説明

積層フィルムの製造方法および製造装置

【課題】生産性が高く、安価で平滑な積層フィルムの製造方法及びその製造装置を提供する。
【解決手段】可撓性の支持体2上の少なくとも一方の主面上に放射線硬化性樹脂形成性材料を含む樹脂形成性材料層を設ける層形成工程と、該樹脂層に鏡面ロール5を押圧し該樹脂形成性材料層表面を平滑にする平滑化工程と、該樹脂形成性材料層と前記鏡面ロール5とを当接し、両者が面接触した状態で該樹脂形成性材料層に放射線を照射し該樹脂形成性材料層を硬化させる硬化工程とを含む放射線硬化性樹脂を含む樹脂層を有する積層フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層フイルムの製造方法および製造装置に係り、さらに詳しくは平滑な表面を有する放射線硬化性樹脂を含む樹脂層を有する積層フィルムの製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に光学フィルムや磁気記録媒体などに使用するベースフィルムの製造において表面を高度に平滑にしたものを製造しようとすると、製造の過程で接触するロールやガイドでフィルム表面に傷がついたり、エアーをかみこんでうまく巻けないなどといった問題があり、このために、フィラーなどをベースフィルム中に添加し、表面に凹凸をもたせ、上記の問題を解決してベースフィルムを製造している。しかしながら、光学フィルムに用いられる場合にはフィルム表面の凹凸が光を散乱させるなどして光学的な悪影響及ぼしたり、磁気テープなどの磁気記録媒体などに使用する場合はフィルム表面の凹凸が磁気テープなどの磁気記録媒体の表面の平滑性に影響を与え、磁気記録に悪影響を及ぼす場合がある。
【0003】
磁気記録媒体のひとつである磁気テープには、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピユータテープなどの種々の用途があるが、とくにデータバックアップ用のコンピュータテープの分野では、バックアップ対象となるハードディスクの大容量化に伴い、1巻あたり100GB以上の記憶容量のものが商品化されており、今後ハードディスクのさらなる大容量化に対応するため、バックアップテープの高容量化は不可欠である。また、大容量化のみならず、記憶容量あたりのコストも非常に重要な項目である。磁気テープで使用されるベースフィルムは巻き取りを容易にするためにベースフィルム中に数種類のフィラーを添加し、突起を形成することでベースフィルムの表面性が粗く設定されている。
【0004】
一般的な磁気テープの製造工程はベースフィルムに磁気塗料を塗布し、磁性層を形成する塗布・乾燥工程、磁性層を平滑化するカレンダ工程、テープ状にカッティングするスリット工程からなる。磁性層の塗布・乾燥工程後の磁性層表面はベースフィルム上に存在する突起の影響を受け、表面性が粗くなる。磁性層の表面を平滑にするために、カレンダ工程では鏡面のカレンダロールで磁性層に熱と圧力をかける平滑化処理がおこなわれている。しかしながら、磁性層に与えられる圧力、熱の上限は機械的な制約を受けたり、平滑化処理条件を強くし過ぎるとカレンダロールに磁性層が付着してカレンダロールを汚してしまったりする問題がある。そのため、平滑で突起の少ないベースフィルムを使用して、適度なカレンダ条件でも平滑な磁性層が得られるような設計にすることが好ましい。実際には、この要求に答えられるベースフイルムを得ることは困難であるため、表面の平滑性がさほど良好でなく、ある程度の突起のある通常のベースフィルムの表面を平滑化して使用することが考えられる。
【0005】
例えば、表面性の粗い可撓性支持体を平滑化する方法としては特許文献1にあげられるような、可撓性支持体上の少なくとも一方の面上に、平滑塗布層を設けた(積層した)後、巻き取ることなく該平滑化塗布層上に少なくとも1層の磁性層を形成する磁気記録媒体の製造方法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−334988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示す可撓性支持体の平滑化方法は平滑化層の厚みが薄い場合においては、結果として積層フィルムの積層面側の平滑化が不充分であるため一定の厚さ以上の平滑化層が必要となる。記録容量あたりの単価を安くするためにはカートリッジあたりの記録面積を大きくする必要があり、そのためにはテープの厚みを薄くしてより長い積層フィルム状物を巻き取って、所定の大きさのカートリッジ内に収める必要がある。そこで、可撓性支持体上に設ける平滑化層はなるべく薄い方が好ましい。また、特許文献1の方法は可撓性支持体上に平滑化層を塗布した後、そのまま硬化させているために、塗膜の硬化までの平滑化層のレベリングによって積層フィルムの表面性が決定されることになる。レベリングに寄与する要因として塗料の表面張力、塗料粘度、塗料の降伏値、塗布から硬化までにかかる時間、塗布方式などがあり、これらにより塗膜の平滑性が大きく左右され、レベリングだけで充分な平滑面を得るのが難しい。(尚、レベリングとは液体(この場合塗膜)の表面がその表面張力その他の上述したファクターの影響に応じて時間とともに自然に平坦化することを意味する。)
また、特許文献1に記載の放射線硬化樹脂形成性材料を含む平滑化層を安価で扱いやすい紫外線で硬化させて平滑化な積層フィルムを得る場合においては酸素濃度が充分低い環境下でないと、酸素による阻害を受け、樹脂の原料であるモノマーやオリゴマーなどの反応性が低下し低分子のまま残留してしまったり、充分に硬化させる為にはベースフィルムにダメージを与えるほどの紫外線照射が必要であったり、生産スピードを上げることができなかったり、紫外線照射部で酸素を除外するためにランニングコストがかかるという問題がある。本発明は放射線硬化性樹脂を含む樹脂層の厚みが薄い場合においても積層フィルムの平滑化が充分に可能であり、かつ、酸素の影響を受けずに樹脂形成性材料層の硬化が可能な、生産性が高く、安価で平滑な積層フィルムの製造方法並びに当該積層フィルムの製造に好適な製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ベースフィルムの製造方法および装置について鋭意検討した結果、積層フイルムの製造方法および装置を下記の構成とすることにより、上記目的を達成することができ、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の積層フィルムの製造方法は、
(1)放射線硬化性樹脂を含む樹脂層を有する積層フィルムの製造方法であって、可撓性の支持体上の少なくとも一方の主面上に放射線硬化性樹脂形成性材料を含む樹脂形成性材料層を設ける層形成工程と、該樹脂形成性材料層に鏡面ロールを押圧し該樹脂形成性材料層表面を平滑にする平滑化工程と、該樹脂形成性材料層と前記鏡面ロールとを当接し、両者が面接触した状態で該樹脂形成性材料層に放射線を照射し該樹脂形成性材料層を硬化させて前記樹脂層を形成する硬化工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
(2)前記(1)項に記載の積層フィルムの製造方法においては、前記層形成工程において、前記放射線硬化性樹脂形成性材料が溶剤を含んだ状態で供給され、層形成工程と平滑化工程との間に、当該溶剤を除去するための乾燥工程が更に設けられていることが好ましい。
【0010】
(3)また、前記(1)項に記載の積層フィルムの製造方法においては、前記層形成工程において、前記放射線硬化性樹脂形成性材料が溶剤を含んでいない状態で供給されることが好ましい。
【0011】
(4)また、前記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法においては、前記硬化工程において、放射線が、鏡面ロールと接している樹脂形成性材料層の反対側から可撓性の支持体を通して照射されることが好ましい。
【0012】
(5)また、前記(1)、(3)、(4)項のいずれか1項に記載に記載の積層フィルムの製造方法においては、前記層形成工程は、樹脂層形成性材料を鏡面ロール上に流下または滴下し、前記可撓性の支持体を介して接する前記鏡面ロールと前記バックアップロールとの接点にて、前記樹脂層形成性材料の液溜まりを形成させて前記樹脂層形成性材料を可撓性支持体に転移させて樹脂層を形成することが好ましい。
【0013】
(6)また、前記(1)〜(3)項又は(5)項のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法においては、前記樹脂形成性材料層を硬化させる硬化工程において、鏡面ロールが放射線透過可能な材質からなる鏡面ロールであり、鏡面ロール内に前記放射線を照射する硬化手段を有し、前記放射線が鏡面ロールと接している樹脂形成性材料層側から照射されることが好ましい。
【0014】
(7)また、本発明の放射線硬化性樹脂を含む樹脂層を有する積層フィルムの製造装置は、可撓性の支持体上の少なくとも一方の主面上に放射線硬化性樹脂形成性材料を含む樹脂形成性材料層を設ける層形成手段と、該樹脂形成性材料層に鏡面ロールを面接触させて押圧し該樹脂形成性材料層表面を平滑にする平滑化手段と、該樹脂形成性材料層と前記鏡面ロールとが面接触している状態で該樹脂形成性材料層に放射線を照射し該樹脂形成性材料層を硬化させて前記樹脂層を形成する硬化手段とを含むことを特徴とする。
【0015】
(8)前記(7)項に記載の積層フィルムの製造装置においては、前記層形成手段に供給される、前記放射線硬化性樹脂形成性材料が溶剤を含んだ状態の放射線硬化性樹脂形成性材料であって、層形成手段と平滑化手段との間に、当該溶剤を除去するための乾燥手段が更に設けられていることが好ましい。
【0016】
(9)また、前記(7)〜(8)項のいずれか1項に記載の項に記載の積層フィルムの製造装置においては、前記樹脂形成性材料層と前記鏡面ロールとが面接触している状態で該樹脂形成性材料層に放射線を照射して該樹脂形成性材料層を硬化させる硬化手段が、鏡面ロールと接している樹脂層の反対側から可撓性の支持体を通して照射される位置に設置されている放射線照射手段であることが好ましい。
【0017】
(10)また、前記(7)〜(8)項のいずれか1項に記載の項に記載の積層フィルムの製造装置においては、前記鏡面ロールが放射線透過可能な材質からなる鏡面ロールであり、前記樹脂形成性材料層を硬化させる硬化手段が、前記鏡面ロール内に設けられた放射線照射手段であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の積層フィルムの製造方法によれば可撓性の支持体上に形成した樹脂形成性材料層を鏡面ロールにて押圧するので極めて平滑な表面が得られる。その後、前記樹脂形成性材料層と前記鏡面ロールとを当接した状態で該樹脂形成性材料層に放射線を照射するので、硬化した樹脂層を有する平滑な表面が得られる。樹脂形成性材料層を鏡面ロールにて押圧するので、鏡面ロールを用いず、単に平滑化層を塗布してから光照射で硬化させる方法よりも、平滑化層が薄い場合においても充分な平滑化が可能であり、また、前記樹脂形成性材料層と鏡面ロールとを当接し、両者が面接触した状態で該樹脂形成性材料層に放射線を照射するので、酸素除外効果が生じ生産効率の高い可撓性支持体の平滑化が可能となる。また、本発明の積層フィルムの製造装置においては、上記本発明の積層フィルムの製造方法に好適な製造装置を提供できる。本発明の製造方法および製造装置により製造された積層フイルムは光学フィルムや磁気記録媒体などの製造に用いるベースフィルムとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の理解を容易にするために、本発明の放射線硬化性樹脂を含む樹脂層を有する積層フィルムの製造方法並びに製造装置を図を引用しながら具体的に説明するが、本発明の積層フィルムの製造方法並びに製造装置は、これら図示した実施形態のみに限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の一例の実施態様である積層フィルムの製造装置並びに製造工程を示す概念図である。
【0021】
本例の積層フィルムの製造装置は、可撓性支持体2を送り出す送り出しロール1、放射線硬化性樹脂形成性材料(塗料と略称することもある)を含む樹脂形成性材料層を可撓性支持体2に塗布するための塗布手段であるコータ3、樹脂形成性材料層形成用塗料に含まれる溶剤を除去する為の乾燥手段であるドライア4、塗布後の樹脂形成性材料層を押圧して平滑化するための平滑化手段である鏡面ロール5、放射線硬化性樹脂形成性材料を含む樹脂形成性材料層に放射線を照射して硬化させるための硬化手段である放射線照射装置6、鏡面ロール5と協働して樹脂層を押圧するバックアップロール7とから構成される。なお、本発明において、「放射線硬化性樹脂を含む樹脂層」の「放射線硬化性樹脂」に関しては、放射線が照射されて硬化される以前のものを「放射線硬化性樹脂形成性材料」(塗料と略称することもある)と称し、「樹脂層」についても放射線が照射されて硬化される以前のものを「樹脂形成性材料層」と称し、放射線が照射されて硬化された状態以降のものを、それぞれ「放射線硬化性樹脂」、「樹脂層」と称して区別して表現してきたが、以下の記載においては、いずれの場合も、それぞれ「放射線硬化性樹脂」、「樹脂層」と簡略化して表現した。同一の表現であるが、これらの意味は、放射線が照射されて硬化される以前のものがそれぞれ「放射線硬化性樹脂形成性材料」、「樹脂形成性材料層」を意味し、放射線が照射されて硬化された以降の状態のものは、それぞれ「放射線硬化性樹脂」、「樹脂層」を意味しているものである。これらの区別は、明細書の記載から当業者が容易に解釈できるので、特に断らない限り、上記、簡略化表現を用いた。
【0022】
次に動作について説明する。
【0023】
可撓性支持体2は送り出しロール1より繰り出され[A位置での可撓性支持体の表面粗さのイメージ断面図(部分図:下側面は図示していない)を図5に示す]、層形成手段であるコータ3にてその主面上(可撓性支持体の表面2a)に放射線硬化樹脂を含む樹脂層10が設けられる(図6参照。図1には樹脂層10の図示を省略)。その後、樹脂層10は乾燥手段であるドライア4で余分な溶剤が除去された後[B位置での可撓性支持体の表面粗さのイメージ断面図(部分図:下側面は図示していない)を図6に示す]、バックアップロール7により、その表面(樹脂層の表面10a)を平滑化手段である鏡面ロール5に押圧して樹脂層10は平滑化される。遮蔽板9により、平滑化前の樹脂層には放射線が照射されないようになっている。平滑化処理がおこなわれた後、該樹脂層と前記鏡面ロールとが面接触した状態で、放射線照射装置6によって可撓性支持体2を介して放射線照射がおこなわれ、可撓性支持体2の表面に平滑な樹脂層10を有する積層フィルムが得られる[C位置での可撓性支持体の表面粗さのイメージ断面図(部分図:下側面は図示していない)を図7に示す]。樹脂層は放射線照射をおこなうまでは流動性があるために鏡面ロール5に押圧した際に、平滑化しやすく、鏡面ロール5に当接し、該樹脂層と前記鏡面ロールとが面接触した状態の時に鏡面ロールと接している樹脂層の反対側から可撓性の支持体を通して放射線照射によって該樹脂層が硬化されるために、酸素除外効果が生じ樹脂層の硬化が容易に進行し、樹脂層は鏡面ロール5から離型が可能となる。平滑化処理された積層フィルムは巻き取られても良いし、巻き取ることなくそのまま光学層や磁性層などの機能層を設ける次工程を送り出されても良い。放射線照射によって発生する熱が積層フィルムに対してダメージを及ぼす場合には必要に応じて鏡面ロール5およびバックアップロール7に冷却機能を持たせてもてもよい。
【0024】
次に図2に本発明の別の一例の実施態様である積層フィルムの製造装置並びに製造工程を示す概念図を示した。本例の製造装置では、樹脂層形成用塗料をコータ3にて鏡面ロール5上に流下または滴下し、可撓性の支持体2を介して接する鏡面ロール5とバックアップロール7との接点にて、塗料の液溜まりを形成させて塗料を可撓性支持体2に転移させて樹脂層10(図6参照。図2には樹脂層10の図示を省略)を形成する。尚、本発明において「可撓性の支持体を介して接する鏡面ロールとバックアップロールとの接点」(以下、この表現を(A)と言う)とは、厳密に表現するならば、「その表面の樹脂層形成性材料を介して可撓性の支持体と接する鏡面ロールと、その背面からバックアップロールにて鏡面ロールに押圧される可撓性の支持体との接点」(以下、この表現を(B)と言う)と記載すべきものであるが、本発明においては、前記(B)の表現を、前記(A)と言う表現で略称している。
本例の製造装置では、溶剤で希釈していない樹脂層形成用塗料などを使用する場合に好適であり、また、層形成を行う際に乾燥手段などの特別の手段を設けなくてもよいので製造装置の構成を簡略化して低コスト化することができる。上記以外の点を除いて、図1で説明した方法と同様であり、樹脂層10(樹脂形成性材料層)が設けられた可撓性支持体は、バックアップロール7により、樹脂層10の表面を平滑化手段である鏡面ロール5に押圧して樹脂層10は平滑化される。該樹脂層と前記鏡面ロールとが面接触した状態で、放射線照射装置6によって可撓性支持体2を介して放射線照射が行われ、可撓性支持体2の表面に平滑な樹脂層10を有する積層フィルムが得られる。その他、図1と同じ部分には同じ符号を付して、重複説明を省略した。
【0025】
次に図3に本発明のさらに別の一例の実施態様である積層フィルムの製造装置並びに製造工程を示す概念図を示した。本例の製造装置では、鏡面ロール5は放射線透過性を有する材質からなり、鏡面ロール5内部に放射線照射装置6並びに遮蔽板9が設置されている。本例のばあいは可撓性支持体2を介さずに樹脂層側から当該樹脂層に放射線照射できるために可撓性支持体2が放射線透過性でない場合においてもこの方法が使用でき好ましい。放射線が紫外線の場合、鏡面ロール5の材質としては紫外線を透過可能な材質である各種の無機系ガラスのほか、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニルなどでできた有機系ガラスを用いることができる。
【0026】
以上、図1〜図3で示した実施態様は、何れも可撓性支持体2の片面のみに放射線硬化樹脂を含む樹脂層を形成する態様について説明したが、可撓性支持体2の両面に放射線硬化樹脂を含む樹脂層を形成する場合には、図1〜図3で示した実施態様などで可撓性支持体2の片面のみに放射線硬化樹脂を含む樹脂層を形成した積層フィルムを一旦巻き取った後、次に、反対面に図1〜図3などで示したと同様の装置を用い同様の方法で放射線硬化樹脂を含む樹脂層を形成すればよい。もし、可撓性支持体2の片面のみに放射線硬化樹脂を含む樹脂層を形成した積層フィルムを一旦巻き取ることなく、連続して反対面に放射線硬化樹脂を含む樹脂層を形成したい場合には、図1〜図3などで示したと同様の装置(但し、樹脂層を形成する面が可撓性支持体2の反対面側になるように設置する)を図1〜図3などで示した装置の後に続けて更に1系列、直列位置に設けた装置を用い同様の方法で可撓性支持体2の反対面側に更に放射線硬化樹脂を含む樹脂層を形成することもできる。
【0027】
本発明で使用する可撓性支持体としては従来公知のものを使用することができる。一般的には各種合成樹脂からなる可撓性のフィルムが挙げられる。具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリスルフォンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。中でも機械的強度、寸法安定性、耐熱性、価格などの点からポリエチレンテレフタレートフィルム好ましく、特に2軸延伸したポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0028】
使用する可撓性支持体の厚さとしては特に制限はないが、用途に合わせて、通常3〜150μmのものが用いられる。
【0029】
本発明に使用される放射線とは電子線、紫外線、可視光等の樹脂硬化能を有するものであり、なかでもエネルギーの高い紫外線、電子線を使用するのが好ましい。特に紫外線照射機は放射線硬化性樹脂を硬化させるエネルギー源としては安価であり、扱いやすい。一般的には紫外線光源としては高圧水銀やメタルハライドランプが用いられる。硬化に必要なエネルギー量はランプの種類、開始剤種類や可撓性支持体の紫外線領域の透過率によっても異なるが、一般的には10〜1000mJ/cm2で使用される。一般的に、紫外線照射および電子線照射は酸素濃度300ppm以下の環境下で使用する必要がある。
【0030】
樹脂層への紫外線照射を可撓性支持体を介して行う場合には、可撓性支持体の紫外線透過性を考慮する必要がある。前述したように、紫外線照射を行う場合には、酸素による硬化阻害を考慮する必要があるが、本発明では鏡面ロールが樹脂層と面接触で密着している状態で紫外線照射が行われるので、酸素による硬化阻害は発生しない。
【0031】
電子線照射は装置が高価でランニングコストも高いが、可撓性の支持体が紫外線を透過しない場合でも硬化可能であるので有効である。一般的な電子線照射の条件としては加速電圧 50kV 〜500kVであり、照射線量としては50〜300kGyで使用される。可撓性の支持体が厚い場合においては加速電圧を大きくする必要がある。また、照射線量があまりに大きすぎる場合においては可撓性の支持体にダメージを与える場合があるので、上記の範囲で可撓性の支持体の種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0032】
樹脂層の厚さとしては、可撓性支持体の表面粗さ(突起の高さ)と最終的な樹脂層の表面粗さの要求レベルにより異なるが、0.02μm〜5μmが好ましい。0.05μm〜2μmがより好ましい。この範囲であれば、過剰に材料コストがかかることなく実用に耐えることのできる積層フィルムができる。
【0033】
樹脂層表面の粗さは、用途に応じて異なるが、平均線中心線粗さRa値表示で0.5nm〜5nmが好ましい。
【0034】
尚、平均線中心線粗さの評価方法は後述した。
【0035】
樹脂層は樹脂層中に含まれる放射線硬化性樹脂の割合(硬化前の溶剤を含んでいない状態で)は10重量%以上が好ましく、30重量%以上がさらに好ましく、70重量%以上がいっそう好ましく、すべて放射線硬化性樹脂であることが最も好ましい。
【0036】
この範囲が好ましいのは、放射線硬化性樹脂の量が10重量%未満では、平滑化が十分行われないからである。放射線硬化性樹脂が多ければ多いほど、平滑化効果が大きくなる。樹脂層には、平滑化を阻害しない範囲内で放射線硬化性樹脂以外の樹脂やフィラー等を含むことができる。フィラーを併用することにより、樹脂層の機械的強度を大きくすることができ、ひいてはベースフィルムの機械的強度を大きくすることが可能となる。
【0037】
放射線硬化性樹脂とは放射線照射によって反応し、重合あるいは架橋して高分子量化する樹脂をいう。他の樹脂としては従来公知の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、その他の反応性樹脂を選択することができる。
【0038】
放射線硬化性樹脂は従来公知のものを用いることができるが、中でも、低粘度の単官能モノマーと硬化性が良好な、2官能以上のモノマーを組み合わせて使用するのが好ましい。上記モノマー以外に、従来公知なモノマーおよびオリゴマー、プレポリマーを本発明の効果が達成できる範囲で用いても構わない。また、必要に応じ光開始剤、増感剤、促進剤、レべリング剤、離型剤、色材、フィラー等を用いても構わない。例えば、アクリル系モノマーおよびオリゴマーは種類が多く、選択肢が広いのでよく用いられる。具体的には、アクリル酸エステル、アクリルアミド類、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アミド類、アリル化合物、ビニルエーテル、ビニルエステル類などが挙げられ、これらの樹脂が単独または組み合わせて用いられる。
【0039】
単官能モノマーとしては、N−ビニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム及びそれらの誘導体等、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メタクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2−エトキシアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等が挙げられる。
【0040】
2官能以上のモノマーとしては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、ヒドロキシピオペリン酸エステルネオペンチンルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレート、トリメチロールプロパンEO付加物トリアクリレート、トリメチロールプロパンPO付加物トリアクリレート、グリセリンEO付加物トリアクリレート、グリセリンEO変性トリアクリレート、グリセリンPO付加物トリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、ジペンタエリストールヘキサアクリレート、ジペンタエリストールポリアクリレート、ジペンタエリストールヒドロキシペンタアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー等を挙げることができる。尚、上記において“EO”とはエチレンオキサイド、“PO”とはプロピレンオキサイドを示す。
【0041】
光重合開始剤の必要性は放射線照射の種類による。特に紫外線、可視光をエネルギー源として硬化反応に使用する場合においては光重合開始剤を必要とする。光重合開始剤としては光照射により分解してラジカルを発生し、重合反応を開始させるものであれば特に限定されず、一般的なものを用いることができる。
【0042】
光重合開始剤のうち光ラジカル重合剤としては、たとえば、ベンジル、ジアセチル等のα−ジケトン類、ベンゾイン等のアシロイン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のアシロインエーテル類、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、チオキサントン−4−スルホン酸等のチオキサントン類、ミヒラーケトン類、アセトフェノン、2−(4−トルエンスルホニルオキシ)−2−フェニルアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、α,α’−ジメトキシアセトキシベンゾフェノン、2,2’−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等のアセトフェノン類、アントラキノン、1,4−ナフトキノン等のキノン類、フェナシルクロライド、トリハロメチルフェニルスルホン、トリス(トリハロメチル)−s−トリアジン等のハロゲン化合物、アシルホスフィンオキシド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。
【0043】
なお、放射線硬化性樹脂は、溶剤を含んだ状態で可撓性の支持体上に塗膜を形成してもよく、その場合には、前述したように、樹脂層形成工程と平滑化工程との間に、当該溶剤を除去するための乾燥工程が更に設けられている。特に樹脂層の膜厚を薄くする場合に溶剤を含んだ状態で放射線硬化性樹脂を供給すると容易に薄い層を形成しやすくできる。この場合の溶剤の割合は、用いる樹脂の種類、モノマーかオリゴマーかなどにより異なるが、放射線硬化性樹脂形成性材料(溶剤を含んでいない状態での重量基準)に対して1〜3000重量%の範囲が好ましい。
【0044】
一方、溶剤で希釈していない比較的高粘度の樹脂層形成用塗料などを使用する場合には、乾燥手段などの特別の手段を設けなくてもよいので製造装置の構成を簡略化して低コスト化することができる。
【0045】
紫外線照射を行う場合において、例えば、図1や図2で示した態様のように、可撓性支持体を通して紫外線を照射する場合には、透過する波長に応じた光重合開始剤を選ぶことが好ましく、例えば可撓性支持体の材質をポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートとした場合には、“イルガキュア369”、“イルガキュア819”、“イルガキュア907”(チバガイギー社製)などそれぞれの可撓性支持体の吸収波長と重ならないような波長領域で吸収をもつ光重合開始剤を選択することが好ましい。
【0046】
また、フィラーとしては従来公知の無機フィラー、有機フィラーを含むことができる。フィラーの具体例としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、TiO2、BaSO4、ZnS、MgCO3、CaCO3、ZnO、CaO、WS2、MoS2、MgO、SnO2、Al23、Fe, α−Fe23、α−FeOOH、SiC、CeO2、BN、SiN、MoC、BC、WC、チタンカーバイド、コランダム、人造ダイアモンド、ザクロ石、ガーネット、ケイ石、トリボリ、ケイソウ土、ドロマイト、シリカ、アルミノケイ酸塩、ゼオライト、酸性白土、活性白土等の無機フィラーや、ポリエチレン樹脂粒子、フッ素樹脂粒子、グアナミン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子等の有機フィラーを挙げることができる。
【0047】
可撓性支持体上に樹脂層を設ける方法としては、特に制限はなく従来公知の層形成手段を用いることができる。例えばグラビアコート、ダイコート等、従来公知の塗布手段により樹脂層を設けることができる。また、塗布以外の層形成方法として、可撓性支持体上もしくは鏡面ロール上に樹脂層形成用塗料を流下または滴下し、流下または滴下した樹脂層形成用塗料を前記可撓性の支持体を介して接する鏡面ロールとバックアップロールとの接点において幅方向に広げ、樹脂層形成用塗料の供給量、可撓性支持体の搬送速度、鏡面ロールとバックアップロール間の押圧条件等を調節して、可撓性の支持体を介して接する鏡面ロールとバックアップロールとの接点において安定して液溜まりを形成するようにして、可撓性支持体上に樹脂層を設けることもできる。また、同様に樹脂層形成用塗料を鏡面ロール上に流下または滴下し、流下または滴下した樹脂層形成用塗料を可撓性の支持体を介して接する鏡面ロールとバックアップロールとの接点において幅方向に広げ、液溜まりを形成させ、樹脂層形成用塗料を可撓性支持体上に転移させながら可撓性支持体上に樹脂層を設けることもできる。
【0048】
鏡面ロールとしては金属ロールまたはガラスロール、石英ロール、樹脂ロール等を用いることができる。ロールの表面粗さとしては目標とするベースフィルムの表面粗さよりも平滑である必要がある。鏡面ロールの表面粗さは、目標とするベースフィルムの表面粗さにより異なるが、中心線平均粗さRaの値で、0.5〜5nmの範囲であることが好ましい。本発明で使用する鏡面ロールは通常比較的大型で、表面が円筒形状であるため、正確な表面粗さを求めるのが困難である。本発明においては、以下の方法で鏡面ロールの表面粗さを求めた。すなわち、適宜な紫外線硬化性樹脂(本発明の積層フィルムの樹脂層に用いる紫外線硬化性樹脂など)を一定量鏡面ロール表面に流下し、その上に透明なフイルムを乗せ、フイルムを鏡面ロールに押し当てたまま、フイルム上方から紫外線を照射して樹脂を硬化させた後、フイルムを鏡面ロールから剥ぎ取り鏡面ロールと当接していた樹脂面の表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM): Digital Instruments社製の“Nano scopeIIIa”で、
測定モード:タッピングモード
測定条件:観察視野約10μm×10μm、観察レート0.5Hzで512走査
プローブ:NCH−10V、カンチレバー長さ:125μm、振動数:300〜350kHz、
の条件で中心線平均表面粗さRaを測定し、鏡面ロールの表面性とするとよい。
【0049】
バックアップロールの押圧条件は樹脂層の圧力、熱による塑性変形のしやすさによって決まり、温度としては、5〜100℃、圧力は0.001〜200kN/mの範囲で、用いられる樹脂の種類や押圧方法の種類に応じて適宜選択すればよい。これらの範囲をはずれると、使用上の制約を受けたり、樹脂層の平滑化が十分でなかったりする場合がでてくることがあるので、上記の範囲の条件が好ましい。
【0050】
また、離型剤を鏡面ロールにコーティングしてもよい。離型剤としては公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワツクス、1−アルケン重合体など。酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができる。
【0051】
前記樹脂層の鏡面ロールへの接触時間は、用いる放射線硬化性樹脂の種類、照射する放射線の種類、放射線の照射強度、樹脂層の厚さ、可撓性の支持体を通して放射線を照射するか否か、その場合の可撓性の支持体の種類や厚さなどによって変わるので一概に規定できない。当然、放射線照射により放射線硬化性樹脂の硬化が行われるに必要な時間以上接触していることが好ましい。特に限定するものではないが、0.1〜6秒 程度である。
【0052】
バックアップロールとしては、材質としてはゴムロール、金属ロール、樹脂ロール、カーボンロール(炭素繊維強化プラスチックロール)等が使用できる。バックアップロールの表面はある程度平滑である必要があり、その理由としては表面性が粗いとバックアップロールの表面粗さが押圧ムラとなってしまい、結果として樹脂の厚みムラを生じてしまうためである。また、バックアップロールは必ずしも必要でなく、樹脂層が充分柔らかい時には鏡面ロールの巻き付け圧のみで充分に平滑化するので、バックアップロールがなくても良い。
【0053】
[実施例]
以下に実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
実施例1
図1に示した装置を用いて表1に記載した条件で可撓性支持体上に樹脂層を設け、平滑化工程、硬化工程をおこない積層フィルムを作製した。鏡面ロール5の直径は170mmφ、中心線平均粗さRaは1.0nm、バックアップロール7,7の直径はそれぞれ80mmφとした。コータ3は商品名“マイクログラビア”(康井精機製)を用い、平滑化工程後の厚さが1μmになるように塗布をおこなった。前記の厚さは、ミツトヨ製マイクロメーターを用いて5点を測定し、その平均値を厚みとした。樹脂層形成用塗料はアクリル系紫外線硬化性塗料(商品名“セイカビームEXF−01B”(粘度 130mPa・s 大日精化製))を有機溶剤MEK(メチルエチルケトン)にて樹脂層を形成する塗料の固形分濃度を60wt%に希釈してコーティングをおこなった。ドライア4での乾燥温度は100℃で乾燥時間は30秒であった。バックアップロール7による加圧は、常温にて20kN/mにて行った。放射線照射装置6はUV照射機(照射量 100mJ/cm2の条件 アイグラフィックス製UVメータにて測定)をつかっておこなった。鏡面ロール5への積層フィルムの接触時間は6秒とした。
【0055】
可撓性支持体としてはポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製 商品名“ルミラー” 厚み6μm)を使用した。
【0056】
実施例2
樹脂層の厚さを0.5μmに変え、固形分(樹脂層)濃度を30wt%とした点を除いては、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0057】
実施例3
樹脂層の厚さを0.1μmに変え、固形分(樹脂層)濃度を10wt%とした点を除いては、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0058】
実施例4
樹脂層の厚さを0.05μmに変え、固形分(樹脂層)濃度を5wt%とした点を除いては、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0059】
実施例5
樹脂層形成用塗料を、無機フィラーを含む紫外線硬化性塗料“デソライトKZ7501”(JSR株式会社製)を有機溶剤MEKで希釈し(樹脂層を形成する塗料の固形分濃度は無機フィラーを含めない樹脂形成性成分濃度で60wt%)乾燥後の樹脂層の厚みが1μmとなるように、調整をおこなった点を除いては実施例1と同じである。
【0060】
実施例6
図2に示した装置を用いて樹脂層形成用塗料を溶剤で希釈することなく、直接、鏡面ロールに流下させて樹脂層を形成した。流下量は、平滑化工程後の厚さが1μmになるように制御した。バックアップロール7による加圧条件を20kN/mとし、使用する樹脂層を形成する塗料は、紫外線硬化性塗料(商品名“セイカビームEX−01B”(大日精化製))を上述の様に有機溶剤で希釈せずに用いた。前記の条件以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0061】
実施例7
平滑化工程後の厚さが0.1μmになるように流下量を制御し、バックアップロール7による加圧条件を200kN/mとした以外は実施例6と同様にして積層フィルムを作製した。
【0062】
実施例8
平滑化工程後の厚さが0.05μmになるように流下量を制御し、バックアップロール7による加圧条件を400kN/mとした以外は実施例6と同様にして積層フィルムを作製した。
【0063】
比較例1
図4に示した従来法用の装置を用い、鏡面ロールによる平滑化工程を行なわずに図4のコータ3からドライア4までの間で、樹脂層形成用塗料が自然にレベリングされて平滑化される方法を採用した。
【0064】
ドライア4での乾燥温度、乾燥時間、放射線照射装置6のUV照射機による照射量など上記以外の条件は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0065】
比較例2
図4に示した従来法用の装置を用い、鏡面ロールによる平滑化工程を行わず図4のコータ3からドライア4までの間で、樹脂層形成用塗料が自然にレベリングされて平滑化される方法を採用し、UV照射部分を窒素ガス雰囲気にして硬化工程を行った以外は、比較例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0066】
比較例3
樹脂層の厚さを0.5μmに変え、固形分(樹脂層)濃度を30wt%とした点を除いては、比較例2と同様にして積層フィルムを作製した。
【0067】
比較例4
樹脂層の厚さを0.1μmに変え、固形分(樹脂層)濃度を10wt%とした点を除いては、比較例2と同様にして積層フィルムを作製した。
【0068】
比較例5
樹脂層の厚さを0.05μmに変え、固形分(樹脂層)濃度を5wt%とした点を除いては、比較例2と同様にして積層フィルムを作製した。
【0069】
<表面粗さの評価>
試料の積層フイルムの表面粗さはDigital Instruments社製の“Nano scopeIIIa”を用いて以下の条件で測定をおこなった。
測定モード:タッピングモード
測定条件:観察視野約10μm×10μm、観察レート0.5Hzで512走査
プローブ:NCH−10V、カンチレバー長さ:125μm、振動数:300〜350kHz、
平滑性の評価には中心線平均表面粗さRa値を用いた。
評価結果を表1に示した。
【0070】
<ヤング率測定>
試料の積層フイルムの長手方向から長さ12cm、幅1cmの測定用試料を切り出し、測定長10cmにて引張試験機にて1%伸び時の応力を測定し、ヤング率を求めた。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から明らかなように、実施例1、2、3、4、5、6でおこなわれた鏡面ロール押圧による平滑化処理により、同様の平滑化処理がおこなわれていない比較例2、3、4、5と比べ、平滑な樹脂層を得ることができた。また、比較例1は未硬化なままであったが、実施例1,2,3,4、5、6では平滑化処理の鏡面ロール圧着効果による酸素排除によって、窒素ガス雰囲気下での紫外線照射によらずとも充分硬化させることができた。図8に表1の実験結果を元にした平滑化処理の効果を表すために、樹脂層厚みと表面粗さの関係を示すグラフを、実施例(黒ドットの折れ線グラフ)と比較例(白ドットの折れ線グラフ)で示した。図8中、a、b、cが実施例1、5、6、dが実施例2、eが実施例3、fが実施例4、Hが比較例2、Iが比較例3、Jが比較例4、Kが比較例5に相当し、Lが樹脂層を設けていない原料フィルムの表面粗さに相当する。グラフ中のfとKとを比較すると、同一の樹脂層厚みでありながら、本願の構成を満たした製造方法で製造すると、表面粗さが大きく改善されていることがわかる。
【0073】
なお、本発明は上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は放射線硬化性樹脂を含む樹脂層の厚みが薄い場合においても積層フィルムの平滑化が充分に可能であり、かつ、酸素の影響を受けずに樹脂層の硬化が可能な、生産性が高く、安価で平滑な積層フィルムの製造方法並びに当該積層フィルムの製造に好適な製造装置を提供できるので、磁気記録媒体や光学フィルムなどの製造に有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一例の実施態様である積層フィルムの製造装置並びに製造工程を示す概念図。
【図2】本発明の別の一例の実施態様である積層フィルムの製造装置並びに製造工程を示す概念図。
【図3】本発明のさらに別の一例の実施態様である積層フィルムの製造装置並びに製造工程を示す概念図。
【図4】平滑化工程を有しない従来例の一例の実施態様である積層フィルムの製造装置並びに製造工程を示す概念図。
【図5】図1中のA位置の可撓性支持体表面の粗さを示すイメージ断面図(部分図)。
【図6】図1中のB位置の可撓性支持体表面の粗さを示すイメージ断面図(部分図)。
【図7】図1中のC位置の可撓性支持体表面の粗さを示すイメージ断面図(部分図)。
【図8】表1の実験結果を元にした平滑化処理の効果を表すための樹脂層厚みと表面粗さの関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0076】
1 送り出しロール
2 可撓性支持体
2a 可撓性支持体の表面
3 コータ
4 ドライア
5 鏡面ロール
6 放射線照射装置
7 バックアップロール
9 遮蔽板
10 樹脂層
10a 樹脂層の表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線硬化性樹脂を含む樹脂層を有する積層フィルムの製造方法であって、可撓性の支持体上の少なくとも一方の主面上に放射線硬化性樹脂形成性材料を含む樹脂形成性材料層を設ける層形成工程と、該樹脂形成性材料層に鏡面ロールを押圧し該樹脂形成性材料層表面を平滑にする平滑化工程と、該樹脂形成性材料層と前記鏡面ロールとを当接し、両者が面接触した状態で該樹脂形成性材料層に放射線を照射し該樹脂形成性材料層を硬化させて前記樹脂層を形成する硬化工程とを含むことを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記層形成工程において、前記放射線硬化性樹脂形成性材料が溶剤を含んだ状態で供給され、層形成工程と平滑化工程との間に、当該溶剤を除去するための乾燥工程が更に設けられている請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記層形成工程において、前記放射線硬化性樹脂形成性材料が溶剤を含んでいない状態で供給される請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記硬化工程において、放射線が、鏡面ロールと接している樹脂層の反対側から可撓性の支持体を通して照射される請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記層形成工程は、樹脂層形成性材料を鏡面ロール上に流下または滴下し、前記可撓性の支持体を介して接する前記鏡面ロールと前記バックアップロールとの接点にて、前記樹脂層形成性材料の液溜まりを形成させて前記樹脂層形成性材料を可撓性支持体に転移させて樹脂層を形成することを特徴とする請求項1、3、4の何れか1項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂形成性材料層を硬化させる硬化工程において、鏡面ロールが放射線透過可能な材質からなる鏡面ロールであり、鏡面ロール内に前記放射線を照射する硬化手段を有し、前記放射線が鏡面ロールと接している樹脂層形成性材料側から照射される請求項1〜3又は5のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
放射線硬化性樹脂を含む樹脂層を有する積層フィルムの製造装置であって、可撓性の支持体上の少なくとも一方の主面上に放射線硬化性樹脂形成性材料を含む樹脂形成性材料層を設ける層形成手段と、該樹脂形成性材料層に鏡面ロールを面接触させて押圧し該樹脂形成性材料層表面を平滑にする平滑化手段と、該樹脂形成性材料層と前記鏡面ロールとが面接触している状態で該樹脂形成性材料層に放射線を照射し該樹脂形成性材料層を硬化させて前記樹脂層を形成する硬化手段とを含むことを特徴とする積層フィルムの製造装置。
【請求項8】
前記層形成手段に供給される、前記放射線硬化性樹脂形成性材料が溶剤を含んだ状態の放射線硬化性樹脂形成性材料であって、層形成手段と平滑化手段との間に、当該溶剤を除去するための乾燥手段が更に設けられている請求項7に記載の積層フィルムの製造装置。
【請求項9】
前記樹脂形成性材料層と前記鏡面ロールとが面接触している状態で該樹脂形成性材料層に放射線を照射して該樹脂形成性材料層を硬化させる硬化手段が、鏡面ロールと接している樹脂形成性材料層の反対側から可撓性の支持体を通して照射される位置に設置されている放射線照射手段である請求項7〜8のいずれか1項に記載の放射線硬化性樹脂を含む樹脂層を有する積層フィルムの製造装置。
【請求項10】
前記鏡面ロールが放射線透過可能な材質からなる鏡面ロールであり、前記樹脂形成性材料層を硬化させる硬化手段が、前記鏡面ロール内に設けられた放射線照射手段である請求項7〜8のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−279438(P2008−279438A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97126(P2008−97126)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】