説明

磁気センサ

【課題】 特に、従来よりも少ないチップ数で複数軸の外部磁界検知を可能とする磁気センサを提供することを目的とする。
【解決手段】 磁性層と非磁性層とが積層されて成る磁気抵抗効果を発揮する複数の磁気抵抗効果素子S1〜S3と、各磁気抵抗効果素子と絶縁層4を介して非接触の位置に設けられた軟磁性体3とを有し、平面視にて前記軟磁性体3のX1−X2の両側に夫々、固定磁性層の固定磁化方向P1が、X1−X2方向に向けられた磁気抵抗効果素子S1〜S3が配置されており、磁気抵抗効果素子S1,S3と磁気抵抗効果素子S2とで固定磁化方向P1が互いに逆方向にされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子と軟磁性体とを備える磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果素子を用いた磁気センサは例えば、携帯電話等の携帯機器に組み込まれる地磁気を検知する地磁気センサとして使用できる。
【0003】
例えば特許文献1に示すように、磁気抵抗効果素子と軟磁性体とを備えた磁気センサでは、軟磁性体を設けたことで、感度軸方向からの検出磁界に対する検出精度を向上させ、感度軸方向に対して直交する外乱磁場に対する磁気シールド効果を向上させることができるとしている([0062]欄)。
【0004】
しかしながら、特許文献1の図1に示すように、X磁場検知部、Y磁場検知部、及びZ磁場検知部の3つのチップを設けなければならず、磁気センサの小型化を効果的に促進できない。
【0005】
また特許文献2には、垂直磁界の検知を可能とする磁気センサの構造が開示されているが、水平磁界の検知構造については何も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2010/010872
【特許文献2】特開2003−149312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、従来よりも少ないチップ数で複数軸の外部磁界検知を可能とする磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における磁気センサは、
磁性層と非磁性層とが積層されて成る磁気抵抗効果を発揮する複数の磁気抵抗効果素子と、各磁気抵抗効果素子と絶縁層を介して非接触の位置に設けられた軟磁性体とを有し、
平面視にて前記軟磁性体の第1の水平方向の両側に夫々、固定磁性層の固定磁化方向が、前記第1の水平方向に向けられた前記磁気抵抗効果素子が配置されており、前記軟磁性体の両側に配置された前記磁気抵抗効果素子同士、あるいは、前記軟磁性体の同じ側面側に配置された前記磁気抵抗効果素子同士で、前記固定磁化方向が互いに逆方向にされていることを特徴とするものである。
【0009】
これにより少なくとも第1の水平方向からの外部磁界を検知できるとともに、外乱磁場耐性を強化できる。そして、このチップ構成を用いれば、従来よりも少ないチップ数で複数軸の外部磁界検知を可能とする。具体的には1チップか2チップの構成で、3軸検知が可能な磁気センサを構成することが可能になる。
【0010】
本発明では、前記軟磁性体の同じ側面側に配置され、且つ前記固定磁化方向が互いに逆方向の第1の磁気抵抗効果素子及び第2の磁気抵抗効果素子と、前記第1の磁気抵抗効果素子及び前記第2の磁気抵抗効果素子と反対側の前記軟磁性体の側面側に配置され、前記第1の磁気抵抗効果素子と同じ固定磁化方向を備える第3の磁気抵抗効果素子とを有し、
前記第2の磁気抵抗効果素子と前記第3の磁気抵抗効果素子とにより、前記第1の水平方向からの水平磁界を検知可能な第1のブリッジ回路が構成され、
前記第1の磁気抵抗効果素子と前記第3の磁気抵抗効果素子とにより、前記軟磁性体の膜厚方向からの垂直磁界を検知可能な第2のブリッジ回路が構成されることが好ましい。このように本発明では、1チップで、前記第1の水平方向からの水平磁界を検知可能な第1のブリッジ回路と、垂直磁界を検知可能な第2のブリッジ回路とを構成できる。
【0011】
また本発明では、前記軟磁性体、前記第1の磁気抵抗効果素子、前記第2の磁気抵抗効果素子及び前記第3の磁気抵抗効果素子を有するチップを2つ用意し、一方の前記チップを90度回転させて各磁気抵抗効果素子の固定磁化方向を前記第1の水平方向に直交する第2の水平方向に向けて、前記第1の水平方向からの水平磁界を検知可能な前記第1のブリッジ回路と、垂直磁界を検知可能な前記第2のブリッジ回路とともに、前記第2の水平方向からの水平磁界を検知可能な第3のブリッジ回路が構成されることが好ましい。これにより、簡単な構成で且つ2チップにて、第1の水平方向からの水平磁界を検知可能な第1のブリッジ回路、垂直磁界を検知可能な第2のブリッジ回路、第2の水平方向からの水平磁界を検知可能な第3のブリッジ回路を構成できる。
【0012】
あるいは本発明では、1チップ内に、
第1の軟磁性体の前記第1の水平方向における両側に配置された各磁気抵抗効果素子の固定磁性層が互いに逆方向に固定磁化されて、前記第1の水平方向からの水平磁界を検知可能なブリッジ回路が構成され、
前記第1の軟磁性体とは別の第2の軟磁性体が設けられ、平面視にて前記第2の軟磁性体の第1の水平方向に対して直交する第2の水平方向の両側に前記固定磁性層の固定磁化方向が、前記第2の水平方向に向けられた前記磁気抵抗効果素子が配置されており、前記第2の軟磁性体における前記第2の水平方向の両側に配置された各磁気抵抗効果素子の固定磁性層が互いに逆方向に固定磁化されて、前記第2の水平方向からの水平磁界を検知可能なブリッジ回路が構成され、
前記第1の軟磁性体及び前記第2の軟磁性体とは別の第3の軟磁性体が設けられ、平面視にて前記第3の軟磁性体の両側に前記固定磁性層が同じ方向に固定磁化された各磁気抵抗効果素子が配置されて、前記第3の軟磁性体の膜厚方向からの垂直磁界を検知可能なブリッジ回路が構成されている形態にも出来る。
【0013】
本発明では、前記磁気抵抗効果素子は、前記固定磁性層とフリー磁性層とが非磁性材料層を介して積層された積層構造を備え、
前記固定磁性層は、第1磁性層と前記非磁性材料層に接する第2磁性層とが非磁性中間層を介して積層され、前記第1磁性層と前記第2磁性層とが反平行に磁化固定されたセルフピン止め型であることが好ましい。セルフピン止め型の磁気抵抗効果素子では、反強磁性層を用いず、よって磁場中熱処理を施すことなく固定磁性層を構成する第1磁性層と第2磁性層とを反平行に磁化固定できる。したがって、同じチップ内に固定磁化方向が異なる各磁気抵抗効果素子を適切に形成することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁気センサによれば、従来よりも少ないチップ数で複数軸の外部磁界検知を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(a)は第1実施形態における磁気センサの基本構成を示す平面図、図1(b)は図1(a)に示すA−A線に沿って切断し矢印方向から見た部分縦断面図、図1(c)は、磁気センサの回路構成図である。
【図2】図2は、本実施形態における磁気センサの全体を示す平面図である。
【図3】図3は第2実施形態における磁気センサの平面図である。
【図4】図4は各磁気抵抗効果素子の拡大平面図である。
【図5】図5は図4に示す素子部をB−B線に沿って切断し矢印方向から見た部分拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1(a)は第1実施形態における磁気センサの基本構成を示す平面図、図1(b)は図1(a)に示すA−A線に沿って切断し矢印方向から見た部分縦断面図、図1(c)は、磁気センサの回路構成図である。なお図1(b)では、本来、絶縁層4に隠れて見えない磁気抵抗効果素子S1を透視して図示している。図2は、本実施形態における磁気センサの全体を示す平面図、図3は第2実施形態における磁気センサの平面図である。図4は各磁気抵抗効果素子の拡大平面図、図5は図4に示す素子部をB−B線に沿って切断し矢印方向から見た部分拡大縦断面図である。
【0017】
図1に示す本実施形態における磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサ1は、複数軸の磁界検知に用いられ、特に用途を限定するものでないが、例えば携帯電話等の携帯機器に搭載される地磁気センサとして構成される。
【0018】
各図に示すX軸方向、及びY軸方向は水平面内にて直交する2方向を示し、Z軸方向は前記水平面に対して直交する方向を示している。X1−X2方向、Y1−Y2方向のどちらか一方が「第1の水平方向」、他方が「第2の水平方向」であるが、この実施形態ではX1−X2方向を「第1の水平方向」とし、Y1−Y2方向を「第2の水平方向」として説明する。
【0019】
磁気センサ1は、図1(a)、図1(b)に示すように、基板2上に形成された複数の磁気抵抗効果素子S1〜S3と、軟磁性体3とを有して構成される。
【0020】
図1(b)に示すようにシリコン等で形成された基板2上に図示しない絶縁層を介して各磁気抵抗効果素子S1〜S3が形成される。
【0021】
図4に示すように、磁気抵抗効果素子S(GMR素子)は、X1−X2方向に間隔を空けてY1−Y2方向に延出して形成された複数の素子部10と、各素子部10間を接続する導電性の接続部13とを有して構成される。図4に示すように磁気抵抗効果素子Sはミアンダ形状で形成されている。導電性の接続部13は永久磁石層(ハードバイアス層)とすることができる。あるいは図4では図示しない永久磁石層を配置することも可能である。図4に示す磁気抵抗効果素子Sの構成は一例であって、素子部10、永久磁石層、及び接続部の配置を限定するものでない。
【0022】
図5に示すように素子部10は、例えば下から非磁性下地層60、固定磁性層61、非磁性層62、フリー磁性層63及び保護層64の順に積層されて成膜される。第1素子部9を構成する各層は、例えばスパッタにて成膜される。
【0023】
図5に示す実施形態では、固定磁性層61は第1磁性層61aと第2磁性層61bと、第1磁性層61a及び第2磁性層61b間に介在する非磁性中間層61cとの積層フェリ構造である。各磁性層61a,61bはCoFe合金(コバルト−鉄合金)などの軟磁性材料で形成されている。非磁性中間層61cはRu等である。非磁性層62はCu(銅)などの非磁性材料で形成される。本実施形態では、磁気抵抗効果素子SをTMR素子とすることも可能であり、かかる場合、非磁性層62は絶縁層である。フリー磁性層63は、NiFe合金(ニッケル−鉄合金)などの軟磁性材料で形成されている。保護層64はTa(タンタル)などである。
【0024】
本実施形態では固定磁性層61を積層フェリ構造として、第1磁性層61aと第2磁性層61bとが反平行に磁化固定されたセルフピン止め構造である。ただし、反強磁性層を固定磁性層に接して形成し、磁場中熱処理によって反強磁性層と固定磁性層との間に交換結合磁界Hexを生じさせて、固定磁性層を所定の方向に磁化固定する構造であってもよい。例えば図6に示すセルフピン止め構造では、反強磁性層を用いず、よって磁場中熱処理を施すことなく固定磁性層61を構成する各磁性層61a,61bを磁化固定している。なお、各磁性層61a,61bの磁化固定力は、外部磁界が作用したときでも磁化揺らぎが生じない程度の大きさであれば足りる。
【0025】
この実施形態では、第2磁性層61bの固定磁化方向(P1;感度軸方向)がX1方向である。この固定磁化方向(P1)が固定磁性層61の固定磁化方向である。
【0026】
なお後述するように、本実施形態では全ての磁気抵抗効果素子Sの固定磁化方向P1を同じ向きにせず一部を180度反転させており(図1(a))、このような構成は上記したセルフピン止め構造により効果的に得ることが可能である。しかしながら反強磁性層を用いた構成であっても、例えば、一方の磁気抵抗効果素子Sを反強磁性層/固定磁性層[第1の磁性層/非磁性中間層/第2の磁性層]の積層構造とし、他方の磁気抵抗効果素子Sを反強磁性層/固定磁性層[第1の磁性層/非磁性中間層/第2の磁性層/非磁性中間層/第3の磁性層]として、これら磁気抵抗効果素子Sに対して同じ磁場中熱処理を施すことで、一方の磁気抵抗効果素子Sの固定磁化方向を規定する第2の磁性層の固定磁化方向P1と、他方の磁気抵抗効果素子Sの固定磁化方向を規定する第3の磁性層の固定磁化方向P1とを逆向きにすることができる。
【0027】
図1(b)に示すように、各磁気抵抗効果素子S1〜S3上から基板2上にかけて絶縁層4が形成されている。絶縁層4の上面4aはCMP技術等を用いて平坦化面に形成されている。
【0028】
図1(b)に示すように、絶縁層4の上面4aには、軟磁性体3が形成されている。図1(a)に示すように、軟磁性体3は、X1−X2の幅寸法よりもY1−Y2に沿って長く延出した形状で形成される。また、図1(b)に示すように、軟磁性体3のX1−X2における幅寸法T1に比べて膜厚T2のほうが大きく形成されている。T2/T1は、1.5〜4程度である。
【0029】
図1(b)に示す各磁気抵抗効果素子S1〜S3と軟磁性体3との間には、絶縁層4が介在するため、各磁気抵抗効果素子S1〜S3と軟磁性体3とは非接触である。なお図1(a)(図2、図3も同様)では絶縁層4を図示せず、軟磁性体3と各磁気抵抗効果素子S1〜S3との位置関係を示している。
【0030】
図1(a)(b)に示すように、第1の磁気抵抗効果素子S1と第2の磁気抵抗効果素子S2は、共に軟磁性体3のX1側面3a側に配置されている。第1の磁気抵抗効果素子S1と第2の磁気抵抗効果素子S2との間にはY1−Y2方向に所定の間隔が設けられている。図1(b)に示すように各磁気抵抗効果素子S1,S2は、軟磁性体3のX1側面3aからやや軟磁性体3の真下に入り込んでいるが、各磁気抵抗効果素子S1,S2のX2側面と軟磁性体3のX1側面3aとがZ1−Z2方向で一致していてもよいし、あるいは、各磁気抵抗効果素子S1,S2のX2側面が、軟磁性体3のX1側面3aよりもややX1側に離れて位置してもよい。
【0031】
図1(a)に示す第1の磁気抵抗効果素子S1及び第2の磁気抵抗効果素子S2に示される矢印P1は、図5で説明した固定磁性層61の固定磁化方向(第2磁性層61bの固定磁化方向;感度軸方向)を指す。図1(a)に示すように第1の磁気抵抗効果素子S1と第2の磁気抵抗効果素子S2の固定磁化方向P1は逆方向になっている。
【0032】
一方、第3の磁気抵抗効果素子S3は、軟磁性体3のX2側面3b側に配置されている。第3の磁気抵抗効果素子S3のY1−Y2方向における位置は、第1の磁気抵抗効果素子S1と第2の磁気抵抗効果素子S2との間のY1−Y2方向の間隔内となっているが、これに限定されるものでない。ただし、図1(a)に示すように第3の磁気抵抗効果素子S3の配置を第1磁気抵抗効果素子S1及び第2の磁気抵抗効果素子S2の双方に対してY1−Y2方向にずらした位置とすることで、各磁気抵抗効果素子S1〜S3における配線パターンの引き回しスペース等を適切に確保でき好適である。
【0033】
図1(b)に示すように第3の磁気抵抗効果素子S3は、軟磁性体3のX2側面3bよりもやや軟磁性体3の真下に入り込んでいるが、第3の磁気抵抗効果素子S3のX1側面と軟磁性体3のX2側面3bとがZ1−Z2方向で一致していてもよいし、あるいは、第3の磁気抵抗効果素子S3のX1側面が、軟磁性体3のX2側面3bよりもややX2側に離れて位置してもよい。
【0034】
後述する垂直磁界H3が軟磁性体3内を通り抜けて下面から漏れ出したときに水平磁界成分H4,H5が適切に各磁気抵抗効果素子S1,S3に入り込むように、軟磁性体3に対する各磁気抵抗効果素子S1,S3の位置が決められる。
【0035】
図1(a)に示すように、第3の磁気抵抗効果素子S3における固定磁性層の固定磁化方向P1は第1の磁気抵抗効果素子S1と同じ方向となっている。
【0036】
図1(a)では、各磁気抵抗効果素子S1〜S3が夫々、1個ずつ配置されているが、例えば軟磁性体3に対し、第1の磁気抵抗効果素子S1を2個、第2の磁気抵抗効果素子S2を2個、第3の磁気抵抗効果素子S3を4個、配置する。
【0037】
そして図1(c)のように、2個の第2の磁気抵抗効果素子S2と2個の第3の磁気抵抗効果素子S3とで第1のブリッジ回路11を構成し、2個の第1の磁気抵抗効果素子S1と2個の第3の磁気抵抗効果素子S3とで第2のブリッジ回路12を構成する。
【0038】
図1(c)に示す第1のブリッジ回路11は、図1(a)に示すX1−X2方向からの水平磁界H1を検知するためのものである。無磁場状態では、図5に示すフリー磁性層63はY1−Y2方向に向いている。フリー磁性層63の磁化制御は永久磁石層によるバイアス磁界や形状異方性等で行なうことが可能である。
【0039】
水平磁界H1が作用するとフリー磁性層63の磁化方向が水平磁界H1の方向に変動する。図1(a)に示すように水平磁界H1はX1方向に向けて作用するので、第1のブリッジ回路11を構成する第2の磁気抵抗効果素子S2及び第3の磁気抵抗効果素子S3の各フリー磁性層63の磁化方向もX1方向を向く。このとき第2の磁気抵抗効果素子S2の固定磁化方向P1はX2方向であるため、第2の磁気抵抗効果素子S2の電気抵抗値は無磁場状態から大きくなり、一方、第3の磁気抵抗効果素子S3の固定磁化方向P1はX1方向であるため、第3の磁気抵抗効果素子S3の電気抵抗値は無磁場状態から小さくなる。これにより出力端子V1,V2の中点電位が変動して出力を得ることが出来る。
【0040】
X1−X2方向の水平磁界H1に対して水平面内にて直交するY1−Y2方向からの水平磁界H2に対して軟磁性体3が磁気シールド効果を発揮し、水平磁界H2が各磁気抵抗効果素子S2,S3に流入する磁界を減衰させることができる。また水平磁界H2が作用しても各磁気抵抗効果素子S2,S3の電気抵抗値は全て同じ値になるために、図1(c)に示す第1のブリッジ回路11にて出力変動が生じない。また図1(b)に示すようにZ1−Z2方向からの垂直磁界H3が作用したとき、軟磁性体3のX1側面3a側に位置する第2の磁気抵抗効果素子S2には、X1方向への水平磁界成分H4が作用し、軟磁性体3のX2側面3b側に位置する第3の磁気抵抗効果素子S3には、X2方向への水平磁界成分H5が作用する。
【0041】
このため、第2の磁気抵抗効果素子S2及び第3の磁気抵抗効果素子S3の各固定磁化方向P1と、各フリー磁性層の磁化方向とが共に反平行になるため電気抵抗値は無磁場状態から大きくなるが、第2の磁気抵抗効果素子S2と第3の磁気抵抗効果素子S3とは同じ電気抵抗値となるため、図1(c)に示す第1のブリッジ回路11にて出力変動が生じない。
【0042】
よって第1のブリッジ回路11では、X1−X2方向からの水平磁界(成分)H1を検知するが、それ以外の方向からの外部磁界成分は検知せず、よって第1のブリッジ回路11に対する外乱磁場耐性を強化できる。
【0043】
また、図1(c)に示す第2のブリッジ回路12は、図1(b)に示す垂直磁界H3を検知するためのものである。垂直磁界H3は、軟磁性体3の上面から下面方向に誘導されると、軟磁性体3の下面から漏れ出たときに一部が、X1方向への水平磁界成分H4とX2方向への水平磁界成分H5とに変換される。
【0044】
図1(b)に示すように、軟磁性体3のX1側面3a側に配置された第1の磁気抵抗効果素子S1にはX1方向への水平磁界成分H4が作用し、軟磁性体3のX2側面3b側に配置された第3の磁気抵抗効果素子S3にはX2方向への水平磁界成分H5が作用する。第1の磁気抵抗効果素子S1の固定磁化方向P1はX1方向であるため、X1方向への水平磁界成分H4を受けることで、第1の磁気抵抗効果素子S1の電気抵抗値は無磁場状態から小さくなる。一方、第3の磁気抵抗効果素子S3の固定磁化方向P1もX1方向であるが、第3の磁気抵抗効果素子S3にはX2方向への水平磁界成分H5が作用することで、第3の磁気抵抗効果素子S3の電気抵抗値は無磁場状態から大きくなる。これにより出力端子V3,V4の中点電位が変動して出力を得ることが出来る。
【0045】
また、X1方向への水平磁界H1が作用したとき、第1の磁気抵抗効果素子S1及び第3の磁気抵抗効果素子S3は、共に同じ電気抵抗値になるから、図1(c)に示す第2のブリッジ回路12にて出力変動が生じない。同様に、Y1方向への水平磁界H2が作用したとき、第1の磁気抵抗効果素子S1及び第3の磁気抵抗効果素子S3は、共に同じ電気抵抗値になるから、図1(c)に示す第2のブリッジ回路12にて出力変動が生じない。
【0046】
よって第2のブリッジ回路12では、垂直磁界(成分)H3を検知するが、それ以外の方向からの外部磁界成分は検知せず、よって第2のブリッジ回路12に対する外乱磁場耐性を強化できる。
【0047】
図2は、図1(a)に示した磁気センサ1の基本構成をもとにして2チップ15,16でX1−X2方向の水平磁界H1を検知する第1のブリッジ回路11、垂直磁界H3を検知する第2のブリッジ回路12のみならず、Y1−Y2方向の水平磁界H2を検知する第3のブリッジ回路を構成することができ、これにより3軸検知が可能な磁気センサにできる。
【0048】
図2に示すように第1のチップ15には、Y1−Y2方向に長く延びる軟磁性体3と、軟磁性体3のX1−X2方向の両側に配置された各磁気抵抗効果素子S1〜S3とを有して構成される。図2に示すように第1のチップ15には第1の磁気抵抗効果素子S1が1個、第2の磁気抵抗効果素子S2が2個、第3の磁気抵抗効果素子S3が3個、配置されている。各磁気抵抗効果素子S1〜S3の膜構成や軟磁性体3に対する形成位置は図1、図4、図5で示した通りである。
【0049】
図2に示す第1のチップ15と同じ構成の第2のチップ16をもう一つ形成し、第2のチップ16は第1のチップ15に対して90度回転させた状態で配置する。これにより第2のチップ16に配置された各磁気抵抗効果素子S1〜S3の固定磁化方向P1(感度軸方向)はY1−Y2方向を向く。
【0050】
図2に示す第1のチップ15に設けられた2個の第2の磁気抵抗効果素子S2と2個の第3の磁気抵抗効果素子S3とでX1−X2方向の水平磁界を検知可能な第1のブリッジ回路11を構成し、図2に示す第2のチップ16に設けられた2個の第2の磁気抵抗効果素子S2と2個の第3の磁気抵抗効果素子S3とで、Y1−Y2方向の水平磁界を検知可能な第3のブリッジ回路を構成し、第1のチップ15にて残った第1の磁気抵抗効果素子S1と第3の磁気抵抗効果素子S3、及び第2のチップ16にて残った第1の磁気抵抗効果素子S1と第3の磁気抵抗効果素子S3にて垂直磁界を検知可能な第2のブリッジ回路12を構成することが出来る。
【0051】
図3に示すように1チップ17で3軸検知が可能な磁気センサを構成することもできる。
【0052】
図3では、Y1−Y2方向に長く延びる第1の軟磁性体18におけるX1−X2方向の両側に夫々、2個ずつ磁気抵抗効果素子S4〜S7が配置されている。磁気抵抗効果素子S4〜S7に示す太い矢印は固定磁化方向(感度軸方向)P1を示し、細い矢印は永久磁石層からのバイアス方向HBを示している。固定磁化方向P1はX1−X2方向であり、バイアス方向HBはY1−Y2方向である。
【0053】
図3に示すように、第1の軟磁性体18のX1面側に配置された磁気抵抗効果素子S4と磁気抵抗効果素子S6とは固定磁化方向P1が同じであるが、バイアス方向HBが反対方向となっている。また、第1の軟磁性体18のX2側面側に配置された磁気抵抗効果素子S5と磁気抵抗効果素子S7とは固定磁化方向P1が同じで且つ、磁気抵抗効果素子S4,S6とは反対方向となっている。また磁気抵抗効果素子S5と磁気抵抗効果素子S7のバイアス方向HBは反対方向となっている。これら磁気抵抗効果素子S4〜S7にてX軸検知のブリッジ回路が構成されている。すなわちX1−X2方向に外部磁界が作用すると、磁気抵抗効果素子S4及び磁気抵抗効果素子S6と、磁気抵抗効果素子S5及び磁気抵抗効果素子S7との間で電気抵抗値に差が出るため出力を得ることが可能になる。一方、Y1−Y2方向に水平磁界が作用したときと垂直磁界が作用したときとでは、出力変動が生じない。
【0054】
また図3では、X1−X2方向に長く延びる第2の軟磁性体20におけるY1−Y2方向の両側に夫々、2個ずつ磁気抵抗効果素子S12〜S15が配置されている。磁気抵抗効果素子S12〜S15に示す太い矢印は固定磁化方向(感度軸方向)P1を示し、細い矢印は永久磁石層からのバイアス方向HBを示している。固定磁化方向はY1−Y2方向であり、バイアス方向HBはX1−X2方向である。
【0055】
図3に示すように、第2の軟磁性体20のY1側面側に配置された磁気抵抗効果素子S12と磁気抵抗効果素子S14とは固定磁化方向P1が同じであるが、バイアス方向HBが反対方向となっている。また、第3の軟磁性体20のY2側面側に配置された磁気抵抗効果素子S13と磁気抵抗効果素子S15とは固定磁化方向P1が同じで且つ、磁気抵抗効果素子S12,S14とは反対方向となっている。また磁気抵抗効果素子S13と磁気抵抗効果素子S15のバイアス方向HBは反対方向となっている。これら磁気抵抗効果素子S12〜S15にてY軸検知のブリッジ回路が構成されている。すなわちY1−Y2方向に外部磁界が作用すると、磁気抵抗効果素子S12及び磁気抵抗効果素子S14と、磁気抵抗効果素子S13及び磁気抵抗効果素子S15との間で電気抵抗値に差が出るため出力を得ることが可能になる。一方、X1−X2方向に水平磁界が作用したときと垂直磁界が作用したときとでは、出力変動が生じない。
【0056】
また図3では、Y1−Y2方向に長く延びる第3の軟磁性体19のX1−X2方向の両側に夫々、2個ずつ磁気抵抗効果素子S8〜S11が配置されている。磁気抵抗効果素子S8〜S11に示す太い矢印は固定磁化方向(感度軸方向)P1を示し、細い矢印は永久磁石層からのバイアス方向HBを示している。固定磁化方向はX1−X2方向であり、バイアス方向HBはY1−Y2方向である。
【0057】
図3に示すように、第3の軟磁性体19のX1−X2方向の両側に配置された各磁気抵抗効果素子S8〜S11の固定磁化方向P1は全て同じ方向である。また磁気抵抗効果素子S8と磁気抵抗効果素子S9のバイアス方向HBは同方向であるが、磁気抵抗効果素子S10と磁気抵抗効果素子S11のバイアス方向HBは、磁気抵抗効果素子S8,S9に対して反対方向である。これら磁気抵抗効果素子S8〜S11にてZ軸検知のブリッジ回路が構成されている。すなわちZ方向からの垂直磁界が作用すると、磁気抵抗効果素子S8及び磁気抵抗効果素子S10と、磁気抵抗効果素子S9及び磁気抵抗効果素子S11との間で電気抵抗値に差が出るため出力を得ることが可能になる。一方、X1−X2方向及びY1−Y2方向に水平磁界が作用したときでは、出力変動が生じない。
【0058】
図3に示すZ軸検知のブリッジ回路では、軟磁性体19の両側に配置される磁気抵抗効果素子S8〜S11の固定磁化方向P1が全て同じ方向になるように制御すれば図3と異なる形態にすることもできる。例えば軟磁性体19及び各磁気抵抗効果素子S8〜S11を図3の状態から90度回転させた配置にしてもよいし、X方向及びY方向の双方に対して斜め方向に配置してもよい。ただしX方向かY方向に揃えたほうが成膜回数を減らすことができ好適である。
【0059】
図2、図3では、各磁気抵抗効果素子S1〜S15を図5に示したセルフピン構造としているため、反強磁性層を用いず、よって磁場中熱処理を施すことなく固定磁性層を構成する第1磁性層61aと第2磁性層61bとを反平行に磁化固定できる。したがって、同じチップ内に固定磁化方向が異なる複数の磁気抵抗効果素子S1〜S15を適切に形成することが可能になる。
【0060】
図3の構成では、各磁気抵抗効果素子S4〜S15の固定磁化方向P1及びバイアス方向HBにより計8回の成膜を要するが、磁気抵抗効果素子S4,S6に対するバイアス方向HB、磁気抵抗効果素子S5,S7,S8〜S11に対するバイアス方向HB、磁気抵抗効果素子S12,S14に対するバイアス方向HB、及び、磁気抵抗効果素子S13,S15に対するバイアス方向HBを夫々統一させることで、計4回の成膜回数に減らすことが出来る。
【符号の説明】
【0061】
H1、H2、H4、H5 水平磁界(成分)
H3 垂直磁界
P1 固定磁化方向(感度軸方向)
S、S1〜S15 磁気抵抗効果素子
1 磁気センサ
2 基板
3、18〜20 軟磁性体
4 絶縁層
10 素子部
11、12 ブリッジ回路
15、16、17 チップ
61 固定磁性層
61a、61b 磁性層
61c 非磁性中間層
63 フリー磁性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性層と非磁性層とが積層されて成る磁気抵抗効果を発揮する複数の磁気抵抗効果素子と、各磁気抵抗効果素子と絶縁層を介して非接触の位置に設けられた軟磁性体とを有し、
平面視にて前記軟磁性体の第1の水平方向の両側に夫々、固定磁性層の固定磁化方向が、前記第1の水平方向に向けられた前記磁気抵抗効果素子が配置されており、前記軟磁性体の両側に配置された前記磁気抵抗効果素子同士、あるいは、前記軟磁性体の同じ側面側に配置された前記磁気抵抗効果素子同士で、前記固定磁化方向が互いに逆方向にされていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記軟磁性体の同じ側面側に配置され、且つ前記固定磁化方向が互いに逆方向の第1の磁気抵抗効果素子及び第2の磁気抵抗効果素子と、前記第1の磁気抵抗効果素子及び前記第2の磁気抵抗効果素子と反対側の前記軟磁性体の側面側に配置され、前記第1の磁気抵抗効果素子と同じ固定磁化方向を備える第3の磁気抵抗効果素子とを有し、
前記第2の磁気抵抗効果素子と前記第3の磁気抵抗効果素子とにより、前記第1の水平方向からの水平磁界を検知可能な第1のブリッジ回路が構成され、
前記第1の磁気抵抗効果素子と前記第3の磁気抵抗効果素子とにより、前記軟磁性体の膜厚方向からの垂直磁界を検知可能な第2のブリッジ回路が構成される請求項1記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記軟磁性体、前記第1の磁気抵抗効果素子、前記第2の磁気抵抗効果素子及び前記第3の磁気抵抗効果素子を有するチップを2つ用意し、一方の前記チップを90度回転させて各磁気抵抗効果素子の固定磁化方向を前記第1の水平方向に直交する第2の水平方向に向けて、前記第1の水平方向からの水平磁界を検知可能な前記第1のブリッジ回路と、垂直磁界を検知可能な前記第2のブリッジ回路とともに、前記第2の水平方向からの水平磁界を検知可能な第3のブリッジ回路を構成する請求項2記載の磁気センサ。
【請求項4】
1チップ内に、
第1の軟磁性体の前記第1の水平方向における両側に配置された各磁気抵抗効果素子の固定磁性層が互いに逆方向に固定磁化されて、前記第1の水平方向からの水平磁界を検知可能なブリッジ回路が構成され、
前記第1の軟磁性体とは別の第2の軟磁性体が設けられ、平面視にて前記第2の軟磁性体の第1の水平方向に対して直交する第2の水平方向の両側に前記固定磁性層の固定磁化方向が、前記第2の水平方向に向けられた前記磁気抵抗効果素子が配置されており、前記第2の軟磁性体における前記第2の水平方向の両側に配置された各磁気抵抗効果素子の固定磁性層が互いに逆方向に固定磁化されて、前記第2の水平方向からの水平磁界を検知可能なブリッジ回路が構成され、
前記第1の軟磁性体及び前記第2の軟磁性体とは別の第3の軟磁性体が設けられ、平面視にて前記第3の軟磁性体の両側に前記固定磁性層が同じ方向に固定磁化された各磁気抵抗効果素子が配置されて、前記第3の軟磁性体の膜厚方向からの垂直磁界を検知可能なブリッジ回路が構成されている請求項1記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記磁気抵抗効果素子は、前記固定磁性層とフリー磁性層とが非磁性材料層を介して積層された積層構造を備え、
前記固定磁性層は、第1磁性層と前記非磁性材料層に接する第2磁性層とが非磁性中間層を介して積層され、前記第1磁性層と前記第2磁性層とが反平行に磁化固定されたセルフピン止め型である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−127788(P2012−127788A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279241(P2010−279241)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】