説明

磁気抵抗効果素子及びその製造方法、並びに磁気ヘッド、磁気ヘッドスライダ、ヘッドジンバルアセンブリ、ハードディスクドライブ装置

【課題】スペーサ層に隣接する磁性層の酸化を防止し、かつ大きなMR変化率を実現する。
【解決手段】磁気抵抗効果素子4は、外部磁界に応答して磁化方向のなす相対角度が変化する第1及び第2の磁性層L1,L2と、その間に位置するスペーサ層16と、を有している。第1の磁性層は、磁気抵抗効果素子4が形成される基板に対し、第2の磁性層よりも近い側に位置している。スペーサ層16は、銅層16aと、金属中間層16bと、酸化ガリウムを主成分とする主スペーサ層16cと、を有し、銅層及び金属中間層が主スペーサ層と第1の磁性層との間に位置し、金属中間層は銅層と主スペーサ層との間に位置している。金属中間層は、マグネシウムまたは少なくとも一部が酸化されたマグネシウム、アルミニウムまたは少なくとも一部が酸化されたアルミニウム、及び亜鉛または少なくとも一部が酸化された亜鉛からなる群から選択された少なくとも一つを主成分としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気抵抗効果素子とその製造方法に関し、特に、スペーサ層の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)の高記録密度化に伴い、高感度、高出力の再生ヘッドが要求されている。このような再生ヘッドの一つとしてスピンバルブヘッドが開発されている。スピンバルブヘッドは、非磁性金属層と、非磁性金属層の両面に非磁性金属層に接して位置する一対の強磁性層と、を有している。強磁性層の一方は磁化方向が一方向に固定されており(以下、このような層を磁化固定層という)、他方は磁化方向が外部磁界に応答して自由に回転する(以下、このような層を磁化自由層という)。外部磁界が印加されると磁化固定層と磁化自由層との間のスピンの相対角度が変化し、磁気抵抗変化が実現される。磁化固定層は典型的には、反強磁性層の交換結合力を利用して磁化方向が固定されている。
【0003】
一方、更なる高記録密度化を実現するためにはリードギャップ(上下シールド層間の間隔)の縮小が必要である。しかし、リードギャップを20nm程度まで縮小する場合、反強磁性層をリードギャップ内に配置することが困難となる。このため、一対の磁化自由層をスペーサ層の両側に配置する構成が開発されている。この構成によれば反強磁性層が不要であるため、リードギャップの縮小の実現が容易となる。
【0004】
いずれの構成においても、スペーサ層は磁気抵抗変化を実現するための必須の構成要素であり、大きな磁気抵抗変化率(以下、MR変化率という)の達成に有望なスペーサ層の材料が開発されている。従来から、スペーサ層に抵抗調整層を設け、センス電流の流れる経路を絞ることによってMR変化率を高める技術が知られている。しかしこの技術は、導電部にセンス電流が集中し電流密度が高まるので、信頼性の観点からは好ましくない。特許文献1には、ZnO,TiOなどの酸化物半導体層をスペーサ層の一部として用いる技術が開示されている。この技術によればセンス電流の集中を防止することができるため、MR変化率を高めつつ、信頼性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0062557号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スペーサ層と隣接する強磁性層は、一般にCo, Ni, Fe等を主成分としている。これらの元素が酸化物半導体層と接触して配置されていると酸化物半導体層に含まれる酸素の酸化作用によって強磁性層が酸化し、分極率が低下し、MR変化率が低下する可能性がある。特許文献1にはさらに、CoFe等からなる強磁性層と酸化物半導体層との間に銅、金、銀などからなる非磁性金属層を設ける技術が開示されている。これらの非磁性金属層は酸化物半導体に含まれる酸素の拡散を防止し、強磁性層の酸化を防止することが期待される。しかし、銅、金、銀などの非磁性金属層では、特に高温環境下で酸素の拡散が生じ易くなった場合に、十分な酸化防止効果が得られない場合があった。
【0007】
本発明は、スペーサ層に隣接する磁性層の酸化を防止し、かつ大きなMR変化率を実現することのできる磁気抵抗効果素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁気抵抗効果素子は、外部磁界に応答して磁化方向のなす相対角度が変化する第1及び第2の磁性層と、第1の磁性層と第2の磁性層との間に位置するスペーサ層と、を有している。第1の磁性層は、磁気抵抗効果素子が形成される基板に対し、第2の磁性層よりも近い側に位置している。スペーサ層は、銅層と、金属中間層と、酸化ガリウムを主成分とする主スペーサ層と、を有し、銅層及び金属中間層が主スペーサ層と第1の磁性層との間に位置し、金属中間層は銅層と主スペーサ層との間に位置している。金属中間層は、マグネシウムまたは少なくとも一部が酸化されたマグネシウム、アルミニウムまたは少なくとも一部が酸化されたアルミニウム、及び亜鉛または少なくとも一部が酸化された亜鉛からなる群から選択された少なくとも一つを主成分としている。
【0009】
酸化ガリウムを主成分とする主スペーサ層を備えるスペーサ層は、銅などの金属層で形成された従来のスペーサ層よりも高抵抗であるため、大きなMR変化率を実現することができる。酸化ガリウムは薄膜状態では通常アモルファス状態で存在するが、アモルファス状態であっても大きなバンドギャップを持つことができ、また、スペーサ層と隣接する磁性層との格子整合(隣接する2つの材料の格子定数が一致すること)が不要であるという利点も持っている。
【0010】
一方、上述のように、スペーサ層と隣接する磁性層は、一般にCo, Ni, Fe等を主成分としている。このため、これらの元素が酸化ガリウムと接触して配置されていると、酸化ガリウムに含まれる酸素の酸化作用によって磁性層が酸化し、MR変化率が低下する可能性がある。具体的には、酸化ガリウムは、それに含まれる酸素が拡散して第1の磁性層を構成する元素を酸化させ、分極率を低下させて、MR変化率を低下させる可能性がある。この現象、すなわち酸化ガリウムに含まれる酸素の拡散現象は、特に高温下で生じ易い。磁気抵抗効果素子は積層膜の成膜後に加熱される工程を経る場合があり、その場合には第1の磁性層の酸化によるMR変化率の低下がより顕著になる可能性がある。また、しばしば高温環境下におかれることのあるハードディスクドライブ内において、第1の磁性層の酸化は磁気ヘッドの信頼性低下の一因となる可能性がある。
【0011】
そこで、本発明ではスペーサ層の一部を銅層で構成している。銅層は酸化ガリウムに含まれている酸素の拡散を防止する効果があり、さらにRA(面積抵抗)を適正な値に調整する効果もある。しかし、前述のように、特に高温環境下では、銅層単独で十分な酸化防止効果を発揮できない。
【0012】
このため、本発明ではさらに、銅層と酸化ガリウムを主成分とする主スペーサ層との間に金属中間層を設けている。金属中間層は、マグネシウムまたは少なくとも一部が酸化されたマグネシウム、アルミニウムまたは少なくとも一部が酸化されたアルミニウム、及び亜鉛または少なくとも一部が酸化された亜鉛からなる群から選択された少なくとも一つを主成分としている。マグネシウム、アルミニウム及び亜鉛は第1の磁性層を構成するCo, Ni, Feと比べ標準電極電位が低く、Co, Ni, Feよりも酸化されやすい。従って、これらの元素は金属状態である場合は勿論、一部が酸化された状態でも酸素を捕捉し、酸素が第1の磁性層に到達することを防止する。こうしてマグネシウム、アルミニウム及び亜鉛は自らが金属酸化物となりつつ、銅層と協働して、酸素拡散防止効果を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スペーサ層に隣接する磁性層の酸化を防止し、かつ大きなMR変化率を実現することのできる磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る薄膜磁気ヘッドの要部断面図である。
【図2】図1のA−A方向、すなわち媒体対向面から見た磁気抵抗効果素子の側面図である。
【図3】第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の、図1と同じ方向から見た断面図である。
【図4】第2の実施形態に係る薄膜磁気ヘッドの作動原理を示す模式図である。
【図5】本発明の磁気ヘッドスライダの斜視図である。
【図6】本発明のヘッドアームアセンブリの斜視図である。
【図7】本発明のヘッドスタックアセンブリの側方図である。
【図8】本発明のハードディスクドライブ装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と、その磁気抵抗効果素子を用いた薄膜磁気ヘッドのいくつかの実施形態を、図面を用いて説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る薄膜磁気ヘッド1の要部断面図を示している。薄膜磁気ヘッド1は基板W上に形成され、再生ヘッド2と記録ヘッド3とを有している。図2は、図1のA−A方向から見た再生ヘッド2の側面図、すなわち媒体対向面Sにおける再生ヘッド2の層構成を示している。媒体対向面Sとは、薄膜磁気ヘッド1の、記録媒体Mと対向する面である。まず、図2を参照して、再生ヘッド2の構成について説明する。
【0017】
再生ヘッド2は、スピンバルブタイプの磁気抵抗効果素子4と、磁気抵抗効果素子4を膜面直交方向(積層方向)Pに挟むように設けられた上部及び下部シールド層6,5と、磁気抵抗効果素子4のトラック幅方向T(図1においては紙面直交方向)両側に設けられたバイアス磁界印加層32と、を有している。磁気抵抗効果素子4の先端部は図1に示すように、媒体対向面Sに配置されている。磁気抵抗効果素子4は、上部シールド層6と下部シールド層5との間にかかる電圧によって、センス電流Sが膜面直交方向Pに流れるようにされている。磁気抵抗効果素子4と対向する位置における記録媒体Mからの磁場は、記録媒体Mの回転につれて変化する。磁界の変化は磁気抵抗効果に基づくセンス電流Sの電気抵抗変化として検出される。磁気抵抗効果素子4は、この原理を利用して、記録媒体Mに書き込まれた磁気情報を読み出す。
【0018】
表1には、磁気抵抗効果素子4の層構成の一例を示す。表1は、下部シールド層5から上部シールド層6まで、積層順に下から上に記載している。
【0019】
【表1】

【0020】
磁気抵抗効果素子4は、NiFe層からなる下部シールド層5の上に、下地層11、反強磁性層12、外側磁化固定層13、交換結合伝達層14、内側磁化固定層15(第1の磁性層L1)、スペーサ層16、磁化自由層17(第2の磁性層L2)、保護層18がこの順に積層された層構成を有している。保護層18はNiFe層からなる上部シールド層6に覆われている。
【0021】
下地層11は、その上に積層される反強磁性層12と外側磁化固定層13との良好な交換結合を得るために設けられている。外側磁化固定層13はIrMnからなる反強磁性層12と交換結合している。外側磁化固定層13はRuからなる交換結合伝達層14を介して、内側磁化固定層15と交換結合している。この結果、内側磁化固定層15の磁化方向は強固に固定されている。内側磁化固定層15は膜面内で、媒体対向面Sと直交する方向に磁化されていることが望ましい。内側磁化固定層15と外側磁化固定層13は互いに反平行の向きに磁化方向が固定されているため、これらを合わせた部分の全体的な磁化が抑制される。内側磁化固定層15の上には、スペーサ層16を挟んで、外部磁界に応じて磁化方向が変化する磁化自由層17が設けられている。保護層18は、積層された各層が劣化することを防止するために設けられている。外側及び内側磁化固定層13,15並びに磁化自由層17は典型的にはCoFeからなるが、Niを含んでいてもよい。
【0022】
磁気抵抗効果素子4のトラック幅方向T両側には、絶縁膜31を介してバイアス磁界印加層32が形成されている。バイアス磁界印加層32は磁化自由層17を単磁区化するための磁区制御膜であり、磁化自由層17にトラック幅方向Tのバイアス磁界を印加する。絶縁膜31はAl23、バイアス磁界印加層32はCoPt,CoCrPtなどで形成される。
【0023】
センス電流Sは、磁気抵抗効果素子4に、膜面直交方向Pに流れるようにされている。センス電流Sは、電極を兼ねる上部及び下部シールド層6,5から供給される。磁化自由層17の磁化方向は、外部磁界が印加されていない状態では、バイアス磁界印加層32からのバイアス磁界によって、トラック幅方向T、すなわち内側磁化固定層15の磁化方向と直交する向きに制御されている。記録媒体Mからの外部磁界が磁化自由層17に印加されると、磁化自由層17の磁化方向は外部磁界の向き及び強さに応じて、膜面内を所定の方向に所定の角度だけ回転する。磁化自由層17の磁化方向は内側磁化固定層15の磁化方向に対して、外部磁界の向き及び強さに応じた相対角度をなし、相対角度に応じて伝導電子のスピン依存散乱が変化して磁気抵抗変化が生じる。磁気抵抗効果素子4は、この磁気抵抗変化を検出して、記録媒体Mの磁気情報を読み取る。
【0024】
磁化自由層17と外側及び内側磁化固定層13,15とはスペーサ層16に関して上下逆に設けられてもよい。換言すれば、磁化自由層17が外側及び内側磁化固定層13,15よりも基板Wに近い側に位置していてもよい。具体的には、内側磁化固定層15から反強磁性層12までの各層が保護層18とスペーサ層16の間に(内側磁化固定層15が最も下側に、反強磁性層12が最も上側になるように配置される)、磁化自由層17が下地層11とスペーサ層16の間に配置される。
【0025】
本明細書では、磁化自由層17と内側磁化固定層15のうち、磁気抵抗効果素子4が形成される基板Wに近い側、すなわち積層方向に見てスペーサ層16の下側に位置する層を第1の磁性層L1と呼び、基板Wから見て第1の磁性層L1より遠い側、すなわち積層方向に見てスペーサ層16の上側に位置する層を第2の磁性層L2と呼ぶ。表1に示す層構成では、内側磁化固定層15が第1の磁性層L1、磁化自由層17が第2の磁性層L2であり、逆の位置関係の層構成では、磁化自由層17が第1の磁性層L1、内側磁化固定層15が第2の磁性層L2となる。
【0026】
スペーサ層16は、酸化ガリウムを主成分とする主スペーサ層16cを含んでいる。主スペーサ層16cは酸化ガリウム以外の添加物、例えば金属酸化物を含んでいてよいが、主スペーサ層16c中の酸化ガリウムはモル分率で50%以上であることが好ましい。酸化ガリウムの組成は一般式GaOxで表わされ、xの範囲は1.45≦x≦1.55である。主スペーサ層16cは、通常はアモルファスの状態で形成される。GaOxは、従来スペーサ層に用いられていたCuと比べて抵抗値が大きく、抵抗変化も大きい。このため、Cuをスペーサ層として用いた従来の磁気抵抗効果素子と比べて大きなMR変化率を得ることができる。
【0027】
酸化ガリウムは高いMR変化率を実現するために有望な材料であるが、酸素を含んでいるため、第1及び第2の磁性層L1,L2が主スペーサ層16cに隣接していると、第1及び第2の磁性層L1,L2に含まれるFe,Co,Ni等の元素、特にFeを酸化する傾向がある。これらの元素が酸化するとMR変化率は低下する傾向にある。
【0028】
そのため、主スペーサ層16cと第1の磁性層L1とが直接接触するのを避け、第1の磁性層L1の酸化を効果的に防止する目的で、スペーサ層16は、銅層16a(Cu層)を有している。銅層16aは、主スペーサ層16cと第1の磁性層L1との間に位置している。銅層16aは好ましくは実質的にCuからなり、若干の添加物を含んでいてよい。銅層16aは一部が酸化していてもよい。つまり、銅層16aは実質的に銅と酸素とからなっていてもよい。銅層16aは第1の磁性層L1に接して位置している。
【0029】
同様の目的で、スペーサ層16は、主スペーサ層16cと第2の磁性層L2との間に双方に接して位置する、銅または亜鉛からなる非磁性層16dを有している。同様の原理により、非磁性層16dは第2の磁性層L2の酸化を防止することができる。非磁性層16dは好ましくは実質的に銅または亜鉛からなり、若干の添加物を含んでいてよい。非磁性層16dは一部が酸化していてもよい。つまり、非磁性層16dは実質的に銅または亜鉛と、酸素と、からなっていてもよい。非磁性層16dは省略することもできる。
【0030】
スペーサ層16は、さらに銅層16aと主スペーサ層16cとの間に位置している金属中間層16bを含んでいる。従って、スペーサ層16は、銅層16aと、金属中間層16bと、酸化ガリウムを主成分とする主スペーサ層16cと、亜鉛または銅からなる非磁性層16dと、を有し、銅層16aが第1の磁性層L1に近い側に、主スペーサ層16cないし非磁性層16dが第2の磁性層L2に近い側に位置している。
【0031】
金属中間層16bは、マグネシウム(Mg)または少なくとも一部が酸化されたマグネシウム、アルミニウム(Al)または少なくとも一部が酸化されたアルミニウム、及び亜鉛(Zn)または少なくとも一部が酸化された亜鉛からなる群から選択された一つを主成分としている。一実施形態では、金属中間層16bは、マグネシウムまたは少なくとも一部が酸化されたマグネシウムを主成分としている。換言すれば、金属中間層16bは、マグネシウム、マグネシウムと酸化マグネシウムの混合物(以下、混合マグネシウムという)、または酸化マグネシウムを主成分としている。金属中間層16bは、これらのマグネシウム、混合マグネシウムまたは酸化マグネシウム以外の添加物、例えば他の金属酸化物を含んでいてよいが、金属中間層16b中のマグネシウム、混合マグネシウムまたは酸化マグネシウムはモル分率で50%以上であることが好ましい。
【0032】
マグネシウムに代えてアルミニウムまたは亜鉛を用いることもできる。一実施形態では、金属中間層16bは、アルミニウムまたは少なくとも一部が酸化されたアルミニウムを主成分としている。すなわち金属中間層16bは、アルミニウム、アルミニウムと酸化アルミニウムの混合物(以下、混合アルミニウムという)、または酸化アルミニウムを主成分としている。他の実施形態では、金属中間層16bは、亜鉛または少なくとも一部が酸化された亜鉛を主成分としている。すなわち金属中間層16bは、亜鉛、亜鉛と酸化亜鉛の混合物(以下、混合亜鉛という)、または酸化亜鉛を主成分としている。
【0033】
後述するように、これらの金属は第1の磁性層L1の酸化防止という観点からは同種の性質を持っているため、混合して用いることもできる。従って、金属中間層16bは、マグネシウムまたは少なくとも一部が酸化されたマグネシウム、アルミニウムまたは少なくとも一部が酸化されたアルミニウム、及び亜鉛または少なくとも一部が酸化された亜鉛からなる群から選択された2以上を主成分とすることもできる。例えば金属中間層16bは、マグネシウムと混合マグネシウムと酸化マグネシウムのいずれかと、アルミニウムと混合アルミニウムと酸化アルミニウムのいずれかと、を含んでよく、その場合、それぞれのモル分率の合計が50%以上であることが好ましい。
【0034】
金属中間層16bは銅層16aとともに第1の磁性層L1の酸化を防止する。Mg,Al,Znの標準電極電位はそれぞれ、−2.356,−1.676,−0.763である。これに対して第1の磁性層L1を構成するCo,Fe,Niの標準電極電位E0はそれぞれ、−0.277,−0.440,−0.257である。この数値は、標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode)を基準とした標準状態(25℃、1atm)での電極電位である。一般に2種以上の金属を接合させた場合、標準電極電位の値の低い金属が優先的に酸化される。本実施形態では金属中間層16bと第1の磁性層L1とは直接接触していないが、酸化のしやすさは同様に考えることができる。従って、高温環境下で酸化ガリウムに含まれる酸素が拡散して第1の磁性層L1の方向に向かった場合、Co,Fe,Niと比べて酸化されやすいMg,Al,Znが酸素を捕捉し、Co,Fe,Niの酸化を防止する。
【0035】
金属中間層16bは第1の磁性層L1に対して、銅層16aよりも遠くに位置していることが望ましい。CuはMg,Al,Znと同様にCo,Fe,Niの酸化を防止する作用があるが、そのメカニズムはMg,Al,Znと異なっている。すなわち、Cuの標準電極電位は0.337(Cu2++2e-⇔Cu)または0.520(Cu++e-⇔Cu)であり、Co,Fe,Niの標準電極電位より大きい。Cuは酸素を捕捉するのでなく、酸素を近づけないことによってCo,Fe,Niの酸化を防止する。従って、酸素を捕捉した金属中間層16bが酸素を含んでいない(または含有しにくい)銅層16aより第1の磁性層L1から離れて位置することで、酸素の分布が第1の磁性層L1の近傍で小さく、酸化ガリウム層の近傍で大きくなる。酸素が全体として第1の磁性層L1から離れて分布するため、Mg,Al,Znに捕捉された酸素が離脱し、第1の磁性層L1に到達する可能性が減少する。また、酸素が第1の磁性層L1に向かって拡散してもCuが酸素をブロックするため、第1の磁性層L1の酸化が防止される。
【0036】
銅層16aはRAを適正な値に維持する機能も有している。本実施形態及び後述する第2の実施形態の磁気抵抗効果素子では、RAは0.2Ωμm2程度とすることが望ましい。そのためには銅層16aが第1の磁性層L1に接していることが望ましい。
【0037】
後述するように、金属中間層16bの膜厚は0.05nm以上0.4nm以下であることが望ましい。0.05nmを下まわると酸化防止効果が低減し、0.4nmを上回るとMR変化率が低減する。
【0038】
少なくとも一部が酸化されたマグネシウム、少なくとも一部が酸化されたアルミニウムまたは少なくとも一部が酸化された亜鉛を主成分とする金属中間層16bは、マグネシウム、アルミニウムまたは亜鉛が金属の状態で成膜された後に少なくとも一部が酸化されることによって形成される。
【0039】
再び図1を参照すると、再生ヘッド2の上には、スパッタリング等によって形成された素子間シールド層8を介して記録ヘッド3が設けられている。記録ヘッド3はいわゆる垂直磁気記録用の構成を有している。書込のための磁極層は主磁極層21と補助磁極層22とからなる。これらの磁極層は、フレームめっき法等によって形成される。主磁極層21は、FeCoから形成され、媒体対向面Sにおいて、媒体対向面Sとほぼ直交する向きで配置されている。主磁極層21の周囲には、絶縁材料からなるギャップ層24の上を延びるコイル層23が巻回しており、コイル層23によって主磁極層21に磁束が誘導される。コイル層23は、フレームめっき法等によって形成される。この磁束は主磁極層21の内部を導かれ、媒体対向面Sから記録媒体Mに向けて放出される。主磁極層21は、媒体対向面S付近で、膜面直交方向Pだけでなく、トラック幅方向Tにも絞られており、高記録密度化に対応した微細で強い書込磁場を発生する。
【0040】
補助磁極層22は主磁極層21と磁気的に結合した磁性層である。補助磁極層22はNi,Fe,Coのいずれか2つまたは3つからなる合金などで形成された、膜厚約0.01μm〜約0.5μmの磁極層である。補助磁極層22は主磁極層21から分岐して設けられ、媒体対向面S側ではギャップ層24及びコイル絶縁層25を介して主磁極層21と対向している。補助磁極層22の媒体対向面S側の端部は、補助磁極層22の他の部分より層断面が広いトレーリングシールド部を形成している。このような補助磁極層22を設けることによって、媒体対向面S近傍において、補助磁極層22と主磁極層21との間の磁場勾配がより急峻になる。この結果、信号出力のジッタが小さくなり、読み出し時のエラーレートを小さくすることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
本実施形態の薄膜磁気ヘッド1は、再生ヘッド2の構成を除いて、図1に示す第1の実施形態と同一である。図3及び表2には、このような磁気抵抗効果素子の層構成を示している。再生ヘッド102は、第1の実施形態と同様に多数の層が積層された磁気抵抗効果素子104と、磁気抵抗効果素子104を膜面直交方向P(積層方向)に挟むように設けられた上部及び下部シールド層106,105と、を有している。上部及び下部シールド層106,105はセンス電流Sの電極としても用いられ、センス電流Sを磁気抵抗効果素子104の膜面直交方向Pに流す。
【0042】
本実施形態では、第1の磁性層L1と第2の磁性層L2は共に、外部磁界に応答して磁化方向が変化する磁化自由層115,117である。バイアス磁界印加層132は媒体対向面Sから見て磁気抵抗効果素子104の裏面側に、絶縁層131を介して設けられ、第1及び第2の磁化自由層115,117(第1及び第2の磁性層L1,L2)に媒体対向面Sと直交する方向のバイアス磁界を印加する。第1、第2の磁化自由層115,117の間にはスペーサ層116が設けられている。第1の磁化自由層115と下部シールド層105の間には、第1の磁気的連結層111が、第2の磁化自由層117と上部シールド層106の間には、第2の磁気的連結層118がそれぞれ設けられている。
【0043】
【表2】

【0044】
下部シールド層105は、第1の主シールド層105aと、第1の主シールド層105a上に積層された第1の反強磁性層105b及び第1の交換結合磁界印加層105cと、を有している。第1の交換結合磁界印加層105cは第1の反強磁性層105bとの反強磁性結合によって、トラック幅方向Tに磁化方向が固定されている。同様に、上部シールド層106は、第2の主シールド層106aと、第2の主シールド層106aの下方に積層された第2の反強磁性層106b及び第2の交換結合磁界印加層106cと、を有している。第2の交換結合磁界印加層106cは第2の反強磁性層106bとの反強磁性結合によって、トラック幅方向Tに磁化方向が固定されている。第1及び第2の交換結合磁界印加層105c,106cは、共に同じ方向に磁化されている。他の実施形態では、第1及び第2の反強磁性層105b,106bと第1及び第2の交換結合磁界印加層105c,106cを設ける代わりに、第1及び第2の主シールド層105a,106aをトラック幅方向Tに細長い形状として、形状異方性効果を用いて単磁区化し、磁化方向が同じ方向を向くようにすることもできる。
【0045】
第1の磁気的連結層111は、CoFeからなるギャップ調整層111b,111dとRuからなる交換結合伝達層111a,111c,111eとが交互に積層された構造を有し、交換結合伝達層111a,111eが両側端面に位置している。第2の磁気的連結層118も第1の磁気的連結層111と同様、CoFeからなるギャップ調整層118bとRuからなる交換結合伝達層118a,118cとが交互に積層された構造を有し、交換結合伝達層118a,118cが両側端面に位置している。交換結合伝達層111a,111c,111eを挟む一対の磁性層105c,111b,111d,115、及び交換結合伝達層118a,118cを挟む一対の磁性層106c,118b,117は交換結合をし、図3に示すように、磁化方向が交互に反転している(バイアス磁界は印加されていないとしている)。
【0046】
ギャップ調整層111b,111d,118bの膜厚を調整することで、磁気抵抗効果素子104の総膜厚をシールドギャップに合わせて調整することができる。高記録密度を実現するためにはシールドギャップは小さいほど有利であるが、シールドギャップはバイアス磁界印加層132の必要膜厚によって決定される場合がある。そのような場合、ギャップ調整層111b,111d,118bの膜厚を変えることで、磁気抵抗効果素子104の総膜厚、すなわちシールドギャップを調整することが好ましい。
【0047】
以上説明した磁気抵抗効果素子104は以下のように作動する。まず、バイアス磁界印加層132がない仮想的な状態を考える。図4は、第1及び第2の磁化自由層115,117の磁化を示す模式図である。第1及び第2の交換結合磁界印加層105c,106cの磁化方向は交換結合伝達層111a,111c,111e,118a,118cを介してギャップ調整層111b, 111d, 118bで反転しながら、第1及び第2の磁化自由層115,117まで伝達される。従って、第1の磁化自由層115はトラック幅方向Tに、第1の交換結合磁界印加層105cの磁化方向と反平行の向きy1に磁化される。第2の磁化自由層117はトラック幅方向Tに、第2の交換結合磁界印加層106cの磁化方向と同じ向きy2に磁化される。
【0048】
次に、バイアス磁界が印加された状態を考える。バイアス磁界はトラック幅方向Tを向いた第1及び第2の磁化自由層115,117の磁化方向を媒体対向面Sと直交する方向に向けて回転させる。図4の実線矢印x1,x2で示すように、破線矢印y1,y2から互いに逆回りの方向に所定の角度θだけ回転し、理想的には互いに直交する。これが、外部磁界の掛っていない場合の第1及び第2の磁化自由層115,117の磁化状態である。
【0049】
この状態で、図中白抜き矢印で示すように外部磁界が印加されると、第1及び第2の磁化自由層115,117の磁化方向は、外部磁界の向きに応じて、互いに逆回りの方向に回転する。図中A方向に外部磁界が印加されると、第1及び第2の磁化自由層115,117の磁化方向(実線矢印x1,x2)は図中a方向に回転し、図中B方向に外部磁界が印加されると、第1及び第2の磁化自由層115,117の磁化方向は図中b方向に回転する。このようにして、外部磁界に応じて第1及び第2の磁化自由層115,117の磁化方向のなす相対角度が変化し、磁気抵抗効果に基づき、センス電流Sの抵抗値が変動する。この原理を利用して、磁気抵抗効果素子104は外部磁界の向き及び強度を検出することができる。
【0050】
このように、本実施形態の磁気抵抗効果素子104は、外部磁界に応じて磁化方向が変化する一対の磁化自由層115,117と、これらに挟まれたスペーサ層116と、を有している。磁気抵抗効果素子104は、一対の磁化自由層115,117の磁化方向がともに外部磁界に応じて回転する点で第1の実施形態と異なるが、スペーサ層116としては第1の実施形態におけるスペーサ層16と同じ構成を利用することができる。
【0051】
第1及び第2の磁化自由層115,117の磁化方向は、第1及び第2の磁気的連結層111,118に含まれるRu層およびギャップ調整層の総数を調整することによって反転させることができる。例えば、上部シールド層106と下部シールド層105の磁化方向が反平行である場合、表3に示すように、第1の磁気的連結層111を2層のRu層111a,111cとその間に挿入される1層のギャップ調整層111bとで構成することによって、第1の磁化自由層115の磁化方向を反転させることができる。同様に、図示は省略するが、表2に示す構成において、第2の磁気的連結層118を第1の磁気的連結層111と同様の5層構成とすることによっても同様の効果を得ることができる。
【0052】
【表3】

【0053】
次に、以上説明した磁気抵抗効果素子の製造方法について、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子を例に説明する。まず、基板W上に、必要に応じ絶縁層を介して、めっき法により下部シールド層5を作成し、次に、磁気抵抗効果素子4を構成する各層をスパッタリングによって成膜する。具体的にはターゲットと基板Wを収容した成膜チャンバを減圧して高真空雰囲気にした後、アルゴン等の不活性ガスを成膜チャンバ導入する。イオン化した不活性ガスをターゲットに衝突させることで、ターゲットから微細な粒子をたたき出し、下部シールド層5の上に多層膜を成膜する。主スペーサ層16cの成膜時にはターゲットとして酸化ガリウムを用いる。
【0054】
金属中間層16bは最初から酸化物の膜として成膜することもできるが、金属状態のMg,Al,Zn(またはこれらの2以上の混合物でもよい)の膜として成膜することが特に望ましい。これは前述の通り、Mg,Al,Znが酸素を捕獲する作用を奏するためである。成膜時にこれらの元素を金属状態で成膜することにより、より多くの酸素を捕獲することができる。多層膜の成膜後、必要に応じてアニール処理を行う。
【0055】
次に、成膜された多層膜を磁気抵抗効果素子4の柱状の形状に形成し、磁気抵抗効果素子4の側面を絶縁層31で覆い、バイアス磁界印加層32を、磁気抵抗効果素子4のトラック幅方向T両側に形成し、磁気抵抗効果素子4及びバイアス磁界印加層32の上に上部シールド層6を形成する。第2の実施形態の場合、バイアス磁界印加層132は媒体対向面Sからみて磁気抵抗効果素子4の裏側に形成する。
【0056】
スペーサ層16の金属中間層16bとなるMg膜,Al膜,Zn膜は、第1の磁性層L1の酸化を防止する。例えば、記録ヘッド3を再生ヘッド2の形成後にウエハ上に形成する場合、記録ヘッド3の製造プロセス中で加熱され、一時的に高温環境下におかれることがあるが、Mg,Al,Znは酸素を捕捉して自らは一部が酸化され、場合により全部が酸化されながら、酸化防止膜として機能する。
【0057】
(実施例1)
表2に示す膜構成の磁気抵抗効果膜を、スパッタリング装置を用いて、Al23−TiC(ALTIC)からなる基板上に成膜した。スペーサ層の膜構成は表4に示す通りとした。酸化ガリウム層はRFスパッタリング法で成膜し、その他の膜はDCマグネトロンスパッタ法で成膜した。スペーサ層の成膜時には銅層の上にメタルのMg膜,Al膜またはZn膜を成膜した。このため、同表及び表5,6では金属中間層ではなく、金属層と表記している。成膜後、250℃で3時間熱処理(アニール)を行い、ジャンクションサイズ0.2μm×0.2μmの磁気抵抗効果素子とした。磁気抵抗効果素子の形成後は、アニールは行っていない。第1及び第2の磁化自由層は外部磁界がない状態では互いに直交する方向を向いているが、外部磁界を印加すると自由に回転し、磁気抵抗効果を生じる。
【0058】
【表4】

【0059】
この磁気抵抗効果素子において、表5に示すようにスペーサ層の金属層の材料及び膜厚を変化させて、MR変化率を求めた。比較例1として金属層を設けないサンプルを作成し、同様にMR変化率を求めた。各サンプルのMR変化率は比較例1で得られたMR変化率を1として規格化した。
【0060】
【表5】

【0061】
Mg膜,Al膜,Zn膜の膜厚が0.4nmまでの範囲では、MR変化率は比較例1とほぼ同じである。これは、比較例1に対して追加されたMg膜,Al膜,Zn膜(金属膜)の膜厚が小さいためであると考えられる。しかし、Mg膜,Al膜,Zn膜の膜厚が0.6nmになると、MR変化率が大きく低下する。これは金属膜の膜厚が大きく、電子が散乱されやすくなったためと考えられる。
【0062】
(実施例2)
次に、表4の膜構成で、表6に示すようにスペーサ層の金属層の材料及び膜厚を変化させて、MR変化率を求めた。この例では実施例1と同様の成膜条件で各層を成膜し、ジャンクションサイズ0.2μm×0.2μmの磁気抵抗効果素子とした後、再度250℃で3時間熱処理(再アニール)を行った。本例では各サンプルについて、再アニールを行う前のMR変化率(A)に対する再アニールを行った後のMR変化率(B)の比(B/A)を求め、相対MR変化率とした。同様に、RAについても、再アニールを行う前のRA(C)に対する再アニールを行った後のRA(D)の比(D/C)を求め、相対RAとした。
【0063】
【表6】

【0064】
Mg膜,Al膜,Zn膜の膜厚が0.6nmまでの範囲では、MR変化率は再アニールの前後で大きく変動していない。これは、金属膜が酸素を捕獲し、第1の磁性層の酸化を有効に防止したためと考えられる。比較例2は金属膜を設けていないため、酸素が第1の磁性層まで到達し、第1の磁性層の酸化が進んだものと考えられる。RAについてもほぼ同様の傾向が得られ、Mg膜,Al膜,Zn膜の膜厚が0.6nmまでの範囲ではRAの変動を防止する効果が確認された。非磁性層としてCuを用いた場合も同様の結果が得られた。このように、磁気抵抗効果素子の形成後の再アニールによってもMR変化率やRAの変動が少ないことから、ハードディスクドライブ内のような高温になる可能性のある環境下における信頼性も高いといえる。
【0065】
以上を総合すると、Mg膜,Al膜,Zn膜の膜厚が0.05nmから0.6nmまでの範囲では、実施例2より、同程度の酸化防止効果が確認された。RAについても大きな変化は観測されなかった。しかし、実施例1よりMg膜,Al膜,Zn膜の膜厚が0.6nmの場合は、MR変化率の値が小さいため、Mg膜,Al膜,Zn膜の膜厚は0.05nm以上0.4nm以下の範囲が好適である。
【0066】
次に、薄膜磁気ヘッド1を搭載した磁気ヘッドスライダについて説明する。図5を参照すると、磁気ヘッドスライダ210は、ほぼ六面体形状をなしており、そのうちの一面はハードディスクと対向する記録媒体対向面Sとなっている。磁気ヘッドスライダ210は、回転駆動される円盤状の記録媒体Mであるハードディスクに対向するように、ハードディスクドライブ装置内に配置されている。ハードディスクが図6におけるz方向に回転すると、ハードディスクと磁気ヘッドスライダ210との間を通過する空気流によって、磁気ヘッドスライダ210に、y方向下向きに揚力が生じる。磁気ヘッドスライダ210は、この揚力によってハードディスクの表面から浮上するようになっている。磁気ヘッドスライダ210の空気流出側の端部(図5における左下の端部)の近傍には、薄膜磁気ヘッド1が形成されている。
【0067】
図6を参照すると、ヘッドジンバルアセンブリ220は、磁気ヘッドスライダ210と、磁気ヘッドスライダ210を弾性的に支持するサスペンション221と、を備えている。サスペンション221は、ステンレス鋼によって形成された板ばね状のロードビーム222と、ロードビーム222の一端部に設けられたフレクシャ223と、ロードビーム222の他端部に設けられたベースプレート224と、を有している。フレクシャ223には磁気ヘッドスライダ210が接合され、磁気ヘッドスライダ210に適度な自由度を与える。フレクシャ223の、磁気ヘッドスライダ210が取り付けられる部分には、磁気ヘッドスライダ210の姿勢を一定に保つためのジンバル部が設けられている。
【0068】
ヘッドジンバルアセンブリ220をアーム230に取り付けたものはヘッドアームアセンブリ221と呼ばれる。アーム230は、磁気ヘッドスライダ210をハードディスク262のトラック横断方向xに移動させる。アーム230の一端はベースプレート224に取り付けられている。アーム230の他端部には、ボイスコイルモータの一部となるコイル231が取り付けられている。アーム230の中間部には軸受け部233が設けられている。アーム230は、軸受け部233に取り付けられた軸234によって回動自在に支持されている。アーム230及び、アーム230を駆動するボイスコイルモータは、アクチュエータを構成する。
【0069】
次に、図7及び図8を参照して、上述した磁気ヘッドスライダが組込まれたヘッドスタックアセンブリとハードディスクドライブ装置について説明する。ヘッドスタックアセンブリとは、複数のアームを有するキャリッジの各アームにヘッドジンバルアセンブリ220を取り付けたものである。図7はヘッドスタックアセンブリの側面図、図8はハードディスクドライブ装置の平面図である。ヘッドスタックアセンブリ250は、複数のアーム230を有するキャリッジ251を有している。各アーム230には、ヘッドジンバルアセンブリ220が、互いに間隔を開けて垂直方向に並ぶように取り付けられている。キャリッジ251の、アーム230の反対側には、ボイスコイルモータの一部となるコイル253が取り付けられている。ボイスコイルモータは、コイル253を挟んで対向する位置に配置された永久磁石263を有している。
【0070】
図7を参照すると、ヘッドスタックアセンブリ250は、ハードディスクドライブ装置に組込まれている。ハードディスクドライブ装置は、スピンドルモータ261に取り付けられた複数枚のハードディスク262を有している。ハードディスク262毎に、ハードディスク262を挟んで対向するように2つの磁気ヘッドスライダ210が配置されている。磁気ヘッドスライダ210を除くヘッドスタックアセンブリ250及びアクチュエータは、位置決め装置に対応し、磁気ヘッドスライダ210を支持すると共に、磁気ヘッドスライダ210をハードディスク262に対して位置決めする。磁気ヘッドスライダ210はアクチュエータによって、ハードディスク262のトラック横断方向に動かされ、ハードディスク262に対して位置決めされる。磁気ヘッドスライダ210に含まれる薄膜磁気ヘッド11は、記録ヘッド3によってハードディスク262に情報を記録し、再生ヘッド2, 102によってハードディスク262に記録されている情報を再生する。
【符号の説明】
【0071】
4 磁気抵抗効果素子
16 スペーサ層
16a 銅層
16b 金属中間層
16c 主スペーサ層
16d 非磁性層
L1 第1の磁性層
L2 第2の磁性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向のなす相対角度が外部磁界に応答して変化する第1及び第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に位置するスペーサ層と、
を有する磁気抵抗効果素子であって、
前記第1の磁性層は、前記磁気抵抗効果素子が形成される基板に対し、前記第2の磁性層よりも近い側に位置し、
前記スペーサ層は、銅層と、金属中間層と、酸化ガリウムを主成分とする主スペーサ層と、を有し、前記銅層及び前記金属中間層が前記主スペーサ層と前記第1の磁性層との間に位置し、前記金属中間層は前記銅層と前記主スペーサ層との間に位置し、前記金属中間層は、マグネシウムまたは少なくとも一部が酸化されたマグネシウム、アルミニウムまたは少なくとも一部が酸化されたアルミニウム、及び亜鉛または少なくとも一部が酸化された亜鉛からなる群から選択された少なくとも一つを主成分としている、磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記金属中間層の膜厚は0.05nm以上0.4nm以下である、請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記スペーサ層は、前記主スペーサ層と前記第2の磁性層との間に位置する非磁性層を有し、前記非磁性層は、亜鉛もしくは少なくとも一部が酸化された亜鉛、または銅もしくは少なくとも一部が酸化された銅からなる、請求項1または2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子を有する磁気ヘッド。
【請求項5】
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層の一方が、外部磁界に応答して磁化方向が変化する磁化自由層であり、他方が、磁化方向が固定された磁化固定層であり、
前記磁気抵抗効果素子のトラック幅方向両側に設けられ、前記磁化自由層に前記トラック幅方向のバイアス磁界を印加する一対のバイアス磁界印加層を有する、請求項4に記載の磁気ヘッド。
【請求項6】
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層は共に、外部磁界に応答して磁化方向が変化する磁化自由層であり、
媒体対向面から見て前記磁気抵抗効果素子の裏面側に設けられ、前記第1及び第2の磁性層に前記媒体対向面と直交する方向のバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加層を有する、請求項4に記載の磁気ヘッド。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか1項に記載の磁気ヘッドを有する磁気ヘッドスライダ。
【請求項8】
請求項4から6のいずれか1項に記載の磁気ヘッドを有するヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項9】
請求項4から6のいずれか1項に記載の磁気ヘッドを有するハードディスクドライブ装置。
【請求項10】
第1の磁性層と、スペーサ層と、第2の磁性層と、をこの順で成膜することを有し、
前記第1及び第2の磁性層は、磁化方向のなす相対角度が外部磁界に応答して変化する磁性層であり、
前記スペーサ層の成膜は、銅層と、金属層と、酸化ガリウムを主成分とする主スペーサ層と、をこの順で前記第1の磁性層の上に成膜することを含み、
前記金属層は、マグネシウム、アルミニウム、及び亜鉛からなる群から選択された少なくとも一つを主成分としている、磁気抵抗効果素子の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−175098(P2012−175098A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−288243(P2011−288243)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】