説明

積層成形品の成形方法並びに成形装置

【課題】樹脂芯材表面に表皮を積層一体化した積層成形品の成形方法並びに成形装置であって、接着剤を廃止することで設備の簡素化、工数の低減を図るとともに、表皮の精度の良い形状出しを可能とした外観性能の優れた積層成形品の成形方法並びに成形装置を提供する。
【解決手段】成形金型50の上方に加熱ヒーター60、表皮ロール70を配置し、表皮ロール70から引き出した表皮22を加熱ヒーター60により任意温度に加熱した状態でキャビティ型51とコア型52との間に垂下させ、その後、キャビティ型51、コア型52を型締めした後、表皮22を真空・圧空成形することにより、表皮22を所要形状に成形する。次いで、表皮22の背面側に射出ユニット54を通じて溶融樹脂Mを射出充填し、樹脂芯材21を所要形状に成形するとともに、樹脂芯材21の樹脂熱により表皮22を熱融着させることでドアトリムアッパー(積層成形品)20を所要形状に成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドアトリム、リヤサイドトリム、ラゲージサイドトリム、ルーフトリム等の自動車用内装部品に好適な積層成形品の成形方法並びに成形装置に係り、特に、樹脂芯材の樹脂熱による熱融着で表皮と一体化するため、接着剤を使用せず、設備並びに工数の削減が可能となり、また、浮き、剥がれ等の不具合を解消できる等、コストダウンが期待できるとともに、外観性能を高めた積層成形品の成形方法並びに成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、車両のドアパネルの室内面側に装着されるドアトリムを示す断面図であり、ドアトリム1は、ドアトリムアッパー2とドアトリムロア3との上下二分割体から構成されている。そして、ドアトリムアッパー2は芯材2aの表面に表皮2bを貼着した積層成形品が使用され、ドアトリムロア3は合成樹脂の射出成形品が使用され、外観上のアクセント効果により外観見栄えを高めるとともに、成形金型のコンパクト化によりコストダウンを図るようにしている。
【0003】
そして、従来では、ドアトリムアッパー2に代表される積層成形品の製造方法は、図9に示すように、予め成形された木質系芯材等、通気性を備えた芯材2aに接着剤aを塗布した後、図10に示すように、乾燥用ヒーター4で接着剤aを乾燥させ、有機溶剤を揮発させる。一方、図11に示すように、ヒーター装置5により表皮2bを加熱軟化させる。そして、図12に示すように、接着剤aを塗布、乾燥させた芯材2aを真空成形金型6にセットし、加熱軟化処理した表皮2bを重ね合わせた後、真空成形により芯材2a表面に表皮2bを貼着している。更に、図13に示すように、ピアス金型7で余分な表皮2bを取り除き、必要な開口設定部位は芯材2a、表皮2bごと打抜き加工を行なう。その後、図14に示すように、表皮2bの周縁端末の巻込みシロ2cに接着剤aを塗布した後、図15に示すように、乾燥用ヒーター4で乾燥させ、図16に示すように、表皮2bの巻込みシロ2cを芯材2aの裏面に巻込み処理してドアトリムアッパー2の製造を完了していた。尚、真空成形工法を使用して、芯材2aの表面に表皮2bを貼着する従来例としては、特許文献1に詳細に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−310378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、芯材2aの表面に表皮2bを真空成形により貼着して、ドアトリムアッパー2を製造する従来方法においては、芯材2aの表面に有機溶剤系の接着剤aを塗布しているため、工場内の作業環境の悪化を招く一方、車室内VOC(Volatile Organic Compounds)が増加し、車室内の環境が好ましいものとはいえなかった。また、工場サイドでは、換気設備に加えて、接着剤aの塗布ブースや乾燥炉等、設備費用が嵩み、かつ接着剤aの塗布、乾燥工程等、処理工数が増大するとともに、仕掛り品の在庫保管スペースを必要とする等の問題点が指摘されている。更に、接着剤aの塗布バラツキにより浮き、剥がれ等の不具合が発生し易く、また、巻込み処理を行なう際、再度接着剤aを塗布、乾燥させなければならず、工数アップを招くとともに、芯材2aの乾燥工程において、変形、収縮等が生じ、成形不良を誘発するという新たな問題点も同時に指摘されている。
【0006】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、工程の簡略化及びVOCの削減を達成するとともに、表皮の浮き、剥がれ等の不具合を有効に解消できる積層成形品の成形方法並びに成形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意研究の結果、加熱した表皮を成形金型内に供給し、真空・圧空作用により絞転写及び賦形を行ない、更に成形金型内に注入する溶融樹脂の樹脂熱により樹脂芯材と表皮とを一体化することで、工程の簡略化及び接着剤を廃止できることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、成形金型内で所要形状に成形される樹脂芯材と、この樹脂芯材の表面に積層一体化される表皮とから構成される積層成形品の成形方法において、成形金型の上方に加熱ヒーターが配置され、その上方にセットされた表皮ロールから表皮を下側へ引き出し、成形金型内に供給する前に、成形金型の上方に位置する加熱ヒーターにより所定温度に加熱処理する表皮の加熱工程と、加熱された表皮をキャビティ型とコア型との間に垂下させ、キャビティ型とコア型とを型締めした後、成形金型に配置された真空吸引機構並びに圧空機構を駆動して、表皮をキャビティ型の型面形状に追従するように所要形状に成形する表皮の真空・圧空成形工程と、コア型に連設する射出ユニットから溶融樹脂を表皮とコア型との間で形成されるキャビティ内に射出充填することで、樹脂芯材を所要形状に成形するとともに、樹脂芯材の表面に表皮を熱融着により積層一体化する樹脂芯材と表皮との一体化工程とからなることを特徴とする。
【0009】
ここで、積層成形品は、所要形状に成形された樹脂芯材の表面に表皮を貼着した構成であり、ドアトリム、リヤサイドトリム、ラゲージサイドトリム、ルーフトリム等、自動車用内装部品全般に使用することができる。樹脂芯材としては、射出成形工法を使用するため、熱可塑性樹脂全般を用いることができる。
【0010】
また、表皮としては、真空・圧空成形されるため、非通気性を備えていることが条件であり、TPO(サーモプラスチックオレフィン)シート、塩ビシート等の熱可塑性樹脂シートの単体シート材料か、あるいはこれら単体シートの裏面にクッション性を付与するポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム等のクッション層を裏打ちした積層シート材料を使用することができる。そして、本発明に係る積層成形品の成形方法は以下の工程から構成されている。
【0011】
(1)表皮の加熱工程
(2)表皮の真空・圧空成形工程
(3)樹脂芯材と表皮との一体化工程
【0012】
(1)表皮の加熱工程
表皮ロールに巻かれた表皮の引出し端を下方に引き出し、成形金型の上方に位置する加熱ヒーターにより所定温度に加熱処理した後、更に表皮を下方に引き出し、成形型内に表皮を垂下処理する。
【0013】
(2)表皮の真空・圧空成形工程
加熱軟化処理された表皮を型開き状態にある成形金型内に垂下処理する。そして、成形金型を型締めした後、製品表面側となる金型の型面から真空吸引力を作用させ、かつ反対側の金型の型面から圧空エアを注入することで、表皮を成形金型の型面形状に沿って真空・圧空成形するとともに、絞模様を表皮の製品面に転写する。この時、外周縁に位置する表皮の余剰部分は成形金型の外周に設けられた熱刃によりカット除去される。
【0014】
(3)樹脂芯材と表皮との一体化工程
表皮が所要形状に真空・圧空成形された後、成形金型に連設された射出ユニットからキャビティ内に溶融樹脂を規定量射出充填するとともに、キャビティ内の残留エアをエア排出溝より外部に排出する。そして、溶融樹脂が冷却固化して所要形状に樹脂芯材が成形されるとともに、樹脂芯材の樹脂熱により樹脂芯材が表皮と一体化されて積層成形品の成形が完了する。尚、成形が完了した成形品については、ピアス加工及び表皮の外周巻込み処理を行なうことで最終製品が得られる。
【0015】
次いで、本発明装置に使用する成形装置は、樹脂芯材の表面に表皮を積層一体化してなる積層成形品の成形装置において、前記成形装置は、横方向にスライドして、相互に型締め、型開きできるキャビティ型とコア型とからなる成形金型と、上記成形金型の上方に設けられる加熱ヒーターと、加熱ヒーターの上方に位置決めセットされる表皮ロールとから構成されるとともに、成形金型におけるキャビティ型には、表皮を真空吸引する真空吸引機構が配設されるとともに、コア型には、表皮を圧空成形する圧空機構が装備されていることを特徴とする。
【0016】
ここで、型開き、型締め可能な成形金型の上方位置に加熱ヒーターが設定されており、加熱ヒーターの更に上方に表皮ロールが位置決めされる。従って、表皮ロールから表皮の引出し端を下方に引き出せば、表皮は自動的に加熱ヒーターで所定温度に加熱処理されるとともに、更に表皮を下方に引き出して、垂下処理すれば、成形金型内に自動的に表皮を供給できる。成形金型は、固定側のコア型と可動側のキャビティ型とから構成され、コア型には、樹脂芯材の素材である溶融樹脂を射出充填するための射出ユニットが連設され、射出ユニットから供給される溶融樹脂は、ホットランナ、ゲートを通じてキャビティ型とコア型との間のキャビティ内に射出充填される。更に、コア型には、圧空エアを供給する増圧タンクが接続されており、増圧タンクからの圧空エアが表皮の真空・圧空成形時に成形金型のキャビティ内に供給される。尚、コア型の外周には、表皮の余剰部分をカット除去するための熱刃が設けられている。
【0017】
一方、キャビティ型には、型締め、型開きを行なうためのシリンダが連結されているとともに、表皮を真空・圧空成形する際の真空吸引力を作用させるための真空吸引機構が付設されており、キャビティ型の型面には、真空吸引孔が開設されているとともに、絞模様が刻設されている。
【0018】
以上の構成から明らかなように、本発明に係る積層成形品の成形方法は、表皮ロールから引き出した表皮を垂下状態で加熱ヒーター、成形金型内に供給すれば、表皮は加熱ヒーターで任意温度に加熱処理される。そして、成形金型の型締め後、キャビティ型より真空吸引を開始し、コア型からキャビティ内に圧空エアを注入することにより、表皮を真空・圧空成形するとともに、表皮の余剰部分は型外周に設けた熱刃によりカット処理する。更に、表皮の真空・圧空成形後、コア型に連設する射出ユニットから溶融樹脂を表皮の背面側キャビティ内に射出充填することで樹脂芯材を所要形状に成形するとともに、樹脂芯材と表皮とを一体化して、積層成形品を所要形状に成形することができる。
【0019】
従って、表皮ロールのままセットできるため、従来の表皮投入機が不要となり、設備の簡素化が図れ、かつ接着剤を使用しないため、接着剤塗布ブース、乾燥炉等の設備も削減することができ、接着剤の塗布、乾燥工程等、工数を大幅に削減することができる。更に、接着剤を使用しないため、表皮に浮き、剥がれ等の不具合がなくなり、外観性能を良好に維持できるとともに、一つの成形金型内で表皮の成形と、樹脂芯材と表皮の一体化を行なうことができ、少ない工数で外観性能の優れた積層成形品を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明した通り、本発明に係る積層成形品の成形方法は、表皮ロールから下方に垂下処理した表皮は、加熱ヒーターで任意温度に加熱処理された後、成形金型内に供給され、成形金型の型締め後、真空・圧空成形により表皮を所要形状に成形した後、溶融樹脂をキャビティ内に射出充填して、樹脂芯材と表皮とを一体成形するというものであるから、接着剤を使用しないため、接着剤の塗布、乾燥工程及び養生工程が不要となり、工数の大幅な削減が可能になるとともに、仕掛り品の在庫保管スペースも節約でき、スペース効率に優れるという効果を有する。更に接着剤の塗布バラツキがなくなるため、表皮の浮き、剥がれ等の不具合を解消でき、生産性を向上させることができるという効果を有する。
【0021】
また、樹脂芯材の素材である溶融樹脂の樹脂熱により表皮と一体化できるため、溶剤系接着剤を不要とし、それが原因となるVOCを削減でき、作業環境や車室内の環境を良好に維持できるとともに、大型の換気設備等も不要とでき、設備の簡素化を図る一方、一つの成形金型で一連の成形工程を行なうため、生産性を高めることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明方法により成形されたドアトリムアッパーを備えたドアトリムを示す正面図である。
【図2】図1中II−II線断面図である。
【図3】本発明方法に使用する成形装置の概略構成を示す説明図である。
【図4】本発明方法における表皮の加熱工程を示す説明図である。
【図5】本発明方法における表皮の真空・圧空成形工程を示す説明図である。
【図6】本発明方法における樹脂芯材と表皮との一体化工程を示す説明図である。
【図7】本発明方法により成形したドアトリムアッパーの端末処理工程を示す説明図である。
【図8】従来のドアトリムを示す断面図である。
【図9】従来のドアトリムアッパーの製造方法における芯材への接着剤の塗布工程を示す説明図である。
【図10】従来のドアトリムアッパーの製造方法における芯材に塗布した接着剤の乾燥工程を示す説明図である。
【図11】従来のドアトリムアッパーの製造方法における表皮の加熱工程を示す説明図である。
【図12】従来のドアトリムアッパーの製造方法における表皮の真空貼着工程を示す説明図である。
【図13】従来のドアトリムアッパーの製造方法におけるピアス加工工程を示す説明図である。
【図14】従来のドアトリムアッパーの製造方法における表皮の端末処理工程での接着剤の塗布工程を示す説明図である。
【図15】従来のドアトリムアッパーの製造方法における表皮の端末処理工程での接着剤の乾燥工程を示す説明図である。
【図16】従来のドアトリムアッパーの製造方法における表皮の端末処理工程での巻込みシロの巻込み工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る積層成形品の成形方法並びに成形装置の実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0024】
図1乃至図7は本発明の一実施例を示すもので、図1,図2は本発明方法により成形されたドアトリムアッパーを採用したドアトリムを示す正面図並びに断面図、図3は本発明方法に使用する成形装置の概略構成を示す説明図、図4乃至図6は本発明方法の各工程を示す説明図、図7は本発明方法により成形されたドアトリムアッパーの端末処理工程を示す説明図である。
【0025】
図1,図2において、本発明方法を適用して製作されたドアトリム10の構成について簡単に説明する。ドアトリム10は、ドアトリムアッパー20とドアトリムロア30との上下二分割体から構成されており、外観上のアクセント効果並びに金型のコンパクト化によるコストダウンが期待できる。上記ドアトリム10は、ドアトリムアッパー20とドアトリムロア30との上下二分割体から構成されているが、ドアトリム10には各種機能部品が装着されている。例えば、ドアトリムアッパー20側には、インサイドハンドルユニット11、プルハンドルユニット12、パワーウインドウスイッチユニット13等の機能部品が取り付けられており、ドアトリムロア30側には、ポケット開口14の背面側にポケットバックカバー15が装着され、そのフロント側には、スピーカグリル16がドアトリムロア30と一体、あるいは別体に設けられている。
【0026】
更に、ドアトリムアッパー20は、適度な剛性と保形性を備えた樹脂芯材21の表面に表皮22を貼着した積層成形品である。上記樹脂芯材21は射出成形工法により所要形状に成形されており、樹脂芯材21の材質としては、1種類の熱可塑性樹脂でも2種類以上の熱可塑性樹脂からなっても良い。好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等が使用できる。
【0027】
また、表皮22は、真空・圧空成形工法により所要形状に成形され、製品表面に絞模様が転写されることから、熱成形可能な非通気性をシート材料、例えば、TPO(サーモプラスチックオレフィン)シート、塩ビシート等の熱可塑性樹脂シートの単体シート材料か、あるいはこれら単体シートの裏面にポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム等のクッション層を裏打ちしてなる積層シート材料を使用することができる。尚、本実施例では、TPOシートからなるトップ層22aの裏面にポリエチレンフォームからなるクッション層22bを裏打ちした表皮22が使用されている。
【0028】
更に、ドアトリムロア30は、熱可塑性樹脂材料を素材とした射出成形工法により所望の曲面形状に成形されており、ドアトリムアッパー20とドアトリムロア30との接合構造については、図示はしないが、一方側、例えば、ドアトリムロア30側にボス、他方側のドアトリムアッパー20側に取付孔を開設し、取付孔に差し込んだボスの先端に超音波カシメ加工を施すことにより、両者を接合一体化することができる。
【0029】
ところで、本発明方法は、ドアトリム10におけるドアトリムアッパー20のような積層成形品の成形方法を対象としている。以下、ドアトリムアッパー20の成形方法を例示して本発明方法を説明する。
【0030】
まず、本発明に係る積層成形品の成形方法は、以下の工程から構成されている。
【0031】
(1)表皮22の加熱工程
(2)表皮22の真空・圧空成形工程
(3)樹脂芯材21と表皮22との一体化工程
【0032】
以下、上記(1)乃至(3)の各工程について、経時的に説明する前に、本発明方法に使用する成形装置40の構成について簡単に説明する。図3において、成形装置40は、成形金型50とその上方に位置する加熱ヒーター60と、更にその上方に位置する表皮ロール70とから大略構成されている。
【0033】
更に詳しくは、成形金型50は、キャビティ型51と、コア型52とから構成されており、キャビティ型51に設けたシリンダ511により、キャビティ型51はコア型52に対して所定ストローク進退動作を行ない、型締め、型開きが行なわれる。更に、キャビティ型51には、真空吸引機構53が装備されており、後述する表皮22の真空・圧空成形時に真空吸引機構53が動作する。また、キャビティ型51の型面には、絞模様512が刻設されているとともに、図示はしないが真空吸引孔が多数開設されている。
【0034】
一方、コア型52は、樹脂芯材21の材料を供給するための射出ユニット54が連設されており、射出ユニット54から供給される溶融樹脂Mは、ホットランナ521、ゲート522を通じて型締め時に形成されるキャビティC内に射出充填される。また、コア型52には、圧空エアをキャビティC内に導入するための増圧タンク55が付設されており、この増圧タンク55は、エア供給管551がコア型52内のエア配管523と連通することで増圧タンク55から圧空エアが成形金型50の型締め時にキャビティC内に供給される。更に、コア型52の周縁には、エア排出溝524が設けられており、キャビティC内のエアを樹脂芯材21の成形時に外部に排出する。尚、コア型52のパーティング面の周縁部には、表皮22の余剰部分を切断除去するための熱刃525が設けられている。
【0035】
次いで、図3に示す成形装置40を使用したドアトリムアッパー20の成形方法における(1)〜(3)の各工程について、以下説明する。
【0036】
(1)表皮22の加熱工程
図4に示すように、表皮22は、表皮ロール70に巻装されており、表皮ロール70は加熱ヒーター60の上方にセットされている。そして、この表皮ロール70から表皮22の引出し端を下方に引き下げて、加熱ヒーター60内で表皮22の垂下状態を維持すれば、表皮22の表裏面側を加熱ヒーター60により加熱することで、表皮22は任意温度に加熱処理される。そして、加熱処理された表皮22は、更に垂下されて、キャビティ型51とコア型52との間に供給される。
【0037】
(2)表皮22の真空・圧空成形工程
キャビティ型51とコア型52が型開き状態にある時、表皮ロール70から垂下された表皮22は、加熱ヒーター60により所定温度に加熱処理されて成形金型50内に挿入される。そして、図5に示すように、キャビティ型51がシリンダ511の駆動により、コア型52に対して接近し、キャビティ型51とコア型52が型締めされる。更に、型締め後、キャビティ型51の真空吸引機構53の駆動により、表皮22に真空吸引力を作用させるとともに、コア型52に付設した増圧タンク55から圧空エアをキャビティC内に注入することにより、表皮22は、真空・圧空成形により所要形状に成形される。加えて、表皮22の表面には、キャビティ型51の型面に付設した絞模様が忠実に転写される。この時、表皮22の余剰部分は、熱刃525により破断除去される。
【0038】
(3)樹脂芯材21と表皮22との一体化工程
その後、図6に示すように、所要形状に成形された表皮22の背面側に射出ユニット54から溶融樹脂Mがホットランナ521、ゲート522を通じてキャビティC内に射出充填されて、樹脂芯材21が所要形状に射出成形されるとともに、この時の樹脂熱により、樹脂芯材21と表皮22とが強固に一体化される。この時、コア型52の周縁に設けられているエア排出溝524を通じて型内のエアを外部に排出する。従って、単一の成形金型50を使用した簡単な設備で外観性能の優れたドアトリムアッパー20を簡単に成形することができる。
【0039】
更に、ドアトリムアッパー20を成形金型50を使用して成形した後、図7に示すように、表皮22の周縁端末に沿う巻込みシロ23を巻込み処理することで、最終的にドアトリムアッパー20の製作が完了する。この時、本発明方法では、接着剤を使用しないことから、巻込みシロ23は熱溶着か、あるいはステープル等の固定具を介して樹脂芯材21の周縁裏面に固定されている。
【0040】
このように、本発明方法をドアトリムアッパー20の成形方法に適用すれば、以下の格別の作用効果が期待できる。すなわち、本発明方法は、表皮22を真空・圧空成形するとともに、樹脂芯材21の射出成形時に表皮22と一体化するため、溶剤系接着剤を使用した際の接着剤の塗布工程、乾燥工程、及び接着剤の養生工程が廃止でき、工数の大幅な削減が可能になるとともに、仕掛り品の在庫保管スペースも節約でき、接着剤の塗布バラツキによる性能のバラツキや、表皮の浮き、剥がれ等の不具合がなくなり、生産性を大幅に向上させることができる。
【0041】
更に、溶剤系接着剤における有機溶剤が原因となるVOCを削減でき、作業環境や車室内の環境を良好に維持できるとともに、大型の換気設備等も不要とでき、設備の簡素化にも貢献できる。また、単一の成形金型50を使用して、表皮22の真空・圧空成形と、樹脂芯材21の射出成形工程とを連続して行なうことで、短時間にドアトリムアッパー20の成形が可能となり、かつ表皮22に真空・圧空成形を行なうことで、製品表面に絞模様を精度良く転写することができるため、外観性能の優れたドアトリムアッパー20を短時間に成形できるという効果もある。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上説明した実施例は、ドアトリム10におけるドアトリムアッパー20の成形方法に本発明方法を適用したが、樹脂芯材21の表面に表皮22を積層してなる積層成形品全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10 自動車用ドアトリム
20 ドアトリムアッパー
21 樹脂芯材
22 表皮
30 ドアトリムロア
40 成形装置
50 成形金型
51 キャビティ型
511 シリンダ
512 絞模様
52 コア型
521 ホットランナ
522 ゲート
523 エア配管
524 エア排出溝
525 熱刃
53 真空吸引機構
54 射出ユニット
55 増圧タンク
551 エア供給管
60 加熱ヒーター
70 表皮ロール
C キャビティ
M 溶融樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形金型(50)内で所要形状に成形される樹脂芯材(21)と、この樹脂芯材(21)の表面に積層一体化される表皮(22)とから構成される積層成形品(20)の成形方法において、
成形金型(50)の上方に加熱ヒーター(60)が配置され、その上方にセットされた表皮ロール(70)から表皮(22)を下側へ引き出し、成形金型(50)内に供給する前に、成形金型(50)の上方に位置する加熱ヒーター(60)により所定温度に加熱処理する表皮(22)の加熱工程と、
加熱された表皮(22)をキャビティ型(51)とコア型(52)との間に垂下させ、キャビティ型(51)とコア型(52)とを型締めした後、成形金型(50)に配置された真空吸引機構(53)並びに圧空機構(55)を駆動して、表皮(22)をキャビティ型(51)の型面形状に追従するように所要形状に成形する表皮(22)の真空・圧空成形工程と、
コア型(52)に連設する射出ユニット(54)から溶融樹脂(M)を表皮(22)とコア型(52)との間で形成されるキャビティ(C)内に射出充填することで、樹脂芯材(21)を所要形状に成形するとともに、樹脂芯材(21)の表面に表皮(22)を熱融着により積層一体化する樹脂芯材(21)と表皮(22)との一体化工程と、
からなることを特徴とする積層成形品の成形方法。
【請求項2】
樹脂芯材(21)の表面に表皮(22)を積層一体化してなる積層成形品(20)の成形装置(40)において、前記成形装置(40)は、横方向にスライドして、相互に型締め、型開きできるキャビティ型(51)とコア型(52)とからなる成形金型(50)と、上記成形金型(50)の上方に設けられる加熱ヒーター(60)と、加熱ヒーター(60)の上方に位置決めセットされる表皮ロール(70)とから構成されるとともに、成形金型(50)におけるキャビティ型(51)には、表皮(22)を真空吸引する真空吸引機構(53)が配設されるとともに、コア型(52)には、表皮(22)を圧空成形する圧空機構(55)が装備されていることを特徴とする積層成形品の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−5752(P2011−5752A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151830(P2009−151830)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】