説明

積層体の製造方法

【課題】 本発明の課題は、金属層/ポリイミド系樹脂層/金属層の構成物を効率良く製造する方法を提供することにある。
【解決手段】ポリイミド系樹脂層の片面に金属層を有する積層体を用い、ポリイミド系樹脂層同士を重ね合わせて熱圧着することにより、ポリイミド系樹脂層の両面に金属層が直接積層された積層体を製造する方法において、熱圧着する以前に、過熱水蒸気を用いてポリイミド系樹脂層を加熱熱処理する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属層/ポリイミド系樹脂層/金属層の構成からなる両側に金属層を有する積層体の製造方法に関し、より詳しくは金属層/ポリイミド系樹脂積層体のポリイミド系樹脂層を過熱水蒸気を用いて加熱熱処理した後、ポリイミド系樹脂層同士を重ね合わせ熱圧着することを特徴とする積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の電気・電子回路には、絶縁材料と導電材料からなる積層板を回路加工したプリント配線板が使われている。プリント配線板は板状のリジットプリント配線板と柔軟性に富んだフレキシブルプリント配線板に大別できる。
フレキシブルプリント配線板の材料となるフレキシブル基板には、3層フレキシブル基板と2層フレキシブル基板がある。3層フレキシブル基板はポリイミドなどのベースフィルムと銅箔をエポキシ樹脂、アクリル樹脂あるいはポリエステル樹脂等の接着剤を使って貼り合せたものである。一方、2層フレキシブル基板は接着剤を介することなく直接、銅箔の上に耐熱性の絶縁層を設けたものである。エポキシ樹脂、アクリル樹脂あるいはポリエステル樹脂等の接着剤を使わずに、フレキシブル基板を得る方法には下記の3つの方法がある。
(1)キャスト法。銅箔等の金属箔にポリイミド系等の耐熱樹脂溶液を塗布し、乾燥、必要により熱処理を施す。
(2)ラミネート法。ポリイミドフィルム等の耐熱フィルムの少なくとも片側に、熱可塑性の耐熱樹脂層を設けて、該熱可塑性樹脂層と銅箔等の金属箔とを貼り合せる。
(3)めっき法。ポリイミドフィルム等の耐熱フィルムに銅めっき等のめっきを施す。
銅箔等の金属箔にポリイミド系等の耐熱樹脂溶液を塗布し、乾燥、必要により熱処理を施す方法はキャスト法といわれている。キャスト法により得られたフレキシブル配線板は寸法安定性が優れるため、近年のプリント配線板の高密度化、ファインピッチ化に対応した材料である。
キャスト法フレキシブル基板の製造時、耐熱樹脂溶液の溶剤を乾燥するために用いられる乾燥方法には熱風乾燥、熱ロール接触乾燥、赤外線加熱乾燥あるいは遠赤外線加熱乾燥等が用いられている。この際用いられる耐熱性樹脂としてはポリイミド前駆体樹脂、溶剤可溶ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。これらの溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、γ―ブチロラクトン、フェノール、クレゾール等が使われるが、これらの溶剤は高沸点のため乾燥性が悪い。特にN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤は分子間水素結合により蒸気圧が低いこと、また耐熱性樹脂のガラス転移温度が高いため溶剤の拡散が乏しいこともあり、塗膜中に残留しやすい。残留溶剤は耐熱性の低下や寸法安定性の低下の原因になる。溶剤を残留させないために、乾燥温度や熱処理温度を高くしすぎると、銅箔の変色や特性変化、樹脂の劣化による接着力低下や機械的特性の悪化が起こる。乾燥や熱処理温度が高くなることによる弊害を避けて、溶剤を残留させないために、時間をかけて乾燥や熱処理が行われている。そのため、生産性に問題がある。また、高温で処理されるため、ポリイミド系樹脂は部分的に架橋が起こり、ガラス転移温度以上に加熱しても、溶融が起こりにくくなる。そのため、キャスト法で得られた積層体の樹脂面同士を融着させるには、極端な温度と時間が必要になる。
ポリイミド系樹脂等の絶縁層の両側に銅箔等の導電層を設けたフレキシブル基板も実用化されている。エポキシ樹脂、アクリル樹脂あるいはポリエステル樹脂等の接着剤を使わずに、金属層/ポリイミド系樹脂層/金属層の構成の積層体を製造するには以下の方法が知られている。
(1)ポリイミドフィルム等の耐熱フィルムの両面に、熱可塑性の耐熱樹脂層を設けて、該熱可塑性樹脂層と銅箔等の金属箔とを貼り合せるラミ法。
(2)片面に金属層を設けた積層体を用い、樹脂層同士を熱圧着して貼り合せる。
上記(1)のラミ法で用いる熱可塑性の耐熱樹脂は特殊な原料を用いるため、一般的に高価である。ラミ適正を高めるため、樹脂の耐熱性を犠牲にしている。そのため、回路基板で要求される耐熱耐久性や寸法安定性が、たとえば上記(2)の方法を用いて、2枚のキャスト法積層体から得たものに比べ、劣る。しかし、キャスト法で得た積層体の樹脂層は製造時の熱や酸化により熱可塑性が乏しくなり、一般的に熱圧着ができない。たとえ熱圧着できたとしても、樹脂層同士を貼り合せるには高温・高圧力が必要となり、樹脂の劣化や銅箔等の金属箔の変質を起こす。
ポリイミド系樹脂の耐熱性を保持して、絶縁樹脂層の片面に金属層を設けた積層体(片面積層体)から、樹脂層同士を貼り合せて絶縁樹脂層の両側に金属層を有する積層体(両面積層体)を製造する効率的な方法はない。
最近、加熱熱源として過熱水蒸気が脚光を浴びている。過熱水蒸気とは、常圧で飽和水蒸気をさらに加熱して温度を上げた水蒸気のことをいう。過熱水蒸気は温度が150℃以上では放射熱エネルギーが通常の水蒸気と比較して著しく大きくなるため、短時間で物質を加熱することができる。過熱水蒸気は食品の調理、樹脂製品や金属製品の洗浄、食品容器の殺菌、あるいは土壌処理等に用いられている。過熱水蒸気を加熱熱源として用いることは、食品の調理以外ではあまり普及していない。
しかし、過熱水蒸気を一般的な加熱空気と比較すると下記の特徴がある。
(1)加熱空気に比べて熱容量が大きいので、急速加熱が可能。
(2)加熱空気に比べて約2倍の定圧比熱を有するため、加熱能力に優れている。
(3)潜熱のエネルギーを有するので、加熱空気に比べエンタルピーが大きい。
(4)空気による伝熱は対流伝熱に限られるが、過熱水蒸気では対流伝熱、放射伝熱、凝縮伝熱からの複合伝熱作用によるので、熱効率が良い。
過熱水蒸気を加熱熱源として乾燥させることは特許文献1〜6で知られている。特許文献1〜5はセルロース繊維を主成分とする湿紙の水分を過熱水蒸気によって乾燥させる方法が提案されている。特許文献6はポリオレフィンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルムへの塗工フィルムやセロハンの湿潤フィルムへの過熱水蒸気の適用が提案されている。非特許文献1には過熱水蒸気の特性や利用例が示されている。
【特許文献1】特許第2907265号公報
【特許文献2】特許第2907266号公報
【特許文献3】特許第3007542号公報
【特許文献4】特許公開2003−41495号公報
【特許文献5】特許公開2005−15924号公報
【特許文献6】特許公開2007−276283号公報
【非特許文献1】過熱水蒸気技術集成 (株)エヌ・ティ・エス(2005年発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、金属層/ポリイミド系樹脂層/金属層の構成物(両面積層体)を製造するに当たり、片面積層体の樹脂層に過熱水蒸気処理を用いることにより樹脂間の融着性の向上させること、その結果、熱圧着時のオーバーヒートによる弊害のない積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、両面キャスト法積層体の製造方法について鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明はポリイミド系樹脂層の片面に金属層を有する積層体(片面積層体)を用い、ポリイミド系樹脂層同士を重ね合わせて熱圧着することにより、ポリイミド系樹脂層の両面に金属層が直接積層された積層体(両面積層体)を製造する方法において、熱圧着する以前に、過熱水蒸気を用いてポリイミド系樹脂層を加熱熱処理する工程を含むことを特徴とするに両面に金属層を有する積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、金属箔/耐熱性絶縁層/金属箔からなる両面積層体を効率よく生産できる。また、本発明により得られた両面積層体は貼りあわせ時に加える熱により起こる弊害、たとえば耐熱樹脂層の劣化や銅箔の変質等が改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で用いるポリイミド系樹脂はポリイミド前駆体樹脂、溶剤可溶ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂が挙げられる。ポリイミド系樹脂は通常の方法で重合することができる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを低温で溶液中で反応させポリイミド前躯体溶液を得る方法、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを高温の溶液中で反応させ溶剤可溶性のポリイミド溶液を得る方法、原料としてイソシアネートを用いる方法、原料として酸クロリドを用いる方法などがある。
ポリイミド前躯体樹脂や溶剤可溶ポリイミド樹脂に用いる原料としては、以下に示すような物がある。酸成分としてはピロメリット酸、ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、ビフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、ジフェニルスルフォン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、ジフェニルエーテル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸,水素添加ピロメリット酸、水素添加ビフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸等の一無水物、二無水物、エステル化物などを単独、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、アミン成分としてはp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフォン、3,4’-ジアミノビフェニル、3,3-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、2,6-トリレンジアミン、2,4-トリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルヘキサフルオロイソプロピリデン、p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン、1,4-ナフタレンジアミン、1,5-ナフタレンジアミン、2,6-ナフタレンジアミン、2,7-ナフタレンジアミン、o-トリジン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフロロプロパン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、シクロヘキシル-1,4-ジアミン、イソフォロンジアミン、水素添加4,4’-ジアミノジフェニルメタン、あるいはこれらに対応するジイソシアネート化合物等の単独あるいは2種以上の混合物を用いることができる。また、これら酸成分、アミン成分の組み合わせで別途重合した樹脂を混合して使用することもできる。
ポリアミドイミド樹脂に用いる原料としては、酸成分としてトリメリット酸無水物、ジフェニルエーテル-3,3’,4’-トリカルボン酸無水物、ジフェニルスルフォン-3,3’,4’-トリカルボン酸無水物、ベンゾフェノン-3,3’,4’-トリカルボン酸無水物、ナフタレン-1,2,4-トリカルボン酸無水物、水素添加トリメリット酸無水物等のトリカルボン酸無水物類が単独あるいは混合物として挙げられる。また、トリカルボン酸無水物の他に、ポリイミド樹脂であげたテトラカルボン酸、それらの無水物やジカルボン酸等を併用して用いることもできる。アミン成分としてはポリイミド樹脂であげたジアミン、あるいはジイソシアネートの単独あるいは混合物が挙げられる。また、これら酸成分、アミン成分の組み合わせで別途重合した樹脂を混合して使用することもできる。
本発明で用いるポリイミド系樹脂はガラス転移温度が400℃以下、特に350℃以下が望ましい。ガラス転移温度が400℃を超えると、貼り合わせ時の条件が過酷になり収率が低下する。ガラス転移温度は230℃以上は耐はんだ耐熱性から必要である。
本発明で用いるポリイミド系樹脂溶液の溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、テトラメチルウレア、スルフォラン、ジメチルスルフォキシド、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンを挙げることができる。これらのなかでN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。また、トルエン、キシレン、ジグライム、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン等の溶剤を、溶解性を阻害しない範囲で加えてもかまわない。
本発明で用いる金属箔としては銅箔、アルミニウム箔、ステンレス箔、スチール箔、ニッケル箔などが挙げられる。これらの金属箔を複合した複合金属箔や亜鉛やクロムなど他の金属で処理した金属箔を用いても良い。また、シランカップリング剤やチタンカップリング剤で金属箔の表面処理を行っても良い。金属箔の厚みは特に限定はないが1μmのキャリア付き極薄銅箔から1mmの金属シートを用いることができる。
本発明において金属積層体の諸特性、たとえば、機械的特性、電気的特性、滑り性、難燃性などを改良する目的で他の樹脂や各種添加剤を配合あるいは反応させてもかまわない。例としては、滑剤としてはシリカ、タルク、シリコーン化合物等が挙げられる。難燃剤としては含リン化合物、トリアジン系化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、めっき活性剤、有機や無機の充填剤も挙げられる。また、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の硬化剤やポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等の他樹脂を配合してもかまわない。
本発明の積層体の製造方法について説明する。本発明ではポリイミド系樹脂/金属層からなる片面積層体のポリイミド系樹脂面同士を熱融着させて貼り合せる。片面積層体はキャスト法、ラミネート法、めっき法のどの方法で作ってもかまわないが、貼り合わせの容易さと回路材料としての性能からはキャスト法が望ましい。
片面積層体の樹脂面を過熱水蒸気により処理する。過熱水蒸気によりポリイミド系樹脂の表面層で一部分解が起こり、表面活性が高くなり、樹脂同士の融着が比較的低温で起こる。過熱水蒸気による処理は熱風乾燥や赤外線や遠赤外線乾燥と併用してもかまわない。用いる過熱水蒸気の温度は200〜400℃、好ましくは250〜350℃の範囲にする。熱処理時間は用いる樹脂により異なるが、10秒以上10分以下が望ましい。
熱処理時には200℃以上の高温になるため、金属箔の変色や、物性の変化が起こることがある。必要により酸素濃度を下げることが必要となる。銅箔を用いる場合には酸素濃度を5%以下、好ましくは0.5%以下に下げることが望ましい。
片面積層体をキャスト法で作成する場合は、ポリイミド系樹脂溶液を金属箔に塗布し一次乾燥したのち、さらにより高温での乾燥・熱処理を行うことが望ましい。一次乾燥後のコート層中の残存溶剤率を5〜35%、好ましくは15〜30%の範囲に調整することで溶剤の蒸発に伴う体積収縮の影響を小さくすることができ、剥離強度やカールの改善に効果がある。一次乾燥条件は60〜150℃で1〜10分が望ましい。この一次乾燥時に過熱水蒸気を使ってもかまわない。一次乾燥後、次工程の加熱処理を行う。ポリイミド系樹脂がポリイミド前躯体樹脂の場合には、残留溶剤の除去とイミド化反応を加熱処理で行う。ポリイミド系樹脂が溶剤可溶ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂の場合には加熱により溶剤を除去する。二次加熱処理時に、過熱水蒸気による熱処理を含めてもかまわない。過熱水蒸気による処理は熱風乾燥や赤外線や遠赤外線乾燥と併用してもかまわない。用いる過熱水蒸気の温度は200〜400℃、好ましくは250〜350℃の範囲にする。二次加熱処理時には200℃以上の高温になるため、金属箔の変色や、物性の変化が起こることがある。必要により酸素濃度を下げることが必要となる。銅箔を用いる場合には酸素濃度を5%以下、好ましくは0.5%以下に下げることが望ましい。キャスト法で片面積層板を作成し、過熱水蒸気による熱処理を実施した場合は、続いて樹脂面同士を貼り合せることができる。
熱圧着方式としてはダブルベルトプレス、ロールプレス、平板プレス等のプレス方式が挙げられる。加熱圧着の温度はポリイミド系樹脂のガラス転移温度より20℃以上高く450℃よりも低い温度、特にガラス転移温度よりも30℃高く400℃より低い温度範囲が望ましい。
【実施例】
【0007】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。
はんだ耐熱:銅箔積層板の銅箔をサブトラクティブ法によりエッチング加工し、幅1mmの回路パターンを作成した。40℃、65%RHで24時間調湿し、フラックス洗浄した後、20秒間320℃の噴流はんだ浴に浸漬し、剥がれや膨れの有無を目視観察した。異常が見られなかった物を○、剥がれや膨れが見られた物を×とした。
接着力:上記、幅1mmの回路パターンを作成したサンプルを引っ張り速度50mm/分、測定温度20℃、引き剥がし角度90度で測定した。
耐熱耐久性:上記、幅1mmの回路パターンを作成したサンプルを150℃に調温した乾燥機に10日間放置後の接着力を測定した。
【0008】
合成例1
反応容器に無水トリメリット酸134g、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物97g、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジイソシアネート211g、2,4-トリレンジイソシアネート35g、トリエチルジアミン0.5gおよびN-メチル-2-ピロリドン2.7Kgを加え、150℃まで1時間かけて昇温し、さらに150℃で5時間反応させた。得られたポリアミドイミド樹脂の対数粘度は1.6でガラス転移温度は330℃であった。
【0009】
合成例2
N,N-ジメチルアセトアミド850g、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル42.4gおよび1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン87.6gを反応容器に投入し、攪拌し溶解させた。ついで、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4g2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物117.6g加え、室温にて5時間攪拌を続けポリイミド前躯体を得た。
【0010】
<実施例 1>
合成例1で調整したポリアミドイミド溶液をアプリケーターを用いて銅箔(三井金属鉱山社製電解銅箔35μm)に、乾燥後の厚みが10μmになるように塗布し、100℃で5分間、熱風により一次乾燥した。さらに過熱水蒸気の発生装置として蒸気過熱装置(第一高周波工業株式会社製「DHF Super-Hi 10」)を用い、10Kg/時間の過熱水蒸気を供給する乾燥・熱処理炉で乾燥・熱処理を行った。得られた片面銅張積層体の樹脂面同士を重ね合わせ、ダブルベルトプレスに供給し、200℃で1分間の予熱後、最高加熱温度380℃、冷却ゾーン110℃で0.1m/分の速度で連続的に熱圧着した。得られた両面積層体の評価として、はんだ耐熱性、接着力、耐熱耐久性を測定した。結果を表―1に示す。
【0011】
<実施例 2>
カネカ社製ポリイミド(PI)フィルム「アピカルAH12.5μm」の両面をプラズマ処理した後、合成例1で調整したポリアミドイミド溶液を乾燥後の厚みが5μmになるように両面に塗布し、340℃で10分間熱風乾燥した。離型紙/ポリアミドイミド両面コートPIフィルム/銅箔(三井金属鉱山社製電解銅箔35μm)の構成で5kg/cmの加圧下380℃で5分間、平板熱プレスした。離型紙を除き、得られた片面積層体を過熱水蒸気で処理した後、樹脂面同士を重ねあわせ、5kg/cmの加圧下380℃で5分間平板熱プレスした。得られた両面積層体の評価として、はんだ耐熱性、接着力、耐熱耐久性を測定した。結果を表―1に示す。
【0012】
<実施例 3>
合成例2で調整したポリイミド前躯体溶液をアプリケーターを用いて銅箔(三井金属鉱山社製電解銅箔35μm)に、乾燥、イミド化閉環後の厚みが10μmになるように塗布し、100℃で5分間一次乾燥した。さらに100℃から昇温速度10℃/分で350℃まで25分の熱処理を行った。さらに続けて350℃で20分間、熱風乾燥を行った。得られた片面積層体の樹脂面を過熱水蒸気で処理した後、実施例1と同様にダブルベルトプレスにより両面積層体を得た。得られた両面積層体の評価として、はんだ耐熱性、接着力、耐熱耐久性を測定した。結果を表―1に示す。
【0013】
<比較例 1>
合成例1で調整したポリアミドイミド溶液をアプリケーターを用いて銅箔(三井金属鉱山社製電解銅箔35μm)に、乾燥後の厚みが10μmになるように塗布し、100℃で5分間一次乾燥した。二次熱処理として熱風乾燥だけを行った。得られた片面銅張積層体の樹脂面同士を重ね合わせ、実施例1と同様にダブルベルトプレスにより両面積層体を得た。実施例1と同じプレス条件では接着できなかったので、最高加熱温度を変えた。得られた両面積層体の評価として、はんだ耐熱性、接着力、耐熱耐久性を測定した。結果を表―1に示す。
【0014】
<比較例 2>
実施例2と同様に、PIフィルムの両面に合成例1で調整したポリアミドイミドの層を設け、片面積層体を得た後、過熱水蒸気処理をせずに樹脂面同士を重ね合わせ平板熱プレスを行った。得られた両面積層体の評価として、はんだ耐熱性、接着力、耐熱耐久性を測定した。結果を表―1に示す。
【0015】
<比較例 3>
実施例3と同様に、合成例2で調整したポリイミド前躯体溶液を用いて片面積層体を得た。過熱水蒸気処理を行わずに、実施例3と同様にダブルベルトプレスにより両面積層体を得た。得られた両面積層体の評価として、はんだ耐熱性、接着力、耐熱耐久性を測定した。結果を表―1に示す。
【0016】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は絶縁層の両側に金属層を設けた積層体の簡便な製造方法に関するものであり、該製造方法を用いることにより、生産性の改善ができ、さらに接着性や耐熱性耐久性に優れた金属積層体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系樹脂層の片面に金属層を有する積層体を用い、ポリイミド系樹脂層同士を重ね合わせて熱圧着することによる、ポリイミド系樹脂層の両面に金属層が直接積層された積層体を製造する方法において、熱圧着する以前に、過熱水蒸気を用いてポリイミド系樹脂層を熱処理する工程を含むことを特徴とする両面に金属層を有する積層体の製造方法。

【公開番号】特開2009−286093(P2009−286093A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144306(P2008−144306)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】