説明

積層体の製造方法、III族窒化物単結晶自立基板の製造方法、および、積層体

【課題】III族窒化物単結晶が積層された積層体を冷却したとしても、該積層体の反り(結晶軸の歪み)が低減できる製造方法を提供する。
【解決手段】ベース基板/第1のIII族窒化物単結晶層/第1の非単結晶層からなる積層基板を形成する工程、積層基板からベース基板を除去する工程、第1のIII族窒化物単結晶層上にIII族窒化物単結晶をエピタキシャル成長させて第2のIII族窒化物単結晶層を形成する工程、第2のIII族窒化物単結晶層上に、第2の非単結晶層を形成する工程、を含む積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物単結晶自立基板を製造するための前駆体である積層体の製造方法、該積層体を用いたIII族窒化物単結晶自立基板の製造方法、および、該前駆体である積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム(AlN)はその禁制帯幅が6.2eVと大きく、かつ直接遷移型の半導体であることから、AlNと同じIII族窒化物である窒化ガリウム(GaN)や窒化インジウム(InN)との混晶、特にIII族元素に占めるAlの割合が50原子%以上の混晶(以下、Al系III族窒化物単結晶ともいう。)を含めて紫外光発光素子材料として期待されている。
【0003】
紫外光発光素子などの半導体素子を形成するためには、n電極に電気的に接合したn型半導体層とp電極に電気的に接合したp型半導体層との間にグラッド層、活性層などを含む積層構造を形成する必要があり、発光効率の点から何れの層においても高い結晶性、すなわち、結晶の転位や点欠陥が少ないことが重要である。該積層構造は自立して存在するに十分な機械的強度を有する単結晶基板(以下、「自立基板」とも言う。)上に形成される。
【0004】
自立基板としては、通常はサファイアなどの異種の単結晶基板(以下、その上に単結晶を成長させるために用いる基板を「ベース基板」とも言う)上に気相成長法によりIII族窒化物単結晶厚膜を形成して、それをベース基板から分離することによりIII族窒化物単結晶基板の形成が試みられている。このような気相成長法としてはハイドライド気相エピタキシー(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)法、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、有機金属気相エピタキシー(MOVPE:Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法が用いられる。他にも昇華再結晶法や液相を介した成長法が用いられている。中でもHVPE法は、MOVPE法やMBE法と比較すると膜厚を精密に制御することが困難であるため、半導体発光素子の結晶積層構造形成には向かないが、結晶性の良好な単結晶を速い成膜速度で得ることが可能であるため、単結晶厚膜の形成を目的とした気相成長においては該HVPE法が頻繁に用いられる。
【0005】
ところが、AlN、GaNなどのIII族窒化物単結晶を気相成長法により形成する場合には、基板と成長するIII族窒化物との格子不整合による界面からの転位の発生を防ぐことは困難である。さらに、1000℃以上の高温で成長を行うため、厚い膜を成長した場合は、基板との熱膨張係数差により、歪みによる転位の増加や、基板の反り、ひび割れ等が生じる問題点があった。
【0006】
GaNなどのIII族窒化物単結晶自立基板においては、このような問題を解決する手段として次のような方法が提案されている。即ち、GaAsなどの酸又はアルカリ溶液で溶解可能な単結晶基板上にGaNなどのIII族窒化物単結晶を成長させた後に引き続いて多結晶III族窒化物を成長させてから前記単結晶基板を酸又はアルカリ溶液で除去し、次いで残った部分の最初に形成したIII族窒化物単結晶層上にIII族窒化物単結晶層を成長させるという方法が提案されている(特許文献1参照)。そして特許文献1の実施例には、該方法に従って裏面に保護層としてのSiO層を形成したGaAs(111)基板上に200nmのGaAsバッファ層及び20nmのGaNバッファ層を順次成長させた後に更に2μmの結晶性の良好なGaN層及び100μmの結晶性を重視しないGaN層(表面付近は多結晶となっている)を順次成長させてからGaAsを溶解除去してGaN基板を得て、得られた基板のGaAs基板に接していた側の表面に15μmのGaN単結晶層を成長させたところ、得られたGaN単結晶層にはクラックがなく、転位密度も10個/cm台であったことが記載されている。
【0007】
しかしながら、上記方法を、Alを含むAl系III族窒化物単結晶の製造にそのまま適用したところ、ベース基板をアルカリ溶液で除去して得られる、単結晶層および非単結晶層からなるAl系III族窒化物単結晶自立基板を製造するための基板(自立基板製造用基板)において、クラックの発生を回避するのは難しいことが判明した。そこで、本発明者等は、各層の厚み、各層の厚みの比、結晶配向性等を調整することにより、Al系III族窒化物単結晶の製造にも適した自立基板製造用基板、および自立基板の製造方法を提案した(特許文献2参照)。具体的には、特許文献2には、ベース基板上に、特定の厚みのAl系III族窒化物単結晶層を形成し、この上に、さらに厚みを限定した非単結晶層を形成して積層体を形成し、該積層体から、ベース基板を除去した後、Al系III族窒化物単結晶層上に、Al系III族窒化物単結晶をエピタキシャル成長させて、自立基板を製造する方法が記載されている。この方法によれば、結晶性の優れたAl系III族窒化物単結晶よりなる自立基板を製造することができる。
【0008】
しかしながら、この方法においても、自立基板製造用基板を製造する際、クラックの発生を十分に抑制できない場合があり、自立基板製造用基板の製造自体の歩留まりが低下し、その結果、自立基板製造の歩留まりが低下する問題があった。
【0009】
そのため、本発明者等は、さらに検討を行い、自立基板製造用基板の製造の歩留まりを向上させる方法として、ベース基板上にAl系III族窒化物単結晶薄膜層を形成した後、ベース基板と該薄膜層との界面において該ベース基板を選択的に分解し、該界面に空隙を形成し、さらに、該薄膜層上に、非単結晶層を形成した後、ベース基板部分を分離することにより、自立基板製造用基板を製造する方法を提案した(特許文献3参照)。
【0010】
しかしながら、上記自立基板製造用基板を用いてIII族窒化物単結晶自立基板、特にAl系III族窒化物単結晶自立基板を作製した場合、該基板は反りの点で改善の余地があった。ここで言う基板の反りとは、結晶軸の歪みのことである。例えば、Al系III族窒化物単結晶自立基板をベースとして深紫外光発光素子を作製する場合、結晶軸の歪みがその品質を左右する。したがって、III族窒化物単結晶自立基板はできる限りフラットにする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3350855号明細書
【特許文献2】国際公開第09/090821号パンフレット
【特許文献3】特開2010−10613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者等の検討によれば、上記方法によって得られた自立基板製造用基板を使用して作製された自立基板の品質は、実用可能なレベルではあるものの、反りに関しては依然として改善の余地があることが判明した。反りの発生は、自立基板製造用基板上にAl系III族窒化物単結晶層を成長した積層体において、単結晶層と多結晶層の見かけの熱膨張係数が違うことに起因すると考えられた。多結晶層は、Al系III族窒化物のa軸とc軸が不規則なため、単結晶層のa軸方向よりもわずかに熱膨張係数が大きくなる。III族窒化物単結晶、特に、Al系III族窒化物単結晶は、高温で製造しなければならないため、冷却工程において、得られる自立基板の結晶軸の歪みが顕著になるものと考えられた。
そのため、後工程における発光素子等の製造を考慮すると、従来技術よりもさらに反り(結晶軸の歪み)を抑えることのできるIII族窒化物単結晶自立基板の製造方法の開発が望まれていた。これを達成するためには、先ず、自立基板製造用基板上にAl系III族窒化物単結晶層を成長した積層体自体の反りを低減する必要があった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、III族窒化物単結晶よりなる自立基板の前駆体となる積層体、つまり、自立基板製造用基板上にIII族窒化物単結晶層を成長した積層体を製造する方法において、該積層体の反り(結晶軸の歪み)を低減できる製造方法を提供することにある。さらに、該積層体を使用することにより、III族窒化物単結晶よりなる高品質な自立基板を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、III族窒化物単結晶よりなる自立基板を製造するための前駆体として、非単結晶層上にIII族窒化物単結晶層が積層され、さらに、該単結晶層上に非単結晶層を積層した積層体を製造することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、
第1の本発明は、III族窒化物単結晶層を有する積層体を製造する方法であって、
(1)形成しようとするIII族窒化物単結晶とは異なる材料の単結晶からなる表面を有するベース基板を準備する工程、
(2)準備した上記ベース基板の単結晶面上に第1のIII族窒化物単結晶層を形成する工程、
(3)該第1のIII族窒化物単結晶層を破壊することなく該第1のIII族窒化物単結晶層上に、該第1のIII族窒化物単結晶層を構成する材料と同一の材料若しくは当該材料を主成分とする材料からなる第1の非単結晶層を形成することにより、ベース基板/第1のIII族窒化物単結晶層/第1の非単結晶層からなる積層基板を形成する工程、
(4)前記工程で得られた積層基板から前記ベース基板を除去する工程、
(5)ベース基板を除去して露出した前記第1のIII族窒化物単結晶層上に、該第1のIII族窒化物単結晶層を構成するIII族窒化物と同一又は類似する組成を有するIII族窒化物単結晶をエピタキシャル成長させて第2のIII族窒化物単結晶層を形成する工程、
(6)該第2のIII族窒化物単結晶層上に、該III族窒化物単結晶層を構成する材料と同一の材料若しくは当該材料を主成分とする材料からなる第2の非単結晶層を形成し、第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層/第2の非単結晶層、からなる積層体を形成する工程、
を含む積層体の製造方法である。
【0015】
第1の本発明において、第1および第2の非単結晶層を構成する材料は、多結晶、非晶質、または、これらの混合であることが好ましい。
【0016】
第1の本発明において、工程(2)における第1のIII族窒化物単結晶層の形成と、工程(3)における第1の非単結晶層の形成とを、共に気相成長法により行い、第1のIII族窒化物単結晶層の形成と第1の非単結晶層の形成とを同一装置を用いて連続して行うことが好ましい。
【0017】
第1の本発明において、工程(5)における第2のIII族窒化物単結晶層の形成と、工程(6)における第2の非単結晶層の形成とを、共に気相成長法により行い、第2のIII族窒化物単結晶層の形成と第2の非単結晶層の形成とを同一装置を用いて連続して行うことが好ましい。
【0018】
第1の本発明において、工程(1)で使用するベース基板として、シリコン単結晶基板、またはサファイア基板を用いることが好ましい。
シリコン基板を使用することにより、工程(4)において、溶液を使用することにより容易にベース基板を除去することができる。
【0019】
また、サファイア基板を用いた場合には、工程(2)の後、還元性ガスおよびアンモニアガスを含む雰囲気下、1000℃以上1600℃以下に加熱することにより、サファイア基板と第1のIII族窒化物単結晶層との界面において、サファイア基板を選択的に分解し、該界面に空隙を形成することが好ましい。こうすることにより、工程(3)の後、冷却するだけでサファイア基板を除去することができる。
【0020】
第1の本発明において、III族窒化物は、AlNであることが好ましい。本発明および本明細書において使用されている「III族窒化物」とは、AlN、GaN、InN等のIII族元素の窒化物、または、これらの混晶をいい、好ましくはIII族元素に占めるAlの割合が50原子%以上の混晶(Al系III族窒化物)をいい、より好ましくはAlNをいう。
【0021】
第2の本発明は、
第1の本発明の方法により積層体を製造する工程、
および、(7)該積層体から、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層を除去して、第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層からなる自立基板を形成する工程、
を含むIII族窒化物単結晶自立基板の製造方法である。
【0022】
第2の本発明における工程(7)において、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層を同時に除去することが好ましい。
【0023】
第1の本発明で得られる積層体は、III族窒化物単結晶自立基板の前駆体であり、第1の本発明の方法によれば、該積層体の反りを低減することができる。その結果、第2の本発明において、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層を同時に除去することにより、反りが低減された高品質のIII族窒化物単結晶自立基板を製造できる。
【0024】
第3の本発明は、第1の本発明の方法により製造される、第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層/第2の非単結晶層、からなる積層体である。該積層体は、第2の本発明のIII族窒化物単結晶自立基板の製造方法において前駆体として用いられる。該積層体においては、非単結晶層が自立基板の保護層としての役割を有している。自立基板を使用する直前に該非単結晶を除去することにより、優れた表面性状の自立基板を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
第1の本発明の積層体の製造方法によれば、自立基板となるIII族窒化物単結晶層の両側に非単結晶層を形成してから冷却しているため、該積層体自体の反り(結晶軸の歪み)を低減することができる。また、第2の本発明の自立基板の製造方法によれば、該積層体を前駆体として使用することにより、反り(結晶軸の歪み)の発生が少ないIII族窒化物単結晶よりなる高品質な自立基板を製造することができる。また、第3の本発明の積層体は、第2の本発明の自立基板の製造方法における前駆体として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の本発明および第2の本発明の方法の各工程を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の積層体、およびIII族窒化物単結晶自立基板を製造する方法について、図1に概略図を示した。以下、図1に基づいて製法の概略を示す。
本発明の製造方法は以下の工程を含んでなる。
(1)形成しようとするIII族窒化物単結晶22とは異なる材料の単結晶からなる表面を有するベース基板10を準備する工程、
(2)準備したベース基板10の単結晶面上に第1のIII族窒化物単結晶層20を形成する工程、
(3)第1のIII族窒化物単結晶層20を破壊することなく第1のIII族窒化物単結晶層20上に、第1のIII族窒化物単結晶層20を構成する材料と同一の材料若しくは当該材料を主成分とする材料からなる第1の非単結晶層30を形成することにより、ベース基板10/第1のIII族窒化物単結晶層20/第1の非単結晶層30からなる積層基板を形成する工程、
(4)前記工程で得られた積層基板からベース基板10を除去する工程、
(5)ベース基板10を除去して露出した第1のIII族窒化物単結晶層20上に、第1のIII族窒化物単結晶層20を構成するIII族窒化物と同一又は類似する組成を有するIII族窒化物単結晶をエピタキシャル成長させて第2のIII族窒化物単結晶層22を形成する工程、
(6)第2のIII族窒化物単結晶層22上に、該III族窒化物単結晶層を構成する材料と同一の材料若しくは当該材料を主成分とする材料からなる第2の非単結晶層32を形成し、第1の非単結晶層30/第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22/第2の非単結晶層32、からなる積層体を形成する工程、
(7)前記工程で得られた積層体から、第1の非単結晶層30および第2の非単結晶層32を除去して、第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22からなる自立基板を形成する工程。
工程(6)まで実施することにより本発明の積層体を製造することができ、工程(7)を実施することによりIII族窒化物単結晶自立基板を製造できる。
【0028】
なお、さらに第1のIII族窒化物単結晶層20を除去して、第2のIII族窒化物単結晶層22のみからなる自立基板とすることもできる。
以下、各工程について説明する。
【0029】
<工程(1)>
工程(1)では、先ず、形成しようとするIII族窒化物単結晶層を構成する材料とは異なる材料の単結晶からなる表面を有するベース基板10を準備する。このとき使用するベース基板10としては、従来からベース基板として使用できることが知られている単結晶材料からなる基板が特に制限なく使用できる。しかしながら、III族窒化物単結晶を気相成長させるときの温度において分解したり昇華したりし易いガリウム砒素などの材料を用いた場合はその構成元素がIII族窒化物単結晶中に取り込まれて不純物となったり、III族窒化物単結晶の組成を変えてしまうことがあるため、上記温度で安定な材料の単結晶基板を使用することが好ましい。このような基板を例示すれば、サファイア基板、窒化珪素単結晶基板、酸化亜鉛単結晶基板、シリコン単結晶基板、ホウ化ジルコニウム単結晶基板を挙げることができる。これらの中でも、工程(4)においてベース基板10を分離する際に分離が容易であるという理由からシリコン単結晶基板、あるいはサファイア基板を使用することが好ましい。
例えば、シリコンは、溶液による化学的エッチングが可能であるため、工程(4)において容易に除去することができる。
【0030】
また、サファイア基板を使用した場合には、特許文献3に記載されている方法を用いれば、下記に詳述する工程(3)を実施した後、冷却するだけでベース基板10を除去することができる。すなわち、サファイア基板を使用すれば、下記に詳述する工程(2)の後に、還元性ガスおよびアンモニアガスを含む雰囲気下、1000℃以上1600℃以下に加熱することにより、サファイア基板を選択的に分解することができる。その結果、サファイア基板と第1のIII族窒化物単結晶層20との界面に空隙を形成することができ、工程(3)を実施した後、冷却することだけでサファイア基板を除去することができる。なお、この工程、つまり、前記界面に空隙を形成する工程(2−1)については、下記に詳細に説明する。
なお、ベース基板10の大きさや形状は、現実的には製造装置などの制約をうけるものの、原理的には任意に設定できる。
【0031】
<工程(2)>
本発明の方法では工程(2)において、準備した上記ベース基板10の単結晶面上に第1のIII族窒化物単結晶層20を形成する。
【0032】
なお、本発明のIII族窒化物単結晶基板の製造方法および本発明の積層体において、III族窒化物とは、AlN、GaN、InNなどのIII族元素の窒化物、あるいは、これらの混晶をいい、好ましくはIII族元素に占めるAlの割合が50原子%以上の混晶(Al系III族窒化物)をいい、より好ましくはAlNをいう。Al系III族窒化物、特にAlNは、熱伝導率が高いことから、素子の熱劣化を防ぐ観点で、単結晶基板の材料として好ましい。また、先の課題の欄に記載したように、Al系III族窒化物はGaNと比べ気相成長時の温度が高く、製膜後の冷却過程において、熱膨張係数の違いにより界面に応力が生じるため、基板の反りの問題が発生し易い。この点から、本発明の方法は、Al系III族窒化物、特には、AlNからなる単結晶基板を製造する方法として、好適である。
【0033】
Al系III族窒化物を構成する化合物は、Al1−(x+y+z)GaInNで示される組成を有する。ここで、x、y及びzは夫々独立に0以上0.5未満、好ましくは0.3未満、最も好ましくは0.2未満の有理数であり、x、y及びzの和は0.5未満、好ましくは0.3未満、最も好ましくは0.2未満である。なお、III族窒化物には、結晶性に重大な悪影響を与えない範囲(通常5000ppm以下、好ましくは1000ppm以下)であれば、遷移金属元素、Ti、Ni、Cr、Fe、Cuなどの不純物元素が含まれていてもよい。
【0034】
本発明において、第1のIII族窒化物単結晶層20の形成方法としては、III族窒化物単結晶層を形成することができる方法として従来から知られている気相成長法、液相法等の各種方法が採用できるが、単結晶層を形成し易く膜厚の制御も容易であるという理由から気相成長法を採用することが好ましい。また、気相成長法を採用した場合には、次いで行われる非単結晶層の形成においても温度や原料供給条件などの軽微な条件変更のみで非単結晶層の形成を行うことができるというメリットがある。気相成長法としては、HVPE法、MOVPE法、MBE法等の他、スパッタリング法、PLD(Pulse Laser Deposition)法、昇華再結晶法などの公知の気相成長法を採用することができる。
【0035】
これら方法により第1のIII族窒化物単結晶層20を形成する場合の製造条件は、成長させる膜厚を後述の範囲とする他は従来法と特に変わる点はない。詳細な製造条件は、目的とするIII族窒化物単結晶の組成、装置の概要によって決まるため、一概に限定できるものではない。例えば、Al系III族窒化物単結晶を成長させる場合には、HVPE法を用いた特許文献3に記載の方法と同様の方法を採用することが好ましい。
また、第1のIII族窒化物単結晶層20の形成は、多段階に分けて行うこともできる。
【0036】
ベース基板10上に形成した膜が単結晶かどうかは、X線回折(XRD)測定のθ−2θモード測定により判断することができる。θ−2θモード測定とは、サンプルに対する入射角をθとしたときに、2θの位置にディテクターを固定して回折を測定する測定法である。一般的には、2θを10〜100°の範囲でXRDプロファイルを測定するものであり、Al系III族窒化物の場合であれば(002)回折、および(004)回折のみが観測されれば、得られたAl系III族窒化物は単結晶であると判断できる。例えば、AlNの場合(002)回折は2θ=36.039°付近、(004)回折は2θ=76.439°付近に観測され、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)の場合においても同様に(002)回折と(004)回折のみが観測されば単結晶と判断できる。その回折角2θはAlとGaの組成に応じて変化し、GaNの場合(002)回折は2θ=34.56°付近、(004)回折は2θ=72.91°付近に観測されるので、(002)回折は2θが34.56〜36.039°の範囲で、(004)回折は2θが72.91〜76.439°の範囲で観測される。
【0037】
なお、本発明の方法が好適に適用できるAl系III族窒化物単結晶よりなる第1のIII族窒化物単結晶層20は、X線ロッキングカーブ測定によるAlN(002)の半値幅が3600秒以下となることが好ましく、1000秒以下となることがより好ましく、700秒以下となることがさらに好ましい。
【0038】
第1のIII族窒化物単結晶層20の厚さは、3nm以上1500nm以下(1.5μm以下)であることが好ましい。III族窒化物単結晶層の厚さがこの範囲から外れる場合には、クラックおよび割れが無い積層基板を得ることが困難となる。
【0039】
中でも、ベース基板10としてシリコン単結晶基板を使用し、工程(4)において溶液によりベース基板10を除去する場合には、第1のIII族窒化物単結晶層20の厚さは、操作性がよく、割れのない積層基板を得るためには50nm以上1000nm以下とすることが好ましい。
【0040】
また、ベース基板10としてサファイア基板を使用する場合には、下記に詳述する工程(2−1)を実施することが好ましいが、この場合、第1のIII族窒化物単結晶層20の厚さは、3nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上180nm以下であることがより好ましく、20nm以上150nm以下であることがさらに好ましく、50nm以上150nm以下とすることが特に好ましい。第1のIII族窒化物単結晶層20の厚みを上記範囲とすることにより、サファイア基板との界面において空隙を容易に形成することができる。次に、このサファイア基板を使用する場合の好適な態様である工程(2−1)について説明する。
【0041】
<工程(2−1)>
本発明の方法において、ベース基板10としてサファイア基板を使用した場合には、以下に説明する操作を行い、サファイア基板と第1のIII族窒化物単結晶層20との界面に空隙を形成することが好ましい。サファイア基板は、III族窒化物単結晶よりも分解し易いため、以下の条件下に置くことにより、選択的にサファイア基板を分解し、前記界面に空隙を形成することができる。空隙を形成することにより、工程(3)で製造した積層基板を冷却するだけでサファイア基板を分離することが可能となる。
【0042】
空隙を形成するための条件は、特許文献3に記載された方法を参考にすることができる。具体的には、サファイア基板上に、上記厚みを満足する第1のIII族窒化物単結晶層20を形成した後、還元性ガスおよびアンモニアガスを含む雰囲気下、1000℃以上1600℃以下に加熱することにより、サファイア基板を選択的に分解し、前記界面に空隙を形成することができる。
【0043】
還元性ガスとしては、水素ガス、一酸化炭素ガスを挙げることができるが、水素ガスを使用することが好ましい。雰囲気中の還元性ガスの分圧は、III族窒化物単結晶層20の組成、装置の概要、温度、処理時間、所望とする空隙率等に応じて適宜決定すればよいが、サファイア基板の分解速度を制御するという観点から、1×10−2atm以上1×10atm以下であることが好ましく、1×10−1atm以上1×10atm以下であることがより好ましい。一方、アンモニアガスの分圧は、還元性ガスの分圧と同じく、一概に限定できるものではないが、第1のIII族窒化物単結晶層20の分解を抑制するという観点から、1×10−5atm以上1×10atm以下であることが好ましく、1×10−4atm以上1×10−1atm以下であることがより好ましい。
【0044】
また、還元性ガスおよびアンモニアガスを含む雰囲気下における温度は、1000℃以上1600℃以下であることが好ましい。この温度も、雰囲気組成、III族窒化物単結晶層20の組成、装置の概要、処理時間、所望とする空隙率等に応じて適宜決定すればよいが、効率よく空隙を形成するためには、1200℃以上1550℃以下とすることが好ましく、1250℃以上1500℃以下とすることがより好ましい。
【0045】
また、処理時間は、空隙率(第1のIII族窒化物単結晶層20の面積に対するサファイア基板と第1のIII族窒化物単結晶層20とが非接触となった部分の総面積の割合)が好ましくは30%以上70%以下、より好ましくは40%以上70%以下となるように決定することが好ましい。この処理時間は、雰囲気組成、および温度条件と空隙率との関係を調べておき、所望の空隙率となる時間を決定すればよい。
【0046】
ベース基板10としてサファイア基板を使用した場合には、工程(2)の後に上記した工程(2−1)を実施することが好ましい。工程(2−1)を実施した後、さらに、第1のIII族窒化物単結晶層20上に、同じ組成のIII族窒化物単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層その2)を形成し、その後、下記で説明する工程(3)を実施してもよい。この場合、第1のIII族窒化物単結晶層その2は、第1のIII族窒化物単結晶層20と同一のものとみなし、第1のIII族窒化物単結晶層20と表記して差し支えない。第1のIII族窒化物単結晶層その2と第1のIII族窒化物単結晶層とは区別することが難しく、かつ、該二層が別個のものと考えても、第1、第2および第3の本発明において構造上の差異が生じないためである。
また、当然のことながら、サファイア基板を使用した場合においても、工程(2−1)を実施せずに、工程(2)の後、下記に詳述する工程(3)を引き続き行うことも可能である。次に、工程(3)について説明する。
【0047】
<工程(3)>
本発明の方法では、工程(3)として、上記工程(2)または(2−1)で得られた積層体の第1のIII族窒化物単結晶層20上に第1の非単結晶層30を形成することにより、ベース基板10上に第1のIII族窒化物単結晶層20および第1の非単結晶層30が順次積層された積層基板を製造する。
【0048】
第1の非単結晶層30は、第1のIII族窒化物単結晶層20を構成する材料と同一の材料若しくは当該材料を主成分とする材料であって単結晶でない材料から構成される層であればよいが、製造の容易さ及び応力緩和の観点から、第1のIII族窒化物単結晶層20を構成する材料と同一又は類似の組成を有するIII族窒化物の多結晶、非晶質、又はこれらの混合からなる層を形成することが好ましい。ここで組成が類似するとは、両材料の組成を比較したときに、各III族元素の組成の差であるΔ{1−(x+y+z)}、Δx、Δy及びΔzの絶対値がいずれも0.1以下、好ましくは0.05以下であることを意味する。なお、組成の差とは、III族窒化物単結晶層を構成する材料の各III族元素組成と非単結晶層を構成するIII族窒化物の各III族元素組成との差を意味し、たとえばIII族窒化物単結晶層を構成する材料の組成がAl0.7Ga0.2In0.1Nであり、非単結晶層を構成するIII族窒化物の組成がAl0.7Ga0.25In0.05Nであった場合には、Δ{1−(x+y+z)}=0.7−0.7=0、Δx=0.2−0.25=−0.05、Δy=0.1−0.05=0.05、Δz=0−0=0となる。
【0049】
第1の非単結晶層30を形成することにより、成長中もしくは冷却中においても、第1のIII族窒化物単結晶層20と第1の非単結晶層30のクラックが抑制される。これは、第1の非単結晶層30が多結晶層の場合には結晶粒子間の界面、すなわち粒界が存在するために、ベース基板10との格子定数差や熱膨張係数差により発生する応力が緩和されているためと考えられる。また、第1の非単結晶層30が非晶質層の場合には非晶質層を構成する結晶自体が極微細なものであり、原子配列の長周期的構造が形成されていない状態と考えられ、上記の極微細結晶どうしの境界付近で格子不整合応力が緩和されているものと推測される。
【0050】
また、第1の非単結晶層30の結晶構造は、多結晶、非晶質、又はこれらの混合からなることが好ましい。非単結晶層がこのような層である場合には、ベース基板10とAl系III族窒化物単結晶との格子定数差に起因する応力を緩和することができる。
なお、非単結晶層が気相成長法により形成した多結晶である場合には、該非単結晶層はIII族窒化物結晶の002方向に結晶配向し易い。ここで、結晶配向性とは非単結晶層を構成する各々の多結晶の結晶軸がある特定の方向に偏っていることを意味する。このような結晶配向性はXRDのθ−2θモード測定から定性的に測定することができる。具体的には多結晶層が露出している方向からXRD測定を行い、002面の回折強度(I002)と100面の回折強度(I100)との強度比(I002/I100)が1より大きく、より確実には1.5以上であれば、002方向に結晶配向性を有するということになる。一般に、粉体や粉体を焼結して得た多結晶体の場合には、このような結晶配向性を示さないことが知られており、XRDデータベース(JCPDS:25−1133)等に示される上記強度比は1未満となっている。
【0051】
非単結晶層が多結晶であるかどうかはXRDのθ−2θモード測定により判断することができる。
また、非単結晶層が非晶質のみで構成された場合には、前記測定でピークが観測できない場合がある。この場合、エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)による組成分析を行い、原子数にしてAlとNがおよそ1対1の割合で検出されれば、AlNから構成されていると判断できる。非晶質はAlとNがランダムに配列した構造を有するために、理論上のストイキオメトリーから10〜30%程度ずれることがある。また、酸素、炭素、珪素、塩素等の不純物原子が数%程度観測されることもある。
非単結晶層が多結晶と非晶質との混合物からなる場合は、XRDのθ−2θモード測定、およびSEM−EDXによる組成分析により、その存在が確認できる。
第1の非単結晶層30の結晶構造は、多結晶、非晶質、又はこれらの混合物の中でも、自立基板の生産性を考慮すると、多結晶であることが好ましい。
【0052】
前記工程(3)では、第1の非単結晶層30の形成は、下地となる第1のIII族窒化物単結晶層20を破壊することなく行う必要がある。なお、ここでいう破壊とは、割れのように完全な分離を伴う態様に限らず、クラックの発生のように一部の連続性が大きく損なわれる態様も含む概念である。
【0053】
第1のIII族窒化物単結晶層20の厚さが1μm程度と薄い場合には、冷却などを行ってもIII族窒化物単結晶層が破壊される危険性は少ないが、それを超えると厚さが厚くなるに従い、特に冷却工程で破壊が生じる危険性が高くなる。そのため、第1のIII族窒化物単結晶層20を破壊することなく第1の非単結晶層30を形成するためには、第1のIII族窒化物単結晶層20形成後基板に冷却を加えないか、もしくは温度変動幅が500℃以内となる温度範囲で冷却を加えて第1の非単結晶層30の形成を行うことが好ましい。このような理由から、工程(2)における第1のIII族窒化物単結晶層20の形成と工程(3)における第1の非単結晶層30の形成とを共に気相成長法により行い、III族窒化物単結晶層の形成と非単結晶層の形成とを同一装置を用いて連続して行うことが好ましい。なお、工程(2−1)を実施する際は、工程(2)、工程(2−1)、および、工程(3)を、同一装置を用いて連続して行うことが好ましい。
【0054】
ここで、「連続的に」とは「基板を室温付近まで冷却して装置外に出さずに」と同義である。このような条件を満たして十分な厚さの非単結晶層を形成させた場合には、第1のIII族窒化物単結晶層20を厚く形成しても格子不整合応力が小さい加熱状態を保ちながら格子不整合応力を緩和する第1の非単結晶層30を形成するので、非単結晶層の応力緩和効果により基板を冷却するときの格子不整合応力が(非単結晶層を形成しない場合と比べて)小さくなり、クラックの発生を防止することができる。その結果、従来の気相成長法ではクラックの発生を防止するのが困難であった1μmを越える厚さの第1のIII族窒化物単結晶層20の形成も可能になる。
【0055】
第1の非単結晶層30の形成は、上記条件を満たせば、第1のIII族窒化物単結晶層20の形成後に直ちに成膜条件を変化させて形成してもよいし、第1のIII族窒化物単結晶層20の形成後、所定の間隔をおいてから形成してもよい。温度、圧力、時間、原料ガス供給量、キャリアガス流量などの成膜条件を変えて複数の非単結晶層を形成することも可能である。この第1の非単結晶層30を形成する際の条件は、公知の方法が採用できる。特に、HVPE法を使用し、Al系III族窒化物よりなる非単結晶層を形成する場合には、特許文献3に記載の条件を採用することができる。
【0056】
また、第1のIII族窒化物単結晶層20と第1の非単結晶層30は、必ずしも直接接合している必要はなく、薄い酸化物層などを介して接合していてもよい。具体的には、第1のIII族窒化物単結晶層20の形成後に、酸素を含む原料ガスを供給して該単結晶層の表面に薄い酸化膜を形成した後、第1の非単結晶層30を形成することも可能である。酸化膜を形成することにより、第1の非単結晶層30がもたらす応力緩和を高める効果がより顕著に発揮される。酸化膜を形成する場合、その厚みは、特に制限されるものではないが、本発明の効果をより高めるためには、5nm〜500nmであることが好ましい。
【0057】
第1の非単結晶層30の厚さは、該非単結晶層を形成することにより、環境温度が変わっても第1のIII族窒化物単結晶層20にクラックが発生しないような厚さで、且つ工程(4)においてベース基板10を分離した後にも分離後の積層体が自立可能な強度を保てるという理由から、第1のIII族窒化物単結晶層20の厚さの100倍以上、好ましくは300倍以上、更に好ましくはこれらの条件を満足し、且つ、100〜3000μmとなる厚さであることが好ましい。
【0058】
<工程(4)>
本発明の方法では、このようにしてベース基板10上に第1のIII族窒化物単結晶層20および第1の非単結晶層30が順次積層された積層基板を製造した後に、工程(4)として、得られた該積層基板からベース基板10を除去する。
【0059】
ベース基板10を除去する手段としては、ベース基板10の材質がサファイア、窒化珪素、酸化亜鉛、ホウ化ジルコニウム等の比較的化学的耐久性を有するものである場合には、ベース基板10と単結晶層との界面で切断する方法が好適に採用される。切断後に得られる積層体をLEDなどの半導体素子となる積層構造を形成するための自立基板製造用のベース基板として使用する場合には、切断面の表面の荒れにより成長させる結晶の品質が低下するおそれがあるので、切断面を研磨することが好ましい。この場合、第1のIII族窒化物単結晶層20を表面に残すためにベース基板10が表面に残るようにして切断を行い、残ったベース基板部を研磨除去すれば平滑なIII族窒化物単結晶層を有する積層体を得ることができる。
【0060】
また、ベース基板10の材質がシリコンである場合には、化学エッチング処理によりベース基板10を容易に除去することが可能である。化学エッチングには、例えばフッ酸、硝酸および酢酸の混合酸が好適に用いられ、混合酸に前記積層体を浸漬静置することによりベース基板10であるシリコンが除去される。このようにしてベース基板10を除去した後に得られる積層体のIII族窒化物単結晶層表面は、シリコン基板と同様の優れた表面平滑性を有する。このため、シリコン基板をベース基板10として用いた場合には第1のIII族窒化物単結晶層20表面の研磨処理を省略できるというメリットがある。同様の理由でベース基板10の材質が酸化亜鉛である場合においても、酸化亜鉛が酸及びアルカリ溶液に可溶であるという理由からベース基板10に用いることが可能である。
【0061】
ベース基板10としてサファイア基板を使用し、前記工程(2−1)を実施し、工程(3)を行った場合には、製造された積層基板を冷却するだけで、ベース基板10であるサファイア基板を分離することができる。積層基板を冷却する過程において、第1のIII族窒化物単結晶層20/第1の非単結晶層30からなる積層体とサファイア基板との界面に生ずる応力で、空隙を有する該界面部分を破壊することにより、サファイア基板を分離し、第1のIII族窒化物単結晶層20/第1の非単結晶層30からなる積層体(自立基板製造用基板)を得ることができる。化学的エッチングや物理的な切断、研磨に比べ工程が簡略である等のメリットがある。ただし、サファイア基板が一部残存するような場合には、当然のことながら、化学的エッチング、物理的な切断、研磨を行うことも可能である。
次に、工程(5)について説明する。
【0062】
<工程(5)>
工程(5)においては、上記で得られた第1の非単結晶層30/第1のIII族窒化物単結晶層20からなる積層体(自立基板製造用基板)の、ベース基板10を除去して露出した第1のIII族窒化物単結晶層20上に、該III族窒化物単結晶層を構成する化合物と同一又は類似する組成を有するIII族窒化物単結晶をエピタキシャル成長させ、第2のIII族窒化物単結晶層22を形成する。
【0063】
ここで、組成が類似するとは、本発明の積層体の製造方法において説明した、第1のIII族窒化物単結晶層20を構成する材料と第1の非単結晶層30を構成する材料の組成が類似する場合と比べるとその範囲は広く、第1のIII族窒化物単結晶層20を構成するIII族窒化物単結晶と第2のIII族窒化物単結晶層22を構成するIII族窒化物単結晶との間の各III族元素の組成の差の絶対値がいずれも0.3以下であることを意味する。
【0064】
自立基板製造用基板をベース基板として用いた場合には、その結晶成長面は、成長させる第2のIII族窒化物単結晶と同一または類似の組成を有するIII族窒化物単結晶で構成されるため、格子不整合応力が発生しないか、発生したとしても小さい。したがって、この状態の積層体、つまり、第1の非単結晶層30/第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22からなる積層体を冷却し、少なくとも第1の非単結晶層30部分を除去することにより、クラック、割れのなく、かつ反り(結晶軸の歪み)の少ない高品質なIII族窒化物単結晶よりなる自立基板を製造することができる。しかしながら、上述の通り作製された自立基板は、結晶レベルでの反りを有している点で改善の余地があった。より反りの少ない高品質なIII族窒化物単結晶からなる自立基板を得るため、本発明においては、さらに、以下の工程(6)を付加している。
【0065】
第2のIII族窒化物単結晶をエピタキシャル成長させる方法としては、HVPE法、MOVPE法、MBE法、スパッタリング法、PLD法、昇華再結晶法などの公知の気相成長法を用いることが可能である。その他、フラックス法などの溶液成長法といったあらゆる公知の方法を用いることも可能である。膜厚制御が容易で高品位の結晶を得ることができるという観点から気相成長法を採用するのが好ましく、中でも高速での成膜が可能であるという理由からHVPE法を採用するのが特に好ましい。HVPE法を採用して、例えば、Al系III族窒化物単結晶をエピタキシャル成長させる場合には、特許文献3に記載された単結晶成長条件を採用することができる。
【0066】
第2のIII族窒化物単結晶層22の厚みは、所望とする自立基板の厚み、他層との厚みとの兼ね合いから適宜決定すればよいが、100〜1000μmとすることが好ましく、さらに200〜900μmとなる厚さであることが好ましく、特に、200〜850μmとなる厚さであることが好ましい。この範囲とすることにより、冷却中に第1のIII族窒化物単結晶層20と第2のIII族窒化物単結晶層22に生ずる歪みを緩和でき、反り(結晶軸の歪み)の発生を抑制することができ、かつ工程(7)において非単結晶層を除去した後に自立基板として実用的な物理的強度を有する単結晶AlN自立基板を得ることができる。
次に、工程(6)について説明する。
【0067】
<工程(6)>
工程(6)においては、第2のIII族窒化物単結晶層22上に、第2の非単結晶層32を形成し、第1の非単結晶層30/第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22/第2の非単結晶層32、からなる積層体を形成する。
【0068】
第2の非単結晶層32は、第2のIII族窒化物単結晶層22を構成する材料と同一の材料若しくは当該材料を主成分とする材料であって単結晶でない材料から構成される層であればよいが、製造の容易さ及び応力緩和の観点から、第2のIII族窒化物単結晶層22を構成する材料と同一又は類似の組成を有するIII族窒化物の多結晶、非晶質、又はこれらの混合からなる層を形成することが好ましい。ここで組成が類似するとは、上記工程(3)における場合と同様である。
【0069】
このように、本発明の方法においては、自立基板となる第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22の両側に、第1の非単結晶層30および第2の非単結晶層32を形成し、これら二つの非単結晶層により、積層体に存在している格子不整合応力を緩和させている。なお、第2の非単結晶層32が、自立基板となる第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22の格子不整合応力を緩和させる機構については、工程(3)の第1のIII族窒化物単結晶層20の場合と同様である。また、第2の非単結晶層32が多結晶である場合における、結晶配向性についても工程(3)の第1の非単結晶層30の場合と同様である。
【0070】
また、工程(3)における場合と同様に、下地層の第2のIII族窒化物単結晶層22を破壊することなく、第2の非単結晶層32を形成する必要がある。このため、第2のIII族窒化物単結晶層22形成後基板に冷却を加えないか、もしくは温度変動幅が500℃以内となる温度範囲で冷却を加えて第2の非単結晶層32の形成を行うことが好ましい。このような理由から、工程(5)における第2のIII族窒化物単結晶層22の形成と工程(6)における第2の非単結晶層32の形成とを共に気相成長法により行い、III族窒化物単結晶層の形成と非単結晶層の形成とを同一装置を用いて連続して行うことが好ましい。ここで、「連続的に」とは「基板を室温付近まで冷却して装置外に出さずに」と同義である。
【0071】
第2の非単結晶層32の厚さは、第1のIII族窒化物単結晶層20の厚さの100倍以上、好ましくは300倍以上、さらに好ましくはこれらの条件を満足し、かつ、100〜3000μmとなる厚さであることが好ましい。基本的には、第1の非単結晶層30と同様の厚さとすることが好ましい。第1の非単結晶層30と第2の非単結晶層32の厚さを揃えることにより、バランス良く、中央の第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22における格子不整合応力を緩和させることができるからである。
【0072】
上記積層体において、工程(3)の第1のIII族窒化物単結晶層20と第1の非単結晶層30と同様に、第2のIII族窒化物単結晶層22と第2の非単結晶層32は、必ずしも直接接合している必要はなく、薄い酸化物層などを介して接合していても良い。また、工程(3)で第1のIII族窒化物単結晶層20と第1の非単結晶層30との間に酸化膜を導入した場合には、上記積層体の第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22における格子不整合応力を抑制する目的で積層体全体のバランスをとるために、本工程でも酸化膜を導入することが好ましい。酸化膜の厚みも、工程(3)で説明した通りであり、同一の厚みであることが好ましい。
【0073】
得られた積層体の反りは、結晶軸の歪みで評価した。該積層体から非単結晶層30、32を切断、研磨等により除去することで、表面の平坦な単結晶AlN自立基板を得ることができるが、紫外光発光素子材料として用いる場合、積層体に生じた反り(結晶軸の歪み)が、該自立基板にも悪影響を及ぼす場合がある。したがって、該自立基板の結晶軸の歪みを低減するには、前駆体である積層体の反り(結晶軸の歪み)を低減する必要がある。
積層体の結晶軸の歪みは、X線ロッキングカーブ測定を測定位置を変えながら行うことによって、曲率半径として算出できる。本発明の積層体において、例えば、第2の非単結晶層32が多結晶層である場合には、該多結晶層の002面のX線ロッキングカーブを測定することにより、結晶軸の歪みを評価できる。該積層体の多結晶層は、002面への配向性が他の面よりも強くなりやすいため、002面のピーク強度は十分である。
また、第2の非単結晶層32が非晶質である場合、ピーク強度が十分得られないためX線ロッキングカーブを測定することが困難である。したがって、別の方法、例えば、青紫色レーザー顕微鏡を用いた3次元形状測定により、該積層体の見掛けの反りを評価する。この積層体は、研磨等の工程を行っていないため、見かけの反りを、結晶軸の歪みとみなすことができる。具体的には、該積層体の第2の非単結晶層32(非晶質層)が露出している側を50倍の倍率でレーザー顕微鏡により高さ情報を取得し、球形近似の仮定のもとで該積層体の曲率半径を算出して反りを評価してやればよい。
なお、前記に説明した結晶軸の歪みの測定方法は、第2の非単結晶層32側から測定した方法を説明したが、結晶軸の歪みは、同様の方法により、第1の非単結晶層30の側から測定することもできる。非単結晶層30、32の何れの側から結晶軸の歪みを測定しても、歪みの方向が異なる(上に凸、または下に凸かの方向が異なる)だけで、その歪みの程度は、ほぼ同等の結果となる。
本発明においては、この第2の非単結晶層32を形成することにより、反りの少ない積層体を製造することができる。つまり、自立基板となるIII族窒化物単結晶層20、22の両側に非単結晶層30、32を有する積層体を製造することにより、非単結晶層と単結晶層との見かけの熱膨張係数の差により生じる結晶軸の歪みを抑制できると考えられる。
本発明において、積層体の曲率半径は、好ましくは5m以上、より好ましくは5.5m以上、さらに好ましくは6m以上とすることができる。
次に、工程(7)について説明する。
【0074】
<工程(7)>
工程(7)においては、第1の非単結晶層30/第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22/第2の非単結晶層32、からなる積層体から、第1の非単結晶層30および第2の非単結晶層32を除去して、第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22からなる自立基板を形成する。なお、場合によっては、第1のIII族窒化物単結晶層20をも除去して、第2のIII族窒化物単結晶層22のみからなる自立基板としてもよい。
【0075】
第1の非単結晶層30および第2の非単結晶層32を除去する方法としては、ワイヤソー等を用いて切断することにより、除去することができるが、この場合、自立基板の表面が切断により荒れ、品質が低下するおそれがあるので、切断面を研磨することが好ましい。また、非単結晶層30、32の一部が表面に残るようにして切断を行い、残った非単結晶部を研磨除去すれば平滑な表面を有する自立基板を得ることができる。
【0076】
なお、工程(7)において、第1の非単結晶層30/第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22/第2の非単結晶層32からなる積層体は、第1の非単結晶層30および第2の非単結晶層32によりバランスをとって積層体の格子不整合応力を緩和しているため、どちらか片方の非単結晶層を先に除去してしまうと、残った非単結晶層に引きつられ、自立基板に反り(結晶軸の歪み)が生じたり、クラックが入ったりするおそれがある。このため、第1の非単結晶層30および第2の非単結晶層32は両方同時に除去することが好ましい。よって、切断により除去する場合は、同時に切断することが好ましい。
【0077】
上記のように、第1の非単結晶層30および第2の非単結晶層32を同時に除去する観点からは、これら非単結晶をそれぞれ同時に研磨により除去することが好ましい。同時に研磨していけば、両非単結晶層は、同様のスピードで層厚を減少させることになるため、積層体の格子不整合応力のバランスが取れ、反りの小さい高品質の自立基板を得ることができる。その結果、該自立基板は、工程(6)で得られた第1の非単結晶層30/第1のIII族窒化物単結晶層20/第2のIII族窒化物単結晶層22/第2の非単結晶層32、からなる積層体と同等の反りを有する。
【実施例】
【0078】
<実施例1>
(工程1)
気相成長法としてHVPE法を用いて単結晶AlN自立基板を作製した実施例である。本実施例においては、ベース基板にφ2インチ、厚さ280μmの(111)シリコン単結晶基板を用い、単結晶層および非単結晶層の材質はAlNを用いた。
【0079】
(工程2)
HVPE装置における反応器内の支持台上にベース基板を設置した後に反応器内に水素と窒素の混合キャリアガスを流通させた。このときの系内の圧力は500Torrとした。その後、外部加熱手段を用いて反応管温度を500℃に加熱した。一方、支持台に電力を供給して支持台を加熱し、ベース基板を1100℃の温度に保持した。1分間保持した後、三塩化アルミニウムガスを分圧2.63×10−4atmで、アンモニアガスを分圧1.05×10−3atmで反応器内に導入し、ベース基板上にAlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)を500nm成長した。
【0080】
(工程3)
次いで、AlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)の分解を防ぐ目的でアンモニアガスのみを分圧2.63×10−4atmで供給したまま、三塩化アルミニウムガスの供給を一旦停止し、上記単結晶層上に非単結晶層として多結晶層を形成するため、異なる形成条件に変更した。具体的には、圧力は500Torr、外部加熱手段による反応管温度は500℃のまま保持した。支持台への供給電力を下げてベース基板温度を1000℃とした。これらの操作は三塩化アルミニウムの供給を一旦停止した後5分の間に行った。次いで三塩化アルミニウムガスを分圧5.26×10−3atmで再供給すると同時に、アンモニアガスの分圧を5.26×10−3atmに変更し、AlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)上に、AlN多結晶層(第1の非単結晶層)をさらに300μm成長した。
【0081】
120分間保持後、支持台への電力供給を4時間かけて減少、停止し、さらに外部加熱手段の温度を3時間かけて室温に下げた。冷却後、第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/ベース基板からなる積層体を反応器から取り出した。工程2、工程3は同一装置内(同一の反応器内)で連続して行った。
【0082】
(工程4)
次いで、上記の積層体をフッ化水素酸(濃度49%)、硝酸(濃度70%)、酢酸(濃度99%)、超純水を1:2:1:2の体積比で混合した化学エッチング用溶液200mlに12時間浸漬し、ベース基板であるシリコンを溶解除去した。次いで超純水で洗浄して化学エッチング用溶液を除去し、第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層からなる積層体(自立基板製造用基板)を得た。
【0083】
(工程5)
さらに、前記自立基板製造用基板のAlN単結晶層側(第1のIII族窒化物単結晶層側)に、HVPE法により、第2のIII族窒化物単結晶層を形成した。具体的には、前記の反応器内の支持台上に自立基板製造用基板のAlN単結晶層側(第1のIII族窒化物単結晶層側)を上面にして設置し、反応器内に水素と窒素の混合キャリアガスを流通させた。AlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)の分解を防ぐ目的でアンモニアガスのみを分圧2.63×10−4atmで供給した。このときの系内の圧力は200Torrとした。その後、外部加熱手段を用いて反応管温度を500℃に加熱し、一方、支持台に電力を供給して支持台を加熱し、ベース基板を1500℃の温度に保持した。次いで、アンモニアガスを分圧2.63×10−4atmで供給したまま、三塩化アルミニウムガスを分圧2.63×10−4atmで導入し、自立基板製造用基板上にAlN単結晶層(第2のIII族窒化物単結晶層)を820μm成長した。
【0084】
(工程6)
次いで、AlN単結晶層(第2のIII族窒化物単結晶層)の分解を防ぐ目的でアンモニアガスのみを分圧2.63×10−4atmで供給したまま、三塩化アルミニウムガスの供給を一旦停止し、上記単結晶層上に非単結晶層として多結晶層(第2の非単結晶層)を形成するため、異なる形成条件に変更した。具体的には、圧力は500Torr、外部加熱手段による反応管温度は500℃のまま保持した。支持台への供給電力を下げて基板温度を1000℃とした。これらの操作は三塩化アルミニウムの供給を一旦停止した後25分の間に行った。次いで三塩化アルミニウムガスを分圧5.26×10−3atmで再供給すると同時に、アンモニアガスの分圧を5.26×10−3atmに変更し、AlN多結晶層(第2の非単結晶層)をさらに300μm成長した。
【0085】
120分間保持後、支持台への電力供給を4時間かけて減少、停止し、さらに外部加熱手段の温度を3時間かけて室温に下げた。冷却後、AlN多結晶層(第1の非単結晶層)/AlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)/AlN単結晶層(第2のIII族窒化物単結晶層)/AlN多結晶層(第2の非単結晶層)からなる積層体を反応器から取り出した。工程5、工程6は同一装置内(同一の反応器内)で連続して行った。
【0086】
第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層/第2の非単結晶層からなる積層体の第1の非単結晶層および第2の非単結晶層が露出されている側からそれぞれXRDのθ−2θモード測定を行ったところ、AlNの(002)面および(004)面のピークの他に(100)面、(102)面、(101)面等のピークが観測されたことから、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層は多結晶であることが確認された。θ−2θ測定におけるピーク強度比I(002)/I(100)は、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層でそれぞれ3.8および4.1であった。第2の非単結晶層側からX線回折を用いたロッキングカーブ測定により該積層体の結晶軸の反りを評価した結果、該積層体の曲率半径は6.3mであった。
【0087】
(工程7)
次いで、第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層/第2の非単結晶層からなる積層体を、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層の両表面側から同時にダイヤモンド粒子で研磨を行い、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層を除去し、厚さ750μmのAlN単結晶層を単結晶AlN自立基板として取り出した。得られた単結晶AlN自立基板のXRDのθ−2θモード測定を行ったところ、AlNの(002)面および(004)面のピークのみが観測された。
【0088】
<実施例2>
実施例1と同様の装置(反応器)と基板を用い、実施例1における非単結晶層として非晶質層を形成した実施例である。
(工程2)
ベース基板であるシリコン基板上に実施例1の工程2と同様の条件で第1のIII族窒化物単結晶層の成長を行い、200nmのAlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)を形成した。
【0089】
(工程3)
次いで、AlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)の分解を防ぐ目的でアンモニアガスのみを分圧2.63×10−4atmで供給したまま、三塩化アルミニウムの供給を停止し、圧力を500Torrに変更した。外部加熱手段による反応器温度は500℃のまま保持した一方、支持台への供給電力を下げてベース基板温度を800℃とした。これらの操作は三塩化アルミニウムの供給を一旦停止した後10分の間に行った。次いで三塩化アルミニウムガスを分圧5.26×10−3atmで再供給すると同時に、アンモニアガスの分圧を5.26×10−3atmに変更し、非晶質層(第1の非単結晶層)をさらに300μm成長した。なお、工程2、工程3は同一装置内(同一の反応器内)で連続して行った。
【0090】
(工程4)
実施例1の工程4と同じ方法で化学エッチングを行い、シリコン基板を除去して自立基板製造用基板を得た。
(工程5)
さらに、前記自立基板製造用基板のAlN単結晶層側(第1のIII族窒化物単結晶層側)に実施例1の工程5と同様の方法により、AlN単結晶層(第2のIII族窒化物単結晶層)を820μm成長した。
【0091】
(工程6)
次いで、AlN単結晶層(第2のIII族窒化物単結晶層)の分解を防ぐ目的でアンモニアガスのみを分圧2.63×10−4atmで供給したまま、三塩化アルミニウムの供給を停止し、圧力を500Torrに変更した。外部加熱手段による反応器温度は500℃のまま保持した一方、支持台への供給電力を下げて基板温度を800℃とした。これらの操作は三塩化アルミニウムの供給を一旦停止した後10分の間に行った。次いで三塩化アルミニウムガスを分圧5.26×10−3atmで再供給すると同時に、アンモニアガスの分圧を5.26×10−3atmに変更し、非晶質層(第2の非単結晶層)300μmを成長し、AlN非晶質層(第1の非単結晶層)/AlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)/AlN単結晶層(第2のIII族窒化物単結晶層)/AlN非晶質層(第2の非単結晶層)からなる積層体を得た。工程5、工程6は同一装置内(同一の反応器内)で連続して行った。
【0092】
第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層/第2の非単結晶層からなる積層体の第1の非単結晶層および第2の非単結晶層が露出されている側からそれぞれXRDのθ−2θモード測定を行ったが、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層が非晶質であるために測定できなかった。SEM−EDX測定を行ったところ、原子数の割合にしてAl69%、N31%で観測された。第2の非単結晶層側から青紫色レーザー顕微鏡を用いた3次元形状測定により結晶軸の反りを評価した結果、該積層体の曲率半径は6.1mであった。
【0093】
<実施例3>
ベース基板としてφ2インチ、厚さ430μmのc面サファイア基板を用い(工程1)、第1のIII族窒化物単結晶層の成長条件を変更し、第1のIII族窒化物単結晶層を成長した後に、ベース基板と第1のIII族窒化物単結晶層の界面に空隙を形成させる工程(工程2−1)を追加し、実施例1と同様の装置(反応器)で単結晶AlN自立基板を作製した実施例である。
【0094】
(工程2)
反応器内の支持台上にベース基板を設置した後に反応器内に水素と窒素の混合キャリアガスを流通させた。このときの系内の圧力は760Torrとした。その後、外部加熱手段を用いて反応管温度を500℃に加熱した。一方、支持台に電力を供給して支持台を加熱し、ベース基板を1065℃の温度に保持した。1分間保持した後、三塩化アルミニウムガスを分圧5×10−4atmで、アンモニアガスを分圧1.25×10−3atmで反応器内に導入してベース基板上にAlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)を100nm成長した。
【0095】
(工程2−1)
反応器内の雰囲気は変えない状態で、AlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)の分解を防ぐ目的でアンモニアガスのみを分圧1.25×10−3atmで供給した。その状態で、基板を1450℃に加熱した。1450℃に到達後、30分間保持して基板のアニールを行うことで、ベース基板とAlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)の界面に空隙を形成させた。この空隙を有する基板は、そのまま同一の反応器内で下記の工程3に使用した。
【0096】
参照実験として、同一条件で工程1〜工程2−1を別途行い、アニール後のべ一ス基板断面の走査電子顕微鏡(SEM)観察を行い、ベース基板とAlN単結晶層界面に形成した空隙率を画像解析から計算した。その結果、空隙率は約55%であることが確かめられた。
【0097】
次いで、アンモニアガスを分圧1.25×10−3atmで供給したままベース基板を1500℃の温度に保持し、三塩化アルミニウムガスを分圧5×10−4atmで導入し、自立基板製造用基板上にAlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層その2;以下では、第1のIII族窒化物単結晶層とは区別せず、単に第1のIII族窒化物単結晶層と記載する)を1μm成長した。
【0098】
(工程3)
次いで、三塩化アルミニウムガスの供給を一旦停止し、AlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)上に非単結晶層としてAlN多結晶層(第2の非単結晶層)を形成するため、異なる形成条件に変更した。具体的には、圧力は760Torr、外部加熱手段による反応器温度は500℃のまま保持した。支持台への供給電力を下げて基板温度を950℃とした。次いで三塩化アルミニウムガスを1.5×10−3atmで、アンモニアガスを分圧5×10−3atmで供給し、AlN多結晶層(第2の非単結晶層)をさらに300μm成長した。
【0099】
120分間保持後、支持台への電力供給を4時間かけて減少、停止し、さらに外部加熱手段の温度を3時間かけて室温に下げた。冷却後、AlN多結晶層(第1の非単結晶層)/AlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)/ベース基板からなる積層体を反応器から取り出した。
【0100】
(工程4)
積層基板を取り出した後、基板の側面を研磨したところ、ベース基板であるサファイア基板とAlN積層膜(AlN多結晶層/AlN単結晶層)とが剥離し、AlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)/AlN多結晶層(第1の非単結晶層)からなる積層体(自立基板製造用基板)を得た。単に、基板の側面を研磨しただけで、サファイア基板が剥離できたことから、AlN積層膜とサファイア基板との界面において、少なくとも一部分が自然分離していたものと考えられる。また、AlN単結晶層が露出されている側の表面は鏡面であった。
【0101】
また、自立基板製造用基板のAlN単結晶層の表面を光学顕微鏡により観察したところ、クラックは観察されなかったが、サファイア基板の屑が付着していたため、0.5%水酸化テトラメチルアンモニウムに10秒浸漬し、付着したサファイア基板屑を除去した。同じ処理をした自立基板製造用基板を光学顕微鏡により観察して、サファイア基板屑が除去されていることを確認した。
【0102】
(工程5)
さらに、前記自立基板製造用基板のAlN単結晶層側(第1のIII族窒化物単結晶層側)にHVPE法により、第2のIII族窒化物単結晶層を形成した。前記の反応器内の支持台上に自立基板製造用基板のAlN単結晶側を上面にして設置し、反応器内に水素と窒素の混合キャリアガスを流通させた。このときの系内の圧力は760Torrとした。AlN単結晶層の分解を防ぐ目的でアンモニアガスのみを分圧1.25×10−3atmで供給した。その状態で、外部加熱手段を用いて反応器温度を500℃に加熱し、一方、支持台に電力を供給して支持台を加熱し自立基板製造用基板を1500℃の温度に保持した。次いで、アンモニアガスの分圧は1.25×10−3atmのまま、三塩化アルミニウムガスを分圧5×10−4atmで供給し、自立基板製造用基板上にAlN単結晶層(第2のIII族窒化物単結晶層)を830μm成長した。
【0103】
(工程6)
次いで、三塩化アルミニウムガスの供給を一旦停止し、AlN単結晶層の分解を防ぐ目的でアンモニアガスのみを分圧5×10−3atmで供給し、AlN単結晶層(第2のIII族窒化物単結晶層)上に非単結晶層として多結晶層(第2の非単結晶層)を形成するため、異なる形成条件に変更した。具体的には、圧力は760Torr、外部加熱手段による反応器温度は500℃のまま保持した。支持台への供給電力を下げて基板温度を1000℃とした。次いで三塩化アルミニウムガスを分圧1.5×10−3atmで再供給し、AlN多結晶層(第2の非単結晶層)をさらに300μm成長した。
【0104】
120分間保持後、支持台への電力供給を4時間かけて減少、停止し、さらに外部加熱手段の温度を3時間かけて室温に下げた。冷却後、AlN多結晶層(第1の非単結晶層)/AlN単結晶層(第1のIII族窒化物単結晶層)/AlN単結晶層(第2のIII族窒化物単結晶層)/AlN多結晶層(第2の非単結晶層)からなる積層体を反応管から取り出した。工程5、工程6は同一装置内(同一の反応器内)で連続して行った。
【0105】
第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層/第2の非単結晶層からなる積層体の第1の非単結晶層および第2の非単結晶層が露出されている側からそれぞれXRDのθ−2θモード測定を行ったところ、AlNの(002)面および(004)面のピークの他に(100)面、(102)面、(101)面等のピークが観測されたことから、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層は多結晶であることが確認された。θ−2θ測定におけるピーク強度比I(002)/I(100)は、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層でそれぞれ9.0および8.1であった。第2の非単結晶層側からX線回折を用いたロッキングカーブ測定により該積層基板の結晶軸の反りを評価した結果、該積層体の曲率半径は6.5mであった。
【0106】
<実施例4>
実施例1と同様の方法で行ったが、工程5における第2のIII族窒化物単結晶層の厚みを300μmとした実施例である。
工程6で得られた第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層/第2の非単結晶層からなる積層体の第1の非単結晶層および第2の非単結晶層が露出されている側からそれぞれXRDのθ−2θモード測定を行ったところ、AlNの(002)面および(004)面のピークの他に(100)面、(102)面、(101)面等のピークが観測されたことから、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層は多結晶であることが確認された。θ−2θ測定におけるピーク強度比I(002)/I(100)は、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層でそれぞれ3.8および4.0であった。
第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層/第2の非単結晶層からなる積層体の結晶軸の反りを、第2の非単結晶層側からX線回折を用いたロッキングカーブ測定により評価した。その結果、該積層体の曲率半径は6.2mであった。
【0107】
<比較例1>
実施例1において、工程1〜5までは同一の操作を行った。工程5で得られた基板を室温まで冷却し、反応器から取り出した(工程6を実施せずに反応器から基板を取り出した)。
実施例と同様に第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層からなる積層体の結晶軸の反りを、第2のIII族窒化物単結晶層側からX線回折を用いたロッキングカーブ測定により評価した。その結果、該積層体の曲率半径は4.3mであった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
第1の本発明の方法により製造される積層体は、紫外光発光素子等の半導体素子を形成するための自立基板を製造するための前駆体として使用される。該積層体は、最終的に得られる自立基板の両面を非単結晶層により保護した形態であるので、使用時に非単結晶層を除去すれば、高品質な表面を有する自立基板とすることができる自立基板前駆体としても使用可能である。
【符号の説明】
【0109】
10 ベース基板
20 第1のIII族窒化物単結晶層
22 第2のIII族窒化物単結晶層
30 第1の非単結晶層
32 第2の非単結晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物単結晶層が積層された積層体を製造する方法であって、
(1)形成しようとするIII族窒化物単結晶とは異なる材料の単結晶からなる表面を有するベース基板を準備する工程、
(2)準備した上記ベース基板の単結晶面上に第1のIII族窒化物単結晶層を形成する工程、
(3)該第1のIII族窒化物単結晶層を破壊することなく該第1のIII族窒化物単結晶層上に、該第1のIII族窒化物単結晶層を構成する材料と同一の材料若しくは当該材料を主成分とする材料からなる第1の非単結晶層を形成することにより、ベース基板/第1のIII族窒化物単結晶層/第1の非単結晶層からなる積層基板を形成する工程、
(4)前記工程で得られた積層基板から前記ベース基板を除去する工程、
(5)前記ベース基板を除去して露出した前記第1のIII族窒化物単結晶層上に、該第1のIII族窒化物単結晶層を構成するIII族窒化物と同一又は類似する組成を有するIII族窒化物単結晶をエピタキシャル成長させて第2のIII族窒化物単結晶層を形成する工程、
(6)該第2のIII族窒化物単結晶層上に、該III族窒化物単結晶層を構成する材料と同一の材料若しくは当該材料を主成分とする材料からなる第2の非単結晶層を形成し、第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層/第2の非単結晶層、からなる積層体を形成する工程、
を含む積層体の製造方法。
【請求項2】
前記第1および第2の非単結晶層を構成する材料が、多結晶、非晶質、または、これらの混合である、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(2)における第1のIII族窒化物単結晶層の形成と、前記工程(3)における第1の非単結晶層の形成とを、共に気相成長法により行い、第1のIII族窒化物単結晶層の形成と第1の非単結晶層の形成とを同一装置を用いて連続して行う、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(5)における第2のIII族窒化物単結晶層の形成と、前記工程(6)における第2の非単結晶層の形成とを、共に気相成長法により行い、第2のIII族窒化物単結晶層の形成と第2の非単結晶層の形成とを同一装置を用いて連続して行う、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)で使用するベース基板として、シリコン単結晶基板を用いる、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記工程(1)で使用するベース基板としてサファイア基板を用い、かつ、工程(2)において、該サファイア基板上に第1のIII族窒化物単結晶層を形成した後、
(2−1)還元性ガスおよびアンモニアガスを含む雰囲気中で1000℃以上1600℃以下に加熱することにより、該サファイア基板と第1のIII族窒化物単結晶層との界面において該サファイア基板を選択的に分解し、該界面に空隙を形成する工程を含み、
工程(2)、工程(2−1)、および工程(3)を同一の装置を用いて連続して行う請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記III族窒化物が、AlNである、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法により積層体を製造する工程、
および、(7)該積層体から、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層を除去して、第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層からなる自立基板を形成する工程、
を含むIII族窒化物単結晶自立基板の製造方法。
【請求項9】
前記工程(7)において、第1の非単結晶層および第2の非単結晶層を同時に除去する、請求項8に記載のIII族窒化物単結晶自立基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法により製造される、第1の非単結晶層/第1のIII族窒化物単結晶層/第2のIII族窒化物単結晶層/第2の非単結晶層、からなる積層体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−222778(P2011−222778A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90929(P2010−90929)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】