先端の回転中心の位置に凹部を設け、かつその先端の一箇所に、当該凹部に連通する放射方向の溝を設けた形状とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−199619号公報
【特許文献2】特開2008−155310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、表示パネルのガラス板などの硬質脆性板に丸孔や溝孔を加工する装置は、工具として孔径や溝幅に応じた径の専用の砥石を用いて、その砥石を直線運動や円運動(公転)させて加工を行っていた。そのため、図8のような形状の表示パネルを加工するとき、外周と丸孔45と溝孔43とをそれぞれ別の装置で加工するか、それぞれの加工ごとに砥石を交換して加工しなければならなかった。また、丸孔45の径や溝孔43の溝幅が変更されたとき、新たな形状に合わせた径の砥石に交換しなければならず、工具交換のための段取りに時間がかかるなどの問題があった。
【0007】
硬質脆性板の加工では、加工の際に欠けや割れなどが発生しやすい。小さな欠けや割れは、面取加工で除去できるけれども、大きな欠けや割れは、面取加工では除去することができず、加工不良品となる問題があった。特に貫通孔や貫通溝の加工では、砥石先端が材料を貫通するときに、砥石の出口側の縁に大きな欠けや割れが発生しやすい。このような欠けや割れは、面取加工で除去することができず、加工不良品が多く発生するという問題があった。
【0008】
この発明は、硬質脆性板のくり貫き加工において、砥石の先端が硬質脆性板を貫通するときに、その後の加工で除去することができない大きな欠けや割れが生ずるのを防止した、硬質脆性板のくり貫き加工方法を得ることを課題としている。更にこの発明は、1個のくり貫き加工用の砥石(以下、「くり貫き砥石」と言う。)で、寸法や形状の異なる丸孔や溝孔を加工することができる装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のくり貫き加工装置は、硬質脆性板4を保持するホルダ12と、このホルダを前記硬質脆性板の面直角方向の軸心O回りに回転駆動する回転角制御可能なワーク駆動モータ11と、前記軸心Oと直交する方向に移動可能な砥石台22と、この砥石台を当該移動方向に往復移動させる回転角を制御可能な送りモータ27と、この砥石台に前記軸心Oと平行に軸支されて、その基準位置を前記軸心Oの位置に設定可能な砥石軸25bと、当該砥石軸の先端に装着されたくり貫き砥石3bと、前記砥石軸25bを回転させる砥石モータ26bと、砥石軸25b及びホルダ12の少なくともいずれか一方を前記軸心方向に進退させる軸送り装置18と、ワーク駆動モータ11の回転角と送りモータ27の回転角とを関連付けて制御する制御器5とを備えている。
【0010】
くり貫き砥石3bは、先端(下端)に硬質脆性板を板厚方向に研削してゆく先端面31を備えた円筒形を基本形状とする砥石であり、かつ、当該円筒の直径が加工しようとする総ての丸孔45の直径及び溝孔43の溝幅より小径の砥石である。
【0011】
制御器5は、ホルダ12の回転角をθ又はΔθ、砥石台22の移動量をxとして、少なくとも以下の第1式〜第3式の関係を保持して制御する溝孔加工手段を備えている。
第1式:x=(A+R−r)/cosθ
第2式:x=(A−R+r)/cosθ
第3式:x=CcosΔθ+(R−r)cosφ
但し、sinφ=CsinΔθ/(R−r)
【0012】
なお、上式中、Aは、ホルダの軸心Oから加工しようとする溝孔43の中心線までの、当該溝孔の中心線に直交する方向の距離、Cは、ホルダの軸心Oから加工しようとする溝孔端部の円弧の中心Qまでの距離、Rは、溝孔43の溝幅の1/2(溝幅が2R)、rは、くり貫き砥石3bの半径(r<R)、θは、溝孔の中心線と直交する方向を基準位相としたときの当該基準位相からのホルダの回転角、Δθは、線分OQの方向を基準位相としたときのホルダ12の回転角、xは、前記軸心Oから砥石中心軸までの距離である。
【0013】
好ましい構造のこの発明のくり貫き加工装置は、前記砥石台22に前記軸心方向の互いに平行で、かつそれぞれの砥石中心軸の基準位置を前記軸心Oの位置に設定可能な2本の砥石軸25a、25bを備え、当該砥石軸の一方に前記くり貫き砥石3bが装着され、他方に外周面で硬質脆性板の外周を加工する外周加工砥石3aが装着されているものである。
【0014】
くり貫き砥石3bは、軸直角方向の研削面である先端面31を備えた円筒形を基本形状とする砥石で、その先端部外周は、先端側が小径となる円錐面33とされ、かつ胴部に鼓形部35を備えている。先端面31は、中心に直径方向の溝状の凹部(逃げ溝)32を備えている。
【0015】
この発明の硬質脆性板のくり貫き加工方法は、丸孔45や溝孔43などのくり貫こうとする領域の内側、すなわちくり貫き砥石3bが硬質脆性板4を貫通したときに、当該くり貫き砥石の外周が前記領域の縁に接しない位置に、くり貫き砥石3bを装着した砥石軸3bの位置を設定し、当該位置でくり貫き砥石3bをホルダ12で固定した硬質脆性板4に向けて進出させる。この進出動作は、ホルダ12の上昇動作又は砥石軸25bの下降動作のいずれか又は双方によって行われる。
【0016】
くり貫き砥石3bの先端面31が硬質脆性板4を予め設定された貫通しない深さに削り取った時点で、くり貫こうとする領域の形状に応じてホルダの回転角θないしΔθと、砥石台22の移動量xとを、くり貫き砥石3bの円筒面34がくり貫き孔43、45の周縁44に接して移動するように、制御する。
【0017】
例えばくり貫き孔が丸孔であれば、
x=CcosΔθ+(R−r)cosφ
但し、sinφ=CsinΔθ/(R−r)
の関係を満足するように、ホルダ12の軸心O回りの回転角θないしΔθと砥石台22の移動距離xを制御する。
また、くり貫き孔が溝孔でその直線縁部分を加工するのであれば、
x=(A+R−r)/cosθ
又は、
x=(A−R+r)/cosθ
の関係を満足するようにホルダ12の軸心O回りの回転角θないしΔθと砥石台22の移動距離xを制御する。上記の式における移動距離xは、くり貫き砥石の砥石軸25bが軸心Oの軸心と一致する位置を基準とする移動量である。
【0018】
ホルダ12又は砥石軸25bの軸方向の切り込み送りは、この移動を開始したあとも継続される。くり貫き砥石3bは、この動作の継続中に硬質脆性板4を貫通する。くり貫き砥石3bは、硬質脆性板4を貫通した後、先端側円錐面33及び円筒面34の周面で、貫通した孔を周方向に広げるように加工を継続する。そして、制御器5の前記制御により、くり貫き砥石の円筒面34でくり貫き孔の全周が加工された時点で、くり貫き加工を終了する。
【0019】
次いで、くり貫き砥石の鼓形部35を硬質脆性板4の高さ位置に軸方向移動し、鼓形部35の両側の円錐面36、37で前記関係式におけるrの値を変更して、前記関係式に従って、ホルダの回転角θないしΔθと砥石台の移動量xとを制御することにより、図4(a)、(b)に示すようにして、くり貫いた孔の周縁角部の面取を行う。くり貫き加工時に硬質脆性板の周縁角部に生じた小さな切欠やクラックは、この面取加工によって除去される。
【発明の効果】
【0020】
上記したこの発明によれば、加工しようとする硬質脆性板の種々の形状及び寸法のくり貫き孔を1台の装置で、かつ1個のくり貫き砥石で加工することが可能であり、加工箇所ごとに加工装置を交換したり、砥石を交換する必要がない。また、砥石軸を2本設けた装置によれば、同一の装置で上記くり貫き加工の前後に連続して硬質脆性板の外周加工を行うことができる。
【0021】
また、この発明により、硬質脆性板に設けられる貫通孔を、その形状の如何に関わらず、加工時に生ずるクラックや欠けを可及的に防止して加工することができる。また、加工形状がホルダ12の回転角と砥石台22の移動とにより創成されるので、砥石台22の移動量が少なく、装置を小型にでき、加工精度も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明による溝孔の加工を示す説明図
【図2】外周の加工を示す説明図
【図3】図1の溝孔の加工の断面及び平面を経時的に示す説明図
【図4】面取加工を示す説明図
【図5】この発明のくり貫き加工装置の一例を示す側面図
【図6】加工に使用する工具の一例を示す側面図
【図7】図5の工具の正面図
【図8】加工する硬質脆性板の一例を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図5は、この発明のくり貫き加工装置の実施例を示した図である。図の装置は、硬質脆性板4のくり貫き加工と共に外周加工もできる装置であり、くり貫き砥石3bを装着した砥石軸25bと、外周加工砥石3aを装着した砥石軸25aとの2本の砥石軸を備えている。
【0024】
図において、1は鉛直方向のワーク軸、12はワーク軸1の上端に固定されたホルダ、13はワーク軸1を軸支している昇降台である。21はフレーム2に固定されたガイド、22はガイド21に沿って移動する砥石台である。砥石台22には、2本の砥石軸25a、25bが互いに平行に軸支されている。砥石軸25a、25bは、ワーク軸1と平行である。ガイド21は、この2本の砥石軸25a、25bと直交する方向に設けられている。
【0025】
砥石軸25a、25bの下端(ホルダ12側の軸端)には、工具ホルダ29a、29bが設けられ、その一方29aに外周加工砥石3aが装着され、他方29bにくり貫き砥石3bが装着されている。くり貫き砥石3bの径は、加工しようとする丸孔45の直径及び溝孔43の溝幅より小さい。各砥石軸25a、25bには、砥石軸駆動用のモータ26a、26bが連結されている。
【0026】
昇降台13と一体に設けたブラケット14が昇降用サーボモータ17で駆動される鉛直方向の送りねじ18に螺合している。昇降台13には、ワーク軸1を回転駆動するサーボモータ11が搭載されている。砥石台22は、フレーム2に搭載した送り用サーボモータ27で回転駆動される送りねじ28に螺合している。5はこれらのサーボモータ17、27、11を制御するNC装置、51、52及び53は、サーボアンプである。
【0027】
図6、7は、くり貫き砥石3bの一例を示した図である。くり貫き砥石3bは、基本形状が細い円筒形で、その先端面31は、ワーク4を軸方向に切り進む研削面となっている。先端面31には、直径方向の溝状の凹部32が設けられている。くり貫き砥石3bの先端部外周は、先端側が小径となる円錐面33となっており、それに続く円筒面34と、鼓形部35とを備えている。鼓形部35の両側の円錐面36、37は、くり貫いた孔45や溝43の周縁44の上下の稜線を斜めに削り落とす、いわゆる面取を行う研削面となっている。
【0028】
溝状の凹部32は、砥石軸25bが回転しても回転速度が生じないために研削作用が発生しない砥石の先端面中心部がワークに接しないように設けたものである。また、ワークに接しないように設けた中心部の凹部を直径方向に延在させた溝形状とすることにより、加工位置への切削液の流入及び流出が効果的に行われるようにしている。
【0029】
砥石の先端部の円錐面33は、砥石が硬質脆性板を貫通した後、砥石3bを軸方向に送ることにより、加工された貫通孔45の径ないし貫通溝43の溝幅を徐々に大きくして、貫通時に生じた欠けや割れを削り落とす作用をする。胴部の鼓形部35は、加工された貫通孔45や貫通溝43の周縁44の稜線の面取加工を同一の砥石で行うために設けたものである。鼓形35とすることによって、上下の稜線の面取を同一の砥石で連続して行うことができる。
【0030】
図3は、この発明の方法による図8に示した表示パネル4のくり貫き加工を経時的に示した側面図及び平面図である。以下、図3を参照して、この発明のくり貫き加工方法を説明する。
【0031】
加工しようとするワーク(表示パネル)4は、ワーク4の上面を吸着するハンドを備えた図示しないローダにより、加工原点Oをワーク軸1の回転中心に一致させてホルダ12上に置かれ、ホルダ12が当該ワーク4を吸着した後、ハンド側の吸着を解除して当該ハンドが退避する。
【0032】
次に、外周加工砥石3aにより、ワーク4の外周加工を行う。ワーク4の外周加工は、コンタリング加工、すなわち、ワーク軸の軸心Oを中心とするワーク4の回転角θないしΔθと、基準位置からの砥石台22の軸心Oと直交する方向の移動量xとを関連付けて制御しながら加工を行う。
【0033】
例えば、図8に示したワーク外周の直線辺41の加工であれば、図2(a)に示すように、直線辺41の加工原点Oからの距離をW、砥石3aの半径をrとして、
x=(W+r)/cosθ
の関係を保持して、ワーク軸の回転角θと砥石台の移動量xとを制御することにより直線辺41の加工を行う。
【0034】
また、図8に示したワーク外周の円弧辺42の加工であれば、図2(b)に示すように、円弧辺の中心Pのx−y直交座標系における座標(A、B)、円弧辺42の半径R、C2=A2+B2、tanθ0=B/A、Δθ=θ−θ0として、
x=CcosΔθ+(R+r)cosφ
但し、sinφ=CsinΔθ/(R+r)
の関係を満足するように、基準位相からのワーク軸の回転角θ=θ0+Δθと砥石台22の基準位置からの移動量xの関係を制御して加工を行う。
【0035】
次に、くり貫き砥石3bの軸心がワーク軸1の軸心と一致する位置を基準位置に設定し、くり貫き砥石3bで溝孔43及び丸孔45の加工を行う。
【0036】
溝孔43を加工するときは、溝孔43の中央にくり貫き砥石3bを位置設定し、ワーク軸1を回転しないで上昇させることにより、当該位置でくり貫き砥石3bをワーク4に向けて進出させる。くり貫き砥石3bの先端面31がワーク4を予め設定した貫通しない深さに削り取った時点で(図3(b)参照)、ワーク軸の回転角θと、砥石台の移動量xとが
x=(A+R−r)/cosθ、
の関係となるように制御を変換する(図1(a)参照)。この制御の変換の過程でくり貫き砥石3bは溝孔43の外側の直線縁44a側に接近移動し、その後当該直線縁に沿って移動する。
くり貫き砥石3bが溝孔の端部の円弧部分44bに達したら、
2=A2+B02、tanθ0=B/A、Δθ=θ−θ0として、
x=CcosΔθ+(R−r)cosφ
但し、sinφ=CsinΔθ/(R−r)
の関係を満足するようにワーク軸の回転角θ=θ0+Δθと砥石台の移動量xを制御する(図1(b)参照)。そして、溝孔の端部における半周の移動が終了したら、次に、
x=(A−R+r)/cosθ
の関係を満足するようにワーク軸の回転角θと砥石台の移動量xを制御して、溝孔43の内側縁44cに沿ってくり貫き砥石3bを移動し、更に、反対側の円弧部も上記円弧部と同様な制御により、くり貫き砥石3bを移動する。
【0037】
上記動作の途中において、くり貫き砥石の先端面31がワーク4を貫通する(図3(c)参照)。ワーク軸1の上昇を継続することにより、くり貫き砥石3bは、ワーク4を貫通した後、円錐面33及び円筒面34で貫通孔を周方向に広げるように加工を継続する。そして、円筒面34で溝孔の周縁が加工される状態に達した後(図3(d)参照)、くり貫き砥石3bを溝孔43の全周に沿って移動させて、溝孔43のくり貫き加工を終了する。
【0038】
次いで、くり貫き砥石の鼓形部35をワーク4の高さ位置となるようにワーク軸1を軸方向移動し、鼓形部35の両側の円錐面36、37で前記関係式におけるrの値を変更して、前記関係式に従って、ワーク軸の回転角θないしΔθと砥石台の移動量xとを制御することにより、図4(a)、(b)に示すようにして、くり貫いた溝孔43の周縁角部の面取加工を行う。くり貫き加工時に硬質脆性板の周縁角部に生じた小さな切欠やクラックは、この面取加工によって除去される。
【0039】
丸孔45を加工するときは、まず、丸孔45の中心座標(A、B)にくり貫き砥石3bを位置設定し、当該位置でワーク軸1の上昇により、ワーク4をワーク軸方向に研削する。くり貫き砥石3bの先端面31がワーク4を予め設定した貫通しない深さに削り取った時点で、ワーク軸1の回転角Δθと、砥石台の移動量xとを前述した溝孔の円弧部分を加工するときと同様な式、
x=CcosΔθ+(R−r)cosφ
但し、sinφ=CsinΔθ/(R−r)、Δθ=θ−θ0
の関係が成立するようにワーク軸1の基準位相からの回転角θ及び砥石台22の基準位置からの移動量xを制御する。ワーク軸1の上昇による軸方向の切り込み送りは、この間も継続される。
【0040】
上記動作の途中において、くり貫き砥石3bは、ワーク4を貫通する。くり貫き砥石3bは、ワーク4を貫通した後、先端側円錐面33及び円筒面34で貫通孔を周方向に広げるように加工を継続する。そして、制御器5の前記制御により、くり貫き砥石の円筒面34で丸孔45の全周の加工が終了した時点でくり貫き加工を終了する。
【0041】
次いで、溝孔43の場合と同様に、鼓形部35の両側の円錐面36、37で前記関係式におけるrの値を変更して、前記関係式に従って、ワーク軸の回転角θと砥石台の移動量xとを制御することにより、丸孔45の周縁角部の面取を行う。
【符号の説明】
【0042】
1 ワーク軸
3a 外周加工砥石
3b くり貫き砥石
4 硬質脆性板
5 制御器
11 ワーク駆動モータ
12 ホルダ
18 軸送り装置
22 砥石台
25a、25b 砥石軸
26a、26b 砥石モータ
27 送りモータ
31 先端面
32 溝状の凹部
33 円錐面
34 円筒面
35 鼓形部
43 溝孔
O ワーク軸の軸心
x 砥石台の移動量
θ、Δθ ワーク軸の回転角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部外周の先端側が小径となる円錐面(33)と、この円錐面に続く円筒面(34)とを備えたくり貫き砥石(3b)を用い、軸心回りに回転駆動されるホルダ(12)に面を当該軸心と直交する方向にして硬質脆性板を固定し、当該ホルダに対向する前記軸心と平行な回転砥石軸(25b)の先端に前記くり貫き砥石(3b)を装着し、前記くり貫き砥石の円筒面がくり貫こうとする領域の内側に位置するように前記回転砥石軸の位置を設定し、当該位置でくり貫き砥石(3b)を前記硬質脆性板(4)に向けて進出させ、くり貫き砥石(3b)の先端が硬質脆性板(4)を貫通しない深さまで進出させた後、前記領域の周縁の形状に応じて前記ホルダの回転角と前記砥石台の移動量とを関連づけて制御することにより、前記くり貫き砥石の円筒面が前記周縁に接して移動する方向の砥石軸の横移動を開始し、その後前記くり貫き砥石の円筒面(34)で前記周縁の全周を加工する、硬質脆性板のくり貫き加工方法。
【請求項2】
硬質脆性板にその板厚方向に貫通する貫通孔を加工するための砥石であって、軸直角方向の先端面(31)と、先端部外周の先端側が小径となる円錐面(33)と、この円錐面に続く円筒面(34)と、この円周面の反先端側に位置する鼓形部(35)を備え、前記先端面(31)は、中心に直径方向の溝状の凹部(32)を備えている、くり貫き砥石。
【請求項3】
硬質脆性板を保持するホルダ(12)と、このホルダを前記硬質脆性板の面直角方向の軸心(O)回りに回転駆動する回転角制御可能なワーク駆動モータ(11)と、前記軸心(O)と直交する方向に移動可能な砥石台(22)と、この砥石台を当該移動方向に往復移動させる回転角を制御可能な送りモータ(27)と、この砥石台に前記軸心と平行に軸支されて、その基準位置を前記軸心(O)の位置に設定可能な砥石軸(25b)と、当該砥石軸の先端に装着されたくり貫き砥石(3b)と、前記砥石軸(25b)を回転させる砥石モータ(26b)と、前記砥石軸(25b)及びホルダ(12)の少なくともいずれか一方を前記軸心方向に進退させる軸送り装置(18)と、ワーク駆動モータ(11)の回転角と送りモータ(27)の回転角とを関連付けて制御する制御器(5)とを備え、
上記制御器(5)は、前記ホルダ(12)の回転角をθ又はΔθ、砥石台(22)の移動量をxとして、
x=(A+R−r)/cosθ、
x=(A−R+r)/cosθ
及び
x=CcosΔθ+(R−r)cosφ
但し、sinφ=CsinΔθ/(R−r)
の関係を保持して制御する溝孔加工手段を備えている、硬質脆性板のくり貫き加工装置。
但し、上式中、Aは、前記軸心(O)から加工しようとする溝孔(43)の中心線までの、当該溝孔の中心線と直交する方向の距離、Cは、前記軸心(O)から加工しようとする溝孔端部の円弧の中心(Q)までの距離、Rは、溝孔(43)の溝幅寸法の1/2、rは、くり貫き砥石(3b)の半径でr<R、θは、溝孔の中心線と直交する方向の第1の基準位相からのホルダ(12)の回転角、Δθは、線分OQの方向の第2の基準位相からのホルダ(12)の回転角、xは、前記軸心から砥石中心軸までの距離である。
【請求項4】
前記砥石台(22)に前記軸心方向の互いに平行で、かつそれぞれの砥石中心軸の基準位置を前記軸心の位置に設定可能な2本の砥石軸(25a,25b)を備え、当該砥石軸の一方に前記くり貫き砥石(3b)が装着され、他方に外周面で前記硬質脆性板の外周を加工する外周加工砥石(3a)が装着される、請求項1記載のくり貫き加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−116118(P2011−116118A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231268(P2010−231268)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000212566)中村留精密工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】