説明

積層フィルムの検査方法、積層フィルムの製造方法

【課題】短時間のうちに簡便にガスバリア性を評価することを可能とする積層フィルムの検査方法を提供する。
【解決手段】基材と、前記基材の少なくとも片方の表面上に形成され、少なくともケイ素、酸素および水素を含む薄膜層と、を備える積層フィルムの検査方法であって、前記薄膜層の29Si固体NMR測定を行って、ケイ素原子に結合する中性酸素原子の数ごとに前記薄膜層内のケイ素原子の存在比を求め、予め求めた、前記薄膜層のガスバリア性と前記ケイ素原子の存在比との対応関係に基づいて、前記薄膜層のガスバリア性を判定する積層フィルムの検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性を有する積層フィルムの検査方法に関する。また、このような検査方法を一工程とする積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性フィルムは、飲食品、化粧品、洗剤といった物品の充填包装に適する包装用容器として好適に用いることができる。近年、プラスチックフィルム等を基材とし、基材の一方の表面に酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウムといった物質を形成材料とする薄膜を成膜してなるガスバリア性フィルムが提案されている。
【0003】
このような薄膜をプラスチック基材の表面上に成膜する方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD)、減圧化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD)が知られている。また、このような成膜方法で形成された積層フィルムとして、例えば、長尺の基材を搬送しながら基材表面に連続的にCVD法による成膜を行う成膜装置により形成した積層フィルムが提案されている。
【0004】
この積層フィルムのガスバリア性は、例えばJIS K 7129:2008「プラスチック‐フィルム及びシート‐水蒸気透過度の求め方(機器測定法)」付属書C「ガスクロマトグラフ法による水蒸気透過度の求め方」(以下、JISのガスクロマト法という場合がある。)に従い求めることが出来る(非特許文献1参照)。水蒸気透過度(水蒸気透過率ともいう)は、低いほどガスバリア性が良いという指標となる。ガスバリア性評価のための所定の温度および湿度は、例えば温度40℃、湿度90%RHである。
【0005】
また、積層フィルムのガスバリア性は、例えばカルシウム法により測定される水蒸気透過率として評価することができる。カルシウム法とは、金属カルシウムの膜を蒸着などの方法で形成してから封止し、封止した後に、所定の温度および湿度の雰囲気下に一定時間保存し、積層フィルムを透過した水分と反応した金属カルシウム量を求める測定方法である。
【0006】
カルシウム法にはいくつかの方法があり、光透過率の変化を測定する方法、水との反応により腐食してできた水酸化カルシウムの面積変化を測定する方法、未反応の金属カルシウムの電気抵抗を測定する方法などを例示することができる。特許文献1には、水との反応により腐食してできた水酸化カルシウムの面積を測定することにより、水蒸気透過度を求める方法が記されている。ガスバリア性評価のための所定の温度および湿度は、例えば温度40℃、湿度90%RHである。
【0007】
他にも、特許文献2には、ガスバリア性の変化に伴い屈折率が変化するガスバリア膜が設けられた機能性素子について、良品のガスバリア膜と同等の屈折率であり、且つ屈折率が変化しないマーカーを予め設けておく構成が開示されている。この構成によれば、ガスバリア膜のガスバリア性の変化は、マーカーの識別可否により検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4407466号公報
【特許文献2】特許第4401231号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】JIS K 7129:2008「プラスチック‐フィルム及びシート‐水蒸気透過度の求め方(機器測定法)」付属書C「ガスクロマトグラフ法による水蒸気透過度の求め方」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のようなガスバリア性の測定法を、例えば、製造した積層フィルムの品質検査に用いることを想定した場合、次のような課題がある。
【0011】
すなわち、JISのガスクロマト法では、定常状態になることが確認できるまで測定を繰り返さなければならず、通常3日〜1週間程度の測定時間を要する。そのため、製造した積層フィルムの性能を検査し出荷や使用の可否を判断するための品質検査において、ガスバリア性を表す基準値として、毎回JISのガスクロマト法の測定結果を採用するには、試験時間が長すぎる。
【0012】
また、カルシウム法の測定には、通常1ヶ月〜2ヶ月程度の測定時間を要する。そのため、上述のJISのガスクロマト法と同様の理由により、毎回品質検査に採用することが困難である。
【0013】
さらに、特許文献2の方法では、ガスバリア膜に別途マーカーを作成するために、余分な工程が必要となり複雑となる(即ち、生産性が低下する)。
【0014】
これらのことから、積層フィルムの検査方法として、簡便で従来よりも早く結果が得られる方法が求められていた。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、簡便で短時間のうちにガスバリア性を評価することを可能とする積層フィルムの検査方法を提供することを目的とする。また、積層フィルムの品質評価工程を有し、高品質な積層フィルムを製造することを可能とする積層フィルムの製造方法を提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下の態様を有する。
【0017】
本発明の第1の態様は、基材と、前記基材の少なくとも片方の表面上に形成され、少なくともケイ素、酸素および水素を含む薄膜層と、を備える積層フィルムの検査方法であって、前記薄膜層の29Si固体NMR測定を行って、ケイ素原子に結合する中性酸素原子の数ごとに前記薄膜層内のケイ素原子の存在比を求め、予め求めた、前記薄膜層のガスバリア性と前記ケイ素原子の存在比との対応関係に基づいて、前記薄膜層のガスバリア性を判定する積層フィルムの検査方法である。
【0018】
本発明の第2の態様は、前記ケイ素原子の存在比が、前記薄膜層の29Si固体NMRスペクトルにおいて、Qのピーク面積に対する、Q,Q,Qのピーク面積を合計した値、の比であり、前記ケイ素原子の存在比について予め定めた閾値に基づいて、前記ケイ素原子の存在比が閾値未満である前記薄膜層のガスバリア性を良品と判定する、前記第1の態様に記載の積層フィルムの検査方法である。
【0019】
本発明の第3の態様は、前記閾値が1.0である前記第2の態様に記載の積層フィルムの検査方法である。
【0020】
本発明の第4の態様は、前記ケイ素原子の存在比が、前記ピーク面積比(Qのピーク面積に対する、前記薄膜層の29Si固体NMRスペクトルにおいて、Qのピーク面積に対する、Q,Q,Qのピーク面積を合計した値、の比)で、0.8以下である前記第2の態様に記載の積層フィルムの検査方法である。
【0021】
本発明の第5の態様は、前記ケイ素原子の存在比が、前記ピーク面積比で0.6以下である前記第2の態様に記載の積層フィルムの検査方法である。
【0022】
本発明の第6の態様は、前記基材が、ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である、前記第1〜5のいずれか1つの態様に記載の積層フィルムの検査方法である。
【0023】
本発明の第7の態様は、前記基材が、PET、PEN、及び環状ポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である、前記第6の態様に記載の積層フィルムの検査方法である。
【0024】
本発明の第8の態様は、前記基材の厚みが、5μm〜500μmである、前記第1〜7のいずれか1つの態様に記載の積層フィルムの検査方法である。
【0025】
また、本発明の第9の態様は、基材の少なくとも片方の表面上に、少なくともケイ素、酸素および水素を含む薄膜層を形成する工程と、前記薄膜層を含む試験片について、前記第1〜8のいずれか1つの態様に記載の検査方法を用いて前記薄膜層のガスバリア性を判定する検査工程と、前記薄膜層のガスバリア性と前記ケイ素原子の存在比との対応関係に基づいて、良品を選別する工程と、を有する良品の積層フィルムの製造方法である。
【0026】
本発明の第10の態様は、前記薄膜層を形成する工程では、長尺の基材を連続的に搬送しながら、連続的に前記薄膜層を形成する、前記第9の態様に記載の積層フィルムの製造方法である。
【0027】
本発明の第11の態様は、前記薄膜層を形成する工程が、第1の前記基材が巻き掛けられる第1成膜ロールと、前記第1成膜ロールに対向し、第2の前記基材が巻き掛けられる第2成膜ロールと、の間に交流電圧を印加することで、前記第1成膜ロールと前記第2成膜ロールとの間の空間において生じる、前記薄膜層の形成材料である成膜ガスの放電プラズマを用いたプラズマCVDを用いるものである、前記第10の態様に記載の積層フィルムの製造方法である。
【0028】
本発明の第12の態様は、前記放電プラズマが、前記第1成膜ロールと前記第2成膜ロールとの間に交流電界を形成するとともに、前記第1成膜ロールと前記第2成膜ロールとが対向する空間に膨らんだ無終端のトンネル状の磁場を形成することにより、前記トンネル状の磁場に沿って形成される第1の放電プラズマと、前記トンネル状の磁場の周囲に形成される第2の放電プラズマと、を有し、前記薄膜層を形成する工程は、前記第1の放電プラズマと前記第2の放電プラズマとに重なるように前記基材を搬送する、前記第11の態様に記載の積層フィルムの製造方法である。
【0029】
本発明の第13の態様は、前記薄膜層の厚み方向における該層の表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示すケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)〜(iii):
(i)ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の厚みの90%以上の領域において下記式(1):
(酸素の原子比)>(ケイ素の原子比)>(炭素の原子比)・・・(1)
で表される条件を満たすこと、或いは、ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の厚みの90%以上の領域において下記式(2):
(炭素の原子比)>(ケイ素の原子比)>(酸素の原子比)・・・(2)
で表される条件を満たすこと、
(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有すること、
(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5原子%(即ち、at%)以上であること、
を全て満たすように、前記成膜ガスに含まれる有機ケイ素化合物と酸素との混合比を制御する、前記第12の態様に記載の積層フィルムの製造方法である。
【0030】
本発明の第14の態様は、前記炭素分布曲線が少なくとも3つの極値を有する、前記第13の態様に記載の積層フィルムの製造方法である。
【0031】
本発明の第15の態様は、前記炭素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における薄膜層の厚み方向における薄膜層の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下である、前記第13又は14の態様に記載の積層フィルムの製造方法である。
【0032】
本発明の第16の態様は、前記炭素分布曲線が、実質的に連続である前記第13〜15のいずれか1つの態様に記載の積層フィルムの製造方法である。
【0033】
本発明の第17の態様は、前記炭素分布曲線が、エッチング速度とエッチング時間とから算出される薄膜層の厚み方向における前記薄膜層の表面からの距離Xと、炭素原子比Cとが、下記数式F1
|dC/dx|≦1・・・・(F1)
の関係を満たす、前記第13〜16のいずれか1つの態様に記載の積層フィルムの製造方法である。
【0034】
本発明の第18の態様は、薄膜層の厚みが、5nm以上3000nm以下である、前記9〜17のいずれか1つの態様に記載の積層フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0035】
この発明によれば、簡便に短時間のうちに積層フィルムのガスバリア性を評価することができる。好ましい実施形態では、前記評価を高精度に行うことができる。また、高品質な積層フィルムを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態の検査方法の検査対象、および、本実施形態の製造方法の製造対象である積層フィルムの一例についての模式図である。
【図2】積層フィルムの製造に用いられる製造装置の一実施形態を示す模式図である。
【図3】29Si固体NMR測定結果を示すチャートである。
【図4】29Si固体NMR測定結果を示すチャートである。
【図5】29Si固体NMR測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図1,2を参照しながら、本発明の実施形態に係る積層フィルムの検査方法、および積層フィルムの製造方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0038】
(積層フィルム)
図1は、本実施形態の検査方法の検査対象、および、本実施形態の製造方法の製造対象である積層フィルムの一例についての模式図である。本実施形態の対象となる積層フィルムは、基材Fの表面に、ガスバリア性を担保する薄膜層Hが積層してなるものである。薄膜層Hは、薄膜層Hのうちの少なくとも1層がケイ素、酸素および水素を含んでおり、後述する成膜ガスの完全酸化反応によって形成されるSiOを多く含む第1層Ha、不完全酸化反応によって生じるSiOを多く含む第2層Hbを含み、第1層Haと第2層Hbとが交互に積層された3層構造となっている。
【0039】
ただし、図は膜組成に分布があることを模式的に示したものであり、実際には第1層Haと第2層Hbとの間は明確に界面が生じているものではなく、組成が連続的に変化している。薄膜層Hは、複数積層していることとしてもよい。
【0040】
本実施形態の対象となる薄膜層Hは、積層フィルムにおいて基材Fの少なくとも片面に形成される層である。また、薄膜層Hのうちの少なくとも1層は窒素、アルミニウム、チタンを更に含有していてもよい。薄膜層Hの構成については、後に詳述する。
【0041】
(基材)
本実施形態の対象となる積層フィルムに用いる基材Fとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル樹脂;アセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルサルファイド(PES)が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を組み合わせて用いることもできる。透明性、耐熱性、線膨張性等の必要な特性に合わせて、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂から選ばれることが好ましく、PET、PEN、環状ポリオレフィンがより好ましい。また、樹脂を含む複合材料としては、ポリジメチルシロキサン、ポリシルセスキオキサンなどのシリコーン樹脂、ガラスコンポジット基板、ガラスエポキシ基板などが挙げられる。これらの樹脂の中でも、耐熱性が高く、線膨張率が小さいという観点から、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ガラスコンポジット基板、ガラスエポキシ基板が好ましい。また、これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
基材Fとしてシリコーン樹脂やガラスを含む材料を用いた場合には、29Si固体NMR測定における基材F中のケイ素の影響を避けるために、基材Fから薄膜層Hを分離して、薄膜層H中に含まれるケイ素のみの29Si固体NMRを測定する。
薄膜層Hと基材Fとを分離する方法としては、例えば、薄膜層Hを金属製のスパチュラなどで掻き落とし、29Si固体NMR測定における試料管に採取する方法が挙げられる。また、基材Fのみを溶解する溶媒を用いて基材Fを除去し、残渣として残る薄膜層Hを採取してもかまわない。
【0043】
基材Fの厚みは、積層フィルムを製造する際の安定性等を考慮して適宜設定されるが、真空中においても基材Fの搬送が容易であることから、5μm〜500μmであることが好ましい。さらに、本実施形態の対象となる積層フィルムでは、薄膜層Hの形成において、後述するように基材Fを通して放電を行うことから、基材Fの厚みは50μm〜200μmであることがより好ましく、50μm〜100μmであることが特に好ましい。
【0044】
なお、基材Fは、形成する薄膜層Hとの密着性の観点から、その表面を清浄するための表面活性処理を施してもよい。このような表面活性処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が挙げられる。
【0045】
(その他の構成)
本実施形態の対象となる積層フィルムは、前記基材及び前記薄膜層を備えるものであるが、必要に応じて、更にプライマーコート層、ヒートシール性樹脂層、接着剤層等を備えていてもよい。このようなプライマーコート層は、前記基材及び前記薄膜層との接着性を向上させることが可能な公知のプライマーコート剤を用いて形成することができる。また、このようなヒートシール性樹脂層は、適宜公知のヒートシール性樹脂を用いて形成することができる。さらに、このような接着剤層は、適宜公知の接着剤を用いて形成することができ、このような接着剤層により複数の積層フィルム同士を接着させてもよい。
図1に示す積層フィルムの製造方法については後に詳述する。
【0046】
(積層フィルムの検査方法)
本実施形態の検査方法では、積層フィルムが備える薄膜層Hについて、薄膜層Hを構成するケイ素原子の結合状態に着目しガスバリア性の測定に利用する。ケイ素原子の結合状態を表す値としては、29Si固体NMR測定において求められるピーク面積を用いる。
【0047】
すなわち、薄膜層Hは少なくとも1層がケイ素、酸素および水素を含んでおり、薄膜層Hの29Si固体NMR測定においては、下記のQ,Q,Q,Qのケイ素原子に対応するピークが求められる。
【0048】
ここで、Q,Q,Q,Qは、薄膜層Hを構成するケイ素原子を、該ケイ素原子に結合する酸素の性質により区別して示すものである。すなわち、Q,Q,Q,Qの各記号は、Si−O−Si結合を形成する酸素原子を、水酸基に対して「中性」酸素原子としたとき、ケイ素原子に結合する酸素原子が以下のとおりであることを示す。
:1つの中性酸素原子、および3つの水酸基と結合したケイ素原子
:2つの中性酸素原子、および2つの水酸基と結合したケイ素原子
:3つの中性酸素原子、および1つの水酸基と結合したケイ素原子
:4つの中性酸素原子と結合したケイ素原子
【0049】
ここで、「薄膜層Hの29Si固体NMR」を測定する場合には、測定に用いる試験片に、基材Fが含まれていてもよい。
【0050】
29Si固体NMR測定において求められる各ピークの面積比は、各結合状態のケイ素原子の存在比を示す。
【0051】
のケイ素原子は、ケイ素原子の周囲が4つの中性酸素原子に囲まれ、さらに4つの中性酸素原子はケイ素原子と結合して網目構造を形成していると考えられる。対して、Q,Q,Qのケイ素原子は、1以上の水酸基と結合しているため、隣り合うケイ素原子との間には共有結合が形成されない微細な空隙が存在することとなると考えられる。
【0052】
したがって、Qのケイ素原子が多いほど、薄膜層Hが緻密な層となり、高いガスバリア性を実現する積層フィルムとすることができる。本実施形態の検査方法では、各結合状態のケイ素原子の面積比と、積層フィルムのガスバリア性と、の対応関係を予め求めておくことで、それ以降(即ち、2回目以降の測定)は、測定対象となる積層フィルムについて、薄膜層を含むサンプルの29Si固体NMR測定を行うことにより、積層フィルムのガスバリア性を測定し得る。
【0053】
具体的には、まず、Qのピーク面積に対する、Q,Q,Qのピーク面積を合計した値の比((Q,Q,Qのピーク面積を合計した値)/(Qのピーク面積))(以下、この値を「ピーク面積比」と称することがある)と、積層フィルムのガスバリア性と、をそれぞれ求め、ピーク面積比と積層フィルムのガスバリア性との対応関係を求める。
【0054】
次に、測定対象となる積層フィルムについて、薄膜層を含むサンプルの29Si固体NMR測定を行い、サンプルのピーク面積比を求める。
【0055】
次に、許容するガスバリア性に対応するピーク面積比の閾値を設定しておき、当該閾値と、求めたサンプルのピーク面積比とを比較することにより、測定対象となる積層フィルムのガスバリア性を評価する。例えば、良好なガスバリア性を示す積層フィルムの閾値としては1.0であり、ピーク面積比が1.0未満のものは良品として判定することができる。ピーク面積比は、好ましくは0.8以下であり、さらに好ましくは0.6以下である。
【0056】
なお、基準となる「ピーク面積比と積層フィルムのガスバリア性との対応関係」を求める(即ち、初回の測定)際に、ガスバリア性の測定には、JISのガスクロマト法や、カルシウム法を用いることができる。
【0057】
また、29Si固体NMRのピーク面積は、例えば以下のように算出する。
まず、29Si固体NMR測定により得られたスペクトルをスムージング処理する。
【0058】
以下の説明においては、スムージング後のスペクトルを「測定スペクトル」と称する。29Si固体NMR測定により得られたスペクトルには、ピークの信号より高い周波数のノイズが含まれていることが多いため、スムージングでこれらのノイズを取り除く。29Si固体NMR測定により得られたスペクトルをまずフーリエ変換し、100Hz以上の高周波を取り除く。100Hz以上の高周波ノイズを取り除いたら逆フーリエ変換し、これを「測定スペクトル」とする。
【0059】
次に、測定スペクトルを、Q,Q,Q,Qの各ピークに分離する。すなわち、Q,Q,Q,Qのピークが、それぞれ固有の化学シフトを中心とするガウス分布(正規分布)曲線を示すこととして仮定し、Q,Q,Q,Qを合計したモデルスペクトルが、測定スペクトルのスムージング後のものと一致するように、各ピークの高さおよび半値幅等のパラメータを最適化する。
【0060】
パラメータの最適化は、例えば反復法を用いることにより行う。すなわち、反復法を用いて、モデルスペクトルと測定スペクトルとの偏差の2乗の合計が極小値に収束するパラメータを算出する。
【0061】
次に、このようにして求めるQ,Q,Q,Qのピークをそれぞれ積分することで、各ピーク面積を算出する。このようにして求めたピーク面積を用いて、上述したピーク面積比を求め、ガスバリア性の評価指標として用いる。
【0062】
ピーク面積比の値は、好ましくは1より小さく、より好ましくは0.8以下であり、さらに好ましくは0.6以下である。
すなわち、(Q,Q,Qのピーク面積を合計した値)/(Qのピーク面積)の値は、好ましくは0以上0.8以下であり、さらに好ましくは0以上0.6以下である。
【0063】
(積層フィルムの製造方法)
図2は、積層フィルムの製造に用いられる製造装置の一実施形態を示す模式図である。なお、図2においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0064】
図に示す製造装置10は、送り出しロール11、巻き取りロール12、搬送ロール13〜16、成膜ロール(第1成膜ロール)17、成膜ロール(第2成膜ロール)18、ガス供給管19、プラズマ発生用電源20、電極21、22、成膜ロール17の内部に設置された磁場形成装置23、及び成膜ロール18の内部に設置された磁場形成装置24を備えている。製造装置10の構成要素のうちで少なくとも成膜ロール17、18、ガス供給管19、及び磁場形成装置23、24は、積層フィルムを製造するときに、図示略の真空チャンバー内に配置される。この真空チャンバーは、図示略の真空ポンプに接続される。真空チャンバーの内部の圧力は、真空ポンプの動作により調整される。
【0065】
この装置を用いると、プラズマ発生用電源20を制御することにより、成膜ロール17と成膜ロール18との間の空間に、ガス供給管19から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマ化学気相成長法を用いたプラズマCVD成膜を行うことができる。
【0066】
送り出しロール11には、成膜前の帯状の基材Fが巻き取られた状態で設置され、基材Fを長尺方向に巻き出しながら送り出しする。また、基材Fの端部側には巻取りロール12が設けられ、成膜が行われた後の基材Fを牽引しながら巻き取り、ロール状に収容する。
【0067】
成膜ロール17と成膜ロール18とは、平行に延在して対向配置されている。両ロールは導電性材料で形成されている。成膜ロール17には、基材Fが巻き掛けられ、また、成膜ロール17に対し基材Fの搬送経路の下流に配置される成膜ロール18にも、基材Fが巻き掛けられ、それぞれ回転しながら基材Fを搬送する。また、成膜ロール17と成膜ロール18とは、相互に絶縁されていると共に、共通するプラズマ発生用電源20に接続されている。プラズマ発生用電源20から交流電圧を印加すると、成膜ロール17と成膜ロール18との間の空間SPに電場が形成される。
【0068】
さらに、成膜ロール17と成膜ロール18は、内部に磁場形成装置23,24が格納されている。磁場形成装置23,24は、空間SPに磁場を形成する部材であり、成膜ロール17および成膜ロール18と共には回転しないようにして格納されている。
【0069】
磁場形成装置23,24は、成膜ロール17、成膜ロール18の延在方向と同方向に延在する中心磁石23a,24aと、中心磁石23a,24aの周囲を囲みながら成膜ロール17、成膜ロール18の延在方向と同方向に延在して配置される円環状の外部磁石23b,24bと、を有している。磁場形成装置23では、中心磁石23aと外部磁石23bとを結ぶ磁力線(磁界)が、無終端のトンネルを形成している。磁場形成装置24においても同様に、中心磁石24aと外部磁石24bとを結ぶ磁力線が、無終端のトンネルを形成している。
【0070】
この磁力線と、成膜ロール17と成膜ロール18との間に形成される交流電界と、が交叉するマグネトロン放電によって、成膜ガスの放電プラズマが生成される。すなわち、詳しくは後述するように、空間SPは、プラズマCVD成膜を行う成膜空間として用いられ、基材Fにおいて成膜ロール17、18に接しない面(成膜面)には、成膜ガスを形成材料とする薄膜層が形成される。
【0071】
空間SPの近傍には、空間SPにプラズマCVDの原料ガスなどの成膜ガスを供給するガス供給管19が設けられている。ガス供給管19は、成膜ロール17及び成膜ロール18の延在方向と同一方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から空間SPに成膜ガスを供給する。図では、ガス供給管19から空間SPに向けて成膜ガスを供給する様子を矢印で示している。
【0072】
原料ガスは、形成するバリア膜の材質に応じて適宜選択して使用することができる。原料ガスとしては、例えばケイ素を含有する有機ケイ素化合物を用いることができる。このような有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性や得られるバリア膜のガスバリア性等の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、これらの有機ケイ素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。さらに、原料ガスとして、上述の有機ケイ素化合物の他にモノシランを含有させ、形成するバリア膜のケイ素源として使用することとしてもよい。
【0073】
成膜ガスとしては、原料ガスの他に反応ガスを用いてもよい。このような反応ガスとしては、原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用することができる。
【0074】
成膜ガスとしては、原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、成膜ガスとしては、放電プラズマを発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
【0075】
真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、空間SPの圧力が0.1Pa〜50Paであることが好ましい。気相反応を抑制する目的により、プラズマCVDを低圧プラズマCVD法とする場合、通常0.1Pa〜10Paである。また、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.1kW〜10kWであることが好ましい。
【0076】
基材Fの搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.1m/min〜100m/minであることが好ましく、0.5m/min〜20m/minであることがより好ましい。ライン速度が下限未満では、基材Fに熱に起因する皺の発生しやすくなる傾向にあり、他方、ライン速度が上限を超えると、形成されるバリア膜の厚みが薄くなる傾向にある。
【0077】
以上のような製造装置(プラズマCVD成膜装置)10においては、以下のようにして基材Fに対し成膜が行われる。
【0078】
まず、成膜前に、基材Fから発生するアウトガスが十分に少なくなるように事前の処理を行うとよい。基材Fからのアウトガスの発生量は、基材Fを製造装置に装着し、装置内(チャンバー内)を減圧したときの圧力を用いて判断することができる。例えば、製造装置のチャンバー内の圧力が、1×10−3Pa以下であれば、基材Fからのアウトガスの発生量が十分に少なくなっているものと判断することができる。
【0079】
基材Fからのアウトガスの発生量を少なくする方法としては、真空乾燥、加熱乾燥、およびこれらの組み合わせによる乾燥、ならびに自然乾燥による乾燥方法が挙げられる。いずれの乾燥方法であっても、ロール状に巻き取った基材Fの内部の乾燥を促進するために、乾燥中にロールの巻き替え(巻出しおよび巻き取り)を繰り返し行い、基材F全体を乾燥環境下に曝すことが好ましい。
【0080】
真空乾燥は、耐圧性の真空容器に基材Fを入れ、真空ポンプ等の減圧機を用いて真空容器内を排気して真空にすることにより行う。真空乾燥時の真空容器内の圧力は、1000Pa以下が好ましく、100Pa以下がより好ましく、10Pa以下がさらに好ましい。真空容器内の排気は、減圧機を連続的に運転することで連続的に行うこととしてもよく、内圧が一定以上にならないように管理しながら、減圧機を断続的に運転することで断続的に行うこととしてもよい。乾燥時間は、少なくとも8時間以上であることが好ましく、1週間以上であることがより好ましく、1ヶ月以上であることがさらに好ましい。
【0081】
加熱乾燥は、基材Fを50℃以上の環境下に曝すことにより行う。加熱温度は、50℃以上200℃以下が好ましく、70℃以上150℃以下がさらに好ましい。200℃を超える温度では、基材Fが変形するおそれがある。また、基材Fからオリゴマー成分が溶出し表面に析出することにより、欠陥が生じるおそれがある。乾燥時間は、加熱温度や用いる加熱手段により適宜選択することができる。
【0082】
加熱手段としては、常圧下で基材Fを50℃以上200℃以下に加熱できるものであれば、特に限られない。通常知られる装置の中では、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置や、加熱ドラムが好ましく用いられる。
【0083】
ここで、赤外線加熱装置とは、赤外線発生手段から赤外線を放射することにより対象物を加熱する装置である。
【0084】
マイクロ波加熱装置とは、マイクロ波発生手段からマイクロ波を照射することにより対象物を加熱する装置である。
【0085】
加熱ドラムとは、ドラム表面を加熱し、対象物をドラム表面に接触させることにより、接触部分から熱伝導により加熱する装置である。
【0086】
自然乾燥は、基材Fを低湿度の雰囲気中に配置し、乾燥ガス(乾燥空気、乾燥窒素)を通風させることで低湿度の雰囲気を維持することにより行う。自然乾燥を行う際には、基材Fを配置する低湿度環境にシリカゲルなどの乾燥剤を一緒に配置することが好ましい。乾燥時間は、少なくとも8時間以上であることが好ましく、1週間以上であることがより好ましく、1ヶ月以上であることがさらに好ましい。
【0087】
これらの乾燥は、基材Fを製造装置に装着する前に別途行ってもよく、基材Fを製造装置に装着した後に、製造装置内で行ってもよい。
基材Fを製造装置に装着した後に乾燥させる方法としては、送り出しロールから基材Fを送り出し搬送しながら、チャンバー内を減圧することが挙げられる。また、通過させるロールがヒーターを備えるものとし、ロールを加熱することで該ロールを上述の加熱ドラムとして用いて加熱することとしてもよい。
【0088】
基材Fからのアウトガスを少なくする別の方法として、予め基材Fの表面に無機膜を成膜しておくことが挙げられる。無機膜の成膜方法としては、真空蒸着(加熱蒸着)、電子ビーム(Electron Beam、EB)蒸着、スパッタ、イオンプレーティングなどの物理的成膜方法が挙げられる。また、熱CVD、プラズマCVD、大気圧CVDなどの化学的堆積法により無機膜を成膜することとしてもよい。さらに、表面に無機膜を成膜した基材Fを、上述の乾燥方法による乾燥処理を施すことにより、さらにアウトガスの影響を少なくしてもよい。
【0089】
次いで、不図示の真空チャンバー内を減圧環境とし、成膜ロール17,成膜ロール18に交流電圧を印加して空間SPに電界を生じさせる。
【0090】
この際、磁場形成装置23,24では上述した無終端のトンネル状の磁場を形成しているため、成膜ガスを導入することにより、該磁場と空間SPに放出される電子とによって、該トンネルに沿ったドーナツ状の成膜ガスの放電プラズマが形成される。この放電プラズマは、数Pa近傍の低圧力で発生可能であるため、真空チャンバー内の温度を室温近傍とすることが可能になる。
【0091】
一方、磁場形成装置23,24が形成する磁場に高密度で捉えられている電子の温度は高いので、当該電子と成膜ガスとの衝突により生じる放電プラズマが生じる。すなわち、空間SPに形成される磁場と電場により電子が空間SPに閉じ込められることにより、空間SPに高密度の放電プラズマが形成される。より詳しくは、無終端のトンネル状の磁場と重なる空間においては、高密度の(高強度の)放電プラズマ(第1の放電プラズマ)が形成され、無終端のトンネル状の磁場とは重ならない空間においては低密度の(低強度の)放電プラズマ(第2の放電プラズマ)が形成される。これら放電プラズマの強度は、連続的に変化するものである。
【0092】
放電プラズマが生じると、ラジカルやイオンを多く生成してプラズマ反応が進行し、成膜ガスに含まれる原料ガスと反応ガスとの反応が生じる。例えば、原料ガスである有機ケイ素化合物と、反応ガスである酸素とが反応し、有機ケイ素化合物の酸化反応が生じる。
ここで、高強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えることができるエネルギーが多いため反応が進行しやすく、主として有機ケイ素化合物の完全酸化反応を生じさせることができる。一方、低強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えることができるエネルギーが少ないため反応が進行しにくく、主として有機ケイ素化合物の不完全酸化反応を生じさせることができる。
【0093】
なお、本明細書において「有機ケイ素化合物の完全酸化反応」とは、有機ケイ素化合物と酸素との反応が進行し、有機ケイ素化合物が二酸化ケイ素(SiO)と水と二酸化炭素にまで酸化分解されることを指す。「有機ケイ素化合物の不完全酸化反応」とは、有機ケイ素化合物が完全酸化反応をせず、SiOではなく構造中に炭素を含むSiO(0<x<2,0<y<2)が生じる反応となることを指す。
【0094】
上述のように放電プラズマは、成膜ロール17,成膜ロール18の表面にドーナツ状に形成されるため、成膜ロール17、成膜ロール18の表面を搬送される基材Fは、高強度の放電プラズマが形成されている空間と、低強度の放電プラズマが形成されている空間と、を交互に通過することとなる。そのため、成膜ロール17,成膜ロール18の表面を通過する基材Fの表面には、完全酸化反応によって生じるSiOと不完全酸化反応によって生じるSiOとが、交互に形成される。
【0095】
これらに加えて、高温の2次電子が磁場の作用で基材Fに流れ込むのが防止され、よって、基材Fの温度を低く抑えたままで高い電力の投入が可能となり、高速成膜が達成される。膜の堆積は、主に基材Fの成膜面のみに起こり、成膜ロールは基材Fに覆われて汚れにくいために、長時間の安定成膜ができる。
【0096】
このようにして形成される薄膜層Hは、ケイ素、酸素及び炭素を含有する薄膜層Hが、該層の厚み方向における該層の表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示すケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)〜(iii)の全てを満たしている。
【0097】
(i)まず、薄膜層Hが、ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の厚みの90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において下記式(1):
(酸素の原子比)>(ケイ素の原子比)>(炭素の原子比)・・・(1)
で表される条件を満たすこと、或いは、ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の厚みの90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において下記式(2):
(炭素の原子比)>(ケイ素の原子比)>(酸素の原子比)・・・(2)
で表される条件を満たしている。
【0098】
薄膜層Hにおけるケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、(i)の条件を満たす場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が十分なものとなる。
【0099】
(ii)次に、このような薄膜層Hは、炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有するものである。
【0100】
このような薄膜層Hにおいては、炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。炭素分布曲線が極値を有さない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、炭素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における薄膜層Hの厚み方向における薄膜層Hの表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0101】
なお、本実施形態において極値とは、薄膜層Hの厚み方向における薄膜層Hの表面からの距離に対する元素の原子比の極大値又は極小値のことをいう。また、本明細書において極大値とは、薄膜層Hの表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が増加から減少に変わる点であって且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層Hの厚み方向における薄膜層Hの表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3原子%以上減少する点のことをいう。さらに、本実施形態において極小値とは、薄膜層Hの表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層Hの厚み方向における薄膜層Hの表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3原子%以上増加する点のことをいう。
【0102】
(iii)更に、このような薄膜層Hは、炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5原子%以上である。
【0103】
このような薄膜層Hにおいては、炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が6原子%以上であることがより好ましく、7原子%以上であることが特に好ましい。絶対値が5原子%未満では、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。
【0104】
本実施形態においては、薄膜層Hの酸素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが好ましく、少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。酸素分布曲線が極値を有さない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、酸素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における薄膜層Hの厚み方向における薄膜層Hの表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0105】
また、本実施形態においては、薄膜層Hの酸素分布曲線における酸素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5原子%以上であることが好ましく、6原子%以上であることがより好ましく、7原子%以上であることが特に好ましい。絶対値が下限未満では、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。
【0106】
本実施形態においては、薄膜層Hのケイ素分布曲線におけるケイ素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5原子%未満であることが好ましく、4原子%未満であることがより好ましく、3原子%未満であることが特に好ましい。絶対値が上限を超えると、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
【0107】
また、本実施形態においては、薄膜層Hの厚み方向における該層の表面からの距離とケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子及び炭素原子の合計量の比率(酸素及び炭素の原子比)との関係を示す酸素炭素分布曲線において、酸素炭素分布曲線における酸素及び炭素の原子比の合計の最大値及び最小値の差の絶対値が5原子%未満であることが好ましく、4原子%未満であることがより好ましく、3原子%未満であることが特に好ましい。絶対値が上限を超えると、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
【0108】
ここで、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:原子%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は厚み方向における薄膜層Hの厚み方向における薄膜層Hの表面からの距離に概ね相関することから、「薄膜層Hの厚み方向における薄膜層Hの表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される薄膜層Hの表面からの距離を採用することができる。また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用し、そのエッチング速度(エッチングレート)を0.05nm/sec(SiO熱酸化膜換算値)とすることが好ましい。
【0109】
また、本実施形態においては、膜面全体において均一で且つ優れたガスバリア性を有する薄膜層Hを形成するという観点から、薄膜層Hが膜面方向(薄膜層Hの表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。本明細書において、薄膜層Hが膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により薄膜層Hの膜面の任意の2箇所の測定箇所について酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5原子%以内の差であることをいう。
【0110】
さらに、本実施形態においては、炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。
本明細書において、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される薄膜層Hの厚み方向における該層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:原子%)との関係において、下記数式(F1):
|dC/dx|≦ 1 ・・・(F1)
で表される条件を満たすことをいう。
【0111】
本実施形態の方法により製造されるガスバリア性積層フィルムは、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層Hを少なくとも1層備えるが、そのような条件を満たす層を2層以上を備えていてもよい。さらに、このような薄膜層Hを2層以上備える場合には、複数の薄膜層Hの材質は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、このような薄膜層Hを2層以上備える場合には、このような薄膜層Hは基材の一方の表面上に形成されていてもよく、基材の両方の表面上に形成されていてもよい。また、このような複数の薄膜層Hとしては、ガスバリア性を必ずしも有しない薄膜層Hを含んでいてもよい。
【0112】
また、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の厚みの90%以上の領域において式(1)で表される条件を満たす場合には、薄膜層H中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対するケイ素原子の含有量の原子比率は、25原子%以上45原子%以下であることが好ましく、30原子%以上40原子%以下であることがより好ましい。また、薄膜層H中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、33原子%以上67原子%以下であることが好ましく、45原子%以上67原子%以下であることがより好ましい。さらに、薄膜層H中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、3原子%以上33原子%以下であることが好ましく、3原子%以上25原子%以下であることがより好ましい。
【0113】
さらに、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の厚みの90%以上の領域において式(2)で表される条件を満たす場合には、薄膜層H中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対するケイ素原子の含有量の原子比率は、25原子%以上45原子%以下であることが好ましく、30原子%以上40原子%以下であることがより好ましい。また、薄膜層H中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、1原子%以上33原子%以下であることが好ましく、10原子%以上27原子%以下であることがより好ましい。さらに、薄膜層H中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、33原子%以上66原子%以下であることが好ましく、40原子%以上57原子%以下であることがより好ましい。
【0114】
また、薄膜層Hの厚みは、5nm以上3000nm以下の範囲であることが好ましく、10nm以上2000nm以下の範囲であることより好ましく、100nm以上1000nm以下の範囲であることが特に好ましい。薄膜層Hの厚みが下限未満では、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣る傾向にあり、他方、上限を超えると、屈曲によりガスバリア性が低下しやすくなる傾向にある。
【0115】
また、本実施形態のガスバリア性積層フィルムが複数の薄膜層Hを備える場合には、それらの薄膜層Hの厚みの合計値は、通常10nm以上10000nm以下の範囲であり、10nm以上5000nm以下の範囲であることが好ましく、100nm以上3000nm以下の範囲であることより好ましく、200nm以上2000nm以下の範囲であることが特に好ましい。薄膜層Hの厚みの合計値が下限未満では、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣る傾向にあり、他方、上限を超えると、屈曲によりガスバリア性が低下しやすくなる傾向にある。
【0116】
このような薄膜層Hを形成するには、成膜ガスに含まれる原料ガスと反応ガスの比率としては、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させるために理論上必要となる反応ガスの量の比率よりも、反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことが好ましい。反応ガスの比率を過剰にし過ぎてしまうと、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層Hが得られ難くなる。
【0117】
以下、成膜ガスとして、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO:(CHSiO:)と反応ガスとしての酸素(O)を含有するものを用い、ケイ素−酸素系の薄膜層を製造する場合を例に挙げて、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスの好適な比率等についてより詳細に説明する。
【0118】
原料ガスとしてのHMDSOと、反応ガスとしての酸素とを含有する成膜ガスをプラズマCVDにより反応させてケイ素−酸素系の薄膜層を作製する場合、その成膜ガスにより下記反応式(1)に記載の反応が起こり、二酸化ケイ素が製造される。
[化1]
(CHSiO+12O→6CO+9HO+2SiO …(1)
【0119】
この反応においては、HMDSO1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜ガス中に、HMDSO1モルに対して酸素を12モル以上含有させて完全に反応させた場合には、均一な二酸化ケイ素膜が形成されてしまうため、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層Hを形成することができなくなってしまう。そのため、本実施形態の薄膜層Hを形成する際には、上記(1)式の反応が完全に進行してしまわないように、HMDSO1モルに対して酸素量を化学量論比の12モルより少なくする必要がある。
【0120】
なお、製造装置10の真空チャンバー内の反応では、原料のHMDSOと反応ガスの酸素は、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のHMDSOのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる(例えば、CVDにより完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のHMDSOのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある)。そのため、原料のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。
【0121】
このような比でHMDSO及び酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったHMDSO中の炭素原子や水素原子が薄膜層H中に取り込まれ、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層Hを形成することが可能となって、得られるガスバリア性積層フィルムに優れたバリア性及び耐屈曲性を発揮させることが可能となる。
【0122】
なお、成膜ガス中のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)が少なすぎると、酸化されなかった炭素原子や水素原子が薄膜層H中に過剰に取り込まれるため、この場合はバリア膜の透明性が低下する。このようなガスバリア性フィルムは有機ELデバイスや有機薄膜太陽電池などのような透明性を必要とするデバイス用のフレキシブル基板には利用できなくなってしまう。このような観点から、成膜ガス中のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)の下限は、HMDSOのモル量(流量)の0.1倍より多い量とすることが好ましく、0.5倍より多い量とすることがより好ましい。
【0123】
このように、有機ケイ素化合物が完全酸化するか否かは、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスとの混合比の他に、成膜ロール17,成膜ロール18に印加する印加電圧によっても制御することができる。
【0124】
このような放電プラズマを用いたプラズマCVD法により、成膜ロール17,成膜ロール18に巻き掛けた基材Fの表面に対して薄膜層の形成を行うことができる。
【0125】
(薄膜層の構成例)
また、上述のようにして形成する積層フィルムにおいては、前記薄膜層のうちの少なくとも1層において、該層の厚み方向における該層の表面からの距離と電子線透過度との関係を示す電子線透過度曲線が少なくとも1つの極値を有することとしてもよい。電子線透過度曲線が少なくとも1つの極値を有する場合には、その薄膜層により十分に高度なガスバリア性を達成することが可能となるとともに、フィルムを屈曲させてもガスバリア性の低下が十分に抑制することが可能となる。
【0126】
このような薄膜層としては、より高い効果が得られることから、前記電子線透過度曲線が少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記電子線透過度曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における前記薄膜層の厚み方向における前記薄膜層の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において極値とは、薄膜層の厚み方向における薄膜層の表面からの距離に対して電子線透過度の大きさをプロットした曲線(電子線透過度曲線)の極大値又は極小値のことをいう。また、本実施形態において電子線透過度曲線の極値(極大値又は極小値)の有無は、後述の極値の有無の判定方法に基づいて判断することができる。
【0127】
また、本実施形態において電子線透過度とは、薄膜層内の所定の位置において薄膜層を形成する材料を電子線が透過する度合いを表すものである。このような電子線透過度の測定方法としては各種の公知の方法を採用することができ、例えば(i)透過型電子顕微鏡を用いた電子線透過度の測定方法、(ii)走査型電子顕微鏡を用いて2次電子や反射電子を測定することにより電子線透過度を測定する方法、を採用することができる。
以下、透過型電子顕微鏡を用いた場合を例に挙げて、電子線透過度の測定方法及び電子線透過度曲線の測定方法について説明する。
【0128】
このような透過型電子顕微鏡を用いた場合における電子線透過度の測定方法においては、先ず、薄膜層を備える基材を薄膜層の表面に垂直な方向に切り出した薄片状の試料を作成する。次に、透過型電子顕微鏡を用いて、前記試料の表面(前記薄膜層の表面に垂直な面)の透過型電子顕微鏡の画像を得る。そして、このようにして透過型電子顕微鏡の画像を測定することにより、その画像上の各位置のコントラストに基づいて薄膜の各位置の電子線透過度を求めることができる。
【0129】
ここで、薄膜層を備える基材を薄膜層の表面に垂直な方向に切り出した薄片状の試料について透過型電子顕微鏡を用いて観察した場合においては、透過型電子顕微鏡の画像の各位置のコントラストは各位置の材料の電子線透過度の変化を表す。このようなコントラストを電子線透過度に対応させるためには、透過型電子顕微鏡の画像に適切なコントラストを確保することが好ましく、試料の厚み(前記薄膜層の表面と平行な方向の厚み)や、加速電圧及び対物絞りの直径等の観測条件などを適切に選択することが好ましい。
【0130】
前記試料の厚みは、10nm以上300nm以下が好ましく、20nm以上200nm以下であることがより好ましく、50nm以上200nm以下であることがさらに好ましく、100nmであることが特に好ましい。
【0131】
前記加速電圧は、50kV以上500kV以下が好ましく、100kV以上300kV以下であることがより好ましく、150kV以上250kV以下であることがさらに好ましく、200kVであることが特に好ましい。
【0132】
前記対物絞りの直径は、5μm以上800μm以下であることが好ましく、10μm以上200μm以下であることがより好ましく、160μmであることが特に好ましい。
【0133】
また、このような透過型電子顕微鏡としては、透過型電子顕微鏡の画像について十分な分解能を有するものを用いることが好ましい。このような分解能としては少なくとも10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましく、3nm以下であることが特に好ましい。
【0134】
また、このような電子線透過度の測定方法においては、画像上の各位置のコントラストに基づいて薄膜の各位置の電子線透過度を求めるために、透過型電子顕微鏡の画像(濃淡像)を、一定の単位領域の繰り返しに分割し、各単位領域にその単位領域の有する濃淡の程度に応じた断面濃淡変数(C)を付与する。このような画像処理は、通常コンピュータを用いた電子的な画像処理によって容易に行うことができる。
【0135】
このような画像処理においては、先ず、得られた濃淡像から解析に適した任意の領域を切り出すことが好ましい。
【0136】
このようにして切り出した濃淡像は、少なくとも薄膜層の一方の表面からそれと向かい合うもう一方の表面までの部分を含んでいなければならない。また、薄膜層に隣接する層を含んでいてもよい。このように薄膜層に隣接する層としては、例えば、基材、濃淡像を得る観察を実施するために必要な保護層が挙げられる。
【0137】
また、このようにして切り出した濃淡像の端面(基準面)は、薄膜層の表面と平行な面でなければならない。また、このようにして切り出した濃淡像は、少なくとも薄膜層の表面に垂直な方向(厚み方向)に対して垂直で互いに対向している2つの辺によって囲まれた台形又は平行四辺形状であることが好ましく、このような2つの辺とこれらに垂直な(厚み方向に平行な)2つの辺とからなる四角形であることがより好ましい。
【0138】
このようにして切り出した濃淡像は一定の単位領域の繰り返しに分割するが、その分割方法として、例えば格子状の区画で分割する方法を採用することができる。このような場合、格子状の区画により分割された各単位領域が、それぞれ一つの画素を構成する。このような濃淡像の画素は、誤差を小さくするためにはできるだけ細かいことが好ましいが、画素が細かくなるほど解析に要する時間が増大する傾向にある。そこで、このような濃淡像の画素の一辺の長さは、試料の実寸に換算して、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることより好ましく、3nm以下であることが特に好ましい。
【0139】
このようにして付与される断面濃淡変数(C)は、各領域の濃淡の程度を数値情報に変換した値である。このような断面濃淡変数(C)への変換の方法は特に限定されないが、例えば、最も濃い単位領域を0とし、最も薄い単位領域を255とし、各単位領域の濃淡の程度に応じて0〜255の間の整数を付与することによって設定(256階調設定)することができる。ただし、このような数値は、電子線透過度の高い部分の数値が大きくなるように数値を定めることが好ましい。
【0140】
そして、このような断面濃淡変数(C)から、以下の方法により薄膜層の厚み方向における基準面からの距離(z)における厚み方向濃淡変数(CZ)を算出することができる。すなわち、薄膜層の厚み方向における基準面からの距離(z)が所定の値となる単位領域の断面濃淡変数(C)の平均値を算出して、厚み方向濃淡変数(CZ)を求める。
【0141】
なお、ここにいう断面濃淡変数(C)の平均値は、基準面からの距離(z)が所定の値(同じ値)となる任意の100点以上の単位領域の断面濃淡変数(C)の平均値であることが好ましい。また、このようにして厚み方向濃淡変数(CZ)を求める場合には、ノイズ除去のためのノイズ除去処理を適宜実施することが好ましい。
【0142】
ノイズ除去処理としては、移動平均法、補間法等を採用することができる。移動平均法としては、単純移動平均法、加重移動平均法、指数平滑移動平均法等が挙げられるが、単純移動平均法を採用することがより好ましい。また、単純移動平均法を用いる場合においては、平均をとる範囲は薄膜層の厚み方向の構造の典型的な大きさよりも十分に小さく且つ得られたデータが十分に滑らかになるように、適宜選択することが好ましい。また、補間法としては、スプライン補間法、ラグランジュ補間法、線形補間法等が挙げられるが、スプライン補間法、ラグランジュ補間法を採用することがより好ましい。
【0143】
上記ノイズ除去作業によって、薄膜層の両界面付近では厚み方向濃淡変数(CZ)の厚み方向の位置に対する変化が緩やかになる領域が発生する(これを遷移領域と呼ぶ)。この遷移領域は、後述の電子線透過度曲線の極値の有無判定における基準を明確にするという観点から、薄膜層の電子線透過度曲線の極値の判定領域から除去することが望ましい。なお、このような遷移領域が発生する要因として、薄膜界面の非平面性、前述のノイズ除去作業などが考えられる。そのため、前記遷移領域は、以下の方法を採用することによって電子線透過度曲線の判定領域から除去することができる。
【0144】
すなわち、先ず、前記濃淡像に基づいて求められる薄膜層の両界面付近で傾きの絶対値|dCZ/dz|が最も大きくなる薄膜層の厚み方向における基準面からの距離(z)の位置を仮界面位置として設定する。
【0145】
次に、仮界面位置の外側から内側(薄膜層側)に向かって前記傾き(dCZ/dz)の絶対値を順次確認していき、かかる絶対値が0.1nm−1(256階調設定の場合)となる位置における薄膜層の厚み方向における基準面からの距離(z)(縦軸がdCZ/dzの絶対値であり且つ横軸が前記機銃面からの距離(z)であるグラフを考えた場合に、仮界面位置の外側の距離(z)から内側(薄膜層側)に向かってそのグラフをたどっていき、前記dCZ/dzの絶対値が0.1nm−1をはじめて下回る部位における距離(z))の位置を薄膜の界面として設定する。
【0146】
そして、前記界面の外側の領域を薄膜層の電子線透過度曲線の判定領域から除去することにより、前記遷移領域を判定領域から除去することができる。また、このようにして厚み方向濃淡変数(CZ)を求める場合には、薄膜層に相当する範囲における厚み方向濃淡変数(CZ)の平均値が1となるように規格化することが好ましい。
【0147】
このようにして算出される厚み方向濃淡変数(CZ)は電子線透過度(T)と比例関係にある。そのため、薄膜層の厚み方向における基準面からの距離(z)に対する厚み方向濃淡変数(CZ)を示すことによって電子線透過度曲線を作成することができる。すなわち、薄膜層の厚み方向における基準面からの距離(z)に対する厚み方向濃淡変数(CZ)をプロットとすることにより、電子線透過度曲線を求めることができる。また、厚み方向濃淡変数(CZ)を薄膜層の厚み方向における基準面からの距離(z)で微分した傾き(dCZ/dz)を算出することにより、電子線透過度(T)の傾き(dT/dz)の変化を知ることもできる。
【0148】
また、このようにして求められる電子線透過度曲線においては、以下のようにして極値の有無を判定することができる。すなわち、電子線透過度曲線が極値(極大値又は極小値)を有する場合には、厚み方向の濃淡係数の傾き(dCZ/dz)の最大値は正の値となると共にその最小値は負の値になり両者の差の絶対値は大きくなるのに対し、極値が無い場合には、傾き(dCZ/dz)の最大値及び最小値は両方とも正又は負の値になり両者の差の絶対値は小さくなる。そのため、極値の有無の判定する際には、傾き(dCZ/dz)の最大値及び最小値が両方とも正の値又は両方とも負の値となるものではないかという点を判定することにより極値を有するかどうかを判断することができるとともに、傾き(dCZ/dz)の最大値(dCZ/dz)MAX及び最小値(dCZ/dz)MINの差の絶対値の大きさに基づいて、電子線透過度曲線が極値を有するかどうかを判断することもできる。
【0149】
なお、前記厚み方向濃淡変数(CZ)は、極値が無い場合は常に規格化された平均値である1を示すはずであるが、実際は信号がわずかなノイズを含んでおり、規格化された平均値1に近い値でノイズにより電子線透過度曲線に変動が起こる。そのため、電子線透過度曲線に極値があるか否かを判断する際に、電子線透過度曲線の傾きの最大値及び最小値が正又は負の値ではないか否かという観点や電子線透過度曲線の傾きの最大値及び最小値の差の絶対値の観点のみに基づいて極値を判断した場合においては、ノイズにより、電子線透過度曲線に極値があると判断されてしまう場合がある。
【0150】
そこで、前記極値の有無の判定する際には、以下のような基準によりノイズによる変動と極値とを区別する。すなわち、厚み方向濃淡変数(CZ)の傾き(dCZ/dz)がゼロをはさんで符号が逆転する点を仮極値点としたとき、該仮極値点における厚み方向濃淡変数(CZ)と、隣接する仮極値点での厚み方向濃淡変数(CZ)との差の絶対値(隣接する仮極値点が2つある場合は差の絶対値が大きい方を選択する)が0.03以上の場合、該仮極値点は極値を持つ点であると判断することができる。言い換えると、該仮極値点における厚み方向濃淡変数(CZ)と隣接する仮極値点での厚み方向濃淡変数(CZ)との差の絶対値(隣接する仮極値点が2つある場合は差の絶対値が大きい方を選択する)が0.03未満の場合は、該仮極値点はノイズであると判断することができる。
【0151】
なお、該仮極値点が1点しかない場合には、厚み方向濃淡変数(CZ)が、この規格化された平均値1との差の絶対値が0.03以上大きい場合にノイズではなく極値であると判断する方法を採用することができる。また、このような「0.03」という数値は、上述の256階調設定により求められる厚み方向濃淡変数(CZ)の平均値を1として厚み方向濃淡変数(CZ)の数値の大きさを規格化した際に求められる数値である(なお、規格化に際して256階調設定により求められた厚み方向濃淡変数の数値「0」はそのまま「0」とする。)。
【0152】
本実施形態の対象となる積層フィルムは、少なくとも1層の薄膜層が電子線透過度曲線において少なくとも1つの極値を有することとしてもよい。このような電子線透過度曲線に少なくとも1つの極値を有する薄膜層は、厚み方向において組成に変動のある層であるといえる。そして、このような薄膜層を備える積層フィルムにより、十分に高度なガスバリア性を達成することが可能となるとともに、フィルムを屈曲させてもガスバリア性の低下が十分に抑制することが可能となる。
【0153】
また、前記電子線透過度曲線は実質的に連続であることが好ましい。本明細書において、電子線透過度曲線が実質的に連続とは、電子線透過度曲線における電子線透過度が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、前記厚み方向濃淡変数(CZ)の傾き(dCZ/dz)の絶対値が所定の値以下、好ましくは5.0×10−2/nm以下であることを意味する。
【0154】
また、本実施形態においては、膜面全体において均一で且つ優れたガスバリア性を有する薄膜層を形成するという観点から、前記薄膜層が膜面方向(薄膜層の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。本明細書において、薄膜層が膜面方向において実質的に一様とは、薄膜層の膜面のいずれの箇所において電子線透過度を測定して電子線透過度曲線を作成した場合においても得られる電子線透過度曲線が持つ極値の数が同じであることをいう。なお、薄膜層の膜面から任意の2点の測定用の前記試料を切り出し、各試料の電子線透過度曲線を作成した場合において、前記試料の全てにおいて電子線透過度曲線が持つ極値の数が同じである場合には、その薄膜層は実質的に一様なものと擬制することができる。
【0155】
本実施形態の積層フィルムの製造方法は、上述の検査方法を一工程として含む。すなわち、このようにして得られるガスバリア性積層フィルムについて、上述の検査方法を用いて薄膜層のガスバリア性を検査することで、品質の確認を短時間で行うことができ、生産性の高いガスバリア性積層フィルムの製造を実現することができる。
【0156】
検査工程では、例えば、長尺の基材Fに対し薄膜層Hを形成した積層フィルムについて、長手方向の一定間隔毎に代表サンプルとして試験片を作成し、当該試験片の29Si固体NMRを測定することにより、薄膜層のガスバリア性の検査を行うこととするとよい。
【0157】
さらに、本実施形態の積層フィルムの製造方法は、検査工程における検査結果に基づいて、すなわち、薄膜層のガスバリア性と、上述した各結合状態のケイ素原子の存在比との対応関係に基づいて、良品を選別する工程を含む。これにより、得られた積層フィルムのガスバリア性を短時間のうちに簡便に評価し、効率良く良品の積層フィルムを選別することができる。
【0158】
以上のような構成の積層フィルムの検査方法によれば、高いガスバリア性を有するものとすることができる。
【0159】
本発明の積層フィルムのガスバリア性を評価する指標の1つとして、上述の通り、水蒸気透過度があるが、本発明の積層フィルムの水蒸気透過度は、例えば、実施例で記載された測定方法によって測定することができる。本発明の積層フィルムが有する水蒸気透過度としては、例えば、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件で、好ましくは10−5g/(m・day)以下であり、より好ましくは、10−6g/(m・day)以下である。
【0160】
また、以上のような積層フィルムの製造方法においては、上述の検査方法を採用して検査する工程を有することにより、高品質の積層フィルムを安定的に製造することが可能となる。
【0161】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0162】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、積層フィルムの水蒸気透過度及び積層フィルムのバリア膜の29Si固体NMRスペクトルは、以下の方法により測定した。
【0163】
(i)積層フィルムの水蒸気透過度測定
温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件において、水蒸気透過度測定機(GTRテック社製、機種名「GTR−3000」)を用いて、JIS K 7129:2008「プラスチック‐フィルム及びシート‐水蒸気透過度の求め方(機器測定法)」付属書C「ガスクロマトグラフ法による水蒸気透過度の求め方」(JISのガスクロマト法)に従い、積層フィルムの水蒸気透過度を測定した。
【0164】
(ii)29Si固体NMRスペクトルの測定
29Si固体NMR(BRUKER製 AVANCE300)を用いて29Si固体NMRスペクトルを測定した。詳細な測定条件は以下の通りである(積算回数:49152回、緩和時間:5秒、共鳴周波数:59.5815676MHz、MAS回転:3kHz、CP法)。
【0165】
29Si固体NMRのピーク面積は、以下のように算出した。本実施例において測定対象となる薄膜層には、QまたはQのケイ素原子のいずれかが含まれ、QまたはQのケイ素原子は含まれないことが予め分かっている。
【0166】
まず、29Si固体NMR測定により得られたスペクトルをスムージング処理した。
【0167】
以下の説明においては、スムージング後のスペクトルを「測定スペクトル」と称する。
【0168】
次に、測定スペクトルを、QおよびQのピークに分離した。すなわち、QのピークおよびQのピークが、それぞれ固有の化学シフト(Q:−102ppm、Q:−112ppm)を中心とするガウス分布(正規分布)曲線を示すこととして仮定し、QとQとを合計したモデルスペクトルが、測定スペクトルのスムージング後のものと一致するように、各ピークの高さおよび半値幅等のパラメータを最適化した。
【0169】
パラメータの最適化には反復法を用い、モデルスペクトルと測定スペクトルとの偏差の2乗の合計が極小値に収束するように計算を行った。
【0170】
次に、このようにして求めたQ,Qのピークと、ベースラインと、に囲まれた部分の面積を積分して求め、Q,Qのピーク面積として算出した。さらに、算出されたピーク面積を用い、(Qのピーク面積)/(Qのピーク面積)を求め、(Qのピーク面積)/(Qのピーク面積)の値と、ガスバリア性との関係の確認を行った。
【0171】
(実施例1)
前述の図2に示す製造装置を用いて積層フィルムを製造した。
すなわち、2軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:700mm、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テオネックスQ65FA」)を基材(基材F)として用い、これを送り出しロール11に装着した。そして、成膜ロール17と成膜ロール18との間の空間に無終端のトンネル状の磁場を形成すると共に、成膜ロール17と成膜ロール18にそれぞれ電力を供給して成膜ロール17と成膜ロール18との間に放電してプラズマを発生させ、このような放電領域に成膜ガス(原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と反応ガスとしての酸素ガス(放電ガスとしても機能する)の混合ガス)を供給して、下記条件にてプラズマCVD法による薄膜形成を行った。この工程を3回行うことにより、実施例1の積層フィルムを得た。
【0172】
〈成膜条件〉
成膜ガスの混合比(ヘキサメチルジシロキサン/酸素):100/1000[単位:sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)]
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:1.6kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度:0.5m/min
【0173】
基材フィルムからのアウトガスを十分少なくするために、成膜日の前日に基材フィルムを製造装置の送り出しロ−ルに装着後、真空にした状態で一晩おいて、基材フィルムを十分に乾燥した。成膜前の真空度は、5×10−4Pa以下であった。成膜により得られた積層フィルムのバリア膜の厚みは1.02μmであり、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件における水蒸気透過度は2×10−5g/(m・day)であった。
【0174】
また、バリア膜における、Q/Qの比を算出するため、29Si固体NMRを用いてスペクトルを測定した。サンプルは、バリア膜がついた基材を鋏で細かくカットして得た。得られたスペクトルを図3に示す。また、Qのピーク面積で規格化したピーク面積を表1に示す。
【0175】
【表1】

【0176】
表1に示すように、得られたスペクトルにおいて、QおよびQの面積比を算出し、Q/Qの比を求めたところ、Q/Q=0.51であった。
【0177】
(実施例2)
成膜日の当日に基材フィルムを製造装置の送り出しロ−ルに装着後、真空にした状態で1時間おいてから成膜した。成膜前の真空度は、3×10−3Pa程度であり、基材からアウトガスが出続けている状態であった。成膜前の製造装置内の真空度が異なる他は、実施例1と同様にして、実施例2の積層フィルムを製造した。
【0178】
得られた積層フィルムのバリア膜の厚みは1.09μmであり、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件における水蒸気透過度は2×10−3g/(m・day)であった。
【0179】
また、バリア膜における、Q/Qの比を調査するため、29Si固体NMRを用いてスペクトルを測定した。サンプルは、バリア膜がついた基材を鋏で細かくカットして得た。得られたスペクトルを図4に示す。また、Qのピーク面積で規格化したピーク面積を表2に示す。
【0180】
【表2】

【0181】
表2に示すように、得られたスペクトルにおいて、QおよびQの面積比を算出し、Q/Qの比を求めたところ、Q/Q=1.10であった。
【0182】
(実施例3)
2軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:350mm、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テオネックスQ65FA」)を基材(基材F)として用い、下記条件にてプラズマCVD法による薄膜形成を行った以外は実施例1と同様にして、実施例3の積層フィルムを得た。
【0183】
〈成膜条件〉
成膜ガスの混合比(ヘキサメチルジシロキサン/酸素):50/500[単位:sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)]
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度:0.5m/min
【0184】
基材フィルムを製造装置の送り出しロ−ルに装着後、実施例2と同様に真空にして乾燥する時間を十分にとらずに積層フィルムを製造した。得られた積層フィルムのバリア膜の厚みは1.23μmであり、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件における水蒸気透過度は1.4×10−3g/(m・day)であった。
【0185】
また、バリア膜における、Q/Qの比を調査するため、29Si固体NMRを用いてスペクトルを測定した。サンプルは、バリア膜がついた基材を鋏で細かくカットして得た。得られたスペクトルを図5に示す。また、Qのピーク面積で規格化したピーク面積を表3に示す。
【0186】
【表3】

【0187】
表3に示すように、得られたスペクトルにおいて、QおよびQの面積比を算出し、Q/Qの比を求めたところ、Q/Q=5.0であった。
【0188】
以上の測定の結果、Q/Qが1未満である実施例1のサンプルは、水蒸気透過度が低いことから、高いガスバリア性を示すと評価でき、Q/Qが1以上であるサンプル(実施例2,3)では、水蒸気透過度が高いことから、低いガスバリア性を示すと評価できる。このように、本発明の検査方法によれば、ガスバリア性の判定が簡便かつ短時間で可能となる。
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明の積層フィルムの検査方法は、短時間のうちに簡便にガスバリア性を評価することができるため、例えば、高品質な積層フィルムの製造方法等に、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0190】
10…製造装置、13〜16…搬送ロール、17…第1成膜ロール、18…第2成膜ロール、F…フィルム(基材)、SP…空間(成膜空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも片方の表面上に形成され、少なくともケイ素、酸素および水素を含む薄膜層と、を備える積層フィルムの検査方法であって、
前記薄膜層の29Si固体NMR測定を行って、ケイ素原子に結合する中性酸素原子の数ごとに前記薄膜層内のケイ素原子の存在比を求め、
予め求めた、前記薄膜層のガスバリア性と前記ケイ素原子の存在比との対応関係に基づいて、前記薄膜層のガスバリア性を判定する積層フィルムの検査方法。
【請求項2】
前記ケイ素原子の存在比は、前記薄膜層の29Si固体NMRスペクトルにおいて、Qのピーク面積に対する、Q,Q,Qのピーク面積を合計した値、の比であり、
前記ケイ素原子の存在比について予め定めた閾値に基づいて、前記ケイ素原子の存在比が閾値未満である前記薄膜層のガスバリア性を良品と判定する請求項1に記載の積層フィルムの検査方法。
【請求項3】
前記閾値が1.0である請求項2に記載の積層フィルムの検査方法。
【請求項4】
前記基材が、ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層フィルムの検査方法。
【請求項5】
前記基材の厚みが、5μm〜500μmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層フィルムの検査方法。
【請求項6】
基材の少なくとも片方の表面上に、少なくともケイ素、酸素および水素を含む薄膜層を形成する工程と、
前記薄膜層を含む試験片について、請求項1〜5のいずれか一項に記載の検査方法を用いて前記薄膜層のガスバリア性を判定する検査工程と、
前記薄膜層のガスバリア性と前記ケイ素原子の存在比との対応関係に基づいて、良品を選別する工程と、
を有する良品の積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記薄膜層を形成する工程では、長尺の基材を連続的に搬送しながら、連続的に前記薄膜層を形成する請求項6に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記薄膜層を形成する工程が、第1の前記基材が巻き掛けられる第1成膜ロールと、前記第1成膜ロールに対向し、第2の前記基材が巻き掛けられる第2成膜ロールと、の間に交流電圧を印加することで、前記第1成膜ロールと前記第2成膜ロールとの間の空間において生じる、前記薄膜層の形成材料である成膜ガスの放電プラズマを用いたプラズマCVDを用いるものである請求項7に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記放電プラズマが、前記第1成膜ロールと前記第2成膜ロールとの間に交流電界を形成するとともに、前記第1成膜ロールと前記第2成膜ロールとが対向する空間に膨らんだ無終端のトンネル状の磁場を形成することにより、前記トンネル状の磁場に沿って形成される第1の放電プラズマと、前記トンネル状の磁場の周囲に形成される第2の放電プラズマと、を有し、
前記薄膜層を形成する工程は、前記第1の放電プラズマと前記第2の放電プラズマとに重なるように前記基材を搬送する請求項8に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記薄膜層の厚み方向における該層の表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示すケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)〜(iii):
(i)ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の厚みの90%以上の領域において下記式(1):
(酸素の原子比)>(ケイ素の原子比)>(炭素の原子比)・・・(1)
で表される条件を満たすこと、或いは、ケイ素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の厚みの90%以上の領域において下記式(2):
(炭素の原子比)>(ケイ素の原子比)>(酸素の原子比)・・・(2)
で表される条件を満たすこと、
(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有すること、
(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5原子%以上であること、
を全て満たすように、前記成膜ガスに含まれる有機ケイ素化合物と酸素との混合比を制御する請求項9に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記炭素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における薄膜層の厚み方向における薄膜層の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下である、請求項10に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記炭素分布曲線が、実質的に連続である請求項10又は11に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記薄膜層の厚みが、5nm以上3000nm以下である、請求項6〜12のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−29499(P2013−29499A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−139852(P2012−139852)
【出願日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】