説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法

【課題】磁気ディスク用ガラス基板の製造における液処理工程において、ガラス基板を保持する基板ホルダ自体から、或いは基板ホルダとガラス基板の接触による発塵を防止し、低フライングハイト化の阻害やサーマルアスペリティの要因となるガラス基板上の微小異物の付着を低減できる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】磁気ディスク用ガラス基板の製造における液処理工程、例えば洗浄処理工程において、少なくとも表面部が、ガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂からなる基板ホルダ20でガラス基板10を保持して上記液処理工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)などの磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクの製造方法又は、該磁気ディスクを製造するための磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)等の情報処理機器用記録媒体の一つとして磁気ディスクがある。磁気ディスクは、基板上に磁性層等の薄膜を形成して構成されたものであり、その基板としてはアルミ基板が用いられてきた。しかし、最近では、高記録密度化の追求に呼応して、アルミと比べて磁気ヘッドと磁気ディスクとの間隔をより狭くすることが可能なガラス基板の占める比率が次第に高くなってきている。また、ガラス基板表面は磁気ヘッドの浮上高さを極力下げることができるように、高精度に研磨して高記録密度化を実現している。
【0003】
上述したように高記録密度化にとって必要な低フライングハイト(浮上量)化のために磁気ディスク表面の高い平滑性は必要不可欠である。磁気ディスク表面の高い平滑性を得るためには、結局、高い平滑性の基板表面が求められるが、もはや、高精度に基板表面を研磨するだけでは、磁気ディスクの高記録密度化を実現できない段階まできている。つまり、いくら、高精度に研磨しても基板上に異物が付着していては高い平滑性は得られない。勿論、従来から異物の除去はなされていたが、従来では許容されていた基板上の異物が、今日の高密度化のレベルでは問題視される状況にある。
【0004】
高い平滑性を有するガラス基板は、酸化セリウム系研磨剤を使った精密研磨によって得ることが可能である。しかし、酸化セリウム系研磨剤による研磨工程の後、通常の洗浄では除去できない突起異物が残ることで、表面粗さの低減ができないという問題がある。この突起異物は研磨砥粒が基板上に残留して形成されている場合が多い。
付着した酸化セリウム砥粒により形成された突起異物を除去する技術として、例えば情報記録媒体用ガラス基板の技術分野においては、酸化セリウム砥粒を用いた研磨の後に、硫酸洗浄を行うことが提案されている(下記特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−348338号公報
【特許文献2】特開2006−99942号公報
【特許文献3】特開平11−25454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、ハードディスクドライブ(HDD)では60Gbit/inch以上の情報記録密度が要求されるようになってきた。これは一つに、HDDが従来のコンピュータ用記憶装置としてのニーズに加えて、携帯電話やナビゲーションシステム、デジタルカメラ等に搭載されるようになってきたことと関係がある。
これらの新規用途の場合、HDDを搭載する筐体スペースがコンピュータに比べて著しく小さいので、HDDを小型化する必要がある。このためには、HDDに搭載する磁気ディスクの径を小径化する必要がある。例えば、コンピュータ用途では3.5インチ型や2.5インチ型の磁気ディスクを用いることが出来たが、上記新規用途の場合では、これよりも小径の、例えば0.8インチ型〜1.8インチ型などの小径磁気ディスクが用いられる。このように磁気ディスクを小径化した場合であっても一定以上の情報容量を格納させる必要があるので、勢い、情報記録密度の向上に拍車がかかることになる。
【0007】
また、限られたディスク面積を有効に利用するために、従来のCSS(Contact Start andStop)方式に代えてLUL(Load Unload:ロードアンロード)方式のHDDが用いられるようになってきた。LUL方式では、HDDの停止時には、磁気ヘッドを磁気ディスクの外に位置するランプと呼ばれる傾斜台に退避させておき、起動動作時には磁気ディスクが回転開始した後に、磁気ヘッドをランプから磁気ディスク上に滑動させ、浮上飛行させて記録再生を行なう。停止動作時には磁気ヘッドを磁気ディスク外のランプに退避させたのち、磁気ディスクの回転を停止する。この一連の動作はLUL動作と呼ばれる。LUL方式HDD用の磁気ディスクでは、CSS方式のような磁気ヘッドとの接触摺動用領域(CSS領域)を設ける必要がなく、記録再生領域を拡大させることができ、高情報容量化にとって好ましいからである。
【0008】
このような状況の下で情報記録密度を向上させるためには、磁気ヘッドの浮上量を低減させることにより、スペーシングロスを限りなく低減する必要がある。1平方インチ当り60ギガビット以上の情報記録密度を達成するためには、磁気ヘッドの浮上量は10nm以下にする必要がある。LUL方式ではCSS方式と異なり、磁気ディスク面上にCSS用の凸凹形状を設ける必要が無く、磁気ディスク面上を極めて平滑化することが可能となる。よってLUL方式用磁気ディスクでは、CSS方式に比べて磁気ヘッド浮上量を一段と低下させることができるので、記録信号の高S/N比化を図ることができ、磁気ディスク装置の高記録容量化に資することができるという利点もある。
【0009】
最近のLUL方式の導入に伴う、磁気ヘッド浮上量の一段の低下により、10nm以下の極低浮上量においても、磁気ディスクが安定して動作することが求められるようになってきた。
このように、磁気ディスクの記録容量は年々増加の一途をたどっており、それに伴って磁気ヘッドの浮上量も10nmを切るまでに至っている。この領域では磁気ディスク上のごく小さな欠陥(ディフェクト)でも信頼性に多大な影響を及ぼす。これまで、磁気ディスク及びそのガラス基板表面の清浄度は、光学系表面分析装置(OSA)等を用いた欠陥検査によって評価されてきた。とりわけ近年、磁気ディスクは面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式に移行しており、磁気ディスクの大容量化、それに伴うフライングハイトの低下が強く要求されている。
【0010】
本発明者は、従来の磁気ディスク用ガラス基板の製造における洗浄処理後のガラス基板上の異物の種類を検討するため、異物の存在する位置をマーキングし、詳細に分析したところ、微小なステンレス(SUS)、鉄等の金属酸化物や、ガラスの微小破片(ガラスチップ)、カーボンコンタミ等が存在することが判明した。このうち、ステンレス、鉄等が、洗浄処理後のガラス基板上の異物の半数以上を占めることも判明した。これらの異物がガラス基板上に付着したまま、磁性層を成膜すると、磁気ディスク表面に微小な突起が形成され、低フライングハイト化の阻害やサーマルアスペリティ(TA)の原因となる。
【0011】
上記の微小な異物を除去するのに最も良い方法は、微小異物を構成する元素を含む物質を製造プロセス中から排除することである。特に、洗浄処理工程等で基板搬送用に用いられる、ガラス基板を保持する基板ホルダの材質として従来用いられているSUSやその接合部から、超音波振動等により発塵した成分が洗浄液を介して基板表面に付着することが上記の微小異物が発生する大きな要因である。
【0012】
上記特許文献2には、基板ホルダとラックの接触部に樹脂を使用することで、接触による発塵を防止することが開示されている。また、上記特許文献3には、材質としてガラスを用いた基板ホルダを使用する製造プロセスが開示されている。
しかし、上記特許文献2に開示された技術では、基板ホルダの一部は樹脂等で構成されるが、その他の部分はSUS等の金属を使用しているため、微小異物の発生を防止するには不充分であり、また上記特許文献3に開示された技術では、ガラス基板とガラス製基板ホルダの接触部からの発塵と、ガラス基板端部の欠けや傷付きなどを防止することが出来ない点で不充分である。
【0013】
本発明は以上の課題に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、磁気ディスク用ガラス基板の製造における液処理工程において、ガラス基板を保持する基板ホルダ自体から、或いは基板ホルダとガラス基板の接触による発塵を防止し、低フライングハイト化の阻害やサーマルアスペリティの要因となるガラス基板上の微小異物の付着を低減できる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、および該製造方法によって製造されたガラス基板を利用した磁気ディスクの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の構成を有する発明である。
(発明の構成1)
磁気ディスク用ガラス基板の製造における液処理工程において、少なくとも表面部が、ガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂からなる基板ホルダでガラス基板を保持して前記液処理工程を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0015】
(発明の構成2)
前記液処理工程が、洗浄処理工程であることを特徴とする構成1に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0016】
(発明の構成3)
前記基板ホルダは、ガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂で成型されていることを特徴とする構成1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(発明の構成4)
前記ガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂として、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いることを特徴とする構成1乃至3のいずれか一に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0017】
(発明の構成5)
構成1乃至4のいずれか一に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造されたガラス基板上に、少なくとも磁性層を成膜することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、磁気ディスク用ガラス基板の製造における液処理工程において、少なくとも表面部が、ガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂からなる基板ホルダでガラス基板を保持して前記液処理工程を行うことにより、液処理工程である例えば洗浄処理工程において、ガラス基板を保持する基板ホルダ自体から、或いは基板ホルダとガラス基板の接触による発塵を防止でき、その結果、低フライングハイト化の阻害やサーマルアスペリティの要因となるガラス基板上の微小異物の付着を低減することができる。
また、上述の本発明による製造方法によって製造され、ガラス基板上の微小異物の付着を低減したガラス基板を利用した磁気ディスクの製造方法により、信頼性の高い磁気ディスクを提供することができる。
【発明の実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、磁気ディスク用ガラス基板の製造における液処理工程において、少なくとも表面部が、ガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂からなる基板ホルダでガラス基板を保持して前記液処理工程を行うことを特徴とする。かかる本発明によれば、磁気ディスク用ガラス基板の製造における液処理工程において、ガラス基板を保持する基板ホルダ自体から、或いは基板ホルダとガラス基板の接触による発塵を防止できる。その結果、低フライングハイト化の阻害やサーマルアスペリティの要因となるガラス基板上の微小異物の付着を低減することができる。
【0020】
磁気ディスク用ガラス基板の製造における液処理工程とは、例えばガラス基板の鏡面研磨処理工程の後の洗浄処理工程である。
ここで、上記基板ホルダについて説明する。
図1及び図2はそれぞれ、磁気ディスク用ガラス基板10を多数枚収納した状態の例えばディスク搬送用の基板ホルダの側面図及び正面図を示したものである。
基板ホルダ20は、左右2枚の側壁板23と24が、これら側壁板間に設置された複数本の保持部21,22によって所定の間隔を保持した状態で構成されている。複数本の保持部21は上方の,保持部22は下方のそれぞれ所定の位置に配置されており、保持部21,22の各両端はそれぞれ左右の側壁板23,24に軸留めされている。各ガラス基板10は、その両側端面と下端面とをそれぞれ保持する上記保持部21,22によって垂直方向に立てた状態で保持され、上記保持部21,22の各軸方向には溝21a,22aがそれぞれ多数形成されており、この溝21a,22aによって各ガラス基板10は互いに接触しないように所定の間隔を保って基板ホルダ20内に収納できるように構成されている。
【0021】
なお、上記磁気ディスク用ガラス基板10は、図3に示すように、中央に円孔を有するディスク状に形成され、表裏2つの主表面101,101と、その間に形成された内外周の端面102,102からなる。
【0022】
磁気ディスク用ガラス基板の製造における液処理工程である、例えばガラス基板の鏡面研磨処理工程の後の洗浄処理工程において、磁気ディスク用ガラス基板10を多数枚収納した状態の上記基板ホルダ20は、洗浄液を収容する洗浄槽(図示せず)中に浸漬され、場合によっては超音波振動を付加しながら行う洗浄処理に供される。また、自動洗浄処理装置などの場合は、磁気ディスク用ガラス基板10を収納した状態の上記基板ホルダ20ごと例えばコンベアの搬送ローラ上を搬送される。
【0023】
本発明においては、上記基板ホルダ20は、少なくとも表面部が、ガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂から形成されている。ガラス基板よりも硬度が低い樹脂を用いることにより、基板ホルダとガラス基板との接触による発塵を防止することが出来る。また、強度の高い樹脂を用いることにより、基板ホルダとしての強度を適度に保持でき、しかも基板ホルダ自体、例えばその接合部等からの発塵を防ぐことが出来る。
【0024】
このような目的に使用される上記のガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂を好ましく用いることができる。また、これらの樹脂は、例えば硫酸等の洗浄液に対する耐性にも優れるため、洗浄処理中に溶け出してパーティクル等を発生するおそれがない。
【0025】
たとえば製造上の容易性などの観点からは、上記のガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂で成型された基板ホルダを用いるのが本発明ではとくに好適であるが、SUS等の骨組みに上記ガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂を被覆した基板ホルダを用いることも可能である。
なお、上述の図1及び図2は、基板ホルダの構造のあくまでも一例を示したものであり、基板ホルダの構造に関しては、本発明はこれにはまったく限定される必要の無いことは勿論である。
【0026】
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、少なくともガラス基板の鏡面研磨処理工程と洗浄処理工程を含む。
本発明においては、ガラス基板の鏡面研磨に利用する研磨剤は特に限定されないが、例えば希土類酸化物を主成分とする研磨剤が挙げられる。取り分け、酸化セリウムを主成分として含む酸化セリウム系研磨剤であることが好ましく挙げられる。
【0027】
本発明における鏡面研磨の方法は特に限定されるものではないが、例えば、ガラス基板と研磨布を接触させ、研磨剤を供給しながら、前記研磨布とガラス基板とを相対的に移動させて、ガラス基板の表面を鏡面状に研磨すればよい。研磨布としては研磨パッドを用いることができる。研磨パッドとしては、軟質ポリッシャの研磨パッドであることが好ましい。研磨パッドの硬度はアスカーC硬度で、60以上80以下とすることが好適である。研磨パッドのガラス基板との当接面は、発泡ポアが開口した発泡樹脂、取り分け発泡ポリウレタンとすることがこのましい。研磨剤に含有される研磨砥粒の平均粒径は0.1μm以上1μm以下とすることができる。このようにして研磨を行うと、ガラス基板の表面を平滑な鏡面状に研磨することができる。
【0028】
本発明においては、ガラス基板を構成するガラスは、アモルファスのアルミノシリケートガラスとすることが好ましい。このようなガラス基板は表面を鏡面研磨することにより平滑な鏡面に仕上げることができる。このようなアルミノシリケートガラスとしては、SiO2が58重量%以上75重量%以下、Al23が5重量%以上23重量%以下、Li2Oが3重量%以上10重量%以下、Na2Oが4重量%以上13重量%以下を主成分として含有するアルミノシリケートガラス(ただし、リン酸化物を含まないアルミノシリケートガラス)を用いることができる。例えば、SiO2 が62重量%以上75重量%以下、Al23が5重量%以上15重量%以下、Li2 Oが4重量%以上10重量%以下、Na2 Oが4重量%以上12重量%以下、ZrO2が5.5重量%以上15重量%以下を主成分として含有するとともに、Na2O/ZrO2 の重量比が0.5以上2.0以下、Al23 /ZrO2 の重量比が0.4以上2.5以下であるリン酸化物を含まないアモルファスのアルミノシリケートガラスとすることができる。なお、CaOやMgOといったアルカリ土類金属酸化物を含まないガラスであることが望ましい。このようなガラスとしては、HOYA株式会社製のN5ガラス(商品名)を挙げることができる。
【0029】
上述のガラス基板の鏡面研磨処理工程の後に、洗浄処理工程を行う。洗浄処理の方法は特に制約される必要は無い。本発明においては、洗浄処理後のガラス基板の表面は、最大粗さRmaxが6nm以下である鏡面とされることが好ましい。このような鏡面状態は、鏡面研磨処理と洗浄処理をこの順で行うことにより実現することができる。
前述したように、この洗浄処理工程において、本発明を実施するのが特に好適である。もちろん、本発明は、磁気ディスク用ガラス基板の製造における洗浄処理以外の液処理工程にも適用することができる。但し、この場合、基板ホルダの材質の処理液に対する耐性を考慮することが望ましい。
【0030】
洗浄処理工程の後に、化学強化処理を施してもよい。化学強化処理の方法としては、例えば、ガラス転移点の温度を超えない温度領域、例えば摂氏300度以上400度以下の温度で、イオン交換を行う低温型イオン交換法などが好ましい。化学強化処理とは、溶融させた化学強化塩とガラス基板とを接触させることにより、化学強化塩中の相対的に大きな原子半径のアルカリ金属元素と、ガラス基板中の相対的に小さな原子半径のアルカリ金属元素とをイオン交換し、ガラス基板の表層に該イオン半径の大きなアルカリ金属元素を浸透させ、ガラス基板の表面に圧縮応力を生じさせる処理のことである。化学強化処理されたガラス基板は耐衝撃性に優れているので、例えばモバイル用途のHDDに搭載するのに特に好ましい。化学強化塩としては、硝酸カリウムや硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属硝酸を好ましく用いることができる。
【0031】
また、洗浄処理工程の後に、テープ研磨処理を行うことができる。最近では、磁気ディスクの情報記録密度を向上させる目的で、磁気ディスクの磁性層に対して、ディスクの円周方向に沿う磁気異方性を付与する場合がある。ディスクの円周方向とは即ち磁気ヘッドの移動方向であるので、この方向に沿って磁気異方性が付与されていると、高記録密度化に資するからである。ディスク状ガラス基板の表面にテープ研磨処理を行うことにより、ディスクの円周方向に配向する筋状の筋からなるテクスチャを形成することができる。このテクスチャ処理が施されたガラス基板上に磁性層を形成すると、ディスクの円周方向に磁気異方性を生じせしめることができる。このテクスチャ処理は、例えば研磨テープとガラス基板とを接触させ、研磨テープとガラス基板とを相対的に移動させることにより、ガラス基板の表面にテクスチャが形成される。
【0032】
上述の本発明による製造方法によって製造され、ガラス基板上の微小異物の付着を低減したガラス基板を利用して磁気ディスクを製造することにより、低浮上量の下で長期間使用しても故障が無く信頼性の高い磁気ディスクを提供することができる。
【0033】
本発明において磁気ディスクは、本発明による磁気ディスク用ガラス基板の上に少なくとも磁性層を形成して製造される。磁性層の材料としては、異方性磁界の大きな六方晶系であるCoPt系強磁性合金を用いることができる。磁性層の形成方法としてはスパッタリング法、例えばDCマグネトロンスパッタリング法によりガラス基板の上に磁性層を成膜する方法を用いることができる。またガラス基板と磁性層との間に、下地層を介挿することにより磁性層の磁性グレインの配向方向や磁性グレインの大きさを制御することができる。例えば,Cr系合金など立方晶系下地層を用いることにより、例えば磁性層の磁化容易方向を磁気ディスク面に沿って配向させることができる。この場合、面内磁気記録方式の磁気ディスクが製造される。また、例えば、RuやTiを含む六方晶系下地層を用いることにより、例えば磁性層の磁化容易方向を磁気ディスク面の法線に沿って配向させることができる。この場合、垂直磁気記録方式の磁気ディスクが製造される。下地層は磁性層同様にスパッタリング法により形成することができる。
【0034】
また、本発明においては、磁性層の上に、保護層、潤滑層をこの順に形成するとよい。保護層としてはアモルファスの水素化炭素系保護層が好適である。例えばプラズマCVD法により保護層を形成することができる。保護層の膜厚としては、30オングストロームから80オングストロームが好ましい。また、潤滑層としては、パーフルオロポリエーテル化合物の主鎖の末端に官能基を有する潤滑剤を用いることができる。取り分け、極性官能基として水酸基を末端に備えるパーフルオロポリエーテル化合物を主成分とすることが好ましい。潤滑層の膜厚は5オングストロームから15オングストロームとすることが好ましい。潤滑層はディップ法により塗布形成することができる。
本発明のガラス基板を用いて得られる高信頼性の磁気ディスクは、携帯電話やナビゲーションシステム、デジタルカメラなどのモバイル機器に搭載されるハードディスクドライブ用磁気ディスクとして特に好適である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を更に詳細に説明する。
以下の(1)荒ずり工程、(2)端面鏡面研磨工程、(3)ラッピング工程、(4)第一研磨工程、(5)第二研磨工程(主表面鏡面研磨工程)、(6)洗浄工程(鏡面研磨後洗浄工程)を経て磁気ディスク用ガラス基板を製造した。
【0036】
(1)荒ずり工程
まず、プレス法で成型したガラスディスクを、比較的粗いダイヤモンド砥石で研削加工した。次いで、上記砥石よりも粒度の細かいダイヤモンド砥石で上記ガラスディスクの両面を研削加工した。これにより、ガラス基板表面の表面粗さをRmax(JISB0601で測定)で10μm程度に仕上げた。次に、円筒状の砥石を用いてディスク状のガラス基板の中心部に孔を開けてドーナツ状のガラス基板とした。
【0037】
(2)端面鏡面研磨工程
次いで、ブラシ研磨により、ガラス基板を回転させながらガラス基板の端面の表面粗さを、Rmaxで1μm、Raで0.3μm程度に鏡面研磨した。研磨剤としては酸化セリウム研磨剤を用いた。その後ガラス基板の表面を水洗浄した。
(3)ラッピング工程
次に、ガラス基板にラッピング処理を施した。このラッピング工程は、寸法精度及び形状精度の向上を目的としている。ラッピング処理は、ラッピング装置を用いて行い、砥粒の粒度を#400、#1000と替えて2回行った。
【0038】
(4)第一研磨工程
次に、第一研磨工程を施した。この第一研磨工程は、上述したラッピング工程で残留した傷や歪みの除去を目的とするもので、研磨装置を用いて行った。詳しくは、ポリウレタン製の硬質研磨パッドを用い、研磨剤としては酸化セリウム研磨剤を用いた。上記第一研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
(5)第二研磨工程(主面鏡面研磨工程)
次に、第一研磨工程で使用したのと同様の研磨装置を用い、研磨パッドを硬質研磨パッドから軟質研磨パッドに替えて、第二研磨工程を実施した。この第二研磨工程で行う処理は、上述した第一研磨工程で得られた平坦な主表面を維持しつつ、例えば主表面の表面粗さRmaxが6nm程度以下である平滑な鏡面に仕上げる鏡面研磨処理である。研磨パッドはアスカーC硬度で72の軟質研磨パッドを用いた。研磨液は、酸化セリウム研磨剤を純水に分散させた研磨液とした。
【0039】
(6)洗浄工程(鏡面研磨後洗浄工程)
この洗浄工程は、鏡面研磨工程で鏡面に仕上げられたガラス基板の表面に残留する研磨剤を除去するための洗浄工程である。硫酸を含む洗浄液を作製し、この洗浄液を用いて洗浄処理を行った。
この洗浄処理は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂で成型された図1及び図2に示すような基板ホルダに多数枚のガラス基板を設置して、この洗浄液(約40℃)を収容した洗浄槽中に浸漬させ、適当な超音波振動を付与しながら、約5分間行った。
【0040】
この洗浄処理を終えたガラス基板の主表面の縦5μm、横5μmの正方形領域の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)で測定したところ、Rmaxで4.0nm、Raで0.4nmであった。
また、洗浄処理後のガラス基板表面の異物欠陥を検査するため、異物の位置を光学系表面分析装置で解析、マーキングし、SEM(走査型電子顕微鏡)観察とEDX(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)による元素分析を実施した。その結果、若干の異物欠陥が発見されたが、この基板を用いて磁気ディスクを製造した場合、問題となるような異物欠陥はなかった。
【0041】
なお、上述の実施例に対する比較例として、上記洗浄処理工程に用いた基板ホルダとして、材質がSUS製のものと、ガラス製のものをそれぞれ使用したこと以外は、上記実施例と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を作製し、洗浄処理後のガラス基板表面の異物欠陥を検査した。その結果、SUS製の基板ホルダを用いて洗浄処理を行った場合、この基板ホルダの材質によると考えられるSUSの微小異物が多数発見された。また、ガラス製の基板ホルダを用いて洗浄処理を行った場合、ガラス基板とガラス製基板ホルダの接触部からの発塵と、ガラス基板端部の欠けや傷付きなどによるものと考えられるガラスチップの微小異物が多数発見された。これらの異物が付着したガラス基板を用いて磁気ディスクとすると、磁気ディスク表面に微小な突起が形成され、サーマルアスペリティ等による故障の原因となり、磁気ディスクの信頼性が得られない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】基板ホルダの構造の一例を示す側面図である。
【図2】基板ホルダの構造の一例を示す正面図である。
【図3】磁気ディスク用ガラス基板の斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
10 磁気ディスク用ガラス基板
20 基板ホルダ
21,22 保持部
23,24 側壁板
101 基板の主表面
102 基板の端面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク用ガラス基板の製造における液処理工程において、少なくとも表面部が、ガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂からなる基板ホルダでガラス基板を保持して前記液処理工程を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記液処理工程が、洗浄処理工程であることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記基板ホルダは、ガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂で成型されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス基板よりも硬度が低く、かつ、強度の高い樹脂として、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造されたガラス基板上に、少なくとも磁性層を成膜することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−116950(P2009−116950A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288862(P2007−288862)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】