説明

種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット、炭化珪素単結晶基板、炭化珪素エピタキシャルウェハ、及び薄膜エピタキシャルウェハ

【課題】本発明は、転位欠陥の少ない良質の大口径{0001}面ウェハを、再現性良く製造し得るための炭化珪素単結晶育成用種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット、炭化珪素単結晶基板、炭化珪素エピタキシャルウェハ、及び薄膜エピタキシャルウェハを提供する。
【解決手段】成長面に、幅が0.7mm以上2mm未満である溝を有する炭化珪素単結晶育成用種結晶を用いた昇華再結晶法により、該種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる工程を包含する、炭化珪素単結晶の製造方法で炭化珪素単結晶を成長させて得られた種結晶付き炭化珪素単結晶インゴットであって、該インゴットの口径が50mm以上300mm以下であることを特徴とする種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット、及びそれから得られる炭化珪素単結晶基板、炭化珪素エピタキシャルウェハ、及び薄膜エピタキシャルウェハである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット、炭化珪素単結晶基板、炭化珪素エピタキシャルウェハ、及び薄膜エピタキシャルウェハに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、耐熱性及び機械的強度にも優れ、放射線に強い等の物理的、化学的性質から耐環境性半導体材料として注目されている。また、近年、青色から紫外にかけての短波長光デバイス、高周波・高耐圧電子デバイス等の基板ウェハとしてSiC単結晶ウェハの需要が高まっている。しかしながら、大面積を有する高品質のSiC単結晶を、工業的規模で安定に供給し得る結晶成長技術は、未だ確立されていない。それゆえ、SiCは、上述のような多くの利点及び可能性を有する半導体材料であるにもかかわらず、その実用化が阻まれていた。
【0003】
従来、研究室程度の規模では、例えば昇華再結晶法(レーリー法)でSiC単結晶を成長させ、半導体素子の作製が可能なサイズのSiC単結晶を得ていた。しかしながら、この方法では、得られる単結晶の面積が小さく、その寸法及び形状を高精度に制御することは困難である。また、SiCが有する結晶多形及び不純物キャリア濃度の制御も容易ではない。また、化学気相成長法(CVD法)を用いて、珪素(Si)等の異種基板上にヘテロエピタキシャル成長させることにより、立方晶のSiC単結晶を成長させることも行われている。この方法では、大面積の単結晶は得られるが、基板との格子不整合が約20%あることにより、積層欠陥等の結晶欠陥が入り易く、高品質のSiC単結晶を得ることは難しい。
【0004】
これらの問題点を解決するために、SiC単結晶{0001}面ウェハを種結晶として用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法(以下、改良レーリー法)が提案され(非特許文献1)、多くの研究機関で実施されている。この方法では、種結晶を用いているため結晶の核形成過程が制御でき、また、不活性ガスにより雰囲気圧力を100Paから15kPa程度に制御することにより結晶の成長速度等を再現性良くコントロールできる。
【0005】
図1を用いて改良レーリー法の原理を説明する。種結晶21となるSiC単結晶と原料となるSiC結晶粉末22は坩堝23(通常黒鉛製)の中に収納され、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中(133〜13.3kPa)で、2000〜2400℃に加熱される。この際、原料のSiC結晶粉末22に比べ、種結晶21がやや低温になるように、温度勾配が設定される。原料のSiC結晶粉末22は昇華後、濃度勾配(温度勾配により形成される)により種結晶21に向かって拡散、輸送される。単結晶成長は、種結晶21に到着した原料ガスが種結晶21上で再結晶化することにより実現される。この際、結晶の抵抗率は、不活性ガスからなる雰囲気中に不純物ガスを添加する、あるいはSiC結晶粉末22中に不純物元素あるいはその化合物を混合することにより、制御可能である。SiC単結晶中の置換型不純物として代表的なものに、窒素(n型)、ホウ素(p型)、アルミニウム(p型)がある。改良レーリー法を用いれば、SiC単結晶の結晶多形(6H型、4H型、15R型等)及び形状、キャリア型及び濃度を制御しながら、SiC単結晶を成長させることができる。
【0006】
現在、上記の改良レーリー法で作製したSiC単結晶から口径2インチ(50.8mm)から3インチ(76.2mm)のSiC単結晶ウェハが切り出され、エピタキシャル薄膜成長、デバイス作製に供されている。しかしながら、これらのSiC単結晶ウェハには、成長方向(結晶c軸方向)に貫通するマイクロパイプ欠陥、転位欠陥が10cm−2程度含まれており、高性能のデバイス製造を妨げていた。
【0007】
上記したように、従来の技術で作られたSiC単結晶にはマイクロパイプ欠陥や貫通転位欠陥が多量に含まれていた。これらの欠陥は、非特許文献2によれば、結晶成長方向であるc軸にほぼ平行に伸びている。これらは、種結晶中に既に存在していたものが成長結晶中に引き継がれたものと、結晶成長初期に何らかの原因(異種ポリタイプ混在、3次元核発生、熱応力等)で新たに導入されたものの2つに大別される。さらに、これらの欠陥は素子を作製した際に、特に高耐圧素子で漏れ電流を引き起こし、その低減はSiC単結晶のデバイス応用上最重要課題の一つとされている。
【0008】
このc軸方向にほぼ平行に伝播するマイクロパイプ欠陥及び貫通転位欠陥は、{0001}面に垂直な面を種結晶として用いて、<0001>c軸方向と垂直方向にSiC単結晶を成長させることにより、完全に防止できることが、非特許文献2に開示されている。この方法では、成長したインゴットからデバイス作製に有用な{0001}面ウェハを取り出そうとした場合、インゴットを成長方向に切断する必要がある。しかしながら、非特許文献3に示されているように、通常、インゴットの成長方向への大型化は容易ではなく、成長インゴットは径方向に比べ成長方向に短い形状となっている。このため、インゴットを成長方向に切断すると、大口径化の観点では極めて不利になる。
【0009】
一方、特許文献1には、低マイクロパイプ欠陥密度の大口径SiC単結晶の製造方法が記載されている。同公報では種結晶の成長表面に幅2mm以上の矩形の溝を形成することによって、溝内にc軸に垂直方向の結晶成長を誘起し、その後、溝部が埋められた後、結晶をc軸方向に成長させることによって、マイクロパイプ欠陥の発生及び伝播を防止できることが記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】改良レーリー法の原理を説明する図である。
【図2】本発明の効果を説明する図である。
【図3】本発明で用いられる溝の形状例を示す図である。
【図4】本発明で用いられる単結晶成長装置の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明に係るSiC単結晶の製造方法では、種結晶として、表面に特定形状の溝を有したSiC単結晶を用いることにより、転位欠陥を低減し、さらに大口径の{0001}面ウェハを得ることができる。
【0032】
図2を用いて、本発明の効果を説明する。本発明に係るSiC単結晶育成用種結晶は、図2(a)に模式的に示された矩形の溝、あるいは、例えば図2(b)に模式的に示された{0001}面から傾斜した面を構成面とするV字型の溝、を成長面に有していることを特徴とする。ただし、成長面の溝の形態は、以下に述べる効果を発現するものであれば、図2(b)に示された形態に限定されるものではなく、例えば図3に示されたような形状の溝でも、同様な効果が期待できる。
【0033】
まず、図2(a)に示した矩形の溝を成長面に有したSiC単結晶を種結晶として用いた場合について説明する。この場合、種結晶上の溝以外の部分においては、従来法の場合と同様に、成長はc軸方向に平行に進行する。この際、種結晶中に存在していた貫通転位(A)、あるいは成長初期に新たに導入されたc軸方向に伸びる貫通転位は、そのまま成長結晶中をc軸方向に伝播する。一方、溝部においては、成長のまず初期段階では、成長はc軸にほぼ垂直方向に進行することになる。これは、{0001}面に比べ、{0001}面に垂直な面の方が、結晶成長に寄与する原子の付着確率が高いためである。その結果、溝内部は、c軸に垂直に成長したSiC単結晶によって埋められることになる。この際、非特許文献2に示されているように、この部分においては、c軸方向に伝播する貫通転位(B)の引き継ぎ及び新たな発生は完全に抑制される。
【0034】
一方、このようにc軸方向の貫通転位が抑制された領域(溝部に成長した領域)には、 J. Takahashi et al., Journal of Crystal Growth, Vol.181 (1997) pp.229〜240に示されているように、{0001}面積層欠陥が存在するが、その後の成長においては、再度c軸と平行方向に結晶が成長するため、成長後半、溝部が埋められた上に成長した結晶部位には、{0001}面の面欠陥である積層欠陥は引き継がれない。すなわち、本発明に係る一実施形態である、矩形の溝を成長面に有する種結晶を用いたSiC単結晶成長では、種結晶の溝部上に成長した部位には、種結晶の極く近傍を除けば、c軸方向に伝播する貫通転位及び積層欠陥は皆無あるいは極めて少量しか存在しないことになる。種結晶の溝部以外の部分上に成長した結晶部位には従来通りc軸方向に伸びる貫通転位が存在するが、本発明に係る方法を、溝部の領域を変えて何度か実行すれば、結晶全域に渡って低転位密度のSiC単結晶を得ることができる。
【0035】
種結晶の成長面上の溝の配置としては、縞状あるいは格子(十字)状が、溝加工の容易性の観点から好ましいが、上記のような成長様式が実現できれば、他の配置でも構わない。また、溝の配置の規則性(例えば、溝を等間隔に配置する等)も、上記のような成長様式が実現できれば、必要ない。
【0036】
溝の幅としては0.7mm以上2mm未満、溝のアスペクト比(溝の深さ÷溝の幅)としては0.1以上3以下、溝が種結晶の成長面上に占める面積割合(溝部の面積÷種結晶の成長面の全面積)としては5%以上95%以下が望ましい。
【0037】
溝の幅が0.7mm未満になった場合には、c軸に垂直方向への結晶成長が充分に行われず、非特許文献2に示されているような貫通転位の抑制効果が充分得られない。また、2mm以上の場合には、特許文献1に記載されているようにマイクロパイプの伝播・発生は抑制できるものの、溝の両側壁から成長した結晶の会合部(溝の中心部にできる)に新たな転位欠陥が発生し易くなり、転位欠陥低減の観点からは好ましくない。これは、溝幅が大きくなると、溝の両側壁から成長してきた結晶部位(図2(a)参照)が会合する際に、熱歪の影響により、格子面の不整合が起こり易くなるためである。
【0038】
溝のアスペクト比が0.1未満になると、c軸方向への結晶成長が支配的になってしまい、非特許文献2に記載されている効果が得られない。また、アスペクト比が3を超えると、溝の上部でのみ結晶成長が起こり易くなり、結果として溝が上部で閉息し下部が空洞として残ってしまい、そこから欠陥が入り易くなる。
【0039】
さらに、溝が種結晶の成長面上に占める面積割合が5%未満では、本発明の効果が得られる面積が小さく、欠陥低減の効果が充分でない。また、溝部の面積割合が95%を超えると、溝以外の部分が薄くなりすぎて、その部分の熱劣化等により良好な結晶成長を行うことが困難となる。
【0040】
次に、図2(b)に示した{0001}面から傾斜した面を構成面とするV字型の溝を成長面に有した種結晶を用いてSiC単結晶を成長した場合の効果について述べる。本発明者らは、数多くの実験から、このような種結晶上にSiC単結晶を成長した場合に、種結晶中に存在する、あるいは成長初期に新たに発生したc軸方向に伸びる貫通転位が、ある確率で、その伝播方向を結晶c軸に平行な方向から、垂直方向に向きを変化させることを見出した。転位の伝播方向が変化するメカニズムについては、まだ完全に解明された訳ではないが、発明者らは、一つのメカニズムとして、成長結晶表面における鏡像力を考えている。鏡像力とは、転位欠陥が成長結晶中を伝播する際に、表面近傍での配置エネルギーを最小とするために、成長表面に垂直方向に伝播しようとするものである。c軸方向に伝播する貫通転位は、この鏡像力によって、まずc軸方向から成長結晶表面に垂直方向に偏向する。偏向した転位はc軸からも、c軸に垂直方向からも傾いた形になるが、最終的には最容易すべり面(転位が最も安定に存在する面)である{0001}面内、すなわちc軸に垂直方向に伝播するようになる。したがって、{0001}面から傾いた面を少なくとも一つの構成面とする溝を成長面に有した種結晶上にSiC単結晶を成長した場合には、このような転位伝播方向の偏向のメカニズムにより、c軸方向に伸びた貫通転位の密度が低減される。図2(b)に示したようなV字型の溝の場合には、傾斜面で種結晶表面全域を覆うことができるので、先に述べた矩形の溝の場合と異なり、一回の結晶成長でほぼ全域に亘って貫通転位密度を低減させることができる。
【0041】
{0001}面からの傾角としては、15°〜75°、好ましくは30°〜60°が望ましい。傾角が15°未満になった場合には、成長面と貫通転位の間の角度が垂直に近くなってしまい、転位の偏向の効果が得難い。また、75°超の場合には、逆に成長面と貫通転位の間の角度が平行に近くなってしまい、やはり転位の偏向の効果が得難くなってしまう。
【0042】
種結晶の成長面上の溝の配置としては、縞状あるいは格子(十字)状が、溝加工の容易性の観点から好ましいが、上記のような成長様式が実現できれば、他の配置でも構わない。また、溝の配置の規則性も、上記のような成長様式が実現できれば、必要ない。
【0043】
溝の幅としては0.7mm以上2mm以下、溝のアスペクト比(溝の深さ÷溝の幅)としては0.1以上5以下、溝が種結晶の成長面上に占める面積割合(溝部の面積÷種結晶の成長面の全面積)としては5%以上100%以下が望ましい。
【0044】
溝の幅が0.7mm未満になった場合には、{0001}面から傾斜した面上の結晶成長が充分に行われず、貫通転位の偏向の効果が充分得られない。また、2mm超の場合には、溝の左右の傾斜面から成長してきた結晶部位が会合する際に、熱歪の影響により、格子面の不整合が起こり易くなり、その結果新たな転位欠陥が発生し、やはり好ましくない。
【0045】
溝のアスペクト比が0.1未満になると、c軸方向への結晶成長が支配的になってしまい、貫通転位の偏向の効果が得られない。また、5を超えると溝の上部でのみ結晶成長が起こり易くなり、結果として溝が上部で閉息し下部が空洞として残ってしまい、そこから欠陥が入り易くなる。
【0046】
さらに、溝が種結晶の成長面上に占める面積割合が5%以下では、本発明の効果が得られる面積が小さく欠陥低減の効果が充分でない。また、溝部の面積割合が100%ということは、種結晶の成長面全てがV字型の溝あるいは図3に例示されたような傾斜面を有する溝で覆われていることを意味している。
【0047】
種結晶への溝のつけ方については、幾つか方法が考えられる。一番簡便な方法は、機械加工(例えば、ダイヤモンドブレードによる切削)による方法である。ブレードの先端形状、幅等を選択し、さらにブレードによる切削を一次元的(縞状)あるいは二次元的(格子状)に行うことにより、色々な形状、配置の溝を形成することができる。また、半導体プロセス等で用いられているリソグラフィー工程によっても溝は形成可能である。種結晶表面に、樹脂レジストをパターニングし、その後、エッチング(例えば、反応性プラズマによるドライエッチング)により、レジストの開口部に溝を形成する。レジストは、二次元的にほぼどのような形状にもパターニングすることが可能なので、任意の溝配置が可能である。溝形状は、エッチング条件を選択することにより制御可能である。その他、電気化学エッチング、種結晶上へのSiC単結晶膜の選択エピタキシャル成長等によっても溝は形成可能である。
【0048】
本発明に係る種結晶は、改良レーリー法の種結晶として供され、大口径のSiC単結晶の製造に用いられる。種結晶は、図1に示されるようにSiC原料粉末と共に坩堝内に収納され、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中、2000〜2400℃に加熱される。この際、原料粉末に比べ、種結晶がやや低温になるように、温度勾配が設定される。原料は昇華後、この温度勾配により種結晶方向へ拡散、輸送される。単結晶成長は、種結晶に到着した原料ガスが種結晶上で再結晶化することにより実現される。
【0049】
種結晶の口径としては、40〜300mmが望ましい。改良レーリー法によるSiC単結晶成長では、種結晶とほぼ同口径の結晶が製造される。従って、種結晶の口径が40〜300mmあれば、一回の成長で、口径50〜300mmのSiC単結晶インゴットを製造することが可能となる。
【0050】
本発明のSiC単結晶基板は、50mm以上300mm以下の口径を有しているので、この基板を用いて各種デバイスを製造する際、工業的に確立されている従来の半導体(Si、GaAs等)基板用の製造ラインを使用することができ、量産に適している。また、この基板の貫通転位密度が1×10cm−2以下と低いため、特に、大電流、高出力のデバイス製造に適している。さらに、このSiC単結晶ウェハ上にCVD法等によりエピタキシャル薄膜を成長して作製されるSiC単結晶エピタキシャルウェハ、あるいはGaN、AlN、InN及びこれらの混晶薄膜エピタキシャルウェハは、その基板となるSiC単結晶ウェハの転位密度が小さいために、良好な特性(耐電圧、エピタキシャル薄膜の表面モフォロジー等)を有するようになる。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
以下に、本発明の実施例を述べる。図4は、本発明の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴットを製造する製造装置であり、種結晶を用いた改良レーリー法によってSiC単結晶を成長させる装置の一例である。まず、この単結晶成長装置について簡単に説明する。結晶成長は、種結晶1として用いた成長面に溝を有したSiC単結晶の上に、SiC粉末原料2を昇華再結晶化させることにより行われる。種結晶1のSiC単結晶は、黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けられる。SiC粉末原料2は、黒鉛製坩堝3の内部に充填されている。このような黒鉛製坩堝3は、二重石英管5の内部に、黒鉛製の支持棒6により設置される。黒鉛製坩堝3の周囲には、熱シールドのための黒鉛製フェルト7が設置されている。二重石英管5は、真空排気装置11により高真空排気(10−3Pa以下)することができ、かつ内部雰囲気をArガスにより圧力制御することができる。Arガスは、Arガス配管9を介して導入され、Arガス用マスフローコントローラ10によって流量が制御される。また、二重石英管5の外周には、ワークコイル8が設置されており、高周波電流を流すことにより黒鉛製坩堝3を加熱し、SiC粉末原料2及び種結晶1のSiC単結晶を所望の温度に加熱することができる。坩堝温度の計測は、黒鉛製坩堝3上部及び下部を覆う黒鉛製フェルト7の中央部に直径2〜4mmの光路を設け黒鉛製坩堝3上部及び下部からの光を取りだし、二色温度計を用いて行う。黒鉛製坩堝3下部の温度を原料温度、黒鉛製坩堝3上部の温度を種結晶温度とする。
【0052】
次に、この結晶成長装置を用いたSiC単結晶の製造について、実施例を説明する。まず、種結晶1として、口径50mmの{0001}面を有した4H型のSiC単結晶ウェハを用意した。次に、この種結晶1中に存在するc軸方向に伸びたマイクロパイプ欠陥と貫通転位の密度をエッチピット観察により計測した。その結果、平均でマイクロパイプ欠陥密度3.2cm−2、貫通転位密度1.5×10cm−2という値を得た。欠陥密度評価後、種結晶1のSiC単結晶の(000−1)C面を研磨し、さらにその表面に機械加工により、矩形の溝を、幅は0.7mm、アスペクト比1、面積割合75%で作り込んだ。種結晶表面における溝の配置は格子状とした。また、この機械加工により種結晶1の成長面に形成された加工損傷層は、薬液によるエッチングにより除去した。このようにして作製した溝付のSiC単結晶種結晶1を黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けた。黒鉛製坩堝3の内部には、SiC粉末原料2を充填した。次いで、SiC粉末原料2を充填した黒鉛製坩堝3を、種結晶1を取り付けた蓋4で閉じ、黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、二重石英管5の内部を真空排気した後、ワークコイル8に電流を流し、原料温度を2000℃まで上げた。その後、雰囲気ガスとして窒素を10%含むArガスを流入させ、二重石英管5内圧力を約80kPaに保ちながら、原料温度を目標温度である2400℃まで上昇させた。成長圧力である1.3kPaには、約30分かけて減圧し、その後約20時間成長を続けた。この際の黒鉛製坩堝3内の温度勾配は15℃/cmで、成長速度は約0.8mm/時であった。得られた結晶の口径は51.5mmで、高さは16mm程度であった。
【0053】
こうして得られたSiC単結晶をX線回折及びラマン散乱により分析したところ、4H型のSiC単結晶が成長したことを確認できた。また、成長結晶中に存在するc軸方向に貫通するマイクロパイプ欠陥と転位欠陥密度を評価する目的で、成長した単結晶インゴットの成長後半部分を切断および研磨することにより{0001}面ウェハを取り出した。その後、約530℃の溶融KOHでウェハ表面をエッチングし、顕微鏡によりマイクロパイプ欠陥と貫通転位欠陥に対応するエッチピットの密度を調べたところ、それぞれウェハ全面の平均で3.1cm−2、0.8×10cm−2という値を得た。
【0054】
さらに、上記SiC単結晶の成長後半の部位から、口径51mmの{0001}面SiC単結晶ウェハを切出し、鏡面ウェハとした。基板の面方位は(0001)Si面で[11−20]方向に8°オフとした。このSiC単結晶ウェハを基板として用いて、SiCのエピタキシャル成長を行った。SiCエピタキシャル薄膜の成長条件は、成長温度1500℃、シラン(SiH)、プロパン(C)、水素(H)の流量が、それぞれ5.0×10−9/sec、3.3×10−9/sec、5.0×10−5/secであった。成長圧力は大気圧とした。成長時間は2時間で、膜厚としては約5μm成長した。
【0055】
エピタキシャル薄膜成長後、ノマルスキー光学顕微鏡により、得られたエピタキシャル薄膜の表面モフォロジーを観察したところ、ウェハ全面に渡って非常に平坦で、ピット等の表面欠陥が少ない良好な表面モフォロジーを有するSiCエピタキシャル薄膜が成長されているのが分かった。
【0056】
また、上記SiC単結晶から同様にしてオフ角度が0°の(0001)Si面SiC単結晶ウェハを切り出し、鏡面研磨した後、その上にGaN薄膜を有機金属化学気相成長(MOCVD)法によりエピタキシャル成長させた。成長条件は、成長温度1050℃、トリメチルガリウム(TMG)、アンモニア(NH)、シラン(SiH)をそれぞれ、54×10−6モル/min、4リットル/min、22×10−11モル/min流した。また、成長圧力は大気圧とした。成長時間は60分間で、n型のGaNを3μmの膜厚で成長させた。
【0057】
得られたGaN薄膜の表面状態を調べる目的で、成長表面をノマルスキー光学顕微鏡により観察した。ウェハ全面に渡って非常に平坦なモフォロジーが得られ、全面に渡って高品質なGaN薄膜が形成されているのが分かった。
【0058】
(実施例2)
まず、実施例1と同様に、種結晶1として、口径48mmの{0001}面を有した4H型のSiC単結晶ウェハを用意した。次に、この種結晶1中に存在するc軸方向に伸びたマイクロパイプ欠陥と貫通転位の密度をエッチピットより計測した。その結果、平均でマイクロパイプ欠陥密度2.1cm−2、貫通転位密度1.2×10cm−2と言う値を得た。欠陥密度評価後、種結晶1の(000−1)C面を研磨し、さらに表面に機械加工により、V字型の溝を、幅は1.0mm、アスペクト比0.5、面積割合100%、{0001}面からの傾角45°で作り込んだ。種結晶1表面における溝の配置は縞状とした。また、この機械加工により種結晶1の成長面に形成された加工損傷層は、薬液によるエッチングにより除去した。このようにして作製した溝付のSiC単結晶種結晶1を黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けた。黒鉛製坩堝3の内部には、SiC粉末原料2を充填した。次いで、SiC粉末原料2を充填した黒鉛製坩堝3を、種結晶1を取り付けた蓋4で閉じ、黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、二重石英管5の内部を真空排気した後、ワークコイル8に電流を流し、原料温度を2000℃まで上げた。その後、雰囲気ガスとして窒素を10%含むArガスを流入させ、二重石英管5内圧力を約80kPaに保ちながら、原料温度を目標温度である2400℃まで上昇させた。成長圧力である1.3kPaには、約30分かけて減圧し、その後約20時間成長を続けた。この際の黒鉛製坩堝3内の温度勾配は15℃/cmで、成長速度は約0.75mm/時であった。得られた結晶の口径は51.5mmで、高さは15mm程度であった。
【0059】
こうして得られたSiC単結晶をX線回折及びラマン散乱により分析したところ、4H型のSiC単結晶が成長したことを確認できた。また、成長結晶中に存在するc軸方向に貫通するマイクロパイプ欠陥と転位欠陥密度を評価する目的で、成長した単結晶インゴットの成長後半部分を切断および研磨することにより{0001}面ウェハを取り出した。その後、約530℃の溶融KOHでウェハ表面をエッチングし、顕微鏡によりマイクロパイプ欠陥と貫通転位欠陥に対応するエッチピットの密度を調べたところ、それぞれウェハ全面の平均で1.9cm−2、0.7×10cm−2という値を得た。
【0060】
さらに、上記SiC単結晶の成長後半の部位から、口径51mmの{0001}面SiC単結晶ウェハを切出し、鏡面ウェハとした。基板の面方位は(0001)Si面で[11−20]方向に8°オフとした。このSiC単結晶ウェハを基板として用いて、SiCのエピタキシャル成長を行った。SiCエピタキシャル薄膜の成長条件は、成長温度1500℃、SiH、C、Hの流量が、それぞれ5.0×10−9/sec、3.3×10−9/sec、5.0×10−5/secであった。成長圧力は大気圧とした。成長時間は2時間で、膜厚としては約5μm成長した。
【0061】
エピタキシャル薄膜成長後、ノマルスキー光学顕微鏡により、得られたエピタキシャル薄膜の表面モフォロジーを観察したところ、基板の転位欠陥に起因する表面異常は観察されず、ウェハ全面に渡って良好な表面モフォロジーを有するSiCエピタキシャル薄膜が成長されているのが分かった。
【0062】
また、上記SiC単結晶から同様にして、オフ角度が0°の(0001)Si面SiC単結晶ウェハを切り出し、鏡面研磨した後、その上にGaN薄膜をMOCVD法によりエピタキシャル成長させた。成長条件は、成長温度1050℃、TMG、NH、SiHをそれぞれ、54×10−6モル/min、4リットル/min、22×10−11モル/min流した。また、成長圧力は大気圧とした。成長時間は60分間で、n型のGaNを3μmの膜厚で成長させた。
【0063】
得られたGaN薄膜の表面状態を調べる目的で、成長表面をノマルスキー光学顕微鏡により観察した。実施例1同様、ウェハ全面に渡って非常に平坦なモフォロジーが得られ、全面に渡って高品質なGaN薄膜が形成されているのが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長面に、幅が0.7mm以上2mm未満である溝を有する炭化珪素単結晶育成用種結晶を用いた昇華再結晶法により、該種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる工程を包含する、炭化珪素単結晶の製造方法で炭化珪素単結晶を成長させて得られた種結晶付き炭化珪素単結晶インゴットであって、該インゴットの口径が50mm以上300mm以下であることを特徴とする種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット。
【請求項2】
前記インゴット中の貫通転位密度が1×10cm−2以下であることを特徴とする請求項1に記載の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット。
【請求項3】
前記インゴット中のマイクロパイプ欠陥密度が3.1cm−2以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット。
【請求項4】
前記炭化珪素単結晶育成用種結晶の前記溝の形が矩形であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット。
【請求項5】
前記炭化珪素単結晶育成用種結晶の前記溝の深さを溝の幅で除した値で定義される溝のアスペクト比が0.1以上3以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット。
【請求項6】
前記炭化珪素単結晶育成用種結晶の前記溝が種結晶の成長面上に占める面積割合が5%以上95%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット。
【請求項7】
前記溝の構成面の少なくとも一部が{0001}面から15°以上75°以下の傾角を持った面であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット。
【請求項8】
前記傾角が30°以上60°以下であることを特徴とする請求項7に記載の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット。
【請求項9】
前記溝の深さを溝の幅で除した値で定義される溝のアスペクト比が0.1以上5以下であることを特徴とする請求項7又は8に記載の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット。
【請求項10】
前記溝が種結晶の成長面上に占める面積割合が5%以上100%以下であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット。
【請求項11】
前記種結晶の口径が40mm以上300mm以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴット。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の種結晶付き炭化珪素単結晶インゴットを切断および研磨してなる炭化珪素単結晶基板。
【請求項13】
請求項12に記載の炭化珪素単結晶基板に、炭化珪素薄膜をエピタキシャル成長してなる炭化珪素エピタキシャルウェハ。
【請求項14】
請求項12に記載の炭化珪素単結晶基板に、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウム又はこれらの混晶をエピタキシャル成長してなる薄膜エピタキシャルウェハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−292723(P2009−292723A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207545(P2009−207545)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【分割の表示】特願2004−233231(P2004−233231)の分割
【原出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】