説明

磁気抵抗効果素子

【課題】半選択セルの誤書き込み防止とスイッチング磁場の低減を図る。
【解決手段】本発明の例に関わる磁気抵抗効果素子は、第1及び第2強磁性層とこれらの間に配置される非磁性層とからなる積層構造を有し、第1及び第2強磁性層のうちの少なくとも1つは、第1方向に磁気異方性を有する第1部分と、第1部分に結合され、第1方向及びこれと逆向きの第2方向とは異なる第3方向に磁気異方性を有する第2部分とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子の構造に関し、特に、磁気ランダムアクセスメモリに使用される。
【背景技術】
【0002】
近年、巨大磁気抵抗(GMR: Giant Magneto Resistive)効果を示す磁気メモリ素子が開発されたことに伴い、強磁性トンネル接合を持つ素子が磁気メモリのメモリ素子として使用されるようになっている。
【0003】
強磁性トンネル接合は、強磁性層/絶縁層/強磁性層の積層構造から構成され、2つの強磁性層の間に電圧を印加することにより絶縁層にトンネル電流が流れる。この場合、接合抵抗値は、2つの強磁性層の磁化の向きの相対角の余弦に比例して変化する。
【0004】
従って、接合抵抗値は、2つの強磁性層の磁化の向きが同じ(平行状態)であるときに、最も小さい値となり、逆に、2つの強磁性層の磁化の向きが逆(反平行状態)であるときに、最も大きい値となる。
【0005】
このような接合抵抗値が2つの強磁性層の磁化パターンにより変化する現象は、トンネル磁気抵抗(TMR: Tunneling Magneto Resistive)効果と呼ばれている。最近では、TMR効果によるMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子の抵抗値の変化率(MR比)は、常温において49.7%になることが報告されている。
【0006】
強磁性トンネル接合を持つ磁気抵抗効果素子においては、2つの強磁性層のうちの一方を、磁化パターンが固定された基準層(ピン層)とし、他方を、データに応じて磁化パターンが変化する記憶層(フリー層)とする。そして、例えば、基準層と記憶層の磁化が平行状態にあるときを“0”とし、反平行状態にあるときを“1”とする。
【0007】
データの書き込みは、例えば、書き込み線に流す書き込み電流により発生する磁場を磁気抵抗効果素子に与え、その磁気抵抗効果素子の記憶層の磁化の向きを反転させることにより行う。データの読み出しは、磁気抵抗効果素子の強磁性トンネル接合に読み出し電流を流し、TMR効果による強磁性トンネル接合の抵抗変化を検出することにより行われる。
【0008】
このような磁気抵抗効果素子をアレイ状に配置することにより磁気メモリが構成される。実際の構成については、磁気抵抗効果素子をランダムアクセスできるように、例えば、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)と同様に、1つの磁気抵抗効果素子に対して1つのスイッチングトランジスタを接続させる。
【0009】
また、ワード線とビット線が交差する位置に、ダイオードと強磁性トンネル接合とが組み合わされた磁気抵抗効果素子を配置する技術も提案されている。
【0010】
さて、強磁性トンネル接合を持つ磁気抵抗効果素子の高集積化を考えると、セルサイズを小さくしなければならないため、磁気抵抗効果素子の強磁性層のサイズが必然的に小さくなる。
【0011】
ここで、強磁性層の性質として、強磁性層の磁気構造(磁化パターン)は、複数の磁区から構成される。長方形の強磁性層の場合、長軸方向の中央部の磁気構造は、磁化が長辺に沿った方向を向く磁区を構成しているが、長軸方向の両端部の磁気構造は、磁化が短辺に沿った方向を向く磁区、いわゆるエッジドメインを構成している。
【0012】
エッジドメインは、TMR効果によるMR比を低下させる原因となり、エッジドメインによるMR比の低下の割合は、強磁性層のサイズが小さくなればなるほど大きくなる。また、強磁性層の磁化パターンのスイッチング(磁化反転)を行うに当たって、磁気構造の変化が複雑になるため、ノイズの発生原因となるばかりでなく、保磁力が大きくなり、スイッチング磁場が増大する。
【0013】
この問題を解決するために、記憶層(強磁性層)の形状を、磁化容易軸に対して非対称となる形状、例えば、平行四辺形とする磁気抵抗効果素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0014】
この技術によれば、エッジドメインが小さくなるため、記憶層のほぼ全体にわたって単一の磁区を構成できる。
【0015】
一方、スイッチング時における強磁性層の磁気構造の複雑な変化を防ぐ方法として、記憶層(強磁性層)の端部にハードバイアスを与えてエッジドメインを常に固定しておく技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0016】
また、長方形の記憶層(強磁性層)に対して、磁化容易軸方向に垂直な方向に突出した部分を新たに付加し、記憶層の形状を、H型、若しくは、I型とする技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0017】
このように、記憶層の形状をH型、若しくは、I型とすることにより、スイッチング時における強磁性層の磁気構造の複雑な変化を防ぎ、スイッチング磁場を低下させることができる。
【0018】
ところで、強磁性層のサイズが小さくなると、その保磁力は大きくなる。保磁力の大きさは、磁化を反転するために必要なスイッチング磁場の大きさの目安となるため、保磁力が大きくなるということは、磁気抵抗効果素子のスイッチング磁場が大きくなることを意味する。
【0019】
従って、磁気抵抗効果素子の微細化により強磁性層のサイズが小さくなると、データの書き込み時に大きな書き込み電流が必要となり、消費電力の増加、配線寿命の短命化などの好ましくない結果をもたらす。
【0020】
このようなことから、磁気抵抗効果素子の微細化とそれに用いる強磁性層の保磁力の低減とを同時に実現することが、大容量磁気メモリを実用化するに当たって必要不可欠な課題となっている。
【0021】
この課題を解決するために、記憶層が、少なくとも、2つの強磁性層と、それらの間に配置される非磁性層とから構成される磁気抵抗効果素子が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0022】
この場合、2つの強磁性層は、磁気モーメント又は厚さが異なり、反強磁性結合により磁化の向きが互いに逆となる。このため、実効的には、互いに磁化による影響を相殺し合うため、記憶層全体としては、磁化容易軸方向に小さな磁化を持った強磁性体と同等と考えることができる。
【0023】
この磁化容易軸方向の小さな磁化の向きに対して逆に磁場を印加すると、強磁性層の磁化は、反強磁性結合を保ったまま反転する。この時、磁力線が閉じていることから反磁場による影響は小さくなる。また、記憶層のスイッチング磁場は、強磁性層の保磁力により決まるため、小さなスイッチング磁場で磁化の反転が可能になる。
【0024】
尚、2つの強磁性層の間に層間結合がない場合には、これら強磁性層からの洩れ磁場によって静磁結合による相互作用が発生する。この場合においても、スイッチング磁場の低減を図ることができる(例えば、非特許文献1参照)。
【0025】
しかし、2つの強磁性層の間に層間結合がなく、静磁結合のみが存在する場合には、強磁性層の磁気構造が不安定になる。また、この場合、ヒステリシス曲線又は磁気抵抗曲線における角型比が小さくなり、大きな磁気抵抗比を得ることが困難となるので、磁気抵抗効果素子としては好ましくない。
このように、記憶層の磁区に関し、複雑化を避け、安定化させることは、大きくてノイズの少ない出力信号を得るために必要不可欠な要素となる。
【0026】
しかし、一般に、平行四辺形の記憶層においては、磁気構造が簡単になり、ほぼ単一磁区となる反面、保磁力及びスイッチング磁場が大きくなる。
【0027】
また、記憶層の端部にエッジドメインを固定するためのハードバイアス構造を付加することにより磁化反転の際の挙動が制御できるが、この場合も、保磁力が増加する。また、エッジドメインを固定するためのハードバイアス構造の付加が必要になるため、大容量メモリなどに要求される高密度化には適さない。
【0028】
さらに、H型又はI型の記憶層においては、スイッチング時における強磁性層の磁気構造の複雑な変化を防ぐ、という効果を最大限に引き出すには、磁化容易軸方向に垂直な方向に突出した部分を大きくする必要がある。しかし、この場合、磁気抵抗効果素子のサイズが実質的に増加するため、大容量メモリなどに要求される高集積化には適さない。
【0029】
スイッチング磁場を低減することは、磁気メモリ、例えば、磁気ランダムアクセスメモリを実現するために必要不可欠な要素である。しかし、記憶層が微細になり、例えば、記憶層の短軸方向の幅が数ミクロンからサブミクロン程度になると、記憶層(磁化領域)の端部においては、反磁場の影響により、磁性体の中央部分の磁気的構造とは異なる磁気的構造(エッジドメイン)が生じる。
【0030】
磁気ランダムアクセスメモリにおけるデータ書き込み動作では、磁気トンネル接合を持つMTJ素子のスイッチング曲線が重要である。
【0031】
MTJ素子は、互いに交差する2本の書き込み線の交差部に配置される。データ書き込みは、これら2本の書き込み線に流れる電流により発生する磁場によりMTJ素子の磁化の向きを反転させることにより行う。2本の書き込み線のうちのいずれか1本に流れる電流により発生する磁場のみでは、MTJ素子に対するデータ書き込みは行われない。
【0032】
従って、スイッチング曲線は、MTJ素子の記憶層の磁化容易軸(easy axis)と磁化困難軸(hard axis)により形成される平面上において、スイッチング(磁化反転)に必要な磁化容易軸方向の磁場の大きさと磁化困難軸方向の磁場の大きさにより定義される。
【0033】
スイッチング曲線は、単磁区モデルでは、アステロイド曲線として表現されることが知られている。書き込み特性は、スイッチング曲線でほぼ決まるため、スイッチング曲線を変形させて、書き込みウインドウを大きく取ることや、2本の書き込み線のうちの1本に流れる電流により発生する磁場のみが印加される半選択状態のMTJ素子の安定性を増すための試みが行われている。
【0034】
そして、そのようなスイッチング曲線を実現するための方法として、MTJ素子の形状を変形させる、という提案がなされている。
【0035】
例えば、そらまめ型(C型)MTJ素子というものがある(例えば、特許文献5参照)。そらまめ型MTJ素子の特徴は、磁化困難軸方向の磁場が小さいときには、磁気構造(磁化パターン)がC型磁区を構成し、磁化困難軸方向の磁場が大きいときには、磁気構造がS型磁区を構成するという点にある。
【0036】
C型磁区を構成している場合、記憶層の磁化の向きは反転し難く、S型磁区を構成している場合、記憶層の磁化の向きは反転し易いため、半選択状態のMTJ素子に対する誤書き込みを防止すると共に、書き込み時における保磁力を低下させ、スイッチング磁場を低下させることができる(C−Sスイッチング)。
【0037】
また、磁化困難軸方向の磁場が小さいときの磁気構造がC型磁区を構成する形状としては、そらまめ型の他に、十字型が存在する。十字型MTJ素子は、磁化困難軸方向の磁場が小さいときの磁気構造が2つのC型磁区を構成する点に特徴を有する。十字型MTJ素子では、磁化容易軸又は磁化困難軸に対して45°をなす方向のスイッチング磁場を低下させることができる。
【0038】
しかし、いずれにしても、現状のそらまめ型若しくは十字型を有するMTJ素子では、十分に満足できる書き込み特性を得ることができない。さらに、広い書き込みウインドウを持ち、かつ、半選択状態のMTJ素子の状態を安定させることができる形状が要求されている。
【特許文献1】特開平11−273337号公報
【特許文献2】米国特許第5,748,524号
【特許文献3】米国特許第6,205,053号
【特許文献4】米国特許第5,953,248号
【特許文献5】特開2003−78112
【非特許文献1】第24回日本応用磁気学会学術講演会12aB-3、12aB-7,第24回日本応用磁気学会学術講演概要集 p.26-27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
本発明の目的は、微細化されても、安定な磁気構造を持ち、かつ、書き込み時には、半選択セルの誤書き込みを防止しつつ、スイッチング磁場を低減させることができる磁気抵抗効果素子を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0040】
本発明の例に関わる磁気抵抗効果素子は、第1及び第2強磁性層とこれらの間に配置される非磁性層とからなる積層構造を有し、前記第1及び第2強磁性層のうちの少なくとも1つは、第1方向に磁気異方性を有する第3強磁性層と、前記第3強磁性層上に積層され、前記第1方向及びこれと逆向きの第2方向とは異なる第3方向に磁気異方性を有する第4強磁性層とを備える。
【0041】
本発明の例に関わる磁気抵抗効果素子は、第1及び第2強磁性層とこれらの間に配置される非磁性層とからなる積層構造を有し、前記第1及び第2強磁性層のうちの少なくとも1つは、第1方向に磁気異方性を有する第1部分と、前記第1部分に物理的に結合され、前記第1方向及びこれと逆向きの第2方向とは異なる第3方向に磁気異方性を有する第2部分とを備える。
【発明の効果】
【0042】
本発明の例によれば、微細化されても、安定な磁気構造を持ち、かつ、書き込み時には、半選択セルの誤書き込みを防止しつつ、スイッチング磁場を低減させることができる磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0044】
1. 概要
本発明の例は、残留磁化がC型磁区を構成し、かつ、スイッチング(磁化反転)時には、記憶層(フリー層)の磁化パターンがC型磁区からS型磁区に変わる、といういわゆるC−Sスイッチングを行うのに適した構造を有する磁気抵抗効果素子に関する。
【0045】
C−Sスイッチングでは、磁化反転を行わない非選択及び半選択の磁気抵抗効果素子の記憶層の磁化パターンは、磁化反転に大きなスイッチング磁場を必要とするC型磁区を構成し、一方、磁化反転を行う選択された磁気抵抗効果素子の記憶層の磁化パターンは、C型磁区から、磁化反転を小さなスイッチング磁場で行うことができるS型磁区に変わるため、書き込みディスターブを改善でき、誤書き込みの防止、選択性の向上を実現できる。
【0046】
このようなC−Sスイッチングを行うためには、具体的には、磁気抵抗効果素子の磁化容易軸(easy axis)方向の磁場と磁化困難軸(hard axis)方向の磁場の合成磁場により磁化反転を行う場合、磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域において、記憶層の磁化パターンが複数のC型磁区を維持できる磁気抵抗効果素子の構造を提案すればよい。
【0047】
そのような磁気抵抗効果素子の構造は、磁化容易軸方向に磁気異方性を有する一般的な磁気抵抗効果素子に対して、磁化困難軸方向に弱い磁気異方性を有する部分を結合させる構造とする。そのような構造としたのは、磁化困難軸方向の磁気異方性が磁気抵抗効果素子の端部の磁区の形成に影響を与えるからである。
【0048】
例えば、そらまめ型(C型)や十字型などの第1方向(磁化容易軸方向)に磁気異方性を有する磁気抵抗効果素子の強磁性層(第1部分)に対して、第1方向及びこれと逆向きの第2方向とは異なる第3方向に磁気異方性を有する強磁性層(第2部分)を結合させる。
【0049】
結合の仕方としては、第1及び第2部分を同一面内で結合させてもよいし、また、第1及び第2部分を積み重ねて結合させてもよい。積み重ねる場合には、第1部分と第2部分は、同じ形状とし、さらに、両者の間に強磁性結合又は反強磁性結合が生じるように、両者を直接結合させるか、若しくは、両者の間に非磁性層を配置させる。積み重ねる強磁性層の数は、2つ以上とする。
【0050】
尚、第1及び第2部分の間に非磁性層を配置する場合には、両者の間には、強磁性結合又は反強磁性結合に加えて層間結合が発生する。層間結合の発生は、第1及び第2部分の磁化の向きを異ならせるに当たって都合がよい。
【0051】
また、第3方向が、第1又は第2方向に対して、30°以上、90°以下の範囲内の角度の方向、例えば、第1及び第2方向に対して90°の方向を向いていると、より複数のC型磁区を作り易くなる。
【0052】
磁気抵抗効果素子の記憶層の厚さは、0.1nm以上、50nm以下の範囲の値に設定されるのがよい。
【0053】
このように、本発明の例に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層は、残留磁化、及び、磁化反転を行わない場合の磁化パターンが、それぞれ、複数のC型磁区を構成できる構造を有する。従って、C−Sスイッチングにより、書き込みディスターブを改善でき、誤書き込みの防止、選択性の向上を実現できる。
【0054】
また、記憶層が複数の強磁性層の積層構造から構成されることにより、広い書き込みウインドウ、即ち、磁化反転を行う選択された磁気抵抗効果素子の反転磁場の値と、磁化反転を行わない非選択の磁気抵抗効果素子の反転磁場の値との差を大きくすることができる。
【0055】
即ち、複数の強磁性層を互いに強磁性結合又は反強磁性結合させることにより、単磁区モデルでは、図24に示すような磁化困難軸方向に長く伸びたアステロイド曲線を得ることができるため、かかる構造とC−Sスイッチングとを組み合わせることにより、広い書き込みウインドウを実現できる。
【0056】
2. 実施の形態
以下、本発明の例を実施するに当たって最適と思われる複数の実施の形態について説明する。
【0057】
本発明の例の対象となる磁気メモリ素子は、磁気抵抗(Magneto Resistive)効果を有する磁気抵抗効果素子、例えば、トンネル磁気抵抗効果を有するMTJ(Magneto Tunnel Junction)素子である。そこで、まず、MTJ素子の基本構造について説明する。
【0058】
MTJ素子の磁気トンネル接合は、図1に示すように、2つの強磁性層1a,1bと、これらの間に挟み込まれた薄い絶縁層(非磁性層)2とから構成される。強磁性層のうちの一つは、反強磁性層3により磁化パターン(磁化の向き)が固定された基準層(ピン層)1aであり、他の一つは、データに応じて磁化パターン(磁化の向き)が変わる記憶層(フリー層)1bである。基準層1aと記憶層1bの間に配置された絶縁層2は、トンネルバリアと呼ばれる。
【0059】
通常、強磁性層1a,1bは、Ni、Fe、Co、これら金属の合金や、CoFeBのようなアモルファス磁性体などから構成される。強磁性層1a,1bの各層は、スパッタ法やMBE法などにより形成され、その厚さは、0.1nm以上、50nm以下の範囲の値に設定される。また、絶縁層2は、例えば、AlOx、MgOなどの酸化物から構成される。絶縁層2の厚さは、10nm以下に設定される。絶縁層2の厚さは、できるだけ薄いほうがよく、近年では、絶縁層2は、2nm以下、より好ましくは、1nm以下に設定される。
【0060】
本発明の例は、上記概要の欄で説明したように、磁気抵抗効果素子の構造に関するものであるが、具体的には、磁気抵抗効果素子の記憶層(フリー層)の構造に関する。即ち、本発明の例では、磁気抵抗効果素子の記憶層は、磁化の向きが第1方向(磁化容易軸方向)となる第1部分と、この第1部分に結合され、磁化の向きが第1方向及びこれと逆向きの第2方向とは異なる第3方向となる第2部分とから構成される。
【0061】
従って、以下の複数の実施の形態では、磁気抵抗効果素子の記憶層のみを取り出して、その記憶層の構造について説明する。
【0062】
(1) 第1実施の形態
図2は、本発明の第1実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を示している。
【0063】
本例では、磁気抵抗効果素子の記憶層は、2つの文字Cを結合させた概形を有する。ここで、記憶層は、矢印で示すように、磁化容易軸方向に磁気異方性を有する第1部分と、磁化困難軸方向に磁気異方性を有する第2部分とから構成される(矢印の向きが磁気異方性を表すものとする。以下、全ての実施の形態において同じ。)。
【0064】
尚、記憶層の磁気異方性については、記憶層としての強磁性層を堆積するときに、堆積時の諸条件を設定することで容易に調整することができる。
【0065】
また、磁化容易軸方向の磁気異方性が磁化容易軸に平行であるとすると、磁化困難軸方向の磁気異方性は、磁化容易軸方向に対して、30°以上、90°以下の範囲内の角度の方向に設定される。
【0066】
この場合、磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域において、記憶層の磁化パターンは、第1部分においては、磁化容易軸方向を向き、第2部分においては、磁化困難軸方向(磁化容易軸方向に対して、30°以上、90°以下の範囲内の角度方向)を向くことになる。
【0067】
従って、磁化反転を行わない半選択及び非選択状態の磁気抵抗効果素子の記憶層の磁化パターンは、複数のC型磁区から構成されることになるため、反転磁場が大きく、誤書き込みを有効に防止できる。
【0068】
一方、磁化反転を行う選択状態の磁気抵抗効果素子の記憶層の磁化パターンは、磁化容易軸方向の磁場と磁化困難軸方向の磁場の合成磁場により、C型磁区からS型磁区に変化するため、反転磁場が小さくなる。このため、小さなスイッチング磁場で磁化反転を行うことができる。
【0069】
また、書き込み後の残留磁化は、複数のC型磁区から構成されるため、微細化されても、安定した磁気構造を確保できる。
【0070】
図3は、図2の記憶層を有する磁気抵抗効果素子のスイッチング曲線を示している。また、図4は、単磁区モデルで得られるスイッチング曲線(アステロイド曲線)を示している。
【0071】
図3と図4を比べると、図2の記憶層を有する磁気抵抗効果素子のスイッチング曲線は、磁化容易軸方向の磁場と磁化困難軸方向の磁場の双方が存在する領域において、単磁区モデルで得られるスイッチング曲線よりも窪んでいる。この窪みが大きいということは、スイッチング磁場(反転磁場)が小さいことを意味する。
【0072】
従って、図2の記憶層を有する磁気抵抗効果素子によれば、磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域(非選択又は半選択の場合)において、反転磁場を大きくして誤書き込みを防止することができると共に、磁化容易軸方向の磁場と磁化困難軸方向の磁場の双方が存在する領域(選択の場合)において、反転磁場を小さくして、書き込み電流の低下による低消費電流化を図ることができる。
【0073】
尚、この窪みの大きさは、記憶層の厚さにも依存する。
【0074】
スイッチング曲線の窪み自体は、記憶層の厚さを50nm以下に設定することにより形成できる。但し、近年におけるメモリ素子の高集積化や低消費電流化を考慮すると、スイッチング曲線の窪みを考慮した記憶層の厚さは、2nm以上、20nm以下の範囲内の値、さらには、4nm以上、14nm以下の範囲内の値に設定することが好ましい。
【0075】
記憶層の平面形状の縦横比については、縦(磁化困難軸方向):横(磁化容易軸方向)が1:1から1:10までの範囲内の値となるように設定するのが好ましい。実際には、メモリ素子の高集積化などの観点から、1:2から1:4までの範囲内の値(本例では、概ね、1:2)に設定される。
【0076】
(2) 第2実施の形態
図5は、本発明の第2実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を示している。
【0077】
本例では、磁気抵抗効果素子の記憶層は、2つの文字Cを背中合わせに結合させた概形を有する。ここでも、記憶層は、矢印で示すように、磁化容易軸方向に磁気異方性を有する第1部分と、磁化困難軸方向に磁気異方性を有する第2部分とから構成される。
【0078】
従って、磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域において、記憶層の磁化パターンは、第1部分においては、磁化容易軸方向を向き、第2部分においては、磁化困難軸方向(磁化容易軸方向に対して、30°以上、90°以下の範囲内の角度方向)を向く。
【0079】
本例においても、磁化反転を行わない非選択及び半選択状態の磁気抵抗効果素子の記憶層の磁化パターンは、複数のC型磁区から構成されるため、反転磁場が大きく、誤書き込みを有効に防止できる。
【0080】
一方、磁化反転を行う選択状態の磁気抵抗効果素子の記憶層の磁化パターンは、磁化容易軸方向の磁場と磁化困難軸方向の磁場の合成磁場により、C型磁区からS型磁区に変化するため、反転磁場が小さくなる。このため、小さなスイッチング磁場で磁化反転を行うことができる。
【0081】
また、書き込み後の残留磁化は、複数のC型磁区から構成されるため、微細化されても、安定した磁気構造を確保できる。
【0082】
図6は、図5の記憶層を有する磁気抵抗効果素子のスイッチング曲線を示している。
【0083】
このスイッチング曲線は、図3のスイッチング曲線とほぼ同じとなる。即ち、磁化容易軸方向の磁場と磁化困難軸方向の磁場の双方が存在する領域において、図6のスイッチング曲線の窪みは、図4に示す単磁区モデルで得られるスイッチング曲線のそれよりも大きい。
【0084】
従って、図5の記憶層を有する磁気抵抗効果素子によれば、磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域(非選択又は半選択の場合)において、反転磁場を大きくして誤書き込みを防止することができると共に、磁化容易軸方向の磁場と磁化困難軸方向の磁場の双方が存在する領域(選択の場合)において、反転磁場を小さくして、書き込み電流の低下による低消費電流化を図ることができる。
【0085】
尚、スイッチング曲線の窪みの大きさが記憶層の厚さに依存することは、第1実施の形態と同じである。即ち、スイッチング曲線の窪み自体は、記憶層の厚さを50nm以下に設定することにより形成できるが、実際の記憶層の厚さは、2nm以上、20nm以下の範囲内の値、さらには、4nm以上、14nm以下の範囲内の値に設定される。
【0086】
記憶層の平面形状の縦横比についても、第1実施の形態と同様に、縦(磁化困難軸方向):横(磁化容易軸方向)が1:1から1:10までの範囲内の値となるように設定される。実際には、1:2から1:4までの範囲内の値(本例では、概ね、1:2)に設定される。
【0087】
(3) 第3実施の形態
図7は、本発明の第3実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を示している。
【0088】
本例でも、磁気抵抗効果素子の記憶層は、2つの文字Cを背中合わせに結合させた概形を有する。具体的には、本例の記憶層は、2つの平行四辺形を交差させた概形を有する。
【0089】
記憶層が2つの平行四辺形を交差させた概形を有するため、記憶層の先端部の形状は、四角ではなく、斜めに切り落とされたテーパ状となる。
【0090】
尚、記憶層の先端部(鋭角部)の角度は、20°以上、90°未満の範囲内の値に設定される。
【0091】
ここで、記憶層の先端部の角度とは、記憶層を加工する際に用いるマスクの対応部分における角度を意味する。実際に形成される記憶層に関しては、フォトリソグラフィの精度や、加工精度などに依存して、先端部は、鋭角ではなく、ある曲率をもって丸くなる。
【0092】
実際に形成された記憶層の形状からこの角度を判断するには、例えば、記憶層の辺となる概ね直線部分をまっすぐ引き伸ばし、直線が交差する部分の交差角度を記憶層の先端部の角度とする。
【0093】
このような場合においても、磁気抵抗効果素子の記憶層は、矢印で示すように、第1方向(例えば、磁化容易軸方向)に磁気異方性を有する第1部分と、第1方向及びこれと逆向きの第2方向とは異なる第3方向(例えば、磁化困難軸方向)に磁気異方性を有する第2部分とから構成される。
【0094】
本例では、磁気抵抗効果素子の記憶層の平面形状は、中心点に対して対称的となるが、例えば、図8及び図9に示すように、中心点に対して非対称となるような形状とし、2つのC型磁区を形成し易くしてもよい。
【0095】
また、図10に示すように、1つの平行四辺形と1つの四角形とを交差させたような概形としてもよい。図10の形状を実際にMTJ素子に適用すると、例えば、図11及び図12に示すような概形となる。
【0096】
図7乃至図12の平面形状を有する磁気抵抗効果素子においても、磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域(非選択又は半選択の場合)において、反転磁場を大きくして誤書き込みを防止することができると共に、磁化容易軸方向の磁場と磁化困難軸方向の磁場の双方が存在する領域(選択の場合)において、反転磁場を小さくして、書き込み電流の低下による低消費電流化を図ることができる。
【0097】
尚、記憶層の厚さと縦横比については、第1実施の形態と同じなので、ここでは、その説明については省略する。
【0098】
(4) 第4実施の形態
図13は、本発明の第4実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を示している。
【0099】
本例では、磁気抵抗効果素子の記憶層は、3つの文字Cを結合させた概形を有する。ここでも、記憶層は、矢印で示すように、磁化容易軸方向に磁気異方性を有する第1部分と、磁化困難軸方向に磁気異方性を有する第2部分とから構成される。
【0100】
従って、磁気抵抗効果素子の記憶層の残留磁化及び磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域(非選択又は半選択の場合)における磁化パターンは、それぞれ3つのC型磁区から構成される。
【0101】
尚、磁気抵抗効果素子の記憶層は、3つを超える数の文字Cを結合させた概形となるように形成してもよい。
【0102】
図14は、図13の記憶層を有する磁気抵抗効果素子のスイッチング曲線を示している。
【0103】
図13の記憶層を有する磁気抵抗効果素子においても、磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域(非選択又は半選択の場合)において、反転磁場を大きくして誤書き込みを防止することができると共に、磁化容易軸方向の磁場と磁化困難軸方向の磁場の双方が存在する領域(選択の場合)において、反転磁場を小さくして、書き込み電流の低下による低消費電流化を図ることができる。
【0104】
尚、記憶層の厚さと縦横比については、第1実施の形態と同じなので、ここでは、その説明については省略する。
【0105】
(5) 第5実施の形態
図15は、本発明の第5実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を示している。
【0106】
本例では、磁気抵抗効果素子の記憶層は、3つの文字Cを結合させた概形を有する。具体的には、記憶層は、特定の1つの文字Cと、この特定の1つの文字Cに対して、同じ方向を向く文字Cと異なる方向を向く文字Cとを組み合わせた概形を有する。ここでも、記憶層は、矢印で示すように、磁化容易軸方向に磁気異方性を有する第1部分と、磁化困難軸方向に磁気異方性を有する第2部分とから構成される。
【0107】
従って、磁気抵抗効果素子の記憶層の残留磁化及び磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域(非選択又は半選択の場合)における磁化パターンは、それぞれ3つのC型磁区から構成される。
【0108】
図15の平面形状を有する磁気抵抗効果素子においても、磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域(非選択又は半選択の場合)において、反転磁場を大きくして誤書き込みを防止することができると共に、磁化容易軸方向の磁場と磁化困難軸方向の磁場の双方が存在する領域(選択の場合)において、反転磁場を小さくして、書き込み電流の低下による低消費電流化を図ることができる。
【0109】
尚、記憶層の厚さと縦横比については、第1実施の形態と同じなので、ここでは、その説明については省略する。
【0110】
(6) 第6実施の形態
図16は、本発明の第6実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層の平面形状を示している。
【0111】
本例では、磁気抵抗効果素子の記憶層は、4つの文字Cを結合させた概形を有する。具体的には、記憶層は、特定の1つの文字Cと、この特定の1つの文字Cに対して、同じ方向を向く文字Cと異なる方向を向く文字Cとを組み合わせた概形を有する。ここでも、記憶層は、矢印で示すように、磁化容易軸方向に磁気異方性を有する第1部分と、磁化困難軸方向に磁気異方性を有する第2部分とから構成される。
【0112】
従って、磁気抵抗効果素子の記憶層の残留磁化及び磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域(非選択又は半選択の場合)における磁化パターンは、それぞれ4つのC型磁区から構成される。
【0113】
図16の平面形状を有する磁気抵抗効果素子においても、磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域(非選択又は半選択の場合)において、反転磁場を大きくして誤書き込みを防止することができると共に、磁化容易軸方向の磁場と磁化困難軸方向の磁場の双方が存在する領域(選択の場合)において、反転磁場を小さくして、書き込み電流の低下による低消費電流化を図ることができる。
【0114】
尚、記憶層の厚さと縦横比については、第1実施の形態と同じなので、ここでは、その説明については省略する。
【0115】
(7) 第7実施の形態
本実施の形態は、例えば、上述の第1乃至第6実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を、2つ以上の異なる強磁性層の積層構造から構成する例に関する。例えば、図17に示すように、磁気抵抗効果素子の記憶層となる強磁性層は、2種類の強磁性層1b,1cから構成される。
【0116】
磁気抵抗効果素子の記憶層を、このような2種類の強磁性層1b,1cから構成すると、図24に示すように、磁気抵抗効果素子のスイッチング曲線が磁化困難軸方向に大きく伸びる。
【0117】
このようなスイッチング曲線では、いわゆる半選択状態のメモリ素子の磁化状態を安定化させることができ、誤書き込みを有効に防止できる。また、この場合、スイッチング曲線が磁化困難軸から十分に離れているため、ネール結合や基準層からの漏れ磁場などによるスイッチング曲線のシフトの影響が小さくなり、スイッチング曲線のばらつきに強くなる。
【0118】
尚、ここで言う「2種類」とは、「異なる磁気特性」を意味し、異なる磁気特性は、例えば、強磁性層の膜厚、成膜条件、材料、構造(ソフト層、ハード層)などにより実現できる。
【0119】
図18は、第7実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層の構造例1を示している。
【0120】
本例は、図2の磁気抵抗効果素子の記憶層を、2種類の強磁性層1b,1cから構成した点に特徴を有する。
【0121】
強磁性層1b,1cは、磁化容易軸方向に磁気異方性を有する第1部分と、磁化困難軸方向に磁気異方性を有する第2部分とから構成される。また、強磁性層1b,1cは、強磁性結合又は反強磁性結合させる。
【0122】
尚、強磁性層1b,1cの磁化状態については、同じ向きになっていてもよいし、また、互いに逆向きになっていてもよい。
【0123】
図19は、第7実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層の構造例2を示している。
【0124】
本例は、十字型磁気抵抗効果素子の記憶層を、2種類の強磁性層1b,1cから構成した点に特徴を有する。
【0125】
また、本例は、強磁性層1b,1cが、2つの文字Cを結合した概形を有する点に特徴を有するものであり、その一例として、十字型を示している。尚、強磁性層1b,1cは、強磁性結合又は反強磁性結合させる。
【0126】
強磁性層1bは、矢印で示すように、第1方向に磁気異方性を有するように構成される。強磁性層1cは、矢印で示すように、第1方向及びこれと逆向きの第2方向とは異なる第3方向に磁気異方性を有するように構成される。
【0127】
このように、磁気異方性の向きを異ならせるには、例えば、強磁性層1bを成膜する際に印加する磁場の向きと、強磁性層1cを成膜する際に印加する磁場の向きと異ならせる、という方法を用いることが可能である。
【0128】
図19では、強磁性層1bと強磁性層1cとの間の領域では、磁化の向きが徐々に螺旋状に変化した磁区構造をとるものと考えられる。
【0129】
この場合、磁気抵抗効果素子の記憶層の残留磁化及び磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域(非選択又は半選択の場合)における磁化パターンは、それぞれ2つのC型磁区から構成される。
【0130】
(8) 第8実施の形態
本実施の形態も、例えば、上述の第1乃至第6実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を、2つ以上の異なる強磁性層の積層構造から構成する例に関する。しかし、本実施の形態では、上述の第7実施の形態とは異なり、例えば、図20及び図21に示すように、磁気抵抗効果素子の記憶層となる強磁性層は、2種類の強磁性層1b,1cと、これらの間に配置される非磁性層4とから構成される。
【0131】
強磁性層1b,1cの間に非磁性層4を配置することで、これら強磁性層1b,1cの間に層間結合と呼ばれる結合が発生する。層間結合は、非磁性層4の厚さに依存して、強磁性層1b,1cの間に強磁性結合又は反強磁性結合を生じさせる。
【0132】
尚、図20の例は、非磁性層4が導電体の場合であり、図21の例は、非磁性層4が絶縁体の場合である。
【0133】
磁気抵抗効果素子の記憶層を、強磁性層1b,1cと、これらの間に配置される非磁性層4とから構成すると、図24に示すように、磁気抵抗効果素子のスイッチング曲線が磁化困難軸方向に大きく伸びる。
【0134】
このようなスイッチング曲線では、いわゆる半選択状態のメモリ素子の磁化状態を安定化させることができ、誤書き込みを有効に防止できる。また、この場合、スイッチング曲線が磁化困難軸から十分に離れているため、ネール結合や基準層からの漏れ磁場などによるスイッチング曲線のシフトの影響が小さくなり、スイッチング曲線のばらつきに強くなる。
【0135】
図22は、第8実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層の構造例1を示している。
【0136】
本例は、図2の磁気抵抗効果素子の記憶層を、強磁性層1b,1cと、これらの間に配置される非磁性層4とから構成した点に特徴を有する。
【0137】
強磁性層1b,1cは、磁化容易軸方向に磁気異方性を有する第1部分と、磁化困難軸方向に磁気異方性を有する第2部分とから構成される。また、強磁性層1b,1cは、強磁性結合又は反強磁性結合させる。
【0138】
尚、強磁性層1b,1cの磁化状態については、同じ向きになっていてもよいし、また、互いに逆向きになっていてもよい。
【0139】
図23は、第8実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層の構造例2を示している。
【0140】
本例は、十字型磁気抵抗効果素子の記憶層を、強磁性層1b,1cと、これらの間に配置される非磁性層4とから構成した点に特徴を有する。
【0141】
また、本例は、強磁性層1b,1cが、2つの文字Cを結合した概形を有する点に特徴を有するものであり、その一例として、十字型を示している。尚、強磁性層1b,1cは、強磁性結合又は反強磁性結合させる。
【0142】
強磁性層1bは、矢印で示すように、第1方向に磁気異方性を有するように構成される。強磁性層1cは、矢印で示すように、第1方向及びこれと逆向きの第2方向とは異なる第3方向に磁気異方性を有するように構成される。
【0143】
このように、磁気異方性の向きを異ならせるには、例えば、強磁性層1bを成膜する際に印加する磁場の向きと、強磁性層1cを成膜する際に印加する磁場の向きと異ならせる、という方法を用いることが可能である。
【0144】
図23では、強磁性層1bと強磁性層1cとの間の領域では、磁化の向きが徐々に螺旋状に変化した磁区構造をとるものと考えられる。
【0145】
この場合、磁気抵抗効果素子の記憶層の残留磁化及び磁化困難軸方向の磁場が零又は小さい領域(非選択又は半選択の場合)における磁化パターンは、それぞれ2つのC型磁区から構成される。
【0146】
(9) その他
本発明の例は、磁気抵抗効果素子の記憶層の磁気異方性により規定される。従って、上述の第1乃至第8実施の形態に関わる記憶層の形状は、一例に過ぎず、それ自体に特徴を有する、というものではない。
【0147】
但し、本発明の例に関わる磁気異方性を有する記憶層であって、上述の第1乃至第8実施の形態に関わる形状を有する記憶層は、強磁性層の加工時に使用するマスクの形状を工夫することにより容易に実現できる。
【0148】
また、図2、図5、図7〜図13、図15及び図16に示される記憶層を、図18及び図22に示されるように、積層構造とすることも可能である。
【0149】
3. 応用例
本発明の例に関わる磁気抵抗効果素子は、磁気ランダムアクセスメモリのメモリセルに応用できる。
【0150】
本発明の例に関わる磁気抵抗効果素子は、スイッチング磁場を十分に小さくすることができるため、磁気ランダムアクセスメモリのメモリセルにおける記憶層に適用すると最大の効果を発揮することができる。
【0151】
以下、磁気ランダムアクセスメモリの例についていくつか説明する。
【0152】
図25は、クロスポイント型メモリセルアレイを示している。
【0153】
読み出し/書き込みワード線WLと読み出し/書き込みビット線BLとは、互いに交差しており、その交差部に磁気抵抗効果素子Cが配置される。磁気抵抗効果素子Cは、読み出し/書き込みワード線WL及び読み出し/書き込みビット線BLに電気的に接続される。
【0154】
磁気抵抗効果素子Cと読み出し/書き込みワード線WLとの間には、ダイオードDが配置される。ダイオードDは、クロスポイント型メモリセルアレイに特有の読み出し/書き込み時におけるいわゆる回り込み電流を防止する機能を有する。回り込み電流は、例えば、このダイオードDと、非選択の読み出し/書き込みワード線WL及び非選択の読み出し/書き込みビット線BLにバイアス電圧を与えることにより回避する。
【0155】
読み出し/書き込みワード線WLには、例えば、選択トランジスタSTwを経由してセンスアンプSAが接続される。読み出し/書き込みビット線BLには、例えば、選択トランジスタSTBを経由して電源が接続される。
【0156】
図26は、はしご型メモリセルアレイを示している。
【0157】
書き込みビット線BLwと読み出しビット線BLrとの間には、はしご状に複数の磁気抵抗効果素子Cが配置される。書き込みビット線BLwと読み出しビット線BLrは、同一方向に延びている。
【0158】
磁気抵抗効果素子Cの直下には、書き込みワード線WLが配置される。書き込みワード線WLは、磁気抵抗効果素子Cから一定距離だけ離れて配置され、書き込みビット線BLwに交差する方向に延びる。
【0159】
読み出しビット線BLrには、例えば、選択トランジスタSTを経由して抵抗素子Rが接続される。センスアンプSAは、抵抗素子Rの両端に発生する電圧を検出することにより読み出しデータをセンスする。書き込みビット線BLwの一端には、電源が接続され、他端には、例えば、選択トランジスタSTを経由して接地点が接続される。
【0160】
図27及び図28は、それぞれ1トランジスタ−1MTJ型メモリセルアレイを示している。
【0161】
書き込みワード線WLと読み出し/書き込みビット線BLとは、互いに交差しており、その交差部に磁気抵抗効果素子Cが配置される。磁気抵抗効果素子Cは、読み出し/書き込みビット線BLに電気的に接続される。磁気抵抗効果素子Cの直下には、書き込みワード線WLが配置される。書き込みワード線WLは、磁気抵抗効果素子Cから一定距離だけ離れている。
【0162】
磁気抵抗効果素子Cの一端は、例えば、選択トランジスタST2を経由してセンスアンプSAに接続される。読み出し/書き込みビット線BLは、選択トランジスタST1を経由して電源に接続される。
【0163】
尚、図28の構造では、磁気抵抗効果素子Cの一端は、引き出し線としての下部電極Lに接続される。このため、磁気抵抗効果素子Cの直下に選択トランジスタST2が配置されても、書き込みワード線WLを磁気抵抗効果素子Cの近傍に配置することができる。
【0164】
以上、本発明の例に関わる磁気抵抗効果素子が適用される磁気ランダムアクセスメモリの代表例について説明したが、本発明の例は、これら代表例以外の磁気ランダムアクセスメモリにも適用できる。
【0165】
尚、磁気抵抗効果素子の磁化容易軸方向は、書き込みワード線に平行であってもよいし、書き込みビット線に平行であってもよい。また、磁気抵抗効果素子の磁化容易軸方向は、2本の書き込み線(書き込みワード/ビット線)が延びる方向に対して45°の方向を向いていてもよい。
【0166】
4. その他
本発明の例によれば、磁化反転の対象となる選択状態では、スイッチング曲線の書き込みポイント(窪み部分)におけるスイッチング磁場が小さくなり、かつ、磁化反転の対象とならない半選択状態及び非選択状態では、磁化状態が安定した磁気抵抗効果素子を提供できる。
【0167】
この磁気抵抗効果素子を磁気メモリのメモリセルとして用いた場合、磁化反転に必要なスイッチング磁場を生成するための書き込み電流を小さくでき、低消費電流を実現できる。このように、本発明の例によれば、消費電力が少なく、高集積化が可能で、かつ、スイッチング(磁化反転)が高速に行える磁気メモリを提供できる。
【0168】
本発明の例は、上述の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、構成要素を変形して具体化できる。また、上述の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を構成できる。例えば、上述の形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】本発明の例に関わる磁気抵抗効果素子の断面構造を示す図。
【図2】第1実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を示す図。
【図3】図2の磁気抵抗効果素子のスイッチング曲線を示す図。
【図4】単磁区モデルで得られるスイッチング曲線を示す図。
【図5】第2実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を示す図。
【図6】図5の磁気抵抗効果素子のスイッチング曲線を示す図。
【図7】第3実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を示す図。
【図8】図7の磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図9】図7の磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図10】図7の磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図11】図7の磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図12】図7の磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図13】第4実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を示す図。
【図14】図13の磁気抵抗効果素子のスイッチング曲線を示す図。
【図15】第5実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を示す図。
【図16】第6実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層を示す図。
【図17】本発明の例に関わる磁気抵抗効果素子の断面構造を示す図。
【図18】第7実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層の構造例1を示す図。
【図19】第7実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層の構造例2を示す図。
【図20】本発明の例に関わる磁気抵抗効果素子の断面構造を示す図。
【図21】本発明の例に関わる磁気抵抗効果素子の断面構造を示す図。
【図22】第8実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層の構造例1を示す図。
【図23】第8実施の形態に関わる磁気抵抗効果素子の記憶層の構造例2を示す図。
【図24】第7及び第8実施の形態の磁気抵抗効果素子のスイッチング曲線を示す図。
【図25】磁気ランダムアクセスメモリの例を示す図。
【図26】磁気ランダムアクセスメモリの例を示す図。
【図27】磁気ランダムアクセスメモリの例を示す図。
【図28】磁気ランダムアクセスメモリの例を示す図。
【符号の説明】
【0170】
1a: 強磁性層(基準層)、 1b: 強磁性層(記憶層)、 2: トンネルバリア、 3: 反強磁性層、 4: 非磁性層、 C: 磁気抵抗効果素子、 D: ダイオード、 R: 抵抗素子、 SA: センスアンプ、 STw,STB,ST,ST1,ST2: 選択トランジスタ、 BL: 読み出し/書き込みビット線、 WL: 書き込みワード線、 BLw: 書き込みビット線、 BLr: 読み出しビット線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2強磁性層とこれらの間に配置される非磁性層とからなる積層構造を有する磁気抵抗効果素子において、前記第1及び第2強磁性層のうちの少なくとも1つは、第1方向に磁気異方性を有する第3強磁性層と、前記第3強磁性層上に積層され、前記第1方向及びこれと逆向きの第2方向とは異なる第3方向に磁気異方性を有する第4強磁性層とを備えることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記第4強磁性層は、前記第3強磁性層上に直接積層されることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記第4強磁性層は、前記第3強磁性層上に非磁性層を介して積層されることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記第3及び第4強磁性層は、同じ形状を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記第3及び第4強磁性層は、2つ以上の文字Cを結合した概形を有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第3及び第4強磁性層は、十字の概形を有していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記第3及び第4強磁性層により複数のC型磁区が構成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
前記第3及び第4強磁性層は、互いに強磁性結合又は反強磁性結合していることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
第1及び第2強磁性層とこれらの間に配置される非磁性層とからなる積層構造を有する磁気抵抗効果素子において、前記第1及び第2強磁性層のうちの少なくとも1つは、第1方向に磁気異方性を有する第1部分と、前記第1部分に物理的に結合され、前記第1方向及びこれと逆向きの第2方向とは異なる第3方向に磁気異方性を有する第2部分とを備えることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
前記第1及び第2部分により2つ以上の文字Cを結合した概形が得られることを特徴とする請求項9に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
前記2つ以上の文字Cは、同じ方向を向いていることを特徴とする請求項10に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項12】
前記2つ以上の文字Cは、異なる方向を向いていることを特徴とする請求項10に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項13】
前記第1及び第2部分により十字の概形が得られることを特徴とする請求項9に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項14】
前記第1及び第2部分により2つの平行四辺形を交差させた概形が得られることを特徴とする請求項9に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項15】
前記第1及び第2部分により平行四辺形と四角形とを交差させた概形が得られることを特徴とする請求項9に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項16】
前記第1及び第2部分により複数のC型磁区が構成されることを特徴とする請求項9乃至15のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項17】
前記第1及び第2強磁性層のうちの少なくとも1つは、2つの磁性層を備え、かつ、これらの2つの磁性層は、互いに強磁性結合又は反強磁性結合していることを特徴とする請求項9乃至16のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項18】
前記第1及び第2強磁性層のうちの少なくとも1つは、2つの磁性層と、これら2つの磁性層の間の非磁性層とを備え、かつ、これらの2つの磁性層は、互いに強磁性結合又は反強磁性結合していることを特徴とする請求項9乃至16のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項19】
前記第3方向は、前記第1又は第2方向に対して、30°以上、90°以下の範囲内の角度の方向を向いていることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項20】
前記第1及び第2強磁性層の厚さは、0.1nm以上、50nm以下の範囲の値に設定されることを特徴とする請求項1乃至19のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項21】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子をメモリセルとして用いたことを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2006−128394(P2006−128394A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314359(P2004−314359)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】