説明

磁気記録媒体及びその製造方法並びに記憶装置

【課題】磁気記録媒体及びその製造方法並びに記憶装置において、記録層をパターニングする際に記録層を形成する磁性粒子の体積の局所的減少を抑えて熱揺らぎの影響を受けにくくすることを目的とする。
【解決手段】非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する記録層と、記録層に形成されたパターンの凹部に埋め込まれた非磁性体を備え、磁性粒子は記録層の上部領域内の直径が記録層の下部領域内の直径より大きい逆円錐台形状を有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体及びその製造方法並びに記憶装置に係り、特に所謂ディスクリートトラックメディア(Discrete Track Media)と呼ばれる磁気記録媒体及びその製造方法並びに記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの外部記憶装置等として利用される記憶装置では、磁気記録媒体の記録密度が急速に向上されている。高記録密度を実現するには、信号対雑音比(SNR:Signal-to-Noise Ratio)を向上する必要があるが、特に遷移ノイズの低減は最重要課題の一つである。遷移ノイズは、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性粒子の大きさに依存し、磁性粒径が小さい程抑制できる。しかし、磁性粒径の低減は、書き込まれた情報の熱揺らぎ耐性(又は、熱安定性)の低下を伴うため、記録層を形成する材料には磁気異方性エネルギー密度の高いものを用いる必要があり、その結果、磁気ヘッドによる磁気記録媒体への情報書き込みが困難になってしまうという問題が生じる。
【0003】
この問題を回避する手段として提案されたのが、パターンド媒体と呼ばれる磁気記録媒体である。パターンド媒体には、ディスクリートトラックメディア(DTM:Discrete Track Media)やビットパターンドメディア(BPM:Bit Patterned Media)等が含まれる。DTMは、記録層がトラック方向に物理的に分断された構造を有し、BPMは、記録層がトラック方向及びビット方向に物理的に分断された構造を有する。DTMではトラック密度を向上することが可能となり、BPMではトラック密度と線密度の両方を向上することが可能となる。
【0004】
パターンド媒体の記録層にパターンを形成する方法としては、電子ビーム描画等を用いたリソグラフィー技術によってスタンパを製造し、スタンパを記録層上に成膜したレジストに押し付けることでパターンを転写し、その後ドライエッチングを行うことで記録層にパターンを形成する方法が提案されている。
【0005】
ところで、磁気ヘッドは、パターンド媒体から所定距離だけ浮上した状態で情報の書き込み及び読み出しを行う。このため、磁気ヘッドとパターンド媒体の接触による磁気ヘッド又はパターンド媒体の損傷を防ぐためには、パターンド媒体の媒体表面が平坦である必要がある。そこで、上記の如く記録層にパターンを形成した後に、パターンの凹部を埋め戻す等して媒体表面を平坦化する必要がある。このように媒体表面を平坦化する方法としては、SiO等の非磁性体の充填によってパターンの凹部を埋め戻した後に、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)を用いて平坦化を行う方法が提案されている。
【0006】
パターンド媒体の更なる高密度化を図るためには、記録層を形成する磁性粒子を小さくする必要があるが、磁性粒子を小さくすると熱揺らぎの影響を受け易くなってしまう。又、上記の如くパターンド媒体の記録層のパターンをエッチングにより形成する場合、エッチング境界では磁性粒子の一部が削られて局所的に磁性粒子の体積が小さくなるため、熱揺らぎの影響を受け易くなってしまう。
【特許文献1】特開平10−125520号公報
【特許文献2】特開2008−146809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のパターンド媒体では、記録層をパターニングする際に記録層を形成する磁性粒子の体積が局所的に小さくなるため、熱揺らぎの影響を受け易くなるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、記録層をパターニングする際に記録層を形成する磁性粒子の体積の局所的減少を抑えて熱揺らぎの影響を受けにくくすることが可能な磁気記録媒体及びその製造方法並びに記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する記録層と、前記記録層に形成されたパターンの凹部に埋め込まれた非磁性体を備え、前記磁性粒子は、前記記録層の上部領域内の直径が前記記録層の下部領域内の直径より大きい逆円錐台形状を有する磁気記録媒体が提供される。
【0010】
本発明の一観点によれば、非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する記録層を形成する工程と、前記記録層をパターニングして凹部のパターンを形成する工程と、前記記録層の凹部に非磁性体を埋め込む工程を有し、前記記録層を形成する工程は、前記磁性粒子を前記記録層の上部領域内の直径が前記記録層の下部領域内の直径より大きい逆円錐台形状に形成する磁気記録媒体の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の一観点によれば、磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体に対する情報の記録と前記磁気記録媒体からの情報の読み出しを行うヘッドを備え、前記磁気記録媒体は、非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する記録層と、前記記録層に形成されたパターンの凹部に埋め込まれた非磁性体を備え、前記磁性粒子は、前記記録層の上部領域内の直径が前記記録層の下部領域内の直径より大きい逆円錐台形状を有する記憶装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
開示の磁気記録媒体及びその製造方法並びに記憶装置によれば、記録層をパターニングする際に記録層を形成する磁性粒子の体積の局所的減少を抑えて熱揺らぎの影響を受けにくくすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
開示の磁気記録媒体及びその製造方法並びに記憶装置では、磁気記録媒体の記録層は非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する。記録層のグラニュラ化により、記録層の磁性粒子の孤立化を促進させ、磁気記録層の保磁力を増大させることで媒体ノイズの低減と熱揺らぎ耐性の向上を図ることができる。又、記録層を形成する磁性粒子は、記録層に用いるグラニュラ酸化物を選定することで、上層側の面積の方が下層側の面積より大きい逆円錐台形状を有するように形成される。
【0014】
記録層を形成する磁性粒子がこのような逆円錐台形状を有するので、磁性粒子を比較的大きくしても熱揺らぎ耐性が向上するか、或いは、記録磁界を小さくすることができる。又、記録層の膜厚を比較的薄くすることができるので、記録層をパターニングする際のエッチング時間やパターンの凹部を非磁性体で埋め戻す充填時間を短縮することができる。更に、記録層をパターニングする際に記録層の磁性粒子が基板表面に垂直な方向に対して斜めにエッチングされた場合でも、磁性粒子の体積の局所的減少を抑えることができる。
【0015】
以下に、本発明の磁気記録媒体及びその製造方法並びに記憶装置の各実施例を、図面と共に説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例における磁気記録媒体の一部を示す断面図である。図1に示す磁気記録媒体1は、基板11、軟磁性層12、中間層13、記録層14及び保護層15を有し、記録層14に形成されたパターンの凹部には非磁性体16が埋め込まれている所謂パターンド媒体である。本実施例では、本発明がディスク形状のDTMに適用されているので、記録層14と非磁性体16が半径方向上交互に、且つ、同心円状に形成される。尚、本発明がディスク形状のBPMに適用される場合には、記録層14と非磁性体16は半径方向上交互に、且つ、トラック方向上(即ち、円周方向上)交互に形成される。
【0017】
基板11は、表面が平坦で機械的強度が比較的強いガラスや表面処理を施したAl等で形成されている。軟磁性層12は、例えば、CoZrNb,CoZrTa等のCo系アモルファス材料、或いは、FeCoB,FeTaC等のFe系アモルファス材料で形成されている。尚、軟磁性層12は、例えばCoZrNb膜とRu膜とCoZrNb膜を順次積層した積層構造(CoZrNb/Ru/CoZrNb)を有しても良い。
【0018】
中間層13は、例えばNiFe膜とRu膜を順次積層した積層構造(NiFe/Ru)、或いは、Ta膜とRu膜を順次積層した積層構造(Ta/Ru)を有する。NiFe/Ru構造を有する中間層13の場合、例えばNiFe膜の膜厚は5nm、Ru膜の膜厚は15nmである。Ta/Ru構造を有する中間層13の場合、例えばTa膜の膜厚は4nm、Ru膜の膜厚は20nmである。積層構造を有する中間層13を形成するNiFe膜又はTa膜は、Ru膜の結晶性を改善したり粒径を制御したりする機能を有する。一方、積層構造を有する中間層13を形成するRu膜は、後述する記録層14の磁化容易軸を基板11の表面(以下、基板面と言う)に対して垂直方向に向ける機能を有する。
【0019】
記録層14は、非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する。本実施例では、非磁性母体は例えばTiO等の金属酸化物であり、磁性粒子は例えばCoCrPtである。記録層14の下部領域で、各磁性粒子を磁気的に孤立させるためには、磁性粒子のサイズを均一にして、その間に十分にSiO等の金属酸化物を充填する必要がある。記録層14の下部領域では、磁性粒子と金属酸化物は例えば85mol%(Co65Cr15Pt20)−15mol%(TiO)である。
【0020】
記録層14の中間領域では、金属酸化物を例えば15mol%(TiO)から12mol%(TiO)に減らすことで、磁性粒子の磁気的な結合を抑制しながら、磁性粒子の体積を大きくすることが可能となる。
【0021】
更に、記録層14の上部領域では、金属酸化物を例えば12mol%(TiO)から9mol%(TiO)に減らすことで、磁性粒子は磁気的な結合が若干生じる。ここで、下部領域、中間領域及び上部領域の膜厚は、磁気記録媒体1に求められる特性や磁気記録媒体1に使用する材料によって異なるが、例えば記録層14の膜厚が15nmの場合、下部領域、中間領域及び上部領域の夫々の領域を5nm程度毎に振り分けることが可能である。
【0022】
例えば、記録層14の膜厚を15nmとして、磁性粒子の直径を8nm、磁性粒子の間隔を2nmとして、磁性粒子が円柱形状の場合、単位体積当たりの磁気異方性エネルギーKuはKu=4×10erg/ccとすると、KuV/kT=72.8となる。ここで、kTは熱揺らぎのエネルギー、Vは磁性粒子の体積を示す。又、下部領域内の磁性粒子の直径を7nm、上部領域内の磁性粒子の直径を0.5nmとすると、KuV/kT=78.1となり、KuV/kTが約7%増加する。更に、磁性粒子の下部領域内の磁性粒子の直径を7.5nm、上部領域内の磁性粒子の直径を10nmとすると、KuV/kT=87.7となって、従来の磁性粒子が円柱形状の場合と比べてKuV/kTが約20%増加する。このように、下部領域における磁性粒子の間隔が円柱形状の磁性粒子の場合と比べると離れているので、磁性粒子の直径(即ち、サイズ)にばらつきがあっても、磁性粒子間に磁気的な結合が生じないので、磁気記録媒体1の線記録密度を向上することができる。
【0023】
保護層15は、例えばダイアモンドライクカーボン(DLC:Diamond-Like Carbon)膜及び潤滑膜を順次積層した構造を有する。潤滑膜は、例えば有機物潤滑剤で形成される。
【0024】
次に、本発明の一実施例における磁気記録媒体の製造方法を説明する。製造方法は、従来の連続膜からなる記録層を有する磁気記録媒体を製造する方法と同様に、記録層を形成する表面を加工したり洗浄したりする工程ST1、磁性材料をスパッタリングにより記録層を形成する工程ST2、記録層上に保護層を形成する工程ST3、及び製造した磁気記録媒体の試験を行う工程ST4等を含む。
【0025】
ただし、本実施例においては、上記工程ST2では、磁性粒子の上層側の面積の方が下層側の面積より大きい逆円錐台形状となるように記録層が形成される。又、上記工程ST2とST3の間に、以下に説明する工程S1乃至S3が設けられる。図2乃至図4は、工程S1乃至S3を説明する断面図であり、図2乃至図4中、図1と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。尚、磁気記録媒体1の各層は、インライン式のスパッタ装置を用いて形成した。
【0026】
工程ST1では、先ず直径2.5インチのガラス基板11に、膜厚が20nmのCo80Zr10Nb10膜、膜厚が0.8nmのRu膜、及び膜厚が20nmのCo80Zr10Nb10膜を順次積層して積層構造(多層構造)を有する軟磁性層12を形成した。軟磁性層12のCo80Zr10Nb10膜は、Arガス圧を0.5Pa、投入電力を2.1kWに設定して形成し、Ru膜は、Arガス圧を0.5Pa、投入電力を1.2kWに設定して形成した。この場合、軟磁性層12の磁化容易軸は半径方向に配向しており、下側(基板側)のCo80Zr10Nb10膜と上側(中間層側)のCo80Zr10Nb10膜の磁化は、互いに反平行となっている。更に、軟磁性層12の上に、膜厚が5nmのNiFe膜と膜厚が15nmのRu膜を順次積層して積層構造(多層構造)を有する中間層13を形成した。中間層13のNiFe膜はArガス圧を1Pa、投入電力を1kWに設定して形成し、Ru膜はArガス圧を3Pa、投入電圧を1.3kWに設定して形成した。
【0027】
工程ST2では、膜厚が15nmの記録層14をArガス圧を5Pa、投入電力を1.5kWに設定して形成した。記録層14の最初の5nmの下部領域の組成は85mol%(Co65Cr15Pt20)−15mol%(TiO)、次の5nmの中間領域の組成は88mol%(Co65Cr15Pt20)−12mol%(50%TiO,50%SiO)、そして次の5nmの上部領域の組成は91mol%(Co65Cr15Pt20)−9mol%(50%TiO,50%SiO)とした。つまり、逆円錐台形状を有する記録層14の磁性粒子は、記録層14の初期成長段階ではグラニュラ形成用酸化物としてTiOを比較的多く添加することで磁性粒子の直径を小さくし、成長段階が進むにつれて徐々にグラニュラ形成用酸化物としてSiOを添加することで磁性粒子の直径を大きくする。
【0028】
工程S1では、中間層13上に形成された記録層14の上に、図2に示すように紫外線硬化樹脂で膜厚40nmのレジスト層31を形成した。図2では、中間層13より下の層の図示は省略する。
【0029】
工程S2では、所望のパターンに対応して表面に凹凸形状を有する石英で形成されたモールド(又は、スタンパ)41を図3(a)に示すようにレジスト層31に押し付けてモールド41のパターンをレジスト層31に転写する。凹凸形状の深さは、例えば約70nmである。モールド41のパターンは、例えば磁気記録媒体1のデータゾーンでは同心円状のパターンであり、サーボパターンは半径方向に延びるパターンである。又、図3(b)に示すように、紫外線UVを約5秒照射してレジスト層31を硬化させる。図3(c)に示すようにモールド41を取り除くと、レジスト層31の膜厚は約90nmとなり、レジスト層31の凹部での残渣31Aの膜厚は約8nmである。
【0030】
工程S3では、図4(a)に示すように、先ずレジスト層31とその残渣31Aを約8nmだけRIE(Reactive Ion Etching)により除去した。RIEは、ArガスとOガスの流量比を2:1として、約500Wのパワーで行った。このRIEにより、レジスト層31の凹部の領域では、記録層14が露出した。次に、レジスト層31をマスクとして用いて記録層14をArイオンでエッチングするIBE(Ion Beam Etching)を行って、図4(b)に示すようにレジスト層31の凹部内の記録層14を除去した。IBEは、RFパワーを300W、バイアス電圧を約−50Vに設定して行った。次に、又、図4(c)に示すように、レジスト層31を除去した。更に、記録層14が除去されることで形成された凹部を埋めるために、バイアス電圧を印加しながら図4(d)に示す非磁性体16を形成した。非磁性体16にはCo40Zr30Nb30を用いた。記録層14上には、約10nmの非磁性体16が形成されたので、非磁性体16をArイオンでエッチングするIBEを行って、図4(e)に示すように記録層14と非磁性体16が交互に配置された表面を平坦化した。図5は、この状態の磁気記録媒体1を示す斜視図である。本実施例では本発明がDTMに適用されているので、図5において記録層14は磁気記録媒体1のランド領域に相当し、非磁性体16は磁気記録媒体1のグルーブ領域に相当する。平坦化された表面には、図4(f)に示すように3nmの保護層15を形成した。保護層15は、膜厚が2nmで記録層14上に形成されたDLC膜と、DLC膜上にパーフルオロポリエーテルをディッピング法で1nmの膜厚に形成された潤滑膜を含む。
【0031】
次に、グラニュラ構造を有する記録層14中の磁性粒子を逆円錐台形状とすることにより得られる効果を、図6乃至図8と共に説明する。
【0032】
図6は記録層14中の磁性粒子の形状を説明する図であり、図6(a)は円柱形状を有する磁性粒子140、図6(b)は逆円錐台形状を有する磁性粒子141を示す。図6からもわかるように、下層側の面積が円柱形状を有する磁性粒子141と同じ面積である逆円錐台形状を有する磁性粒子141は、円柱形状を有する磁性粒子140と比べると体積を大きくすることができる。
【0033】
図7は、磁性粒子がエッチングされる様子を説明する図であり、図7(a)は円柱形状を有する磁性粒子140、図7(b)は逆円錐台形状を有する磁性粒子141を示す。図7からもわかるように、上記工程S3において図4(b)及び図4(c)に示すように記録層14がドライエッチングにより除去されると、エッチングの境界では磁性粒子が部分的に削られてしまう。この際、円柱形状を有する磁性粒子140は削られて体積が大幅に減少した磁性粒子140Aとなってしまうが、逆円錐台形状を有する磁性粒子141は削られてもある程度の体積を維持した磁性粒子141Aとなる。このように、磁性粒子141の場合は削られて体積が大幅に減少してしまうことがないので、上記エッチングの境界、即ち、記録層14と非磁性体16の境界(又は、エッジ)での熱揺らぎの影響を抑制することができる。
【0034】
又、図6(b)に示す磁性粒子141及び図7(b)に示す磁性粒子141Aの体積は図6(a)に示す磁性粒子140及び図7(a)に示す磁性粒子140Aの体積と比べると大きいので、磁性粒子141,141Aの単位体積当たりの磁気異方性エネルギーKuを小さくすることができる。このため、比較的小さな記録磁界を用いて磁性粒子141,141Aで形成された記録層14を有する磁気記録媒体1に情報を記録することができる。これは、磁気記録媒体1に情報を記録するのに要する記録磁界をHk、飽和磁界をMsとすると、Hk=2Ku/Msなる関係からも明らかである。このように、円柱形状の磁性粒子140と同じエッチングレートで逆円錐台形状の磁性粒子141がエッチングされても、残留する磁性粒子141Aの体積は磁性粒子140Aと比べると大きいので、逆円錐台形状を有する磁性粒子141で形成された記録層14を備えた磁気記録媒体1は熱揺らぎ耐性に優れていることがわかる。
【0035】
図8は、記録層14の膜厚が薄い場合の磁性粒子の形状を説明する図であり、図8(a)は円柱形状を有する磁性粒子140、図8(b)は逆円錐台形状を有する磁性粒子141を示す。図8からもわかるように、下層側の面積が円柱形状を有する磁性粒子141と同じ面積である逆円錐台形状を有する磁性粒子141は、記録層14の膜厚が薄い場合であっても円柱形状を有する磁性粒子140と比べると体積を大きくすることができる。つまり、磁性粒子140の体積が大きい分、記録層14の膜厚を薄くすることができる。円柱形状の磁性粒子140と同じ体積にする場合、逆円錐台形状の磁性粒子141の下部の直径を7.5nm、 上部の直径を10nmとすると、記録層14の膜厚を12.5nmまで薄くすることができる。記録層14を薄くすると、記録層14の一部を除去する際のエッチング量を低減できるだけでなく、記録層14に形成されたパターンの凹部に充填する非磁性体16の充填量を減少できるので、磁気記録媒体1の量産性を向上可能となる。このように、図4(b)と共に説明した記録層14のエッチング(即ち、パターニング)に要するエッチング時間(即ち、パターニング時間)の短縮、及び図4(d)及び図4(e)と共に説明した記録層14の凹部を非磁性体16で埋め戻す充填時間の短縮を実現可能となる。
【0036】
本発明者は、上記の方法で製造した磁気記録媒体1に対して実際にデータを記録して再生することで、磁気記録媒体1の熱揺らぎ耐性を調べた。本実施例のサンプルSmpでは、記録層4の膜厚が15nmであり、逆円錐台形状の磁性粒子141の下部の直径は8nmであった。又、比較例Cmpとして、磁気記録媒体1と同様の構造を有するものの、記録層4の膜厚が15nmであり、円錐形状の磁性粒子140の直径は8nmであった。図9は、サンプルSmpと比較例Cmpについて、データ用ランド領域である記録層14の磁化安定性を測定した結果を示す図である。図9中、縦軸は正規化された信号減衰率(Signal Decay)を任意単位で示し、横軸は時間を秒(s)で示し、例えば1.E+3は1×10を表す。図9からもわかるように、円柱形状の磁性粒子140を用いる比較例Cmp(●印)では信号減衰率が−0.21dB/decadeであったが、サンプルSmp(◇印)では、−0.08dB/decadeとなり、サンプルSmpでは信号減衰率が比較例Cmpと比べて大幅に改善されることが確認された。つまり、サンプルSmpの熱揺らぎ耐性は、比較例Cmpと比べて大幅に向上することが確認された。
【0037】
次に、サンプルSmpの媒体表面の平坦度が、比較例Cmpの媒体表面の平坦度と比べて改善される理由を、図10乃至図13と共に説明する。
【0038】
図10は、磁性粒子が円柱形状の場合の媒体表面を示す平面図であり、図11は、媒体表面にくぼみが発生するメカニズムを説明する図10中の線A−A'に沿った断面図である。図10及び図11において、図1乃至図4と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。図10において、線A−A'より上側の記録層14の部分は比較例Cmpのランド領域に相当し、線A−A'より下側の非磁性体16の部分は比較例Cmpのグルーブ領域に相当する。尚、図11において、レジスト層31の図示は省略してある。
【0039】
図11(a)は、図4(b)の状態に相当し、エッチングにより記録層14がパターニングされて図11(b)の状態になる。図11(b)は、図4(c)の状態に相当する。記録層14を形成するグラニュラ形成用酸化物のエッチングレートは、磁性粒子140のエッチングレートより多少速いので、図11(b)においてP1で示すように、中間層13の一部がエッチングされて凹部が形成されてしまう。このため、図11(c)に示すように非磁性体16がパターニングされた記録層14の凹部に埋め込まれた後に媒体表面が平坦化されても、R1で示すように媒体表面に約0.8nmのくぼみが発生してしまう。図11(c)は、図4(e)の状態に相当する。
【0040】
図12は、磁性粒子が逆円錐台形状場合の媒体表面を示す平面図であり、図13は、媒体表面にくぼみが発生しにくくなるメカニズムを説明する図12中の線A−A'に沿った断面図である。図12及び図13において、図1乃至図4と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。図12において、線A−A'より上側の記録層14の部分はサンプルSmpのランド領域に相当し、線A−A'より下側の非磁性体16の部分はサンプルSmpのグルーブ領域に相当する。尚、図13において、レジスト層31の図示は省略してある。
【0041】
図13(a)は、図4(b)の状態に相当し、エッチングにより記録層14がパターニングされて図13(b)の状態になる。図13(b)は、図4(c)の状態に相当する。記録層14を形成するグラニュラ形成用酸化物のエッチングレートは、磁性粒子141のエッチングレートより多少速いものの、図13(b)においてP2で示すように、中間層13は殆どエッチングされないので中間層13に凹部が形成されることはない。これは、図12からもわかるように、磁性粒子141が記録層14の上部では密集しており、磁性粒子141間の間隙が非常に少ないからである。このため、図13(c)に示すように非磁性体16がパターニングされた記録層14の凹部に埋め込まれた後に媒体表面が平坦化されると、媒体表面にくぼみは発生しにくい。媒体表面にR2で示すようにくぼみが発生したとしても、発生するくぼみは約0.2nm以下となる。図13(c)は、図4(e)の状態に相当する。このように、サンプルSmpの媒体表面の平坦度は、比較例Cmpと比べると大幅に向上する。
【0042】
次に、本発明の一実施例における記憶装置を、図14及び図15と共に説明する。本実施例では、記憶装置は、磁気ディスク装置又はハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)である。図14は、本実施例における記憶装置の一部を示す断面図であり、図15は、図14の記憶装置の一部を上部カバーを取り外して示す平面図である。
【0043】
図14及び図15において、ベース113にはモータ114が取り付けられており、このモータ114は複数の磁気ディスク116が固定されたハブ115を回転する。磁気ディスク116は、上記実施例の磁気記録媒体1と同様の構造を有する。磁気ディスク116からの情報の読み取り及び磁気ディスク116への情報の書き込みは、ヘッドスライダ117に固定されたリードヘッド及びライトヘッド等を含むヘッド部により行われる。リードヘッドは磁気ディスク116から情報を読み出し、ライトヘッドは磁気ディスク116に情報を記録する。
【0044】
ヘッドスライダ117はサスペンション118に接続されており、サスペンション118はヘッドスライダ117を磁気ディスク116の記録面の方向に押し付ける。磁気ディスク116の記録面には、潤滑剤で形成された潤滑膜が設けられている。特定のディスク回転速度及びサスペンション硬度では、ヘッドスライダ117が磁気ディスク116の記録面より所定の浮上量だけ浮いた位置を走査するようになっている。サスペンション118は、アクチュエータ120に接続された強固なアーム119に固定されている。これにより、磁気ディスク116の広範囲にわたって読み取り及び書き込みを行うことが可能となる。
【0045】
勿論、磁気ディスク116の数は図14に示すように3つに限定されるものではなく、2つ、或いは、4つ以上の磁気ディスク116を磁気記憶装置内に設けても良い。
【0046】
更に、本実施例における磁気記録媒体は、磁気ディスクに限定されるものではなく、本発明は、磁気カードを含む各種磁気記録媒体に適用可能である。
【0047】
以上の実施例を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する記録層と、
前記記録層に形成されたパターンの凹部に埋め込まれた非磁性体を備え、
前記磁性粒子は、前記記録層の上部領域内の直径が前記記録層の下部領域内の直径より大きい逆円錐台形状を有する、磁気記録媒体。
(付記2)
NiFeとRuを順次積層した積層構造、或いは、TaとRuを順次積層した積層構造を有する中間層を更に備え、
前記記録層は前記中間層上に形成されており前記凹部内では前記非磁性体が前記中間層と接している、付記1記載の磁気記録媒体。
(付記3)
Co系アモルファス材料、或いは、Fe系アモルファス材料で形成された軟磁性層を更に備え、
前記中間層は前記軟磁性層上に形成されている、付記2記載の磁気記録媒体。
(付記4)
前記磁気記録媒体はディスク形状を有するディスクリートトラックメディアであり、
前記記録層と前記非磁性体は半径方向上交互に、且つ、同心円状に形成されている、付記1乃至3のいずれか1項記載の磁気記録媒体。
(付記5)
非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する記録層を形成する工程と、
前記記録層をパターニングして凹部のパターンを形成する工程と、
前記記録層の凹部に非磁性体を埋め込む工程を有し、
前記記録層を形成する工程は、前記磁性粒子を前記記録層の上部領域内の直径が前記記録層の下部領域内の直径より大きい逆円錐台形状に形成する、磁気記録媒体の製造方法。
(付記6)
前記記録層を形成する工程は、前記記録層の初期成長段階ではグラニュラ形成用酸化物としてTiOを所定量添加することで前記磁性粒子の直径を小さくし、成長段階が進むにつれて徐々に前記グラニュラ形成用酸化物としてSiOを添加することで磁性粒子の直径を大きくする、付記5記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記7)
NiFeとRuを順次積層した積層構造、或いは、TaとRuを順次積層した積層構造を有する中間層を形成する工程を更に有し、
前記記録層を形成する工程は前記中間層上に前記記録層を形成し、
前記非磁性体を埋め込む工程は前記非磁性体が前記凹部内では前記中間層と接するように形成する、付記5又は6記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記8)
Co系アモルファス材料、或いは、Fe系アモルファス材料で形成された軟磁性層を形成する工程を更に有し、
前記中間層を形成する工程は、前記中間層を前記軟磁性層上に形成する、付記7記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記9)
前記磁気記録媒体はディスク形状を有するディスクリートトラックメディアであり、
前記記録層と前記非磁性体はが半径方向上交互に、且つ、同心円状に形成される、付記5乃至8のいずれか1項記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記10)
前記凹部のパターンを形成する工程は、前記記録層をドライエッチングによりパターニングする、付記5乃至9のいずれか1項記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記11)
磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対する情報の記録と前記磁気記録媒体からの情報の読み出しを行うヘッドを備え、
前記磁気記録媒体は、
非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する記録層と、
前記記録層に形成されたパターンの凹部に埋め込まれた非磁性体を備え、
前記磁性粒子は、前記記録層の上部領域内の直径が前記記録層の下部領域内の直径より大きい逆円錐台形状を有する、記憶装置。
(付記12)
前記磁気記録媒体は、NiFeとRuを順次積層した積層構造、或いは、TaとRuを順次積層した積層構造を有する中間層を更に備え、
前記記録層は前記中間層上に形成されており前記凹部内では前記非磁性体が前記中間層と接している、付記11記載の記憶装置。
(付記13)
前記磁気記録媒体は、Co系アモルファス材料、或いは、Fe系アモルファス材料で形成された軟磁性層を更に備え、
前記中間層は前記軟磁性層上に形成されている、付記12記載の記憶装置。
(付記14)
前記磁気記録媒体はディスク形状を有するディスクリートトラックメディアであり、
前記記録層と前記非磁性体はが半径方向上交互に、且つ、同心円状に形成されている、付記11乃至13のいずれか1項記載の記憶装置。
【0048】
以上、本発明を実施例により説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施例における磁気記録媒体の一部を示す断面図である。
【図2】工程S1を説明する断面図である。
【図3】工程S2を説明する断面図である。
【図4】工程S3を説明する断面図である。
【図5】磁気記録媒体の一部を示す斜視図である。
【図6】記録層中の磁性粒子の形状を説明する図である。
【図7】磁性粒子がエッチングされる様子を説明する図である。
【図8】記録層の膜厚が薄い場合の磁性粒子の形状を説明する図である。
【図9】サンプルと比較例について、データ用ランド領域である記録層の磁化安定性を測定した結果を示す図である。
【図10】磁性粒子が円柱形状の場合の媒体表面を示す平面図である。
【図11】媒体表面にくぼみが発生するメカニズムを説明する断面図である。
【図12】磁性粒子が逆円錐台形状場合の媒体表面を示す平面図である。
【図13】媒体表面にくぼみが発生しにくくなるメカニズムを説明する断面図である。
【図14】記憶装置の一部を示す断面図である。
【図15】記憶装置の一部を上部カバーを取り外して示す平面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 磁気記録媒体
11 基板
12 軟磁性下地層
13 中間層
14 記録層
15 保護層
16 非磁性体
117 ヘッドスライダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する記録層と、
前記記録層に形成されたパターンの凹部に埋め込まれた非磁性体を備え、
前記磁性粒子は、前記記録層の上部領域内の直径が前記記録層の下部領域内の直径より大きい逆円錐台形状を有する、磁気記録媒体。
【請求項2】
NiFeとRuを順次積層した積層構造、或いは、TaとRuを順次積層した積層構造を有する中間層を更に備え、
前記記録層は前記中間層上に形成されており前記凹部内では前記非磁性体が前記中間層と接している、請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
Co系アモルファス材料、或いは、Fe系アモルファス材料で形成された軟磁性層を更に備え、
前記中間層は前記軟磁性層上に形成されている、請求項2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁気記録媒体はディスク形状を有するディスクリートトラックメディアであり、
前記記録層と前記非磁性体は半径方向上交互に、且つ、同心円状に形成されている、請求項1乃至3のいずれか1項記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する記録層を形成する工程と、
前記記録層をパターニングして凹部のパターンを形成する工程と、
前記記録層の凹部に非磁性体を埋め込む工程を有し、
前記記録層を形成する工程は、前記磁性粒子を前記記録層の上部領域内の直径が前記記録層の下部領域内の直径より大きい逆円錐台形状に形成する、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記記録層を形成する工程は、前記記録層の初期成長段階ではグラニュラ形成用酸化物としてTiOを所定量添加することで前記磁性粒子の直径を小さくし、成長段階が進むにつれて徐々に前記グラニュラ形成用酸化物としてSiOを添加することで磁性粒子の直径を大きくする、請求項5記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
NiFeとRuを順次積層した積層構造、或いは、TaとRuを順次積層した積層構造を有する中間層を形成する工程を更に有し、
前記記録層を形成する工程は前記中間層上に前記記録層を形成し、
前記非磁性体を埋め込む工程は前記非磁性体が前記凹部内では前記中間層と接するように形成する、請求項5又は6記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
Co系アモルファス材料、或いは、Fe系アモルファス材料で形成された軟磁性層を形成する工程を更に有し、
前記中間層を形成する工程は、前記中間層を前記軟磁性層上に形成する、請求項7記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対する情報の記録と前記磁気記録媒体からの情報の読み出しを行うヘッドを備え、
前記磁気記録媒体は、
非磁性母体の中に磁性粒子を分散させたグラニュラ構造を有する記録層と、
前記記録層に形成されたパターンの凹部に埋め込まれた非磁性体を備え、
前記磁性粒子は、前記記録層の上部領域内の直径が前記記録層の下部領域内の直径より大きい逆円錐台形状を有する、記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−146670(P2010−146670A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324451(P2008−324451)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】